説明

液中ウォータージェット噴射装置およびそれに用いるキャビテーション消去器

【課題】コストやタクトタイムの増加を招かずにキャビテーション力を抑制又は消去できる液中ウォータージェット噴射装置及びそれに用いるキャビテーション消去器の提供。
【解決手段】圧手段を介して加圧された高圧流体が導入される貫通流路を備えた本体と、該本体の先部流路に嵌合されて前記高圧流体を噴射する噴射ノズルと、を備えた液中ウォータージェット噴射装置において、前記本体流路内の噴射ノズル上流位置に、予め定められた口径のオリフィスを有するリング状のキャビテーション消去器を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液中でウォータージェットを噴射して発生するキャビテーション力を利用する液中ウォータージェット噴射装置に関し、詳しくは、キャビテーション効果を消去するためのキャビテーション消去器を備えたものに関する。
【背景技術】
【0002】
洗浄装置などで水中ウォータージェット噴射を利用する装置は、多くの場合でキャビテーション効果を利用している。これは、高速流体中の流速変化で局所的に生じた圧力低下により流体中に発生した気泡(キャビテーション)が高圧部で消滅した際の衝撃力を利用するものである(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
しかしながらこのキャビテーション力は非常に強力な破壊力を持っており、場合によっては洗浄対象の表面を傷つける恐れもあり得る。そこでキャビテーション力を弱めるために、従来は噴射圧力を下げる、或いはワークとの距離を離すなどの方法がとられていた。
【0004】
【特許文献1】特開平4−43712号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、キャビテーション力を弱めるために噴射圧力を下げようとする場合には、ポンプ等の圧力発生源からの流路に対して、圧力を下げるための減圧回路を別途に設けたり、あるいは発生圧力の低い別のポンプを設置する必要が生じ、装置設計が煩雑なものとなってしまう。
【0006】
また、キャビテーション力を弱めるのにワークとの距離を離すことで解決しようとする際には、通常のワークあるいはノズルの移動経路とは別途経路を考慮する必要があり、移動経路が高圧用と低圧用の2種類となる場合には、タクトタイムの増加となってしまう。
【0007】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、コストやタクトタイムの増加を招くことなくキャビテーション力を抑制又は消去できる水中ウォータージェット噴射装置およびそれに用いるキャビテーション消去器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明に係る液中ウォータージェット噴射装置は、加圧手段を介して加圧された高圧流体が導入される貫通流路を備えた本体と、該本体の先部流路に嵌合されて前記高圧流体を噴射する噴射ノズルと、を備えた液中ウォータージェット噴射装置において、前記本体流路内の噴射ノズル上流位置に、予め定められた口径のオリフィスを有するリング状のキャビテーション消去器を備えているものである。
【0009】
請求項2に記載の発明に係る液中ウォータージェット噴射装置は、請求項1に記載の液中ウォータージェット噴射装置において、前記キャビテーション消去器は、前記本体流路内に着脱可能に装着されるものである。
【0010】
請求項3に記載の発明に係る液中ウォータージェット噴射装置は、請求項1に記載の液中ウォータージェット噴射装置において、前記キャビテーション消去器は、前記噴射ノズルと一体的に設けられているものである。
【0011】
請求項4に記載の発明に係る液中ウォータージェット噴射装置は、請求項1〜3のいずれかに記載の液中ウォータージェット噴射装置において、前記キャビテーション消去器のオリフィス口径は、前記噴射ノズルのオリフィス口径の1倍以上、1.7倍以下であることを特徴とするものである。
【0012】
請求項5に記載の発明に係る液中ウォータージェット噴射装置は、請求項1または請求項2に記載の液中ウォータージェット噴射装置において、前記キャビテーション消去器の配置位置は、前記噴射ノズルオリフィスの末端位置から、前記本体流路内径の1倍以上、4倍以下の距離範囲内であることを特徴とするものである。
【0013】
