説明

液体中の溶存無機物質濃度測定方法及び測定装置、並びに、当該溶存無機物質濃度測定装置を備えたエッチング液再生システム

【課題】吸光度と溶存成分(無機物質)の濃度との間に十分な相関係数が得られない液体であっても、溶存する無機物質の濃度をプロセスのインラインで高精度に測定することができる溶存無機物質濃度測定方法及び測定装置の提供。
【解決手段】無機物質が溶存する液体に、互いに波長が異なる複数種の光を順次透過させて、前記液体についての前記単一波長光又は前記互いに波長が異なる複数種の光の各光の透過率を検出する光学部1、前記液体の温度を低下させる冷却手段31、前記液体の温度を検出する温度検出手段33と、前記光学部および温度検出手段の検出値に基いて、前記液体の最初に透過率変化が現れた温度の前記無機物質の飽和溶解度を前記液体の溶存無機物質濃度として導出するデータ処理部16とを備えた溶存無機物質濃度測定装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機物質が溶存する液体中の溶存無機物質濃度を測定する溶存無機物質濃度測定方法及び測定装置に関し、特に半導体材料の製造プロセスにおいて循環使用されるエッチング液の溶存無機物質濃度をプロセスのインラインで測定するのに好適な溶存無機物質濃度測定方法及び測定装置に関する。また、かかる溶存無機物質濃度測定装置を備えたエッチング液再生システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体材料の製造分野では、シリコンウエハ等の材料上に形成されるSi膜およびSiO膜のうち、SiO膜を残してSi膜を選択的にエッチング除去し、且つその選択比率を均一に維持するといった精密なエッチング処理が要求されている。
【0003】
Si膜およびSiO膜のエッチング選択比は、エッチング液として用いられる燐酸(HPO)と純水(H0)の混合溶液(以下、「燐酸水溶液」ともいう)中に生成されるケイ酸化合物の濃度に依存して変化するため、安定したエッチングを続けるためには、エッチング液中のSi成分の濃度を最適な一定濃度に維持管理する必要がある。
【0004】
かかる問題について、本願の出願人はSi膜のエッチング処理においてエッチング液中に副生成物として生成されてくる、溶存するSi成分の一部をエッチング液中で析出させて固形物とすることによって回収し、エッチング液中のSi成分の濃度を一定に維持できる装置を提案した(特許文献1)。この装置は、エッチング液の一部を処理槽から抜き出して、エッチングプロセスで生成したSi成分の一部又は全部を析出除去した後、再び処理槽に戻すことによってエッチング液を再生し、エッチング液のライフを長く、しかも、Si膜およびSiO膜のエッチング選択比を一定に維持管理しながら高精度に効率的なエッチング処理を可能としている。
【0005】
ところで、上記のようなウェットエッチングシステムでは、エッチング液中のSi成分の濃度をプロセスのインラインでリアルタイムに把握して、析出除去・再生を可能な限り短時間のサイクルでフィードバック制御することが望まれる。しかしながら、エッチング液中のSi成分の量(濃度)は、原子吸光分析法、イオンクロマトグラフィー、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP分析法)などによって測定することは可能であるが(特許文献2〜5等)、これらの方法は、測定のためにエッチング液を希釈したり燃焼したりする必要があるために、インラインでの測定には不向きであった。そこで、本出願人はプロセスのインラインでの測定が可能な、紫外線の吸光分析を用いた濃度測定方法及び測定装置を提案した(特許文献6)。しかし、この方法は、エッチング液と溶存成分である無機物質の組み合わせ(例えば、燐酸水溶液とケイ酸化合物)によっては、紫外線吸光度と溶存成分濃度との間に十分な相関係数が得られず、測定できない場合があることがわかった。
【0006】
一方、特許文献7には、エッチング液の劣化度合いに応じて処理時間を調整して、劣化したエッチング液でも適切なエッチング処理を行えるようにしたエッチング装置が提案されている。すなわち、この装置は、エッチング液の使用履歴からエッチング液の劣化度を推定し、あらかじめ求めておいた劣化度と処理レートの関係からエッチング液の劣化度に見合った処理時間を延長して補正処理を行うものであり、エッチング液を再生処理して使用するものではないが、エッチング液の劣化度を左右するケイ酸化合物(Si成分)の濃度を測定出来ないため、経験則から補正処理時間を決定している。従って、実際の処理環境の変動に対応できないため、高精度の処理を行えているとはいい難いものである。また、特許文献8には、エッチング液中の所定物質の濃度を検出し、所定物質の濃度が所定濃度に達した際に、処理槽内のエッチング液の所定量を排出し、新規エッチング液を処理槽内に補充して、エッチング液中の所定物質の濃度を調整するエッチング方法及び装置が記載されている。しかし、エッチング液中の所定物質の濃度を検出する濃度検出手段(濃度検出センサ)については具体的に説明されていない。濃度検出手段(濃度検出センサ)として、原子吸光分析法、イオンクロマトグラフィー、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP分析法)等の一般的な濃度測定手段を使用しているのであれば、リアルタイムに濃度を検出することは困難である。そのためか、当該エッチング装置ではエッチング液の濃度コントロールは、新規なエッチング液(の溶質成分)補充によって行っており、エッチング液を再生することは行っていない。
【特許文献1】特許第3842657号公報
【特許文献2】特開平7−21973号公報
【特許文献3】特開平7−280725号公報
【特許文献4】特開平10−26783号公報
【特許文献5】特開平11−326280号公報
【特許文献6】特開2004−294205号公報
【特許文献7】特開2004ー288963号公報
