説明

液体噴射装置

【課題】第1排気駆動部材と第2排気駆動部材のいずれかの移動を規制することで、キャップがキャッピング位置に位置したまま第1排気弁と第2排気弁を選択的に開閉させる。
【解決手段】キャップスライドカム71の第1ストッパ75がX方向に関して第1スライダ85aと第2スライダ85bのいずれとも重ならない許容位置にあるときには、第1スライダ85aと第2スライダ85bのいずれも移動可能である。キャップスライドカム71の第1ストッパ75がX方向に関して第1スライダ85aと重なる第1規制位置にあるときには、第1スライダ85aの移動は規制されている。キャップスライドカム71の第1ストッパ75がX方向に関して第2スライダ85bと重なる第2規制位置にあるときには、第2スライダ85bの移動は規制されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を噴射する液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、2種類のノズルから互いに異なる種類の液体を噴射する液体噴射装置として、記録用紙などに対してカラーインクとブラックインクを噴射するインクジェットヘッドを備えた、カラーインクジェットプリンタが知られている。ところで、このようなインクジェットプリンタにおいては、例えば、特許文献1に記載のインクジェットプリンタのように、ノズルを保護したり、ノズルから強制的に増粘インクや気泡を吸引排出する吸引パージを行うための構成として、インクジェットヘッドの液体噴射面に密着可能なノズルキャップ(吸引キャップ)を備えていることがある。また、これに加えて、ノズルよりも上流側のインク流路から気泡を吸引して排出する排気パージを行うための構成として、カートリッジからインクが供給され、インクジェットヘッドに連通する気泡貯留室と、気泡貯留室から気泡を排出するための排気弁と、気泡貯留室の排気弁により開閉される排出口の開口面と密着可能な排気キャップとを備えていることがある。この気泡貯留室と気泡貯留室は、インクごとに設けられている。また、吸引キャップと吸引ポンプ、排気キャップと吸引ポンプ、とに連通を切り換え可能な切換手段を介して、吸引キャップと排気キャップは吸引ポンプに接続されている。
【0003】
そして、このインクジェットプリンタは、吸引パージとして、吸引キャップが液体噴射面に密着した状態で、吸引キャップと吸引ポンプとが連通するように切り換えた後、吸引ポンプを作動させることにより、ノズルから吸引キャップ内へ、増粘インクや気泡を含むインクを吸引して排出させる。一方で、排気パージとして、排気キャップで開口面と密着した状態で、且つ、排気弁が開いて気泡貯留室を開放している状態において、排気キャップと吸引ポンプとが連通するように切り換えた後、吸引キャップに接続された吸引ポンプを作動させることにより、ノズルから空気が混入することなく、ノズルよりも上流側に位置する気泡貯留室から気泡を排気キャップへ排出させる。
【0004】
この排気弁は開閉部材によって開閉されており、この開閉部材はスライダと接触するように構成され、スライダの一方向への移動にともない、排気弁を上下方向に開閉移動する。また、スライダは回転カムのカム溝に係合されており、回転カムの回転にともない、スライダは回転カムの回転面と平行な一方向に移動する。この開閉部材やスライダは、カラーインク用とブラックインク用でそれぞれ別個に設けられている。そして、カラーインク用の排気弁を開閉するためのスライダ(第1排気駆動部材)と、ブラックインク用の排気弁を開閉するためのスライダ(第2排気駆動部材)は、同じ回転カムのカム溝に係合されている。回転カムが回転すると、スライダが回転面と平行な一方向に移動し、このスライダの移動にともない、開閉部材は上下方向に移動し、排気弁を開閉駆動する。
【0005】
【特許文献1】特開2007−331268号公報(図16)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、特許文献1に記載のインクジェットプリンタにおいては、カラーインク用のスライダと、ブラックインク用のスライダは、同じ回転カムのカム溝に係合されているため、回転カムの回転にともない、カム溝によって2つのスライダが順に駆動されて、カラーインク用の排気弁とブラック用の排気弁が順に開閉する。すると、例えば、カラーインクの排気パージのみを行う場合において、カラーインク用の排気弁を開いたときに、回転カムの回転にともない、ブラックインク用の排気弁も開いてしまう。しかしながら、ブラックインクに対しては排気パージを行わないため、ブラックインク用の排気弁が開いたときに気泡貯留室の排出口から空気が入り込んでしまう。
【0007】
そこで、カラーインク用の排気弁とブラックインク用の排気弁を選択的に開閉可能にするために、カラーインク用のスライダとブラックインク用のスライダをそれぞれ別個のモータなどの駆動源により別駆動で移動させてもよいが、これだと、駆動源が1つの場合に比べて、コストが増大するとともに、装置が大型化してしまう。
