説明

液体噴射ヘッド、液体噴射装置及び液体噴射ヘッドの製造方法

【課題】圧電プレート4に形成した溝5内部での液体の淀みを低減し、溝5内部に混入した異物を迅速に排出することを可能にした液体噴射ヘッド1を提供する。
【解決手段】液体噴射用のノズル3を有するノズルプレート2と、ノズルプレート2を接合する圧電プレート4と、液体の供給及び排出する液体供給孔9及び液体排出孔10を有するカバープレート2とからなる積層構造を備え、溝5の断面は深さ方向に凸状であり、この凸状の頂部においてノズル3と連通し、凸状の底部において液体供給孔9及び液体排出孔10と連通する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから液体を吐出して被記録媒体に画像や文字、あるいは薄膜材料を形成する液体噴射ヘッド、これを用いた液体噴射装置、及び液体噴射ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、記録紙等にインク滴を吐出して文字、図形を描画して記録する、或いは素子基板の表面に液体材料を吐出して機能性薄膜を形成するインクジェット方式の液体噴射ヘッド、このヘッドを使用した液体噴射装置が利用されている。この方式は、インクや液体材料を液体タンクから供給管を介して液体噴射ヘッドに供給し、液体噴射ヘッドのノズルからインクを吐出して文字や図形を記録する、或いは液体材料を吐出して所定形状の機能性薄膜を形成する。
【0003】
図9は、特許文献1に記載されたこの種のインクジェットヘッド100の模式的な断面図を示す。インクジェットヘッド100は、カバー125と圧電体からなるPZTシート103と底カバー137の3層構造を備えている。カバー125はインクの小滴を吐出するためのノズル127を備えている。PZTシート103の上面には断面形状が底側に凸の細長い溝からなるインクチャンネル107が形成されている。インクチャンネル107は長手方向に直交する方向に並列して複数形成されており、隣接するインクチャンネル107との間は側壁113により区画されている。側壁113の上部側壁面には電極115が形成されている。隣接するインクチャンネル107の側壁面にも電極が形成されている。従って、側壁113は、隣接するインクチャンネルの側壁面に形成した図示しない電極と電極115により挟まれている。
【0004】
インクチャンネル107とノズル127とは連通している。PZTシート103には裏面側から供給ダクト132と排出ダクト133が形成され、インクチャンネル107とその両端部近傍において連通する。供給ダクト132からインクが供給され、排出ダクト133からインクが排出される。インクチャンネル107の左端部及び右端部のPZTシート103の表面には凹部129が形成されている。凹部129の底面には電極が形成され、インクチャンネル107の側壁面に形成した電極115と電気的に導通する。凹部129には接続端子134が収納され、凹部129の底面に形成した図示しない電極と電気的に接続している。
【0005】
このインクジェットヘッド100は次のように動作する。供給ダクト132から供給されたインクはインクチャンネル107を満たし、排出ダクト133から排出される。つまり、インクは供給ダクト133、インクチャンネル107、及び排出ダクト133を通して循環して流れている。そして、右側と左側の接続端子134に電圧を印加するとインクチャンネル107の側壁が圧電厚み滑り効果により変形する。これにより、インクチャンネル107の容積が瞬間的に減少して内圧が増加し、ノズル127からインクの小滴が吐出される。
【0006】
このインクジェット吐出方法は、供給ダクト132と排出ダクト133を介してインクが常に循環している。そのために、インクチャンネル107の内部に気泡や塵埃等の異物が混入しても、これらの異物を外部に迅速に排出することができるので、ノズルの目詰まりによりインクが吐出できない、或いは印字濃度にむらが生じてしまう、という不具合を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2000−512233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記図9の従来例では、インクチャンネル107の両端近傍に供給ダクト132と排出ダクト133を形成する際に高度な技術が要求された。PZTシート103の表面に複数並列して形成するインクチャンネル107は、例えば、溝の幅が70〜80μm、溝の深さが300〜400μm、溝の長さが数mm〜10mm、隣接するインクチャンネル107を区画する壁の厚さが70〜80μmである。このインクチャンネル107の溝は、薄い円盤の外周部にダイヤモンド等の砥粒を埋め込んだダイシングブレードを高速回転させながらPZTシート103の表面を研削して形成する。そのため、溝の断面は深さ方向に凸状となる。特に、溝の長手方向の両端近傍には研削用ブレードの外形形状が転写される。
【0009】
図9に示すインクチャンネル107の形成方法として、まず、複数の溝を形成した後に供給ダクト132と排出ダクト133を形成する場合を考える。供給ダクト132と排出ダクト133は複数の溝の底部において連通させる必要がある。しかし、溝の長手方向の両端近傍では底面が平坦ではない。そのために、溝の底面に合わせて供給ダクト132や排出ダクト133を形成するのは極めて困難である。また、PZTシート103を背面側から研削すると、溝の最も深い部分が最初に開口し、その開口部が次第に広がる。しかし、溝の底面の一部が開口すると、その開口部近傍の側壁は底部から支えるものがなくなる。そのため、底部が開口した溝の薄い側壁113を破壊しないようにして供給ダクト132や排出ダクト133を研削することは極めて難しかった。また、溝を区画する側壁には電極が形成されている。PZTシート103を裏面側から深く研削すると、溝の側壁に形成した電極も研削してしまい、電極の抵抗が高くなって側壁を駆動する電力にばらつきが生じる、などの問題が発生した。
【0010】
