液体吐出装置及びインクジェット記録装置
【課題】ノズル付近の液体物性を制御することで安定した液体吐出を実現するとともに、迅速なリフィルを実現し、更には、その吐出性能及びリフィル性能を持続させる。
【解決手段】ノズル部にノズル加熱手段を設け、吐出駆動タイミングに応じて加熱制御を行う。ノズル内の液体の粘度が所定の値以下になるための温度上昇時間を算出するための演算手段は、液体の粘度の温度依存特性を示す第1のテーブル(164)を用いて所望の粘度と必要な加熱温度の関係を求める第1の演算処理部(162)と、前記必要な加熱温度の情報及びノズル内壁からの必要加熱浸透深さの情報に基づき、ノズル内における液体の温度分布の時間依存性を示す第2のテーブル(168)を用いて必要な昇温時間を求める第2の演算処理部(166)と、を含む。この算出結果に従ってノズル部加熱手段の駆動タイミングが設定される。
【解決手段】ノズル部にノズル加熱手段を設け、吐出駆動タイミングに応じて加熱制御を行う。ノズル内の液体の粘度が所定の値以下になるための温度上昇時間を算出するための演算手段は、液体の粘度の温度依存特性を示す第1のテーブル(164)を用いて所望の粘度と必要な加熱温度の関係を求める第1の演算処理部(162)と、前記必要な加熱温度の情報及びノズル内壁からの必要加熱浸透深さの情報に基づき、ノズル内における液体の温度分布の時間依存性を示す第2のテーブル(168)を用いて必要な昇温時間を求める第2の演算処理部(166)と、を含む。この算出結果に従ってノズル部加熱手段の駆動タイミングが設定される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体吐出装置及びインクジェット記録装置に係り、特に安定した液体吐出の実現に好適な吐出ヘッドの構造及びその駆動制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、インク吐出用のノズルを備えた記録ヘッドに対して記録紙等の被記録媒体を相対的に移動させながら、印字信号に応じて記録ヘッドからインクを吐出させることにより被記録媒体上にインク滴を着地させ、そのインクドットによって印字媒体上に画像を形成する。かかるインクジェット記録装置では、乾燥等によってノズル内のインクの粘度が上昇すると、インクが吐出しなくなるなどの吐出不良が発生する。また、インク粘度が上昇するとノズルに対するインクの再供給性能(リフィル性能)が低下する。
【0003】
このような観点から、特許文献1は、インク吐出に必要な熱エネルギーを発生する加熱発泡用ヒータをインク流路内に備えたいわゆるサーマルジェット方式(特に、サイドシュータ型)のインクジェットプリント装置において、インク流路内の吐出口に近い位置に第1の加熱専用ヒータを配設するとともに、加熱発泡用ヒータよりも吐出口から遠い位置に第2の加熱専用ヒータを配設し、これら二つの加熱専用ヒータによってインクの粘度を制御することにより、吐出性能及びリフィル性能を向上させる技術を提案している。
【0004】
また、特許文献2は、ヘッド全体を加熱するヘッドヒータと、各インク室を個別に加熱するインク室ヒータとを備えたインクジェッドプリンタを開示している。
【特許文献1】特開平11−10878号公報
【特許文献2】特開平6−91893号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2で提案されている方法は、吐出方向のインク温度に着目し、インクの粘度及び体積を制御するものであるが、この方法によって吐出に十分な液物性を得るには、ヘッド全体を温めるため、大きなエネルギーが必要となる。特に、電源投入から最初の印字実行が可能になるまでの初期加熱が必要である。
【0006】
この点、特許文献1に開示された方法によれば、個別流路に加熱専用ヒータを設けた構造であるためヘッド全体を加熱する必要はない。しかしながら、特許文献1で提案されている方法は、同一平面のインク流路に対して吐出側と供給側に加熱専用ヒータを数十μmの間隔で近接配置した構造であるため、吐出回数が増えるにつれて、これら二つのヒータ間で温度差が小さくなり、吐出力増加の効果が薄れるという問題がある。更に、特許文献1に開示の構成は、発熱抵抗体による発泡を利用した吐出方式であり、加熱専用ヒータよりも強力な高温加熱を行う加熱発泡用ヒータを有しており、このヒータの前後に加熱専用ヒータが極めて近い位置関係で配置されているため、より一層ヒータ間での温度差が小さくなるという問題がある。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、ノズル付近の液体物性を制御することで安定した液体吐出を実現するとともに、高粘度のインクであっても迅速なリフィルを実現し、更には、その吐出性能及びリフィル性能を持続させることができる液体吐出装置及びこれを用いたインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、ノズル孔から液体を吐出する液体吐出装置において、前記ノズル孔から液体を吐出させるための吐出力を発生させるアクチュエータと、ノズル部に配設されたノズル部加熱手段と、前記アクチュエータを駆動して前記ノズル孔から液体を吐出させる吐出駆動タイミングに応じて前記ノズル部加熱手段による加熱タイミングを制御するノズル加熱制御手段と、吐出させる液体の粘度の温度依存特性とノズル内における液体の温度分布の時間依存性とに基づいてノズル内の液体粘度が所定の値以下になるための温度上昇時間を算出する演算手段と、前記演算手段で算出された温度上昇時間に従って前記ノズル部加熱手段の駆動タイミングを設定するタイミング設定手段と、を備え、前記演算手段は、前記液体の粘度の温度依存特性を示す第1のテーブルが格納される第1のテーブル格納部と、前記液体の温度分布の時間依存性を示す第2のテーブルが格納される第2のテーブル格納部と、前記第1のテーブルを用いて所望の粘度と必要な加熱温度の関係を求める第1の演算処理部と、前記第1の演算処理部で求めた前記必要な加熱温度の情報及びノズル内壁からの必要加熱浸透深さの情報に基づき前記第2のテーブルを用いて前記必要加熱浸透深さを前記必要な加熱温度に昇温するために必要な昇温時間を求める第2の演算処理部と、を含むことを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の液体吐出装置の一態様であり、前記必要加熱浸透深さδdは、ノズル直径をDとするとき、次式
0.05≦δd/D≦0.15
を満たすことを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2記載の液体吐出装置の一態様であり、複数のノズルと、各ノズルに対応した個別の圧力室と、複数の圧力室に液体を供給する共通流路と、を備えた吐出ヘッドを有し、該吐出ヘッドの各ノズルについて前記ノズル部加熱手段が設けられるとともに、前記圧力室と前記共通流路を連通する供給路に供給路加熱手段が設けられていることを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項3記載の液体吐出装置において、前記ノズル孔からインクを吐出させる吐出駆動タイミングに応じて前記供給路加熱手段による加熱タイミングを制御する供給路加熱制御手段を備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項5に係る発明は、請求項3又は4記載の液体吐出装置において、前記ノズル、前記圧力室、前記共通流路及び前記供給路は積層構造によって形成されており、前記ノズルと前記供給路は異なる層の部材で構成され、前記ノズル部加熱手段と前記供給路加熱手段は互いに異なる層に配設されていることを特徴とする。
【0013】
請求項6に係る発明は、請求項5記載の液体吐出装置において、前記ノズルが形成されているノズル層と前記供給路が形成されている供給路層との間に断熱層が設けられていることを特徴とする。
【0014】
請求項7に係る発明は、請求項1乃至6の何れか1項記載の液体吐出装置をインク滴の吐出装置として用いたインクジェット記録装置を提供する。すなわち、請求項7に係るインクジェット記録装置は、請求項1乃至6の何れか1項記載の液体吐出装置をインク滴の吐出装置として用い、前記ノズル孔を有する記録ヘッドに対して被記録媒体を相対移動させながら、前記ノズル孔よりインクを吐出することにより前記被記録媒体上に画像を形成することを特徴とする。
【0015】
また、本明細書は以下に示す発明を開示する。
【0016】
発明(1)は、ノズル孔から液体を吐出する液体吐出装置において、ノズル部に配設されたノズル部加熱手段と、前記ノズル孔から液体を吐出させる吐出駆動タイミングに応じて前記ノズル部加熱手段による加熱タイミングを制御するノズル加熱制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0017】
発明(1)によれば、ノズル孔から液体を吐出させるタイミングに合わせてノズル部の温度調節を行うようにしたので、必要最小限の加熱エネルギーでノズル内の液体を低粘度化できる。これにより、高粘度のインクに対して従来よりも少ないエネルギーで吐出性能を安定させることができる。
【0018】
発明(2)は、発明(1)に記載の液体吐出装置において、吐出させる液体の粘度の温度依存特性とノズル内の液体温度上昇特性とに基づいてノズル内の液体粘度が所定の値以下になるための温度上昇時間を算出する演算手段と、前記演算手段で算出された温度上昇時間に従って前記ノズル部加熱手段の駆動タイミングを設定するタイミング設定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0019】
かかる態様によれば、使用する液体の種類に応じて吐出時に所要の粘度が得られるように適切な加熱タイミングが計算される。これにより、ノズル内の液体を吐出可能な粘度となるように確実に温度上昇させることが可能である。
【0020】
発明(3)は、発明(2)に記載の液体吐出装置において、前記演算手段は、液体の粘度の温度依存特性から所望の粘度と必要な加熱温度の関係を求める第1の演算処理部と、ノズル内の液体温度上昇特性から前記必要な加熱温度に昇温するために必要な昇温時間を求める第2の演算処理部と、を含むことを特徴とする。
【0021】
発明(4)は、発明(3)に記載の液体吐出装置において、前記第1の演算処理部は液体の粘度の温度依存特性を示す第1のテーブルを有し、前記第2の演算処理部はノズル内の液体温度上昇特性を示す第2のテーブルを有していることを特徴とする。
【0022】
なお、複数の液体種類に応じた第1のテーブルを有することにより、複数の液体種類に対応することが可能である。
【0023】
発明(5)は、発明(2)又は(3)に記載の液体吐出装置において、前記ノズル加熱制御手段は、ノズル内の液体についてノズル壁面から所定の加熱浸透深さを所定温度に昇温するように制御することを特徴とする。
【0024】
少なくともノズル壁面近傍の液体を加熱して低粘度化すればノズル孔からの液体吐出が可能となるため、当該ノズル壁面近傍の液体のみを加熱するに十分な加熱制御を行えばよい。
【0025】
発明(6)は、発明(5)に記載の液体吐出装置において、前記加熱浸透深さδdは、ノズル直径をDとするとき、次式
0.05≦δd/D≦0.15
を満たすことを特徴とする。
【0026】
このように、ノズル壁面近傍の液体のみを加熱する態様は、ノズル部のインク全体を加熱する場合と比較して省エネルギー化を達成できる。
【0027】
発明(7)は、発明(1)乃至(6)の何れか1項記載の液体吐出装置において、複数のノズルと、各ノズルに対応した個別の圧力室と、複数の圧力室に液体を供給する共通流路と、を備えた吐出ヘッドを有し、該吐出ヘッドの各ノズルについて前記ノズル部加熱手段が設けられるとともに、前記圧力室と前記共通流路を連通する供給路に供給路加熱手段が設けられていることを特徴とする。
【0028】
液体の供給源から吐出ヘッドに供給された液体はヘッド内の共通流路を通って個別の圧力室に送られる。圧力室にはアクチュエータや発泡加熱用のヒータなど、液体の吐出力を発生させる手段(吐出駆動素子)が設けられており、該素子の駆動によってノズル孔から液体が吐出される。つまり、液体は共通流路から供給路を通って個別の圧力室に流入し、圧力室からノズルを介して外部に吐出される。
【0029】
かかるヘッド内の流路全体を考察すると、共通流路や圧力室は相対的に流路の断面積が大きく、供給路(供給孔)及びノズル部は相対的に断面積が小さい。このように、相対的に流体抵抗の大きい供給路及びノズル部を加熱して液体の粘度を局所的に低下させることにより、比較的高粘度の液体であっても吐出可能である。また、本態様によれば、局所加熱のため、応答性が高く、吐出周波数を向上させることができるとともに、液全体を加熱する方法に比べてエネルギー消費量を低減化できる。
【0030】
発明(8)は、発明(7)に記載の液体吐出装置において、前記ノズル孔からインクを吐出させる吐出駆動タイミングに応じて前記供給路加熱手段による加熱タイミングを制御する供給路加熱制御手段を備えることを特徴とする。
【0031】
圧力室を挟んで上流側の供給路を加熱する供給路加熱手段と、下流側のノズル部を加熱するノズル部加熱手段とを吐出駆動タイミングに関連付けて制御することにより、吐出性及びリフィル性の向上を図ることができる。
【0032】
例えば、吐出時はノズル部のみを昇温してノズル部のインクを低粘度化させる一方、供給路については加熱せずに供給路付近の液体を相対的に高粘度化することにより、圧力室の吐出圧力を吐出方向に有効に働かせることができる。また、リフィル時においては、供給路周辺の温度を上昇させることにより、供給路からの液体流入が容易になり迅速にリフィルが行われる。更に、リフィルがほぼ完了した後は、ノズル部の加熱を止めてノズル周辺の液体粘度を上昇させる。これによって、リフィルにより生じるメニスカスの振動を急速に収束させることができる。
【0033】
発明(9)は、発明(7)又は(8)に記載の液体吐出装置において、前記ノズル、前記圧力室、前記共通流路及び前記供給路は積層構造によって形成されており、前記ノズルと前記供給路は異なる層の部材で構成され、前記ノズル部加熱手段と前記供給路加熱手段とは互いに異なる層に配設されていることを特徴とする。
【0034】
かかる態様によれば、プレート部材(流路プレート)の積層構造によってノズル、圧力室、共通流路及び供給路が形成されているヘッドにおいて、ノズル部加熱手段と供給路加熱手段をそれぞれ別の階層に配置したので、これらの加熱手段を比較的離れた位置関係で配置することができ、相互の温度影響を排除することができる。したがって、それぞれの温度調節の精度を高めることができるとともに、吐出性能及びリフィル性能を長時間にわたって維持することが可能である。
