説明

液体噴射ヘッド、液体噴射ヘッドユニット及び液体噴射装置

【課題】小液滴の被噴射媒体への着弾を抑制すると共に、小液滴による液体噴射不良を抑制して、印刷品質を向上することができる液体噴射ヘッド、液体噴射ヘッドユニット及び液体噴射装置を提供する。
【解決手段】液体を噴射するノズル開口11を有するヘッド本体10と、前記ノズル開口11が開口する液体噴射面12の周囲に、前記液体の噴射方向に突出して設けられたカバー20と、該カバー20内に前記液体噴射面12から離れた位置に設けられて、前記ノズル開口11に相対向する領域に開口31が設けられた整流板30と、前記整流板30と前記液体噴射面12との間に当該液体噴射面12の面方向に沿って気流を発生させる気流発生手段40と、を具備し、前記整流板30は、前記液体噴射面の面方向の少なくとも一方向又は当該面方向に対して傾斜する方向に移動可能に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル開口から液体を噴射する液体噴射ヘッド、液体噴射ヘッドユニット及び液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット式記録ヘッドやプロッター等のインクジェット式記録装置に代表される液体噴射装置は、カートリッジやタンク等の液体貯留手段に貯留されたインクなどの液体を液滴(インク滴)として吐出可能な液体噴射ヘッド(以下、記録ヘッドとも言う)を具備する。
【0003】
液体噴射装置には、紙などの記録シート等である被噴射媒体に対して液体噴射ヘッドを走査方向に移動させながら印刷を行うシリアル型の液体噴射装置と、被記録媒体の幅に亘ってノズル開口が設けられた液体噴射ヘッドを固定し、被記録媒体を搬送するだけで印刷を行うライン型の液体噴射装置とが実用化されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、シリアル型及びライン型の何れの液体噴射装置であっても、被噴射媒体と液体噴射ヘッドとが相対的に移動されるため、この相対移動によって気流が発生し、ノズル開口からインクを吐出した際に主滴(メイン液滴)から分離した小液滴(ミストやサテライト滴と呼称されるもの)が発生し、小液滴が気流の流れによって被噴射媒体の主滴とは別の位置に付着することによって印刷品質が低下してしまう。また、小液滴がノズル開口の液体のメニスカスに付着してメニスカスを破壊してしまい、ノズル開口から液滴を正常に吐出することができなくなる。
【0005】
このような問題を解決するために、記録ヘッドのインクを吐出する液体噴射面側に、ノズル開口から被噴射媒体近傍までを覆うフードを設け、被噴射媒体と記録ヘッドとの相対的な移動によって発生した気流によって小液滴が主滴とは異なる位置に着弾するのを抑制するようにした描画ヘッド装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
一方、上述した液体噴射装置では、長時間の使用によりノズル内のインク増粘、或いはノズル開口近傍へのゴミの付着によって吐出不良が生じるおそれがあるので、非印字時にノズルからインクを予備吐出し、増粘したインクやゴミ等を排出させることで液体噴射ヘッドの噴射特性を回復或いは維持させるフラッシング動作が行われる。このようなフラッシング動作を行う液体噴射装置として、ノズル列に対応して形成される帯状の開口部と、ノズル列に対応するとともに開口部の幅方向における側部に設けられる流体受け部とを具備するフラッシング部材を設けたものが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−16370号公報
【特許文献2】特開2000−62166号公報
【特許文献3】特開2009−279764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2のように、記録ヘッドにフードを設けただけでは、逆にフードによって巻き込まれた乱気流が発生し、小液滴が被噴射媒体の主滴とは異なる位置に着弾し、印刷品質が低下してしまうと共に、メニスカスの破壊が発生してしまうという問題がある。
【0009】
このような問題は、特に記録ヘッドと被噴射媒体との相対的な移動速度を高速化して、高速印刷を行う場合に顕著に表れるものである。
【0010】
また、特許文献3の装置では、フラッシング部材を特別に設ける必要があるため、コスト高になるという課題がある。
【0011】
さらに、上述したような問題はインクを吐出するインクジェット式記録ヘッドだけではなく、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにおいても同様に存在する。
【0012】