【0008】
そこで、本発明の目的は、1つの駆動源で第1排気駆動部材と第2排気駆動部材の両方を移動させることで、コストを低減し、装置を小型化しながら、第1排気駆動部材と第2排気駆動部材のいずれかの移動を規制することで、キャップがキャッピング位置に位置したまま第1排気弁と第2排気弁を選択的に開閉可能な液体噴射装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の液体噴射装置は、互いに異なる種類の液体をそれぞれ噴射する第1ノズルと第2ノズルが開口する液体噴射面を有する液体噴射ヘッドと、前記液体噴射ヘッドの前記液体噴射面に密着したキャッピング位置と、前記液体噴射面から離間した退避位置とにわたって、前記液体噴射面に対して離接可能なキャップと、所定の第1方向に移動可能であり、前記第1方向の移動によって前記キャップを離接駆動するキャップ駆動部材と、前記液体噴射ヘッドに接続された前記第1ノズルへ液体を供給する第1液体供給部材、及び、前記第2ノズルへ液体を供給する第2液体供給部材のそれぞれから気泡を排出するための第1排気弁、及び、第2排気弁と、前記第1排気弁及び前記第2排気弁を開く開位置と、閉じる閉位置とにわたってそれぞれ開閉移動させることが可能な第1弁開閉部材、及び、第2弁開閉部材と、前記第1方向に並べて配置され、それらの配置面に平行で且つ前記第1方向と交差する第2方向に移動可能であり、前記第2方向の移動によって前記第1弁開閉部材及び前記第2弁開閉部材を駆動する第1排気駆動部材、及び、第2排気駆動部材と、前記第1排気駆動部材と前記第2排気駆動部材の両方を、前記第2方向に移動させる駆動源と、を備えており、前記キャップ駆動部材には、前記第1排気駆動部材と前記第2排気駆動部材の配置面上に位置して、前記第1排気駆動部材と前記第2排気駆動部材の前記第2方向への移動を規制する第1ストッパが設けられており、前記キャップ駆動部材は、前記キャップが前記キャッピング位置に到達した状態で、さらに、そのキャップの位置を変更させることなく前記第1方向に移動可能に構成されており、前記キャッピング位置到達後における前記キャップ駆動部材の前記第1方向の移動によって、前記第1ストッパの位置が、前記第1排気駆動部材の移動を規制する第1規制位置、前記第2排気駆動部材の移動を規制する第2規制位置、及び、前記第1排気駆動部材と前記第2排気駆動部材の両方の移動を規制しない許容位置とにわたって切り換えられる。
【0010】
本発明の液体噴射装置によると、キャップ駆動部材は第1方向に移動する構成となっており、同じ駆動源で駆動する第1排気駆動部材と第2排気駆動部材は第1方向に並べて配置され、それらの配置面に平行で且つ第1方向と交差する第2方向にそれぞれ移動する構成となっている。また、キャップ駆動部材には、前記第1排気駆動部材と第2排気駆動部材の配置面上に位置する第1ストッパが設けられている。そして、キャップ駆動部材が第1方向に移動して、キャップをキャッピング位置に到達させた後、さらに第1方向に移動して、第1ストッパの位置を変更させる。したがって、キャップを液体噴射面に密着させたまま、キャップ駆動部材が第1方向に移動して、第1ストッパの位置を、第1規制位置と第2規制位置に選択的に切り換えることで、第1ストッパは第1排気駆動部材と第2排気駆動部材のいずれか一方の排気駆動部材の第2方向への移動を規制し、他方の排気駆動部材は移動可能であるため、第1排気弁と第2排気弁を選択的に開閉させることができる。また、第1ストッパの位置を、許容位置に切り換えることで、第1ストッパは第1排気駆動部材と第2排気駆動部材の両方の移動を規制しないため、第1排気弁と第2排気弁を互いに連動して開閉させることができる。
このように、第1排気駆動部材と第2排気駆動部材を1つの駆動源で移動させる構成において、第1排気駆動部材と第2排気駆動部材のいずれかの移動を規制することで、キャップがキャッピング位置に位置したまま第1排気弁と第2排気弁を選択的に開閉させることができる。また、第1排気駆動部材と第2排気駆動部材をそれぞれ異なる2つの駆動源で移動させて、第1排気弁と第2排気弁を選択的に開閉させる場合に比べて、コストを低減しつつ、装置を小型化することができる。
【0011】
また、前記キャップ駆動部材の移動する前記第1方向と、前記第1排気駆動部材及び前記第2排気駆動部材の移動する前記第2方向は、直交していることが好ましい。これによると、装置を小型化することができる。
【0012】
さらに、前記駆動源により回転駆動される回転カムをさらに備えており、前記回転カムの回転にともなって、前記第1排気駆動部材と前記第2排気駆動部材は、順に前記第2方向に往復動することが好ましい。このように、回転カムを利用することで、第1排気駆動部材と第2排気駆動部材の両方を1つの駆動源で第2方向に移動する構成が可能となる。
