説明

液体噴射ヘッド、液体噴射ヘッドユニット及び液体噴射装置

【課題】良好な液体吐出特性を有する液体噴射ヘッド、液体噴射ヘッドユニット及び液体
噴射装置を提供する。
【解決手段】 液体を吐出するノズル開口に連通する圧力発生室52と、圧力発生室52
内の液体に圧力変化を生じさせる圧力発生手段11と、複数の圧力発生室52の共通の液
体室となるマニホールド53と、マニホールド53を封止する可撓性材料からなる封止膜
61を有する封止基板60とを具備し、封止膜61上のマニホールド53に対向する領域
には、金属パターンからなる発熱部67が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル開口から液体を噴射する液体噴射ヘッド、液体噴射ヘッドユニット及
び液体噴射装置に関し、特に液体としてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッド、
インクジェット式記録ヘッドユニット及びインクジェット式記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴を吐出する液体噴射ヘッドの代表例としては、インク滴を噴射するインクジェット
式記録ヘッドが挙げられる。インクジェット式記録ヘッドとしては、例えば、ノズルが穿
設されたノズルプレートと、ノズルに連通する複数の圧力発生室と、当該圧力発生室に圧
力を付与する圧電素子と、ノズルや圧力発生室にインクを供給するインク供給路が形成さ
れたマニホールド形成基板とを具備するものがある。
【0003】
このようなインクジェット式記録ヘッドでは、UVインクに代表される高粘度インクを
吐出するために、インク供給路のインクを加熱してその粘度を低下させたものがある(例
えば特許文献1参照)。特許文献1のインクジェット式記録ヘッドでは、インクを加温す
るための加温水が流通するヘッド内液体流路に設けられており、粘度が低下したインクは
インク供給路を安定して流通するため、良好なインクの吐出特性が得られるようになって
いる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−55716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のインクジェット式記録ヘッドでは、ヘッド外部に設けられているヒーター
により加熱された加熱水によりインクを加熱している。このため、ヘッド内の圧力発生室
に到達するまでに外部環境に影響を受けて温度が変動しやすく、外部に設けられたセンサ
ーで温水の温度を制御してもヘッド内でのインクの温度を所望の温度とすることができな
いことがあった。この場合は、インクを所望の粘度とすることができず、良好な吐出特性
を得られないことが問題となっていた。
【0006】
なお、このような問題は、高粘度のインクを吐出する場合に限らず、加熱によりインク
を低粘度化して吐出するインクジェット式記録ヘッドにおいても同様に存在する。また、
インクを吐出するインクジェット式記録ヘッドだけではなく、インク以外の液体を吐出す
る液体噴射ヘッドにおいても同様に存在する。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑み、良好な液体吐出特性を有する液体噴射ヘッド、液体
噴射ヘッドユニット及び液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の態様は、液体を吐出するノズル開口に連通する圧力発生室
と、前記圧力発生室内の液体に圧力変化を生じさせる圧力発生手段と、複数の圧力発生室
の共通の液体室となるマニホールドと、前記マニホールドを封止する可撓性材料からなる
封止膜を有する封止基板と、を具備し、前記封止膜上の前記マニホールドに対向する領域
には、金属パターンからなる発熱部が設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッドに
ある。
かかる態様では、発熱部の発熱により、マニホールド内の液体を加熱することができる
。ノズル開口近傍であるマニホールド内の液体を加熱して所望の温度とすることができる
ため、各ノズル開口に均一な温度の液体を供給することができる。これにより、各ノズル
から均一な量の液体を均一な速度で吐出させることができ、良好な液体吐出特性を有する
ものとなる。また、封止膜上に発熱部を設けることにより、発熱部で発生した熱をマニホ
ールドへ伝え易く、少ない熱量でマニホールド内の液体を所望の温度とすることができる

【0009】
前記発熱部は、連続的に設けられ、所定範囲ごとに発熱量が異なるものが好ましい。各
位置において必要とされる発熱量に応じて、所定の発熱量を生成するように発熱部を設け
ることにより、各ノズル開口に均一な温度の液体を確実に供給することができる。
【0010】
本発明の好適な実施態様としては、前記発熱部は線状体であり、前記所定範囲ごとに幅