本実施形態はこのような事情に鑑み、小液滴の被噴射媒体への着弾を抑制すると共に、小液滴による液体噴射不良を抑制して、印刷品質を向上することができ、且つ特別な部材を設けることなく、フラッシング動作を高速に行うことができる液体噴射ヘッド、液体噴射ヘッドユニット及び液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する本発明の態様は、液体を噴射するノズル開口を有するヘッド本体と、前記ノズル開口が開口する液体噴射面の周囲に、前記液体の噴射方向に突出して設けられたカバーと、該カバー内に前記液体噴射面から離れた位置に設けられて、前記ノズル開口に相対向する領域に開口が設けられた整流板と、前記整流板と前記液体噴射面との間に当該液体噴射面の面方向に沿って気流を発生させる気流発生手段と、を具備し、前記整流板は、前記液体噴射面の面方向の少なくとも一方向又は当該面方向に対して傾斜する方向に移動可能に設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0014】
かかる態様では、ノズル開口から噴射された液滴の主滴が気流によって吐出方向と交差する方向に移動されることなく、直進して被噴射媒体に着弾すると共に、主滴から分離した小液滴が気流によって移動されることによって、整流板に着弾して、小液滴が被噴射媒体に着弾したり、ノズル開口のメニスカスに付着するのを抑制することができる。また、カバーを設けることによって、被噴射媒体と液体噴射ヘッドとの相対移動による気流や、外部の気流などがカバーによって遮蔽されて、液体噴射面の近傍に気流発生手段による気流とは異なる気流が発生するのを抑制することができ、主滴の着弾位置ずれを抑制することができる。さらに、整流板を移動可能に設けることで、整流板をフラッシング動作の際流体受け部材に使用することができ、特別な部材を設けることなく、フラッシング動作を高速に行うことができる。
【0015】
ここで、前記整流板は、前記カバーと共に移動可能であることが好ましい。これによれば、整流板の取付、移動が比較的容易に行うことができる。
【0016】
また、前記整流板は、少なくとも表面が吸着性材料で形成されていることが好ましい。これによれば、フラッシング動作の際の流体をより確実に受けることができる。
【0017】
また、前記整流板を位置決め移動する移動手段を具備することが好ましい。これによれば、ヘッド本体と一体的に移動手段を設けることで、通常の液体噴射動作と、フラッシング動作との切り替えを高精度且つ確実に行うことができる。
【0018】
また、前記ヘッド本体を複数具備し、前記カバーが複数の前記ヘッド本体の周囲に亘って連続して設けられていることが好ましい。これによれば、部品点数を減少させて、コストを低減することができる。
【0019】
また、前記気流発生手段が、湿気を帯びた気体の気流を発生させることが好ましい。これによれば、気流発生手段の発生した気流によって、ノズル開口近傍の液体の乾燥が促進されるのを抑制して、液体の乾燥・硬化による吐出不良を低減することができる。
【0020】
さらに、本発明の他の態様は、上記態様の液体噴射ヘッドを2以上具備することを特徴とする液体噴射ヘッドユニットにある。
かかる態様では、多ノズル化したヘッドユニットを容易に形成することができる。
【0021】
また、本発明の他の態様は、上記態様の液体噴射ヘッド又は液体噴射ヘッドユニットを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
かかる態様では、印刷品質を向上して高速印刷が可能な液体噴射装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態1に係る記録ヘッドの斜視図である。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドの底面図及び要部断面図である。
【図3】実施形態1に係る記録ヘッドの動作を示す要部断面図である。
【図4】実施形態1に係る記録ヘッドの動作を示す要部断面図である。
【図5】実施形態1に係る記録ヘッドの動作を説明する要部底面図である。
【図6】実施形態1に係るヘッドユニットの底面図である。
【図7】実施形態1に係る記録装置の概略斜視図である。
【図8】実施形態2に係るヘッドユニットの底面図である。
【図9】他の実施形態に係る整流板の変形例を示す記録ヘッドの底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドを示す斜視図であり、図2は、インクジェット式記録ヘッドの底面図及び要部断面図である。
【0024】
図1に示すように、本実施形態の液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッド1(以下、記録ヘッド1とも言う)は、ヘッド本体10と、ヘッド本体10の液体噴射面12を覆うカバー20と、カバー20に固定された整流板30と、気流発生手段40と、を具備する。
