説明

液体吐出ヘッド

【課題】クロストーク現象の抑制効果を高めることができる液体吐出ヘッドの提供。
【解決手段】液体を吐出するための複数のノズル20、複数のノズルに個別に設けられる複数の圧力室25、及び複数の圧力室の各々と連通する共通液室23を有するキャビティユニット2を備え、圧力室内の液体に圧力を付与してノズルより液体を吐出する液体吐出ヘッド1であって、キャビティユニットのうち共通液室を区画する壁面27a〜27cの少なくとも一部分が、壁面に形成された複数の孔に金属メッキ処理を施すことによって、湾曲する凹凸を有した凹凸面をなすようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力室内の液体に圧力を付与してノズルより液体を吐出する液体吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出ヘッドの一例であるインクジェットヘッドには、インクを吐出する多数のノズルを有したキャビティユニットが設けられている。キャビティユニットの内部には、各ノズルに個別に設けられた複数の圧力室と、各圧力室と連通する共通インク室とが形成されており、外部から導入されたインクは共通インク室から複数の圧力室へと分配されるようになっている。インクジェットヘッドは圧力室内のインクに吐出圧力を付与することにより、インクをノズルより吐出するよう構成されている。
【0003】
このとき圧力室内に作用する圧力波には、ノズルに向かう前進成分だけでなく、共通インク室へと逆行する後退成分も含まれる。共通インク室に圧力波が伝播すると他の圧力室まで伝播する可能性があり、これにより意図しないノズルよりインクが吐出する現象(所謂クロストーク現象)が生じてしまう。そこで例えば特許文献1に開示されるように、従来はクロストーク現象を抑制するために、共通インク室を区画する壁面を断面矩形波状の凹凸を有した凹凸面とすることもある。
【特許文献1】特開2008−207497号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、共通インク室の壁面をこのような凹凸面にすると、共通インク室内に伝播した圧力波が、凹部の平面部位や凸部の平面部位で反射するようになり、反射波の指向が均一となるおそれがある。そのため、他の圧力室にその反射波が伝播することを必ずしも防ぐことにはならず、また、このように反射波の指向が均一となることで反射波の増幅を招き、増幅された反射波が他の圧力室に伝播した際にはこれに対応するノズルよりインクが吐出してしまうおそれが高くなる。
【0005】
そこで本発明は、クロストーク現象の抑制効果を高めることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、本発明に係る液体吐出ヘッドは、液体を吐出するための複数のノズル、該複数のノズルに個別に設けられる複数の圧力室、及び該複数の圧力室の各々と連通する共通液室を有するキャビティユニットを備え、前記圧力室内の液体に圧力を付与してノズルより液体を吐出する液体吐出ヘッドであって、前記キャビティユニットのうち前記共通液室を区画する壁面の少なくとも一部分が、当該部分に形成された複数の孔に金属メッキ処理が施されることにより、湾曲する凹凸を有した凹凸面をなしていることを特徴としている。
【0007】
このような構成とすることにより、複数の孔を有する壁面にメッキ処理を施せばその壁面が湾曲する凹凸を有した凹凸面をなす。したがって、圧力室から共通液室へと伝播した圧力波をこの凹凸面において乱反射させやすくなる。このため、共通液室に伝播した圧力波が別の圧力室まで伝播するおそれが低減されるとともに、反射波の増幅を招くおそれも低減されるため、クロストーク現象の抑制効果が高くなる。
【0008】
前記キャビティユニットは複数のプレート部材を積層してなり、該複数のプレート部材には少なくとも、前記共通液室を構成するマニホールド孔を有するマニホールドプレート部材と、前記マニホールドプレート部材に積層されて前記マニホールド孔と対応する位置において前記マニホールドプレート部材とは反対側の面に形成された凹部を有するダンパープレート部材とが含まれ、前記ダンパープレート部材の前記凹部の形成により前記キャビティユニットは前記共通液室を区画する壁として可撓性を有する薄肉のダンパー壁を備え、前記凹凸面が前記ダンパー壁に形成されていてもよい。これにより、ダンパー壁の撓み変形に伴って凹凸のプロファイルが複雑に変化し、圧力波を乱反射させやすくなる。
【0009】
前記ダンパープレート部材が樹脂製であって前記複数の孔が該ダンパープレート部材に形成され、該ダンパープレート部材に金属メッキ処理を施すことによって前記ダンパー壁に前記凹凸面が形成されていてもよい。これにより、ヤング率が低い一方で空気透過性もある樹脂材を採用しても、金属メッキ処理によってその表面が金属メッキ膜で覆われる。従って、ダンパー性能を向上しつつも共通液室へのエアの侵入を防止可能なダンパー壁を構成することができる。
【0010】
前記ダンパープレート部材が金属製であって前記複数の孔が該ダンパープレート部材に形成され、該ダンパープレート部材に金属メッキ処理を施すことによって前記ダンパー壁に前記凹凸面が形成されていてもよい。金属材は、空気の透過を阻止可能である一方、高い可撓性を得るためには板厚を薄くしなければならず、金属材料を採用してダンパー性能を高めようとするときにはピンホールが形成されるおそれが伴う。本発明によれば、このような金属材にメッキ処理を施すため、ピンホールが形成されてもこれをメッキ金属で埋めることができる。従って板厚を薄くして高いダンパー性能を達成しつつ、ピンホール等による共通液室へのエアの侵入を防止可能なダンパー壁を構成することができる。
【0011】
前記複数の孔が貫通孔であってもよい。このような構成とすることにより、凹凸の曲率を大きくすることができ、圧力波の乱反射を生じさせやすくなる。
【0012】
前記複数の貫通孔が千鳥状に配列されていてもよい。このような構成とすることにより、凹凸が、壁面の縦方向及び横方向の両方向において複雑に湾曲するように形成されるため、圧力波の乱反射を生じさせやすくなる。
【0013】
前記複数の孔は、その孔が形成された部材に対して施されるメッキ金属の厚さに対して、その孔の幅方向の寸法が、前記メッキ金属の厚さの2倍の寸法長さを有していることが好ましい。これにより、メッキ金属の析出量を最小限にして孔を埋めることができる。そのため、凹部と凸部の高低差をなるべく大きくすることができ、圧力波の乱反射を生じさせやすくなる。
【発明の効果】
【0014】