が異なるものが挙げられる。
【0011】
本発明の好適な実施態様としては、前記発熱部は線状体であり、前記所定範囲ごとに長
さが異なるものが挙げられる。
【0012】
前記発熱部は前記封止膜上の前記開口部に対向する領域に複数設けられており、各発熱
部の発熱量を独立して制御する制御部をさらに備えるのが好ましい。これによれば、各発
熱部が、必要とされる発熱量に応じて、それぞれ所定の発熱量となるようにすることがで
き、各ノズル開口に均一な温度の液体を確実に供給することができる。
【0013】
前記圧力発生室と前記マニホールドとを含む液体流路内の温度を検出する温度検出手段
を備え、前記制御部は、前記温度検出手段の検出結果に基づいて各発熱部の発熱量を制御
するのが好ましい。これによれば、液体流路内のインクの温度分布に応じて、各発熱部が
それぞれ所定の発熱量となるようにすることができる。これにより、各ノズル開口に均一
な温度の液体をより確実に供給することができる。
【0014】
前記封止基板は、前記封止膜と金属材料からなる固定部材とからなり、前記発熱部は、
前記固定部材を構成する金属材料から形成されたものであるのが好ましい。これによれば
、固定部材に開口を形成する際に発熱部を同時に形成することができ、また、新たな材料
が必要ないため、製造コストを低減することができる。
【0015】
前記発熱部は、前記固定部材に前記開口部を形成する際にフォトリソグラフィー法によ
り形成されたものであるのが好ましい。これによれば、高精度で発熱部を形成することが
でき、確実に発熱部が所望の発熱量を有するものとすることができる。
【0016】
本発明の他の態様は、上記の液体噴射ヘッドを複数具備することを特徴とする液体噴射
ヘッドユニットにある。
かかる態様では、良好な液体吐出特性を有する液体噴射ヘッドユニットを実現すること
ができる。
【0017】
本発明の他の態様は、上記の液体噴射ヘッド又は上記の液体噴射ヘッドユニットを具備
することを特徴とする液体噴射装置にある。
かかる態様では、良好な液体吐出特性を有する液体噴射装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る記録装置の概略図である。
【図2】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの断面図である。
【図3】本発明の実施形態1に係る封止基板の平面図である。
【図4】本発明の実施形態2に係る封止基板の平面図である。
【図5】本発明の実施形態2の制御部を説明するためのブロック図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係る封止基板の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装
置の概略構成を示す斜視図である。
【0020】
図1に示すように、液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装置Iは、後述す
るインクジェット式記録ヘッド100を具備する。具体的には、図1に示すように、イン
クジェット式記録ヘッド100を有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給
手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニッ
ト1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5
に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、
それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0021】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を
介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキ
ャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5
に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙
等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになって
いる。
【0022】
ここで、このようなインクジェット式記録装置Iに搭載されたインクジェット式記録ヘ
ッド100について説明する。図2(a)は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッド
の一例であるインクジェット式記録ヘッドの圧力発生室の長手方向の断面図であり、図2
(b)は、インクジェット式記録ヘッドの圧力発生室の短手方向の要部断面図である。
【0023】