【0013】
加えて、前記キャップ駆動部材には、前記キャップが前記退避位置に位置したときに、前記第1排気駆動部材と前記第2排気駆動部材の配置面上に位置して、前記第1排気駆動部材と前記第2排気駆動部材の移動を規制する第2ストッパが設けられていることが好ましい。これによると、キャップが退避位置に位置するときに、第2ストッパで第1排気駆動部材と第2排気駆動部材の移動を規制することができ、ノズルがキャップにより密閉されていない状態で、第1排気弁と第2排気弁が開くのを確実に防止することができる。
【0014】
また、前記第1方向は、前記液体噴射面と平行な方向であり、前記キャップ駆動部材は、前記キャッピング位置にある前記キャップの位置を変更させることなく前記第1方向に移動可能な前記液体噴射面と平行な面と、前記平行な面と連続しており、前記キャッピング位置にある前記キャップを前記退避位置に移動させる前記液体噴射面に対して傾斜した斜面とを有しており、前記平行な面の前記第1方向に関する長さは、前記第1排気駆動部材と前記第2排気駆動部材と前記第1ストッパの前記第1方向に関する長さの合計の長さよりも長いことが好ましい。これによると、キャップ駆動部材は、液体噴射面と平行な面を有することで、キャッピング位置にあるキャップの位置を変更させることなく第1方向に移動可能となる。このとき、この平行な面の第1方向に関する長さが、第1排気駆動部材と第2排気駆動部材と第1ストッパの第1方向に関する長さの合計の長さよりも長いと、キャップがキャッピング位置に位置した状態で、第1ストッパを第1規制位置と第2規制位置と許容位置に切り換えることが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
第1排気駆動部材と第2排気駆動部材を1つの駆動源で移動させる構成において、第1排気駆動部材と第2排気駆動部材のいずれかの移動を規制することで、キャップがキャッピング位置に位置したまま第1排気弁と第2排気弁を選択的に開閉させることができる。また、第1排気駆動部材と第2排気駆動部材をそれぞれ異なる2つの駆動源で移動させて、第1排気弁と第2排気弁を選択的に開閉させる場合に比べて、コストを低減しつつ、装置を小型化できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態に係るプリンタの概略構成を示す平面図である。
【図2】キャリッジがメンテナンス位置にあるときのサブタンクと排気ユニット及びメンテナンスユニットの鉛直面に関する断面図である。
【図3】メンテナンスユニットの斜視図である。
【図4】メンテナンスユニットの側面図である。
【図5】吸引キャップの離接動作について説明する図である。
【図6】開閉部材の昇降動作について説明する図である。
【図7】回転カムの回転にともなうスライダの移動について説明する図である。
【図8】ストッパによるスライダの規制動作について説明する概略平面図である。
【図9】図3を下面から見た底面図である。
【図10】吸引ポンプの接続先の切り換えについて説明する図である。
【図11】ストッパによるスライダの規制動作について説明する概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態について説明する。本実施形態は、インクジェットヘッドから記録用紙に対してインクを噴射することにより、記録用紙に所望の文字や画像などを記録(印刷)するプリンタに、本発明を適用したものである。
【0018】
<プリンタの概略構成>
図1は、本実施形態に係るプリンタの概略構成を示す平面図である。図1に示すように、プリンタ1(液体噴射装置)は、一方向に沿って往復移動可能に構成されたキャリッジ2と、このキャリッジ2に搭載されたインクジェットヘッド3(液体噴射ヘッド)及びサブタンク4a〜4dと、記録用紙Pを図1の紙送り方向に搬送する搬送機構5と、インクを貯留するインクカートリッジ6a〜6dと、インクジェットヘッド3の液体噴射性能が低下したときにその性能を回復させるメンテナンスユニット7などを備えている。
【0019】
キャリッジ2は、図1の左右方向(走査方向)に平行に延びる2本のガイド軸17に沿って往復移動可能に構成されている。また、キャリッジ2には、無端ベルト18が連結されており、キャリッジ駆動モータ19によって無端ベルト18が走行駆動されたときに、キャリッジ2は、無端ベルト18の走行に伴って左右方向に移動するようになっている。
【0020】
このキャリッジ2には、インクジェットヘッド3と4つのサブタンク4a〜4dが搭載されている。インクジェットヘッド3は、キャリッジ2とともに走査方向に往復移動しつつ、その下面(図1の紙面向こう側の面)に設けられたノズル35から、搬送機構5により図1の下方(紙送り方向)に搬送される記録用紙Pにインクを噴射する。これにより、記録用紙Pに所望の文字や画像などが記録される。
