説明

液体原料の光分解装置及び方法

【課題】反応場を仕切る為の部材が不要で、光分解効率も高い液体原料の光分解装置を提供すること。
【解決手段】マイクロ反応器のマイクロ流路の内面に設けられ、液体原料を光分解してガス生成物を少なくとも1種類は生成し得る光触媒層と、マイクロ流路に非原料ガスを供給するガス供給部と、前記マイクロ流路に液体原料を供給する液体原料供給部とを備え、前記ガス供給部および液体原料供給部は、前記液体原料が前記マイクロ流路の内面に沿う筒状液膜流となって流れ、非原料ガスが中央部を中央ガス流となって流れる状態のパイプフローを形成可能に構成され、前記パイプフローが形成された状態において前記中央ガス流の占める領域は、当該液体原料の光触媒反応において、前記筒状液膜流中で生成したガス生成物が反応場である液膜中から外に脱離することを可能にするガス脱離領域としても機能するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水を光触媒によって光分解して水素ガスと酸素ガスを得る等の液体原料の光分解装置およびその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水を光触媒によって光分解すると水素ガスと酸素ガスを生成することが知られている。しかし、白金を担持した二酸化チタン触媒の粉末を水中に懸濁して光照射しても、水の分解はほとんど観察されない。それは、水は光分解されて一旦は水素ガスと酸素ガスを生成するが、生成した水素ガスと酸素ガスが気泡を作って反応場である光触媒の近傍に存在していると、前記分解反応の逆反応が直ちに起こり、生成した水素ガスと酸素ガスは水に戻ってしまうからと考えられている。
【0003】
そこで、生成した水素ガスを反応場から分離して前記逆反応を低減させるようにした水の光分解装置が提案されている(例えば特許文献1)。この水の光分解装置は水素分離膜によって反応場を仕切り、生成した水素ガスを水素分離膜を介して分離する構造である。
【特許文献1】国際公開 WO2004/085306
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の水の光分解装置は、光分解の反応場を仕切る部材として水素分離膜を設ける必要があるため、構造が複雑化し、また水素分離膜の劣化の問題もあり、更に光触媒による光分解効率も低いものであり、改善の余地が多く残されている。
【0005】
本発明の目的は、構造が単純で、反応場を仕切る為の部材が不要で、光分解効率も高い液体原料の光分解装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の第1の態様に係る液体原料の光分解装置は、マイクロ流路を有するマイクロ反応器と、前記マイクロ流路の内面に設けられ、液体原料を光分解してガス生成物を少なくとも1種類は生成し得る光触媒層と、前記マイクロ流路に非原料ガスを供給するガス供給部と、前記マイクロ流路に液体原料を供給する液体原料供給部とを備え、前記ガス供給部および液体原料供給部は、前記液体原料が前記マイクロ流路の内面に沿う筒状液膜流となって流れ、非原料ガスが中央部を中央ガス流となって流れる状態のパイプフローを形成可能に構成され、前記パイプフローが形成された状態において前記中央ガス流の占める領域は、当該液体原料の光触媒反応において、前記筒状液膜流中で生成したガス生成物が反応場である液膜中から外に脱離することを可能にするガス脱離領域としても機能するように構成されていることを特徴とするものである。
【0007】
本態様によれば、光触媒層をマイクロ流路内壁に担持したマイクロ反応器を用い、パイプフローを形成した状態で、液体原料で作られた筒状液膜流中で光分解反応を起こさせ、該光分解反応による生成物の内のガス生成物を、パイプフローを形成するために液体原料と直接接触している中央ガス流の占める領域(ガス脱離領域)に移れるようにして、反応場である液膜中から外に脱離するようにしている。
従って、従来のような反応場を仕切るための部材が不要であるので、単純な構造でガス生成物を反応場から外に脱離させることができ、以て逆反応を防止することができる。また、光触媒層をマイクロ流路内壁に担持したマイクロ反応器を用い、パイプフローを形成した状態で、液体原料で作られた筒状液膜流中で光分解反応を起こさせるので、光分解効率を大幅に向上することができる。
