説明

液体吐出ヘッドおよびその製造方法

【課題】設計変更に左右されずに、時分割駆動時の液滴の記録方向の着弾ずれが補正できる液体吐出ヘッドおよびその製造方法を提供すること。
【解決手段】吐出口を形成するための照射を行なう前に、吐出順に応じて、吐出口が形成される位置に対してずれた窪み部を形成してから、照射を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを液滴として吐出して記録媒体に記録を行うインクジェット記録ヘッドおよびインクジェット記録ヘッドの製造方法に関する。また、本発明は、一般的なプリント装置のほか、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリント部を有するワードプロセッサ等の装置、さらには各種処理装置と複合的に組み合わされた産業用記録装置に適用することができる。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェットプリンタの液体吐出ヘッドにおいては、技術の向上によりリフィル周波数アップによる高速記録が可能となってきている。また通常、記録においては時分割駆動を行っているが、これは、ヒーターおよび電極に瞬間的に流れる電流値の増大による電圧降下を抑制し、デューティの高い画像を高品位で提供するために必須な技術である。しかし、記録の高速化と時分割駆動とを組み合わせると、罫線などを記録する際に、一直線に書けないなどの弊害を生じることがあった。これらの技術を両立させるためには、吐出に対しての工夫が必要である。このような問題点に関し、特許文献1では、発熱素子と吐出口の位置関係をずらすことにより、着弾位置を補正する手段が提案されている。具体的には、発熱素子および吐出口のいずれかをほぼ1直線上に配列して、発熱素子と吐出口との位置を相対的にずらすことにより、時分割駆動を行っても画像の直線性を保つことができるというものである。また、発熱素子とインク供給口からインク流路への分岐位置との間隔を、全ノズルについて製法上の公差の範囲内でできるだけ近くすれば、リフィル周波数を最大限に高めることが可能となり、プリンタのスループットを向上させることができると開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−347663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の方式での解決は、発熱素子の形状が変わり、より高アスペクト比になった場合や、吐出量が小さくなった場合、液滴の曲がりが小さくなり想定通りの着弾位置補正が困難になってしまっていた。要するに、発熱素子の形状や吐出量など、効果が発揮される設計範囲が限られてしまい、設計自由度が狭まってしまう可能性があった。
【0005】
そこで、上記課題を鑑みて、本発明においては、設計変更に左右されずに、時分割駆動時の液滴の記録方向の着弾ずれが補正できる液体吐出ヘッドおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そのため本発明の液体吐出ヘッドの製造方法は、感光性樹脂に露光することで、液体を吐出する複数の吐出口からなる吐出口列を前記感光性樹脂に形成する工程を備えた、記録装置に搭載されて走査しながら液体を吐出する液体吐出ヘッドの製造方法において、
前記露光を行なう前に、前記感光性樹脂の前記吐出口を形成する部分の表面に、前記吐出口列において吐出する順序が早い前記吐出口ほど走査方向にずれた窪み部を形成する工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば液体吐出ヘッドの製造方法は、露光を行なう前に、前記感光性樹脂の前記吐出口を形成する部分の表面に、前記吐出口列において吐出する順序が早い前記吐出口ほど走査方向にずれた窪み部を形成する工程を有する。これによって、設計変更に左右されずに、時分割駆動時の液滴の記録方向の着弾ずれが補正できる液体吐出ヘッドおよびその製造方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】(a)はインクジェット記録装置の液体吐出ヘッドを示した図であり、(b)はその吐出口を示した断面図であれる。
【図2】チップを形成するためのシリコンウェハを示した図である。
【図3】(a)から(d)は、本実施形態における吐出口の形成工程を段階的に示した図である。
【図4】(a)は上述した手法により形成された吐出口露光前の基板を示した図であり、(b)はa部を拡大して示した上面図、(c)は吐出口を形成している様子を示した断面図であり、(d)は(b)のA−A’、B−B’、C−C’における各断面を示した図である。
