説明

液体噴射ヘッドの製造方法

【課題】寸法精度を確保でき、さらに、品質の向上を図ることのできる液体噴射ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】シリコン基板からなる流路形成基板用ウェハ110の表面をシリサイド化させて形成したシリサイド膜16を含む所定形状のメタルマスク19を形成するメタルマスク形成工程と、メタルマスク19をマスクとして流路形成基板用ウェハ110を異方性エッチングすることにより液体流路を形成する液体流路形成工程と、を有するインクジェット式記録ヘッドの製造方法を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドを具備する液体噴射装置としては、例えば、圧電素子や発熱素子によりインク滴吐出のための圧力を発生させる複数の圧力発生室と、各圧力発生室にインクを供給する共通のリザーバと、各圧力発生室に連通するノズル開口とを備えたインクジェット式記録ヘッドを具備するインクジェット式記録装置があり、このインクジェット式記録装置では、印字信号に対応するノズルと連通した圧力発生室内のインクに吐出エネルギーを印加してノズル開口からインクを吐出させる構成となっている。
【0003】
下記特許文献1には、インクジェット式記録ヘッドの製造方法が開示されている。この製造方法においては、シリコン基板からなる流路形成基板の一方の面側に圧電素子の材料を複数成膜して圧電素子を形成した後、流路形成基板の一方の面側にリザーバ部を有するリザーバ形成基板を接合し、その後、流路形成基板の他方の面側に所定形状のマスクを形成して異方性エッチングすることにより、圧力発生室及び連通部を含む液体流路を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−261215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来技術では、上記異方性エッチング手法におけるマスクとして、二酸化ケイ素(SiO)と比較しエッチング時のアンダーカットによる寸法バラツキが小さい窒化ケイ素(Si)を採用している。このマスクは、膜厚が薄く、また、ドライエッチングでパターニングするため、寸法精度が良い。
しかしながら、異方性エッチング後に発生する庇状のマスク膜を除去するために、ウェットエッチングをする必要があり、そのエッチング液としてリン酸(HPO)を使用する。リン酸は、基板同士を接合する接着剤等へダメージを与えるリスクがあるため、ヘッドの品質低下の一因となり得る。なお、このリスクを回避するために、当該ウェットエッチングの温度を低温化する対策もとり得るが、処理時間が長くなるため量産性が悪い。
したがって、上記異方性エッチング手法における他の新たなマスクを採用することが望まれている。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、寸法精度を確保でき、さらに、品質の向上を図ることのできる液体噴射ヘッドの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、シリコン基板の表面をシリサイド化させて形成したシリサイド膜を含む所定形状のメタルマスクを形成するメタルマスク形成工程と、上記メタルマスクをマスクとして上記シリコン基板を異方性エッチングすることにより液体流路を形成する液体流路形成工程と、を有する液体噴射ヘッドの製造方法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、異方性エッチングのマスクとして、シリコン基板の表面をシリサイド化させたシリサイド膜を含むメタルマスクを用いる。シリサイド膜は、メタルマスクとシリコン基板とを分子レベルで強固に結合させるため、サイドエッチングをほぼ完全に抑制でき、液体流路について高い寸法精度が得られる。
【0008】
また、本発明においては、上記メタルマスクは、上記シリサイド膜としてニッケルシリサイド膜を含むという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、メタルマスクが緻密で耐エッチング性に優れたニッケルシリサイド膜を含むことでマスク自体の大幅な薄膜化が可能となる。また、マスク材除去の処理時間を短くでき、基板同士を接合する接着剤へのダメージを大幅に低減可能となる。
【0009】
また、本発明においては、上記メタルマスク形成工程は、所定の金属膜を上記シリコン基板の表面に成膜して上記シリサイド膜を形成するシリサイド膜形成工程と、上記シリサイド膜を上記所定形状にパターニングするパターニング工程と、を有するという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、メタルマスクの形成において、シリコン基板の表面に金属膜を形成してシリサイド膜を形成する工程と、シリサイド膜をパターニングする工程と、を有する。
【0010】
また、本発明においては、上記シリサイド膜形成工程では、電子サイクロトロン共鳴スパッタ法によって上記金属膜を成膜するという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、金属膜を電子サイクロトロン共鳴スパッタ法によって成膜することで、その高密度プラズマの作用により金属膜の金属成分をシリコン基板の表面に拡散させ、シリサイド膜を形成することができる。