【特許文献8】特開2001−23952号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑み成されたものであり、その解決しようとする課題は、例えば、半導体材料の製造プロセスにおいて、Si膜とSiO膜が形成されたシリコンウエハからSiO膜を残してSi膜を選択エッチングするエッチング処理に使用される燐酸水溶液のような、その吸光度(光透過率)と溶存成分(ケイ酸化合物)の濃度との間に十分な相関係数が得られない溶液であっても、溶存する無機物質の濃度をプロセスのインラインで高精度に測定することができる溶存無機物質濃度測定方法及び測定装置を提供することである。
また、他の課題は、エッチング液中の溶存無機物質濃度をプロセスのインラインでリアルタイムに把握し、無機物質の析出除去によってエッチング液の溶存無機物質濃度を一定に管理するエッチング液の再生処理を短時間サイクルで高精度に実施できるエッチング液再生システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、例えば、半導体材料を製造する際のウェットエッチングプロセスで循環使用されるエッチング液のような、無機物質が溶解した液体の一部を、サンプリングして徐々に冷却すると、溶存する無機物質(例えば、上記エッチング液中のSi成分)の一部が析出するが、該液体を透過する光の透過率または散乱光強度が析出物を生じる前のそれとは明確に変化することを知見し、かかる知見に基づいてさらに研究を進めることにより、無機物質が溶解した液体を徐々に冷却して紫外線の透過率または散乱光強度が最初に変化する温度を検出すれば、その温度での当該無機物質の飽和溶解度に基づいてサンプリングした液体に溶存する無機物質の濃度を正確に把握することができ、しかも、かかる濃度測定のために要する手段は、実質的に、光の透過率または散乱光強度の測定のための光学部の他に、液体を冷却する冷却手段等の比較的簡単な構成でよいことから、半導体材料の製造プロセス等の各種製品の製造プロセスに簡単に組み込むことができる(すなわち、インラインで実施できる)ことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)無機物質が溶存する液体に、単一波長光を透過させるか、或いは、互いに波長が異なる複数種の光を順次透過させつつ、前記液体の温度を徐々に低下させて、最初に透過率変化が現れた温度を検出し、該温度から液体中の溶存無機物質濃度を導出することを特徴とする、溶存無機物質濃度測定方法。
(2)無機物質が溶存する液体に、単一波長光を透過させるか、或いは、互いに波長が異なる複数種の光を順次透過させつつ、前記液体の温度を徐々に低下させて、最初に散乱光強度の変化が現れた時の温度を検出し、該温度から、液体中の溶存無機物質濃度を導出することを特徴とする、溶存無機物質濃度測定方法。
(3)単一波長光又は波長が互いに異なる複数種の光が、120〜400nmの波長範囲から選択される紫外線である、上記(1)又は(2)に記載の方法。
(4)無機物質が溶存する液体が、シリコン窒化膜及びシリコン酸化膜が形成された半導体材料上の前記シリコン窒化膜を選択的に除去するエッチング処理に供された燐酸水溶液である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)無機物質が溶存する液体に、単一波長光を透過させるか、或いは、互いに波長が異なる複数種の光を順次透過させて、前記液体についての前記単一波長光又は前記互いに波長が異なる複数種の光の各光の透過率を検出する光学部と、
前記液体の温度を低下させる冷却手段と、
前記液体の温度を検出する温度検出手段と、
前記光学部および温度検出手段の検出値に基いて、前記液体の最初に透過率変化が現れた温度の前記無機物質の飽和溶解度を前記液体の溶存無機物質濃度として導出するデータ処理部とを備えていることを特徴とする、溶存無機物質濃度測定装置。
(6)無機物質が溶存する液体に、単一波長光を透過させるか、或いは、互いに波長が異なる複数種の光を順次透過させて、前記液体の散乱光強度を検出する光学部と、
前記液体の温度を低下させる冷却手段と、
前記液体の温度を検出する温度検出手段と、
前記光学部および温度検出手段の検出値に基いて、前記液体の最初に散乱光強度の変化が現れた温度の前記無機物質の飽和溶解度を前記液体の溶存無機物質濃度として導出するデータ処理部とを備えていることを特徴とする、溶存無機物質濃度測定装置。
(7)単一波長光又は波長が互いに異なる複数種の光が、120〜400nmの波長範囲から選択される紫外線である、上記(5)又は(6)記載の装置。
(8)無機物質が溶存する液体が、シリコン窒化膜及びシリコン酸化膜が形成された半導体材料上の前記シリコン窒化膜を選択的に除去するエッチング処理に供される燐酸水溶液である、上記(5)〜(7)のいずれかに記載の装置。
(9)被エッチング材料を没入浸漬させて収容するエッチング槽内の高温エッチング液を槽外に循環経路を通して取り出し、該循環経路の経路途中にて濾過、再加熱しながら槽内に戻すエッチング液の圧送循環を繰り返しながら、前記被エッチング材料にエッチング処理を施すウェットエッチング装置に付設されるエッチング液の再生システムであって、
前記循環経路の経路途中からエッチング槽に向けて分岐させた配管の経路途中にてエッチング液中の溶存無機物質を強制的に析出、回収し、溶存無機物質が除去又は減量されたエッチング液を生成するエッチング液再生手段と、
前記エッチング槽又は循環経路内のエッチング液を取り出して該エッチング液の溶存無機物質濃度を測定する溶存無機物質濃度測定手段と、
前記溶存無機物質濃度測定手段で測定されたエッチング液中の溶存無機物質濃度に基いて、前記エッチング液再生手段からエッチング槽へ戻されるエッチング液の量を決定する制御手段とを有し、
前記溶存無機物質濃度測定手段が上記(5)〜(7)のいずれかに記載の溶存無機物質濃度測定装置により構成されてなることを特徴とする、エッチング液再生システム。
(10)被エッチング材料が、シリコン窒化膜及びシリコン酸化膜が形成された半導体材料であり、エッチング処理が、当該半導体材料上のシリコン窒化膜を選択的に除去するエッチング処理であり、エッチング液が燐酸水溶液である、上記(9)記載のエッチング液再生システム。
【0010】
