説明

液体吐出ヘッドおよび液体吐出記録装置

【課題】インク供給口側のフィルター部に空気が溜まりづらい液体吐出ヘッドおよび液体供給装置を提供することを目的とする。
【解決手段】第二液体供給室35は液体供給路37に連通する第二液体供給室開口36を有し、供給フィルター18は、複数の吐出口と第二液体供給室開口36との間に配置されている。これによって、供給フィルター18に空気が溜まりづらい液体吐出ヘッドおよび液体供給装置を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録のために液体を吐出する液体吐出ヘッドとそれを用いた液体吐出記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出ヘッドから記録媒体に対して液体を吐出して記録を行う液体吐出記録装置(以下、単に記録装置ともいう)においては、一般に液体が吐出される複数のノズルが高密度に形成された小型の液体吐出ヘッドを用いて高精細な記録が行われる。この液体吐出ヘッドを複数配置し、各々のヘッドに異なる色のインクを供給することにより、比較的安価かつ小型な構成で、記録媒体にカラー記録を行うことができる。そのため液体吐出記録装置は、業務用、家庭用を問わず、プリンタ、ファクシミリおよび複写機など、様々な記録装置に用いられている。
【0003】
上記のような液体吐出記録装置では、液体吐出ヘッドからの液体吐出動作を安定化させるために、液体吐出ヘッド内の液体を所定の負圧に維持する(液体吐出ヘッド内の液体に作用する圧力を所定の負圧に保つ)ことが重要である。
【0004】
このような液体吐出記録装置に搭載する液体吐出ヘッドの適切な形態として、特許文献1では、ヘッド液室内の一つの空間に液体層と空気層を共存させ、ヘッド内に流入、発生した気泡を消滅させ、効率的に気液分離させる提案がなされている。本提案においては、液室の上部に設けられた供給口側から空気室側に向かって上昇するガイド面によって、液室内の気泡を空気室側へ誘導し、そこから外部と接続される空気流路口へ導く構造としている。したがって、長時間安定した記録品位を保つことができる。
【0005】
また一般的に、ノズルへ供給される液体に混在する異物を除去するために、液体吐出ヘッド内にフィルターを配設する必要があるが、そのフィルター部分における液体の流れの圧力損失が記録速度の高速化の妨げとなるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−201925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の液体吐出ヘッドにおいては、インク供給口側に設けられたフィルター部に空気が溜まることがあった。このようにフィルター部に空気が溜まってしまうと、フィルターが空気によって覆われてしまうことにより、フィルターにおいてインクが通過可能な部分が減ってしまい、フィルター部の圧力損失が大きくなってしまっていた。
【0008】
従って本発明は、インク供給口側のフィルター部に空気が溜まりづらい液体吐出ヘッドおよび液体供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そのため本発明の液体吐出ヘッドは、液体を吐出する吐出する複数の吐出口に各々が連通した複数のノズルから構成されるノズル列と、前記ノズルに液体を供給するメイン液体供給室と、前記メイン液体供給室と連通し、前記メイン液体供給室に液体を供給するための液体供給路と、前記液体供給路と連通し、前記液体供給路を介して前記メイン液体供給室に液体を供給するサブ液体供給室と、前記サブ液体供給室を、液体の流れ方向上流側より第一液体供給室と、第二液体供給室とに分離するように配設された供給フィルターと、
前記メイン液体供給室に設けられ、前記メイン液体供給室に流入した液体と空気とを分離するスペースとしての気液分離部と、前記気液分離部と連通する空気室と、を備え、前記メイン液体供給室は、前記複数の吐出口から最も離れた部分を前記気液分離部とする傾斜を形成する傾斜面を有し、前記第二液体供給室は前記液体供給路と連通する第二液体供給室開口を有し、前記供給フィルターは、前記複数の吐出口と第二液体供給室開口との間に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば液体吐出ヘッドは、第二液体供給室は液体供給路と連通する第二液体供給室開口を有し、供給フィルターは、前記複数の吐出口と第二液体供給室開口との間に配置されている。これによって、供給フィルターに空気が溜まりづらい液体吐出ヘッドおよび液体供給装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】液体吐出記録装置を模式的に示した正面図である。