【0011】
また、本発明においては、上記パターニング工程では、エッチングガスとして四フッ化炭素を用いた反応性イオンエッチング法によって上記パターニングを行うという手法を採用する。
このような手法を採用することによって、本発明では、四フッ化炭素を用いた反応性イオンエッチング法を用いることで、分子レベルで強固に結合するシリサイド膜をパターニングすることができ、所定形状のメタルマスクを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態における製造方法によって製造されたインクジェット式記録ヘッドの構成を示す分解斜視図である。
【図2】本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの構成を示す平面図及び断面図である。
【図3】本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの製造工程を説明するための図である。
【図4】本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの製造工程を説明するための図である。
【図5】本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの製造工程のうちのメタルマスク形成工程を説明するための図である。
【図6】本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの製造工程のうちのメタルマスク形成工程を説明するための図である。
【図7】本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの製造工程のうちの液体流路形成工程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る液体噴射ヘッドの製造方法の実施形態について、図を参照して説明する。なお、本実施形態では、本発明に係る液体噴射ヘッドとして、インクジェット式記録ヘッドを例示する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態における製造方法によって製造されたインクジェット式記録ヘッドの構成を示す分解斜視図である。図2は、本発明の実施形態におけるインクジェット式記録ヘッドの構成を示す平面図及び断面図である。
図示するように、インクジェット式記録ヘッドは、流路形成基板10を有する。流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その一方の面には熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。
【0015】
流路形成基板10には、弾性膜50が形成される一方の面側と逆側の他方の面側から異方性エッチングすることにより、複数の隔壁11によって区画された圧力発生室12がその幅方向に並設されている。流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向一端部側には、圧力発生室12と共に液体流路を構成するインク供給路14と連通路15とが、隔壁11によって区画されている。また、連通路15の一端には、各圧力発生室12の共通のインク室(液体室)となるリザーバ100の一部を構成する連通部13が形成されている。
【0016】
インク供給路14は、圧力発生室12の長手方向一端部側に連通し、且つ、圧力発生室12より小さい断面積を有する。本実施形態のインク供給路14は、リザーバ100と各圧力発生室12との間の圧力発生室12側の流路を幅方向に絞ることで、圧力発生室12の幅より小さい幅で形成されている。なお、本実施形態のように、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成してもよいが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路14を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路14を形成してもよい。
【0017】
連通路15は、圧力発生室12の幅方向両側の隔壁11を連通部13側に延設してインク供給路14と連通部13との間の空間を区画することで形成されている。すなわち、流路形成基板10には、圧力発生室12の幅方向の断面積より小さい断面積を有するインク供給路14と、このインク供給路14に連通すると共にインク供給路14の幅方向の断面積よりも大きい断面積を有する連通路15とが、複数の隔壁11により区画されて設けられている。
【0018】
流路形成基板10の他方の面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼等からなる。
ノズルプレート20が接合される接合面には、シリサイド膜16が設けられている。シリサイド膜16は、耐液性を有するシリサイド膜、例えば、ニッケルシリサイド膜から形成されている。ここで言う耐液性とは、耐エッチング性(耐アルカリ性)のことである。なお、当該接合面における領域には、シリサイド膜16は設けられていなくてもよい。
【0019】