本発明において、測定対象の溶存無機物質は通常金属イオンであり、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属等であり、具体的には、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、ケイ素(Si)、リン(P)等が挙げられる。
【0011】
また、無機物質が溶存する液体としては、例えば、燐酸、フッ酸、塩酸、酢酸、硝酸、硫酸等の酸溶液(水溶液を含む)、アンモニア水溶液、過酸化水素水溶液およびこれらの混合液等が挙げられる。より具体的には、半導体材料の製造プロセスでのウェットエッチング処理で循環使用する薬液(エッチング液)が挙げられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の溶存無機物質濃度測定方法および装置では、無機物質が溶存する試料液の温度を徐々に低下させて、該液中での無機物質の析出物の発生を析出物の光散乱(レイリー散乱)による透過率変化または散乱光強度変化によって把握し、最初に僅かでも透過率または散乱光強度が変化した時点の試料液の温度を検出することで、その温度での飽和溶解度から試料液中の溶存無機物質濃度を求めるようにしたことから、その透過率(散乱光強度)と溶存成分の無機物質の濃度との間に十分な相関係数が得られない溶液であっても、溶存する無機物質の濃度を高精度に測定することができる。また、その測定に必要な手段は実質的に試料液の透過率(散乱光強度)を検出する分光部と試料液を冷却する冷却手段でよいことから、プロセスのインラインでの測定が可能であり、種々の製品の製造プロセスにおいてリアルタイムに液中の溶存無機物質濃度を測定することができる。
【0013】
また、本発明のエッチング液再生システムは、かかる本発明の溶存無機物質濃度測定装置を利用したことで、たとえば、半導体材料の製造プロセスにおいて、Si膜とSiO膜が形成されたシリコンウエハからSiO膜を残してSi膜を選択エッチングするエッチング処理に使用される燐酸水溶液のような、その吸光度(光透過率)や散乱光強度と溶存成分(Si成分(Siイオン))の濃度との間に十分な相関係数が得られない液体であっても溶存する無機物質の濃度を高精度にしかもプロセスのインラインでリアルタイムに把握することができることから、エッチング液中の溶存無機物質濃度(Si成分濃度)を一定に管理するエッチング液の再生処理を短時間サイクルで高精度に実施することができる。従って、エッチング液のライフを長く、しかも、Si膜及びSiO膜に対するSi膜のエッチング選択比を一定に管理維持しながら高精度で効率的なエッチング処理を繰り返し実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳しく説明する。
図1は、本発明の第1実施形態の溶存無機物質濃度測定装置のシステム構成図である。
当該測定装置100は、実質的に、光学部1と、サンプリング部2と、データ処理部3とで構成されている。
【0015】
まず、光学部1の具体的な構成を説明する。光学部1には、光源である紫外線ランプ4と、第1凸レンズ5と、絞り6と、干渉フィルター7を備えた回転円板8と、第2凸レンズ9と、第3凸レンズ10と、受光素子11とが設けられている。紫外線ランプ4から放射された紫外線は、第1凸レンズ5によって集光され、第1凸レンズ5の焦点位置に配置された絞り6と、干渉フィルター7とを通過する。ここで、回転円板8に保持された干渉フィルター7は、絞り6を通過した紫外線を、120〜400nmの範囲内の所定の波長の紫外線に分光する。
【0016】
干渉フィルター7によって分光された紫外線は、第2凸レンズ9によって集光され、フローセル12に照射される。フローセル12内には試料液(無機物質溶存液体)が導入されている。フローセル12に照射された紫外線の一部はフローセル12内の試料液によって吸収され、残部はフローセル12を透過する。フローセル12を透過した紫外線は、第3凸レンズ10により集光され、受光素子11に入射される。受光素子11は、入射された紫外線を、その強度に対応する光電流に変換する。
【0017】
回転円板8は、複数(例えば、8枚)の干渉フィルター7を、円周方向に等角度間隔で保持し、駆動モータ13により所定の回転数(例えば、1000rpm)で回転駆動される。各干渉フィルター7は、120〜400nmの範囲内で、測定対象に応じた、互いに異なる所定の透過波長を有している。ここで、回転円板8が回転すると、各干渉フィルター7が、第1、第2凸レンズ5、9の光軸に順次挿入される。そして、紫外線ランプ4から放射された紫外線が、干渉フィルター7によって分光された後、フローセル12内の試料液を透過し(一部は吸収される)、第3凸レンズ10により集光され、受光素子11に入射される。これにより、受光素子11から、各波長の紫外線吸光度に応じた電気信号が出力される。
【0018】
サンプリング部2において、試料液(無機物質溶存液体)は冷却部30で冷却されてフローセル12に導入される。冷却部30は、単一または複数の冷却手段31と、冷却手段31の冷却温度を調整する温度調整器32を有する。冷却手段31は、例えば、ペルチェ素子等を内蔵する冷却板等で構成されており、フローセル12の前段の液導入管の周囲に配置され、温度調整器32に接続されている。後述のデータ処理部3のマイクロプロセッサ17からの制御信号に基づいて温度調整器32が制御されて、試料液(無機物質溶存液体)を冷却して、試料液(無機物質溶存液体)の温度を徐々に低下させる。フローセル12内には、温度測定素子33が設置されており、温度測定素子33で検出された試料液(無機物質溶存液体)の温度が後述のデータ処理部3のマイクロプロセッサ17にフィードバックされ、試料液(無機物質溶存液体)の温度に基づいて温度調整器32が冷却手段31の温度をコントロールする。
【0019】
データ処理部3は、受光素子11から出力された、フローセル12の透過光の強度に対応する透過光強度信号を増幅する増幅器14を備えている。さらに、データ処理部3は、増幅器14から出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器15と、このA/D変換器15からデジタル信号を受け入れるデータ処理装置16とを備えている。