【0025】
ヘッド本体10には、液体としてインクを吐出する複数のノズル開口11が一方面に開口して設けられている。このノズル開口11が開口する面が液体としてインクを吐出する液体噴射面12となっている。
【0026】
また、ヘッド本体10は、内部にノズル開口11と連通する流路13が設けられており、図示しない圧力発生手段によって流路13内のインクに圧力変化を生じさせることでノズル開口11からインク滴を吐出する。なお、流路13内に圧力変化を生じさせる圧力発生手段としては、例えば、電気機械変換機能を呈する圧電材料を有する圧電素子を用いた圧電アクチュエーターや、流路13内に発熱素子を配置して、発熱素子の発熱で発生するバブルによってノズル開口11からインク滴を吐出するものや、振動板と電極との間に静電気を発生させて、静電気力によって振動板を変形させて流路13内に圧力変化を生じさせてノズル開口11からインク滴を吐出させるいわゆる静電式アクチュエーターなどを用いることができる。
【0027】
ヘッド本体10の液体噴射面12側の側面には、カバー20が設けられている。カバー20は、記録ヘッド1の液体噴射面12を囲み、インクの吐出方向に向かって突出するように設けられている。本実施形態のカバー20は、開口が矩形状となる四角筒状の部材からなり、一方の開口にヘッド本体10の液体噴射面12側を挿入して固定することで、ヘッド本体10と一体化されている。このようなカバー20は、液体噴射面12から被記録媒体近傍まで液体噴射面12に相対向してインクが吐出される飛翔領域を覆うことで、飛翔領域に外部の気流の影響が及ぶのを抑制する。
【0028】
また、カバー20の内部には、整流板30が固定されている。整流板30は、液体噴射面12に相対向して、液体噴射面12から離れた位置に設けられた板状部材からなる。
【0029】
整流板30には、各ノズル開口11に相対向する領域に、ノズル開口11から吐出されるインク滴(主滴)が通過可能な大きさの開口31が設けられている。ここで、ノズル開口11に相対向して主滴が通過可能な開口31とは、例えば、各ノズル開口11毎に独立して設けられた開口31であってもよく、また、2以上のノズル開口11からなるノズル開口群に対応して設けられた開口31であってもよい。すなわち、1つの開口31が、ノズル開口11毎に設けられていても、また、1つの開口31が複数のノズル開口11に共通して設けられていてもよい。
【0030】
また、整流板30は、開口31以外の領域が全て閉塞されていてもよく、また、ノズル開口11に相対向する領域以外にも他の開口が設けられていてもよい。ノズル開口11に相対向する領域以外に他の開口が設けられた整流板30としては、例えば、樹脂、繊維、不織布、紙等を格子状にすることで開口31がマス目状に設けられたメッシュ部材が挙げられる。なお、メッシュ部材の開口31のピッチ(間隔)は、ノズル開口11のピッチの整数倍とすれば、開口31を全てのノズル開口11に相対向させることができる。また、メッシュ部材の開口31の大きさ及びピッチは、上述のように、1つの開口31が各ノズル開口11に相対向するように設けられていてもよく、また、1つの開口31が複数のノズル開口11に相対向するように設けられていてもよい。
【0031】
なお、整流板30の材料としては、特に限定されず、例えば、金属材料、樹脂材料、繊維、不織布、紙等を用いることができる。但し、整流板30として吸着性、すなわち、例えば、吸水性を有する材料を用いることで、整流板30にインクが付着した際に、特に、フラッシング動作の際のインクが吸着性を有する整流板30に確実に吸着されて保持され、整流板30に付着したインクが予期せぬタイミングで被噴射媒体に落下して付着するのを抑制することができる。
【0032】
このような整流板30は、上述のように液体噴射面12と所定の距離だけ離れた位置に配置されている。これにより、整流板30と液体噴射面12との間には、小液滴を移動させるための空間32が画成されている。
【0033】
なお、整流板30は、液体噴射面12と被記録媒体との間において、液体噴射面12近傍に設けられているのが好ましい。これは、ノズル開口11から吐出された主滴は、ノズル開口11から離れるに従い、吐出方向のずれや気流の影響を多く受けることによって、ノズル開口11とはずれた位置に着弾する虞があるため、液体噴射面12から整流板30が離れていると、その誤差が増大することによって、主滴が整流板30の開口31を通過できなくなる虞があるからである。したがって、整流板30を液体噴射面12の近傍に設けることで、ノズル開口11から吐出された主滴が開口31を通過し易くすることができる。本実施形態では、液体噴射面12と整流板30との間隔を1mm程度とした。
【0034】