このように本発明によれば、圧力波を乱反射させる効果を高めることができ、これによりクロストーク現象の抑制効果を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。本実施形態は本発明に係る液体吐出ヘッドをインクジェットプリンタに搭載されるインクジェットヘッドに適用したものであり、以降ではインクが吐出する方向を「下方」としている。
【0016】
[第1実施形態]
図1は本発明の第1実施形態に係るインクジェットヘッド1の分解斜視図である。図1に示すインクジェットヘッド1は、複数枚のプレートを上下に積層してなるキャビティユニット2に上側からアクチュエータ3が重ねられて構成される。キャビティユニット2及びアクチュエータ3はそれぞれ平面視で矩形状に形成されており、以降ではキャビティユニット2の長辺方向を「縦方向」、短辺方向を「横方向」とし、縦方向に関して図1の左下側を「一方側」、その反対側を「他方側」とし、横方向に関して図1の右下側を「一方側」、その反対側を「他方側」としている。
【0017】
アクチュエータ3の上側にはフレキシブルプリント基板5が重ねて設けられ、アクチュエータ3の上面に設けられた表面電極4がプリント基板5の下面に露出する配線の端子部(図示せず)と導通される。プリント基板5には配線に接続された吐出ドライバ6が実装されており、吐出ドライバ6が出力する駆動電圧がプリント基板5を介してアクチュエータ3側に供給され得るようになっている。
【0018】
図2は図1に示すインクジェットヘッド1を組み立てた状態にして図1のII−II線に沿って切断して示すインクジェットヘッド1の縦断面図、図3は同じくして図1のIII−III線に沿って切断して示すインクジェットヘッド1の部分横断面図である。なお、図2ではアクチュエータ3の外形を示すとともにプリント基板5の図示を省略しており、また、図2にも図3の横断面を示すためのIII−III線を示している。
【0019】
図2及び図3に示すキャビティユニット2は、上側から順に圧力室プレート11、第1及び第2接続流路プレート12,13、第1及び第2マニホールドプレート14,15、ダンパープレート16、カバープレート17、及びノズルプレート18が積層接着されて構成されている。ダンパープレート16の製造方法については後述するが、ノズルプレート18は例えばポリイミド等の樹脂製であり、これ以外の他のプレート11〜15,17は例えばステンレス鋼等の金属製である。各プレート11〜18は平面視において互いに同じ外寸の略矩形状に形成されている。
【0020】
各プレート11〜18には例えばレーザ加工やエッチング加工等を用いて開口及び/又は溝が形成されており、各プレート11〜18が積層されるとこれら開口及び溝が互いに連通する。これによりキャビティユニット2には、上面2aに開口する4つのインク供給口19(図1,図2参照)と下面2bに開口する多数のノズル20(図3参照)とが設けられるとともに、各インク供給口19に対応する複数系統のインク流路21が形成される。各インク流路21には、インク供給口19に近い上流側から順に、インク導入流路22(図2参照)、共通インク室23(図2,図3参照)、複数の接続流路24(図2,図3参照)、複数の圧力室25(図3参照)、及び複数のディセンダ26(図3参照)が含まれ、各ディセンダ26の下流端に個別にノズル20が連通している。
【0021】
図1に戻り、キャビティユニット2の上面には、縦方向一方側の端部において4つのインク供給口19が開口しており、これを覆ってフィルタ7が接着されている。外部からのインクは、フィルタ7で濾過されてから各インク供給口19に供給され、これに対応するインク流路21へと流入する。
【0022】
図2を参照すると、インク導入流路22は圧力室プレート11から第2接続流路プレートまでに形成された各貫通孔11a,12a,13aが互いに上下に連通することによって構成されている。貫通孔11aの上側開口がインク供給口19をなしており、インク導入流路22はインク供給口19からキャビティユニット2内を下方に延びている。
【0023】
第1及び第2マニホールドプレート14,15にはそれぞれ、平面視で重なる位置に同形状のマニホールド孔14a,15aが形成されており、共通インク室23はマニホールド孔14aの上側開口が第2接続流路プレート13で閉鎖されてマニホールド孔15aの下側開口がダンパープレート16で閉鎖されることにより構成される。つまり、共通インク室23は4つの壁面27a〜27cで区画され、そのうち上壁面27aは、第2接続流路プレート13の下面のうちマニホールド孔14aの上側開口を塞ぐ部分により形成され、下壁面27bは、ダンパープレート16の上面のうちマニホールド孔15aの下側開口を塞ぐ部分によって形成される。側壁面27cは各マニホールド孔14a,15aの内面により形成される。共通インク室23は、その縦方向一方側の端部においてインク導入流路22の下端と連通しており、その連通部分からキャビティユニット2内を縦方向他方側の端部まで延びている。なお、図1に戻ると、横方向一端に配置されたインク供給口19は他に比べて大型である。この大型のインク供給口19には2個の共通インク室23が連通しており、他の3つのインク供給口19にはそれぞれ1個の共通インク室23が連通している。つまり、このキャビティユニット2は5個の共通インク室23を有している。
【0024】
図2及び図3に示すように、ダンパープレート16の下面にはマニホールド孔15aの下側開口と対応する部分に非貫通の凹溝16aが開口しており、この凹溝16aの開口がカバープレート17で閉鎖されることによりダンピング空間28が構成されている。このように、非貫通の凹溝16aに対応した薄肉のダンパー壁16bの上面が共通インク室23の下壁面27bをなし、ダンパー壁16bはその上側において共通インク室23に面しており、その下側においてダンピング空間28に面することとなる。そのため、ダンパー壁16bは、共通インク室23側或いはダンピング空間28側に向けて上下に変形可能な可撓性を有していて、両空間23,28の容積を可変にしている。
【0025】
図2に示すように複数の接続流路24は、共通インク室23に沿って縦方向に配列されている。図2のIII−III線に示すとおり、図3にはそのうちの1つとそれに繋がる下流側の流路構造の横断面形状が示されている。図3に示すように各接続流路24は、第2接続流路プレート13の貫通孔13bと、第1接続流路プレート12の凹溝12b及び貫通孔12cが互いに連通することにより構成されている。貫通孔13bは共通インク室の上壁面23aに開口してそこから上方に延びるように配置されており、貫通孔13bの上側開口に凹溝12bの開口の端部が連通している。凹溝12bはこの連通部分から圧力室11bが配置されている側(図3に示されるものについては横方向他方側)に延びている。凹溝12bの開口はその先端部において貫通孔12cと連通しており、貫通孔12cの上側開口は圧力室孔11bの下側開口に連通している。この圧力室孔11bは各接続流路24に個別に対応して設けられているものである。
