説明

液体吐出装置及び液体吐出装置の制御方法

【課題】ゴム等の弾性体からなる開閉弁の貼付きをタイミング良く防止できるようにして、圧力調整機能の信頼性を向上させる。
【解決手段】液体供給手段は、内部にインクを貯留可能な第1液室51と、内部に貯留されたインクをラインヘッドに供給するための排出口52aを有する第2液室52と、第1液室51と第2液室52との間を仕切る仕切り壁53と、仕切り壁53に形成され、第1液室51内に貯留されたインクを第2液室52に向けて流出させるための開口部53aと、開口部53aを開閉し、開口部53aの周囲の仕切り壁53に当接可能な弾性体からなる当接部54aを有する開閉弁54と、バルブ駆動手段によって駆動可能であり、開閉弁54を開放するためのバルブ機構55とを備え、バルブ駆動手段は、電源の投入時又はラインヘッドの作動前に、バルブ機構55を駆動して開閉弁54を強制的に開放する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドに供給する液体の圧力を調整可能な液体吐出装置及び液体吐出装置の制御方法に係るものであり、詳しくは、圧力調整機能の信頼性を向上させることができる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、液体吐出装置の一例として、記録用紙等の被記録媒体を液体吐出ヘッドまで搬送し、この液体吐出ヘッドのノズルからインク(液体)を吐出して画像を形成するインクジェットプリンタが知られている。このようなインクジェットプリンタにおいては、インクが貯留されているインクカートリッジから液体吐出ヘッドに向けてインクが安定して供給されることが必要である。
【0003】
そのため、一般的には、インクカートリッジ内のインクの液面が液体吐出ヘッドのノズル面よりも高い位置にあり、その水頭差によってインクが液体吐出ヘッドに供給されるようになっている。そして、このままでは、インクがノズルから流れ出てしまうため、インクの供給経路に圧力調整機能を有する液体供給手段を設けてインクの流量を調節したり、インクカートリッジ内に多孔質体を収容する等して、液体吐出ヘッド内のインク圧力が負圧値となるように工夫されている。なお、このときの負圧値は、ノズルにメニスカスが形成されるように調整される。
【0004】
ここで、液体供給手段による圧力調整は、印画時のインク吐出量の変化やインクカートリッジ内のインク残量に応じて開閉弁を開閉することで、液体吐出ヘッド内のインク圧力(負圧値)を安定させることができる。そして、このような圧力調整機能を有する液体供給手段として、液体貯留側(第1液室)の圧力と排出側(第2液室)の圧力との間の差圧を調整する開閉弁と、開閉弁を開放するバルブ機構とを備える技術が知られている。すなわち、差圧情報に基づいて、ゴムやエラストマー等から形成された仕切り壁の開口部に、金属やプラスチックで形成され、テーパを有する略円柱状の開閉弁を挿入することで、開口部を通って流れるインクの量を調整できるようにした技術である(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−271385号公報
【0005】
また、インク室(第1液室)とインク供給室(第2液室)との圧力差に応じて、中心部に通孔を備えた弾性薄膜が、通孔に対向して配置された開閉弁に接離するようにした技術も知られている。この技術によれば、わずかなインクの消費に応じて流路が開くので、液体吐出ヘッドにインクを供給できるだけでなく、インク供給室の圧力が上昇した場合に弾性薄膜が応動して圧力上昇分をインク室に逃がし、液体吐出ヘッドからのインクの漏洩を防止できるようになる(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献2】特開平8−174860号公報
【0006】
さらにまた、弁体に設けられた貫通穴の一方をゴム質の開閉弁でふさぐようにした技術も知られている。この技術によれば、弁体の一方側がオリフィスに直結するインク室で、他方側がインクタンクとなり、記録用紙にインクを吐出するごとにインク室内の圧力が減少し、開閉弁が開いてインクが補充されるとともに、オリフイスからの不要なインク漏れが防止される(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献3】特開昭62−231759号公報
【0007】
上記の特許文献1から特許文献3の技術によれば、ゴム等の弾性部材を薄膜状に形成したものを弁部材として使用しているので、圧力差に応じた弁部材の弾性変形を開閉動作に利用でき、それにより、液体吐出ヘッド内のインクの圧力を調整可能としている。したがって、インクを供給する必要がない液体吐出装置の非稼動時には、弁部材が閉塞した状態(開口部をふさぐために、開閉弁等の弁部材が他の部材と密着した状態)が維持されることとなる。
【0008】
ここで問題となるのが、液体吐出装置が稼動されずに長期間放置された場合や、液体吐出装置が劣悪な環境下(高温・多湿、温度変化の著しい場所等)に置かれた場合である。このような場合には、開閉弁等の弁部材がゴム等の弾性体からなり、その弾性を利用して開口部に密着させ、開口部を閉塞できるようにしているので、密着していた開閉弁が開口部に貼り付いてしまい、インクの供給ができなくなったり、適正な負圧値が得られずに印画不良を起こしてしまう。
【0009】
この点に関してさらに詳述すると、ゴム等の弾性体からなる開閉弁は、その製造過程で多くの可塑剤を含有しているので、液体吐出装置が稼動されず、開閉弁が開口部に密着した状態で長期間放置された場合等に、その可塑剤が移行しやすいという問題がある。そして、開閉弁からの可塑剤の移行が生じた場合には、開閉弁が開口部に貼り付いて開閉不良を引き起こし、液体吐出ヘッドに正常にインクを供給できなくなる。そこで、開閉弁の材質を変更したり、密着シロを減らす等によって対策することが考えられるが、圧力の調整性能が悪くなる、成形に不都合が生じる、コストが増加する等、その代償となる部分も大きく、未解決の課題となっているのが現状である。
【0010】
