説明

液体噴射ヘッド及びその製造方法並びに液体噴射装置

【課題】コストの低減を図ると共に、高密度化を容易に達成し得る液体噴射ヘッドを提供する。
【解決手段】 圧力発生素子を駆動することでノズル開口から液体を噴射するとともに、前記圧力発生素子に電気信号を供給する少なくとも2列のリード電極と、前記リード電極に前記電気信号を供給するための少なくとも2枚の配線基板410A,410Bとを具備する液体噴射ヘッドであって、前記配線基板410A,410Bは、前記リード電極を介して圧力発生素子にそれぞれ電気的に接続される個別配線411と、前記リード電極を介して複数の圧力発生素子に共通して電気的に接続される共通配線412とを有するとともに、互いに相対向する2枚の配線基板間における前記個別配線411の間隔よりも、互いに相対向する2枚の配線基板間における前記共通配線412の間隔が狭くなるように形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル開口から液体を噴射する液体噴射ヘッド及びその製造方法並びに液体噴射装置に関し、特に液体としてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッド及びその製造方法並びにインクジェット式記録装置に適用して有用なものである。
【背景技術】
【0002】
液滴を吐出する液体噴射ヘッドの代表例としては、インク滴を吐出するインクジェット式記録ヘッドが挙げられる。このインクジェット式記録ヘッドとしては、例えばノズル開口に連通する圧力発生室とこの圧力発生室に連通する連通部とが形成される流路形成基板と、この流路形成基板の一方面側に形成される圧電素子と、流路形成基板の圧電素子側の面に接合されて圧電素子を保持するための圧電素子保持部を有する保護基板とを具備したものが知られている。ここで、保護基板上には、圧電素子を駆動するための駆動回路であるICが載置されている。また、駆動回路と圧電素子とは、圧電素子の一方の電極から引き出されたリード電極を介して導電性ワイヤからなる接続配線によりワイヤボンディング法により接続されている。
【0003】
保護基板は、相対向する2列の圧力発生室に対応させて配設した2列の圧電素子を保護するものもあり、この種の保護基板にはその中央部に前記接続配線が挿通される貫通孔が形成してある。かかるインクジェット式記録ヘッドでは、前記貫通孔部分で前記リード電極と接続配線とを接続している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2004−148813号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術においてはワイヤボンディング法により駆動回路と圧電素子とを接続しているので、コストの高騰を招来するとともに、高密度化が困難であるという問題を有している。また、駆動回路は保護基板に平面的に配設しているので、圧電素子を含むアクチュエータ部分の面積の増大を生起する結果、この点でもコストの高騰を招来している。
【0006】
なお、このような問題はインクを吐出するインクジェット式記録ヘッドだけではなく、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにおいても同様に存在する。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑み、コストの低減を図ると共に、高密度化を容易に達成し得る液体噴射ヘッド及びその製造方法並びに液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の態様は、圧力発生素子を駆動することでノズル開口から液体を噴射するとともに、前記圧力発生素子に電気信号を供給する少なくとも2列のリード電極と、前記リード電極に前記電気信号を供給するための少なくとも2枚の配線基板とを具備する液体噴射ヘッドであって、前記配線基板は、前記リード電極を介して圧力発生素子にそれぞれ電気的に接続される個別配線と、前記リード電極を介して複数の圧力発生素子に共通して電気的に接続される共通配線とを有するとともに、互いに相対向する2枚の配線基板間における前記個別配線の間隔よりも、互いに相対向する2枚の配線基板間における前記共通配線の間隔が狭くなるように形成したものであることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる態様では、ボンディングワイヤ等を用いずに配線基板と圧電素子のリード電極とを接続しているので、容易に製造コストの低減を図ることができる。
【0009】
また、2枚の配線基板は、相対向する個別配線の間隔よりも相対向する共通配線間の間隔が狭くなるように形成してあるので、各配線基板をリード電極に接続する際のアライメントは相対向する共通配線を用いて行うことができる。この結果、両者の間隔が狭くなっている分、アライメントを高精度に行うことができる。一方、各配線基板をリード電極に接続する際の相対向する個別配線は間隔が広くなっているので、相互の個別配線同士の短絡を確実に防止して良好な接続を行うことができる。すなわち、アライメントの際には相対向する配線基板の先端同士の距離が可及的に近接している方が好ましく、相互の個別配線の短絡防止という観点からは相対向する配線基板の先端同士の距離が離れている方が好ましいという背反する要件を同時に満足してアライメントの高精度化と同時に、確実な短絡防止にも資することができる。
【0010】
ここで、前記各配線基板は前記リード電極が設けられた面から立ち上がるように形成するのが望ましい。このことによりさらなる高密度化に資することができる。
【0011】
さらに、前記各配線基板は前記リード電極が設けられた面から立ち上がるように支持する支持部材に支持されているのが望ましい。このことにより配線基板の安定した支持状態を維持し得る。
【0012】