【0020】
データ処理装置16は、実質的に、マイクロプロセッサ17と、RAM18と、ROM19と、入力装置20と、出力装置21とで構成されている。ここで、マイクロプロセッサ17は、上記の試料液(無機物質溶存液体)の溶存無機物質の濃度を導出するための演算を行う。RAM18は測定対象の試料液の温度と無機物質の飽和溶解量との相関式や各種データを記憶している。ROM19は、マイクロプロセッサ17を動作させるためのプログラム等を格納している。入力装置20は、データや各種の命令を入力するキーボード等を備えている。出力装置21は、データ処理の結果を出力するプリンタやディスプレイ等を備えている。
【0021】
以下、データ処理装置16におけるデータ処理の具体的な内容を説明する。
駆動モータ13により回転円板8が回転駆動されると、受光素子11は、回転円板8に保持されている複数(例えば、8枚)の干渉フィルター7の透過波長に対応する各紫外線の、フローセル12内の酸溶液に対する透過度(又は反射度)に比例する信号を生成する。これらの信号は、増幅器14で増幅された後、A/D変換器15でデジタル信号に変換され、データ処理装置16のマイクロプロセッサ17に入力される。
【0022】
マイクロプロセッサ17は、A/D変換器15から入力されたデジタル信号に対して、次の式1による演算処理を実行し、吸光度Aを演算する。
【0023】
【数1】

【0024】
式1において、iは、分光された複数の紫外線の順番ないし番号(例えば、1〜8)である。Rは、測定対象である無機物質溶存液体のi番目の波長の紫外線の透過強度値である。Bは、フローセル12内に導入された基準濃度の無機物質溶存液体の、i番目の波長の紫外線の透過強度値である。Dは、フローセル12を遮光したときのi番目の波長の透過強度値である。ここで、B及びDは予め測定されたデータであり、データ処理装置16のRAM18に格納されている。なお、本装置では非常に微弱な透過率変化を測定するために、フローセル内に導入する基準濃度の無機物質溶存液体とは、無機物質が0%の純水も含む概念である。
【0025】
次に、式1による演算処理により得られた吸光度Aに、次の式2の変換を行って、補正吸光度Sを演算する。
【0026】
【数2】

【0027】
この式2の変換を行うのは次の理由による。すなわち、式1により演算される吸光度Aは、紫外線ランプ4の発光強度の変動や、受光素子11の感度変動や、光学系のひずみなどにより変化する。しかし、この変化はあまり波長依存性はなく、各波長の紫外線についての各吸光度データに同相、同レベルで重畳する。したがって、式2のように、各波長間の差をとることにより、上記変化を相殺することができる。
【0028】
図2はSi膜とSiO膜が形成されたシリコンウエハからSiO膜を残してSi膜を選択エッチングするエッチング処理に使用される燐酸水溶液の各測定温度でのSi(イオン)濃度に対する燐酸水溶液の差吸光度の変化点を示す図である。この図から、燐酸水溶液の温度によって差吸光度に変化が現れるSiイオン濃度が変化することが分かる。図中の、差吸光度とは、上述の、ランプの発光強度の変動や受光素子の感度変動を相殺するために波長が異なる2つの紫外線の吸光度の差をとった補正吸光度Sのことである。
【0029】
例えば、試料液が、Si膜とSiO膜が形成されたシリコンウエハからSiO膜を残してSi膜を選択エッチングするエッチング処理に使用される燐酸水溶液である場合、フローセル12内に導入された燐酸水溶液は冷却手段30で徐々に冷却されつつ、フローセル12内の温度測定素子33で検出される燐酸水溶液の温度がマイクロプロセッサ17にフィードバックされる。同時にマイクロプロセッサ17は逐次A/D変換器15から入力されたデジタル信号に対して、上記の演算処理を実行し、燐酸水溶液の差吸光度(補正吸光度S)を算出し、補正吸光度Siに変化が生じるかを常時観察し、差吸光度(補正吸光度S)が最初に変化したときの温度をフローセル12内の温度測定素子33からの信号に基づいて判定する。そして、こうして判定された差吸光度(補正吸光度S)の変化したときの温度をRAM18に格納された燐酸水溶液の温度とSiイオンの飽和溶解度の関係式に当てはめ、該温度でのSiイオンの飽和溶解量を試料液(燐酸水溶液)中のSiイオン濃度として算出する。
【0030】
かくして、この溶存無機物質濃度測定装置ないし測定方法によれば、無機物質が溶解した液体中の溶存無機物質の濃度を、無機物質が高濃度である場合でも液体を希釈したり、燃焼したりする必要なく、短時間で精度よく測定することができ、液体(無機物質が溶解した溶液)中の溶存無機物質の濃度のインライン測定を行うことができる。したがって、半導体装置等の製造ライン中にインラインで設置することができる。特に、特許文献1に記載の、従来のこの種の測定装置では高精度の濃度測定が困難であったその紫外線吸光度と溶存成分(Siイオン)の濃度との間に十分な相関係数が得られない液体であっても、溶存する無機物質の濃度を高精度にしかもプロセスのインラインでリアルタイムに把握することができる。よって、種々の液体中の溶存無機物質の濃度を、迅速、簡便に、かつ精度よく定量することができ、製品の歩留まりを向上させることができ、製造ラインの異常判定を早期に行うことができる。
【0031】
図3は本発明の第2実施形態の溶存無機物質濃度測定装置のシステム構成の要部を示した図であり、図1と同一符号は同一または相当する部分を示す。
【0032】
上記第1実施形態の溶存無機物質濃度測定装置100では、試料液(無機物質溶存液体)が導入されたフローセル12に照射した紫外線の透過率(吸光度)を測定し、その強度が最初に変化したときの温度を検出することで、その温度での飽和溶解度から試料液中の溶存無機物質濃度を求めるように構成したが、本測定装置101は、試料液(無機物質溶存液体)が導入されたフローセル12に照射した紫外線の散乱光の強度を測定し、その強度が最初に変化したときの温度を検出し、該温度から溶存無機物質濃度を求めるように構成したものである。
【0033】
