説明

液体噴射ヘッドの製造方法及び液体噴射装置

【課題】異物を容易に除去することで歩留まりを向上した液体噴射ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】ノズル開口に連通する圧力発生室12が設けられた流路形成基板10と、前記流路形成基板10の一方面側に設けられて前記圧力発生室12に圧力変化を生じさせる圧力発生手段300と、前記流路形成基板10の前記圧力発生手段300が設けられた面側に接合されて、表面に配線220が形成された保護基板30とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法であって、前記保護基板30の前記配線220側の面をプラズマエッチングモードのドライエッチングを行い洗浄するドライ洗浄工程と、前記流路形成基板10の前記圧力発生室12側の面を洗浄液で洗浄する液体洗浄工程とからなる洗浄工程を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を噴射する液体噴射ヘッドの製造方法及び液体噴射装置に関し、特に液体としてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッドの製造方法及びインクジェット式記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドであるインクジェット式記録ヘッドとしては、例えば、ノズル開口に連通する圧力発生室が形成された流路形成基板と、この流路形成基板の一方面側に形成された圧電素子と、流路形成基板の圧電素子側の面に接合されて圧力発生室の共通のインク室の一部を構成するリザーバ部が設けられたリザーバ形成基板とを具備するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなインクジェット式記録ヘッドの製造方法としては、流路形成基板の一方面側に圧電素子を形成した後、流路形成基板にリザーバ形成基板を接合し、その後、流路形成基板の他方面側から異方性エッチングすることにより圧力発生室を形成する。そして、流路形成基板の圧力発生室が開口する面側にノズル開口が設けられたノズルプレートを接着剤を介して接合する。
【0004】
また、特許文献1には、流路形成基板を異方性エッチングする際に、エッチング液がリザーバ形成基板上の配線が設けられた面に付着するのを防止するために、リザーバ形成基板の配線が形成された表面に保護フィルムを貼着する構成が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−272913号公報(第1〜5図、第4〜10頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、リザーバ形成基板に貼着した保護フィルムを剥がしたとしても、保護フィルムを貼着した接着剤の一部が配線上に残留し、残留した接着剤が異物となって、配線にボンディングワイヤ等の他の配線を接続した際に異物による接続不良が発生してしまうという問題がある。
【0007】
また、流路形成基板の圧力発生室などの液体流路内に異物が存在すると、ノズルの目詰まりが生じてしまうという問題がある。なお、流路形成基板の液体流路内の異物としては、主にリザーバ形成基板上の接着剤等が付着して異物となっていることが考えられる。
【0008】
さらに、流路形成基板にノズルプレートを接合する前に、流路形成基板の接合面をプライマ処理等の親水処理を行う場合、流路形成基板の圧力発生室等の液体流路内に異物が存在すると、親水処理によってこの異物が液体流路の隔壁に固着し、インク吐出時などの予期せぬタイミングで異物が剥離してノズルの目詰まりが生じてしまうという問題がある。
【0009】
なお、このような問題はインクジェット式記録ヘッドの製造方法だけではなく、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドの製造方法においても同様に存在する。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑み、異物を容易に除去することで歩留まりを向上した液体噴射ヘッドの製造方法及び液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明の態様は、ノズル開口に連通する圧力発生室が設けられた流路形成基板と、前記流路形成基板の一方面側に設けられて前記圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧力発生手段と、前記流路形成基板の前記圧力発生手段が設けられた面側に接合されて、表面に配線が形成された保護基板とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法であって、前記保護基板の前記配線側の面をプラズマエッチングモードのドライエッチングを行い洗浄するドライ洗浄工程と、前記流路形成基板の前記圧力発生室側の面を洗浄液で洗浄する液体洗浄工程とからなる洗浄工程を具備することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
かかる態様では、ドライ洗浄工程で配線上に付着した接着剤等の異物を除去することができ、他の配線の接続不良を防止することができると共に、液体洗浄工程で圧力発生室等の液体流路内の異物を除去することができ、ノズル開口の目詰まりの発生を減少させることができる。
【0012】
ここで、前記ドライ洗浄工程は、前記液体洗浄工程を行った後に行うことが好ましい。これによれば、ドライ洗浄工程により飛散した異物が圧力発生室等の液体流路内に再付着したとしても、再付着した異物を除去して、異物発生率を減少させることができる。
【0013】
また、前記洗浄工程を行った後、前記流路形成基板の前記圧力発生室が開口する開口面側に前記ノズル開口が設けられたノズルプレートを接合する工程をさらに具備することが好ましい。これによれば、ノズルプレートを接合する前に異物を除去することで、ノズル開口よりも大きな異物を除去することができる。
【0014】
また、前記洗浄工程を行った後、前記流路形成基板の少なくとも前記ノズルプレートに接合される領域を親水処理してから、前記ノズルプレートを前記流路形成基板に接着剤を介して接合することが好ましい。これによれば、流路形成基板とノズルプレートとの接合強度を向上することができると共に、親水処理により液体流路内の異物を固着させることがなく、予期せぬタイミングで異物が剥離してノズル開口の目詰まりが発生するのを防止することができる。
【0015】