ここで、圧力発生素子に駆動電圧を印加する駆動回路は、支持部材に面する領域で配線基板に実装されているのが望ましい。この場合には、駆動回路が発生する熱を支持部材を介して放熱することができるので、その安定な動作に資することができる。
【0013】
さらに、配線基板のリード電極に対する接続は、異方性導電材を介して行うことができる。これによれば、異方性導電材を上方から押圧して潰すだけで所定の電気的な接続を容易に図ることができる。
【0014】
本発明の他の態様は、上記態様の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
かかる態様では、液体噴射装置として、上述の如き個別の作用・効果を発揮させることができる。
【0015】
また、本発明の他の態様は、圧力発生素子を駆動することでノズル開口から液体を噴射するとともに、前記圧力発生素子に電気信号を供給する少なくとも2列のリード電極と、前記リード電極を介して圧力発生素子に電気的に接続される個別配線及び前記リード電極を介して複数の圧力発生素子に共通して電気的に接続される共通配線を備えた第1及び第2の配線基板とを有する液体噴射ヘッドの製造方法であって、第1の配線基板の前記個別配線と第2の配線基板の前記個別配線間との間隔よりも第1の配線基板の前記共通配線と第2の配線基板の前記共通配線との間隔が狭くなるように第1及び第2の配線基板を相対向させる対向工程と、第1及び第2の配線基板を相対向させた後に、前記共通配線を用いて第1の配線基板と第2の配線基板との相対位置を調整する調整工程と、相対位置を調整した第1及び第2の配線基板を前記リード電極に接続する接続工程とを含むことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
本態様によれば各配線基板をリード電極に接続する際のアライメントは相対向する共通配線を用いて行なっているので、両者の間隔が狭くなっている分、アライメントを高精度に行うことができる。一方、各配線基板をリード電極に接続する際の相対向する個別電極間は間隔が広くなっているので、相互の個別配線同士の短絡を確実に防止して良好な接続を行うことができる。
【0016】
ここで、前記調整工程は、前記第1の配線基板を支持部材の一つの面に支持された状態で、前記第1の配線基板の前記共通電極の位置に前記第2の配線基板の前記共通電極の位置を合わせて前記第2の配線基板を前記支持部材の他の面に支持させるようにしても良い。この場合には配線基板の安定した支持状態を維持し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図であり、図2は図1の平面図であり、図3は図2のA−A′断面図である。
【0018】
図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その一方の面には二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。
【0019】
流路形成基板10には、隔壁11によって区画された複数の圧力発生室12がその幅方向に並設された列が2列設けられている。また、各列の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14及び連通路15を介して連通されている。連通部13は、後述する保護基板30のリザーバ部31と連通して圧力発生室12の列毎に共通のインク室となるリザーバ100の一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。なお、本実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。さらに、各連通路15は、圧力発生室12の幅方向両側の隔壁11を連通部13側に延設してインク供給路14と連通部13との間の空間を区画することで形成されている。すなわち、流路形成基板10には、圧力発生室12の幅方向の断面積より小さい断面積を有するインク供給路14と、このインク供給路14に連通すると共にインク供給路14の幅方向の断面積よりも大きい断面積を有する連通路15とが複数の隔壁11により区画されて設けられている。
【0020】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。本実施形態では、流路形成基板10に圧力発生室12が並設された列を2列設けたため、1つのインクジェット式記録ヘッドIには、ノズル開口21の並設されたノズル列が2列設けられている。なお、ノズルプレート20は、例えばガラスセラミックス、シリコン単結晶基板又はステンレス鋼などからなる。
【0021】
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように、弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、絶縁体膜55が形成されている。さらに、この絶縁体膜55上には、下電極膜60と、圧電体層70と、上電極膜80とが積層形成されて、本実施形態の圧力発生素子である圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部という。本実施形態では、下電極膜60を圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせてアクチュエータ装置と称する。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55及び下電極膜60が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50及び絶縁体膜55を設けずに、下電極膜60のみが振動板として作用するようにしてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0022】
