説明

液体噴射ヘッド

【課題】インクジェット式記録ヘッドの製造時や使用時に、隔壁の端部の先端の欠けやクラックの発生を少なくでき、インクの吐出特性が安定したインクジェット式記録ヘッドを提供すること。
【解決手段】隔壁11の端部17の先端19とノズルプレート20との間に欠き部18が形成されている。隔壁11が形成された流路形成基板10には、インクジェット式記録ヘッド1の温度変化によって、あるいは流路形成基板10とノズルプレート20とを製造時に接着剤によって接合する際に力が加わる。この力は、隔壁11の楔形の端部17にも加わるが、加わった力が欠き部18で分散し、隔壁11の端部17の先端19に力が加わらない。したがって、インクジェット式記録ヘッド1の製造時や使用時に、隔壁11の端部17の先端19の欠けやクラックの発生を少なくでき、インクの吐出特性が安定したインクジェット式記録ヘッド1を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を噴射する液体噴射ヘッドに関し、特に、液体としてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドであるインクジェット式記録ヘッドとして、ノズル開口に連通するとともに隔壁により区画された圧力発生室と、延設された隔壁により区画された圧力発生室に連通するインク供給路およびインク供給路に連通する連通路と、連通路を介して複数の圧力発生室に連通する連通部とが形成された流路形成基板とを備えたものが知られている。
また、この流路形成基板の一方面側に形成される圧電素子と、流路形成基板の圧電素子側の面に接合され連通部とともにリザーバの一部を構成するリザーバ部を有するリザーバ形成基板と、流路形成基板の他方面側に接合されるノズルプレートとを備えている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2007−261215号公報(6項および7項、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
隔壁によって区画される圧力発生室、インク供給路、連通路および連通部は、例えば、シリコンウェハをウェットエッチングすることにより得られる。ウェットエッチングは異方性エッチングであるため、隔壁の端部の形状は楔形になる。
ここで、流路形成基板とノズルプレートとの接着時の加圧や、接着層と流路形成基板およびノズルプレートとの熱膨張差によって、隔壁の端部に力が加わり欠けやクラックを生じる。特に、端部の先端に欠けやクラックが生じやすい。欠けやクラックは、液体の吐出特性を変化させたり、欠けた端部の先端によって流路のつまりを生じたりする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]
複数の隔壁により区画され、液体を噴射するノズル開口に連通する複数の圧力発生室と、延設された前記隔壁によって形成されている、前記圧力発生室に連通する液体供給路および前記液体供給路に連通する連通路とからなる液体流路と、前記連通路に連通して複数の前記圧力発生室の共通の液体室となるリザーバの一部を構成する連通部とを備えた流路形成基板と、前記ノズル開口が形成され、前記ノズル開口と前記圧力発生室とが連通するように、前記流路形成基板の一方面側に接合されたノズルプレートと、前記流路形成基板の他方面に接合されて前記連通部と連通して前記リザーバの一部を構成するリザーバ部が設けられたリザーバ形成基板とを備え、前記流路形成基板と前記ノズルプレートおよび前記リザーバ形成基板とは接着層により接合され、前記隔壁の、前記連通部側の端部の形状が楔形であり、前記端部の先端には、前記ノズルプレートまたは前記リザーバ形成基板との間のいずれか一方に欠き部が形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【0007】
この適用例によれば、隔壁の端部の先端とノズルプレートまたはリザーバ形成基板との間の少なくとも一方に欠き部が形成されている。隔壁が形成された流路形成基板には、液体噴射ヘッドの温度変化によって、あるいは流路形成基板とノズルプレートとリザーバ形成基板とを製造時に接着剤によって接合する際に力が加わる。この力は、隔壁の楔形の端部にも加わるが、加わった力が欠き部で分散し、隔壁の端部の先端に力が加わらない。
したがって、液体噴射ヘッドの製造時や使用時に、隔壁の端部の先端の欠けやクラックの発生が少なく、液体の吐出特性が安定した液体噴射ヘッドが得られる。
なお、端部の先端とは、端部の両端の部分二ヶ所をいう。
【0008】
[適用例2]
