説明

液体噴射ヘッド、及びその製造方法

【課題】 メイン液滴とサテライト液滴とがヘッド走査方向に並んで吐出対象物へ着弾することを防止する。
【解決手段】 複数のノズル開口26を列設してノズル列が形成されたノズルプレート24を備え、該ノズルプレート24を吐出対象物へ対向させた状態でヘッド走査方向に沿って移動し、この移動状態でノズル開口26から吐出対象物へ向けて液滴を吐出可能に構成された記録ヘッドであって、ノズル開口26は、その内周面のうちヘッド走査方向に直交する面部分36aから周方向に外れた位置にノズル溝部38を、ノズル開口26の吐出側開口縁に達する状態で形成し、ノズル溝部38の幅をノズル開口26の開口幅よりも狭く設定し、ノズル溝部38を流れる液体の流速と、ノズル開口26の中心を挟んでノズル溝部38とは反対側を流れる液体の流速とが異なるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッド走査方向に沿って移動しながらノズル開口から吐出対象物へ向けて液滴を吐出可能なインクジェット式記録ヘッド等の液体噴射ヘッド、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置は、液体を液滴として吐出可能な液体噴射ヘッドを備え、この液体噴射ヘッドから各種の液体を吐出(噴射)する装置である。この液体噴射装置の代表的なものとして、例えば、インクジェット式記録ヘッド(以下、記録ヘッドという)を備え、この記録ヘッドから液体状のインクをインク滴として吐出させて記録を行うインクジェット式プリンタ等の画像記録装置を挙げることができる。また、近年においては、液体噴射装置は、画像記録装置に限らず、ディスプレー製造装置などの各種の製造装置にも応用されている。
【0003】
液体噴射ヘッドの一種である記録ヘッドとしては、ノズル列を形成する複数のノズル開口と、このノズル開口に連通する圧力室と、この圧力室に供給する液体を導入する共通インク室と、この共通インク室と圧力室を連通して共通インク室内のインクを圧力室側に供給するインク供給路とを備えたものがある。この記録ヘッドは、圧電振動子や発熱素子等の圧力発生素子を作動させて圧力室内の液体に圧力変動を生じさせることによって、圧力室内のインクをノズル開口からインク滴として吐出可能とし、ノズル開口を吐出対象物(例えば記録紙)へ対向させた状態でヘッド走査方向に沿って移動しながらインク滴を吐出して、記録を行う。そして、記録ヘッドのノズル開口は、例えば、薄肉のノズルプレートに、円柱部と円錐部とを備えた漏斗形状のポンチを用いて開設され、当該ノズル開口の断面が略真円状となるように形成される(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平5−229127号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年では、記録ヘッドの記録画質を向上させるため、圧力発生素子へ供給する信号の波形を異ならせて圧力室の容積変化を制御し、ノズル開口から吐出されるインク滴の量や大きさを調整する。そして、圧力発生素子に、極少量のインク滴を吐出させるためのマイクロドット駆動信号を供給した場合には、インク滴は、インクのメニスカス(ノズル開口で露出しているインクの自由表面)から分離して飛翔するメインインク滴(メイン液滴)と、このメインインク滴に付随して飛翔し、メインインク滴よりも小さいサテライトインク滴(サテライト液滴)とに分かれることが知られている。これらのメインインク滴とサテライトインク滴との間には、吐出対象物上への着弾の時間的なずれが生じ、メインインク滴が着弾した後にサテライトインク滴が着弾する。したがって、このように2つに分かれて飛翔するインク滴は、記録ヘッドをヘッド走査方向へ移動しながら吐出されるので、メインインク滴とサテライトインク滴とがヘッド走査方向へ沿って並んだ状態で着弾する。
【0006】
