説明

液体噴射ヘッド及び液体噴射装置

【課題】液体噴射ヘッド1の吐出チャンネル12方向の幅を縮小し、かつ、複雑な製造工程の不要な簡素な電極取り出し構造を実現する。
【解決手段】基板表面の前方端FEから後方端REに亘って側壁3により離隔された複数の溝5を有し、引出電極8を当該側壁3の上面に形成した圧電体基板4と、マニホールド9を備え、圧電体基板4の表面に接合したカバープレート11と、カバープレート11と溝5により構成されるチャンネルのマニホールド9よりも後方端RE側の後方チャンネル10の開口を閉塞する封止材14を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから液体を吐出して被記録媒体に画像や文字、あるいは薄膜材料を形成する液体噴射ヘッド及びこれを用いた液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、記録紙等にインク滴を吐出し、文字、図形を描画する、あるいは素子基板の表面に液体材料を吐出して機能性薄膜のパターンを形成するインクジェット方式の液体噴射ヘッドが利用されている。この方式は、インクや液体材料を液体タンクから供給管を介して液体噴射ヘッドに供給し、液体噴射ヘッドに形成した微小空間にこのインクを充填し、駆動信号に応じて微小空間の容積を瞬間的に縮小し溝に連通するノズルから液滴を吐出させる。
【0003】
図12は、この種のインクジェットヘッド50の分解斜視図であり、図13(a)はインクジェットヘッド50の上面図であり、(b)は部分YYの断面図であり、(c)はフレキシブル基板61の配線電極64と引出電極62間の接続構成を説明するための説明図である。インクジェットヘッド50は、表面に複数の細長い溝55が形成された圧電体基板51と、インクを溝55に供給するためのマニホールド57及び凹部58が形成されたカバープレート56と、インクを吐出するためのノズル60が穿孔されたノズルプレート59と、圧電体基板51に駆動信号を供給するためのフレキシブル基板61などから構成されている。
【0004】
溝55は前方端52から後方端53の途中まで形成されている。複数の溝55は側壁54により離隔されている。ノズルプレート59のノズル60は溝55とカバープレート56により構成されるチャンネルに連通する。側壁54は圧電体材料から成り、予め垂直方向に分極処理が施されている。側壁54の壁面には側壁電極63が形成され、圧電体基板51の後方端53側の表面に形成した引出電極62に電気的に接続している。圧電体基板51の後方端53側の上面にはフレキシブル基板61が接着されている。これにより、図示しない外部回路で生成した駆動信号が、フレキシブル基板61に形成した配線電極64及び引出電極62を介して側壁54の壁面に形成される側壁電極63に伝達される。これにより側壁54をせん断変化させることができる。
【0005】
インクジェットヘッド50は次のように駆動される。まず、マニホールド57にインクを供給する。インクはマニホールド57及び凹部58から各溝55に供給され、カバープレート56と溝55により構成されるチャンネルに充填される。外部回路で生成した駆動信号をフレキシブル基板61の配線電極64、引出電極62を介して側壁電極63に与えると、側壁54がせん断変形し、チャンネルの容積が収縮して充填されたインクがノズル60から吐出される。
【0006】
特許文献1には上記インクジェットヘッド50に類似するインクジェットヘッドが記載されている。圧電セラミックス基板の表面に、その前端部から後端部の途中まで細長い複数の溝が形成され、その複数の溝を覆うように蓋が接着されている。この蓋には複数の溝にインクを供給するためのインク室が形成されている。各溝を分離区画する圧電側壁には側壁の上辺から溝の底面にかけて導電層が形成されている。この導電層は圧電セラミックス基板の吐出側である前端部から圧電セラミックス基板の裏面側に引き回され、裏面に形成される引出電極に接続されている。裏面の複数の引出電極は圧電セラミックス基板の前端部から後端部にかけて扇状にピッチが大きくなる。これにより、引出電極の外部回路との接続を容易にする、というものである。
【0007】
特許文献2には、圧電体からなるアクチュエータ基板の表面に複数並列に凹溝が形成され、その上面はカバープレートにより塞がれており、アクチュエータ基板の前方端にノズルプレートが接着され、後方端にインクを供給するためのプレートとマニホールド部材が設置されたインクジェットヘッドが記載されている。アクチュエータ基板の複数の凹溝と、各溝の上面を塞ぐカバープレートによりチャンネルが構成され、各チャンネルはアクチュエータ基板の前方端から後方端に亘って形成されている。複数のチャンネルは、ノズルプレートのノズルから液滴を噴射させるための噴射チャンネルとインクが供給されないダミーチャンネルとが交互に配置されている。各溝を分離する圧電側壁の壁面には駆動用の導電パターンが形成され、各導電パターンはアクチュエータ基板の側面を介して裏面側に引き回されている。これにより、ダミーチャンネルの後方に所定の長さを有する立ち上げ部を形成する必要が無くなり、ダミーチャンネルを短くすることができるので、アクチュエータ基板のコストを低減することができ、更にインクの噴射周期を短くすることができる、というものである。
【0008】
特許文献3には、ヘッドチップの周囲にインクマニホールドが配置されるインクジェットヘッドが記載されている。ヘッドチップは、圧電素子からなる側壁が下部基板と上部基板により挟まれてチャンネルが構成され、チャンネルの一方端にはノズルプレートが、他方端にはチャンネルにインクを導入するためのインク導入孔が形成されたバックプレートが設置されている。バックプレートの背面にはインク室及びインク流路が形成されたインクマニホールド部材が設置されている。このインクマニホールド部材はヘッドチップを構成する上部基板の上方にせり出す上面包持部を備えている。
【0009】