上記液体噴射ヘッドであって、前記流路形成基板は面方位(110)のシリコン単結晶板であり、前記隔壁は異方性エッチングによって形成され、前記端部の稜線は、前記ノズルプレートおよび前記リザーバ形成基板に対し傾斜し、前記稜線と前記リザーバ形成基板とのなす角度は鋭角で、前記欠き部は、前記端部と前記ノズルプレートとの間に形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
この適用例では、流路形成基板が面方位(110)に基づいて異方性エッチングされるので、隔壁の端部の形状が楔形にエッチングされ、端部の稜線が傾斜する。傾斜によって、端部の片側の先端は、鋭角の尖った先端となる。この尖った先端がリザーバ形成基板側に位置し、欠き部が端部とノズルプレートとの間にあるので、ノズルプレートを接着する際に、欠き部で加わった力が分散し、尖った先端に対し、より前述の効果が得られる。
なお、稜線とは、楔形形状の先端の二面が交わる線をいう。
【0009】
[適用例3]
上記液体噴射ヘッドであって、前記接着層は、加熱硬化型接着剤であることを特徴とする液体噴射ヘッド。
この適用例では、接着層が加熱硬化型接着剤から形成されるので、接着剤硬化のために熱を加えた際に、ノズルプレートと流路形成基板と接着層との間の熱膨張差によって、流路形成基板に力が加わる。したがって、前述の効果がより得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1は、実施形態にかかるインクジェット式記録ヘッド1の長手方向(図中の白抜き矢印方向)に直交する面で切断した分解部分斜視図である。図2(a)は、概略部分平面図、(b)は(a)におけるA−A概略断面図である。
【0011】
図1および図2において、インクジェット式記録ヘッド1は、流路形成基板10とノズルプレート20とリザーバ形成基板30とコンプライアンス基板40と駆動IC210とを備えている。
流路形成基板10とノズルプレート20とリザーバ形成基板30とは、流路形成基板10をノズルプレート20とリザーバ形成基板30とで挟むように積み重ねられ、リザーバ形成基板30上には、コンプライアンス基板40が形成されている。また、コンプライアンス基板40上には、駆動IC210が実装されている。
【0012】
流路形成基板10は、面方位(110)のシリコン単結晶板からなり、その一方の面には予め熱酸化によって二酸化シリコンからなる厚さ0.5〜2μmの弾性膜50が形成されている。図1では、流路形成基板10の構造がわかるように、弾性膜50を分離して描いている。
【0013】
流路形成基板10には、弾性膜50が形成された面に対向する面側から異方性エッチングすることにより、複数の隔壁11によって区画された圧力発生室12が、インクジェット式記録ヘッド1の長手方向に並設されている。
圧力発生室12のインクジェット式記録ヘッド1の幅方向の断面形状は台形状で、圧力発生室12は、インクジェット式記録ヘッド1の幅方向に長く形成されている。
【0014】
流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向一端部側には、圧力発生室12とともに液体流路を構成するインク供給路14と連通路15とが、延設された隔壁11によって区画されている。
また、連通路15の一端には、各圧力発生室12の共通のインク室(液体室)となるリザーバ100の一部を構成する連通部13が形成されている。
【0015】
インク供給路14は、圧力発生室12の長手方向一端部側に連通し、かつ圧力発生室12より小さい断面積を有する。例えば、インク供給路14は、リザーバ100と各圧力発生室12との間の圧力発生室12側の流路を幅方向に絞ることで、圧力発生室12の幅より小さい幅で形成されている。
なお、このように、実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、流路形成基板10の厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。
【0016】
各連通路15は、圧力発生室12の幅方向両側の隔壁11を連通部13側に延設してインク供給路14と連通部13との間の空間を区画することで形成されている。
したがって、流路形成基板10には、圧力発生室12の幅方向の断面積より小さい断面積を有するインク供給路14と、このインク供給路14に連通するとともにインク供給路14の幅方向の断面積よりも大きい断面積を有する連通路15とからなる液体流路が複数の隔壁11により区画されて設けられている。
【0017】
ここで、流路形成基板10の圧力発生室12、インク供給路14および連通路15からなる液体流路と、連通部13との内壁表面には、耐インク性を有する材料、例えば、五酸化タンタル(Ta25)等の酸化タンタルからなる保護膜16が、約50nmの厚さで設けられている。