冷却部30によってフローセル12内の試料液(無機物質溶存液体)の温度が徐々に低下して、無機物質が析出すると析出物の光散乱(レイリー散乱)により散乱光の強度変化が生じる。受光素子11’はフローセル12の近傍のフローセル12を透過する紫外線の光路から外れた位置に配置されており、散乱光を受光する。データ処理部3の増幅器は、受光素子11’から出力された、フローセル12の散乱光の強度に対応する散乱光強度信号を増幅する。マイクロプロセッサ17は、散乱光強度に変化が生じるかを常時観察し、散乱光強度の最初に変化したときの温度をフローセル12内の温度測定素子33からの信号に基づいて判定し、この温度をRAM18に格納された測定対象の試料液の温度と無機物質の飽和溶解度の関係式に当てはめ、該温度での無機物質の飽和溶解量を試料液中の無機物質の溶存濃度として算出する。
【0034】
本装置101の場合、散乱光の方向と受光素子の位置によって、無機物質の析出から散乱光の強度変化を検出するまでに時間的なズレが生じる場合がある。よって、より高精度の濃度測定を必要とする場合は、上記第1実施形態の装置100が好ましい。なお、無機物質を析出していない基底状態では受光素子は光を受光しておらず、無機物質の析出による僅かな光の散乱であってもその析出を検出することができる。よって、本装置101では、光学部を単一波長光をフローセルに照射する構成にしても散乱光の強度変化を検出することができ、光学部を単一波長光をフローセルに照射する構成にすることで装置のコストを低減できる利点がある。
【0035】
また、装置100、101のいずれにおいても、フローセル12内に温度測定素子33を配置したが、温度測定素子をフローセル12の前段及び/又は後段の配管に設けてもよいし、温度測定素子をフローセル12内とフローセル12の前段及び/又は後段の配管とに設けてもよい。
【0036】
また、装置100、101では、冷却部30をフローセル12の前段の液導入管の周囲に配置したが、図4に示すように、冷却部30をフローセル12の周囲に配設するようにしてもよい。すなわち、フローセル12の光路を塞がないようにフローセル12の周囲に冷却手段31’を配設し、フローセル12自体を冷却するようにしてもよい。
【0037】
本発明では、以上説明した本発明の溶存無機物質濃度測定装置を利用した、ウェットエッチング装置のエッチング液再生システムも提供する。
【0038】
一例として、エッチング液として燐酸水溶液(HPO+HO)を用いた半導体材料のエッチング処理を行うウェットエッチング装置のエッチング液再生システムを説明する。
【0039】
図5は本発明のエッチング液再生システムが付設されたウェットエッチング装置の一具体例であり、エッチング槽41は、エッチング液Mを収容し、半導体材料等の被エッチング材料(図示せず)がエッチング液M中に没入浸漬されて、エッチング処理が成される処理槽41−1と、該処理槽41−1からオーバーフローするエッチング液Mを受けるオーバーフロー槽41−2を有する。具体的には、例えば、処理槽41−1内に150〜175℃に加熱コントロールされているエッチング液(燐酸水溶液(HPO+HO))Mで満たされ、そこにSi膜及びSiO膜が形成された半導体材料(図示せず)を没入浸漬させることで、半導体材料上からSi膜を選択的にエッチング除去し、SiO膜を残すエッチング処理が行われる。
【0040】
処理槽41−1からエッチング液Mがオーバーフロー槽41−2にオーバーフローし、オーバーフローしたエッチング液Mをポンプ43にて循環して、オーバーフロー槽41−2に戻すようになっており、その間に異物を取り除く濾過フィルター44と、150〜175℃に加熱して循環経路42を一定の温度に保つラインヒーター45を取り付けている。また循環経路42から、分岐配管(第1配管)による第1経路46Aを形成し、その経路途中に、エッチング液Mの一部を取り出して強制的にSi成分を析出させて回収する再生装置47を取り付けている。さらに、循環経路42から、分岐配管(第2配管)により、上記第1経路46Aとは別の第2経路46Bを形成し、その経路途中に、前述の本発明の溶存無機物質濃度測定装置100(図1)を取り付けている。
【0041】
第2経路46Bに循環されたエッチング液Mは溶存無機物質濃度測定装置100を通過することで溶存するSiイオンの濃度が測定される。ここでのSiイオン濃度の測定動作は、前記で説明したとおりである。すなわち、溶存無機物質濃度測定装置100において、エッチング液Mは、冷却部30によって冷却されてフローセル12に導入され、データ処理装置16がエッチング液Mの差吸光度(透過率)に変化が生じるかを常時観察し、差吸光度(透過率)が最初に変化したときの温度を燐酸水溶液の温度とSiイオンの飽和溶解度の関係式に当てはめてSiイオン濃度を算出する(図1参照)。
【0042】
かかる溶存無機物質濃度測定装置100で測定されたSiイオン濃度がフィードバックされ、該Siイオン濃度に基づいて再生装置47にて溶存無機物質の一部又は全部が強制的に析出、回収されたエッチング液(溶存無機物質が除去又は減量されたエッチング液)のエッチング槽41へ戻される液量が決定される。すなわち、第1経路46Aに設けた再生装置47の出口用接続口管には電子制御バルブ70が取り付けられており、溶存無機物質濃度測定装置100で測定されたSiイオン濃度はCPU61に送られ、CPU61は、当該Siイオン濃度と予め記憶された情報から、処理槽41−1内のエッチング液MのSiイオン濃度を一定濃度とするために、再生装置47からエッチング槽41へ戻すエッチング液(溶存無機物質が除去又は減量されたエッチング液)の量を決定して、電子制御バルブ70へ制御信号を送り、バルブの開閉命令を行う。これにより、該決定された液量のエッチング液が再生装置47からオーバーフロー槽41−2へ戻される。かかる動作が短時間で繰り返されることで、処理槽41−1内のエッチング液MのSiイオン濃度が精密かつ一定にコントロールされて、エッチングレートが一定に維持管理され、エッチング液のラィフタイムも長くなる。具体的には、Si膜及びSiO膜に対するSi膜のエッチング選択比を一定に管理維持しながら高精度で効率的なエッチング処理を行うことができる。