【0035】
発明(10)は、発明(9)に記載の液体吐出装置において、前記ノズルが形成されている流路プレート(ノズル層)と前記供給路が形成されている流路プレート(供給路層)との間に断熱層が設けられていることを特徴とする。
【0036】
発明(11)は、発明(1)乃至(10)の何れか1項に記載の液体吐出装置をインク滴の吐出装置として用いたインクジェット記録装置を提供する。すなわち、発明(11)に係るインクジェット記録装置は、前記ノズル孔を有する記録ヘッドに対して被記録媒体を相対移動させながら、前記ノズル孔よりインクを吐出することにより前記被記録媒体上に画像を形成することを特徴とする。
【0037】
なお、本発明の実施に際して、記録ヘッドの形態は特に限定されず、印字媒体の送り方向と略直交する方向に印字ヘッドが往復動作しながら印字を行うシャトル方式の記録ヘッドであってもよいし、インクを吐出する複数のノズルが印字媒体の送り方向と略直交する方向に前記印字媒体の全幅にわたって配列された1列以上のノズル列を有するフルライン型の記録ヘッドであってもよい。
【0038】
フルライン型の記録ヘッドのような長尺ヘッドの場合、印字中に未使用のノズルが存在し得るが、ヘッド全体を加熱する従来の方式は、加熱によって未使用ノズルのインクが乾燥して吐出不良になり易い。そのため、ノズル乾燥防止は重要な課題の一つである。本発明によれば、ノズル部加熱手段によってノズル部を局所的に加熱する方式であるため、ヘッド全体を加熱する必要がなく、未使用ノズルの乾燥を防ぐことができる。したがって、本発明はフルライン型の記録ヘッドへの適用が特に有効である。
【0039】
「フルライン型の記録ヘッド」は、通常、ノズル配列は被記録媒体の相対的な送り方向(相対移動方向)と直交する方向に沿って配置されるが、相対移動方向と直交する方向に対して、ある所定の角度を持たせた斜め方向に沿って記録ヘッドを配置する態様もあり得る。また、記録ヘッドにおけるノズルの配列形態は、1列のライン状配列に限定されず、複数列からなるマトリックス配列でもよい。更には、被記録媒体の全幅に対応する長さに満たないノズル列を有する短尺記録ヘッドユニットを複数個組み合わせることによって、これらユニット全体として被記録媒体の全幅に対応するノズル列を構成する形態もあり得る。
【0040】
「被記録媒体」は、記録ヘッドによって印字を受ける媒体(メディア)であり、被画像形成媒体、印字媒体、受像媒体などと呼ばれ得るものである。被記録媒体の具体的態様には、連続用紙、カット紙、シール用紙、OHPシート等の樹脂シート、フイルム、布、その他材質や形状を問わず、様々な媒体が含まれる。
【0041】
被記録媒体を記録ヘッドに対して相対移動させる搬送手段は、停止した(固定された)記録ヘッドに対して被記録媒体を搬送する態様、停止した被記録媒体に対して記録ヘッドを移動させる態様、或いは、記録ヘッドと被記録媒体の両方を移動させる態様の何れをも含む。
【0042】
なお、本明細書において「印字」という用語は、文字の形成のみならず、文字を含む広い意味での画像を形成する概念を表すものとする。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、吐出液滴のサイズを規定するノズル部にノズル部加熱手段を設け、吐出駆動タイミングに応じてノズル部の加熱制御を行うようにしたので、少ない加熱エネルギーでノズル周辺の液体粘度を所要の粘度に下げることができ、ノズル孔から液体を容易に吐出させることができる。
【0044】
また、本発明によれば、ノズル部を局所的に温調するため、ヘッド全体を温調する従来の形態と比較してヒートアップ時間が短く、電源投入から最初の印字実行が可能になるまでの初期起動時間を短縮できる。更に、本発明は、未使用ノズルの乾燥を防止することができるため、ノズル数の多い長尺の吐出ヘッドを備えた液体吐出装置について非常に有効である。
【0045】
本発明において液体吐出に必要な要素であるノズル、圧力室、共通流路、供給路等をプレート部材の積層構造によって形成し、異なる階層のプレート部材(流路プレート)にノズル部加熱手段、供給路加熱手段を設ける態様により、これら加熱手段の間の距離を比較的大きくとることができ、互いの温度影響を回避できる。したがって、ノズル周辺及び供給路周辺(個別流路の周辺)のみに熱を伝えることができ、液体の温度調節の効果が持続される。
【0046】
また、付随的な効果として、本発明では液体の吐出タイミングに合わせてノズル部の温度調節のタイミングを制御するため、吐出直前にノズル部加熱手段をON、吐出直後の前後にOFFするなどの制御態様により、アクチュエータ等の吐出駆動素子の駆動と相まって吐出液滴の効果的な引きちぎりを行うことができる。これにより、サテライトやスプラッシュの発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について詳説する。
【0048】
〔インクジェット記録装置の全体構成〕
図1は本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の全体構成図である。同図に示したように、このインクジェット記録装置10は、インクの色ごとに設けられた複数の印字ヘッド12K,12C,12M,12Yを有する印字部12と、各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yに供給するインクを貯蔵しておくインク貯蔵/装填部14と、記録紙16を供給する給紙部18と、記録紙16のカールを除去するデカール処理部20と、前記印字部12のノズル面(インク吐出面)に対向して配置され、記録紙16の平面性を保持しながら記録紙16を搬送する吸着ベルト搬送部22と、印字部12による印字結果を読み取る印字検出部24と、印画済みの記録紙(プリント物)を外部に排紙する排紙部26と、を備えている。
【0049】
図1では、給紙部18の一例としてロール紙(連続用紙)のマガジンが示されているが、紙幅や紙質等が異なる複数のマガジンを併設してもよい。また、ロール紙のマガジンに代えて、又はこれと併用して、カット紙が積層装填されたカセットによって用紙を供給してもよい。
【0050】
複数種類の記録紙を利用可能な構成にした場合、紙の種類情報を記録したバーコード或いは無線タグなどの情報記録体をマガジンに取り付け、その情報記録体の情報を所定の読取装置によって読み取ることで、使用される用紙の種類を自動的に判別し、用紙の種類に応じて適切なインク吐出を実現するようにインク吐出制御を行うことが好ましい。
【0051】
給紙部18から送り出される記録紙16はマガジンに装填されていたことによる巻きクセが残り、カールする。このカールを除去するために、デカール処理部20においてマガジンの巻きクセ方向と逆方向に加熱ドラム30で記録紙16に熱を与える。このとき、多少印字面が外側に弱いカールとなるように加熱温度を制御するとより好ましい。
【0052】
ロール紙を使用する装置構成の場合、図1のように、裁断用のカッター(第1のカッター)28が設けられており、該カッター28によってロール紙は所望のサイズにカットされる。カッター28は、記録紙16の搬送路幅以上の長さを有する固定刃28Aと、該固定刃28Aに沿って移動する丸刃28Bとから構成されており、印字裏面側に固定刃28Aが設けられ、搬送路を挟んで印字面側に丸刃28Bが配置される。なお、カット紙を使用する場合には、カッター28は不要である。
【0053】
デカール処理後、カットされた記録紙16は、吸着ベルト搬送部22へと送られる。吸
着ベルト搬送部22は、ローラ31、32間に無端状のベルト33が巻き掛けられた構造を有し、少なくとも印字部12のノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する部分が水平面(フラット面)をなすように構成されている。
【0054】
ベルト33は、記録紙16の幅よりも広い幅寸法を有しており、ベルト面には多数の吸引穴(不図示)が形成されている。図1に示したとおり、ローラ31、32間に掛け渡されたベルト33の内側において印字部12のノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する位置には吸着チャンバ34が設けられており、この吸着チャンバ34をファン35で吸引して負圧にすることによってベルト33上の記録紙16が吸着保持される。
【0055】
ベルト33が巻かれているローラ31、32の少なくとも一方にモータ(図6中符号100)の動力が伝達されることにより、ベルト33は図1上の時計回り方向に駆動され、ベルト33上に保持された記録紙16は図1の左から右へと搬送される。
【0056】
縁無しプリント等を印字するとベルト33上にもインクが付着するので、ベルト33の外側の所定位置(印字領域以外の適当な位置)にベルト清掃部36が設けられている。ベルト清掃部36の構成について詳細は図示しないが、例えば、ブラシ・ロール、吸水ロール等をニップする方式、清浄エアーを吹き掛けるエアーブロー方式、或いはこれらの組み合わせなどがある。清掃用ロールをニップする方式の場合、ベルト線速度とローラ線速度を変えると清掃効果が大きい。
【0057】
なお、吸着ベルト搬送部22に代えて、ローラ・ニップ搬送機構を用いる態様も考えられるが、印字領域をローラ・ニップ搬送すると、印字直後に用紙の印字面をローラが接触するので画像が滲み易いという問題がある。したがって、本例のように、印字領域では画像面を接触させない吸着ベルト搬送が好ましい。
【0058】
吸着ベルト搬送部22により形成される用紙搬送路上において印字部12の上流側には、加熱ファン40が設けられている。加熱ファン40は、印字前の記録紙16に加熱空気を吹き付け、記録紙16を加熱する。印字直前に記録紙16を加熱しておくことにより、インクが着弾後乾き易くなる。
【0059】
印字部12は、最大紙幅に対応する長さを有するライン型ヘッドを紙送り方向と直交方向(主走査方向)に配置した、いわゆるフルライン型のヘッドとなっている(図2参照)。詳細な構造は図示しないが、各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yは、図2に示したように、本インクジェット記録装置10が対象とする最大サイズの記録紙16の少なくとも一辺を超える長さにわたってインク吐出口(ノズル)が複数配列されたライン型ヘッドで構成されている。
【0060】
記録紙16の送り方向(以下、紙搬送方向という。)に沿って上流側から黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の順に各色インクに対応した印字ヘッド12K,12C,12M,12Yが配置されている。記録紙16を搬送しつつ各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yからそれぞれ色インクを吐出することにより記録紙16上にカラー画像を形成し得る。
【0061】
このように、紙幅の全域をカバーするフルラインヘッドが各インク色ごとに設けられてなる印字部12によれば、副走査方向について記録紙16と印字部12を相対的に移動させる動作を一回行うだけで(すなわち1回の副走査で)、記録紙16の全面に画像を記録することができる。これにより、印字ヘッドが主走査方向に往復動作するシャトル型ヘッドに比べて高速印字が可能であり、生産性を向上させることができる。
【0062】
なお、本例では、KCMYの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態に限定されず、必要に応じて淡インク、濃インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出する印字ヘッドを追加する構成も可能である。
【0063】
図1に示したように、インク貯蔵/装填部14は、各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yに対応する色のインクを貯蔵するタンクを有し、各タンクは管路(図1中不図示)を介して各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yと連通されている。また、インク貯蔵/装填部14は、インク残量が少なくなるとその旨を報知する報知手段(表示手段、警告音発生手段)を備えるとともに、色間の誤装填を防止するための機構を有している。
【0064】
印字検出部24は、印字部12の打滴結果を撮像するためのイメージセンサを含み、該イメージセンサによって読み取った打滴画像からノズルの目詰まりその他の吐出不良をチェックする手段として機能する。
【0065】
本例の印字検出部24は、少なくとも各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yによるインク吐出幅(画像記録幅)よりも幅の広い受光素子列を有するラインセンサで構成される。このラインセンサは、赤(R)の色フィルタが設けられた光電変換素子(画素)がライン状に配列されたRセンサ列と、緑(G)の色フィルタが設けられたGセンサ列と、青(B)の色フィルタが設けられたBセンサ列と、からなる色分解ラインCCDセンサで構成されている。なお、ラインセンサに代えて、受光素子が二次元配列されて成るエリアセンサを用いることも可能である。
【0066】
印字検出部24は、各色の印字ヘッド12K,12C,12M,12Yにより印字されたテストパターンを読み取り、各ヘッドの吐出検出を行う。吐出判定は、吐出の有無、ドットサイズの測定、ドット着弾位置の測定などで構成される。
【0067】
印字検出部24の後段には、後乾燥部42が設けられている。後乾燥部42は、印字された画像面を乾燥させる手段であり、例えば、加熱ファンが用いられる。印字後のインクが乾燥するまでは印字面と接触することは避けたほうが好ましいので、熱風を吹き付ける方式が好ましい。
【0068】
多孔質のペーパに染料系インクで印字した場合などでは、加圧によりペーパの孔を塞ぐことでオゾンなど、染料分子を壊す原因となるものと接触することを防ぐことで画像の耐候性がアップする効果がある。
【0069】
後乾燥部42の後段には、加熱・加圧部44が設けられている。加熱・加圧部44は、画像表面の光沢度を制御するための手段であり、画像面を加熱しながら所定の表面凹凸形状を有する加圧ローラ45で加圧し、画像面に凹凸形状を転写する。
【0070】