なお、ここで言う耐インク性とは、アルカリ性のインクに対する耐エッチング性のことである。
【0018】
また、流路形成基板10の圧力発生室12等が開口する側の表面、すなわち、ノズルプレート20が接合される接合面にも保護膜16が設けられているが、このような領域には、インクが実質的に接触しないため、保護膜16は設けられていなくてもよい。
また、このような保護膜16の材料は、酸化タンタルに限定されず、使用するインクのpH値によっては、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO2)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)等を用いてもよい。
【0019】
隔壁11の端部17の形状は、楔形である。楔形の形状は、異方性エッチングされるために生じる。
また、端部17の先端には、ノズルプレート20との間に欠き部18が形成されている。図2(b)中に欠き部18付近の拡大図を示した。ここで、欠き部18の内面にも保護膜16が設けられている。
【0020】
端部17の稜線170は、ノズルプレート20およびリザーバ形成基板30に対し傾斜している。欠き部18とは反対側の先端19における、稜線170とリザーバ形成基板30とのなす角度θは鋭角になっている。
【0021】
流路形成基板10の保護膜16が形成された面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。実施形態では、接着剤によって形成された接着層22で接着されている。
なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼等からなる。
【0022】
一方、このような流路形成基板10のノズルプレート20とは反対側の面には、上述したように、厚さが例えば約1.0μmの弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、厚さが例えば、約0.4μmの絶縁体膜51が形成されている。
さらに、この絶縁体膜51上には、厚さが例えば、約0.2μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約1.0μmの圧電体層70と、厚さが例えば、約0.05μmの上電極膜80とが、積層形成されて、圧電素子300を構成している。
ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を含む部分をいう。
【0023】
一般的には、圧電素子300のいずれか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。実施形態では、下電極膜60を圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。
【0024】
また、このような各圧電素子300の上電極膜80には、密着層91及び金属層92からなる配線層190で構成されるリード電極90がそれぞれ接続され、このリード電極90を介して各圧電素子300に選択的に電圧が印加されるようになっている。
また、詳しくは後述するが、連通部13の開口周縁部に対応する領域の振動板、すなわち、弾性膜50及び絶縁体膜51上にも、密着層91及び金属層92からなるが、リード電極90とは不連続の配線層190が存在している。
【0025】
さらに、流路形成基板10の圧電素子300側の面には、リザーバ100の少なくとも一部を構成するリザーバ部31を有するリザーバ形成基板30が接合されている。このリザーバ形成基板30と流路形成基板10とは、接着剤35によって接合されている。リザーバ形成基板30のリザーバ部31は、弾性膜50及び絶縁体膜51に設けられた貫通部52を介して連通部13と連通され、これらリザーバ部31及び連通部13によってリザーバ100が形成されている。
【0026】
圧力発生室12、インク供給路14及び連通路15からなる液体流路は、各圧力発生室12毎に独立して設けられ、各圧力発生室12とリザーバ100との間の個別の流路を構成している。
このように連通路15を設けることにより、インク吐出の際、隣接するインク供給路14からリザーバ100側へ流出するインク同士が干渉することがなく、クロストークの発生を防止できる。
したがって、隣接するノズル開口21からインク滴を吐出させるか否かに関係なく、安定したインク吐出特性を得ることができる。また、クロストークを発生させることなくインク供給路14を短くすることができ、メニスカスの減衰特性を実質的に高めてヘッドの高速駆動を実現することも可能となる。
【0027】