また、整流板30と液体噴射面12との間の空間32は、ノズル開口11の並設方向の両側のカバー20の側面に互いに相対向するように設けられた一対の連通孔21によって外部と連通している。
【0035】
気流発生手段40は、液体噴射面12と整流板30との間の空間32に、液体噴射面12の面方向に沿って気流を発生させるものである。本実施形態では、送風機からなる気流発生手段40をカバー20の外周の一方の連通孔21が開口する場所に設けるようにした。
【0036】
これにより、気流発生手段40からは、一方の連通孔21を介してカバー20の内部に気体が送風され、液体噴射面12と整流板30との間の空間32内にノズル開口11の並設方向に向かって液体噴射面12及びカバー20の面方向に沿って気流を発生させる。そして、気流発生手段40から送風された気体は、他方の連通孔21からカバー20の外部に排出されることで、気体がカバー20に当接することによって乱気流が発生するのを抑制している。
【0037】
なお、気流発生手段40は、送風機に限定されず、例えば、吸引ポンプ等であってもよい。
【0038】
このような気流発生手段40が発生させる気流は、詳しくは後述するが、ノズル開口11から吐出されたインク滴の主滴が気流の影響を受けずに直進し、主滴から分離した小液滴が気流の影響を受けて移動する流速である。ちなみに、主滴の大きさ(質量)や、小液滴の大きさ(質量)は、圧力発生手段の性能や、吐出するインク滴の重量や速度を規定する駆動波形などの影響で変化するため、これらに応じて適宜決定すればよい。
【0039】
さらに、本実施形態では、整流板30は、カバー20に対して、液体噴射面12に平行な面方向に、すなわち、図2の左右方向に移動可能に設けられている。具体的には、整流板30の周囲は、カバー20に対して面方向に移動可能な枠体25に固定されており、枠体25は、移動手段50により、位置決め移動可能となっている。
【0040】
移動手段50は、詳細は後述するが、ノズル開口11と整流板30の開口31とが相対向する通常動作位置と、ノズル開口11と整流板30の開口31以外の枠部33とが相対向するフラッシング動作位置とに、整流板30を位置決め移動するものであり、具体的には、例えば、アクチュエーター、電磁石、モーターなどを用いればよい。
【0041】
このような記録ヘッド1のインク滴の吐出について図3を参照して説明する。なお、図3は、インクジェット式記録ヘッドのインク滴の吐出状態を示す要部断面図である。
【0042】
図3(a)に示すように、移動手段50により、整流板30を通常動作位置にし、気流発生手段40によって液体噴射面12と整流板30との間の空間32に気流を発生させた状態で、図示しない圧力発生手段によって流路13内に圧力変化を生じさせてインク滴の吐出を開始する。これにより、ノズル開口11からメニスカスが柱状に盛り上がり、図3(b)に示すように、柱状の一部が切り離されることでインク滴Aがノズル開口11から吐出される。このとき、インク滴Aは尾部を引き延ばす形で飛翔し、図3(c)に示すように、インク滴Aの尾部の一部が引きちぎられることで、主滴B(メイン液滴)と、小液滴C(サテライト滴)とに分離する。また、小液滴Cは、図3(b)において、柱状の一部が切り離されてインク滴Aが分離した際にも発生するものである。
【0043】
このように吐出された主滴Bは、図3(d)に示すように、小液滴Cに比べて質量が大きいことから、気流によって流されることがなく、メッシュ状の整流板30の開口31を通過する。これに対して、小液滴Cは、主滴Bに比べて質量が小さいことから、図3(d)に示すように、気流によって整流板30の開口31が設けられていない領域に移動され、整流板30上に着弾する。これにより、小液滴Cは、被噴射媒体に着弾することがなく、また飛翔した小液滴Cが乱気流によって浮遊してノズル開口11のメニスカスに付着してメニスカスを破壊するのを抑制することができる。したがって、小液滴Cの影響による印刷品質の低下を抑制して、印刷品質を向上することができる。
【0044】
また、小液滴Cの被噴射媒体への着弾を抑制することができることから、インク滴A(主滴B)の飛翔速度を高めることができる。ちなみに、インク滴Aの飛翔速度を高めると、尾部が長くなり、切り離される小液滴Cが多く発生するが、本実施形態では、小液滴Cが多く発生したとしても、小液滴Cを整流板30に着弾させて被噴射媒体に着弾するのを抑制することができるため、インク滴A(主滴B)の飛翔速度を高めることができる。
【0045】
さらに、小液滴Cの被噴射媒体への着弾を抑制することができることから、被噴射媒体と記録ヘッド1との相対的な移動速度を高めて、高速度印刷が実現できる。ちなみに、被噴射媒体と記録ヘッド1との相対的な移動速度を高めると、乱気流が発生し、小液滴Cの発生や着弾位置ズレが多く発生するが、本実施形態では、小液滴Cを整流板30に着弾させることで、高速度印刷を実現できる。
【0046】