【0021】
4つのサブタンク4a〜4dは走査方向に沿って並べて配置されている。また、これら4つのサブタンク4にはチューブジョイント20が一体的に設けられている。そして、これらのチューブジョイント20に連結された可撓性のチューブ11a〜11dを介して、4つのサブタンク4a〜4dと4つのインクカートリッジ6a〜6dとがそれぞれ接続されている。また、4つのサブタンク4a〜4dの、走査方向に関する一端部(図1の右方端部)には、サブタンク4内に滞留する空気を排出するための4つの排気ユニット64が設けられている。排気ユニット64の詳細については後で説明する。
【0022】
搬送機構5は、インクジェットヘッド3よりも紙送り方向上流側に配置された給紙ローラ25と、インクジェットヘッド3よりも紙送り方向下流側に配置された排紙ローラ26とを有している。給紙ローラ25と排紙ローラ26は、それぞれ、給紙モータ27と排紙モータ28により回転駆動される。そして、この搬送機構5は、給紙ローラ25により、記録用紙Pを図1の上方からインクジェットヘッド3に供給するとともに、排紙ローラ26により、インクジェットヘッド3によって文字や画像などが記録された記録用紙Pを図1の下方へ排出するように構成されている。
【0023】
4つのインクカートリッジ6a〜6dには、マゼンタ、シアン、イエロー、ブラックの4色のインクがそれぞれ貯留されており、これらのインクカートリッジ6a〜6dは、ホルダ10に着脱自在に装着されている。4つのインクカートリッジ6a〜6dに貯留された4色のインクは、サブタンク4a〜4dに一時的に貯留された後、インクジェットヘッド3に供給される。つまり、4つのサブタンク4a〜4dと、これら4つのサブタンク4a〜4dと4つのインクカートリッジ6a〜6dとを接続するチューブ11a〜11dによって、インクジェットヘッド3にインクを供給するインク供給流路が構成されている。したがって、本実施形態における4つのサブタンク4a〜4dとチューブ11a〜11dのうち、カラーインク(マゼンタ、シアン、イエロー)を供給する3つのサブタンク4a〜4cとチューブ11a〜11cが、本発明における第1液体供給部材に相当し、ブラックインクを供給するサブタンク4dとチューブ11dが、本発明における第2液体供給部材に相当する。
【0024】
<サブタンク及び排気ユニットの構成>
次に、サブタンク4及び排気ユニット64について説明する。図2は、サブタンクと排気ユニット、及び、メンテナンスユニットの鉛直面に関する断面図であり、(a)はキャリッジがメンテナンス位置にあるときのサブタンク及びメンテナンスユニットの鉛直面に関する断面図であり、キャリッジがメンテナンス位置にあるときの排気ユニット及びメンテナンスユニットの鉛直面に関する断面図である。なお、4色のインクをそれぞれ貯留する4つのサブタンク4a〜4dの構造は基本的に同一であるので、そのうちの1つのサブタンク4について以下説明する。また、図2に示されるサブタンク4と排気ユニット64、及び、メンテナンスユニット7は、それぞれ走査方向と直交する鉛直面に関する断面図で示されている。
【0025】
図2(a)、(b)に示すように、サブタンク4内にはインク貯留室46が設けられている。このインク貯留室46は、チューブジョイント20に連結された合成樹脂材料などからなる可撓性チューブ11を介してインクカートリッジ6(図1参照)と連通している。また、サブタンク4の底部にはインク供給孔47が形成されている。そして、インクカートリッジ6からチューブ11(図1参照)を介してサブタンク4に供給されたインク(図2(a)に符号Iで示す)は、インク貯留室46に一時的に貯留された後、インク供給孔47からインクジェットヘッド3へ供給される。
【0026】
なお、サブタンク4及びチューブ11からなるインク供給流路に空気が混入したときには、この空気(図2(a)に符号Aで示す)の大部分は、インク貯留室46の上部に滞留する。そして、サブタンク4の搬送方向の右方端部には、メンテナンスユニット7と協働してインク貯留室46内に滞留した空気を排出する排気ユニット64が設けられ、サブタンク4の側壁上端部に設けられた貫通孔48を介してインク貯留室46の上部と排気ユニット64内部の排気流路66とが連通している。
【0027】
排気ユニット64は、4色のインク(マゼンタ、シアン、イエロー、ブラック)を貯留する4つのサブタンク4a〜4dに対してそれぞれ設けられている。4つのサブタンク4a〜4dにそれぞれ対応する4つの排気ユニット64a〜64dの構造は基本的に同一であるので、そのうちの1つの排気ユニット64について以下説明する。排気ユニット64は、サブタンク4の側面に固定されたケース65と、このケース65内において上下方向に延在するとともに、その上端においてインク貯留室46に連通する排気流路66と、排気流路66を開閉する常閉式の開閉弁60とを備えている。