こうして生成されたプリント物はカッター28によって所定のサイズに切断された後、排紙部26から排出される。本来プリントすべき本画像(目的の画像を印刷したもの)とテスト印字とは分けて排出することが好ましい。このインクジェット記録装置10では、本画像のプリント物と、テスト印字のプリント物とを選別してそれぞれの排出部26A、26Bへと送るために排紙経路を切り替える不図示の選別手段が設けられている。なお、大きめの用紙に本画像とテスト印字とを同時に並列に形成する場合は、カッター(第2のカッター)48によってテスト印字の部分を切り離す。カッター48は、排紙部26の直前に設けられており、画像余白部にテスト印字を行った場合に本画像とテスト印字部を切断するためのものである。カッター48の構造は前述した第1のカッター28と同様であ
り、固定刃48Aと丸刃48Bとから構成される。
【0071】
また、図1には示さないが、本画像の排出部26Aには、オーダー別に画像を集積するソーターが設けられる。
【0072】
〔ノズル周辺の断面構造〕
図3は、各印字ヘッド12K、12C、12M、12Y(以下、これらを代表して符号50で示す)内に形成されているインク流路の概略構成を示す断面図である。図3において、符号51はインク吐出用のノズル、52は圧力室、53は共通流路、54は振動板、55はアクチュエータである。
【0073】
ノズル51に対応して設けられている圧力室52は、供給路56を介して共通流路53と連通している。インク貯蔵/装填部14から送液されたインクは共通流路53を通って圧力室52に供給される。圧力室52の底面を構成している振動板54には個別電極(不図示)を備えたアクチュエータ55が接合されており、個別電極に駆動電圧を印加することによってアクチュエータ55が変形し、圧力室52内のインクが加圧されることにより、ノズル51からインクが吐出される。すなわち、本実施形態では、ピエゾ素子(圧電素子)に代表されるアクチュエータ55の変形によってインク滴を飛ばす方式(ピエゾジェット方式)が採用されている。
【0074】
図示のように、本実施形態の印字ヘッド50は、SUS板等の薄い板材にエッチング等で穴や溝を形成したプレート部材を複数積層することによってインク流路が形成されている。図3では振動板54の上に4つのプレート部材が積層された構造が示されている。すなわち、ノズル51の吐出口を内包する第1の流路プレート(ノズル層)61と、共通流路53の側面を形成する第2の流路プレート62と、供給路56を内包する第3の流路プレート(供給路層)63と、圧力室52の側面を形成する第4の流路プレート64と、が積層された構造を有している。
【0075】
図示のように、ノズル51の吐出口に連通する流路を形成している第1の流路プレート(ノズル層)61には、ノズル51の流路周囲に第1のヒータ(以下、ノズルヒータという。)66が設けられている。また、圧力室52と共通流路53をつなぐ供給路56を形成している第3の流路プレート(供給路層)63には、供給路56の周囲に第2のヒータ(以下、供給路ヒータという。)67が設けられている。
【0076】
図4は、ノズルヒータ66の構造例を示した平面図である。ノズルヒータ66は、複数のヒータブロック(図4において3つのブロック)66A、66B、66Cからなり、これらヒータブロック66A〜Cがノズル51の流路周囲を囲むように円周上に沿って配置された構造を有している。各ヒータブロック66A〜66Cは、それぞれグランド線に相当する電極68A、68B、68Cと、信号線に相当する電極69A、69B、69Cとが接続されており、電極間に所要の電圧を印加することにより、ヒータブロック66A〜66Cが発熱する。
【0077】
図5は、ノズル先端部近傍の拡大図(図3中符号5で示した部分の拡大図)である。図示のように、ノズル51の流路周囲は絶縁層70で構成されている。また、吐出面72の最上層は絶縁層73が設けられ、その下層に信号線74、ヒータ(発熱体)75、グランド線76が順次積層され、グランド線76の下に絶縁層77が設けられている。
【0078】
信号線74及びグランド線76の配線部は、例えば、アルミ(Al)の膜厚0.8μm、配線幅は5μm、配線間隔も5μmとなっている。もちろん、配線部の構成はこの例に限定されず、アルミ以外の金属を用いることも可能である。
【0079】
ヒータ75は、例えばTa−Si−O三元合金で構成される。他に、Ta単層、TaN等でもよい。絶縁層70、73、77はSiO2 の無機膜、厚み0.5μmとする。なお、SiO2 に代えて、サイトップ(商品名:旭硝子社製)等のフッ化樹脂でもよい。その場合も厚みは0.5μm程度以下であることが望ましい。
【0080】
図4及び図5ではノズルヒータ66の構造を説明したが、図3の符号67で示した供給路ヒータ67の構造もノズルヒータ66の構造と同様であるため、説明は省略する。
【0081】
〔システム構成〕
図6はインクジェット記録装置10のシステム構成を示す要部ブロック図である。インクジェット記録装置10は、通信インターフェース80、システムコントローラ82、画像メモリ84、モータドライバ86、ヒータドライバ88、プリント制御部90、画像バッファメモリ92、ヘッドドライバ94及びヘッド用ヒータドライバ96等を備えている。
【0082】
通信インターフェース80は、ホストコンピュータ98から送られてくる画像データを受信するインターフェース部である。通信インターフェース80にはUSB、IEEE1394、イーサネット(登録商標)、無線ネットワークなどのシリアルインターフェースやセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。ホストコンピュータ98から送出された画像データは通信インターフェース80を介してインクジェット記録装置10に取り込まれ、一旦画像メモリ84に記憶される。画像メモリ84は、通信インターフェース80を介して入力された画像を一旦格納する記憶手段であり、システムコントローラ82を通じてデータの読み書きが行われる。画像メモリ84は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。
【0083】
システムコントローラ82は、通信インターフェース80、画像メモリ84、モータドライバ86、ヒータドライバ88等の各部を制御する制御部である。システムコントローラ82は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、ホストコンピュータ98との間の通信制御、画像メモリ84の読み書き制御等を行うとともに、搬送系のモータ100やヒータ102を制御する制御信号を生成する。
【0084】
モータドライバ86は、システムコントローラ82からの指示にしたがってモータ100を駆動するドライバ(駆動回路)である。ヒータドライバ88は、システムコントローラ82からの指示にしたがって後乾燥部42等のヒータ102を駆動するドライバである。
【0085】
プリント制御部90は、システムコントローラ82の制御に従い、画像メモリ84内の画像データから印字制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理機能を有し、生成した印字制御信号(印字データ)をヘッドドライバ94に供給するするとともにヘッド用ヒータドライバ96を制御する制御部である。プリント制御部90において所要の信号処理が施され、該画像データに基づいてヘッドドライバ94を介して印字ヘッド50のインク液滴の吐出量や吐出タイミングの制御が行われる。これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。
【0086】
プリント制御部90には画像バッファメモリ92が備えられており、プリント制御部90における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリ92に一時的に格納される。なお、図6において画像バッファメモリ92はプリント制御部90に付随する態様で示されているが、画像メモリ84と兼用することも可能である
。また、プリント制御部90とシステムコントローラ82とを統合して一つのプロセッサで構成する態様も可能である。
【0087】
ヘッドドライバ94はプリント制御部90から与えられる印字データに基づいて各色の印字ヘッド50のアクチュエータ55を駆動する。ヘッドドライバ94にはヘッドの駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
【0088】
ヘッド用ヒータドライバ96は、プリント制御部90からの指令に従い、ノズルヒータ66及び供給路ヒータ67を駆動するための信号を生成する。インクの吐出駆動タイミングとノズルヒータ66及び供給路ヒータ67の加熱タイミングの制御については後述する。
【0089】
印刷すべき画像のデータは、通信インターフェース80を介して外部から入力され、画像メモリ84に蓄えられる。この段階では、RGBの画像データが画像メモリ84に記憶される。
【0090】
画像メモリ84に蓄えられた画像データは、システムコントローラ82を介してプリント制御部90に送られ、該プリント制御部90において既知の誤差拡散アルゴリズムなどの手法によりインク色ごとのドットのデータに変換される。すなわち、プリント制御部90は、入力されたRGB画像データをYCMKの4色のドットデータに変換する処理を行う。プリント制御部90で生成されたドットデータは、画像バッファメモリ92に蓄えられる。
【0091】
ヘッドドライバ94は、画像バッファメモリ92に記憶されたドットデータに基づき、印字ヘッド50の駆動制御信号を生成する。ヘッドドライバ94で生成された駆動制御信号が印字ヘッド50に加えられることによって、印字ヘッド50のノズル51からインクが吐出される。記録紙16の搬送速度に同期して印字ヘッド50からのインク吐出を制御することにより、記録紙16上に画像が形成される。
【0092】
印字検出部24は、図1で説明したように、ラインセンサを含むブロックであり、記録紙16に印字された画像を読み取り、所要の信号処理などを行って印字状況(吐出の有無、打滴のばらつきなど)を検出し、その検出結果をプリント制御部90に提供する。プリント制御部90は、必要に応じて印字検出部24から得られる情報に基づいて印字ヘッド50に対する各種補正を行う。
【0093】
次に、上記の如く構成されたインクジェット記録装置10におけるインクの温度調節タイミングについて説明する。
【0094】
〔流体現象に着目した温調タイミング〕
図7はプル・プッシュ・プル・メニスカスコントロール(Pull Push Pull meniscus control)によるインク滴の吐出プロセスの例を示した模式図である。図示した一連の吐出プロセスはアクチュエータ55の駆動制御によって実現される。まず、インク吐出前に圧を下げる緩やかな引きの動作を行いメニスカス120(ノズル51内のインク122と外気との界面)の状態を所定の形状にする( 図7(a) 〜(b)) 。この状態から勢いよく吐出動作を行い( 図7(c)〜(h))、インク吐出後に再び引きの動作を行い、インク滴126を所定の大きさに引きちぎるとともに、メニスカス120の振動を抑制する(図7(i)〜(j))。
【0095】
このような流体現象の中で(d)で示した状態、すなわち、インク122が吐出面(ノズル面)124から出る時の時刻t=Tn を温調タイミングの基準として設定する。
【0096】
図8はノズルヒータ66及び供給路ヒータ67の駆動タイミングを示したタイミングチャートの一例である。本節では、(d)の状態を「吐出」と定義する。
【0097】
ノズルヒータ66の駆動開始タイミングT1 は、Tn の1μs 〜100μs 前である。ΔTn1=T1 −Tn とすると、−100μs ≦ΔTn1≦−1μs である。ここで、ΔTn1≦−1μs という条件は、ノズル周辺のインクを加熱して温度上昇させるために1μs 以上必要であることを示す。
【0098】
ノズルヒータ66の駆動終了タイミングT1'は、Tn の20μs 前から50μs 後である。ΔTn1’=T1'−Tn とすると、−20μs ≦ΔTn1' ≦50μs である。吐出直前又は直後(−20μs 〜+20μs )にノズルヒータ66をOFFする理由は、ヒートアップ時間を短くして熱量を下げるためである。また、吐出後迅速にリフィルを行うためにリフィル中もインク粘度を下げるためには、吐出後(+20μs 〜+50μs )にノズルヒータ66をOFFする態様が好ましい。
【0099】
供給路ヒータ67の駆動開始タイミングT2 は、Tn の1μs 〜100μs 後である。ΔTn2=T2 −Tn とすると、1μs ≦ΔTn1≦100μs である。ここで、ΔTn1≧1μs という条件は、供給路56のインクを加熱して温度上昇させるために1μs 以上必要であることを示す。
【0100】
吐出開始後リフィルは0〜100μs 、多くは0〜50μs で開始するので、上記のタイミングで供給路ヒータ67を駆動開始する。供給路ヒータ67の駆動終了タイミングT2 ' は、アクチュエータ55の駆動周波数に依存して決定される。
【0101】
ノズルヒータ66又は供給路ヒータ67によってインクの温度を上昇させるために少なくとも1μs の加熱時間が必要であることは、以下に示すノズル内温度分布の計算から導かれる。
【0102】
計算において、半無限流体の熱伝導(対流なしのモデル)による近似を適用する。図9のように、温度源140に接する低温流体(半無限流体142)について境界面144を基準として位置xの座標軸を設定する。初期条件として半無限流体142は、はじめ温度T0 で一様とし、時刻τ=0でx=0の面の温度をTs とする。Tsはその後一定に保たれる。
【0103】
時刻τ、位置xにおける温度T(τ,x)は、上記の条件で以下の式が成り立つ。
【0104】
【数1】
【0105】
erf(β) は誤差関数であり、以下の式で表される。
【0106】
【数2】
【0107】
ここでβは次式で表される。
【0108】
【数3】
【0109】
〔数3〕式中のaは温度伝導率( m2 /s )であり、次式で表される。
【0110】
【数4】
【0111】
ただし、λ:熱伝導率(W/(m・ K))、ρ:密度(kg/m3 )、Cp :比熱( J/(kg・K))
である。なお、水の場合、λ=0.61、ρ=1000、Cp =4180なのでa=1.46×10-7である。
【0112】
以上から〔数1〕の式を利用して温度源からxだけ離れた位置の時刻τにおける温度Tを求めることができる。
【0113】
また、時刻τ=0〜τ間で表面の単位面積から入った熱量Q(J /m2 )は次式となる。
【0114】
【数5】
【0115】
この〔数5〕の式から必要熱量を算出することができる。
【0116】