更に、溝の底面が平坦な領域に供給ダクト132や排出ダクト133を形成しようとすると、溝の長手方向の両端部はインクが循環されなくなる。そのため、インクの淀みが生じて、この淀みに気泡や塵埃が残留する。そのため、インクを循環することでインクチャンネル107内から異物を除去し、ノズル127の目詰まり等を防止する本方式の長所が損なわれた。
【0011】
一方、PZTシート103の裏面側から供給ダクト132と排出ダクト133を先に形成し、次にPZTシート103の表面側から溝を形成する方法が考えられる。この場合、供給ダクト132と排出ダクト133の研削は容易であるが、溝を形成する際に高精度の制御が要求される。ダイシングブレードは通常2インチから4インチの直径を有する。例えば直径が2インチのダイシングブレードを用いてPZTシート103を表面から例えば350μmの深さの溝を形成する場合に、溝の深さの誤差を10μmとすると溝の長さの誤差はその12倍の約120μmとなる。4インチのダイシングブレードを使用した場合は、深さ方向の誤差に対して長さ方向の誤差が約16倍となる。そのため、溝の長手方向の端部に供給ダクト132及び排出ダクト133の開口端部を合致させることが極めて難しくなる。溝の長手方向の端部と供給ダクト132及び排出ダクト133の外周端部に位置ずれが生ずると、やはりインクチャンネル107の端部にインク流れの淀み或いは滞留が生じて、インクを循環させることによりノズル127の目詰まりを防止する本方式の長所を生かすことができなくなる。
【0012】
また、特許文献1のインクジェットヘッド100は、接続端子134をPZTシート103の表面に形成した凹部129に収納し、カバー125の外面を平坦化している。接続端子134の下面に形成した電極とインクチャンネル107を区画する側壁の側壁面に形成した電極とは、側壁面、PZTシート103の表面、凹部129の底面を介して電気的に接続している。インクチャンネル107はその長手方向に直交する方向に高密度で多数形成されており、各側壁の電極は互いに電気的に分離する必要がある。従ってPZTシート103の表面及び凹部129の底面でも同様に多数の電極を高密度で分離形成する必要がある。しかし、特に凹部129の底面は湾曲しており、この湾曲面に高精細の電極パターンを形成するには高度なパターニング技術を要した。
【0013】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、高度な加工技術を要することなく液体の淀みや滞留を減少できる構造の液体噴射ヘッド、これを用いた液体噴射装置及び液体噴射ヘッドの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明による液体噴射ヘッドは、被記録媒体に液体を噴射するノズルを有するノズルプレートと、一方面に細長い溝を有し、他方面に前記ノズルプレートを接合する圧電プレートと、前記溝に前記液体を供給する液体供給孔と前記溝から前記液体を排出する液体排出孔を有し、前記圧電プレートの一方面に設置したカバープレートとを備え、前記圧電プレートの細長い溝は、前記溝の長手方向であり且つ深さ方向の断面が深さ方向に凸状であり、前記凸状の頂部において前記ノズルと連通し、前記凸状の底部において前記液体供給孔及び前記液体排出孔と連通するようにした。
【0015】
また、前記溝の前記断面は、深さ方向に凸の円弧状であることとした。
【0016】
また、前記溝は、長手方向の一方又は両方の開口端部において前記液体供給孔又は前記液体排出孔と連通するようにした。
【0017】
また、前記カバープレートは、前記溝から前記液体を排出する液体排出孔又は前記溝へ前記液体を供給する液体供給孔を複数備えていることとした。
【0018】
また、前記ノズルプレートは、前記溝に連通するノズルを複数備えていることとした。
【0019】
また、前記液体供給孔に供給する液体を保持する液体供給室と前記液体排出孔から排出した液体を保持する液体排出室を有し、前記カバープレートの前記圧電プレートとは反対側の面に設置した流路部材を備えるようにした。
【0020】
また、前記溝の側壁に形成した電極に駆動電力を供給する駆動回路と、前記駆動回路を実装し、前記圧電プレートに設置したフレキシブル基板と、前記ノズルプレートが外部に露出した状態で前記圧電プレート及び前記カバープレートを収納するとともに、前記フレキシブル基板を外側面に固定する基体と、を更に備えるようにした。
【0021】
本発明による液体噴射装置は、請求項1〜7項のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッドと、前記カバープレートの液体供給孔に液体を供給するとともに前記カバープレートの液体排出孔から排出した液体を貯留する液体タンクと、前記液体タンクから前記液体供給孔に前記液体を押圧して供給する押圧ポンプと、前記液体排出孔から前記液体タンクに前記液体を吸引して排出する吸引ポンプと、を備えるようにした。
【0022】
また、前記液体排出孔から前記液体タンクまでの経路上に脱気機能を有する脱気手段を備えるようにした。
【0023】
本発明による液体噴射ヘッドの製造方法は、圧電プレートの一方面に、深さ方向が凸状となる細長い溝を形成する溝加工工程と、液体供給孔と液体排出孔を有するカバープレートを、前記圧電プレートの一方面に貼り合わせるカバープレート貼り合せ工程と、前記圧電プレートの他方面を切削加工する切削加工工程と、液体噴射用のノズルを形成したノズルプレートを前記圧電プレートの他方面に張り合わせて、前記ノズルと前記溝とを連通させるノズルプレート貼り合わせ工程と、を含むようにした。
【0024】
また、前記液体供給孔に供給する液体を保持する液体供給室と前記液体排出孔から排出した液体を保持する液体排出室を有する流路部材を、前記カバープレートの圧電プレートとは反対側に貼り合わせる流路部材貼り合わせ工程を有するようにした。
【発明の効果】
【0025】