【0028】
ケース65の側壁上端部には貫通孔65aが形成されている。そして、ケース65内の排気流路66の上端は、この貫通孔65aとサブタンク4の貫通孔48を介して、インクジェットヘッド3へのインク供給流路を構成する、インク貯留室46の上部と連通している。また、この排気流路66は、インク貯留室46に連なる上端から、ケース65の下端に形成された排気口69まで延在している。
【0029】
開閉弁60は、排気流路66内において上下方向に移動可能に配設されるとともに排気流路66を閉止可能な弁部材61と、この弁部材61を下方(排気流路66を閉止する方向)に付勢するコイルバネ62とを備えている。弁部材61は、排気流路66内において上下方向に移動可能な有底筒状の弁体61aと、この弁体61aの底部から下方へ延びる弁棒61bを有する。弁体61aの外径は、排気流路66の内径よりは小さくなっており、この弁体61aと排気流路66の内壁面との間をインクが流れることが可能となっている。また、弁体61aの下面には環状のシール材63が装着されており、弁体61aは、排気流路66の途中の段部に設けられた弁座面67にシール材63を介して当接することで、排気流路66を閉止するように構成されている。
【0030】
ケース65の上端部の内部にはバネ受け部68が固定的に設けられている。バネ受け部68の上部空間と下部空間とは貫通孔を介して連通している。また、このバネ受け部68と弁部材61の弁体61aとの間にコイルバネ62が圧縮状態で配置されており、このコイルバネ62によって弁部材61が下方(排気流路66の閉止方向)へ付勢される。そして、後述するメンテナンスユニット7のピン43により、弁体61aがコイルバネ62の付勢力に抗して上方へ駆動されたときには、弁体61aが弁座面67から離間し、排気流路66が開放される。
【0031】
<インクジェットヘッドの構成>
インクジェットヘッド3は、圧電式のアクチュエータにより、サブタンク4の貫通孔48を介して流路ユニットのインク流路内に供給されたインクを複数のノズル35から噴射させる。複数のノズル35は、紙送り方向に複数並べて配置されてノズル列を形成しているとともに、このノズル列が走査方向に4列配列されている。そして、このインクジェットヘッド3の下面が、複数のノズル35がそれぞれ開口するインク噴射面3a(液体噴射面)となっており、ノズル列ごとに、マゼンタ、シアン、イエロー、ブラックのインクが噴射される。
【0032】
<メンテナンスユニットの構成>
次に、メンテナンスユニット7について説明する。図3は、メンテナンスユニットの斜視図である。図4は、メンテナンスユニットの側面図である。メンテナンスユニット7は、インクジェットヘッド3のノズル35から強制的にインクを排出させる吸引パージと、サブタンク4のインク貯留室46の上部に滞留した空気を排気ユニット64を介して排出させる排気パージとを行うものであり、走査方向に関するキャリッジ2の移動範囲のうちの、記録用紙Pと対向する印刷領域よりも外側(図1における右側)の領域(メンテナンス位置)に配置されている。吸引パージと排気パージの詳細については後で説明する。
【0033】
図1〜図4に示すように、メンテナンスユニット7は、インクジェットヘッド3のインク噴射面3aに密着可能な吸引キャップ12と、吸引キャップ12と走査方向に隣接して配置され、4つの排気ユニット64の下面に密着可能な排気キャップ15と、吸引キャップ12と排気キャップ15に選択的に接続可能な吸引ポンプ14と、吸引キャップ12と排気キャップ15を昇降駆動するキャップ駆動機構50と、排気ユニット64の開閉弁60を開閉駆動する弁駆動機構30と、吸引ポンプ14の接続先を切り換える切換手段90(図8参照)などを備えている。
【0034】
吸引キャップ12は、ゴムや合成樹脂などの可撓性を有する材料で形成されており、2つに仕切られている。そして、メンテナンス位置にキャリッジ2(インクジェットヘッド3)が移動してきたときに、この吸引キャップ12は、インクジェットヘッド3の複数のノズル35が配置されたインク噴射面3aと対向する。この状態で、後述するキャップ駆動機構50によって上方に駆動されることにより、吸引キャップ12は、インクジェットヘッド3のインク噴射面3aに密着し、複数のノズル35の噴射口を覆う。すると、インク噴射面3aの3色のカラーインクを噴射するノズル35が形成された領域と吸引キャップ12とからなる密閉空間と、インク噴射面3aのブラックインクを噴射するノズル35が形成された領域と吸引キャップ12とからなる密閉空間の2つの密閉空間が形成される。
【0035】
排気キャップ15は、吸引キャップ12と同じく、ゴムや合成樹脂などの可撓性を有する材料で形成されている。排気キャップ15は、メンテナンス位置にキャリッジ2(インクジェットヘッド3)が移動してきたときに、4つの排気ユニット64の下面と対向する。この状態で、後述するキャップ駆動機構50により、吸引キャップ12とともに上方(図1の紙面手前側)に駆動されることにより、排気キャップ15は、排気ユニット64の下面に密着し、4つの排気ユニット64の排気口69を一度に覆う。