一般的な水性インクの組成は80%以上が水であるため、液体は水であると仮定して温度分布を計算する。初期温度T0 =300 K、境界温度Ts =350 Kとしたときの計算結果を図10に示す。また、初期温度T0 =300 K、境界温度Ts =400 Kとしたときの計算結果を図11に示す。
【0117】
これらのグラフによれば、1μs の加熱時間でヒータ境界から1μm 厚分のインク(計算上は水)の温度を上昇させることができることがわかる。更に、数十μs の範囲で温度上昇がみられるのは、ヒータ境界から数μm の範囲である。ノズル直径を30μm 程度と考えると、ノズル直径に対して一割程度の外周の温度が上昇することになる。
【0118】
〔アクチュエータ駆動波形に着目した温調タイミング〕
図12は、アクチュエータ駆動波形に注目したノズルヒータ66及び供給路ヒータ67の駆動タイミングを示したタイミングチャートと吐出時におけるインクの動きの対応関係を示した図である。同図中、横軸は時間を示し、縦軸は電圧を示す。
【0119】
図12に示したように、インク122をノズル面124から吐出させるときのアクチュエータ駆動タイミングをTaとし、このTaをヒータ制御の基準とする。インク122をノズル面124から吐出させる動作は圧力室52の体積を減少させるアクチュエータ駆動によって実現される。すなわち、インク122がノズル面124から外に出るタイミング
は、アクチュエータ55を圧力室体積減少方向に変位させる駆動期間内であり、左記駆動期間が複数ある場合は、その中において駆動パルスの電位差最大、或いは傾きが最大となる期間内である。
【0120】
このように、一連の電圧駆動において電圧変化が最も大きいところ、あるいは電圧変化の時間微分が最も大きいところに注目し、かかる吐出動作を実現するアクチュエータ駆動のタイミングを基準Ta として設定する。そして、この基準Ta の前後でノズルヒータ及び供給路ヒータの駆動タイミングを設定する。
【0121】
具体的には、図8で説明した例と同様に、Tn をTa で置き換えることによって、各ヒータの駆動タイミングが決定される。
【0122】
なお、アクチュエータ駆動波形は図12の例に限定されない。図13にアクチュエータ駆動パルスの他の波形例を示す。アクチュエータ駆動波形は様々なタイプが可能であるが、何れの場合も電位差最大、傾き最大となる期間の中から適当な時刻を制御の基準時刻Taとして決定する。図12及び図13に示したTaに限定されず、例えば、電圧0になる時刻を基準時刻Taとして設定する態様も可能である。
【0123】
〔温調熱量の評価〕
上述した〔数5〕の式を用いて必要な熱量を計算する。液体は水と仮定し、初期温度T0 = 300Kとする。また、ノズルの形状はノズル半径15μm、ノズル高さ50μm、ノズル内側表面積4.7×10-9m2 の円筒形状であるものとする。加熱温度 350Kと 400Kの場合の計算結果を図14に示す。
【0124】
図14に示されているように、数十μsの範囲において必要な熱量は数μJである。インクを暖めると同程度にヘッドを暖めるとしてもヒータの熱量は10μJ程度、多く見積もっても20μJ以下である。このような観点から、ノズルヒータ66及び供給路ヒータ67による温調時間は100μs以下に設定される。
【0125】
〔インク物性の温度依存性〕
温度によるインク物性値の変化はインクの種類によって様々である。図15は、あるインクについての表面張力と温度の関係を示したグラフである。また、図16は4種類のインクについてそれぞれインク粘度の温度依存性を示したグラフである。これらの図面に示したように、インクの温度が上昇するにつれて、表面張力は小さくなるとともに粘度が低下する傾向にある。
【0126】
ノズル51内のインクのうちノズル内壁との接触面近傍のインクを低粘度化できればインクを吐出させることができることが実験により見出された。すなわち、図17に示すように、ノズル51の直径をD、ノズル内壁からの加熱浸透深さをδdとするとき、0.05≦δd/Dの浸透深さを最低限確保すれば問題なく吐出が可能であり、かつδd/D≦0.15とすることで加熱エネルギーを半減することが可能となる。
【0127】
下記の〔表1〕は、δd/Dの条件を変えて吐出実験を行ったときの吐出状態の評価、加熱エネルギーの相対比率、省エネルギー効果の評価をまとめたものである。
【0128】
【表1】
【0129】
〔表1〕の実験結果によれば、0.05≦δd/D≦0.15の条件を満たすときに、吐出の状態及び省エネルギー効果について良好な結果が得られる。
【0130】
〔インク物性を考慮した温度制御の例〕
より具体的な例を用いて本実施形態における温度制御について説明する。数値計算によるシミュレーションから、高粘度インクであってもノズル壁から1μmのインクが5cP以下の低粘度液インクであれば吐出可能であることがわかった。
【0131】
既に説明したように、インクの特性として、温度を上げると粘度が低下することはわかっている。ここでは、図18のような粘度の温度特性を有するインクを使用するものとする。このグラフに示したインクで5cP以下になるのは40℃以上である。
【0132】
ノズルヒータ66によるノズル部のインク温度の上昇は熱伝導の計算により求められる。図19は、ノズル壁を 350Kにしたときのノズル壁(ヒータ境界)からのインク深さ(距離)と温度との関係を経過時間(μs)をパラメータとして示したグラフである。同図によれば、ノズル壁から1μmのインクを40℃以上(5cP以下)にするためには3μs以上必要であることがわかる。したがって、当該インクにおいては、ノズルヒータ66の駆動開始タイミングT1 はTn またはTa の3μs以上前に設定する必要がある。
【0133】
このように、使用するインクの物性やノズル条件などから必要な加熱温度と昇温時間が計算され、その計算結果に従ってノズルヒータ66の駆動タイミングが設定される。供給路ヒータ67の駆動タイミングについても同様の計算に従って駆動タイミングが設定される。
【0134】
図20はヒータ駆動タイミングの設定処理に関する処理ブロック図である。本実施形態に係るインクジェット記録装置10は、使用するインクの情報を取得するインク情報取得部160と、インク粘度の温度依存特性を演算する第1の演算処理部162と、少なくとも1種類の(好ましくは複数種類の)インクの粘度の温度依存性を示すテーブルデータが格納されている第1のテーブル格納部164と、ノズル内のインク温度上昇特性を演算する第2の演算処理部166と、インクの温度分布の時間依存性を示すテーブルデータが格
納されている第2のテーブル格納部168と、第1の演算処理部162及び第2の演算処理部166の演算結果に基づいてノズルヒータ66、供給路ヒータ67の駆動タイミングをそれぞれ設定するタイミング設定部170、172とを備えている。
【0135】
なお、図20に示した処理機能は図7で説明したシステムコントローラ82又はプリント制御部90若しくはこれらの組み合わせによって実現される。
【0136】
図20に示したように、インク情報取得部160から使用されるインクの情報を得て第1の演算処理部162において当該使用インクについての粘度の温度依存特性が計算される。このとき、第1の演算処理部162は第1のテーブル格納部164に格納されているテーブルデータを参照し、図21に示すように、該当するインクについて吐出可能粘度を得るために必要な加熱温度(必要加熱温度)を求める。
【0137】
図20に示した第1の演算処理部162の演算結果は、第2の演算処理部166に送られる。第2の演算処理部166は第2のテーブル格納部168に格納されているテーブルデータを参照し、図22に示すように、必要加熱温度の情報と、必要加熱浸透深さδdの情報とに基づき、必要加熱浸透深さδdを必要加熱温度に昇温するために必要な昇温時間を求める。
【0138】
こうして求めた昇温時間の情報は図20のタイミング設定部170、172に送られ、該昇温時間に応じてノズルヒータ66及び供給路ヒータ67のそれぞれの駆動タイミングが設定される。
【0139】
本実施形態によれば、インク吐出タイミングに合わせてノズルを温調するので、最小限の加熱エネルギーで高粘度インクの吐出が可能となる。第1のテーブル格納部164に複数種類のインクに関する情報を記憶しておくことにより、複数種類のインクに対応することが可能となり、使用するインクの種類に応じて吐出可能な適切なインク粘度になるように温度調節を行うことができる。
【0140】
また、図3で説明したように、相対的にインクの流体抵抗の大きい場所のみを加熱してインク粘度を局所的に低下させる構造のため、加熱制御の応答性が高く吐出周波数が向上するとともに、エネルギー消費量の低減化を実現できる。
【0141】
更には、異なる階層の流路プレートにノズルヒータ66、供給路ヒータ67を別々に設けたので、互いの温度影響が低減され、ノズル周辺及び個別流路(供給路)周辺にのみ効果的に熱を伝えることができるとともに、その温度制御の効果を持続できる。例えば、図3の62を断熱層とすれば更に効果がある。
【0142】
上記実施形態では、インクジェット記録装置10について説明したが、本発明の適用範囲はこれに限定されず、処理液その他の液体を媒体に塗布する塗布装置など各種の液体吐出装置について本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の全体構成図
【図2】図1に示したインクジェット記録装置の印字部周辺の要部平面図
【図3】印字ヘッドに形成されているインク流路の概略構成を示す断面図
【図4】ノズルヒータの構造例を示した平面図
【図5】ノズル近傍の拡大断面図
【図6】本例のインクジェット記録装置のシステム構成を示す要部ブロック図
【図7】ノズルからのインク滴の吐出プロセスを示した模式図
【図8】ノズルヒータ及び供給路ヒータの駆動タイミングを示したタイミングチャート
【図9】熱伝導の計算条件を説明するために用いた図
【図10】ノズル内温度分布の計算結果を示すグラフ
【図11】ノズル内温度分布の計算結果を示すグラフ
【図12】アクチュエータ駆動波形とノズヒータ及び供給路ヒータの駆動タイミングを示したタイミングチャート及び吐出時におけるインクの動きの対応関係を示した図
【図13】アクチュエータ駆動パルスの他の波形例を示す図
【図14】必要熱量の計算結果を示すグラフ
【図15】あるインクについての表面張力と温度の関係を示したグラフ
【図16】複数の(4種類の)インクについてそれぞれインク粘度の温度依存性を示したグラフ
【図17】加熱浸透深さを説明するために用いたノズルの要部拡大断面図
【図18】インク粘度の温度依存性の一例を示すグラフ
【図19】ノズル壁(ヒータ境界)からのインク深さ(距離)と温度との関係を経過時間をパラメータとして示したグラフ
【図20】ヒータ駆動タイミングの設定処理に関する処理ブロック図
【図21】インク粘度の温度依存性を示すテーブルから所要の吐出可能粘度を得るために必要な加熱温度を求める方法を説明するために用いた図
【図22】温度分布を示すテーブルから必要加熱浸透深さδdを必要加熱温度に昇温するために必要な昇温時間を求める方法を説明するために用いた図
【符号の説明】
【0144】
10…インクジェット記録装置、12…印字部、12K,12C,12M,12Y…印字ヘッド、14…インク貯蔵/装填部、16…記録紙、50…印字ヘッド、51…ノズル、52…圧力室、53…共通流路、54…振動板、55…アクチュエータ、56…供給路、61…第1の流路プレート(ノズル層)、62…第2の流路プレート、63…第3の流路プレート(供給路層)、64…第4の流路プレート、66…ノズルヒータ、67…供給路ヒータ、82…システムコントローラ、90…プリント制御部、120…メニスカス、122…インク
【技術分野】
【0001】
本発明は液体吐出装置及びインクジェット記録装置に係り、特に安定した液体吐出の実現に好適な吐出ヘッドの構造及びその駆動制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、インク吐出用のノズルを備えた記録ヘッドに対して記録紙等の被記録媒体を相対的に移動させながら、印字信号に応じて記録ヘッドからインクを吐出させることにより被記録媒体上にインク滴を着地させ、そのインクドットによって印字媒体上に画像を形成する。かかるインクジェット記録装置では、乾燥等によってノズル内のインクの粘度が上昇すると、インクが吐出しなくなるなどの吐出不良が発生する。また、インク粘度が上昇するとノズルに対するインクの再供給性能(リフィル性能)が低下する。
【0003】
このような観点から、特許文献1は、インク吐出に必要な熱エネルギーを発生する加熱発泡用ヒータをインク流路内に備えたいわゆるサーマルジェット方式(特に、サイドシュータ型)のインクジェットプリント装置において、インク流路内の吐出口に近い位置に第1の加熱専用ヒータを配設するとともに、加熱発泡用ヒータよりも吐出口から遠い位置に第2の加熱専用ヒータを配設し、これら二つの加熱専用ヒータによってインクの粘度を制御することにより、吐出性能及びリフィル性能を向上させる技術を提案している。
【0004】
また、特許文献2は、ヘッド全体を加熱するヘッドヒータと、各インク室を個別に加熱するインク室ヒータとを備えたインクジェッドプリンタを開示している。
【特許文献1】特開平11−10878号公報
【特許文献2】特開平6−91893号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2で提案されている方法は、吐出方向のインク温度に着目し、インクの粘度及び体積を制御するものであるが、この方法によって吐出に十分な液物性を得るには、ヘッド全体を温めるため、大きなエネルギーが必要となる。特に、電源投入から最初の印字実行が可能になるまでの初期加熱が必要である。
【0006】