一方、開閉弁を強制的に開放するようにした技術が知られている。すなわち、コイルスプリングの伸縮により、開口部の閉塞と開放とを強制的に行うようにした液体吐出装置であり、コイルスプリングに棒状の支持部材が取り付けられていて、コイルスプリングが伸長するとコイル間からインクが流出する。そのため、インクが開閉弁に付着して固まってしまった場合であっても、強制的な開閉動作を行うことによって液体吐出ヘッドにインクを供給することができる(例えば、特許文献4参照)。
【特許文献4】特開平9−174875号公報
【0011】
また、筒状ケースの開口部を気密に閉塞するリング状の第1弁頭体と、ケース内を移動する弁本体に固定された第2弁頭体とを偏心して連結した二方向圧力調整バルブも知られている。この二方向圧力調整バルブによれば、弁本体が移動してケースの開口部が開放される際に、第1弁頭体がその一部分から徐々に引き剥がされるように動作するので、第1弁頭体がケース内面に貼り付いてしまった場合でも、比較的スムーズにこれを引き剥して開口させることができ、動作不良を防止できる(例えば、特許文献5参照)。
【特許文献5】特開平9−310772号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、上記の特許文献1から特許文献3に記載の技術では、前述したように、液体吐出装置が稼動されずに長期間放置された場合や、液体吐出装置が劣悪な環境下(高温・多湿、温度変化の著しい場所等)に置かれた場合に、ゴム等の弾性体からなる開閉弁が密着して貼り付いてしまい、インクの供給ができなくなる等の問題がある。そして、開閉弁の材質の変更等は、圧力の調整性能が悪くなる等の別の問題を引き起こす。
【0013】
また、上記の特許文献4には、ゴム等の弾性体からなる開閉弁を用いたバルブ機構の信頼性を高める技術について何ら開示されていない。すなわち、単に、開閉弁を強制的に開閉させるだけのものであり、開閉の実行タイミングも、弾性体からなる開閉弁の密着による動作不良を修復又は防止するものではない。さらにまた、上記の特許文献5に記載の技術は、インクジェットプリンタ等の液体吐出装置と技術分野が異なり、液体吐出ヘッド内のインク圧力を調整するものではないし、開閉の実行タイミングについて何ら開示されていない。
【0014】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、液体吐出装置が稼動されずに長期間放置された場合や、液体吐出装置が劣悪な環境下に置かれた場合であっても、ゴム等の弾性体からなる開閉弁の貼付きをタイミング良く防止できるようにして、圧力調整機能の信頼性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、以下の解決手段によって、上述の課題を解決する。
本発明の1つである請求項1に記載の発明は、ノズルから液体を吐出させて画像を形成するための液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドを作動させるための電源と、吐出させる液体を貯留するとともに、前記液体吐出ヘッドに液体を供給可能な液体供給手段とを備える液体吐出装置であって、前記液体供給手段は、内部に液体を貯留可能な第1液室と、内部に貯留された液体を前記液体吐出ヘッドに供給するための排出口を有する第2液室と、前記第1液室と前記第2液室との間を仕切る仕切り壁と、前記仕切り壁に形成され、前記第1液室内に貯留された液体を前記第2液室に向けて流出させるための開口部と、前記開口部を開閉し、前記開口部の周囲の前記仕切り壁に当接可能な弾性体からなる当接部を有する開閉弁と、バルブ駆動手段によって駆動可能であり、前記開閉弁を開放するためのバルブ機構とを備え、前記バルブ駆動手段は、前記電源の投入時又は前記液体吐出ヘッドの作動前に、前記バルブ機構を駆動して前記開閉弁を強制的に開放することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の他の1つである請求項4に記載の発明は、内部に液体を貯留可能な第1液室と、内部に貯留された液体を液体吐出ヘッドに供給するための排出口を有する第2液室と、前記第1液室と前記第2液室との間を仕切る仕切り壁と、前記仕切り壁に形成され、前記第1液室内に貯留された液体を前記第2液室に向けて流出させるための開口部と、前記開口部を開閉し、前記開口部の周囲の前記仕切り壁に当接可能な弾性体からなる当接部を有する開閉弁と、バルブ駆動手段によって駆動可能であり、前記開閉弁を開放するためのバルブ機構とを備える液体供給手段が設けられ、前記液体供給手段に貯留された液体を液体吐出ヘッドに供給し、前記液体吐出ヘッドのノズルから液体を吐出させて画像を形成する液体吐出装置の制御方法であって、前記バルブ駆動手段により、前記液体吐出ヘッドを作動させるための電源の投入時又は前記液体吐出ヘッドの作動前に、前記バルブ機構を駆動して前記開閉弁を強制的に開放することを特徴とする。
【0017】
(作用)
上記の請求項1及び請求項4に記載の発明は、内部に液体を貯留可能な第1液室と、内部に貯留された液体を液体吐出ヘッドに供給するための排出口を有する第2液室と、第1液室と第2液室との間を仕切る仕切り壁と、仕切り壁に形成され、第1液室内に貯留された液体を第2液室に向けて流出させるための開口部と、開口部を開閉し、開口部の周囲の仕切り壁に当接可能な弾性体からなる当接部を有する開閉弁と、バルブ駆動手段によって駆動可能であり、開閉弁を開放するためのバルブ機構とを備え、バルブ駆動手段により、液体吐出ヘッドを作動させるための電源の投入時又は液体吐出ヘッドの作動前に、バルブ機構を駆動して開閉弁を強制的に開放する。そのため、電源の投入時や液体の吐出前というタイミングで、開閉弁を強制的に開放させることができる。
【発明の効果】
【0018】
上記の発明によれば、電源の投入時や液体の吐出前というタイミングで、弾性体からなる当接部を有する開閉弁を強制的に開放させることができるので、開閉弁の当接部からの可塑剤の移行等による当接部の貼付きを防止又は修復することができる。そのため、開閉弁の当接部が仕切り壁に当接したまま液体吐出装置が稼動されずに長期間放置された場合や、液体吐出装置が劣悪な環境下(高温・多湿、温度変化の著しい場所等)に置かれた場合であっても、ゴム等の弾性体からなる当接部の貼付きによる開閉不良がなくなり、液体吐出ヘッドへのインクの供給が正常に保たれる。すなわち、圧力調整機能の信頼性が向上し、常に高品質な印画結果を得ることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