【0036】
<キャップ駆動機構の構成>
次に、キャップ駆動機構50について説明する。図5は、吸引キャップの離接動作について説明する図であり、(a)は吸引キャップが退避位置にあるときであり、(b)は吸引キャップがキャップング位置にあるときである。図3〜図5に示すように、キャップ駆動機構50は、吸引キャップ12と排気キャップ15を収容するキャップリフトホルダ70と、X方向(紙送り方向:第1方向)に移動可能であり、その移動によってキャップリフトホルダ70を昇降駆動するキャップスライドカム71(キャップ駆動部材)と、キャップスライドカム71をX方向に移動させる駆動モータ72などを有している。
【0037】
キャップリフトホルダ70は、上方に向けて開口した略直方体形状をしており、その内部には、吸引キャップ12と排気キャップ15がインクジェットヘッド3のインク噴射面3aと平行で、且つ、X方向と直交するY方向(走査方向:第2方向)に並んで収容されている。キャップリフトホルダ70は、図示しない支持部材によりX方向及びY方向の位置が固定されており、キャップスライドカム71のX方向の移動によって昇降駆動する。
【0038】
キャップスライドカム71は、キャップリフトホルダ70の下方に配置されており、Y方向に関してキャップリフトホルダ70よりも短い幅であり、X方向に延在した水平面71aと、水平面71aと連続し、X方向に延在しながら下方に傾斜した斜面71bと、斜面71bと連続し、X方向に延在した水平面71cとを有している。そして、キャップスライドカム71の水平面71a、斜面71b及び水平面71cのいずれかの面にキャップリフトホルダ70の下面が摺動可能に接触して、その高さ位置は決められている。
【0039】
また、水平面71cを形成するキャップスライドカム71の端部であって、キャップリフトホルダ70の端部を越えた位置には、X方向に延在し、水平面71a、斜面71b及び水平面71cのX方向に関する合計の長さよりも長いラックギヤ73が設けられており、このラックギヤ73には、駆動モータ72に連結されたピニオンギヤ74が歯合されている。そして、駆動モータ72によりピニオンギヤ74が回転することで、この回転にともない、ピニオンギヤ74と歯合したラックギヤ73とともに、キャップスライドカム71は、吸引キャップ12の下方をX方向に移動する。すると、このキャップスライドカム71の移動によって、キャップリフトホルダ70が、キャップスライドカム71の水平面71a、斜面71b及び水平面71cにわたって摺動しながら、X方向及びY方向の位置を変えずに、これらの面の高さ位置に対応して昇降する。
【0040】
また、キャップスライドカム71の下面には、板状の第1ストッパ75と第2ストッパ76が配置されている。第1ストッパ75は、水平面71aと反対側の下面領域における斜面71b側の端部に配置されており、水平面71aのX方向に関する長さの1/3より若干短い幅となっている。また、第2ストッパ76は、水平面71cと反対側の下面領域に配置されており、第1ストッパ75のX方向に関する幅の2倍より若干長い幅となっている。
【0041】
<吸引キャップのインク噴射面に対する離接動作>
次に、吸引キャップ12のインクジェットヘッド3のインク噴射面3aに対する離接動作について図5を参照して説明する。図5(a)に示すように、吸引パージを開始する前には、キャップスライドカム71はX方向の一方端部(図5(a)の左方端部)に位置している。このとき、キャップリフトホルダ70の下面はキャップスライドカム71の水平面71cに接触して降下した状態となっており、吸引キャップ12はインクジェットヘッド3のインク噴射面3aから離接した退避位置に位置する。
【0042】
そして、駆動モータ72によりキャップスライドカム71がX方向(図5(a)の右方)に移動すると、キャップリフトホルダ70の下面はキャップスライドカム71の水平面71cを摺動した後、斜面71bを摺動しながら上昇する。すると、キャップリフトホルダ70の上昇にともない、吸引キャップ12も退避位置から上昇する。そして、図5(b)に示すように、キャップスライドカム71はさらに右方に移動し、吸引キャップがキャッピング位置に位置すると停止する。すると、キャップリフトホルダ70は、その下面がキャップスライドカム71の水平面71aと接触する位置まで移動し、吸引キャップ12はインクジェットヘッド3のインク噴射面3aに密着する。
【0043】
