説明

液体吐出ヘッド及び画像形成装置

【課題】吐出口付近のインク液を選択的に効率よく加熱可能であり、かつ小型化が可能な液体吐出ヘッド、及び該液体吐出ヘッドを備えた画像形成装置を提供する。
【解決手段】吐出口3と、吐出口形成基材2と、液を貯留する液室と、該液室内の前記液に運動エネルギーを付与するエネルギー発生体とを有する液滴吐出手段を少なくとも一つ備え、前記吐出口形成基材が、導体及び半導体のいずれかで構成され、前記吐出口形成基材の表面に、第一の電圧を印加する第一の電極21a及び前記第一の電圧と異なる値の第二の電圧を印加する第二の電極31aを備え、電極に電圧を印加することにより、前記第一の電極と前記第二の電極の間の通電領域の少なくとも一部が発熱体として機能することを特徴とする液体吐出ヘッド、及び該液体吐出ヘッドを備えた画像形成装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド、及び該液体吐出ヘッドを用いた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置として、インク液滴を吐出し、記録媒体上に着弾させることにより画像を形成するインクジェットプリンタが広く普及している。なかでも、記録に供するインク液滴のみを選択的に吐出する、いわゆるオンデマンド方式が現在主流である。
オンデマンド方式は、インク液が吐出する運動エネルギーの発生原理によって、圧電素子の変位によりインク液中に圧力を発生させ、その圧力からインク液滴吐出の運動エネルギーを得る、いわゆるピエゾ方式と、電気−熱変換素子によりインク液中に気泡を発生させ、その気泡の膨張によりインクを排除することによりインク液滴吐出の運動エネルギーを得る、いわゆるサーマル方式とに大別される。なお、ピエゾ方式及びサーマル方式ともに、上述した原理によってインク液滴を吐出するインクジェットノズルを、一つの液体吐出ヘッドあたり複数備える構成が一般的である。
【0003】
一方、インク及び記録媒体に関しては、水性のインクを使用し、紙などの浸透性を有する記録媒体に画像を記録するものが広く用いられてきたが、近年、市場ニーズの多様性に応える形で、多様なインク及び記録媒体の使用が拡大している。
例えば、紫外線硬化型インクを用いてフィルム等の非浸透性の媒体に画像を形成する例や、導電性インクを用いて配線基板上に配線パターンを形成し、電気回路を製造する適用例などがある。
【0004】
上記のように発色以外の機能を付加したインクにおいては、水性インクと比較して、常温で高い粘度を示すものがあることが知られている。インクジェットノズルから吐出されるインク液滴の速度及び液滴量(質量または体積)は、インク液の粘度に大きく影響されるため、殊に粘度が過大である場合には、インク液滴の吐出そのものが困難となる場合がある。
【0005】
上記の問題の対策のひとつとして、インクを加熱する方法がある。これは、上記の紫外線硬化型インクや導電性インクの多くが低温で高粘度となり、高温で低粘度となる特性を有することを利用し、常温で吐出に適さない高粘度のインクを吐出時に加熱することにより、吐出に適した粘度まで低下させるものである。
【0006】
例えば、液体吐出ヘッドを所定温度に維持する加熱手段を用いる構成(例えば、特許文献1参照)や、インク液滴吐出口を備えるオリフィスプレートの表面ないし内部に発熱体を設け、オリフィスプレート全体を加熱する構成(例えば、特許文献2参照)が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、液体吐出ヘッド全体を加熱する加熱手段を設ける構成の場合、液体吐出ヘッド外部に加熱手段を実装するための空間が占有されるという問題がある。また、この構成では、加熱は吐出に供されるインクのみならず、液体吐出ヘッド内部に滞留するすべてのインク及び液体吐出ヘッドを構成するほぼすべての部材に及ぶ。したがって、この構成の液体吐出ヘッドが一旦加熱されると、画像形成動作を停止した後の一定時間、インクは高温状態に保たれることとなる。インクが高温を保ったまま液体吐出ヘッドが動作を停止した場合、インク吐出口近傍のインクが乾燥により硬化したり、また紫外線硬化型インクの場合は液体吐出ヘッド内のインクが全域にわたり急激な粘度上昇を示したりすることがあり、これらが動作再開時のインク吐出不良の原因になることがある。
【0008】
