液体吐出装置
【課題】省スペース化された構成で、効率よく且つ短時間で液体吐出面のメンテナンスを可能とする液体吐出装置を提供する。
【解決手段】ライン型ヘッド50のノズル面50Aと対向する位置にインク貯留部材120を備えたメンテナンスユニット100を配置し、ヘッド50からノズルを介してインク貯留部材にインクが供給される。ノズル面50Aとインク貯留部材120との間にインクを溜めた状態でメンテナンスユニット100を主走査方向に沿ってヘッドの主走査方向の全長にわたって移動させるとノズル面50Aがウエット化され、ノズル面50Aに付着した付着物はインクに溶解する。インク貯留部材120に後続するブレード124によってウエット化されたノズル面50Aが払拭されるので、ノズル面50Aの付着物は確実に除去される。
【解決手段】ライン型ヘッド50のノズル面50Aと対向する位置にインク貯留部材120を備えたメンテナンスユニット100を配置し、ヘッド50からノズルを介してインク貯留部材にインクが供給される。ノズル面50Aとインク貯留部材120との間にインクを溜めた状態でメンテナンスユニット100を主走査方向に沿ってヘッドの主走査方向の全長にわたって移動させるとノズル面50Aがウエット化され、ノズル面50Aに付着した付着物はインクに溶解する。インク貯留部材120に後続するブレード124によってウエット化されたノズル面50Aが払拭されるので、ノズル面50Aの付着物は確実に除去される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体吐出装置に係り、特に液体吐出ヘッドの液体吐出面のメンテナンス技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、汎用の画像形成装置として、ヘッドから記録媒体上にインク液滴を吐出して所望の画像を形成するインクジェット記録装置が広く用いられている。インクジェット記録装置では、吐出の際に飛び散ったインクや塵埃などがヘッドのノズル面に付着すると、インクの吐出方向が曲がりインクの着弾位置にズレが生じたり、ノズルから所定量のインクを吐出することができない吐出異常が発生したりすることがある。したがって、インクジェット記録装置は、ヘッドのノズル面に付着した付着物を定期的に除去するように構成されている。
【0003】
ヘッドのノズル面には、所定の吐出性能を維持する目的で撥水膜が形成されている。ノズル面の付着物を除去する際にブレードを用いてノズル面を払拭すると、ノズル面の撥水膜を傷付けてしまい、撥水膜の劣化に起因した吐出性能低下が発生することがある。その対策としてノズル面をウエット化した後に払拭処理を行う方法が提案されている。
【0004】
また、特許文献1には、ノズル板と対向する位置にクリーニング板を配置し、ノズル板とクリーニング板との間にインク等の溶液を満たした後に、ノズル板とクリーニング板の距離を離すことでノズル板とクリーニング板との間の溶液がクリーニング板の方へ移動し、ノズル板にダメージを与えることなくノズル板をクリーニングする方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−96125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ノズル面のウエット化した後にブレードを用いてノズル面を払拭する方法では、一般に、ウエット化処理には払拭処理と同程度の処理時間を要するので、ワイピング処理のみを行う方式に比べて略2倍の処理時間が必要となってしまう。ノズル面を短時間にウエット化しようとすると、ウエット化処理のための装置をヘッドの大きさに対応させる必要があり、ウエット化処理のための装置が大型化してしまう。
【0007】
また、ウエット化処理を短時間で実施しようとすると、ノズル面のウエット化にムラが生じてしまうことがあり、撥水膜保護の観点から好ましくない。特に、フルライン型ヘッドを備える場合には、ウエット化処理の時間やウエット化処理のための装置の大型化は問題となる。
【0008】
また、特許文献1に記載の発明をフルラインヘッドに適用すると、次のような課題が存在する。
【0009】
クリーニング板の長さがラインヘッドの長手方向の長さよりも短い場合には、ヘッド全体のメンテナンスを行うために同じ工程を数回にわたって繰り返す必要があり、相当の処理時間が必要になる。一方、クリーニング板をラインヘッドの長手方向の長さに対応する長さに構成し、1回の工程でヘッド全体のメンテナンスを可能とすると、処理時間の短縮化には寄与するが、クリーニング板及びクリーニング板の移動機構が大型化してしまい、結果として装置全体が大型化し、更に装置全体のコストアップの要因ともなる。
【0010】
また、特許文献1に記載の発明では、ノズル板とクリーニング板の間に存在する溶液に流れが存在しないので、ノズル面に付着した増粘インクやインクに起因する付着物を清掃する場合に、これらの溶解には拡散のみが寄与することになり、当該付着物を短時間で溶解できず、クリーニングに要する時間(メンテナンス時間)が長くなってしまうことが懸念される。
【0011】
更に、特許文献1の図3に図示された方法では、ノズル板とクリーニング板との間の溶液をクリーニング板の方へ移動させるときにクリーニング板を傾けるので、クリーニング板上に溶液が広がってしまい、クリーニング板からクリーニング板の外側に落ちた溶液によって装置内を汚してしまうおそれがある。更にまた、特許文献1の図4に図示された方法では、クリーニング板を平行に移動させるので、クリーニング板上の溶液に移動した付着物がノズル面に再付着してノズル面を汚してしまうおそれがある。即ち、特許文献1の図3及び図4に図示された方法は、何れもノズル板や装置内を汚すことなくノズル面のクリーニングを行うことや、ノズル板のクリーニングに用いた溶液を回収することが困難である。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、省スペース化された構成で、効率よく且つ短時間で液体吐出面のメンテナンスを可能とする液体吐出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明に係る液体吐出装置は、液体を吐出する複数のノズルが主走査方向に沿って並べられたノズル列を有する吐出ヘッドと、前記主走査方向と直交する副走査方向における前記ノズルが配設されるノズル配設領域の長さに対応する前記副走査方向の長さを有する液体保持面を具備し、前記液体保持面に連続的又は間欠的に液体が供給される液体貯留部材と、前記吐出ヘッドの前記ノズルが形成されるノズル面と対向して前記ノズル面と所定の距離を保ちつつ、前記液体保持面の液体を前記ノズル面に接触させながら、前記液体貯留部材を前記主走査方向に沿って前記ノズル列の全長にわたって移動させる移動手段と、前記液体貯留部材に供給された液体によって湿潤化された前記ノズル面を前記液体貯留部材に後続して移動しながら払拭し、前記ノズル面に付着した付着物を除去する払拭手段と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、液体貯留部材の液体保持面に連続的又は間欠的に液体を供給し、該液体保持面の液体をノズル面に接触させながら液体貯留部材を主走査方向に沿ってノズル列の全長にわたって移動させるので、当該吐出ヘッドのノズル面のノズル配設領域を短時間で湿潤させることができる。
【0015】
また、液体保持面に供給された液体によってノズル面を湿潤させた後に、ノズル面を払拭するので、ノズル面に付着した増粘インクやごみ、紙粉などの付着物を確実に溶解し、除去することができる。更に、ノズル面の払拭処理はウエットワイピングとなるので、ノズル面の撥水膜の傷つきや磨耗が防止される。
【0016】
インク貯留部材の移動方向上流側にインク貯留部材と所定の間隔をおいて払拭手段を配置し、インク貯留部材と払拭手段とを一体に移動させる態様が好ましい。
【0017】
また、ノズル面の湿潤化に好ましい液体を適宜用いることができ、清掃性能の向上が見込まれる。また、液体保持面上の液体に移動方向と反対方向の流れが発生するので、ノズル面の付着物を短時間で溶解又は浮遊させることができる。
【0018】
前記液体保持面に液体を連続的又は間欠的に供給する液体供給手段を備える態様が好ましい。
【0019】
液体供給手段は、供給口と連通する液体供給路と、供給口を介して液体保持面に供給される液体を貯留する液体貯留手段と、を備える態様が好ましい。
【0020】
前記液体貯留部材は、前記液体供給手段から供給される液体の供給口が液体保持面に備えられる態様が好ましい。
【0021】
前記液体貯留部材の移動方向下流側端部における前記ノズル面との距離よりも上流側端部におけるノズル面との距離が大きくなる構造の傾斜面を有し、前記傾斜面に沿う液体の流れを前記ノズル面に接触させる態様が好ましい。
【0022】
また、前記液体供給手段は、前記吐出ヘッドを含む態様も好ましい。
【0023】
かかる態様によれば、インク保持面に液体を供給する構成を別途設ける必要がなく、装置構成の簡素化が可能である。
【0024】
インク貯留部材の位置を判断する判断手段を備え、判断手段の判断結果に基づいてインク貯留部材の位置に対応して吐出ヘッドから液体を供給するように構成する態様が好ましい。
【0025】
液体保持面に吐出ヘッドから液体を供給する態様では、吐出ヘッドの内部圧力を可変させる内部圧力可変手段と、内部圧力可変手段を制御する内部圧力制御手段と、を備え、液体供給時には、内部圧力制御手段によって内部圧力可変手段を制御して、吐出ヘッドの内部圧力を正圧に変更する態様が好ましい。
【0026】
上記液体吐出装置において、前記液体貯留部材は、少なくとも前記液体保持面の前記液体貯留部材の移動方向上流側端部に前記液体保持面上の液体を回収する液体回収路を備える態様も好ましい。
【0027】
かかる態様によれば、液体保持面(液体貯留部材)から溢れた液体は液体回収路に回収されるので、液体保持面から溢れた液体によってヘッドの周囲を汚すことがない。
【0028】
液体保持面の外周部の全周にわたって液体回収路を備えると、液体保持面のあらゆる方向からの液漏れに対応でき、より好ましい。
【0029】
上記液体吐出装置において、前記液体保持面は、少なくとも一部に親液処理が施される態様が好ましい。
【0030】
かかる態様によれば、液体保持面の液体に対する濡れ性を確保でき、液体保持面上で液体が濡れ広がり、液体を保持しやすくなる。
【0031】
液体保持面の液体貯留部材の移動方向における中央部を含む領域に対して親水処理を施す態様が好ましく、液体保持面の端部以外の領域に対して親水処理を施す態様がより好ましい。
【0032】
前記液体吐出装置において、前記液体保持面の前記液体貯留部材の移動方向の下流側端部に撥水処理が施される態様が好ましい。
【0033】
かかる態様によれば、液体保持面の液体貯留部材の移動方向の下流側端部における撥水性を確保でき、液体保持面の液体貯留部材の移動方向の下流側端部から外部への液体の流出が防止され、液体保持面に液体を保持しやすくなるとともに、液体保持面からの液体の回収も容易になる。
【0034】
液体保持面の移動方向の下流側端部に親水処理と撥水処理の境界が設けられる態様も好ましい。
【0035】
液体吐出装置には、ノズルからインクを吐出させて記録媒体上に画像を形成するインクジェット記録装置が含まれる。カラー画像記録に対応して色ごとにヘッドを備える態様では、液体貯留部材と、移動手段と、払拭手段と、を含むメンテナンス手段をヘッドごとに備える態様が好ましい。もちろん、複数のヘッドに共通のメンテナンス手段を備え、メンテナンス手段がヘッド間を移動可能に構成してもよい。
【0036】
被吐出媒体上に吐出される液体には、インクの他に、液状レジストなどのパターン形成体や、樹脂微粒子を含有する樹脂液、インク等と作用して所定の機能を発現させる処理液、水、薬液など、ノズルから吐出可能な物性を有する液体が挙げられる。
【0037】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の液体吐出装置の一態様に係り、前記吐出ヘッドは、液体を吐出する複数のノズルが被吐出媒体の1辺の長さに対応する長さにわたって、前記主走査方向に沿って並べられたノズル列を少なくとも1列有するライン型吐出ヘッドであることを特徴とする。
【0038】
ライン型吐出ヘッドには、複数のヘッドブロックを組み合わせて構成する態様を含んでいてもよい。
【0039】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の液体吐出装置の一態様に係り、前記吐出ヘッドの内部圧力を可変させる内部圧力可変手段と、前記吐出ヘッドから前記液体貯留部材へ液体を供給するときに、前記吐出ヘッドの内部を正圧にするように前記内部圧力可変手段を制御する内部圧力制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0040】
内部圧力制御手段は、吐出データに基づく液体吐出時や吐出待機時には、吐出ヘッドの内部圧力が負圧になるように内部圧力可変手段を制御する。
【0041】
ここでいう正圧、負圧には、正圧>大気圧>負圧の関係がある。
【0042】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の液体吐出装置の一態様に係り、前記内部圧力可変手段は、前記吐出ヘッドと連通するサブタンクと、前記サブタンク内の液体を加圧する加圧手段と、を含むことを特徴とする。
【0043】
サブタンクには、内部の液体が大気と遮断される密閉型のサブタンクを用いる態様が好ましい。なお、内部の液体が大気と連通する開放型のサブタンクを用いる態様では、サブタンクを昇降させる昇降手段を備え、サブタンクとヘッドとの水頭圧差によりヘッドの内部圧力を可変させることができる。
【0044】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれか1項に記載の液体吐出装置の一態様に係り、前記複数のノズルのそれぞれに対して設けられ、前記ノズル内の液体に吐出力を付与する吐出力付与手段と、前記吐出ヘッドから前記液体貯留部材へ液体を供給するときに、前記ノズルを介して前記液体貯留部材へ液体を供給するように前記吐出力付与手段の動作を制御する吐出制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0045】
請求項5に記載の発明によれば、吐出ヘッドに設けられた複数のノズルの中から選択的に液体を流出させて、液体貯留部材に液体を供給可能である。
【0046】
吐出力付与手段には、ノズルと連通する圧力室を構成する壁面に備えられた圧電素子や、圧力室内の液体に膜沸騰現象を生じさせるヒータ(加熱手段)が好適に用いられる。
【0047】
吐出制御手段には、吐出力発生手段に与える制御信号を生成する制御信号生成手段を含んでいてもよい。
【0048】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の液体吐出装置の一態様に係り、前記吐出制御手段は、前記液体貯留部材に対して前記液体貯留部材の移動方向下流側のノズルから選択的に液体を吐出するように前記吐出力付与手段を制御することを特徴とする。
【0049】
請求項6に記載の発明によれば、液体保持面において液体の流れを発生させることができるとともに、液体の消費量の低減化にも寄与する。
【0050】
請求項7に記載の発明は、請求項3から6のいずれか1項に記載の液体吐出装置の一態様に係り、前記吐出ヘッドは、複数のヘッドブロックが前記主走査方向に沿って並べられた構造を有するとともに、前記複数のヘッドブロックのそれぞれに前記内部圧力可変手段を具備し、前記内部圧力制御手段は、前記液体貯留部材が直下に位置するヘッドブロックから液体を供給するように、各ヘッドブロックの前記内部圧力可変手段を制御することを特徴とする。
【0051】
請求項7に記載の発明によれば、液体供給に寄与しないヘッドブロックでは、内部圧力を負圧にすることで、ノズルからの液体漏れが防止される。
【0052】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の液体吐出装置の一態様に係り、前記内部圧力制御手段は、ノズルから液体を流出させるヘッドブロックの内部圧力を正圧にするとともに、前記払拭手段によってノズル面が払拭されるヘッドブロックの内部圧力を大気圧にすることを特徴とする。
【0053】
請求項8に記載の発明によれば、払拭処理対象となるヘッドブロックでは、内部圧力を大気圧にすることで、ノズル面の付着物や気泡がノズル内に入り込むことが防止される。前記液体吐出装置において、前記液体の供給口は、前記液体保持面の傾斜面の中央部に設けられる態様も好ましい。前記液体吐出装置において、前記液体の供給口は、前記液体保持面の傾斜面の中央部よりも傾斜面の前記移動方向下流側に設けられる態様も好ましい。前記液体吐出装置において、前記液体保持面は、前記液体の供給口の周囲に凹部が設けられている態様も好ましい。前記液体吐出装置において、前記液体保持面は、前記ノズル面との距離が1ミリメートル以上5ミリメートル以下の場合に、前記ノズル面に対する傾斜角度が5度以上30度以下である。前記液体吐出装置において、前記液体保持面の一部に、前記傾斜面が設けられている。前記液体吐出装置において、前記液体保持面は、前記移動方向下流側端部から中央部まで、前記傾斜面が設けられている。前記メンテナンス装置を備えた液体吐出装置も好ましい。
【0054】
また、本発明は方法発明を提供する。即ち、液体を吐出する複数のノズルが主走査方向に沿って並べられたノズル列を有する吐出ヘッドの前記複数のノズルが形成されるノズル面と、前記ノズル面と対向する位置に、前記ノズル面と所定の距離をおいて配置されるとともに、前記主走査方向と直交する副走査方向における前記ノズルが配設されるノズル配設領域の長さに対応する前記副走査方向の長さを有する液体保持面を具備する液体貯留部材と、を前記主走査方向に沿って前記ノズル列の全長にわたって移動させ、前記液体貯留部材の移動方向下流側端部における前記ノズル面との距離よりも上流側端部におけるノズル面との距離が大きくなる構造の傾斜面を有する前記液体保持面に備えられた液体の供給口から、前記液体保持面へ連続的又は間欠的に液体が供給され、前記液体保持面に供給された前記傾斜面に沿う液体の流れを前記ノズル面に接触させ、前記液体貯留部材に供給された液体によって湿潤化された前記ノズル面のノズル配置領域を払拭し、前記ノズル面に付着した付着物を除去する。
【0055】
吐出データによる吐出を行う通常吐出モードと、ノズル面のメンテナンスを行うメンテナンスモードとを切り換えるモード切替工程と、メンテナンス工程に移行したときには、インク貯留部材を有するメンテナンス手段を所定の退避位置からヘッド直下のメンテナンス位置に移動させる移動工程と、を含む態様が好ましい。
【0056】
また、ヘッドが複数のヘッドブロックを並べた構造を有する態様では、ノズル面の湿潤処理工程が実行されるヘッドブロックのインク貯留部材の移動方向上流側に隣接するヘッドブロックでは、ノズル面の払拭工程が行われる態様が好ましい。
【0057】
言い換えると、隣接する2つのヘッドブロックにおいて、インク貯留部材の移動方向下流側のヘッドブロックはノズル面の湿潤工程が実行されるとともに、インク貯留部材の移動方向上流側のヘッドブロックはノズル面の払拭工程が実行される態様が好ましい。なお、ノズル面の湿潤工程が実行されるヘッドブロックと、ノズル面の払拭工程が実行されるヘッドブロックの間に湿潤工程が終了し、払拭工程の待機状態のヘッドブロックを有していてもよい。
【発明の効果】
【0058】
本発明によれば、液体貯留部材の液体保持面に連続的又は間欠的に液体を供給し、液体保持面に供給された液体をノズル面に接触させながら液体貯留部材を主走査方向に沿ってノズル列の全長にわたって移動させるので、ノズル面を短時間に湿潤させることができる。
【0059】
また、液体保持面に供給された液体によってノズル面を湿潤させた後に、ノズル面を払拭するので、ノズル面に付着した増粘インクやごみ、紙粉などの付着物を確実に除去することができる。更に、ノズル面の払拭処理はウエットワイピングとなるので、ノズル面の撥水膜の傷つきや磨耗が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の全体構成図
【図2】図1に示すインクジェット記録装置の印字部周辺の要部平面図
【図3】ヘッドの構造例を示す平面透視図
【図4】図3中4−4線に沿う断面図
【図5】図1に示すインクジェット記録装置のインク供給系の構成を示す概要図
【図6】図1に示すインクジェット記録装置の制御系の構成を示す概要図
【図7】図5に示すメンテナンス装置の説明図
【図8】図7に示すインク貯留部材の概略平面図
【図9】本発明の実施形態に係るノズル面メンテナンス方法の制御の流れを示すフローチャート
【図10】本発明の応用例に係るインク貯留部材の立体構造を示す断面図
【図11】本発明の応用例に係るノズル面メンテナンス方法の説明図
【図12】本発明の第2実施形態に係るインク貯留部材の立体構造を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について詳説する。
【0062】
〔インクジェット記録装置の全体構成〕
図1は、本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置10の全体構成を示す概略図である。同図に示すように、インクジェット記録装置10は、黒(K),シアン(C),マゼンタ(M),イエロー(Y)の各インクに対応して設けられた複数のインクジェットヘッド(以下、ヘッドという。)12K,12C,12M,12Yを有する印字部12と、各ヘッド12K,12C,12M,12Yに供給するインクを貯蔵しておくインク貯蔵/装填部14と、記録媒体(被吐出媒体)たる記録紙16を供給する給紙部18と、記録紙16のカールを除去するデカール処理部20と、各ヘッド12K,12C,12M,12Yのノズル面に対向して配置され、記録紙16の平面性を保持しながら記録紙16を搬送する吸着ベルト搬送部22と、印字部12の印字結果を読み取る印字検出部24と、記録済みの記録紙(プリント物)を外部に排紙する排紙部26と、を備えている。