圧電体層70は、下電極膜60上に形成される電気機械変換作用を示す圧電材料、特に圧電材料の中でもペロブスカイト構造の強誘電体材料からなる。圧電体層70は、ペロブスカイト構造の結晶膜を用いるのが好ましく、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電体材料や、これに酸化ニオブ、酸化ニッケル又は酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等が好適である。具体的には、チタン酸鉛(PbTiO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)、ジルコニウム酸鉛(PbZrO3)、チタン酸鉛ランタン((Pb,La),TiO3)ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O3)又は、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O3)等を用いることができる。圧電体層70の厚さについては、製造工程でクラックが発生しない程度に厚さを抑え、且つ十分な変位特性を呈する程度に厚く形成する。
【0023】
また、圧電素子300の個別電極である各上電極膜80には、絶縁体膜55上まで延設された例えば、金(Au)等からなるリード電極90が接続されている。リード電極90は、一端部が上電極膜80に接続されていると共に、他端部側が圧電素子300が並設された列と列との間に延設されている。
【0024】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、下電極膜60、弾性膜50及びリード電極90上には、リザーバ100の少なくとも一部を構成するリザーバ部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。このリザーバ部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成している。なお、本実施形態では、流路形成基板10にリザーバ100となる連通部13を設けるようにしたが、特にこれに限定されず、例えば、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、リザーバ部31のみをリザーバとしてもよい。また、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する部材(例えば、弾性膜50、絶縁体膜55等)にリザーバ100と各圧力発生室12とを連通するインク供給路14を設けるようにしてもよい。
【0025】
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する保持部である圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。なお、本実施形態では、圧電素子300が並設された列が2列設けられているため、圧電素子保持部32を圧電素子300の並設された各列に対応してそれぞれ設けるようにした。すなわち、保護基板30には、圧電素子保持部32が並設された圧電素子300の列が並ぶ列設方向に2つ設けられている。
【0026】
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0027】
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。貫通孔33は、本実施形態では、2つの圧電素子保持部32の間に設けられている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔33内に露出するように設けられている。
【0028】
圧電素子300を駆動するための駆動回路200は、可撓性のプリント基板であるCOF基板410に実装してある。ここで、COF基板410は、下端部がリード電極90に接続されるとともにほぼ垂直に立ち上げられて板状部材400の側面に接着されている。すなわち、板状部材400は両側面が垂直面となっている直方体であり、この板状部材400がこれを支持する支持部材として機能している。
【0029】
さらに詳言すると、本実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドIでは、流路形成基板10に圧力発生室12が並設された列を2列設けたため、圧電素子300が圧力発生室12の幅方向(圧電素子300の幅方向)に並設された列が2列設けられている。すなわち、圧力発生室12、圧電素子300及びリード電極90の2列が相対向して設けられたものである。そして、下部が貫通孔33に挿入されている板状部材400の両側面には、それぞれCOF基板410が接着されており、各COF基板410は、それぞれの下端部が圧電素子300の各列のリード電極90の端部に接続されるとともにほぼ垂直に立ち上げられている。本実施形態では、板状部材400の側面のそれぞれに1枚のCOF基板410を設けることで、1つの板状部材400に合計2枚のCOF基板410が設けられている。
【0030】
なお、可撓性のプリント基板であるCOF基板410は、単体で起立させようとしても撓んでしまうため、COF基板410を支えとなる剛性部材である板状部材400に接合することで、COF基板410の撓みを抑えて起立させることができる。また、本実施形態では、板状部材400の両側面側に設けられたCOF基板410A、410Bは、その裏面の全面が接着剤によって板状部材400に接着されている。このようにCOF基板410A、410Bと板状部材400とを接着する接着剤は、比較的硬化時間の短い接着剤、例えば紫外線硬化型接着剤や瞬間接着剤等を用いるのが好ましい。
【0031】