また、隔壁11が振動板を構成する弾性膜50と接している面側の先端19は、流路形成基板10とリザーバ形成基板30とが接合される接合部分に対向する領域内、すなわち、連通部13とリザーバ部31とを連通する貫通部52よりも内側に配置されている。
これは、例えば、隔壁11のリザーバ部31側の弾性膜50と接している面側の先端19がリザーバ100側に突出すると、後述する製造工程において、連通部13とリザーバ部31とを隔離する配線層上の保護膜16を剥離した際に、保護膜16が連通部13とリザーバ部31との間に庇状に残留した残渣が発生してしまうからである。すなわち、隔壁11の弾性膜50と接している面側の先端19が、リザーバ部31側に突出して設けられた場合、隔壁11が連通部13とリザーバ部31とを隔離する配線層を拘束するため、配線層上の保護膜16を剥離する際に、配線層の変形を阻害して、配線層上の保護膜16を完全に剥離することができなくなるからである。
【0028】
リザーバ形成基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子300は、この圧電素子保持部32内に形成されているため、外部環境の影響を殆ど受けない状態で保護されている。
なお、圧電素子保持部32は、密封されていてもよいし密封されていなくてもよい。このようなリザーバ形成基板30の材料としては、例えば、ガラス、セラミックス材料、金属、樹脂等が挙げられるが、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料で形成されていることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料であるシリコン単結晶板を用いている。
【0029】
また、リザーバ形成基板30上には、所定パターンで形成された接続配線200が設けられ、この接続配線200上には圧電素子300を駆動するための駆動IC210が実装されている。駆動IC210としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、各圧電素子300から圧電素子保持部32の外側まで引き出された各リード電極90の先端部と、駆動IC210とが駆動配線220を介して電気的に接続されている。
【0030】
さらに、リザーバ形成基板30のリザーバ部31に対応する領域上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、厚さが数μm程度のポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)からなり、この封止膜41によってリザーバ部31の一方面が封止されている。
固定板42は、金属等の硬質の材料(例えば、厚さが数十μm程度のステンレス鋼(SUS)等)で形成される。この固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0031】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッド1では、図示しない外部インク供給手段からインクを取り込み、リザーバ100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たす。その後、駆動IC210からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加して、圧電素子300及び振動板をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインクが吐出する。
【0032】
以下、このようなインクジェット式記録ヘッド1の製造方法について、図3〜図7を参照して説明する。
図3〜図7には、インクジェット式記録ヘッド1の製造方法にかかる各工程における概略断面図を示した。完成したインクジェット式記録ヘッド1の図2(a)のA−A断面図に相当する。
【0033】
まず、図3(a)に示すように、シリコンウェハである流路形成基板用ウェハ110を約1100℃の拡散炉で熱酸化し、その表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン膜53を形成する。なお、実施形態では、流路形成基板用ウェハ110として、厚さが約625μmと比較的厚く剛性の高いシリコンウェハを用いている。
【0034】
次に、図3(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜53)上に、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜51を形成する。具体的には、弾性膜50(二酸化シリコン膜53)上に、例えば、スパッタ法等によりジルコニウム(Zr)層を形成後、このジルコニウム層を、例えば、500〜1200℃の拡散炉で熱酸化することにより酸化ジルコニウム(ZrO2)からなる絶縁体膜51を形成する。
