説明

液体収容体及びその液体充填方法

【課題】 液体収容室へ液体を充填するために専用の液体注入孔を容器本体に設ける必要がなく、液体検出手段が誤検出をする虞がない液体収容体及びその液体充填方法を提供する。
【解決手段】 本発明のインクカートリッジ1は、インク収容室11と、インク供給孔13と、インク収容室11からインク供給孔13にインクを誘導するインク誘導路15と、インク収容室11内に外部の空気を導入する大気開放孔17と、インク誘導路15の途中に設けられた圧力調整手段19と、圧力調整手段19よりも上流側のインク誘導路15に設けられたインク検出手段21とを備え、圧力調整手段19の前後のインク誘導路15b,15cを連通させた第1のバイパス路23と、第1のバイパス路23をインク誘導路15から閉塞する第1のバイパス閉塞部25とを備えることにより、インク供給孔13からインク収容室11へのインク注入を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばインクジェットプリンタに装着されるインクカートリッジとして好適な大気開放タイプの液体収容体と、該液体収容体に液体を充填する液体充填方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体収容体として、例えばインクジェット式プリンタに使用されるインクカートリッジが挙げられる。インクジェット式プリンタ用のインクカートリッジは、印刷ヘッドに供給するインクを収容しているインク収容室が容器本体に設けられ、使用の際には所定位置のカートリッジ装着部に着脱可能に嵌合装着される。そして、インク収容室内に収容されたインクは、ホストコンピュータから送られた印刷データに応じて駆動する印刷ヘッドに供給され、印刷ヘッドに設けられたノズルによって用紙等の被印刷物上の目標位置に噴射される。
【0003】
これまで、インクジェット式プリンタに装着される大気開放タイプのインクカートリッジとして、プリンタ側のインク受け部に装着される容器本体内に、インクを収容するインク収容室と、インク収容室に連通して設けられカートリッジ装着部のインク受け部に接続されるインク供給孔と、インク収容室に貯留したインクをインク供給孔に誘導するインク誘導路と、インク誘導路の途中に設けられてインク供給孔を介してインク受け部に供給するインクの圧力を調整する圧力調整手段と、インク収容室を外部に連通させてインク収容室内のインクの消費に伴って外部の空気をインク収容室内に導入する大気開放流路と、を備えた構成のものが、各種提案されている。
【0004】
これまで、上記のようなインクカートリッジでは、予め、容器本体にはインク収容室に連通する専用のインク注入孔を形成しておき、このインク注入孔を使ってインク収容室へのインクの充填を行う液体充填方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2004−216866号公報
【特許文献2】特開2005−22257号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、インクの充填のために専用のインク注入孔を設けたのは、次のような理由からである。
上記のインクカートリッジの場合、インク収容室を外部に連通させる孔は、大気開放孔とインク供給孔との2つがあるが、これらの2つの孔のいずれも、インクの注入には不適当である。つまり、大気開放孔は、通常、流路径が極めて微細で、しかも、使用時の振動等でインクが簡単に外部に漏洩しないように、屈曲が多数繰り返される複雑な構造であるため、インクを速やかに流すことができない。また、付着したインクが後で乾燥すると、目詰まりによって本来の機能が損なわれてしまう虞もある。一方、インク供給孔は、大気開放孔よりも流路径を大きく設定することができるが、インク供給孔をインク収容室に連通させているインク誘導路には圧力調整手段が設けられていて、圧力調整手段がインク供給孔側からインク収容室への逆流を阻止する逆止弁としての機能を持つため、インクの充填には使いにくい。
【0007】
ところが、上記のように専用のインク注入孔を設けた構造では、インクの充填工程を終えたら、開口しているインク注入孔をシールフィルムの貼付等によって封止する工程が必要で、このインク注入孔の封止工程のためにインクカートリッジの製造工程が増えて、コストアップや生産性低下の原因となってしまう。
また、インク注入孔を設けると、インク注入孔を封止しているシールフィルムをユーザが誤って剥がしてしまって、インクの漏洩等の不都合を招く虞がある。
【0008】
また、インクカートリッジには、圧力調整手段よりも上流側に位置するインク誘導路の途中にインク検出手段を設けることも考えられる。この場合のインク検出手段は、例えば、圧電振動体を振動させ、その振動特性が変化することで、インク誘導路中のインクが空気に置き換わったことを検出するものである。インク誘導路内への空気の侵入は、インクカートリッジのインク収容室内のインクが消費し尽くされて、大気開放孔からインク収容室内に導入された空気がインク誘導路に浸入したと見なされ、該インク検出手段の検出信号がインクの残量表示やカートリッジ交換時期の通知に利用可能である。
【0009】
ところが、インク検出手段を設けた場合、専用のインク注入孔からインク収容室に充填されたインクが、インク誘導路の途中に設けられているインク検出手段まで到達していないと、使用開始時に、インク収容室からインク検出手段までの間のインク誘導路に残留する空気のために、インク検出手段が誤検出をしてしまう虞がある。
【0010】
そこで、本発明の目的は、液体収容室へ液体を充填するために専用の液体注入孔を容器本体に設ける必要がなく、コスト低減や生産性の向上、及び封止フィルムの誤剥離による液体の漏洩の防止を図ることができるとともに、液体誘導路に残留する空気のために液体検出手段が誤検出をする虞がない液体収容体及びその液体充填方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決することのできる本発明に係る液体収容体は、機器側の収容体装着部に装着される容器本体内に、液体を収容する液体収容室と、前記機器側の液体受け部に接続される液体供給孔と、前記液体収容室に貯留した液体を前記液体供給孔に誘導する液体誘導路と、前記液体誘導路の途中に設けられて前記液体供給孔を介して前記液体受け部に供給する液体圧力を調整するとともに前記液体供給孔側から前記液体収容室への液体の逆流を阻止する逆止弁としての機能を有する圧力調整手段と、前記液体収容室内の液体の消費に伴って外部の空気を前記液体収容室内に導入する大気開放孔と、を備える液体収容体であって、前記圧力調整手段の前後の前記液体誘導路を連通させる第1のバイパス路と、当該第1のバイパス路を閉塞可能とする第1のバイパス閉塞部とを備えていることを特徴としている。
