説明

液体吐出ヘッドの製造方法

【課題】 吐出口表面への付着物を少なくし、ヨレのない良好な吐出を得られるインクジェット記録ヘッドを提供する。
【解決手段】 液体吐出ヘッドの製造方法の製造方法において、基板1上に有機物の層7を形成する工程と、層7上に、流路の型となる溶解可能なパターン10を形成する工程と、パターン10上に流路形成部材を形成する工程と、流路形成部材に吐出口5を形成する工程と、パターン10を溶解除去する工程と、吐出口5が開口している面に付着した付着物13に紫外線を照射する工程と、付着物13を除去する工程と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体を吐出する液体吐出ヘッドの製造方法に関し、具体的にはインクジェット記録ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体を吐出する液体吐出ヘッドを用いる例としては、インクを被記録媒体に吐出して記録を行うインクジェット記録方式が挙げられる。
【0003】
インクジェット記録方式(液体噴射記録方式)に適用されるインクジェット記録ヘッドは、一般に微細な吐出口、液流路及び該液流路の一部に設けられる液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生素子を複数備えている。従来、このようなインクジェット記録ヘッドを作製する方法としては、例えば特許文献1に以下のような開示がある。
【0004】
まず、エネルギ−発生素子が形成された基板上に、後に形成する流路形成部材と基板との密着性を向上させる密着層を形成した後、溶解可能な樹脂の層を塗布し、パターニングすることで、インク流路のパターンを形成する。次いで、このインク流路パターン上に、インク流路壁となるエポキシ樹脂及び光カチオン重合開始剤を含む被覆樹脂層を形成し、フォトリソグラフィーによりエネルギー発生素子上に吐出口を形成する。最後に前記溶解可能な樹脂を溶出した後、流路形成部材となる被覆樹脂層を硬化させる。
【特許文献1】特開平11−348290号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法をもとに、インクジェット記録ヘッドを作成し、インクの吐出をおこなったところ、吐出口の径や、インクの種類によっては、吐出液滴がよれてしまい、所望の着弾位置に着弾しないという現象が見られた。
【0006】
本発明者らが吐出口面を観察したところ、しばしば、吐出口近傍に極小の粒子状の物質が付着しているのが見られた。この粒子状の物質にインク吐出時に発生するミストと呼ばれる霧状のインク滴等が溜まるように付着し、吐出インク滴の吐出方向は、吐出口面に付着したインク溜まりの影響を受け、よれが生じたと考えられた。
【0007】
本発明者らが検討した結果、このよう粒子状の物質が付着する原因としては、以下のことが考えられた。すなわち、流路を形成する部材や、その部材と基板との間に設けられる密着層、接着剤等が、製造過程中で溶解され、その後の工程の中で、吐出口近辺へと導かれたというものである。具体的な例としては、密着層上に、流路のパターンとなる部材を塗布する際の溶媒により、密着層が低分子化され、これが、流路パターンを溶出する際に、溶出物として、吐出口表面に付着したというプロセスである。以上のことは、前述した流路形成部材、密着層、流路パターンとなる材料や、その溶媒の物質により、吐出口面への粒子状物質(所謂付着物)の付着の程度は異なる。前述した流路形成部材、密着層、流路パターンの材料を変更することも考えられるが、材料選択の幅を狭めてしまうことにつながる。
【0008】
また近年のインクジェット記録ヘッドに見られるように、微細化した吐出口から吐出される数plという極小のインク滴は、前述のように吐出口面の付着インク滴影響を受けやすい。そのため、吐出口面への付着物等は極力発生させないようにすることが望ましく、また、吐出インク滴への影響を最小限に押さえることが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記の点に鑑み成されたものであり、吐出口表面への付着物を少なくし、インクミスト等の表面への溜まりが低減され、極小のインク滴を吐出する場合であっても、ヨレのない良好な吐出を得られるインクジェット記録ヘッドを提供することを目的とする。
【0010】