この点、特許文献1に開示された方法によれば、個別流路に加熱専用ヒータを設けた構造であるためヘッド全体を加熱する必要はない。しかしながら、特許文献1で提案されている方法は、同一平面のインク流路に対して吐出側と供給側に加熱専用ヒータを数十μmの間隔で近接配置した構造であるため、吐出回数が増えるにつれて、これら二つのヒータ間で温度差が小さくなり、吐出力増加の効果が薄れるという問題がある。更に、特許文献1に開示の構成は、発熱抵抗体による発泡を利用した吐出方式であり、加熱専用ヒータよりも強力な高温加熱を行う加熱発泡用ヒータを有しており、このヒータの前後に加熱専用ヒータが極めて近い位置関係で配置されているため、より一層ヒータ間での温度差が小さくなるという問題がある。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、ノズル付近の液体物性を制御することで安定した液体吐出を実現するとともに、高粘度のインクであっても迅速なリフィルを実現し、更には、その吐出性能及びリフィル性能を持続させることができる液体吐出装置及びこれを用いたインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、ノズル孔から液体を吐出する液体吐出装置において、前記ノズル孔から液体を吐出させるための吐出力を発生させるアクチュエータと、ノズル部に配設されたノズル部加熱手段と、前記アクチュエータを駆動して前記ノズル孔から液体を吐出させる吐出駆動タイミングに応じて前記ノズル部加熱手段による加熱タイミングを制御するノズル加熱制御手段と、吐出させる液体の粘度の温度依存特性とノズル内における液体の温度分布の時間依存性とに基づいてノズル内の液体粘度が所定の値以下になるための温度上昇時間を算出する演算手段と、前記演算手段で算出された温度上昇時間に従って前記ノズル部加熱手段の駆動タイミングを設定するタイミング設定手段と、を備え、前記演算手段は、前記液体の粘度の温度依存特性を示す第1のテーブルが格納される第1のテーブル格納部と、前記液体の温度分布の時間依存性を示す第2のテーブルが格納される第2のテーブル格納部と、前記第1のテーブルを用いて所望の粘度と必要な加熱温度の関係を求める第1の演算処理部と、前記第1の演算処理部で求めた前記必要な加熱温度の情報及びノズル内壁からの必要加熱浸透深さの情報に基づき前記第2のテーブルを用いて前記必要加熱浸透深さを前記必要な加熱温度に昇温するために必要な昇温時間を求める第2の演算処理部と、を含むことを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の液体吐出装置の一態様であり、前記必要加熱浸透深さδdは、ノズル直径をDとするとき、次式
0.05≦δd/D≦0.15
を満たすことを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2記載の液体吐出装置の一態様であり、複数のノズルと、各ノズルに対応した個別の圧力室と、複数の圧力室に液体を供給する共通流路と、を備えた吐出ヘッドを有し、該吐出ヘッドの各ノズルについて前記ノズル部加熱手段が設けられるとともに、前記圧力室と前記共通流路を連通する供給路に供給路加熱手段が設けられていることを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項3記載の液体吐出装置において、前記ノズル孔からインクを吐出させる吐出駆動タイミングに応じて前記供給路加熱手段による加熱タイミングを制御する供給路加熱制御手段を備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項5に係る発明は、請求項3又は4記載の液体吐出装置において、前記ノズル、前記圧力室、前記共通流路及び前記供給路は積層構造によって形成されており、前記ノズルと前記供給路は異なる層の部材で構成され、前記ノズル部加熱手段と前記供給路加熱手段は互いに異なる層に配設されていることを特徴とする。
【0013】
請求項6に係る発明は、請求項5記載の液体吐出装置において、前記ノズルが形成されているノズル層と前記供給路が形成されている供給路層との間に断熱層が設けられていることを特徴とする。
【0014】
請求項7に係る発明は、請求項1乃至6の何れか1項記載の液体吐出装置をインク滴の吐出装置として用いたインクジェット記録装置を提供する。すなわち、請求項7に係るインクジェット記録装置は、請求項1乃至6の何れか1項記載の液体吐出装置をインク滴の吐出装置として用い、前記ノズル孔を有する記録ヘッドに対して被記録媒体を相対移動させながら、前記ノズル孔よりインクを吐出することにより前記被記録媒体上に画像を形成することを特徴とする。
【0015】
また、本明細書は以下に示す発明を開示する。
【0016】
発明(1)は、ノズル孔から液体を吐出する液体吐出装置において、ノズル部に配設されたノズル部加熱手段と、前記ノズル孔から液体を吐出させる吐出駆動タイミングに応じて前記ノズル部加熱手段による加熱タイミングを制御するノズル加熱制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0017】
発明(1)によれば、ノズル孔から液体を吐出させるタイミングに合わせてノズル部の温度調節を行うようにしたので、必要最小限の加熱エネルギーでノズル内の液体を低粘度化できる。これにより、高粘度のインクに対して従来よりも少ないエネルギーで吐出性能を安定させることができる。
【0018】
発明(2)は、発明(1)に記載の液体吐出装置において、吐出させる液体の粘度の温度依存特性とノズル内の液体温度上昇特性とに基づいてノズル内の液体粘度が所定の値以下になるための温度上昇時間を算出する演算手段と、前記演算手段で算出された温度上昇時間に従って前記ノズル部加熱手段の駆動タイミングを設定するタイミング設定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0019】
かかる態様によれば、使用する液体の種類に応じて吐出時に所要の粘度が得られるように適切な加熱タイミングが計算される。これにより、ノズル内の液体を吐出可能な粘度となるように確実に温度上昇させることが可能である。
【0020】
発明(3)は、発明(2)に記載の液体吐出装置において、前記演算手段は、液体の粘度の温度依存特性から所望の粘度と必要な加熱温度の関係を求める第1の演算処理部と、ノズル内の液体温度上昇特性から前記必要な加熱温度に昇温するために必要な昇温時間を求める第2の演算処理部と、を含むことを特徴とする。
【0021】
発明(4)は、発明(3)に記載の液体吐出装置において、前記第1の演算処理部は液体の粘度の温度依存特性を示す第1のテーブルを有し、前記第2の演算処理部はノズル内の液体温度上昇特性を示す第2のテーブルを有していることを特徴とする。
【0022】
なお、複数の液体種類に応じた第1のテーブルを有することにより、複数の液体種類に対応することが可能である。
【0023】
発明(5)は、発明(2)又は(3)に記載の液体吐出装置において、前記ノズル加熱制御手段は、ノズル内の液体についてノズル壁面から所定の加熱浸透深さを所定温度に昇温するように制御することを特徴とする。
【0024】
少なくともノズル壁面近傍の液体を加熱して低粘度化すればノズル孔からの液体吐出が可能となるため、当該ノズル壁面近傍の液体のみを加熱するに十分な加熱制御を行えばよい。
【0025】
発明(6)は、発明(5)に記載の液体吐出装置において、前記加熱浸透深さδdは、ノズル直径をDとするとき、次式
0.05≦δd/D≦0.15
を満たすことを特徴とする。
【0026】
このように、ノズル壁面近傍の液体のみを加熱する態様は、ノズル部のインク全体を加熱する場合と比較して省エネルギー化を達成できる。
【0027】
発明(7)は、発明(1)乃至(6)の何れか1項記載の液体吐出装置において、複数のノズルと、各ノズルに対応した個別の圧力室と、複数の圧力室に液体を供給する共通流路と、を備えた吐出ヘッドを有し、該吐出ヘッドの各ノズルについて前記ノズル部加熱手段が設けられるとともに、前記圧力室と前記共通流路を連通する供給路に供給路加熱手段が設けられていることを特徴とする。
【0028】
液体の供給源から吐出ヘッドに供給された液体はヘッド内の共通流路を通って個別の圧力室に送られる。圧力室にはアクチュエータや発泡加熱用のヒータなど、液体の吐出力を発生させる手段(吐出駆動素子)が設けられており、該素子の駆動によってノズル孔から液体が吐出される。つまり、液体は共通流路から供給路を通って個別の圧力室に流入し、圧力室からノズルを介して外部に吐出される。
【0029】
かかるヘッド内の流路全体を考察すると、共通流路や圧力室は相対的に流路の断面積が大きく、供給路(供給孔)及びノズル部は相対的に断面積が小さい。このように、相対的に流体抵抗の大きい供給路及びノズル部を加熱して液体の粘度を局所的に低下させることにより、比較的高粘度の液体であっても吐出可能である。また、本態様によれば、局所加熱のため、応答性が高く、吐出周波数を向上させることができるとともに、液全体を加熱する方法に比べてエネルギー消費量を低減化できる。
【0030】
発明(8)は、発明(7)に記載の液体吐出装置において、前記ノズル孔からインクを吐出させる吐出駆動タイミングに応じて前記供給路加熱手段による加熱タイミングを制御する供給路加熱制御手段を備えることを特徴とする。
【0031】
圧力室を挟んで上流側の供給路を加熱する供給路加熱手段と、下流側のノズル部を加熱するノズル部加熱手段とを吐出駆動タイミングに関連付けて制御することにより、吐出性及びリフィル性の向上を図ることができる。
【0032】
例えば、吐出時はノズル部のみを昇温してノズル部のインクを低粘度化させる一方、供給路については加熱せずに供給路付近の液体を相対的に高粘度化することにより、圧力室の吐出圧力を吐出方向に有効に働かせることができる。また、リフィル時においては、供給路周辺の温度を上昇させることにより、供給路からの液体流入が容易になり迅速にリフィルが行われる。更に、リフィルがほぼ完了した後は、ノズル部の加熱を止めてノズル周辺の液体粘度を上昇させる。これによって、リフィルにより生じるメニスカスの振動を急速に収束させることができる。
【0033】
発明(9)は、発明(7)又は(8)に記載の液体吐出装置において、前記ノズル、前記圧力室、前記共通流路及び前記供給路は積層構造によって形成されており、前記ノズルと前記供給路は異なる層の部材で構成され、前記ノズル部加熱手段と前記供給路加熱手段とは互いに異なる層に配設されていることを特徴とする。
【0034】
かかる態様によれば、プレート部材(流路プレート)の積層構造によってノズル、圧力室、共通流路及び供給路が形成されているヘッドにおいて、ノズル部加熱手段と供給路加熱手段をそれぞれ別の階層に配置したので、これらの加熱手段を比較的離れた位置関係で配置することができ、相互の温度影響を排除することができる。したがって、それぞれの温度調節の精度を高めることができるとともに、吐出性能及びリフィル性能を長時間にわたって維持することが可能である。
【0035】
発明(10)は、発明(9)に記載の液体吐出装置において、前記ノズルが形成されている流路プレート(ノズル層)と前記供給路が形成されている流路プレート(供給路層)との間に断熱層が設けられていることを特徴とする。
【0036】
発明(11)は、発明(1)乃至(10)の何れか1項に記載の液体吐出装置をインク滴の吐出装置として用いたインクジェット記録装置を提供する。すなわち、発明(11)に係るインクジェット記録装置は、前記ノズル孔を有する記録ヘッドに対して被記録媒体を相対移動させながら、前記ノズル孔よりインクを吐出することにより前記被記録媒体上に画像を形成することを特徴とする。
【0037】
なお、本発明の実施に際して、記録ヘッドの形態は特に限定されず、印字媒体の送り方向と略直交する方向に印字ヘッドが往復動作しながら印字を行うシャトル方式の記録ヘッドであってもよいし、インクを吐出する複数のノズルが印字媒体の送り方向と略直交する方向に前記印字媒体の全幅にわたって配列された1列以上のノズル列を有するフルライン型の記録ヘッドであってもよい。
【0038】
フルライン型の記録ヘッドのような長尺ヘッドの場合、印字中に未使用のノズルが存在し得るが、ヘッド全体を加熱する従来の方式は、加熱によって未使用ノズルのインクが乾燥して吐出不良になり易い。そのため、ノズル乾燥防止は重要な課題の一つである。本発明によれば、ノズル部加熱手段によってノズル部を局所的に加熱する方式であるため、ヘッド全体を加熱する必要がなく、未使用ノズルの乾燥を防ぐことができる。したがって、本発明はフルライン型の記録ヘッドへの適用が特に有効である。
【0039】
「フルライン型の記録ヘッド」は、通常、ノズル配列は被記録媒体の相対的な送り方向(相対移動方向)と直交する方向に沿って配置されるが、相対移動方向と直交する方向に対して、ある所定の角度を持たせた斜め方向に沿って記録ヘッドを配置する態様もあり得る。また、記録ヘッドにおけるノズルの配列形態は、1列のライン状配列に限定されず、複数列からなるマトリックス配列でもよい。更には、被記録媒体の全幅に対応する長さに満たないノズル列を有する短尺記録ヘッドユニットを複数個組み合わせることによって、これらユニット全体として被記録媒体の全幅に対応するノズル列を構成する形態もあり得る。
【0040】
「被記録媒体」は、記録ヘッドによって印字を受ける媒体(メディア)であり、被画像形成媒体、印字媒体、受像媒体などと呼ばれ得るものである。被記録媒体の具体的態様には、連続用紙、カット紙、シール用紙、OHPシート等の樹脂シート、フイルム、布、その他材質や形状を問わず、様々な媒体が含まれる。
【0041】
被記録媒体を記録ヘッドに対して相対移動させる搬送手段は、停止した(固定された)記録ヘッドに対して被記録媒体を搬送する態様、停止した被記録媒体に対して記録ヘッドを移動させる態様、或いは、記録ヘッドと被記録媒体の両方を移動させる態様の何れをも含む。
【0042】
なお、本明細書において「印字」という用語は、文字の形成のみならず、文字を含む広い意味での画像を形成する概念を表すものとする。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、吐出液滴のサイズを規定するノズル部にノズル部加熱手段を設け、吐出駆動タイミングに応じてノズル部の加熱制御を行うようにしたので、少ない加熱エネルギーでノズル周辺の液体粘度を所要の粘度に下げることができ、ノズル孔から液体を容易に吐出させることができる。
【0044】
また、本発明によれば、ノズル部を局所的に温調するため、ヘッド全体を温調する従来の形態と比較してヒートアップ時間が短く、電源投入から最初の印字実行が可能になるまでの初期起動時間を短縮できる。更に、本発明は、未使用ノズルの乾燥を防止することができるため、ノズル数の多い長尺の吐出ヘッドを備えた液体吐出装置について非常に有効である。
【0045】
本発明において液体吐出に必要な要素であるノズル、圧力室、共通流路、供給路等をプレート部材の積層構造によって形成し、異なる階層のプレート部材(流路プレート)にノズル部加熱手段、供給路加熱手段を設ける態様により、これら加熱手段の間の距離を比較的大きくとることができ、互いの温度影響を回避できる。したがって、ノズル周辺及び供給路周辺(個別流路の周辺)のみに熱を伝えることができ、液体の温度調節の効果が持続される。
【0046】
