説明

液体噴射ヘッドの製造方法

【課題】配線部の配線不良を抑制することができる液体噴射ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】リザーバ形成基板用ウェハ130側に接続配線が形成されている基板構造体101の流路形成基板用ウェハ110側にウェットエッチング法によって液体流路を形成する液体流路形成工程と、液体流路形成の後、CVD法によって液体流路に臨む壁面部に保護膜を形成する保護膜形成工程と、を有するインクジェット式記録ヘッドの製造方法であって、液体流路形成工程の後、保護膜形成工程の前に、上記CVD法における温度条件に応じた耐熱性を有する耐熱性シート106を、上記CVD法における負圧条件に応じた負圧雰囲気下で、リザーバ形成基板用ウェハ130側における接続配線を含む領域に貼付する耐熱性シート貼付工程を有するという手法を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドを具備する液体噴射装置としては、例えば、圧電素子や発熱素子によりインク滴吐出のための圧力を発生させる複数の圧力発生室と、各圧力発生室にインクを供給する共通のリザーバと、各圧力発生室に連通するノズル開口とを備えたインクジェット式記録ヘッドを具備するインクジェット式記録装置があり、このインクジェット式記録装置では、印字信号に対応するノズルと連通した圧力発生室内のインクに吐出エネルギーを印加してノズル開口からインクを吐出させる構成となっている。
【0003】
下記特許文献1には、インクジェット式記録ヘッドの製造方法が開示されている。この製造方法においては、流路形成基板の一方の面側に圧電素子の材料を複数成膜して圧電素子を形成した後、流路形成基板の一方の面側に配線部及びリザーバ部を有するリザーバ形成基板を接合し、その後、流路形成基板を他方の面側から異方エッチング(ウェットエッチング)し、圧力発生室及び連通部を含む液体流路を形成する。
【0004】
その後、流路形成基板の液体流路に臨む壁面部に耐液性の保護膜を形成する。例えば、アルカリ性のインクを用い、且つ、シリコンウェハからなる流路形成基板を用いる場合、インクがシリコンを溶解し、圧力発生室の幅等が経時的に変化することから、耐アルカリ性を備えた膜、例えば、酸化タンタル(TaO)をCVD法(化学気相成長法)によって成膜し、インクによる壁面部の溶解を防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−261215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、CVD法を用いて保護膜を形成する場合、流路形成基板とリザーバ形成基板とを接合した基板構造体(ウェハ)を、ステージ上に載置する。ステージには、基板構造体の有効エリア(ヘッドのチップが形成されるエリア)に触れないようにザグリが形成されており、配線部が形成されたリザーバ形成基板側を下向きにしてその外周部のみがステージに接触するようになっている。
【0007】
しかしながら、基板構造体には少なからず歪みが生じており、また、リザーバ形成基板側の外周部には液体流路を形成する際に配線部を覆う保護シートの除去残り等が存在するため、基板構造体とステージとは全周が完全に接触しているわけではなく、僅かな隙間が点在している。このため、CVD法において当該隙間を介してリザーバ形成基板側にガスが回り込むと、例えば、配線部が保護膜(TaO)で覆われてしまい、当該配線部と外部配線とを電気的に接続することが困難となるといった配線不良を引き起こしてしまう場合がある。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、配線部の配線不良を抑制することができる液体噴射ヘッドの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、一方の面側に配線部が形成されている基板構造体の他方の面側にウェットエッチング法によって液体流路を形成する液体流路形成工程と、上記液体流路形成の後、化学気相成長法によって上記液体流路に臨む壁面部に保護膜を形成する保護膜形成工程と、を有する液体噴射ヘッドの製造方法であって、上記液体流路形成工程の後、上記保護膜形成工程の前に、上記化学気相成長法における温度条件に応じた耐熱性を有する耐熱性シートを、上記化学気相成長法における負圧条件に応じた負圧雰囲気下で、上記一方の面側における上記配線部を含む領域に貼付する耐熱性シート貼付工程を有するという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、配線部を含む領域に貼付するシートが、化学気相成長法における温度条件に応じた耐熱性を有すると共に化学気相成長法における負圧条件に応じた負圧雰囲気下で貼付されるため、保護膜形成工程の際に、シートと配線部を含む領域との間に閉じ込められた空気が膨張することによるシート剥がれを抑制しつつ、配線部を成膜ガスから保護することができる。
