説明

液体吐出ヘッドの製造方法

【課題】製造工程において使用される有機溶剤と接液することによる樹脂層の膨潤、収縮を低減する。
【解決手段】基体1の上に、供給口3が設けられた領域にフィルタ29を有し、金属粒子を含有する樹脂層7を設ける。その後、樹脂層7の供給口3が設けられた側の面に、金属粒子を触媒としてめっき層9を設ける。保護材10や型材13を除去する際に、フィルタ29は有機溶剤に接液するが、樹脂部材7をめっき層9で保持することにより樹脂部材7への変形を抑止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出する液体吐出ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
吐出口から液体を吐出することで記録動作を行う液体吐出ヘッドは、吐出口に連通する流路と液体を吐出するためのエネルギー発生素子とに液体を供給するために、基板を貫通する供給口を有している。液体は、基板に設けられた供給口から供給されて流路を通り、吐出口から吐出される。このような液体吐出ヘッドは、吐出口や流路内にゴミなどの異物が混入すると、液体の供給ができず記録動作を行うことができなくなるため、異物の混入を防止することが求められている。このような異物は、製造過程で発生し、供給口などに付着したのち、液体とともに吐出口や流路に侵入したものであると考えられる。特許文献1には、液体吐出ヘッドの流路内への異物の混入を防止する構成が開示されている。
【0003】
特許文献1の液体吐出ヘッドを図4に示す。液体吐出ヘッドは、エネルギー発生素子62と供給口73とを備えた基板61と、吐出口71に連通する流路の壁を有する流路壁部材69とが接合して設けられている。基板と流路壁部材の間にフィルタ穴67aを有する樹脂部材67が設けられていることで、異物が供給口から流路に侵入することを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−178364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1に開示される液体吐出ヘッドは、供給口を開口させ、樹脂部材67が露出した状態で、供給口開口時に使用した保護材の除去や流路を形成する工程を行うため、その工程において使用される有機溶剤に樹脂部材67が接触することになる。そうした場合には、樹脂部材67の材料によっては、樹脂部材67が膨潤、収縮を起こすことによって、樹脂部材67に変形が生じる懸念があり、これによりフィルタとしての機能を充足できなくなる可能性がある。
【0006】
本発明は上述の技術課題を鑑みて発明されたものであり、供給口からの異物が流路に侵入することをより抑制できる信頼性の高い液体吐出ヘッドを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の液体吐出ヘッドの製造方法は、液体を吐出口から吐出するためのエネルギーを発生するエネルギー発生素子を備える第1の面を有する基板と、前記吐出口と連通する流路の壁を有し、前記基板と接することで前記流路を構成する流路壁部材と、を有し、前記第1の面を覆うように、金属粒子を含有し、複数の開口部が設けられた樹脂層を設ける工程と、前記複数の開口部と前記樹脂層の一部とを覆い、前記複数の開口部の中に入るように、前記流路の型材を設ける工程と、前記型材と該型材で覆われていない前記樹脂層とを覆うように、前記流路壁部材を設ける工程と、前記流路壁部材を覆うように、前記樹脂層を保護するための保護材を設ける工程と、前記基板の、前記第1の面とは反対側の第2の面に、液体の供給口となる凹部を形成して、前記樹脂層を露出させる工程と、無電解めっき法により、前記樹脂層が露出している部分に前記金属粒子を触媒としてめっき層を設ける工程と、溶剤を用いて前記保護材を除去する工程と、前記型材を除去して、前記流路を形成し、前記複数の開口部を介して前記流路と前記供給口とを連通させる工程と、をこの順に行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、樹脂層をめっき層で保護することによって、供給口からの異物が流路に侵入することをより抑制できる信頼性の高い液体吐出ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の液体吐出ヘッド及びヘッドユニットの模式的斜視図である。