なお、以下の実施形態では、本発明の液体吐出装置として、後述する液体吐出ヘッドのノズル28からインク(液体)を吐出して画像を形成するインクジェットプリンタ10を例に挙げている。
【0020】
ここで、液体吐出ヘッドにインクを供給する方式として、液体吐出ヘッドと一体的にインクが配されて供給を行う「ヘッド一体型」と、後述するように、液体吐出ヘッドとは別体のインクカートリッジ30(本発明における液体カートリッジに相当するもの)をインクジェットプリンタ10に装着し、弾性を有するチューブ70によってインクカートリッジ30内のインクを液体吐出ヘッドに供給するようにした「ヘッド別体型」とがある。そして、本実施形態のインクジェットプリンタ10は、「ヘッド別体型」のカラー対応のものであり、液体吐出ヘッドとインクカートリッジ30との間に、サブタンク50(本発明における一時貯留容器に相当するもの)を介して供給ポンプ40を設置し、この供給ポンプ40によってインクカートリッジ30から液体吐出ヘッドにインクを供給するようにしている。
【0021】
また、本実施形態のインクジェットプリンタ10は、本発明の液体吐出ヘッドとして、ラインヘッド20を備えるラインヘッド方式のものとなっている。このラインヘッド20には、印画可能な最大サイズの記録用紙の用紙幅方向の長さにわたり、インクを吐出するノズル28が所定のピッチで直線状に配置されている。そのため、用紙幅方向に液体吐出ヘッドを移動させるためのキャリッジを必要とせず、印画動作中の騒音や振動が発生し難い構成となっている。そして、印画の際は、記録用紙が搬送手段によって停止することなく定速で移動し、それに同調してインクがラインヘッド20から連続的に吐出されるため、印画時間の短縮を図ることが可能である。
【0022】
図1は、本実施形態のラインヘッド方式のインクジェットプリンタ10を示す概念図である。
図1に示すように、インクジェットプリンタ10は、ラインヘッド20、インクカートリッジ30、供給ポンプ40、サブタンク50、及び吸引ポンプ60(本発明における液体吸引手段に相当するもの)によって構成されており、ラインヘッド20とは別体にインクカートリッジ30を配し、チューブ70を通してインクを供給するようにした「ヘッド別体型」のインク供給方式となっている。すなわち、ラインヘッド20にインクが供給されるまでに、インクカートリッジ30、供給ポンプ40、及びサブタンク50を経由するようになっている。
【0023】
ここで、ラインヘッド20は、後述するように、ノズル28が形成されたノズルシート27の内面に複数のヘッドチップを配置したものであり、このヘッドチップによってインク液室22内のインクに吐出エネルギーを付与し、ノズル28からインクを吐出させることができるようになっている。すなわち、このようなラインヘッド20を用いて記録用紙に印画を行うには、制御部からの指令に基づいて、ヘッドチップによってノズル28からインクを吐出する。同時に、ノズルシート27から所定の距離だけ離れた位置を保ちながら、記録用紙を連続的に搬送する。すると、吐出されたインクが記録用紙上の所定の位置に着弾して印画が行われる。
【0024】
また、インクカートリッジ30は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、及びブラック(K)の4色のインクを色別に収容した容器である。そして、インクジェットプリンタ10には、このインクカートリッジ30を着脱自在に装着可能な装着手段(図示せず)が備えられており、インクジェットプリンタ10からインクカートリッジ30を色別に容易に着脱できるようになっている。そのため、インクジェットプリンタ10の使用者は、インクカートリッジ30内のインクが欠乏した際に、迅速に新品と交換することができる。
【0025】
インクジェットプリンタ10に装着されたインクカートリッジ30の各色のインクは、各色ごとに設置された供給ポンプ40によってサブタンク50に送られる。すなわち、サブタンク50は、インクカートリッジ30の下流側に設置されており、各供給ポンプ40は、インクカートリッジ30から対応する色のインクを必要に応じて吸入し、サブタンク50に向けて排出することができる。そのため、各供給ポンプ40を駆動すれば、各色のインクがインクカートリッジ30からサブタンク50に供給される。
【0026】
また、サブタンク50は、インクを一時的に貯留するものではあるが、単なる貯留タンクではなく、後述するように、本発明の液体供給手段が一体化されたものであり、ラインヘッド20に供給するインクの流量を調節する開閉弁54、インクの残量を検知する液量センサ51c、インクに混入した気泡や異物を除去するフィルタ51d等が組み込まれたものである。そのため、ラインヘッド20内の圧力調整、インクの残量検知、気泡及び異物の除去等の機能が付与されることとなり、例えば、サブタンク50内のインクと接触するように設けられた液量センサ51cによってインクの減少が検知されると、その色のインクに対応する供給ポンプ40によってインクカートリッジ30からサブタンク50にインクが供給される。したがって、本実施形態のインクジェットプリンタ10では、サブタンク50からラインヘッド20に安定してインクを供給することにより、ラインヘッド20の諸状態を最良に維持することができる。
【0027】
また、サブタンク50は、ラインヘッド20よりも低い位置に設置されており、インクを吐出するノズル28のメニスカスが維持できるようになっている。すなわち、ラインヘッド20のインク吐出面(インクが吐出される側のノズルシート27の表面)をサブタンク50よりも垂直方向に高い位置とすることで、インク液室22内のインクに、水頭差に基づく一定の負圧を与えている。そのため、ノズル28からインクが漏出することを防止できるとともに、インクを吐出可能な状態を常時、保持することができる。
【0028】
