説明

液体吐出ヘッド及びその製造方法

【課題】本発明の目的は、インク供給口等の供給口内に、カバレッジ性に優れかつ容易に製造可能な液体吐出ヘッドを提要することを目的とする。。
【解決手段】本発明は、液体を吐出する吐出口と該吐出口に連通する液流路とを含む流路形成部材と、前記液流路に前記液体を供給するための供給口を含むシリコン基板と、を少なくとも有する液体吐出ヘッドであって、前記供給口の壁面に、前記流路形成部材を構成する部材と同一の材料である有機樹脂からなる保護膜が形成されていることを特徴とする液体吐出ヘッドである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出する液体吐出ヘッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されたインクジェットプリント法は、液滴吐出の原動力である熱エネルギーを液体に作用させて液体を吐出する方法である。すなわち、このインクジェットプリント法は、熱エネルギーの作用を受けた液体が加熱による気化に伴って気泡を発生し、この気泡の成長に伴う膨張カにより吐出口から液滴がプリント媒体に噴射される。この液滴により、文字やイメージなどの所定の画像情報がプリント媒体にプリントされる。この方法に用いられるプリントヘッドは、例えば以下の構成を備えている。
(1)液体を吐出するための吐出口
(2)吐出口に連通して噴射するための液体が供給される液室
(3)吐出エネルギー発生素子によって発生する熱を蓄熱するための蓄熱層
(4)液滴を吐出口から噴射させるための熱エネルギーを発生する吐出エネルギー発生素子
(5)吐出エネルギー発生素子を液体から保護するパッシベイション層
また、特許文献2には、上述の液室に連通してこの液室に液体を供給するためのインク供給口を異方性エッチングにより形成する方法が開示されている。さらに、特許文献3には、犠牲層を用いてインク供給口を高精度に形成する方法が開示されている。さらにまた、特許文献4にはこの犠牲層を形成する工程を簡略化する方法が開示されている。
【0003】
上述の文献に記載されるようなインク供給口を形成する手法では、<100>の面方位を有するSi基板のアルカリ溶液による結晶異方性エッチングが用いられている。これは、面方位によるアルカリ溶液に対する溶解速度差を利用したもので、具体的には、溶解速度の極めて遅い<111>面を残すような形態でエッチングが進行する。
【0004】
ここで、結晶異方性エッチングにより形成されたインク供給口は、剥き出しになったシリコン面に直接インクが触れる構造となっている。近年、インクジェットプリンタの印字品位向上に伴い、インクには様々な濃度やpH7以上の強アルカリ性の材料が使用されるようになり、シリコン部に接したインクがシリコンを溶解してしまう場合がある。そこで、インクと直接触れるインク供給口を、耐インク性の部材で保護することが望まれており、例えば特許文献5では、インク供給口とインク流路の一部分に無機膜を成膜することによって保護層を形成する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭54−51837号公報
【特許文献2】特開平09−011479号公報
【特許文献3】特開平10−181032号公報
【特許文献4】特開2005−035281号公報
【特許文献5】特開2006−315191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献5に記載の手法では、インク供給口に無機膜をスパッタ法で成膜するためにカバレッジ性に乏しい場合がある。また、成膜装置などの大掛かりな設備や工程が必要となるため、コストアップしてしまう場合がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、インク供給口等の供給口内に、カバレッジ性に優れかつ容易に製造可能な液体吐出ヘッドを提要することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、液体を吐出する吐出口と該吐出口に連通する液流路とを含む流路形成部材と、前記液流路に前記液体を供給するための供給口を含むシリコン基板と、を少なくとも有する液体吐出ヘッドであって、
前記供給口の壁面に、前記流路形成部材を構成する部材と同一の材料である有機樹脂からなる保護膜が形成されていることを特徴とする液体吐出ヘッドである。
【0009】
また、本発明は、