なお、この問題に対し、特許文献1に記載の技術では、液体吐出ヘッド外に設けたインク冷却手段と循環ポンプとを備えた構成が提案されているが、この構成は装置の小型化及び低コスト化に対して不利なものとなる。
【0009】
一方、オリフィスプレートの表面または内部に加熱手段を設けた場合、加熱がすべての部材に及ぶという問題は低減されるものの、投入した熱量の一部がオリフィスプレートに接する液体吐出ヘッド構成部材に逃げてしまい、オリフィスプレートに接するインクは全域で加熱されることとなるが、インク吐出口近傍以外の滞留部にあるインクについては粘度低減効果が低いため、余分な熱量供給がなされるという問題がある。
【0010】
また、インクジェットノズルにおいて、高い粘度低減効果を期待できる部分の一つは、インクの流速が速く、壁面との速度勾配が大きくなるインク吐出口近傍である。したがって、インク吐出口付近にある最小限のインク液のみを選択的に加熱できることが望ましいが、そのような技術は提案されていない。
【0011】
本発明の課題は、以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであり、吐出口付近のインク液を選択的に効率よく加熱可能であり、かつ小型化が可能な液体吐出ヘッド、及び該液体吐出ヘッドを備えた画像形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明に係る液体吐出ヘッド及び画像形成装置は、以下のとおりである。
〔1〕 液滴を吐出する吐出口と、
該吐出口が形成された吐出口形成基材と、
該吐出口形成基材に隣接して設けられ、前記吐出口と連通し、液を貯留する液室と、
該液室内の前記液に運動エネルギーを付与するエネルギー発生体とを有する液滴吐出手段を少なくとも一つ備え、
前記吐出口形成基材が、導体及び半導体のいずれかで構成され、
前記吐出口形成基材の表面に、第一の電圧を印加する第一の電極及び前記第一の電圧と異なる値の第二の電圧を印加する第二の電極を備え、
前記第一の電極及び前記第二の電極に電圧を印加することにより、前記吐出口形成基材における前記第一の電極と前記第二の電極の間の通電領域の少なくとも一部が発熱体として機能することを特徴とする液体吐出ヘッドである。
〔2〕 前記吐出口形成基材が平板形状であり、前記第一の電極が、前記吐出口形成基材の外表面側に配置され、前記第二の電極が、前記吐出口形成基材の前記液室と接する面に配置されていることを特徴とする前記〔1〕に記載の液体吐出ヘッドである。
〔3〕 前記吐出口形成基材が平板形状であり、前記第一の電極及び前記第二の電極が、ともに前記吐出口形成基材の外表面側に配置されていることを特徴とする前記〔1〕に記載の液体吐出ヘッドである。
〔4〕 前記吐出口形成基材が平板形状であり、前記第一の電極及び前記第二の電極が、ともに前記吐出口形成基材の前記液室と接する面に配置されていることを特徴とする前記〔1〕に記載の液体吐出ヘッドである。
〔5〕 前記第一の電極及び前記第二の電極の少なくともいずれかが、前記吐出口と略同心円の円弧形状の電極であり、前記吐出口の外周に設けられていることを特徴とする前記〔1〕から〔4〕のいずれかに記載の液体吐出ヘッドである。
〔6〕 前記第一の電極及び前記第二の電極が、ともに前記吐出口と略同心円の円弧形状の電極であり、前記吐出口の外周に互いに重複しないように設けられていることを特徴とする前記〔3〕から〔4〕のいずれかに記載の液体吐出ヘッドである。
〔7〕 前記吐出口形成基材が、導電ガラス、及び導電性樹脂のいずれかからなることを特徴とする前記〔1〕から〔6〕のいずれかに記載の液体吐出ヘッドである。
〔8〕 第一の電極及び前記第二の電極のいずれかの近傍の前記前記吐出口形成基材表面上に、温度検出手段を備えることを特徴とする前記〔1〕から〔7〕のいずれかに記載の液体吐出ヘッドである。
〔9〕 前記〔1〕から〔8〕のいずれかに記載の液体吐出ヘッドを備え、装置を制御する回路と、画像データに基づき前記第一の電極及び前記第二の電極に印加する電圧を算出する回路とを少なくとも備えることを特徴とする画像形成装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、吐出口付近のインク液を選択的に効率よく加熱可能であり、かつ小型化が可能な液体吐出ヘッド、及び該液体吐出ヘッドを備えた画像形成装置を提供することができる。
