説明

液体噴射装置及びプラテンユニット

【課題】ノズルプレート260と吸収部材420との間に安定で均一な電界を形成し、エアロゾルを吸収部材420に付着させる。
【解決手段】 導電性のノズルプレート260を有してノズルプレート260の開口262から被記録物300へ液体を吐出する液体噴射ヘッドと、液体が吐出される方向についてノズルプレート260に対向して配され、被記録物300へ着弾しなかった液滴266を吸収しかつ導電性を有する吸収部材420と、吸収部材420におけるノズルプレート260に対向する面の裏面に隣接した電極部材430と、ノズルプレート260と電極部材430との間に電位差を発生させて液体を電気的に電極部材430側へ引き付ける電位差発生手段700とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体噴射装置に関する。より詳細には、液体噴射ヘッドに装着されたノズルプレートの開口から吐出させた液体を被記録物に付着させる液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置では、被記録物の周縁部に余白を残すことなく液体を付着させる場合に、被記録物および液体噴射ヘッドの不可避な位置ずれを見込んで、被記録物の寸法よりもやや広い領域に対して液体が噴射される。このため、被記録物の両側縁部および前後端部の近傍では、被記録物の存在しない領域に対しても液体が吐出されることになる。そこで、液体が吐出される方向について液体噴射ヘッドに対向する位置に吸収部材を配置し、被記録物に付着し得ない余剰な液体をこの吸収部材に吸収させることにより、余剰の液体が飛散したり周囲を汚染することを防止している。
【0003】
なお、被記録物は液体が付着することによって伸びて皺を生じる場合がある。伸びた被記録物が自身の皺による撓みで上記の吸収部材に接触すると、吸収部材にすでに吸収されていた液体が被記録物に付着して汚染される。そこで、被記録物の伸びを見込んで、液体噴射装置では被記録物と上記吸収部材との間に2〜4mm程度の間隙が設けられる。また、液体噴射ヘッドと被記録物との間は約1mmの間隙が設けられる。
【0004】
一方、記録画像の解像度向上への要求により、昨今の液体噴射装置では、ノズルプレートの開口から吐出される液滴が数pl程度にまで微細化されている。このような微細な液滴は、自身の質量が非常に小さいので、いったん吐出されると雰囲気の粘性抵抗等により運動エネルギーを急速に失う。具体的には、例えば8pl未満の液滴は、大気中で3mm程度の行程を飛翔すると速度が略ゼロになる。運動エネルギーを失った微細な液滴は、重力加速度による落下運動と雰囲気の粘性抵抗力とが殆どつり合い、落下し切るまでに長い時間を要する。
【0005】
なお、例えばノズルプレートから3〜5mm程度離れた吸収部材まで届かせることを意図して3pl程度の液滴に対する液体噴射装置の吐出速度を高くしても、液滴に作用する雰囲気の粘性抵抗がさらに上昇して到達距離はかえって短くなる。また、吐出速度を高くすると、液滴がノズルプレートから離脱するときに生じるサテライト・インクと呼ばれる非常に微細な液滴が生じやすくなる。
【0006】
更に、液体噴射装置では、フラッシングと呼ばれる動作が周期的に繰り返される。フラッシングは、被記録物の存在しない状態で液体噴射ヘッドに駆動信号を送り、液体をいわば空撃ちする動作である。このような動作により、吐出量の少ないノズルにおいて増粘した液体が除去される。ただし、このフラッシングに際して吐出される液体は被記録物への記録には寄与しないので、液体の消費を節約すべく小さな液滴が吐出される。また、フラッシングに要する時間は本来の記録動作のスループットを低下させることになるので、フラッシングでは短時間の内にすべてのノズルから液体を吐出させる。このようなフラッシング動作においても、大量のサテライト・インクが生じる。
【0007】
上記のようなさまざまな現象の結果として生じたサテライト・インクの多くは、液体噴射ヘッド移動領域の周辺に浮遊するエアロゾルとなる。エアロゾルは、一部は液体噴射装置の外部にまで浮遊し、液体噴射装置の周辺に付着する。また、エアロゾルの多くは、やがて液体噴射装置内の各部に付着する。殊に、プラテン等の被記録物の搬送経路にエアロゾルが付着した場合は、次に搬送される被記録物を汚染する。更に、液体噴射装置の電気回路、リニアスケールあるいは各種光学センサ等にエアロゾルが付着した場合は、装置自体の誤動作を招くこともある。また更に、エアロゾルが付着したものにユーザが触れるとユーザの手も汚される。
【0008】
下記特許文献には、上記エアロゾルを能動的に収集する機能を備えた液体噴射装置が開示されている。
【特許文献1】特開2004−202867号公報