液体を吐出する吐出口と、該吐出口に連通する液流路とを含む流路形成部材と、
前記液体を吐出するための吐出エネルギー発生素子と、前記液流路に前記液体を供給するための供給口とを含むシリコン基板と、を少なくとも有し、
前記流路形成部材は、少なくとも、前記液流路の壁面を構成する被覆樹脂層と、前記シリコン基板と前記被覆樹脂層との間に配置される密着樹脂層と、から構成されている液体吐出ヘッドの製造方法であって、
(a)表面に前記吐出エネルギー発生素子と、前記供給口の開口寸法を制御するための犠牲層と、前記エネルギー発生素子と前記犠牲層の前記シリコン基板と反対側にパッシベイション層と、を有するシリコン基板を用意する工程と、
(b)ドライエッチングを用いて前記パッシベイション層に前記犠牲層の側面に沿って溝を形成する工程と、
(c)前記溝に、前記被覆樹脂層又は前記密着樹脂層と同じ材料である第1の有機樹脂を充填する工程と、
(d)前記パッシベイション層の上に前記密着樹脂層を形成する工程と、
(e)前記シリコン基板の前記流路形成部材が配置される面と反対側の面に前記供給口を形成するためのエッチングマスク層を形成する工程と、
(f)少なくとも前記第1の有機樹脂の上に前記液流路の型材となる流路型部材を形成する工程と、
(g)少なくとも前記密着樹脂層及び前記流路型部材の上に前記被覆樹脂層を形成する工程と、
(h)前記エッチングマスク層を用いて、被エッチング面が前記犠牲層に到達して前記犠牲層が除去されるまで前記シリコン基板を結晶異方性エッチング処理し、前記供給口を形成する工程と、
(i)前記結晶異方性エッチングにより、エッチングストップ層を兼ねている前記パッシベイション層まで開口された前記供給口の壁面に前記被覆樹脂層又は前記密着樹脂層と同じ材料である第2の有機樹脂を形成する工程と、
(j)前記パッシベイション層のうち前記供給口に露出する部分を除去する工程と、
を有する液体吐出ヘッドの製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、流路形成部材を構成する部材と同一の材料を用いるため、容易に保護膜を形成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明における実施形態を示す模式的な斜視図及び垂直断面図である。
【図2】本発明における実施形態を示す模式的な垂直断面図である。
【図3】本発明における実施形態を示す模式的な斜視図である。
【図4】本実施形態の製造方法を説明するための斜視又は断面工程図である。
【図5】本実施形態の製造方法を説明するための斜視又は断面工程図である。
【図6】本実施形態の製造方法を説明するための断面工程図である。
【図7】実施例3の製造方法を示すための模式的断面図及び拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る液体吐出ヘッドは、液体を吐出する吐出口と該吐出口に連通する液流路とを含む流路形成部材と、前記液流路に液体を供給するための供給口を含むシリコン基板と、を少なくとも有する。
【0013】
また、本発明に係る液体吐出ヘッドは、供給口の壁面に、流路形成部材を構成する部材と同一の材料である有機樹脂からなる保護膜が形成されている。
【0014】
流路形成部材は、液流路の壁面を構成する被覆樹脂層と、シリコン基板と被覆樹脂層との間に配置される密着樹脂層と、を含む。したがって、保護膜は被覆樹脂層又は被覆樹脂層の材料と同一の材料を用いて形成される。
【0015】
被覆樹脂層としては、例えば、感光性エポキシ樹脂、感光性アクリル樹脂などを用いることができ、光反応によるカチオン重合性化合物を用いることが好ましい。また、流路形成部材の材料としては、用いる液体の種類および特性によって耐久性などが大きく左右されるので、用いるインク等の液体によって適当な化合物を選択することができる。
【0016】
密着樹脂層としては、例えば、ポリアミド樹脂を用いることができる。
【0017】
液流路の壁面を構成する被覆樹脂層は、一般的に液流路を流れる液体に対して耐性を有する材料で形成される。つまり、インク流路の壁面を構成する被覆樹脂層と同じ材料で供給口の保護膜を形成することにより、供給口の壁面を有効に保護することができる。また、密着樹脂層に用いられるポリアミド樹脂も一般的に液体に対する耐性が高く、耐インク性に優れる材料である。
【0018】