さらに、記録速度の向上を図るため、記録ヘッドの移動速度を高速化させることが求められている。しかしながら、記録ヘッドを高速で移動しながら極少量のインク滴を吐出すると、サテライトインク滴がメインインク滴からより離れた状態で着弾し、さらにインク滴を連続して吐出すると、サテライトインク滴が隣のメインインク滴、すなわち次回の吐出動作により飛翔するメインインク滴の着弾位置に近づいてしまう。この結果、吐出対象物上に着弾した複数のメインインク滴及び複数のサテライトインク滴が繋がって、ヘッド走査方向に沿って筋(バンディング)を発生させ易くなってしまい、却って画質の低下を引き起こす虞がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、メイン液滴とサテライト液滴とがヘッド走査方向に並んで吐出対象物へ着弾することを防止することができ、吐出対象物に筋(バンディング)が発生する不具合を抑えることができる液体噴射ヘッド、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、複数のノズル開口を列設してノズル列が形成されたノズルプレートを備え、該ノズルプレートを吐出対象物へ対向させた状態でヘッド走査方向に沿って移動し、この移動状態でノズル開口から吐出対象物へ向けて液滴を吐出可能に構成された液体噴射ヘッドであって、
前記ノズル開口は、その内周面のうちヘッド走査方向に直交する面部分から周方向に外れた位置にノズル溝部を、ノズル開口の吐出側開口縁に達する状態で形成し、
前記ノズル溝部の幅をノズル開口の開口幅よりも狭く設定し、ノズル溝部を流れる液体の流速と、ノズル開口の中心を挟んでノズル溝部とは反対側を流れる液体の流速とが異なるように構成したことを特徴とする。
【0009】
上記構成よれば、液滴の吐出時にノズル溝部内のメニスカスの移動速度と、ノズル開口の中心を挟んでノズル溝部とは反対側のメニスカスの移動速度とを異ならせることができる。したがって、ノズル開口内のメニスカスの大部分が押し出されて吐出されるメイン液滴をヘッド走査方向から外れた方向、例えば、ノズル開口の中心を挟んでノズル溝部とは反対方向へ向けて飛翔させることができる。また、ノズル開口内のメニスカスの中央部分が押し出されて吐出されるサテライト液滴は、メニスカスの外側部分の移動速度に影響されずに真っ直ぐに吐出される。このことから、メイン液滴をヘッド走査方向とは異なる方向に飛翔させてサテライト液滴から離すことができる。これにより、メイン液滴とサテライト液滴とがヘッド走査方向に並んで吐出対象物へ着弾することを防止することができ、吐出対象物に液滴のバンディング(横筋)が発生する不具合を抑えることができる。
【0010】
そして、上記構成において、前記ノズル開口は、その内周面のうちヘッド走査方向に直交する面部分からノズル開口の中心軸周りに90度位相がずれた位置にノズル溝部を、中心軸方向に沿ってノズル開口の吐出側開口縁に達する状態で形成することが望ましい。この構成によれば、メイン液滴をヘッド走査方向に対して略直交する方向へ飛翔させることができる。したがって、メイン液滴をサテライト液滴から一層離して吐出対象物へ着弾することを防ぐことができる。このことから、吐出対象物における液滴のバンディングの発生を一層抑えることができる。
【0011】
また、本発明に係る液体噴射ヘッドの製造方法は、ポンチの外周部に、該ポンチの幅よりも狭い突起を突設し、ポンチおよび突起を素材プレートに突入させて、ノズル開口と、該ノズル開口の内周面から外方へ凹んだノズル溝部とを形成し、
前記ノズル開口の内周面のうちヘッド走査方向に直交する面部分から周方向に外れた位置にノズル溝部を、ノズル開口の吐出側開口縁に達する状態で形成することを特徴とする。
【0012】
このようにポンチと突起とでノズル開口およびノズル溝部を形成すれば、メイン液滴をヘッド走査方向とは異なる方向に飛翔させてサテライト液滴から離すことができる液体噴射ヘッドを容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、添付図面等を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、本発明の液体噴射ヘッドとして、インクジェット式プリンタ(液体噴射装置の一種。以下、プリンタという。)に搭載されるインクジェット式記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドという。)を例に挙げて説明する。