【0009】
この文献に開示された液体噴射装置では、被記録物に付着しなかった余剰な液体を吸収させる目的で、ノズルプレートに対向する位置に吸収部材が配置される。また、この吸収部材の表面上に一方の電極となる金属部材が配置され、液体を吐出する開口を有する金属製ノズルプレートが他方の電極とされる。これら電極およびノズルプレートに互いに異なる電圧が印加されると、両者の間に電界が形成される。また、このような液体噴射装置でノズルプレートから吐出される液滴は、ノズルプレートから吐出されるときにノズルプレートと同極に帯電する。このため、エアロゾルとして浮遊する液滴も帯電しているので、自身と電界との間で作用するクーロン力により減速されることなく電極に向かい、自身と逆極性の電位にある電極に吸着される。電極に吸着された液滴は、毛細管現象により吸引されて、最終的には吸収部材に吸収される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のような装置では、電界を利用して収集したエアロゾルの多くが電極自体に付着する。しかしながら、前述の通り、付着した液体は電極と逆極性で帯電している。このため、電極に多量の液体が付着すると、液体の電荷が電極の発生する電場を打ち消して有効な電界を弱めてしまう。こうして、エアロゾル除去効果は、液体噴射装置の稼働時間の蓄積と共に低下してしまうという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、上記課題を解決するために、本発明の第1の形態においては、導電性のノズルプレートを有し、ノズルプレートの開口から被記録物へ液体を吐出する液体噴射ヘッドと、液体が吐出される方向についてノズルプレートに対向して配され、被記録物へ着弾しなかった液体を吸収しかつ導電性を有する吸収部材と、吸収部材におけるノズルプレートに対向する面の裏面に電気的に接続した電極と、ノズルプレートと電極との間に電位差を発生して液体を電気的に電極側へ引き付ける電位差発生手段とを備える。これにより、電位差発生手段でひきつけた液体を確実に吸収部材で吸収することができる。また、電極に液体が堆積することによる電界の劣化を防ぐことができる。
【0012】
上記液体噴射装置は、液体が吐出される方向についてノズルプレートに対向して配され、被記録物を支持するプラテンを更に備え、プラテンは、電極としての導電性の金属箔が底面に配された溝部を有し、溝部に吸収部材を収容してもよい。これにより、プラテンと別個に電極を用いる場合に比べて部品点数を少なくすることができる。また、これによりプラテンに吸収部材を組み込む作業を簡単にすることができる。
【0013】
上記いずれの液体噴射装置においても、電極は、吸収部材の裏面にわたって面状に形成されてもよい。これにより、広い面積で吸収部材と電気的に接することができる。また、これにより、空隙性の大きい吸収部材を用いた場合であっても、吸収部材の内部の断線による電位差の減少を防ぐことができる。
【0014】
本発明の第2の形態においては、プラテンユニットであって、液体噴射装置における、液体が吐出される方向についてノズルプレートに対向して配され、被記録物を支持するプラテンと、液体を吸収しかつ導電性を有する吸収部材と、吸収部材における裏面に電気的に接続した電極とを備え、プラテンは、電極としての導電性の金属箔が底面に配された溝部を有し、溝部に吸収部材を収容する。これにより、電位差発生手段でひきつけた液体を確実に吸収部材で吸収することができる。また、電極の周囲に液体が堆積することによる電位差の減少を防ぐことができる。
【0015】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0017】
図1は、本発明の実施形態のひとつとなり得る液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装置11を概観する斜視図であり、カバーとしての上ケース22を開いた状態で描かれている。同図に示すように、このインクジェット式記録装置11は、装置の基部となる下ケース20と、下ケース20と共に筐体を形成する上ケース22と、下ケース20の後部に装着されたホッパー10と、下ケース20の前面に形成された排出トレー30とを備えている。また、このインクジェット式記録装置11は、下ケース20内に水平に配置されたプラテン400と、プラテン400の上方に配置されたキャリッジ200とを筐体の内側に備えている。
【0018】