【0010】
また、本発明においては、上記耐熱性シート貼付工程では、上記負圧雰囲気を、上記化学気相成長法における負圧雰囲気の真空度以上に設定するという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、耐熱性シートを貼付する負圧環境の真空度が高いので、保護膜形成工程の際に、シートと配線部を含む領域との間に閉じ込められた空気の膨張を、より確実に防止することができる。
【0011】
また、本発明においては、上記液体流路形成工程の前に、上記一方の面側における上記配線部を環状に囲う第2の領域に沿って接着剤を塗布し、保護シートを貼付する保護シート貼付工程と、上記液体流路形成工程の後に、上記第2の領域よりも内側の上記保護シートの少なくとも一部を除去する保護シート除去工程と、を有しており、上記耐熱性シート貼付工程では、上記保護シート除去工程の後に、上記保護シートの残部が残存する上記第2の領域を含む領域に上記耐熱性シートを貼付するという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、耐熱性シートを、ウェットエッチング法によって液体流路を形成する際に配線部を覆う保護シートの除去残りがある領域を含めて貼付することで、耐熱性シートの貼り付け作業の効率化を図ることができる。
【0012】
また、本発明においては、上記基板構造体は、上記一方の面側に配置されると共に上記液体流路と連通可能な第2の液体流路を有する第1の基板と、上記他方の面側に配置されると共に上記液体流路と上記第2の液体流路との間を閉塞する閉塞膜を有する第2の基板と、が接合して形成され、上記保護膜形成工程の後に、上記開閉膜を貫通させる貫通工程を有しており、上記貫通工程のときには、上記耐熱性シートを残存させているという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、耐熱性シートを、後の開閉膜を貫通させる際に配線部を覆う保護シートとして兼用させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態における製造方法によって製造されたインクジェット式記録ヘッドの構成を示す分解斜視図である。
【図2】本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの構成を示す平面図及び断面図である。
【図3】本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの製造工程を説明するための図である。
【図4】本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの製造工程を説明するための図である。
【図5】本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの製造工程を説明するための図である。
【図6】本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの製造工程のうちの保護シート貼付工程を説明するための図である。
【図7】本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの製造工程のうちの保護シート除去工程及び耐熱性シート貼付工程を説明するための図である。
【図8】本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの製造工程のうちの保護膜形成工程及び貫通工程の一部を説明するための図である。
【図9】本発明の実施形態におけるCVD法によって保護膜を形成する際の耐熱性シート106の作用を説明する図である。
【図10】本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの製造工程のうちの貫通工程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る液体噴射ヘッドの製造方法の実施形態について、図を参照して説明する。なお、本実施形態では、本発明に係る液体噴射ヘッドとして、インクジェット式記録ヘッドを例示する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態における製造方法によって製造されたインクジェット式記録ヘッドの構成を示す分解斜視図である。図2は、本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの構成を示す平面図及び断面図である。