【0063】
インク貯蔵/装填部14は、各ヘッド12K,12C,12M,12Yに対応する色のインクを貯蔵するインク供給タンク(図1中不図示、図5に符号60で図示)を有し、各色のインクは所要のインク流路を介してヘッド12K,12C,12M,12Yと連通されている。
【0064】
また、インク貯蔵/装填部14は、インク残量が少なくなるとその旨を報知する報知手段(表示手段、警告音発生手段)を備えるとともに、色間の誤装填を防止するための機構を有している。なお、図1に示すインク貯蔵/装填部14を含むインク供給系の詳細は後述する。
【0065】
図1では、給紙部18の一例としてロール紙(連続用紙)のマガジンが示されているが、紙幅や紙質等が異なる複数のマガジンを併設してもよい。また、ロール紙のマガジンに代えて、又はこれと併用して、カット紙が積層装填されたカセットによって用紙を供給してもよい。
【0066】
複数種類の記録紙を利用可能な構成にした場合、紙の種類情報を記録したバーコード或いは無線タグなどの情報記録体をマガジンに取り付け、その情報記録体の情報を所定の読取装置によって読み取ることで、使用される記録媒体の種類(メディア種)を自動的に判別し、メディア種に応じて適切なインク吐出を実現するようにインク吐出制御を行うことが好ましい。
【0067】
給紙部18から送り出される記録紙16はマガジンに装填されていたことによる巻きクセが残り、カールする。このカールを除去するために、デカール処理部20においてマガジンの巻きクセ方向と逆方向に加熱ドラム30で記録紙16に熱を与える。このとき、多少印字面が外側に弱いカールとなるように加熱温度を制御するとより好ましい。
【0068】
ロール紙を使用する装置構成の場合、図1のように、裁断用のカッター(第1のカッター)28が設けられており、該カッター28によってロール紙は所望のサイズにカットされる。カッター28は、記録紙16の搬送路幅以上の長さを有する固定刃28Aと、該固定刃28Aに沿って移動する丸刃28Bとから構成されており、印字裏面側に固定刃28Aが設けられ、搬送路を挟んで印字面側に丸刃28Bが配置される。なお、カット紙を使用する場合には、カッター28は不要である。
【0069】
デカール処理後、カットされた記録紙16は、吸着ベルト搬送部22へと送られる。吸着ベルト搬送部22は、ローラ31、32間に無端状のベルト33が巻き掛けられた構造を有し、少なくともヘッド12K,12C,12M,12Yのノズル面(ノズル開口が形成されるインク吐出面、図1中不図示、図5に符号50Aで図示)に対向する部分が水平面(フラット面)をなすように構成されている。
【0070】
ベルト33は、記録紙16の幅よりも広い幅寸法を有しており、ベルト面には多数の吸引穴(不図示)が形成されている。図1に示したとおり、ローラ31、32間に掛け渡されたベルト33の内側においてヘッド12K,12C,12M,12Yのノズル面に対向する位置には吸着チャンバ34が設けられており、この吸着チャンバ34をファン35で吸引して負圧にすることによって記録紙16がベルト33上に吸着保持される。
【0071】
ベルト33が巻かれているローラ31、32の少なくとも一方にモータ(図1中不図示、図6に符号88で図示)の動力が伝達されることにより、ベルト33は図1上の時計回り方向に駆動され、ベルト33上に保持された記録紙16は図1の左から右へと搬送される。
【0072】
縁無しプリント等を印字するとベルト33上にもインクが付着するので、ベルト33の外側の所定位置(印字領域以外の適当な位置)にベルト清掃部36が設けられている。ベルト清掃部36の構成について詳細は図示しないが、例えば、ブラシ・ロール、吸水ロール等をニップする方式、清浄エアーを吹き掛けるエアーブロー方式、或いはこれらの組み合わせなどがある。清掃用ロールをニップする方式の場合、ベルト線速度とローラ線速度を変えると清掃効果が大きい。
【0073】
なお、吸着ベルト搬送部22に代えて、ローラ・ニップ搬送機構を用いる態様も考えられるが、印字領域をローラ・ニップ搬送すると、印字直後に用紙の印字面をローラが接触するので画像が染み易いという問題がある。したがって、本例のように、印字領域では画像面を接触させない吸着ベルト搬送が好ましい。
【0074】
吸着ベルト搬送部22により形成される用紙搬送路上において印字部12の上流側には、加熱ファン40が設けられている。加熱ファン40は、印字前の記録紙16に加熱空気を吹き付け、記録紙16を加熱する。印字直前に記録紙16を加熱しておくことにより、インクが着弾後乾き易くなる。
【0075】
印字部12のヘッド12K,12C,12M,12Yは、当該インクジェット記録装置10が対象とする記録紙16の最大紙幅に対応する長さを有し、そのノズル面には最大サイズの記録媒体の少なくとも一辺を超える長さ(描画可能範囲の全幅)にわたりインク吐出用のノズルが複数配列されたフルライン型のヘッドとなっている(図2参照)。
【0076】
ヘッド12K,12C,12M,12Yは、記録紙16の送り方向に沿って上流側から黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の色順に配置され、それぞれのヘッド12K,12C,12M,12Yが記録紙16の搬送方向(紙送り方向)延在するように固定設置される。
【0077】
吸着ベルト搬送部22により記録紙16を搬送しつつ各ヘッド12K,12C,12M,12Yからそれぞれ異色のインクを吐出することにより記録紙16上にカラー画像を形成し得る。
【0078】
このように、紙幅の全域をカバーするノズル列を有するフルライン型のヘッド12K,12C,12M,12Yを色別に設ける構成によれば、紙送り方向について記録紙16と印字部12を相対的に移動させる動作を1回行うだけで(即ち、1回の副走査で)、記録紙16の全面に画像を記録することができる。このようなシングルパス印字が可能な構成により、ヘッドが紙搬送方向と直交する方向に往復動作するシャトル型ヘッドに比べて高速印字が可能であり、生産性を向上させることができる。
【0079】
本例では、KCMYの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態に限定されず、必要に応じて淡インク、濃インク、特別色インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出するインクジェットヘッドを追加する構成も可能である。また、各色ヘッドの配置順序も特に限定はない。更に、記録紙16に処理液とインクとを付着させた後に、記録紙16上でインク色材を凝集又は不溶化させて、記録紙16上でインク溶媒とインク色材とを分離させる2液系のインクジェット記録装置では、処理液を記録紙16に付着させる手段としてインクジェットヘッドを備えてもよい。
【0080】
印字検出部24は、印字部12の打滴結果を撮像するためのイメージセンサを含み、該イメージセンサによって読み取った打滴画像からノズルの目詰まりその他吐出異常をチェックする手段として機能する。
【0081】
本例の印字検出部24は、少なくとも各ヘッド12K,12C,12M,12Yによるインク吐出幅(画像記録幅)よりも幅の広い受光素子列を有するラインセンサで構成される。このラインセンサは、赤(R)の色フィルタが設けられた光電変換素子(画素)がライン状に配列されたR受光素子列と、緑(G)の色フィルタが設けられたG受光素子列と、青(B)の色フィルタが設けられたB受光素子列と、から成る色分解ラインCCDセンサで構成されている。なお、ラインセンサに代えて、受光素子が2次元配列されて成るエリアセンサを用いることも可能である。
【0082】
印字検出部24は、各色のヘッド12K,12C,12M,12Yにより印字されたテストパターンを読み取り、各ヘッド12K,12C,12M,12Yの吐出検出を行う。吐出判定は、吐出の有無、ドットサイズの測定、ドットの着弾位置の測定などで構成される。
【0083】
印字検出部24の後段には後乾燥部42が設けられている。後乾燥部42は、印字された画像面を乾燥させる手段であり、例えば、加熱ファンが用いられる。印字後のインクが乾燥するまでは印字面と接触することは避けたほうが好ましいので、熱風を吹き付ける方式が好ましい。
【0084】
後乾燥部42の後段には、加熱・加圧部44が設けられている。加熱・加圧部44は、画像表面の光沢度を制御するための手段であり、画像面を加熱しながら所定の表面凹凸形状を有する加圧ローラ45で加圧し、画像面に凹凸形状を転写する。
【0085】
加熱・加圧部44によって記録紙16を押圧すると、多孔質のペーパーに染料系インクで印字した場合などでは、加圧によりペーパーの孔を塞ぐことでオゾンなど、染料分子を壊す原因となるものと接触することを防ぐことで画像の耐候性がアップする効果がある。
【0086】
こうして生成されたプリント物は排紙部26から排出される。本来プリントすべき本画像(目的の画像を印刷したもの)とテスト印字とは分けて排出することが好ましい。このインクジェット記録装置10では、本画像のプリント物と、テスト印字のプリント物とを選別してそれぞれの排出部26A、26Bへと送るために排紙経路を切り換える不図示の選別手段が設けられている。なお、大きめの用紙に本画像とテスト印字とを同時に並列に形成する場合は、カッター(第2のカッター)48によってテスト印字の部分を切り離す。カッター48は、排紙部26の直前に設けられており、画像余白部にテスト印字を行った場合に本画像とテスト印字部を切断するためのものである。カッター48の構造は前述した第1のカッター28と同様であり、固定刃48Aと丸刃48Bとから構成される。
【0087】
また、図1には示さないが、本画像の排出部26Aには、オーダー別に画像を集積するソーターが設けられる。
【0088】
図1に図示しないが、ヘッド12K,12C,12M,12Yのノズル面のメンテナンスを行うメンテナンスユニット(図1中不図示、図5に符号100で図示)を備えている。このメンテナンスユニットを用いてヘッド12K,12C,12M,12Yのノズル面を定期的に、または必要に応じてメンテナンスすることで、ヘッド12K,12C,12M,12Yの所定の吐出性能が維持される。
【0089】
〔ヘッドの構造〕
次に、ヘッドの構造について説明する。色別のヘッド12K,12C,12M,12Yの構造は共通しているので、以下、これらを代表して符号50によってヘッドを示すものとする。
【0090】
図3(a)はヘッド50の構造例を示す平面透視図であり、図3(b)はその一部の拡大図である。また、図3(c)はヘッド50の他の構造例を示す平面透視図、図4はヘッド50の立体的構成を示す断面図(図3(a),(b)中の4−4線に沿う断面図である。
【0091】
記録紙16上に印字されるドットピッチを高密度化するためには、ヘッド50におけるノズルピッチを高密度化する必要がある。本例のヘッド50は、図3(a),(b)に示すように、インク滴の吐出孔であるノズル51と、各ノズル51に対応する圧力室52等からなる複数のインク室ユニット53を千鳥でマトリクス状に(2次元的に)配置させた構造を有し、これにより、ヘッド50の長手方向(紙送り方向と直交する主走査方向)に沿って並ぶように投影される実質的なノズル間隔(投影ノズルピッチ)の高密度化を達成している。
【0092】
記録紙16の送り方向と略直交する主走査方向に記録紙16の全幅に対応する長さにわたり1列以上のノズル列を構成する形態は本例に限定されない。例えば、図3(a)の構成に代えて、図3(c)に示すように、複数のノズル51が2次元的に配列された短尺のヘッドユニット50’を千鳥状に配列して繋ぎ合わせることで記録紙16の全幅に対応する長さのノズル列を有するラインヘッドを構成してもよい。また、図示は省略するが、短尺のヘッドユニットを一列に並べてラインヘッドを構成してもよい。
【0093】
各ノズル51に対応して設けられている圧力室52は、その平面形状が概略正方形となっており、対角線上の両隅部にノズル51と供給口54が設けられている。各圧力室52は供給口54を介して共通流路55と連通されている。共通流路55はインク供給源たるインク供給タンク(図3(a)〜(c)中不図示、図5に符号60で図示)と連通しており、該インク供給タンクから供給されるインクは図4の共通流路55を介して各圧力室52に分配供給される。
【0094】
圧力室52の天面を構成し共通電極と兼用される振動板56には個別電極57を備えた圧電素子58が接合されており、個別電極57に駆動電圧を印加することによって圧電素子58が変形してノズル51からインクが吐出される。インクが吐出されると、共通流路55から供給口54を通って新しいインクが圧力室52に供給される。
【0095】
本例では、ヘッド50に設けられたノズル51から吐出させるときにインクを加圧する加圧手段として圧電素子58を適用したが、加圧手段には、圧力室52内にヒータを備え、ヒータの加熱による膜沸騰の圧力を利用してインクを吐出させるサーマル方式を適用することも可能である。
【0096】
かかる構造を有するインク室ユニット53を図3(b)に示す如く、主走査方向に沿う行方向及び主走査方向に対して直交しない一定の角度θを有する斜めの列方向に沿って一定の配列パターンで格子状に多数配列させることにより、本例の高密度ノズルヘッドが実現されている。
【0097】
即ち、主走査方向に対してある角度θの方向に沿ってインク室ユニット53を一定のピッチdで複数配列する構造により、主走査方向に並ぶように投影されたノズルのピッチPはd× cosθとなり、主走査方向については、各ノズル51が一定のピッチPで直線状に配列されたものと等価的に取り扱うことができる。このような構成により、主走査方向に並ぶように投影されるノズル列が1インチ当たり2400個(2400ノズル/インチ)におよぶ高密度のノズル構成を実現することが可能になる。
【0098】
なお、本発明の実施に際してノズルの配置構造は図示の例に限定されず、副走査方向に1列のノズル列を有する配置構造など、様々なノズル配置構造を適用できる。
【0099】
本例に示すヘッド50は、紙送り方向と直交する主走査方向に沿ってN個のブロックに分割された構造を有している。図3(a)の左側から順に第1ヘッドブロック50−1、第2ヘッドブロック50−2、第(N−1)ヘッドブロック50−(N−1)、第Nヘッドブロック50−Nとなっている。ヘッドブロック50−K(K=1、2、…、N)は、主走査方向と角度θをなす列方向に沿って複数のノズル51が並べられたノズル列51Aを少なくとも1つ備えている。図3(a)には、1つのヘッドブロック50−Kに4つのノズル列を備える態様を例示する。
【0100】
ヘッド50は、インク吐出制御や内部圧力制御をヘッドブロックごとに行うことができるように構成されている。なお、各ヘッドブロック50−Kに含まれるノズル列の数やヘッドブロック50−Kの数は、ノズル51の総数に応じて適宜変更可能である。また、各ヘッドブロック50−Kに含まれるノズル群の数は、ヘッドブロックごとに異なっていてもよい。
【0101】
図3(a)には、複数のヘッドブロック50−Kから成るヘッド50が一体に形成される態様を例示したが、例えば、複数のヘッドブロック50−Kを別々に形成し、複数のヘッドブロック50−Kを組み合わせて1つのヘッド50を構成してもよい。
【0102】
〔インク供給系の構成〕
図5はインクジェット記録装置10におけるインク供給系の構成を示した概要図である。インク供給タンク60はヘッド50にインクを供給する基タンクであり、図1で説明したインク貯蔵/装填部14に含まれる。インク供給タンク60の形態には、インク残量が少なくなった場合に不図示の補充口からインクを補充する方式と、タンクごと交換するカートリッジ方式とがある。使用用途に応じてインク種類を変える場合には、カートリッジ方式が適している。この場合、インクの種類情報をバーコード等で識別して、インク種類に応じた吐出制御を行うことが好ましい。
【0103】
図5に示すように、インク供給タンク60とヘッド50の中間には、ヘッド50の内部圧力可変手段として機能するサブタンク61と、異物や気泡を除去するためにフィルタ62が設けられている。
【0104】
サブタンク61は、ヘッド50の近傍又はヘッド50と一体に設けられ、サブタンク61に付随して設けられるポンプ69を動作させると、サブタンク61の内部圧力が可変するとともに、ヘッド50の内部圧力が可変する。また、サブタンク61はヘッド50の内圧変動を防止するダンパー効果及びリフィルを改善する手段としての機能を有する。本例では、サブタンク61内のインクが大気と遮断される密閉型のサブタンクが適用される。
【0105】
図5には密閉型のサブタンク61を示したが、サブタンク61内のインクが大気と連通される開放型のサブタンクを適用してもよい。開放型のサブタンクを用いる態様では、サブタンク61を垂直方向に移動させる昇降機構を備え、ヘッド50とサブタンク61との水頭圧差によってヘッド50の内部圧力を可変させる。なお、開放型のサブタンクを適用する態様ではポンプ69は省略可能である。
【0106】
本例に示すインクジェット記録装置10には、ヘッドブロック(図5中不図示、図3(a)に符号50−1〜50−Nで図示)と同じ数のサブタンク61及びポンプ69を備えているが(図7参照)、図5ではこれら複数のサブタンク及び複数のポンプを代表して1つだけ図示している。即ち、本例に示すインク供給系では、インク供給タンク60から各サブタンク61−Kと連通するインク供給路を備え、インク供給タンク60から複数のサブタンク61−Kへインクが分配供給される。
【0107】
図5に示すフィルタ62のフィルタ・メッシュサイズは、ノズル径と同等若しくはノズル径以下(一般的には、20μm程度)とすることが好ましい。
【0108】
また、インクジェット記録装置10には、ノズル51の乾燥防止又はノズル近傍のインク粘度上昇を防止するための手段としてのキャップ64が設けられている。キャップ64は、不図示の移動機構によってヘッド50に対して相対移動可能であり、必要に応じて所定の退避位置からヘッド50下方のメンテナンス位置に移動される。
【0109】
キャップ64は、図示せぬ昇降機構によってヘッド50に対して相対的に昇降変位される。電源OFF時や印刷待機時にキャップ64を所定の上昇位置まで上昇させ、ヘッド50に密着させることにより、ノズル面をキャップ64で覆う。
【0110】
印字中又は待機中において、特定のノズル51の使用頻度が低くなり、ある時間以上インクが吐出されない状態が続くと、ノズル近傍のインク溶媒が蒸発してインク粘度が高くなってしまう。このような状態になると、圧電素子58が動作してもノズル51からインクを吐出できなくなってしまう。
【0111】
このような状態になる前に(圧電素子58の動作により吐出が可能な粘度の範囲内で)圧電素子58を動作させ、その劣化インク(粘度が上昇したノズル近傍のインク)を排出すべくキャップ64(インク受け)に向かって予備吐出(パージ、空吐出、つば吐き、ダミー吐出)が行われる。
【0112】
また、ヘッド50内のインク(圧力室52内)に気泡が混入した場合、圧電素子58が動作してもノズルからインクを吐出させることができなくなる。このような場合にはヘッド50にキャップ64を当て、吸引ポンプ65で圧力室52内のインク(気泡が混入したインク)を吸引により除去し、吸引除去したインクを回収タンク68へ送液する。
【0113】
この吸引動作は、初期のインクのヘッドへの装填時、或いは長時間の停止後の使用開始時にも粘度上昇(固化)した劣化インクの吸い出しが行われる。なお、吸引動作は圧力室52内のインク全体に対して行われるので、インク消費量が大きくなる。したがって、インクの粘度上昇が小さい場合には予備吐出を行う態様が好ましい。
【0114】
また、本例に示すインクジェット記録装置10は、ヘッド50のノズル面50Aに付着したインクや紙粉などの付着物を除去するためのメンテナンスユニット100を備えている。図5に示すメンテナンスユニット100は、不図示の移動機構によってヘッド50のノズル面50Aと対向するヘッド50の直下のメンテナンス位置とヘッド50から離れた退避位置と間を移動可能に構成されている。図5には、メンテナンスユニット100がメンテナンス位置に位置する状態を示す。
【0115】
また、インクジェット記録装置10は、メンテナンスユニット100とヘッド50のノズル面50Aとの距離を一定に保ちながら、メンテナンスユニット100を紙送り方向と直交するヘッド50の長手方向に沿って往復移動させるための水平移動機構102を備えるとともに、メンテナンスユニット100をインク吐出方向と平行方向(図5における上下方向)に移動させるための上下移動機構104を備えている。
【0116】
図5では、水平移動機構102の移動方向を符号Mで示し、上下移動機構104の移動方向を符号Zで示すとともに、水平移動機構102及び上下移動機構104を単純化して図示する。水平移動機構102の構成例としては、メンテナンスユニット100及び上下移動機構104が搭載されるキャリッジと、キャリッジの移動方向と平行方向に設けられ、キャリッジを支持するガイドと、メンテナンスユニット100等が搭載されたキャリッジを主走査方向と平行方向に往復移動させるボールねじやベルト駆動機構などの駆動系と、駆動系の駆動源となるモータと、を備える構成が挙げられる。
【0117】
また、上下移動機構104の構成例としては、メンテナンスユニット100を支持する支持部材と、メンテナンスユニット100を支持した支持部材をヘッド50のノズル面50Aと垂直方向に移動させるボールねじやベルト駆動機構などの駆動系と、駆動系の駆動源となるモータと、を備える構成が挙げられる。また、駆動系と駆動源とを一体に形成したアクチュエータを適用する態様も可能である。
【0118】
〔制御系の説明〕