【図2】(a)は、本実施形態を適用可能な液体吐出ヘッドを示した図であり、(b)は、4本組の液体吐出ヘッドを示した図である。
【図3】液体タンクから液体吐出ヘッドまでの液体供給系および回復系を模式的に示した図である。
【図4】(a)は、本実施形態の液体吐出ヘッドの構造例を説明するための正面図であり、(b)は、正面図A−A線に沿う断面図であり、(c)は、正面図B−B線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
図1は、本実施形態を適用可能な液体吐出記録装置(以下、単に記録装置ともいう)を模式的に示した正面図である。記録装置100はホストPC110と接続されている。そして記録装置100は、ホストPC110から送信される記録情報に基づいて4つの液体吐出ヘッド(以下、単にヘッドともいう)22K、22C、22M、22Yから記録媒体(以下、ロール紙ともいう)Pに液体を吐出して記録を行う。4つの液体吐出ヘッド22K、22C、22M、22Yは、記録媒体Pの搬送方向(矢印A方向)に沿って配置されている。各液体吐出ヘッドは搬送方向に黒インク用液体吐出ヘッ ド22K、シアンインク用液体吐出ヘッド22C、マゼンタインク用液体吐出ヘッド22M、イエローインク用液体吐出ヘッド22Yの順で互いに平行に配置されている。液体吐出ヘッド22K、22C、22M、22Yは、いわゆるラインヘッドであり、記録媒体搬送方向と交差する方向(幅方向)に沿ってノズルを所定の密度で配置したものとなっている。ノズルの配置幅(記録媒体の搬送方向に交差する方向(幅方向)における配列範囲)は、使用する記録媒体の最大記録幅以上の幅となっている。記録装置が記録を行う際は、各ヘッドを移動させることなく、液体吐出ヘッドに設けられたヒーターを駆動することによってノズルから液体を吐出して記録を行う。
【0014】
液体吐出ヘッドは記録に伴って、ノズルの開口部である吐出口が形成された面(以下、吐出口面ともいう)22Ks、22Cs、22Ms、22Ysにゴミやインク滴等の異物が付着することで吐出状態が変わり、記録に影響を与えることがある。そのため、各ヘッド22K、22C、22M、22Yから安定して液体を吐出できるように、記録装置100には回復ユニット40が組み込まれている。この回復ユニット40による吐出口面のクリーニングを定期的に行うことによって、液体吐出ヘッド22K、22C、22M、22Yのノズルからの液体吐出状態を良好な吐出状態に回復させることができる。回復ユニット40には、クリ−ニング動作のときに4つの液体吐出ヘッド22K、22C、22M、22Yの吐出口面22Ks、22Cs、22Ms、22Ysから液体および微細な気泡を除去する際に使用されるキャップ50が備えられている。このキャップ50は各液体吐出ヘッド22K、22C、22M、22Yに独立して設けられている。
【0015】
記録媒体Pは、ロール紙供給ユニット24から供給され、記録装置100に組み込まれた搬送機構26によって矢印A方向に搬送される。搬送機構26は、ロ−ル紙Pを載置して搬送する搬送ベルト26a、この搬送ベルト26aを回転させる搬送モータ26b、搬送ベルト26aに張力を与えるローラ26cなどから構成されている。記録を行う際には、搬送中のロール紙Pがブラックの液体吐出ヘッド22Kの下に到達すると、ホストPC110から送られた記録情報に基づいて、液体吐出ヘッド22Kからブラックインクが吐出される。同様に液体吐出ヘッド22C、液体吐出ヘッド22M、液体吐出ヘッド22Yの順に、各色のインクが吐出されてロール紙Pへのカラー記録が完成する。
【0016】
本実施形態の液体吐出記録装置は、記録用紙Pの記録領域の幅方向の全域に渡って延在する長尺な液体吐出ヘッド22を用いた記録装置としての適用例である。しかし本発明は、液体吐出ヘッドの主走査方向の記録走査と、その主走査方向と交差する副走査方向における記録用紙の所定量の搬送と、を繰り返すシリアルスキャン方式の記録装置にも適用することができる。
【0017】