また、保護膜は、供給口の壁面に加えて液流路の底部にも形成されていることが好ましい。液流路の底部に設ける保護膜は、密着樹脂層と同じ材料で形勢されていることが好ましい。密着樹脂層と同じ材料で形成することにより、密着樹脂層と同時にパターニング形成することができ、製造工程の観点から有利であるためである。
【0019】
また、液流路の底部に形成される部分の保護膜及び前記密着樹脂層は、凹凸形状を有することが好ましい。凹凸形状を有することにより、インク等の液体との濡れ性を向上でき、さらに、シリコン基板と被覆樹脂層との密着性も向上することができるためである。とくにこの場合、保護膜と密着樹脂層とが同じ材料であれば、フォトリソ法等を用いて凹凸形状を同時に付与することができる。
【0020】
凹凸形状は密着樹脂層を例えばハーフエッチングを用いて形成することができる。凹凸形状の深さは例えば1.0〜1.5μmである。凹凸形状の水平断面の形状は上例えば円形状や多角形状とすることができる。凹凸形状の寸法は、一辺5μm程度とすることができる。また、凹凸形状は濡れ性や密着性を向上するために出来るだけ多くの凹凸を形成することが好ましい。
【0021】
以下、液体吐出ヘッドの実施形態について説明する。また、以下の説明では、本発明の適用例として、インクジェット記録ヘッドを例に挙げて説明する場合があるが、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではなく、バイオッチップ作製や電子回路印刷用途の液体吐出ヘッドにも適用できる。液体吐出ヘッドとしては、インクジェット記録ヘッドの他にも、例えばカラーフィルター製造用ヘッド等も挙げられる。
【0022】
図1は、本発明の実施形態におけるインクジェット記録ヘッドの模式的斜視図である。図2は、本発明の実施形態におけるインクジェット記録ヘッドの模式的断面図である。図3は、本発明の実施形態のインクジェット記録ヘッドの模式的な斜視段面図である。
【0023】
このインクジェット記録ヘッドは、吐出エネルギー発生素子3が所定のピッチで2列並んで形成されたシリコン基板1と、該シリコン基板の上側に配置された流路形成部材と、を有している。流路形成部材は、インクを吐出するためのインク吐出口14と、該インク吐出口14にインクを供給するためのインク流路18とを構成する。シリコン基板1にはインク流路18にインクを供給するためのインク供給口16が設けられている。
【0024】
シリコン基板1は、吐出エネルギー発生素子3が形成される面側に該エネルギー発生素子3を保護するためのパッシベーション膜4を有する。流路形成部材は、少なくとも、インク流路18の壁面を構成する被覆樹脂層11と、シリコン基板と被覆樹脂層11との間に配置される密着樹脂層7と、を含んで構成される。なお、パッシベーション膜4はインク供給口を結晶異方性エッチングで形成する際に、エッチングのストップさせる機能も有するため、以下ではエッチングストップ層とも称す。
【0025】
シリコン基板と被覆樹脂層11との密着性を向上させるために用いられる密着樹脂層7は例えばポリアミド樹脂を用いることができる。
【0026】
被覆樹脂層11は、インク流路18と、吐出エネルギー発生素子3の上方に開口するインク吐出口14を構成している。
【0027】
シリコン基板1の流路形成部材102と反対の面にはシリコン酸化膜6が形成されている。インク供給口16はこのシリコン酸化膜6をマスクとしてSiの結晶異方性エッチングによって形成されることができる。
【0028】
インク供給口16は、吐出エネルギー発生素子3の2つの列の間に開口されている。また、インク供給口16の壁面は、流路形成部材102を構成する部材と同じ材料である有機樹脂からなる保護膜9が形成されている。つまり、インク供給口16の壁面は、被覆樹脂層11又は密着樹脂層7の材料と同じ有機樹脂を用いて被覆されている。この構成とすることにより、耐インク性をインク供給口に付与することができる。また、有機樹脂はカバレッジ性に優れるため、有効に供給口壁面を保護することができる。また、同じ材料を用いることにより、工程数を削減できる。
【0029】
このインクジェット記録ヘッドは、インク供給口16を介してインク流路18内に充填されたインク(液体)に、吐出エネルギー発生素子3で発生する圧力を加えることによって、インク吐出口14からインク液滴を吐出させる。この吐出したインク液滴を被記録媒体に付着させることにより記録を行うことができる。
【0030】