本発明の一形態は、液体を吐出する吐出口と、前記吐出口へと連通する流路を形成する流路形成部材と、前記基板と前記流路形成部材との間に設けられた樹脂層を有する液体吐出ヘッドの製造方法において、基板上に前記樹脂層を形成する工程と、前記樹脂層に紫外線を照射し前記樹脂層の表面を部分的に崩壊させる工程と、紫外線が照射された前記樹脂層上に、前記流路の型となる溶解可能なパターンを形成する工程と、前記パターン上に前記流路形成部材を形成する工程と、前記流路形成部材に前記吐出口を形成する工程と、前記パターンを溶解除去する工程と、前記吐出口が形成された面に付着した前記樹脂層に紫外線を照射する工程と、前記面をリンスする工程と、を有することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、吐出口表面への付着物が低減されることにより、吐出時に生じるミストが吐出口表面への溜まる現象が抑制され、る。このため良好な吐出を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0013】
なお、以下の説明では,同一の機能を有する構成には図面中同一の番号を付与し、その説明を省略する場合がある。
【0014】
なお、液体吐出ヘッドは、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサなどの装置、さらには各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に搭載可能である。そして、この液体吐出ヘッドを用いることによって、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど種々の記録媒体に記録を行うことができる。なお、本明細書内で用いられる「記録」とは、文字や図形などの意味を持つ画像を記録媒体に対して付与することだけでなく、パターンなどの意味を持たない画像を付与することも意味することとする。
【0015】
さらに、「インク」または「液体」とは、広く解釈されるべきものであり、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成、記録媒体の加工、或いはインクまたは記録媒体の処理に供される液体を言うものとする。ここで、インクまたは記録媒体の処理としては、例えば、記録媒体に付与されるインク中の色材の凝固または不溶化による定着性の向上や、記録品位ないし発色性の向上、画像耐久性の向上などのことを言う。
【0016】
まず、本発明を適用可能なインクジェット記録ヘッド(以下記録ヘッド)について説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る記録ヘッドを示す模式図である。
【0018】
本実施形態の記録ヘッドは、液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギ−発生素子(インク吐出エネルギー発生素子)2が所定のピッチで2列に並んで形成されたSiの基板1を有している。基板1には、Siを異方性エッチングすることによって形成された供給口3が、エネルギー発生素子2の2つの列の間に開口されている。基板1上には、流路形成部材4によって、各エネルギー発生素子の上方に開口する吐出口5と、供給口3から各吐出口5に連通する個別の流路8が形成されている。
【0019】
この記録ヘッドは、吐出口5が形成された面が記録媒体の記録面に対面するように配置される。そしてこの記録ヘッドは、供給口3を介して流路内に充填されたインクに、エネルギー発生素子2によって発生するエネルギーが利用され、吐出口5からインク液滴を吐出させ、これを記録媒体に付着させることによって記録を行う。エネルギー発生素子としては、熱エネルギーとして電気熱変換素子(所謂ヒーター)等、力学的エネルギーとして、圧電素子等があるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
この記録ヘッドは、供給口3が形成された面が記録媒体の記録面に対面するように配置される。そしてこの記録ヘッドは、供給口3を介して流路内に充填されたインクに、エネルギー発生素子2によって発生する圧力を加えることによって、吐出口5からインク液滴を吐出させ、これを記録媒体に付着させることによって記録を行う。
【0021】