次に図2を用いて、記録装置に組み込まれる液体吐出ヘッドの形態について説明する。図2(a)は、本実施形態を適用可能な液体吐出ヘッドを示した図であり、(b)は、4本組の液体吐出ヘッドを示した図である。本実施形態を適用可能な記録装置には各色のインクに対応した液体吐出ヘッドが4本搭載されるが、それらの液体吐出ヘッドは各々のノズル列が精密に位置決めされた状態で一体化されている(以下、この状態の4本組のヘッド形態を組みヘッドという)。すなわち、各液体吐出ヘッドのノズル列間ピッチ、ノズル列方向ずれ、ノズル列高さずれ及びノズル列間平行度が規定の精度内で組みヘッド化されるよう結合されている。本実施形態において4つの液体吐出ヘッド22K、22C、22M、22Y間は連結されている。ノズル列が形成された吐出チップ(図示せず)を接着しているベースプレート22Kb、22Cb、22Mb、22Ybの両端部に形成された貫通穴を同軸上に配列し、2本のシャフト50を貫通させでストッパー52にて固定することで組ヘッドを構成している。各液体吐出ヘッドのノズル列22Kn、22Cn、22Mn、22Ynは、別途用意した組みヘッド化冶具により互いに高精度に位置決めされている。
【0018】
ところで昨今、記録装置の超小型化、すなわち設置領域の省スペース化に対する要望が非常に高まっている。そのため、上述したような組みヘッドを記録装置に搭載する形態とする場合では、液体吐出ヘッド単体の小型化、特に液体吐出ヘッド間のピッチを低減させるための液体吐出ヘッドの薄型化が重要な課題となる。本実施形態においては、上述した組みヘッド形態とし、さらに後述するヘッドの構成を有することで、液体供給性能と気泡除去機能を満足させながら板状形状化された液体吐出ヘッド単体の厚み(図2(b)における左右方向の寸法)を10.5mmとすることが可能となっている。なお、各々の液体吐出ヘッドの複数の吐出口は、板状形状化された液体吐出ヘッドの端部に設けられている。
【0019】
図3は、本実施形態の記録装置における液体タンク28から液体吐出ヘッド22までの液体供給系および回復系を模式的に示した図である。各液体吐出ヘッドは同じ構造であるため、以下、例としてブラックインク用液体吐出ヘッド22Kについてのみ説明を行う。
【0020】
記録装置100は、液体吐出ヘッド22、本体から着脱自在な液体タンク28、液体タンク28と液体吐出ヘッド22とをつなぐ液体流路40、液体吐出ヘッド内部を介して液体流路40と連通するエア流路41、エア流路41に設けられたポンプ42を有する。ポンプ42がエア流路41及び液体吐出ヘッド22内を減圧するように駆動することによって、液体タンク28より液体流路40を介して液体吐出ヘッド22内に液体が供給される。液体吐出ヘッド22には供給フィルター18が配設されており、液体吐出ヘッド22に供給された液体は、供給フィルター18を介してメイン液体供給室26に流入する。メイン液体供給室26内の液体はやがてノズル内に供給され吐出されるが、液体吐出ヘッド内の液体供給系詳細については後述する。
【0021】
メイン液体供給室26の一部には液面検知センサ21が取り付けられており、その測定結果で液体供給の制御が行われる。すなわち、メイン液体供給室26の液面が一定レベル以下と判断した時は、ポンプ42を駆動させ液体タンク28から液体を吸引する。そして、吸引した液体が液面検知センサ21により一定レベル以上であると検知された時は、ポンプ42が停止し、液体の供給が停止される。
【0022】
一方、各液体吐出ヘッドが安定して液体を吐出するためのクリーニング動作には、ポンプ44が使用される。クリーニング動作とはノズル内に残留した微細な気泡やごみを除去し、ノズル内を液体で満たす動作である。液体吐出ヘッド吐出口面の対向には回復キャップ43(以下、キャップともいう)が設けられており、キャップ43とポンプ44をつなぐ回復流路49がある。回復流路49のキャップ43が接続された側と反対側には、クリーニング動作によって発生した廃液を貯留するための廃液タンク46が接続されている。
【0023】
クリーニング時、キャップ43が液体吐出ヘッドの吐出口面を密閉するように当接される。その後、ポンプ44を駆動させることによってキャップ43内および回復流路49が減圧され、液体吐出ヘッド22のノズル面から微量な液体とともに残留気泡およびごみを吸引する。吸引した液体や気泡等は廃液タンク46に導かれる。
【0024】