【0026】
圧力室25は圧力室孔11bの上側開口がアクチュエータ3で閉鎖されて下側開口が第1接続流路プレート12で閉鎖されることにより構成されている。ディセンダ26は第1接続流路プレート12からカバープレート17までに形成された各貫通孔12d,13c,14b,15b,16c,17aが互いに上下に連通することにより構成されており、第1接続流路プレート12の貫通孔12dは圧力室孔11bの下側開口に連通している。ノズルプレートにはノズルが貫通して形成されており、カバープレートの貫通孔の下側開口がノズル20に連通している。これにより各圧力室25はディセンダ26を介し、個別に対応するノズル20と連通する。
【0027】
アクチュエータ3は、最下層に配置される保護板30と、保護板30の上側に重ねられる3つの圧電層31〜33とが上下に積層接着されて構成されている。この保護板30は圧力室孔11bの上側開口を閉鎖するよう配置され、保護板30は圧力室24内のインクが圧電層31〜33に浸入するのを保護するために水透過性を有しない金属材料から形成されている。各圧電層31〜33はチタン酸ジルコン酸鉛等の圧電材料から形成されており、以降では3つの圧電層のうち最下層のものを第1圧電層31、中間層のものを第2圧電層32、最上層のものを第3圧電層33と呼ぶ。
【0028】
第1及び第2圧電層31,32の上下間と、第3圧電層33の上面とにはそれぞれ、圧力室24と上下に重なる位置に該圧力室24に対応する個別電極34,35が設けられている。保護板30及び第1圧電層31の上下間と、第2及び第3圧電層32,33の上下間とにはそれぞれ、全ての圧力室に対応する共通電極36が設けられている。
【0029】
両個別電極34,35は図示しない領域において第2及び第3圧電層32,33を貫通するスルーホールを介して導通している。両共通電極36,36も同様にして互いに導通しているとともに、図1に示すように第3圧電層33の上面(すなわちアクチュエータ3の上面)に設けられた共通用表面電極36に導通している。つまり、上側の個別電極35とこの共通用表面電極36とが前述した表面電極4をなしている。そのうち上側の個別電極35は圧力室25に対して平面視で外側に延在する端子部35aが一体的に設けられ、この端子部35a上に設けられた導電性バンプ等の接点部材38を介してプリント基板5の端子部(図示せず)に導通され、これにより各個別電極34,35に吐出ドライバ6が出力する駆動電圧が選択的に印加されるようになる。なお、詳細図示を省略するが、共通用表面電極37に関しても同様にしてプリント基板5と導通され、またグランド電位に接続される。このようにして3つの圧電層31〜33には、圧力室25と上下に重なる部分において、個別電極34,35と共通電極36とが交互に配置されて積層方向に分極された活性部39が形成される。
【0030】
このアクチュエータ3によると、吐出ドライバ6からの駆動電圧が個別電極34,35に印加されると、個別電極34,35と共通電極36との電位差に基づいて活性部39が分極方向である積層方向に伸長すると共に面方向に収縮する。これにより保護板30も下側に凸となるよう弾性変形して圧力室25の容積を減少させる。これにより圧力室25内のインクに吐出圧力が付与され、その圧力波がディセンダ26を介してノズル20に伝播し、ノズル20よりインクが下方に吐出される。なお、アクチュエータはこの方式に限らない。
【0031】
ここで、圧力室25内に作用する圧力波には、ノズル20に向かう前進成分だけでなく、共通インク室23に向かう後退成分も含まれている。共通インク室23は薄肉のダンパー壁16bによって区画されているため、共通インク室23に圧力波が伝播するとダンパー壁16bの撓み変形により圧力波が減衰吸収される。これにより所謂クロストーク現象を抑制可能となる。
【0032】
クロストーク現象の抑制効果を高めるには、ダンパー壁16bの面積を広くしたり、その可撓性を高めることのほか、伝播した圧力波を共通インク室23の壁面23a〜23cで乱反射させることによって圧力波の増幅を防いだり、他の接続流路24に反射波を容易に伝播させにくくすること等も有効と考えられる。以下、このようにクロストーク現象の抑制効果を高めるために本実施形態に適用された構成について説明する。
【0033】
図4は図2及び図3に示すダンパープレート16の斜視図である。本実施形態では5つの共通インク室が形成されるため、図4に示すようにダンパープレート16には5つのダンパー壁16bが設定されることとなる。ディセンダ26を構成する貫通孔16cはダンパー壁16bを横方向に挟むようにして縦方向に列をなしている。
【0034】
前述したようにダンパー壁16bの上面によって共通インク室23の下壁面27bが構成されるが、本実施形態の下壁面27bは横方向に凸部27pと凹部27qとが交互に現れる凹凸面をなしている。言い換えると、ダンパー壁16bの上面には、縦方向に延在する複数条の凸部27pと凹部27qとが横方向に交互に並ぶようにして形成されている。
【0035】
図5は図4に示すダンパープレート16の製造方法の説明図である。図5(a)はダンパープレートの基材40の部分横断面図である。この基材40は、圧延によって成形されたステンレス鋼等の金属製のマザープレートから、完成品であるダンパープレート16と平面視で同寸のプレートが刳り抜かれることによって形成される。この刳り抜きにはパンチング加工を用いてもよいしエッチング加工を用いてもよい。なお、本実施形態ではこの基材40の板厚は50μmで、概ね40〜100μm程度である。
【0036】
基材40を準備した後、図5(b)に示すように、ハーフエッチング加工を用いて下面に開口する凹部41を形成する。この凹部41の形成により、基材40には、凹部41の形成後に残された薄肉部42と、ハーフエッチング加工が施されず元の板厚を維持する厚肉部43とが形成されることとなる。薄肉部42の板厚xは概ね5μmであり、マザープレートの成形時に金属原料と共に混入される微粒子状の介在物の径(およそ15〜20μm)よりも小さい値となっている。
【0037】
なお、図5(b)は基材40の横断面を部分的に示すものであるが、凹部41は、キャビティユニット2の組み立て時において各マニホールド孔15aの下側開口と上下に重なるとされる位置に設けられ、結果として基材40には縦方向に延びる5つの凹部41が形成されている。
【0038】