さらにまた、吸引ポンプ60は、インクの初期充填時やメンテナンス時に、ラインヘッド20からインクを吸引するためのものである。すなわち、ラインヘッド20には、供給口21aからインクが供給されるが、ラインヘッド20内の気泡や異物を除去して正常なインクの吐出が維持できるように、気泡や異物を含んだインクごとラインヘッド20内から吸引し、それを排出するために、供給口21aと反対側の排出口21bに吸引ポンプ60が接続されている。
【0029】
ここで、吸引ポンプ60によるインクの排出動作は、任意に、又は定期的に行えるよう設定されており、ラインヘッド20内のクリーニングを効率的に実行できるようになっている。なお、吸引ポンプ60は、供給ポンプ40と同様に、各色ごとに設置されている。そのため、気泡の混入等の不具合のある色のインクに対応した吸引ポンプ60のみを選択して駆動でき、クリーニングによる無駄なインクの消費を低減できるようなっている。
【0030】
このように、本実施形態のインクジェットプリンタ10は、Y(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)、及びK(ブラック)の4色のインクごとに、ラインヘッド20、インクカートリッジ30、供給ポンプ40、サブタンク50、及び吸引ポンプ60が設けられており、それぞれの間は、各色に対応する4本のチューブ70によって連結されている。なお、各チューブ70は、シリコンゴム等からなるものであり、適度な弾性を有している。
【0031】
図2は、図1に示す本実施形態のインクジェットプリンタ10におけるラインヘッド20を部分的に示す斜視図及び断面図である。
図2に示すように、ラインヘッド20は、半導体基板25にバリア層26を積層し、このバリア層26に、ノズル28を形成したノズルシート27を貼り合わせて構成したものである。そして、半導体基板25に複数の発熱抵抗体23が一定間隔で一方向に析出形成されており、発熱抵抗体23を囲む半導体基板25とバリア層26とノズルシート27とによってインク液室22が形成されている。なお、インク液室22は、インク流路24に連通する開口領域を有しており、この開口領域からインク液室22内にインクが供給される。
【0032】
ここで、半導体基板25は、シリコン、ガラス、セラミックス等からなるもので、発熱抵抗体23は、この半導体基板25の一方の面に、半導体や電子デバイス製造技術用の微細加工技術を用いて析出形成されている。なお、この発熱抵抗体23は、半導体基板25上に形成された導体部(図示せず)を介して外部回路と電気的に接続されている。
【0033】
また、バリア層26は、半導体基板25の発熱抵抗体23側に積層されたものである。すなわち、バリア層26は、半導体基板25の上面全体に感光性樹脂を塗布し、しかるべき形状のパターンを描いたフォトマスクを介して、感光性樹脂を感光するのに最適な波長帯の放射光を持った露光機による露光を行った後、露光した感光性樹脂層を所定の現像液で現像し、未露光部分を除去することにより、発熱抵抗体23の周辺を除く半導体基板25上にパターニング形成されている。そして、発熱抵抗体23、半導体基板25、及びバリア層26によってヘッドチップが構成されることとなる。
【0034】
さらにまた、ノズルシート27は、例えば、Ni(ニッケル)による電鋳技術によって形成されたものであり、ノズルシート27には、複数のノズル28が配置されている。そして、図2に示すように、ヘッドチップ(発熱抵抗体23、半導体基板25、及びバリア層26)は、各ノズル28の位置と各発熱抵抗体23の位置とが合うように、すなわち、各ノズル28が各発熱抵抗体23と対向するように、精密に位置決めがなされ、バリア層26を下にして、ノズルシート27上に貼り合わされている。
【0035】
したがって、図2(a)に示すように、インク液室22は、発熱抵抗体23を囲むようにして、半導体基板25とバリア層26とノズルシート27とで構成される。すなわち、半導体基板25及び発熱抵抗体23は、図2(a)中、インク液室22の上壁を構成し、バリア層26は、インク液室22の3つの側壁を構成し、ノズルシート27は、インク液室22の下壁を構成する。
【0036】
また、インク液室22は、図2(a)中、右下方向に開口領域を有しており、この開口領域が共通のインク流路24に連通する。すなわち、図2(b)に示すように、半導体基板25の上側には共通流路部材29が配置されており、この共通流路部材29によって形成された共通のインク流路24が全てのインク液室22と連通している。そのため、インクカートリッジ30(図1参照)内のインクは、共通のインク流路24を通って全てのインク液室22に供給されることとなる。
【0037】
そして、インク液室22にインクが満たされた状態で、制御部(図示せず)からの指令によって発熱抵抗体23に短時間(例えば、1〜3μsecの間)、パルス電流が流されると、発熱抵抗体23が急速に加熱される。その結果、発熱抵抗体23と接する部分にインクの気泡が発生し、その気泡の膨張によって所定の体積のインクが押しのけられる(インクが沸騰する)。すると、これが吐出圧力となり、押しのけられたインクと同等の体積のインクがノズル28からインク液滴として吐出され、記録用紙上に着弾して画像が形成されることとなる。
【0038】
ここで、ラインヘッド20は、インクを吐出可能な状態を常時、保持できるようにしておくため、インク液室22内が常にインクで満たされた状態となっている。そのため、インク液室22内のインクがノズル28から漏出することを防止する必要がある。そこで、本実施形態のインクジェットプリンタ10は、サブタンク50によってラインヘッド20のインクに一定の負圧を与え、インクの漏出を防止している。
【0039】
図3は、図1に示す本実施形態のインクジェットプリンタ10におけるサブタンク50を示す断面図である。
このサブタンク50には、本発明における液体供給手段が一体化されており、図3に示すように、サブタンク50は、液体供給手段として、内部にインクを貯留可能な第1液室51と、内部に貯留されたインクを外部に排出可能な第2液室52と、第1液室51と第2液室52との間を仕切る仕切り壁53と、仕切り壁53に形成された開口部53aと、開口部53aを開閉する開閉弁54と、開閉弁54を開放するためのバルブシャフト55a、開閉バネ55b、及びダイヤフラム55cから構成されるバルブ機構55とを備えている。