図2に示すように、流路形成基板50はシリコン単結晶基板からなり、その一方面側の
表層部分には、複数の隔壁51によって画成された圧力発生室52がその幅方向(短手方
向)に並設されている。また、各圧力発生室52の長手方向一端部側には、各圧力発生室
52に液体の一例であるインクを供給するためのマニホールド53が液体供給口の一例で
あるインク供給路54を介して連通されている。すなわち、このマニホールド53は、各
圧力発生室52に共通の液体室となっている。また、流路形成基板50の圧力発生室52
の開口面側は振動板60で封止され、他方面側にはノズル開口55が穿設されたノズル形
成部材の一例であるノズルプレート56が接着剤や熱溶着フィルムを介して接着されてい
る。本実施形態では、流路形成基板50には、圧力発生室52、インク供給路54及びマ
ニホールド53からなる液体流路が設けられている。
【0024】
流路形成基板50上に形成された振動板60は、例えば、樹脂フィルム等の可撓性材料
からなる弾性膜61と、この弾性膜61を支持する、例えば、金属材料等からなる支持板
62との複合板で形成されており、弾性膜61側が流路形成基板50に接合されている。
例えば、本実施形態では、弾性膜61は、厚さが数μm程度のPPS(ポリフェニレンサ
ルファイド)フィルムからなり、支持板62は、厚さが数十μm程度のステンレス鋼板(
SUS)からなる。
【0025】
また、振動板60の各圧力発生室52に対向する領域内には、圧電素子11の先端部が
当接する島部59が設けられている。すなわち、振動板60の各圧力発生室52の周縁部
に対向する領域に他の領域よりも厚さの薄い薄肉部64が形成されて、この薄肉部64の
内側にそれぞれ島部59が設けられている。
【0026】
また、本実施形態では、振動板60のマニホールド53に対向する領域に、薄肉部64
と同様に、支持板62がエッチングにより除去されて実質的に弾性膜61のみで構成され
るコンプライアンス部65が設けられている。すなわち、振動板60の支持板62は、マ
ニホールド53に対向する領域に厚さ方向に貫通する開口部を有しており、弾性膜61の
マニホールド53に対向する領域がコンプライアンス部65となっている。なお、このコ
ンプライアンス部65は、マニホールド53内の圧力変化が生じた時に、このコンプライ
アンス部65の弾性膜61が変形することによって圧力変化を吸収し、マニホールド53
内の圧力を常に一定に保持する役割を果たす。
【0027】
上述したように、本実施形態では、流路形成基板50の圧力発生室52の開口面側は振
動板60で封止されている、すなわち、マニホールド53は、振動板60で封止されてい
る。本実施形態の振動板60は「マニホールド53を封止する封止基板」に相当し、弾性
膜61は「封止膜」に相当し、支持板62は「固定部材」に相当する。そして、弾性膜6
1上のマニホールド53に対向する領域、すなわち、コンプライアンス部65上には、金
属パターンからなる発熱部が設けられている。
【0028】
ここで、発熱部について詳細に説明する。図3は、本発明の実施形態1に係る封止基板
(振動板60)の平面図である。
図3に示すように、振動板60は、弾性膜61と支持板62とから構成されている。ま
た、振動板60には、その厚さ方向に貫通してマニホールド53に液体を供給するインク
供給孔66が設けられている。
【0029】
また、上述したように、支持板62は、マニホールド53に対応する領域に厚さ方向に
貫通する開口部を有しており、弾性膜61が露出している。この弾性膜61の露出部分が
コンプライアンス部65となっている。そして、弾性膜61のコンプライアンス部65に
は、金属パターンからなる発熱部67が設けられている。すなわち、弾性膜61のマニホ
ールド53に対向する領域には、金属パターンからなる発熱部67が設けられている。こ
の発熱部67は、図示しない電源に接続され、電圧を印加することができるようになって
いる。
【0030】
発熱部67の形状は、特に限定されるものではないが、本実施形態にかかる発熱部67
は、線状体であり、弾性膜61上を蛇行するように設けられている。発熱部67の形状を
調整することにより、発熱部67の発熱量を調整することができる。例えば、発熱部67
の幅を細くしたり、長さを長くしたりすることにより、抵抗を上昇させて発熱量を多くす
ることができる。なお、ここでいう長さとは、マニホールド53に対向する領域に設けら
れている発熱部67の長さのことを指す。蛇行する発熱部67のピッチ(間隔)を調整す
ることにより、発熱部67の長さは調整することができる。
【0031】
発熱部67の材料は特に限定されず、種々の金属を用いることができる。本実施形態で
は、発熱部67は、支持板(固定部材)62を構成する金属材料から形成されるものとし
た。言い換えれば、本実施形態では、支持板62と同一の材料からなるが支持板62とは
不連続の発熱部67を設けた。本実施形態の発熱部67は、支持板62に開口部を形成す
る際に同時に形成することができる。
【0032】
