説明

液体ポンプの液中渦防止装置

【課題】液体ポンプの液中渦によりキャビテーションが発生し機器への損傷をもたらすことを防止する、新規な吸込液中渦防止装置を備えた液体ポンプを提供する。
【解決手段】インペラを有するシャフトにより液体をシャフト軸方向に吸引する吸込部に接続され、吸込部吸引方向と反対方向から液体を供給する吸込部外側通路と、吸込部と吸込部外側通路を接続する吸込部底面と、前記吸込部と吸込部外側通路の間に設けられた吸込部内液槽を有する液体ポンプにおいて、吸込部底面に液中渦防止部材を設け、液中渦防止部材は、上部円板と吸込部底面に固定される下部円板と上部円板及び下部円板を接続する接続部を有し、接続部側面は前記吸込部底面から連続する湾曲面を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体ポンプの吸込液における液中渦の発生を防止する液中渦防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体ポンプの吸込部上流で液体中の偏流などにより旋回流が生じると、液中渦が発生する場合がある。この旋回流がポンプ吸込部に向かう液体加速流の中で発達すると、加速流の中心部に渦度が集中し、非常に細く強い糸状の液中渦が発生する。液中渦の中心圧力が旋回する液体力の効果で液体の蒸気圧以下に低下すると、減圧沸騰によりキャビテーションが発生する。
【0003】
従来、キャビテーションの基になる液中渦の発生を抑制する液中渦防止装置は、特許文献1及び特許文献2に記載されているように、ポンプ吸込部の底面に十字板やコーン部材からなる液中渦防止部材を設け、またポンプ中心に棒を設置して流速を低減し、液中渦発生の原因となる旋回流を防止していた。
【0004】
図3、図4は、ポンプ吸込部の底面に十字板を設置して、液中渦発生の原因となる旋回流を防止する例を示す。図3において、液体ポンプは、ポンプ軸中心1と、シャフト2と、ケーシング3と、インペラ4と、ベルマウス5を備えた吸込部と、吸込部底面6を有する。吸込部底面6には液中渦防止部材として十字板7が設けられている。さらに吸込部外側流路壁面8と、吸込部外側流路9と、吸込部壁面10と、吸込部内液槽11と、吸込部内液槽面12により構成される。
【0005】
ポンプ軸中心1を基軸とし、駆動軸であるシャフト2が回転すると、シャフト2に固定されたインペラ4により液体が昇圧され、ケーシング3により囲まれた流路へインペラ4から液体が吸込吐出される。インペラ4へ液体が流入する部分のケーシング3先端に設けられたベルマウス5はインペラ4への液体流入ガイドの機能を果たしている。吸込部底面6と、吸込部壁面10と、吸込部内液槽面12から吸込部内液槽11が構成される。吸込部外側流路壁面8と吸込部壁面10からなる吸込部外側流路9から吸込部内液槽11へ液体が流入する。
【0006】
吸込部外側流路9に流入した吸込部引込流13は吸込部内液槽11への転回流14に方向転換され、次いで、吸込部内液槽11底部の液槽流15からベルマウス5内への吸込流16に変わり、液体ポンプ内の液体の流れが吸込み方向と反対方向に形成される。ここで吸込部底面6に設けた十字板7により、上記の流れにおいて液中渦発生の原因となる旋回流の流速を低減している。
【0007】
図5、図6は液中渦防止部材として、十字板7に替えてコーン部材17を設けた例を示す。コーン部材17はその外周を吸込部底面6から連続したテーパ状曲面で構成し、十字板7と同様に液中渦発生の原因となる旋回流の流速を低減しているが、この場合は表面にさらに円滑な流れを形成する。18はコーン部材17の側壁に沿って流れる上昇流である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平3−156200号公報
【特許文献2】特開平7−217546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のような従来技術によれば、流れの方向に交差して発生する旋回流を抑制し液中渦を防止することにより、一定のキャビテーション抑制効果が期待できる。しかしながら、上記構成では吸込部吸込流13でポンプ内液体速度が高速に加速されるため、流れ方向の流速がさらに高速化すると、旋回流中心の圧力低下による液中渦の発生及びキャビテーションを完全に抑制することはできない。
