説明

液体噴射ヘッドの製造方法及び液体噴射ヘッド

【課題】配線部の形成にメッキ法を採用するにあたり生じ得る圧電素子の動作不良を抑制できる液体噴射ヘッドの製造方法及び液体噴射ヘッドを提供する。
【解決手段】インクを噴射するノズルに連通する圧力発生室を変位させる圧電素子300と、圧電素子300の上に少なくとも一部が乗り上げられ、該圧電素子300と電気的に接続されるリード電極90と、を有するインクジェット式記録ヘッドの製造方法であって、リード電極90は、第1の導電層121と、メッキ法により形成され、第1の導電層121を覆う第2の導電層122と、を有しており、メッキ法により第2の導電層122を形成する前に、リード電極90が接続される圧電素子300の乗り上げ面130aに、導電性を有する酸化膜131を形成する酸化膜形成工程を有するという手法を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッドの製造方法及び液体噴射ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドとして、下記特許文献1には、インクジェット式記録ヘッドが開示されている。このインクジェット式記録ヘッドは、ノズルに連通する圧力発生室と、下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子と、を具備し、この圧電素子に電圧を印加し、たわみ変形させることによって、圧力発生室内に圧力を付与し、ノズルからインク滴を噴射させる構成となっている。
【0003】
圧電素子は、配線部と電気的に接続されている。この配線部は、スパッタ法により成膜した金属層の上に、レジストを形成し、このレジストをマスクとしてウェットエッチングすることによってパターニングされている。このため、圧電素子に電気的に接続される配線部の少なくとも一部は、当該圧電素子の上に乗り上げるようにして形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−228268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来技術においては、金(Au)等を用いて配線部を形成しており、コスト高であった。一方で、比較的安価な配線材料(銅(Cu)やアルミ(Al)等)で配線部を形成すると、酸化(劣化)し易くなるという問題がある。
そこで、本願発明者は、比較的安価な配線材料で形成した第1の導電層の上に、メッキ法により金(Au)等の酸化し難い材料を用いた第2の導電層を成膜することを考えた。
【0006】
しかしながら、メッキ法を用いると、配線部だけでなく、その一部が乗り上がった圧電素子の上にも、メッキが析出してしまうという問題がある。圧電素子の上にメッキが析出すると、圧電素子のたわみ変形がメッキの剛性により阻害され、動作不良を引き起こす虞がある。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、メッキ法を採用するにあたり生じ得る圧電素子の動作不良を抑制できる液体噴射ヘッドの製造方法及び液体噴射ヘッドを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、液体を噴射するノズルに連通する圧力発生室を変位させる圧電素子と、上記圧電素子の上に少なくとも一部が乗り上げられ、該圧電素子と電気的に接続される配線部と、を有する液体噴射ヘッドの製造方法であって、上記配線部は、第1の導電層と、メッキ法により形成され、上記第1の導電層を覆う第2の導電層と、を有しており、上記メッキ法により上記第2の導電層を形成する前に、上記配線部が接続される上記圧電素子の乗り上げ面に、導電性を有する酸化膜を形成する酸化膜形成工程を有するという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、配線部が接続される圧電素子の乗り上げ面に酸化膜を形成することで、メッキ中の触媒作用を機能させないようにし、当該乗り上げ面におけるメッキの析出を抑制させる。また、当該酸化膜は、導電性を有するため、配線部と圧電素子との電気的な接続状態は維持される。
【0009】
また、本発明においては、上記酸化膜形成工程は、上記乗り上げ面に、第3の導電層を形成する導電層形成工程と、上記第3の導電層の表面の少なくとも一部を酸化させる導電層酸化工程と、を有するという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、圧電素子の上に第3の導電層を設け、この第3の導電層の表面の少なくとも一部を酸化させて酸化膜を形成する。
【0010】
また、本発明においては、上記導電層酸化工程では、酸素プラズマを用いるという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、酸素プラズマを用いることで、加熱炉等を用いた加熱酸化よりも、低温で酸化膜を形成できるため、圧電素子やその他の部品にダメージを与えないようにすることができる。
【0011】
また、本発明においては、上記圧電素子は、下電極、圧電体層及び上電極が順次積層して成り、上記第3の導電層は、上記上電極よりもイオン化傾向が大きいという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、第3の導電層は、上電極よりもイオン化傾向が大きいため、配線部をウェットエッチングする際に、上電極に生じる電食反応を抑制することができる。
【0012】
また、本発明においては、上記第3の導電層は、チタンから形成されているという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、第3の導電層を卑金属であるチタン(Ti)で形成することで、酸化膜を容易に形成することが可能となる。