【図5】吐出口から、液滴が吐出される様子を示した図である。
【図6】記録ヘッドとその液体吐出ヘッドから吐出された液滴を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1の実施形態)
(基本的構成)
以下、図面を参照して本発明の第1の実施形態の基本的構成について説明する。尚、以下の説明では、同一の機能を有する構成には、図面中で同一の番号を付し、その説明を省略する場合がある。以下の説明では、インクジェット記録装置に搭載される液体吐出ヘッドの製造を例に挙げるが、他にも半導体露光装置でチップや回路を同様な手段で形成する場合においても適用可能である。
【0010】
図1(a)は、本発明を適用可能なインクジェット記録装置の液体吐出ヘッド15を示した図であり、図1(b)は、図1(a)の液体吐出ヘッドの吐出口の近傍を示した断面図である。本発明によって製造される液体吐出ヘッド15は、インクを吐出するために利用される発熱素子8が所定のピッチで配されているチップ9を有している。チップ9には、インクを供給するインク供給口が、発熱素子8の列の間に開口している。チップ9上には、吐出口6を形成する部材の感光性樹脂膜2によって、各発熱素子8の上方に開口する吐出口6と、インク供給口から各吐出口6に連通する個別のインク流路が形成されている。
【0011】
この液体吐出ヘッド15は、吐出口6が形成された面が、記録媒体の記録面に対面するように配置される。そして、この液体吐出ヘッド15は、インク供給口を介して流路内に充填された液体に、発熱素子8によって発生する圧力を加えることによって吐出口6から液滴を吐出させ、これを記録媒体に付着させることで記録を行う。
【0012】
次いで本実施形態の液体吐出ヘッド15の製造方法について以下に説明する。図2は、本実施形態を適用可能な、チップ9を形成するためのシリコンウェハ1を示した図である。発熱素子8(図1(b)参照)が配置されたシリコンウェハ1上に、流路を形成した後、感光性樹脂膜2を成膜する。感光性樹脂膜2を成膜後、吐出口列が形成される前に、吐出口列形成箇所に、略円弧状(3次元曲面)の窪み部3が設けられる。発熱素子8の上方に露光によって吐出口6を形成しノズル部を形成する手段を有している(図1(b)参照)。具体的には、発熱素子8と流路部若しくは流路の型が形成されているシリコンウェハ1上に、ネガ型の感光性樹脂膜2を成膜する。この際に好適に用いられるネガ型感光性樹脂については後述する。このネガ型感光性樹脂をシリコンウェハ1上に成膜する手段は、スピンコート法、ロールコート法、スリットコート法等の方法を用いることができる。なお、本説明には、流路の型となるパターンを設ける形態を説明していないが、型となるパターンを用いても、型を用いない方法をとることも本発明に含まれている。以下に今回検討した本発明の例を示し、さらに本発明を詳細に説明する。
【0013】
・ネガ型感光性樹脂の調合
エポキシ樹脂:EHPE−3150(ダイセル化学(株)製) 120g
光カチオン重合開始剤:SP−172(旭電化工業(株)製) 6g
増感剤:SP−100(旭電化工業(株)製) 1.2g
メチルイソブチルケトン 100g
このような材料を含むネガ型感光性樹脂を調合した。このネガ型感光性樹脂を石英ガラス基板上に1μm膜厚で塗布し、365nmにおける吸光度を測定したところ、0.024であった。
【0014】
上記のようなネガ型感光性樹脂を用いて、液体吐出ヘッド15を作成した。まず、インク吐出発熱素子(エネルギー発生素子)8としての電気熱変換素子(材質HfB2からなるヒーター)と、流路を形成する部位にSiN+Taの積層膜(不図示)を有するシリコンウェハ1を準備した。次いでエネルギー発生素子8を含む基板上に、ポジ型感光性樹脂として、ポリメチルイソプロペニルケトン(東京応化製、ODUR)をスピンコートし、150℃で3分間のベークを行った。引き続き、ポジ型感光性樹脂のパターニングを行った。露光装置として、ウシオ電機製Deep−UV露光装置UX−3000を用い、23000mJ/cm2の露光量にてパターン露光した。次いで、メチルイソブチルケトンにて現像、イソプロピルアルコールにてリンス処理を行って、流路パターンを形成した。次いで、上述した工程を経たシリコンウェハ1上に、先に調合したネガ型感光性樹脂をスピンコートし、ネガ型の感光性樹脂膜2を形成した。なお、撥インク剤層の形成は本発明においては意味をなさないのでここでは省略した。
【0015】
(特徴的構成)
以下、本発明の特徴的な構成について説明する。