図示するように、インクジェット式記録ヘッドは、流路形成基板(第2の基板)10を有する。流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その一方の面には熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。
【0016】
流路形成基板10には、弾性膜50が形成される一方の面側と逆側の他方の面側から異方性エッチングすることにより、複数の隔壁11によって区画された圧力発生室12がその幅方向に並設されている。流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向一端部側には、圧力発生室12と共に液体流路を構成するインク供給路14と連通路15とが、隔壁11によって区画されている。また、連通路15の一端には、各圧力発生室12の共通のインク室(液体室)となるリザーバ100の一部を構成する連通部13が形成されている。
【0017】
インク供給路14は、圧力発生室12の長手方向一端部側に連通し、且つ、圧力発生室12より小さい断面積を有する。本実施形態のインク供給路14は、リザーバ100と各圧力発生室12との間の圧力発生室12側の流路を幅方向に絞ることで、圧力発生室12の幅より小さい幅で形成されている。なお、本実施形態のように、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成してもよいが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路14を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路14を形成してもよい。
【0018】
連通路15は、圧力発生室12の幅方向両側の隔壁11を連通部13側に延設してインク供給路14と連通部13との間の空間を区画することで形成されている。すなわち、流路形成基板10には、圧力発生室12の幅方向の断面積より小さい断面積を有するインク供給路14と、このインク供給路14に連通すると共にインク供給路14の幅方向の断面積よりも大きい断面積を有する連通路15とが、複数の隔壁11により区画されて設けられている。
【0019】
流路形成基板10の圧力発生室12、インク供給路14、連通路15及び連通部13を有する液体流路に臨む内壁表面(壁面部)には、耐インク性を有する材料、例えば、五酸化タンタル(Ta)等の酸化タンタルからなる保護膜16が設けられている。なお、ここで言う耐インク性とは、アルカリ性のインクに対する耐エッチング性のことである。また、本実施形態では、流路形成基板10の圧力発生室12等が開口する側の表面、すなわち、ノズルプレート20が接合される接合面にも保護膜16が設けられている。勿論、このような領域には、インクが実質的に接触しないため、保護膜16は設けられていなくてもよい。
【0020】
なお、保護膜16の材料は、酸化タンタルに限定されず、使用するインクのpH値によっては、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)等を用いてもよい。
流路形成基板10の他方の面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼等からなる。
【0021】
流路形成基板10の一方の面側には、上述したように二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO)等からなる絶縁体膜51が積層形成されている。また、絶縁体膜51上には、下電極膜60と圧電体層70と上電極膜80とからなる圧電素子300が形成されている。
【0022】
ここで、圧電素子300とは、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を、各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。本実施形態では、下電極膜60を圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。
【0023】
また、各圧電素子300の上電極膜80には、密着層91及び金属層92からなる配線層190で構成されるリード電極90がそれぞれ接続され、このリード電極90を介して各圧電素子300に選択的に電圧が印加されるようになっている。また、詳しくは後述するが、連通部13の開口周縁部に対応する領域の振動板、すなわち、弾性膜50及び絶縁体膜51上にも、リード電極90とは不連続の配線層190が存在している。
【0024】
流路形成基板10の一方の面側には、リザーバ100の一部を構成するリザーバ部(第2の液体流路)31を有するリザーバ形成基板(第1の基板)30が接合されている。本実施形態では、このリザーバ形成基板30と流路形成基板10とは、接着剤35によって接合されている。リザーバ形成基板30のリザーバ部31は、弾性膜50及び絶縁体膜51に設けられた貫通部52を介して連通部13と連通され、これらリザーバ部31及び連通部13によってリザーバ100が形成されている。