また、付随的な効果として、本発明では液体の吐出タイミングに合わせてノズル部の温度調節のタイミングを制御するため、吐出直前にノズル部加熱手段をON、吐出直後の前後にOFFするなどの制御態様により、アクチュエータ等の吐出駆動素子の駆動と相まって吐出液滴の効果的な引きちぎりを行うことができる。これにより、サテライトやスプラッシュの発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について詳説する。
【0048】
〔インクジェット記録装置の全体構成〕
図1は本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の全体構成図である。同図に示したように、このインクジェット記録装置10は、インクの色ごとに設けられた複数の印字ヘッド12K,12C,12M,12Yを有する印字部12と、各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yに供給するインクを貯蔵しておくインク貯蔵/装填部14と、記録紙16を供給する給紙部18と、記録紙16のカールを除去するデカール処理部20と、前記印字部12のノズル面(インク吐出面)に対向して配置され、記録紙16の平面性を保持しながら記録紙16を搬送する吸着ベルト搬送部22と、印字部12による印字結果を読み取る印字検出部24と、印画済みの記録紙(プリント物)を外部に排紙する排紙部26と、を備えている。
【0049】
図1では、給紙部18の一例としてロール紙(連続用紙)のマガジンが示されているが、紙幅や紙質等が異なる複数のマガジンを併設してもよい。また、ロール紙のマガジンに代えて、又はこれと併用して、カット紙が積層装填されたカセットによって用紙を供給してもよい。
【0050】
複数種類の記録紙を利用可能な構成にした場合、紙の種類情報を記録したバーコード或いは無線タグなどの情報記録体をマガジンに取り付け、その情報記録体の情報を所定の読取装置によって読み取ることで、使用される用紙の種類を自動的に判別し、用紙の種類に応じて適切なインク吐出を実現するようにインク吐出制御を行うことが好ましい。
【0051】
給紙部18から送り出される記録紙16はマガジンに装填されていたことによる巻きクセが残り、カールする。このカールを除去するために、デカール処理部20においてマガジンの巻きクセ方向と逆方向に加熱ドラム30で記録紙16に熱を与える。このとき、多少印字面が外側に弱いカールとなるように加熱温度を制御するとより好ましい。
【0052】
ロール紙を使用する装置構成の場合、図1のように、裁断用のカッター(第1のカッター)28が設けられており、該カッター28によってロール紙は所望のサイズにカットされる。カッター28は、記録紙16の搬送路幅以上の長さを有する固定刃28Aと、該固定刃28Aに沿って移動する丸刃28Bとから構成されており、印字裏面側に固定刃28Aが設けられ、搬送路を挟んで印字面側に丸刃28Bが配置される。なお、カット紙を使用する場合には、カッター28は不要である。
【0053】
デカール処理後、カットされた記録紙16は、吸着ベルト搬送部22へと送られる。吸
着ベルト搬送部22は、ローラ31、32間に無端状のベルト33が巻き掛けられた構造を有し、少なくとも印字部12のノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する部分が水平面(フラット面)をなすように構成されている。
【0054】
ベルト33は、記録紙16の幅よりも広い幅寸法を有しており、ベルト面には多数の吸引穴(不図示)が形成されている。図1に示したとおり、ローラ31、32間に掛け渡されたベルト33の内側において印字部12のノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する位置には吸着チャンバ34が設けられており、この吸着チャンバ34をファン35で吸引して負圧にすることによってベルト33上の記録紙16が吸着保持される。
【0055】
ベルト33が巻かれているローラ31、32の少なくとも一方にモータ(図6中符号100)の動力が伝達されることにより、ベルト33は図1上の時計回り方向に駆動され、ベルト33上に保持された記録紙16は図1の左から右へと搬送される。
【0056】
縁無しプリント等を印字するとベルト33上にもインクが付着するので、ベルト33の外側の所定位置(印字領域以外の適当な位置)にベルト清掃部36が設けられている。ベルト清掃部36の構成について詳細は図示しないが、例えば、ブラシ・ロール、吸水ロール等をニップする方式、清浄エアーを吹き掛けるエアーブロー方式、或いはこれらの組み合わせなどがある。清掃用ロールをニップする方式の場合、ベルト線速度とローラ線速度を変えると清掃効果が大きい。
【0057】
なお、吸着ベルト搬送部22に代えて、ローラ・ニップ搬送機構を用いる態様も考えられるが、印字領域をローラ・ニップ搬送すると、印字直後に用紙の印字面をローラが接触するので画像が滲み易いという問題がある。したがって、本例のように、印字領域では画像面を接触させない吸着ベルト搬送が好ましい。
【0058】
吸着ベルト搬送部22により形成される用紙搬送路上において印字部12の上流側には、加熱ファン40が設けられている。加熱ファン40は、印字前の記録紙16に加熱空気を吹き付け、記録紙16を加熱する。印字直前に記録紙16を加熱しておくことにより、インクが着弾後乾き易くなる。
【0059】
印字部12は、最大紙幅に対応する長さを有するライン型ヘッドを紙送り方向と直交方向(主走査方向)に配置した、いわゆるフルライン型のヘッドとなっている(図2参照)。詳細な構造は図示しないが、各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yは、図2に示したように、本インクジェット記録装置10が対象とする最大サイズの記録紙16の少なくとも一辺を超える長さにわたってインク吐出口(ノズル)が複数配列されたライン型ヘッドで構成されている。
【0060】
記録紙16の送り方向(以下、紙搬送方向という。)に沿って上流側から黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の順に各色インクに対応した印字ヘッド12K,12C,12M,12Yが配置されている。記録紙16を搬送しつつ各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yからそれぞれ色インクを吐出することにより記録紙16上にカラー画像を形成し得る。
【0061】
このように、紙幅の全域をカバーするフルラインヘッドが各インク色ごとに設けられてなる印字部12によれば、副走査方向について記録紙16と印字部12を相対的に移動させる動作を一回行うだけで(すなわち1回の副走査で)、記録紙16の全面に画像を記録することができる。これにより、印字ヘッドが主走査方向に往復動作するシャトル型ヘッドに比べて高速印字が可能であり、生産性を向上させることができる。
【0062】
なお、本例では、KCMYの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態に限定されず、必要に応じて淡インク、濃インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出する印字ヘッドを追加する構成も可能である。
【0063】
図1に示したように、インク貯蔵/装填部14は、各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yに対応する色のインクを貯蔵するタンクを有し、各タンクは管路(図1中不図示)を介して各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yと連通されている。また、インク貯蔵/装填部14は、インク残量が少なくなるとその旨を報知する報知手段(表示手段、警告音発生手段)を備えるとともに、色間の誤装填を防止するための機構を有している。
【0064】
印字検出部24は、印字部12の打滴結果を撮像するためのイメージセンサを含み、該イメージセンサによって読み取った打滴画像からノズルの目詰まりその他の吐出不良をチェックする手段として機能する。
【0065】
本例の印字検出部24は、少なくとも各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yによるインク吐出幅(画像記録幅)よりも幅の広い受光素子列を有するラインセンサで構成される。このラインセンサは、赤(R)の色フィルタが設けられた光電変換素子(画素)がライン状に配列されたRセンサ列と、緑(G)の色フィルタが設けられたGセンサ列と、青(B)の色フィルタが設けられたBセンサ列と、からなる色分解ラインCCDセンサで構成されている。なお、ラインセンサに代えて、受光素子が二次元配列されて成るエリアセンサを用いることも可能である。
【0066】
印字検出部24は、各色の印字ヘッド12K,12C,12M,12Yにより印字されたテストパターンを読み取り、各ヘッドの吐出検出を行う。吐出判定は、吐出の有無、ドットサイズの測定、ドット着弾位置の測定などで構成される。
【0067】
印字検出部24の後段には、後乾燥部42が設けられている。後乾燥部42は、印字された画像面を乾燥させる手段であり、例えば、加熱ファンが用いられる。印字後のインクが乾燥するまでは印字面と接触することは避けたほうが好ましいので、熱風を吹き付ける方式が好ましい。
【0068】
多孔質のペーパに染料系インクで印字した場合などでは、加圧によりペーパの孔を塞ぐことでオゾンなど、染料分子を壊す原因となるものと接触することを防ぐことで画像の耐候性がアップする効果がある。
【0069】
後乾燥部42の後段には、加熱・加圧部44が設けられている。加熱・加圧部44は、画像表面の光沢度を制御するための手段であり、画像面を加熱しながら所定の表面凹凸形状を有する加圧ローラ45で加圧し、画像面に凹凸形状を転写する。
【0070】
こうして生成されたプリント物はカッター28によって所定のサイズに切断された後、排紙部26から排出される。本来プリントすべき本画像(目的の画像を印刷したもの)とテスト印字とは分けて排出することが好ましい。このインクジェット記録装置10では、本画像のプリント物と、テスト印字のプリント物とを選別してそれぞれの排出部26A、26Bへと送るために排紙経路を切り替える不図示の選別手段が設けられている。なお、大きめの用紙に本画像とテスト印字とを同時に並列に形成する場合は、カッター(第2のカッター)48によってテスト印字の部分を切り離す。カッター48は、排紙部26の直前に設けられており、画像余白部にテスト印字を行った場合に本画像とテスト印字部を切断するためのものである。カッター48の構造は前述した第1のカッター28と同様であ
り、固定刃48Aと丸刃48Bとから構成される。
【0071】
また、図1には示さないが、本画像の排出部26Aには、オーダー別に画像を集積するソーターが設けられる。
【0072】
〔ノズル周辺の断面構造〕
図3は、各印字ヘッド12K、12C、12M、12Y(以下、これらを代表して符号50で示す)内に形成されているインク流路の概略構成を示す断面図である。図3において、符号51はインク吐出用のノズル、52は圧力室、53は共通流路、54は振動板、55はアクチュエータである。
【0073】
ノズル51に対応して設けられている圧力室52は、供給路56を介して共通流路53と連通している。インク貯蔵/装填部14から送液されたインクは共通流路53を通って圧力室52に供給される。圧力室52の底面を構成している振動板54には個別電極(不図示)を備えたアクチュエータ55が接合されており、個別電極に駆動電圧を印加することによってアクチュエータ55が変形し、圧力室52内のインクが加圧されることにより、ノズル51からインクが吐出される。すなわち、本実施形態では、ピエゾ素子(圧電素子)に代表されるアクチュエータ55の変形によってインク滴を飛ばす方式(ピエゾジェット方式)が採用されている。
【0074】
図示のように、本実施形態の印字ヘッド50は、SUS板等の薄い板材にエッチング等で穴や溝を形成したプレート部材を複数積層することによってインク流路が形成されている。図3では振動板54の上に4つのプレート部材が積層された構造が示されている。すなわち、ノズル51の吐出口を内包する第1の流路プレート(ノズル層)61と、共通流路53の側面を形成する第2の流路プレート62と、供給路56を内包する第3の流路プレート(供給路層)63と、圧力室52の側面を形成する第4の流路プレート64と、が積層された構造を有している。
【0075】
図示のように、ノズル51の吐出口に連通する流路を形成している第1の流路プレート(ノズル層)61には、ノズル51の流路周囲に第1のヒータ(以下、ノズルヒータという。)66が設けられている。また、圧力室52と共通流路53をつなぐ供給路56を形成している第3の流路プレート(供給路層)63には、供給路56の周囲に第2のヒータ(以下、供給路ヒータという。)67が設けられている。
【0076】
図4は、ノズルヒータ66の構造例を示した平面図である。ノズルヒータ66は、複数のヒータブロック(図4において3つのブロック)66A、66B、66Cからなり、これらヒータブロック66A〜Cがノズル51の流路周囲を囲むように円周上に沿って配置された構造を有している。各ヒータブロック66A〜66Cは、それぞれグランド線に相当する電極68A、68B、68Cと、信号線に相当する電極69A、69B、69Cとが接続されており、電極間に所要の電圧を印加することにより、ヒータブロック66A〜66Cが発熱する。
【0077】
図5は、ノズル先端部近傍の拡大図(図3中符号5で示した部分の拡大図)である。図示のように、ノズル51の流路周囲は絶縁層70で構成されている。また、吐出面72の最上層は絶縁層73が設けられ、その下層に信号線74、ヒータ(発熱体)75、グランド線76が順次積層され、グランド線76の下に絶縁層77が設けられている。
【0078】
信号線74及びグランド線76の配線部は、例えば、アルミ(Al)の膜厚0.8μm、配線幅は5μm、配線間隔も5μmとなっている。もちろん、配線部の構成はこの例に限定されず、アルミ以外の金属を用いることも可能である。
【0079】
ヒータ75は、例えばTa−Si−O三元合金で構成される。他に、Ta単層、TaN等でもよい。絶縁層70、73、77はSiO2 の無機膜、厚み0.5μmとする。なお、SiO2 に代えて、サイトップ(商品名:旭硝子社製)等のフッ化樹脂でもよい。その場合も厚みは0.5μm程度以下であることが望ましい。
【0080】
図4及び図5ではノズルヒータ66の構造を説明したが、図3の符号67で示した供給路ヒータ67の構造もノズルヒータ66の構造と同様であるため、説明は省略する。