また図2は、図1に示す記録ヘッド100を搭載したインクジェットカートリッジの一例を示す斜視図である。インクジェットカートリッジ300は、前述したインクジェット記録ヘッド100と、インクジェット記録ヘッド100へ供給するためのインクを収容するインク収容部200を備え、これらが一体となっている。なお、これらは必ずしも一体になっている必要はなく、インク収容部200の取り外しが可能な形態を取ることもできる。
【0022】
次いで、本発明の記録ヘッドの製造方法について、以下に説明する。
【0023】
図3は、本発明の記録ヘッドの製造方法の一例を示す模式的断面図であり、図1におけるA―A’を通り基板に垂直な断面で見た断面図である。
【0024】
まず、図3(a)に示すように、液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生素子2が設けられた基板1を用意する。エネルギー発生素子2としては、電気熱変換素子(ヒーター)または、圧電素子(ピエゾ素子)等が挙げられる。これらの素子には、これらを動作させる為の制御信号入力用の電極(不図示)が接続されている。また、一般にはこれらのエネルギー発生素子の耐用性向上として、保護層等の各種機能層が設けられるが、もちろん本発明においてもこれらの機能層を設ける事は一向に構わない。
【0025】
次いで、図3(b)に示すように、基板1上に有機物6を層状に形成する。この有機物6は、最終的な記録ヘッドでは、パターン化され、前記基板と流路形成部材4との間に位置する。有機物6は、通常熱可塑性樹脂が用いられる。具体的には、ポリエーテルアミド、ポリイミド、ポリカーボネイト、ポリエステル等が挙げられる等が挙げられる。
【0026】
次いで、図3(e)に示すように、この有機物6を設ける目的は、通常シリコン等が材料に用いられ、表面は金属や無機物となっている基板1と、樹脂などが用いられることが多い流路形成部材と、の密着性向上や、基板表面の素子の保護等がある。無論であるが、他の目的であっても、必要に応じて、形成され得るものである。
【0027】
次いで、図3(c)に示すように、有機物6をパターニングし、パターニングされた有機物の層7を形成する。パターニングの方法は、有機物6が、感光性を持つものであれば、フォトリソグラフィーにより行うことができる。また有機物6が感光性を持たない場合には、エッチング等の手法を用いることができる。
【0028】
次いで、図3(d)に示すように、溶解可能な樹脂9を、溶媒に溶解し、有機物の層7が形成された基板上に、スピンコート法により塗布して形成する。溶解可能な樹脂としては、ポリメチルイソプロペニルケトン、ポリフェニルイソプロペニルケトン、ポリメチルビニルケトン、ポリフェニルビニルケトン、ポリメタクリル酸メチル等が挙げられる。また、用いられる溶媒としては、非水溶性のシクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、キシレンや、水溶性の乳酸メチル、乳酸エチル等が挙げられる。このとき、有機物の層7上に塗布された溶媒の影響により、有機物の層7を形成する樹脂の非常に小さな部分が、溶解している、あるいは低分子化している場合があると考えられる。特にシクロヘキサノンのようなケトン系溶媒は溶解力が強いため、有機物の層7を溶解させる力が強いと考えられる。すると、有機物の層7と溶解可能な樹脂9との境界には、有機物の層7と溶解可能な樹脂9とが互いに溶けて交じり合った相溶物の状態のものが形成されると考えられる。
【0029】
次いで、図3(e)に示すように、溶解可能な樹脂10をパターニングして、基板上、樹脂層上に流路の形状を有するパターン10を形成する。
【0030】
次いで、図3(f)に示すように、有機物の層7とパターン10とが形成された基板上に、流路形成部材を被覆するための被覆層11を形成する。被覆層11の形成方法としては、エポキシ樹脂と光酸発生剤とを混合し、溶液としてソルベントコートを行うなどの方法があるがこれに限定されることなく、無機物、樹脂等を選択することができる。
【0031】
次いで、図3(g)に示すように、必要に応じて、被覆層11上に、撥水等の表面処理を行うことができる(処理箇所12)。撥水処理の目的としては、吐出口表面へのインクミスト等の付着防止、また耐インク性向上、等である。また撥水以外の目的としては吐出口表面の強度向上が挙げられる。撥水処理を例にとると処理箇所12は、吐出口を形成する部材と一体になっている場合や、撥水層12として形成されている場合がある。撥水処理に用いられる材料としては、例えば、フッ素含有基を有する加水分解性のシラン化合物の縮合物を含む組成物等が挙げられる。その他、インクジェットヘッドの適用例が知られている撥水材料から選択可能である。