このインクジェット記録ヘッドは、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサ等の装置、更に各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に搭載可能である。そして、このインクジェット記録ヘッドを用いることによって、紙、糸、繊維、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックなど種々の被記録媒体に記録を行うことができる。なお、本発明において「記録」とは、文字や図形などの意味を持つ画像を被記録媒体に対して付与することだけでなく、パターンなどの意味を持たない画像を付与することも意味する。
【0031】
以下、本発明によるインクジェット基板の製造方法に係る実施形態を図4及び5を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の概念に包含されるべき技術にも応用することができる。
【0032】
図4及び5は本実施形態のインクジェット記録ヘッドの製造工程を説明するための断面概略図又は斜視模式図である。
【0033】
図4(A)は使用するシリコン基板の斜視模式図であり、図4(B)は図4(A)の点線AAにおける垂直断面図である。シリコン基板1上には、発熱抵抗体等の吐出エネルギー発生素子3が複数個配置されている。また、シリコン基板1の裏面はシリコン酸化膜6で覆われている。また、シリコン基板1の上には、アルカリ性の溶液によってインク供給口を形成する際に必要となる犠牲層2が設けられている。また、シリコン基板1、吐出エネルギー発生素子3及び犠牲層2の上には、エッチングストップ層(パッシベイション層)4が設けられている。なお、吐出エネルギー発生素子を構成するヒーターの配線やそのヒーターを駆動するための回路、又は蓄熱層等は不図示である。パッシベイション層は、エネルギー発生素子と犠牲層のシリコン基板と反対側に形成される。
【0034】
犠牲層2は、アルカリ溶液でエッチングが可能な材料で形成され、例えば、ポリSiやエッチング速度の速いアルミ、アルミSi、アルミ銅、アルミSi銅などで形成される。犠牲層を設けておくことにより、供給口の開口寸法を制御して形成することができる。
【0035】
エッチングストップ層4は、異方性エッチング時に犠牲層が露出した後、アルカリ溶液でのエッチングが進行しない若しくは進行し難い材料で構成される。例えば、ヒーターの裏面側に位置し蓄熱層として用いることもできる酸化珪素や、ヒーターの上層に位置し保護膜として用いることもできる窒化珪素等が挙げられる。
【0036】
次に、図4(C)に示すように、シリコン基板1上の犠牲層2の側面に沿った形状でエッチングストップ層4に溝5を形成する。
【0037】
溝5は、例えば、ポジ型レジストをスピンコート等により塗布、露光、現像し、エッチングストップ層4をドライエッチング等によりパターニングすることが挙げられる。マスクとして用いたポジ型レジストは剥離する。溝5はシリコン基板1が露出されるように形成する。
【0038】
次に、図4(D)に示すように、シリコン基板1に被覆樹脂材料と同じ有機樹脂をスピンコート法等を用いて塗布し、エッチングストップ層4に形成した溝5内に第1の有機樹脂を充填する。そして、紫外線やDeepUV光等による露光、現像を行って、形成されるインク供給口とインク流路との境界部分の周辺に配置されるように第1の有機樹脂をパターニングし、保護膜9の上部を構成する上部保護膜9’を形成する。
【0039】
また、シリコン基板の表面(図で上側の面)と裏面(図で下側の面)に、それぞれ密着樹脂層7及びエッチングマスク層8を形成する。
【0040】
密着樹脂層7は、例えばポリアミド樹脂等の樹脂材料を塗布し、ベークにより硬化させることにより形成することができる。また、密着樹脂層7は、ポジ型レジストをスピンコート等により塗布、露光、現像してマスクを形成した後、ドライエッチング等によりパターニングすることで形成できる。エッチングマスク層8も同様に形成することができる。エッチングマスク層は、シリコン基板の前記流路形成部材が配置される面と反対側の面に形成される。
【0041】
次に、図4(E)に示すように、シリコン基板1の表面側にインク流路の型となる流路型部材10を形成する。流路型部材10は、例えばポジ型レジストをパターニングすることにより形成することができる。
【0042】
次に、図5(F)に示すように、流路型部材10及び密着樹脂層7の上に被覆樹脂層11及び撥液層13を形成する。なお、図5(G)は、図4(E)の状態における斜視模式図である。
【0043】