【0008】
本発明の第2の態様は、マイクロ流路を有するマイクロ反応器と、前記マイクロ流路の内面に設けられ、水を光分解して水素ガスと酸素ガスを生成し得る光触媒層と、前記マイクロ流路に非原料ガスを供給するガス供給部と、前記マイクロ流路に液体の水を供給する水供給部とを備え、前記ガス供給部および水供給部は、前記水が前記マイクロ流路の内面に沿う筒状液膜流となって流れ、非原料ガスが中央部を中央ガス流となって流れる状態のパイプフローを形成可能に構成され、前記パイプフローが形成された状態において前記中央ガス流の占める領域は、当該水の光触媒反応において、前記筒状液膜流中で生成した水素ガスと酸素ガスが反応場である液膜中から外に脱離することを可能にするガス脱離領域としても機能するように構成されていることを特徴とするものである。
【0009】
本態様によれば、水を光触媒によって光分解して水素ガスと酸素ガスを得る光分解反応を高い効率で行わせることができると共に、その逆反応を簡単な構造で低減できる。
【0010】
本発明の第3の態様は、前記第1の態様又は第2の態様に係る液体原料の光分解装置において、前記光触媒は二酸化チタンであることを特徴とするものである。
【0011】
本発明によれば、二酸化チタンの高い光触媒活性を有する液体原料の光分解装置とすることができる。二酸化チタンは、光触媒の層として設けた場合の透明性が高く、また耐久性に優れた光触媒であり、安定した光触媒活性を有している点で優れている。加えて、二酸化チタンの層の形成は容易であり、その原料も廉価であるため低コストで光触媒層を設けることができる。
【0012】
本発明の第4の態様は、第3の態様に係る液体原料の光分解装置において、前記二酸化チタンに、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金、銅、銀、および金のいずれか1種の金属を助触媒として担持させたことを特徴とするものである。
【0013】
本発明によれば、二酸化チタンに担持させたルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金、銅、銀、および金のいずれか1種の金属の助触媒作用によって、二酸化チタンの光触媒活性を更に高めることができる。
【0014】
本発明の第5の態様に係る液体原料の光分解方法は、マイクロ流路の内面に光触媒の層を有するマイクロ反応器の当該マイクロ流路に、前記光触媒による光分解反応によってガス生成物を少なくとも1種類は生成し得る液体原料と、非原料ガスとを供給し、前記マイクロ流路内で前記液体原料が該マイクロ流路の内面に沿う筒状液膜流となって流れ、前記非原料ガスが中央部を中央ガス流となって流れる状態のパイプフローを形成し、前記筒状液膜流中で生成したガス生成物を、反応場である液膜中から前記中央ガス流中に脱離しながら当該液体原料の光分解反応を進行させることを特徴とするものである。本態様によれば、第1の態様と同様の効果が得られる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、光触媒層をマイクロ流路内壁に担持したマイクロ反応器を用い、パイプフローを形成した状態で、液体原料で作られた筒状液膜流中で光分解反応を起こさせ、該光分解反応による生成物の内のガス生成物を、パイプフローを形成するために液体原料と直接接触している中央ガス流の占める領域(ガス脱離領域)に移れるようにして、反応場である液膜中から外に脱離するようにしている。従って、従来のような反応場を仕切るための部材が不要であるので、単純な構造でガス生成物を反応場から外に脱離させることができ、以て逆反応を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係る一実施例の液体原料の光分解装置の全体構造を図1〜図4を用いて説明する。
図1は、本実施例に係る液体原料の光分解装置を示す斜視図である。図2は、図1のI−I断面図である。図3は、図2のII−II断面のA部の拡大図であり、マイクロ流路中におけるパイプフロー状態を示す図である。図4は図2のIII−III断面図である。
【0017】
本実施例に係る液体原料の光分解装置1は、光透過性材料より成り、非原料ガスと反応原料としての液体原料とが流通されるマイクロ流路4を有するマイクロ反応器10を備えている。前記マイクロ流路4を有するマイクロ反応器10は、例えば、マイクロ流路4を成す溝6(図4)が設けられたホウ珪酸ガラス、石英、アクリル樹脂等の光透過性材料で形成された基板2、および天板3を接合させることによって形成することができる。