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、液中渦防止部材の形状を工夫し、側面に沿って流れ方向の流速が高速化する流速分布の偏りを平均化しかつ減速するように改善する、液中渦によるキャビテーションを抑制する新たな液体ポンプの吸込渦防止装置を提供するものである。
【0011】
また、液中渦防止部材側面に沿って流れ出た後流の剥離を防止し、液体の混合損失を低減するポンプ吸込渦防止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、ケーシング内に収納されて回転するインペラを有するシャフトにより液体をシャフト軸方向に吸引する吸込部と、前記吸込部に接続されるとともに、吸込部吸引方向と反対方向から液体を供給する吸込部外側通路と、前記吸込部と吸込部外側通路を接続する吸込部底面と、前記吸込部と吸込部外側通路の間に設けられた吸込部内液槽を有する液体ポンプにおいて、吸込部外側通路からの液体が反転して前記吸込部に吸引される前記吸込部底面に液中渦防止部材を設け、該液中渦防止部材は、上部円板と前記吸込部底面に固定される下部円板と前記上部円板及び下部円板を接続する接続部を有し、接続部側面は前記吸込部底面から連続する湾曲面を有することを特徴とする。
【0013】
また、液中渦防止部材は、前記湾曲面を有する接続部により、前記吸込部外側通路から吸引された液体の一部から湾曲流を形成し、吸引された液体の流速を減速して液中渦の発生を防ぐことを特徴とする。
【0014】
また、液中渦防止部材の上部円板は、湾曲面を有する接続部により液中渦防止部材上部に案内する流体の剥離を抑制する凸部からなる剥離防止部を設けたことを特徴とする。
【0015】
また、液中渦防止部材の上部円板における凸部からなる剥離防止部は、ポンプ軸中心に対称な略翼型断面を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る液体ポンプの吸込液中渦防止装置は、上部円板と下部円板及びこれらを接続する小径の接続部を有し、下部円板の下面をポンプ吸込部の底面に固定し、接続部側面を湾曲面とした液中渦防止部材を設けたことにより、接続部側面の湾曲面部分に液体の流れを引き込ませて反転する湾曲流を形成して吸込部に向かう液体の流速を減速し、液体圧力低下に伴うキャビテーションを抑制することができる。
【0017】
また、上面部分上部円板の上面を中央部が膨らむ曲面とし、その横断面をポンプ軸中心に対称な略翼型形状とすることで、液体が接続部側面に沿う湾曲流から出た後流の剥離を防止し、液体の混合損失を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の液体ポンプの吸込液中渦防止装置を示す模式図である。
【図2】図1のC−C線矢視図である。
【図3】従来の液体ポンプの吸込液中渦防止装置を示す模式図である。
【図4】図3のA−A線矢視図である。
【図5】従来の他の液体ポンプの吸込液中渦防止装置を示す模式図である。
【図6】図5のB−B線矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の液体ポンプの液中渦防止装置の構成を図1、図2に示す。液中渦防止装置は、ポンプ軸中心1と、インペラ4を先端に設けたシャフト2と、ベルマウス5を端部に形成したケーシング3と、吸込部底面6と、吸込部外側流路壁面8と、吸込部外側流路9と、吸込部壁面10と、吸込部内液槽11と、吸込部内液槽面12と、液中渦防止装置19により構成される。
【0020】
本発明の液中渦防止部材19は、上部円板21、下部円板22、及びこれらを接続する接続部23からなる。接続部23の側面は湾曲面をなしている。上部円板21の上面には、剥離防止のために上方に膨らんだ凸部からなる剥離防止部24を形成し、その断面はポンプ軸中心に対称なほぼ翼型断面形状をなしている。ここで従来例と同一構成は同一符号を用いて説明する。
【0021】
液中渦防止部材19の接続部23側面の湾曲面をなす凹部分に流れを巻き込ませ、反転する湾曲流20を形成する。これにより、液体流速が部分的に高速化する流速分布の偏りを接続部23側面に沿って平均化し、接続部23側面に沿った流れ方向の流速を減速する。同時に、下部円板22から接続部23下部にかけて、緩やかに傾斜が増加するテーパ形状を用い摩擦損失の低減を行って、液中渦によるキャビテーションを抑制する。