チャンネルを構成する側壁の壁面には駆動電極が形成され、この駆動電極は側壁の上面まで延設されている。また、上部基板のチャンネルに対応する位置に上部基板を貫通し上部基板の表面に露出する電極が形成されている。更に、インクマニホールド部材の上面包持部には、上記上部基板に形成した電極と対応する位置にその厚さ方向に貫通する電極が形成され、上面包持部の上面に形成した配線電極に接続され、更にインクマニホールドの外部背面に引き回されている。その結果、チャンネルを駆動するために側壁に形成した駆動電極は、側壁上面の駆動電極延設部、上部基板に形成した貫通電極及び上面包持部を貫通する貫通電極を介して上面包持部に形成した配線電極に接続し、インクマニホールド部材の背面側に引き出される。これにより、駆動電極にインクマニホールド部材の背面側から駆動信号を供給することができるので、スタック構造化が容易となり、プリンタ本体との接続構造を簡素化することができる、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9−29977号公報
【特許文献2】特開平2000−168094号公報
【特許文献3】特開平2002−210955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図12や特許文献1に示されるインクジェットヘッドはチャンネルを構成する溝55が前方端から後方端の手前まで形成されている。後方端の手前まで溝55を形成しているのは、後方端側にインクが漏れ出ないようにするためである。この溝55は、外周部に研削材を埋め込んだダイシングブレードを高速回転させて圧電体基板51の表面に所定の深さまで降下し、圧電体基板51の表面に沿って移動させながら研削して形成する。そのため、溝55の端部形状はダイシングブレードの円弧形状が転写される。ダイシングブレードの直径を2インチとし、形成する溝55の深さを360μmとすれば、溝55の端部の底面が傾斜する傾斜部の長さX1は4mm以上となる。圧電体基板51の溝55方向の幅X2が約10mmなので、全体の幅の約40%がこの傾斜部に占められることになる。更に、圧電体基板51においてインクを吐出するために駆動するアクチュエータとして機能する部分は主に溝55の底面が平坦な位置の側壁54であり、上記傾斜部に位置する側壁54は溝55の深さが次第に浅くなるにつれてアクチュエータとしてほとんど機能しなくなる。従って、この傾斜部は、アクチュエータとしてほとんど機能しないにもかかわらず全体の幅の相当な部分を占めており、インクジェットヘッド50を小型化し、1枚のウエハーから取り出す圧電体基板の取り個数を増加させて低コスト化を図る上で障害となっていた。
【0012】
一方、特許文献2や特許文献3のように、圧電体基板又はアクチュエータ基板の表面の前方端から後方端に亘って凹溝をストレートに形成すればダイシングブレードの円弧形状が転写されることがなく、溝底面が傾斜する傾斜部によるヘッド幅の増大化を防ぐことができる。しかし、その反面、側壁に形成した駆動電極を外部への引き出すための引出電極の形成が極めて複雑となる。例えば特許文献2においては、ダミーチャンネル及び噴射チャンネル用の凹溝を形成することに加えてアクチュエータ基板の前方端面や裏面にダミーチャンネルと連通する縦溝や分割溝を形成している。そして、アクチュエータ基板の全面にめっき法等により導電層を形成し、その後エキシマレーザ光を用いてダミーチャンネル内の電極層、アクチュエータ基板の前方端面、後方端面及び裏面の電極層をパターニングして引出電極を形成している。そのために、製造方法が極めて複雑となっている。
【0013】
また、特許文献3においては、ヘッドチップの上部基板に各チャンネルに対応させて貫通電極を形成し、圧電素子の側壁面に形成した駆動電極と電気的に接続し、更にその上部に位置する上面包持部にも各チャンネルに対応させて貫通電極を形成している。そのため、製造工程が極めて複雑になる。また、圧電素子からなる側壁の上面に形成した電極と上部基板に形成した電極との間のコンタクトや、上部基板に形成した電極と上面包持部に形成した電極との間のコンタクトが必要となり、多数のコンタクト部を必要とすることから、コンタクト部の信頼性を確保することが極めて難しい。
【0014】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、簡便な製造方法で構成することができ、小型化の容易な液体噴射ヘッドを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明による液体噴射ヘッドは、基板表面の前方端から後方端に亘って圧電体からなる側壁により離隔された複数の細長い溝を有し、前記側壁の壁面に駆動用の側壁電極を有し、前記側壁の後方端近傍の上面に前記側壁電極に電気的に接続する引出電極を有する圧電体基板と、前記細長い溝に連通し、前記溝に液体を供給するためのマニホールドを備え、前方端から前記引出電極の手前までの表面領域を覆って前記圧電体基板に接合するカバープレートと、前記カバープレートと前記細長い溝により構成されるチャンネルのうち、前記マニホールドに連通し前記マニホールドよりも後方端側に構成される後方チャンネルの開口を閉塞する封止材と、を備えるようにした。
【0016】
また、前記封止材は、前記後方チャンネルの前記マニホールドの側に開口する開口部に設置されるようにした。
【0017】
また、前記封止材は、前記後方チャンネルの後方端側に開口する開口部に設置されるようにした。
【0018】
また、前記圧電体基板は、低誘電率の基板の上に高誘電率の圧電体からなる側壁が立設するようにした。
【0019】
また、前記圧電体基板の後方端近傍に接合し、前記引出電極に電気的に接続する配線電極を有するフレキシブル基板を更に備え、前記引出電極は、前記チャンネルを構成する2つの側壁のうち一方の側壁の上面に設置した第一引出電極と他方の側壁の上面に設置した第二引出電極を含み、前記第一引出電極は前記一方の側壁の壁面に設置した側壁電極に電気的に接続し、前記第二引出電極は前記他方の側壁の壁面に設置した側壁電極に電気的に接続しており、前記フレキシブル基板の配線電極は、前記第一引出電極と第二引出電極とを電気的に接続するようにした。