図6は図5(b)のVI−VI線に沿って切断して示す基材40の部分平断面図である。図5(b)及び図6に示すように、薄肉部42には、縦方向に延びる複数条のスリット44が横方向に並ぶようにして形成される。これらスリット44はエッチング加工を用いて形成されて薄肉部42を上下に貫通しており、薄肉部42は隣接するスリット44間に挟まれた部分のみが残ることとなる。以降ではこのスリット44の形成後に残った部分を「残余部42a」と呼んで説明する。残余部42aも隣接するスリット44の間を縦方向に延びるようにして設けられており、これら複数の残余部42aが横方向に並ぶように配置されている。なお、スリット44は、前述の凹部41の形成とともに凹部41とともにエッチングにより同時に形成させてもよい。
【0039】
そして、このように凹部41及びスリット44が形成された基材40にメッキ処理が施される。メッキは電解メッキでも無電解メッキでもよく、また、メッキにはどのような金属を用いてもよいが、例えば電解ニッケルメッキを採用することができる。ニッケルはインクに対する耐食性が高く、ステンレス鋼と比べてヤング率も小さいためにダンパー壁としての変形を阻害せずに、可撓性を有している点で有利である。
【0040】
図5(c)はメッキ処理を施している過程の状態を示すものである。図5(c)に示すように、薄肉部42に着目すると、スリット44の形成により各残余部42aの横断面形状は矩形状となるが、その四隅部45の外側および各残余部42a上から同厚に横断面視で弧を描くようにしてメッキ金属50が析出されていく。つまり、図5(c)に示すように、スリット44によって分断された各残余部42aの4つの表面にはそれぞれ、メッキ金属50が蒲鉾状(断面D字状)に析出され、析出されたメッキ金属50の該表面の断面形状が少なくとも四隅部45の周辺において略円弧状となり、矩形をなす四辺の中央部46において略平坦となる。
【0041】
そして、図5(d)に示すように、少なくとも各スリット44がメッキ50で埋まるまで処理を進め、メッキ処理を終えることによってダンパープレート16が完成する。このようにダンパー壁16bは、残余部42aの表面にメッキ50を析出させてスリット44をメッキ50で埋めることによって形成され、このダンパー壁16bの下側には基材40の凹部41に基づきダンパープレート16の凹溝16aが形成されることとなる。
【0042】
このようにダンパープレート16の製造に際し、縦方向に延びて横方向に並ぶ複数条のスリット44を形成した後にメッキ処理を施すため、前述したように、このダンパー壁16bの上面は、残余部42aの中央部46において縦方向に延びる凸部27pを形成し、スリット44の横方向中央線47が通過する箇所、すなわち隣接する残余部42aの中間箇所において縦方向に延びる凹部27qをなす。そして、断面D字状にメッキ金属50が析出された状態を経てメッキ処理が進んでいくため、凸部27pと凹部27qとは、互いの外表面が湾曲する凹凸をなすようにして繋がっており、ダンパー壁16bの上面は湾曲する凹凸を有した凹凸面を形成する。
【0043】
なお、薄肉部42aの下面側にも同様の凸部が略上下対称に形成され、これら上下に突出する2つの凸部の頂部の上下間距離がダンパー壁16bの最大板厚dとなる。本実施形態では、ダンパー壁16bの最大板厚dを例えば15μm程度まで薄くなるようにしており、そのために析出されるメッキ金属50の膜厚yが概ね5μm程度となるようにしている(d≒x+2y)。
【0044】
従来の工法で同じ板厚のダンパー壁を形成しようとすると、前述した微粒子状の介在物が脱落してダンパー壁にピンホールが空き、このピンホールを介してダンピング空間と共通インク室とが互いに連通することによってダンピング空間内のエアがインク流路に侵入してしまうおそれがある。本実施形態では、このような介在物の径よりも小さい板厚の薄肉部42を形成しているが、その後にメッキ処理を施しているため、たとえピンホールが空いたとしてもそれをメッキ金属で埋めることが可能となる。そのため、ピンホールを介したエアの侵入を防ぎつつもダンパー壁16bの板厚をなるべく薄くして可撓性を大きくすることができ、クロストーク現象の抑制効果を高めることができる。
【0045】
なお、共通インク室23がダンピング空間28から完全に分断される状態を確保するには、少なくともスリット44がメッキ金属50で埋まる程度にはメッキ処理を継続して行わなければならない。逆に言えば、スリット44の幅寸法zをメッキ金属50の膜厚yの2倍と等しくすることにより(z=2y)、メッキ処理に要する時間をできる限り短くした上で共通インク室23とダンピング空間28とが分断される状態を確保することができる。なお、スリット44の幅寸法zをメッキ金属50の膜厚yの2倍よりも小さくした場合には(z<2y)、凹部27qと凸部27pの高低差が小さくなり、後述する乱反射の効果を得にくくなる。他方、スリット44の幅寸法zをメッキ金属50の膜厚yの2倍よりも大きくした場合には(z>2y)、スリット44を埋めるために必要なメッキ金属50の析出量と処理時間とが大きくなり、ダンパー壁の最大板厚が所望する厚さよりも大きなものとなってしまう。つまり、スリット44の幅寸法zをメッキ金属50の膜厚yの2倍と等しくすることにより、ダンパー壁の最大板厚を所望するものにすることができるとともに、凹部27qと凸部27pとの間の高低差を大きくして乱反射の効果を得やすくなるという利点もある。
【0046】
図7は図3の部分拡大図であり、図5に示す方法を用いて製造されて図4にその外観が示されるダンパープレート16を適用したキャビティユニット2の部分横断面図である。図7には圧力室24から共通インク室23に伝播した圧力波を矢印P1,P2,P3で示している。ここでは圧力波P1,P2,P3が共通インク室23の下壁面23bに向かって進行する様子が概念的に示されており、これら圧力波P1,P2,P3の進行方向を便宜的に互いに平行としている。下壁面27bは湾曲した凹凸を有しているため、下壁面23bに到達した圧力波は下壁面27bにおいて様々な方向に反射するようになる(矢印P1′,P2′,P3′参照)。このように、本実施形態によれば、共通インク室23の壁面が湾曲した凹凸を有した凹凸面をなしているため、共通インク室23に伝播した圧力波をこの凹凸面において乱反射させることができ、隣り合う接続流路にその圧力波が伝播してしまうおそれや、圧力波が反射後に増幅するおそれを低減することができる。
【0047】
また、図7では便宜的にダンパー壁16cが縦横水平に延びる状態を示しているが、圧力波が伝播すると前述したように撓んで変形し、その横断面のプロファイルがこの変形に従ってその都度変化する。本実施形態では、共通インク室23の壁面のうちダンパー壁の上面である下壁面27bを凹凸にしているため、この凹凸のプロファイル(言い換えると凹部と凸部との間の曲率半径)もダンパー壁16bの撓み変形に伴い複雑に変化するようになる。このため圧力波をより乱反射させ易くなる。