図6はインクジェット記録装置10のシステム構成を示す要部ブロック図である。インクジェット記録装置10は、通信インターフェース70、システムコントローラ72、メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78、ポンプドライバ79、プリント制御部80、画像バッファメモリ82、ヘッドドライバ84等を備えている。
【0119】
通信インターフェース70は、ホストコンピュータ86から送られてくる画像データを受信するインターフェース部である。通信インターフェース70にはUSB(Universal Serial Bus)、IEEE1394、イーサネット(登録商標)、無線ネットワークなどのシリアルインターフェースやセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。ホストコンピュータ86から送出された画像データは通信インターフェース70を介してインクジェット記録装置10に取り込まれ、一旦メモリ74に記憶される。
【0120】
メモリ74は、通信インターフェース70を介して入力された画像を一旦格納する記憶手段であり、システムコントローラ72を通じてデータの読み書きが行われる。メモリ74は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。
【0121】
システムコントローラ72は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、所定のプログラムに従ってインクジェット記録装置10の全体を制御する制御装置として機能するとともに、各種演算を行う演算装置として機能する。即ち、システムコントローラ72は、通信インターフェース70、メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78、ポンプドライバ79等の各部を制御し、ホストコンピュータ86との間の通信制御、メモリ74の読み書き制御等を行うとともに、搬送系のモータ88やヒータ89を制御する制御信号を生成する。
【0122】
メモリ74には、システムコントローラ72のCPUが実行するプログラム及び制御に必要な各種データなどが格納されている。なお、メモリ74は、書換不能な記憶手段であってもよいし、EEPROMのような書換可能な記憶手段であってもよい。メモリ74は、画像データの一時記憶領域として利用されるとともに、プログラムの展開領域及びCPUの演算作業領域としても利用される。
【0123】
モータドライバ76は、システムコントローラ72からの指示にしたがってモータ88を駆動するドライバである。図6では、装置内の各部に配置されるモータ(アクチュエータ)を代表して符号88で図示している。例えば、図6に示すモータ88には、図1のドラム30を駆動するモータや、図5のキャップ64を移動させる移動機構のモータ、図5の水平移動機構102及び上下移動機構104の駆動源のモータなどが含まれている。
【0124】
ヒータドライバ78は、システムコントローラ72からの指示にしたがって、図1に示す加熱ファン40の熱源たるヒータや、後乾燥部42のヒータなどを含むヒータ89を駆動するドライバである。
【0125】
ポンプドライバ79は、システムコントローラ72からの指示にしたがって、図5に示すキャップ64に付随するポンプ65や、サブタンク61に付随するヘッド50の内部圧力制御用のポンプ69の動作を制御する機能ブロックである。
【0126】
例えば、図5に示すメンテナンスユニット100を用いたノズル面50Aのメンテナンス処理において、ヘッド50の内部圧力を正圧に変更するときには、システムコントローラ72はポンプドライバ79に対して指令信号を送り、ポンプドライバ79はシステムコントローラ72から送られてきた指令信号に基づいてポンプ69を動作させヘッド50の内部圧力を制御する。
【0127】
プリント制御部80は、システムコントローラ72の制御に従い、メモリ74内の画像データから印字制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理機能を有し、生成した印字データ(ドットデータ)をヘッドドライバ84に供給する制御部である。プリント制御部80において所要の信号処理が施され、該画像データに基づいて、ヘッドドライバ84を介してヘッド50のインク液滴の吐出量や吐出タイミングの制御が行われる。これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。
【0128】
プリント制御部80には画像バッファメモリ82が備えられており、プリント制御部80における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリ82に一時的に格納される。また、プリント制御部80とシステムコントローラ72とを統合して1つのプロセッサで構成する態様も可能である。
【0129】
ヘッドドライバ84は、プリント制御部80から与えられる画像データに基づいてヘッド50の圧電素子58に印加される駆動信号を生成するとともに、該駆動信号を圧電素子58に印加して圧電素子58駆動する駆動回路を含んで構成される。なお、図6に示すヘッドドライバ84には、ヘッド50の駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
【0130】
印字検出部24は、図1で説明したようにラインセンサを含むブロックであり、記録紙16に印字された画像を読み取り、所要の信号処理などを行って印字状況(吐出の有無、打滴のばらつきなど)を検出し、その検出結果をプリント制御部80に提供する。
【0131】
プリント制御部80は、必要に応じて印字検出部24から得られた情報に基づいてヘッド50に対する各種補正やヘッド50のメンテナンスを行うように各部を制御する。
【0132】
印刷すべき画像のデータは、通信インターフェース70を介して外部から入力され、メモリ74に蓄えられる。この段階では、RGBの画像データがメモリ74に記憶される。
【0133】
メモリ74に蓄えられた画像データは、システムコントローラ72を介してプリント制御部80に送られ、該プリント制御部80においてインク色ごとのドットデータに変換される。即ち、プリント制御部80は、入力されたRGB画像データをKCMYの4色のドットデータに変換する処理を行う。プリント制御部80で生成されたドットデータは、画像バッファメモリ82に蓄えられる。
【0134】
プログラム格納部90には各種制御プログラムが格納されており、システムコントローラ72の指令に応じて、制御プログラムが読み出され、実行される。プログラム格納部90はROMやEEPROMなどの半導体メモリを用いてもよいし、磁気ディスクなどを用いてもよい。外部インターフェースを備え、メモリカードやPCカードを用いてもよい。もちろん、これらの記録媒体のうち、複数の記録媒体を備えてもよい。なお、プログラム格納部90は動作パラメータ等の記録手段(不図示)と兼用してもよい。
【0135】
カウンタ92は、図5に示すメンテナンスユニット100の水平移動機構102及び上下移動機構104の駆動源となるモータの駆動信号(パルス信号)をカウントする機能ブロックである。水平移動機構102及び上下移動機構104の駆動源となるモータにはサーボモータなどの制御型モータが適用され、モータドライバ76に与えられるパルス形式の駆動信号のパルス数をカウントすることで、該モータの動作量(即ち、メンテナンスユニット100の移動量)を把握することができる。
【0136】
なお、水平移動機構102及び上下移動機構104の駆動源となるモータにエンコーダなどの動作量検出手段を備え、該エンコーダの出力パルスをカウンタ92によってカウントし、そのカウント値に基づいてメンテナンスユニット100の位置(移動量)を把握してもよいし、水平移動機構102及び上下移動機構104にリニアエンコーダなどの位置検出手段を具備し、該位置検出手段の出力信号をカウンタ92によってカウントし、そのカウント値に基づいてメンテナンスユニット100の位置を把握してもよい。
【0137】
〔メンテナンスユニットの説明、第1実施形態〕
次に、本発明の第1実施形態に係るメンテナンスユニット100について詳説する。図7(a)は、メンテナンスユニット100を用いメンテナンス処理中の状態をヘッド50の側面側(長手方向の一方の端部側)から見た図であり、図7(b)は図7(a)に図示した状態をヘッド50の上面側(インク吐出方向と反対側)から見た図である。
【0138】
図7(a)に示すように、ノズル面50Aのメンテナンス処理実行時には、メンテナンスユニット100はヘッド50のノズル面50Aと対向するヘッド50の直下のメンテナンス位置に配置され、ヘッド50の長手方向に沿う走査方向Wにヘッド50の長手方向(主走査方向)の全長にわたって移動しながら、ノズル面50Aのメンテナンス処理を行う。ここでいうメンテナンス処理には、ノズル面50Aに付着したインク(固化したインク)、紙粉、ゴミなどの付着物をノズル面50Aから取り除く処理を含んでいる。
【0139】
メンテナンスユニット100は、ヘッド50のインクノズル面50Aと対向する面にインク保持面121を有するインク貯留部材120を備え、インク貯留部材120の移動に合わせて、インク保持面121にはヘッド50からノズル(図4参照)を介してインク122が供給される。
【0140】
インク保持面121に供給されたインク122は、ノズル面50Aに付着してノズル面50Aをウエット化(湿潤化)し、ウエット化されたノズル面50Aはインク貯留部材120に後続して移動するブレード124によって払拭(ワイピング)される。このようにしてブレード124によりノズル面50Aを払拭すると、ノズル面50Aに付着している付着物及びノズル面50Aをウエット化したインクが除去される。
【0141】
図7(a)には、ヘッドブロック50−2に属するノズルからインク保持面121にインク122が供給され、更に、ヘッドブロック50−1がブレード124によって払拭されている状態が図示されている。
【0142】
図7(b)に示すように、インク保持面121の幅(インク保持面121のヘッド50の短手方向の長さ)Dmと、ヘッド50の短手方向の長さDhとの関係は、Dm>Dhとなっている。同様に、インク貯留部材120の走査方向Wの上流側に設けられるブレード124の幅(ブレード124のヘッド50の短手方向の長さ)Dbと、ヘッド50の短手方向の長さDhとの関係は、Db>Dhとなっている。なお、図7(b)には、インク保持面121とブレード124は同一幅(Dm=Db)となっている。
【0143】
また、インク保持面121のヘッド長手方向の長さlmは、メンテナンスユニット100の走査速度との間に次の関係を有している。メンテナンスユニット100の走査速度が相対的に遅い場合には、インク保持面121のヘッド長手方向の長さlmを相対的に短くしたとしても、インク保持面121に保持されているインクがノズル面50Aに接触している時間(ノズル面50Aに付着している付着物を溶解させる時間)を所定時間以上確保することができる。一方、メンテナンスユニット100の走査速度が相対的に速い場合には、インク保持面121のヘッド長手方向の長さlmを相対的に長くすることで、インク保持面121の保持されているインクがノズル面50Aに接触している時間を所定時間以上確保することができる。
【0144】
即ち、インク保持面121のヘッド長手方向の長さlmは、インク保持面121に保持されているインクをノズル面50Aに接触させる時間(インク由来の付着物をノズル面50Aから溶解させるために要する時間)に基づいて求められている。
【0145】
インク由来の付着物をノズル面50Aから溶解させるために要する時間はインクの物性に左右されるため、事前に評価しておくことが望ましい。その時間を溶解時間と定義すると、必要なヘッドの長手方向の長さlmは、メンテナンスユニット100の走査速度(mm/sec)×溶解時間となる。
【0146】
本実施形態に適用されるインクでは、3秒以上の溶解時間にて良好な払拭を得ることができた。一方、メンテナンスユニット100の走査速度はメンテナンス処理時間の条件から20(mm/sec)とした。よって、本例では、必要なインク保持面121のヘッド長手方向の長さlmは、lm=20(mm/sec)×3(sec)=60mmとした。
【0147】
メンテナンスユニット100は、主走査方向に沿って延在するガイド128に支持されるキャリッジ126を備え、キャリッジ126上にインク貯留部材120及びブレード124を搭載した構造を有し、インク貯留部材120とブレード124は一体となって移動するように構成されている。
【0148】
インク保持面121とブレード124の走査方向Wにおける配置間隔(インク保持面121の走査方向Wの下流側端部と、ブレード124の走査方向Wの下流側端部の距離)は、ヘッドブロックの主走査方向の長さに対応する長さにするとよい。例えば、ヘッドブロック50−Kのウエット化開始位置にインク保持面121が位置するときに、ヘッドブロック50−(K−1)の払拭開始位置のブレード124が位置するように構成すると、ヘッドブロック50−Kに対するウエット化処理と同時に、1つ前のヘッドブロック50−(K−1)のワイピング処理を行うことができ、効率よくメンテナンス処理を行うことができる。なお、ブレード124の走査方向Wにおける位置の微調整を行う微調整機構を備える態様が好ましい。
【0149】
もちろん、ウエット化処理が施されるヘッドブロックとワイピング処理が施されるブロックは連続していなくてもよく、ウエット化処理が施されるヘッドブロックとワイピング処理が施されるブロックの間にウエット化処理が終了し、ワイピング処理の待機状態のブロックが含まれていてもよい。
【0150】
上述したように、本例に示すメンテナンスユニット100は、主走査方向に1回走査するだけで(メンテナンスユニット100のシングルパス動作によって)、ヘッド50のノズル面50Aの全面にわたってメンテナンス処理を行うことが可能である。
【0151】
ノズル面50Aとインク保持面121との距離を1mm以上5mm以下とすると、ノズル面50Aとインク保持面121との間にインク122を保持してインク122をノズル面50Aに接触させることができるとともに、メンテナンスユニット100がヘッド50の真下を移動するときに、インク保持面121がノズル面50Aに接触してノズル面50Aを傷つけてしまうことを防止できる。
【0152】
図7(a)に示すヘッド50は、符号50−1から符号50−Nで図示するN個のヘッドブロック50−K(K=1、2、…、N)を有する構造を有し、それぞれのヘッドブロック50−Kには、サブタンク61−1〜60−N及びポンプ69−1〜69−Nが備えられ、ヘッドブロック50−Kごとに内部圧力を制御可能に構成されている。
【0153】
インク保持面121の真上のヘッドブロック(図7(a)のヘッドブロック50−2)では、内部圧力を正圧(>大気圧)に変更してインク保持面121にインクを供給する。また、ブレード124によりワイピング処理が行われるヘッドブロック(図7(a)のヘッドブロック50−1)では内部圧力は大気圧に制御され、インク供給(ウエット化処理)及びワイピング処理の何れの処理も行われないヘッドブロックでは、ノズルからインクが漏れないように内部圧力は負圧(<大気圧)になるように制御される。
【0154】
なお、インク貯留部材120へインク122を供給するときに、当該ヘッドブロック50−Kのすべてのノズルからインクを流出させてもよいし、一部のノズルからインクを流出させてもよい。また、連続的にインクを供給してもよいし、間欠的にインクを供給してもよい。
【0155】
ヘッドブロック50−Kの一部のノズルからインクを流出させるときには、当該ヘッドブロック50−Kの一部または全部のノズル開口の外側へインクを突出させるように当該ヘッドブロック50−Kの内圧を制御し、インクを流出させる一部のノズルでは、当該ノズルに対応する圧電素子に駆動信号を印加して(インクを吐出するときの駆動信号と同じ駆動信号を複数回印加して、または、インクを吐出するときの駆動信号よりもオン時間の長い駆動信号を印加して)、当該圧電素子を動作させてインクを流出させるとよい。インクを間欠的に供給するときには、圧電素子を間欠的に動作させるとよい。
【0156】
このようにしてヘッド50からノズルを介して供給されたインクをインク貯留部材120に一旦保持し、この状態を維持したままメンテナンスユニット100を走査方向Wにヘッド50の長手方向の一方の端部から他方の端部へ走査させるので、インク貯留部材120とノズル面50Aのメニスカスが維持され、インク切れになることなく短時間で効率よくノズル面50Aを全面にわたってウエット化することができる。
【0157】
また、メンテナンスユニット100の移動に対応してインク貯留部材120の直上のヘッドブロック50−Kからフレッシュなインクが供給されるとともに、メンテナンスユニット100の移動によってノズル面50Aとインク貯留部材120との間のインク122に流れができ、ノズル面50Aに付着している付着物はノズル面50Aとインク貯留部材120との間に存在するインク122に素早く溶解し、更に、付着物を溶解し汚れが濃縮されたインク122がノズル面50Aとインク貯留部材120との間で淀むことがないので、ノズル面50Aからインク122へ移動した付着物がノズル面50Aに再付着することが防止される。
【0158】
ヘッド50の走査方向下流側の端部に達したメンテナンスユニット100は、ヘッド50との距離をメンテナンス実行時よりも離して(ノズル面50Aとインク保持面121との距離が5mmを超えるように離して)、ヘッド50の走査方向上流側の端部に移動させる。なお、メンテナンスユニット100を往復走査させる態様も可能である。
【0159】
即ち、メンテナンスユニット100を180°回動させる回動機構を備え、メンテナンスユニット100がヘッド50の走査方向下流側の端部に達すると、一旦ノズル面50Aと対向する位置から抜け出して(または、ノズル面50Aとメンテナンスユニット100との距離が5mmを超えるように離して)、メンテナンスユニット100を180°回動させた後に先の走査方向と反対方向に走査させ、復路においても往路と同様のメンテナンス処理を実行するように構成してもよい。
【0160】
例えば、往路(図7(a)の左から右方向)におけるメンテナンス処理終了時にノズル面の汚れ具合をCCDやセンサ等の検出手段を用いて検出し、ノズル面50Aのクレーニングが十分でないと判断されると、復路においてもメンテナンス処理を実行するようにメンテナンスユニット100を制御する態様が可能である。
【0161】
インク貯留部材120から溢れたインクはインク貯留部材120の外周部に設けられたインク回収路(図7(a),(b)中不図示、図8に符号140で図示)に回収される。インク回収路の詳細は後述する。
【0162】
ブレード124には、ノズル面50Aに付着するインクを吸収する吸収性を有する部材や、ノズル面50Aに付着する固形物をかき落とすことが可能な剛性を有する部材が好適に用いられる。本例のブレード124に適用される部材として、多孔質部材やゴムなどの弾性部材が挙げられる。
【0163】
また、ブレード124を単独で上下移動させる機構を備えると、ノズル面50Aの払拭時のノズル面50Aに対するブレード124の押圧を変えることができる。例えば、単位面積あたりの付着物の量が多いときや、基準サイズよりも大きな付着物が存在するときなどには、ブレード124の押圧を相対的に大きくすると、ノズル面50Aの付着物を確実に除去できる。
【0164】
即ち、ノズル面50Aの汚れの状態に応じて、汚れ具合が基準よりも大きい時にはブレード124の押圧を基準よりも大きくし、汚れ具合が基準よりも大きい時にはブレード124の押圧を基準よりも大きくし、汚れ具合が基準よりも小さいときにはブレード124の押圧を基準よりも小さくするようにブレード124の押圧を制御するとよい。ノズル面50Aの汚れ具合を検出する一例を挙げると、ノズル面50Aを撮像するCCDを備え、CCDの撮像結果からノズル面50Aの汚れを判断する態様が挙げられる。
【0165】
ヘッド50のメンテナンスユニット100の走査方向Wの下流側端部には、吸収体130が備えられている。メンテナンスユニット100がヘッド50のメンテナンスユニット100の走査方向Wの下流側端部の吸収体130と接触すると、ノズル面50Aとインク貯留部材120との間のメニスカスが破壊され、インク貯留部材120上のインク溜まり(インク122)は消失する。
【0166】
吸収体130に代わり、ヘッド50のメンテナンスユニット100の走査方向Wの下流側端部にインク保持面121の大きさに対応する面積を有する親水処理領域を備えてもよい。当該親水処理領域にノズル面50Aとインク貯留部材120との間のインク122が接触すると、ノズル面50Aとインク貯留部材120との間のメニスカスが破壊され、インク122の一部は親水処理領域に付着し、残りのインクはインク排出路(図8参照)に流出する。親水処理領域に付着したインクは、ブレード124で拭き取られる。
【0167】
即ち、ヘッド50のメンテナンスユニット100の走査方向Wの下流側端部にインク保持面121と極端に濡れ性の違う部材を備えることで、ノズル面50Aとインク保持面121との間のメニスカスが泣き分かれ、メニスカスが破壊される。
【0168】
なお、吸収体130に代わりブレードを備える態様も好ましい。吸収体130はある程度インクを吸収すると交換する必要があるが、吸収体130に代わりブレードを備える態様や、ノズル面50Aの一部を親水処理領域とする態様では、メンテナンス(部品交換)が不要となる。
【0169】
図8は、メンテナンスユニット100をノズル面50A側から見た概略平面図である。同図に示すように、インク保持面121の外周にはインク保持面121から溢れたインクを回収するインク回収路140が設けられ、更に、インク回収路140にはインク保持面121から回収したインクをメンテナンスユニット100の外部に排出する排出口142が設けられている。
【0170】