流路形成基板10の一方の面側には、上述したように二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO)等からなる絶縁体膜51が積層形成されている。また、絶縁体膜51上には、下電極膜60と圧電体層70と上電極膜80とからなる圧電素子300が形成されている。
【0020】
ここで、圧電素子300とは、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を、各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。本実施形態では、下電極膜60を圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。
【0021】
また、各圧電素子300の上電極膜80には、密着層91及び金属層92からなる配線層190で構成されるリード電極90がそれぞれ接続され、このリード電極90を介して各圧電素子300に選択的に電圧が印加されるようになっている。また、詳しくは後述するが、連通部13の開口周縁部に対応する領域の振動板、すなわち、弾性膜50及び絶縁体膜51上にも、リード電極90とは不連続の配線層190が存在している。
【0022】
流路形成基板10の一方の面側には、リザーバ100の一部を構成するリザーバ部31を有するリザーバ形成基板30が接合されている。本実施形態では、このリザーバ形成基板30と流路形成基板10とは、接着剤35によって接合されている。リザーバ形成基板30のリザーバ部31は、弾性膜50及び絶縁体膜51に設けられた貫通部52を介して連通部13と連通され、これらリザーバ部31及び連通部13によってリザーバ100が形成されている。
【0023】
リザーバ形成基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子300は、圧電素子保持部32内に形成されており、外部環境の影響を殆ど受けない状態で保護されている。なお、圧電素子保持部32は、密封されていてもよいし密封されていなくてもよい。このようなリザーバ形成基板30の材料としては、例えば、ガラス、セラミックス材料、金属、樹脂等が挙げられるが、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料で形成されていることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料であるシリコン単結晶基板を用いている。
【0024】
リザーバ形成基板30上には、所定パターンで形成された接続配線200が設けられ、この接続配線200上には圧電素子300を駆動するための駆動回路210が実装されている。駆動回路210としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、各圧電素子300から圧電素子保持部32の外側まで引き出された各リード電極90の先端部と、駆動回路210とが駆動配線220を介して電気的に接続されている。
【0025】
リザーバ形成基板30上には、リザーバ部31に対向する領域に、例えば、PPSフィルム等の可撓性を有する材料からなる封止膜41及び、金属材料等の硬質材料からなる固定板42とで構成されるコンプライアンス基板40が接合されている。固定板42のリザーバ部31に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ部31の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0026】
上記構成のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段からインクを取り込み、リザーバ100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路210からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、圧電素子300及び振動板をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力を高め、ノズル開口21からインクを吐出させることが可能となっている。
【0027】
以下、上記構成のインクジェット式記録ヘッドの製造方法について、図3〜図7を参照して説明する。
【0028】
まず、図3(a)に示すように、シリコンウェハである流路形成基板用ウェハ110を約1100℃の拡散炉で熱酸化し、その表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン膜53を形成する。
次に、図3(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜53)上に、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜51を形成する。具体的には、弾性膜50(二酸化シリコン膜53)上に、例えば、スパッタ法等によりジルコニウム(Zr)層を形成後、このジルコニウム層を、例えば、500〜1200℃の拡散炉で熱酸化することにより酸化ジルコニウム(ZrO)からなる絶縁体膜51を形成する。
【0029】
次いで、図3(c)に示すように、例えば、白金(Pt)とイリジウム(Ir)とを絶縁体膜51上に積層することにより下電極膜60を形成した後、この下電極膜60を所定形状にパターニングする。