【0020】
また、前記細長い溝は、前記マニホールドに連通し液滴を吐出するための吐出チャンネルと前記マニホールドに連通しないダミーチャンネルとが交互に並列に配列しており、前記引出電極は、前記ダミーチャンネルを構成する2つの側壁のうち一方の側壁の上面に設置した第三引出電極と他方の側壁の上面に設置した第四引出電極を含み、前記第三引出電極は前記一方の側壁の壁面に設置した側壁電極に電気的に接続し前記第四引出電極は前記他方の側壁の壁面に設置した側壁電極に電気的に接続しており、前記配線電極は、前記吐出チャンネルの一方の側に隣接するダミーチャンネルの他方の側壁の上面に設置した第四引出電極と、他方の側に隣接するダミーチャンネルの一方の側壁の上面に設置した第三引出電極とを電気的に接続する第二配線電極を有するようにした。
【0021】
また、前記配線電極は、前記吐出チャンネルの両側壁の上面に設置した第一及び第二引出電極と、他の吐出チャンネルの両側壁の上面に形成した他の第一及び第二引出電極とを電気的に接続する共通配線電極を含むようにした。
【0022】
本発明の液体噴射ヘッドは、上記いずれかに記載の液体噴射ヘッドと、前記液体噴射ヘッドを往復移動させる移動機構と、前記液体噴射ヘッドに液体を供給する液体供給管と、前記液体供給管に前記液体を供給する液体タンクと、を備えるようにした。
【発明の効果】
【0023】
本発明の液体噴射ヘッドは、基板表面の前方端から後方端に亘って圧電体からなる側壁により離隔された複数の細長い溝を有し、その側壁の壁面に駆動用の側壁電極を有し、その側壁の後方端近傍の上面に側壁電極に電気的に接続する引出電極を有する圧電体基板と、細長い溝に連通し、その溝に液体を供給するためのマニホールドを備え、前方端から引出電極の手前までの表面領域を覆って圧電体基板に接合するカバープレートと、カバープレートと細長い溝により構成されるチャンネルのうち、マニホールドに連通しマニホールドよりも後方端側に構成される後方チャンネルの開口を閉塞する封止材と、を備えている。即ち、後方チャンネルは封止材により封止されるのでダイシングブレードの外形が転写される傾斜部を形成する必要が無くなり、圧電体基板の細長い溝方向の幅を縮小することができる。また、引出電極を後方端近傍の側壁上面に形成したので電極取り出し構造を簡素化し、複雑な工程を通して配線パターンを形成する必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第一実施形態に係る液体噴射ヘッドの分解斜視部である。
【図2】本発明の第一実施形態に係る液体噴射ヘッドの説明図である。
【図3】本発明の第一実施形態に係る液体噴射ヘッドの引出電極構造の説明図である。
【図4】本発明の第二実施形態に係る液体噴射ヘッドの縦断面図である。
【図5】本発明の第三実施形態に係る液体噴射ヘッドの分解斜視図である。
【図6】本発明の第三実施形態に係る液体噴射ヘッドの説明図である。
【図7】本発明の第三実施形態に係る液体噴射ヘッドのマニホールド部の縦断面図である。
【図8】本発明の第三実施形態に係る液体噴射ヘッドの電極構造の説明図である。
【図9】本発明の第四実施形態に係る液体噴射ヘッドの分解斜視部である。
【図10】本発明の第四実施形態に係る液体噴射ヘッドの引出電極構造の説明図である。
【図11】本発明の第五実施形態に係る液体噴射装置の模式的な斜視図である。
【図12】従来公知のインクジェットヘッドの分解斜視部である。
【図13】従来公知のインクジェットヘッドの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の液体噴射ヘッドは、基板表面の前方端から後方端に亘って複数の細長い溝を並列に形成した圧電体基板と、細長い溝に液体を供給するためのマニホールドを有し、圧電体基板の前方端から後方端の手前までの表面領域を覆うように接合したカバープレートと、カバープレートと細長い溝により構成されるチャンネルのうち、マニホールドよりも後方端側に構成される後方チャンネルの開口を閉塞する封止材とを備えている。
【0026】
ここで、基板表面に形成した複数の溝は圧電体からなる側壁により離隔している。側壁の壁面には側壁を変形駆動するための側壁電極を設置し、更にこの側壁の後方端近傍の上面には上記側壁電極に電気的に接続する引出電極を設置した。カバープレートは、基板表面の前方端から引出電極の手前までの表面領域を覆うように圧電体基板に接合してチャンネルを構成している。
【0027】
このように、細長い溝を圧電体基板の表面の前方端から後方端に亘ってストレートに形成したので溝に傾斜部を設ける必要が無く、圧電体基板のチャンネル方向の幅を縮小することができる。また、吐出チャンネルの後方端側は封止材で閉塞したので吐出用液体が後方端側に漏れ出すこともない。加えて、外部回路から駆動信号を入力する引出電極を後方端側の側壁上面に形成し、側壁の壁面に形成した側壁電極と電気的に接続する構成としたので、電極パターンの形成が容易となる。
【0028】
なお、封止材は、後方チャンネルのマニホールドの側に開口する開口部やマニホールドとは反対側の後方端側に開口する開口部、或いはこれら開口部の中間部に設置することができる。特に、マニホールドの側に開口する開口部を閉塞すれば、後方チャンネル内の液溜まりを無くすことができ、流路のクリーニングが容易となる。
【0029】
また、フレキシブル基板を圧電体基板の後方端近傍に接合して外部から駆動信号を供給することができる。フレキシブル基板の表面に形成した配線電極と側壁上面に形成した引出電極とを電気的に接続する。ここで、引出電極は、チャンネルを構成する2つの側壁のうち一方の側壁の上面に設置した第一引出電極と他方の側壁の上面に設置した第二引出電極を含み、第一引出電極は当該一方の側壁の壁面に設置した側壁電極に電気的に接続し、第二引出電極は当該他方の側壁の壁面に設置した側壁電極に電気的に接続するように構成することができる。そして、フレキシブル基板の配線電極は上記第一引出電極と第二引出電極とを電気的に接続する第一配線電極を含むように構成することができる。これにより、溝を構成する一方の側壁の壁面と他方の側壁の壁面のそれぞれに形成した側壁電極を圧電体基板上で接続する必要が無く、電極や電極パターンの形成工程を簡素化することができる。