【0040】
ここで、第1液室51は、供給ポンプ40(図1参照)によって供給されるインクを受け入れる給入口51aと、第1液室51の内部と大気とを連通させるための大気連通口51bと、第1液室51内のインクの残量を検知する液量センサ51cと、インクに混入した気泡や異物を除去するフィルタ51dとを有している。なお、給入口51aには、供給ポンプ40からのチューブ71が接続され、大気連通口51bには、他端が開口したチューブ72が接続されており、チューブ72の途中には、大気連通バルブ56が取り付けられている。
【0041】
そして、通常時は、大気連通バルブ56が開状態となっており、第1液室51内の気圧が大気圧と同等に保たれている。また、供給ポンプ40(図1参照)から給送されたインクは、給入口51aを通って流入し、第1液室51内に貯留される。なお、第1液室51の天面に液量センサ51cの電極が露出しており、貯留されたインクの液面を検知できるので、液量センサ51cによって第1液室51内のインクの減少が検知されると、その色のインクに対応する供給ポンプ40によってインクカートリッジ30(図1参照)から第1液室51にインクが供給される。
【0042】
さらに、第1液室51内の中間部分には、フィルタ51dが設置されており、全てのインクがフィルタ51dを上から下に向けて通過するようになっている。そのため、インクに混入した気泡や異物がフィルタ51dで除去されるので、ラインヘッド20(図2参照)によるインクの安定的な吐出が可能となる。
【0043】
一方、第2液室52は、第1液室51内のフィルタ51dよりも下流側に設けられた仕切り壁53により、第1液室51と仕切られている。そして、仕切り壁53には、第1液室51内に貯留されたインクを第2液室52に向けて流出させるための開口部53aが形成されている。そのため、第1液室51内で気泡や異物が除去されたインクは、開口部53aを通って第2液室52内に流入することができる。
【0044】
このように、開口部53aを通って第2液室52内に流入し、貯留されたインクは、ラインヘッド20(図2参照)に向けて送り出される。すなわち、第2液室52は、その内部に貯留されたインクをラインヘッド20に向けて排出するための排出口52aを有しており、排出口52aには、ラインヘッド20に向かうチューブ73が接続されている。そのため、第2液室52内のインクがラインヘッド20のインク液室22に供給され、インクの吐出が可能となる。
【0045】
ところで、第1液室51と第2液室52との間を仕切る仕切り壁53に形成された開口部53aには、開口部53aを開閉する開閉弁54が設置されている。そして、この開閉弁54は、第2液室52の排出口52aから排出されるインクの流量を調節し、ラインヘッド20のインク液室22(図2参照)内のインク圧力を略一定にする役割を担っており、バルブ機構55によって開閉するようになっている。
【0046】
図4は、図3に示すサブタンク50の開閉弁54を示す斜視図及び断面図である。
図4に示すように、開閉弁54は、図3に示す開口部53aを開閉し、開口部53aの周囲の仕切り壁53に当接可能な当接部54aを有している。そして、この当接部54aは、仕切り壁53との当接方向(図4の上方向)に向けて放射状に広がる弾性体からなっている。
【0047】
具体的には、開閉弁54の当接部54aが基部から先端部にかけて外側に放射状(ラッパ状)に広がった形状となっている。そして、当接部54aの仕切り壁53(図3参照)と当接する先端部が丸みを帯びた形状となっている。また、当接部54aを含む開閉弁54は、CR(クロロプレンゴム)、IIR(ブチルゴム)、EPDM(エチレン・プロピレンゴム)等の弾性体から成形されたものである。
【0048】
このように、図4に示す開閉弁54の当接部54aは、先端部に向かって放射状に広がっており、平坦な仕切り壁53(図3参照)に対して弾性的に、かつ広い接触面積を持って当接するようになっている。そのため、仕切り壁53に対する密着性が高く、仕切り壁53の開口部53aを確実に閉じることができる。その結果、開閉弁54の閉塞時に、図3に示す第1液室51から第2液室52にインクが流れ込むことはなく、ラインヘッド20のノズル28(図2参照)からインクが漏出することが防止される。そして、この開閉弁54は、バルブ機構55によって開閉する。
【0049】
図5は、図3に示すサブタンク50におけるバルブ機構55の通常時の状態を示す断面図である。
また、図6は、図3に示すサブタンク50におけるバルブ機構55の動作時の状態を示す断面図である。
図5及び図6に示すように、バルブ機構55は、第2液室52及び仕切り壁53の開口部53aを上下に貫通するバルブシャフト55aと、バルブシャフト55aを上向きに付勢する開閉バネ55bと、仕切り壁53との間で第2液室52を構成するダイヤフラム55cとを備えている。
【0050】
そして、バルブシャフト55aの下端部に、開口部53aの周囲の仕切り壁53に当接可能な当接部54aを有する開閉弁54が取り付けられている。そのため、この開閉弁54は、開閉バネ55bによって仕切り壁53に向けて付勢されることとなり、通常時の状態では、図5に示すように、当接部54aが仕切り壁53に当接して開口部53aを閉じている。
【0051】
また、開閉バネ55bの付勢力は、通常時における第2液室52内のインク圧力、つまり、インクの吐出が行われていない待機時におけるラインヘッド20のインク液室22(図2参照)内のインク圧力と平衡するように設定されている。さらにまた、開閉バネ55bによって上向きに付勢されたバルブシャフト55aに、弾性を有するダイヤフラム55cが取り付けられており、このダイヤフラム55cは、第2液室52内のインク圧力の変動に応じて起伏するようになっている。
【0052】
ここで、ラインヘッド20(図2参照)からインクが吐出されると、インク液室22内のインク圧力が低下するので、それにともなって、インク液室22とチューブ73を介して連通しているサブタンク50の第2液室52内のインク圧力も低下する。すると、第2液室52内の圧力低下により、図6に示すように、第2液室52の隔壁を構成しているダイヤフラム55cが下方に凹むこととなり、バルブ機構55が動作する。