【0014】
本発明の効果として、請求項1の発明によれば、液滴を吐出する吐出口と、該吐出口が形成された吐出口形成基材と、該吐出口形成基材に隣接して設けられ、前記吐出口と連通し、液を貯留する液室と、該液室内の前記液に運動エネルギーを付与するエネルギー発生体とを有する液滴吐出手段を少なくとも一つ備え、前記吐出口形成基材が、導体及び半導体のいずれかで構成され、前記吐出口形成基材の表面に、第一の電圧を印加する第一の電極及び前記第一の電圧と異なる値の第二の電圧を印加する第二の電極を備え、前記第一の電極及び前記第二の電極に電圧を印加することにより、前記吐出口形成基材における前記第一の電極と前記第二の電極の間の通電領域の少なくとも一部が発熱体として機能する液体吐出ヘッドとしたので、前記吐出口形成基材の表面の少なくとも一部がインク液に対して発熱体として作用し、前記インク液の粘度抑制効果の高い部分のみを選択的に加熱することが可能になるとともに、前記インク液及び液体吐出ヘッドを構成する部材に対する余分な加熱を低減することができ、さらに、加熱手段を設けるための余分な空間を必要としないことから、液体吐出ヘッドを小型に構成することができる。
請求項2の発明によれば、請求項1に記載の液体吐出ヘッドにおいて、前記吐出口形成基材が平板形状であり、前記第一の電極が、前記吐出口形成基材の外表面側に配置され、前記第二の電極が、前記吐出口形成基材の前記液室と接する面に配置されている液体吐出ヘッドとしたため、前記吐出口形成基材の前記第一の電極と前記第二の電極とで形成される厚み方向全域の通電領域を発熱体として機能させることが可能となる。
請求項3の発明によれば、請求項1に記載の液体吐出ヘッドにおいて、前記吐出口形成基材が平板形状であり、前記第一の電極及び前記第二の電極が、ともに前記吐出口形成基材の外表面側に配置されている液体吐出ヘッドとしたため、電極を同一面上に形成することができるため、さらに、製造プロセスを簡便化することができる。
請求項4の発明は、請求項1に記載の液体吐出ヘッドにおいて、前記吐出口形成基材が平板形状であり、前記第一の電極及び前記第二の電極が、ともに前記吐出口形成基材の前記液室と接する面に配置されている液体吐出ヘッドとしたため、前記吐出口形成基材の外表面に凹凸を有する部材を露出させないため、さらに、部材のクリーニングを容易かつ効果的に行うことができる。
請求項5の発明は、請求項1から4のいずれかに記載の液体吐出ヘッドにおいて、前記第一の電極及び前記第二の電極の少なくともいずれかが、前記吐出口と略同心円の円弧形状の電極であり、前記吐出口の外周に設けられている液体吐出ヘッドとしたため、吐出口近傍のインク液をより効果的に加熱することができる。
請求項6の発明は、請求項3から4のいずれかに記載の液体吐出ヘッドにおいて、前記第一の電極及び前記第二の電極が、ともに前記吐出口と略同心円の円弧形状の電極であり、前記吐出口の外周に互いに重複しないように設けられている液体吐出ヘッドとしたため、吐出口近傍のインク液をさらに効果的に加熱することができる。
請求項7の発明は請求項1から6のいずれかに記載の液体吐出ヘッドにおいて、前記吐出口形成基材が、導電ガラス、及び導電性樹脂のいずれかからなる液体吐出ヘッドとしたため、材質を選択することで電気抵抗率を選択することができ、様々なヘッド寸法(基材厚さ、吐出口直径、電極寸法など)や液滴吐出条件(液滴量、吐出周波数)に対して、電力供給手段の特性に合致した印加電圧設定が可能となる。
請求項8の発明は、請求項1から7のいずれかに記載の液体吐出ヘッドにおいて、第一の電極及び前記第二の電極のいずれかの近傍の前記前記吐出口形成基材表面上に、温度検出手段を備える液体吐出ヘッドとしたため、加熱部近傍の温度を検出し、検出した温度に応じて電力を調整可能となることから、周囲環境温度が変動するような場合であっても、安定した温度制御を実現できる。
請求項9の発明は、請求項1から8のいずれかに記載の液体吐出ヘッドを備え、
装置を制御する回路と、画像データに基づき前記第一の電極及び前記第二の電極に印加する電圧を算出する回路とを少なくとも備える画像形成装置としたため、前記液体吐出ヘッドの液滴吐出動作が、画像データが示す吐出液滴数及び吐出液滴量の少なくとも一つを含むデータによって決定され、吐出液滴量に応じて電力(印加する電圧)が制御されることから、吐出液滴量がばらつく場合であっても、安定した温度制御を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の液体吐出ヘッドの一実施形態(実施例1)における吐出口近傍の構造を示す拡大図であり、(a)は上面図、(b)は断面図である。