また、移動手段50により、整流板30をフラッシング動作位置に移動させることで、非常に高速で、フラッシング動作を行うことができる。具体的には、図4に示すように、整流板30がフラッシング動作位置に移動すると、整流板30の枠部33とノズル開口11とが相対向し、フラッシング動作によるノズル開口11からの液滴が枠部33に着弾するようになる。
【0047】
図5は、整流板30に対する着弾位置を模式的に示した図であり、図5(a)は、通常動作位置の着弾位置を示し、図5(b)はフラッシング動作位置の一例の着弾位置を示す。この場合、ノズル開口11の並設方向に整流板30を移動したが、図5(c)のように、並設方向に直交する方向に移動するようにしてもよいし、図5(d)のように、斜め方向に移動するようにしてもよい。
【0048】
また、上述した例では、整流板30をその面方向に移動することにより、図5(b)〜(d)の移動を実現したが、整流板30を傾斜させることによっても、図5(b)〜(d)の着弾位置が実現できるように移動可能である。
【0049】
これにより、フラッシング動作による液滴が整流板30の枠部33に確実にトラップされ、フラッシング動作を確実に行うことができる。また、整流板30の通常動作位置とフラッシング動作位置との切り替えを瞬時に行うことができるので、フラッシング動作を高速で行うことができ、高速印刷に対応することができる。
【0050】
このような記録ヘッド1は、複数個が一体的に固定されてヘッドユニットを構成する。ここで、本実施形態のヘッドユニットについて図6を参照して説明する。
【0051】
ヘッドユニット100は、複数の記録ヘッド1と、複数の記録ヘッド1が固定されるベースプレート110と、を有する。
【0052】
ベースプレート110は、ステンレス鋼等の板状部材からなり、各記録ヘッド1の液体噴射面12側が挿入される保持孔111を有する。保持孔111は、記録ヘッド1の液体噴射面12側の外周よりも若干広い開口面積を有し、ベースプレート110の保持孔111内に記録ヘッド1の液体噴射面12とは反対側が挿入されて記録ヘッド1の外周に設けられたフランジ部14がベースプレート110の一方面にネジ等を介して固定されている。
【0053】
本実施形態では、複数の記録ヘッド1は、ノズル開口11の並設方向である第1の方向Yに向かって並設されている。また、第1の方向Yに並設された複数の記録ヘッド1で構成される列は、ノズル開口11が並設された方向(第1の方向Y)とは交差する方向(第2の方向X)に並んで2列設けられている。これら第2の方向Xに並設されたに記録ヘッド1の2列は、互いに第2の方向Xに向かって若干ずらした位置に配置されている。すなわち、記録ヘッド1の2列は、記録ヘッド1が千鳥状に配置されるようにヘッドグループを構成している。そして、1つのヘッドグループにおいて、隣り合う記録ヘッド1は、一方の記録ヘッド1のノズル列の端部のノズル開口11と、他方の記録ヘッド1のノズル列の端部のノズル開口11とが、ノズル開口11の並設方向(第1の方向Y)で同一位置となるように設けられている。これにより、2列の記録ヘッド1によって、被噴射媒体の搬送方向とは交差する幅方向に亘って全ての領域で印刷を行うことができる。本実施形態では、ヘッドユニット100に4個のインクジェット式記録ヘッド1で構成されるヘッドグループを2つ設けるようにした。
【0054】
このようなヘッドユニット100は、インクジェット式記録装置200に搭載される。ここで、インクジェット式記録装置について図7を参照して説明する。
【0055】
本実施形態の液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装置200は、ヘッドユニット100(記録ヘッド1)が固定されて、被噴射媒体である紙などの記録シートSを搬送することで印刷を行う、所謂ライン式記録装置である。具体的には、インクジェット式記録装置200は、装置本体201と、複数の記録ヘッド1を具備すると共に装置本体201に固定されたヘッドユニット100と、記録シートSを搬送する搬送手段202と、ヘッドユニット100の相対向する記録シートSの印刷面とは反対の裏面側を支持するプラテン203とを具備する。
【0056】
ヘッドユニット100は、記録ヘッド1のノズル開口11の並設方向(第1の方向Y)が記録シートSの搬送方向と交差する方向となるように装置本体201に固定されている。
【0057】
搬送手段202は、ヘッドユニット100に対して記録シートSの搬送方向の両側に設けられた第1の搬送手段204と、第2の搬送手段205とを具備する。
【0058】
第1の搬送手段204は、駆動ローラー204aと、従動ローラー204bと、これら駆動ローラー204a及び従動ローラー204bに巻回された搬送ベルト204cとで構成されている。また、第2の搬送手段205は、第1の搬送手段204と同様に駆動ローラー205a、従動ローラー205b及び搬送ベルト205cで構成されている。