本発明の液体噴射は、被記録媒体に液体を噴射するノズルを有するノズルプレートと、一方面に細長い溝を有し、他方面に前記ノズルプレートを接合する圧電プレートと、溝に液体を供給する液体供給孔と溝から液体を排出する液体排出孔を有し、圧電プレートの一方面に設置したカバープレートとを備えている。圧電プレートの細長い溝は、当該溝の長手方向であり且つ深さ方向の断面が深さ方向に凸状であり、この凸状の頂部においてノズルと連通し、この凸状の底部において液体供給孔及び液体排出孔と連通するように構成した。これにより、溝内に供給される液体は溝の凸状の底部である間口の広い一方面の側から流入し、同じ一方面の側から流出する。そのため、溝内部領域において液体が滞留する領域が減少し、気泡や塵埃からなる液体内の異物を溝内部領域から速やかに除去することができる。その結果、ノズルの目詰まりが減少し、高信頼性の液体噴射ヘッドを提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第一実施形態に係る液体噴射ヘッドの模式的な分解斜視図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係る液体噴射ヘッドの模式的な縦断面図である。
【図3】本発明の第二実施形態に係る液体噴射ヘッドの模式的な縦断面図である。
【図4】本発明の第三実施形態に係る液体噴射ヘッドの模式的な縦断面図である。
【図5】本発明の第四実施形態に係る液体噴射ヘッドの模式的な斜視図である。
【図6】本発明の第四実施形態に係る液体噴射ヘッドの模式的な縦断面図である。
【図7】本発明の第五実施形態に係る液体噴射装置の説明図である。
【図8】本発明の第六実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法を表す工程図である。
【図9】従来公知のインクジェットヘッドの断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明に係る液体噴射ヘッドは、被記録媒体に液体を噴射するためのノズルを有するノズルプレートと、一方面に細長い溝を有し、他方面に上記ノズルプレートを接合した圧電プレートと、上記溝に噴射用液体を供給する液体供給孔と当該溝から供給された液体を排出する液体排出孔を有し、上記圧電プレートの一方面に設置したカバープレートを備えている。更に、圧電プレートの一方面に形成した細長い溝の長手方向の断面は、深さ方向に凸形状を有し、溝はその凸形状の頂部、すなわち溝の底においてノズルプレートのノズルと連通する。更に、溝はその凸形状の底部、すなわち溝を形成した一方面の開口部において液体供給孔及び液体排出孔と連通する。
【0028】
この構成により、液体は溝の間口の広い一方面の側から流入し、同じ間口の広い一方面の側から流出する。そのため、溝の内部領域において液体が滞留する領域が減少し、気泡や塵埃等の異物を溝内部領域から速やかに除去することが可能となる。その結果、ノズルの目詰まりや、ノズルから吐出する液量のばらつきによる記録ミスを低減させることができる。また、仮に溝内部に気泡等が混入してもこれを速やかに除去できるので、大量に記録する産業用に利用した場合でも、連続して記録ミスが発生することによる損失を低減できる。
【0029】
なお、溝の断面形状は、深さ方向に凸状の円弧形状とすることができる。溝の断面を円弧形状とすることにより、液体供給孔から液体排出孔への流れに淀みを減少させ、液体に混入した異物をより迅速に排出することができる。また、円盤状のダイシングブレードを使用して切削加工により溝を容易に作成することができる。
【0030】
また、圧電プレートの一方面に形成した細長い溝がその長手方向の一方又は両方の開口端部において液体供給孔又は液体排出孔と連通するように、カバープレートを圧電プレートの一方面に設置することができる。これにより、溝の内部から液体が滞留する領域をほとんど除去することができるので、液体に混入した気泡や塵埃をより速やかに除去することが可能となる。
【0031】
なお、1つの溝に1つのノズルの他に複数のノズルを連通させてもよい。また、1つの溝に1つの液体供給孔、1つの液体排出孔を連通してもよいし、1つの溝に複数の液体供給孔又は複数の液体排出孔を連通してもよい。ノズルの数を複数とすることにより、記録密度又は記録速度を向上させることができる。また、液体供給孔又は液体排出孔を複数連通することにより、液体の流速を高め、混入した異物の排出速度を高くできるので、ノズルの目詰まりが発生し難く信頼性の高い液体噴射ヘッドを提供することができる。
【0032】
また、溝を形成した圧電プレートの一方面は平坦である。そのため、駆動回路と接続するための電極端子を圧電プレートの一方面に容易に形成することができる。
【0033】
また、本発明に係る液体噴射ヘッドの製造方法によれば、圧電体からなる、又は圧電体が埋め込まれた圧電プレートの一方面に、深さ方向が凸状となる細長い溝を形成する溝加工工程と、他方面に液体供給孔と液体排出孔を有するカバープレートを準備し、このカバープレートの他方面を上記圧電プレートの一方面に貼り合わせるカバープレート貼り合せ工程と、上記圧電プレートの他方面を切削加工する工程切削加工工程と、液体噴射用のノズルを形成したノズルプレートを準備し、このノズルと圧電プレートの溝とが連通するように、切削加工した圧電プレートの加工面にノズルプレートを張り合わせるノズルプレート貼り合わせ工程を含んでいる。
【0034】
このように製造することにより、高度な研削技術を必要としないで液体供給孔9や液体排出孔10を溝5の両方の開口端部に一致させ、或いはほぼ一致させて連通させることができる。また、カバープレート貼り合せ工程後に圧電プレートの他方面を研削すれば、カバープレートが圧電プレートの補強材となるので、圧電プレートの研削が容易となる。以下、本発明について実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0035】
(第一実施形態)
図1は、本発明の第一実施形態である液体噴射ヘッド1の模式的な分解斜視図であり、図2(a)は部分AAの模式的な縦断面図であり、図2(b)は部分BBの模式的な縦断面図である。
【0036】