図4(a)は、本実施形態の液体吐出ヘッドの構造例を説明するための正面図であり、(b)は、正面図A−A線に沿う断面図であり、(c)は、正面図B−B線に沿う断面図である。説明の便宜上、正面図において液体供給ケースカバーは省略している。また、図4(a)における各部剤の上下位置関係は、液体吐出ヘッド22を記録装置100に組み込んだ際の上下方向位置関係と同一である。
【0025】
これらの図において、セラミック製のベースプレート10はシリコンにより形成されるヒーター基板11を支持している。ヒーター基板11には、液体の吐出エネルギー発生素子としての複数の電気熱変換体(ヒーターまたはエネルギー発生部)とこれらの電気熱変換体に対応するノズルを構成するための複数の流路壁とが形成されている。このノズルは板状形状化された液体吐出ヘッド22の長手方向(図4(a)の左右方向)に複数配置されており、この複数のノズルをノズル列と称す。また、ヒーター基板11には各ノズルに連通する共通液室12を囲む液室枠も形成されている。このように形成されたノズルの側壁および液室枠の上には、共通液室12を形成する天板13が接合されている。したがって、ヒーター基板11と天板13は互いに一体化した状態でベースプレート10に積層接着されている。このような積層接着は、銀ペーストなどの熱伝導率のよい接着剤によって行われる。ベースプレート10におけるヒーター基板11の後方には、実装済みのPCB(電気配線基板)14が両面テープ(図示せず)によりベースプレート10に支持されている。ヒーター基板11上の各吐出エネルギー発生素子とPCB14とは、各々の配線に対応するワイヤボンディングにより電気的に接続されている。
【0026】
天板13上面には、液体供給部材15が接合されている。液体供給部材15は液体供給ケース16(第一ケース)と液体供給ケースカバー17(第二ケース)より構成されており、液体供給ケースカバー17が液体供給ケース16の上面を塞ぐことにより、後述する液室や液体供給路が形成されるとともに、液体吐出ヘッド22を板状形状化する。本実施形態においては、液体供給ケース16と液体供給ケースカバー17の接合は、熱硬化型の接着剤により行われる。また、液体供給ケース16には供給フィルター18および排出フィルター19が配設されている。供給フィルター18は液体供給部材15に供給された液体中の異物の除去を目的とし、排出フィルター19は液体吐出ヘッド外部からの異物の侵入を防止することを目的とする。各々のフィルターは熱溶着によって液体供給ケース16に固定されている。さらに液体供給ケース16の一部には、メイン液体供給室26に流入する液体と空気とを分離するスペースとしての気液分離部20が形成され、気液分離部20に突出する形で外部より液面検知センサ21が実装されており、上述したような液室内の液体量の制御を行う。
【0027】
ここで、液体供給ケースと16液体供給ケースカバー17の2つの部品の嵌合により形成される液室および液体供給路等の構成について説明する。液体供給ケース16の天板13との接合面には、ノズルの配列方向と略平行かつノズル列の幅に渡って矩形上の開口部(以下、液体供給口27という)が形成されており、液体供給口27の延長上には貯留室状のメイン液体供給室26が形成されている。すなわち、メイン液体供給室26はノズル列と略平行かつノズル列の幅に渡って形成されている。また、液体供給口27と上部の天面は、ほぼ全域にわたって気液分離部20を最上部とした傾斜(以下、メイン液体供給室傾斜29という)を成している。メイン液体供給室傾斜29には2つの開口部が形成されており、1つはメイン液体供給室26へのインク供給経路である液体連通部31、他方は気液分離部20である。
【0028】
気液分離部20はメイン液体供給室26の一部を成し、メイン液体供給室26の他の部分よりも深さが大きくなっている。これは、後述するように液室内の液体に混在する気泡を破泡する効果を高めるためである。本実施形態においては、気液分離部20の内部にステンレスの電極を3本実装しており、図中左側より上限検知電極23、グランド電極24、下限電極25である。グランド電極24と上限検知電極23間の通電、グランド電極24と下限検知電極間25の通電により、メイン液体供給室26内の液面を上限と下限の間に維持する構成となっている。本実施形態の液体吐出ヘッドにおいては、気液分離がなされた液体の液面を検知することで、検知の信頼性を向上させることが可能である。