ここで、図3に示すように、板状部材400の下端面とCOF基板410(COF基板410A、410B)の下端部との間には、テフロン(登録商標)等で好適に形成し得る緩衝部材430が配設してある。また、COF基板410の下端部とリード電極90とは、異方性導電材の一種である異方性導電性接着剤で電気的に接続されている。すなわち、板状部材400を圧下することでその下端面を介してCOF基板410をリード電極90側に押圧する。このことにより、異方性導電性接着剤に含まれる導電性粒子を潰してCOF基板410とリード電極90との所定の電気的な接続を行う。この際、緩衝部材430はCOF基板410に対する押圧力を均一化するように機能する。ここで、板状部材400の下端面とCOF基板410の下端部、又は緩衝部材430と当接する板状部材400の下端面を、前記導電性粒子の粒子径の5倍以内の面精度とするのが好ましい。このことにより、緩衝部材430の存在とも相俟ってCOF基板410の下端部を介して導電性粒子に作用させる押圧力を均一化することができ、導電性粒子を確実に潰して良好な電気的接続が確保されるからである。
【0032】
また、板状部材400は、当該インクジェット式記録ヘッドをその最高使用保証温度で使用した場合でも前記駆動回路の温度がそのジャンクション温度未満になるように放熱させ得る熱伝導率を有するものとするのが望ましい。このことにより最も過酷な負荷条件で駆動回路を動作させても十分な放熱効果を発揮させることで駆動回路の長期安定的な駆動に資することができる。このため、本実施形態における板状部材400はSUSを材料として形成してある。この場合には、駆動回路200が発生する熱を板状部材400が流路形成基板10を介してその内部を流通するインクに吸収させることできる結果、駆動回路200が発生する熱を有効に放熱させることができる。同様の作用・効果は、SUS等の金属を材料としない場合でも流路形成基板10の表面と駆動回路200との距離を十分小さくすることによっても得ることができる。すなわち、駆動回路200と流路形成基板10の表面との距離を、当該液体噴射ヘッドIをその最高使用保証温度で使用した場合でも駆動回路200の温度がそのジャンクション温度未満になるように放熱させ得る距離とすれば良い。
【0033】
なお、このような板状部材400としては、詳しくは後述する保持部材であるヘッドケース110と線膨張係数が同等の材料で形成するのが好ましく、例えば、ステンレス鋼やシリコンなどが挙げられる。
【0034】
さらに、図3に示すように、保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)からなり、この封止膜41によってリザーバ部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料(例えば、ステンレス鋼(SUS)等)で形成される。この固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。また、コンプライアンス基板40上には、保持部材であるヘッドケース110が設けられている。ヘッドケース110には、インク導入口44に連通してカートリッジ等のインク貯留手段からのインクをリザーバ100に供給するインク導入路111が設けられている。また、ヘッドケース110には、開口部43に対向する領域に凹部112が形成され、開口部43のたわみ変形が適宜行われるようになっている。さらに、ヘッドケース110には、保護基板30に設けられた貫通孔と連通する配線部材保持孔が設けられており、配線部材は、配線部材保持孔内に挿通されてリード電極90と接続されている。そして、ヘッドケース110の配線部材保持孔に挿通された配線部材は、ヘッドケース110と接着剤を介して接着されている。
【0035】
なお、このようなヘッドケース110の材料としては、例えば、ステンレス鋼等の金属材料が挙げられる。
【0036】
図4は、図3のCOF基板を抽出して示す斜視断面図である。同図に示すように、COF基板410A,410Bは、個別配線411と共通配線412とを有している。これらのうち、個別配線411は圧電素子300の個別電極に電気的に接続されたリード電極90(図2参照)と対応した位置に並設されており、リード電極90にそれぞれ接続される。また、共通配線412はCOF基板410A,410Bの列方向の両端部に配設されるとともに、圧電素子300(図2参照)の共通電極である下電極膜60(図2参照)に電気的に接続されたリード電極90と対応した位置に並設されており、下電極膜60にそれぞれ接続される。ここでCOF基板410A,410Bは板状部材の両側面に取り付けられているが、COF基板410AはCOF基板410B側の端部において個別配線411に対応する一部分が切り取られており、COF基板410BはCOF基板410A側の端部において個別配線411に対応する一部分が切り取られている。これによって、COF基板410Aの個別配線411とCOF基板410Bの個別配線411との間隔よりもCOF基板410A共通配線412とCOF基板410Bの共通配線412との間隔が狭くなるように形成してある。
【0037】
ここで、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの製造方法、特に板状部材400に対するCOF基板410A,410Bのアライメントを伴う固定方法について図5(a)及び図5(b)に基づき説明する。なお、両図はインクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す斜視断面図である。
【0038】
まず、図5(a)に示すように、板状部材400の側面の一方側に、一端側で個別配線411に対応する一部分を切り取ったCOF基板410Bを接着する。板状部材400とCOF基板410Bとの接着方法は、特に限定されず、本実施形態では、COF基板410Bの裏面の全面を板状部材400に接着剤で接着している。
【0039】
次に、図5(b)に示すように、板状部材400の側面のCOF基板410Bが接着された面とは反対側の他方側の側面にCOF基板410Aを載置する。このとき、板状部材400上に載置されたCOF基板410Aは、その自重又は押圧することにより板状部材400上に保持される。また、板状部材400の他方面に設けられたCOF基板410Bは、板状部材400と接着されているため落下することがない。
【0040】