被覆樹脂層11及び撥液層13は、例えば以下の方法で形成することができる。まず、スピンコート等によりシリコン基板1の表面側に被覆樹脂材料を配置し、さらにその上に撥液材をドライフィルムのラミネート等により形成する。そして、被覆樹脂層11及び撥液層13を紫外線やDeepUV光等による露光、現像を行ってパターニングし、インク吐出口14を形成する。また、撥液材としては例えば撥水材を用いることができる。
【0044】
次に、図5(H)に示すように、シリコン基板1の側面や被覆樹脂層11、流路型部材10等を保護する保護材15をスピンコート等によって形成する。
【0045】
次に、図5(I)に示すように、シリコン酸化膜6をエッチングしてエッチング開始面となるSi面を露出した後、結晶異方性エッチング処理を行い、インク供給口16を形成する。結晶異方性エッチング処理により、被エッチング面が犠牲層に到達して犠牲層が除去される。
【0046】
より具体的には、まず、エッチングマスク層8をマスクとして、その開口部にあるシリコン基板1の裏面のシリコン酸化膜6を除去する。その後、TMAHを異方性エッチング液として用い、Si基板の裏面からエッチングを行ってインク供給口16を形成する。
【0047】
この際、裏面からのエッチングがSi基板を貫通して犠牲層を除去した後、エッチングストップ層4に形成した溝5に充填した有機樹脂からなる上部保護膜9’が露出されるまでシリコンを後退させる。
【0048】
次に、図5(J)で示すように、被覆樹脂材料と同じ有機樹脂をスピンコート法等を用いてインク供給口16の壁面を含む領域に第2の有機樹脂を裏面より塗布する。そして、紫外線やDeepUV光等による露光、現像を行って、第2の有機樹脂がインク供給口16の壁面に残るようにパターニングし、インク供給口16の側面を保護する側面保護膜9’’を形成する。より具体的には、犠牲層があった部分とエッチングマスク層上の有機樹脂を除去し、インク供給口の側面に露出するシリコンを保護する膜を形成する。なお、本実施形態では、上部保護膜9’及び側面保護膜9’’からなる保護膜が形成される。
【0049】
次に、図5(K)に示すように、エッチングマスク層8及びインク供給口16のインク流路側の開口部に存在する部分のエッチングストップ層4をドライエッチングにて除去する。
【0050】
また、保護材15を除去する。さらに、流路型部材10をインク供給口16から溶出させることにより、インク流路18を形成する。
【0051】
その後、インク流路等が形成された基板をダイシングソー等により切断分離し、チップ化する。また、吐出エネルギー発生素子3を駆動させるための電気的接合を行った後、インク供給のためのチップタンク部材を接続することで、インクジェット記録ヘッドを完成させることができる。
【0052】
また、以上の製造方法の説明では、インク供給口の壁面を被覆樹脂材料と同じ有機樹脂を用いて塗布して保護したが、密着樹脂材料と同じ有機樹脂を用いてインク供給口の壁面を保護することもできる。
【0053】
また、本実施形態で例として説明した製造方法は、インク流路とインク供給口とが繋がる部分の角部に保護膜を形成する方法として好ましく採用することができる。
【0054】
(実施例1)
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
まず、図4(A)及び(B)に示すように、複数の吐出エネルギー発生素子3、犠牲層2及びエッチングストップ層4が上側に形成されたシリコン基板1を用意した。より具体的には、吐出エネルギー発生素子3(材質:TaSiN)とドライバーやロジック回路(不図示)が複数配置され、流路の形成部位に蓄熱層(不図示)及びエッチングストップ層(SiN)4を有するシリコン基板1を用意した。また、シリコン基板1の上にはインク供給口の上部開口を精密に形成するための犠牲層2が設けられている(図4(A)及び(B))。
【0056】
次に、シリコン基板1の上にポジ型レジストである東京応化製IP5700(商品名)をスピンコートにより5μm厚で塗布した。そして、フォトマスクを用いて基板1上の犠牲層2の側面に沿った形状でihg線の投影露光装置にて5μm幅に一括露光した。そして、東京応化製NMD−3(商品名)にて現像し、剥き出しになったシリコン基板1上のエッチングストップ層部分をケミカルドライエッチングにて除去した。そして、ローム社製リムーバ1112A(商品名)によってレジストを除去した(図4(C))。
【0057】
