説明

液体噴射ヘッド、液体噴射装置及び液体噴射ヘッドの製造方法

【課題】配線基板とアクチュエーター装置とを確実に導通させて、コストを低減すると共に小型化を図ることができる液体噴射ヘッド等を提供する。
【解決手段】液体噴射ヘッドは、流路形成基板10上に設けられた複数の実装部90を有するアクチュエーター装置300と、アクチュエーター装置300に駆動信号を供給する可撓性を有する複数の配線基板200と、実装部90側に設けられると共に複数の配線基板200を挿通可能な貫通孔102を有する保護基板30と、を備え、貫通孔102内に露出する複数の実装部90同士の間に、配線基板200と実装部90を電気的に接続し固定する導電性材料210の流出を防止する段差103が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル開口から液体を噴射する液体噴射ヘッド、液体噴射装置及び液体噴射ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体を噴射する液体噴射ヘッドには、ノズル開口に連通する圧力発生室が設けられた流路形成基板の一方面側に圧電素子を設け、圧電素子の変位によって圧力発生室内の圧力変動を行わせてインク滴をノズル開口から吐出するインクジェット式記録ヘッドが知られている。
【0003】
インクジェット式記録ヘッドとして、流路形成基板の圧電素子側に保護基板を接合し、保護基板上に設けられた駆動回路の各端子と、各圧電素子とをワイヤーボンディングによってボンディングワイヤーで電気的に接続し、駆動回路からの駆動信号をボンディングワイヤーを介して圧電素子に供給するようにしたものが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0004】
また、インクジェット式記録ヘッドとして、複数の圧電素子に駆動信号を供給するCOF基板を接続したものが提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−053079号公報
【特許文献2】特開2007−301736号公報
【特許文献3】特開2008−023799号公報
【特許文献4】特開2006−281477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、駆動回路の各端子と各圧電素子とを個別にワイヤーボンディングで接続すると、ワイヤーボンディングを圧電素子の数だけ行わなければならず、製造時間が長時間になってしまうと共にコストが高騰してしまうという問題がある。
【0007】
また、圧電素子にはボンディングワイヤーが接続される端子を配置する領域が必要となり、ヘッドが大型化してしまうという問題がある。
【0008】
さらに、特許文献2のように、COF基板を用いて圧電素子に電気的に接続するものも提案されているが、圧電素子が並設された列が複数列設けられている場合、COF基板と圧電素子との接続に使用される異方性導電性接着剤やポッティング剤などの樹脂材料が圧電素子の列間に流出し、導通不良が発生する虞があるという問題がある。ちなみに、流出した樹脂による導通不良を抑制するために、圧電素子の列間を広くすると大型化してしまう。
【0009】
なお、このような問題はインクジェット式記録ヘッドだけではなく、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにおいても同様に存在する。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑み、配線基板とアクチュエーター装置とを確実に導通させて、コストを低減すると共に小型化を図ることができる液体噴射ヘッド、液体噴射装置及び液体噴射ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
本発明に係る液体噴射ヘッドは、流路形成基板上に設けられた複数の実装部を有するアクチュエーター装置と、前記複数の実装部に電気的に接続されて前記アクチュエーター装置に駆動信号を供給する可撓性を有する複数の配線基板と、前記流路形成基板の前記実装部側に設けられると共に前記複数の配線基板を挿通可能な貫通孔を有する保護基板と、を備え、前記貫通孔内に露出する前記複数の実装部同士の間に、前記配線基板と前記実装部を電気的に接続し固定する導電性材料の流出を防止する段差が設けられることを特徴とする。
【0012】
前記段差は、前記保護基板の前記貫通孔内に形成された隔壁であることを特徴とする。
【0013】
前記段差は、前記流路形成基板上に形成された隔壁であることを特徴とする。
【0014】
前記導電性材料が前記配線基板の接続面の反対側の面に回りこんだ状態で前記配線基板と前記実装部を接続し固定することを特徴とする。
【0015】