【0048】
このように本実施形態によれば、共通インク室23とダンピング空間28とが連通するおそれをなくした上でダンパー壁16bの板厚を薄くすることができ、且つ共通インク室23の壁面27bを湾曲した凹凸を有する凹凸面にすることができるため、クロストーク現象の抑制効果を高めることができる。
【0049】
なお、ダンパープレート16の製造時に薄肉部42に形成される孔の形状やパターンは図6に示すものに限定されない。次に、この孔の形状やパターンを変更したものを第2乃至第4実施形態として説明する。
【0050】
[第2実施形態]
図8は本発明の第2実施形態に係るダンパープレート66の外観を示す斜視図であり、第1実施形態における図4に相当するものである。図8に示すように、このダンパープレート66においては、ダンパー壁66bの上面(すなわち共通インク室の下壁面77b)に形成される凸部77pと凹部77qとが横方向に延びており、複数条の凸部77pと凹部77qとが交互に縦方向に並んで配置されている。このようなダンパー壁66bを形成するため、本実施形態では、第1実施形態と同様にして基材(図示せず)に薄肉部(図示せず)を形成した後に、横方向に延びる複数本のスリット(図示せず)を形成する。つまり、第1実施形態に対し、スリットの延在方向を90度異ならせる。その後、第1実施形態と同様に少なくともスリットがメッキ金属で埋まる程度にメッキ処理を施すことにより、図8に示すダンパープレート66が完成する。このダンパープレート66をキャビティユニットのプレートの一つとして適用することにより、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。なお、図8の参照符号66cはインク流路のディセンダを構成するための貫通孔であり、第1実施形態と同様にして形成されている。
【0051】
[第3実施形態]
図9は本発明の第3実施形態に係るダンパープレートの基材140の部分平断面図であり、第1実施形態における図6に相当するものである。図9に示すように、このダンパープレートの基材140においては、厚肉部143で囲まれた薄肉部142に平面視矩形状の貫通孔144が格子状に配列されている。このように配列された貫通孔144を形成した後にメッキ処理を施すと、残余部142aにおける貫通孔144から最も離隔した位置Pにおいてダンパー壁の板厚が最も厚くなり、貫通孔144の中心位置(符号なし)においてダンパー壁の板厚が最も薄くなる。図9には位置Pを黒点で示しているが、位置Pと貫通孔144の中心位置とは平面視で千鳥状に配列される。つまり、メッキ処理を終えて完成したダンパープレートにおいては、そのダンパー壁の上面の凹凸が横断面と縦断面の両方に現れることとなる。このダンパープレートをキャビティユニットのプレートの一つとして適用することにより、共通インク室の壁面に形成される凹凸のプロファイルが第1及び第2実施形態よりも複雑になるため、圧力波を更に乱反射させ易くなり、クロストーク現象の抑制効果を更に向上させることができる。
【0052】
[第4実施形態]
図10は本発明の第4実施形態に係るダンパープレートの基材の部分平断面図であり、第1実施形態における図6に相当するものである。図10(a)に示すように、このダンパープレートの基材190においては、厚肉部193で囲まれた薄肉部192に平面視矩形状の貫通孔194が千鳥状に配列されている。このように配列された貫通孔144を形成した後にメッキ処理を施すと、残余部192aにおける貫通孔194から最も離隔した位置Pにおいてダンパー壁の板厚が最も厚くなり、貫通孔194の中心位置(符号なし)においてダンパー壁の板厚が最も薄くなる。図10(a)にも位置Pを黒点で示しており、位置Pと貫通孔194の中心位置とが平面視で千鳥状に配列されることとなる。
【0053】
本実施形態では貫通孔を千鳥状に配列しているため、薄肉部に第3実施形態よりも多くの貫通孔を形成することができ、位置pと貫通孔194の中心位置とを密に配置することができるようになる。そのため、共通インク室の壁面に形成される凹凸を細かく形成することができ、圧力波を更に乱反射させ易くなってクロストーク現象の抑制効果を向上させることができる。
【0054】
図10(b)は図10(a)に対し、基材240の薄肉部242に形成する貫通孔244の形状を菱形状に変更した場合を示している。この場合においても図10(a)に示す基材190からダンパープレートを製造したときと同様の作用効果を得ることができる。
【0055】
ダンパープレートの基材に形成される孔の形状や配列パターンは、第1乃至第4実施形態に例示したものに限られず、その他にも適宜変更可能である。また、ダンパープレートの基材として金属素材のワイヤーをメッシュ状に編み込んだものを採用し、これにメッキ処理を施してワイヤー間の空隙を埋めることによりダンパープレートを製造してもよい。この場合においても、第4実施形態と同様にしてダンパープレートの上面を凹凸面にすることができ、その凹凸を複雑且つ微細にすることができるようになる。
【0056】
[第5実施形態]
図11は本発明の第5実施形態に係るインクジェットヘッド251の部分横断面図であり、第1実施形態における図3に相当するものである。なお、第1実施形態と同一の構成については同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0057】
図11に示すインクジェットヘッド251のキャビティユニット252は、第2マニホールドプレート15とカバープレート17との間に、第1及び第2ダンパープレート266,279が介在している。第1ダンパープレート266は平板状であり、ディセンダを構成するための貫通孔266cの他に、開口や溝が形成されていない。第2ダンパープレート279には、マニホールド孔15aの下側開口と上下に重なる位置において貫通孔279aが形成されている。この貫通孔279aの上側開口が第1ダンパープレート266で閉鎖され下側開口がカバープレート17で閉鎖されることによってダンピング空間278が構成される。また、これにより第1ダンパープレート266のうち貫通孔279aを閉鎖する部分は、共通インク室23及びダンピング空間278に面することとなり、共通インク室23側或いはダンピング空間278側へ可撓なダンパー壁266bを構成する。なお、第2ダンパープレート279にもディセンダ26を構成するための貫通孔279cが形成されている。
【0058】