また、前記洗浄工程を行う前に、流路形成基板の前記圧力発生室の内面に耐液体性を有する保護膜を形成する工程をさらに具備することが好ましい。これによれば、保護膜によって流路形成基板を液体から保護することができると共に、液体洗浄工程によって保護膜の膜厚が変化することなく、流路形成基板の異物を除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びそのA−A’断面図である。
【0017】
図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その一方の面には予め熱酸化することにより形成した酸化シリコン(SiO2)からなる弾性膜50が形成されている。
【0018】
流路形成基板10には、複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14及び連通路15を介して連通されている。連通部13は、後述する保護基板のリザーバ部31と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバの一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。なお、本実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。さらに、各連通路15は、圧力発生室12の幅方向両側の隔壁11を連通部13側に延設してインク供給路14と連通部13との間の空間を区画することで形成されている。すなわち、流路形成基板10には、圧力発生室12の幅方向の断面積より小さい断面積を有するインク供給路14と、このインク供給路14に連通すると共にインク供給路14の幅方向の断面積よりも大きい断面積を有する連通路15とからなる複数の隔壁11により区画されて設けられている。
【0019】
そして、流路形成基板10には、これらの圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15からなる液体流路が形成されている。
【0020】
また、このような流路形成基板10の液体流路の内面には、耐インク性を有する材料、例えば、五酸化タンタル(Ta25)等の酸化タンタルからなる保護膜16が設けられている。なお、ここで言う耐インク性とは、アルカリ性のインクに対する耐エッチング性のことである。また、保護膜16の材料は、酸化タンタルに限定されず、使用するインク(液体)のpH値によっては、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO2)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)等を用いてもよい。ただし、酸性の液体を用いる場合には、もちろん耐酸性の保護膜を用いることになる。
【0021】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、本実施形態では、詳しくは後述するが、流路形成基板10のノズルプレート20が接合される面に、親水処理を行うことにより第1の親水処理層17を設け、また、ノズルプレート20の流路形成基板10に接合される面に、親水処理を行うことにより第2の親水処理層22を設け、これら第1の親水処理層17及び第2の親水処理層22同士を接着剤23を介して接着するようにした。
【0022】
このようなノズルプレート20の材料としては、例えばガラスセラミックス、シリコン単結晶基板又はステンレス鋼などが挙げられる。
【0023】
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように、弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO2)からなる絶縁体膜55が形成されている。さらに、この絶縁体膜55上には、下電極膜60と、圧電体層70と、上電極膜80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300のいずれか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。本実施形態では、下電極膜60を圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55及び下電極膜60が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50及び絶縁体膜55を設けずに、下電極膜60のみが振動板として作用するようにしてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0024】
圧電体層70は、下電極膜60上に形成される電気機械変換作用を示す圧電材料からなる。圧電体層70は、ペロブスカイト構造の結晶膜を用いるのが好ましく、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電体材料や、これに酸化ニオブ、酸化ニッケル又は酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等が好適である。具体的には、チタン酸鉛(PbTiO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)、ジルコニウム酸鉛(PbZrO3)、チタン酸鉛ランタン((Pb,La),TiO3)ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O3)又は、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O3)等を用いることができる。圧電体層70の厚さについては、製造工程でクラックが発生しない程度に厚さを抑え、且つ十分な変位特性を呈する程度に厚く形成する。例えば、本実施形態では、圧電体層70を1〜2μm前後の厚さで形成した。
【0025】
また、圧電素子300の個別電極である各上電極膜80には、インク供給路14側の端部近傍から引き出され、絶縁体膜55上にまで延設される、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が接続されている。
【0026】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、下電極膜60、弾性膜50及びリード電極90上には、リザーバ100の少なくとも一部を構成するリザーバ部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。このリザーバ部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成している。また、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、リザーバ部31のみをリザーバとしてもよい。さらに、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する部材(例えば、弾性膜50、絶縁体膜55等)にリザーバと各圧力発生室12とを連通するインク供給路14を設けるようにしてもよい。