【0018】
前記基板2表面には、エッチング、または機械加工によって溝6が形成されている。前記溝6には、図4のように光触媒層5が設けられている。本実施例においては、原料液体は水であり、前記光触媒として白金を担持した二酸化チタン(Pt/TiO)が用いられる。該光触媒は勿論これに限定されない。二酸化チタンに、白金以外のルテニウム、ロジウム、パラジウム、銅、銀、金等の助触媒としての働きをする金属を担持させることによっても、同様に二酸化チタンの光触媒活性を高めることができる。
また、二酸化チタン単独でも用いることができる。可視光応答性光触媒を用いれば、光触媒の励起光源として太陽光を利用することが可能である。
【0019】
光触媒の種類は原料液体を光分解できると共に、ガス生成物を少なくとも1種類は生成できることが前提になるので、該原料液体との組み合わせで決まることになる。そして、ガス生成物が原料液体に溶けにくいもの程、光分解の生成効率が向上する。
【0020】
前記光触媒層5が設けられた溝6を備えた基板2と天板3とを接合することによって、マイクロ流路4が形成される。マイクロ流路4の断面形状は特に限定されるものではなく、溝6の形状を変えることによって、例えば半円形、または、三角形に形成することができる。また、前記溝6を基板2と天板3の両方に設けることにより、円形、楕円形、五角形、その他の多角形等に形成することもできる。
【0021】
また、マイクロ流路4は、本実施例のように光触媒層5が設けられた溝6を備えた基板2と天板3とを接合して形成されるものに限らず、断面円形または多角形のキャピラリーの内壁に光触媒を設けることによって形成することができる。
【0022】
マイクロ流路4の流路径は10〜2000μmに構成することができ、50〜1000μmであると好ましく、100〜500μmであるとより好ましい。ここで、「マイクロ流路の流路径」とは、反応流路のサイズを規定する長さであり、例えばマイクロ流路4の断面が四角形における短辺の長さ、円形における直径、楕円形における短直径を意味するものである。なお、断面四角形における長辺の長さ、断面楕円形における長直径の長さはマイクロ流路4全体に光が照射でき、反応器の機械的強度が保たれる範囲であれば特に制限されるものではなく、例えば長辺の長さ/短辺の長さ、長直径/短直径の比が1〜20程度となるように構成することができる。
【0023】
また、図4のように、天板3のマイクロ流路4の上面を成す部分には光触媒層5を設けず、基板2の溝6の内面、すなわちマイクロ流路4の側壁面と底面にのみに光触媒が設けることによって、該天板3の上面から光触媒に効率よく光を照射することができる。このように、天板3の上面側から基板2の溝6内面に設けられた光触媒に対して光を照射する場合には、該天板3のみが透過性材料で形成されている構成とすることも可能である。
【0024】
基板2に設けられた溝6の一端には、マイクロ流路4に原料を供給するための第1の供給口11が設けられている。また、天板3には、前記基板2と接合したときに、前記第1の供給口11とほぼ対向する位置に、第2の供給口12が設けられている。更に、前記天板3には、マイクロ流路4を通過した反応液が取り出される取り出し口13が設けられている。
【0025】
前記第1の供給口11および前記第2の供給口12は、一方が非原料ガスである窒素ガスの供給口として用いられ、もう一方が液体原料である水の供給口として用いられる。
【0026】
第1の供給口11および第2の供給口12にはチューブコネクタ18が設けられている。第1の供給口11はマイクロチューブ14を介して非原料ガス送り込み手段であるガス用シリンジポンプ16に接続されており、第2の供給口12はマイクロチューブ15を介して液体原料送り込み手段である液体原料用シリンジポンプ17に接続されている。非原料送り込み手段および液体原料送り込み手段としては、前記シリンジポンプの他、気体または液体の供給速度を調整することができる装置を用いることができる。
【0027】