【0013】
また、本発明においては、上記第2の導電層は、金から形成されているという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、第2の導電層を貴金属である金(Au)で形成することで、配線部の酸化を抑制することができる。
【0014】
また、本発明においては、液体を噴射するノズルに連通する圧力発生室を変位させる圧電素子と、上記圧電素子と電気的に接続される配線部と、を有する液体噴射ヘッドであって、上記配線部は、第1の導電体と、メッキ法により形成され、上記第1の導電層を覆う第2の導電層と、を有しており、上記配線部が接続される上記圧電素子の乗り上げ面に導電性を有する酸化膜が形成されているという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、配線部が接続される圧電素子の乗り上げ面に酸化膜を形成することで、メッキ中の触媒作用を機能させないようにし、当該乗り上げ面におけるメッキの析出を抑制させる。また、当該酸化膜は、導電性を有するため、配線部と圧電素子との電気的な接続状態は維持される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態における製造方法によって製造されたインクジェット式記録ヘッドの構成を示す分解斜視図である。
【図2】本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの構成を示す平面図及び断面図である。
【図3】本発明の実施形態における製造方法のうち、圧電素子及びリード電極を形成する工程について説明する図である。
【図4】本発明の実施形態における製造方法のうち、圧電素子及びリード電極を形成する工程について説明する図である。
【図5】本発明の別実施形態における圧電素子及びリード電極の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図を参照して説明する。なお、以下の説明では、インクジェット式記録ヘッドを例示して説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態における製造方法によって製造されたインクジェット式記録ヘッドの構成を示す分解斜視図である。図2は、本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの構成を示す平面図及び断面図である。
図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その両面には予め熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。
【0018】
この流路形成基板10には、その他方面側から異方性エッチングすることにより、複数の隔壁によって区画された複数の圧力発生室12が幅方向に並設されている。各圧力発生室12の外側には、各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成する連通部13が形成され、各圧力発生室12の長手方向一端部とそれぞれインク供給路14を介して連通されている。
【0019】
また、流路形成基板10の一方の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側で連通するノズル21が穿設されたノズルプレート20が接着剤や熱溶着フィルム等を介して固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、あるいはステンレス鋼(SUS)などからなる。
【0020】
流路形成基板10の上記開口面とは反対側には、上述したように二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO2)等からなる絶縁体膜55が積層形成されている。また、絶縁体膜55上には、下電極膜(下電極)60と圧電体層70と上電極膜(上電極)80とからなる圧電素子300が形成されている。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を含む部分をいう。
【0021】
一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を圧力発生室12毎にパターニングして構成する。例えば、本実施形態では、下電極膜60を圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。圧電素子300の個別電極である各上電極膜80の端部近傍には、リード電極(配線部)90が接続され、このリード電極90は、圧電素子300を駆動するための駆動IC220と駆動配線200を介して接続される。
【0022】
リード電極90の一部は、圧電素子300の上に乗り上げられ、該圧電素子300と電気的に接続されている。リード電極90は、スパッタ法により設けられた密着層110を介して金属層120が設けられて構成されている。金属層120は、スパッタ法により、密着層110の上に設けられた第1の導電層121と、メッキ法により形成され、第1の導電層121を覆う第2の導電層122と、を有する2層構造となっている。
【0023】
第1の導電層121の材料は、比較的安価で導電性の高い材料であれば特に限定されないが、例えば、銅(Cu)、アルミニウム(Al)等を用いることができる。本実施形態では、第1の導電層121の材料として銅(Cu)を用いている。