ここで、発熱部67の形成方法について簡単に説明する。まず、支持板62の一方面に
弾性膜61を形成することにより、振動板60を形成する。そして、支持板62の弾性膜
61とは反対側の面に、例えば、フォトリソグラフィー法により所定のフォトレジストパ
ターンを形成し、このフォトレジストパターンを介して支持板62をパターニングするこ
とにより、弾性膜61を露出させる。具体的には、マニホールド53に対向する領域及び
振動板60の各圧力発生室52の周縁部に対向する領域の支持板62を除去して、弾性膜
61露出させる。このとき、図3に示すように、マニホールド53に対向する領域には、
支持板62とは不連続の金属パターンを残すようにして、発熱部67を形成する。発熱部
67は、フォトリソグラフィー法により形成することにより、複雑な形状であっても高精
度に形成することができる。
【0033】
上述した発熱部67に電圧を印加すると、発熱部67が発熱して、この発熱によりマニ
ホールド53のインクが加熱される。これにより、高粘度のインクを用いた場合も、イン
クを低粘度化させることができ、インクの流動状態を向上させて、ノズル開口55に供給
することができる。したがって、ノズルごとの吐出量のばらつきが抑止され、各ノズル開
口55から均一な量のインク滴が均一な速度で吐出される。
【0034】
振動板60上には、図示しない複数の液体貯留体の一例であるインクカートリッジに接
続される液体供給路の一例であるインク供給路を有するヘッドケース70が固定されてお
り、且つこのヘッドケース70には、圧電素子ユニット10が高精度に範囲決めされて固
定されている。すなわち、ヘッドケース70は、貫通した収容部71が設けられており、
この収容部71の一方の内面に圧電素子ユニット10が、各圧電素子11の先端が振動板
60上の各圧力発生室52に対応する領域に設けられた各島部59に当接されて固定され
ている。
【0035】
本実施形態では、圧電素子11は、一つの圧電素子ユニット10において一体的に形成
されている。すなわち、圧電材料層15と電極形成材料16,17とを縦に交互にサンド
イッチ状に挟んで積層した圧電素子形成部材13を形成し、この圧電素子形成部材13を
各圧力発生室52に対応して櫛歯状に切り分けることによって各圧電素子11が形成され
ている。すなわち、本実施形態では、複数の圧電素子11が一体的に形成されている。そ
して、この圧電素子11(圧電素子形成部材13)の振動に寄与しない不活性領域、すな
わち、圧電素子11の基端部側が固定基板14に固着されている。そして、図示しないが
、圧電素子11の基端部近傍には、固定基板14とは反対側の面に、各圧電素子11を駆
動するための信号を供給する配線31を有する回路基板30が接続されている。本実施形
態では、圧電素子11が振動板60を変形させるための圧電アクチュエーターを構成して
おり、圧電素子11と固定基板14とで圧電素子ユニット10を構成している。
【0036】
さらに、ヘッドケース70上には、回路基板30の各配線31がそれぞれ接続される複
数の導電パッド32が設けられた配線基板33が固定されており、ヘッドケース70の収
容部71は、この配線基板33によって実質的に塞がれている。配線基板33には、ヘッ
ドケース70の収容部71に対向する領域にスリット状の開口部34が形成されており、
回路基板30はこの配線基板33の開口部34から収容部71の外側に折り曲げられて引
き出されている。
【0037】
圧電素子ユニット10を構成する回路基板30は、例えば、本実施形態では、圧電素子
11を駆動するための駆動IC(図示なし)が搭載されたチップオンフィルム(COF)
からなる。そして、回路基板30の各配線31は、その基端部側では、例えば、半田、異
方性導電材等によって圧電素子11を構成する電極形成材料16,17に外部電極を介し
て接続されている。一方、先端部側では、各配線31は配線基板33の各導電パッド32
に接合されている。具体的には、配線基板33の開口部34から収容部71の外側に引き
出された回路基板30の先端部が配線基板33の表面に沿って折り曲げられた状態で、各
配線31は配線基板33の各導電パッド32に接合されている。
【0038】
このようなインクジェット式記録ヘッド100では、インク滴を吐出する際に、圧電素
子11及び振動板60の変形によって各圧力発生室52の容積を変化させて所定のノズル
開口55からインク滴を吐出させるようになっている。具体的には、図示しないインクカ
ートリッジからマニホールド53にインクが供給されると、インク供給路54を介して各
圧力発生室52にインクが分配される。実際には、圧電素子11に電圧を印加することに
より圧電素子11を収縮させる。これにより、振動板60が圧電素子11と共に変形され
て圧力発生室52の容積が広げられ、圧力発生室52内にインクが引き込まれる。そして
、ノズル開口55に至るまで内部にインクを満たした後、配線基板33を介して供給され
る記録信号に従い、圧電素子11の電極形成材料16及び17に印加していた電圧を解除