【0032】
次いで、図3(h)に示すように、被覆層11と撥水層12に対して、吐出口5を形成する。吐出口5の形成方法は、被覆層と撥水層の材料に応じて選択可能であり、具体的にはフォトリソグラフィー、ドライエッチング等が挙げられる。
【0033】
次いで、図4(a)に示すように、供給口3を形成する。基板1がシリコンである場合には、をTMAH(テトラ・メチル・アンモニウム・ハイドライド)等の水溶液を用いて、シリコン異方性エッチングによりエッチングすることにより達成できる。その他、公知の基板の加工方法を適用可能である。
【0034】
次いで、図4(b)に示すように、必要に応じて、撥水層12を介して、パターン10に対して、紫外線を照射する。これにより、パターン10を形成する樹脂の分子鎖を一部切断し、除去性を向上させる効果をえることができる。紫外線は、300nm以下の短波長をもちいることが好適である。
【0035】
次いで、図4(c)に示すように、溶媒を用いて、パターン10を溶出解させ、吐出口から溶出させて除去する。この際に、吐出口が開口している面(吐出口面)に付着物13が見られる。撥水層12により吐出口面が形成されている場合には、撥水層に微量な付着物13が付着している場合がある。これは、前述したように、一部が、溶解された、または、低分子化された有機物の層7の一部が含まれている場合がある。無論これは、有機物の層7の材料、溶解可能な樹脂9を塗布する際の溶媒、パターン10を除去する際の溶媒、吐出口表面の性質、加えて、工程中で経験する熱、紫外線等によって程度が異なる。とりわけ撥水層等の吐出口表面を形成する物質が、付着物となる密着層と親和性を示す場合には、付着物の発生はより顕著となる。上記は、吐出を行う際において、影響がない程度であるならば、そのまま放置することもできるが、そうでない場合には、本発明による以下の工程を用いて、付着物を除去することができる。
【0036】
図4(d)に示すように、吐出口が開口している面の表層(ここでは撥水層)に付着した付着物13に紫外線を照射する。この工程により、撥水層の表層に付着した付着物の分子鎖を分断させ、低分子量化させることで付着物の除去性を高める。照射量については、数十J/cm程度がこのましい。この照射は吐出口が設けられている面全体に照射することができる。複数の吐出口が設けられている面全体に対して照射を行うことにより、付着物が複数個あった場合であっても、一括して低分子化させることができる。次いで、ウェット除去装置において、適温にて、超音波を付与し、溶媒を用いて、リンスを行って付着物を除去する。先に吐出口面の付着物13に照射した紫外線の効果により、リンスで、吐出口面の付着物を除去することが可能となる。以上のようにして、図4(e)に示すように付着物が吐出口面から除去される。
【0037】
最後に、必要な電気的接続を行い(不図示)インクジェット記録ヘッドが完成させることができる。
【0038】
上記に述べた形態はあくまで一例であり、ほかにも、様々な実施の形態をとることができる。
【0039】
例えば、図3(c)に示した工程の後、図5に示すように、パターニングされた樹脂層に対して、紫外線を照射し、予め、有機物の層7を形成する樹脂を部分的に崩壊させ、低分子化しておくことも可能である。とりわけ、表面のみを部分的に崩壊させることが好ましい。
【0040】
これにより、後の図3(d)に示す工程で、有機物の層7の紫外線が照射された部分は、樹脂層上に塗布される溶解可能な樹脂を溶解させている溶媒に対してより溶解しやすくなる。これは層7を形成する有機物が低分子化しているためであると考えられる。こうしておくと、図4(c)の工程において、有機物の層7由来の付着物はより小さくなる。そのため、図4(d)以降の工程で、付着物13の除去をより行いやすくすることができる。
【0041】
また、流路の製造方法に関して、図3(a)〜(h)に示す流路のパターンを基板上に予め形成する製造方法に代えて以下に説明する製造方法を用いてもよい。
【0042】
図6は、本発明に係る実施形態の記録ヘッドの製造方法の一例を示す模式的断面図であり、図3、4と同様の断面で見た断面図である。
【0043】
図6(a)〜(c)までは、図3(a)〜(c)に示す工程と同様に行う。さらに図5に示す工程を行ってもよいことは言うまでもない。
【0044】
次いで、図6(d)に示すように、流路の側壁を形成する側壁形成部材14を有機物の層7上、または有機物の層7と基板1にまたがって形成する。