なお、キャップスライドカム71のX方向に関する位置は、駆動モータ72の回転数から検出可能であり、これにより、キャップスライドカム71のX方向に関する位置を制御することで、吸引キャップ12を退避位置とキャッピング位置とにわたって離接駆動することができる。また、キャップスライドカム71は、吸引キャップ12がキャッピング位置に到達した状態で、その下面が水平面71aに接触している間は吸引キャップ12の位置を変更させることなくX方向に移動可能となっている。
【0044】
キャップリフトホルダ70の昇降移動にともない、吸引キャップ12がインク噴射面3aに対して離接駆動すると、キャップリフトホルダ70には吸引キャップ12に加えて、排気キャップ15も収容されている。したがって、吸引キャップ12がキャッピング位置に移動して、インク噴射面3aに密着すると、それにともない、排気キャップ15は上方に移動して、4つの排気ユニット64の下面に密着する。また、吸引キャップ12が退避位置に移動して、インク噴射面3aから離接すると、それにともない、排気キャップ15は下方に移動して、4つの排気ユニット64の下面から離接する。
【0045】
<弁駆動機構の構成>
次に、弁駆動機構30について説明する。図3及び図4に示すように、弁駆動機構30は、4つの開閉弁60のうちカラーインク用の3つの開閉弁60(第1排気弁)をそれぞれ開閉駆動する3つのピン43a〜43cを有する第1弁開閉部材44aと、残りのブラックインク用の開閉弁60(第2排気弁)を開閉駆動するピン43dを有する第2弁開閉部材44bと、Y方向に移動可能であり、その移動によって第1弁開閉部材44aを昇降駆動する第1スライダ85a(第1排気駆動部材)と、Y方向に移動可能であり、その移動によって第2弁開閉部材44bを昇降駆動する第2スライダ85b(第2排気駆動部材)と、第1スライダ85aと第2スライダ85bをY方向に移動させる回転カム80と、回転カム80を回転駆動する駆動モータ81(駆動源)などを有している。
【0046】
図2に示すように、4本のピン43a〜43dは、それぞれ上下方向に延在した棒状の部材であり、X方向(紙送り方向)に間隔を空けて並べて配置されており、メンテナンス位置にキャリッジ2(インクジェットヘッド3)が移動してきたときに、4つの排気ユニット64の開閉弁60の弁棒61bの真下に位置する。また、4本のピン43a〜43dは、排気キャップ15の底壁を気密を保った状態で貫通し、排気キャップ15に対して上下に移動可能に構成されている。
【0047】
また、4本のピン43a〜43dのうち、ブラックインク用の排気ユニット64dに対応するピン43dは、単独で上下方向に移動可能となっている。一方、3色のカラーインク用の排気ユニット64a〜64cにそれぞれ対応する3本のピン43a〜43cは、それらの下端部において互いに連結され、3本のピン43a〜43cは一体的に上下方向に移動可能となっている。
【0048】
図2〜図4に示すように、第1弁開閉部材44aと第2弁開閉部材44bは、X方向に並べて配置されている。第1弁開閉部材44aは、カラーインク用のピン43a〜43cを連結しており、図示しない支持部材によりX方向及びY方向の位置が固定されており、第1スライダ85aのY方向の移動によって昇降駆動する。第2弁開閉部材44bは、ブラック用のピン43dと接続されており、図示しない支持部材によりX方向及びY方向の位置が固定されており、第2スライダ85bのY方向の移動によって昇降駆動する。
【0049】
第1スライダ85aと第2スライダ85bは、X方向に並べて配置されており、キャップスライドカム71の移動方向であるX方向と直交するY方向に移動可能になっている。また、第1スライダ85aと第2スライダ85bは、キャップスライドカム71の下方において、キャップスライドカム71の下面に配置された第1ストッパ75と第2ストッパ76と同じ高さ位置に配置されており、Y方向に移動したときに、キャップスライドカム71のX方向に関する位置によっては、第1ストッパ75または第2ストッパ76に接触することになり、その移動が規制される。以下、第1スライダ85aと第2スライダ85bの構造は基本的に同一であるので、そのうち1つのスライダ85について以下説明する。
【0050】
図6(a)に示すように、スライダ85の下面には、下方に突出し、後述する回転カム80のカム溝83に係合されたカム軸88が設けられている。また、スライダ85は、Y方向に延在した水平面86と、水平面86と連続し、左方に延在しながら上方に傾斜した斜面87とを有している。そして、スライダ85の水平面86及び斜面87のいずれかの面に開閉部材44の下端が摺動可能に接触して、その高さ位置は決められている。
【0051】
図7(a)に示すように、回転カム80は、スライダ85の下方に、平面視で略右側半分がキャップリフトホルダ70と重なるように配置されており、その上面にカム溝83が形成されている。回転カム80は、駆動モータ81により回転するときのモータの回転数をカウントすることで、その回転位置を検出することができる。カム溝83は、回転カム80と同心円状の非駆動領域84aと、この非駆動領域84aから分岐し、非駆動領域84aよりも径方向中心側へ湾曲した駆動領域84bとからなる。