【図2】本発明の液体吐出ヘッドの製造方法の一例を示す模式的断面図である。
【図3】本発明の液体吐出ヘッドの製造方法の一例を示す模式的断面図である。
【図4】従来の液体吐出ヘッドの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の説明では,同一の機能を有する構成には図面中同一の番号を付与し、その説明を省略する場合がある。
【0011】
液体吐出ヘッドは、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサなどの装置、さらには各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に搭載可能である。そして、この液体吐出ヘッドを用いることによって、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど種々の記録媒体に記録を行うことができる。
【0012】
本明細書内で用いられる「記録」とは、文字や図形などの意味を持つ画像を被記録媒体に対して付与することだけでなく、パターンなどの意味を持たない画像を付与することも意味することとする。
【0013】
さらに、「液体」とは、広く解釈されるべきものであり、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成、記録媒体の加工、或いはインクまたは記録媒体の処理に供される液体を言うものとする。ここで、インクまたは記録媒体の処理としては、例えば、記録媒体に付与されるインク中の色材の凝固または不溶化による定着性の向上や、記録品位ないし発色性の向上、画像耐久性の向上などのことを言う。
【0014】
まず、本発明を適用可能な液体吐出ヘッド(以下ヘッドとも称する)について説明する。
【0015】
図1(a)は、本発明の液体吐出ヘッドの一例を示す模式的斜視図である。本発明の液体吐出ヘッド100の切断面図は図4(e)であり、図1(a)に示すA−A’断面を示したものである。本発明の液体吐出ヘッド100は、液体を吐出口5から吐出するためのエネルギーを発生するエネルギー発生素子2を備えた液体吐出ヘッド用基板20と、液体吐出ヘッド用基板20の上に設けられた流路壁部材4とで設けられている。液体吐出ヘッド用基板20には、複数のエネルギー発生素子2を所定のピッチで配列してなる素子列が、2列に並んで設けられている。素子列の間の領域には、基体1の第1の面11の反対側の面である第2の面12と第1の面11とを貫通し、液体を供給する供給口3が設けられている。ここでは、供給口3が一つ設けられた液体吐出ヘッドを用いて説明するが、複数の供給口3を有する液体吐出ヘッドでも同様に本発明を適用することができる。
【0016】
液体吐出ヘッド用基板20には、複数の開口部8を有する樹脂部材7とめっき層9とからなるフィルタ29が設けられている。液体吐出ヘッド用基板20の樹脂部材7の上に、吐出口5と連通する流路6の壁6aを有し、液体吐出ヘッド用基板と接することで流路6を構成する流路壁部材4が設けられている。
【0017】
エネルギー発生素子2としては、電気熱変換素子(ヒーター)または、圧電素子(ピエゾ素子)等が挙げられる。エネルギー発生素子2には、これらを駆動するための電極層(不図示)が接続されている。
【0018】
液体吐出ヘッド100は、供給口3を介して流路6内に充填された液体を、エネルギー発生素子2によって発生するエネルギーを利用して吐出口5から吐出し、これを被記録媒体に付着させることによって記録を行うことができる。
【0019】
次に、フィルタ29について説明する。
樹脂部材7には、無電解めっき法を行う際の触媒となる金属粒子が混合されている。このような金属粒子の材料としては、パラジウム、ニッケル、白金、金、銅を主成分とする金属もしくは、これらの合金を用いることができる。金属粒子の平均粒径は0.05μmから1μm程度であることが好ましい。粒径が小さいほうが、分散しやすいためである。樹脂としては、熱可塑性樹脂を用いることができ、ポリエーテルアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネイト樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂のうちいずれかを用いることができる。金属粒子と樹脂とを混合することで、樹脂部材7となる樹脂混合物が設けられる。樹脂混合物には、金属粒子と樹脂との分散性を向上させるために、溶媒を用いることもできる。また、感光性材料を混合して感光性をもたせることもできる。金属粒子は、樹脂混合層17の10重量%以上70重量%以下となるように混合することが好ましい。効率的にめっき層9を設けるという観点から10重量%が好ましく、フィルタ29を形状精度よく形成するという点から70重量%以下が好ましい。