【0012】
このような構成の液体収容体によれば、圧力調整手段の前後の液体誘導路が第1のバイパス路により連通している状態では、圧力調整手段が逆止弁としての機能を持つ場合でも、第1のバイパス路を経由させることで、液体供給孔から液体収容室へスムースに液体を注入することができる。すなわち、液体供給孔から液体を注入することで液体収容室へ液体を充填する液体充填方法を採用することができる。
したがって、液体収容室へ液体を充填するために専用の液体注入孔を容器本体に設ける必要がない。また、専用の液体注入孔が不要になるため、液体の充填後に専用の液体注入孔の封止処理が不要で、製造工程の削減により、コスト低減や生産性の向上を図ることができる。また、専用の液体注入孔が不要になるため、ユーザが誤って専用の液体注入孔の封止フィルムを剥がして液体の漏洩を招くこともない。
【0013】
なお、上記構成に係る液体収容体において、前記液体収容室と前記大気開放孔を連結する流路の途中に貯留した液体をトラップする空気室を備えることが好ましい。
このような構成の液体収容体によれば、温度変化等により液体収容室内の空気が膨張した際、大気開放孔に逆流してきた液体を空気室でトラップすることができる。
【0014】
また、上記構成に係る液体収容体において、前記第1のバイパス路が、略直方体形状の樹脂製筐体の片面に形成した流路用凹部と、前記樹脂製筐体の片面に溶着されて前記流路用凹部の開口面を塞ぐシールフィルムとで形成されることが好ましい。
このような構成の液体収容体によれば、簡単に第1のバイパス路を形成することができる。
【0015】
また、上記課題を解決することのできる上記構成に係る液体収容体の液体充填方法は、上記の本発明に係る液体収容体の前記液体収容室に、所定量の液体を充填する液体充填方法であって、前記大気開放孔からの吸引により前記液体収容室内を所定の圧力に減圧する真空吸引工程と、前記液体供給孔から所定量の液体を前記液体収容室に充填する液体充填工程と、前記第1のバイパス路を閉塞するバイパス閉塞工程と、を含むことを特徴としている。
【0016】
このような構成の液体収容体の液体充填方法によれば、液体供給孔を介して液体収容室へ所定量の液体を充填することが、容易にかつ確実にできる。したがって、専用の液体注入孔の形成が不要になると同時に、専用の液体注入孔の封止処理が不要になり、製造工程の削減によりコスト低減や生産性の向上を図ることができる。
また、液体供給孔を吸引手段の接続箇所とする場合と比較して、吸引手段側に液体が流入して汚損することを防止でき、吸引手段の保守管理を容易にすることができる。
【0017】
更に、上記課題を解決することのできる上記構成に係る液体収容体において、前記圧力調整手段よりも上流側に位置する前記液体誘導路の途中に設けられて前記液体収容室内の液体の有無を検出する液体検出手段を備えることが望ましい。
このような構成の液体収容体によれば、液体供給孔から液体を注入することで、第1のバイパス路を通過した液体は、液体検出手段を経由して液体収容室に流入するため、液体検出手段の前後の液体誘導路に空気が残留することがなく、液体収容体の使用開始時等に、液体誘導路に残留する空気のために液体検出手段が誤検出をする虞もない。
【0018】
また、上記構成に係る液体収容体において、前記液体誘導路の内、少なくとも前記圧力調整手段の前後の前記液体誘導路が、略直方体形状の樹脂製筐体の片面に形成した流路用凹部と、前記樹脂製筐体の片面に溶着されて前記流路用凹部の開口面を塞ぐシールフィルムとで形成され、前記第1のバイパス路は、前記樹脂製筐体に対する前記シールフィルムの溶着領域の一部が前記第1のバイパス閉塞部として機能する未溶着部として残されることにより、樹脂製筐体とシールフィルムとの間に画成され、前記未溶着部を溶着処理することで、前記第1のバイパス路が閉塞されることが好ましい。
【0019】
このような構成の液体収容体によれば、樹脂製筐体には、特に第1のバイパス路を形成するための流路用凹部を形成することもなく、また、第1のバイパス閉塞部として開閉バルブのような特別な機構を形成する必要もないため、樹脂製筐体の構造を単純化することができ、樹脂製筐体の成形性の向上、低コスト化を図ることができる。また、第1のバイパス閉塞部を閉塞するのは、溶着処理によって容易に行うことができる。
【0020】
また、上記構成に係る液体収容体において、前記液体検出手段は、前記液体誘導路に連通した空間であるキャビティと、このキャビティの一内壁面を形成する振動板と、当該振動板を振動させるアクチュエータと、を備え、前記キャビティ内における液体の有無に対応して前記振動板の振動波形が変化することで、前記キャビティ内の液体の有無を検出するものであることが好ましい。
【0021】
このような構成の液体収容体によれば、液体検出手段に空気が侵入した場合に、振動特性の変化によって速やかに気体の侵入を検出でき、液体収容室内の液体が無くなったことを的確に検知することができる。このような液体検出手段はキャビティ内に誤って気泡が混入してしまうと液体がなくなったと誤検出してしまうため、液体検出手段を設けた液体誘導路内に確実に液体を充填できる構成の本発明に係る液体収容体に適用したことで、検出精度を向上させることができている。
【0022】
また、上記構成に係る液体収容体において、前記液体収容室を外部に連通させて前記液体収容室内を減圧可能な減圧孔が設けられていることが好ましい。
液体を液体収容室に充填するために、事前に液体収容室を吸引手段に接続して液体収容室を所定の負圧環境に設定するが、このような構成の液体収容体によれば、その時の吸引手段の接続箇所として減圧孔を使うことで、液体供給孔を吸引手段の接続箇所とした場合と比較し、吸引手段側に液体が流入して汚損することを防止でき、吸引手段の保守管理を容易にすることができる。
また、大気開放孔を吸引手段の接続箇所とする場合と比較して、減圧孔は任意に孔径等を設定できるため、液体収容室内の吸引をより効率よく実施することができる。
【0023】
また、上記課題を解決することのできる上記構成に係る液体収容体の液体充填方法は、上記構成の液体検出手段を備えた液体収容体の前記液体収容室に、所定量の液体を充填する液体充填方法であって、前記大気開放孔からの吸引により前記液体収容室内を所定の圧力に減圧する真空吸引工程と、前記液体供給孔から所定量の液体を前記液体収容室に充填する液体充填工程と、前記第1のバイパス路を閉塞するバイパス閉塞工程と、を含むことを特徴としている。