次に、シリコン基板1に流路形成部材を構成する被覆樹脂層11の材料であるネガ型の感光性樹脂をスピンコートにより2μm厚で塗布し、犠牲層2の側面に沿って形成した溝5内に充填した。
【0058】
続いて、フォトマスクを用いてihg線の投影露光装置にて露光し、キシレン60%とMIBK40%の混合液で現像を行い、溝5に充填した感光性樹脂を残すようにパターニングし、上部保護膜9’を形成した。
【0059】
次に、シリコン基板1の表面側(上側)と裏面側(下側)に、密着樹脂層7及びエッチングマスク層8を形成した。より具体的には、まず、密着樹脂層7及びエッチングマスク層8の材料であるポリアミド樹脂をスピンコートにて2μm厚に塗布し、オーブン炉にて100℃/30min+250℃/60minベークし、ポリアミド樹脂を硬化させた。そして、シリコン基板1の表面側と裏面側に前記東京応化製IP5700(商品名)をスピンコートにより5μm厚で塗布し、裏面にフォトマスクを用いてihg線の投影露光装置にて一括露光した。次に、東京応化製NMD−3(商品名)にて現像し、剥き出しになったポリアミド樹脂をケミカルドライエッチングにて除去し、ローム社製リムーバ1112A(商品名)によってレジストを除去した。さらに、シリコン基板1の表面側と裏面側に前記東京応化製IP5700(商品名)をスピンコートにより5μm厚で塗布し、フォトマスクを用いてi線ステッパーにて露光した。東京応化製NMD−3にて現像して剥き出しになったポリアミド樹脂をRIE方式にてドライエッチングして、ローム社製リムーバ1112A(商品名)によってレジストを除去した(図4(D))。
【0060】
次に、シリコン基板1の表面側に流路型部材10を形成した。より具体的には、流路型部材10の材料であるポジ型の東京応化社製ODUR(商品名)をスピンコートにより14μm厚で塗布した。続いて、フォトマスクを用いてihg線の投影露光装置にて露光し、林純葉社製MP−5050(商品名)で現像し、型材パターンを形成した(図4(E))。
【0061】
次に、流路型部材10を形成したシリコン基板1の表面側に被覆樹脂層11の材料であるネガ型の感光性樹脂をスピンコートにより25μm厚で塗布し、さらにその上に撥水材13をスピンコートにより0.5μm厚で塗布した。そして、フォトマスクを用いてi線ステッパーにて露光し、キシレン60%とMIBK40%の混合液で現像を行い、オーブン炉にて140℃/60minにて硬化させ、吐出口14を形成した(図4(F))。
【0062】
次に、シリコン基板1の表面側及び側面側に保護材15として東京応化製OBC(商品名)をスピンコートにて40μm厚で塗布した(図5(H))。
【0063】
次に、シリコン基板1の裏面側にエッチングマスク層8をマスクとして、インク供給口を形成するためのエッチング開始面となるシリコン酸化膜を、ダイキン工業社製BHF−U(商品名)にて15minエッチングした。
【0064】
そして、83℃に加熱温調した関東化学社製「TMAH−22」(水酸化テトラメチルアンモニウム)を異方性エッチング液として用い、シリコン基板1の裏面から異方性エッチングを行った。エッチングは、犠牲層が除去された後に上部保護層9’が露出するまで実施した。エッチング時間の算出は、シリコン基板1の厚み(μm)÷エッチングレート(min/μm)+オーバーエッチング60(min)で行った(図5(I))。
【0065】
次に、インク供給口16の壁面に側面保護膜9’’を形成した。より具体的には、まず、シリコン基板1の裏面側より被覆樹脂層11と同じ材料のネガ型感光性樹脂をスピンコートにより2μm厚で塗布した。そして、フォトマスクを用いてihg線の投影露光装置にて一括露光し、キシレン60%とMIBK40%の混合液で現像を行うことで、犠牲層のあった部分とエッチングマスク層8上のネガ型感光性樹脂を除去した(図4(J))。
【0066】
次に、裏面よりエッチングマスク層8とインク供給口16の上部開口に露出するエッチングストップ層4をケミカルドライエッチングにて除去した。また、キシレン100%で保護材15のOBCを除去した。さらに、40℃に加熱温調した乳酸メチルに浸漬して200kHz/200W超音波をかけることで流路型部材10をインク供給口16から溶出させ、インク流路18を形成した。また、オーブン炉にて200℃/60minで処理し、被覆樹脂層11を硬化させた(図5(K))。
【0067】
(実施例2)
本実施例では、実施例1で掲げた図4(C)で形成した犠牲層2の側面に沿って形成した溝5内に充填させる樹脂を密着樹脂層と同じ材料とした例を示す。つまり、本実施例では、上部保護膜9’を密着性樹脂層の材料と同じ材料であるポリアミド樹脂を用いて形成した。