インク回収路140は、インク貯留部材120側(上面)に所定幅の開口を有する溝であり、インク保持面121が形成される面よりも低い位置に設けられている。また、インク回収路140内のインクがその自重で排出口142へ流れるように、インク回収路140の最も低い位置に排出口142が配置され、排出口142に向かって傾斜する傾斜面を有する構造となっている。また、インク回収路140には撥水処理が施される。インク回収路の幅を4mm以上10mm以下とし、インク保持面121とインク回収路140との高低差を10mm以上20mm以下とする態様が好ましい。
【0171】
インク保持面121は、インクにより腐食しない耐インク性を有するとともに、インクが浸透しない非浸透部材が好適に用いられる。例えば、インク保持面121には、プラスチック(樹脂)、金属、ゴムなどが好適に用いられる。
【0172】
また、インク保持面121には親水処理が施される。一方、インク保持面121の走査方向Wの下流側の端部およびその近傍には撥水処理領域144が形成される。即ち、インク保持面121の走査方向Wの下流側端部から所定の範囲に、撥水処理と親水処理の境界が設けられる。
【0173】
撥水処理領域144の走査方向Wの長さ(インク保持面121の走査方向Wの下流側端部から撥水処理領域と親水処理領域の境界部までの長さ)l1は、インク保持面121の走査方向Wの全体の長さlmの10%以下とするとよい。なお、インク保持面121が含まれる面146と、インク保持面121が含まれる面146に交差する垂直面148(この面には撥水処理が施される)と、の境界部の角エッジ部150に親水処理と撥水処理の境界部を形成してもよい。
【0174】
このように、インク保持面121に親水処理を施すことでインクが均一にぬれ広がり、メンテナンスユニット100の払拭性能(ノズル面をウエット化する効率)の向上が見込まれる。一方、インク保持面121の走査方向Wの下流側端部から所定の範囲に撥水処理を施すことで、インク保持面121に保持されたインクが走査方向Wの下流側端部から外側にもれ出すことがなく、インク保持面121に安定してインクが保持される。
【0175】
また、インク保持面121の走査方向Wと平行な両端部152、154にも撥水処理を施す(撥水処理と親水処理の境界を形成する)と、走査方向Wと平行な両端部152、154からのインク漏れを防止でき、より好ましい。
【0176】
本例でいう「撥水処理」とはインク保持面121に対するインクの接触角が45°以上の状態をいい、「親水処理」とはインク保持面121に対するインクの接触角が30°未満の状態をいう。
【0177】
図9には、本発明の実施形態に係るヘッド50のノズル面50Aのメンテナンス方法のフローチャートを示す。インクジェット記録装置10の動作モードがメンテナンスモードに移行すると(ステップS10)、ヘッド50をメンテナンス位置に移動させるとともに(ステップS12)、メンテナンスユニット100をヘッド50の直下のメンテナンス開始位置(図7(a)に示すヘッドブロック50−1の直下の位置)に移動させる(ステップS14)。
【0178】
ステップS14において、メンテナンスユニット100が1番目のヘッドブロック50−1の走査方向Wの上流側端部のメンテナンス開始位置に配置されると、1番目のヘッドブロック50−1のノズル面50Aのメンテナンス処理が実行される。
【0179】
即ち、ヘッドブロックの番号KにK=1が代入され(ステップS16)、メンテナンスユニット100は走査を開始するとともに、インク貯留部材120の走査方向Wにおける位置が監視される(ステップS18)。
【0180】
ステップS18において、インク貯留部材120がヘッドブロック50−1(メンテナンス処理対象のヘッドブロック)の下を通過中ではない(メンテナンス処理対象のヘッドブロックの下に位置していない)と判断されると(NO判定)、インク貯留部材120の位置の監視が継続され(ステップS18)、インク貯留部材120が1番目のヘッドブロック50−1の下を通過中であると判断されると(YES判定)、ヘッドブロック50−1と連通するサブタンク61−1に備えられたポンプ69−1を動作させて、ヘッドブロック50−1の内部圧力が正圧に変更され、ヘッドブロック50−1からインク貯留部材120にインクが供給される(ステップS20)。
【0181】
サブタンク61−1(メンテナンス処理対象のヘッドブロックに対応するサブタンク)の加圧タイミングは、サブタンク61−1の容量やポンプ69−1の能力によって決められる。即ち、サブタンク61−1を加圧してからヘッドブロック50−1のノズルからインクが流出し始めるまでの時間を予め把握しておき、サブタンク61−1を加圧してからヘッドブロック50−1のノズルからインクが流出し始めるまでの時間を考慮して、サブタンク61−1の加圧タイミングが決められる。また、1番目のヘッドブロック50−1からインク貯留部材120にインクを供給するときには、圧電素子58による加圧を併用するとよい。
【0182】
1番目のヘッドブロック50−1からインク貯留部材120にインクを供給するときには、インク貯留部材120にインクが存在していないので、ヘッドブロック50−1の内部圧力を正圧にしただけではノズルからインクが流れ出てこないことがあり得る。特に、高粘度インクを使用するときには、この現象が顕著となる。
【0183】
したがって、圧電素子58による加圧を併用することで、確実にノズルからインクを流出させることができる。また、使用するインクの粘度に応じて、インクの粘度が相対的に高い場合には内部圧力を相対的に高くするとよい。
【0184】
ヘッドブロック50−1からインク貯留部材120にインクが供給されると、毛細管力によってノズル面50Aとインク貯留部材120との間にインクが広がり、ヘッドブロック50−1のノズル面50Aはウエット化される。ノズル面50Aとインク貯留部材120との間のインクは、ノズル面50Aに付着する増粘インクを溶解(再分散)させ、ゴミや紙粉をノズル面50Aから浮遊させる。
【0185】
インク貯留部材120がヘッドブロック50−1の下を通過中には、インク貯留部材120がヘッドブロック50−1の下を通過したか否かが判断される(ステップS22)。
【0186】
ステップS22において、インク貯留部材120がヘッドブロック50−1の下を通過中であると判断されると(NO判定)、インク貯留部材120がヘッドブロック50−1の下を通過したか否かの判断が継続され(ステップS22)、インク貯留部材120がヘッドブロック50−1の下を通過したと判断されると(YES判定)、ヘッドブロック50−1と連通するサブタンク61−1に備えられるポンプ69−1を動作させて、ヘッドブロック50−1の内部圧力が大気圧に変更される(ステップS24)。
【0187】
ステップS24では、インク貯留部材120がヘッドブロック50−1の下を通過したときに(ヘッドブロック50−1のウエット化が終了したときに)、ヘッドブロック50−1の内部圧力を正圧から大気圧に下げる制御が行われる。なお、ヘッドブロック50−1の内部圧力を負圧(メンテナンス処理前の圧力)に変更してもよいが、ヘッドブロック50−1の内部圧力を大気圧にすることで、ノズル面50Aに付着したインクや気泡がノズル内に逆流することがなく、当該メンテナンス処理の効果が大きくなる。ステップS24において、ヘッドブロック50−1の内部圧力が大気圧に変更されると、ブレード(払拭部材)124の位置が監視される(ステップS26)。
【0188】
ステップS26において、ブレード124がヘッドブロック50−1の下を通過中であり、ヘッドブロック50−1のノズル面50Aのワイピング処理中であると判断されると(NO判定)、ブレード124の位置の監視が継続される(ステップS26)。一方、ブレード124がヘッドブロック50−1の下を通過し、ワイピング処理が終了したと判断されると(YES判定)、ヘッドブロック50−1の内部圧力は負圧に変更され(ステップS28)、ステップS30に進む。
【0189】
ステップS30では、メンテナンス処理が終了したヘッドブロックが最終ヘッドブロック50−Nであるか否かが(K=Nであるか否かが)判断される。ステップS30において、K=Nではないと判断されると(NO判定)、ステップS32に進み、次のヘッドブロック(K+1番目のヘッドブロック)の処理に移行する。即ち、KにK+1が代入され、ステップS18に進み、2番目のヘッドブロック50−2以降のヘッドブロック50−Kについて、ステップS18からステップS30の工程が繰り返される。
【0190】
2番目以降のヘッドブロック50−Kからインク貯留部材120へインクを供給する場合にはインク貯留部材120にインクがあるので、インク貯留部材120上のインクにノズル内のインクを接触させる程度に加圧すればノズルからインクを流出させることができる。したがって、圧電素子58による加圧を併用しなくても、ヘッドブロック50−Kの内部圧力の変更のみでインク貯留部材120にインクを供給可能である。
【0191】
一方、ステップS30において、K=Nである(最終ヘッドブロック50−Nのメンテナンス処理が終了した)と判断されると(YES判定)、メンテナンスユニット100の動作を停止するとともに(ステップS34)、ヘッド50を待機ポジションへ移動させて(ステップS36)、当該メンテナンス処理制御は終了される(ステップS38)。
【0192】
本例では、インク貯留部材120にインクを供給する方法として、サブタンク60−Kを加圧する態様を例示したが、圧電素子58による加圧によってインク貯留部材120にインクを供給する態様も可能である。インク貯留部材120へのインク供給に圧電素子58による加圧を適用すると、ノズル面50Aのウエット化に必要なインク量をインク貯留部材120へ供給できるかが問題となる。
【0193】
例えば、吐出周波数20kHzで1回の吐出動作において最大10plのインク液滴を吐出することができる能力を有するヘッドを適用する。インク保持面121のヘッド長手方向の長さlm=60mm、インク保持面121のヘッド短手方向の長さls=40mm、吐出解像度2400dpi(ここでは、1インチあたりのノズル数の置き換え)の場合には、インク保持面121の直上のノズル数は約5800個である。また、ノズル面50Aとインク保持面121のクリアランスを2mmとすると、ノズル面50Aとインク保持面121との空間の容積は480mm3=0.48mlとなる。
【0194】
上述したノズル面50Aとインク保持面121との間の空間に対して、上述した液体供給能力を有するヘッドは、1秒間に10(pl)×5800(ノズル)/50(μsec)≒1(ml)のインクを供給することができ、この値はノズル面50Aとインク保持面121との間の空間の容積に対して十分大きな値である。したがって、上述した条件を満たすヘッドによって、ノズル面50Aのウエット化に必要なインク量を供給可能である。
【0195】
なお、インク貯留部材120へのインク供給に圧電素子58による加圧を適用できると、内部圧力を変更するためのサブタンク61−K及びポンプ69−Kを省略可能である。
【0196】
ノズル面50Aとインク貯留部材120との間のクリアランスを相対的に小さくすると、ノズル面50Aとインク貯留部材120との間のインクの流れが悪くなり、ノズル面50Aの付着物の除去効率が悪化することが懸念されるので、ノズル面50Aの汚れの度合いをCCDなどのセンサによって検出し、ノズル面50Aの付着物の量が多い場合(ノズル面50Aの汚れの程度が大きい場合)には、ノズル面50Aとインク貯留部材120との間のクリアランスを相対的に大きくするようにインク貯留部材120の上下移動機構104を動作させるとよい。
【0197】
上記の如く構成されたインクジェット記録装置10は、フルライン型のヘッド50のノズル面50Aと対向する位置にノズル面50Aと所定の距離を維持して配置されるインク貯留部材120にヘッド50からインクを供給し、インク貯留部材120をヘッド50の長手方向に走査させるように構成される。したがって、ノズル面50Aとインク貯留部材120との間のインクによって、ノズル面50Aを短時間でウエット化することができる。記録紙16の記録可能幅に対応する幅を有する長尺ヘッド(ラインヘッド)を備える場合にも、ヘッド50とメンテナンスユニット100とをヘッド50の長手方向に相対的に1回だけ走査させることで、ヘッド50のノズル面50Aの全面をウエット化することができる。
【0198】
また、インク貯留部材120の移動に合わせてヘッド50からフレッシュなインクが供給されるので、ノズル面50Aとインク貯留部材120との間において、汚れが濃縮されることがなく、ノズル面50Aに付着した付着物の溶解時間を短縮化される。
【0199】
更に、インク貯留部材120のインク保持面121には親水処理が施されるので、インク保持面121には確実にインクが保持される。更にまた、インク保持面121のメンテナンスユニット100の走査方向下流側端部及びその近傍に撥水処理領域144を備えることで、インク保持面121のメンテナンスユニット100の走査方向Wの上流側端部にインクが流れやすくなり、余剰インクの回収が容易となるとともに、インク保持面121のメンテナンスユニット100の走査方向Wの下流側端部からのインク漏れが防止される。
【0200】
〔応用例〕
次に、図10及び図11を用いて、本発明の実施形態に係る応用例について説明する。図10は、本例のインク貯留部材220の立体構造を示す断面図である。また、図11には、図10に示すインク貯留部材220にヘッド50からインクを供給している状態を模式的に図示する。なお、本応用例において、先に説明した第1実施形態と同一または類似する部分には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0201】
図10に示すインク貯留部材220は、インク保持面121をメンテナンスユニット100の走査方向Wの下流側から上流側に向かって(図10における右側から左側へ)低くなるように傾斜させている。
【0202】
図11に示すように、ノズル面50Aとインク貯留部材120(インク保持面121)との距離を走査方向Wの上流側から下流側に向かって徐々に狭くなるように構成することで、ノズル面50Aとインク保持面121との間に形成されるメニスカスが破壊されにくくなり、メンテナンスユニット100が移動してインク保持面121に貯留されるインク122がノズル面50Aとのズリや移動により生じる風(空気の対流)の影響を受けても、インク保持面121にインク122を貯留することができる。
【0203】
また、インク保持面121に傾き(斜面)を設けることで、走査方向Wの下流側から上流側に向かうインクの流れ(図11に符号Aで図示)が安定するとともに、インク保持面121から溢れたインクはインク保持面121の傾きに沿ってインク回収路140へ流れるので、メンテナンスユニット100の走査方向下流側へのインク漏れが防止され、且つ、インク保持面121にはヘッド50からノズル51を介して供給された新しいインクが保持される。
【0204】
図11には、インク貯留部材120にインクを供給するノズル(加圧されているノズル)51Bのインクの流れ方向を符号Bで図示する。また、ノズル面50Aをウエット化しているインクを符号122’で図示する。
【0205】
なお、インク保持面121と水平面230とのなす角αは、ノズル面50Aとインク保持面121との距離が1mm以上5mm以下の範囲において、5°以上30°未満とする態様が好ましい。
【0206】
図10及び図11には、インク保持面121の全体を斜面で形成する態様を示したが、例えば、インク保持面121の走査方向Wの下流側端部から中央部までのように、インク保持面121の一部を斜面としてもよい。また、インク保持面121に形成される斜面の頂上部に撥水処理部(図8参照)を設ける態様も好ましい。また、インク保持面121を水平面で構成し、インク貯留部材120の全体を傾けるように構成してもよい。
【0207】
〔第2実施形態〕
次に、図12を用いて、本発明の第2実施形態について説明する。図12には、第2実施形態に係るインク貯留部材320を図示する。
【0208】
図12に示すように、インク貯留部材320のインク保持面321の略中央部には、ノズル面50Aをウエット化するためのクリーニング液322が供給されるクリーニング液供給口360が設けられている。
【0209】
即ち、インク貯留部材320は、インク保持面321の略中央部に形成されたクリーニング液供給口360と、クリーニング液供給口360に連通するクリーニング液供給路362と、クリーニング液を貯留するクリーニング液タンク(不図示)と、クリーニング液をクリーニング液供給口360に送液するポンプなどの送液装置(不図示)と、を備えている。
【0210】
図12に示すインク貯留部材320は、不図示のクリーニング液供給タンクからクリーニング液供給路362及びクリーニング液供給口360を介してインク保持面321にクリーニング液322が供給される。インク貯留部材320へのクリーニング液の供給は連続的に行ってもよいし、間欠的に行ってもよい。
【0211】
ノズル面50Aをウエット化するためのクリーニング液には、水(純粋)、インク(色材を含有しない透明インク)などが好適に用いられる。もちろん、ノズル面50Aに付着した増粘インクを溶解する機能や、ノズル面50Aに付着したゴミや紙粉を浮遊させる機能を有し、ブレード124によるワイピング処理によってノズル面50Aから除去可能な液体であれば、水、インク以外の液体を用いてもよい。
【0212】
図12に示すように、インク保持面321に設けられるクリーニング液供給口360の周囲には、凹部364が形成される。なお、クリーニング液供給口360は、インク保持面321の中央部よりも走査方向Wの下流側に設けてもよい。また、クリーニング液供給口360を複数備える態様も好ましい。
【0213】
本発明の第2実施形態によれば、インク貯留部材320にヘッド50からインクを供給することが不要となり、また、清掃性に優れたクリーニング液によってノズル面50Aがウエット化されるので、メンテナンス効率の向上を図ることができる。
【0214】
本例では、本発明に係るノズル面のメンテナンス方法を適用可能な装置例として、記録媒体上にカラー画像を形成するインクジェット記録装置を示したが、本発明は、ディスペンサーなどの他の液体吐出装置にも広く適用可能である。
【符号の説明】
【0215】
10…インクジェット記録装置、12K,12C,12M,12Y,50…ヘッド(ヘッドブロック)、50A…ノズル面、51…ノズル、58…圧電素子、61…サブタンク、69…ポンプ、72…システムコントローラ、79…ポンプドライバ、84…ヘッドドライバ、100…メンテナンスユニット、120,220,320…インク貯留部材、121、321…インク保持面、360…クリーニング液供給口、362…クリーニング液供給路
【技術分野】
【0001】
本発明は液体吐出装置に係り、特に液体吐出ヘッドの液体吐出面のメンテナンス技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、汎用の画像形成装置として、ヘッドから記録媒体上にインク液滴を吐出して所望の画像を形成するインクジェット記録装置が広く用いられている。インクジェット記録装置では、吐出の際に飛び散ったインクや塵埃などがヘッドのノズル面に付着すると、インクの吐出方向が曲がりインクの着弾位置にズレが生じたり、ノズルから所定量のインクを吐出することができない吐出異常が発生したりすることがある。したがって、インクジェット記録装置は、ヘッドのノズル面に付着した付着物を定期的に除去するように構成されている。
【0003】
ヘッドのノズル面には、所定の吐出性能を維持する目的で撥水膜が形成されている。ノズル面の付着物を除去する際にブレードを用いてノズル面を払拭すると、ノズル面の撥水膜を傷付けてしまい、撥水膜の劣化に起因した吐出性能低下が発生することがある。その対策としてノズル面をウエット化した後に払拭処理を行う方法が提案されている。
【0004】
また、特許文献1には、ノズル板と対向する位置にクリーニング板を配置し、ノズル板とクリーニング板との間にインク等の溶液を満たした後に、ノズル板とクリーニング板の距離を離すことでノズル板とクリーニング板との間の溶液がクリーニング板の方へ移動し、ノズル板にダメージを与えることなくノズル板をクリーニングする方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−96125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ノズル面のウエット化した後にブレードを用いてノズル面を払拭する方法では、一般に、ウエット化処理には払拭処理と同程度の処理時間を要するので、ワイピング処理のみを行う方式に比べて略2倍の処理時間が必要となってしまう。ノズル面を短時間にウエット化しようとすると、ウエット化処理のための装置をヘッドの大きさに対応させる必要があり、ウエット化処理のための装置が大型化してしまう。
【0007】
また、ウエット化処理を短時間で実施しようとすると、ノズル面のウエット化にムラが生じてしまうことがあり、撥水膜保護の観点から好ましくない。特に、フルライン型ヘッドを備える場合には、ウエット化処理の時間やウエット化処理のための装置の大型化は問題となる。
【0008】
また、特許文献1に記載の発明をフルラインヘッドに適用すると、次のような課題が存在する。
【0009】
クリーニング板の長さがラインヘッドの長手方向の長さよりも短い場合には、ヘッド全体のメンテナンスを行うために同じ工程を数回にわたって繰り返す必要があり、相当の処理時間が必要になる。一方、クリーニング板をラインヘッドの長手方向の長さに対応する長さに構成し、1回の工程でヘッド全体のメンテナンスを可能とすると、処理時間の短縮化には寄与するが、クリーニング板及びクリーニング板の移動機構が大型化してしまい、結果として装置全体が大型化し、更に装置全体のコストアップの要因ともなる。
【0010】