また、請求項6に記載の発明に係るキャビテーション消去器は、加圧手段を介して加圧供給されてくる高圧流体を本体貫通流路内に導入し、該本体の先部流路に嵌合された噴射ノズルから噴射する液中ウォータージェット噴射装置の前記本体流路内の噴射ノズル上流位置に着脱可能に装着され、予め定められた口径のオリフィスを有するリング状部材からなるものである。
【0014】
請求項7に記載の発明に係るキャビテーション消去器は、請求項6に記載のキャビテーション消去器において、前記リング状部材のオリフィス口径が、前記噴射ノズルのオリフィス口径の1倍以上、1.7倍以下であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、装置の本体流路内の噴射ノズル上流側位置に、予め定められた口径のオリフィスを有するリング状のキャビテーション消去器を設けたものであるため、コストやタクトタイムの増加を招くことなく簡便な装置構成でありながらもエロージョンを発生させない液中ウォータージェット噴射装置を得ることができ、リンス工程等のキャビテーション効果を必要としない場合に、このキャビテーション消去器を備えたウォータージェット噴射装置を用いることによりキャビテーション発生を抑えてワークの損傷を回避できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
請求項1に記載の本発明による液中ウォータージェット噴射装置においては、本体流路内の噴射ノズル上流側位置に、簡便な構成のキャビテーション消去器を設けただけで、エロージョンを発生させない液中ウォータージェット噴射装置を得ることができ、リンス工程等のキャビテーション効果を必要としない場合に、このキャビテーション消去器を備えたウォータージェット噴射装置を用いることによりキャビテーション発生を抑えてワークの損傷を回避することが可能となるものである。
【0017】
また、このキャビテーション消去器を着脱可能なものとすれば、液中でのウォータージェット噴射時に、エロージョンを発生させる状態とエロージョンを発生させない状態とを選択的に使い分けることができるため、従来と同様に、強固な汚れの洗浄やバリ取り等のキャビテーション効果を必要とする場合にはキャビテーション消去器装着無し状態でのウォータージェット噴射でキャビテーション効果を最大限に生かし、リンス工程等のキャビテーション効果を必要としない場合には、キャビテーション消去器を装着した状態でのウォータージェット噴射でキャビテーション発生を抑えてワークの損傷を回避することが可能となる。
【0018】
以上のような本発明におけるキャビテーション消去器とは、噴射装置の本体流路内の噴射ノズル上流位置に配置される予め定められた口径のオリフィスを備えたリング状の部材からなるものである。この部材によるキャビテーション消去作用は、以下の通り機能するものである。
【0019】
即ち、噴射ノズルの上流側でキャビテーション消去器のオリフィス部を高圧流体が通過する際には、オリフィス部の入口付近でキャビテーションが発生するが、オリフィス部を通過した後の空間はキャビテーション消去器より上流側圧力とほぼ同圧力となっているため、発生したキャビテーションは成長することなく直ぐに崩壊する。このオリフィス部通過後の流体は、キャビテーションの発生を考えない場合でもリング状の渦流となっており、流れ軸に対して直角方向の流れ(二次流れ)が卓越した流れとなる。
【0020】
オリフィス部通過後に崩壊するキャビテーションからは崩壊時の高い圧力が発生し、二次流れ成分はこの発生圧によりさらに加速される。二次流れ成分が卓越した状態で噴射ノズルのオリフィスまで達した流れは、ノズルから噴射される時には半径方向に大きく広がる放射状の流れとなり、噴流の軸方向流速を半径方向流速成分が相殺する流れとなる。このことにより、ジェット周辺の流体との高剪断層は強くは形成されず、この高剪断層に起因するキャビテーションの発生も弱められることとなる。
【0021】
以上のようなキャビテーション消去効果は、後述の実施例で記載するように、オリフィス口径が小さいほど顕著となり、噴射ノズルのオリフィス口径の1.7倍以下で壊食量がゼロとなり、ノズルオリフィス径の1倍(同径)まで小さくした場合にはワークへのエロージョン痕も完全に消えることが確認されたことから、本発明におけるキャビテーション消去器のオリフィス口径は、噴射ノズルのオリフィス口径の1倍以上、1.7倍以下とするのが好ましい。
【0022】