【0035】
次いで、図3(c)に示すように、例えば、白金(Pt)とイリジウム(Ir)とを絶縁体膜51上に積層することにより下電極膜60を形成した後、この下電極膜60を所定形状にパターニングする。
【0036】
次に、図3(d)に示すように、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層70と、例えば、イリジウムからなる上電極膜80とを流路形成基板用ウェハ110の全面に形成し、これら圧電体層70および上電極膜80を、各圧力発生室12に対向する領域にパターニングして圧電素子300を形成する。
また、圧電素子300を形成後に、絶縁体膜51および弾性膜50をパターニングして、流路形成基板用ウェハ110の連通部(図示なし)が形成される領域に、これら絶縁体膜51および弾性膜50を貫通して流路形成基板用ウェハ110の表面を露出させた貫通部52を形成する。
【0037】
なお、圧電素子300を構成する圧電体層70の材料としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電性圧電性材料や、これにニオブ、ニッケル、マグネシウム、ビスマスまたはイットリウム等の金属を添加したリラクサ強誘電体等が用いられる。その組成は、圧電素子300の特性、用途等を考慮して適宜選択すればよいが、例えば、PbTiO3(PT)、PbZrO3(PZ)、Pb(ZrxTi1-x)O3(PZT)、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(PMN−PT)、Pb(Zn1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(PZN−PT)、Pb(Ni1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(PNN−PT)、Pb(In1/2Nb1/2)O3−PbTiO3(PIN−PT)、Pb(Sc1/2Ta1/2)O3−PbTiO3(PST−PT)、Pb(Sc1/2Nb1/2)O3−PbTiO3(PSN−PT)、BiScO3−PbTiO3(BS−PT)、BiYbO3−PbTiO3(BY−PT)等が挙げられる。
また、圧電体層70の形成方法は、特に限定されないが、例えば、金属有機物を触媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成した。
【0038】
次に、図4(a)に示すように、リード電極90を形成する。
具体的には、まず流路形成基板用ウェハ110の全面にわたって密着層91を介して金属層92を形成し、密着層91と金属層92とからなる配線層190を形成する。そして、この配線層190上に、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を形成し、このマスクパターンを介して金属層92及び密着層91を圧電素子300毎にパターニングすることによりリード電極90を形成する。またこのとき、貫通部52に対向する領域に、リード電極90とは不連続の配線層190を残して、この配線層190によって貫通部52を封止する。
【0039】
ここで、金属層92の主材料としては、比較的導電性の高い材料であれば特に限定されず、例えば、金(Au)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)が挙げられ、実施形態では金(Au)を用いている。また、密着層91の材料としては、金属層92の密着性を確保できる材料であればよく、具体的には、チタン(Ti)、チタンタングステン化合物(TiW)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)又はニッケルクロム化合物(NiCr)等が挙げられ、実施形態ではチタンタングステン化合物(TiW)を用いている。
【0040】
次に、図4(b)に示すように、リザーバ形成基板用ウェハ130を、流路形成基板用ウェハ110上に接着剤35によって接着する。ここで、このリザーバ形成基板用ウェハ130には、リザーバ部31、圧電素子保持部32等が予め形成されており、リザーバ形成基板用ウェハ130上には、上述した接続配線200が予め形成されている。なお、リザーバ形成基板用ウェハ130は、例えば、400μm程度の厚さを有するシリコンウェハである。
【0041】
次いで、図4(c)に示すように、流路形成基板用ウェハ110をある程度の厚さとなるまで研磨した後、さらにフッ硝酸によってウェットエッチングすることにより流路形成基板用ウェハ110を所定の厚みにする。