【0053】
ダイヤフラム55cが下方に凹むことによってバルブ機構55が動作すると、開閉弁54が開放される。すなわち、ダイヤフラム55cは、開閉バネ55bで付勢されたバルブシャフト55aに取り付けられている。そして、開閉バネ55bの付勢力は、図5に示す通常時における第2液室52内のインク圧力と平衡しているので、第2液室52内のインク圧力が低下すれば、ダイヤフラム55cが下方に凹んで開閉バネ55bを押し込む。すると、バルブシャフト55aが下降し、下端部に取り付けられた開閉弁54を押し下げるので、仕切り壁53に当接していた当接部54aが仕切り壁53から離れる。そのため、開閉弁54が開放されることとなる。
【0054】
開閉弁54が開放されると、仕切り壁53の開口部53aが露出する。この際、第2液室52内のインク圧力が低いので、第1液室51内のインクが開口部53aを通って第2液室52内に流れ込む。そして、第2液室52内のインク圧力が元の圧力になるまでインクが流入すると、開閉バネ55bの付勢力によってバルブシャフト55a、ダイヤフラム55c、及び開閉弁54が上方に押し上げられ、図5に示すように、開閉弁54の当接部54aが開口部53aの周囲の仕切り壁53に再び当接して開閉弁54が閉塞状態となり、開口部53aが閉じられる。
【0055】
このように、本実施形態のインクジェットプリンタ10におけるサブタンク50は、図5及び図6に示すバルブ機構55によって開閉弁54が自動的に開閉する。そのため、必要に応じて、第1液室51から第2液室52にインクを流入させたり、堰き止めたりすることができる。
【0056】
しかし、開閉弁54の当接部54aが仕切り壁53に当接したままインクジェットプリンタ10が稼動されずに長期間放置された場合や、インクジェットプリンタ10が劣悪な環境下(高温・多湿、温度変化の著しい場所等)に置かれた場合には、当接部54aが仕切り壁53に貼り付いて開閉不良を引き起こすという問題が発生する。
そこで、図5及び図6に示すバルブ機構55は、後述するバルブ駆動手段80によってバルブシャフト55aの頭頂部に外力を作用させ、バルブシャフト55aを押し込むことにより、開閉弁54を強制的に開放することができるようになっている。
【0057】
図7は、図3に示すサブタンク50に取り付けられたバルブ駆動手段80を示す斜視図である。
図7に示すように、バルブ駆動手段80は、カムシャフト81、ギヤ82、駆動モータ83、及びレバーケース84から構成されている。なお、図7においては、圧力調整バルブ55(図3参照)におけるバルブシャフト55aの頭頂部が図示されており、開閉レバー57及びホルダ58が図3に示す大気連通バルブ56に相当するものとなっている。
【0058】
また、サブタンク50は、イエロー(Y)のインクに対応するサブタンク50a、マゼンタ(M)のインクに対応するサブタンク50b、シアン(C)のインクに対応するサブタンク50c、及びブラック(K)のインクに対応するサブタンク50dが横一直線に整列し、ユニットとして一体化された構成となっている。
【0059】
そのため、サブタンク50a〜サブタンク50dのそれぞれに、図3に示す第1液室51及び第2液室52が存在し、第1液室51及び第2液室52が複数並設されたものとなっている。また、各第1液室52の各大気連通口51bを開閉するそれぞれの大気連通バルブ56(図7では、開閉レバー57)が各一列に整列して配置され、各第1液室51と各第2液室52との間の各開口部53aを開閉するそれぞれの開閉弁54及びバルブ機構55も各一列に整列して配置されている。
【0060】
そして、図7に示すように、サブタンク50a〜サブタンク50dの各大気連通口51b(図3参照)に4本の可とう性のチューブ72がそれぞれ接続されており、各チューブ72は、1列に整列した状態でホルダ58に保持され、大気連通バルブ56(図3参照)に相当する開閉レバー57及びホルダ58によって機械的に閉塞可能となっている。すなわち、開閉レバー57の上部は、レバーケース84の天面に当接しており、開閉レバー57の下部は、ホルダ58に保持されて1列に整列した各チューブ72の表面に当接しているので、レバーケース84を下降させれば、開閉レバー57を介して各チューブ72がつぶれるようになる。
【0061】
ここで、カムシャフト81は、サブタンク50aの側方に配置されたギヤ82を介して駆動モータ83と接続されている。そして、カムシャフト81には、4つの押下げカム81aと、下降カム81bとが形成されており、下降カム81bは、レバーケース84内に配置されている。そのため、駆動モータ83によってカムシャフト81を回転させれば、下降カム81bを介してレバーケース84が下降し、それに応じて開閉レバー57が作動するので、各チューブ72が閉塞するようになる。なお、レバーケース84は、ポジション検知センサ(図示せず)による下降カム81bの位置検知により、所定の位置で停止する。
【0062】
また、サブタンク50a〜サブタンク50dのそれぞれから各バルブ機構55(図3参照)の4つのバルブシャフト55aが1列に整列して突出した状態となっており、各バルブシャフト55aは、その上部に配置されたカムシャフト81によって機械的に押下げ可能となっている。すなわち、カムシャフト81に形成された各押下げカム81aは、4つのバルブシャフト55aに対応して1列に整列している。そのため、駆動モータ83によってカムシャフト81を回転させれば、各押下げカム81aを介して各バルブシャフト55aの頭頂部に外力が作用することとなり、各バルブシャフト55aが上下動する。
【0063】
ここで、カムシャフト81の各押下げカム81aの回転位置は、カムシャフト81の端部に設置されたポジション検知センサ(図示せず)によって検知されている。そのため、制御部(図示せず)からの信号によって駆動モータ83を駆動させれば、カムシャフト81が回転するとともに、各押下げカム81aを所定の位置で停止させることができる。
【0064】