【図2】本発明の液体吐出ヘッドの液滴吐出手段であるインクジェットノズルの一例を示す断面図であり、(a)は垂直方向の断面図、(b)は水平方向の断面図である。
【図3】本発明の液体吐出ヘッドの他の実施形態(実施例2)における吐出口近傍の構造を示す拡大図であり、(a)は上面図、(b)は断面図である。
【図4】本発明の液体吐出ヘッドの一実施形態(実施例3)における吐出口近傍の構造を示す拡大図であり、(a)は上面図、(b)は断面図である。
【図5】本発明の液体吐出ヘッドの一実施形態(実施例4)における吐出口近傍の構造を示す拡大図であり、(a)は上面図、(b)は断面図、(c)は(a)中に示すD−D´面の断面図である。
【図6】本発明の画像形成装置における液体吐出装置の温度制御の実施態様の一例を示すフロー図である。
【図7】本発明の画像形成装置の全体構成の一実施形態を示す概念図である。
【図8】本発明の画像形成装置における制御ブロックの一例を示すブロック図である。
【図9】本発明の画像形成装置における液体吐出装置の制御の一実施態様を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る液体吐出ヘッド及び画像形成装置について図面を参照して説明する。なお、本発明は以下に示す実施例の実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、修正、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0017】
〔実施例1〕
(液体吐出ヘッドの第一の実施態様)
図1及び図2は、本発明の液体吐出ヘッドの第一の実施態様(インクジェットヘッド)を説明する図であり、図1は吐出口(以下、「オリフィス」ということがある)近傍の拡大図であり、図1(a)は上面図、図1(b)は断面図をそれぞれ表す。一方、図2は、本発明の液体吐出ヘッドの液滴吐出手段であるインクジェットノズルの構成を示す概略図であり、図2(a)は垂直方向の断面図であり、図2(b)は(a)中のA−A’部位の水平方向の断面図である。
【0018】
最初に、本発明における液滴吐出手段であるインクジェットノズルについて、その全体構成と動作を説明する。
【0019】
図2(a)は、インクジェットノズルの垂直方向の断面図(主断面図)を示し、図2(b)は図2(a)中に示されているA−A´の水平方向の断面図を示す。
【0020】
インクジェットノズル1は、フレーム9に振動板7、液室ブロック4、平板形状の吐出口形成基材2(以下「オリフィスプレート」ともいう)が順に積層された構造をとる。液室ブロック4から取り除かれた部分が液室5及び縮流部であるリストリクタ6を形成し、フレーム9から取り除かれた部分がインク液供給流路10を形成し、同様にオリフィスプレート2に設けられた穿孔がインク液滴の吐出口(オリフィス)3を、それぞれ形成する。
振動板7は、可撓部材で構成されており、振動板7のフレーム側に位置する面には、液室5内のインクに運動エネルギーを付与するエネルギー発生体である圧電素子8が取り付けられている。
なお、本発明の液体吐出ヘッドは、上記の構成を有するインクジェットノズル1を少なくとも一つ以上配置したものである。
【0021】
インク容器(図示せず)から供給されたインク液は、供給流路10及びリストリクタ6を通って液室5に充填される。液室5にインクが充填された状態で圧電素子8に電圧を印加すると、圧電素子8の伸縮に伴って振動板7がたわみ変形し、図中矢印Bの方向に変位を生じる。振動板変位がインク液に圧力を生じさせ、この圧力がオリフィス3に伝播することにより、オリフィス3より液滴11が図中矢印Cの方向に吐出することになる。なお、このときリストリクタ6は、液室内インクの供給流路10への逆流を抑止する流路抵抗として作用する。
【0022】
図1は、本発明の液体吐出ヘッドの第一の実施態様における、オリフィス近傍の拡大図であり、図1(a)が上面図を、図1(b)が断面図をそれぞれ示す。