【0020】
樹脂部材7の供給口側の面には、樹脂部材7に接するようにめっき層9が設けられている。めっき層9としては、パラジウム、ニッケル、白金、金、銅を主成分とする層を設けることができる。めっき層9は、樹脂部材7に含まれる金属粒子を触媒として無電解めっき反応を起こし、金属粒子に吸着することで設けることができるため、樹脂部材7とめっき層9の開口部は一致して設けられている。このような樹脂部材7とめっき層9とが、複数の開口部8を有するフィルタ29として用いられる。
【0021】
また樹脂部材7に用いられる樹脂の材料は、金属粒子を分散するだけでなく、流路壁部材4との密着性を確保できる材料を選択することで、流路壁部材4と樹脂部材7との密着性を向上させることができる。
【0022】
このようなフィルタ29を有する液体吐出ヘッド100は、供給口3から異物が混入しても、異物をフィルタ29で保持することができ、吐出口5や流路6に詰まりが生じることを抑制、あるいは防止することができる。そのようなフィルタ機能に関係して、開口部8の口径は吐出口5の径以下の長さであることが好ましい。
【0023】
図1(b)は、このような液体吐出ヘッド100を備えたヘッドユニットの一例を示す模式的斜視図である。液体吐出ヘッド100は、吐出口5が設けられた面が被記録媒体の記録面に対面するように、ヘッドユニット300に配置される。ヘッドユニット300は、液体吐出ヘッド100と液体吐出ヘッド100へ供給するための液体を収容する液体収容部200とを備え、これらが一体となって設けられている。なお、これらは必ずしも一体になっている必要はなく、液体収容部200の取り外しが可能な形態を取ることもできる。
【0024】
(製造方法)
次に、本発明のヘッドの製造方法について、以下に説明する。図2及び図3は製造方法を示した切断面図であり、図1(a)に示すA−A’断面を示したものである。
【0025】
図2(a)に示すように、液体を吐出するために用いられるエネルギーを発生するエネルギー発生素子2を第1の面11に備えた基体1を用意する。
【0026】
次に、図2(b)に示すように、エネルギー発生素子2を備えた基体1の第1の面11の上に、金属粒子と樹脂とを混合した樹脂混合物を塗布し、樹脂混合層17を設ける。
【0027】
次に図2(c)に示すように、樹脂混合層17の複数の開口部8に該当する位置を除去し、複数の開口部8を有する樹脂部材7とする。樹脂混合物に感光性材料が混合されていれば、フォトリソグラフィー法により開口部8を設けることができる。また樹脂混合物が感光性を持たない場合には、レジスト等によりマスクを設けた後、エッチング等の手法を用いて開口部8を設けることができる。
【0028】
次に、図2(d)に示すように溶解可能な樹脂を溶媒に溶解したものを、開口部8が設けられた樹脂部材7と基体1との上に塗布し、樹脂層19を設ける。溶解可能な樹脂としては、ポリメチルイソプロペニルケトン、ポリフェニルイソプロペニルケトン、ポリメチルビニルケトン、ポリフェニルビニルケトン、ポリメタクリル酸メチル等が挙げられる。また溶媒としては、非水溶性のシクロヘキサノン・メチルイソブチルケトンや、水溶性の乳酸メチル・乳酸エチル等を用いることができる。
【0029】
次に、図2(e)に示すように、樹脂層19をパターニングして、樹脂部材7の一部の上に、流路6の型となるように型材13に形成する。
【0030】
次に、図2(f)に示すように、樹脂部材7と型材13とが形成された基体1上に、被覆層14を設ける。被覆層14としては、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることができる。
【0031】
次に、図2(g)に示すように、被覆層14上に、撥水層21を設けることもできる。このように撥水処理を行うことで、吐出口5表面への液体の付着防止し、液体への耐性を向上させることができる。撥水処理に用いられる材料としては、フッ素含有基を有する加水分解性のシラン化合物の縮合物を含む組成物等を用いることができる。