本実施例では、第1の供給口11とマイクロチューブ14とガス用シリンジポンプ16により、マイクロ流路4に非原料ガスを供給するガス供給部が構成されている。また、第2の供給口12とマイクロチューブ15と液体原料用シリンジポンプ17により、マイクロ流路4に液体原料を供給する液体原料供給部が構成されている。
【0028】
ガス用シリンジポンプ16および液体原料用シリンジポンプ17によって、非原料ガスである窒素ガス、および液体原料である水の供給速度を調整し、前記液体原料がマイクロ流路4の内面に沿って流れ、窒素ガスが中央部を流れる状態のパイプフローを形成可能に構成されている。マイクロ流路4を通過した反応液は、取り出し口13から取り出される。尚、非原料ガスとして具体的に使用できるガスは、光分解反応を起こす液体原料の種類及びその反応生成物の種類との関係で決まるので、個別に決めることになり、一概には決められない。但し、アルゴンやヘリウムなどの希ガス(不活性ガス)を用いれば、原料ガスの種類等に影響されずにほとんどの反応に対応することができる。
【0029】
光反応を誘起するために光触媒層5に光を照射するため、光源として紫外発光ダイオード19を用いた光照射装置8を用いることが望ましい。光照射装置8の光源として発光ダイオードを用いることによって、光触媒系マイクロ装置1の省スペース化と低フォトンコストを実現することができる。前記光照射装置8は、光が天板3の上面に設けられ、前記紫外発光ダイオード19がマイクロ流路4に沿って直列に並べられて配置されている。
尚、前記光触媒層5に可視光応答性光触媒を用いた場合には、光触媒の励起光源として太陽光を利用することが可能であるため、光照射装置は不要である。
【0030】
図5は図4によって説明した光触媒層5が設けられたマイクロ流路4の他の例である。すなわち、天板3のマイクロ流路4の上面を成す部分に光触媒層5を形成し、マイクロ流路4全面に光触媒を設けることもできる。この場合には、該光触媒層5は、光照射装置8によって照射される光を透過する程度に薄く形成されることが望ましい。このように、前記光触媒がマイクロ流路4の全面に設けられている場合には、基板2下面側に更に光照射装置(図示せず)を設け、マイクロ流路4の上面および下面から光が照射されるように構成することが好ましい。また、該光触媒をマイクロ流路4の全面に形成する場合には、当該光触媒層5をスリット状に形成し、光照射装置8によって照射される光をマイクロ流路4内まで透過し易くすることもできる。
【0031】
次に、図6及び図7を用いて上記説明した液体原料の光分解装置1による水の光分解反応について説明する。
前記ガス供給部(11,14,16)および水供給部(12,15,17)は、前記水が前記マイクロ流路4の内面に沿う筒状液膜流21となって流れ、非原料ガスが中央部を中央ガス流22となって流れる状態のパイプフローを形成する。パイプフローが形成された状態において前記中央ガス流22の占める領域は、当該水の光触媒反応において、前記筒状液膜流21中で生成した水素ガスと酸素ガスが反応場である液膜(21)中から外に脱離することを可能にするガス脱離領域としても機能する。
【0032】
すなわち、光触媒層5をマイクロ流路4の内壁に担持したマイクロ反応器10を用い、パイプフローを形成した状態で、液体原料で作られた筒状液膜流21中で光分解反応を起こさせ、該光分解反応による生成物の内のガス生成物である水素ガスと酸素ガスを、パイプフローを形成するために液体原料と直接接触している中央ガス流22の占める領域(ガス脱離領域)に移れるようにして、反応場である液膜(21)中から外に脱離するようにしている。
【0033】
従って、従来のような反応場を仕切るための部材が不要であるので、単純な構造でガス生成物(水素ガス、酸素ガス)を反応場から外に脱離させることができ、以て水素と酸素から水を生成する逆反応を防止することができる。また、光触媒層5をマイクロ流路4の内壁に担持したマイクロ反応器10を用い、パイプフローを形成した状態で、液体原料で作られた筒状液膜流21中で光分解反応を起こさせるので、光分解効率を大幅に向上することができる。
【0034】
[水を光分解した具体例]
用いた液体の光分解装置1は、マイクロ流路4の深さが40μm、幅が100μm、長さが200mmであり、紫外発光ダイオード19の主波長は365nm、出力は60mW/cmである。液体原料は純水を用いた。また、光触媒として、助触媒として白金を担持させた二酸化チタン(TiO/Pt)を用いた。
【0035】