また、特許文献1に記載の発明では、ノズル板とクリーニング板の間に存在する溶液に流れが存在しないので、ノズル面に付着した増粘インクやインクに起因する付着物を清掃する場合に、これらの溶解には拡散のみが寄与することになり、当該付着物を短時間で溶解できず、クリーニングに要する時間(メンテナンス時間)が長くなってしまうことが懸念される。
【0011】
更に、特許文献1の図3に図示された方法では、ノズル板とクリーニング板との間の溶液をクリーニング板の方へ移動させるときにクリーニング板を傾けるので、クリーニング板上に溶液が広がってしまい、クリーニング板からクリーニング板の外側に落ちた溶液によって装置内を汚してしまうおそれがある。更にまた、特許文献1の図4に図示された方法では、クリーニング板を平行に移動させるので、クリーニング板上の溶液に移動した付着物がノズル面に再付着してノズル面を汚してしまうおそれがある。即ち、特許文献1の図3及び図4に図示された方法は、何れもノズル板や装置内を汚すことなくノズル面のクリーニングを行うことや、ノズル板のクリーニングに用いた溶液を回収することが困難である。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、省スペース化された構成で、効率よく且つ短時間で液体吐出面のメンテナンスを可能とする液体吐出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明に係る液体吐出装置は、液体を吐出する複数のノズルが主走査方向に沿って並べられたノズル列を有する吐出ヘッドと、前記主走査方向と直交する副走査方向における前記ノズルが配設されるノズル配設領域の長さに対応する前記副走査方向の長さを有する液体保持面を具備し、前記液体保持面に連続的又は間欠的に液体が供給される液体貯留部材と、前記吐出ヘッドの前記ノズルが形成されるノズル面と対向して前記ノズル面と所定の距離を保ちつつ、前記液体保持面の液体を前記ノズル面に接触させながら、前記液体貯留部材を前記主走査方向に沿って前記ノズル列の全長にわたって移動させる移動手段と、前記液体貯留部材に供給された液体によって湿潤化された前記ノズル面を前記液体貯留部材に後続して移動しながら払拭し、前記ノズル面に付着した付着物を除去する払拭手段と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、液体貯留部材の液体保持面に連続的又は間欠的に液体を供給し、該液体保持面の液体をノズル面に接触させながら液体貯留部材を主走査方向に沿ってノズル列の全長にわたって移動させるので、当該吐出ヘッドのノズル面のノズル配設領域を短時間で湿潤させることができる。
【0015】
また、液体保持面に供給された液体によってノズル面を湿潤させた後に、ノズル面を払拭するので、ノズル面に付着した増粘インクやごみ、紙粉などの付着物を確実に溶解し、除去することができる。更に、ノズル面の払拭処理はウエットワイピングとなるので、ノズル面の撥水膜の傷つきや磨耗が防止される。
【0016】
インク貯留部材の移動方向上流側にインク貯留部材と所定の間隔をおいて払拭手段を配置し、インク貯留部材と払拭手段とを一体に移動させる態様が好ましい。
【0017】
また、ノズル面の湿潤化に好ましい液体を適宜用いることができ、清掃性能の向上が見込まれる。また、液体保持面上の液体に移動方向と反対方向の流れが発生するので、ノズル面の付着物を短時間で溶解又は浮遊させることができる。
【0018】
前記液体保持面に液体を連続的又は間欠的に供給する液体供給手段を備える態様が好ましい。
【0019】
液体供給手段は、供給口と連通する液体供給路と、供給口を介して液体保持面に供給される液体を貯留する液体貯留手段と、を備える態様が好ましい。
【0020】
前記液体貯留部材は、前記液体供給手段から供給される液体の供給口が液体保持面に備えられる態様が好ましい。
【0021】
前記液体貯留部材の移動方向下流側端部における前記ノズル面との距離よりも上流側端部におけるノズル面との距離が大きくなる構造の傾斜面を有し、前記傾斜面に沿う液体の流れを前記ノズル面に接触させる態様が好ましい。
【0022】
また、前記液体供給手段は、前記吐出ヘッドを含む態様も好ましい。
【0023】
かかる態様によれば、インク保持面に液体を供給する構成を別途設ける必要がなく、装置構成の簡素化が可能である。
【0024】
インク貯留部材の位置を判断する判断手段を備え、判断手段の判断結果に基づいてインク貯留部材の位置に対応して吐出ヘッドから液体を供給するように構成する態様が好ましい。
【0025】
液体保持面に吐出ヘッドから液体を供給する態様では、吐出ヘッドの内部圧力を可変させる内部圧力可変手段と、内部圧力可変手段を制御する内部圧力制御手段と、を備え、液体供給時には、内部圧力制御手段によって内部圧力可変手段を制御して、吐出ヘッドの内部圧力を正圧に変更する態様が好ましい。
【0026】
上記液体吐出装置において、前記液体貯留部材は、少なくとも前記液体保持面の前記液体貯留部材の移動方向上流側端部に前記液体保持面上の液体を回収する液体回収路を備える態様も好ましい。
【0027】
かかる態様によれば、液体保持面(液体貯留部材)から溢れた液体は液体回収路に回収されるので、液体保持面から溢れた液体によってヘッドの周囲を汚すことがない。
【0028】
液体保持面の外周部の全周にわたって液体回収路を備えると、液体保持面のあらゆる方向からの液漏れに対応でき、より好ましい。
【0029】
上記液体吐出装置において、前記液体保持面は、少なくとも一部に親液処理が施される態様が好ましい。
【0030】
かかる態様によれば、液体保持面の液体に対する濡れ性を確保でき、液体保持面上で液体が濡れ広がり、液体を保持しやすくなる。
【0031】
液体保持面の液体貯留部材の移動方向における中央部を含む領域に対して親水処理を施す態様が好ましく、液体保持面の端部以外の領域に対して親水処理を施す態様がより好ましい。
【0032】
前記液体吐出装置において、前記液体保持面の前記液体貯留部材の移動方向の下流側端部に撥水処理が施される態様が好ましい。
【0033】
かかる態様によれば、液体保持面の液体貯留部材の移動方向の下流側端部における撥水性を確保でき、液体保持面の液体貯留部材の移動方向の下流側端部から外部への液体の流出が防止され、液体保持面に液体を保持しやすくなるとともに、液体保持面からの液体の回収も容易になる。
【0034】
液体保持面の移動方向の下流側端部に親水処理と撥水処理の境界が設けられる態様も好ましい。
【0035】
液体吐出装置には、ノズルからインクを吐出させて記録媒体上に画像を形成するインクジェット記録装置が含まれる。カラー画像記録に対応して色ごとにヘッドを備える態様では、液体貯留部材と、移動手段と、払拭手段と、を含むメンテナンス手段をヘッドごとに備える態様が好ましい。もちろん、複数のヘッドに共通のメンテナンス手段を備え、メンテナンス手段がヘッド間を移動可能に構成してもよい。
【0036】
被吐出媒体上に吐出される液体には、インクの他に、液状レジストなどのパターン形成体や、樹脂微粒子を含有する樹脂液、インク等と作用して所定の機能を発現させる処理液、水、薬液など、ノズルから吐出可能な物性を有する液体が挙げられる。
【0037】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の液体吐出装置の一態様に係り、前記吐出ヘッドは、液体を吐出する複数のノズルが被吐出媒体の1辺の長さに対応する長さにわたって、前記主走査方向に沿って並べられたノズル列を少なくとも1列有するライン型吐出ヘッドであることを特徴とする。
【0038】
ライン型吐出ヘッドには、複数のヘッドブロックを組み合わせて構成する態様を含んでいてもよい。
【0039】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の液体吐出装置の一態様に係り、前記吐出ヘッドの内部圧力を可変させる内部圧力可変手段と、前記吐出ヘッドから前記液体貯留部材へ液体を供給するときに、前記吐出ヘッドの内部を正圧にするように前記内部圧力可変手段を制御する内部圧力制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0040】
内部圧力制御手段は、吐出データに基づく液体吐出時や吐出待機時には、吐出ヘッドの内部圧力が負圧になるように内部圧力可変手段を制御する。
【0041】
ここでいう正圧、負圧には、正圧>大気圧>負圧の関係がある。
【0042】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の液体吐出装置の一態様に係り、前記内部圧力可変手段は、前記吐出ヘッドと連通するサブタンクと、前記サブタンク内の液体を加圧する加圧手段と、を含むことを特徴とする。
【0043】
サブタンクには、内部の液体が大気と遮断される密閉型のサブタンクを用いる態様が好ましい。なお、内部の液体が大気と連通する開放型のサブタンクを用いる態様では、サブタンクを昇降させる昇降手段を備え、サブタンクとヘッドとの水頭圧差によりヘッドの内部圧力を可変させることができる。
【0044】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれか1項に記載の液体吐出装置の一態様に係り、前記複数のノズルのそれぞれに対して設けられ、前記ノズル内の液体に吐出力を付与する吐出力付与手段と、前記吐出ヘッドから前記液体貯留部材へ液体を供給するときに、前記ノズルを介して前記液体貯留部材へ液体を供給するように前記吐出力付与手段の動作を制御する吐出制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0045】
請求項5に記載の発明によれば、吐出ヘッドに設けられた複数のノズルの中から選択的に液体を流出させて、液体貯留部材に液体を供給可能である。
【0046】
吐出力付与手段には、ノズルと連通する圧力室を構成する壁面に備えられた圧電素子や、圧力室内の液体に膜沸騰現象を生じさせるヒータ(加熱手段)が好適に用いられる。
【0047】
吐出制御手段には、吐出力発生手段に与える制御信号を生成する制御信号生成手段を含んでいてもよい。
【0048】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の液体吐出装置の一態様に係り、前記吐出制御手段は、前記液体貯留部材に対して前記液体貯留部材の移動方向下流側のノズルから選択的に液体を吐出するように前記吐出力付与手段を制御することを特徴とする。
【0049】
請求項6に記載の発明によれば、液体保持面において液体の流れを発生させることができるとともに、液体の消費量の低減化にも寄与する。
【0050】
請求項7に記載の発明は、請求項3から6のいずれか1項に記載の液体吐出装置の一態様に係り、前記吐出ヘッドは、複数のヘッドブロックが前記主走査方向に沿って並べられた構造を有するとともに、前記複数のヘッドブロックのそれぞれに前記内部圧力可変手段を具備し、前記内部圧力制御手段は、前記液体貯留部材が直下に位置するヘッドブロックから液体を供給するように、各ヘッドブロックの前記内部圧力可変手段を制御することを特徴とする。
【0051】
請求項7に記載の発明によれば、液体供給に寄与しないヘッドブロックでは、内部圧力を負圧にすることで、ノズルからの液体漏れが防止される。
【0052】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の液体吐出装置の一態様に係り、前記内部圧力制御手段は、ノズルから液体を流出させるヘッドブロックの内部圧力を正圧にするとともに、前記払拭手段によってノズル面が払拭されるヘッドブロックの内部圧力を大気圧にすることを特徴とする。
【0053】
請求項8に記載の発明によれば、払拭処理対象となるヘッドブロックでは、内部圧力を大気圧にすることで、ノズル面の付着物や気泡がノズル内に入り込むことが防止される。前記液体吐出装置において、前記液体の供給口は、前記液体保持面の傾斜面の中央部に設けられる態様も好ましい。前記液体吐出装置において、前記液体の供給口は、前記液体保持面の傾斜面の中央部よりも傾斜面の前記移動方向下流側に設けられる態様も好ましい。前記液体吐出装置において、前記液体保持面は、前記液体の供給口の周囲に凹部が設けられている態様も好ましい。前記液体吐出装置において、前記液体保持面は、前記ノズル面との距離が1ミリメートル以上5ミリメートル以下の場合に、前記ノズル面に対する傾斜角度が5度以上30度以下である。前記液体吐出装置において、前記液体保持面の一部に、前記傾斜面が設けられている。前記液体吐出装置において、前記液体保持面は、前記移動方向下流側端部から中央部まで、前記傾斜面が設けられている。前記メンテナンス装置を備えた液体吐出装置も好ましい。
【0054】
また、本発明は方法発明を提供する。即ち、液体を吐出する複数のノズルが主走査方向に沿って並べられたノズル列を有する吐出ヘッドの前記複数のノズルが形成されるノズル面と、前記ノズル面と対向する位置に、前記ノズル面と所定の距離をおいて配置されるとともに、前記主走査方向と直交する副走査方向における前記ノズルが配設されるノズル配設領域の長さに対応する前記副走査方向の長さを有する液体保持面を具備する液体貯留部材と、を前記主走査方向に沿って前記ノズル列の全長にわたって移動させ、前記液体貯留部材の移動方向下流側端部における前記ノズル面との距離よりも上流側端部におけるノズル面との距離が大きくなる構造の傾斜面を有する前記液体保持面に備えられた液体の供給口から、前記液体保持面へ連続的又は間欠的に液体が供給され、前記液体保持面に供給された前記傾斜面に沿う液体の流れを前記ノズル面に接触させ、前記液体貯留部材に供給された液体によって湿潤化された前記ノズル面のノズル配置領域を払拭し、前記ノズル面に付着した付着物を除去する。
【0055】
吐出データによる吐出を行う通常吐出モードと、ノズル面のメンテナンスを行うメンテナンスモードとを切り換えるモード切替工程と、メンテナンス工程に移行したときには、インク貯留部材を有するメンテナンス手段を所定の退避位置からヘッド直下のメンテナンス位置に移動させる移動工程と、を含む態様が好ましい。
【0056】
また、ヘッドが複数のヘッドブロックを並べた構造を有する態様では、ノズル面の湿潤処理工程が実行されるヘッドブロックのインク貯留部材の移動方向上流側に隣接するヘッドブロックでは、ノズル面の払拭工程が行われる態様が好ましい。
【0057】
言い換えると、隣接する2つのヘッドブロックにおいて、インク貯留部材の移動方向下流側のヘッドブロックはノズル面の湿潤工程が実行されるとともに、インク貯留部材の移動方向上流側のヘッドブロックはノズル面の払拭工程が実行される態様が好ましい。なお、ノズル面の湿潤工程が実行されるヘッドブロックと、ノズル面の払拭工程が実行されるヘッドブロックの間に湿潤工程が終了し、払拭工程の待機状態のヘッドブロックを有していてもよい。
【発明の効果】
【0058】
本発明によれば、液体貯留部材の液体保持面に連続的又は間欠的に液体を供給し、液体保持面に供給された液体をノズル面に接触させながら液体貯留部材を主走査方向に沿ってノズル列の全長にわたって移動させるので、ノズル面を短時間に湿潤させることができる。
【0059】
また、液体保持面に供給された液体によってノズル面を湿潤させた後に、ノズル面を払拭するので、ノズル面に付着した増粘インクやごみ、紙粉などの付着物を確実に除去することができる。更に、ノズル面の払拭処理はウエットワイピングとなるので、ノズル面の撥水膜の傷つきや磨耗が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の全体構成図
【図2】図1に示すインクジェット記録装置の印字部周辺の要部平面図
【図3】ヘッドの構造例を示す平面透視図
【図4】図3中4−4線に沿う断面図
【図5】図1に示すインクジェット記録装置のインク供給系の構成を示す概要図
【図6】図1に示すインクジェット記録装置の制御系の構成を示す概要図
【図7】図5に示すメンテナンス装置の説明図
【図8】図7に示すインク貯留部材の概略平面図
【図9】本発明の実施形態に係るノズル面メンテナンス方法の制御の流れを示すフローチャート
【図10】本発明の応用例に係るインク貯留部材の立体構造を示す断面図
【図11】本発明の応用例に係るノズル面メンテナンス方法の説明図
【図12】本発明の第2実施形態に係るインク貯留部材の立体構造を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について詳説する。
【0062】
〔インクジェット記録装置の全体構成〕
図1は、本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置10の全体構成を示す概略図である。同図に示すように、インクジェット記録装置10は、黒(K),シアン(C),マゼンタ(M),イエロー(Y)の各インクに対応して設けられた複数のインクジェットヘッド(以下、ヘッドという。)12K,12C,12M,12Yを有する印字部12と、各ヘッド12K,12C,12M,12Yに供給するインクを貯蔵しておくインク貯蔵/装填部14と、記録媒体(被吐出媒体)たる記録紙16を供給する給紙部18と、記録紙16のカールを除去するデカール処理部20と、各ヘッド12K,12C,12M,12Yのノズル面に対向して配置され、記録紙16の平面性を保持しながら記録紙16を搬送する吸着ベルト搬送部22と、印字部12の印字結果を読み取る印字検出部24と、記録済みの記録紙(プリント物)を外部に排紙する排紙部26と、を備えている。
【0063】
インク貯蔵/装填部14は、各ヘッド12K,12C,12M,12Yに対応する色のインクを貯蔵するインク供給タンク(図1中不図示、図5に符号60で図示)を有し、各色のインクは所要のインク流路を介してヘッド12K,12C,12M,12Yと連通されている。
【0064】
また、インク貯蔵/装填部14は、インク残量が少なくなるとその旨を報知する報知手段(表示手段、警告音発生手段)を備えるとともに、色間の誤装填を防止するための機構を有している。なお、図1に示すインク貯蔵/装填部14を含むインク供給系の詳細は後述する。
【0065】
図1では、給紙部18の一例としてロール紙(連続用紙)のマガジンが示されているが、紙幅や紙質等が異なる複数のマガジンを併設してもよい。また、ロール紙のマガジンに代えて、又はこれと併用して、カット紙が積層装填されたカセットによって用紙を供給してもよい。
【0066】
複数種類の記録紙を利用可能な構成にした場合、紙の種類情報を記録したバーコード或いは無線タグなどの情報記録体をマガジンに取り付け、その情報記録体の情報を所定の読取装置によって読み取ることで、使用される記録媒体の種類(メディア種)を自動的に判別し、メディア種に応じて適切なインク吐出を実現するようにインク吐出制御を行うことが好ましい。
【0067】
給紙部18から送り出される記録紙16はマガジンに装填されていたことによる巻きクセが残り、カールする。このカールを除去するために、デカール処理部20においてマガジンの巻きクセ方向と逆方向に加熱ドラム30で記録紙16に熱を与える。このとき、多少印字面が外側に弱いカールとなるように加熱温度を制御するとより好ましい。
【0068】
ロール紙を使用する装置構成の場合、図1のように、裁断用のカッター(第1のカッター)28が設けられており、該カッター28によってロール紙は所望のサイズにカットされる。カッター28は、記録紙16の搬送路幅以上の長さを有する固定刃28Aと、該固定刃28Aに沿って移動する丸刃28Bとから構成されており、印字裏面側に固定刃28Aが設けられ、搬送路を挟んで印字面側に丸刃28Bが配置される。なお、カット紙を使用する場合には、カッター28は不要である。
【0069】
デカール処理後、カットされた記録紙16は、吸着ベルト搬送部22へと送られる。吸着ベルト搬送部22は、ローラ31、32間に無端状のベルト33が巻き掛けられた構造を有し、少なくともヘッド12K,12C,12M,12Yのノズル面(ノズル開口が形成されるインク吐出面、図1中不図示、図5に符号50Aで図示)に対向する部分が水平面(フラット面)をなすように構成されている。
【0070】
ベルト33は、記録紙16の幅よりも広い幅寸法を有しており、ベルト面には多数の吸引穴(不図示)が形成されている。図1に示したとおり、ローラ31、32間に掛け渡されたベルト33の内側においてヘッド12K,12C,12M,12Yのノズル面に対向する位置には吸着チャンバ34が設けられており、この吸着チャンバ34をファン35で吸引して負圧にすることによって記録紙16がベルト33上に吸着保持される。
【0071】
ベルト33が巻かれているローラ31、32の少なくとも一方にモータ(図1中不図示、図6に符号88で図示)の動力が伝達されることにより、ベルト33は図1上の時計回り方向に駆動され、ベルト33上に保持された記録紙16は図1の左から右へと搬送される。
【0072】
縁無しプリント等を印字するとベルト33上にもインクが付着するので、ベルト33の外側の所定位置(印字領域以外の適当な位置)にベルト清掃部36が設けられている。ベルト清掃部36の構成について詳細は図示しないが、例えば、ブラシ・ロール、吸水ロール等をニップする方式、清浄エアーを吹き掛けるエアーブロー方式、或いはこれらの組み合わせなどがある。清掃用ロールをニップする方式の場合、ベルト線速度とローラ線速度を変えると清掃効果が大きい。
【0073】
なお、吸着ベルト搬送部22に代えて、ローラ・ニップ搬送機構を用いる態様も考えられるが、印字領域をローラ・ニップ搬送すると、印字直後に用紙の印字面をローラが接触するので画像が染み易いという問題がある。したがって、本例のように、印字領域では画像面を接触させない吸着ベルト搬送が好ましい。
【0074】
吸着ベルト搬送部22により形成される用紙搬送路上において印字部12の上流側には、加熱ファン40が設けられている。加熱ファン40は、印字前の記録紙16に加熱空気を吹き付け、記録紙16を加熱する。印字直前に記録紙16を加熱しておくことにより、インクが着弾後乾き易くなる。