【0014】
まず、プリンタ1について説明する。プリンタ1は、図1に示すように、カートリッジ装着部2と記録ヘッド3(本発明における液体噴射ヘッドに相当)とを有するキャリッジ(ヘッドユニット)4を備え、該キャリッジ4をガイドロッド5により軸支している。また、キャリッジ4には、駆動プーリ6と遊転プーリ7との間に掛け渡したタイミングベルト8を接続し、駆動プーリ6にパルスモータ9を接合してキャリッジ移動機構10を設け、該キャリッジ移動機構10を駆動することでキャリッジ4、カートリッジ装着部2及び記録ヘッド3が記録紙11(本発明における吐出対象物に相当)の幅方向、すなわちヘッド走査方向(主走査方向)へ移動できるように構成されている。さらに、カートリッジ装着部2には、記録ヘッド3にインクを供給するインクカートリッジ12を着脱可能に装着している。
【0015】
図2は記録ヘッド3の断面図であり、ヘッド走査方向に沿った断面を示している。記録ヘッド3は、キャリッジ移動機構10によるヘッド走査方向への移動状態で液体状のインク(本発明における液体の一種)をインク滴(液滴)として記録紙11へ吐出可能に構成されている。この記録ヘッド3は、図2に示すように、複数の圧電振動子(圧力発生素子の一種)15、固定板16、及びフレキシブルケーブル17等をユニット化した振動子ユニット18と、この振動子ユニット18を収納可能なケース19と、ケース19の先端面に接合された流路ユニット20とを備えている。
【0016】
ケース19は、先端と後端が共に開放された収納空部21を形成した合成樹脂製のブロック状部材であり、収納空部21内には振動子ユニット18を収納固定している。
【0017】
圧電振動子15は、圧電体と内部電極とを交互に積層した圧電板を櫛歯状に切り分けることで作製された積層型であり、積層方向に直交する縦方向に伸縮可能な縦振動モードの圧電振動子である。また、当該圧電振動子15の先端面を流路ユニット20の島部22に接合している。
【0018】
流路ユニット20は、流路形成基板23を間に挟んでノズルプレート24を流路形成基板23の一方の面側に配置し、弾性板25をノズルプレート24とは反対側となる他方の面側に配置して積層することで構成されている。ノズルプレート24は、薄手の金属製板材(例えばステンレス板)に、複数(例えば180個)のノズル開口26を紙送り方向(副走査方向)に沿って列設してノズル列を形成し、ノズル開口26のインク吐出側(図中下側)が配置された面(ノズル面24a)を記録紙11へ対向させる状態で配置されている。また、流路形成基板23は、共通インク室27、インク供給路28、圧力室29、及びノズル連通口30からなるインク流路が形成された板状部材である。本実施形態では、この流路形成基板23を、シリコンウェハーのエッチング処理によって作製している。そして、弾性板25は、ステンレス製の支持板31上に樹脂フィルム32をラミネート加工した二重構造の複合板材であり、圧力室29に対応した部分の支持板31を環状に除去して島部22を形成している。
【0019】
この記録ヘッド3では、共通インク室27から圧力室29を通ってノズル開口26に至る一連のインク流路がノズル開口26毎に形成される。そして、圧電振動子15を充電したり放電したりすることで圧電振動子15が変形する。すなわち、この縦振動モードの圧電振動子15は、充電によって振動子長手方向に収縮し、放電によって振動子長手方向に伸長する。したがって、充電によって振動子電位を上昇させると、島部22が圧電振動子15側に引っ張られ、島部22の周辺の樹脂フィルム32が変形して圧力室29が膨張する。また、放電によって振動子電位を下降させると、圧力室29が収縮する。
【0020】
次に、ノズルプレート24に開設されたノズル開口26について説明する。図3(a)はノズル開口26の平面図、図3(b)はノズル開口26をヘッド走査方向と直交する面(すなわち紙送り方向に沿った面)で切断した断面図、図3(c)はノズル開口26の底面図である。