例えば、実施形態では、研磨及びウェットエッチングによって、流路形成基板用ウェハ110を、約70μmの厚さとなるように加工した。
このとき、図1および図2に示したインクジェット式記録ヘッド1の連通路15の端部17の稜線170をまたいで連通部13が形成される領域で、ノズルプレート20の接着される側の領域に、紙面に対して直交する方向に溝180をエッチングによって形成する。以下の図では、溝180および欠き部18が形成される領域付近の拡大図を図中に示した。
【0042】
次いで、図5(a)に示すように、流路形成基板用ウェハ110上に、例えば、窒化シリコン(SiN)からなるマスク膜54を新たに形成し、所定形状にパターニングする。 このとき、溝180の連通部13が形成される領域には、マスク膜54を形成しない。
実施形態では、溝180の略半分がマスク膜54によってマスクされている。
そして、図5(b)に示すように、このマスク膜54を介して流路形成基板用ウェハ110を異方性エッチング(ウェットエッチング)して、流路形成基板用ウェハ110に圧力発生室12、インク供給路14及び連通路15からなる液体流路と、連通部13と欠き部18とを形成する。
具体的には、流路形成基板用ウェハ110を、例えば、水酸化カリウム(KOH)水溶液等のエッチング液によって弾性膜50及び密着層91が露出するまでエッチングすることより、圧力発生室12、インク供給路14及び連通路15からなる液体流路と、連通部13とを同時に形成する。
このとき、溝180の連通部13にかかる部分は、エッチングによってなくなり、マスク膜54で埋められた部分は残り、欠き部18となる。
【0043】
また、流路形成基板用ウェハ110の液体流路を画成する隔壁11のリザーバ部31側の弾性膜50と接している面側の先端19は、流路形成基板用ウェハ110とリザーバ形成基板用ウェハ130とが接合される接合部分に対向する領域内、すなわち、連通部13とリザーバ部31とを連通する貫通部52よりも内側となるように形成する。
【0044】
なお、流路形成基板用ウェハ110に液体流路を形成する際、リザーバ形成基板用ウェハ130の流路形成基板用ウェハ110側とは反対側の表面を、耐アルカリ性を有する材料、例えば、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PPTA(ポリパラフェニレンテレフタルアミド)等からなる封止フィルムでさらに封止するようにしてもよい。これにより、リザーバ形成基板用ウェハ130の表面に設けられた配線の断線等の不良をより確実に防止することができる。
【0045】
次に、図6(a)に示すように、貫通部52内の配線層190の密着層91と、この密着層91が拡散している金属層92の一部の領域とを連通部13側からウェットエッチング(ライトエッチング)することにより除去する。これにより、後の工程で配線層190上に形成される保護膜16と配線層190との密着力が弱められ、配線層190上の保護膜16が剥離し易くなる。
【0046】
次に、流路形成基板用ウェハ110表面のマスク膜54を除去し、図6(b)に示すように、液体流路内及び連通部13内、すなわち、圧力発生室12、インク供給路14及び連通路15からなる液体流路と、連通部13と、欠き部18の内面に保護膜16を形成する。
なお、保護膜16は、上述したように、例えば、酸化物又は窒化物等の耐液体性(耐インク性)を有する材料からなり、実施形態では、五酸化タンタルからなる。また、保護膜16の形成方法は、特に限定されないが、例えば、CVD法によって形成することができる。
【0047】
このとき、貫通部52は配線層190によって封止されているため、貫通部52を介してリザーバ形成基板用ウェハ130の外面等に保護膜16が形成されることはない。したがって、接続配線200等が形成されたリザーバ形成基板用ウェハ130の表面に保護膜16が形成されて駆動IC210などの接続不良等が発生するのを防止することができる。また同時に、余分な保護膜16を除去する工程が不要となって製造工程を簡略化して製造コストを低減することができる。
【0048】
次に、図6(c)に示すように、保護膜16上に、保護膜16とはエッチングの選択性を有する材料からなる剥離層160を、例えば、CVD法等によって形成する。
ここで、保護膜16とはエッチングの選択性を有する材料とは、その材料をウェットエッチングするためのエッチング液によって保護膜16がエッチングされ難く、実質的にエッチングされない材料のことをいう。また、剥離層160は、その内部応力が圧縮応力であることが好ましく、特に、80MPa以上の圧縮応力であることが望ましい。さらに剥離層160は、保護膜16との密着力が保護膜16と配線層190との密着力よりも大きな材料を用いるのが好ましい。例えば、本実施形態では、剥離層160の材料として、以上の条件を満たすチタンタングステン化合物(TiW)を用いている。