【0022】
また上部円板21の上面に剥離防止部24を形成し、上面部分を略翼型断面とすることで、液中渦防止部材19から離脱した湾曲流20の後流の剥離を防止し、液体の混合損失を低減する。
【0023】
本実施の形態に係る液中渦防止装置は液体ポンプに使用されるもので、図3、図5に示すような従来の液中渦防止装置では、吸込部底面6に十字板7およびコーン部材17が設置されていたのに対し、本発明では図1に示すような液中渦防止部材19が設置されている。
【0024】
ベルマウス5の吸込流16とは反対方向に吸込部引込流13がある場合、吸込部内液槽11への転回流14が吸込部引込流13と直交するように流れると、図3の吸込部内液槽の液槽流15と図5のコーン部材17側面に沿う上昇流18が高速化する。そこで、図1に記載した液中渦防止装置19を設置すると、接続部23側面の湾曲面の凹部分に流れを巻き込ませ、前記側面に沿う湾曲流20を作ることができる。
【0025】
したがって、前記接続部23側面の湾曲面の凹部分でのポンプ軸中心1と直交する断面では流れ方向に対して流れ面積が拡大し、前記側面に沿う湾曲流20ができるため、液槽流15と上昇流18が減速する。従って従来の上昇流18方向の流速の高速化を抑えることが可能になり、圧力低下に伴うキャビテーションを抑制することができる。
【0026】
さらに、下部円板22から接続部23下部にかけて、従来型の底面円錐状のコーン部材の形状を踏襲し、摩擦損失の低減も兼ねて液中渦によるキャビテーションを抑制することができる
また液中渦防止部材19からコーン部材側面に沿う上昇流18の後流では、前記上面部分を平面でなく、ポンプ軸中心に対称なほぼ翼型断面とした剥離防止部24により流れの剥離を防止し、液体の混合損失を低減することができる。
【符号の説明】
【0027】
1:ポンプ軸中心、2:シャフト、3:ケーシング、4:インペラ、5:ベルマウス、6:吸込部底面、8:吸込部外側流路壁面、9:吸込部外側流路、10:吸込部壁面、11:吸込部内液槽、12:吸込部内液槽面、13:吸込部引込流、14:転回流、15:液槽流、16:吸込流、18:上昇流、19:液中渦防止部材、20:湾曲流、24:剥離防止部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング内に収納されて回転するインペラを有するシャフトにより液体をシャフト軸方向に吸引する吸込部と、前記吸込部に接続されるとともに、吸込部吸引方向と反対方向から液体を供給する吸込部外側通路と、前記吸込部と吸込部外側通路を接続する吸込部底面と、前記吸込部と吸込部外側通路の間に設けられた吸込部内液槽を有する液体ポンプにおいて、
前記吸込部外側通路からの液体が反転して前記吸込部に吸引される前記吸込部底面に液中渦防止部材を設け、該液中渦防止部材は、上部円板と前記吸込部底面に固定される下部円板と前記上部円板及び下部円板を接続する接続部を有し、接続部側面は前記吸込部底面から連続する湾曲面を有することを特徴とする液体ポンプの液中渦防止装置。
【請求項2】
請求項1において、前記液中渦防止部材は、前記湾曲面を有する接続部により、前記吸込部外側通路から吸引された液体の一部から湾曲流を形成し、吸引された液体の流速を減速して液中渦の発生を防ぐことを特徴とする液体ポンプの吸込液中渦防止装置。
【請求項3】
請求項1または2において、前記液中渦防止部材の上部円板は、前記湾曲面を有する接続部により液中渦防止部材上部に案内される流体の剥離を抑制する凸部からなる剥離防止部を設けたことを特徴とする液体ポンプの吸込液中渦防止装置。
【請求項4】
請求項3において、前記液中渦防止部材の上部円板における凸部からなる剥離防止部は、ポンプ軸中心に対称な略翼型断面を有することを特徴とする液体ポンプの吸込液中渦防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−163145(P2011−163145A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23998(P2010−23998)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】