前記段差は、前記流路形成基板上に形成された溝部であることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る液体噴射装置は、上述したいずれかの液体噴射ヘッドを備えることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る液体噴射ヘッドの製造方法は、流路形成基板上に設けられた複数の実装部を有するアクチュエーター装置と、前記複数の実装部に電気的に接続されて前記アクチュエーター装置に駆動信号を供給する可撓性を有する複数の配線基板と、前記流路形成基板の前記実装部側に設けられると共に前記複数の配線基板を挿通可能な貫通孔を有する保護基板と、を備える液体噴射ヘッドの製造方法であって、前記貫通孔内に露出する前記複数の実装部同士の間に、前記配線基板と前記実装部を電気的に接続し固定する導電性材料の流出を防止する段差を形成する工程と、前記導電性材料により前記配線基板を前記実装部に電気的に接続し固定する工程と、を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェット式記録装置Aの概略構成を示した斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る記録ヘッド1の構成を示す分解斜視図である。
【図3】本発明の実施形態に係る記録ヘッド1の構成を示す平面図及び断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る記録ヘッド1の製造工程を説明する図である。
【図5】図4に続く製造工程を示す図である。
【図6】図5に続く製造工程を示す図である。
【図7】図6に続く製造工程を示す図である。
【図8】記録ヘッド1の第一変形例を示す断面図である。
【図9】記録ヘッド1の第二変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係るインクジェット式記録装置について図面を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0020】
[インクジェット式記録装置A]
図1は、本発明の実施形態に係るインクジェット式記録装置Aの概略構成を示した斜視図である。
インクジェット式記録装置(液体噴射装置)Aは、インクを噴射する記録ヘッド1、記録ヘッド1を搭載するキャリッジ2及びインクが着弾する記録紙Sを支持するプラテン3等を備えている。
キャリッジ2は、キャリッジモータ4により駆動されるタイミングベルト5を介して、キャリッジ軸6に案内されて往復移動するように構成されている。
プラテン3は、記録媒体である記録紙Sをその裏面から支持して、記録ヘッド1に対する記録紙Sの位置を規定する。
【0021】
記録ヘッド1は、キャリッジ2の記録紙Sに対向する面側に搭載される。そして、キャリッジ2には、記録ヘッド1にインクを供給する複数のインクカートリッジ7が着脱可能に装着されている。
【0022】
[記録ヘッド1]
図2は、本発明の実施形態に係る記録ヘッド1を示す分解斜視図である。
図3は、本発明の実施形態に係る記録ヘッド1を示す平面図及び断面図である。
【0023】
流路形成基板10は、シリコン単結晶基板からなり、その一方の面には二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。
【0024】
流路形成基板10には、他方面側から異方性エッチングすることにより、複数の壁部11によって区画された圧力発生室12がその幅方向(短手方向)に並設された列が、圧力発生室12の長手方向に2列設けられている。
また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向一端部側には、圧力発生室12と共にノズル開口毎に個別流路を構成するインク供給路14と連通路13とが壁部11によって区画されている。インク供給路14及び連通路13は、圧力発生室12の各列において、圧力発生室12の2つの列の外側に配置されている。
【0025】
インク供給路14は、マニホールド100と圧力発生室12との間でインクに流路抵抗を生じさせるものであり、圧力発生室12の長手方向一端部側に連通し且つ圧力発生室12より小さい断面積を有する。例えば、インク供給路14は、圧力発生室12の流路を幅方向に絞ることで、圧力発生室12の幅より小さい幅で形成されている。
なお、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。
さらに、各達通路13は、インク供給路14の圧力発生室12とは反対側に連通し、インク供給路14の幅方向(短手方向)より大きい断面積を有する。連通路13を圧力発生室12と同じ断面積で形成した。
【0026】
すなわち、流路形成基板10には、圧力発生室12と、圧力発生室12の短手方向の断面積より小さい断面積を有するインク供給路14と、このインク供給路14に連通すると共にインク供給路14の短手方向の断面積よりも大きい断面積を有する連通路13とからなる個別流路が複数の壁部11により区画されて設けられた列が2列設けられている。
【0027】