【0030】
また、細長い溝は、マニホールドに連通し液滴を吐出するための吐出チャンネルと、マニホールドに連通しないダミーチャンネルとが交互に並列に配列するように構成することができる。そして、引出電極は、ダミーチャンネルを構成する2つの側壁のうち一方の側壁の上面に設置した第三引出電極と、他方の側壁の上面に設置した第四引出電極とを含む構成とすることができる。ここで、第三及び第四引出電極はそれぞれ一方及び他方の側壁の壁面に設置した側壁電極に電気的に接続している。また、配線電極は、吐出チャンネルの一方の側に隣接するダミーチャンネルの他方の側壁の上面に設置した第四引出電極と、他方の側に隣接するダミーチャンネルの一方の側壁の上面に設置した第三配線電極とを電気的に接続する第二配線電極を含むように構成することができる。また、配線電極として、吐出チャンネルの両側壁の上面に設置した第一及び第二引出電極と、他の吐出チャンネルの両側壁の上面に形成した他の第一及び第二引出電極とを電気的に接続する共通配線電極を含むように構成することができる。
【0031】
これにより、吐出チャンネルとダミーチャンネルとが交互に配列する場合でも、吐出チャンネルの両側に位置するダミーチャンネルの吐出チャンネル側の側壁の壁面に形成した側壁電極同士を圧電体基板上で接続する必要が無くなり、電極形成工程や電極パターン形成工程をより一層簡素化することができる。以下、本発明の液体噴射ヘッドについて、図面を用いて具体的に説明する。
【0032】
(第一実施形態)
図1は、本発明の第一実施形態に係る液体噴射ヘッド1の分解斜視図であり、図2(a)はその液体噴射ヘッド1の上面図であり、(b)はその側面図であり、(c)は部分AAの縦断面図である。図1に示すように、液体噴射ヘッド1は、基板2とその表面に形成した側壁3からなる圧電体基板4と、圧電体基板4の表面に接合したカバープレート11と、圧電体基板4の前方端FEに設置したノズルプレート20と、圧電体基板4の後方端RE近傍の上面に設置したフレキシブル基板15と、カバープレート11の後方端RE側の端面と圧電体基板4との角部に設置した封止材14(図1(a)では省略した)を備えている。
【0033】
圧電体基板4は、その表面の前方端FEから後方端REに亘って圧電体からなる側壁3により離隔された複数の細長い溝5を有している。各側壁3の壁面には側壁3を変形駆動するための側壁電極6を形成した。各側壁3の後方端RE近傍の上面には2つの引出電極8a、8bを形成した。各引出電極8a、8bは側壁3上面中央部において電気的に分離し、側壁3の上面の一方の引出電極8aは一方の壁面に形成した側壁電極6に電気的に接続し、上面の他方の引出電極8bは他方の壁面に形成した側壁電極6に電気的に接続している。
【0034】
圧電体基板4は基板2と側壁3が同じ圧電体材料、例えばPZTセラミックスにより形成することができる。また、後の第四実施形態で説明するように、基板2として圧電体よりも誘電率の小さい低誘電体材料、例えばガラス材料や他の絶縁体材料を使用し、側壁3として圧電体材料を使用することができる。このように、溝5を前方端FEから後方端REに亘ってストレートの形状としたので、ダイシングブレードの外形が転写されることがなく、圧電体基板4の溝5方向の幅を縮小することができる。
【0035】
カバープレート11は、前方端FEから引出電極8の手前までの領域を覆うようにして圧電体基板4の上面に接着材を用いて接合した。なお、図1においてカバープレート11は一部分のみを示している。カバープレート11は吐出用の液体を保持し、溝5に液体を供給するためのマニホールド9及び凹部16を備えている。カバープレート11の下面と溝5により液体の流路であるチャンネルを構成した。このチャンネルのうち、マニホールド9よりも前方を吐出チャンネル12、後方を後方チャンネル10とする。カバープレート11として圧電体基板4と同じ材料を使用することができる。同じ材料を使用すれば、温度変化に対して反りや剥がれを防止することができる。また、ガラス、セラミックス、高分子材料等の絶縁材料を使用することができる。この場合に、圧電体基板4と同程度の熱膨張係数を有する材料を使用することが好ましい。
【0036】
封止材14は、後方チャンネル10の後方端側の開口部にディスペンサーを用いて塗布した。これにより、後方チャンネル10を介して液体の外部への漏えいを防止する。封止材14として高分子材料やゴム系材料の接着材を用いることができる。封止材14は弾力性を有する材料を使用するのが好ましく、例えばフッ素系のエラストマーを使用することができる。弾力性を有するほうが温度変化等の環境変化に対して信頼性を維持することができる。
【0037】
ノズルプレート20は、圧電体基板4の前方端FEとこの前方端FEと面一に形成したカバープレート11の前方端面に接合している。ノズルプレート20は溝5からなる吐出チャンネル12の対応する位置にノズル21を備えている。ノズルプレートとして例えばポリイミド樹脂等の高分子材料を使用することができる。フレキシブル基板15は、圧電体基板4の後方端REの上面に図示しない異方性導電材を介して接着した。フレキシブル基板15は可撓性基板17の表面に配線電極18を備え、その上に保護膜22を備える多層膜からなり、配線電極18と引出電極8a、8bとを電気的に接続している。
【0038】
