説明

液体吐出ヘッド用基板、該基板を有する液体吐出ヘッド

【課題】 Taは耐キャビテーション層として広く使用されているが、近年はさらに耐久性に優れた耐キャビテーション層が必要となっている。
【解決手段】 配線層3に接続された発熱抵抗体2上に絶縁層4を形成し、その上に耐キャビテーション層を形成する。該耐キャビテーション層を下部保護層5、中間層6、上部保護層7によって形成することにより、耐久性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出方式により、インクを吐出して記録媒体に記録を行うための液体吐出ヘッド、該ヘッド用基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に開示されている液体吐出ヘッド基板では、液体を吐出するために用いられる熱エネルギーを発生する為の複数の発熱抵抗体と、該発熱抵抗体に電気的エネルギーを与えるための電極配線と、該発熱抵抗体及び電極配線を電気的に絶縁する為の絶縁層を有し、該発熱抵抗体をインクの発泡の際に生じるキャビテーションの衝撃から基板を保護するための保護層(以下耐キャビテーション層とも称する)が形成された構成が記載されている。
【0003】
前記耐キャビテーション層は、インクを吐出する際には700℃付近まで昇温し、かつインクに接する為、耐熱性、機械的特性、化学的安定性、耐アルカリ性に優れた材料が適している。そこで特許文献1には上記特性を満たす材料として、Taを用いて該耐キャビテーション層を形成した構成が開示されている。さらに、Ta以外に用いることのできる材料として、周期律表第IIIa族元素、第IVa族元素、第Va族元素、第VIa族元素、第VIII族元素などが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平6−24855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示される、Taによって形成された耐キャビテーション層は当時として必要とされる耐久性を満足するものの、近年は更に耐久性の高い耐キャビテーション膜が必要となった。
【0006】
本発明の目的は、耐キャビテーション層の耐久性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する為に、本発明におけるインクジェット記録用基板は、液体を吐出口から吐出させるために利用される熱エネルギーを発生する素子と、前記素子に接続され、液体を吐出する為のエネルギーを供給する配線層と、前記配線層をインクと電気的に絶縁する為の絶縁層と、前記絶縁層上に、前記素子を覆うように設けられた少なくとも3以上の層からなる保護層とを備え、前記保護層は、直接インクに触れる部分に形成される上部保護層と、上部保護層の下に形成される中間層と、前記中間層と前記絶縁層との間に形成される下部保護層とを備えている。
【発明の効果】
【0008】
以上の構成によれば、発熱抵抗体駆動時のキャビテーションによる基板へのダメージを低減することができる。また、その結果、インクジェット記録ヘッドの耐久性の向上が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に用いられる液体吐出ヘッドの模式的な一部破断斜視図である。
【図2】(a)本発明の第2の実施形態に係る液体吐出ヘッド用基板の発熱抵抗体近傍の平面模式図である。(b)図2(a)に示したa‐A断面に沿って切断した際の部分断面模式図であり、本発明の第1の実施形態に係る液体吐出ヘッド用基板の発熱抵抗体近傍の断面模式図である。
【図3】(a)本発明の第2の実施形態に係る液体吐出ヘッド用基板の発熱抵抗体近傍の平面模式図である。(b)図2(a)に示したa‐A断面に沿って切断した際の部分断面模式図であり、本発明の第2の実施形態に係る液体吐出ヘッド用基板の発熱抵抗体近傍の断面模式図である。
【図4】(a)本発明の第3の実施形態に係る液体吐出ヘッド用基板の発熱抵抗体近傍の平面模式図である。(b)図2(a)に示したa‐A断面に沿って切断した際の部分断面模式図であり、本発明の第3の実施形態に係る液体吐出ヘッド用基板の発熱抵抗体近傍の断面模式図である。
【図5】(a)本発明の第4の実施形態に係る液体吐出ヘッド用基板の発熱抵抗体近傍の平面模式図である。(b)図2(a)に示したa‐A断面に沿って切断した際の部分断面模式図であり、本発明の第4の実施形態に係る液体吐出ヘッド用基板の発熱抵抗体近傍の断面模式図である。
【図6】(a)本発明の第5の実施形態に係る液体吐出ヘッド用基板の発熱抵抗体近傍の平面模式図である。(b)図2(a)に示したa‐A断面に沿って切断した際の部分断面模式図であり、本発明の5の実施形態に係る液体吐出ヘッド用基板の発熱抵抗体近傍の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
図1,2を用いて、本発明の実施形態の液体吐出ヘッドを詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の第1の実施形態の液体吐出ヘッドの模式的な一部破断斜視図である。本実施形態における液体吐出ヘッド用基板は、長溝状の貫通口からなる、液体(インク)を供給するインク供給口10が開口するSi基板1に、複数の発熱抵抗体2が設けられ、また、発熱抵抗体2を保護するための3層からなる保護膜(不図示)が設けられている。この液体吐出ヘッド基板上に、インクが流れる流路(不図示)を形成する流路部材と、発熱抵抗体2の各々に対応する吐出口9が設けられたプレート8とが形成されて、液体吐出ヘッドを構成している。インク供給口10から流路に液体が供給されると、流路にそれぞれ設けられた発熱抵抗体2によって、熱エネルギーが液体に付与され、液体に発生した気泡によって吐出口9から液体が吐出される。
【0013】
図2(a)は図1における、発熱抵抗体近傍を模した部分平面模式図であり、簡素化のために流路部材を形成するプレートは図示していない。
【0014】
図2(b)は図2(a)のa‐A断面に沿って基板垂直方向に切断した際の一部を模した部分断面模式図である。なお、以下の製造工程は、発熱抵抗体2を選択的に駆動するためのスイッチングトランジスタ等の半導体素子からなる駆動回路が予め作りこまれた基板に対して実施されるものである。しかし、簡略化のために以下の図ではSiからなる基板1が図示されている。
【0015】