【0049】
次に、図7(a)に示すように、この剥離層160をウェットエッチングによって完全に除去すると同時に、配線層190上の保護膜16を選択的に除去する。ここで、保護膜16の金(Au)からなる金属層92との密着力は、保護膜16の二酸化シリコン(SiO2)からなる弾性膜50との密着力よりも弱く、剥離層160の内部応力が圧縮応力であるため、保護膜16上に剥離層160を形成することで、剥離層160の内部応力によって保護膜16は配線層190からある程度剥離された状態となる。そして、剥離層160をウェットエッチングにより除去することで、配線層190上の保護膜16も同時に選択的に除去される。
【0050】
このように配線層190上の保護膜16を除去した後は、図7(b)に示すように、配線層190(金属層92)を連通部13側からウェットエッチングすることによって除去して貫通部52を開口させる。このとき配線層190上には保護膜16が形成されていないため、保護膜16が配線層190のウェットエッチングを邪魔することはない。したがって、配線層190を容易且つ確実にウェットエッチングにより除去して貫通部52を開口させることができる。
【0051】
また、このような方法でリザーバ100を形成した場合、リザーバ100内に露出している配線層190の表面には保護膜16が形成されないことになる。このため、配線層190がインクによって浸食される虞はあるが、その量は非常に少なく、ヘッドの寿命としては全く問題ない程度のものである。また、図示しないが、リザーバ部31の内面には、リザーバ形成基板用ウェハ130を熱酸化することによって二酸化シリコン膜が形成されているため、保護膜16は設けられていなくてもよい。
【0052】
その後は、リザーバ形成基板用ウェハ130に形成されている接続配線200上に駆動IC210を実装するとともに、駆動IC210とリード電極90とを駆動配線220によって接続する(図2参照)。そして、流路形成基板用ウェハ110及びリザーバ形成基板用ウェハ130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。
【0053】
そして、流路形成基板用ウェハ110のリザーバ形成基板用ウェハ130とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接着層22で接着するとともに、リザーバ形成基板用ウェハ130にコンプライアンス基板40を接合する。
図8は、ノズルプレート20接着時の欠き部18付近の様子を示した図2におけるB−B拡大断面図である。
欠き部18には接着剤が入り込まないように塗布する。その後ノズルプレート20と流路形成基板用ウェハ110とを、図に示した矢印方向に力を加えながら貼り合わせる。この状態で、熱を加えて接着剤を硬化させる。あるいは、加える力を解放した後に熱を加えて接着剤を硬化させ、接着層22を形成する。
なお、接着剤としては、エポキシ系の接着剤を用いることができる。なお、接着層22は、熱溶着フィルム等から形成されてもよい。
【0054】
これら流路形成基板用ウェハ110等を、図2(b)に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって上述した構造のインクジェット式記録ヘッド1が製造される。
【0055】
このような本実施形態によれば、以下の効果がある。
(1)隔壁11の端部17の先端19とノズルプレート20との間に欠き部18が形成されている。隔壁11が形成された流路形成基板10には、インクジェット式記録ヘッド1の温度変化によって、あるいは流路形成基板10とノズルプレート20とを製造時に接着剤によって接合する際に力が加わる。この力は、隔壁11の楔形の端部17にも加わるが、加わった力が欠き部18で分散し、隔壁11の端部17の先端19に力が加わらない。
したがって、インクジェット式記録ヘッド1の製造時や使用時に、隔壁11の端部17の先端19の欠けやクラックの発生を少なくでき、インクの吐出特性が安定したインクジェット式記録ヘッド1を得ることができる。
【0056】
(2)流路形成基板10が面方位(110)に基づいて異方性エッチングされるので、隔壁11の端部17の形状が楔形にエッチングされ、端部17の稜線170が傾斜する。傾斜によって、端部17の片側の先端19は、鋭角の尖った先端19となる。この尖った先端19がリザーバ形成基板30側に位置し、欠き部18が端部17とノズルプレート20との間にあるので、ノズルプレート20を接着する際に、欠き部18で加わった力を分散でき、尖った先端に対し、より前述の効果を得ることができる。