流路形成基板10の圧力発生室12等の個別流路が開口する面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズル形成部材の一例でノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フイルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼等からなる。
【0028】
一方、このような流路形成基板10のノズルプレート20とは反対側の面には、上述したように、弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、絶縁体膜55が形成されている。さらに、この絶縁体膜55上には、厚さが例えば、第1電極60と圧電体層70と第2電極80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子300を構成している。
ここで、圧電素子300は、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。第1電極60を圧電素子300の共通電極とし、第2電極80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。すなわち、圧力発生室12内のインク(液体)に圧力変化を生じさせるアクチュエーター装置として、圧電素子300を設けるようにした。
【0029】
また、このような各圧電素子300の第2電極80には、流路形成基板10のインク供給路14とは反対側の端部近傍まで延設された金(Au)等のリード電極90がそれぞれ接続されている。このリード電極90を介して各圧電素子300に選択的に電圧が印加される。すなわち、リード電極90の圧電素子300とは反対側の端部が、配線基板が電気的に接続される実装部となっている。
【0030】
また、圧電素子300が形成された流路形成基板10上には、圧電素子300に対向する領域に、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部31を有する保護基板30が、接着剤35等によって接合されている。圧電素子300は、この圧電素子保持部31内に配置されているため、外部環境の影響を殆ど受けない状態で保護されている。なお、圧電素子保持部31は、密封されていても、密封されていなくてもよい。また、圧電素子保持部31は、各圧電素子300毎に独立して設けてもよく、複数の圧電素子300に亘って連続して設けるようにしてもよい。
【0031】
さらに、保護基板30上の圧電素子保持部31に相対向する領域には、複数の個別流路の共通のインク室(液体室)となるマニホールド100が設けられている。マニホールド100は、保護基板30の流路形成基板10との接合面とは反対側の面に設けられた凹部で形成されている。すなわち、保護基板30の流路形成基板10とは反対側に開口しており、マニホールド100の開口はコンプライアンス基板40によって封止されている。なお、マニホールド100は、複数の個別流路の短手方向(幅方向)に亘って連続して設けられている。
また、マニホールド100は、圧力発生室12の長手方向で保護基板30の両端部近傍まで設けられており、マニホールド100の一端部側は、個別流路の端部に相対向する領域まで設けられている。このようにマニホールド100を圧電素子保持部31の上方(平面視した際に圧電素子保持部31と重なる領域)に設けることで、マニホールド100を、圧力発生室12の長手方向における外側に拡幅する必要がなく、インクジェット式記録ヘッド1の圧力発生室12の長手方向の幅を小さくして小型化することができる。
【0032】
また、保護基板30には、個別流路である連通路13の端部に一端が連通すると共に、マニホールド100の一端部に他端が連通する厚さ方向に貫通した貫通孔である供給部101が設けられている。供給部101は、複数の個別流路である連通路13に亘って1つ設けられている。そして、マニホールド100からのインクは、供給部101を介して各個別流路である連通路13、インク供給路14及び圧力発生室12に供給される。すなわち、供給部101もマニホールド100の一部として機能する。
【0033】
このような保護基板30の材料としては、例えば、ガラス、セラミックス材料、金属、樹脂等が挙げられるが、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料で形成されていることが好ましく、流路形成基板10と同一材料であるシリコン単結晶基板を用いている。
【0034】
また、保護基板30には、圧力発生室12の2列の間に対応する領域に、厚さ方向に貫通する貫通孔102が設けられている。この貫通孔102には、配線基板200が挿通されており、配線基板200とアクチュエーター装置の実装部とを電気的に接続するものである。
ここで、アクチュエーター装置が圧電素子300であり、圧電素子300に接続されたリード電極90は、その端部が貫通孔102内に配置される位置に設けられている。
【0035】