ノズル開口26は、図3に示すように、記録紙11に対向するノズル面24a側(図3(b)中下側)に位置する断面円形状のストレート部35と、流路形成基板23側(図3(b)中上側)に位置し、流路形成基板23側へ向けて次第に拡開するテーパ部36とで構成されて漏斗形状を呈し、当該ノズル開口26の中心軸が記録紙11の表面に対して直交する状態で開設されている。なお、ノズル開口26は、この形状に限定されるものではない。例えば、ノズルプレート24の板厚方向に貫通した円柱状の貫通孔で構成してもよいし、あるいは縮径部をノズル面24aに開設したテーパ状の貫通孔で構成してもよい。
【0021】
また、ノズル開口26の内周面には、外方へ凹んだノズル溝部38をノズル開口26の中心軸方向に沿って形成している。このノズル溝部38は、その幅をノズル開口26の開口幅、すなわちストレート部35の開口径及びテーパ部36の開口径よりも狭く設定し、ノズル開口26のストレート部35の内周面のうちヘッド走査方向に直交する面部分36aから周方向に外れた位置、詳しくは、ノズル開口26の中心軸周りに90度位相がずれた位置に配置されている。また、テーパ部36の中間部分からノズル面24a、言い換えるとノズル開口26の吐出側開口縁に達する状態で形成されている。したがって、ノズルプレート24のノズル面24aには、ヘッド走査方向と直交する方向に沿って縁の一部が凹んだ開口形状の孔が開設されている(図3(c)参照)。
なお、本実施形態では、ノズル溝部38の断面を略U字状となるように設定したが、本発明はこれに限定されず、例えば、断面矩形状のノズル溝部38であってもよいし、断面三角形状のノズル溝部38であってもよい。また、ノズル溝部38をノズルプレート24の厚さ全体に亘って形成してもよい。
【0022】
次に、上記した記録ヘッド3の製造方法について説明する。なお、この製造方法に関し、ノズルプレート24を除く各部材、すなわち振動子ユニット18、ケース19、流路形成基板23、弾性板25については従来のものと同じ工程で作製される。このため、以下の説明では、ノズルプレート24を作製する工程について説明する。
【0023】
ノズルプレート24の作製工程では、まず下孔形成工程を行う。この下孔形成工程においては、ノズルプレート24となる素材プレート40にポンチ加工を行う。なお、下孔形成工程で使用されるポンチ41は、図4(a)及び図4(b)に示すように、円柱状の基部41aと、該基部41aよりも先端側に設けられて先細りテーパ形状を呈するテーパ部41bと、該テーパ部41bよりも先端側に設けられて基部41aよりも一回り細い円柱状のストレート部41cとから構成されている。また、ポンチ41の外周部には、該ポンチ41の幅(直径)よりも狭い突起42を、テーパ部41bの中間部分からストレート部41cの先端まで突設している。
【0024】
下孔形成工程では、まずダイ44の上に素材プレート40を載置し、素材プレート40の向きを調整して、ポンチ41の突起42の突出方向と素材プレート40(すなわちノズルプレート24)のヘッド走査方向に対応する方向とがずれるように、具体的には90度向きがずれるように配置する。素材プレート40の位置が決まったならば、素材プレート40の上面にストリッパ45を押し付けて素材プレート40を挟持し(図4(a))、この挟持状態でポンチ41及び突起42を素材プレート40に突入させ、十分な深さまで押し込む(図4(c))。すると、素材プレート40にはポンチ41に倣った下孔46が形成されるとともに突起42に倣った溝部47が形成される。また、素材プレート40の一部がダイ44の開口部44a内に押し出されて膨隆部48が形成される。ポンチ41及び突起42が十分に押し込まれたならば、このポンチ41及び突起42を素材プレート40から引き抜き、ストリッパ45を上昇させて素材プレート40の挟持状態を解除する(図4(d))。
【0025】