図3は、図2(a)に示す上面図の部分BBの部分縦断面図である。圧電体基板4の表面に複数の溝5a〜5dを形成し、溝5a〜5dの各溝は側壁3a〜3cによりにより離隔している。側壁3aの一方の側面に側壁電極6aを、他方の壁面に側壁電極6bを、その上面に側壁電極6aに電気的に接続する第一引出電極8aと側壁電極6bに電気的に接続する第二引出電極8bを形成した。同様に、側壁3bの一方の側面に側壁電極6cを、他方の壁面に側壁電極6dを、その上面に側壁電極6cに電気的に接続する第一引出電極8cと側壁電極6dに電気的に接続する第二引出電極8dを形成した。側壁3cやその他の側壁も同様の電極構造を有する。なお、この溝5a〜5dの各溝が以下で説明する吐出チャンネル12a〜12dにそれぞれ対応する。
【0039】
側壁3a〜3c上の側壁電極6a〜6eや第一及び第二引出電極8a〜8fは金属材料を斜め蒸着法により蒸着して同時に形成することができる。まず、各側壁3a〜3cの上面にレジスト膜の必要なパターンを形成する。次に、図3の左斜め下方から例えばAlを蒸着し、側壁3a〜3cの一方の壁面と上面にAl膜を形成する。次に、図3の左斜め上方から同様にAlを蒸着し、側壁3a〜3cの他方の壁面と上面にAl膜を形成する。なお、Alを斜め蒸着法により堆積したので、各溝5a〜5dの底面には堆積されず、そのために側壁電極6bと6cや側壁電極6dと6eは電気的に分離している。次に、レジスト膜を除去してリフトオフ法により上面にAl膜のパターンを形成する。このように、各電極は金属の蒸着及びリフトオフ法により簡便に形成することができる。
【0040】
フレキシブル基板15の圧電体基板4側には互いに電気的に分離する第一配線電極18a〜18dを形成した。第一配線電極18bは、溝5bの両側壁3a、3bの上面に形成した第一及び第二引出電極8b、8cを電気的に接続し、第一配線電極18cは、溝5cの両側壁3b、3cの上面に形成した第一及び第二引出電極8d、8eを電気的に接続し、その他の第一配線電極も同様に隣接する側壁3上の第一及び第二引出電極を電気的に接続している。
【0041】
この液体噴射ヘッド1は次のように駆動する。まず、マニホールド9に液体として例えばインクを充填し、凹部16を介して吐出チャンネル12a〜12dにインクを満たす。そして、フレキシブル基板15から圧電体基板4に駆動信号を供給する。例えば溝5bに構成した吐出チャンネル12bを駆動する場合は、第一配線電極18aと18cをGNDとし、第一配線電極18bに駆動信号の正の電圧を印加する。これにより一時的に側壁3aが溝5a側へ、側壁3bが溝5c側へそれぞれ膨らむように変形する。この変形は圧電体基板4の分極方向と電圧を印加する方向が直交することによって生じるせん断変形であり、両側壁3a、3bが変形することによって溝5bの容積は一時的に拡大する。この容積拡大に伴って、溝5b内の圧力は負圧状態になるため、負圧状態を解消するようにマニホールド9および凹部16を介して溝5b内にインクが供給される。供給されたインクの圧力は圧力波となって溝5bを進行し、やがてノズル21に到達する。このタイミングで、先ほど両側壁3a、3bの電極に印加した電圧の極性を反転させ、両側壁3a、3bを溝5b側に向かって膨らむように変形させる。つまり、第一配線電極18aと18cに駆動信号の正の電圧を印加し、第一配線電極18bをGNDとすることで、一時的に溝5b内の容積を縮小する。この動作により、ノズル20に到達したインクの圧力波に加えて、両側壁3a、3bを変形させて溝5b内のインクを押圧し、溝5bの内部に充填されたインクをノズル21から噴射する。これを溝5c、5d、5b・・・の順で繰り返し実行する(3サイクル駆動という)。これにより、全吐出チャンネルからインクを吐出させることができる。
【0042】
(第二実施形態)
図4は、本発明に第二実施形態に係る液体噴射ヘッド1の縦断面図である。第一実施形態を示す図2(c)と異なる部分は、封止材14をマニホールド9に開口する後方チャンネル10の開口部に設置した点である。その他の構成は第一実施形態と同様なので説明を省略する。
【0043】
マニホールド9及び凹部16に連通する後方チャンネル10がマニホールド9側に開口する開口部を封止材14により封止した。これにより、後方チャンネル10には液体が流入することがないので、液体が後方チャンネル10の内部に滞留しない。後方チャンネル10内に液溜まりを無くしたことにより、吐出チャンネル12やマニホールド9内の液体の置換が容易になり、液体内に混入した気泡や塵埃を迅速に除去することができる。なお、本発明は封止材14の設置個所を第一実施形態のように後方チャンネル10の後方端側や第二実施形態のように後方チャンネル10のマニホールド9側とすることに限定されず、後方チャンネル10のいずれかの位置又は後方チャンネル10全体に亘って設置してもよい。
【0044】
(第三実施形態)
図5は、本発明の第三実施形態に係る液体噴射ヘッド1の分解斜視図であり、図6(a)は液体噴射ヘッド1の上面図であり、(b)は電極の接続状態を表す上面模式図であり、(c)は部分CCの縦断面図であり、図7は、図6(a)に示す部分DDの部分縦断面図である。同一の部分または同一の機能を有する部分には同一の符号を付している。
【0045】
図5及び図6に示すように、液体噴射ヘッド1は、基板2とその表面に形成した側壁3からなる圧電体基板4と、圧電体基板4の表面に接合したカバープレート11と、圧電体基板4の前方端FEに設置したノズルプレート20と、圧電体基板4の後方端RE近傍の上面に接着したフレキシブル基板15と、カバープレート11の後方端RE側の端面と圧電体基板4との角部に設置した封止材14を備えている。
【0046】
圧電体基板4は、基板2と側壁3を備え、基板2の表面に側壁3により離隔された複数の細長い溝5を構成し、複数の溝5は基板2の前方端FEから後方端REまでストレートに形成した。複数の溝5を離隔する側壁3の後方端RE側の上面には複数の引出電極8を形成した。カバープレート11は、液体を溝5に供給するためのマニホールド9を備え、圧電体基板4の前方端FEから引出電極8の手前までの表面領域を覆うように圧電体基板4に接着材により接合した。図5において、カバープレート11は一部分のみを示している。カバープレート11と圧電体基板4の溝5により囲まれる領域をチャンネルとして、液体を吐出させるための吐出チャンネル12と液体を充填しないダミーチャンネル13とを交互に並列に構成した。