また、貫通孔102は、圧電素子300の2列に対して1つずつ設けられている。すなわち、本実施形態では、圧電素子300の2列毎に配線基板200が接続されており、圧電素子300の列が2列あるため、貫通孔102は1つ設けられている。
そして、貫通孔102の内側底部には、実装部(リード電極90の端部)を区画する隔壁103が形成されている。
【0036】
貫通孔102内に露出したリード電極90の端部(実装部)には、配線基板200が電気的に接続されている。配線基板200は、図示しない配線上に圧電素子300を駆動するための駆動回路201が実装された可撓性を有するものであり、例えば、チップオンフイルム(COF)やテープキャリアパッケージ(TCP)などのフレキシブルプリント基板(FPC)を用いることができる。
【0037】
配線基板200とアクチュエーター装置の実装部であるリード電極90とは、例えば、半田や異方性導電性接着剤(ACP)を介して電気的に接続することができる。配線基板200とリード電極90とを異方性導電性接着剤210を介して電気的に接続するようにした。また、異方性導電性接着剤210は、配線基板200とリード電極90とを電気的に接続すると共に、配線基板200を固定する接着剤としても機能する。
【0038】
このように、貫通孔102では、内側底部が隔壁103によって区画されているため、貫通孔102内で配線基板200とリード電極90とを異方性導電性接着剤210を介して接続する際に、異方性導電性接着剤210が隣接するリード電極90側に流出するのを抑制することができる。
したがって、異方性導電性接着剤210の流出を抑制するために、互いに隣接する実装部の位置を離して配置する必要が無く、互いに隣接する実装部を近接させて、インクジェット式記録ヘッド1の小型化を図ることができる。
また、異方性導電性接着剤210の流出を抑制するために、塗布する異方性導電性接着剤210の量を低減させる必要が無く、低量の異方性導電性接着剤210による電気的な接続不良や機械的な接合強度の低下などの不具合が発生するのを抑制することができる。
さらに、異方性導電性接着剤210を用いることで、複数のリード電極90を1つの配線基板200に接続することができるため、ワイヤーボンディングによって各リード電極90と順次接続するのに比べて作業時間を短縮することができ、コストを低減することができる。
勿論、配線基板200と複数のリード電極90とを半田等の金属で接続する場合であっても、複数のリード電極90を配線基板200に同時に接続することができるため、同様の効果を奏する。
【0039】
また、隔壁103によって区画された一方の空間に充填された異方性導電性接着剤210は、配線基板200とリード電極90の接合面からはみ出したとしても、隔壁103によって堰き止められて配線基板200の上面側(接合面とは反対の面側)に回りこむ。このように、異方性導電性接着剤210が配線基板200とリード電極90の接合面は勿論、隔壁103の側面や配線基板200の上面側に回りこんで硬化するので、配線基板200とリード電極90の接合がより強靭なものとなる。
【0040】
また、保護基板30のマニホールド100が開口する面側には、封止膜41及び固定板42からなるコンプライアンス基板40が接合され、コンプライアンス基板40によってマニホールド100の開口が封止されている。
封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料、例えば、厚さが数μm程度のポリフェニレンサルファイド(PPS)フイルム等からなる。
【0041】
また、固定板42は、例えば、厚さが数十μm程度のステンレス鋼(SUS)などの金属などの硬質の材料からなる。固定板42は、図3に示すように、保護基板30のマニホールド100の周囲に亘って設けられており、マニホールド100に相対向する領域は厚さ方向に完全に除去された開口部43となっている。
また、固定板42には、開口部43側に突出する突出部44が設けられており、この突出部44には、厚さ方向に貫通してインクが貯留された貯留手段(不図示)からのインクをマニホールドに供給するための導入路45が設けられている。
突出部44は、供給部101とは反対側に、且つ圧力発生室12の並設方向の一部をマニホールド100に相対向する領域まで突出させるように設けられる。このため、導入路45は、保護基板30に設けられた供給部101とは圧力発生室12の長手方向における反対側の端部に設けるようにした。
このように、導入路45を保護基板30の供給部101とは反対側の端部に設けることによって、貯留手段から導入されたインクの動圧による影響が供給部101を介して圧力発生室12に及ぼされるのを低減させることができる。
【0042】
そして、このような固定板42の開口部43によって、マニホールド100の一方面は、可撓性を有する封止膜41のみで封止された撓み変形可能な可撓部46となっている。すなわち、可撓部46は、マニホールド100に相対向する領域の保護基板30の供給部101に相対向する領域と、マニホールド100に相対向する領域の固定板42の導入路45の周囲とに設けられており、可撓部46は、これらの供給部101に相対向する領域と導入路45の周囲とに亘って連続して設けられている。