【0025】
リザーバ形成基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子300は、圧電素子保持部32内に形成されており、外部環境の影響を殆ど受けない状態で保護されている。なお、圧電素子保持部32は、密封されていてもよいし密封されていなくてもよい。このようなリザーバ形成基板30の材料としては、例えば、ガラス、セラミックス材料、金属、樹脂等が挙げられるが、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料で形成されていることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料であるシリコン単結晶基板を用いている。
【0026】
リザーバ形成基板30上には、所定パターンで形成された接続配線(配線部)200が設けられ、この接続配線200上には圧電素子300を駆動するための駆動回路210が実装されている。駆動回路210としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、各圧電素子300から圧電素子保持部32の外側まで引き出された各リード電極90の先端部と、駆動回路210とが駆動配線220を介して電気的に接続されている。
【0027】
リザーバ形成基板30上には、リザーバ部31に対向する領域に、例えば、PPSフィルム等の可撓性を有する材料からなる封止膜41及び、金属材料等の硬質材料からなる固定板42とで構成されるコンプライアンス基板40が接合されている。固定板42のリザーバ部31に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ部31の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0028】
上記構成のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段からインクを取り込み、リザーバ100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路210からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、圧電素子300及び振動板をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力を高め、ノズル開口21からインクを吐出させることが可能となっている。
【0029】
以下、上記構成のインクジェット式記録ヘッドの製造方法について、図3〜図10を参照して説明する。
【0030】
まず、図3(a)に示すように、シリコンウェハである流路形成基板用ウェハ110を約1100℃の拡散炉で熱酸化し、その表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン膜53を形成する。
次に、図3(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜53)上に、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜51を形成する。具体的には、弾性膜50(二酸化シリコン膜53)上に、例えば、スパッタ法等によりジルコニウム(Zr)層を形成後、このジルコニウム層を、例えば、500〜1200℃の拡散炉で熱酸化することにより酸化ジルコニウム(ZrO)からなる絶縁体膜51を形成する。
【0031】
次いで、図3(c)に示すように、例えば、白金(Pt)とイリジウム(Ir)とを絶縁体膜51上に積層することにより下電極膜60を形成した後、この下電極膜60を所定形状にパターニングする。
次に、図3(d)に示すように、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層70と、例えば、イリジウムからなる上電極膜80とを流路形成基板用ウェハ110の全面に形成し、これら圧電体層70及び上電極膜80を、各圧力発生室12に対向する領域にパターニングして圧電素子300を形成する。また、圧電素子300を形成後に、絶縁体膜51及び弾性膜50をパターニングして、流路形成基板用ウェハ110の連通部(図示なし)が形成される領域に、これら絶縁体膜51及び弾性膜50を貫通して流路形成基板用ウェハ110の表面を露出させた貫通部52を形成する。
【0032】