【0045】
次いで、図6(e)に示すように、溶解可能な樹脂により、流路8となる部分を満たし、有機物の層7と側壁形成部材14とを被覆するように樹脂層9を形成する。樹脂層9は塗布等により、溶液状態で基板に積層されたとしても、溶媒を蒸発させた後は、固体となる。このとき、樹脂層を形成する樹脂を溶解させていた溶媒により、有機物の層7に対して、既に述べたような低分子化の作用等があり得る。これが後の吐出口面への付着物の要因となりうる。
【0046】
ついで、側壁形成部材14が露出するまで、樹脂層9を基板に向かって研磨する。そしてこの工程により、図6(f)に示すように、側壁形成部材14と樹脂層9を平坦化する。このとき研磨の方法としては、例えばCMP(化学機械的研磨)工程を用いることができる。
【0047】
次いで、図6(g)に示すように、側壁形成部材14と樹脂層9との上に、吐出口を形成する部材でもある吐出口形成部材11や、必要に応じて撥水層12を形成する。
【0048】
そして、図6(h)に示されるように、吐出口5を形成する。
【0049】
上記した吐出口の形成は、例えば、樹脂層上に感光性樹脂をソルベントコート法などにより形成し、露光を行うことによりパターニングすることで形成できる。
【0050】
図6(f)の状態から、吐出口がすでに形成された部材を側壁形成部材14と樹脂層9との上に形成し、図6(h)のような状態を得ることも可能である。
【0051】
以降は、樹脂層9を除去して、流路8を得る。これは、樹脂層9を先に述べたパターン10と同様に扱い、図4(a)から(c)に示される方法に従って行えばよい。
【0052】
さらにその過程で、発生した吐出口面への付着物13は、図4(d)、(e)に示した方法に従って、除去する、または、減少させることができる。
【0053】
以下に実施例を示し、本発明について、さらに詳細に説明する。
【0054】
(実施例1)
図3は、本発明の記録ヘッドの製造方法の一例を示す模式的断面図であり、図1におけるA―A’を通り基板に垂直な断面で見た断面図である。
【0055】
まず、エネルギー発生素子2として電気熱変換素子が設けられた基板1を用意した(図3(a))。
【0056】
次いで、基板1上にポリエーテルアミド樹脂((N−メチル−2−ピロリドン、ブチルセロソルブアセテートを溶媒とした日立化成工業(株)製のHIMAL1200)を塗布した(図3(b))。
【0057】
100℃/30分のベークを行った後、250℃/60分のベークを行い、2μm厚に成膜した。
【0058】
次いで、ポリエーテルアミド有機物6上に感光性ポジ型レジストをスピンコート法により塗布した後、パターニングを行い、感光性ポジ型レジストパターン形成した。感光性ポジ型レジストパターンを用いて、ポリエーテルアミド樹脂をエッチングした後、感光性ポジ型レジストを剥離する事でパターン化された樹脂による密着層としての有機物の層7を形成した。(図3(c))。
【0059】
次いで、ポリメチルイソプロペニルケトン(シクロヘキサノンを溶媒とした東京応化工業(株)製のODUR−1010Aを使用した)を、基板上と密着層上にスピンコート法(ソルベントコート法)した。その後100℃/6分のベークを行い、厚みが16μmのポリメチルイソプロペニルケトン樹脂の層9を形成した(図3(d))。
【0060】
次いで、ポリメチルイソプロペニルケトン樹脂の層9に対して紫外線を照射し、次いで、メチルイソブチルケトンで現像し、パターニングして、流路のパターン10を形成した(図3(e))。
【0061】
次いで、密着層7とパターン10とが形成された基板上に、以下の組成物をスピンコート法により塗布し、60℃/9分のベークを行い、厚みが26μmの被覆層11として形成した(図3(f))。
・エポキシ樹脂 EHPE3150(ダイセル化学(株)製)
・シランカップリング剤 A−187(日本ユニカー(株)製)
・光酸発生剤 SP−172(アデカ(株)製)
・塗布溶媒 キシレン
【0062】
次いで、被覆層11上に、加水分解性シランの縮合物によって形成されるシランをソルベントコートし、撥水層となる層12aを形成した(図3(g))。
【0063】
次いで、露光量0.14J/cmにて、被覆層と撥水層となる層を露光した後、90℃/4分のベークを行った。次いで、メチルイソブチルケトンとキシレンの混合溶媒を用いて、現像し、吐出口5パターンを形成した(図3(i))。次いで、60分のべークを行った。
【0064】