液体噴射ヘッド1は、ノズルプレート2、圧電プレート4、カバープレート8、及び流路部材11が積層した構造を備えている。圧電プレート4として、例えばPZT等から成る圧電セラミックスを使用することができる。圧電プレート4は一方面7に複数の細長い溝5(5a、・・・5d)を有している。各溝5a、・・・5dは、長手方向をx方向とし、これに直交するy方向に配列している。各溝5a、・・・5dは各側壁6a、6b、6cにより仕切られている。各溝の幅は、例えば50μm〜100μmに、各溝5a、・・・5dを仕切る各側壁6a、6b、6cの幅も50μm〜100μmとすることができる。図1に示す圧電プレート4の手前側の側面は、溝5aの長手方向であり且つ深さ方向の断面を示している。溝5の長手方向(x方向)及び深さ方向(−z方向)の断面形状は、深さ方向に凸形状を有している。より具体的には、深さ方向に凸状の円弧形状を備える。
【0037】
圧電プレート4の一方面7にカバープレート8を貼り合せて接合する。カバープレート8として圧電プレート4と同じ材料を使用することができる。同じ材料を使用すれば温度変化に対する熱膨張率が同じなので、周囲温度変化に対して変形したり、?がれたりし難くすることができる。カバープレート8は、その一方面から他方面にかけて貫通する液体供給孔9と液体排出孔10を備えている。液体供給孔9は各溝5a、・・・5dの長手方向の一方の開口端と、液体排出孔10は各溝5a、・・・5dの長手方向の他方の開口端とそれぞれ一致する、又はほぼ一致するように貼り合せている。カバープレート8は、その液体供給孔9と液体排出孔10の中間領域において各溝5a、・・・5dの開口部を閉塞している。言い換えると、各溝5a、・・・5dは、隣接する各溝5a、・・・5dとカバープレート8の液体供給孔9及び液体排出孔10を介して連通する。
【0038】
このように、カバープレート8の液体供給孔9及び液体排出孔10と各溝5a、・・・5dの両方の開口端部を一致させる、又はほぼ一致させているので、カバープレート8と圧電プレート4との間の液体滞留領域を縮小させることができる。そして、溝5は、深さ方向に凸形状の断面を有し、その凸状の底部である間口の広い一方面の側から液体を流入し流出するので、溝5内部でも液体は淀みなく流れる。これにより、液体内に混入した気泡や塵埃等の異物を溝5の領域から迅速に排出させることができる。
【0039】
ノズルプレート2を圧電プレート4の他方面に貼り合せて接合する。ノズルプレート2としてポリイミド樹脂等の高分子材料を使用することができる。ノズルプレート2は、その圧電プレート4側の一方面からその反対側の他方面に貫通するノズル3を備えている。ノズル3と圧電プレート4の溝5とは、溝5の深さ方向の頂部において連通している。ノズル3は一方面から他方面に向けて開口断面が縮小する漏斗状の形状を有している。漏斗形状の傾斜面はノズルプレート2の法線に対して、例えば約10度の傾斜角を有している。
【0040】
流路部材11をカバープレート8の圧電プレート4とは反対側の表面に貼り合せて接合する。流路部材11は、カバープレート8側の他方面に凹部からなる液体供給室12と液体排出室13を備えている。液体供給室12はカバープレート8の液体供給孔9に対応して連通し、液体排出室13はカバープレート8の液体排出孔10に対応して連通する。流路部材11は、カバープレート8側とは反対側の一方面に液体供給室12及び液体排出室13に連通する開口部を備え、更に、各開口部に固定した供給用継手14及び排出用継手15を備えている。液体供給室12は、液体の淀みや滞留を低減するために、液体供給用の開口部から基準方向の周辺部に向けて上面が傾斜し、空間が狭くなる。液体排出室13も同様である。
【0041】
この構成により、供給用継手14から供給された液体は、液体供給室12及び液体供給孔9を満たし、各溝5a、・・・5dに流入する。更に、各溝5a、・・・5dから排出された液体は、液体排出孔10及び液体排出室13に流入し排出用継手15から流出する。各溝5a、・・・5dの底面は、長手方向の端部に向けて深さが浅くなる。そのため、溝5a、・・・5d内においても液体は淀みなく流れる。
【0042】
この液体噴射ヘッド1は次のように動作する。まず、圧電プレート4を分極しておく。また、図2(b)に示すように、各側壁6a、6b、6cの両側面に駆動電極16a、16b、16c、16dを形成し、各側壁6a、6b、6cを夫々駆動電極16a、16b、駆動電極16b、16c、駆動電極16c、16dにより挟む。そして、供給用継手14に液体を供給して各溝5a、5b、5cを液体により充満し、例えば側壁6aに形成した駆動電極16a、16bに電圧を与える。すると、側壁6aは圧電効果、例えば圧電厚み滑り効果により変形し溝5aの容積を変化させる。この容積変化により溝5a内に充填した液体をノズル3aから吐出させる。他の各側壁6b、6cも同様に独立して駆動することができる。例えば、液体としてインクを使用すれば、被記録媒体である紙に描画することができる。また、液体として液状金属材料を使用すれば、基板上に電極パターンを形成することができる。
【0043】
特に、本実施形態1に示すように、溝5の開口部側に液体の供給・排出用のカバープレート8を設置し、溝の底部を深さ方向に凸状の円弧形状とすることにより、各溝5a、5b、5c内に気泡やダストによる異物が混入した場合でも、異物の滞留時間を減少させ、ノズル3の目詰まりや、混入した気泡が液体の吐出圧力を吸収するという不具合の発生する確率を低減させることができる。
【0044】
なお、圧電プレート4に形成する溝5は複数本、例えば数本から数百本以上とすることができる。溝5の長手方向の縦断面はその深さ方向に向けて凸状の逆台形形状であってもよいし、溝5の長手方向の両側面が側方又は深さ方向に凸状の円弧形状であり、溝5の底辺が平坦であってもよい。また、圧電プレート4のy方向端部の溝5dは側壁6cに電極を形成することを目的としている。従って、溝5dにノズル3や液体供給孔9及び液体排出孔10を必ずしも連通するように構成する必要はない。
【0045】
また、溝5の底辺において連通するノズル3の位置は特に限定されないが、ノズル3の設置位置として、好ましくは溝5の長手方向(x方向)及び幅方向(y方向)の対称軸又は対称中心に設置する。側壁6の変形により液体に与えられる衝撃波は溝5の領域の対称軸又は対称中心の位置で収束しやすく、ノズル3からの吐出圧力を最も高くすることができる。