次に、図3(d)に示すように、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層70と、例えば、イリジウムからなる上電極膜80とを流路形成基板用ウェハ110の全面に形成し、これら圧電体層70及び上電極膜80を、各圧力発生室12に対向する領域にパターニングして圧電素子300を形成する。また、圧電素子300を形成後に、絶縁体膜51及び弾性膜50をパターニングして、流路形成基板用ウェハ110の連通部(図示なし)が形成される領域に、これら絶縁体膜51及び弾性膜50を貫通して流路形成基板用ウェハ110の表面を露出させた貫通部52を形成する。
【0030】
なお、圧電素子300を構成する圧電体層70の材料としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電性圧電性材料や、これにニオブ、ニッケル、マグネシウム、ビスマス又はイットリウム等の金属を添加したリラクサ強誘電体等が用いられる。その組成は、圧電素子300の特性、用途等を考慮して適宜選択すればよいが、例えば、PbTiO(PT)、PbZrO(PZ)、Pb(ZrTi1−x)O(PZT)、Pb(Mg1/3Nb2/3)O−PbTiO(PMN−PT)、Pb(Zn1/3Nb2/3)O−PbTiO(PZN−PT)、Pb(Ni1/3Nb2/3)O−PbTiO(PNN−PT)、Pb(In1/2Nb1/2)O−PbTiO(PIN−PT)、Pb(Sc1/2Ta1/2)O−PbTiO(PST−PT)、Pb(Sc1/2Nb1/2)O−PbTiO(PSN−PT)、BiScO−PbTiO(BS−PT)、BiYbO−PbTiO(BY−PT)等が挙げられる。また、圧電体層70の形成方法は、特に限定されないが、例えば、本実施形態では、金属有機物を触媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成する。
【0031】
次に、図4(a)に示すように、リード電極90を形成する。具体的には、まず流路形成基板用ウェハ110の全面に亘って密着層91を介して金属層92を形成し、密着層91と金属層92とからなる配線層190を形成する。そして、この配線層190上に、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を形成し、このマスクパターンを介して金属層92及び密着層91を圧電素子300毎にパターニングすることによりリード電極90を形成する。またこのとき、貫通部52に対向する領域に、リード電極90とは不連続の配線層(閉塞膜)190を残して、この配線層190によって貫通部52が封止されるようにする。
【0032】
金属層92の主材料としては、比較的導電性の高い材料であれば特に限定されず、例えば、金(Au)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)が挙げられ、本実施形態では金(Au)を用いている。また、密着層91の材料としては、金属層92の密着性を確保できる材料であればよく、具体的には、チタン(Ti)、チタンタングステン化合物(TiW)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)またはニッケルクロム化合物(NiCr)等が挙げられ、本実施形態ではニッケルクロム化合物(NiCr)を用いている。
【0033】
次に、図4(b)に示すように、リザーバ形成基板用ウェハ130を、流路形成基板用ウェハ110上に接着剤35によって接着する。ここで、このリザーバ形成基板用ウェハ130には、リザーバ部31、圧電素子保持部32等が予め形成されており、リザーバ形成基板用ウェハ130上には、上述した接続配線200が予め形成されている。
次いで、図4(c)に示すように、流路形成基板用ウェハ110をある程度の厚さとなるまで研削・研磨した後、フッ硝酸によってウェットエッチングすることにより流路形成基板用ウェハ110を所定の厚みにし、シリコン(Si)を露出させる。
【0034】
次に、図5及び図6に示すように、流路形成基板用ウェハ110のシリコンが露出した表面をシリサイド化して形成したシリサイド膜16を含む所定形状のメタルマスク19を形成する(メタルマスク形成工程)。
先ず、図5(a)に示すように、流路形成基板用ウェハ110に、その表面をシリサイド化させる金属膜17を成膜する。具体的には、金属膜17としてニッケル(Ni)を、例えばスパッタ法によって、10〜100ナノメートル(nm)程度の厚みで成膜する。なお、金属膜17の厚みは均一にする必要はなく、流路形成基板用ウェハ110の表面全面に付着さえすればよい。
【0035】
本実施形態の金属膜17を成膜するスパッタ法としては、ECR(Electron Cyclotron Resonance:電子サイクロトロン共鳴)スパッタ法を採用する。ECRスパッタ法では、マイクロ波を用い、気体分子にエネルギーを与えプラズマ化させ、そのプラズマを磁界内で回転させ、外部に漏れないようにさせることができるため、高密度のプラズマが得られる。
【0036】
当該スパッタ法によれば、高密度プラズマの作用により、流路形成基板用ウェハ110の表面に成膜された金属膜17の金属成分は、そのシリコンまたはシリコン化合物(二酸化シリコン等)からなる表面に拡散する。このように、ニッケルが拡散しシリサイド化することで、図5(b)に示すように、所定厚(例えば1〜2nm程度)のニッケルシリサイド膜(シリサイド膜16)が形成される(シリサイド膜形成工程)。