第2の導電層122の材料は、酸化し難く導電性の高い材料であれば特に限定されないが、例えば、金(Au)、白金(Pt)、イリジウム(Ir)等を用いることができる。本実施形態では、第2の導電層122の材料として金(Au)を用いている。
【0024】
密着層110は、金属層120の密着性を確保するための役割を果たすものであり、その材料は金属層120の材料に応じて適宜決定されればよいが、例えば、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、若しくはこれらの化合物等が好適に用いられる。本実施形態では、密着層110の材料としてニッケルクロム(NiCr)を用いている。
【0025】
上記構成のリード電極90が接続される圧電素子300の乗り上げ面130aには、導電性を有する酸化膜131が形成されている。本実施形態では、圧電素子300の上電極膜80の上に、第3の導電層130が形成されており、当該第3の導電層130の表面の少なくとも一部を酸化させることにより、酸化膜131が形成されている。
【0026】
第3の導電層130の材料は、導電性を有する酸化膜131を形成できる材料であれば特に限定されないが、リード電極90をウェットエッチングによりパターニングする際に、上電極膜80に生じる電食反応を抑制するべく、上電極膜80(本実施形態ではイリジウム(Ir))よりもイオン化傾向が大きい材料であることが好ましく、例えば、チタン(Ti)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)等を用いることができる。本実施形態では、第3の導電層130の材料としてチタン(Ti)を用いており、それにより形成される酸化膜131は、酸化チタン(TiO)となっている。
【0027】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上には、表面に接続配線210が設けられた配線基板、本実施形態では、保護基板30が接着層35を介して接合されている。この保護基板30は、圧電素子300に対向する領域に、圧電素子300を保護するための空間である圧電素子保持部31を有し、圧電素子300はこの圧電素子300内に配置されている。なお、圧電素子保持部31は、密封されていても密封されていなくてもよい。
【0028】
また、保護基板30には、連通部13に対向する領域に、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通部であるリザーバ部32が設けられている。このリザーバ部32は、上述したように、流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成している。なお、保護基板30は、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料で形成されていることが好ましく、例えば、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成している。
【0029】
保護基板30上には、リザーバ部32に対向する領域に、例えば、PPSフィルム等の可撓性を有する材料からなる封止膜41及び、金属材料等の硬質材料からなる固定板42とで構成されるコンプライアンス基板40が接合されている。固定板42のリザーバ部32に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ部32の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0030】
また、この保護基板30上には、各圧電素子300をそれぞれ選択的に駆動するための駆動IC220が実装されている。保護基板30上には、所定形状にパターニングされた接続配線210が設けられており、駆動IC220は、この接続配線210上に実装されている。接続配線210には、例えば、FPC等の外部配線(図示なし)が電気的に接続され、この外部配線からの駆動信号及び駆動電圧が、接続配線210を介して各駆動IC220に供給されるようになっている。
【0031】
上記構成のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段からインクを取り込み、リザーバ100からノズル21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動IC220からの駆動信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に駆動電圧を印加し、弾性膜50、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力を高め、ノズル21からインク滴を吐出させることが可能となっている。
【0032】
以下、上記構成のインクジェット式記録ヘッドの製造方法のうち、圧電素子300及びリード電極90を形成する工程について詳しく説明する。
【0033】
先ず、図3(a)に示すように、シリコンウェハからなる流路形成基板10を、例えば、約1100℃の拡散炉で熱酸化し、その表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコンを形成する。
次に、図3(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン)上に、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55を形成する。具体的には、弾性膜50(二酸化シリコン)上に、例えば、スパッタ法等によりジルコニウム(Zr)層を形成後、このジルコニウム層を、例えば、500〜1200℃の拡散炉で熱酸化することにより酸化ジルコニウム(ZrO)からなる絶縁体膜55を形成する。