また、キャビテーション消去器を着脱可能に本体の貫通流路内に配置する場合には、噴射ノズルと高圧水供給配管との間にキャビテーション消去器を固定するための高圧ソケットやブッシュ等の部材が必要となり、これらの部材が介在する分、貫通流路もある程度の長さを持った長いものとなる。従って、その配置位置としては、比較的長くなった貫通流路内で良好なキャビテーション効果が確保できる距離範囲とする必要がある。
【0023】
そこで、後述の実施例で検討した結果、キャビテーション消去器が貫通流路内である特定の距離範囲内にあれば、優れたキャビテーション消去効果は損なわれることなく維持されることが判った。上記特定の距離範囲は、噴射ノズルからの距離が、本体貫通流路の内径の1倍以上、4倍以下の距離であり、この距離範囲内にキャビテーション消去器を配置することが好ましい。
【0024】
一方、既存のウォータージェット噴射装置をできるだけ変更なくキャビテーション消去器を装着しようとすると、キャビテーション消去器を固定できる高圧ソケットやブッシュ等の部品が介在しないで直接的に噴射ノズルと供給配管とが接続される噴射装置に対しての装着となる場合が生じる。このように、貫通流路にある程度の長さを確保できない場合、キャビテーション消去器の配置位置は、噴射ノズルの直ぐ上流位置となる。
【0025】
そこで、後述の実施例で記載するように、本体構成が噴射ノズルと高圧水供給配管とが直接的に接続されて貫通流路が極めて短いために噴射ノズルの直ぐ上流にキャビテーション消去器を配置する場合についてキャビテーション消去効果を検討した結果、噴射対象との距離とキャビテーション消去器のオリフィス口径とを適宜設定することによって、優れたキャビテーション消去効果を得ることができる。
【0026】
従って、噴射ノズルの直ぐ上流位置での配置が可能であることから、キャビテーション消去器は、本体の貫通流路内に着脱可能に配置する構成に限らず、噴射ノズルにその上流側に一体的に設ける構成とすることができる。
【0027】
また、請求項6に記載の本発明によるキャビテーション消去器は、液中ウォータージェット噴射装置の本体流路内の噴射ノズル上流位置に装着されるリング状部材からなるものであるため、その径寸法を適宜設定するだけで、既存の液中ウォータージェット噴射装置に容易に組み込んでキャビテーション力を低減、消去することができる。従って、通常の強いキャビテーション効果を必要とする洗浄、バリ取り作業時以外のリンス等のキャビテーション力を必要としない作業時のみにキャビテーション消去器を装着すれば良い。
【0028】
なお、優れたキャビテーション消去効果を得るのには、キャビテーション消去器のオリフィス径を噴射ノズルのオリフィス口径の1倍以上、1.7倍以下とすることが望ましい。
【実施例1】
【0029】
本発明の第1の実施例による液中ウォータージェット噴射装置を図1の概略構成図に示す。図1(a)は本噴射装置の本体部分の側断面図であり、(b)は本体内に装着されるキャビテーション消去器の概略正面図である。
【0030】
本液中ウォータージェット噴射装置1は、高圧流体が導入される内径Dの貫通流路3を備えた本体2と、該本体2の先部流路に嵌合されて高圧流体を噴射するオリフィス口径dの噴射ノズル4とを備えたものであり、本体2には、貫通流路3の後端側で高圧ニップル11を介して加圧装置(不図示)によって加圧された高圧流体が送られてくる供給配管12が接続されている。
【0031】
本実施例では、この本体2の貫通流路3内の噴射ノズル4よりも上流位置に、予め定められた口径のオリフィス7を有するリング状のキャビテーション消去器6が着脱可能に装着され、キャビテーション消去器6の有る無し両方の状態でウォータージェットを噴射することができるものである。
【0032】
即ち、本噴射装置1の本体2は、スペーサ9を挟んで両側に配置されるブッシュ(8a,8b)を高圧ソケット10で固定してなるものであり、ブッシュ(8a,8b)とスペーサ9との間にキャビテーション消去器6を挟むことによってこれを本体貫通流路内に配置固定することができると共に、高圧ソケット10を外すことによって各部材を分離させてキャビテーション消去器6を外してキャビテーション消去器装着無し状態で本体2を組み直すことができる構成となっている。
【0033】
以上の構成を備えた液中ウォータージェット噴射装置1を用いて、キャビテーション消去器6のキャビテーション消去効果をアルミ板に対するジェット噴射後の質量欠損量およびエロージョン痕をキャビテーション消去器6無しの場合(噴射装置タイプ1)と比較して検討した実験結果を以下に示す。