図3(a)から(d)は、本実施形態における吐出口6の形成工程を段階的に示した図である。まず、図3(a)のように、ネガ型の感光性樹脂膜2に硬化収縮が少しだけ生じる露光とベークを行う。それによって、図3(b)のように感光性樹脂膜2の上(表面)の吐出口形成箇所に窪み部3を形成した。このように、吐出口列が形成される吐出口露光の前に、吐出口6の上部に窪み部3を形成しておく。窪み部3の形成においては、硬化が完了しない程度の弱い露光と、短時間のベークを感光性樹脂膜2に施すことで形成した。今回は、露光量を2500J/m2、ベークを100℃で4分間行うことにより、直径35μm、深さ約4.4μmの窪み部3を形成した。ただし、窪み部3の形成手段においては特に限定せず、この工程の段階において、吐出口列がパターニングされる箇所の感光性樹脂膜2上に窪み部3が形成されればよい。
【0016】
次に、図3(c)のように、窪み部3の上にネガ型感光性樹脂のパターニングを行った。図3(c)では、単純化するために、影の部分を感光性樹脂膜2上部に直接配しているが、実際は、レチクル(マスク)とシリコンウェハ1の間に半導体露光装置をいれた露光によるパターニングが望ましい。ここではレチクルを介して、i線ステッパー(キヤノン製)を用いて、3500J/m2の露光量で、中心波長が365nmで半値幅が5nmの光にてパターン露光を行った。その後、引き続きホットプレート上にて90℃で4分間のベークを行い、メチルイソブチルケトンにて現像し、イソプロピルアルコールにてリンス処理を行った後、100℃で60分間の熱処理を行い吐出口6を形成した。図3(d)では、この工程で完成した吐出口と窪み部3の形状を示している。この原理を用いて本発明の液体吐出ヘッドを製造する。尚、今回用いた材料の調合の割合や、条件は一例であり、これらに限定されるものではない。また、窪み部3の形成においては、手段を限定せずに、吐出口形成のパターン露光前に、形状ができていればよい。
【0017】
図4(a)は、上述した手法により形成された吐出口6露光前の基板を示した図である。また、図4(b)は、図4(a)のa部を拡大して示した上面図であり、図4(c)は窪み部3に露光することで吐出口6を形成している様子を示した断面図である。また図4(d)は図4(b)におけるA−A’、B−B’、C−C’における各断面を示した図である。
【0018】
図4(b)では、一列に並んだ発熱素子8に対して、窪み部3が、記録の走査方向にずれて形成されている。一方で、吐出口6は、各ノズルにおいて、発熱素子8に対して同じ位置関係にある。ここでは、3つの吐出口を例に説明しており、記録の際に液滴が吐出される順番が先の方の窪み部3が、矢印αの記録方向にずれているのがわかる。図4(c)のように、窪み部3を通過した光は、凹レンズ効果により、曲率が高いところを通過すると傾きが大きくなる。そして、その光は傾き方によって、図4(d)のような吐出口6を形成する。図4(c)で、窪み部3の曲率の高い部分に照射されたパターニング光11は、大きく屈折し、より大きなテーパー角度を持つように吐出口6の潜像が形成される。一方で、窪み部3の最下点7付近を通過する光13は、真っ直ぐ入射すると、ほぼ真っ直ぐに光が進む。これを利用して、曲率の高い部分に照射されたパターニング光11と、曲率が低い部分に照射されたパターニングの光13とで、記録方向に傾いた吐出口6を形成することができる。露光後、現像されることにより、窪み部3のずらし方向とは逆方向に吐出方向が傾斜した吐出口6が形成される。
【0019】
図5は、本実施形態の方法によって形成された吐出口から、液滴が吐出される様子を示した図である。以下この図5と図4(d)とを用いて詳細に説明する。液滴の吐出される順番が、示した3つの吐出口のうち1番最初であるAA’断面は、吐出口6に対して、窪み部3の最下点7が、記録方向(矢印α方向)にずれており、記録方向に吐出口6が傾いて形成される。このように形成されると、図5のA−A’断面での吐出状態を表したものを見ると、記録方向に液滴が吐出している。また、B−B’断面は、吐出口6に対して、窪み部3の最下点7が、吐出口中心と揃っており、鉛直上向きの吐出口6が形成される。このように形成されると、図2のB−B’断面での吐出状態を表したものを見ると、液滴は鉛直上向きに吐出している。また、C−C’断面は、吐出口6に対して、窪み部3の最下点7が、記録方向とは逆にずれており、記録方向とは逆方向に吐出口6が傾いて形成される。吐出口6がこのように形成されると、図2のC−C’断面で示すように、液滴は記録方向とは逆向きに吐出される。このC−C’断面の吐出口6からは、記録時に上記3つの吐出口の中では、一番最後に吐出されるため、他の吐出口から吐出される液滴よりも手前の方向に吐出しなければ記録媒体上での着弾位置が揃わない。そのため、このように記録方向とは逆向きの方向に吐出している。このように、先に吐出される吐出口6に対応する箇所ほど、窪み部3が吐出口形成部位に対して走査方向にずらして配されている。
【0020】