ここで、COF基板410Aは、一端側で個別配線411に対応する一部分を切り取られ、リード電極90と接続される下端部が予め屈曲されたものを用いている。これは、COF基板410Aを板状部材400に接着した後にCOF基板410Aの下端部を板状部材400に沿って屈曲すると、COF基板410A、410B同士の位置決めが困難であると共に、屈曲によってCOF基板410Aの位置がずれてしまう可能性が高いからである。
【0041】
かかる状態で、先に板状部材400に接着されたCOF基板410Bに対して、COF基板410Aをリード電極90の並設方向(図中の矢印方向)に移動して、COF基板410Bに対するCOF基板410Aの相対的な位置決めを行う。これにより、先に接着された一方のCOF基板410Bのリード電極90に接続される個別配線411と、他方のCOF基板410Aのリード電極90に接続される個別配線411とのそれぞれの並設方向の位置決めを行うことができる。さらに詳言すると、図示はしないが、リード電極90と接続される下端部と対向する方向(図の右斜め上方)から共通配線412部分の映像をカメラにより撮像し、この映像から共通配線412の位置を解析するすることにより自動的にCOF基板410Aの位置を調整して所定位置へのアライメントを行う。この際、COF基板410A,410Bの共通配線412の先端同士は、個別配線411の先端同士よりも近接させて形成してあるので、カメラの視野に捕らえる領域を共通配線412の先端に絞り込んでもアライメントに必要な十分な画像情報が得られる。したがって、その分カメラの倍率を上げることができる結果、高精度のアライメントを行うことができる。
一方、COF基板410A,410Bの個別配線411の先端同士の間隔は十分離れているので両者が短絡される虞はない。なお、共通配線412は圧電素子300(図2参照)の共通電極である下電極膜60(図2参照)に電気的に接続されるため、短絡をおこしていても構わない。
【0042】
このように、COF基板410Bの位置を調整した後、COF基板410Aを位置がずれないようにしつつ板状部材400に接着する。その上で、異方性導電材を挟むようにして個別配線411及び共通配線412とリード電極90とをそれぞれ接続するように固定する。このようにすることでインクジェット式記録ヘッドを製造し、さらにはこのようにして製造されたインクジェット式記録ヘッドを組み込んでインクジェット式記録装置を製造することができる。
【0043】
以上、説明したインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部のインク貯留手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、リザーバ100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路200からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0044】
さらに、本実施形態によれば、駆動回路200を実装したCOF基板410を介して駆動回路200と圧電素子300のリード電極90とを接続しているので、ワイヤボンディング法によるよりも製造が容易になる。また、COF基板410はその下端部がリード電極90に接続されるとともにほぼ垂直に立ち上げられているので、大型化することなく小型化することができる。また、COF基板410を直接リード電極90に接続しているので、圧電素子300を高密度に配設してもリード電極90とCOF基板410との接続不良が発生することなく、高密度化を容易に達成できる。さらに、駆動回路200は板状部材400の側面側にCOF基板410を介して接着されているので、駆動回路200が発生する熱を良好に放熱することができる。
【0045】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明の構造は上述したものに限定されるものではない。上記実施形態は、板状部材400等で押圧を行うことで導電性粒子を潰しているが、導電性粒子を潰すときに支持部材を用いずに他の手段で押圧を行い、かかる押圧の後に支持部材に配線基板を固定しても良い。また、上記実施形態では板状部材400を介して駆動回路200を実装するように構成したが、ワイヤボンディング法による接続を回避するとともに高密度実装を実現するには、配線基板の個別配線411を直接リード電極90に接続するようにすれば良い。この場合、相対向する2列における個別配線411同士の間隔よりも共通配線412の間隔が狭くなるように形成しておく。
【0046】
また、支持部材はその所定の支持機能さえ発揮できれば板状というような形状等に特別な制限はない。例えば、格子形状、筏形状等種々考えられる。ただし、支持部材で押圧を行うことで導電性粒子を潰す場合は、均等に押圧できるように、下端面は平面となっていることが望ましい。
【0047】
さらに、上述した実施形態では、流路形成基板10に圧力発生室12が並設された列を2列設けたものであるが、この場合の列数には特別な制限はない。また、上述した実施形態では、圧力発生室12に圧力変化を生じさせる圧力発生素子として、薄膜型の圧電素子300を有するアクチュエータ装置を用いて説明したが、特にこれに限定されず、例えば、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型のアクチュエータ装置や、圧電材料と電極形成材料とを交互に積層させて軸方向に伸縮させる縦振動型のアクチュエータ装置などを使用することができる。また、圧力発生素子として、圧力発生室内に発熱素子を配置して、発熱素子の発熱で発生するバブルによってノズル開口から液滴を吐出するものや、振動板と電極との間に静電気を発生させて、静電気力によって振動板を変形させてノズル開口から液滴を吐出させるいわゆる静電式アクチュエータなどを使用することができる。
【0048】
上記実施形態においては、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【0049】