【0029】
気液分離部20の延長上にはエア連通部30があり、その先はエア流路(空気室)41となる。さらに先には前述した排出フィルター19が配設されており、排出ジョイント33に連通する。排出フィルター19は撥水性を有する材質によって構成されており、万が一エア流路41に液体が流入し、排出フィルター19にインクが付着することで、フィルター内部にインクのメニスカスが形成されても、その撥水性によってフィルター部の毛管力を低減することができ、インクのメニスカスを容易に除去することができる。
【0030】
一方、メイン液体供給室傾斜部29に設けられた液体連通部31を介して液体供給路37が設けられている。液体供給路37は、液体連通部31から供給フィルター18近傍まで管状を成しており、メイン液体供給室26とほぼ同一平行平面上に形成される。供給フィルター18もまた、メイン液体供給室26と略同一平行平面上に配置されている。供給フィルター18はサブ液体供給室を二室に分離するように配設され、供給ジョイント32に連通する側の室、すなわち液体吐出ヘッド内の液体供給の流れにおける上流側の室が第一液体供給室34、下流側が第二液体供給室35となっている。
【0031】
第二液体供給室35は供給フィルター18上方に開口(以下、第二液体供給室開口36という)があり、これを介して液体供給路37に連通している。また、第二液体供給室35の天面はこの開口を最上部(供給フィルターから最も離れた部分)とする傾斜(以下、第二液体供給室傾斜38という)が形成されている。なお、供給フィルター18は、言い換えれば、ノズル列各々の吐出口と第二液体供給室開口36との間に配置されている。同様に、供給フィルター18は、ノズル列各々の吐出口と第二液体供給室傾斜38との間に配置されている。
【0032】
以上のように、メイン液体供給室26、気液分離部20、液体供給路37、及び供給フィルター18は、各々ノズル配列面39と交差する平面上(この平面を平面Aとする)に設定される。一方でA−A断面に示すように、メイン液体供給室26、液体供給路27、供給フィルター18、気液分離部20は互いに平面Aに交差する方向(液体吐出ヘッド22の厚み方向)に重ならないように配置することが重要である。その理由について以下に述べる。
【0033】
高速記録を可能とする液体吐出ヘッドにおいては、液体吐出ヘッド内で液体が滞りなく流れることが重要であり、液室や供給路の流路抵抗が過大にならないように設計する必要がある。また、液室や供給路への気泡の残留を回避させなければならない。したがって、メイン液体供給室や供給路の液体の流れに対する断面積を大きくとることで、液体吐出ヘッド内の圧力損失を低減させ、気泡を移動し易くする必要がある。さらに、高速記録を可能とするためには液体吐出ヘッド内の流路抵抗増大の要因となるフィルターを大面積化することが有効である。上記の観点により、本実施形態では液体吐出ヘッド内流路抵抗計算および気泡の挙動確認により液室厚みを2.2mm以上、フィルター面積をφ14相当とした。
【0034】
このような高速記録を可能とする液体吐出ヘッド開発においては、近年、記録装置の超小型化に対する要望に伴ってさらなる液体吐出ヘッドの小型化が求められている。特に複数の液体吐出ヘッドを並列に配列し、記録装置に組み込む形態とする場合、各液体吐出ヘッドの薄型化が重要な課題となる。よって、高速記録と薄型化を両立させるため、本実施形態の液体吐出ヘッドでは、メイン液体供給室26、気液分離部20、液体供給路37、供給フィルター18、第一液体供給室34、第二液体供給室35は各々ノズル配列面39と交差する平面上(平面A)に設定する。そして、メイン液体供給室26、液体供給路37、供給フィルター18、気液分離部20は互いに平面Aに交差する方向(液体吐出ヘッド22の厚み方向)に重ならないように配置する構成とした。
【0035】
さらに本実施形態の液体吐出ヘッドでは、液室や供給路が形成された液体供給部材15に対して液体吐出ヘッド22の厚み方向に隣接してPCB14を配置している。A−A断面に示すようにPCB14は平面Aに交差する方向に関して、メイン液体供給室26と互いに少なくとも一部が重なり隣接する形で形成されているが、一方でPCB14は、第一液体供給室34および気液分離部20と平面Aに交差する方向で互い重ならないように配置され、隣接しない領域に収められる。前述したとおり気液分離部20は気泡を破泡するためにメイン液体供給室26よりも厚みが大きく設定されており、供給フィルター18が介在する第一液体供給室34と第二液体供給室35の平面Aに交差する方向も大きくなる(厚みが増える)。したがって、液体吐出ヘッド全体の厚みを抑えるには、第一液体供給室34および気液分離部20に対してPCB14を平面Aに交差する方向に重ならないようにし、メイン液体供給室26に対して平面Aに交差する方向において互いに少なくとも一部が重なるように積層する形態にすることが有効である。