【0032】
次に、図2(h)に示すように、被覆層14に吐出口5を形成し、流路壁部材4とする。吐出口5は、フォトリソグラフィー法やドライエッチング法等を用いて設けることができる。
【0033】
次に、図3(a)に示すように、溶解可能な保護材10を溶媒に溶解し、流路壁部材4を備えた基体1の上にスピンコート法等を用いて塗布する。このように保護材10を設けることにより、供給口3を形成する際に流路壁部材4を保護することができる。溶解可能な保護材10としては、耐エッチング性を有し、供給口3を設けた後に除去可能な材料を用いることができ、具体的には環化イソプレンなどの還流環化ゴムを用いることができる。溶媒としては、保護材10を溶解できるキシレン等の有機溶剤を用いることができる。
【0034】
次に、図3(b)に示すように、基体1の第2の面12側からエッチングを行い、基体1の第1の面11と第2の面12とを貫通し、供給口3となる凹部を形成する。基体1がシリコンである場合には、第2の面12に耐エッチング性のあるマスクを設け、TMAH(テトラ・メチル・アンモニウム・ハイドライド)等の水溶液を用いて、異方性エッチングすることにより供給口3を設けることができる。
【0035】
次に、基体1の第2の面側から供給口3にめっき溶液を充填し、複数の開口部8を有する樹脂部材7の供給口3の側に無電解めっき法を用いて、図3(c)に示すようにめっき層9を形成する。このときめっき層9は、樹脂部材7に含有される金属粒子を触媒として無電解めっき反応を起こして成長するため、樹脂部材7が設けられた領域にのみ、めっき金属を析出させることができる。
【0036】
このように無電解めっき法を用いることにより、電解めっき法を行う際に必要な、シード層やレジスト等でめっき用マスクを設けることなく、容易に樹脂部材7とほぼ同じ位置に、樹脂部材7を保持するようにめっき層9を析出させることができる。めっき層9としては、パラジウム、ニッケル、白金、金、銅を主成分とする層を設けることができ、めっき溶液としてはこれらを溶解した溶液が用いられる。
【0037】
めっき処理を行う前には、めっき溶液と接する部位の樹脂部材7の表面をエッチングして荒らすことにより、めっき層9と樹脂部材7の密着性を確保することができる。また、表面をエッチングして荒らすことにより、樹脂部材7の内部に埋もれている金属粒子を、樹脂部材7のめっき層9を設ける側の面に露出させることができる。これにより、より多くの金属粒子を触媒としてめっき反応を行うことができ、さらに効率的にめっき層9を設けることができる。
【0038】
次に、図3(d)に示すように、有機溶剤を用いて保護材10を溶解し、除去する。次に、図3(e)に示すように、有機溶剤を用いて溶解可能な型材13を溶解して除去し、流路6を形成する。
【0039】
このように、保護材10や型材13を除去する際に、フィルタ29は有機溶剤に接液するが、樹脂部材7をめっき層9で保持することにより樹脂部材7への変形を抑止することができる。これにより、製造工程における不良のない信頼性の高い液体吐出ヘッドを提供することができる。
【0040】
以下に実施例を示し、さらに詳細に説明する。
【0041】
(実施例1)
本実施例においては無電解めっき法を行う際の触媒として用いられる金属粒子として、パラジウムを主成分とする金属粒子を使用している。また、エネルギー発生素子2として電気熱変換素子を用いた。このような電気熱変換素子2が第1の面11上設けられた基体1を用意した(図2(a))。次に基体1の第1の面11上に、平均粒径が約0.1μmのパラジウム粒子とポリエーテルアミド樹脂との樹脂混合物を、スピンコート法により塗布し、100℃/30分と、250℃/60分のベークを行った(図2(b))。これにより約2μmの樹脂混合層17を設けた。パラジウム粒子は、樹脂混合物の25重量%となるように調合されている。ポリエーテルアミド樹脂としては、(N−メチル−2−ピロリドン、ブチルセロソルブアセテートを溶媒とした日立化成工業株式会社製のHIMAL1200)を用いた。
【0042】
次に樹脂混合層17に感光性ポジ型レジストをスピンコート法により塗布し、パターニングを行い、開口部8となる部分のみ開口したレジストパターンを形成する。このレジストパターンをマスクとして用いて、樹脂混合層17の開口部8となる部分をドライエッチング法を用いて除去し、さらにレジストパターンを除去して樹脂部材7を設けた(c)。