まずSiからなる基板1上には、酸化Siからなる蓄熱層(不図示)を形成した。なお、駆動回路を予め作りこんだ基板に対しては、それらの駆動回路の製造プロセス中で蓄熱層を形成することが可能である。
【0016】
次に、通電によって発熱するTaSiNからなる発熱抵抗体2と該発熱抵抗体2に電力を供給するためのAlCuからなる配線層3をスパッタリング法によって形成した。本実施形態においては、発熱抵抗体2は約20nmの厚さとなるように形成し、配線層3は約600nmの厚さとなるように形成した。その後、フォトリソグラフィー工程と、Cl2を用いたドライエッチング工程によって配線パターンを形成した後に、再度フォトリソグラフィー工程と、混酸を用いたウェットエッチング工程によって配線層4上の発熱部となる部分をパターニングし、発熱抵抗体2を形成した。さらにその上に、CVD法によって約300nmの厚さとなるようにSiNからなる絶縁層4を形成した。この絶縁層4は、発熱抵抗体2及び配線層3をインクから絶縁することができれば、例えばSiOやSiC、あるいはSiCNなどの絶縁材料を用いても差し支えない。
【0017】
続いて、絶縁層4上にインク吐出の際に発生した泡の消泡時に発生するキャビテーションから発熱抵抗体2を保護するための保護層を形成した。ここで、本実施形態において、該保護層は絶縁層4と中間層6を密着させるための下部保護層5と該中間層6と上部保護層7によって形成している。該保護層を形成するにあたり、まず、スパッタリング法を用いて、Taからなる厚さ約20nmの下部保護層5とIrからなる厚さ約40nmの中間層6を形成した。ただし、本実施形態においては上述のような膜厚で形成を行ったが、下部保護層5は、絶縁層4との密着性を確保できる膜厚であれば支障はなく、好ましくは約5nm〜約100nmの厚さとなるように形成する。また、中間層6は、要求される吐出回数分だけ発生するキャビテーション衝撃に耐えうる厚さで形成されることが好ましく、約10nm〜約100nmの厚さとなることがさらに望ましい。
【0018】
次に、下部保護層5及び中間層6に対してCl2を含む混合ガスを用いたドライエッチング工程によって発熱抵抗体2を覆うようにパターニングした。本実施形態においては、下部保護層5及び中間層6を1回のドライエッチングによって同時にパターニングしたが各々を別々にパターニングしたとしても本発明で得られる効果に対して何ら支障をきたさない。
【0019】
次に、Taからなる上部保護層7を、スパッタリング法を用いて約100nmの厚さとなるように形成した。ここで、該上部保護層7の膜厚に関しては中間層6を十分に覆うことのできる厚さであれば限定されるものではないが、好ましくは約30nm〜約200nmの厚さとなるように形成する。なお、上部保護層7は中間層6の表面にコゲが物理吸着することを防止する機能を有している。コゲとは、インクに含まれる色材および添加物が高温加熱により分子レベルで分解されてできる難溶出性の物質のことを指し、膜面に付着すると吐出が不安定になることが懸念される。
【0020】
その後、上部保護層7の不要な部分をCl2を用いた混合ガスによるドライエッチングで除去し、図2(a)に示す平面形状あるいは図2(b)に示す断面形状を得た。
【0021】
以上の工程により、耐久性に優れたインクジェット記録用基板を得ることができた。
【0022】
以下、第2の実施形態から第5の実施形態は、下部保護層5、中間層6、上部保護層7の部分の構成のみが第1の実施形態と異なる形態であり、相違部分に関して以下に説明をする。
【0023】
(第2の実施形態)
本実施形態では、図3に示すように下部保護層5の平面形状が中間層6のパターンより大きく、上部保護層7のパターンより小さくなるように形成した。
【0024】
(第3の実施形態)
本実施形態では、図4に示すように下部保護層5と上部保護層7を同じパターンで形成し、それよりも小さいパターンで中間層6を形成した。
【0025】
(第4の実施形態)
本実施形態では、図5に示すように下部保護層5、中間層6、上部保護層7を同じパターンで形成した。
【0026】
(第5の実施形態)
本実施形態では、図6に示すように下部保護層5、中間層6を同じパターンで形成し、それよりも小さいパターンで上部保護層7を形成した。
【符号の説明】
【0027】
1 基板
2 発熱抵抗体
3 絶縁層
4 配線層
5 下部保護層
6 中間層
7 上部保護層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、
液体を吐出口から吐出させるために利用される熱エネルギーを発生する素子と、
前記素子に接続され、液体を吐出する為のエネルギーを供給する配線層と、
前記配線層をインクと電気的に絶縁する為の絶縁層と、
前記絶縁層上に、
前記素子を覆うように設けられた少なくとも3以上の層からなる保護層とを備え、
前記保護層は、
直接インクに触れる部分に形成される上部保護層と、
上部保護層の下に形成される中間層と、
前記中間層と前記絶縁層との間に形成される下部保護層とを備えていることを特徴とする液体吐出ヘッド用基板。
【請求項2】
前記中間層はタンタル、イリジウム、ルテニウムのうち、少なくとも1つ以上を含んだ材料から形成されることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項3】
前記上部保護層はタンタルを含む材料で形成されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項4】
前記上部保護層は、前記中間層上にはα層のタンタルで形成され、前記中間層上を除いた部分はβ層のタンタルで形成されることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項5】
前記下部保護層は、タンタルを含む材料で形成されることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の液体吐出ヘッド用基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−183681(P2012−183681A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47193(P2011−47193)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】