【0034】
本実験における条件は、現在一般的なキャビテーション洗浄に用いられている噴射圧力4MPaの場合について、噴射ノズル4のオリフィス口径dを1.5mm、またキャビテーション消去器6のオリフィス7の口径kをノズルオリフィス口径dと同じ1.5mmとした場合(噴射装置タイプ3)と、2.5mmとした場合(噴射装置タイプ2)とについてそれぞれ噴射時間30分で検討した。また噴射ノズル4の出口からアルミ板(材質:A1050)までの距離(スタンドオフ距離)は、キャビテーション消去器なしの従来タイプの噴射装置において最大壊食量となる距離である37.5mmを基準とした。
【0035】
各タイプにおけるアルミ板への噴射実験の質量欠損量の評価方法は、予め質量を計測しておいたアルミ板に対して、一定の水深で上記条件の圧力を一定に保ちつつ設定した時間噴射を続けて壊食を発生させ、噴射終了後に再度質量計測を行い、噴射実験前後の質量変化量を質量欠損量として壊食力の指標とする。測定結果は表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1の結果に示す通り、キャビテーション消去器6のない噴射装置(タイプ1)ではアルミ板に質量欠損が発生しているのに対して、キャビテーション消去器6を装着した噴射装置(タイプ2、タイプ3)では、質量欠損がゼロであった。また図2の各アルミ板表面写真に示すように、キャビテーション消去器6のない噴射装置の場合には液中キャビテーション特有の中心部が壊食されないドーナツ状の大きなエロージョン痕が生じていたのに対して、キャビテーション消去器装着タイプの噴射装置では、エロージョン痕は小さくなり、キャビテーション消去器のオリフィス口径kを1.5mmとしたタイプ3(図2(c))においては完全にエロージョン痕が生じていなかった。
【0038】
即ち、キャビテーション消去器6のオリフィス口径kが小さくなるに従ってエロージョン痕が減少し、オリフィス口径kが1.5mmと噴射ノズルのオリフィス口径dと同径である場合には完全にエロージョン痕が消失していた。以上の結果から、本キャビテーション消去器6の装着により、キャビテーションを抑制できることが明らかとなった。
【実施例2】
【0039】
通常、噴射圧力が大きくなるとキャビテーションによる壊食量も大きくなっていく。そこで、本発明の第2の実施例として、図1の噴射装置1において、噴射圧力を4MPa、6MPa、8MPaと上げて行った場合についてキャビテーション消去器6のオリフィス口径kを変更していった際のキャビテーション消去効果を検討した実験結果を以下に示す。
【0040】
各キャビテーション消去効果は、実施例1と同様の質量欠損量の評価方法にて、アルミ板に対するウォータージェットの壊食量を各噴射圧力について測定して評価を行った。本実験における噴射装置1では、本体2の貫通流路3の内径Dが14.5mmの本体2に、オリフィス口径1.5mmのホーン型の噴射ノズル4を取り付け、キャビテーション消去器6をノズル4端からの距離20mm上流位置に装着した。
【0041】
また、各圧力での噴射実験はそれぞれ30分の噴射時間とし、各噴射実験毎に、予め測定した各噴射圧力におけるキャビテーション消去器装着なし状態での最大壊食量となるスタンドオフ距離をとった。具体的には、噴射圧力4MPaの際にはスタンドオフ距離37.5mm(最大壊食量:0.3427g)、6MPaの際にはスタンドオフ距離56.25mm(最大壊食量:0.9087g)、8MPaの際にはスタンドオフ距離62.5mm(最大壊食量:1.1886g)とした。
【0042】
検討したキャビテーション消去器6のオリフィス口径kは、1.5mm、2mm、2.5mm、5mm、7.5mm、10mm、12.5mmである。実験結果は図3の線図(横軸:キャビテーション消去器オリフィス口径(mm)、縦軸:質量欠損量(g))に示す。
【0043】
図3に示した線図から明らかなように、キャビテーション消去器6のオリフィス口径kが2.5mm以下、噴射ノズル4のオリフィス口径dの約1.7倍以下であれば、いずれの噴射圧力の場合でも壊食を抑制可能であることが確認できた。
【実施例3】
【0044】
次に、本発明の第3の実施例として、上記液中ウォータージェット噴射装置1において、本体2の貫通流路3内でのキャビテーション消去器6の位置、即ち、噴射ノズル4からの距離とキャビテーション消去効果との関係を検討した実験結果を以下に示す。
【0045】