【0059】
これらの第1の搬送手段204及び第2の搬送手段205のそれぞれの駆動ローラー204a、205aには、図示しない駆動モーター等の駆動手段が接続されており、駆動手段の駆動力によって搬送ベルト204c、205cが回転駆動することで、記録シートSをヘッドユニット100の上流及び下流側で搬送する。
【0060】
なお、本実施形態では、駆動ローラー204a、205a、従動ローラー204b、205b及び搬送ベルト204c、205cで構成される第1の搬送手段204及び第2の搬送手段205を例示したが、記録シートSを搬送ベルト204c、205c上に保持させる保持手段をさらに設けてもよい。保持手段としては、例えば、記録シートSの外周面を帯電させる帯電手段を設け、この帯電手段によって帯電した記録シートSを誘電分極の作用により搬送ベルト204c、205c上に吸着させるようにしてもよい。また、保持手段として、搬送ベルト204c、205c上に押えローラーを設け、押えローラーと搬送ベルト204c、205cとの間で記録シートSを挟持させるようにしてもよい。
【0061】
プラテン203は、第1の搬送手段204と第2の搬送手段205との間に、ヘッドユニット100に相対向して設けられた断面が矩形状を有する金属又は樹脂等からなる。プラテン203は、第1の搬送手段204及び第2の搬送手段205によって搬送された記録シートSを、ヘッドユニット100に相対向する位置で支持する。
【0062】
なお、プラテン203には、搬送された記録シートSをプラテン203上で吸着する吸着手段が設けられていてもよい。吸着手段としては、例えば、記録シートSを吸引することで吸引吸着するものや、静電気力で記録シートSを静電吸着するもの等が挙げられる。
【0063】
また、ヘッドユニット100の各記録ヘッド1には、図示していないが、インクが貯留されたインクタンクやインクカートリッジなどのインク貯留手段がインクを供給可能に接続されている。インク貯留手段は、例えば、ヘッドユニット100上に保持されていても、また、装置本体201内のヘッドユニット100とは異なる位置に保持されていてもよい。
【0064】
このようなインクジェット式記録装置200では、搬送手段204によって記録シートSが搬送され、ヘッドユニット100によってプラテン203上で支持された記録シートSに印刷が実行される。印刷された記録シートSは、搬送手段202によって搬送される。
【0065】
このようなインクジェット式記録装置200の印刷では、記録ヘッド1には記録シートSの搬送方向の両側に液体噴射面12を覆うカバー20が設けられているため、記録シートSの搬送時の気流が液体噴射面12近傍に発生するのを抑制することができる。特に、本実施形態の記録ヘッド1は、搬送方向の両側にカバー20が配置されるようにインクジェット式記録装置200に搭載されているため、記録シートSの搬送時に発生する風(気流)をカバー20によって効果的に抑制することができる。ちなみに、本実施形態のように、一対のカバー20を設ける場合には、カバー20を設ける方向によって気流発生手段40が発生する気流の方向を規定すればよい。
【0066】
また、整流板30は、記録シートSの搬送領域と液体噴射面12とを遮蔽するように設けられているため、整流板30によっても記録シートS側からの気流が遮蔽されて、液体噴射面12近傍の気流の発生を抑制することができる。
【0067】
そして、このように液体噴射面12と整流板30との間の空間32への記録シートSの搬送による気流の影響を抑制して、気流発生手段40による気流のみで小液滴Cの着弾位置を制御することができるため、小液滴Cを整流板30により着弾させることができる。
【0068】
なお、本実施形態では、複数の記録ヘッド1を有するヘッドユニット100をインクジェット式記録装置200に搭載するようにしたが、特にこれに限定されず、単数又は複数の記録ヘッド1を直接インクジェット式記録装置200に搭載してもよい。また、インクジェット式記録装置200に複数のヘッドユニット100を搭載してもよい。
【0069】
(実施形態2)
図8は、本発明の実施形態2に係るヘッドユニットの底面図である。なお、上述した実施形態1と同様の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0070】
図8に示すように、本実施形態のヘッドユニット100Aには、複数の記録ヘッド1Aと、ベースプレート110と、を具備する。
【0071】
ベースプレート110の保持孔111のそれぞれには、ヘッド本体10が固定されている。本実施形態では、上述した実施形態1と同様に、千鳥状に配置されたヘッド本体10(2列のヘッド本体10)を有するヘッドグループ2を2つ設けるようにした。このヘッドグループ2が、本実施形態では、1つの記録ヘッド1Aとしている。