上記のようなインクジェット式記録装置11では、ホッパー10に収容された被記録物300が、図示されていない搬入部により1枚ずつプラテン400上に送り出され、更に、図示されていない排出部により排出トレー30に送り出される。また、このインクジェット式記録装置11では、プラテン400の上方で、キャリッジ200が被記録物300の搬送方向と直交する方向に往復移動する。従って、被記録物300の搬送とキャリッジ200の往復移動を交互に行うことにより、被記録物300の上面全体をキャリッジ200で走査でき、これにより記録を行うことができる。
【0019】
図2は、図1に示したインクジェット式記録装置11の内部機構12を、フレーム100および側面部110、111ごと抜き出して示す斜視図である。同図に示すように、この内部機構12は、後方に略鉛直に配置されたフレーム100と、フレーム100の両側端部から互いに平行に前方に向かって延在する1対の側面部110、111とによって画成される領域の内側に形成されている。
【0020】
図2に示す通り、この内部機構12において、キャリッジ200は、自身を貫通するガイド軸220に支持されている。ガイド軸220は、その端部を側面部110と側面部111とに支持され、フレーム100に平行に配置されている。従って、キャリッジ200はガイド軸220に沿って水平に移動できる。
【0021】
キャリッジ200の後方では、1対のプーリ242、244と、プーリ242、244に掛けわたされたタイミングベルト230がフレーム100の前面に配置されている。一方のプーリ244はキャリッジモータ246により回転駆動される。また、タイミングベルト230はキャリッジ200の後部に結合されている。従って、キャリッジモータ246の動作に応じてキャリッジ200を往復移動させることができる。
【0022】
また、キャリッジ200は、インクカートリッジ250を装荷されると共に、その下面に記録ヘッド210を備えている。記録ヘッド210は、インクを吐出するための開口を含む金属製のノズルプレート260を備えている。従って、インクは、キャリッジ200から下方に向かって吐出される。
【0023】
更に、キャリッジ200は、テープ状の多芯ケーブル270を介して、フレーム100後方の電子回路120に結合されている。多芯ケーブル270は、キャリッジ200の移動に従って柔軟に撓むので、キャリッジ200の往復移動を妨げることはない。
【0024】
キャリッジ200が通過する領域の下方には、プラテン400が配置されている。プラテン400は、キャリッジ200の下を通過する被記録物300を下方から支持して、ノズルプレート260と被記録物300との間隔を一定に維持する。また、プラテン400の上面には陥没部410が形成されており、この陥没部410に吸収部材420が収容されている。吸収部材420は、被記録物300の存在していない領域に対して記録ヘッド210から吐出されたインクを収受する。ここで、吸収部材420の上面と記録ヘッド210のノズルプレート260とは、約3〜5mmの間隙を有する。
【0025】
なお、インクジェット式記録装置11の稼働時間が経過するにつれて吸収部材420にはインクが付着する。このインクが付着した吸収部材420に被記録物300が接触すると被記録物300がインクにより汚染される。そこで、プラテン400の上面に突起状の部位を形成して被記録物300を下方から支持させることにより、両者の間隔を保って接触を防止している。
【0026】
また、プラテン400に内蔵されている吸収部材420は、表面における吸収速度を重視しているので吸収容量に限りがある。そこで、より大きな廃液吸収部材600をプラテン400の下方に配置し、これを吸収部材420と連通させている。廃液吸収部材600は、その吸収容量が重視されると共に、毛細管現象による吸収力の大きな材料が選択されている。従って、廃液吸収部材600は、吸収部材420から大量のインクを吸収することができる。
【0027】
プラテン400の後方には搬送ローラ310が配置されている。搬送ローラ310は、フレーム100の後方に配置された搬送モータ320により駆動され、図示されていない従動ローラと共働して被記録物300をプラテン400上に送り出す。前述の通り、キャリッジ200は被記録物300の搬送方向と直交する方向に往復移動できる。従って、被記録物300の搬送とキャリッジ200の往復移動を交互に行う一方で、キャリッジ200下面の記録ヘッド210を断続的に作動させて、被記録物300上の任意の領域に対してインクを吐出させ、付着させることができる。
【0028】
更に、この内部機構12では、プラテン400の側面部110側の側方に、キャップ部材500が配置されている。キャップ部材500は上下に移動可能で、キャリッジ200が側面部110に近いホームポジションで停止したときに上昇してノズルプレート260の表面を封止する。また、キャップ部材500の内部はポンプユニット510に結合されている。ポンプユニット510は、ノズルプレート260表面に付着したインクを吸引できる。ポンプユニット510に吸引されたインクは、図示されていないパイプを介して、廃液吸収部材600に吸収される。