次に、基板1をTMAH(テトラ・メチル・アンモニウム・ハイドライド)の水溶液を用いて、シリコン異方性エッチングによりエッチングし、供給口3を形成した(図4(a))。
【0065】
次に、撥水層上から紫外線を27J/cmの照射量にて照射した(図4(b))。
【0066】
紫外線は、300nm以下の短波長を備えるウシオ電機(株)製の全面露光装置(CE−6000)にて照射した。
【0067】
照射時間は、指定した照射量を合計照射強度値で割る事で算出できる。
合計照射強度値は、紫外線の220nmから320nmの各波長で装置が自動測定した照射強度の合計である。
【0068】
次に、ウェット除去装置内で40℃下で、超音波を付与し、溶媒として乳酸メチルを用いて、ポリメチルイソプロペニルケトンのパターン10を除去した(図4(c))。
【0069】
次に、撥水層の表層に付着した付着物に紫外線を18J/cmの照射量にて照射した。この工程により、撥水層の表層に付着した付着物の分子鎖を分断させ、付着物の除去を可能とした(図4(d))。
【0070】
紫外線は、300nm以下の短波長を備えるウシオ電機(株)製の全面露光装置(CE−6000)にて照射した。照射時間は、指定した照射量を合計照射強度値で割る事で算出できる。合計照射強度値は、紫外線の220nmから320nmの各波長で装置が自動測定した照射強度の合計である。
【0071】
次いで、ウェット除去装置において、40℃の条件で、周波数200kHz、音圧30mV以上の超音波を付与し、乳酸メチルを用いて、リンスを行って付着物を除去した(図4(e))。
【0072】
次いで、ベークを行い、被覆層11を完全に硬化させた。
【0073】
最後に、必要な電気的接続を行い(不図示)インクジェット記録ヘッドが完成した。
【0074】
(実施例2)
本実施例は、吐出口表面に付着した付着物の除去性をより高めたものである。
【0075】
図3(a)〜(c)に示す工程までは、実施例1と同様にした。
【0076】
次いで、図5に示すように、基板上に形成した密着層7上に紫外線を照射した。紫外線は、300nm以下の短波長を備えるウシオ電機(株)
製の全面露光装置(CE−6000)にて照射した。照射時間は、指定した照射量を合計照射強度値で割る事で算出できる。合計照射強度値は、紫外線の220nmから320nmの各波長で装置が自動測定した照射強度の合計値である。
【0077】
以降の工程は、実施例1と同様にした。
【0078】
(比較例)
吐出口表面の付着物に紫外線を照射せずに記録ヘッドを作成した。すなわち図4(d)の工程を行わなかった。それ以外は実施例1と同様にして行った。
【0079】
(評価)
まず作成した記録ヘッドの吐出口面を観察した。そうしたところ、実施例1の記録ヘッドにおいては、吐出口周辺に0.05μm以下の大きさの付着物が、微量であるが発生していた。一方実施例2の記録ヘッドにおいては、実施例1よりも付着物が少ないことが確認できた。一方比較例の記録ヘッドにおいては、実施例1および2の記録ヘッドと比べて多くの付着物見られ、付着物の大きさも0.05〜0.2μmと大きいものが見られる場合があった。
【0080】
また、実施例1および2の記録ヘッドを、温度30℃湿度80%の環境下にて顔料インクに1ヶ月浸漬保存した後、記録装置に搭載し印字を行った。そうしたところ、インク液滴を所望の着弾位置に着弾させることができた。良好な印字が行えたといえる。一方、比較例の記録ヘッドも実施例1および2と同条件にて印字を行ったところ、所望の印字が行えない場合があった。これは、吐出口面において観測された付着物の影響によりインク滴がヨレたのではないかと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の一実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの一例を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るインクジェット記録ヘッドカートリッジの一例を示す模式的斜視図である。
【図3】本発明のインクジェット記録ヘッドの製造方法の一例を示す模式的断面図である。
【図4】本発明のインクジェット記録ヘッドの製造方法の一例を示す模式的断面図である。
【図5】本発明のインクジェット記録ヘッドの製造方法の一例を示す模式的断面図である。
【図6】本発明のインクジェット記録ヘッドの製造方法の一例を示す模式的断面図である。
【符号の説明】
【0082】
1 基板