【0046】
また、後に具体的に説明するが、圧電プレート4の他方面は、圧電プレート4の一方面7に溝5を形成し、カバープレート8を貼り合せて固定した後に、研削する。圧電プレート4の他方面を研削する際に、溝5の底面が開口するまで研削してもよいし、溝5の底面が開口する前に研削を止め、溝5の底面に圧電材料を薄く残してもよい。溝5の底面に圧電材料を薄く残す場合は、ノズルプレート2のノズル3に対応する貫通孔を形成する必要がある。そのために、高精度の孔開け加工が必要となるとともに工程数も増加する。また、溝5の底辺側に圧電材料が残るため、溝5の領域からノズル3の吐出口までの距離が長くなり、流路抵抗が増加して吐出速度が低下する。そのため、好ましくは溝5の底部を開口してノズルプレート2の表面が溝5の底辺となるようにする。
【0047】
また、上記第一実施形態では流路部材11を設けて供給及び排出する液体が淀みなく流れるようにしているが、流路部材11は本発明の必須要件ではない。特に溝5の数が少ない場合や、溝5の数が多い場合でもカバープレート8に流路部材11の機能を持たせるように構成することができる。
【0048】
また、第一実施形態においては図2(b)に示すように、複数のノズル3をy方向に平行な一列配列としているが、これに限定されない。所定数のノズル3をy方向に対して角度を持たせて斜めに配列してもよい。例えば、各側壁6に形成した駆動電極16を3サイクル駆動する場合には、ノズル3を3個ずつy方向に対して斜めに設置する。そして、隣接するノズル3に時系列的に駆動信号を与え、被記録媒体をこの駆動信号に同期させて搬送する。これにより、隣接するノズル3を独立に駆動することができ、かつ、被記録媒体に高速で記録することができる。
【0049】
(第二実施形態)
図3は、本発明の第二実施形態である液体噴射ヘッド1の模式的な縦断面図である。本第二実施形態は、ノズルプレート2が1つの溝に対応する2つのノズル3a、3bを備えている点が第一実施形態と異なり、その他の点は第一実施形態と同様である。以下、主に第一実施形態と異なる部分について説明する。また、以下同一の部分または同一の機能を有する部分については同一の符号を付している。
【0050】
図3に示すように、液体噴射ヘッド1はノズルプレート2、圧電プレート4、カバープレート8、流路部材11の順に積層構造を備えている。圧電プレート4はその一方面に細長い溝5を備え、その長手方向及び深さ方向の断面は深さ方向に凸形状を有している。ノズルプレート2の2つのノズル3a、3bはその凸形状の頂部において溝5と連通する。ノズル3aは溝5の長手方向における中央部よりも一方の端部側に位置し、ノズル3bは溝5の他方の端部側に位置する。供給用継手14から供給した液体は、液体供給室12及び液体供給孔9を介して溝5の断面形状が凸状の底部である一端開口部から流入し、同じ底部の他端開口部から液体排出孔10、液体排出室13を介して排出用継手15から流出する。なお、ここで溝5の深さ方向に凸状の頂部とは必ずしも溝5の最深部の1点を意味せず、溝5の底辺に広がりが存在する場合はその広がりのある底辺を頂部という。他の実施形態においても同様である。
【0051】
圧電プレート4に形成した溝5の一方又は両方の開口端部とカバープレート8の液体供給孔9及び液体排出孔10の開口部は一致する、又はほぼ一致する。また、溝5は断面がノズルプレート2側に凸形状を有している。そのために、カバープレート8と圧電プレート4との間や溝5内部において液体の流れに淀みが生じ難く、内部に気泡や塵埃が混入しても迅速に排出されるので、ノズル3の目詰まりや、混入した気泡が空気ばねとなって内部の吐出圧力を吸収し、ノズル3から液体が吐出されなくなる不具合を低減させることができる。
【0052】
溝5を区画する側壁の壁面に形成した図示しない駆動電極は、溝5の長手方向の中央部において電気的に分離している。ノズル3aから液体を噴射させる場合は、ノズル3a側の駆動電極に駆動電圧を与えてノズル3a側の側壁を変形させ、ノズル3bから液体を噴射させる場合は、ノズル3b側の駆動電極に駆動電圧を与えてノズル3b側の側壁を変形させる。即ち、2つのノズルから独立して液体を噴射することができるので、記録密度や記録速度を向上させることができる。
【0053】
(第三実施形態)
図4は、本発明の第三実施形態である液体噴射ヘッド1の模式的な縦断面図である。本第三実施形態は、ノズルプレート2が1つの溝5に対応する2つのノズル3a、3bを備え、カバープレート8が1つの液体供給孔9と2つの液体排出孔10a、10bを備えている点が第一実施形態と異なり、その他の点については第一実施形態と同様である。以下、主に第一実施形態と異なる部分について説明する。
【0054】
図4に示すように、液体噴射ヘッド1はノズルプレート2、圧電プレート4、カバープレート8、流路部材11の順に積層構造を備えている。圧電プレート4はその一方面に細長い溝5を備え、溝5はその長手方向及び深さ方向の断面が深さ方向に凸形状を有している。カバープレート8は、溝5の長手方向の中央の開口部に対応する液体供給孔9と、溝5の長手方向の両端の開口部に対応する2つの液体排出孔10a、10bを備えている。即ち、溝5は断面が凸形状の底部において液体供給孔9及び液体排出孔10a、10bと連通する。
【0055】
流路部材11は、カバープレート8の液体供給孔9に対応する液体供給室12と、2つの液体排出孔10a、10bのそれぞれ対応する液体排出室13a、13bを備えている。液体供給室12は、カバープレート8とは反対側の一方面に開口し、その開口部に設けた供給用継手14から液体を供給する。液体排出室13a、13bのそれぞれは、カバープレート8の一方面に開口し、その開口部に設けた排出用継手15a、15bから液体を排出する。溝5は深さ方向に凸形状を有し、ノズルプレート2の2つのノズル3a、3bはその頂部において溝5と連通する。ノズル3aは液体供給孔9と液体排出孔10aの間に、ノズル3bは液体供給孔9と液体排出孔10bの間に位置する。
【0056】