このように、可撓部46を供給部101に相対向する領域と導入路45の周囲とに亘って連続して設けることで、可撓部46を広い面積で形成することができ、マニホールド100内のコンプライアンスを増大させて、圧力変動の悪影響によるクロストークの発生を確実に低減させることができる。
【0043】
また、駆動回路201が実装された配線基板200をリード電極90に接続するようにしたため、保護基板30上に駆動回路201を実装する必要がない。したがって、マニホールド100を圧電素子保持部31の上方に拡幅することができると共に、保護基板30上に広い可撓部46を有するコンプライアンス基板40を設けることができる。
【0044】
このようなインクジェット式記録ヘッド1では、インクカートリッジ7からマニホールド100内にインクを取り込み、マニホールド100から供給部101を介してノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路201からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加し、圧電素子300及び振動板をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインクが噴射(吐出)する。
【0045】
以下、このようなインクジェット式記録ヘッドの製造方法について、図4〜図7を参照して説明する。
まず、図4(a)に示すように、シリコンウェハーであり流路形成基板10が複数一体的に形成される流路形成基板用ウェハー110の表面に弾性膜50を構成する酸化膜51を形成する。
【0046】
そして、図4(b)に示すように、弾性膜50(酸化膜51)上に、弾性膜50とは異なる材料の酸化膜からなる絶縁体膜55を形成する。
【0047】
次いで、図4(c)に示すように、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を順次積層形成すると共に所定形状にパターニングして圧電素子300を形成する。
【0048】
次に、図5(a)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の全面に亘って、例えば、金(Au)等からなるリード電極90を形成後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(不図示)を介して各圧電素子300毎にパターニングする。
【0049】
次に、図5(b)に示すように、保護基板用ウェハー130を、流路形成基板用ウェハー110上に接着剤35によって接着する。ここで、この保護基板用ウェハー130には、圧電素子保持部31、マニホールド100、供給部101、貫通孔102及び隔壁103等が予め形成されている。
なお、この保護基板用ウェハー130は、比較的厚いため、保護基板用ウェハー130を接合することによって流路形成基板用ウェハー110の剛性は著しく向上することになる。
【0050】
次に、図6(a)に示すように、流路形成基板用ウェハー110を所定の厚みに薄くする。
【0051】
次いで、図6(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110にマスク膜52を新たに形成し、所定形状にパターニングする。そして、図6(c)に示すように、流路形成基板用ウェハー110をマスク膜52を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、圧力発生室12、連通路13及びインク供給路14等を形成する。
【0052】
なお、流路形成基板用ウェハー110に個別流路を形成する際には、保護基板用ウェハー130の流路形成基板用ウェハー110側とは反対側の表面を、耐アルカリ性を有する材料、例えば、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PPTA(ポリパラフェニレンテレフタルアミド)等からなる封止フイルムで封止するのが好ましい。
また、保護基板用ウェハー130に予めマニホールド100及び供給部101を設けるようにしたが、特にこれに限定されない。例えば、流路形成基板用ウェハー110と保護基板用ウェハー130とを接合後、流路形成基板用ウェハー110をウェットエッチングして圧力発生室12等を形成する際に、同時にウェットエッチングによりマニホールド100及び供給部101を形成するようにしてもよい。これにより製造工程を簡略化してコストを低減することができる。
【0053】
次いで、図7(a)に示すように、保護基板用ウェハー130にコンプライアンス基板40を接合した後、貫通孔102に露出されている圧電素子300の一方のリード電極90の列に配線基板200(図示しない配線)を電気的に接続する。配線基板200とリード電極90との接合は、異方性導電性接着剤210を介して行う。