【0043】
処理槽41−1は、石英、又はフッ素樹脂パーツ等の所望な材料により製作されるもので、複数枚の半導体材料を垂直並列状に収容し得る大きさの平面視略矩形状を呈する有底箱型に形成された槽である。処理槽41−1内の底部側には整流板(図示せず)が内設されており、底部中央から圧送循環されてくるエッチング液が、垂直並列状に支持収容する全ての半導体材料に対し、Si膜を効果的にエッチングするのに最適な流速(m/s)にて接触しながら流れる(上昇する)ようにしてある。
【0044】
第1経路(第1配管)46Aは、循環経路42の管径よりも細い管径からなり、オーバーフローしたエッチング液と共に循環経路42に入り込んでくる空気を外部に排気することにより、循環経路42におけるエッチング液の流れを円滑に尚且つその流量及び流速を一定に維持する役目を成すもので、濾過フィルター44と処理槽41−1との間を接続する循環経路42の経路の一部に一端を接続し、他端側を処理槽41−1の周囲のオーバーフロー槽41−2の上部開口に臨ませた解放状態で循環経路42から分岐配管せしめる。
【0045】
而して、オーバーフロー槽41−2に溢れて循環ポンプ43で循環経路42を通して槽外に取り出されて圧送循環されるエッチング液の一部(僅かな量)は第1経路46Aに流入し、該径路46Aに流入したエッチング液Mはオーバーフロー槽41−2の上部開口に臨む解放吐出口からオーバーフロー槽41−2に戻される。この時、エッチング液がオーバーフロー槽41−2に吐出戻される流れにより、エッチング液に混じり込んでいる空気がエッチング液から分離される。そして、この第1経路46Aの経路途中には再生装置47を接続装備して、この再生装置47によりエッチング液中のSiOを強制的に析出せしめて回収除去するようにしてある。
【0046】
図中の符号50は、循環経路42に対する第1経路46Aの接続側に配管接続した開閉バルブであり、再生装置47の保守点検やその交換等の作業を行う際に該経路46Aを一時的に閉じることができるようにしてある。
【0047】
再生装置47は、石英又はテフロン(登録商標)等の所望な材料から製作され、冷水又は空冷及び酸化により第1経路46Aを通って導入されてくるエッチング液M中のSiOを強制的に析出させて回収除去するものである。この再生装置47の具体的な構造形態としては特に限定されるものではない。要はエッチング液M中のSiOを強制的に析出させて効率的且つ確実に回収除去し得る構造で、しかも、回収したSiOが装置47内部に蓄積せしめて析出能力(回収能力)が低下してきた時点では該経路46Aから簡単に取り外して例えばフッ酸(HF)等の薬液により洗浄して再利用若しくは新規なものと簡単に交換することができる構造であれば良い。その実施の構造形態を図6(a)〜(d)に夫々示す。
【0048】
図6の(a)は、再生装置47の第1実施例を示し、適宜大きさの箱型に形成した析出容器51の外側に冷水等の冷却媒体を循環させる冷却パイプ52を螺旋状に巻回せしめると共に、第1経路(第1配管)46Aに着脱自在に接続する出入り用の接続口管53、54を前記容器51内に夫々挿入せしめた状態で備え、更に前記容器51内にはエッチング液中のSiOを積極的に且つ効率的に析出させて回収するための析出核用メッシュ55を内在させてなる。尚、図示を省略しているが、第1経路46Aに対する両接続口管53、54の着脱構造としては簡単に行うことができる例えばカップリング等のジョイント手段を用いることが好ましい。
【0049】
而して、斯かる再生装置47によれば、第1経路46Aから入口用接続口管53を通って析出容器51内に導入されてくるエッチング液Mは冷却される。すると、エッチング液M中のSiOは強制的に析出されて析出核用メッシュ55に付着する。これにより、エッチング液M中からSiOが効率的且つ確実に回収除去される。SiOが回収除去されたエッチング液Mは、出口用接続口管54から第1経路46Aに戻され、該経路46Aを通って処理槽41−1の周囲のオーバーフロー槽41−2に戻される。
【0050】
図6(b)は、再生装置47の第2実施例を示し、前述した第1実施例詳述の析出容器51に挿入接続した入口用接続口管53の容器51内吐出口に無数の小孔(図示せず)を有する略ラッパ形状の吐出口56を取り付ける一方、容器51の外に位置する入口用接続口管53の管部には小型吐出ポンプ57を配管接続することにより、吐出ポンプ57でエッチング液Mを容器51内に拡散吐出させるように構成してある。即ち、吐出ポンプ57でエッチング液Mを吐出口56から容器51内に拡散吐出させることでエッチング液Mを膨張冷却せしめ、該エッチング液M中のSiOを強制的に析出させながら析出核用メッシュ55に付着させることにより、エッチング液M中からSiOを効率的且つ確実に回収除去し得る様に構成してある。尚、前述実施例詳述と同じ構成部分においては同じ符号を用いることで重複説明は省略する。
【0051】
図6(c)は、再生装置47の第3実施例を示し、前述した第1実施例詳述の入口用接続口管53を挿入接続して該接続口管53から導入されて貯溜されるエッチング液Mに純水等の希釈液を加える希釈容器58に、導入管59を介して前述した第1実施例詳述の出口用接続口管54を挿入接続すると共に析出核用メッシュ55を内在する析出容器60を接続装備して、この析出容器60内にて前述したようにエッチング液Mを空冷(雰囲気温度)により冷却せしめることで、該液M中のSiOを強制的に析出させて析出核用メッシュ55に付着させることにより回収除去するように構成してなる。図中、符号61は、希釈容器58に挿入接続した希釈補給管であり、62は、同補給管61に配管装備した補給バルブであり、この補給バルブ62により希釈容器58への純水等の希釈液の補給量を任意に変更・設定し得るようにしてある。
【0052】