【0047】
ノズルプレート20は、基板2の前方端FEと面一に接合したカバープレート11の前方端に接着固定した。ノズルプレート20は吐出チャンネル12の対応する位置にノズル21を備えている。圧電体基板4の後方端RE近傍の上面には外部回路と接続し圧電体基板4に駆動信号を供給するためのフレキシブル基板15を接着している。基板2、側壁3、カバープレート11、ノズルプレート20の材料等は第一実施形態と同様なので説明を省略する。
【0048】
カバープレート11に形成したマニホールド9は吐出チャンネル12に連通孔23を介して連通し、ダミーチャンネル13とは連通していない。そのために、吐出チャンネルには液体が流入し、ダミーチャンネル13には液体が流入しない。また、マニホールド9の位置よりも後方端RE側には後方チャンネル10が構成され、封止材14は後方チャンネル10の後方端RE側の開口部を閉塞している。これにより、液体が後方チャンネル10を介して外部やダミーチャンネル13に漏えいすることを防止している。なお、上述する吐出チャンネル12にはノズル21が連通しているが、ダミーチャンネル13に対応する位置にはノズル21が設けられていない。
【0049】
次に電極構成について、図6(a)、(b)及び図7を参照して具体的に説明する。吐出チャンネル12aを構成する2つの側壁3a、3bのうち一方の側壁3bの上面に第一引出電極8aを形成し、他方の側壁3aの上面に第二引出電極8bを形成した。また、一方の側壁3bの他方の壁面には側壁電極6bを形成し第一引出電極8aと電気的に接続し、他方の側壁3aの一方の壁面には側壁電極6aを形成し、第二引出電極8bと電気的に接続した。他の吐出チャンネル12b〜12dも同様の電極構成とした。なお、第一及び第二引出電極8a、8bは圧電体基板4の後方端REよりも離間した位置に設置した。そして、フレキシブル基板15に形成した第一配線電極18aは上記第一及び第二引出電極8a、8bに電気的に接続することにより、第一引出電極8aと第二引出電極8bとを電気的に接続している。他の吐出チャンネル12b、12c・・・においてもこの電気的な接続は同様である。更に、吐出チャンネル12aに対応する第一配線電極18aは、他の吐出チャンネル12b、12c・・・のそれぞれに対応する第一配線電極18aに共通配線電極24を介して電気的に接続している。
【0050】
更に、ダミーチャンネル13aを構成する2つの側壁のうち一方の側壁3aの上面に第三引出電極8rを形成し、ダミーチャンネル13bを構成する2つの側壁のうち他方の側壁3bの上面に第四引出電極8sを形成した。また、一方の側壁3aの他方の壁面には側壁電極6bを形成し第三引出電極8rと電気的に接続し、他方の側壁3bの一方の壁面には側壁電極6aを形成し、第四引出電極8sと電気的に接続した。他のダミーチャンネル13b〜13dも同様の電極構成とした。吐出チャンネル12aを跨いで配置された第三及び第四引出電極8r、8sは圧電体基板4の後方端REに近接して形成した。そして、フレキシブル基板15に形成した第二配線電極18bは上記吐出チャンネル12aを跨ぐ第三及び第四引出電極8r、8sに電気的に接続することにより第三引出電極8rと第四引出電極8sとを電気的に接続している。他のダミーチャンネル13b、13c・・・も同様の電極構成を備えている。各第二配線電極18bは各個別配線電極25に接続している。
【0051】
図6(a)及び(b)に示すように、フレキシブル基板15はその外周に沿ってパターニングした共通配線電極24と、その内側に互いに電気的に分離する多数の個別配線電極25を備えている。吐出チャンネル12の両側壁に形成した側壁電極6a、6bは第一及び第二引出電極8a、8bを介して第一配線電極18aにより短絡し、共通配線電極24に電気的に接続する。また、吐出チャンネル12の両側にはダミーチャンネル13を配置し、2つのダミーチャンネル13の吐出チャンネル12側の側壁3に形成した2つの側壁電極を第三引出電極8rと第四引出電極8sを介して第二配線電極18bにより短絡し、個別配線電極25に電気的に接続するように構成した。
【0052】
図6(c)に示すように、フレキシブル基板15を後方端REの上面に図示しない異方性導電膜を介して接着した。フレキシブル基板15は可撓性基板17、配線電極18等及び保護膜22の積層構造を有し、カバープレート11側端部には第一配線電極18aとその外周側に共通配線電極24を有している。フレキシブル基板15のカバープレート11側端部に形成した共通配線電極24は側壁3の上面から浮かせて接着している。共通配線電極24を側壁3の上面から浮かせることにより、側壁3の側面、特にダミーチャンネル13を構成する側壁3の側壁電極6と共通配線電極24とが短絡しないようにした。配線電極18と引出電極8の接続部は保護膜22を除去して第一及び第二配線電極18a、18bを露出させ、第一配線電極18aを第一及び第二引出電極8a、8bに、また、第二配線電極18bを第三及び第四引出電極8r、8sに電気的に接続する。
【0053】
なお、封止材14を後方チャンネル10の後方端RE側の開口部に設置した。これを、第二実施形態に示すように、後方チャンネル10のマニホールド9の側に開口する開口部に設置してもよい。あるいは、後方チャンネル10のマニホールド9側の開口部と後方端RE側の開口部の中間部に設置してもよい。また、封止材14を吐出チャンネル12に対応する後方チャンネル10にのみ設置してもよいし、これに加えてダミーチャンネル13に対応する後方チャンネル10に設置してもよい。
【0054】
次に、図8を用いて本第三実施形態の駆動について説明する。図8は、側壁3a〜3gとカバープレート11により囲まれる吐出チャンネル12a〜12d及びダミーチャンネル13a〜13dの側壁電極の回路図を表している。各吐出チャンネル12a〜12dは液体を保持し、各ダミーチャンネル13a〜13dは空の状態である。吐出チャンネル12の2つの側壁3に設置した側壁電極6は第一配線電極18a及び共通配線電極24を介してGNDに接続する。吐出チャンネル12に隣接する2つのダミーチャンネル13の吐出チャンネル12側の側壁3に形成した2つの側壁電極6は第二配線電極18b及び個別配線電極25を介して端子Tに接続する。