具体的には、異方性導電性接着剤210を貫通孔102内において隔壁103により区画されている一方の空間内に充填した後、配線基板200をリード電極90上に押圧しながら加熱することで、リード電極90と配線基板200とを接続する。配線基板200をリード電極90上に押圧しながら加熱するには、配線基板200の裏面に当接される実装ツールを利用する。
【0054】
配線基板200とリード電極90との接続時において、貫通孔102内において互いに隣接するリード電極90の列同士が隔壁103によって区画されているため、配線基板200とリード電極90とを接続する異方性導電性接着剤210が、接続していない隣接するリード電極90の列側に流出するのを抑制することができる。
【0055】
次に、図7(b)に示すように、貫通孔102内において隔壁103により区画されている他方の空間に露出されている圧電素子300のリード電極90の列に配線基板200を接続する。このとき、一方のリード電極90の列側に配置した異方性導電性接着剤210が、他方のリード電極90の列側に流出していないため、他方のリード電極90の列と配線基板200とを良好に接続することができる。
すなわち、図7(a)に示す工程において、一方のリード電極90の列に使用した異方性導電性接着剤210が、他方のリード電極90の列側に流出した場合、他方のリード電極90の列側に流入した異方性導電性接着剤210が硬化して、リード電極90と配線基板200とを良好に接続することができなくなる虞がある。
【0056】
なお、配線基板200を接続する前の工程又は後の工程において、流路形成基板用ウェハー110及び保護基板用ウェハー130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去し流路形成基板用ウェハー110の保護基板用ウェハー130とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合する。
そして、これら流路形成基板用ウェハー110等を、図3に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することで、インクジェット式記録ヘッド1が製造される。もちろん、コンプライアンス基板40も、配線基板200を接続した後に固定するようにしてもよい。
【0057】
[記録ヘッド1の変形例]
図8、図9は、記録ヘッド1の変形例を示す断面図である。なお、上記実施形態に係る記録ヘッド1における各部材等と同一のものには、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0058】
上記実施形態に係る記録ヘッド1では、保護基板30の貫通孔102の内部において隣接する実装部の列を区画する段差として、貫通孔102の内側底部に隔壁103を設ける場合について説明したが、これに限らない。
図8に示すように、貫通孔102内で隣接する実装部の列を区画する段差として、流路形成基板10の上面に隔壁105を形成してもよい。すなわち、流路形成基板10の上面のうち、隣接する圧電素子300の中間位置に絶縁材からなる隔壁105を形成する。
隔壁105としては、圧電体層70を成膜するのと同時に、圧電体層材料により形成してもよい。圧電体層材料は絶縁性を有するからである。
【0059】
また、図9に示すように、貫通孔102内で隣接する実装部の列を区画する段差として、流路形成基板10の上面に溝部107を形成してもよい。すなわち、流路形成基板10の上面のうち、隣接する圧電素子300の中間位置に溝部107を形成する。溝部107は、流路形成基板用ウェハー110に予め溝部107を設ける等の方法により形成する。
【0060】
また、貫通孔102内で隣接する実装部の列を区画する段差としては、流路形成基板10や保護基板30に形成するのではなく、絶縁材からなる板状部材(不図示)を用意してもよい。すなわち、貫通孔102内に露出されている圧電素子300のリード電極90の列に配線基板200を電気的に接続する際(図7(a),(b))に、板状部材を配線基板200内に差し込んで、隣接する実装部(リード電極90)区画しながら、異方性導電性接着剤210により配線基板200とリード電極90を電気的に接続し、固定する。この場合には、配線基板200とリード電極90との接合が完了した後に、絶縁材からなる板状部材を取り除いてもよい。
【0061】
上述した実施形態では、配線基板200と実装部であるリード電極90とを異方性導電性接着剤210によって電気的に接続(実装)するようにしたが、これに限らない。例えば、配線基板200とリード電極90とを半田等の金属を用いて接続するようにしてもよい。この場合、配線基板200とリード電極90とを金具を用いて接続した後、貫通孔102内にポッティング剤からなる樹脂を充填すればよい。
【0062】
また、上述した実施形態では、1つの貫通孔102内に2つの配線基板200を接続するようにしたが、特にこれに限らない。1つの貫通孔102内で3つ以上の配線基板200を実装部に接続するようにしてもよい。