【0024】
このような構成の液体収容体の液体充填方法によれば、液体供給孔から第1のバイパス路を通過した液体は、液体検出手段を経由して液体収容室に流入するため、液体検出手段の前後の液体誘導路に空気が残留することがなく、使用開始時に、液体誘導路に残留する空気のために液体検出手段が誤検出をする虞もない。
【0025】
また、上記課題を解決することのできる上記構成に係る液体収容体の液体充填方法は、上記構成の減圧孔を備えた液体収容体の前記液体収容室に、所定量の液体を充填する液体充填方法であって、前記大気開放孔を封止する工程と、前記減圧孔からの吸引により前記液体収容室内を所定の圧力に減圧する真空吸引工程と、前記液体供給孔から所定量の液体を前記液体収容室に充填する液体充填工程と、前記第1のバイパス路を閉塞するバイパス閉塞工程と、を含むことを特徴としている。
【0026】
このような構成の液体収容体の液体充填方法によれば、液体供給孔を吸引手段の接続箇所とする場合と比較して、吸引手段側に液体が流入して汚損することを防止でき、吸引手段の保守管理を容易にすることができる。
また、大気開放孔を吸引手段の接続箇所とする場合と比較して、減圧孔は任意に孔径等を設定できるため、液体収容室内の吸引をより効率よく実施することができる。
【0027】
更に、上記課題を解決することのできる上記構成に係る液体収容体において、前記液体検出手段の前後を直結する第2のバイパス路と、当該第2のバイパス路を閉塞可能とする第2のバイパス閉塞部とを備えていることが好ましい。
【0028】
このような構成の液体収容体によれば、液体の一部は液体検出手段の内部を通過せずに液体収容室に注入することができるため、液体注入時に液体検出手段に大きな圧力がかかるのを防止できる。そこで、液体の注入圧力を高めることで、液体注入のサイクルタイムを短縮でき、コストダウンが可能となる。
更に、第2のバイパス路を液体収容室の液体を充填し難い箇所に開口させることで、この液体収容室の液体を充填し難い箇所にも液体充填が容易にできる。
【0029】
なお、上記構成に係る液体収容体において、前記第1のバイパス路と前記第2のバイパス路が、略直方体形状の樹脂製筐体の片面に形成した流路用凹部と、前記樹脂製筐体の片面に溶着されて前記流路用凹部の開口面を塞ぐ同一のシールフィルムとで形成されていることが好ましい。
このような構成の液体収容体によれば、容易に第2のバイパス路を形成することができる。
【0030】
また、上記構成に係る液体収容体において、前記第1のバイパス路と前記第2のバイパス路が、互いに同一の流路からそれぞれの上流の流路に連通していることが好ましい。
このような構成の液体収容体によれば、単一の工程で第1のバイパス閉塞部と第2のバイパス閉塞部を閉塞することができ、第1のバイパス路と第2のバイパス路を容易に封止することができる。
【0031】
また、上記構成に係る第2のバイパス路を備えた液体収容体において、前記液体収容室と前記大気開放孔を連結する流路の途中に貯留した液体をトラップする空気室を備え、当該空気室には減圧孔が設けられていることが好ましい。
このような構成の液体収容体によれば、液体収容室に減圧孔を設ける場合よりも、製造装置の真空ポンプ等に液体が回ってしまう可能性が低減する。また、減圧孔は任意に孔径等を設定できるため、大気開放孔から吸引するよりも効率よく液体収容室内を減圧できる。
【0032】
また、上記課題を解決することのできる上記構成に係る液体収容体の液体充填方法は、上記構成の減圧孔を備えた液体収容体の前記液体収容室に、所定量の液体を充填する液体充填方法であって、前記大気開放孔を封止する工程と、前記減圧孔からの吸引により前記液体収容室内を所定の圧力に減圧する真空吸引工程と、前記液体供給孔から所定量の液体を前記液体収容室に充填する液体充填工程と、前記第1のバイパス路および第2のバイパス路を閉塞するバイパス閉塞工程と、を含むことを特徴としている。
【0033】
このような構成の液体収容体の液体充填方法によれば、液体供給孔を吸引手段の接続箇所とする場合と比較して、吸引手段側に液体が流入して汚損することを防止でき、吸引手段の保守管理を容易にすることができる。
また、大気開放孔を吸引手段の接続箇所とする場合と比較して、減圧孔は任意に孔径等を設定できるため、液体収容室内の吸引をより効率よく実施することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明に係る液体収容体及び液体充填方法では、圧力調整手段の前後の液体誘導路を第1のバイパス路により連通させている状態で、液体供給孔から液体収容室へ液体を注入することで、液体収容室への液体の充填をスムースに行うことができ、液体充填のために専用の液体注入孔を容器本体に設ける必要がなく、また、液体の充填後に専用の液体注入孔の封止処理も不要になるため、製造工程の削減により、コスト低減や生産性の向上を図ることができる。また、専用の液体注入孔が不要になるため、ユーザが誤って専用の注入孔の封止フィルムを剥がして液体の漏洩を招くこともない。
また、液体検出手段を備えた場合でも、液体供給孔から液体を注入することで、第1のバイパス路を通過した液体は、液体検出手段を経由して液体収容室に流入するため、液体検出手段の前後の液体誘導路に空気が残留することがなく、液体収容体の使用開始時等に、液体誘導路に残留する空気のために液体検出手段が誤検出をする虞もない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明に係る液体収容体及び液体充填方法の実施の形態の例について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は本発明に係る液体収容体の第1の実施の形態であるインクカートリッジの分解斜視図であり、図2は図1に示したインクカートリッジにおいて、第1のバイパス路を形成する時のシールフィルムの溶着領域の説明図であり、図3は図1に示したインクカートリッジにインクを充填するインク充填方法を説明するためのブロック図であり、図4は図1に示したインクカートリッジにインクを充填するインク充填方法のフローチャートであり、図5は図1に示したインクカートリッジにおいて、第1のバイパス路を閉塞する時のシールフィルムの溶着部位の説明図である。
なお、これらの図に示した各部の配置構成は、適宜変更可能である。
【0036】
本実施の形態の液体収容体は、一例として、インクジェット式プリンタにおいて、液体噴射部である印刷ヘッドが搭載されたキャリッジ上のカートリッジ装着部に装着されるインクカートリッジである。