【0043】
次に溶解可能な樹脂として本実施例においては、ポリメチルイソプロペニルケトン樹脂(シクロヘキサノンを溶媒とした東京応化工業株式会社製のODUR−1010Aを使用した)を採用した。この溶解可能な樹脂を、基体1上と樹脂部材7上にスピンコート法により塗布し100℃/6分のベークを行い、厚みが16μmの樹脂層19を設けた(図2(d))。
【0044】
次に、ウシオ電機株式会社製の露光装置(UX−3000SC)を用いて、露光量13J/cmで、樹脂層19を露光した。この樹脂層19を、メチルイソブチルケトンを現像液と用い、現像することで流路6の型となるように型材13を形成した(図2(e))。
【0045】
次に樹脂部材7と型材13が形成された基体1の上に、以下の組成の感光性を有する溶液をスピンコート法により塗布し、60℃/9分のベークを行い、厚みが26μmの被覆層14を形成した(図2(f))。
・エポキシ樹脂 EHPE3150
・シランカップリング剤 A−187
・光酸発生剤 SP−172
・塗布溶媒 キシレン
次に、被覆層14上に、加水分解性シランの縮合物によって形成される感光性を有するシラン材料を塗布し、撥水層21を形成した(図2(g))。
【0046】
このように設けた被覆層14と撥水層とにキヤノン株式会社製の露光装置(MPA−600SUPER)を用いて、露光量0.15J/cmにて、被覆層14と撥水層とを露光した後、90℃/4分のベークを行った。さらにメチルイソブチルケトンとキシレンの混合溶媒を現像液として用いて現像し、140℃/60分のべークすることで、吐出口5を有する流路壁部材4を形成した(図2(h))。
【0047】
次に環化イソプレンを、流路壁部材4と撥水層21が形成された基体1上にスピンコート法により塗布し、120℃/15分のベークを行い、保護材10を形成した(図3(a))。本実施例において、還流環化ゴムはキシレン、エチルベンゼンを溶媒とした東京応化工業株式会社製のOBCを使用した。
【0048】
次に、シリコン基体1の第2の面12側にフォトリソグラフィー法を用いてマスク材(不図示)を設け、TMAH(テトラ・メチル・アンモニウム・ハイドライド)の水溶液を用いて、エッチングして供給口3を形成した(図3(b))。
【0049】
次に以下の組成の溶液を用いて無電解めっき法を行い、樹脂部材7の供給口3側の部位に、厚みが1μmのニッケルめっき層9を形成した。これにより、樹脂部材7とニッケルめっき層9とからなる、複数の開口部8を有するフィルタ29を設けた(図3(c))。
・硫酸ニッケル 20g/l
・次亜りん酸ナトリウム 10g/l
・乳酸 3g/l
・クエン酸ナトリウム 5g/l
・酢酸ナトリウム 5g/l
次に、溶媒としてキシレンを用いて、保護材10を除去した(図3(d))。
【0050】
次に、溶媒として乳酸メチルを用いて、型材13のパターンを除去し、さらに200℃/60分のベークを行い、エポキシ樹脂からなる流路壁部材4を硬化(エポキシ樹脂の硬化物)させた。(図3(e))。なお、本実施例のようにポリエーテルアミド樹脂を主成分とする樹脂部材7と、エポキシ樹脂の硬化物からなる流路壁部材4とすることで、樹脂部材7と流路壁部材4との密着性を確保することもできた。
【0051】
以上のように作成したヘッドの観察を行ったところ、樹脂部材7に変形が生じていなかった。このように製造工程における樹脂部材7への変形を抑止することで、信頼性の高い液体吐出ヘッドを提供することができた。
【0052】
(実施例2)
本実施例においては以下の組成の溶液を用いてめっき層9を設けた。それ以外については実施例1と同様に設けた。
【0053】
無電解めっき装置において、以下の組成のめっき用溶液を用いて、樹脂部材7の供給口側に、厚みが1μmの銅めっき層9を形成した(図3(c))。
・硫酸銅 7g/l
・酒石酸カリウムナトリウム 20g/l
・炭酸ナトリウム 2g/l
・水酸化ナトリウム 5g/l
・ホルマリン 25ml/l
フィルタ29を、樹脂部材7と銅めっき層9とで設けることで、製造工程における樹脂部材7の変形を抑止することができ、信頼性の高い液体吐出ヘッドを提供することができた。
【0054】
(実施例3)
本実施例においては以下の組成の溶液を用いてめっき層9を設けた。それ以外については実施例1と同様に設けた。