【0027】
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
【0028】
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0029】
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔33内に露出するように設けられている。
【0030】
また、保護基板30上には、所定パターンで形成された接続配線220が形成され、この接続配線220上には圧電素子300を駆動するための駆動回路200が実装されている。駆動回路200としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、各圧電素子300から圧電素子保持部32の外側まで引き出された各リード電極90の先端部と、駆動回路200とが駆動配線210を介して電気的に接続されている。
【0031】
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜41によってリザーバ部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、比較的硬質の材料で形成されている。この固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0032】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、リザーバ100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路200からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0033】
以下、このようなインクジェット式記録ヘッドの製造方法について、図3〜図7を参照して説明する。なお、図3〜図7は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す圧力発生室の幅方向の断面図である。
【0034】
まず、図3(a)に示すように、流路形成基板10が複数一体的に形成されるシリコンウェハである流路形成基板用ウェハ110の表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン(SiO2)からなる二酸化シリコン膜51を形成する。次いで、図3(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜51)上に、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55を形成する。次いで、図3(c)に示すように、絶縁体膜55上の全面に下電極膜60を形成すると共に、所定形状にパターニングする。この下電極膜60の材料は、特に限定されないが、圧電体層70としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いる場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変化が少ない材料であることが望ましい。このため、下電極膜60の材料としては白金、イリジウム等が好適に用いられる。
【0035】
次に、図4(a)に示すように、下電極膜60上に圧電体層70及び上電極膜80を順次積層形成する。ここで、本実施形態では、有機金属化合物を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成している。なお、圧電体層70の製造方法は、ゾル−ゲル法に限定されず、例えば、MOD(Metal-OrganicDecomposition)法、スパッタリング法又はレーザーアブレーション法等のPVD(Physical Vapor Deposition)法等を用いてもよい。また、上電極膜80は、導電性の高い金属、例えば、イリジウム(Ir)等を用いることができる。
【0036】
次に、図4(b)に示すように、圧電体層70及び上電極膜80を同時にパターニングすることで、圧電素子300を形成する。
【0037】
次に、リード電極90を形成する。具体的には、図4(c)に示すように、流路形成基板用ウェハ110の全面に亘ってリード電極90を形成後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介して各圧電素子300毎にパターニングすることで形成される。
【0038】
次に、図5(a)に示すように、流路形成基板用ウェハ110の圧電素子300側に、シリコンウェハであり複数の保護基板30となる保護基板用ウェハ130を接着剤35を介して接合する。なお、保護基板用ウェハ130には、予めリザーバ部31、圧電素子保持部32、貫通孔33及び接続配線220が形成されたものを用いている。
【0039】
次に、図5(b)に示すように、流路形成基板用ウェハ110を所定の厚みに薄くする。次いで、図5(c)に示すように、流路形成基板用ウェハ110にマスク膜52を新たに形成し、所定形状にパターニングする。
【0040】
そして、図6(a)に示すように、流路形成基板用ウェハ110をマスク膜52を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、圧電素子300に対応する圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15等を形成する。このとき、特に図示していないが、実際には、保護基板用ウェハ130が同時にエッチングされないようにすると共に、接続配線220を保護するために、保護基板用ウェハ130の接続配線220が設けられた面を、封止フィルムによって保護している。このような封止フィルムとしては、耐アルカリ性(耐エッチング性)を有する材料、例えば、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PPTA(ポリパラフェニレンテレフタルアミド)等が挙げられる。このように封止フィルムを設けることで、保護基板用ウェハ130の表面に設けられた接続配線220の断線等の不良をより確実に防止することができる。
【0041】
次に、流路形成基板用ウェハ110表面のマスク膜52を除去し、図6(b)に示すように、液体流路の内面、すなわち、圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15の内面に保護膜16を形成する。なお、保護膜16は、上述したように、例えば、酸化物又は窒化物等の耐液体性(耐インク性)を有する材料からなり、本実施形態では、五酸化タンタルからなる。また、保護膜16の形成方法は、特に限定されないが、例えば、CVD法によって形成することができる。