【0068】
まず、図4(C)まで実施例1と同様に形成したシリコン基板1の表面側と裏面側に密着樹脂層7とエッチングマスク層8であるポリアミド樹脂をスピンコートにて2μm厚に塗布した。そして、オーブン炉にて100℃/30min+250℃/60minでベーク処理し、ポリアミド樹脂を硬化させた。そして、シリコン基板1の裏面側に前記東京応化製IP5700(商品名)をスピンコートにより5μm厚で塗布した。そして、フォトマスクを用いてihg線の投影露光装置にて一括露光し、東京応化製NMD−3(商品名)にて現像した。そして、剥き出しになったポリアミド樹脂をケミカルドライエッチングにて除去し、ローム製リムーバ1112A(商品名)によってレジストを除去し、エッチングマスク層8を形成した。さらに、シリコン基板1の表面側に前記東京応化製IP5700(商品名)をスピンコートにより5μm厚で塗布し、フォトマスクを用いてi線ステッパーにて露光した。そして、東京応化製NMD−3(商品名)にて現像を行い、マスクを形成した。そして、剥き出しになった部分のポリアミド樹脂をRIE方式にてドライエッチングして、ローム製リムーバ1112A(商品名)によってレジストを除去し、上部保護膜9’及び密着樹脂層7を形成した(図6(A))。
【0069】
以降は、側面保護膜9’’として密着樹脂層7の材料と同じ材料であるポリアミド樹脂を用いた以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録ヘッドを作製した(図6(B)、(C))。
【0070】
(実施例3)
実施例2で掲げた図6(A)における密着樹脂層7と上部保護層9’を構成するポリアミド樹脂に凹凸形状を形成することで、インク流路の濡れ性と被覆樹脂層11とシリコン基板1との密着性を向上させることができる。凹凸形状は、例えば2層のポリアミド樹脂を形成し、上層に凹部を形成することにより形成することができる。
【0071】
以下に実施方法について例を説明する。
【0072】
まず、図6(A)まで形成したシリコン基板1の表面に2層目のポリアミド樹脂をスピンコートにて2μm厚に塗布した。
【0073】
そして、オーブン炉にて100℃/30min+250℃/60minでベーク処理し、ポリアミド樹脂を硬化させた。
【0074】
次に、シリコン基板1の表面側に前記東京応化製IP5700(商品名)をスピンコートにより5μm厚で塗布した。
【0075】
次に、フォトマスクを用いてi線ステッパーにて露光し、東京応化製NMD−3(商品名)にて現像を行い、2層目のポリアミド樹脂を凹凸形状とするためのレジストパターンを形成した。
【0076】
剥き出しになった2層目のポリアミド樹脂をRIE方式にてドライエッチングした。エッチング時間は、1層目のポリアミド樹脂が残るように設定した。
【0077】
その後、ローム製リムーバ1112A(商品名)を用いてレジストを除去した(図7(A))。
【0078】
また、2層目のポリアミド樹脂として感光性樹脂を用いて、凹凸形状を形成しても良い。
【0079】
その後、実施例2と同様の工程を経ることにより、図7(B)に示す形態を形成した。
【0080】
前記の手法で形成したインクジェット記録ヘッドを、121℃/2気圧/水蒸気雰囲気にてインクディッピングによるインク吐出口形成部材11の剥れ試験を行った結果、従来の形態より密着性が向上することが確認された。
【符号の説明】
【0081】
1:シリコン基板
2:犠牲層
3:吐出エネルギー発生素子
4:エッチングストップ層
5:溝
6:シリコン酸化膜
7:密着樹脂層
8:エッチングマスク層(ポリアミド樹脂)
9:保護膜
10:流路型部材
11:被覆樹脂層
13:撥水材
14:インク吐出口
15:保護材
16:インク供給口
17:2層目の密着樹脂層(2層目のポリアミド樹脂)
18:インク流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する吐出口と該吐出口に連通する液流路とを含む流路形成部材と、前記液流路に前記液体を供給するための供給口を含むシリコン基板と、を少なくとも有する液体吐出ヘッドであって、