【0036】
次に同じく図4を用いて、本実施形態における液体吐出ヘッドの機能について液体の流れに沿って説明する。図3にて説明したポンプによる吸引動作によって、排出ジョイント33を介して液体吐出ヘッド22内が負圧に達する。そうすると、液体タンクから液体吐出ヘッドの供給ジョイント32を通って液体が第一液体供給室34へ供給される。第一液体供給室34内の液体は供給フィルター18を通過し、第二液体供給室35を満たす。この時、第二液体供給室35内の空気は液体の流入に伴って上方へ移動する。そして、液体及び空気供給フィルター18上端部を越えると第二液体供給室傾斜38に沿って液体供給路37のほうへ導かれる。すなわち、液体が液体供給路37へ供給されるときには第二液体供給室35は液体で満たされた状態となる。液体供給路37へ供給された液体及び空気はやがてメイン液体供給室26へ流出する。このように、第二液体供給室傾斜38が構成されているため、第二液体供給室35に空気が流入したとしても、空気は流入してくる液体に押されて、確実に空気をメイン液体供給室26に流入させることが可能となる。そして、メイン液体供給室26内に流入した空気は液体の供給に伴って上方へ移動し、やがてメイン液体供給室傾斜29に沿って気液分離部20へ導かれる。気液分離部20に液体と空気が混在した気泡が達すると、液室の厚みが深くなっているため気泡が消滅する。さらに液体の供給が進むと、気液分離部20に設置された液面検知センサ21により、メイン液体供給室26内の液体量が上限に達したと判定される。その時点でポンプの吸引動作が停止され、液体の供給が止まる。
【0037】
次に記録動作中における液体吐出ヘッド内の液体の流れと気泡の挙動、および液体吐出ヘッドの機能に関して説明する。記録中、ノズル内の液体を使用して吐出面から液体滴が吐出されるが、吐出により液体吐出ヘッド内の内圧が下がり、ノズル内の毛細管現象により液体タンクから液体が補給される(以下、リフィルという)。この際、液体タンクから液体流路、供給室、供給フィルター、液室、共通液室等、ノズルに液体が達するまでの流路抵抗によりリフィル性能が決まる。特に供給フィルター18の圧損が支配的となるが、本実施形態においては供給フィルター18を大面積に設定可能な配置としているため、高速記録が可能となる。また、B−B断面からわかるように、ノズル列全体に渡ってメイン液体供給室26から液体供給口27、共通液室12、ノズルに至るまで略直線的に液体が供給される構成としているため、スムーズにノズルに向かって液体が供給される。
【0038】
ところで、本実施形態の液体吐出ヘッドは、液体の吐出に発熱エネルギーを必要とする。すなわち、ヒーター基板上の電気熱変換体が発生する熱エネルギーにより液体を発泡させ、その発泡エネルギーを利用してノズルから液体を吐出させるように構成されている。そのため、記録動作が長時間連続した場合には、熱エネルギーが液体に蓄積され、液体の温度が上昇して液体中に溶存する気体が液体吐出ヘッド内に溜まってしまうおそれがある。この液体吐出ヘッド内の気泡を除去しなければ、液体の吐出が適正に行われなくなる。そのため、本実施形態の液体吐出ヘッドのような構成であれば、液体吐出ヘッド内に生じた気泡を効率的に除去することができる。なお、液体を吐出させるための吐出エネルギー発生手段は、電気熱変換体を用いる構成のみに特定されず任意であり、例えば、ピエゾ素子などを用いて液体吐出させる構成であってもよい。
【0039】
本実施形態における液体吐出ヘッドは、ノズル列全体にわたってノズルから共通液室12、メイン液体供給室26まで略直線的に連通する構成である。そのため、ノズルに気泡が残っても気泡自体の浮力によって気泡がノズルから除去され、メイン液体供給室26に導かれる。さらにメイン液体供給室26に導かれた気泡は、メイン液体供給室傾斜29にそって気泡が移動し、気液分離部20に達すると消滅するようになっている。そのため、気泡が液体のスムーズな供給を妨げることがない。すなわち、長時間安定した記録動作が可能である。