【0055】
例えば吐出チャンネル12aを駆動する場合は、端子Taに駆動信号を与える。これにより一時的に側壁3aがダミーチャンネル13a側へ、側壁3bがダミーチャンネル13b側へそれぞれ膨らむように変形する。この変形は前述したせん断変形と同様であり、両側壁3a、3bが変形することによって吐出チャンネル12aの容積は一時的に拡大する。この容積拡大に伴って、吐出チャンネル12a内の圧力は負圧状態になるため、負圧状態を解消するようにマニホールド9および連通孔23を介して吐出チャンネル12a内に液体が供給される。供給された液体の圧力は圧力波となって吐出チャンネル12aを進行し、やがてノズル21に到達する。このタイミングで、両側壁3a、3bの電極に印加した電圧をGNDにすることで、両側壁3a、3bを膨らんだ状態から電圧を印加していない平坦な状態に戻す。つまり、膨張状態の吐出チャンネル12aを元の状態に戻すことで、一時的に溝5b内の容積を縮小する。この動作により、ノズル21に到達した液体の圧力波に加えて、両側壁3a、3bの元に戻る変形によって吐出チャンネル12a内の液体を押圧し、吐出チャンネル12aの内部に充填された液体をノズルから噴射する。
【0056】
また、吐出チャンネル12bを駆動する場合は端子Tbに駆動信号を与える。例えば吐出チャンネル12cを駆動し吐出チャンネル12dを駆動しない場合には、ダミーチャンネル13dの吐出チャンネル12c側の側壁に形成した側壁電極6には駆動信号が与えられ、吐出チャンネル12d側の側壁に形成した側壁電極6には駆動信号が与えられない場合でも、ダミーチャンネル13dには液体が充填されていないので、2つの側壁電極6間で駆動信号の漏えいが生じない。即ち、吐出チャンネル12a〜12dを独立に同時に駆動することができる(1サイクル駆動)。また、すべての吐出チャンネル12a〜12dはGND電位の側壁電極6に接しているので、吐出チャンネル12a〜12d内の液体が導電性であっても電流の漏れは生じない。
【0057】
(第四実施形態)
図9は、本発明の第四実施形態に係る液体噴射ヘッド1の分解斜視図であり、図10は部分EEの引出電極構造の説明図である。第一実施形態と異なる部分は、基板2と側壁3の材料が異なる点であり、その他の点は第一実施形態と同様なので、説明を省略する。同一の部分または同一の機能を有する部分には同一の符号を付している。
【0058】
図10に示すように、基板2の上面には圧電体からなる側壁3a、3b、3c、3dが立設し、その上部にフレキシブル基板15が接合する(図では説明のために分離している)。各溝5a〜5dの両側壁は側壁電極6を有し、各側壁3a〜3dはその上面に互いに電気的に分離する第一及び第二引出電極8a、8bを有している。フレキシブル基板15を側壁3a〜3dの上面に接合すると、例えば溝5aの両側壁の上面に形成した第一及び第二引出電極8a、8bは第一配線電極18aに電気的に接続する。他の溝5b〜5dも同様の接続構造を有する。
【0059】
側壁3は圧電体を使用し、基板2は圧電体よりも誘電率の小さい低誘電率材料を使用した。高誘電率の圧電体層と低誘電率の基板2とを接着材により接合する。そして、ダイシングブレード等を用いて、圧電体層の厚さよりもわずかに深く研削して溝5a〜5dを形成する。これにより、隣接する側壁3a、3b間の圧電体材料を完全に除去することができる。圧電体材料としてPZT等の高誘電率材料を使用し、基板2としてガラス等の低誘電率材料を使用することができる。溝5の底面には基板2が露出している。これにより、例えば溝5aの両側壁3a、3bの側壁電極6に印加した電圧が、容量結合により基板2を介して側壁3cや3dに伝達し、側壁3cや3dを変形して溝5bや5cの内容積を変化させる誤作動を防止することができる。
【0060】
なお、本第四実施形態を第一実施形態の構成に基づいて説明したが、第二や第三実施形態の場合も同様に、基板2を低誘電率材料、側壁3を高誘電率の圧電体材料を使用することができることは言うまでもない。
【0061】
(第五実施形態)
図11は、本発明の第五実施形態に係る液体噴射装置30の模式的な斜視図である。
液体噴射装置30は、上記本発明に係る液体噴射ヘッド1、1’を往復移動させる移動機構4と、液体噴射ヘッド1、1’に液体を供給する液体供給管33、33’と、液体供給管33、33’に液体を供給する液体タンク31、31’を備えている。各液体噴射ヘッド1、1’は本発明に係る液体噴射ヘッド1から構成される。即ち、基板表面の前方端FEから後方端REに亘って複数の細長い溝5を並列に形成した圧電体基板4と、細長い溝5に液体を供給するためのマニホールド9を有し、圧電体基板4の前方端FEから後方端REの手前までの表面領域を覆うように接合したカバープレート11と、カバープレート11と細長い溝5により構成されるチャンネルのうち、マニホールド9よりも後方端RE側に構成される後方チャンネル10の開口を閉塞する封止材14等を備えている。
【0062】
具体的に説明する。液体噴射装置30は、紙等の被記録媒体34を主走査方向に搬送する一対の搬送手段41、42と、被記録媒体34に液体を吐出する液体噴射ヘッド1、1’と、液体タンク31、31’に貯留した液体を液体供給管33、33’に押圧して供給するポンプ32、32’と、液体噴射ヘッド1を主走査方向と直交する副走査方向に走査する移動機構43等を備えている。
【0063】
一対の搬送手段41、42は副走査方向に延び、ローラ面を接触しながら回転するグリッドローラとピンチローラを備えている。図示しないモータによりグリッドローラとピンチローラを軸周りに移転させてローラ間に挟み込んだ被記録媒体34を主走査方向に搬送する。移動機構43は、副走査方向に延びた一対のガイドレール36、37と、一対のガイドレール36、37に沿って摺動可能なキャリッジユニット38と、キャリッジユニット38を連結し副走査方向に移動させる無端ベルト39と、この無端ベルト39を図示しないプーリを介して周回させるモータ40を備えている。