【0029】
更に、プラテン400とキャップ部材500との間には、ワイピング手段520が配置されている。キャップ部材500から開放されたキャリッジ200がその上方を通過するとき、ワイピング手段520はノズルプレート260の下面を払拭して清浄にする。
【0030】
図3は、図1に示すインクジェット式記録装置11で用い得るエアロゾル収集機構13の分解斜視図である。また、図3は、プラテン400側の部材とノズルプレート260との電気的な関係も併せて示す。
【0031】
同図に示すように、プラテン400は、プラテン本体401を含む複数の部材により形成される。プラテン本体401の上面に陥没部410が形成されており、更に陥没部410の中にいくつかの島部412が形成されている。陥没部410の前後に細長く延在する縁部402、404の上面と、島部412の頂面には、それぞれにリブ418が形成されている。リブ418は、被記録物300の搬送方向に沿って互いに平行に形成されており、その先端で被記録物300を下方から支持する。
【0032】
また、陥没部410の底面端部には、後述する電極部材430の端子部436を挿通するための端子部挿通穴416が形成されている。同様に、陥没部410の底面の島部412近傍には、後述する吸収部材420の足部424を挿通するための足部挿通穴414も形成されている。これら島部412、リブ418、端子部挿通穴416、足部挿通穴414を含むプラテン本体401は、射出成形した樹脂により一体に形成できる。
【0033】
電極部材430は、プラテン本体401の陥没部410の底面と略同形状の導電体板であり、プラテン本体401の島部412を挿通するための島部挿通穴432と、後述する吸収部材420の足部424を挿通するための足部挿通用切欠き434とを有する。更に、電極部材430の一端には、後述する電位差発生手段700に結合するための端子部436が形成されている。端子部436は、電極部材430自体から下方に延在している。従って、電極部材430が陥没部410に収容されたとき、端子部436は端子部挿通穴416を通って、プラテン本体401の外部に露出される。
【0034】
上記のような電極部材430は、インクジェット式記録装置のインクに対して耐蝕性のある金属、例えば金、ステンレスまたはニッケルの線材、板材または箔材、あるいは、これらの金属でメッキした線材、板材または箔材、若しくは、これらの材料を組み合わせた網状または格子状に形成される。また、他の態様として、プラテン本体401の陥没部410に直接形成した導電性の塗膜層、メッキ層、厚膜層、薄膜層等で電極部材430を形成することもできる。
【0035】
プラテン本体401は、その陥没部410の内部に、上記電極部材430の上に重ねて吸収部材420を収容している。吸収部材420も、陥没部410と略同じ外形を有している。また、プラテン本体401の島部412を挿通させるための島部挿通穴422を、島部412の配置に対応した位置に有している。
【0036】
更に、吸収部材420は、各島部挿通穴422の縁から下方に延在する足部424を備えている。足部424は、島部挿通穴422を形成するために不要になる部分の一部を利用して、吸収部材420自体を整形した後下方に折り曲げて形成されている。足部424は、電極部材430の足部挿通用切欠き434及びプラテン本体401の足部挿通穴414を挿通されてプラテン本体401の下方に延在しており、その下端は、図2で示した廃液吸収部材600に接する。
【0037】
なお、この吸収部材420は、ノズルプレート260から吐出されながら被記録物300に付着しなかったインクの液滴を直接に収受する。このとき、吸収部材420の吸収速度が遅いと、吸収部材420の表面に液滴が衝突する衝撃でいわゆるミルククラウンを生じる。ミルククラウンの周縁からは微細な液滴が生じ、これもまたエアロゾル発生の原因となる。そこで、吸収部材420の材料は、吸収速度の高さを重視して空隙率の高い発泡材料が選択される。
【0038】
また、この吸収部材420は表面抵抗が10Ω以下の抵抗値を有する導電性材料で形成できる。具体的には、ポリエチレン、ポリウレタン等の樹脂に金属、炭素等の導電性材料を混入した上で発泡させたもの、ポリエチレン、ポリウレタン等の樹脂発泡材に金属、炭素等の導電性材料を付着させたもの、または、メッキしたもの等を用いることができる。また、ポリエチレン、ポリウレタン等の樹脂発泡材に電解質溶液を含浸させたものを吸収部材420として用いることもできる。
【0039】