なお、圧電素子300を構成する圧電体層70の材料としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電性圧電性材料や、これにニオブ、ニッケル、マグネシウム、ビスマス又はイットリウム等の金属を添加したリラクサ強誘電体等が用いられる。その組成は、圧電素子300の特性、用途等を考慮して適宜選択すればよいが、例えば、PbTiO(PT)、PbZrO(PZ)、Pb(ZrTi1−x)O(PZT)、Pb(Mg1/3Nb2/3)O−PbTiO(PMN−PT)、Pb(Zn1/3Nb2/3)O−PbTiO(PZN−PT)、Pb(Ni1/3Nb2/3)O−PbTiO(PNN−PT)、Pb(In1/2Nb1/2)O−PbTiO(PIN−PT)、Pb(Sc1/2Ta1/2)O−PbTiO(PST−PT)、Pb(Sc1/2Nb1/2)O−PbTiO(PSN−PT)、BiScO−PbTiO(BS−PT)、BiYbO−PbTiO(BY−PT)等が挙げられる。また、圧電体層70の形成方法は、特に限定されないが、例えば、本実施形態では、金属有機物を触媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成する。
【0033】
次に、図4(a)に示すように、リード電極90を形成する。具体的には、まず流路形成基板用ウェハ110の全面に亘って密着層91を介して金属層92を形成し、密着層91と金属層92とからなる配線層190を形成する。そして、この配線層190上に、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を形成し、このマスクパターンを介して金属層92及び密着層91を圧電素子300毎にパターニングすることによりリード電極90を形成する。またこのとき、貫通部52に対向する領域に、リード電極90とは不連続の配線層(閉塞膜)190を残して、この配線層190によって貫通部52が封止されるようにする。
【0034】
金属層92の主材料としては、比較的導電性の高い材料であれば特に限定されず、例えば、金(Au)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)が挙げられ、本実施形態では金(Au)を用いている。また、密着層91の材料としては、金属層92の密着性を確保できる材料であればよく、具体的には、チタン(Ti)、チタンタングステン化合物(TiW)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)またはニッケルクロム化合物(NiCr)等が挙げられ、本実施形態ではニッケルクロム化合物(NiCr)を用いている。
【0035】
次に、図4(b)に示すように、リザーバ形成基板用ウェハ130を、流路形成基板用ウェハ110上に接着剤35によって接着する。ここで、このリザーバ形成基板用ウェハ130には、リザーバ部31、圧電素子保持部32等が予め形成されており、リザーバ形成基板用ウェハ130上には、上述した接続配線200が予め形成されている。
次いで、図4(c)に示すように、流路形成基板用ウェハ110をある程度の厚さとなるまで研削・研磨した後、フッ硝酸によってウェットエッチングすることにより流路形成基板用ウェハ110を所定の厚みにし、シリコン(Si)を露出させる。
【0036】
次に、図5(a)に示すように、流路形成基板用ウェハ110上に、例えば、窒化シリコン(SiN)からなるマスク膜54を新たに形成し、所定形状にパターニングする。
そして、図5(b)に示すように、このマスク膜54を介して流路形成基板用ウェハ110を異方性エッチング(ウェットエッチング)して、流路形成基板用ウェハ110に圧力発生室12、インク供給路14、連通路15及び連通部13からなる液体流路を形成する(液体流路形成工程)。具体的には、流路形成基板用ウェハ110を、例えば、水酸化カリウム(KOH)水溶液等のエッチング液によって弾性膜50及び密着層91が露出するまでエッチングすることより、圧力発生室12、インク供給路14、連通路15及び連通部13を同時に形成する。
【0037】
次に、図5(c)に示すように、貫通部52内の配線層190の一部である密着層91を、連通部13側からウェットエッチング(ライトエッチング)することにより除去する。すなわち、連通部13側に露出されている密着層91と、この密着層91が拡散している金属層92の一部の領域とを、エッチングにより除去する。これにより、後の工程で、配線層190の金属層92と、その上に化学気相成長法(以下、CVD法と称する)よって形成される保護膜16との密着力が弱められ、金属層92上の保護膜16が剥離し易くなる。
【0038】
なお、少なくとも上記液体流路形成工程の前には、図6(a)及び図6(b)に示すように、流路形成基板用ウェハ110とリザーバ形成基板用ウェハ130とを接合した基板構造体101のうち、リザーバ形成基板用ウェハ130側(一方の面側)における有効エリア(インクジェット式記録ヘッドのチップ102が形成されるエリア)に、保護シート103を貼付することが好ましい(保護シート貼付工程)。
【0039】