【0042】
次に、流路形成基板用ウェハ110と保護基板用ウェハ130との接合体を洗浄する(洗浄工程)。本実施形態では、まず、図6(c)に示すように、保護基板用ウェハ130の接続配線220が設けられた面を、プラズマエッチングモードのドライエッチングを行い洗浄するドライ洗浄工程を行った後、図7(a)に示すように、流路形成基板用ウェハ110の圧力発生室12を含む液体流路側の面を洗浄液で洗浄する液体洗浄工程を行うようにした。
【0043】
ここで、プラズマエッチングモード(PEモード)のドライエッチングとは、一般的に塩素ガスと酸素ガスとを混合した反応ガス、又はこれに有機系ガスを加えた反応ガスを用いた方法であり、これにより、保護基板用ウェハ130の表面の接続配線220に付着した異物を除去する。なお、接続配線220には、異物として封止フィルムを剥がした際の接着剤が多く付着しており、この接着剤の残留物を主にドライ洗浄工程で除去する。これにより、接続配線220に駆動回路200や外部配線を接続する際に接続不良が発生するのを防止することができる。
【0044】
また、液体洗浄工程は、液体流路内に付着した異物を洗浄液で除去するものであり、本実施形態では、例えば、エタノールによって異物を除去した後、このエタノールを水洗することで除去し、その後、水分をイソプロピルアルコール(IPA)で除去するようにした。この液体洗浄工程によって、液体流路内に付着した異物、特に、プラズマエッチングモードで、飛散して再付着した接着剤などを確実に除去することができる。なお、本実施形態の液体洗浄工程では、図7(a)に示すように、流路形成基板用ウェハ110と保護基板用ウェハ130とが接合された接合体を、洗浄槽400に充填された洗浄液401に浸漬することで行った。勿論、液体洗浄工程での洗浄方法は特にこれに限定されず、例えば、流路形成基板用ウェハ110の液体流路が設けられた面に洗浄液を噴射するようにしてもよい。
【0045】
そして、本実施形態では液体洗浄工程をドライ洗浄工程を行った後に行うようにした。これにより、ドライ洗浄工程により飛散して液体流路に再付着した異物を液体洗浄工程により確実に除去することができる。
【0046】
ここで、複数のウェハ状態の接合体において、本実施形態のようにドライ洗浄工程を行った後、液体洗浄工程を行う洗浄工程と、液体洗浄工程を行った後にドライ洗浄工程を行う洗浄工程とを行い、各洗浄工程での液体流路内の異物の発生率を測定した。この結果を下記表1に示す。なお、液体流路内の異物は、ノズル開口21の内径(本実施形態では、例えば、15μm)以上のものを異物とし、異物発生率は異物の存在するチップ数を示している。
【0047】
【表1】

【0048】
表1に示すように、本実施形態のドライ洗浄工程を行った後に、液体洗浄工程を行うことで、液体洗浄を先に行う場合に比べて、異物の発生を減少させることができる。すなわち、ドライ洗浄工程で飛散した異物が液体流路内に再付着することが考えられ、この再付着した異物を後工程の液体洗浄工程で除去できることが分かる。
【0049】
なお、本実施形態では、液体洗浄工程をドライ洗浄工程の後に行うようにしたが、液体洗浄工程を行った後にドライ洗浄工程を行っても、接続配線220に付着した異物は除去することができる。
【0050】
ちなみに、流路形成基板用ウェハ110の液体流路が設けられた面を、プラズマエッチングモードのドライエッチング(ドライ洗浄工程)で洗浄することも考えられるが、プラズマエッチングモードでは、表面を薄く除去するため、液体流路の表面に設けられた保護膜16の膜厚が薄くなってしまうため行うことができない。また、保護膜16を設けていない場合であっても、ドライ洗浄工程によって振動板の膜厚や、液体流路の容積などが変化してしまうため行うことができない。本発明では、液体流路側を液体洗浄することによって、保護膜16や振動板の膜厚、液体流路の容積などを変化させることなく、液体流路内の異物のみを除去することができる。
【0051】
次に、図7(b)に示すように、流路形成基板用ウェハ110の液体流路が開口する面を親水処理する。親水処理は、ノズルプレート20と接着する接着剤23の接着力を向上するためのものであり、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、UV照射または親水処理剤による処理が例示できる。本実施形態では、流路形成基板用ウェハ110をプライマ処理することで第1の親水処理層17を形成した。なお、親水処理は、少なくとも流路形成基板10のノズルプレート20が接合される領域に施せばよく、本実施形態では、流路形成基板用ウェハ110をプライマ液に浸漬することで液体流路の内面にも第1の親水処理層17を形成するようにした。
【0052】
また、上述した液体洗浄工程は、親水処理を行う前処理としても機能する。すなわち、親水処理する前には、親水処理を行う面の異物を除去する洗浄が必要であるが、本実施形態では、前の洗浄工程によって異物の除去を行っているため、親水処理で洗浄を行う必要がない。もちろん、親水処理を行う前に再度洗浄液による液体洗浄工程を行うようにしてもよい。
【0053】
また、流路形成基板用ウェハ110を親水処理する前に、液体洗浄工程を行うことで、液体流路内に付着した異物を第1の親水処理層17で覆い、インク吐出時などの予期せぬタイミングで、異物が剥離してノズル詰まりが発生するのを確実に防止することができる。
【0054】
次に、図7(c)に示すように、ノズルプレート20を接着剤23を介して接着する。なお、ノズルプレート20には、予めノズル開口21を形成しておくと共に、流路形成基板用ウェハ110と接着される面には親水処理を行うことにより第2の親水処理層22を形成しておく。これにより、流路形成基板用ウェハ110とノズルプレート20との接着強度を向上することができる。
【0055】
その後は、流路形成基板用ウェハ110及び保護基板用ウェハ130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、保護基板用ウェハ130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハ110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドとする。
【0056】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態1では、流路形成基板10として、結晶面方位が(110)面のシリコン単結晶基板を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、結晶面方位が(100)面のシリコン単結晶基板を用いるようにしてもよく、また、SOI基板、ガラス等の材料を用いるようにしてもよい。