本実験は、キャビテーション消去器6の位置を、図4の概略断面図に示すように貫通流路3内の高圧ソケット10に沿って下流側位置A(噴射ノズル4の端部からの距離LA:20mm)、中心部位置B(距離LB:40mm)、上流側位置C(距離LC:60mm)の三箇所について、それぞれ異なるオリフィス口径kで、実施例1と同様の質量欠損量の評価方法にて、アルミ板に対するウォータージェットの壊食量を測定した。
【0046】
噴射は、噴射ノズル4として、オリフィス口径dが1.5mmのものと2.5mmのものを用いた場合についてアルミ板へのスタンドオフ距離を各噴射圧力(4MPa、8MPa)における最大壊食量となる距離として、30分間行った。実験結果はオリフィス口径d=1.5mmで噴射圧力4MPaおよび8MPaの場合を図5の線図(横軸:キャビテーション消去器オリフィス口径(mm)、縦軸:質量欠損量(g))に、オリフィス口径d=2.5mmで噴射圧力4MPaの場合を図6の線図(横軸:キャビテーション消去器オリフィス口径(mm)、縦軸:質量欠損量(g))にそれぞれ示す。
【0047】
図5および図6に示す結果からも明らかなように、いずれの噴射圧力の場合においても、また異なる噴射ノズルオリフィス口径の場合でも、同じキャビテーション消去器6では、噴射装置の本体貫通流路内での上記配置範囲(位置A〜位置C)内でその位置の相違によって壊食量(質量欠損量)に殆ど違いは見られなかった。
【0048】
特に、本実験で検討した配置位置の範囲、即ち、高圧ソケットの上記実施例にて確認されたキャビテーション消去器6のオリフィス口径kが、優れたキャビテーション消去効果を示す範囲、即ち噴射ノズル4のオリフィス口径dの1倍以上から約1.7倍以下の範囲内にあった場合では、キャビテーション消去器6が上記配置範囲内にあれば、その優れたキャビテーション消去効果が損なわれることなく維持されることが判った。上記配置範囲は、噴射ノズル4からの距離が、本体貫通流路3の内径Dの1倍以上、4倍以下の距離範囲内となっている。
【実施例4】
【0049】
また、以上の実施例では、図1に示すように、噴射ノズル4と供給配管12との間にブッシュ(8a,8b)、スペーサ9、高圧ソケット10とが介在し、比較的長く形成された貫通流路3内にキャビテーション消去器6を配置する場合を検討したが、本発明の第4の実施例として、キャビテーション消去器を噴射ノズルの直ぐ上流位置に配置した場合におけるキャビテーション消去効果を検討した実験結果を以下に示す。
【0050】
本実験は、図7に示すように、噴射ノズル4と高圧水の供給配管12とが直接的に接続されて長さのある貫通流路が形成されない場合の噴射装置にて、オリフィス口径dが1.5mmの噴射ノズル4の直ぐ上流に配置されるキャビテーション消去器6を、オリフィス口径kが1.5mm、2.5mm、5.0mmとしたそれぞれの場合について、噴射圧力4MPa、30分間噴射、SOD43.75mmの条件と、噴射圧力8MPa、30分間噴射、SOD75mmの条件とで実施例1と同様の質量欠損量の評価方法にて、アルミ板に対するウォータージェットの壊食量を測定した。結果を表2に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
表2の結果から明らかなように、キャビテーション消去器が噴射ノズルの直ぐ上流に配置された場合であっても、オリフィス口径kが噴射ノズル4のオリフィス口径dの1倍以上から約1.7倍以下の範囲内にあった場合で壊食が抑えられており、またオリフィス口径kが噴射ノズルのオリフィスと同径の場合には、充分なキャビテーション消去効果が得られることが確認できた。アルミ板にエロージョン痕の発生は全く見られなかった。
【0053】
以上の結果から、キャビテーション消去器は、噴射ノズルの直ぐ上流位置であってもその効果を発揮させることができるため、キャビテーション消去器は、噴射ノズルに一体的に設ける構成としても良い。この場合、噴射ノズルのオリフィス口径に応じた良好なキャビテーション消去効果が得られるオリフィス口径を予め選択しておくことができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施例1による液中ウォータージェット噴射装置の概略構成図であり、(a)は本噴射装置全体の縦側断面図、(b)は噴射装置本体内に装着されたキャビテーション消去器を正面から見た概略平面図である。