【0064】
キャリッジユニット38は、複数の液体噴射ヘッド1、1’を載置し、例えばイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4種類の液滴を吐出する。液体タンク31、31’は対応する色の液体を貯留し、ポンプ32、32’、液体供給管33、33’を介して液体噴射ヘッド1、1’に供給する。各液体噴射ヘッド1、1’は駆動信号に応じて各色の液滴を吐出する。液体噴射ヘッド1、1’から液体を吐出させるタイミング、キャリッジユニット38を駆動するモータ40の回転及び被記録媒体34の搬送速度を制御することにより、被記録媒体34上に任意のパターンを記録することできる。
【0065】
この構成により、液体噴射ヘッド1の細長い溝方向の幅を縮小することができるので、キャリッジユニット38をコンパクトに構成することができる。また、液体噴射ヘッド1を複雑な工程を通して製造する必要がなく、製造工程を簡素化し、装置の低コスト化に寄与することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 液体噴射ヘッド
2 基板
3 側壁
4 圧電体基板
5 溝
6 側壁電極
8 引出電極
9 マニホールド
10 後方チャンネル
11 カバープレート
12 吐出チャンネル
13 ダミーチャンネル
14 封止材
15 フレキシブル基板
18 配線電極
20 ノズルプレート
21 ノズル
22 保護膜
23 連通孔
24 共通配線電極
25 個別配線電極
30 液体噴射装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面の前方端から後方端に亘って圧電体からなる側壁により離隔された複数の細長い溝を有し、前記側壁の壁面に駆動用の側壁電極を有し、前記側壁の後方端近傍の上面に前記側壁電極に電気的に接続する引出電極を有する圧電体基板と、
前記細長い溝に連通し、前記溝に液体を供給するためのマニホールドを備え、前方端から前記引出電極の手前までの表面領域を覆って前記圧電体基板に接合するカバープレートと、
前記カバープレートと前記細長い溝により構成されるチャンネルのうち、前記マニホールドに連通し前記マニホールドよりも後方端側に構成される後方チャンネルの開口を閉塞する封止材と、を備える液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記封止材は、前記後方チャンネルの前記マニホールドの側に開口する開口部に設置されている請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記封止材は、前記後方チャンネルの後方端側に開口する開口部に設置されている請求項1又は2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記圧電体基板は、低誘電率の基板の上に高誘電率の圧電体からなる側壁が立設している請求項1〜3のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記圧電体基板の後方端近傍に接合し、前記引出電極に電気的に接続する配線電極を有するフレキシブル基板を更に備え、
前記引出電極は、前記チャンネルを構成する2つの側壁のうち一方の側壁の上面に設置した第一引出電極と他方の側壁の上面に設置した第二引出電極を含み、前記第一引出電極は前記一方の側壁の壁面に設置した側壁電極に電気的に接続し、前記第二引出電極は前記他方の側壁の壁面に設置した側壁電極に電気的に接続しており、
前記フレキシブル基板の配線電極は、前記第一引出電極と第二引出電極とを電気的に接続する第一配線電極を有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記細長い溝は、前記マニホールドに連通し液滴を吐出するための吐出チャンネルと前記マニホールドに連通しないダミーチャンネルとが交互に並列に配列しており、
前記引出電極は、前記ダミーチャンネルを構成する2つの側壁のうち一方の側壁の上面に設置した第三引出電極と他方の側壁の上面に設置した第四引出電極を含み、前記第三引出電極は前記一方の側壁の壁面に設置した側壁電極に電気的に接続し前記第四引出電極は前記他方の側壁の壁面に設置した側壁電極に電気的に接続しており、
前記配線電極は、前記吐出チャンネルの一方の側に隣接するダミーチャンネルの他方の側壁の上面に設置した第四引出電極と、他方の側に隣接するダミーチャンネルの一方の側壁の上面に設置した第三引出電極とを電気的に接続する第二配線電極を有する請求項5に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
前記配線電極は、前記吐出チャンネルの両側壁の上面に設置した第一及び第二引出電極と、他の吐出チャンネルの両側壁の上面に形成した他の第一及び第二引出電極とを電気的に接続する共通配線電極を含む請求項6に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドを往復移動させる移動機構と、
前記液体噴射ヘッドに液体を供給する液体供給管と、
前記液体供給管に前記液体を供給する液体タンクと、を備える液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−213056(P2011−213056A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85450(P2010−85450)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(501167725)エスアイアイ・プリンテック株式会社 (198)
【Fターム(参考)】