本発明の第1の実施の形態として示したインクカートリッジ1は、印刷ヘッドへのインク供給を担うもので、機器(インクジェット式プリンタ)の収容体装着部(カートリッジ装着部)に装着される容器本体3が、外形が略直方体形状の樹脂製筐体4と、樹脂製筐体4の片面に溶着されるシールフィルム5とで形成されている。樹脂製筐体4は、例えばポリプロピレン(PP)等の合成樹脂により一体成形したものであり、シールフィルム5は、樹脂製筐体4に熱溶着可能な材料から構成された樹脂製フィルムである。なお、インクカートリッジ1の使用時には、シールフィルム5の外側は保護のためにカバーで覆われる。
【0037】
この容器本体3には、図1及び図3に示すように、インクを収容するインク収容室11と、プリンタ側のカートリッジ装着部に設けられたインク受け部(液体受け部)に嵌合接続されるインク供給孔(液体供給孔)13と、インク収容室11に貯留したインクをインク供給孔13に誘導するインク誘導路(液体誘導路)15と、インク収容室11内のインクの消費に伴って外部の空気をインク収容室11内に導入する大気開放孔17と、が設けられている。すなわち、インクカートリッジ1は大気開放タイプとなっている。
【0038】
また、容器本体3は、インク誘導路15の途中に設けられてインク供給孔13を介してプリンタ側のインク受け部に供給するインクの圧力を調整する圧力調整手段19と、圧力調整手段19よりも上流側に位置するインク誘導路15の途中に設けられてインク収容室11内のインクの有無を検出するインク検出手段(液体検出手段)21とを備えている。
【0039】
インク誘導路15は、インク収容室11とインク検出手段21との間を連通させた第1のインク誘導路15aと、インク検出手段21と圧力調整手段19との間を連通させた第2のインク誘導路15bと、圧力調整手段19とインク供給孔13との間を連通させた第3のインク誘導路15cとで構成されている。
【0040】
本実施の形態の場合、少なくとも圧力調整手段19の前後に位置する第2のインク誘導路15b及び第3のインク誘導路15cは、樹脂製筐体4の片面に形成した流路用凹部16b,16cと、樹脂製筐体4の片面に溶着されて流路用凹部16b,16cの開口面を塞ぐシールフィルム5とで、矩形断面の誘導路に形成されている。
また、本実施の形態の場合、インク収容室11の樹脂製筐体4の片面に形成された凹部12の開放面をシールフィルム5で塞ぐことで、密閉構造のインク収容室として区画形成される。
【0041】
本実施の形態の場合、圧力調整手段19の前後の液体誘導路である第2のインク誘導路15bと第3のインク誘導路15cとを連通させる第1のバイパス路23と、この第1のバイパス路23をインク誘導路15から閉塞する第1のバイパス閉塞部25とが備えられている。
但し、第1のバイパス路23は、図2に示すように、樹脂製筐体4に対するシールフィルム5の全溶着領域(図1及び図5にハッチングを施した領域A)の一部領域A1,A2を未溶着部として残すことにより、樹脂製筐体4とシールフィルム5との間に画成される。そして、図5に示すように未溶着部A1,A2を溶着処理すると、第1のバイパス路23がインク誘導路15b,15cから遮断されて閉塞される。
すなわち、未溶着部A1,A2が、第1のバイパス閉塞部25として機能する。
【0042】
なお、第1のバイパス路23は、樹脂製筐体4に専用の凹部を形成することなく、全体をシールフィルム5の未溶着部として形成することもできる。その場合、第1のバイパス路23の全体を第1のバイパス閉塞部25としても良い。
【0043】
また、本実施の形態の場合、インク検出手段21は、図2に示すように、インク誘導路15に連通した空間であるキャビティ21aと、このキャビティ21aの一内壁面を形成する振動板21bと、この振動板21bを振動させるアクチュエータ(圧電素子)21cとを備えた構成である。このインク検出手段21は、キャビティ21a内におけるインクの有無によって振動板21bの振動特性(振動の波形)が変化することで、キャビティ21aに連通したインク誘導路15内のインクの有無を検出する。
【0044】
このようなインクカートリッジ1のインク収容室11へのインクの充填は、図3に示すように、インク供給孔13にインク注入装置31を接続することによって行う。
【0045】
インク注入装置31は、インク供給手段33のインク供給管41と、真空吸引手段34の真空吸引管46とが分離されていて、インク供給管41をインク供給孔13に接続するとともに、真空吸引管46を大気開放孔17に接続して使用される。
インク供給手段33は、インク供給孔13に連通するインク供給管41を開閉する開閉バルブ42と、インクタンク43に貯留したインクをインク供給管41に圧送するポンプ44とを備えた構成で、開閉バルブ42による開閉動作によってインクの供給を遮断することができる。
【0046】
真空吸引手段34は、大気開放孔17に連通する真空吸引管46を開閉する開閉バルブ47と、真空吸引管46を介して真空引きする真空ポンプ48と、開閉バルブ47と真空ポンプ48との間に設けられて真空吸引管46に流入するインクを捕集するインクトラップ49とを備えた構成で、開閉バルブ47による開閉動作によって真空吸引を遮断することができる。
【0047】
次に、上記のインク注入装置31を、インクカートリッジ1のインク供給孔13に接続して、インク収容室11にインクを充填する液体充填方法について、図4に基づいて説明する。
本実施の形態の液体充填方法では、図4に示すように、ステップS102〜ステップS104を順に実施することにより、インク収容室11へのインク充填を行う。
【0048】
先ず、最初の工程であるステップS102は、インク供給孔13に接続されたインク供給手段33の開閉バルブ42は閉じておき、大気開放孔17に接続した真空吸引手段34の開閉バルブ47を開いて、大気開放孔17からの真空吸引によりインク収容室11内を所定の圧力に減圧する真空吸引工程である。
【0049】
次の工程であるステップS103は、インク収容室11内が所定の圧力になったら、真空吸引手段34の開閉バルブ47を閉じ、インク供給手段33の開閉バルブ42を開いて、インク供給孔13にインクの供給を開始し、所定量のインクをインク収容室11に充填するインク充填工程(液体充填工程)である。この工程により、インク供給孔13から注入されたインクは、インク誘導路15c、第1のバイパス路23、インク誘導路15bを通ってインク検出手段21へ流れ込みキャビティ21aに充満する。そして、インク検出手段21の上流側のインク誘導路15aを通って、インク収容室11に流れ込み、インク収容室11にインクが充填される。
【0050】