図3に示した一連の部材において、電極部材430は、図中に模式的に示すように、電位差発生手段700を介してノズルプレート260に結合されている。従って、ノズルプレート260と電極部材430の間には、例えば25kV/m以上の電界が形成される。
【0040】
また、吸収部材420は多くの足部424を介して廃液吸収部材600に結合されているので、吸収部材420に吸収されたインクは各足部424を介して廃液吸収部材600に速やかに導かれる。従って、吸収部材420の下層に配置された電極部材430に付着するインクはわずかであり、インクの付着による電極部材430側の電界の劣化も少ない。
【0041】
更に、電極部材430はプラテン本体401の陥没部410の底部を略全面にわたって覆っており、その上に略同形状の吸収部材420が重ねて収容されている。このように吸収部材420の下面全体が電極部材430に触れているので、吸収部材420と電極部材430とが電気的に接続する。よって、吸収部材420の内部構造に不連続部分があったとしても、吸収部材420全体は電極部材430と略等しい均一な電位となる。
【0042】
図4は、図1から図3までに示したインクジェット式記録装置11における、動作中のノズルプレート260付近を拡大して示す概念図である。図4においても、図1から図3までに示したものと同じ構成要素には同じ参照符号を付して重複する説明を省いている。
【0043】
同図に示すように、ノズルプレート260にはインクを吐出する複数の開口262が形成されている。通常、ノズルプレート260の直下には、プラテン本体401のリブ418が下方から支持する被記録物300が存在している。従って、ノズルプレート260から吐出された液滴268は被記録物300に付着する。
【0044】
しかしながら、被記録物300の縁部に余白無くインクを付着させようとした場合、被記録物300の側縁部並びに先端及び後端において、一部の開口262の直下に被記録物300が存在しないことがある。このような場合、開口262から吐出することによって液滴266に与えられた運動エネルギーは雰囲気の粘性抵抗により急速に失われ、一部の液滴では吸収部材420に到達する遥か前に完全に失われる。また、液滴266の質量は非常に小さいので、重力加速度による落下運動と前記粘性抵抗力とが殆どつり合い、液滴266の落下速度は極めて遅くなる。こうして、ノズルプレート260の下方に浮遊するエアロゾルが発生する。
【0045】
しかしながら、図4に示すインクジェット式記録装置11では、ノズルプレート260と吸収部材420との間に電界Eが形成されている。即ち、図3を参照して既に説明したように、電位差発生手段700の一端がノズルプレート260に、電位差発生手段700他端が端子部436を介して電極部材430に、それぞれ接続されている。また、電極部材430は、その上面全体で吸収部材420の下面全体に接触している。更に、吸収部材420は導電性を有している。従って、吸収部材420の上面は、電極部材430と略同電位であり、更に、その電位は全体に均一である。
【0046】
このインクジェット式記録装置11において開口262から押し出されるインクは、液滴266となる直前の瞬間に、ノズルプレート260から下垂するインク柱264となる。このとき、インク柱264の先端Aとインク柱264付近Bのノズルプレート260下面との間でいわゆる避雷針効果が生じる。即ち、ここでいう避雷針効果とは、インク柱264の先端A(図中では下端)を頂点とする頂角50°から60°の円錐形で包囲されるノズルプレート260表面の領域Bが液滴266の帯電に寄与することをいう。この避雷針効果により、液滴266は、インク柱264の水平断面積に対応する電荷よりも大きな電荷を有する。
【0047】
インク柱264は、やがてノズルプレート260から離れて液滴266となるが、この液滴266は上記のような避雷針効果により蓄積された電荷qで帯電している。従って、電荷qを有する液滴266は、電界Eからクーロン力Fe(qE)により運動エネルギーを得て減速されること無く下方に移動し、最終的に吸収部材420に到達できる。
【0048】
この場合に、上記のように構成されたインクジェット式記録装置11においては、電極部材430は、ノズルプレート260側から見て吸収部材420の背後に配置されている。従って、吸収部材420に向かって飛来する帯電した液滴266が、電極部材430に直接付着することはない。
【0049】
更に、吸収部材420の一部である足部424は、その下端で廃液吸収部材600に接触している。吸収部材420に吸収されたインクは、足部424を介して、より吸収力の高い廃液吸収部材600に吸収される。従って、吸収部材420に大量のインクが滞留することはなく、吸収部材420に含まれたインクが電極部材430に付着することも少ない。