【0037】
なお、当該スパッタ時に形成される1〜2nm程度の厚みのシリサイド膜16でも、マスクとして使用可能であるが、さらに100〜400℃程度のアニール処理を行うことで、ニッケルをシリコンへとさらに拡散させ、より厚いシリサイド膜16を形成することが可能である。また、ECRスパッタ法以外の成膜法、例えば、マグネトロンスパッタ法等を用いても、金属膜17の成膜後、アニール処理を行うことで、所定厚のシリサイド膜を形成することが可能である。
【0038】
次に、図6(a)に示すように、金属膜17上にレジストを塗布等することにより液体流路の形状に応じた所定形状のレジストパターン18を形成する。具体的には、例えば、ネガレジストをスピンコート法等により金属膜17上に塗布し、その後、所定形状のマスクを用いて露光・現像等を行うことによって所定パターンのレジストパターン18を形成する。勿論、ネガレジストの代わりにポジレジストを用いてもよい。
【0039】
次に、図6(b)に示すように、レジストパターン18をマスクとして、金属膜17をウェットエッチングして所定形状にパターニングする。すなわち、シリサイド膜16の表面が露出するまで金属膜17をウェットエッチングする。このエッチング液として、例えば、塩酸(HCl)やフッ酸(HF)を用いることで、ニッケルからなる金属膜17を除去できる。
【0040】
次いで、図6(c)に示すように、さらにレジストパターン18をマスクとして、シリサイド膜16を所定形状にパターニングし、シリサイド膜16及び金属膜17からなるメタルマスク19を形成する(パターニング工程)。
シリサイド膜16は、例えばフッ酸(HF)等を用いた上記ウェットエッチングによっても多少は減少させることができるが、エッチングレートが遅いため現実的でない。そこで、本実施形態では、シリサイド膜16をパターニングする手法として、四フッ化炭素(CF)を用いた反応性イオンエッチング法(ドライエッチング法)を用いる。これにより、分子レベルで強固にシリコンと結合するシリサイド膜16をパターニングすることができ、所定形状のメタルマスク19を形成することができる。
【0041】
次に、図7(a)に示すように、レジストパターン18を除去後、メタルマスク19をマスクとして流路形成基板用ウェハ110を異方性エッチングすることにより、圧力発生室12、インク供給路14、連通路15及び連通部13からなる液体流路を形成する(液体流路形成工程)。
具体的には、流路形成基板用ウェハ110を、例えば、水酸化カリウム(KOH)水溶液やTMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)等のアルカリ性のエッチング液によって弾性膜50及び密着層91が露出するまでエッチングすることより、圧力発生室12、インク供給路14、連通路15及び連通部13を同時に形成する。
【0042】
メタルマスク19は、ニッケルシリサイドからなるシリサイド膜16を有しており、シリサイド膜16は、金属膜17と流路形成基板用ウェハ110との間、すなわち、ニッケル(Ni)‐シリコン(Si)間に形成されることで、結合力が分子レベルで強固であるため、異方性エッチング(ウェットエッチング)時のサイドエッチングをほぼ完全に抑制でき、液体流路について高い寸法精度を得ることができる。また、シリサイド膜16は膜厚が薄く反応性イオンエッチング法(ドライエッチング法)によってパターニングされているため、より高い寸法精度を得ることができる。また、ニッケルシリサイド自体が、耐アルカリ性があり、緻密であるため、マスクの大幅な薄膜化が可能となる。
【0043】
上記異方性エッチング後は、図7(b)に示すように、不要なマスク材を除去する。
異方性エッチングを行うと、(110)面だけでなく、(111)面においても、エッチングレートは例えば1/180程度と比較的小さいが、エッチングされるために、マスク膜が庇状に残る場合がある。この庇状のマスク膜は、屈曲、そして破損することにより、異物として液体流路の内壁面等に付着することがあるため、この異方性エッチング後に発生する庇状のマスク膜を除去するために、ウェットエッチングを行う。
【0044】
このエッチング液として、例えば、塩酸(HCl)やフッ酸(HF)を用いることで、1分程度のウェットエッチング処理で、マスク材(金属膜17)を除去することができる。したがって、マスク材除去の処理時間を短くでき、流路形成基板用ウェハ110とリザーバ形成基板用ウェハ130を接合する接着剤35へのダメージを大幅に低減可能となり、ヘッドの品質を向上させることができる。
【0045】
当該エッチングとして、例えば、スピンエッチャーを用いて行うことで、庇状のマスク膜をほぼ完全にリフトオフ除去可能である。すなわち、メタルマスク19のうち、シリサイド膜16は、当該エッチング液によってはエッチングされ難いが、厚みが数nm程度で薄いため、エッチング液の遠心力等によって物理的に金属膜17と共に除去可能なためである。一方、庇状となっていないシリサイド膜16は、図7(b)に示すように、結合力が強く当該エッチングによっても流路形成基板用ウェハ110の表面に残存するが、緻密で薄いため、後の工程でのノズルプレート20等の接合性に関しては問題ない。なお、当該シリサイド膜16を除去する場合は、上述した四フッ化炭素を用いた反応性イオンエッチング法を用いることで完全に除去可能である。