【0040】
このように、液体吐出ヘッドにおいて、メイン液体供給室26、気液分離部20、液体供給路37、供給フィルター18、第一液体供給室34、第二液体供給室35は各々ノズル配列面39と略平行平面上(平面A)に設定する。そして、メイン液体供給室26、液体供給路37、供給フィルター18、気液分離部20は互いに平面Aに交差する方向に重ならないように配置する。このように液体吐出ヘッドの構成を有することで、液体吐出ヘッド内におけるノズルに対する液体の供給速度を高め、液体吐出ヘッド内の気泡を効率的に除去することができると共に、液体吐出ヘッドの小型化、特に薄型化を向上させることが可能となる。
【符号の説明】
【0041】
12 共通液室
14 PCB
18 供給フィルター
20 気液分離部
22 液体吐出ヘッド
26 メイン液体供給室
27 液体供給口
34 第一液体供給室
35 第二液体供給室
37 液体供給路
39 ノズル配列面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する吐出する複数の吐出口に各々が連通した複数のノズルから構成されるノズル列と、
前記ノズルに液体を供給するメイン液体供給室と、
前記メイン液体供給室と連通し、前記メイン液体供給室に液体を供給するための液体供給路と、
前記液体供給路と連通し、前記液体供給路を介して前記メイン液体供給室に液体を供給するサブ液体供給室と、
前記サブ液体供給室を、液体の流れ方向上流側より第一液体供給室と、第二液体供給室とに分離するように配設された供給フィルターと、
前記メイン液体供給室に設けられ、前記メイン液体供給室に流入した液体と空気とを分離するスペースとしての気液分離部と、
前記気液分離部と連通する空気室と、を備え、
前記メイン液体供給室は、前記複数の吐出口から最も離れた部分を前記気液分離部とする傾斜を形成する傾斜面を有し、
前記第二液体供給室は前記液体供給路と連通する第二液体供給室開口を有し、前記供給フィルターは、前記複数の吐出口と第二液体供給室開口との間に配置されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記第二液体供給室は、前記供給フィルターから最も離れた部分を前記第二液体供給室開口とする傾斜を形成する傾斜面を有することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記メイン液体供給室の傾斜は、前記複数のノズルに連通する開口部の延長上の全域に渡って形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記メイン液体供給室と、前記液体供給路と、前記サブ液体供給室と、前記気液分離部と、前記空気室とが、板状のケースにより構成され、前記複数の吐出口が前記板状のケースの端部に構成され、
前記ノズルの各々に対応するように配設されており前記液体を吐出するためのエネルギーを発生させるエネルギー発生部と、電気的な接続がなされた電気配線基板を有し、該電気配線基板は、前記供給フィルターおよび前記気液分離部と前記板状のケースの厚み方向に関して、各々重なることなく配置されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記ケースは、第一ケースと前記第一ケースを塞ぐ第二ケースの2つの部品から成ることを特徴とする請求項4に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記ノズルから液体を吐出させるための熱エネルギーを発生する電気熱変換体を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドを備えることを特徴とする液体吐出記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−14111(P2013−14111A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150007(P2011−150007)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000208743)キヤノンファインテック株式会社 (1,218)
【Fターム(参考)】