【図2】実施例1のキャビテーション消去実験の結果を示すアルミ板のエロージョン痕を示す図面代用写真であり、(a)はキャビテーション消去器なしの場合、(b)はキャビテーション消去器のオリフィス口径が2.5mmの場合、(c)はオリフィス口径が1.5mmの場合をそれぞれ示すものである。
【図3】本発明の実施例2におけるキャビテーション消去実験の結果を示す線図(横軸:キャビテーション消去器オリフィス口径(mm)、縦軸:質量欠損量(g))である。
【図4】本発明の実施例3におけるキャビテーション消去実験に用いた液中ウォータージェット噴射装置内のキャビテーション消去器配置位置を示す概略側縦断面図である。
【図5】実施例3における噴射ノズルオリフィス口径1.5mmでのキャビテーション消去実験の結果を示す線図(横軸:キャビテーション消去器オリフィス口径(mm)、縦軸:質量欠損量(g))であり、(a)は噴射圧力8MPaの場合、(b)は噴射圧力4MPaの場合をそれぞれ示すものである。
【図6】実施例3における噴射ノズルオリフィス口径2.5mm、噴射圧力4MPaの場合でのキャビテーション消去実験の結果を示す線図(横軸:キャビテーション消去器オリフィス口径(mm)、縦軸:質量欠損量(g))である。
【図7】本発明の実施例4におけるキャビテーション消去実験に用いた液中ウォータージェット噴射装置の構成を示す概略側断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1:液中ウォータージェット噴射装置
2:本体
3:貫通流路
D:貫通流路内径
4:噴射ノズル
5:(噴射ノズルの)オリフィス
d:噴射ノズルオリフィス口径
6:キャビテーション消去器
7:(キャビテーション消去器の)オリフィス
k:キャビテーション消去器オリフィス口径
8a,8b:ブッシュ
9:スペーサ
10:高圧ソケット
11:高圧ニップル
12:供給配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧手段を介して加圧された高圧流体が導入される貫通流路を備えた本体と、該本体の先部流路に嵌合されて前記高圧流体を噴射する噴射ノズルと、を備えた液中ウォータージェット噴射装置において、
前記本体流路内の噴射ノズル上流位置に、予め定められた口径のオリフィスを有するリング状のキャビテーション消去器を備えていることを特徴とする液中ウォータージェット噴射装置。
【請求項2】
前記キャビテーション消去器は、前記本体流路内に着脱可能に装着されることを特徴とする請求項1に記載の液中ウォータージェット噴射装置。
【請求項3】
前記キャビテーション消去器は、前記噴射ノズルと一体的に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の液中ウォータージェット噴射装置。
【請求項4】
前記キャビテーション消去器のオリフィス口径は、前記噴射ノズルのオリフィス口径の1倍以上、1.7倍以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の液中ウォータージェット噴射装置。
【請求項5】
前記キャビテーション消去器の配置位置は、前記噴射ノズルオリフィスの末端位置から、前記本体流路内径の1倍以上、4倍以下の距離範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液中ウォータージェット噴射装置。
【請求項6】
加圧手段を介して加圧供給されてくる高圧流体を本体貫通流路内に導入し、該本体の先部流路に嵌合された噴射ノズルから噴射する液中ウォータージェット噴射装置の前記本体流路内の噴射ノズル上流位置に着脱可能に装着され、予め定められた口径のオリフィスを有するリング状部材からなることを特徴とするキャビテーション消去器。
【請求項7】
前記リング状部材のオリフィス口径が、前記噴射ノズルのオリフィス口径の1倍以上、1.7倍以下であることを特徴とする請求項6に記載のキャビテーション消去器。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−203235(P2007−203235A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−26762(P2006−26762)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【出願人】(000132161)株式会社スギノマシン (144)
【Fターム(参考)】