次の工程であるステップS104は、第1のバイパス路23をインク誘導路15から閉塞するバイパス閉塞工程である。
第1のバイパス路23をインク誘導路15b,15cから遮断して閉塞することで、インク収容室11からインク供給孔13側に流れるインクは、確実に圧力調整手段19を経由し、インク供給孔13側への供給圧が一定に保たれる。
【0051】
そして、第1のバイパス路23をインク誘導路15b,15cから閉塞するバイパス閉塞工程を実施するとともに、真空吸引手段34を切り離した大気開放孔17を封止フィルム29により封止する。
【0052】
以上説明したインクカートリッジ1によれば、圧力調整手段19の前後のインク誘導路15b,15cが第1のバイパス路23により連通している状態では、圧力調整手段19が逆止弁としての機能を持つ場合でも、第1のバイパス路23を経由させることで、インク供給孔13からインク収容室11へインクを注入することができる。
すなわち、インク供給孔13からインクを注入することでインク収容室11へインクを充填する液体充填方法を採用することができる。
【0053】
したがって、インク収容室11へインクを充填するために専用のインク注入孔を容器本体3に設ける必要がない。また、専用のインク注入孔が不要になるため、インクの充填後に専用のインク注入孔の封止処理が不要となり、製造工程の削減につながり、コスト低減や生産性の向上を図ることができる。
【0054】
また、専用のインク注入孔が不要になるため、ユーザが誤って専用のインク注入孔の封止フィルムを剥がしてインクの漏洩を招くこともない。
さらに、インク供給孔13からインクを注入することでインク収容室11へインクを充填する液体充填方法を採用した場合、第1のバイパス路23を通過したインクは、その上流に配置されているインク検出手段21を経由してインク収容室11に流入するため、インク検出手段21の前後のインク誘導路15a,15bに空気が残留することがなく、カートリッジの使用開始時に、インク誘導路15a,15bに残留する空気のためにインク検出手段21が誤検出をする虞もない。
【0055】
また、上記実施の形態のインクカートリッジ1では、インク誘導路15の内、少なくとも圧力調整手段19の前後のインク誘導路15b,15cが、樹脂製筐体4の片面に形成した流路用凹部16b,16cと、樹脂製筐体4の片面に溶着されてこれらの流路用凹部16b,16cの開口面を塞ぐシールフィルム5とで形成されており、第1のバイパス路23は、樹脂製筐体4に対するシールフィルム5の溶着領域の一部を未溶着部A1,A2として残すことにより、樹脂製筐体4とシールフィルム5との間に画成される。さらに、未溶着部A1,A2を溶着処理することで、第1のバイパス路23が容易に閉塞される。
【0056】
このような構成では、樹脂製筐体4には、特に第1のバイパス路23を形成するための流路用凹部を形成せずに、シールフィルム5の未溶着部分を設けるのみで第1のバイパス路23を設けることができる。また、第1のバイパス閉塞部25として開閉バルブのような特別な機構を形成する必要がなくなるため、樹脂製筐体4の構造を単純化することができ、樹脂製筐体4の成形性の向上、低コスト化を図ることができる。
【0057】
また、上記実施の形態のインクカートリッジ1では、インク検出手段21は、インク検出手段21のキャビティ21aに存在するインクが空気に置き換わるとインク収容室11内のインクがなくなったことを検出するが、インクをインク収容室11に充填する際に、インクはインク供給孔13から第1のバイパス路23を介し、インク検出手段21を通ってインク収容室11に注入されるため、インク検出手段21とその周辺の流路には確実にインクが充満し、インク検出手段21の誤検出を発生させる気泡を発生させることが無い。そのため、インク検出手段21の検出精度が向上している。
【0058】
図6は、本発明に係る液体収容体の第2の実施の形態であるインクカートリッジ51とそのインク充填方法を説明するブロック図である。
ここに示したインクカートリッジ51は、図3に示した第1の実施の形態のインクカートリッジ1の構成に加えて、減圧孔53を追加したものである。
減圧孔53は、容器本体3内のインク収容室11を外部に連通させたもので、真空吸引手段34を接続することで、インク収容室11内の減圧に使用される。
【0059】
このインクカートリッジ51へのインクの充填は、次の工程を順に行う。
インクカートリッジ51に設けられている大気開放孔17は、予め封止手段35により密閉して一時的に封止しておく。
そして、まず、インク供給孔13に接続されたインク供給手段33の開閉バルブ42は閉じておき、減圧孔53に接続した真空吸引手段34の開閉バルブ47を開いて、減圧孔53からの真空吸引によりインク収容室11内を所定の圧力に減圧する真空吸引工程を実施する。
【0060】
次いで、インク収容室11内が所定の圧力になったら、真空吸引手段34の開閉バルブ47を閉じ、インク供給手段33の開閉バルブ42を開いて、インク供給孔13にインクの供給を開始し、所定量のインクをインク収容室11に充填するインク充填工程(液体充填工程)を実施する。
そして、第1のバイパス路23をインク誘導路15から閉塞するバイパス閉塞工程を実施するとともに、真空吸引手段34を切り離した減圧孔53は封止フィルムにより封止する。また、封止手段35により一時的に封止していた大気開放孔17を封止フィルム29により封止する。
【0061】
このような液体充填方法では、大気開放孔17を真空吸引手段34の接続箇所とする図3の場合と比較して、減圧孔53が大気開放孔17よりも単純な構造にでき、かつ、大気開放孔17よりも太い任意の孔径等を設定できるため、インク収容室11内の真空吸引をより効率よく実施することができる。
【0062】
図7は、本発明に係る液体収容体の第3の実施の形態であるインクカートリッジにおいて、第1及び第2のバイパス路を形成する時のシールフィルムの溶着領域の説明図であり、図8は図7に示したインクカートリッジにインクを充填するインク充填方法を説明するためのブロック図である。
【0063】
ここに示したインクカートリッジ61は、図3に示した第1の実施の形態のインクカートリッジ1の構成に加えて、インク検出手段21の前後を連結する第2のバイパス路24と、この第2のバイパス路24を閉塞可能とする第2のバイパス閉塞部26と、空気室27と、減圧孔28を追加したものである。
本実施形態に係る第2のバイパス路24は、インク検出手段21の前後である第3のインク誘導路15cとインク収容室11の第1インク室11aを連結しており、第2のバイパス閉塞部26は、この第2のバイパス路24を第3のインク誘導路15c及び第1インク室11aから閉塞する。