リザーバ形成基板用ウェハ130側におけるチップ102のそれぞれには、接続配線200が形成されている(図6において不図示)。保護シート103は、リザーバ形成基板用ウェハ130側における接続配線200を一括で環状に囲う領域(第2の領域)104に沿って塗布された接着剤105を介して貼付されている。保護シート103としては、耐アルカリ性を有する材料、例えば、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PPTA(ポリパラフェニレンテレフタルアミド)等を用いることができる。これにより、液体流路形成工程において、リザーバ形成基板用ウェハ130に形成された接続配線200をエッチング液から保護することができる。
【0040】
液体流路形成工程の後は、基板構造体101をSC2洗浄し、次に、リン酸等でマスク膜54を除去する。次いで、図7(a)に示すように、領域104よりも内側の保護シート103の少なくとも一部を除去する(保護シート除去工程)。本実施形態の保護シート除去工程では、例えば、領域104の内側に沿ってカッター等の刃先を入れて保護シート103を略円形に切除する。保護シート除去工程後は、オゾン水(O)とフッ酸溶液(HF)とを用いた基板構造体101の洗浄を行う。
【0041】
次に、図7(b)に示すように、保護シート103の残部が残存する領域104を含む領域、すなわちリザーバ形成基板用ウェハ130側における接続配線200を含む領域に耐熱性シート106を貼付する(耐熱性シート貼付工程)。このように、保護シート103の除去残りがある領域104を含めて耐熱性シート106を貼付することで、シート位置決め等の煩わしさをなくし、耐熱性シート106の貼り付け作業の効率化を図ることができる。
【0042】
耐熱性シート106は、保護膜16を形成するCVD法に温度条件に応じた耐熱性を有する。本実施形態のCVD法の温度条件は、120℃程度であるため、耐熱性シート106は、当該温度条件に耐え得る耐熱性を備えるものであれば特に限定されない。本実施形態では、180℃の耐熱性を有するポリエステル材からなるフィルム、より詳しくは、三井化学株式会社製のイクロステープ(商品名)を用いる。
【0043】
リザーバ形成基板用ウェハ130側には、凹凸(例えば、保護シート103の段差(接着剤105を含む)やリザーバ部31、ウェハ接合のための不図示の位置決め穴等)が形成されており、当該凹凸に空気が溜まり易い。このリザーバ形成基板用ウェハ130側に耐熱性シート106を接着すると、CVD法における負圧雰囲気下で、耐熱性シート106と凹凸の間に閉じ込められた空気が膨張することによるシート剥がれが発生する。
【0044】
このため、耐熱性シート貼付工程では、耐熱性シート106の貼付を、不図示の真空ラミネーター装置の中で、保護膜16を形成するCVD法における負圧条件に応じた負圧雰囲気下で行う。具体的には、真空ラミネーター装置の中の負圧雰囲気を、保護膜16を形成するCVD法における負圧雰囲気の真空度以上(例えば、高真空雰囲気)に設定する。これにより、CVD法における負圧雰囲気下で、耐熱性シート106によって凹凸に閉じ込められた空気の膨張を防止し、シート剥がれを抑制することができる。
【0045】
次に、図8(a)に示すように、流路形成基板用ウェハ110の液体流路、すなわち、圧力発生室12、インク供給路14、連通路15及び連通部13の内壁面に保護膜16を形成する(保護膜形成工程)。
保護膜16は、上述したように、例えば、酸化物又は窒化物等の耐液体性(耐インク性)を有する材料からなり、本実施形態では、五酸化タンタルからなる。また、保護膜16は、CVD法によって形成する。
【0046】
なお、貫通部52は配線層190によって封止されているため、貫通部52を介してリザーバ形成基板用ウェハ130の外面等に保護膜16が形成されることはない。このため、接続配線200等が形成されたリザーバ形成基板用ウェハ130の表面に保護膜16が形成されて駆動回路210などの接続不良等が発生するのを防止することができる。また同時に、余分な保護膜16を除去する工程が不要となって製造工程を簡略化して製造コストを低減することができる。
【0047】
図9は、本発明の実施形態におけるCVD法によって保護膜16を形成する際の耐熱性シート106の作用を説明する図である。
CVD法によって保護膜16を形成する場合、処理チャンバー内に基板構造体101を搬入し、流路形成基板用ウェハ110側を表面にして、基板構造体101をステージ140上に載置する。基板構造体101の裏面はリザーバ形成基板用ウェハ130側となるため、処理チャンバーのステージ140には、直接チップ102の有効エリアに当たらないようにザグリ141が形成されており、リザーバ形成基板用ウェハ130側の外周部のみがステージ140上に接している。
【0048】