【0034】
次に、図3(c)に示すように、例えば、白金(Pt)とイリジウム(Ir)とを絶縁体膜55上に積層することにより下電極膜60を形成した後、この下電極膜60を所定形状にパターニングする。
そして、図3(d)に示すように、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層70と、例えば、イリジウムからなる上電極膜80と、例えば、チタンからなる第3の導電層130とを流路形成基板10の全面に形成し、これら圧電体層70、上電極膜80及び第3の導電層130を、各圧力発生室12に対向する領域毎にパターニングし、乗り上げ面130aに第3の導電層130が形成された圧電素子300を形成する(導電層形成工程)。
【0035】
なお、圧電素子300を構成する圧電体層70の材料としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電性圧電性材料や、これにニオブ、ニッケル、マグネシウム、ビスマス又はイットリウム等の金属を添加したリラクサ強誘電体等が用いられる。その組成は、圧電素子300の特性、用途等を考慮して適宜選択すればよいが、例えば、PbTiO(PT)、PbZrO(PZ)、Pb(ZrTi1−x)O(PZT)、Pb(Mg1/3Nb2/3)O−PbTiO(PMN−PT)、Pb(Zn1/3Nb2/3)O−PbTiO(PZN−PT)、Pb(Ni1/3Nb2/3)O−PbTiO(PNN−PT)、Pb(In1/2Nb1/2)O−PbTiO(PIN−PT)、Pb(Sc1/2Ta1/2)O−PbTiO(PST−PT)、Pb(Sc1/2Nb1/2)O−PbTiO(PSN−PT)、BiScO−PbTiO(BS−PT)、BiYbO−PbTiO(BY−PT)等が挙げられる。また、圧電体層70の形成方法は、特に限定されないが、例えば、本実施形態では、金属有機物を触媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成する。
【0036】
次に、図4(a)に示すように、第3の導電層130の表面の少なくとも一部(本実施形態では全面)を酸化させ、酸化チタンからなる酸化膜131を形成する(導電層酸化工程(酸化膜形成工程))。第3の導電層130は、卑金属であるチタン(Ti)から形成されており、酸化膜131を容易に形成することができる。
本実施形態では、酸化膜131の形成に、酸素プラズマを用いる。この手法によれば、例えば、加熱炉等を用いて数百℃の高温雰囲気下で加熱酸化させるよりも、低温で酸化膜131を形成できるため、圧電素子300やその他の部品(基板)にダメージを与えないようにすることができる。酸化膜131は、自然酸化による厚みの2倍以上に形成することが好ましく、本実施形態では6ナノメートル(nm)以上の厚みで形成する。
【0037】
次に、図4(b)に示すように、リード電極90の一部を形成する。具体的には、まず流路形成基板10の全面に亘って密着層110を介して第1の導電層121を形成し、密着層110と第1の導電層121とからなる配線層を形成する。そして、この配線層上に、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を形成し、このマスクパターンを介して第1の導電層121及び密着層110をウェットエッチングし、圧電素子300毎にパターニングする。
【0038】
ここで、上電極膜80(イリジウム(Ir))は、イオン化傾向が大きい第3の導電層130(チタン(Ti))で覆われているため、密着層110(ニッケルクロム(NiCr))をウェットエッチングする際に、エッチング液中において異種金属間(本実施形態では、チタンとニッケルクロムとの間)に生じ得る電位差を小さくし、局部電流の発生を抑えることができる。これにより、貴金属である上電極膜80の電食反応を抑制することが可能となる。
【0039】
そして、図4(c)に示すように、メッキ法により第2の導電層122を形成する。
このメッキ法としては、例えば無電解メッキ法を用いることができ、流路形成基板10を50℃程度のメッキ液に浸漬させ、第1の導電層121を触媒としてメッキ液中の金(Au)を化学的に析出させることにより、所定厚の第2の導電層122を形成し、リード電極90を形成することができる。ここで、リード電極90が接続される圧電素子300の乗り上げ面130aには、予め酸化膜131が形成されている。酸化膜131は、メッキ中、乗り上げ面130aにおける電子のやりとりを抑制し、触媒作用を機能させないようにするため、当該乗り上げ面130aにおけるメッキの析出が抑制される。このため、金(Au)は、第1の導電層121の上に必要限、析出することとなる。以上により、乗り上げ面130aにメッキを析出させることなく、流路形成基板10上に圧電素子300及びリード電極90を形成することができる。
【0040】
なお、このように形成された流路形成基板10を、圧電素子保持部31及びリザーバ部32等が形成された保護基板30と接合し、接合した側と逆側の流路形成基板10を研磨及びフッ硝酸によるエッチングにより所定の厚さとした後、窒化シリコンからなるマスクを形成し、このマスクを介して異方性エッチングすることで、圧力発生室12や連通部13等を形成し、さらに、連通部13とリザーバ部32とを連通させてリザーバ100を形成する。その後、接続配線210上に駆動IC220を実装すると共に、駆動IC220とリード電極90とを駆動配線200を介して接続する。さらに、流路形成基板10に、ノズルプレート20を接合すると共に、保護基板30に、コンプライアンス基板40を接合することによって、図1及び図2に示す構造のインクジェット式記録ヘッドが製造される。