又、図6(d)は、再生装置47の第4実施例を示し、前述した第1実施例詳述のように出入口用の両接続口管53、54を備えると共に析出核用メッシュ55を内在する析出容器63に、前記入口用接続口管53の容器63内吐出口に向けてクリーンなエアーを吹き出すエアー供給管64とこの供給管64に連通接続させた状態でエアー冷却ノズル65を接続装備すると共に、析出容器63の内圧等を一定の雰囲気に維持するために前記エアー供給管64からのエアーの吹き出しに伴い該容器63内から余分のエアーを排気するエアー排気管66を接続せしめてなる。図中、符号67は、エアー供給管64に配管装備したエアーバルブであり、このバルブ67によりエアーの吹き出し量を任意に変更・設定し得るようにしてある。68は、エアー排気管66内に内在した気液分離フィルターであり、このフィルター68によりエッチング液Mは外部に排水させることなく、余分なエアーのみが外部に排気されるようにしてある。
【0053】
而して、かかる構成の再生装置47によれば、第1経路(第1配管)46から入口用接続口管53を通って析出容器63内に吐出導入されてくるエッチング液Mにはクリーンなエアーが吹き付けられる。すると、エッチング液M中のSiOは酸化により強制的に析出されて析出核用メッシュ55に付着し、エッチング液M中から回収除去される。SiOが回収除去されたエッチング液Mは、回収容器63内の底部近くに向けて挿入接続する出口用接続口管54から第1経路46Aに戻され、該経路46Aを通って処理槽41−1の周囲のオーバーフロー槽41−2に戻される。
【0054】
なお、これら図6(a)〜(d)の再生装置の再生処理済みエッチング液を経路46Aに戻す出口用接続口管54に図5に示す電子制御バルブ70が取り付けられる。
【0055】
一方、第2経路(第2配管)46Bは、第1経路46Aと同様に、経路2の管径よりも細い管径からなり、濾過フィルター44に一端を接続し、他端側を処理槽41−1の周囲のオーバーフロー槽41−2の上部開口に臨ませた解放状態で循環経路42から分岐配管せしめる。
【0056】
すなわち、オーバーフロー槽41−2に溢れて循環ポンプ43で循環経路42を通して槽外に取り出されて圧送循環されるエッチング液Mの一部(僅かな量)は濾過フィルター44にて第2経路46Bに流入し、該径路46Bに流入したエッチング液Mはオーバーフロー槽41−2の上部開口に臨む解放吐出口からオーバーフロー槽41−2に戻される(この時、第1経路46Aでのそれと同様にエッチング液Mに混じり込んでいる空気がエッチング液Mから分離される)。そして、この第2経路46Bの経路途中に溶存無機物質濃度測定装置100が接続装備されており、この溶存無機物質濃度測定装置100で、前述の原理、動作により、エッチング液M中の無機物質(Siイオン)の濃度が測定され、該濃度がCPUに送られる。そして、CPU61は、かかる溶存無機物質濃度測定装置100で測定されたエッチング液M中の無機物質(Siイオン)の濃度に基いて、再生装置47に溜められた再生処理済みエッチング液(溶存無機物質が除去又は減量されたエッチング液)のオーバーフロー槽41−2へ戻すべき量を決定し、再生装置47の出口用接続口管54に取り付けられた電子制御バルブ70の開閉制御を行う。これにより、循環経路42内のエッチング液M中の無機物質(Siイオン)の濃度変化に応じて、オーバーフロー槽41−2へ戻される再生処理済みエッチング液の量が調整され、かかる動作が繰り返されることによって、処理槽41−1内のエッチング液MのSiイオン濃度が精密かつ一定にコントロールされる。
【0057】
このように本発明のエッチング液再生システムでは、エッチング処理に使用されたエッチング液中の溶存無機物質を除去又は減量して再生したエッチング液を再度エッチング処理に使用するエッチング液の循環利用において、エッチング処理が行われる処理槽内のエッチング液の溶存無機物質を精密かつ一定にコントロールできるため、エッチングレートが一定に維持管理され、高精度で効率的なエッチング処理を行うことができる。
【0058】
なお、上記図5中の溶存無機物質濃度測定装置100内に設けられたバルブ34、35は、マイクロプロセッサ17(図1参照)が行う演算処理に用いる基準濃度の無機物質溶存液体(純水を含む)の透過強度値を測定するために、フローセル12に基準濃度の無機物質溶存液体を導入する際に使用される。すなわち、バルブ34を閉めることで、循環経路42から第2経路46Bへ流れこむエッチング液Mがフローセルに流れないようにし、バルブ35を開けることで外部からフローセル12へ基準濃度の無機物質溶存液体(純水を含む)が導入される。エッチング処理が実施され、エッチング液Mの無機物質(Siイオン)の濃度が測定、管理される間は、バルブ35が閉められ、バルブ34が開けられて、循環経路42から第2経路46Bへ流れこむエッチング液Mは溶存無機物質濃度測定装置100を通って、オーバーフロー槽41−2へ流れる。
【0059】
上記、図5の装置では、循環経路42から分岐させた配管(第2経路46B)に溶存無機物質濃度測定装置100を組み込んで、循環経路42を流れるエッチング液の一部を取り出して該エッチング液中の溶存無機物資の濃度を測定する構成としたが、該処理槽41−1内のエッチング液の一部を採取する配管を設け、該配管に溶存無機物質濃度測定装置100を組み込んで処理槽41−1内のエッチング液中の溶存無機物資の濃度を測定する構成としてもよい。なお、送液の為のポンプや複雑な配管を必要とせず、溶存無機物質濃度測定装置100を組み込むことができる点から、上記図5の装置のように、循環経路42から分岐させた第2配管(第2のエアー抜き経路46B)に溶存無機物質濃度測定装置100を設けて、循環経路42を流れるエッチング液の溶存無機物資の濃度を測定する構成とするのが好ましい。
【0060】
また、以上は、エッチング液中の溶存無機物資の濃度を検出する手段として、本発明の第1実施形態の溶存無機物質濃度測定装置100(図1)を用いたエッチング液再生システムを説明したが、エッチング液中の溶存無機物質の濃度を検出する手段として、第2実施形態の溶存無機物質濃度測定装置101(図3)を用いた場合も、濃度測定に散乱光の強度変化を用いる点以外は、基本的にシステムの動作は同じであり、第2実施形態の溶存無機物質濃度測定装置101(図3)を用いた場合も、エッチング液中の無機物質の濃度を精密かつ一定にコントロールでき、エッチングレートの維持、エッチング液の長寿命化を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の第1実施形態の溶存無機物質濃度測定装置のシステム構成図である。