する。これにより、圧電素子11が伸張されて元の状態に戻ると共に振動板60も変位し
て元の状態に戻る。結果として圧力発生室52の容積が収縮して圧力発生室52内の圧力
が高まりノズル開口55からインク滴が吐出される。
【0039】
本実施形態では、発熱部67に電圧を印加すると、発熱部67が発熱して、マニホール
ド53に供給されたインクを所定の温度まで加熱することができる。これにより、高粘度
のインクを低粘度化させることができ、インクの流動状態を向上させて、ノズル開口55
に供給することができる。また、マニホールド53内のインクの温度を均一化することに
より、ノズルごとの吐出量のばらつきが抑止され、各ノズル開口55から均一な量のイン
ク滴が均一な速度で吐出される。本実施形態では、圧力発生室52の直前にあるマニホー
ルド53において、インクを加熱することができるため、各圧力発生室52に均一な温度
のインクを供給することができると共に、圧力発生室52のインクの温度を容易に調整す
ることができる。
【0040】
また、薄い膜からなる弾性膜61上に発熱部67を形成することにより、発熱部67で
発生した熱をマニホールド53内のインクへ伝え易く、少ない熱量でインクを所望の温度
にすることができる。
【0041】
また、各インクジェット式記録ヘッド100の内部(具体的には、マニホールド53に
対応する領域)に発熱部67を具備することで、インクジェット式記録装置に複数のイン
クジェット式記録ヘッドを搭載する際にも、各インクジェット式記録ヘッド100におい
て、圧力発生室52のインクを所定の温度に調整することができる。したがって、インク
ジェット式記録ヘッド毎の吐出量のばらつきが抑制されて、良好な吐出特性を有する液体
噴射装置とすることができる。
【0042】
(実施形態2)
図4は、本発明の実施形態2に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録
ヘッドの封止板(振動板60)の平面図である。また、図5は、本発明の実施形態2に係
るインクジェット式記録ヘッドの制御を示すブロック図である。なお、上述した実施形態
1と同様の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0043】
図4に示すように、コンプライアンス部65(弾性膜61)上、すなわち、弾性膜61
上のマニホールド53に対向する領域には、金属パターンからなる第1発熱部67Aと、
第2発熱部67Bと、第3発熱部67Cと、第4発熱部67Dとがそれぞれ独立して設け
られている。各発熱部67は、図示しない電源をそれぞれ備えており、制御部80(図5
参照)から入力された発熱量信号にしたがって、所定の電圧を印加できるようになってい
る。
【0044】
また、マニホールド53内には、マニホールド53内の所定位置のインク温度を検出す
る温度検出手段が設けられている。本実施形態では、温度検出手段として温度センサーが
用いられている。温度センサー(温度検出手段)が検出したマニホールド53内の所定位
置のインク温度は、後述する制御部80に送られる。
【0045】
ここで、制御部と発熱量信号について図5を用いて説明する。
図5に示すように、各温度センサー69(69A,69B,69C,69D)が検出し
たマニホールド53内の所定位置のインク温度は、温度信号S1(S1,S1,S1
,S1)として、制御部80に入力される。そして、制御部80は、温度信号S1に
基づいて、マニホールド53内のインク温度が均一となるように各発熱部67(67A,
67B,67C,67D)の発熱量を決定して、各発熱部67を駆動するための発熱量信
号S2(S2,S2,S2,S2)を生成する。生成された発熱量信号S2は、
各発熱部67(67A,67B,67C,67D)の電源に入力される。これにより、各
発熱部67は発熱する。ここで、各発熱部67の発熱の制御方法は特に限定されず、各発
熱部67の電源の投入時間を調整してもよく、各発熱部67毎に電圧やパルス等を変更し
てもよい。
【0046】
本実施形態では、マニホールド53に複数の温度センサー69(温度検出手段)を備え
、温度センサーの検出結果に基づいて発熱部の発熱量を制御している。これにより、マニ
ホールド53内のインク温度を確実に均一なものとすることができる。したがって、各ノ
ズル開口に均一な温度の液体をより確実に供給することができる。
【0047】
印刷データによっては、あるノズル列ではインクを多く吐出し、他のノズル列ではイン
クをそれほど吐出しないなど、各ノズル列で利用状況が異なる場合がある。従来のインク
ジェット式記録ヘッドでは、マニホールド53のインクの吐出量が多いノズル列に対応す
る位置では所定の温度を保つことができるが、インクの吐出量が少ないノズル列に対応す
る位置では温度が低下してしまうという問題があったが、本実施形態のインクジェット式
記録ヘッドでは、マニホールド53内のインクの温度をフィードバックして各発熱部67