【0064】
ここで、第2のバイパス路24は、上述した第1のバイパス路23と同様に、樹脂製筐体4に対するシールフィルム5の全溶着領域の一部領域B1,B2を未溶着部として残すことにより、樹脂製筐体4とシールフィルム5との間に画成される。そして、未溶着部B1,B2を溶着処理すると、第2のバイパス路24が第3のインク誘導路15c及び第1インク室11aから遮断されて閉塞される。すなわち、未溶着部B1,B2が、第2のバイパス閉塞部26として機能する。
なお、第2のバイパス路24は、樹脂製筐体4に専用の凹部を形成することなく、全体をシールフィルム5の未溶着部として形成することもできる。その場合、第2のバイパス路24の全体を第2のバイパス閉塞部26としても良い。
【0065】
空気室27は、インク収容室11と大気開放孔17を連結する流路の途中に貯留したインクをトラップするものであり、温度変化等によりインク収容室11内の空気が膨張した際、大気開放孔17に逆流してきたインクを空気室27でトラップすることができる。
本実施形態に係る減圧孔28は、空気室27を介して容器本体3内のインク収容室11を外部に連通させたもので、真空吸引手段34を接続することで、インク収容室11内の減圧に使用される。
【0066】
このようなインクカートリッジ61のインク収容室11へのインクの充填は、図8に示すように、インク供給孔13にインク注入装置31を接続し、次の工程を順次に実施することによって行う。
インクカートリッジ61に設けられている大気開放孔17は、予め封止手段35により密閉して一時的に封止しておく。
そして、まず、インク供給孔13に接続されたインク供給手段33の開閉バルブ42は閉じておき、減圧孔28に接続した真空吸引手段34の開閉バルブ47を開いて、減圧孔28からの真空吸引によりインク収容室11内を所定の圧力に減圧する真空吸引工程を実施する。
【0067】
次いで、インク収容室11内が所定の圧力になったら、真空吸引手段34の開閉バルブ47を閉じ、インク供給手段33の開閉バルブ42を開いて、インク供給孔13にインクの供給を開始し、所定量のインクをインク収容室11に充填するインク充填工程(液体充填工程)を実施する。
【0068】
そして、第1のバイパス路23及び第2のバイパス路24をインク誘導路15及びインク収容室11から閉塞するバイパス閉塞工程を実施するとともに、真空吸引手段34を切り離した減圧孔28は封止フィルムにより封止する。また、封止手段35により一時的に封止していた大気開放孔17を封止フィルム29により封止する。
【0069】
このような液体充填方法では、インク収容室11に減圧孔53を設ける図6の場合と比較して、真空吸引手段34側にインクが流入して汚損することを防止でき、真空吸引手段34の保守管理を容易にすることができる。
以上説明したインクカートリッジ61によれば、インクの一部はインク検出手段21の内部を通過せずにインク収容室11に注入することができるため、インク注入時にインク検出手段21に大きな圧力がかかるのを防止できる。そこで、インクの注入圧力を高めることで、インク注入のサイクルタイムを短縮でき、コストダウンが可能となる。
【0070】
更に、沈降し易い顔料インクがインク収容室11に注入される場合、図7に示したようにインク収容室11を複数のインク収容室(例えば、第1インク室11a及び第2インク室11b)に分割する等して複雑な構造とすることで、沈降を防止する必要がある。そこで、本実施形態に係るインクカートリッジ61のように、第2のバイパス路24をインク収容室11のインクを充填し難い箇所である第1インク室11aに開口させることで、インクを充填し難いこの第1インク室11aにもインク充填が容易にできる。
【0071】
なお、本実施形態に係るンクカートリッジ61においては、第1のバイパス路23と第2のバイパス路24が、略直方体形状の樹脂製筐体4の片面に形成した流路用凹部16a,16b,16cと、樹脂製筐体4の片面に溶着されて流路用凹部16a,16b,16cの開口面を塞ぐ同一のシールフィルム5とで形成されているので、容易に第2のバイパス路24を形成することができる。
【0072】
また、本実施形態に係る第1のバイパス路23と第2のバイパス路24が、互いに同一の流路である第3のインク誘導路15cからそれぞれの上流の流路である第2のインク誘導路15b及び第1インク室11aに連通している。
このような構成のインクカートリッジ61によれば、単一の工程で第1のバイパス閉塞部25と第2のバイパス閉塞部26を閉塞することができ、第1のバイパス路23と第2のバイパス路24を容易に封止することができる。
【0073】
図9は、本発明に係る液体収容体の第4の実施の形態であるインクカートリッジにおいて、第1のバイパス路を形成する時のシールフィルムの溶着領域の説明図であり、図10は図9に示したインクカートリッジにインクを充填するインク充填方法を説明するためのブロック図である。
【0074】
ここに示したインクカートリッジ71の容器本体3には、図9及び図10に示すように、インクを収容するインク収容室11と、インク供給孔13と、インク収容室11に貯留したインクをインク供給孔13に誘導するインク誘導路15と、インク収容室11内のインクの消費に伴って外部の空気をインク収容室11内に空気室27を介して導入する大気開放孔17と、インク誘導路15の途中に設けられてインク供給孔13を介してプリンタ側のインク受け部に供給するインクの圧力を調整する圧力調整手段19と、が設けられている。
【0075】
インク誘導路15は、インク収容室11と圧力調整手段19との間を連通させた第2のインク誘導路15bと、圧力調整手段19とインク供給孔13との間を連通させた第3のインク誘導路15cとで構成されている。
本実施形態に係る第1のバイパス路23は、図9に示すように、樹脂製筐体4に対するシールフィルム5(図1参照)の全溶着領域の一部領域A1,A2を未溶着部として残すことにより、樹脂製筐体4とシールフィルム5との間に画成される。そして、未溶着部A1,A2を溶着処理すると、第1のバイパス路23がインク誘導路15b,15cから遮断されて閉塞される。すなわち、未溶着部A1,A2が、第1のバイパス閉塞部25として機能する。
【0076】
空気室27は、インク収容室11と大気開放孔17を連結する流路の途中に貯留したインクをトラップするものであり、温度変化等によりインク収容室11内の空気が膨張した際、大気開放孔17に逆流してきたインクを空気室27でトラップすることができる。
【0077】