オリフィスプレート2の材質は、導電ガラスであり、ここにインク液滴吐出口であるオリフィス3が形成されている。また、オリフィスプレート2のインク液吐出側の表面(以下、「外表面」とあらわす)には、オリフィス3中心に対して略同心円の円弧形状をなす第一の電極21aが形成されており、この第一電極21aは、同一面上に絶縁層24aを介して形成される接続配線22a及び電力供給配線23aを通じて、電力供給回路(図示せず)と接続されている。同様に、オリフィスプレート2の液室側の表面には、オリフィス3中心に対して略同心円の円弧形状をなす第二の電極31aが形成されており、この第二電極31aは、同一面上に絶縁層34aを介して形成される接続配線32a及び電力供給配線23aを通じて、電力供給回路(図示せず)と接続されている。
なお、第一の電極及び第二の電極の材質としては、例えば、アルミニウム、白金、銅、ニッケル等から選択することができる。
【0023】
ここで、電力供給回路より第一の電極21aに第一の電圧を、第二の電極31aに、第一の電極と異なる第二の電圧を印加すると、電極21aと電極31aとの間に抵抗回路が形成され、第一の電極と第二の電極との間を流れる電流により、オリフィスプレート2のオリフィス3近傍部分が発熱し(発熱体として機能し)、発熱体としてインク液に作用することとなる。
【0024】
例えば、オリフィス直径が40μm、オリフィスプレート厚が80μm、液滴質量が35ng、駆動周波数30kHzの仕様を有するインクジェットノズルを用いて、純水を常温から55℃加温して吐出させる場合を想定すると、単位時間あたりの流量と純水の比熱比からノズルあたりの必要電力は0.24W(128ノズルを有する液体吐出ヘッドの場合、ヘッドあたり30W)となる。ここで、オリフィスプレート3の材質が電気抵抗率0.2Ωmを有する導電ガラスであり、オリフィスプレートの両面に内径50μm、外径100μmの電極が形成されていれば、電極間の電気抵抗値は 2.7kΩとなり、電極21aと電極31aとの間に電位差26Vをなす電圧を印加することによって加温に必要な電力を供給することができる。
【0025】
上述のように加熱手段を構成することで、オリフィス近傍のみを選択的に加熱することが可能となり、液室内インクの温度を常温近くに保ちつつオリフィス近傍に位置するインク液の粘度を選択的に下げることができる。さらに、加熱手段を配設するための空間を、インクジェットノズル外部に確保する必要がなくなるという利点もある。
【0026】
なお、オリフィスプレート2の材質としては、導電ガラスと同等の電気抵抗率を有する導電性樹脂から選択することもできる。
また、各電極の表面は、損傷を避けるために、使用するインクに対する耐食性を有する保護膜によって被覆されていることが望ましい。
【0027】
〔実施例2〕
(液体吐出ヘッドの第二の実施態様)
図3は、本発明の液体吐出ヘッドの第二の実施態様(インクジェットヘッド)のオリフィス近傍の拡大図であり、図3(a)は上面図を、図3(b)は断面図をそれぞれ示す。
【0028】
図3(a)及び図3(b)に示すように、実施例1の液体吐出ヘッドと同様、オリフィスプレート2の外表面に、オリフィス3の中心に対して略同心円の円弧形状なすように第一の電極21bが形成されており、この第一電極21bは、同一面上に絶縁層24bを介して形成される接続配線22a及び電力供給配線23bを通じて、電力供給回路(図示せず)と接続されている。一方、本実施態様においては、第二の電極31bも第一電極21bと同一面に形成されており、第一の電極21bを取り囲むようにオリフィス3の中心に対して略同心円の円弧形状をなし、かつ第一の電極21bの接続配線22bとの干渉を避けるよう、該当部分を切り欠いた形状となっている。また、第二電極31bは、同一面上に絶縁層34bを介して形成される接続配線32b及び電力供給配線23bを通じて、電力供給回路(図示せず)と接続されている。
【0029】
ここで、電力供給回路より第一の電極21bに第一の電圧を、第二の電極31bに、第一の電極と異なる第二の電圧を印加すると、電極21bと電極31bとの間に抵抗回路が形成され、そこを流れる電流により、オリフィスプレート2のオリフィス3近傍部分が発熱し(発熱体として機能し)、発熱体としてインク液に作用することとなる。
【0030】
なお、オリフィスプレート2に対する電極の形成が片面のみで済むため、実施例1と比較して、電極形成のプロセスを簡略化することができる。