の発熱量を制御することにより、インクの吐出量(インクの流量)に左右されることなく
、マニホールド53内の各位置の温度を一定に保つことができる。
【0048】
また、一般にインクは過度に熱を加えるとその性質が劣化してしまい印刷品質が低下し
てしまうが、本実施形態では、マニホールド53内のインク温度に応じて、発熱部67の
発熱量を適宜調整することができるため、過度の加熱によるインクの質の低下を抑止でき
る。
【0049】
また、インクはインク供給孔66から供給されるため、マニホールド53のインク供給
孔66近傍では、供給されるインクを加熱するために、他の部分と比較して発熱量が高い
ほうが好ましい。本実施形態では、発熱部67を複数具備しており、それぞれが独立して
設けられていることにより、位置に応じて発熱量を変化させることができる。例えば、第
2発熱部67B及び第3発熱部67Cの発熱量を、第1発熱部67A及び第4発熱部67
Dの発熱量よりも多くなるようにすることができる。
【0050】
また、本実施形態のインクジェット式記録ヘッド100は、液体流路を2つ具備するも
のであり、インクを吐出した分だけ新しいインクがそれぞれのマニホールド53に流入さ
れるようになっている。インクの吐出量が多い液体流路は、マニホールド53に流入する
インクの量が多くなり、所望の温度とするためには、必要とされる熱量が多いのに対し、
インクの吐出量が少ない液体流路では、マニホールド53に流入するインクの量が少ない
ため、所望の温度とするためには、必要とされる熱量が少ない。本実施形態では、各マニ
ホールド53のインク温度の検出結果、すなわち、インク温度の変化に応じて、適宜、発
熱量を調整することができる。したがって、各液体流路のインク温度を所望の温度とする
ことができる。
【0051】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態1について説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに
限定されるものではない。例えば、上述した実施形態1及び2では、振動板60の弾性膜
61上のマニホールド53に対向する領域に、長さ及び幅が均一な発熱部67を設けるよ
うにしたがこれに限定されるものではなく、長さや幅が範囲によって異なるものであって
もよい。
【0052】
例えば、図6(a)に示すように、発熱部67Eは、インク供給孔66の近傍において
は長さを長くする、すなわち、インク供給孔66の近傍において蛇行する発熱部67のピ
ッチ(間隔)を狭めて、発熱部67Eが密に存在するようにすることにより、発熱量を多
くするようにしてもよい。インクを導入するインク供給孔66の近傍では、インクの温度
が低下しやすいが、インク供給孔66の近傍の発熱部67Eの長さを長くすることにより
、発熱量が多くなり、インクの温度の低下を好適に抑制することができる。これにより、
圧力発生室52に確実に均一な温度のインクを供給することができるようになる。また、
図6(b)に示すように、発熱部67Fは、インク供給孔66の近傍においては幅を細く
することにより、発熱量を多くするようにしてもよい。この場合も同様に、インク供給孔
66近傍のインクの温度の低下を好適に抑制することができる。さらに、発熱部は、イン
ク供給孔66の近傍においては幅を細く且つ長さを長くすることにより、発熱量を多くす
るようにしてもよい。
【0053】
上述したように、温度が低下しやすい範囲において、幅を細くしたり、長さを長くした
りしてもよいが、逆に、温度が低下しにくい範囲において、幅を太くしたり、長さを短く
したりしてもよい。このように、発熱部67は、所定範囲ごとに長さや幅を変更すること
により、所望の発熱量を得られるように形成することができる。
【0054】
実施形態2では、マニホールド53内に温度センサー69を設けたが、温度センサー6
9は、インク供給路54や圧力発生室52に設けてもよい。
また、実施形態2では、発熱部67を4つ設けたが、発熱部67の数はこれに限定され
るものではない。
また、実施形態2では、複数の発熱部67をそれぞれ独立して設け、それぞれ対応する
温度センサー69の温度検出結果に基づいて、所定の電圧を印加できるようにしたが、温
度センサー69の数はこれに限定されるものではない。例えば、温度センサー69の数が
発熱部67の数より少ない場合は、マニホールド53の流路長や各ノズル列から吐出され
る液体噴射量を予測して考慮することにより、マニホールド53内の各位置においてイン
ク温度がどのように変化するかを予測して、各発熱部67の発熱量を適宜設定するように
してもよい。
【0055】
また、上述した実施形態では、圧電材料層15と電極形成材料16,17とを交互に積
層させて軸方向に伸縮させる縦振動型の圧電素子11について説明したが、特にこれに限
定されず、例えば、基板(流路形成基板)上に第1電極、圧電材料層、及び第2電極を順
次積層した撓み振動型の圧電素子を用いるようにしてもよい。