素材プレート40の挟持状態を解除したならば、膨隆部除去工程に移行し、膨隆部48を研磨加工により除去する。すると、下孔46及び溝部47が素材プレート40の板厚方向に貫通してノズル開口26と該ノズル開口26(詳しくはストレート部35)の内周面から外方へ凹んだノズル溝部38とが形成される(図4(e))。そして、ノズル溝部38がノズル開口26の内周面のうちヘッド走査方向に直交する面部分36aから周方向に外れた位置、詳しくは、ノズル開口26の中心軸周りに90度位相がずれた位置に形成される。さらに、このようにして形成されるノズル開口26及びノズル溝部38を紙送り方向に対応する方向に沿って複数列設してノズル列を形成して、ノズルプレート24が完成する。
【0026】
次に、上記工程で作製されたノズルプレート24を備えた記録ヘッド3の作用、特に、ノズルプレート24を記録紙11へ対向させた状態でヘッド走査方向に沿って移動し(図5(a)参照)、この移動状態で極少量のインク滴を吐出する場合の作用について説明する。
まず、圧電振動子15に、極少量のインク滴を吐出させるためのマイクロドット駆動信号が供給されていない定常状態では圧力室29内の圧力変動が極めて少なく、図5(b)に示すように、インクのメニスカスMがノズル面24aの近傍に位置し、緩やかな曲率で圧力室29側(図中上側)に少し窪んでいる。
【0027】
そして、圧電振動子15へマイクロドット駆動信号の充電要素が供給されると、圧力室29の容積が膨張し、圧力室29内のインクが緩やかに減圧され、メニスカスMが定常状態からノズル開口26のストレート部35の途中まで圧力室29側に引き込まれる。このとき、ノズル開口26の中央部分のインクがノズル開口26の内周面からの抵抗を受け難いため、この中央部分において引き込まれる流速が最も速くなり、メニスカスMは、中央部分が圧力室29側に窪んだ状態となる。また、ノズル溝部38を流れるインクがノズル溝部38から流路抵抗を受けるため、ノズル溝部38内のインクの流速と、ノズル開口26の中心を挟んでノズル溝部38とは反対側を流れるインクの流速とが異なる。具体的には、ノズル溝部38内のインクの流速がノズル開口26の中心を挟んでノズル溝部38とは反対側を流れるインクの流速よりも遅くなる。したがって、メニスカスMは、ノズル溝部38側の部分がノズル面24a側(図中下側)に偏った状態となる(図5(c)参照)。
【0028】
続いて、圧電振動子15へマイクロドット駆動信号の放電要素が供給されると、圧力室29の容積が収縮し、圧力室29内のインクが加圧され、メニスカスMがノズル面24aへ向けて押し出される方向へ移動する。このとき、ノズル開口26の中央部分のインクがノズル開口26の内周面からの抵抗を受け難いため、この中央部分において押し出される流速が最も速くなり、メニスカスMは、中央部分がノズル面24a側に隆起した状態となる。また、ノズル溝部38を流れるインクがノズル溝部38から流路抵抗を受けるため、ノズル溝部38内のインクの流速と、ノズル開口26の中心を挟んでノズル溝部38とは反対側を流れるインクの流速とが異なる。具体的には、ノズル溝部38内のインクの流速がノズル開口26の中心を挟んでノズル溝部38とは反対側を流れるインクの流速よりも遅くなる。したがって、メニスカスMは、ノズル溝部38側の部分が圧力室29側(図中上側)に偏り、中央の隆起部分がノズル溝部38から離れる方向(図中右方向)へ偏った状態となる(図5(d)参照)。
【0029】
さらに、圧電振動子15へ放電要素が供給されて圧力室29内のインクが加圧されると、メニスカスMは、ノズル溝部38側の部分が圧力室29側に凹んだ状態でノズル面24aに到達する(図5(e)参照)。この状態で圧力振動子へマイクロッド駆動信号のホールド要素が供給されると、インクが圧力室29からの圧力や慣性力等によって、ノズル面24aからインク滴の吐出方向(図中下方向)へ膨出し、この膨出部分がちぎれてメインインク滴mとして飛翔する。このとき、ノズル溝部38内のメニスカスMの移動速度が、ノズル開口26の中心を挟んでノズル溝部38とは反対側のメニスカスMの移動速度よりも遅いので、ノズル開口26内のメニスカスMの大部分が押し出されて吐出されるメインインク滴mは、ヘッド走査方向から外れた方向、具体的には、ノズル開口26の中心からノズル溝部38とは反対方向へ曲がって飛翔することができる(図5(f)参照)。