【0050】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることができることは当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0051】
また、本発明の実施形態となり得る液体噴射装置の具体例として、液晶ディスプレイ用カラーフィルタの製造における色材噴射装置、有機ELディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の製造における電極形成装置またはバイオチップ製造に使用する試料噴射ヘッド等をあげられるが、これらに限定されるわけではない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】インクジェット式記録装置11の全体を概観する斜視図。
【図2】インクジェット式記録装置11の内部機構12示す斜視図。
【図3】インクジェット式記録装置11のエアロゾル収集機構13を示す斜視図。
【図4】図3に示すエアロゾル収集機構13の一部を拡大して示す側面図。
【符号の説明】
【0053】
10 ホッパー、11 インクジェット式記録装置、12 内部機構、13 エアロゾル収集機構、20 下ケース、22 上ケース、30 排出トレー、100 フレーム、110、111 側面部、120 電子回路、200 キャリッジ、210 記録ヘッド、220 ガイド軸、230 タイミングベルト、242、244 プーリ、246 キャリッジモータ、250 インクカートリッジ、260 ノズルプレート、262 開口、264 インク柱、266、268 液滴、270 多芯ケーブル、300 被記録物、310 搬送ローラ、320 搬送モータ、400 プラテン、401 プラテン本体、402、404 縁部、410 陥没部、412 島部、414 足部挿通穴、416 端子部挿通穴、418 リブ、420 吸収部材、422 島部挿通穴、424 足部、430 電極部材、432 島部挿通穴、434 足部挿通用切欠き、436 端子部、500 キャップ部材、510 ポンプユニット、520 ワイピング手段、600 廃液吸収部材、700 電位差発生手段、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性のノズルプレートを有し、前記ノズルプレートの開口から被記録物へ液体を吐出する液体噴射ヘッドと、
液体が吐出される方向について前記ノズルプレートに対向して配され、被記録物へ着弾しなかった液体を吸収しかつ導電性を有する吸収部材と、
前記吸収部材における前記ノズルプレートに対向する面の裏面に電気的に接続した電極と、
前記ノズルプレートと前記電極との間に電位差を発生させて液体を電気的に電極側へ引き付ける電位差発生手段と
を備える液体噴射装置。
【請求項2】
前記電極は、前記吸収部材の前記裏面にわたって連続的な面状に形成される請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
液体が吐出される方向について前記ノズルプレートに対向して配され、前記被記録物を支持するプラテンを更に備え、
前記プラテンは、前記電極としての導電性の金属箔が底面に配された溝部を有し、前記溝部に前記吸収部材を収容する請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記金属箔は、前記底面における前記吸収部材が配される領域にわたって連続的に面状に形成される請求項3に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
液体噴射装置における、液体が吐出される方向についてノズルプレートに対向して配され、被記録物を支持するプラテンと、
液体を吸収しかつ導電性を有する吸収部材と、
前記吸収部材における裏面に電気的に接続した電極と
を備え、
前記プラテンは、前記電極としての導電性の金属箔が底面に配された溝部を有し、前記溝部に前記吸収部材を収容するプラテンユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−274665(P2010−274665A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198175(P2010−198175)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【分割の表示】特願2005−39298(P2005−39298)の分割
【原出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】