第2ダンパープレート279は圧力室プレート11等と同様にしてステンレス鋼等の金属製のプレートであり、貫通孔279a,279cはエッチング加工やプラズマジェット加工等によって形成される。
【0059】
図12は図11に示す第1ダンパープレート266の製造方法の説明図であり、第1実施形態における図5に相当するものである。図12(a)は第1ダンパープレートの基材290の部分横断面図である。この基材290は、樹脂製の幅広のプレートから、完成品である第1ダンパープレート266と同じとなる平面視矩形状のプレートを刳り抜くことにより形成される。なお、この基材290の板厚は概ね10μm程度となっている。
【0060】
この基材290を準備した後、図12(b)に示すように、マニホールド孔15aの下側開口と上下に重なるとされる領域において、縦方向に延びる複数条のスリット294が横方向に並ぶようにして形成される。このスリット294を形成する領域には、スリット294間に挟まれた部分のみが残余部292aとなって残る。複数の残余部292aが横方向に並ぶように配置され、それぞれスリット294間を縦方向に延びている。
【0061】
そして、このようにスリット294を形成した基材290に電解メッキ処理を施す。図12(c)には、この電解メッキ処理を施している過程の状態が示されている。本実施形態においても、第1実施形態と同様にして、スリット294によって分断された各残余部292aの4つの表面にはそれぞれ、メッキ金属300が同厚で蒲鉾状(断面D字状)に析出されていく。
【0062】
そして、図12(d)に示すように、少なくとも各スリット294がメッキ金属300で埋まるまでメッキ処理を進めてダンパープレート266を完成させる。このように、第1ダンパープレート266のダンパー壁266bは、残余部292a及びスリット294の表面にメッキ金属300を析出させることにより形成される。
【0063】
第1ダンパープレート266の上面も、第1実施形態と同様にして、残余部292aの上面中央部296において縦方向に延びる凸部277pをなし、隣り合う残余部292aの各々の中間において縦方向に延びる凹部277qをなす。そして、これら凸部277pと凹部277qとは、互いの外表面が湾曲する凹凸をなすようにして繋がり、ダンパー壁266bの上面(すなわち共通インク室23の下壁面277b)は湾曲する凹凸を有した凹凸面をなす。
【0064】
図13は図11の部分拡大図であり、図12に示す方法を用いて製造された第1ダンパープレート266をキャビティユニット252のプレートの一つとして適用した場合を示すキャビティユニット252の部分横断面図である。
【0065】
本実施形態のダンパー壁266bは、板厚10μm程度の第1ダンパープレート266によって構成されるが、この第1ダンパープレート266の基材290を、金属よりも一般にヤング率の小さい樹脂から成形している。そのため、ダンパー壁266bを第1実施形態よりも板厚が厚くなり、さらに金属メッキが施されたとしても、本来のヤング率が小さいことから圧力波が伝播したときのダンパー壁266bの撓み変形量は第1実施形態と同等の効果を得ることができる。もし、第1実施形態と同一の板厚に設定した場合、第1実施形態よりもその撓み変形量が大きくなる。そのため、圧力波の減衰効果を高めることができ、クロストーク現象の抑制効果を高めることができる。
【0066】
また、一般に樹脂材は金属と比べて水透過性が高いため、そのまま樹脂材をダンパー壁に適用すると、ダンピング空間内のエアがダンパー壁を透過して共通インク室内に浸入するおそれがある。そこで本実施形態では、樹脂製の基材290をメッキ処理を施すことによってダンパー壁266bを構成する第1ダンパープレート266を製造している。そのため、上述のように撓み量を大きくしつつも、エアがダンパー壁266bを透過することも防止することができる。
【0067】
そして、基材290にスリット294を形成した後にメッキ処理を施すようにしているため、図13に示すように、ダンパー壁16bの上面(すなわち共通インク室23の下壁面277b)は、第1実施形態と同様にして、湾曲する凹凸を有した凹凸面をなすようになる。従って、圧力波P4,P5,P6の後退成分が共通インク室23内に伝播しても、この下壁面277bにおいて乱反射させることができ(矢印P4′,P5′,P6′参照)、クロストーク現象の抑制効果を高めることができる。
【0068】
なお、第1ダンパープレート266の製造時に形成される孔の形状やパターンは図12に示した縦方向に延びるスリットに限られず、第2乃至第4実施形態のように横方向に延びるスリットや、格子状に配列された貫通孔や、千鳥状に配列された貫通孔であってもよい。
【0069】
また、本実施形態のキャビティユニット252の積層構造は、ダンパープレートの基材を金属プレートや金属メッシュとしたときにも同様にして適用することができる。
【0070】
[第6実施形態]
図14は本発明の第6実施形態に係るダンパープレート316の製造方法の説明図であり、第1実施形態における図5に相当するものである。図14(a)に示すダンパープレートの基材340は第1実施形態の基材40(図5参照)と同様のものであり、次いで図14(b)に示すように、この基材340にも凹部341が形成された後に薄肉部342に縦方向に延びる複数条のスリット344が形成される。そして、凹部341が形成されず元の板厚を維持した厚肉部343の上下両面に、マスク349が設けられる。
【0071】
そして、マスク349を被せた状態で基材340にメッキ処理を施す。これにより、薄肉部342においては第1実施形態と同様にしてメッキ金属350が析出されていくが、マスク349が被せられている厚肉部343の上下両面にはメッキ金属が析出されない。
【0072】
スリット344がメッキ金属350で埋まるとメッキ処理を終えてマスク349が剥がされる。これによりダンパープレート316が完成する。第1実施形態と同様、基材340の凹部41に基づいてダンパープレート316の凹溝16aが形成され、薄肉部342が設けられた領域はダンパー壁316bとして機能する。ダンパー壁316bの上面には凸部327p及び凹部327qが交互に配置され、湾曲する凹凸を有した凹凸面が形成される。他方、厚肉部343の上下両面はメッキされず、基材340の表面が露出して平坦となっている。
【0073】
図15は図14に示す方法を用いて製造されたダンパープレート316をキャビティユニット302のプレートの一つとして適用した場合を示すキャビティユニット302の部分横断面図である。図15に示すように、厚肉部343の上面は第2マニホールドプレート15の下面と接着される接着面をなし、厚肉部343の下面はカバープレート17の上面と接着される接着面をなしている。これら接着面が前述したように平坦となっているため、ダンパープレート316を他のプレートとガタなく接着することができる。なお、この製造方法は、基材に金属メッシュ又は樹脂製のプレートを採用したときであっても同様に適用することができる。