【0030】
続いて、残ったインクの中央部分がちぎれ、このちぎれた部分がサテライトインク滴sとして飛翔する。このサテライトインク滴sは、ノズル開口26内のメニスカスMの中央部分が押し出されて吐出するので、メニスカスMの外側部分の移動速度に影響されずに吐出され、曲がらずに飛翔することができる(図5(g)参照)。
【0031】
このようにして、記録ヘッド3がヘッド走査方向に沿って移動した状態でサテライトインク滴sがメインインク滴mから遅れて飛翔するので、メインインク滴mとサテライトインク滴sとは、図5(h)に示すように、ヘッド走査方向へずれた状態で記録紙11に着弾する。しかも、メインインク滴mがノズル開口26の中心からノズル溝部38とは反対方向(すなわち紙送り方向)へ曲がって飛翔するので、メインインク滴mとサテライトインク滴sとを紙送り方向へずらして着弾させることができる。これにより、メインインク滴mとサテライトインク滴sとがヘッド走査方向に並んで記録紙11へ着弾することを防止することができる。したがって、極少量のインク滴を連続して吐出したとしても、複数のメインインク滴mと複数のサテライトインク滴sと繋がって着弾し難く、記録紙11にインク滴のバンディング(横筋)が発生する不具合を抑えることができる。
【0032】
また、本実施形態では、ノズル溝部38を、ノズル開口26の内周面のうちヘッド走査方向に直交する面部分36aからノズル開口26の中心軸周りに90度位相がずれた位置に形成しているので、メインインク滴mをヘッド走査方向に対して略直交する方向へ飛翔させることができる。したがって、メインインク滴mをサテライトインク滴sから一層離して記録紙11へ着弾することを防ぐことができる。このことから、記録紙11上にインク滴のバンディングが発生することを一層抑えることができる。
【0033】
さらに、ノズル溝部38は、ノズルプレート24の作製工程において、ポンチ41に突設した突起42により形成されるので、メインインク滴をヘッド走査方向とは異なる方向に飛翔させてサテライトインク滴から離すことができる記録ヘッド3を容易に製造することができる。
【0034】
なお、上記実施形態では、ノズルプレート24にノズル開口26を開設し、このノズルプレート24を流路形成基板23に積層して記録ヘッド3を構成したが、本発明はこれに限定されない。例えば、記録ヘッド3に流路形成ブロックを備え、該流路形成ブロックにインク流路と、該インク流路に連通するノズル開口26とを形成し、ノズル開口26を記録紙11等の吐出対象物に対向させる状態で配置するように構成してもよい。
【0035】
また、上記実施形態では、ノズル開口26は、その内周面のうちヘッド走査方向に直交する面部分36aからノズル開口26の中心軸周りに90度位相がずれた位置に1条のノズル溝部38を形成したが、本発明はこれに限定されない。要は、メインインク滴を曲げて飛翔させて、メインインク滴とサテライトインク滴とを、ヘッド走査方向とは異なる方向へずらして着弾させることができれば、ノズル溝部38をどのような位相ずれの位置に配置してもよいし、また、ノズル溝部38を複数条形成してもよい。そして、ノズル開口26の内周面に複数条のノズル溝部38を形成するために、ポンチ41の外周面に突起42を複数突設してもよい。
【0036】
さらに、ノズル溝部38は、ノズル開口26の中心軸方向に沿って形成されたが、本発明はこれに限定されず、ノズル開口26の吐出側開口縁に達する状態で形成されていれば、ノズル開口26の中心軸に対して傾いた形状を呈してもよい。そして、ノズルプレート24の作製工程において、ポンチ41の外周部の先端に点状の突起を突出し、ポンチ41及び点状突起を中心軸周りに僅かに回転しながら基材プレートへ突入させて、ノズル開口26とノズル開口26の中心軸に対して傾斜したノズル溝部とを形成してもよい。
【0037】