供給用継手14から供給した液体は、液体供給室12及び液体供給孔9を介して溝5の中央部から流入し、溝5の両端部から2つの液体排出孔10a、10b及び液体排出室13a、13bを介して排出用継手15a、15bから外部へ流出する。圧電プレート4に形成した溝5の両方の開口端部とカバープレート8の2つの液体排出孔10a、10bの開口部は一致する、又はほぼ一致する。また、溝5は断面がノズルプレート2側に凸形状を有している。そのために、カバープレート8と圧電プレート4との間や溝5内部において液体の淀みや滞留が減少し、内部に気泡や塵埃が混入しても迅速に排出されるので、ノズル3の目詰まりを低減させることができる。
【0057】
溝5を仕切る側壁6を変形させるための側壁面に設けた図示しない駆動電極は、溝5の長手方向中央部において電気的に分離している。ノズル3aから液体を噴射させる場合は、ノズル3a側の駆動電極に駆動電圧を与えてノズル3a側の側壁を変形させ、ノズル3bから液体を噴射させる場合は、ノズル3b側の駆動電極に駆動電圧を与えてノズル3b側の側壁を変形させる。これにより、液体の記録密度を高く或いは記録速度を向上させることができる。更に、溝5の形状や液体の流れは溝5の中心線CCを軸として対称である。そのため、ノズル3aから液滴を噴射する噴射条件とノズル3bから液滴を噴射する噴射条件とを等しく設定することができる。例えば、噴射液滴の液滴量や噴射タイミングを等しくすることが容易となる。
【0058】
なお、上記第三実施形態では溝5の中央部から液体を供給し両端部から液体を排出したがこれに限定されない。例えば、溝5の両端部から液体を供給し、中央部から排出してもよいし、液体排出孔10又は液体供給孔9を更に増やしてもよい。
【0059】
(第四実施形態)
図5及び図6は本発明の第四実施形態である液体噴射ヘッド1の説明図である。図5(a)は液体噴射ヘッド1の全体斜視図であり、(b)は液体噴射ヘッド1の内部の斜視図である。図6(a)は部分DDの縦断面図であり、(b)は部分EEの縦断面図である。
【0060】
図5(a)及び(b)に示すように、液体噴射ヘッド1はノズルプレート2と圧電プレート4とカバープレート8と流路部材11の積層構造を備えている。ノズルプレート2と圧電プレート4は、x方向の幅がカバープレート8と流路部材11よりも広く、x方向の一方端において突出している。圧電プレート4の一方面7には多数の溝5がy方向に配列している。カバープレート8は一方面から他方面に貫通する液体供給孔9と液体排出孔10を備えている。液体供給孔9と液体排出孔10の他方面における開口部は各溝5の長手方向(x方向)における一方端と他方端の各開口部に一致し、又はほぼ一致して連通する。
【0061】
図6(a)、及び(b)に示すように、流路部材11は、カバープレート8側の他方面に開口する凹部からなる液体供給室12及び液体排出室13を備え、カバープレート8とは反対側の一方面には液体供給室12及び液体排出室13にそれぞれ連通する供給用継手14及び排出用継手15を備えている。
【0062】
圧電プレート4の突出した一方端の一方面7には多数の電極端子を集約的に形成しており、各電極端子は各溝5の側壁に形成した図示しない駆動電極と電気的に接続する。フレキシブル基板(以下、FPCという)24は圧電プレート4の一方面7に接着固定されている。FPC24は、その圧電プレート4側の表面に分離した多数の電極を備え、各電極は圧電プレート4上の各電極端子と導電材を介して電気的に接続する。FPC24は、その表面に駆動回路としてのドライバIC25や接続コネクタ26を備えている。ドライバIC25は、接続コネクタ26から駆動信号を入力して溝5の側壁を駆動するための駆動電圧を生成し、FPC24上の電極、圧電プレート4上の電極端子を介して側壁の図示しない駆動電極に供給する。
【0063】
ベース21は圧電プレート4等を収納している。ベース21の下面にはノズルプレート2の液体噴射面が露出している。FPC24は、圧電プレート4の突出端部側から外部に引き出され、ベース21の外側面に固定されている。ベース21はその上面に2つの貫通孔を備え、液体供給用の供給チューブ22が一方の貫通孔を貫通して液体供給用継手14に接続し、液体排出用の排出チューブ23が他方の貫通孔を貫通して液体排出用継手15に接続している。
【0064】
ノズルプレート2のノズル3は溝5の深さ方向に凸形状の頂部に連通する。ノズルプレート2に形成した各ノズル3はy方向に一列に整列し、対応する各溝5に連通する。カバープレート8は、液体供給孔9及び液体排出孔10の各開口端部と溝5の一方及び他方の開口端部がそれぞれ一致する、又はほぼ一致するように、圧電プレート4に接合する。即ち、溝5は断面が凸形状の底部において液体供給孔9及び液体排出孔10と連通する。FPC24はベース21の側壁に固定されている。
【0065】
この構成により、カバープレート8と圧電プレート4との間や溝5内部において淀みが減少し、液体に混入した気泡や塵埃を迅速に流出させる。その結果、ノズル3の目詰まりや液体の吐出量不足等の不良を低減することができる。また、ドライバIC25や圧電プレート4の溝5の側壁は駆動することにより加熱するが、熱はベース21や流路部材11を介して内部を流れる液体に伝達する。即ち、被記録媒体に記録するための液体を冷却媒体として利用して効率よく熱を外部に放熱することができる。そのため、ドライバIC25や圧電プレート4の過熱による駆動能力の低下を防止することができ、信頼性の高い液体噴射ヘッド1を提供することが可能となる。
【0066】
なお、第二実施形態のように1つの溝に2つのノズル3を設けてもよい。また、三実施形態のように、液体供給室12及び液体供給孔9を介して溝5の中央部から液体を供給し、溝5の両端部から液体排出孔10a、10b及び液体排出室13a、13bを介して液体を排出し、更に2つのノズルから独立して液体を噴射するように構成してもよい。また、ノズルプレート2に設けたノズル3を図6(b)に示すようにy方向に一列に配列することは必須要件ではなく、y方向に対して角度をもって周期的に配列する構成としてもよい。
【0067】
(第五実施形態)