【0031】
〔実施例3〕
(液体吐出ヘッドの第三の実施態様)
図4は、本発明の液体吐出ヘッドの第三の実施態様(インクジェットヘッド)のオリフィス近傍の拡大図であり、図4(a)は上面図を、図4(b)が断面図をそれぞれ示す。
【0032】
図4(a)及び図4(b)に示すように、実施例2と同様、オリフィスプレート2の片面に第一及び第二の電極が形成されるものであるが、その電極形成面が異っている。詳述すると、オリフィスプレート2の液室側の表面に、オリフィス3の中心に対して略同心円の円弧形状をなすように第一の電極21cが形成されており、この第一電極21cは、同一面上に絶縁層24cを介して形成される接続配線22c及び電力供給配線23cを通じて、電力供給回路(図示せず)と接続されている。第二の電極31cも第一電極21cと同一面に形成されており、第一の電極21cを取り囲むようにオリフィス3の中心に対して略同心円の円弧形状をなし、かつ第一の電極21cの接続配線22cとの干渉を避けるよう、該当部分を切り欠いた形状となっている。また、第二電極31cは、同一面上に絶縁層34cを介して形成される接続配線32c及び電力供給配線23cを通じて、電力供給回路(図示せず)と接続されている。
【0033】
ここで、電力供給回路より第一の電極21cに第一の電圧を、第二の電極31bに、第一の電極と異なる第二の電圧を印加すると、電極21cと電極31cとの間に抵抗回路が形成され、そこを流れる電流により、オリフィスプレート2のオリフィス3近傍部分が発熱し(発熱体として機能し)、発熱体としてインク液に作用することとなる。
【0034】
なお、本実施態様においては、実施例2と同様に電極形成のプロセスを簡略化することができることに加え、オリフィスプレート2外表面に凹凸を形成する部材が露出しないため、たとえばブレードによる清掃動作をより効果的に行えるなどの利点がある。
【0035】
〔実施例4〕
(液体吐出ヘッドの第四の実施態様)
図5は、本発明の液体吐出ヘッドの第四の実施態様(インクジェットヘッド)のオリフィス近傍の拡大図であり、図5(a)は上面図を、図5(b)が断面図を、図5(c)が図5(a)中のD−D´面の断面図をそれぞれ示す。
【0036】
本実施態様の電極及び接続配線は実施例1と同様であるが、オリフィスプレート2の外表面におけるオリフィス3の近傍に温度検出手段41を備えている。
温度検出手段41は、オリフィスプレート2外表面上に絶縁層44を介して形成された材質の異なる二つの配線42及び43により構成され、2つの配線が重なる部位45において発生する起電力にもとづいて温度を検出する熱電対である。
電極の材質としては、例えば、配線42にニッケル、配線43に鉄の組み合わせを用いることが可能である。
【0037】
図6に、実施例4の液体吐出ヘッドの液滴吐出を制御する液体吐出装置における温度制御フローの一例を示す。なお、前記液体吐出装置は、本発明の液体吐出ヘッドと本発明の画像形成装置の制御部の内の液体吐出ヘッドを駆動制御する制御部により構成される。
初期設定ステップで予め基準温度Tref、基準電力Prefを設定しておき、液滴吐出動作開始後、所定の間隔で温度Tの検知を行い、温度がT>Trefである場合には電力Prefを印加、T≦Trefである場合には電力Prefの印加を停止することにより、オリフィス近傍の温度がTref付近で一定に保たれる。なおこの例では、制御手段を単純なオン−オフ制御としているが、制御手段はこれに限定されるものではない。
【0038】
本実施態様においては、オリフィス近傍の温度を監視し、その情報をオリフィスへの電力印加に反映できるため、液体吐出ヘッドの外部環境温度が変動するような場合であっても、安定した温度の維持を実現できるという利点がある。
【0039】
なお、本実施例における電極及び接続配線の構成は、実施例1の形態にならっているが、実施例2及び実施例3の電極構成において温度検出手段を備えた場合にも同様の効果が期待できる。
また温度検出手段は、液体吐出ヘッドあたり一つ備えることにより代表的な温度を検出する構成であってもよく、液体吐出ヘッドあたり複数備えることにより詳細な温度検出を行う構成であってもよい。
【0040】
〔実施例5〕
(画像形成装置の第一の実施態様)