このようなインクカートリッジ71のインク収容室11へのインクの充填は、図10に示すように、インク供給孔13にインク注入装置31を接続し、次の工程を順次に実施することによって行う。
先ず、最初の工程は、インク供給孔13に接続されたインク供給手段33の開閉バルブ42は閉じておき、大気開放孔17に接続した真空吸引手段34の開閉バルブ47を開いて、大気開放孔17からの真空吸引によりインク収容室11内を所定の圧力に減圧する真空吸引工程である。
【0078】
次いで、インク収容室11内が所定の圧力になったら、真空吸引手段34の開閉バルブ47を閉じ、インク供給手段33の開閉バルブ42を開いて、インク供給孔13にインクの供給を開始し、所定量のインクをインク収容室11に充填するインク充填工程(液体充填工程)を実施する。この工程により、インク供給孔13から注入されたインクは、インク誘導路15c、第1のバイパス路23、インク誘導路15bを通って、インク収容室11に流れ込み、インク収容室11にインクが充填される。
【0079】
次のバイパス閉塞工程では、第1のバイパス路23をインク誘導路15b,15cから遮断して閉塞することで、インク収容室11からインク供給孔13側に流れるインクは、確実に圧力調整手段19を経由し、インク供給孔13側への供給圧が一定に保たれる。
そして、第1のバイパス路23をインク誘導路15b,15cから閉塞するバイパス閉塞工程を実施するとともに、真空吸引手段34を切り離した大気開放孔17を封止フィルム29により封止する。
【0080】
以上説明したインクカートリッジ71によれば、圧力調整手段19の前後のインク誘導路15b,15cが第1のバイパス路23により連通している状態では、圧力調整手段19が逆止弁としての機能を持つ場合でも、第1のバイパス路23を経由させることで、インク供給孔13からインク収容室11へインクを注入することができる。
すなわち、インク供給孔13からインクを注入することでインク収容室11へインクを充填する液体充填方法を採用することができる。
【0081】
したがって、インク収容室11へインクを充填するために専用のインク注入孔を容器本体3に設ける必要がない。また、専用のインク注入孔が不要になるため、インクの充填後に専用のインク注入孔の封止処理が不要となり、製造工程の削減につながり、コスト低減や生産性の向上を図ることができる。
また、専用のインク注入孔が不要になるため、ユーザが誤って専用のインク注入孔の封止フィルムを剥がしてインクの漏洩を招くこともない。
【0082】
更に、上記実施の形態のインクカートリッジ71では、インク誘導路15の内、少なくとも圧力調整手段19の前後のインク誘導路15b,15cが、樹脂製筐体4の片面に形成した流路用凹部16b,16cと、樹脂製筐体4の片面に溶着されてこれらの流路用凹部16b,16cの開口面を塞ぐシールフィルム5とで形成されており、第1のバイパス路23は、樹脂製筐体4に対するシールフィルム5の溶着領域の一部を未溶着部A1,A2として残すことにより、樹脂製筐体4とシールフィルム5との間に画成される。さらに、未溶着部A1,A2を溶着処理することで、第1のバイパス路23が容易に閉塞される。
【0083】
このような構成では、樹脂製筐体4には、特に第1のバイパス路23を形成するための流路用凹部を形成せずに、シールフィルム5の未溶着部分を設けるのみで第1のバイパス路23を設けることができる。また、第1のバイパス閉塞部25として開閉バルブのような特別な機構を形成する必要がなくなるため、樹脂製筐体4の構造を単純化することができ、樹脂製筐体4の成形性の向上、低コスト化を図ることができる。
【0084】
なお、本発明に係る液体収容体の用途は、上記実施の形態に示したインクカートリッジに限らない。例えば、本発明の液体収容体は、液体収容体を収容体装着部に着脱可能に装着し、液体噴射装置の液体噴射ヘッドに液体を供給するのに適したものである。ここで言う液体噴射装置としては、例えば、インクジェット式記録装置の液体噴射ヘッド(印刷ヘッド)、液晶ディスプレイのカラーフィルタを製造するカラーフィルタ製造装置の色剤噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極を形成する電極材(導電ペースト)噴射ヘッド、さらにはバイオチップを製造するバイオチップ製造装置の生体有機物噴射ヘッド及び精密ピペットしての試料噴射ヘッドなどが該当する。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明に係る液体収容体の第1の実施の形態であるインクカートリッジの分解斜視図である。
【図2】図1に示したインクカートリッジにおいて、第1のバイパス路を形成する時のシールフィルムの溶着領域の説明図である。
【図3】図1に示したインクカートリッジにインクを充填するインク充填方法を説明するためのブロック図である。
【図4】図1に示したインクカートリッジにインク液を充填するインク充填方法のフローチャートである。
【図5】図1に示したインクカートリッジにおいて、バイパス路を閉塞する時のシールフィルムの溶着部位の説明図である。
【図6】本発明に係る液体収容体の第2の実施の形態であるインクカートリッジにおいて、第1のバイパス路を形成する時のシールフィルムの溶着領域の説明図である。
【図7】本発明に係る液体収容体の第3の実施の形態であるインクカートリッジにおいて、第1及び第2のバイパス路を形成する時のシールフィルムの溶着領域の説明図である。
【図8】図7に示したインクカートリッジにインクを充填するインク充填方法を説明するためのブロック図である。
【図9】本発明に係る液体収容体の第4の実施の形態であるインクカートリッジにおいて、第1のバイパス路を形成する時のシールフィルムの溶着領域の説明図である。
【図10】図9に示したインクカートリッジにインクを充填するインク充填方法を説明するためのブロック図である。
【符号の説明】
【0086】
1 インクカートリッジ(液体収容体)
3 容器本体
4 樹脂製筐体
5 シールフィルム
11 インク収容室(液体収容室)
13 インク供給孔(液体供給孔)
15 インク誘導路(液体誘導路)
15a 第1のインク誘導路
15b 第2のインク誘導路
15c 第3のインク誘導路
17 大気開放孔
19 圧力調整手段
21 インク検出手段(液体検出手段)
21a キャビティ
21b 振動板
21c アクチュエータ
23 第1のバイパス路
24 第2のバイパス路
25 第1のバイパス閉塞部
25 第2のバイパス閉塞部
31 インク注入装置
32 カートリッジ接続流路
33 インク供給手段
34 真空吸引手段
41 インク供給管
42 開閉バルブ
43 インクタンク
44 ポンプ
46 真空吸引管