このように、図7に示すバルブ駆動手段80は、各バルブシャフト55a(図3に示すバルブ機構55)を作動させるためのカムシャフト81と、カムシャフト81を回転させるための駆動モータ83とを備えている。そして、本実施形態のインクジェットプリンタ10(図1参照)は、バルブ駆動手段80により、ラインヘッド20(図2参照)を作動させるための電源の投入時又はラインヘッド20の作動前に、図3に示すバルブ機構55を駆動して開閉弁54を強制的に開放する。すなわち、駆動モータ83を駆動し、カムシャフト81を回転させ、押下げカム81aによってバルブシャフト55aを押し込むことにより、開閉弁54を一時的に強制開放するように制御する。
【0065】
このような開閉弁54の強制的な開放は、開閉弁54の当接部54aが仕切り壁53に貼り付いて開閉不良を生じた場合の修復や、開閉不良を予防するために実行される。すなわち、仕切り壁53に対する当接部54aの貼付きは、インクジェットプリンタ10が稼動されずに長期間放置された場合や、劣悪な環境下(高温・多湿、温度変化の著しい場所等)に置かれた場合に生じやすいので、ラインヘッド20を作動させるための電源の投入時又はラインヘッド20の作動前に、開閉弁54を強制的に開放して貼付きを修復又は予防する。
【0066】
この点に関してさらに詳述すると、開閉弁54の貼付きは、主に、開閉弁54(当接部54a)の材料であるCR(クロロプレンゴム)、IIR(ブチルゴム)、EPDM(エチレン・プロピレンゴム)等の弾性体に含まれる可塑剤が、密着相手となるサブタンク50(仕切り壁53)を構成するPE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体)等の樹脂に移行し、その表面を侵すことに起因する。そして、当接部54aが仕切り壁53に貼り付いて開閉弁54の開閉不良が生じた場合には、ラインヘッド20にインクの供給ができなかったり、インクの圧力が適正な負圧値とならず、印画不良を起こしてしまう。
【0067】
そこで、本実施形態のインクジェットプリンタ10は、このような開閉弁54の開閉不良の発生に配慮して、ラインヘッド20を作動させるための電源が投入されると、バルブ駆動手段80の駆動モータ83を駆動し、ギヤ82、カムシャフト81、及び押下げカム81aを介してバルブシャフト55aを押し込むことにより、開閉弁54を強制的に開放するようにしている。
【0068】
そして、バルブ駆動手段80による開閉弁54の強制的な開放量は、インクの吐出に伴う第2液室52内の圧力低下によって自動的に開閉する開閉弁54の通常の開放量よりも大きく、開閉弁54の当接部54aが仕切り壁53から完全に離れるまで開放されるようになっている。そのため、たとえ当接部54aが仕切り壁53に貼り付いた状態となっていても、バルブ駆動手段80による開閉弁54の大きな開放量によって当接部54aが仕切り壁53から完全に剥離するので、開閉弁54を正常に開閉できる状態に復帰させることができる。
【0069】
図8は、本実施形態のインクジェットプリンタ10におけるバルブ駆動手段80の制御方法を示すフローチャートである。
図8に示すフローチャートは、インクジェットプリンタ10に電源が投入された後、印画の準備段階に至るまでの制御フローの一例を示しており、ここでは、開閉弁54を強制的に開放した後で、所定のメンテナンスが実行される仕様となっている。
【0070】
図8に示すように、スタート後、ステップS1でインクジェットプリンタ10の電源が投入される。すると、次のステップS2でバルブ駆動手段80が駆動され(図7に示す駆動モータ83の回転によってバルブシャフト55aが押し込まれ)、開放弁54が強制的に開放される。そのため、開閉弁54に貼付き等の開閉不良が生じていても、正常な状態に修復される。また、開閉弁54に開閉不良が生じていなくても、後々の開閉不良を予防することができる。
【0071】
そして、続くステップS3では、バルブ駆動手段80の駆動(図7に示す駆動モータ83の再度の回転)によって開放弁54が通常の状態(図5に示す状態)に復帰する。そのため、ステップS3が終了すると、開放弁54が正常に動作するようになり、ラインヘッド20内のインクの圧力が徐々に適正値まで回復する。
【0072】
次に、ラインヘッド20のメンテナンス動作を実行する。すなわち、本実施形態のインクジェットプリンタ10は、ラインヘッド20に供給されたインクを吸引し、ラインヘッド20の外部に排出させるための吸引ポンプ60を備えており、バルブ駆動手段80による開閉弁54の強制的な開放後に、ラインヘッド20に供給されたインクを排出するようになっている。そこで、次のステップS4で吸引ポンプ60を駆動し、ラインヘッド20内のインクを勢いよく流動させ、ラインヘッド20の回復を促進するとともに、開放弁54に付着したゴミや増粘したインクを、排出口21b(図1参照)を経由して排液タンクに排出する。
【0073】
また、ステップS5でラインヘッド20のノズル28(図2参照)からインクを空吐出し、ラインヘッド20内が適正な負圧値となるように微調節するとともに、ラインヘッド20のインク液室22(図2参照)に侵入した微細なゴミや気泡等を排出する。さらにまた、ステップS6でラインヘッド20のノズルシート27(図2参照)のインク吐出面をワイピングし、その後、ステップS7でラインヘッド20にキャッピングを施し、印画動作に備えるようにしてエンドとなる。
【0074】
このように、本実施形態のインクジェットプリンタ10は、バルブ駆動手段80によって開放弁54を強制的に開放した後、インクの吸引や空吐出等のメンテナンス動作を実行し、ラインヘッド20内のインクの一部を能動的に排出することにより、ラインヘッド20内のインクの圧力を迅速に適正な負圧値とすることができる。
【0075】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されることなく、例えば、以下のような種々の変形が可能である。
(1)本実施形態では、液体供給手段(第1液室51、第2液室52、仕切り壁53、開口部53a、開閉弁54、及びバルブ機構55)がサブタンク50と一体化されているが、液体供給手段は、インク供給経路の構成等の都合に応じて別体として備えても良く、液体供給手段から排出されたインクがラインヘッド20に供給される構成であれば何ら限定されるものではない。