【0074】
[第7実施形態]
図16は本発明の第7実施形態に係るインクジェットヘッド351の部分横断面図であり、第1実施形態における図3に相当する。図17は図16に示す第1及び第2キャビティプレート14,15と第1及び第2ダンパープレート366,379の分解斜視図である。なお、第1実施形態と同一の構成については同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0075】
図16に示すインクジェットヘッド351のキャビティユニット352は、第2マニホールドプレートとカバープレートとの間に第2ダンパープレート379が介在している。
【0076】
図16及び図17を併せて参照すると、第2ダンパープレート379にはディセンダ36を構成するための貫通孔379cが形成されるとともに、マニホールド孔15aと上下に重なる部分において上下に貫通する貫通孔379aが形成されている。平面視において貫通孔379aはマニホールド孔15aに対して一回り小さく形成されており、マニホールド孔15aの輪郭線の内側に貫通孔379aの輪郭線が配置されるようにして第2マニホールドプレート15と第2ダンパープレート379とが上下に積層される。そのため、これらプレート15,379を積層すると、第2ダンパープレート379の上面のうち貫通孔379aの外周縁部379bがマニホールド孔15bに面する。この外周縁部379bに第1ダンパープレート366の下面が接着され、貫通孔の上側開口は第1ダンパープレート366によって閉鎖される。このような構造であるため、本実施形態のキャビティユニット352には、図17に示すように、共通インク室の個数に合わせて5枚の第1ダンパープレート366が設けられる。また、このような構造を実現するため、平面視において第1ダンパープレート366の外形は、マニホールド孔14a,15aの輪郭線よりも小さく、且つ第2ダンパープレート379の貫通孔379aの輪郭線よりも大きくなるよう形成されている。
【0077】
図18は図16の部分拡大図である。図18に示すように、第2ダンパープレート379の貫通孔379aの下側開口はカバープレート17で閉鎖され、これによりダンピング空間378が構成される。また、これにより第1ダンパープレート366のうち貫通孔379aを閉鎖する部分は、共通インク室23及びダンピング空間378に面することとなり、共通インク室23側或いはダンピング空間378側へと可撓性を有するダンパー壁366bを構成する。
【0078】
この第1ダンパープレート366は、第5実施形態の第1ダンパープレート366と同様にして樹脂製プレートを基材390としている。この基材390の形状は完成品である第1ダンパープレート366に合わせて短冊状に形成される。このように平面視形状は第5実施形態と異なるものの、その後は図12を参照して説明した第5実施形態と同様にして、縦方向に延びる複数条のスリット394を基材に形成した後に、このスリット394がメッキ金属で埋まるまで基材にメッキ処理が施され、これにより第1ダンパープレート366が完成する。すると、完成した第1ダンパープレート366によって構成されるダンパー壁366bの上面には、スリット394が形成された後に基材390として残った残余部392bに対応する部分を中心にして凸部377pが形成され、各残余部342aの中間部に凹部377qが形成される。このようにして、本実施形態においてもダンパー壁366bの上面(すなわち共通インク室23の下壁面377b)が湾曲した凹凸面を有した凹凸面をなし、共通インク室23に伝播した圧力波の後退成分をこのダンパー壁366bの上面において乱反射させることができるようになる。
【0079】
なお、本実施形態のキャビティユニット302の積層構造は、第1ダンパープレートの基材を金属プレートや金属メッシュとしたときにも同様にして適用することができる。
【0080】
これまで本発明に係る実施形態について説明したが、本発明の範囲内において上記構成を適宜変更することができる。例えば、ダンパープレート(又は第1ダンパープレート)の基材にメッキ処理を施す前に貫通するスリットや孔を形成するとしたが、これは非貫通の溝や孔であってもよい。そのときには、共通インク室に面する上面にこれら溝や孔を開口させることにより、上記各実施形態と同様にして共通インク室の下壁面を湾曲する凹凸を有した凹凸面にすることができる。
【0081】
また、上記各実施形態においては、ダンパー壁の上面のほぼ全域において凹凸を形成したが、このような凹凸を部分的に形成してもよい。また、共通インク室の下壁面に凹凸を形成するようにしたが、共通インク室を区画するその他の壁面に同様の凹凸を形成してもよい。
【0082】
また、本発明に係る液体吐出ヘッドは、インクジェットプリンタに搭載されてインクを吐出するインクジェットヘッドに限定されず、インク以外の液体、例えば着色液を吐出して液晶表示装置のカラーフィルタを製造する装置や、導電液を吐出して電気配線を形成する装置等に使用する液体吐出装置に搭載される液体吐出ヘッドにも好適に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
以上のように本発明に係る液体吐出ヘッドは、圧力波を乱反射させる効果を高めることができ、これによりクロストーク現象を良好に抑制することができるようになる優れた作用効果を奏し、インクジェットプリンタに搭載されるインクジェットヘッドに適用すると有益である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の第1実施形態に係るインクジェットヘッドの分解斜視図である。
【図2】図1に示すインクジェットヘッドを組み立てた状態にしてII−II線に沿って切断して示すインクジェットヘッドの縦断面図である。
【図3】図1に示すインクジェットヘッドを組み立てた状態にしてIII−III線に沿って切断して示すインクジェットヘッドの横断面図である。
【図4】図2及び図3に示すダンパープレートの斜視図である。
【図5】図4に示すダンパープレートの製造方法の説明する部分横断面図であり、(a)がダンパープレートの基材が未加工の状態、(b)が基材に凹部及びスリットを形成した状態、(c)が基材にメッキ加工を施している過程、(d)がダンパープレートが完成した状態をそれぞれ示している。
【図6】図5(b)のVI−VI線に沿って切断して示す基材の部分平断面図である。