また、本発明は、上記プリンタ1以外の液体噴射装置の液体噴射ヘッド、及びその製造方法にも適用できる。例えば、液晶ディスプレー等のカラーフィルタを製造するディスプレー製造装置,有機EL(Electro Luminescence)ディスプレーやFED(面発光ディスプレー)等の電極を形成する電極製造装置,バイオチップ(生物化学素子)を製造するチップ製造装置,極少量の試料溶液を正確な量供給するマイクロピペット等の液体噴射装置の液体噴射ヘッド、及びその製造方法にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】プリンタの構成を説明する斜視図である。
【図2】記録ヘッドの構造を説明する断面図である。
【図3】ノズル開口の説明図であり、(a)は平面図、(b)はヘッド走査方向と直交する断面図、(c)は底面図である。
【図4】ポンチの説明図、およびノズルプレートの作製工程の説明図である。
【図5】ノズル開口の移動方向を示す平面図、圧電振動子へマイクロドット駆動信号を供給したときのメニスカスの状態図、およびメインインク滴とサテライトインク滴との着弾位置を示す説明図である。
【符号の説明】
【0039】
1 プリンタ,2 カートリッジ装着部,3 記録ヘッド,4 キャリッジ,5 ガイドロッド,6 駆動プーリ,7 遊転プーリ,8 タイミングベルト,9 パルスモータ,10 キャリッジ移動機構,11 記録紙,12 インクカートリッジ,15 圧電振動子,16 固定板,17 フレキシブルケーブル,18 振動子ユニット,19 ケース,20 流路ユニット,21 収納空部,22 島部,23 流路形成基板,24 ノズルプレート,25 弾性板,26 ノズル開口,27 共通インク室,28 インク供給路,29 圧力室,30 ノズル連通口,31 支持板,32 樹脂フィルム,35 ストレート部,36 テーパ部,38 ノズル溝部,40 素材プレート,41 ポンチ,42 突起,44 ダイ,45 ストリッパ,46 下孔,47 溝部,48 膨隆部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズル開口を列設してノズル列が形成されたノズルプレートを備え、該ノズルプレートを吐出対象物へ対向させた状態でヘッド走査方向に沿って移動し、この移動状態でノズル開口から吐出対象物へ向けて液滴を吐出可能に構成された液体噴射ヘッドであって、
前記ノズル開口は、その内周面のうちヘッド走査方向に直交する面部分から周方向に外れた位置にノズル溝部を、ノズル開口の吐出側開口縁に達する状態で形成し、
前記ノズル溝部の幅をノズル開口の開口幅よりも狭く設定し、ノズル溝部を流れる液体の流速と、ノズル開口の中心を挟んでノズル溝部とは反対側を流れる液体の流速とが異なるように構成したことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記ノズル開口は、その内周面のうちヘッド走査方向に直交する面部分からノズル開口の中心軸周りに90度位相がずれた位置にノズル溝部を、中心軸方向に沿ってノズル開口の吐出側開口縁に達する状態で形成したことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
複数のノズル開口を列設してノズル列が形成されたノズルプレートを備え、該ノズルプレートを吐出対象物へ対向させた状態でヘッド走査方向に沿って移動し、この移動状態でノズル開口から吐出対象物へ向けて液滴を吐出可能に構成された液体噴射ヘッドの製造方法であって、
ポンチの外周部に、該ポンチの幅よりも狭い突起を突設し、ポンチおよび突起を素材プレートに突入させて、ノズル開口と、該ノズル開口の内周面から外方へ凹んだノズル溝部とを形成し、
前記ノズル開口の内周面のうちヘッド走査方向に直交する面部分から周方向に外れた位置にノズル溝部を、ノズル開口の吐出側開口縁に達する状態で形成したことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−272649(P2006−272649A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−92532(P2005−92532)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】