なお、上述した実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図6は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。図示するように、上記実施の形態に係るインクジェット式記録ヘッドIを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0050】
そして、駆動モータ6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。また、インク以外の液体を噴射する液体噴射装置にも勿論適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施形態に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る記録ヘッドの平面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る記録ヘッドの断面図である。
【図4】図3のCOF基板を抽出して示す斜視断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る記録ヘッドの製造方法を示す斜視断面図である。
【図6】本発明の実施形態にかかるインクジェット式記録装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0052】
I インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 連通部、 14 インク供給路、 15 連通路、 21 ノズル開口、 30 保護基板、 32 圧電素子保持部、 33 貫通孔、 60 下電極膜、 70 圧電体層、 80 上電極膜、 90 リード電極、 100 リザーバ、 110 ヘッドケース(保持部材)、 200 駆動回路、 300 圧電素子(圧力発生素子)、 400 板状部材、 410、410A、410B COF基板、 411 個別配線 412 共通配線、 430 緩衝部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力発生素子を駆動することでノズル開口から液体を噴射するとともに、前記圧力発生素子に電気信号を供給する少なくとも2列のリード電極と、前記リード電極に前記電気信号を供給するための少なくとも2枚の配線基板とを具備する液体噴射ヘッドであって、
前記配線基板は、前記リード電極を介して圧力発生素子にそれぞれ電気的に接続される個別配線と、前記リード電極を介して複数の圧力発生素子に共通して電気的に接続される共通配線とを有するとともに、互いに相対向する2枚の配線基板間における前記個別配線の間隔よりも、互いに相対向する2枚の配線基板間における前記共通配線の間隔が狭くなるように形成したものであることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載する液体噴射ヘッドであって、
前記各配線基板を前記リード電極が設けられた面から立ち上がるように形成したことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項3】
請求項2に記載する液体噴射ヘッドにおいて、
前記各配線基板は前記リード電極が設けられた面から立ち上がるように支持する支持部材に支持されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項4】
請求項3に記載する液体噴射ヘッドにおいて、
前記圧力発生素子に駆動電圧を印加する駆動回路は、前記支持部材に面する領域で前記配線基板に実装されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一つに記載する液体噴射ヘッドにおいて、
前記配線基板の前記リード電極に対する接続は、異方性導電材を介して行うことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか一つの液体噴射ヘッドを有することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項7】
圧力発生素子を駆動することでノズル開口から液体を噴射するとともに、前記圧力発生素子に電気信号を供給する少なくとも2列のリード電極と、前記リード電極を介して圧力発生素子に電気的に接続される個別配線及び前記リード電極を介して複数の圧力発生素子に共通して電気的に接続される共通配線を備えた第1及び第2の配線基板とを有する液体噴射ヘッドの製造方法であって、
第1の配線基板の前記個別配線と第2の配線基板の前記個別配線間との間隔よりも第1の配線基板の前記共通配線と第2の配線基板の前記共通配線との間隔が狭くなるように第1及び第2の配線基板を相対向させる対向工程と、第1及び第2の配線基板を相対向させた後に、前記共通配線を用いて第1の配線基板と第2の配線基板との相対位置を調整する調整工程と、相対位置を調整した第1及び第2の配線基板を前記リード電極に接続する接続工程とを含むことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載する液体噴射ヘッドの製造方法において、
前記調整工程は、前記第1の配線基板を支持部材の一つの面に支持された状態で、前記第1の配線基板の前記共通電極の位置に前記第2の配線基板の前記共通電極の位置を合わせて前記第2の配線基板を前記支持部材の他の面に支持させるようにしたことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−125727(P2010−125727A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303744(P2008−303744)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】