【0063】
また、上述した実施形態1では、圧力発生室12に圧力変化を生じさせるアクチュエーター装置として、薄膜型の圧電素子300を有するアクチュエーター装置を用いて説明したが、特にこれに限らない。例えば、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型の圧電素子を有するアクチュエーター装置や、圧電材料と電極形成材料とを交互に積層させて軸方向に伸縮させる縦振動型の圧電素子を有するアクチュエーター装置などを使用することができる。
また、アクチュエーター装置として、圧力発生室12内に発熱素子を配置して、発熱素子の発熱で発生するバブルによってノズル開口から液滴を吐出するものや、振動板と電極との間に静電気を発生させて、静電気力によって振動板を変形させてノズル開口から液滴を吐出させるいわゆる静電式アクチュエーター装置などを使用することができる。何れのアクチュエーター装置であっても、実装部が流路形成基板上に設けられていればよい。
【0064】
さらに、本発明は、広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、例えば、プリンター等の画像記縁装置に用いられる各種のインクジェット式記録ヘッド等の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等にも適用することができる。
【0065】
また、液体噴射装置の一例としてインクジェット式記録装置Aを挙げて説明したが、上述した他の液体噴射ヘッドを用いた液体噴射装置にも用いることが可能である。
【符号の説明】
【0066】
A…インクジェット式記録装置(液体噴射装置)、 1…インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 10…流路形成基板、 30…保護基板、 90…リード電極(実装部)、 102…貫通孔、 103…隔壁(段差)、 105…隔壁(段差)、 107…溝部(段差)、 200…配線基板、 210…異方性導電性接着剤(導電性材料)、 300…圧電素子(アクチュエーター装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路形成基板上に設けられた複数の実装部を有するアクチュエーター装置と、
前記複数の実装部に電気的に接続されて前記アクチュエーター装置に駆動信号を供給する可撓性を有する複数の配線基板と、
前記流路形成基板の前記実装部側に設けられると共に前記複数の配線基板を挿通可能な貫通孔を有する保護基板と、
を備え、
前記貫通孔内に露出する前記複数の実装部同士の間に、前記配線基板と前記実装部を電気的に接続し固定する導電性材料の流出を防止する段差が設けられることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記段差は、前記保護基板の前記貫通孔内に形成された隔壁であることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記段差は、前記流路形成基板上に形成された隔壁であることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記導電性材料が前記配線基板の接続面の反対側の面に回りこんだ状態で前記配線基板と前記実装部を接続し固定することを特徴とする請求項2又は3に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記段差は、前記流路形成基板上に形成された溝部であることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドを備えることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項7】
流路形成基板上に設けられた複数の実装部を有するアクチュエーター装置と、
前記複数の実装部に電気的に接続されて前記アクチュエーター装置に駆動信号を供給する可撓性を有する複数の配線基板と、
前記流路形成基板の前記実装部側に設けられると共に前記複数の配線基板を挿通可能な貫通孔を有する保護基板と、
を備える液体噴射ヘッドの製造方法であって、
前記貫通孔内に露出する前記複数の実装部同士の間に、前記配線基板と前記実装部を電気的に接続し固定する導電性材料の流出を防止する段差を形成する工程と、
前記導電性材料により前記配線基板を前記実装部に電気的に接続し固定する工程と、
を有することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−218211(P2012−218211A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83604(P2011−83604)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】