【0081】
〔システム構成〕
図6はインクジェット記録装置10のシステム構成を示す要部ブロック図である。インクジェット記録装置10は、通信インターフェース80、システムコントローラ82、画像メモリ84、モータドライバ86、ヒータドライバ88、プリント制御部90、画像バッファメモリ92、ヘッドドライバ94及びヘッド用ヒータドライバ96等を備えている。
【0082】
通信インターフェース80は、ホストコンピュータ98から送られてくる画像データを受信するインターフェース部である。通信インターフェース80にはUSB、IEEE1394、イーサネット(登録商標)、無線ネットワークなどのシリアルインターフェースやセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。ホストコンピュータ98から送出された画像データは通信インターフェース80を介してインクジェット記録装置10に取り込まれ、一旦画像メモリ84に記憶される。画像メモリ84は、通信インターフェース80を介して入力された画像を一旦格納する記憶手段であり、システムコントローラ82を通じてデータの読み書きが行われる。画像メモリ84は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。
【0083】
システムコントローラ82は、通信インターフェース80、画像メモリ84、モータドライバ86、ヒータドライバ88等の各部を制御する制御部である。システムコントローラ82は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、ホストコンピュータ98との間の通信制御、画像メモリ84の読み書き制御等を行うとともに、搬送系のモータ100やヒータ102を制御する制御信号を生成する。
【0084】
モータドライバ86は、システムコントローラ82からの指示にしたがってモータ100を駆動するドライバ(駆動回路)である。ヒータドライバ88は、システムコントローラ82からの指示にしたがって後乾燥部42等のヒータ102を駆動するドライバである。
【0085】
プリント制御部90は、システムコントローラ82の制御に従い、画像メモリ84内の画像データから印字制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理機能を有し、生成した印字制御信号(印字データ)をヘッドドライバ94に供給するするとともにヘッド用ヒータドライバ96を制御する制御部である。プリント制御部90において所要の信号処理が施され、該画像データに基づいてヘッドドライバ94を介して印字ヘッド50のインク液滴の吐出量や吐出タイミングの制御が行われる。これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。
【0086】
プリント制御部90には画像バッファメモリ92が備えられており、プリント制御部90における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリ92に一時的に格納される。なお、図6において画像バッファメモリ92はプリント制御部90に付随する態様で示されているが、画像メモリ84と兼用することも可能である
。また、プリント制御部90とシステムコントローラ82とを統合して一つのプロセッサで構成する態様も可能である。
【0087】
ヘッドドライバ94はプリント制御部90から与えられる印字データに基づいて各色の印字ヘッド50のアクチュエータ55を駆動する。ヘッドドライバ94にはヘッドの駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
【0088】
ヘッド用ヒータドライバ96は、プリント制御部90からの指令に従い、ノズルヒータ66及び供給路ヒータ67を駆動するための信号を生成する。インクの吐出駆動タイミングとノズルヒータ66及び供給路ヒータ67の加熱タイミングの制御については後述する。
【0089】
印刷すべき画像のデータは、通信インターフェース80を介して外部から入力され、画像メモリ84に蓄えられる。この段階では、RGBの画像データが画像メモリ84に記憶される。
【0090】
画像メモリ84に蓄えられた画像データは、システムコントローラ82を介してプリント制御部90に送られ、該プリント制御部90において既知の誤差拡散アルゴリズムなどの手法によりインク色ごとのドットのデータに変換される。すなわち、プリント制御部90は、入力されたRGB画像データをYCMKの4色のドットデータに変換する処理を行う。プリント制御部90で生成されたドットデータは、画像バッファメモリ92に蓄えられる。
【0091】
ヘッドドライバ94は、画像バッファメモリ92に記憶されたドットデータに基づき、印字ヘッド50の駆動制御信号を生成する。ヘッドドライバ94で生成された駆動制御信号が印字ヘッド50に加えられることによって、印字ヘッド50のノズル51からインクが吐出される。記録紙16の搬送速度に同期して印字ヘッド50からのインク吐出を制御することにより、記録紙16上に画像が形成される。
【0092】
印字検出部24は、図1で説明したように、ラインセンサを含むブロックであり、記録紙16に印字された画像を読み取り、所要の信号処理などを行って印字状況(吐出の有無、打滴のばらつきなど)を検出し、その検出結果をプリント制御部90に提供する。プリント制御部90は、必要に応じて印字検出部24から得られる情報に基づいて印字ヘッド50に対する各種補正を行う。
【0093】
次に、上記の如く構成されたインクジェット記録装置10におけるインクの温度調節タイミングについて説明する。
【0094】
〔流体現象に着目した温調タイミング〕
図7はプル・プッシュ・プル・メニスカスコントロール(Pull Push Pull meniscus control)によるインク滴の吐出プロセスの例を示した模式図である。図示した一連の吐出プロセスはアクチュエータ55の駆動制御によって実現される。まず、インク吐出前に圧を下げる緩やかな引きの動作を行いメニスカス120(ノズル51内のインク122と外気との界面)の状態を所定の形状にする( 図7(a) 〜(b)) 。この状態から勢いよく吐出動作を行い( 図7(c)〜(h))、インク吐出後に再び引きの動作を行い、インク滴126を所定の大きさに引きちぎるとともに、メニスカス120の振動を抑制する(図7(i)〜(j))。
【0095】
このような流体現象の中で(d)で示した状態、すなわち、インク122が吐出面(ノズル面)124から出る時の時刻t=Tn を温調タイミングの基準として設定する。
【0096】
図8はノズルヒータ66及び供給路ヒータ67の駆動タイミングを示したタイミングチャートの一例である。本節では、(d)の状態を「吐出」と定義する。
【0097】
ノズルヒータ66の駆動開始タイミングT1 は、Tn の1μs 〜100μs 前である。ΔTn1=T1 −Tn とすると、−100μs ≦ΔTn1≦−1μs である。ここで、ΔTn1≦−1μs という条件は、ノズル周辺のインクを加熱して温度上昇させるために1μs 以上必要であることを示す。
【0098】
ノズルヒータ66の駆動終了タイミングT1'は、Tn の20μs 前から50μs 後である。ΔTn1’=T1'−Tn とすると、−20μs ≦ΔTn1' ≦50μs である。吐出直前又は直後(−20μs 〜+20μs )にノズルヒータ66をOFFする理由は、ヒートアップ時間を短くして熱量を下げるためである。また、吐出後迅速にリフィルを行うためにリフィル中もインク粘度を下げるためには、吐出後(+20μs 〜+50μs )にノズルヒータ66をOFFする態様が好ましい。
【0099】
供給路ヒータ67の駆動開始タイミングT2 は、Tn の1μs 〜100μs 後である。ΔTn2=T2 −Tn とすると、1μs ≦ΔTn1≦100μs である。ここで、ΔTn1≧1μs という条件は、供給路56のインクを加熱して温度上昇させるために1μs 以上必要であることを示す。
【0100】
吐出開始後リフィルは0〜100μs 、多くは0〜50μs で開始するので、上記のタイミングで供給路ヒータ67を駆動開始する。供給路ヒータ67の駆動終了タイミングT2 ' は、アクチュエータ55の駆動周波数に依存して決定される。
【0101】
ノズルヒータ66又は供給路ヒータ67によってインクの温度を上昇させるために少なくとも1μs の加熱時間が必要であることは、以下に示すノズル内温度分布の計算から導かれる。
【0102】
計算において、半無限流体の熱伝導(対流なしのモデル)による近似を適用する。図9のように、温度源140に接する低温流体(半無限流体142)について境界面144を基準として位置xの座標軸を設定する。初期条件として半無限流体142は、はじめ温度T0 で一様とし、時刻τ=0でx=0の面の温度をTs とする。Tsはその後一定に保たれる。
【0103】
時刻τ、位置xにおける温度T(τ,x)は、上記の条件で以下の式が成り立つ。
【0104】
【数1】
【0105】
erf(β) は誤差関数であり、以下の式で表される。
【0106】
【数2】
【0107】
ここでβは次式で表される。
【0108】
【数3】
【0109】
〔数3〕式中のaは温度伝導率( m2 /s )であり、次式で表される。
【0110】
【数4】
【0111】
ただし、λ:熱伝導率(W/(m・ K))、ρ:密度(kg/m3 )、Cp :比熱( J/(kg・K))
である。なお、水の場合、λ=0.61、ρ=1000、Cp =4180なのでa=1.46×10-7である。
【0112】
以上から〔数1〕の式を利用して温度源からxだけ離れた位置の時刻τにおける温度Tを求めることができる。
【0113】
また、時刻τ=0〜τ間で表面の単位面積から入った熱量Q(J /m2 )は次式となる。
【0114】
【数5】
【0115】
この〔数5〕の式から必要熱量を算出することができる。
【0116】
一般的な水性インクの組成は80%以上が水であるため、液体は水であると仮定して温度分布を計算する。初期温度T0 =300 K、境界温度Ts =350 Kとしたときの計算結果を図10に示す。また、初期温度T0 =300 K、境界温度Ts =400 Kとしたときの計算結果を図11に示す。
【0117】
これらのグラフによれば、1μs の加熱時間でヒータ境界から1μm 厚分のインク(計算上は水)の温度を上昇させることができることがわかる。更に、数十μs の範囲で温度上昇がみられるのは、ヒータ境界から数μm の範囲である。ノズル直径を30μm 程度と考えると、ノズル直径に対して一割程度の外周の温度が上昇することになる。
【0118】
〔アクチュエータ駆動波形に着目した温調タイミング〕
図12は、アクチュエータ駆動波形に注目したノズルヒータ66及び供給路ヒータ67の駆動タイミングを示したタイミングチャートと吐出時におけるインクの動きの対応関係を示した図である。同図中、横軸は時間を示し、縦軸は電圧を示す。
【0119】
図12に示したように、インク122をノズル面124から吐出させるときのアクチュエータ駆動タイミングをTaとし、このTaをヒータ制御の基準とする。インク122をノズル面124から吐出させる動作は圧力室52の体積を減少させるアクチュエータ駆動によって実現される。すなわち、インク122がノズル面124から外に出るタイミング
は、アクチュエータ55を圧力室体積減少方向に変位させる駆動期間内であり、左記駆動期間が複数ある場合は、その中において駆動パルスの電位差最大、或いは傾きが最大となる期間内である。
【0120】
このように、一連の電圧駆動において電圧変化が最も大きいところ、あるいは電圧変化の時間微分が最も大きいところに注目し、かかる吐出動作を実現するアクチュエータ駆動のタイミングを基準Ta として設定する。そして、この基準Ta の前後でノズルヒータ及び供給路ヒータの駆動タイミングを設定する。
【0121】
具体的には、図8で説明した例と同様に、Tn をTa で置き換えることによって、各ヒータの駆動タイミングが決定される。
【0122】
なお、アクチュエータ駆動波形は図12の例に限定されない。図13にアクチュエータ駆動パルスの他の波形例を示す。アクチュエータ駆動波形は様々なタイプが可能であるが、何れの場合も電位差最大、傾き最大となる期間の中から適当な時刻を制御の基準時刻Taとして決定する。図12及び図13に示したTaに限定されず、例えば、電圧0になる時刻を基準時刻Taとして設定する態様も可能である。
【0123】
〔温調熱量の評価〕
上述した〔数5〕の式を用いて必要な熱量を計算する。液体は水と仮定し、初期温度T0 = 300Kとする。また、ノズルの形状はノズル半径15μm、ノズル高さ50μm、ノズル内側表面積4.7×10-9m2 の円筒形状であるものとする。加熱温度 350Kと 400Kの場合の計算結果を図14に示す。
【0124】
図14に示されているように、数十μsの範囲において必要な熱量は数μJである。インクを暖めると同程度にヘッドを暖めるとしてもヒータの熱量は10μJ程度、多く見積もっても20μJ以下である。このような観点から、ノズルヒータ66及び供給路ヒータ67による温調時間は100μs以下に設定される。
【0125】
〔インク物性の温度依存性〕
温度によるインク物性値の変化はインクの種類によって様々である。図15は、あるインクについての表面張力と温度の関係を示したグラフである。また、図16は4種類のインクについてそれぞれインク粘度の温度依存性を示したグラフである。これらの図面に示したように、インクの温度が上昇するにつれて、表面張力は小さくなるとともに粘度が低下する傾向にある。
【0126】
ノズル51内のインクのうちノズル内壁との接触面近傍のインクを低粘度化できればインクを吐出させることができることが実験により見出された。すなわち、図17に示すように、ノズル51の直径をD、ノズル内壁からの加熱浸透深さをδdとするとき、0.05≦δd/Dの浸透深さを最低限確保すれば問題なく吐出が可能であり、かつδd/D≦0.15とすることで加熱エネルギーを半減することが可能となる。
【0127】
下記の〔表1〕は、δd/Dの条件を変えて吐出実験を行ったときの吐出状態の評価、加熱エネルギーの相対比率、省エネルギー効果の評価をまとめたものである。
【0128】
【表1】
【0129】
〔表1〕の実験結果によれば、0.05≦δd/D≦0.15の条件を満たすときに、吐出の状態及び省エネルギー効果について良好な結果が得られる。
【0130】
〔インク物性を考慮した温度制御の例〕
より具体的な例を用いて本実施形態における温度制御について説明する。数値計算によるシミュレーションから、高粘度インクであってもノズル壁から1μmのインクが5cP以下の低粘度液インクであれば吐出可能であることがわかった。