図6は、本実施形態の方法で製造された記録ヘッドとその液体吐出ヘッドから吐出された液滴を示した図である。この液体吐出ヘッドを駆動させて記録動作を行うと、図6に示すように記録媒体に着弾する液滴の位置が揃い、1列に並んだ状態に液滴が着弾する。なお、ここでは3個の吐出口についての分散駆動を示したが、実際には16時分割駆動であったり、40時分割駆動であったりすることが多く、数を限定されないが打たれる順序により、傾きの方向が決まる。また、通常16時分割駆動などの場合、クロストークなどの吐出の弊害を避けるため、隣接ノズルはできるだけ時間的に遠ざけて駆動される。そのため、あたかも窪み部3の最下点7と吐出口6の中心のずらし方向が交互になるように形成される。さらに、本実施形態の構成によれば、吐出口6の開口部分は位置や形状が変わるものではないため、吐出口6を斜めに形成する際に複数回露光を行う際に発生する、吐出口6の面積ばらつきが生じにくいというメリットもある。
【0021】
また、16時分割から40時分割のように、時分割数が増えても吐出方向を大きく曲げることが可能であるため、吐出口6の中心と発熱素子8の中心をずらしただけでは補正できなかった部分まで補正可能である。また、吐出量や吐出口6の高さ方向の厚みに依存せずに吐出液滴をまげることができる。さらに、発熱素子8の形状に依存せずに吐出液滴をまげることができる。
【0022】
このように、吐出口を形成するための照射を行なう前に、吐出順に応じて、吐出口が形成される位置に対してずれた窪み部を形成してから、照射を行なう。これによって、設計変更に左右されずに、時分割駆動時の液滴の記録方向の着弾ずれが補正できる液体吐出ヘッドおよびその製造方法を実現することができた。
【0023】
(第2の実施形態)
以下、図面を参照して本発明の第2の実施形態を説明する。なお、本実施形態の基本的な構成は第1の実施形態と同様であるため、以下では特徴的な構成についてのみ説明する。
【0024】
液体吐出ヘッド15の作り方は第1の実施形態と同じ方法を用いるが、片方向記録の場合、吐出する吐出口の順番は一種類でよいが、往復記録を行う際には、吐出する順が往方向と復方向とで、真逆になるように2種類以上設定する必要がある。往復記録の場合、記録方向が変わるため、吐出口6の向きが反対になってしまう。そのため、打たれる順番が逆転しなければ成立しない。
【0025】
そこで、本実施形態では、吐出する順番が逆転した場合にも記録媒体に着弾する液滴の位置が揃い、1列に並んだ状態に液滴が着弾するように、往路用の吐出口と復路用の吐出口とを夫々形成する。このように設計することで、往復記録であっても発熱素子8が所定方向に一列に並んだヘッドにおいて、ブロック順が先に打たれるところと、ブロック順番が後に打たれる着弾の位置が揃い記録品位の高い液体吐出ヘッドの製造ができる。
【符号の説明】
【0026】
1 シリコンウェハ
3 窪み部
6 吐出口
7 最下点
8 発熱素子
15 液体吐出ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
感光性樹脂に露光することで、液体を吐出する複数の吐出口からなる吐出口列を前記感光性樹脂に形成する工程を備えた、記録装置に搭載されて走査しながら液体を吐出する液体吐出ヘッドの製造方法において、
前記露光を行なう前に、前記感光性樹脂の前記吐出口を形成する部分の表面に、前記吐出口列において吐出する順序が早い前記吐出口ほど走査方向にずれた窪み部を形成する工程を有することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記窪み部は、3次元曲面によって形成されることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記露光においては、光が前記窪み部の最下点を通過することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項4】
感光性樹脂に複数の吐出口が列を成して形成された吐出口列を有する、記録装置に搭載されて走査しながら前記吐出口から液体を吐出する液体吐出ヘッドにおいて、
前記感光性樹脂の前記吐出口を形成する部分の表面に、前記吐出口列において前記液体を吐出する順序が早い前記吐出口ほど、走査方向にずれた窪み部が形成されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−250388(P2012−250388A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123398(P2011−123398)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】