【図7】図3の部分拡大図であって、図5に示す方法で製造されたダンパープレートを適用したキャビティユニットの部分横断面図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係るダンパープレートの斜視図である。
【図9】本発明の第3実施形態に係るダンパープレートの基材の部分平断面図である。
【図10】本発明の第4実施形態に係るダンパープレートの基材の部分平断面図であり、(a)は断面円形状の貫通孔が形成された基材の部分平断面図、(b)は断面菱形状の貫通孔が形成された基材の部分平断面図である。
【図11】本発明の第5実施形態に係るインクジェットヘッドの部分横断面図である。
【図12】図11に示す第1ダンパープレートの製造方法を説明する部分横断面図であり、(a)が第1ダンパープレートの基材が未加工の状態、(b)が基材にスリットを形成した状態、(c)が基材にメッキ加工を施している過程、(d)が第1ダンパープレートが完成した状態をそれぞれ示している。
【図13】図11の部分拡大図であって、図12に示す方法で製造された第1ダンパープレートを適用したキャビティユニットの部分横断面図である。
【図14】本発明の第6実施形態に係るダンパープレートの製造方法を説明する部分横断面図であり、(a)がダンパープレートの基材が未加工の状態、(b)が基材に凹部及びスリットを形成するとともにマスクを被せた状態、(c)が基材にメッキ加工を施している過程、(d)がダンパープレートが完成した状態をそれぞれ示している。
【図15】図14に示す方法で製造されたダンパープレートを適用したキャビティユニットの部分横断面図である。
【図16】本発明の第7実施形態に係るインクジェットヘッドの部分横断面図である。
【図17】図16に示す第1及び第2マニホールドプレートと第1及び第2ダンパープレートの分解斜視図である。
【図18】図16の部分拡大図である。
【符号の説明】
【0085】
1 インクジェットヘッド
2 キャビティユニット
14 第1マニホールドプレート
15 第2マニホールドプレート
14a,15a マニホールド孔
16 ダンパープレート
16a 凹溝
16b ダンパー壁
20 ノズル
21 インク流路
23 共通インク室
25 圧力室
27a〜27c (共通インク室の)壁面
27p 凸部
27q 凹部
28 ダンピング空間
40 基材
44 スリット
50 メッキ金属
66 ダンパープレート
66b ダンパー壁
77b (共通インク室の)下壁面
77p 凸部
77q 凹部
140 基材
144 貫通孔
190,240 基材
194,244 貫通孔
251 インクジェットヘッド
252 キャビティユニット
266 第1ダンパープレート
266b ダンパー壁
277a〜277c (共通インク室の)壁面
277p 凸部
277q 凹部
278 ダンピング空間
279 第2ダンパープレート
279a 貫通孔
290 基材
294 スリット
300 メッキ金属
302 キャビティユニット
316 ダンパープレート
316a 凹溝
316b ダンパー壁
327a〜327c (共通インク室の)壁面
327p 凸部
327q 凹部
328 ダンピング空間
340 基材
344 スリット
350 メッキ金属
351 インクジェットヘッド
352 キャビティユニット
366 第1ダンパープレート
366b ダンパー壁
377a〜377c (共通インク室の)壁面
377p 凸部
377q 凹部
378 ダンピング空間
379 第2ダンパープレート
379a 貫通孔
390 基材
394 スリット
400 メッキ金属

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するための複数のノズル、該複数のノズルに個別に設けられる複数の圧力室、及び該複数の圧力室の各々と連通する共通液室を有するキャビティユニットを備え、前記圧力室内の液体に圧力を付与してノズルより液体を吐出する液体吐出ヘッドであって、
前記キャビティユニットのうち前記共通液室を区画する壁面の少なくとも一部分が、当該部分に形成された複数の孔に金属メッキ処理が施されることにより、湾曲する凹凸を有した凹凸面をなしていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記キャビティユニットは複数のプレート部材を積層してなり、該複数のプレート部材には少なくとも、前記共通液室を構成するマニホールド孔を有するマニホールドプレート部材と、前記マニホールドプレート部材に積層されて前記マニホールド孔と対応する位置において前記マニホールドプレート部材とは反対側の面に形成された凹部を有するダンパープレート部材とが含まれ、
前記ダンパープレート部材の前記凹部の形成により前記キャビティユニットは前記共通液室を区画する壁として可撓性を有する薄肉のダンパー壁を備え、
前記凹凸面が前記ダンパー壁に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記ダンパープレート部材が樹脂製であって前記複数の孔が該ダンパープレート部材に形成され、該ダンパープレート部材に金属メッキ処理を施すことによって前記ダンパー壁に前記凹凸面が形成されることを特徴とする請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記ダンパープレート部材が金属製であって前記複数の孔が該ダンパープレート部材に形成され、該ダンパープレート部材に金属メッキ処理を施すことによって前記ダンパー壁に前記凹凸面が形成されることを特徴とする請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記複数の孔が貫通孔であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記複数の貫通孔が千鳥状に配列されていることを特徴とする請求項5に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記複数の孔は、その孔が形成された部材に対して施される金属メッキ厚みに対して、その孔の幅方向の寸法が、前記金属メッキ厚みの2倍の寸法長さを有していることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−155416(P2010−155416A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−335807(P2008−335807)
【出願日】平成20年12月29日(2008.12.29)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】