純水の流速を2μL/min(マクロリットル/分)に設定し、窒素ガスの流速を調整して、前記マイクロ流路4内において、図6に示すようなパイプフローを形成させ、前記紫外発光ダイオード19による光照射を行った。窒素ガスの流速(μL/min)を、0(パイプフローを形成しない流れ)、50、100、150、200に設定し、取り出し口13から取り出したそれぞれの反応物(ガス相)をガスクロマトグラフィーに供し、水素ガスの生成量を測定した。
【0036】
図7は、前記測定結果を示したものである。横軸は窒素ガスの流速(μL/min)、縦軸は単位時間当たりの水素の収量の相対値である。液体の流速(μL/min)を一定のままでパイプフローを形成すると、気体(窒素ガス)の流速が速くなると液膜の厚みは小さくなる。従って、パイプフローにおいては、気体の流速が速くなるにつれて液体のマイクロ流路内での滞留時間が次第に短くなる関係にある。そこで、縦軸は前記滞留時間の長短の差の影響が出ないようにするために、単位時間当たりの水素の収量の相対値にして表したものである。
【0037】
図7から、窒素ガスの流速が0の所、すなわちパイプフローが形成されていない場合は水素の発生は検出されないが、パイプフローを形成して当該光分解反応を進行させることにより、単位時間当たりの水素の収量が高くなり、効率よく反応が行われていることが理解できる。すなわち、パイプフローを形成した状態では当該光分解反応は、逆反応が防止されて、分解反応が効果的に起きていると言える。
【0038】
反応液のマイクロ流路内への滞留時間は、LEVYによるパイプフローの気液間運動量交換のモデルを用いて計算することができる。この計算によると、窒素ガスの流速が0である場合の液体原料のマイクロ流路内での滞留時間は26.3秒、窒素ガスの流速が50μL/minである場合は9.3秒、100μL/minでは5.3秒、150μL/minでは4.1秒、200μL/minでは3.6秒である。
【0039】
[非原料ガスでパイプフローを形成したアルキル化反応]
4-メトキシベンジルアミン(MBA)をモノアルキル化したN-メチル-4-メトキシベンジルアミン(N-Me-MBA 二級アミン 下記式(1))は医薬品等の合成中間体として有用なものであることが知られている。しかし、従来の製法では何段階ものステップが必要であった。
【0040】
【化1】

【0041】
非原料ガスの窒素ガスを用い、4−メトキシベンジルアミン(MBA)のメチルアルコール溶液を原料液体として、上記水の光分解の場合と同様のパイプフローを形成して、光触媒反応を行わせ、その反応物をガスクロマトグラフィーに供し、N-Me-MBAの生成量を測定した。
【0042】
図8はその測定結果を示す。スラグフローの領域(気体流速50μL/min)からパイプフロー領域(気体流速100μL/min以上)に入ると、N-Me-MBAの収率が一気に上昇し、一方で反応気質の濃度はほとんど0になった。すなわち、パイプフローを形成して光触媒反応を行わせることにより、一段階でN-Me-MBAを生成できることが確認できた。
【0043】
尚、微量ながら、別の生成物も得られた。これは下記式(2)の反応によるジアルキル化物と考えられる。
【0044】
【化2】

【0045】
窒素ガスの流速の増大に伴って生成物の収率が減少しているが、これはパイプフローにより流速の増大によって照射時間が短くなる、すなわち滞留時間が短くなるからであり、単位時間当たりの収率では増加している。照射時間4秒の場合、パイプフローを形成しない場合とパイプフローを形成した場合を比較すると、前者の基質減少量は52%、収率は0.18であるのに対し、後者のパイプフローを形成した場合は、基質減少量は100%、収率は0.56であった。すなわち、パイプフローを形成して光触媒反応を行わせることにより、N-Me-MBAを効率よく生成できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、水を光触媒によって光分解して水素ガスと酸素ガスを得る等の液体原料の光分解装置およびその方法に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施例1に係る液体原料の光分解装置を示す斜視図である。
【図2】図1のI−I断面図である。
【図3】図2のII−II断面のA部の拡大図であり、マイクロ流路中におけるパイプフロー状態を示す図である。