2 エネルギー発生素子
3 供給口
4 流路
5 吐出口
7 樹脂層 密着層
10 パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する吐出口と連通する流路を形成する流路形成部材を有する液体吐出ヘッドの製造方法において、
前記基板上に有機物の層を設ける工程と、
前記有機物の層上に、溶解可能な樹脂を塗布して樹脂層を設ける工程と、
前記樹脂層をパターニングして前記流路の形状のパターンを形成する工程と、
前記パターンを被覆するように前記流路形成部材となる被覆層を設ける工程と、
前記被覆層に前記吐出口を形成し、前記吐出口から前記パターンの一部を露出させる工程と、
前記吐出口から前記パターンを溶出させて前記流路を形成する工程と、
前記流路形成部材の、前記吐出口が設けられた面に付着している、前記有機物を含む付着物に紫外線を照射する工程と、
前記付着物を除去する工程と、
を有することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項2】
基板上に形成された前記有機物の層に紫外線を照射して前記有機物の層の表面の前記有機物を部分的に崩壊させたのちに、前記有機物の層上に前記溶解可能な樹脂を塗布することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記付着物は前記樹脂層を形成する化合物を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記付着物は、前記化合物と前記有機物との相溶物であることを特徴とする請求項3に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記パターンを溶出させる際に使用した溶媒を用いて、前記付着物をリンスすることにより、前記付着物を除去することを特徴とする請求項4に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記有機物はポリエーテルアミドであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項7】
シクロヘキサノンを溶媒として使用して、前記溶解可能な樹脂を塗布することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項8】
前記紫外線は前記吐出口が設けられている面全体に照射されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項9】
液体を吐出する吐出口が形成された吐出口形成部材と、前記吐出口と連通する流路の側壁が形成された側壁形成部材と、を有する液体吐出ヘッドの製造方法において、
前記基板上に有機物の層を設ける工程と、
前記有機物の層上に、前記有機物の層が部分的に露出するように、前記側壁形成部材を設ける工程と、
溶解可能な樹脂を塗布して前記流路となる部分を満たし前記有機物の層と前記側壁形成部材とを被覆する樹脂層を設ける工程と、
前記側壁の一部が露出する状態となるように、前記樹脂層を基板に向かって研磨する工程と、
前記側壁と前記樹脂層との上に、前記吐出口形成部材を設ける工程と、
前記樹脂層を前記吐出口から溶出して前記流路を形成する工程と、
前記吐出口形成部材の前記吐出口が設けられた面に付着している、前記有機物を含む付着物に紫外線を照射する工程と、
前記付着物を除去する工程と、
を有することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項10】
前記有機物の層に紫外線を照射して前記有機物の層の表面を部分的に崩壊させた後に、前記有機物の層上に前記溶解可能な樹脂を塗布することを特徴とする請求項9に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項11】
前記樹脂層を溶出させる際に使用した溶媒を用いて、前記付着物をリンスすることにより、前記付着物を除去することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−23344(P2009−23344A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−159317(P2008−159317)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】