【0046】
その後は、連通部13とリザーバ部31とを連通させてリザーバ100を形成し、リザーバ形成基板用ウェハ130に形成されている接続配線200上に駆動回路210を実装すると共に、駆動回路210とリード電極90とを駆動配線220によって接続する。次いで、流路形成基板用ウェハ110及びリザーバ形成基板用ウェハ130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハ110のリザーバ形成基板用ウェハ130とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、リザーバ形成基板用ウェハ130にコンプライアンス基板40を接合し、これら流路形成基板用ウェハ110等を、図1に示すような一つのチップサイズに分割することによって上述した構造のインクジェット式記録ヘッドが製造される。
【0047】
したがって、上述した本実施形態によれば、シリコン基板からなる流路形成基板用ウェハ110の表面をシリサイド化させて形成したシリサイド膜16を含む所定形状のメタルマスク19を形成するメタルマスク形成工程と、メタルマスク19をマスクとして流路形成基板用ウェハ110を異方性エッチングすることにより液体流路を形成する液体流路形成工程と、を有するインクジェット式記録ヘッドの製造方法を採用することによって、サイドエッチングをほぼ完全に抑制でき、液体流路について高い寸法精度が得られ、また、マスク除去処理の時間を短縮できるため、接着剤35へのダメージを低減してヘッドの品質を向上させることができる。
【0048】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0049】
例えば、上述した実施形態においては、金属膜17を、塩酸(HCl)やフッ酸(HF)でウェットエッチングした後、シリサイド膜16を、四フッ化炭素(CF)を用いた反応性イオンエッチング法でドライエッチングしてメタルマスク19をパターニングすると説明したが、本発明はこれに限定されることなく、例えば、イオンミリング法を用いることにより両方の層を一括で除去可能である。
【0050】
また、例えば、上述した実施形態においては、メタルマスク19のシリサイド膜16としてニッケルシリサイドを例示したが、本発明はこれに限定されることなく、例えば、タングステン(W)を成膜して形成できるタングステンシリサイド、または、チタン(Ti)を成膜して形成できるチタンシリサイド、または、コバルト(Co)を成膜して形成できるコバルトシリサイドを採用しても、ニッケルシリサイドと同様の耐エッチング性を有するためメタルマスク19として採用し得る。
また、他に、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)を用いてもシリコン基板表面をシリサイド化させることが可能である。
【0051】
さらに、上述した実施形態においては、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドの製造方法にも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【符号の説明】
【0052】
10…流路形成基板、16…シリサイド膜(ニッケルシリサイド膜)、17…金属膜、19…メタルマスク、110…流路形成基板用ウェハ(シリコン基板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板の表面をシリサイド化させて形成したシリサイド膜を含む所定形状のメタルマスクを形成するメタルマスク形成工程と、
前記メタルマスクをマスクとして前記シリコン基板を異方性エッチングすることにより液体流路を形成する液体流路形成工程と、
を有することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記メタルマスクは、前記シリサイド膜としてニッケルシリサイド膜を含むことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記メタルマスク形成工程は、
所定の金属膜を前記シリコン基板の表面に成膜して前記シリサイド膜を形成するシリサイド膜形成工程と、
前記シリサイド膜を前記所定形状にパターニングするパターニング工程と、
を有することを特徴とする請求項1または2に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記シリサイド膜形成工程では、電子サイクロトロン共鳴スパッタ法によって前記金属膜を成膜することを特徴とする請求項3に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記パターニング工程では、エッチングガスとして四フッ化炭素を用いた反応性イオンエッチング法によって前記パターニングを行うことを特徴とする請求項3または4に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−218242(P2012−218242A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84672(P2011−84672)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】