【0131】
既に説明したように、インクの特性として、温度を上げると粘度が低下することはわかっている。ここでは、図18のような粘度の温度特性を有するインクを使用するものとする。このグラフに示したインクで5cP以下になるのは40℃以上である。
【0132】
ノズルヒータ66によるノズル部のインク温度の上昇は熱伝導の計算により求められる。図19は、ノズル壁を 350Kにしたときのノズル壁(ヒータ境界)からのインク深さ(距離)と温度との関係を経過時間(μs)をパラメータとして示したグラフである。同図によれば、ノズル壁から1μmのインクを40℃以上(5cP以下)にするためには3μs以上必要であることがわかる。したがって、当該インクにおいては、ノズルヒータ66の駆動開始タイミングT1 はTn またはTa の3μs以上前に設定する必要がある。
【0133】
このように、使用するインクの物性やノズル条件などから必要な加熱温度と昇温時間が計算され、その計算結果に従ってノズルヒータ66の駆動タイミングが設定される。供給路ヒータ67の駆動タイミングについても同様の計算に従って駆動タイミングが設定される。
【0134】
図20はヒータ駆動タイミングの設定処理に関する処理ブロック図である。本実施形態に係るインクジェット記録装置10は、使用するインクの情報を取得するインク情報取得部160と、インク粘度の温度依存特性を演算する第1の演算処理部162と、少なくとも1種類の(好ましくは複数種類の)インクの粘度の温度依存性を示すテーブルデータが格納されている第1のテーブル格納部164と、ノズル内のインク温度上昇特性を演算する第2の演算処理部166と、インクの温度分布の時間依存性を示すテーブルデータが格
納されている第2のテーブル格納部168と、第1の演算処理部162及び第2の演算処理部166の演算結果に基づいてノズルヒータ66、供給路ヒータ67の駆動タイミングをそれぞれ設定するタイミング設定部170、172とを備えている。
【0135】
なお、図20に示した処理機能は図7で説明したシステムコントローラ82又はプリント制御部90若しくはこれらの組み合わせによって実現される。
【0136】
図20に示したように、インク情報取得部160から使用されるインクの情報を得て第1の演算処理部162において当該使用インクについての粘度の温度依存特性が計算される。このとき、第1の演算処理部162は第1のテーブル格納部164に格納されているテーブルデータを参照し、図21に示すように、該当するインクについて吐出可能粘度を得るために必要な加熱温度(必要加熱温度)を求める。
【0137】
図20に示した第1の演算処理部162の演算結果は、第2の演算処理部166に送られる。第2の演算処理部166は第2のテーブル格納部168に格納されているテーブルデータを参照し、図22に示すように、必要加熱温度の情報と、必要加熱浸透深さδdの情報とに基づき、必要加熱浸透深さδdを必要加熱温度に昇温するために必要な昇温時間を求める。
【0138】
こうして求めた昇温時間の情報は図20のタイミング設定部170、172に送られ、該昇温時間に応じてノズルヒータ66及び供給路ヒータ67のそれぞれの駆動タイミングが設定される。
【0139】
本実施形態によれば、インク吐出タイミングに合わせてノズルを温調するので、最小限の加熱エネルギーで高粘度インクの吐出が可能となる。第1のテーブル格納部164に複数種類のインクに関する情報を記憶しておくことにより、複数種類のインクに対応することが可能となり、使用するインクの種類に応じて吐出可能な適切なインク粘度になるように温度調節を行うことができる。
【0140】
また、図3で説明したように、相対的にインクの流体抵抗の大きい場所のみを加熱してインク粘度を局所的に低下させる構造のため、加熱制御の応答性が高く吐出周波数が向上するとともに、エネルギー消費量の低減化を実現できる。
【0141】
更には、異なる階層の流路プレートにノズルヒータ66、供給路ヒータ67を別々に設けたので、互いの温度影響が低減され、ノズル周辺及び個別流路(供給路)周辺にのみ効果的に熱を伝えることができるとともに、その温度制御の効果を持続できる。例えば、図3の62を断熱層とすれば更に効果がある。
【0142】
上記実施形態では、インクジェット記録装置10について説明したが、本発明の適用範囲はこれに限定されず、処理液その他の液体を媒体に塗布する塗布装置など各種の液体吐出装置について本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の全体構成図
【図2】図1に示したインクジェット記録装置の印字部周辺の要部平面図
【図3】印字ヘッドに形成されているインク流路の概略構成を示す断面図
【図4】ノズルヒータの構造例を示した平面図
【図5】ノズル近傍の拡大断面図
【図6】本例のインクジェット記録装置のシステム構成を示す要部ブロック図
【図7】ノズルからのインク滴の吐出プロセスを示した模式図
【図8】ノズルヒータ及び供給路ヒータの駆動タイミングを示したタイミングチャート
【図9】熱伝導の計算条件を説明するために用いた図
【図10】ノズル内温度分布の計算結果を示すグラフ
【図11】ノズル内温度分布の計算結果を示すグラフ
【図12】アクチュエータ駆動波形とノズヒータ及び供給路ヒータの駆動タイミングを示したタイミングチャート及び吐出時におけるインクの動きの対応関係を示した図
【図13】アクチュエータ駆動パルスの他の波形例を示す図
【図14】必要熱量の計算結果を示すグラフ
【図15】あるインクについての表面張力と温度の関係を示したグラフ
【図16】複数の(4種類の)インクについてそれぞれインク粘度の温度依存性を示したグラフ
【図17】加熱浸透深さを説明するために用いたノズルの要部拡大断面図
【図18】インク粘度の温度依存性の一例を示すグラフ
【図19】ノズル壁(ヒータ境界)からのインク深さ(距離)と温度との関係を経過時間をパラメータとして示したグラフ
【図20】ヒータ駆動タイミングの設定処理に関する処理ブロック図
【図21】インク粘度の温度依存性を示すテーブルから所要の吐出可能粘度を得るために必要な加熱温度を求める方法を説明するために用いた図
【図22】温度分布を示すテーブルから必要加熱浸透深さδdを必要加熱温度に昇温するために必要な昇温時間を求める方法を説明するために用いた図
【符号の説明】
【0144】
10…インクジェット記録装置、12…印字部、12K,12C,12M,12Y…印字ヘッド、14…インク貯蔵/装填部、16…記録紙、50…印字ヘッド、51…ノズル、52…圧力室、53…共通流路、54…振動板、55…アクチュエータ、56…供給路、61…第1の流路プレート(ノズル層)、62…第2の流路プレート、63…第3の流路プレート(供給路層)、64…第4の流路プレート、66…ノズルヒータ、67…供給路ヒータ、82…システムコントローラ、90…プリント制御部、120…メニスカス、122…インク
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル孔から液体を吐出する液体吐出装置において、
前記ノズル孔から液体を吐出させるための吐出力を発生させるアクチュエータと、
ノズル部に配設されたノズル部加熱手段と、
前記アクチュエータを駆動して前記ノズル孔から液体を吐出させる吐出駆動タイミングに応じて前記ノズル部加熱手段による加熱タイミングを制御するノズル加熱制御手段と、
吐出させる液体の粘度の温度依存特性とノズル内における液体の温度分布の時間依存性とに基づいてノズル内の液体粘度が所定の値以下になるための温度上昇時間を算出する演算手段と、
前記演算手段で算出された温度上昇時間に従って前記ノズル部加熱手段の駆動タイミングを設定するタイミング設定手段と、を備え、
前記演算手段は、
前記液体の粘度の温度依存特性を示す第1のテーブルが格納される第1のテーブル格納部と、
前記液体の温度分布の時間依存性を示す第2のテーブルが格納される第2のテーブル格納部と、
前記第1のテーブルを用いて所望の粘度と必要な加熱温度の関係を求める第1の演算処理部と、
前記第1の演算処理部で求めた前記必要な加熱温度の情報及びノズル内壁からの必要加熱浸透深さの情報に基づき前記第2のテーブルを用いて前記必要加熱浸透深さを前記必要な加熱温度に昇温するために必要な昇温時間を求める第2の演算処理部と、
を含むことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記必要加熱浸透深さδdは、ノズル直径をDとするとき、次式
0.05≦δd/D≦0.15
を満たすことを特徴とする請求項1記載の液体吐出装置。
【請求項3】
複数のノズルと、各ノズルに対応した個別の圧力室と、複数の圧力室に液体を供給する共通流路と、を備えた吐出ヘッドを有し、
該吐出ヘッドの各ノズルについて前記ノズル部加熱手段が設けられるとともに、前記圧力室と前記共通流路を連通する供給路に供給路加熱手段が設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記ノズル孔からインクを吐出させる吐出駆動タイミングに応じて前記供給路加熱手段による加熱タイミングを制御する供給路加熱制御手段を備えたことを特徴とする請求項3記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記ノズル、前記圧力室、前記共通流路及び前記供給路は積層構造によって形成されており、
前記ノズルと前記供給路は異なる層の部材で構成され、前記ノズル部加熱手段と前記供給路加熱手段は互いに異なる層に配設されていることを特徴とする請求項3又は4記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記ノズルが形成されているノズル層と前記供給路が形成されている供給路層との間に断熱層が設けられていることを特徴とする請求項5記載の液体吐出装置。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項記載の液体吐出装置をインク滴の吐出装置として用い、前記ノズル孔を有する記録ヘッドに対して被記録媒体を相対移動させながら、前記ノズル孔よりインクを吐出することにより前記被記録媒体上に画像を形成することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項1】
ノズル孔から液体を吐出する液体吐出装置において、
前記ノズル孔から液体を吐出させるための吐出力を発生させるアクチュエータと、
ノズル部に配設されたノズル部加熱手段と、
前記アクチュエータを駆動して前記ノズル孔から液体を吐出させる吐出駆動タイミングに応じて前記ノズル部加熱手段による加熱タイミングを制御するノズル加熱制御手段と、
吐出させる液体の粘度の温度依存特性とノズル内における液体の温度分布の時間依存性とに基づいてノズル内の液体粘度が所定の値以下になるための温度上昇時間を算出する演算手段と、
前記演算手段で算出された温度上昇時間に従って前記ノズル部加熱手段の駆動タイミングを設定するタイミング設定手段と、を備え、
前記演算手段は、
前記液体の粘度の温度依存特性を示す第1のテーブルが格納される第1のテーブル格納部と、
前記液体の温度分布の時間依存性を示す第2のテーブルが格納される第2のテーブル格納部と、
前記第1のテーブルを用いて所望の粘度と必要な加熱温度の関係を求める第1の演算処理部と、
前記第1の演算処理部で求めた前記必要な加熱温度の情報及びノズル内壁からの必要加熱浸透深さの情報に基づき前記第2のテーブルを用いて前記必要加熱浸透深さを前記必要な加熱温度に昇温するために必要な昇温時間を求める第2の演算処理部と、
を含むことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記必要加熱浸透深さδdは、ノズル直径をDとするとき、次式
0.05≦δd/D≦0.15
を満たすことを特徴とする請求項1記載の液体吐出装置。
【請求項3】
複数のノズルと、各ノズルに対応した個別の圧力室と、複数の圧力室に液体を供給する共通流路と、を備えた吐出ヘッドを有し、
該吐出ヘッドの各ノズルについて前記ノズル部加熱手段が設けられるとともに、前記圧力室と前記共通流路を連通する供給路に供給路加熱手段が設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記ノズル孔からインクを吐出させる吐出駆動タイミングに応じて前記供給路加熱手段による加熱タイミングを制御する供給路加熱制御手段を備えたことを特徴とする請求項3記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記ノズル、前記圧力室、前記共通流路及び前記供給路は積層構造によって形成されており、
前記ノズルと前記供給路は異なる層の部材で構成され、前記ノズル部加熱手段と前記供給路加熱手段は互いに異なる層に配設されていることを特徴とする請求項3又は4記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記ノズルが形成されているノズル層と前記供給路が形成されている供給路層との間に断熱層が設けられていることを特徴とする請求項5記載の液体吐出装置。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項記載の液体吐出装置をインク滴の吐出装置として用い、前記ノズル孔を有する記録ヘッドに対して被記録媒体を相対移動させながら、前記ノズル孔よりインクを吐出することにより前記被記録媒体上に画像を形成することを特徴とするインクジェット記録装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2006−213066(P2006−213066A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−138811(P2006−138811)
【出願日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【分割の表示】特願2004−247281(P2004−247281)の分割
【原出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【分割の表示】特願2004−247281(P2004−247281)の分割
【原出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】
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