【0075】
印字部12のヘッド12K,12C,12M,12Yは、当該インクジェット記録装置10が対象とする記録紙16の最大紙幅に対応する長さを有し、そのノズル面には最大サイズの記録媒体の少なくとも一辺を超える長さ(描画可能範囲の全幅)にわたりインク吐出用のノズルが複数配列されたフルライン型のヘッドとなっている(図2参照)。
【0076】
ヘッド12K,12C,12M,12Yは、記録紙16の送り方向に沿って上流側から黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の色順に配置され、それぞれのヘッド12K,12C,12M,12Yが記録紙16の搬送方向(紙送り方向)延在するように固定設置される。
【0077】
吸着ベルト搬送部22により記録紙16を搬送しつつ各ヘッド12K,12C,12M,12Yからそれぞれ異色のインクを吐出することにより記録紙16上にカラー画像を形成し得る。
【0078】
このように、紙幅の全域をカバーするノズル列を有するフルライン型のヘッド12K,12C,12M,12Yを色別に設ける構成によれば、紙送り方向について記録紙16と印字部12を相対的に移動させる動作を1回行うだけで(即ち、1回の副走査で)、記録紙16の全面に画像を記録することができる。このようなシングルパス印字が可能な構成により、ヘッドが紙搬送方向と直交する方向に往復動作するシャトル型ヘッドに比べて高速印字が可能であり、生産性を向上させることができる。
【0079】
本例では、KCMYの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態に限定されず、必要に応じて淡インク、濃インク、特別色インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出するインクジェットヘッドを追加する構成も可能である。また、各色ヘッドの配置順序も特に限定はない。更に、記録紙16に処理液とインクとを付着させた後に、記録紙16上でインク色材を凝集又は不溶化させて、記録紙16上でインク溶媒とインク色材とを分離させる2液系のインクジェット記録装置では、処理液を記録紙16に付着させる手段としてインクジェットヘッドを備えてもよい。
【0080】
印字検出部24は、印字部12の打滴結果を撮像するためのイメージセンサを含み、該イメージセンサによって読み取った打滴画像からノズルの目詰まりその他吐出異常をチェックする手段として機能する。
【0081】
本例の印字検出部24は、少なくとも各ヘッド12K,12C,12M,12Yによるインク吐出幅(画像記録幅)よりも幅の広い受光素子列を有するラインセンサで構成される。このラインセンサは、赤(R)の色フィルタが設けられた光電変換素子(画素)がライン状に配列されたR受光素子列と、緑(G)の色フィルタが設けられたG受光素子列と、青(B)の色フィルタが設けられたB受光素子列と、から成る色分解ラインCCDセンサで構成されている。なお、ラインセンサに代えて、受光素子が2次元配列されて成るエリアセンサを用いることも可能である。
【0082】
印字検出部24は、各色のヘッド12K,12C,12M,12Yにより印字されたテストパターンを読み取り、各ヘッド12K,12C,12M,12Yの吐出検出を行う。吐出判定は、吐出の有無、ドットサイズの測定、ドットの着弾位置の測定などで構成される。
【0083】
印字検出部24の後段には後乾燥部42が設けられている。後乾燥部42は、印字された画像面を乾燥させる手段であり、例えば、加熱ファンが用いられる。印字後のインクが乾燥するまでは印字面と接触することは避けたほうが好ましいので、熱風を吹き付ける方式が好ましい。
【0084】
後乾燥部42の後段には、加熱・加圧部44が設けられている。加熱・加圧部44は、画像表面の光沢度を制御するための手段であり、画像面を加熱しながら所定の表面凹凸形状を有する加圧ローラ45で加圧し、画像面に凹凸形状を転写する。
【0085】
加熱・加圧部44によって記録紙16を押圧すると、多孔質のペーパーに染料系インクで印字した場合などでは、加圧によりペーパーの孔を塞ぐことでオゾンなど、染料分子を壊す原因となるものと接触することを防ぐことで画像の耐候性がアップする効果がある。
【0086】
こうして生成されたプリント物は排紙部26から排出される。本来プリントすべき本画像(目的の画像を印刷したもの)とテスト印字とは分けて排出することが好ましい。このインクジェット記録装置10では、本画像のプリント物と、テスト印字のプリント物とを選別してそれぞれの排出部26A、26Bへと送るために排紙経路を切り換える不図示の選別手段が設けられている。なお、大きめの用紙に本画像とテスト印字とを同時に並列に形成する場合は、カッター(第2のカッター)48によってテスト印字の部分を切り離す。カッター48は、排紙部26の直前に設けられており、画像余白部にテスト印字を行った場合に本画像とテスト印字部を切断するためのものである。カッター48の構造は前述した第1のカッター28と同様であり、固定刃48Aと丸刃48Bとから構成される。
【0087】
また、図1には示さないが、本画像の排出部26Aには、オーダー別に画像を集積するソーターが設けられる。
【0088】
図1に図示しないが、ヘッド12K,12C,12M,12Yのノズル面のメンテナンスを行うメンテナンスユニット(図1中不図示、図5に符号100で図示)を備えている。このメンテナンスユニットを用いてヘッド12K,12C,12M,12Yのノズル面を定期的に、または必要に応じてメンテナンスすることで、ヘッド12K,12C,12M,12Yの所定の吐出性能が維持される。
【0089】
〔ヘッドの構造〕
次に、ヘッドの構造について説明する。色別のヘッド12K,12C,12M,12Yの構造は共通しているので、以下、これらを代表して符号50によってヘッドを示すものとする。
【0090】
図3(a)はヘッド50の構造例を示す平面透視図であり、図3(b)はその一部の拡大図である。また、図3(c)はヘッド50の他の構造例を示す平面透視図、図4はヘッド50の立体的構成を示す断面図(図3(a),(b)中の4−4線に沿う断面図である。
【0091】
記録紙16上に印字されるドットピッチを高密度化するためには、ヘッド50におけるノズルピッチを高密度化する必要がある。本例のヘッド50は、図3(a),(b)に示すように、インク滴の吐出孔であるノズル51と、各ノズル51に対応する圧力室52等からなる複数のインク室ユニット53を千鳥でマトリクス状に(2次元的に)配置させた構造を有し、これにより、ヘッド50の長手方向(紙送り方向と直交する主走査方向)に沿って並ぶように投影される実質的なノズル間隔(投影ノズルピッチ)の高密度化を達成している。
【0092】
記録紙16の送り方向と略直交する主走査方向に記録紙16の全幅に対応する長さにわたり1列以上のノズル列を構成する形態は本例に限定されない。例えば、図3(a)の構成に代えて、図3(c)に示すように、複数のノズル51が2次元的に配列された短尺のヘッドユニット50’を千鳥状に配列して繋ぎ合わせることで記録紙16の全幅に対応する長さのノズル列を有するラインヘッドを構成してもよい。また、図示は省略するが、短尺のヘッドユニットを一列に並べてラインヘッドを構成してもよい。
【0093】
各ノズル51に対応して設けられている圧力室52は、その平面形状が概略正方形となっており、対角線上の両隅部にノズル51と供給口54が設けられている。各圧力室52は供給口54を介して共通流路55と連通されている。共通流路55はインク供給源たるインク供給タンク(図3(a)〜(c)中不図示、図5に符号60で図示)と連通しており、該インク供給タンクから供給されるインクは図4の共通流路55を介して各圧力室52に分配供給される。
【0094】
圧力室52の天面を構成し共通電極と兼用される振動板56には個別電極57を備えた圧電素子58が接合されており、個別電極57に駆動電圧を印加することによって圧電素子58が変形してノズル51からインクが吐出される。インクが吐出されると、共通流路55から供給口54を通って新しいインクが圧力室52に供給される。
【0095】
本例では、ヘッド50に設けられたノズル51から吐出させるときにインクを加圧する加圧手段として圧電素子58を適用したが、加圧手段には、圧力室52内にヒータを備え、ヒータの加熱による膜沸騰の圧力を利用してインクを吐出させるサーマル方式を適用することも可能である。
【0096】
かかる構造を有するインク室ユニット53を図3(b)に示す如く、主走査方向に沿う行方向及び主走査方向に対して直交しない一定の角度θを有する斜めの列方向に沿って一定の配列パターンで格子状に多数配列させることにより、本例の高密度ノズルヘッドが実現されている。
【0097】
即ち、主走査方向に対してある角度θの方向に沿ってインク室ユニット53を一定のピッチdで複数配列する構造により、主走査方向に並ぶように投影されたノズルのピッチPはd× cosθとなり、主走査方向については、各ノズル51が一定のピッチPで直線状に配列されたものと等価的に取り扱うことができる。このような構成により、主走査方向に並ぶように投影されるノズル列が1インチ当たり2400個(2400ノズル/インチ)におよぶ高密度のノズル構成を実現することが可能になる。
【0098】
なお、本発明の実施に際してノズルの配置構造は図示の例に限定されず、副走査方向に1列のノズル列を有する配置構造など、様々なノズル配置構造を適用できる。
【0099】
本例に示すヘッド50は、紙送り方向と直交する主走査方向に沿ってN個のブロックに分割された構造を有している。図3(a)の左側から順に第1ヘッドブロック50−1、第2ヘッドブロック50−2、第(N−1)ヘッドブロック50−(N−1)、第Nヘッドブロック50−Nとなっている。ヘッドブロック50−K(K=1、2、…、N)は、主走査方向と角度θをなす列方向に沿って複数のノズル51が並べられたノズル列51Aを少なくとも1つ備えている。図3(a)には、1つのヘッドブロック50−Kに4つのノズル列を備える態様を例示する。
【0100】
ヘッド50は、インク吐出制御や内部圧力制御をヘッドブロックごとに行うことができるように構成されている。なお、各ヘッドブロック50−Kに含まれるノズル列の数やヘッドブロック50−Kの数は、ノズル51の総数に応じて適宜変更可能である。また、各ヘッドブロック50−Kに含まれるノズル群の数は、ヘッドブロックごとに異なっていてもよい。
【0101】
図3(a)には、複数のヘッドブロック50−Kから成るヘッド50が一体に形成される態様を例示したが、例えば、複数のヘッドブロック50−Kを別々に形成し、複数のヘッドブロック50−Kを組み合わせて1つのヘッド50を構成してもよい。
【0102】
〔インク供給系の構成〕
図5はインクジェット記録装置10におけるインク供給系の構成を示した概要図である。インク供給タンク60はヘッド50にインクを供給する基タンクであり、図1で説明したインク貯蔵/装填部14に含まれる。インク供給タンク60の形態には、インク残量が少なくなった場合に不図示の補充口からインクを補充する方式と、タンクごと交換するカートリッジ方式とがある。使用用途に応じてインク種類を変える場合には、カートリッジ方式が適している。この場合、インクの種類情報をバーコード等で識別して、インク種類に応じた吐出制御を行うことが好ましい。
【0103】
図5に示すように、インク供給タンク60とヘッド50の中間には、ヘッド50の内部圧力可変手段として機能するサブタンク61と、異物や気泡を除去するためにフィルタ62が設けられている。
【0104】
サブタンク61は、ヘッド50の近傍又はヘッド50と一体に設けられ、サブタンク61に付随して設けられるポンプ69を動作させると、サブタンク61の内部圧力が可変するとともに、ヘッド50の内部圧力が可変する。また、サブタンク61はヘッド50の内圧変動を防止するダンパー効果及びリフィルを改善する手段としての機能を有する。本例では、サブタンク61内のインクが大気と遮断される密閉型のサブタンクが適用される。
【0105】
図5には密閉型のサブタンク61を示したが、サブタンク61内のインクが大気と連通される開放型のサブタンクを適用してもよい。開放型のサブタンクを用いる態様では、サブタンク61を垂直方向に移動させる昇降機構を備え、ヘッド50とサブタンク61との水頭圧差によってヘッド50の内部圧力を可変させる。なお、開放型のサブタンクを適用する態様ではポンプ69は省略可能である。
【0106】
本例に示すインクジェット記録装置10には、ヘッドブロック(図5中不図示、図3(a)に符号50−1〜50−Nで図示)と同じ数のサブタンク61及びポンプ69を備えているが(図7参照)、図5ではこれら複数のサブタンク及び複数のポンプを代表して1つだけ図示している。即ち、本例に示すインク供給系では、インク供給タンク60から各サブタンク61−Kと連通するインク供給路を備え、インク供給タンク60から複数のサブタンク61−Kへインクが分配供給される。
【0107】
図5に示すフィルタ62のフィルタ・メッシュサイズは、ノズル径と同等若しくはノズル径以下(一般的には、20μm程度)とすることが好ましい。
【0108】
また、インクジェット記録装置10には、ノズル51の乾燥防止又はノズル近傍のインク粘度上昇を防止するための手段としてのキャップ64が設けられている。キャップ64は、不図示の移動機構によってヘッド50に対して相対移動可能であり、必要に応じて所定の退避位置からヘッド50下方のメンテナンス位置に移動される。
【0109】
キャップ64は、図示せぬ昇降機構によってヘッド50に対して相対的に昇降変位される。電源OFF時や印刷待機時にキャップ64を所定の上昇位置まで上昇させ、ヘッド50に密着させることにより、ノズル面をキャップ64で覆う。
【0110】
印字中又は待機中において、特定のノズル51の使用頻度が低くなり、ある時間以上インクが吐出されない状態が続くと、ノズル近傍のインク溶媒が蒸発してインク粘度が高くなってしまう。このような状態になると、圧電素子58が動作してもノズル51からインクを吐出できなくなってしまう。
【0111】
このような状態になる前に(圧電素子58の動作により吐出が可能な粘度の範囲内で)圧電素子58を動作させ、その劣化インク(粘度が上昇したノズル近傍のインク)を排出すべくキャップ64(インク受け)に向かって予備吐出(パージ、空吐出、つば吐き、ダミー吐出)が行われる。
【0112】
また、ヘッド50内のインク(圧力室52内)に気泡が混入した場合、圧電素子58が動作してもノズルからインクを吐出させることができなくなる。このような場合にはヘッド50にキャップ64を当て、吸引ポンプ65で圧力室52内のインク(気泡が混入したインク)を吸引により除去し、吸引除去したインクを回収タンク68へ送液する。
【0113】
この吸引動作は、初期のインクのヘッドへの装填時、或いは長時間の停止後の使用開始時にも粘度上昇(固化)した劣化インクの吸い出しが行われる。なお、吸引動作は圧力室52内のインク全体に対して行われるので、インク消費量が大きくなる。したがって、インクの粘度上昇が小さい場合には予備吐出を行う態様が好ましい。
【0114】
また、本例に示すインクジェット記録装置10は、ヘッド50のノズル面50Aに付着したインクや紙粉などの付着物を除去するためのメンテナンスユニット100を備えている。図5に示すメンテナンスユニット100は、不図示の移動機構によってヘッド50のノズル面50Aと対向するヘッド50の直下のメンテナンス位置とヘッド50から離れた退避位置と間を移動可能に構成されている。図5には、メンテナンスユニット100がメンテナンス位置に位置する状態を示す。
【0115】
また、インクジェット記録装置10は、メンテナンスユニット100とヘッド50のノズル面50Aとの距離を一定に保ちながら、メンテナンスユニット100を紙送り方向と直交するヘッド50の長手方向に沿って往復移動させるための水平移動機構102を備えるとともに、メンテナンスユニット100をインク吐出方向と平行方向(図5における上下方向)に移動させるための上下移動機構104を備えている。
【0116】
図5では、水平移動機構102の移動方向を符号Mで示し、上下移動機構104の移動方向を符号Zで示すとともに、水平移動機構102及び上下移動機構104を単純化して図示する。水平移動機構102の構成例としては、メンテナンスユニット100及び上下移動機構104が搭載されるキャリッジと、キャリッジの移動方向と平行方向に設けられ、キャリッジを支持するガイドと、メンテナンスユニット100等が搭載されたキャリッジを主走査方向と平行方向に往復移動させるボールねじやベルト駆動機構などの駆動系と、駆動系の駆動源となるモータと、を備える構成が挙げられる。
【0117】
また、上下移動機構104の構成例としては、メンテナンスユニット100を支持する支持部材と、メンテナンスユニット100を支持した支持部材をヘッド50のノズル面50Aと垂直方向に移動させるボールねじやベルト駆動機構などの駆動系と、駆動系の駆動源となるモータと、を備える構成が挙げられる。また、駆動系と駆動源とを一体に形成したアクチュエータを適用する態様も可能である。
【0118】
〔制御系の説明〕
図6はインクジェット記録装置10のシステム構成を示す要部ブロック図である。インクジェット記録装置10は、通信インターフェース70、システムコントローラ72、メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78、ポンプドライバ79、プリント制御部80、画像バッファメモリ82、ヘッドドライバ84等を備えている。
【0119】
通信インターフェース70は、ホストコンピュータ86から送られてくる画像データを受信するインターフェース部である。通信インターフェース70にはUSB(Universal Serial Bus)、IEEE1394、イーサネット(登録商標)、無線ネットワークなどのシリアルインターフェースやセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。ホストコンピュータ86から送出された画像データは通信インターフェース70を介してインクジェット記録装置10に取り込まれ、一旦メモリ74に記憶される。
【0120】
メモリ74は、通信インターフェース70を介して入力された画像を一旦格納する記憶手段であり、システムコントローラ72を通じてデータの読み書きが行われる。メモリ74は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。
【0121】
システムコントローラ72は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、所定のプログラムに従ってインクジェット記録装置10の全体を制御する制御装置として機能するとともに、各種演算を行う演算装置として機能する。即ち、システムコントローラ72は、通信インターフェース70、メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78、ポンプドライバ79等の各部を制御し、ホストコンピュータ86との間の通信制御、メモリ74の読み書き制御等を行うとともに、搬送系のモータ88やヒータ89を制御する制御信号を生成する。
【0122】
メモリ74には、システムコントローラ72のCPUが実行するプログラム及び制御に必要な各種データなどが格納されている。なお、メモリ74は、書換不能な記憶手段であってもよいし、EEPROMのような書換可能な記憶手段であってもよい。メモリ74は、画像データの一時記憶領域として利用されるとともに、プログラムの展開領域及びCPUの演算作業領域としても利用される。
【0123】
モータドライバ76は、システムコントローラ72からの指示にしたがってモータ88を駆動するドライバである。図6では、装置内の各部に配置されるモータ(アクチュエータ)を代表して符号88で図示している。例えば、図6に示すモータ88には、図1のドラム30を駆動するモータや、図5のキャップ64を移動させる移動機構のモータ、図5の水平移動機構102及び上下移動機構104の駆動源のモータなどが含まれている。
【0124】
ヒータドライバ78は、システムコントローラ72からの指示にしたがって、図1に示す加熱ファン40の熱源たるヒータや、後乾燥部42のヒータなどを含むヒータ89を駆動するドライバである。
【0125】
ポンプドライバ79は、システムコントローラ72からの指示にしたがって、図5に示すキャップ64に付随するポンプ65や、サブタンク61に付随するヘッド50の内部圧力制御用のポンプ69の動作を制御する機能ブロックである。
【0126】
例えば、図5に示すメンテナンスユニット100を用いたノズル面50Aのメンテナンス処理において、ヘッド50の内部圧力を正圧に変更するときには、システムコントローラ72はポンプドライバ79に対して指令信号を送り、ポンプドライバ79はシステムコントローラ72から送られてきた指令信号に基づいてポンプ69を動作させヘッド50の内部圧力を制御する。
【0127】
プリント制御部80は、システムコントローラ72の制御に従い、メモリ74内の画像データから印字制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理機能を有し、生成した印字データ(ドットデータ)をヘッドドライバ84に供給する制御部である。プリント制御部80において所要の信号処理が施され、該画像データに基づいて、ヘッドドライバ84を介してヘッド50のインク液滴の吐出量や吐出タイミングの制御が行われる。これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。
【0128】
プリント制御部80には画像バッファメモリ82が備えられており、プリント制御部80における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリ82に一時的に格納される。また、プリント制御部80とシステムコントローラ72とを統合して1つのプロセッサで構成する態様も可能である。