【0057】
(3)接着層22が加熱硬化型接着剤から形成されるので、接着剤硬化のために熱を加えた際に、ノズルプレート20と流路形成基板10と接着層22との間の熱膨張差によって、流路形成基板10に力が加わる。したがって、より前述の効果を得ることができる。
【0058】
実施形態以外にも、種々の変更を行うことが可能である。
例えば、実施形態において、鋭角の尖った先端19がノズルプレート20側であってもよい。
また、先端19にも欠き部18を設け、両端に欠き部18があってもよい。欠き部18の形状、大きさ、深さについても実施形態に限られるものではない。
さらに、実施形態では異方性エッチングによって、端部17の形状が楔型になったが、研削、研磨等によっても端部17が楔形に形成されていればよい。研削、研磨等による場合、稜線170に傾斜を持たせないこともできる。
【0059】
さらに、上述した実施形態では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。さらに、本発明は、このような液体噴射ヘッドに圧力発生手段として搭載されるアクチュエータ装置だけでなく、あらゆる装置に搭載されるアクチュエータ装置に適用することができる。例えば、アクチュエータ装置は、上述したヘッドの他に、センサー等にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】インクジェット式記録ヘッドの分解部分斜視図。
【図2】(a)は、インクジェット式記録ヘッドの概略部分平面図、(b)は(a)におけるA−A概略断面図。
【図3】インクジェット式記録ヘッドの製造方法にかかる工程における概略断面図。
【図4】インクジェット式記録ヘッドの製造方法にかかる工程における概略断面図。
【図5】インクジェット式記録ヘッドの製造方法にかかる工程における概略断面図。
【図6】インクジェット式記録ヘッドの製造方法にかかる工程における概略断面図。
【図7】インクジェット式記録ヘッドの製造方法にかかる工程における概略断面図。
【図8】ノズルプレート接着時の欠き部付近の様子を示した図2におけるB−B拡大断面図。
【符号の説明】
【0061】
1…インクジェット式記録ヘッド、10…流路形成基板、11…隔壁、12…圧力発生室、13…連通部、14…インク供給路、15…連通路、17…端部、18…欠き部、19…端部の先端、20…ノズルプレート、21…ノズル開口、22…接着層、30…リザーバ形成基板、100…リザーバ、170…稜線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の隔壁により区画され、液体を噴射するノズル開口に連通する複数の圧力発生室と、延設された前記隔壁によって形成されている、前記圧力発生室に連通する液体供給路および前記液体供給路に連通する連通路とからなる液体流路と、前記連通路に連通して複数の前記圧力発生室の共通の液体室となるリザーバの一部を構成する連通部とを備えた流路形成基板と、
前記ノズル開口が形成され、前記ノズル開口と前記圧力発生室とが連通するように、前記流路形成基板の一方面側に接合されたノズルプレートと、
前記流路形成基板の他方面に接合されて前記連通部と連通して前記リザーバの一部を構成するリザーバ部が設けられたリザーバ形成基板とを備え、
前記流路形成基板と前記ノズルプレートおよび前記リザーバ形成基板とは接着層により接合され、
前記隔壁の、前記連通部側の端部の形状が楔形であり、
前記端部の先端には、前記ノズルプレートまたは前記リザーバ形成基板との間のいずれか一方に欠き部が形成されている
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドにおいて、
前記流路形成基板は面方位(110)のシリコン単結晶板であり、
前記隔壁は異方性エッチングによって形成され、
前記端部の稜線は、前記ノズルプレートおよび前記リザーバ形成基板に対し傾斜し、
前記稜線と前記リザーバ形成基板とのなす角度は鋭角で、
前記欠き部は、前記端部と前記ノズルプレートとの間に形成されている
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の液体噴射ヘッドにおいて、
前記接着層は、加熱硬化型接着剤である
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−125682(P2010−125682A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−302031(P2008−302031)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】