【図4】図2のIII−III断面図である。
【図5】光触媒層が設けられたマイクロ流路の他の例である。
【図6】実施例1に係る液体原料の光分解反応のメカニズムを説明する図である。
【図7】水素ガスの生成量の測定結果を示した図である。
【図8】N-Me-MBAの生成量を測定した結果を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
1 液体原料の光分解装置、 2 基板、 3 天板、
4 マイクロ流路、 5 光触媒層、 6 溝、
8 光照射装置、 10 マイクロ反応器、
11 第1の供給口(非原料ガスの供給口)、
12 第2の供給口(液体原料の供給口)、
13 取り出し口、 14、15 マイクロチューブ、
16 ガス用シリンジポンプ(非原料ガス送り込み手段)、
17 液体原料用シリンジポンプ(液体原料送り込み手段)、
18 チューブコネクタ、 19 紫外発光ダイオード、
21 筒状液膜流、22 中央ガス流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ流路を有するマイクロ反応器と、
前記マイクロ流路の内面に設けられ、液体原料を光分解してガス生成物を少なくとも1種類は生成し得る光触媒層と、
前記マイクロ流路に非原料ガスを供給するガス供給部と、
前記マイクロ流路に液体原料を供給する液体原料供給部と、を備え、
前記ガス供給部および液体原料供給部は、前記液体原料が前記マイクロ流路の内面に沿う筒状液膜流となって流れ、非原料ガスが中央部を中央ガス流となって流れる状態のパイプフローを形成可能に構成され、
前記パイプフローが形成された状態において前記中央ガス流の占める領域は、当該液体原料の光触媒反応において、前記筒状液膜流中で生成したガス生成物が反応場である液膜中から外に脱離することを可能にするガス脱離領域としても機能するように構成されていることを特徴とする液体原料の光分解装置。
【請求項2】
マイクロ流路を有するマイクロ反応器と、
前記マイクロ流路の内面に設けられ、水を光分解して水素ガスと酸素ガスを生成し得る光触媒層と、
前記マイクロ流路に非原料ガスを供給するガス供給部と、
前記マイクロ流路に液体の水を供給する水供給部と、を備え、
前記ガス供給部および水供給部は、前記水が前記マイクロ流路の内面に沿う筒状液膜流となって流れ、非原料ガスが中央部を中央ガス流となって流れる状態のパイプフローを形成可能に構成され、
前記パイプフローが形成された状態において前記中央ガス流の占める領域は、当該水の光触媒反応において、前記筒状液膜流中で生成した水素ガスと酸素ガスが反応場である液膜中から外に脱離することを可能にするガス脱離領域としても機能するように構成されていることを特徴とする液体原料の光分解装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された液体の光分解装置において、前記光触媒は二酸化チタンであることを特徴とする液体原料の光分解装置。
【請求項4】
請求項3に記載された液体の光分解装置において、前記二酸化チタンに、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金、銅、銀、および金のいずれか1種の金属を助触媒として担持させたことを特徴とする液体原料の光分解装置。
【請求項5】
マイクロ流路の内面に光触媒の層を有するマイクロ反応器の当該マイクロ流路に、前記光触媒による光分解反応によってガス生成物を少なくとも1種類は生成し得る液体原料と、非原料ガスとを供給し、
前記マイクロ流路内で前記液体原料が該マイクロ流路の内面に沿う筒状液膜流となって流れ、前記非原料ガスが中央部を中央ガス流となって流れる状態のパイプフローを形成し、
前記筒状液膜流中で生成したガス生成物を、反応場である液膜中から前記中央ガス流中に脱離しながら当該液体原料の光分解反応を進行させることを特徴とする液体原料の光分解方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−233606(P2009−233606A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−84601(P2008−84601)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】