【0072】
また、第2の方向Xに並設された2列のヘッド本体10からなる各ヘッドグループ2は、共通のカバー20Aで覆われている。
【0073】
カバー20Aは、1つの記録ヘッド1A毎に設けられたものであり、複数のヘッド本体10の並設方向(ノズル開口11の並設方向と同じ方向)に亘って連続して設けられた一対の板状部材からなる。本実施形態では、カバー20Aは、各記録ヘッド1A(ヘッドグループ2)の第2の方向Xの両側に設けられている。
【0074】
また、ヘッドユニット100Aの各記録ヘッド1A(ヘッドグループ2)には、各ヘッド本体10に共通する1枚の整流板30Aが設けられている。
【0075】
整流板30Aは、複数のヘッド本体10の液体噴射面12に相対向して設けられたものであり、通常動作の際には、整流板30Aの開口31は、上述した実施形態1と同様に、全てのヘッド本体10のノズル開口11に相対向する位置に設けられている。よって、図示しない移動手段により、整流板30Aを移動することにより、複数のヘッド本体10に対して、通常動作位置と、フラッシング動作位置との切り替えを行うことができ、フラッシング動作に際には、整流板30Aの枠部33が、上述した実施形態1と同様に、全てのヘッド本体10のノズル開口11に相対向する位置に位置するようになる。
【0076】
さらに、各記録ヘッド1A(ヘッドグループ2)には、送風機からなる気流発生手段40Aが設けられており、複数のヘッド本体10の液体噴射面12と整流板30Aとの間に亘って気流を発生させる。
【0077】
このような構成では、上述した実施形態1のように、各ヘッド本体10毎にカバー20、整流板30及び気流発生手段40及び移動手段50を設ける必要がなく、部品点数を減らしてコストを低減することができる。
【0078】
また、本実施形態では、記録ヘッド1A(ヘッドグループ2)毎にカバー20A、整流板30A、気流発生手段40Aを設けるようにしたが、特にこれに限定されず、複数のヘッドグループ2に共通するカバー、整流板、気流発生手段を設けるようにしてもよい。この場合には、ヘッドユニット100A自体を記録ヘッドとすることができる。
【0079】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明の基本的な構成は上述したものに限定されるものではない。
【0080】
上述した実施形態では、整流板30、30Aをカバー20に対して移動可能としたが、整流板とカバー20を一体とし、これらをヘッド本体に対して移動可能として、整流板が通常動作位置と、フラッシング動作位置とに移動可能としてもよい。
【0081】
また、上述した実施形態1では、整流板30、30Aとして、メッシュ状の材料を用いるようにしたが、上述したように整流板30、30Aの材料や形状等は特にこれに限定されるものではない。ここで、整流板のその他の例を図9に示す。なお、図9は、他の実施形態に係る整流板の変形例を示すインクジェット式記録ヘッドの底面図である。
【0082】
図9(a)に示すように、整流板30Bは、板状部材からなり、複数のノズル開口11に相対向する1つのスリット状の開口31Bが設けられている。このような整流板30Bでは、スリット状の開口31Bの長手方向に気流を発生させると、小液滴Cがスリット状の開口31Bを通過して被噴射媒体(記録シートS)に着弾してしまうため、スリット状の開口31Bの短手方向に沿って気流を発生させるようにすればよい。したがって、整流板30Bを覆うカバー20Bには、連通孔21Aをノズル開口11の並設方向と交差する方向に設けるようにすればよい。
【0083】
また、かかる整流板30Bのフラッシング動作の際の移動方向は、スリット状の開口31Bの短手方向に沿う方向とすればよい。
【0084】
また、図9(b)に示すように、整流板30Cは、複数のノズル開口11に相対向する1つのスリット孔34を有し、スリット孔34内には開口31を有する整流板30が固定されている。すなわち、図9(b)に示す整流板30Cは、図9(a)に示す整流板30Bのスリット状の開口31Bの開口面積を広げ、その中に上述した実施形態1の整流板30を固定した構造を有する。このような整流板30Cでは、気流をノズル開口11の並設方向に沿って発生させても、また、ノズル開口11の並設方向とは交差する方向に沿って発生させてもよく、取り付け方向が制限されることがなくなる。
【0085】
また、上述した各実施形態では、気流発生手段40、40Aを記録ヘッド1、1Aに設けるようにしたが、特にこれに限定されず、例えば、ヘッドユニット100、100A毎に1つの気流発生手段を設けてもよく、また、インクジェット式記録装置200に気流発生手段を設けるようにしてもよい。
【0086】