図7は本発明の第五実施形態である液体噴射装置20の模式的な構成図である。液体噴射装置20は、液体噴射ヘッド1と液体噴射ヘッド1に液体を供給し、液体噴射ヘッド1から排出した液体を貯留する液体タンク27と、液体タンク27から液体噴射ヘッド1に液体を押圧して供給する押圧ポンプ28と、液体噴射ヘッド1から液体タンク27に液体を吸引して排出する吸引ポンプ29を備えている。押圧ポンプ28の吸引側と液体タンク27は供給チューブ22bにより、押圧ポンプ28の押圧側と液体噴射ヘッド1の供給用継手14とは供給チューブ22aにより接続している。吸引ポンプ29の押圧側と液体タンク27は排出チューブ23bにより、吸引ポンプ29の吸引側と液体噴射ヘッド1の排出用継手15とは排出チューブ23aにより接続している。供給チューブ22aは押圧ポンプ28が押圧した液体の圧力を検出するための圧力センサ31を備えている。液体噴射ヘッド1は、第四実施形態と同様なので説明を省略する。
【0068】
なお、すでに説明したように、液体噴射ヘッド1は第二実施形態のように1つの溝5に2つのノズル3を設けてもよい。また、第三実施形態のように、液体供給室12及び対応して設置した液体供給孔9を介して溝5の中央部から液体を供給し、溝5の両端部から2つの液体排出孔10a、10b及び対応して設置した2つの液体排出室13a、13bを介して液体を排出し、更に、2つのノズルから独立して液体を噴射するように構成してもよい。また、液体噴射装置20は、液体噴射ヘッド1を往復させるための搬送ベルト、液体噴射ヘッド1をガイドするガイドレール、搬送ベルトを駆動する駆動モーター、被記録媒体を搬送する搬送ローラ、これらの駆動を制御する制御部等を備えているが、図7では省略している。
【0069】
また、本実施形態において、図示しない脱気装置を液体排出孔10と液体タンク27との間に設けてもよい。つまり、排出チューブ23a及び23b上に脱気装置を設けてもよい。この構成を採用したことによって、液体タンク27から溝5に液体を供給し、溝5から液体タンク27へ液体を循環する排出チューブ23a及び23b上の経路において液体に含有した気体を脱気・除去することができる。すなわち、循環経路における脱気機能を備えたことによって、包含する気体の含有量を低減し、液体吐出環境に適した液体を液体タンク27へ供給することができるので、優れた液体再利用システムを構築することができる。
【0070】
液体噴射装置20を上記のように構成したことにより、液体はカバープレート8と圧電プレート4との間や溝5内部において淀みや滞留が減少し、内部に気泡や塵埃が混入しても迅速に排出される。また、ドライバIC25や圧電プレート4の側壁で生成した熱はベース21や流路部材11を介して内部を流れる液体に伝達する。そのため、被記録媒体に記録するための液体を冷却媒体として利用して熱を効率よく外部に放熱することができ、ドライバIC25や側壁が過熱して駆動能力が低下することを防止することができ、信頼性の高い液体噴射装置20を提供することができる。
【0071】
(第六実施形態)
図8は本発明の第六実施形態である液体噴射ヘッド1の製造方法を表す説明図である。同一の部分又は同一の機能を有する部分には同一の符号を付した。
【0072】
図8(a)は、圧電プレート4の一方面7にダイシングブレード30を用いて溝5を研削している溝加工工程を表す。圧電プレート4はPZTセラミックスを用いている。ダイシングブレード30は円盤状の金属板や合成樹脂板からなり、その外周部に研削用のダイヤモンド砥粒が埋め込まれている。回転するダイシングブレード30を圧電プレート4の一方の端部に所定の深さまで降下させ、他方の端部まで水平に研削し、上昇させる。図8(b)は、研削後の溝5の断面を表す。溝5の両端部はダイシングブレード30の外径が転写され、深さ方向に凸の円弧形状を有する。
【0073】
図8(c)は、液体供給孔9と液体排出孔10を有するカバープレート8を圧電プレート4の一方面7に貼り合せて接合したカバープレート貼り合せ工程後の縦断面図を表す。カバープレート8は圧電プレート4と同じ材料を使用し、接着材により接合した。液体供給孔9の開口端部と溝5の一方の開口端部とを、また、液体排出孔10の開口端部と溝5の他方の開口端部とを一致させる、又はほぼ一致させる。圧電プレート4の溝5の側にカバープレート8を貼り合せるので、溝5の両端部と液体供給孔9及び液体排出孔10の開口端部の位置合わせが極めて容易となる。液体供給孔9や液体排出孔10が溝5の両端部にほぼ一致し、更に、溝5は深さ方向に凸の円弧形状を有する。この構成により、液体が液体供給孔9から溝5に流入し液体排出孔10から排出する際に、溝5内部に淀みや滞留を生じ難くすることができる。
【0074】
図8(d)は、圧電プレート4の他方面17を切削して溝5の深さ方向の頂部を開口した切削加工工程後の縦断面図を表す。圧電プレート4の一方面にカバープレート8が接合しているので、カバープレート8は圧電プレート4の補強材として機能する。そのため、圧電プレート4の他方面17をグラインダにより容易に切削することができる。圧電プレート4を他方面17の側から研磨するように研削できるので、溝5を区画する側壁6を破壊することなく、溝5の底面を開口することができる。
【0075】
図8(e)は、圧電プレート4の他方面17にノズルプレート2を貼り合せて接合したノズルプレート貼り合せ工程後の縦断面図を表す。ノズルプレート2としてポリイミド樹脂を使用し、圧電プレート4に接着材を用いて接合した。ノズル3は、溝5側から外部に向けて開口断面積が次第に減少する漏斗形状を備え、その漏斗状の貫通孔をレーザ光により穿設した。ノズル3を溝5の長手方向の中央部に設置した。
【0076】
なお、上記図8に示す工程の他に、液体供給室と液体排出室を備える流路部材を準備し、カバープレート8の一方面に貼り合せて接合する流路部材貼り合せ工程を含めることができる。貼り合せの際には、カバープレート8に形成した液体供給孔9及び液体排出孔10と液体供給室及び液体排出室のそれぞれを連通させる。これにより、多数の溝5に均等に液体を供給することが可能となると共に、液体ポンプの脈動がノズル3側に伝達することを緩和させるバッファ室として機能させることができる。