【0057】
また、上述した実施形態1では、圧力発生手段として、圧力発生室12に圧力変化を生じさせる圧力発生手段として、薄膜型の圧電素子300を用いて説明したが、特にこれに限定されず、例えば、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型の圧電素子や、圧電材料と電極形成材料とを交互に積層させて軸方向に伸縮させる縦振動型の圧電素子などを使用することができる。また、圧力発生手段として、圧力発生室内に発熱素子を配置して、発熱素子の発熱で発生するバブルによってノズル開口から液滴を吐出するものや、振動板と電極との間に静電気を発生させて、静電気力によって振動板を変形させてノズル開口から液滴を吐出させるものなどを使用することができる。
【0058】
また、上述した実施形態1では、液体洗浄工程において、洗浄液としてエタノール、水洗及びIPAを順次用いて洗浄したが、特にこれに限定されず、異物の種類(接着剤の種類)によって洗浄液を適宜選択すればよい。
【0059】
また上述した実施形態1のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、液体噴射装置の一例となるインクジェット式記録装置に搭載される。図8は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。図8に示すように、インクジェット式記録ヘッドを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。そして、駆動モータ6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8上を搬送されるようになっている。
【0060】
なお、図8では、シリアル型の液体噴射装置の一例としてインクジェット式記録装置を示したが、ラインヘッド型の液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装置(ラインプリンタ)にも適用することができる。
【0061】
なお、上述した実施形態1では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。これらの液体噴射ヘッドを搭載した液体噴射装置は、インクジェット式記録装置のみに限定されずに、インク以外の液体を噴射する液体噴射装置にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図。
【図2】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの平面図及び断面図。
【図3】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図。
【図4】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図。
【図5】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図。
【図6】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図。
【図7】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図。
【図8】一実施形態に係る記録装置の概略図。
【符号の説明】
【0063】
I インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 連通部、 14 インク供給路、 15 連通路、 16 保護膜、 17 第1の親水処理層、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 保護基板、 31 リザーバ部、 32 圧電素子保持部、 40 コンプライアンス基板、 60 下電極膜、 70 圧電体層、 80 上電極膜、 90 リード電極、 100 リザーバ、 200 駆動回路、 210 接続配線、 300 圧電素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル開口に連通する圧力発生室が設けられた流路形成基板と、前記流路形成基板の一方面側に設けられて前記圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧力発生手段と、前記流路形成基板の前記圧力発生手段が設けられた面側に接合されて、表面に配線が形成された保護基板とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法であって、
前記保護基板の前記配線側の面をプラズマエッチングモードのドライエッチングを行い洗浄するドライ洗浄工程と、前記流路形成基板の前記圧力発生室側の面を洗浄液で洗浄する液体洗浄工程とからなる洗浄工程を具備することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記ドライ洗浄工程は、前記液体洗浄工程を行った後に行うことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記洗浄工程を行った後、前記流路形成基板の前記圧力発生室が開口する開口面側に前記ノズル開口が設けられたノズルプレートを接合する工程をさらに具備することを特徴とする請求項1又は2に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記洗浄工程を行った後、前記流路形成基板の少なくとも前記ノズルプレートに接合される領域を親水処理してから、前記ノズルプレートを前記流路形成基板に接着剤を介して接合することを特徴とする請求項3に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記洗浄工程を行う前に、流路形成基板の前記圧力発生室の内面に耐液体性を有する保護膜を形成する工程をさらに具備することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法から製造された液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−160923(P2009−160923A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−307104(P2008−307104)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】