本発明の画像形成装置は、本発明の液体吐出ヘッドを備え、装置を制御する回路と、画像データに基づき前記第一の電極及び前記第二の電極に印加する電圧を算出する回路とを少なくとも備え、吐出液滴数または吐出液滴量の情報を含むデータである画像データに基づいて、印加電力を制御するものである。
【0041】
図7は、本発明の画像形成装置の一実施態様(インクジェット装置)の全体構成を示す概念図のである。
図7に示す例では、記録媒体200は連続したウェブ状の用紙であり、搬送ローラ206の駆動力によって供給ロール204から繰り出され、張架ローラ205、記録媒体支持部材であるプラテン202及び搬送ローラ206によって規定される経路上を図中矢印Eの方向に搬送されたのち、巻き取りロール207に巻き取られる。液体吐出ヘッド201はプラテン202と対向する位置に配置されており、ここで吐出されたインク液滴によって記録媒体200上に画像の形成が行われ、画像定着手段である輻射型ヒータ203によって記録媒体200上のインクが乾燥され、画像が定着する。
【0042】
図8は、本発明の画像形成装置における制御ブロックの主要部分を示す図である。装置全体は画像形成装置制御回路210により統括されており、上記の動作は液体吐出ヘッド駆動回路211への画像データ送信と、記録媒体搬送装置駆動回路215への搬送開始・停止信号の送信を同期することにより実現される。
【0043】
画像の形成は、送信された画像データが液体吐出ヘッド駆動回路211において圧電素子駆動波形に変換され、この圧電素子駆動波形に応じて液体吐出ヘッド212に備わるインクジェットノズルの圧電素子が動作し、その動作に伴ってインク液滴が吐出することにより行われる。ここで画像データとは、画像を形成するドット有無の情報を少なくとも含み、好ましくは画像の濃淡を決定する階調情報を含むものであって、インクジェットプリンタにあっては、そのいずれも本質的に吐出液滴数あるいは吐出液滴量を表している。
【0044】
また本発明の画像形成装置は、さらに、投入電力算出回路213及び電力供給回路214を備えている。投入電力算出回路213は、受信した画像データをもとに、インクジェットノズルに備わる加熱手段に印加する電力を算出する機能を有する。
【0045】
図9は、本発明の画像形成装置の制御フロー、詳しくは、本発明の画像形成装置の制御部の内の液体吐出ヘッドを駆動制御する制御部により構成される液体吐出装置における制御フローの一例である。
まず、画像形成動作すなわち液滴吐出動作の前段階において、基準液滴量Qref及び基準電力Prefは、たとえば既定の制御間隔における液体吐出ヘッドの最大吐出液滴量と、それに対応する電力として設定され、初期電力Piniは、たとえば既定の制御間隔における平均液滴吐出量に対応する電力として設定される。次に、液滴吐出動作の開始とともに電力の印加及び、画像データに基づいた吐出液滴量の加算が開始される。液滴吐出動作が次の制御タイミングまで継続された後、制御タイミング間での吐出液滴量Qが算出され、吐出液滴量Qの基準液滴量Qrefに対する比に基準電力Prefを乗じることで、次に印加する電力Pが算出される。
【0046】
本発明の画像形成装置においては、吐出液滴量に応じて電力が制御されるため、例えば、画像の粗密の差が大きい場合など吐出液滴量が大きくばらつく場合であっても、好適な温度制御が可能である。
【0047】
本発明の画像形成装置の全体構成は上記の構成に限定されるものではなく、例えば、記録媒体は用紙以外にフィルム等であってもよく、その形態はウェブ状以外にシート状のものであってもよい。
また、液体吐出ヘッドが固定されて記録媒体が移動する構造となっているが、逆に記録媒体が固定され、液体吐出ヘッドが走査される構成であってもよい。
【0048】
なお、本発明の液体吐出ヘッドにおけるインクジェットノズルの説明において、インク液に運動エネルギーを付与するエネルギー発生体として、たわみ変形する圧電素子を挙げたが、これに限定されるものではなく、例えば、縦変形により変位を発生する積層型の圧電素子であってもよく、加熱によるインク液の沸騰現象で気泡を発生させ、その気泡の圧力を運動エネルギーとする電気−熱変換素子であってもよい。
【0049】
また、本発明の液体吐出ヘッドのオリフィスプレート2の材質として、導電ガラス及び導電性樹脂を挙げたが、これらに限定されるものではなく、オリフィスプレートの厚み、オリフィスの直径、電極の寸法、供給電圧等の組み合わせに応じて、適宜多種の材料から選択することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 インクジェットノズル