【0129】
ヘッドドライバ84は、プリント制御部80から与えられる画像データに基づいてヘッド50の圧電素子58に印加される駆動信号を生成するとともに、該駆動信号を圧電素子58に印加して圧電素子58駆動する駆動回路を含んで構成される。なお、図6に示すヘッドドライバ84には、ヘッド50の駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
【0130】
印字検出部24は、図1で説明したようにラインセンサを含むブロックであり、記録紙16に印字された画像を読み取り、所要の信号処理などを行って印字状況(吐出の有無、打滴のばらつきなど)を検出し、その検出結果をプリント制御部80に提供する。
【0131】
プリント制御部80は、必要に応じて印字検出部24から得られた情報に基づいてヘッド50に対する各種補正やヘッド50のメンテナンスを行うように各部を制御する。
【0132】
印刷すべき画像のデータは、通信インターフェース70を介して外部から入力され、メモリ74に蓄えられる。この段階では、RGBの画像データがメモリ74に記憶される。
【0133】
メモリ74に蓄えられた画像データは、システムコントローラ72を介してプリント制御部80に送られ、該プリント制御部80においてインク色ごとのドットデータに変換される。即ち、プリント制御部80は、入力されたRGB画像データをKCMYの4色のドットデータに変換する処理を行う。プリント制御部80で生成されたドットデータは、画像バッファメモリ82に蓄えられる。
【0134】
プログラム格納部90には各種制御プログラムが格納されており、システムコントローラ72の指令に応じて、制御プログラムが読み出され、実行される。プログラム格納部90はROMやEEPROMなどの半導体メモリを用いてもよいし、磁気ディスクなどを用いてもよい。外部インターフェースを備え、メモリカードやPCカードを用いてもよい。もちろん、これらの記録媒体のうち、複数の記録媒体を備えてもよい。なお、プログラム格納部90は動作パラメータ等の記録手段(不図示)と兼用してもよい。
【0135】
カウンタ92は、図5に示すメンテナンスユニット100の水平移動機構102及び上下移動機構104の駆動源となるモータの駆動信号(パルス信号)をカウントする機能ブロックである。水平移動機構102及び上下移動機構104の駆動源となるモータにはサーボモータなどの制御型モータが適用され、モータドライバ76に与えられるパルス形式の駆動信号のパルス数をカウントすることで、該モータの動作量(即ち、メンテナンスユニット100の移動量)を把握することができる。
【0136】
なお、水平移動機構102及び上下移動機構104の駆動源となるモータにエンコーダなどの動作量検出手段を備え、該エンコーダの出力パルスをカウンタ92によってカウントし、そのカウント値に基づいてメンテナンスユニット100の位置(移動量)を把握してもよいし、水平移動機構102及び上下移動機構104にリニアエンコーダなどの位置検出手段を具備し、該位置検出手段の出力信号をカウンタ92によってカウントし、そのカウント値に基づいてメンテナンスユニット100の位置を把握してもよい。
【0137】
〔メンテナンスユニットの説明、第1実施形態〕
次に、本発明の第1実施形態に係るメンテナンスユニット100について詳説する。図7(a)は、メンテナンスユニット100を用いメンテナンス処理中の状態をヘッド50の側面側(長手方向の一方の端部側)から見た図であり、図7(b)は図7(a)に図示した状態をヘッド50の上面側(インク吐出方向と反対側)から見た図である。
【0138】
図7(a)に示すように、ノズル面50Aのメンテナンス処理実行時には、メンテナンスユニット100はヘッド50のノズル面50Aと対向するヘッド50の直下のメンテナンス位置に配置され、ヘッド50の長手方向に沿う走査方向Wにヘッド50の長手方向(主走査方向)の全長にわたって移動しながら、ノズル面50Aのメンテナンス処理を行う。ここでいうメンテナンス処理には、ノズル面50Aに付着したインク(固化したインク)、紙粉、ゴミなどの付着物をノズル面50Aから取り除く処理を含んでいる。
【0139】
メンテナンスユニット100は、ヘッド50のインクノズル面50Aと対向する面にインク保持面121を有するインク貯留部材120を備え、インク貯留部材120の移動に合わせて、インク保持面121にはヘッド50からノズル(図4参照)を介してインク122が供給される。
【0140】
インク保持面121に供給されたインク122は、ノズル面50Aに付着してノズル面50Aをウエット化(湿潤化)し、ウエット化されたノズル面50Aはインク貯留部材120に後続して移動するブレード124によって払拭(ワイピング)される。このようにしてブレード124によりノズル面50Aを払拭すると、ノズル面50Aに付着している付着物及びノズル面50Aをウエット化したインクが除去される。
【0141】
図7(a)には、ヘッドブロック50−2に属するノズルからインク保持面121にインク122が供給され、更に、ヘッドブロック50−1がブレード124によって払拭されている状態が図示されている。
【0142】
図7(b)に示すように、インク保持面121の幅(インク保持面121のヘッド50の短手方向の長さ)Dmと、ヘッド50の短手方向の長さDhとの関係は、Dm>Dhとなっている。同様に、インク貯留部材120の走査方向Wの上流側に設けられるブレード124の幅(ブレード124のヘッド50の短手方向の長さ)Dbと、ヘッド50の短手方向の長さDhとの関係は、Db>Dhとなっている。なお、図7(b)には、インク保持面121とブレード124は同一幅(Dm=Db)となっている。
【0143】
また、インク保持面121のヘッド長手方向の長さlmは、メンテナンスユニット100の走査速度との間に次の関係を有している。メンテナンスユニット100の走査速度が相対的に遅い場合には、インク保持面121のヘッド長手方向の長さlmを相対的に短くしたとしても、インク保持面121に保持されているインクがノズル面50Aに接触している時間(ノズル面50Aに付着している付着物を溶解させる時間)を所定時間以上確保することができる。一方、メンテナンスユニット100の走査速度が相対的に速い場合には、インク保持面121のヘッド長手方向の長さlmを相対的に長くすることで、インク保持面121の保持されているインクがノズル面50Aに接触している時間を所定時間以上確保することができる。
【0144】
即ち、インク保持面121のヘッド長手方向の長さlmは、インク保持面121に保持されているインクをノズル面50Aに接触させる時間(インク由来の付着物をノズル面50Aから溶解させるために要する時間)に基づいて求められている。
【0145】
インク由来の付着物をノズル面50Aから溶解させるために要する時間はインクの物性に左右されるため、事前に評価しておくことが望ましい。その時間を溶解時間と定義すると、必要なヘッドの長手方向の長さlmは、メンテナンスユニット100の走査速度(mm/sec)×溶解時間となる。
【0146】
本実施形態に適用されるインクでは、3秒以上の溶解時間にて良好な払拭を得ることができた。一方、メンテナンスユニット100の走査速度はメンテナンス処理時間の条件から20(mm/sec)とした。よって、本例では、必要なインク保持面121のヘッド長手方向の長さlmは、lm=20(mm/sec)×3(sec)=60mmとした。
【0147】
メンテナンスユニット100は、主走査方向に沿って延在するガイド128に支持されるキャリッジ126を備え、キャリッジ126上にインク貯留部材120及びブレード124を搭載した構造を有し、インク貯留部材120とブレード124は一体となって移動するように構成されている。
【0148】
インク保持面121とブレード124の走査方向Wにおける配置間隔(インク保持面121の走査方向Wの下流側端部と、ブレード124の走査方向Wの下流側端部の距離)は、ヘッドブロックの主走査方向の長さに対応する長さにするとよい。例えば、ヘッドブロック50−Kのウエット化開始位置にインク保持面121が位置するときに、ヘッドブロック50−(K−1)の払拭開始位置のブレード124が位置するように構成すると、ヘッドブロック50−Kに対するウエット化処理と同時に、1つ前のヘッドブロック50−(K−1)のワイピング処理を行うことができ、効率よくメンテナンス処理を行うことができる。なお、ブレード124の走査方向Wにおける位置の微調整を行う微調整機構を備える態様が好ましい。
【0149】
もちろん、ウエット化処理が施されるヘッドブロックとワイピング処理が施されるブロックは連続していなくてもよく、ウエット化処理が施されるヘッドブロックとワイピング処理が施されるブロックの間にウエット化処理が終了し、ワイピング処理の待機状態のブロックが含まれていてもよい。
【0150】
上述したように、本例に示すメンテナンスユニット100は、主走査方向に1回走査するだけで(メンテナンスユニット100のシングルパス動作によって)、ヘッド50のノズル面50Aの全面にわたってメンテナンス処理を行うことが可能である。
【0151】
ノズル面50Aとインク保持面121との距離を1mm以上5mm以下とすると、ノズル面50Aとインク保持面121との間にインク122を保持してインク122をノズル面50Aに接触させることができるとともに、メンテナンスユニット100がヘッド50の真下を移動するときに、インク保持面121がノズル面50Aに接触してノズル面50Aを傷つけてしまうことを防止できる。
【0152】
図7(a)に示すヘッド50は、符号50−1から符号50−Nで図示するN個のヘッドブロック50−K(K=1、2、…、N)を有する構造を有し、それぞれのヘッドブロック50−Kには、サブタンク61−1〜60−N及びポンプ69−1〜69−Nが備えられ、ヘッドブロック50−Kごとに内部圧力を制御可能に構成されている。
【0153】
インク保持面121の真上のヘッドブロック(図7(a)のヘッドブロック50−2)では、内部圧力を正圧(>大気圧)に変更してインク保持面121にインクを供給する。また、ブレード124によりワイピング処理が行われるヘッドブロック(図7(a)のヘッドブロック50−1)では内部圧力は大気圧に制御され、インク供給(ウエット化処理)及びワイピング処理の何れの処理も行われないヘッドブロックでは、ノズルからインクが漏れないように内部圧力は負圧(<大気圧)になるように制御される。
【0154】
なお、インク貯留部材120へインク122を供給するときに、当該ヘッドブロック50−Kのすべてのノズルからインクを流出させてもよいし、一部のノズルからインクを流出させてもよい。また、連続的にインクを供給してもよいし、間欠的にインクを供給してもよい。
【0155】
ヘッドブロック50−Kの一部のノズルからインクを流出させるときには、当該ヘッドブロック50−Kの一部または全部のノズル開口の外側へインクを突出させるように当該ヘッドブロック50−Kの内圧を制御し、インクを流出させる一部のノズルでは、当該ノズルに対応する圧電素子に駆動信号を印加して(インクを吐出するときの駆動信号と同じ駆動信号を複数回印加して、または、インクを吐出するときの駆動信号よりもオン時間の長い駆動信号を印加して)、当該圧電素子を動作させてインクを流出させるとよい。インクを間欠的に供給するときには、圧電素子を間欠的に動作させるとよい。
【0156】
このようにしてヘッド50からノズルを介して供給されたインクをインク貯留部材120に一旦保持し、この状態を維持したままメンテナンスユニット100を走査方向Wにヘッド50の長手方向の一方の端部から他方の端部へ走査させるので、インク貯留部材120とノズル面50Aのメニスカスが維持され、インク切れになることなく短時間で効率よくノズル面50Aを全面にわたってウエット化することができる。
【0157】
また、メンテナンスユニット100の移動に対応してインク貯留部材120の直上のヘッドブロック50−Kからフレッシュなインクが供給されるとともに、メンテナンスユニット100の移動によってノズル面50Aとインク貯留部材120との間のインク122に流れができ、ノズル面50Aに付着している付着物はノズル面50Aとインク貯留部材120との間に存在するインク122に素早く溶解し、更に、付着物を溶解し汚れが濃縮されたインク122がノズル面50Aとインク貯留部材120との間で淀むことがないので、ノズル面50Aからインク122へ移動した付着物がノズル面50Aに再付着することが防止される。
【0158】
ヘッド50の走査方向下流側の端部に達したメンテナンスユニット100は、ヘッド50との距離をメンテナンス実行時よりも離して(ノズル面50Aとインク保持面121との距離が5mmを超えるように離して)、ヘッド50の走査方向上流側の端部に移動させる。なお、メンテナンスユニット100を往復走査させる態様も可能である。
【0159】
即ち、メンテナンスユニット100を180°回動させる回動機構を備え、メンテナンスユニット100がヘッド50の走査方向下流側の端部に達すると、一旦ノズル面50Aと対向する位置から抜け出して(または、ノズル面50Aとメンテナンスユニット100との距離が5mmを超えるように離して)、メンテナンスユニット100を180°回動させた後に先の走査方向と反対方向に走査させ、復路においても往路と同様のメンテナンス処理を実行するように構成してもよい。
【0160】
例えば、往路(図7(a)の左から右方向)におけるメンテナンス処理終了時にノズル面の汚れ具合をCCDやセンサ等の検出手段を用いて検出し、ノズル面50Aのクレーニングが十分でないと判断されると、復路においてもメンテナンス処理を実行するようにメンテナンスユニット100を制御する態様が可能である。
【0161】
インク貯留部材120から溢れたインクはインク貯留部材120の外周部に設けられたインク回収路(図7(a),(b)中不図示、図8に符号140で図示)に回収される。インク回収路の詳細は後述する。
【0162】
ブレード124には、ノズル面50Aに付着するインクを吸収する吸収性を有する部材や、ノズル面50Aに付着する固形物をかき落とすことが可能な剛性を有する部材が好適に用いられる。本例のブレード124に適用される部材として、多孔質部材やゴムなどの弾性部材が挙げられる。
【0163】
また、ブレード124を単独で上下移動させる機構を備えると、ノズル面50Aの払拭時のノズル面50Aに対するブレード124の押圧を変えることができる。例えば、単位面積あたりの付着物の量が多いときや、基準サイズよりも大きな付着物が存在するときなどには、ブレード124の押圧を相対的に大きくすると、ノズル面50Aの付着物を確実に除去できる。
【0164】
即ち、ノズル面50Aの汚れの状態に応じて、汚れ具合が基準よりも大きい時にはブレード124の押圧を基準よりも大きくし、汚れ具合が基準よりも大きい時にはブレード124の押圧を基準よりも大きくし、汚れ具合が基準よりも小さいときにはブレード124の押圧を基準よりも小さくするようにブレード124の押圧を制御するとよい。ノズル面50Aの汚れ具合を検出する一例を挙げると、ノズル面50Aを撮像するCCDを備え、CCDの撮像結果からノズル面50Aの汚れを判断する態様が挙げられる。
【0165】
ヘッド50のメンテナンスユニット100の走査方向Wの下流側端部には、吸収体130が備えられている。メンテナンスユニット100がヘッド50のメンテナンスユニット100の走査方向Wの下流側端部の吸収体130と接触すると、ノズル面50Aとインク貯留部材120との間のメニスカスが破壊され、インク貯留部材120上のインク溜まり(インク122)は消失する。
【0166】
吸収体130に代わり、ヘッド50のメンテナンスユニット100の走査方向Wの下流側端部にインク保持面121の大きさに対応する面積を有する親水処理領域を備えてもよい。当該親水処理領域にノズル面50Aとインク貯留部材120との間のインク122が接触すると、ノズル面50Aとインク貯留部材120との間のメニスカスが破壊され、インク122の一部は親水処理領域に付着し、残りのインクはインク排出路(図8参照)に流出する。親水処理領域に付着したインクは、ブレード124で拭き取られる。
【0167】
即ち、ヘッド50のメンテナンスユニット100の走査方向Wの下流側端部にインク保持面121と極端に濡れ性の違う部材を備えることで、ノズル面50Aとインク保持面121との間のメニスカスが泣き分かれ、メニスカスが破壊される。
【0168】
なお、吸収体130に代わりブレードを備える態様も好ましい。吸収体130はある程度インクを吸収すると交換する必要があるが、吸収体130に代わりブレードを備える態様や、ノズル面50Aの一部を親水処理領域とする態様では、メンテナンス(部品交換)が不要となる。
【0169】
図8は、メンテナンスユニット100をノズル面50A側から見た概略平面図である。同図に示すように、インク保持面121の外周にはインク保持面121から溢れたインクを回収するインク回収路140が設けられ、更に、インク回収路140にはインク保持面121から回収したインクをメンテナンスユニット100の外部に排出する排出口142が設けられている。
【0170】
インク回収路140は、インク貯留部材120側(上面)に所定幅の開口を有する溝であり、インク保持面121が形成される面よりも低い位置に設けられている。また、インク回収路140内のインクがその自重で排出口142へ流れるように、インク回収路140の最も低い位置に排出口142が配置され、排出口142に向かって傾斜する傾斜面を有する構造となっている。また、インク回収路140には撥水処理が施される。インク回収路の幅を4mm以上10mm以下とし、インク保持面121とインク回収路140との高低差を10mm以上20mm以下とする態様が好ましい。
【0171】
インク保持面121は、インクにより腐食しない耐インク性を有するとともに、インクが浸透しない非浸透部材が好適に用いられる。例えば、インク保持面121には、プラスチック(樹脂)、金属、ゴムなどが好適に用いられる。
【0172】
また、インク保持面121には親水処理が施される。一方、インク保持面121の走査方向Wの下流側の端部およびその近傍には撥水処理領域144が形成される。即ち、インク保持面121の走査方向Wの下流側端部から所定の範囲に、撥水処理と親水処理の境界が設けられる。
【0173】
撥水処理領域144の走査方向Wの長さ(インク保持面121の走査方向Wの下流側端部から撥水処理領域と親水処理領域の境界部までの長さ)l1は、インク保持面121の走査方向Wの全体の長さlmの10%以下とするとよい。なお、インク保持面121が含まれる面146と、インク保持面121が含まれる面146に交差する垂直面148(この面には撥水処理が施される)と、の境界部の角エッジ部150に親水処理と撥水処理の境界部を形成してもよい。
【0174】
このように、インク保持面121に親水処理を施すことでインクが均一にぬれ広がり、メンテナンスユニット100の払拭性能(ノズル面をウエット化する効率)の向上が見込まれる。一方、インク保持面121の走査方向Wの下流側端部から所定の範囲に撥水処理を施すことで、インク保持面121に保持されたインクが走査方向Wの下流側端部から外側にもれ出すことがなく、インク保持面121に安定してインクが保持される。
【0175】
また、インク保持面121の走査方向Wと平行な両端部152、154にも撥水処理を施す(撥水処理と親水処理の境界を形成する)と、走査方向Wと平行な両端部152、154からのインク漏れを防止でき、より好ましい。
【0176】
本例でいう「撥水処理」とはインク保持面121に対するインクの接触角が45°以上の状態をいい、「親水処理」とはインク保持面121に対するインクの接触角が30°未満の状態をいう。
【0177】
図9には、本発明の実施形態に係るヘッド50のノズル面50Aのメンテナンス方法のフローチャートを示す。インクジェット記録装置10の動作モードがメンテナンスモードに移行すると(ステップS10)、ヘッド50をメンテナンス位置に移動させるとともに(ステップS12)、メンテナンスユニット100をヘッド50の直下のメンテナンス開始位置(図7(a)に示すヘッドブロック50−1の直下の位置)に移動させる(ステップS14)。
【0178】
ステップS14において、メンテナンスユニット100が1番目のヘッドブロック50−1の走査方向Wの上流側端部のメンテナンス開始位置に配置されると、1番目のヘッドブロック50−1のノズル面50Aのメンテナンス処理が実行される。
【0179】
即ち、ヘッドブロックの番号KにK=1が代入され(ステップS16)、メンテナンスユニット100は走査を開始するとともに、インク貯留部材120の走査方向Wにおける位置が監視される(ステップS18)。
【0180】
ステップS18において、インク貯留部材120がヘッドブロック50−1(メンテナンス処理対象のヘッドブロック)の下を通過中ではない(メンテナンス処理対象のヘッドブロックの下に位置していない)と判断されると(NO判定)、インク貯留部材120の位置の監視が継続され(ステップS18)、インク貯留部材120が1番目のヘッドブロック50−1の下を通過中であると判断されると(YES判定)、ヘッドブロック50−1と連通するサブタンク61−1に備えられたポンプ69−1を動作させて、ヘッドブロック50−1の内部圧力が正圧に変更され、ヘッドブロック50−1からインク貯留部材120にインクが供給される(ステップS20)。
【0181】
サブタンク61−1(メンテナンス処理対象のヘッドブロックに対応するサブタンク)の加圧タイミングは、サブタンク61−1の容量やポンプ69−1の能力によって決められる。即ち、サブタンク61−1を加圧してからヘッドブロック50−1のノズルからインクが流出し始めるまでの時間を予め把握しておき、サブタンク61−1を加圧してからヘッドブロック50−1のノズルからインクが流出し始めるまでの時間を考慮して、サブタンク61−1の加圧タイミングが決められる。また、1番目のヘッドブロック50−1からインク貯留部材120にインクを供給するときには、圧電素子58による加圧を併用するとよい。