また、上述した各実施形態の気流発生手段40、40Aとして、例えば、湿気を帯びた気体の気流を発生させるようにしてもよい。このように湿気を帯びた気流を発生させるには、加湿器等を設けるようにすればよい。このように、気流発生手段が湿気を帯びた気流を発生させることによって、気流発生手段の発生した気流によって、ノズル開口近傍の液体の乾燥が促進されるのを抑制して、液体の乾燥・硬化による吐出不良を低減することができる。
【0087】
また、上述した実施形態1及び2では、インクジェット式記録装置200として、記録ヘッド1、1A(ヘッドユニット100)を固定し、記録シートSを搬送するだけで印刷を行う、いわゆるライン型のインクジェット式記録装置200を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、被噴射媒体に対して記録ヘッド1、1A(ヘッドユニット100)を主走査方向に移動させながら印刷を行う、シリアル型のインクジェット式記録装置にも本発明を適用することができる。
【0088】
なお、上記実施の形態においては、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを、また液体噴射装置の一例としてインクジェット式記録装置を挙げて説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド及び液体噴射装置全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドや液体噴射装置にも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられ、かかる液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置にも適用できる。
【符号の説明】
【0089】
A インク滴、 B 主滴、 C 小液滴、 1、1A インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 2 ヘッドグループ、 10 ヘッド本体、 11 ノズル開口、 12 液体噴射面、 20、20A、20B カバー、 30、30A、30B、30C 整流板、 31、31B 開口、 40、40A 気流発生手段、 50 移動手段、 100、100A ヘッドユニット、 110 ベースプレート、 200 インクジェット式記録装置(液体噴射装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズル開口を有するヘッド本体と、
前記ノズル開口が開口する液体噴射面の周囲に、前記液体の噴射方向に突出して設けられたカバーと、
該カバー内に前記液体噴射面から離れた位置に設けられて、前記ノズル開口に相対向する領域に開口が設けられた整流板と、
前記整流板と前記液体噴射面との間に当該液体噴射面の面方向に沿って気流を発生させる気流発生手段と、を具備し、
前記整流板は、前記液体噴射面の面方向の少なくとも一方向又は当該面方向に対して傾斜する方向に移動可能に設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記整流板は、前記カバーと共に移動可能であることを特徴とする請求項1記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記整流板は、少なくとも表面が吸着性材料で形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記整流板を位置決め移動する移動手段を具備することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記ヘッド本体を複数具備し、前記カバーが複数の前記ヘッド本体の周囲に亘って連続して設けられていることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記気流発生手段が、湿気を帯びた気体の気流を発生させることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドを2以上具備することを特徴とする液体噴射ヘッドユニット。
【請求項8】
請求項1〜6の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項9】
請求項7記載の液体噴射ヘッドユニットを具備することを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−167942(P2011−167942A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34116(P2010−34116)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】