47 開閉バルブ
48 真空ポンプ
49 インクトラップ
51 インクカートリッジ(液体収容体)
53 減圧孔
A 全溶着領域
A1,A2 未溶着部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器側の収容体装着部に装着される容器本体内に、液体を収容する液体収容室と、前記機器側の液体受け部に接続される液体供給孔と、前記液体収容室に貯留した液体を前記液体供給孔に誘導する液体誘導路と、前記液体誘導路の途中に設けられて前記液体供給孔を介して前記液体受け部に供給する液体圧力を調整するとともに前記液体供給孔側から前記液体収容室への液体の逆流を阻止する逆止弁としての機能を有する圧力調整手段と、前記液体収容室内の液体の消費に伴って外部の空気を前記液体収容室内に導入する大気開放孔と、を備える液体収容体であって、
前記圧力調整手段の前後の前記液体誘導路を連通させる第1のバイパス路と、当該第1のバイパス路を閉塞可能とする第1のバイパス閉塞部とを備えていることを特徴とする液体収容体。
【請求項2】
請求項1に記載の液体収容体であって、
前記液体収容室と前記大気開放孔を連結する流路の途中に貯留した液体をトラップする空気室を備えることを特徴とする液体収容体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液体収容体であって、
前記第1のバイパス路が、略直方体形状の樹脂製筐体の片面に形成した流路用凹部と、前記樹脂製筐体の片面に溶着されて前記流路用凹部の開口面を塞ぐシールフィルムとで形成されることを特徴とする液体収容体。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載の液体収容体の前記液体収容室に、所定量の液体を充填する液体充填方法であって、
前記大気開放孔からの吸引により前記液体収容室内を所定の圧力に減圧する真空吸引工程と、
前記液体供給孔から所定量の液体を前記液体収容室に充填する液体充填工程と、
前記第1のバイパス路を閉塞するバイパス閉塞工程と、を含むことを特徴とする液体収容体の液体充填方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の液体収容体であって、
前記圧力調整手段よりも上流側に位置する前記液体誘導路の途中に設けられて前記液体収容室内の液体の有無を検出する液体検出手段を備えることを特徴とする液体収容体。
【請求項6】
請求項5に記載の液体収容体であって、
前記液体誘導路の内、少なくとも前記圧力調整手段の前後の前記液体誘導路が、略直方体形状の樹脂製筐体の片面に形成した流路用凹部と、前記樹脂製筐体の片面に溶着されて前記流路用凹部の開口面を塞ぐシールフィルムとで形成され、
前記第1のバイパス路は、前記樹脂製筐体に対する前記シールフィルムの溶着領域の一部が前記第1のバイパス閉塞部として機能する未溶着部として残されることにより、樹脂製筐体とシールフィルムとの間に画成され、
前記未溶着部を溶着処理することで、前記第1のバイパス路が閉塞されることを特徴とする液体収容体。
【請求項7】
請求項5または6に記載の液体収容体であって、
前記液体検出手段は、前記液体誘導路に連通した空間であるキャビティと、このキャビティの一内壁面を形成する振動板と、当該振動板を振動させるアクチュエータと、を備え、
前記キャビティ内における液体の有無に対応して前記振動板の振動波形が変化することで、前記キャビティ内の液体の有無を検出するものであることを特徴とする液体収容体。
【請求項8】
請求項5から7の何れか一項に記載の液体収容体であって、
前記液体収容室を外部に連通させて前記液体収容室内を減圧可能な減圧孔が設けられていることを特徴とする液体収容体。
【請求項9】
請求項5から7の何れか一項に記載の液体収容体の前記液体収容室に、所定量の液体を充填する液体充填方法であって、
前記大気開放孔からの吸引により前記液体収容室内を所定の圧力に減圧する真空吸引工程と、
前記液体供給孔から所定量の液体を前記液体収容室に充填する液体充填工程と、
前記第1のバイパス路を閉塞するバイパス閉塞工程と、を含むことを特徴とする液体収容体の液体充填方法。
【請求項10】
請求項8に記載の液体収容体の前記液体収容室に、所定量の液体を充填する液体充填方法であって、
前記大気開放孔を封止する工程と、
前記減圧孔からの吸引により前記液体収容室内を所定の圧力に減圧する真空吸引工程と、
前記液体供給孔から所定量の液体を前記液体収容室に充填する液体充填工程と、
前記第1のバイパス路を閉塞するバイパス閉塞工程と、を含むことを特徴とする液体収容体の液体充填方法。
【請求項11】
請求項5に記載の液体収容体であって、
前記液体検出手段の前後を直結する第2のバイパス路と、当該第2のバイパス路を閉塞可能とする第2のバイパス閉塞部とを備えていることを特徴とする液体収容体。
【請求項12】
請求項11に記載の液体収容体であって、
前記第1のバイパス路と前記第2のバイパス路が、略直方体形状の樹脂製筐体の片面に形成した流路用凹部と、前記樹脂製筐体の片面に溶着されて前記流路用凹部の開口面を塞ぐ同一のシールフィルムとで形成されていることを特徴とする液体収容体。
【請求項13】
請求項12に記載の液体収容体であって、
前記第1のバイパス路と前記第2のバイパス路が、互いに同一の流路からそれぞれの上流の流路に連通していることを特徴とする液体収容体。
【請求項14】
請求項11に記載の液体収容体であって、
前記液体収容室と前記大気開放孔を連結する流路の途中に貯留した液体をトラップする空気室を備え、当該空気室には減圧孔が設けられていることを特徴とする液体収容体。
【請求項15】
請求項14に記載の液体収容体に、所定量の液体を充填する液体充填方法であって、
前記大気開放孔を封止する工程と、
前記減圧孔からの吸引により前記液体収容室内を所定の圧力に減圧する真空吸引工程と、
前記液体供給孔から所定量の液体を前記液体収容室に充填する液体充填工程と、
前記第1のバイパス路および第2のバイパス路を閉塞するバイパス閉塞工程と、を含むことを特徴とする液体収容体の液体充填方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−306035(P2006−306035A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−35571(P2006−35571)
【出願日】平成18年2月13日(2006.2.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】