基板構造体101には、自重等によって少なからず歪みが生じており、また、リザーバ形成基板用ウェハ130側の外周部には保護シート103の除去残り等が存在するため、基板構造体101とステージ140とは全周が完全に接触しているわけではなく、僅かな隙間Sが点在している。この状態で、CVD法を行うと、原料ガス(TaOガス)は、図9に矢印で示すように、隙間Sを介して、流路形成基板用ウェハ110側からリザーバ形成基板用ウェハ130側に回り込む。
【0049】
このとき、リザーバ形成基板用ウェハ130側の接続配線200が形成されている領域には、予め耐熱性シート106が貼付されている。耐熱性シート106は、CVD法における温度条件に応じた耐熱性を有するため、熱変形等が生じることがなく、リザーバ形成基板用ウェハ130側に回り込んだ原料ガスから接続配線200を保護する。また、耐熱性シート106は、CVD法における負圧条件に応じた負圧雰囲気下、より詳しくは、CVD法における負圧雰囲気の真空度以上の負圧環境下で貼付されているため、処理チャンバー内が所定の負圧環境下になっても、耐熱性シート106と接続配線200を含む領域との間に閉じ込められた空気(例えば、保護シート103の段差やリザーバ部31内の空気等)が膨張することは殆ど無く、それによるシート剥がれを抑制することができる。このため、接続配線200に保護膜16が成膜されることを確実に防止することができる。
【0050】
次に、図8(b)に示すように、保護膜16上に、保護膜16とはエッチングの選択性を有する材料からなる剥離層17を、例えばスパッタ法によって形成する。ここで、保護膜16とはエッチングの選択性を有する材料とは、その材料をウェットエッチングするためのエッチング液によって保護膜16がエッチングされ難く、実質的にエッチングされない材料のことをいう。また、剥離層17は、その内部応力が圧縮応力であることが好ましく、保護膜16との密着力が、保護膜16と配線層190との密着力よりも大きな材料を用いるのが好ましい。本実施形態では、剥離層17の材料として、以上の条件を満たすチタンタングステン化合物(TiW)を用いている。
【0051】
次に、図10(a)に示すように、この剥離層17をウェットエッチングによって完全に除去すると同時に、配線層190上の保護膜16を選択的に除去する。ここで、保護膜16の金(Au)からなる金属層92との密着力は、保護膜16の二酸化シリコン(SiO)からなる弾性膜50との密着力よりも弱く、剥離層17の内部応力が圧縮応力であるため、保護膜16上に剥離層17を形成することで、剥離層17の内部応力によって保護膜16は配線層190からある程度剥離された状態となる。この状態で、剥離層17をウェットエッチングによって除去することで、配線層190上の保護膜16も同時に選択的に除去される。
【0052】
このように配線層190上の保護膜16を除去した後は、図10(b)に示すように、配線層190(金属層92)を連通部13側からウェットエッチングすることによって除去して貫通部52を開口させる。このとき配線層190上には保護膜16が形成されていないため、保護膜16が配線層190のウェットエッチングを邪魔することはない。したがって、配線層190を容易且つ確実にウェットエッチングにより除去して貫通部52を開口させることができる。以上により、配線層190を貫通させる貫通工程が終了する。
【0053】
耐熱性シート106は、当該貫通工程の後に剥離させ、当該貫通工程のときには、耐熱性シート106を残存させることが好ましい。これにより、耐熱性シート106を、保護膜16を形成する際の原料ガスから接続配線200を保護する保護シートとしてだけでなく、剥離層17を形成する際のスパッタから接続配線200を保護し、さらに、剥離層17及び配線層190をウェットエッチングするエッチング液から接続配線200を保護する保護シートとして兼用させることができる。
【0054】
その後は、耐熱性シート106を剥離し、リザーバ形成基板用ウェハ130に形成されている接続配線200上に駆動回路210を実装すると共に、駆動回路210とリード電極90とを駆動配線220によって接続する。このとき、接続配線200は、耐熱性シート106の貼付によって保護膜16の付着が防止されているため、駆動回路210との電気的接続や、外部との不図示のワイヤーボンディングを介した電気的接続等の配線不良を防止でき、各配線を良好に接合させることができる。
【0055】
次いで、流路形成基板用ウェハ110及びリザーバ形成基板用ウェハ130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハ110のリザーバ形成基板用ウェハ130とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、リザーバ形成基板用ウェハ130にコンプライアンス基板40を接合し、これら流路形成基板用ウェハ110等を、図1に示すような一つのチップサイズに分割することによって上述した構造のインクジェット式記録ヘッドが製造される。