【0182】
1番目のヘッドブロック50−1からインク貯留部材120にインクを供給するときには、インク貯留部材120にインクが存在していないので、ヘッドブロック50−1の内部圧力を正圧にしただけではノズルからインクが流れ出てこないことがあり得る。特に、高粘度インクを使用するときには、この現象が顕著となる。
【0183】
したがって、圧電素子58による加圧を併用することで、確実にノズルからインクを流出させることができる。また、使用するインクの粘度に応じて、インクの粘度が相対的に高い場合には内部圧力を相対的に高くするとよい。
【0184】
ヘッドブロック50−1からインク貯留部材120にインクが供給されると、毛細管力によってノズル面50Aとインク貯留部材120との間にインクが広がり、ヘッドブロック50−1のノズル面50Aはウエット化される。ノズル面50Aとインク貯留部材120との間のインクは、ノズル面50Aに付着する増粘インクを溶解(再分散)させ、ゴミや紙粉をノズル面50Aから浮遊させる。
【0185】
インク貯留部材120がヘッドブロック50−1の下を通過中には、インク貯留部材120がヘッドブロック50−1の下を通過したか否かが判断される(ステップS22)。
【0186】
ステップS22において、インク貯留部材120がヘッドブロック50−1の下を通過中であると判断されると(NO判定)、インク貯留部材120がヘッドブロック50−1の下を通過したか否かの判断が継続され(ステップS22)、インク貯留部材120がヘッドブロック50−1の下を通過したと判断されると(YES判定)、ヘッドブロック50−1と連通するサブタンク61−1に備えられるポンプ69−1を動作させて、ヘッドブロック50−1の内部圧力が大気圧に変更される(ステップS24)。
【0187】
ステップS24では、インク貯留部材120がヘッドブロック50−1の下を通過したときに(ヘッドブロック50−1のウエット化が終了したときに)、ヘッドブロック50−1の内部圧力を正圧から大気圧に下げる制御が行われる。なお、ヘッドブロック50−1の内部圧力を負圧(メンテナンス処理前の圧力)に変更してもよいが、ヘッドブロック50−1の内部圧力を大気圧にすることで、ノズル面50Aに付着したインクや気泡がノズル内に逆流することがなく、当該メンテナンス処理の効果が大きくなる。ステップS24において、ヘッドブロック50−1の内部圧力が大気圧に変更されると、ブレード(払拭部材)124の位置が監視される(ステップS26)。
【0188】
ステップS26において、ブレード124がヘッドブロック50−1の下を通過中であり、ヘッドブロック50−1のノズル面50Aのワイピング処理中であると判断されると(NO判定)、ブレード124の位置の監視が継続される(ステップS26)。一方、ブレード124がヘッドブロック50−1の下を通過し、ワイピング処理が終了したと判断されると(YES判定)、ヘッドブロック50−1の内部圧力は負圧に変更され(ステップS28)、ステップS30に進む。
【0189】
ステップS30では、メンテナンス処理が終了したヘッドブロックが最終ヘッドブロック50−Nであるか否かが(K=Nであるか否かが)判断される。ステップS30において、K=Nではないと判断されると(NO判定)、ステップS32に進み、次のヘッドブロック(K+1番目のヘッドブロック)の処理に移行する。即ち、KにK+1が代入され、ステップS18に進み、2番目のヘッドブロック50−2以降のヘッドブロック50−Kについて、ステップS18からステップS30の工程が繰り返される。
【0190】
2番目以降のヘッドブロック50−Kからインク貯留部材120へインクを供給する場合にはインク貯留部材120にインクがあるので、インク貯留部材120上のインクにノズル内のインクを接触させる程度に加圧すればノズルからインクを流出させることができる。したがって、圧電素子58による加圧を併用しなくても、ヘッドブロック50−Kの内部圧力の変更のみでインク貯留部材120にインクを供給可能である。
【0191】
一方、ステップS30において、K=Nである(最終ヘッドブロック50−Nのメンテナンス処理が終了した)と判断されると(YES判定)、メンテナンスユニット100の動作を停止するとともに(ステップS34)、ヘッド50を待機ポジションへ移動させて(ステップS36)、当該メンテナンス処理制御は終了される(ステップS38)。
【0192】
本例では、インク貯留部材120にインクを供給する方法として、サブタンク60−Kを加圧する態様を例示したが、圧電素子58による加圧によってインク貯留部材120にインクを供給する態様も可能である。インク貯留部材120へのインク供給に圧電素子58による加圧を適用すると、ノズル面50Aのウエット化に必要なインク量をインク貯留部材120へ供給できるかが問題となる。
【0193】
例えば、吐出周波数20kHzで1回の吐出動作において最大10plのインク液滴を吐出することができる能力を有するヘッドを適用する。インク保持面121のヘッド長手方向の長さlm=60mm、インク保持面121のヘッド短手方向の長さls=40mm、吐出解像度2400dpi(ここでは、1インチあたりのノズル数の置き換え)の場合には、インク保持面121の直上のノズル数は約5800個である。また、ノズル面50Aとインク保持面121のクリアランスを2mmとすると、ノズル面50Aとインク保持面121との空間の容積は480mm3=0.48mlとなる。
【0194】
上述したノズル面50Aとインク保持面121との間の空間に対して、上述した液体供給能力を有するヘッドは、1秒間に10(pl)×5800(ノズル)/50(μsec)≒1(ml)のインクを供給することができ、この値はノズル面50Aとインク保持面121との間の空間の容積に対して十分大きな値である。したがって、上述した条件を満たすヘッドによって、ノズル面50Aのウエット化に必要なインク量を供給可能である。
【0195】
なお、インク貯留部材120へのインク供給に圧電素子58による加圧を適用できると、内部圧力を変更するためのサブタンク61−K及びポンプ69−Kを省略可能である。
【0196】
ノズル面50Aとインク貯留部材120との間のクリアランスを相対的に小さくすると、ノズル面50Aとインク貯留部材120との間のインクの流れが悪くなり、ノズル面50Aの付着物の除去効率が悪化することが懸念されるので、ノズル面50Aの汚れの度合いをCCDなどのセンサによって検出し、ノズル面50Aの付着物の量が多い場合(ノズル面50Aの汚れの程度が大きい場合)には、ノズル面50Aとインク貯留部材120との間のクリアランスを相対的に大きくするようにインク貯留部材120の上下移動機構104を動作させるとよい。
【0197】
上記の如く構成されたインクジェット記録装置10は、フルライン型のヘッド50のノズル面50Aと対向する位置にノズル面50Aと所定の距離を維持して配置されるインク貯留部材120にヘッド50からインクを供給し、インク貯留部材120をヘッド50の長手方向に走査させるように構成される。したがって、ノズル面50Aとインク貯留部材120との間のインクによって、ノズル面50Aを短時間でウエット化することができる。記録紙16の記録可能幅に対応する幅を有する長尺ヘッド(ラインヘッド)を備える場合にも、ヘッド50とメンテナンスユニット100とをヘッド50の長手方向に相対的に1回だけ走査させることで、ヘッド50のノズル面50Aの全面をウエット化することができる。
【0198】
また、インク貯留部材120の移動に合わせてヘッド50からフレッシュなインクが供給されるので、ノズル面50Aとインク貯留部材120との間において、汚れが濃縮されることがなく、ノズル面50Aに付着した付着物の溶解時間を短縮化される。
【0199】
更に、インク貯留部材120のインク保持面121には親水処理が施されるので、インク保持面121には確実にインクが保持される。更にまた、インク保持面121のメンテナンスユニット100の走査方向下流側端部及びその近傍に撥水処理領域144を備えることで、インク保持面121のメンテナンスユニット100の走査方向Wの上流側端部にインクが流れやすくなり、余剰インクの回収が容易となるとともに、インク保持面121のメンテナンスユニット100の走査方向Wの下流側端部からのインク漏れが防止される。
【0200】
〔応用例〕
次に、図10及び図11を用いて、本発明の実施形態に係る応用例について説明する。図10は、本例のインク貯留部材220の立体構造を示す断面図である。また、図11には、図10に示すインク貯留部材220にヘッド50からインクを供給している状態を模式的に図示する。なお、本応用例において、先に説明した第1実施形態と同一または類似する部分には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0201】
図10に示すインク貯留部材220は、インク保持面121をメンテナンスユニット100の走査方向Wの下流側から上流側に向かって(図10における右側から左側へ)低くなるように傾斜させている。
【0202】
図11に示すように、ノズル面50Aとインク貯留部材120(インク保持面121)との距離を走査方向Wの上流側から下流側に向かって徐々に狭くなるように構成することで、ノズル面50Aとインク保持面121との間に形成されるメニスカスが破壊されにくくなり、メンテナンスユニット100が移動してインク保持面121に貯留されるインク122がノズル面50Aとのズリや移動により生じる風(空気の対流)の影響を受けても、インク保持面121にインク122を貯留することができる。
【0203】
また、インク保持面121に傾き(斜面)を設けることで、走査方向Wの下流側から上流側に向かうインクの流れ(図11に符号Aで図示)が安定するとともに、インク保持面121から溢れたインクはインク保持面121の傾きに沿ってインク回収路140へ流れるので、メンテナンスユニット100の走査方向下流側へのインク漏れが防止され、且つ、インク保持面121にはヘッド50からノズル51を介して供給された新しいインクが保持される。
【0204】
図11には、インク貯留部材120にインクを供給するノズル(加圧されているノズル)51Bのインクの流れ方向を符号Bで図示する。また、ノズル面50Aをウエット化しているインクを符号122’で図示する。
【0205】
なお、インク保持面121と水平面230とのなす角αは、ノズル面50Aとインク保持面121との距離が1mm以上5mm以下の範囲において、5°以上30°未満とする態様が好ましい。
【0206】
図10及び図11には、インク保持面121の全体を斜面で形成する態様を示したが、例えば、インク保持面121の走査方向Wの下流側端部から中央部までのように、インク保持面121の一部を斜面としてもよい。また、インク保持面121に形成される斜面の頂上部に撥水処理部(図8参照)を設ける態様も好ましい。また、インク保持面121を水平面で構成し、インク貯留部材120の全体を傾けるように構成してもよい。
【0207】
〔第2実施形態〕
次に、図12を用いて、本発明の第2実施形態について説明する。図12には、第2実施形態に係るインク貯留部材320を図示する。
【0208】
図12に示すように、インク貯留部材320のインク保持面321の略中央部には、ノズル面50Aをウエット化するためのクリーニング液322が供給されるクリーニング液供給口360が設けられている。
【0209】
即ち、インク貯留部材320は、インク保持面321の略中央部に形成されたクリーニング液供給口360と、クリーニング液供給口360に連通するクリーニング液供給路362と、クリーニング液を貯留するクリーニング液タンク(不図示)と、クリーニング液をクリーニング液供給口360に送液するポンプなどの送液装置(不図示)と、を備えている。
【0210】
図12に示すインク貯留部材320は、不図示のクリーニング液供給タンクからクリーニング液供給路362及びクリーニング液供給口360を介してインク保持面321にクリーニング液322が供給される。インク貯留部材320へのクリーニング液の供給は連続的に行ってもよいし、間欠的に行ってもよい。
【0211】
ノズル面50Aをウエット化するためのクリーニング液には、水(純粋)、インク(色材を含有しない透明インク)などが好適に用いられる。もちろん、ノズル面50Aに付着した増粘インクを溶解する機能や、ノズル面50Aに付着したゴミや紙粉を浮遊させる機能を有し、ブレード124によるワイピング処理によってノズル面50Aから除去可能な液体であれば、水、インク以外の液体を用いてもよい。
【0212】
図12に示すように、インク保持面321に設けられるクリーニング液供給口360の周囲には、凹部364が形成される。なお、クリーニング液供給口360は、インク保持面321の中央部よりも走査方向Wの下流側に設けてもよい。また、クリーニング液供給口360を複数備える態様も好ましい。
【0213】
本発明の第2実施形態によれば、インク貯留部材320にヘッド50からインクを供給することが不要となり、また、清掃性に優れたクリーニング液によってノズル面50Aがウエット化されるので、メンテナンス効率の向上を図ることができる。
【0214】
本例では、本発明に係るノズル面のメンテナンス方法を適用可能な装置例として、記録媒体上にカラー画像を形成するインクジェット記録装置を示したが、本発明は、ディスペンサーなどの他の液体吐出装置にも広く適用可能である。
【符号の説明】
【0215】
10…インクジェット記録装置、12K,12C,12M,12Y,50…ヘッド(ヘッドブロック)、50A…ノズル面、51…ノズル、58…圧電素子、61…サブタンク、69…ポンプ、72…システムコントローラ、79…ポンプドライバ、84…ヘッドドライバ、100…メンテナンスユニット、120,220,320…インク貯留部材、121、321…インク保持面、360…クリーニング液供給口、362…クリーニング液供給路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する複数のノズルが主走査方向に沿って並べられたノズル列を有する吐出ヘッドと、
前記主走査方向と直交する副走査方向における前記ノズルが配設されるノズル配設領域の長さに対応する前記副走査方向の長さを有する液体保持面を具備し、前記液体保持面に連続的又は間欠的に液体が供給される液体貯留部材と、
前記吐出ヘッドの前記ノズルが形成されるノズル面と対向して前記ノズル面と所定の距離を保ちつつ、前記液体保持面の液体を前記ノズル面に接触させながら、前記液体貯留部材を前記主走査方向に沿って前記ノズル列の全長にわたって移動させる移動手段と、
前記液体貯留部材に供給された液体によって湿潤化された前記ノズル面を前記液体貯留部材に後続して移動しながら払拭し、前記ノズル面に付着した付着物を除去する払拭手段と、
を備えたことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記吐出ヘッドは、液体を吐出する複数のノズルが被吐出媒体の1辺の長さに対応する長さにわたって、前記主走査方向に沿って並べられたノズル列を少なくとも1列有するライン型吐出ヘッドであることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記吐出ヘッドの内部圧力を可変させる内部圧力可変手段と、
前記吐出ヘッドから前記液体貯留部材へ液体を供給するときに、前記吐出ヘッドの内部を正圧にするように前記内部圧力可変手段を制御する内部圧力制御手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記内部圧力可変手段は、前記吐出ヘッドと連通するサブタンクと、
前記サブタンク内の液体を加圧する加圧手段と、
を含むことを特徴とする請求項3に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記複数のノズルのそれぞれに対して設けられ、前記ノズル内の液体に吐出力を付与する吐出力付与手段と、
前記吐出ヘッドから前記液体貯留部材へ液体を供給するときに、前記ノズルを介して前記液体貯留部材へ液体を供給するように前記吐出力付与手段の動作を制御する吐出制御手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記吐出制御手段は、前記液体貯留部材に対して前記液体貯留部材の移動方向下流側のノズルから選択的に液体を吐出するように前記吐出力付与手段を制御することを特徴とする請求項5に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記吐出ヘッドは、複数のヘッドブロックが前記主走査方向に沿って並べられた構造を有するとともに、前記複数のヘッドブロックのそれぞれに前記内部圧力可変手段を具備し、
前記内部圧力制御手段は、前記液体貯留部材が直下に位置するヘッドブロックから液体を供給するように、各ヘッドブロックの前記内部圧力可変手段を制御することを特徴とする請求項3から6のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項8】
前記内部圧力制御手段は、ノズルから液体を流出させるヘッドブロックの内部圧力を正圧にするとともに、前記払拭手段によってノズル面が払拭されるヘッドブロックの内部圧力を大気圧にすることを特徴とする請求項7に記載の液体吐出装置。
【請求項1】
液体を吐出する複数のノズルが主走査方向に沿って並べられたノズル列を有する吐出ヘッドと、
前記主走査方向と直交する副走査方向における前記ノズルが配設されるノズル配設領域の長さに対応する前記副走査方向の長さを有する液体保持面を具備し、前記液体保持面に連続的又は間欠的に液体が供給される液体貯留部材と、
前記吐出ヘッドの前記ノズルが形成されるノズル面と対向して前記ノズル面と所定の距離を保ちつつ、前記液体保持面の液体を前記ノズル面に接触させながら、前記液体貯留部材を前記主走査方向に沿って前記ノズル列の全長にわたって移動させる移動手段と、
前記液体貯留部材に供給された液体によって湿潤化された前記ノズル面を前記液体貯留部材に後続して移動しながら払拭し、前記ノズル面に付着した付着物を除去する払拭手段と、
を備えたことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記吐出ヘッドは、液体を吐出する複数のノズルが被吐出媒体の1辺の長さに対応する長さにわたって、前記主走査方向に沿って並べられたノズル列を少なくとも1列有するライン型吐出ヘッドであることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記吐出ヘッドの内部圧力を可変させる内部圧力可変手段と、
前記吐出ヘッドから前記液体貯留部材へ液体を供給するときに、前記吐出ヘッドの内部を正圧にするように前記内部圧力可変手段を制御する内部圧力制御手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記内部圧力可変手段は、前記吐出ヘッドと連通するサブタンクと、
前記サブタンク内の液体を加圧する加圧手段と、
を含むことを特徴とする請求項3に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記複数のノズルのそれぞれに対して設けられ、前記ノズル内の液体に吐出力を付与する吐出力付与手段と、
前記吐出ヘッドから前記液体貯留部材へ液体を供給するときに、前記ノズルを介して前記液体貯留部材へ液体を供給するように前記吐出力付与手段の動作を制御する吐出制御手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記吐出制御手段は、前記液体貯留部材に対して前記液体貯留部材の移動方向下流側のノズルから選択的に液体を吐出するように前記吐出力付与手段を制御することを特徴とする請求項5に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記吐出ヘッドは、複数のヘッドブロックが前記主走査方向に沿って並べられた構造を有するとともに、前記複数のヘッドブロックのそれぞれに前記内部圧力可変手段を具備し、
前記内部圧力制御手段は、前記液体貯留部材が直下に位置するヘッドブロックから液体を供給するように、各ヘッドブロックの前記内部圧力可変手段を制御することを特徴とする請求項3から6のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項8】
前記内部圧力制御手段は、ノズルから液体を流出させるヘッドブロックの内部圧力を正圧にするとともに、前記払拭手段によってノズル面が払拭されるヘッドブロックの内部圧力を大気圧にすることを特徴とする請求項7に記載の液体吐出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−140018(P2012−140018A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−102627(P2012−102627)
【出願日】平成24年4月27日(2012.4.27)
【分割の表示】特願2007−213011(P2007−213011)の分割
【原出願日】平成19年8月17日(2007.8.17)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年4月27日(2012.4.27)
【分割の表示】特願2007−213011(P2007−213011)の分割
【原出願日】平成19年8月17日(2007.8.17)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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