2 吐出口形成基材(オリフィスプレート)
3 吐出口(オリフィス)
4 液室ブロック
5 液室
6 リストリクタ(縮流部)
7 振動板
8 圧電素子(エネルギー発生体)
9 フレーム
10 供給流路
11 液滴
21a、21b、21c 第一の電極
22a、22b、22c 接続配線
23a、23b、23c 電力供給配線
24a、24b、24c 絶縁層
31a、31b、31c 第二の電極
32a、32b、32c 接続配線
33a、33b、33c 電力供給配線
34a、34b、34c 絶縁層
41 温度検出手段
42、43 配線
44 絶縁層
45 配線重複部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0051】
【特許文献1】特許4022721号公報
【特許文献2】特開昭62−15258号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出する吐出口と、
該吐出口が形成された吐出口形成基材と、
該吐出口形成基材に隣接して設けられ、前記吐出口と連通し、液を貯留する液室と、
該液室内の前記液に運動エネルギーを付与するエネルギー発生体とを有する液滴吐出手段を少なくとも一つ備え、
前記吐出口形成基材が、導体及び半導体のいずれかで構成され、
前記吐出口形成基材の表面に、第一の電圧を印加する第一の電極及び前記第一の電圧と異なる値の第二の電圧を印加する第二の電極を備え、
前記第一の電極及び前記第二の電極に電圧を印加することにより、前記吐出口形成基材における前記第一の電極と前記第二の電極の間の通電領域の少なくとも一部が発熱体として機能することを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記吐出口形成基材が平板形状であり、前記第一の電極が、前記吐出口形成基材の外表面側に配置され、前記第二の電極が、前記吐出口形成基材の前記液室と接する面に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記吐出口形成基材が平板形状であり、前記第一の電極及び前記第二の電極が、ともに前記吐出口形成基材の外表面側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記吐出口形成基材が平板形状であり、前記第一の電極及び前記第二の電極が、ともに前記吐出口形成基材の前記液室と接する面に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記第一の電極及び前記第二の電極の少なくともいずれかが、前記吐出口と略同心円の円弧形状の電極であり、前記吐出口の外周に設けられていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記第一の電極及び前記第二の電極が、ともに前記吐出口と略同心円の円弧形状の電極であり、前記吐出口の外周に互いに重複しないように設けられていることを特徴とする請求項3から4のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記吐出口形成基材が、導電ガラス、及び導電性樹脂のいずれかからなることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
第一の電極及び前記第二の電極のいずれかの近傍の前記前記吐出口形成基材表面上に、温度検出手段を備えることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の液体吐出ヘッドを備え、
装置を制御する回路と、画像データに基づき前記第一の電極及び前記第二の電極に印加する電圧を算出する回路とを少なくとも備えることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−25465(P2011−25465A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171987(P2009−171987)
【出願日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】