【0055】
無電解めっき装置において、以下の組成のめっき用溶液を用いて、樹脂部材7の供給口側に、厚みが1μmの金めっき層9を形成した(図3(c))。
・塩化金(III)酸ナトリウム 0.012mol/l
・チオ硫酸ナトリウム 0.25mol/l
・亜硫酸ナトリウム 0.40mol/l
・ホウ砂 0.10mol/l
・ヒドロキノン 0.09mol/l
フィルタ29を、樹脂部材7と金めっき層9とで設けることで、製造工程における樹脂部材7の変形を抑止することができ、信頼性の高い液体吐出ヘッドを提供することができた。
【符号の説明】
【0056】
1 基板
2 エネルギー発生素子
3 供給口
4 流路壁部材
5 吐出口
6 流路
7 樹脂部材
8 開口部
9 めっき層
29 フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出口から吐出するためのエネルギーを発生するエネルギー発生素子を備える第1の面を有する基板と、前記吐出口と連通する流路の壁を有し、前記基板と接することで前記流路を構成する流路壁部材と、を有する液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記第1の面を覆うように、金属粒子を含有し、複数の開口部が設けられた樹脂層を設ける工程と、
前記複数の開口部と前記樹脂層の一部とを覆い、前記複数の開口部の中に入るように、前記流路の型材を設ける工程と、
前記型材と該型材で覆われていない前記樹脂層とを覆うように、前記流路壁部材を設ける工程と、
前記流路壁部材を覆うように、前記樹脂層を保護するための保護材を設ける工程と、
前記基板の、前記第1の面とは反対側の第2の面に、液体の供給口となる凹部を形成して、前記樹脂層を露出させる工程と、
無電解めっき法により、前記樹脂層が露出している部分に前記金属粒子を触媒としてめっき層を設ける工程と、
溶剤を用いて前記保護材を除去する工程と、
前記型材を除去して、前記流路を形成し、前記複数の開口部を介して前記流路と前記供給口とを連通させる工程と、
をこの順に行うことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記供給口を設ける工程の後であって、前記めっき層を設ける工程の前に、前記樹脂層の前記領域をエッチングして、前記金属粒子を露出する工程を有することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記樹脂層を設ける工程は、前記金属粒子を、10重量%以上であり70重量%以下に混合した樹脂混合層を設ける工程と、前記樹脂混合層に前記複数の開口部を設ける工程と、を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記金属粒子は、パラジウム、ニッケル、白金、金及び銅のうち少なくとも1つを含有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記めっき層は、パラジウム、ニッケル、白金、金、銅のうちのいずれかを含むことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記樹脂層は、金属粒子を含有する熱可塑性の樹脂で設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記樹脂層は前記金属粒子を含有するポリエーテルアミド樹脂からなり、前記流路壁部材はエポキシ樹脂の硬化物からなることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項8】
前記保護材は環化イソプレンであり、前記保護材を除去するための溶液としてキシレンを使用することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項9】
前記開口部の口径は、前記吐出口の径以下の長さであることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−110765(P2011−110765A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267727(P2009−267727)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】