【図2】Si膜とSiO膜が形成されたシリコンウエハからSiO膜を残してSi膜を選択エッチングするエッチング処理での燐酸水溶液の各測定温度でのSi(イオン)濃度に対する燐酸水溶液の差吸光度の変化点を示す図である。
【図3】本発明の第2実施形態の溶存無機物質濃度測定装置のシステム構成図である。
【図4】本発明の第3実施形態の溶存無機物質濃度測定装置の要部の構成図である。
【図5】本発明のエッチング液再生システムを付設したウェットエッチング装置の一例の概略図である。
【図6】図(a)〜(d)は図5中のエッチング液再生装置の第1〜第4実施例の概略図である。
【符号の説明】
【0062】
1 光学部
2 サンプリング部
3 データ処理部
11 受光素子
12 フローセル
14 増幅器
16 データ処理装置
17 マイクロプロセッサ
30 冷却部
31 冷却手段
32 温度調整器
33 温度測定素子
41−1 処理槽
41−2 オーバーフロー槽
42 循環経路
46A 第1のエアー抜き経路
46B 第2のエアー抜き経路
47 再生装置
61 CPU
70 電子制御バルブ
100、101 溶存無機物質濃度測定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機物質が溶存する液体に、単一波長光を透過させるか、或いは、互いに波長が異なる複数種の光を順次透過させつつ、前記液体の温度を徐々に低下させて、最初に透過率変化が現れた温度を検出し、該温度から液体中の溶存無機物質濃度を導出することを特徴とする、溶存無機物質濃度測定方法。
【請求項2】
無機物質が溶存する液体に、単一波長光を透過させるか、或いは、互いに波長が異なる複数種の光を順次透過させつつ、前記液体の温度を徐々に低下させて、最初に散乱光強度の変化が現れた時の温度を検出し、該温度から、液体中の溶存無機物質濃度を導出することを特徴とする、溶存無機物質濃度測定方法。
【請求項3】
単一波長光又は波長が互いに異なる複数種の光が、120〜400nmの波長範囲から選択される紫外線である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
無機物質が溶存する液体が、シリコン窒化膜及びシリコン酸化膜が形成された半導体材料上の前記シリコン窒化膜を選択的に除去するエッチング処理に供された燐酸水溶液である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
無機物質が溶存する液体に、単一波長光を透過させるか、或いは、互いに波長が異なる複数種の光を順次透過させて、前記液体についての前記単一波長光又は前記互いに波長が異なる複数種の光の各光の透過率を検出する光学部と、
前記液体の温度を低下させる冷却手段と、
前記液体の温度を検出する温度検出手段と、
前記光学部および温度検出手段の検出値に基いて、前記液体の最初に透過率変化が現れた温度の前記無機物質の飽和溶解度を前記液体の溶存無機物質濃度として導出するデータ処理部とを備えていることを特徴とする、溶存無機物質濃度測定装置。
【請求項6】
無機物質が溶存する液体に、単一波長光を透過させるか、或いは、互いに波長が異なる複数種の光を順次透過させて、前記液体の散乱光強度を検出する光学部と、
前記液体の温度を低下させる冷却手段と、
前記液体の温度を検出する温度検出手段と、
前記光学部および温度検出手段の検出値に基いて、前記液体の最初に散乱光強度の変化が現れた温度の前記無機物質の飽和溶解度を前記液体の溶存無機物質濃度として導出するデータ処理部とを備えていることを特徴とする、溶存無機物質濃度測定装置。
【請求項7】
単一波長光又は波長が互いに異なる複数種の光が、120〜400nmの波長範囲から選択される紫外線である、請求項5又は6記載の装置。
【請求項8】
無機物質が溶存する液体が、シリコン窒化膜及びシリコン酸化膜が形成された半導体材料上の前記シリコン窒化膜を選択的に除去するエッチング処理に供される燐酸水溶液である、請求項5〜7のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
被エッチング材料を没入浸漬させて収容するエッチング槽内の高温エッチング液を槽外に循環経路を通して取り出し、該循環経路の経路途中にて濾過、再加熱しながら槽内に戻すエッチング液の圧送循環を繰り返しながら、前記被エッチング材料にエッチング処理を施すウェットエッチング装置に付設されるエッチング液の再生システムであって、
前記循環経路の経路途中からエッチング槽に向けて分岐させた配管の経路途中にてエッチング液中の溶存無機物質を強制的に析出、回収し、溶存無機物質が除去又は減量されたエッチング液を生成するエッチング液再生手段と、
前記エッチング槽又は循環経路内のエッチング液を取り出して該エッチング液の溶存無機物質濃度を測定する溶存無機物質濃度測定手段と、
前記溶存無機物質濃度測定手段で測定されたエッチング液中の溶存無機物質濃度に基いて、前記エッチング液再生手段からエッチング槽へ戻されるエッチング液の量を決定する制御手段とを有し、
前記溶存無機物質濃度測定手段が請求項5〜7のいずれか1項に記載の溶存無機物質濃度測定装置により構成されてなることを特徴とする、エッチング液再生システム。
【請求項10】
被エッチング材料が、シリコン窒化膜及びシリコン酸化膜が形成された半導体材料であり、エッチング処理が、当該半導体材料上のシリコン窒化膜を選択的に除去するエッチング処理であり、エッチング液が燐酸水溶液である、請求項9記載のエッチング液再生システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−58306(P2009−58306A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−224875(P2007−224875)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【出願人】(592073938)株式会社ケミカルアートテクノロジー (4)
【Fターム(参考)】