前記供給口の壁面に、前記流路形成部材を構成する部材と同一の材料である有機樹脂からなる保護膜が形成されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記流路形成部材は、少なくとも、前記液流路の壁面を構成する被覆樹脂層と、前記シリコン基板と前記被覆樹脂層との間に配置される密着樹脂層と、から構成されている請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記保護膜は、前記被覆樹脂層と同じ材料である感光性樹脂を用いて形成されている請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記保護膜は、前記密着樹脂層と同じ材料であるポリアミド樹脂を用いて形成されている請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記保護膜は、前記供給口の壁面及び前記液流路の底部に形成されている請求項2乃至4のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記液流路の底部に形成される部分の前記保護膜及び前記密着樹脂層は、凹凸形状を有する請求項5に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記保護膜は耐インク性を有する請求項1乃至6のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
液体を吐出する吐出口と、該吐出口に連通する液流路とを含む流路形成部材と、
前記液体を吐出するための吐出エネルギー発生素子と、前記液流路に前記液体を供給するための供給口とを含むシリコン基板と、を少なくとも有し、
前記流路形成部材は、少なくとも、前記液流路の壁面を構成する被覆樹脂層と、前記シリコン基板と前記被覆樹脂層との間に配置される密着樹脂層と、から構成されている液体吐出ヘッドの製造方法であって、
(a)表面に前記吐出エネルギー発生素子と、前記供給口の開口寸法を制御するための犠牲層と、前記エネルギー発生素子と前記犠牲層の前記シリコン基板と反対側にパッシベイション層と、を有するシリコン基板を用意する工程と、
(b)ドライエッチングを用いて前記パッシベイション層に前記犠牲層の側面に沿って溝を形成する工程と、
(c)前記溝に、前記被覆樹脂層又は前記密着樹脂層と同じ材料である第1の有機樹脂を充填する工程と、
(d)前記パッシベイション層の上に前記密着樹脂層を形成する工程と、
(e)前記シリコン基板の前記流路形成部材が配置される面と反対側の面に前記供給口を形成するためのエッチングマスク層を形成する工程と、
(f)少なくとも前記第1の有機樹脂の上に前記液流路の型材となる流路型部材を形成する工程と、
(g)少なくとも前記密着樹脂層及び前記流路型部材の上に前記被覆樹脂層を形成する工程と、
(h)前記エッチングマスク層を用いて、被エッチング面が前記犠牲層に到達して前記犠牲層が除去されるまで前記シリコン基板を結晶異方性エッチング処理し、前記供給口を形成する工程と、
(i)前記結晶異方性エッチングにより、エッチングストップ層を兼ねている前記パッシベイション層まで開口された前記供給口の壁面に前記被覆樹脂層又は前記密着樹脂層と同じ材料である第2の有機樹脂を形成する工程と、
(j)前記パッシベイション層のうち前記供給口に露出する部分を除去する工程と、
を有する液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項9】
前記工程(b)において、前記溝は前記シリコン基板が露出するまでエッチングすることにより形成される請求項8に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項10】
前記工程(h)において、前記結晶異方性エッチングは、前記溝に充填された前記第1の有機樹脂が露出するまで実施される請求項8又は9に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項11】
前記第1の有機樹脂及び前記第2の有機樹脂は、前記密着樹脂層と同じ材料であるポリアミド樹脂である請求項8乃至10のいずれかに記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項12】
前記第1の有機樹脂及び前記密着樹脂層は同時にパターニング形成される請求項11に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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