【0056】
したがって、上述した本実施形態によれば、リザーバ形成基板用ウェハ130側に接続配線200が形成されている基板構造体101の流路形成基板用ウェハ110側にウェットエッチング法によって液体流路を形成する液体流路形成工程と、液体流路形成の後、CVD法によって液体流路に臨む壁面部に保護膜16を形成する保護膜形成工程と、を有するインクジェット式記録ヘッドの製造方法であって、液体流路形成工程の後、保護膜形成工程の前に、上記CVD法における温度条件に応じた耐熱性を有する耐熱性シート106を、上記CVD法における負圧条件に応じた負圧雰囲気下で、リザーバ形成基板用ウェハ130側における接続配線200を含む領域に貼付する耐熱性シート貼付工程を有するという手法を採用することによって、接続配線200を含む領域に貼付するシートが、CVD法における温度条件に応じた耐熱性を有すると共にCVD法における負圧条件に応じた負圧雰囲気下で貼付されるため、保護膜形成工程の際に、シートと接続配線200を含む領域との間に閉じ込められた空気が膨張することによるシート剥がれを抑制しつつ、接続配線200を成膜ガス(TiO)から保護することができる。
このため、本実施形態では、接続配線200の配線不良を抑制することができる。
【0057】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0058】
例えば、上述した実施形態においては、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドの製造方法にも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【符号の説明】
【0059】
10…流路形成基板(第2の基板)、16…保護膜、30…リザーバ形成基板(第1の基板)、31…リザーバ部(第2の流路)、101…基板構造体、103…保護シート、104…領域(第2の領域)、105…接着剤、106…耐熱性シート、110…流路形成基板用ウェハ(第2の基板、他方の面側)、130…リザーバ形成基板用ウェハ(第1の基板、一方の面側)、190…配線層(閉塞膜)、200…接続配線(配線部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面側に配線部が形成されている基板構造体の他方の面側にウェットエッチング法によって液体流路を形成する液体流路形成工程と、前記液体流路形成の後、化学気相成長法によって前記液体流路に臨む壁面部に保護膜を形成する保護膜形成工程と、を有する液体噴射ヘッドの製造方法であって、
前記液体流路形成工程の後、前記保護膜形成工程の前に、前記化学気相成長法における温度条件に応じた耐熱性を有する耐熱性シートを、前記化学気相成長法における負圧条件に応じた負圧雰囲気下で、前記一方の面側における前記配線部を含む領域に貼付する耐熱性シート貼付工程を有することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記耐熱性シート貼付工程では、前記負圧雰囲気を、前記化学気相成長法における負圧雰囲気の真空度以上に設定することを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記液体流路形成工程の前に、前記一方の面側における前記配線部を環状に囲う第2の領域に沿って接着剤を塗布し、保護シートを貼付する保護シート貼付工程と、
前記液体流路形成工程の後に、前記第2の領域よりも内側の前記保護シートの少なくとも一部を除去する保護シート除去工程と、を有しており、
前記耐熱性シート貼付工程では、前記保護シート除去工程の後に、前記保護シートの残部が残存する前記第2の領域を含む領域に前記耐熱性シートを貼付することを特徴とする請求項1または2に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記基板構造体は、前記一方の面側に配置されると共に前記液体流路と連通可能な第2の液体流路を有する第1の基板と、前記他方の面側に配置されると共に前記液体流路と前記第2の液体流路との間を閉塞する閉塞膜を有する第2の基板と、が接合して形成され、
前記保護膜形成工程の後に、前記開閉膜を貫通させる貫通工程を有しており、
前記貫通工程のときには、前記耐熱性シートを残存させていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−218240(P2012−218240A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84670(P2011−84670)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】