【0077】
また、上記切削加工工程において、溝5の深さ方向に凸の頂部が開口するまで研削しないで、深さ方向の頂部に圧電材料を残してもよい。溝5の底面側に圧電材料を残す場合には、切削加工工程の前又は後にノズル3に対応する貫通孔を形成しておく。この貫通孔の形成は溝5を区画する側壁6を研削しないので研削時に側壁が破壊することはない。溝5の底面に圧電材料を残すと、溝5の領域からノズル3の吐出口までの距離が長くなり、流路抵抗が増加して吐出速度が低下する。したがって、好ましくは溝5の底部を開口してノズルプレート2の表面が溝5の底辺となるようにするのがよい。
【0078】
本発明の液体噴射ヘッド1の製造方法によれば、高度な研削技術を必要としないで液体供給孔9や液体排出孔10を溝5の両方の開口端部に一致させ、或いはほぼ一致するように連通させることができる。そして、深さ方向に凸形状を有する溝5の内部に、溝5を形成した表面側から液体を供給し、同じ表面側から液体を排出するので、溝5内部において液体の淀みや滞留を減少させることができる。そのため、溝5内部に気泡や塵埃等の異物が混入しても迅速に外部に排出できるので、ノズル3の目詰まりを低減することができる。
【符号の説明】
【0079】
1 液体噴射ヘッド
2 ノズルプレート
3 ノズル
4 圧電プレート
5 溝
6 側壁
7 一方面
8 カバープレート
9 液体供給孔
10 液体排出孔
20 液体噴射装置
24 FPC
25 ドライバIC
27 液体タンク
28 押圧ポンプ
29 吸引ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被記録媒体に液体を噴射するノズルを有するノズルプレートと、
一方面に細長い溝を有し、他方面に前記ノズルプレートを接合する圧電プレートと、
前記溝に前記液体を供給する液体供給孔と前記溝から前記液体を排出する液体排出孔を有し、前記圧電プレートの一方面に設置したカバープレートとを備え、
前記圧電プレートの細長い溝は、前記溝の長手方向であり且つ深さ方向の断面が深さ方向に凸状であり、前記凸状の頂部において前記ノズルと連通し、前記凸状の底部において前記液体供給孔及び前記液体排出孔と連通する液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記溝の前記断面は、深さ方向に凸の円弧状であることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記溝は、長手方向の一方又は両方の開口端部において前記液体供給孔又は前記液体排出孔と連通することを特徴とする請求項1又は2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記カバープレートは、前記溝から前記液体を排出する液体排出孔又は前記溝へ前記液体を供給する液体供給孔を複数備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記ノズルプレートは、前記溝に連通するノズルを複数備えていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記液体供給孔に供給する液体を保持する液体供給室と前記液体排出孔から排出した液体を保持する液体排出室を有し、前記カバープレートの前記圧電プレートとは反対側の面に設置した流路部材を備える請求項1〜5のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
前記溝の側壁に形成した電極に駆動電力を供給する駆動回路と、
前記駆動回路を実装し、前記圧電プレートに設置したフレキシブル基板と、
前記ノズルプレートが外部に露出した状態で前記圧電プレート及び前記カバープレートを収納するとともに、前記フレキシブル基板を外側面に固定する基体と、を更に備える請求項1〜6のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項8】
請求項1〜7項のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッドと、
前記カバープレートの液体供給孔に液体を供給するとともに前記カバープレートの液体排出孔から排出した液体を貯留する液体タンクと、
前記液体タンクから前記液体供給孔に前記液体を押圧して供給する押圧ポンプと、
前記液体排出孔から前記液体タンクに前記液体を吸引して排出する吸引ポンプと、を備える液体噴射装置。
【請求項9】
前記液体排出孔から前記液体タンクまでの経路上に脱気機能を有する脱気手段を備えることを特徴とする請求項8に記載の液体噴射装置。
【請求項10】
圧電プレートの一方面に、深さ方向が凸状となる細長い溝を形成する溝加工工程と、
液体供給孔と液体排出孔を有するカバープレートを、前記圧電プレートの一方面に貼り合わせるカバープレート貼り合せ工程と、
前記圧電プレートの他方面を切削加工する切削加工工程と、
液体噴射用のノズルを形成したノズルプレートを前記圧電プレートの他方面に張り合わせて、前記ノズルと前記溝とを連通させるノズルプレート貼り合わせ工程と、を含む液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項11】
前記液体供給孔に供給する液体を保持する液体供給室と前記液体排出孔から排出した液体を保持する液体排出室を有する流路部材を、前記カバープレートの圧電プレートとは反対側に貼り合わせる流路部材貼り合わせ工程を有することを特徴とする請求項10に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−93200(P2011−93200A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249099(P2009−249099)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(501167725)エスアイアイ・プリンテック株式会社 (198)
【Fターム(参考)】