【0041】
上記のように製造されたインクジェット式記録ヘッドによれば、リード電極90の金属層120を2層構造とし、第1の導電層121を比較的安価な銅(Cu)で形成することで、コスト安とすることができる。また、第1の導電層121を、金(Au)メッキからなる第2の導電層122で覆うことで、リード電極90の酸化(劣化)を抑制することができる。さらに、リード電極90が接続される圧電素子300の乗り上げ面130aに酸化膜131を形成することで、乗り上げ面130aにおけるメッキの析出を抑制でき、メッキの剛性により圧電素子300のたわみ変形が阻害されるといった動作不良を回避することができる。また、酸化膜131は、導電性を有するため、リード電極90と圧電素子300との電気的な接続状態は維持される。
【0042】
したがって、上述した本実施形態によれば、インクを噴射するノズル21に連通する圧力発生室12を変位させる圧電素子300と、圧電素子300の上に少なくとも一部が乗り上げられ、該圧電素子300と電気的に接続されるリード電極90と、を有するインクジェット式記録ヘッドの製造方法であって、リード電極90は、第1の導電層121と、メッキ法により形成され、第1の導電層121を覆う第2の導電層122と、を有しており、メッキ法により第2の導電層122を形成する前に、リード電極90が接続される圧電素子300の乗り上げ面130aに、導電性を有する酸化膜131を形成する酸化膜形成工程を有するという手法を採用することによって、リード電極90の形成にメッキ法を採用するにあたり生じ得る圧電素子300の動作不良を抑制することが可能となる。
【0043】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0044】
例えば、上述した実施形態では、下電極膜60を圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、図5に示すように、上電極膜80を圧電素子300の共通電極とし、下電極膜60を圧電素子300の個別電極としてもよい。この場合であっても、リード電極90が乗り上げられる上電極膜80の乗り上げ面130aに酸化膜131を形成することで、乗り上げ面130aにおけるメッキの析出を抑制でき、圧電素子300の動作不良を抑制することが可能となる。
【0045】
さらに、上述した実施形態においては、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドの製造方法にも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【符号の説明】
【0046】
12…圧力発生室、21…ノズル、60…下電極膜(下電極)、70…圧電体層、80…上電極膜(上電極)、90…リード電極(配線部)、121…第1の導電層、122…第2の導電層、130…第3の導電層、130a…乗り上げ面、131…酸化膜、300…圧電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズルに連通する圧力発生室を変位させる圧電素子と、前記圧電素子の上に少なくとも一部が乗り上げられ、該圧電素子と電気的に接続される配線部と、を有する液体噴射ヘッドの製造方法であって、
前記配線部は、第1の導電層と、メッキ法により形成され、前記第1の導電層を覆う第2の導電層と、を有しており、
前記メッキ法により前記第2の導電層を形成する前に、前記配線部が接続される前記圧電素子の乗り上げ面に、導電性を有する酸化膜を形成する酸化膜形成工程を有することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記酸化膜形成工程は、
前記乗り上げ面に、第3の導電層を形成する導電層形成工程と、
前記第3の導電層の表面の少なくとも一部を酸化させる導電層酸化工程と、を有することを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記導電層酸化工程では、酸素プラズマを用いることを特徴とする請求項2に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記圧電素子は、下電極、圧電体層及び上電極が順次積層して成り、
前記第3の導電層は、前記上電極よりもイオン化傾向が大きいことを特徴とする請求項2または3に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記第3の導電層は、チタンから形成されていることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記第2の導電層は、金から形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項7】
液体を噴射するノズルに連通する圧力発生室を変位させる圧電素子と、前記圧電素子と電気的に接続される配線部と、を有する液体噴射ヘッドであって、
前記配線部は、第1の導電体と、メッキ法により形成され、前記第1の導電層を覆う第2の導電層と、を有しており、
前記配線部が接続される前記圧電素子の乗り上げ面に導電性を有する酸化膜が形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−206389(P2012−206389A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73946(P2011−73946)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】