【0076】
(2)本実施形態では、バルブ駆動手段80による開閉弁54の強制的な開放後に、吸引ポンプ60によってラインヘッド20に供給されたインクを吸引及び排出し、ラインヘッド20からインクを空吐出し、ラインヘッド20をワイピング及びキャッピングしているが、このようなメンテナンス動作の種類、組合せ、及び順番は、何ら限定されるものではない。
【0077】
(3)本実施形態では、液体吐出装置として、印画幅分のラインヘッド20を備えるラインヘッド方式のインクジェットプリンタ10を例に挙げたが、ラインヘッド方式に限らず、記録用紙の幅方向に移動させて印画を行うシリアルヘッド方式であっても良い。また、各種の液体を吐出する他の液体吐出装置にも広く適用することができ、例えば、染め物に対して染料を吐出する液体吐出装置であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本実施形態のラインヘッド方式のインクジェットプリンタを示す概念図である。
【図2】本実施形態のインクジェットプリンタにおけるラインヘッドを部分的に示す斜視図及び断面図である。
【図3】本実施形態のインクジェットプリンタにおけるサブタンクを示す断面図である。
【図4】図3に示すサブタンクの開閉弁を示す斜視図及び断面図である。
【図5】図3に示すサブタンクにおけるバルブ機構の通常時の状態を示す断面図である。
【図6】図3に示すサブタンクにおけるバルブ機構の動作時の状態を示す断面図である。
【図7】図3に示すサブタンクに取り付けられたバルブ駆動手段を示す斜視図である。
【図8】本実施形態のインクジェットプリンタにおけるバルブ駆動手段の制御方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0079】
10 インクジェットプリンタ(液体吐出装置)
20 ラインヘッド(液体吐出ヘッド)
28 ノズル
30 インクカートリッジ(液体カートリッジ)
50 サブタンク(一次貯留容器)
51 第1液室(液体供給手段)
52 第2液室(液体供給手段)
53 仕切り壁(液体供給手段)
53a 開口部(液体供給手段)
54 開閉弁(液体供給手段)
55 バルブ機構(液体供給手段)
60 吸引ポンプ(液体吸引手段)
80 バルブ駆動手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルから液体を吐出させて画像を形成するための液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドを作動させるための電源と、
吐出させる液体を貯留するとともに、前記液体吐出ヘッドに液体を供給可能な液体供給手段と
を備える液体吐出装置であって、
前記液体供給手段は、
内部に液体を貯留可能な第1液室と、
内部に貯留された液体を前記液体吐出ヘッドに供給するための排出口を有する第2液室と、
前記第1液室と前記第2液室との間を仕切る仕切り壁と、
前記仕切り壁に形成され、前記第1液室内に貯留された液体を前記第2液室に向けて流出させるための開口部と、
前記開口部を開閉し、前記開口部の周囲の前記仕切り壁に当接可能な弾性体からなる当接部を有する開閉弁と、
バルブ駆動手段によって駆動可能であり、前記開閉弁を開放するためのバルブ機構と
を備え、
前記バルブ駆動手段は、前記電源の投入時又は前記液体吐出ヘッドの作動前に、前記バルブ機構を駆動して前記開閉弁を強制的に開放する
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体吐出装置において、
液体が予め貯留された液体カートリッジを着脱自在に装着可能な装着手段と、
前記装着手段を介して供給される液体の下流側に設置され、液体を一時的に貯留可能な一時貯留容器と
を備え、
前記液体供給手段は、前記一時貯留容器と一体化されている
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項3】
請求項1に記載の液体吐出装置において、
前記液体吐出ヘッドに供給された液体を吸引し、前記液体吐出ヘッドの外部に排出させるための液体吸引手段を備え、
前記液体吸引手段は、前記バルブ駆動手段による前記開閉弁の強制的な開放後に、前記液体吐出ヘッドに供給された液体を排出する
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項4】
内部に液体を貯留可能な第1液室と、
内部に貯留された液体を液体吐出ヘッドに供給するための排出口を有する第2液室と、
前記第1液室と前記第2液室との間を仕切る仕切り壁と、
前記仕切り壁に形成され、前記第1液室内に貯留された液体を前記第2液室に向けて流出させるための開口部と、
前記開口部を開閉し、前記開口部の周囲の前記仕切り壁に当接可能な弾性体からなる当接部を有する開閉弁と、
バルブ駆動手段によって駆動可能であり、前記開閉弁を開放するためのバルブ機構と
を備える液体供給手段が設けられ、
前記液体供給手段に貯留された液体を液体吐出ヘッドに供給し、前記液体吐出ヘッドのノズルから液体を吐出させて画像を形成する液体吐出装置の制御方法であって、
前記バルブ駆動手段により、前記液体吐出ヘッドを作動させるための電源の投入時又は前記液体吐出ヘッドの作動前に、前記バルブ機構を駆動して前記開閉弁を強制的に開放する
ことを特徴とする液体吐出装置の制御方法。
【請求項5】
請求項4に記載の液体吐出装置の制御方法において、
前記液体吐出ヘッドに供給された液体を吸引し、前記液体吐出ヘッドの外部に排出させるための液体吸引手段により、前記バルブ駆動手段による前記開閉弁の強制的な開放後に、前記液体吐出ヘッドに供給された液体を排出する
ことを特徴とする液体吐出装置の制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−105352(P2008−105352A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−292768(P2006−292768)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】