【0056】
図1に示す例では、インクジェット式記録ヘッドユニット1A、1Bは、それぞれ1つ
のインクジェット式記録ヘッド100を有するものとしたが、特にこれに限定されず、例
えば、1つのインクジェット式記録ヘッドユニット1A又は1Bが2以上のインクジェッ
ト式記録ヘッドを有するようにしてもよい。
【0057】
さらに、上述の実施形態では、インク滴を吐出するインクジェット式記録ヘッド100
を例示して本発明を説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド全般を対象としたもので
ある。液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる記録
ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有
機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材
料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等を挙げることが
できる。
【符号の説明】
【0058】
I インクジェット式記録装置(液体噴射装置)、 10 圧電素子ユニット、 11
圧電素子、 13 圧電素子形成部材、 14 固定基板、 16,17 電極形成材料
、 30 回路基板、 31 配線、 32 導電パッド、 33 配線基板、 50
流路形成基板、 52 圧力発生室、 55 ノズル開口、 59 島部、 60 振動
板、 61 弾性膜、 62 支持板、 64 薄肉部、 65 コンプライアンス部、
67 発熱部、 70 ヘッドケース、 100 インクジェット式記録ヘッド(液体
噴射ヘッド)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するノズル開口に連通する圧力発生室と、
前記圧力発生室内の液体に圧力変化を生じさせる圧力発生手段と、
複数の圧力発生室の共通の液体室となるマニホールドと、
前記マニホールドを封止する可撓性材料からなる封止膜を有する封止基板と、を具備し

前記封止膜上の前記マニホールドに対向する領域には、金属パターンからなる発熱部が
設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記発熱部は、連続的に設けられ、所定範囲ごとに発熱量が異なることを特徴とする請
求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記発熱部は線状体であり、前記所定範囲ごとに幅が異なることを特徴とする請求項2
に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記発熱部は線状体であり、前記所定範囲ごとに長さが異なることを特徴とする請求項
2又は3に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記発熱部は前記封止膜上の前記開口部に対向する領域に複数設けられており、
各発熱部の発熱量を独立して制御する制御部をさらに備えることを特徴とする請求項1
に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記圧力発生室と前記マニホールドとを含む液体流路内の温度を検出する温度検出手段
を備え、
前記制御部は、前記温度検出手段の検出結果に基づいて各発熱部の発熱量を制御するこ
とを特徴とする請求項5に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
前記封止基板は、前記封止膜と金属材料からなる固定部材とからなり、
前記発熱部は、前記固定部材を構成する金属材料から形成されたものであることを特徴
とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項8】
前記発熱部は、前記固定部材に前記開口部を形成する際にフォトリソグラフィー法によ
り形成されたものであることを特徴とする請求項7に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドを複数具備することを特徴とする
液体噴射ヘッドユニット。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体
噴射装置。
【請求項11】
請求項9に記載の液体噴射ヘッドユニットを具備することを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−207077(P2011−207077A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77515(P2010−77515)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】