【0052】
そして、第1スライダ85aと第2スライダ85bのカム軸88は、回転カム80の中心よりも左方の位置においてカム溝83に係合されている。また、第1スライダ85aと第2スライダ85bは、図示しないバネにより回転カム80に対してY方向に関して回転カム80の中心側に付勢されている。したがって、キャップスライドカム71の第1ストッパ75と第2ストッパ76が、スライダ85とX方向に関して重ならず、スライダ85を規制不可な位置にあるときには、スライダ85は非駆動領域84aと駆動領域84bの分岐点において、回転カム80が回転すると、駆動領域84b側に移動する(例えば、図8(b)の第2スライダ85b参照)。また、キャップスライドカム71の第1ストッパ75または第2ストッパ76が、スライダ85とX方向に関して重なり、スライダ85を規制する位置にあるときには、スライダ85は非駆動領域84aと駆動領域84bの分岐点において、回転カム80が回転すると、非駆動領域84a側に移動し、駆動領域84bに移動することはない(例えば、図8(a)の第2スライダ85b参照)。
【0053】
駆動モータ81により回転カム80が回転すると、この回転にともないスライダ85のカム軸88が非駆動領域84aと駆動領域84bとにわたって移動することで、スライダ85は、キャップスライドカム71のX方向に関する移動範囲の下方をY方向に移動する。すると、スライダ85の移動によって、開閉部材44が、スライダ85の水平面86及び斜面87にわたって摺動しながら、X方向及びY方向の位置を変えずに、これらの面の高さ位置に対応して昇降する。
【0054】
<排気ユニットの開閉弁の開閉動作>
次に、排気ユニット64の開閉弁60の開閉動作について図6及び図7を参照して説明する。図6は、開閉部材の昇降動作について説明する図であり、(a)は開閉部材が閉位置にあるときであり、(b)は開閉部材が開位置にあるときである。図7は、回転カムの回転にともなうスライダの移動について説明する図であり、(a)は第1スライダが待機位置にあるときであり、(b)は、第1スライダが開放位置にあるときである。なお、以下においては、キャップスライドカム71の第1ストッパ75と第2ストッパ76は、第1スライダ85aと第2スライダ85bの移動を規制不可な位置にあるとして説明する。また、第1スライダ85aを例にあげて説明する。
【0055】
図6(a)及び図7(a)に示すように、排気パージを開始する前には、回転カム80は、原点位置(ゼロ点位置)に位置しており、第1スライダ85aのカム軸88は駆動領域84bから離れた位置の非駆動領域84aに係合しており、第1スライダ85aは待機位置に待機している。そして、第1スライダ85aの水平面86上に開閉部材44aが位置しており、この開閉部材44aに連結された3つのピン43a〜43cは排気ユニット64の開閉弁60の弁棒61bから離接した閉位置に位置することになる。
【0056】
そして、回転カム80が回転して、第1スライダ85aのカム軸88が非駆動領域84aから駆動領域84bに移動すると、第1スライダ85aは右側にスライドする。すると、図6(b)及び図7(b)に示すように、第1スライダ85aが待機位置から開放位置にY方向に移動する。そして、開閉部材44aは第1スライダ85aの水平面86から斜面87に摺動しながら上昇して開位置に位置することになる。すると、開閉部材44aに連結された3つのピン43a〜43c(図2参照)の上端がカラーインク用の3つ排気ユニット64の開閉弁60の弁棒61b(図2参照)の下端に接触して、弁棒61bを押し上げるため、弁棒61bと一体的に弁体61aが上方へ移動して弁座面67(図2参照)から離間し、排気流路66(図2参照)が開放される。
【0057】
<切換手段の構成>
次に、切換手段90について図9及び図10を参照して説明する。図9は、図3を下面から見た底面図である。図10は、吸引ポンプの接続先の切り換えについて説明する図であり、(a)はゼロ点位置のときであり、(b)は第1角度のときであり、(c)は第2角度のときであり、(d)は第3角度のときであり、(e)は第4角度のときである。図9及び図10に示すように、切換手段90は、吸引ポンプ14の接続先を吸引キャップ12と排気キャップ15に選択的に切り換えるものであり、回転カム80の下面に配置された切換部材91と、切換部材91を収容するカバー92などを有している。
【0058】
切換部材91は、ゴムなどの弾性部材により形成された円板状をし、回転カム80の下面中央に配置されており、その外面に切換流路93が形成されている。切換流路93は、切換部材91の下面の中心から径方向に延びる4本の分岐溝93aからなる。
【0059】
カバー92は、有底の円筒状である。カバー92の底壁の中心には、吸気ポート94が形成され、吸気ポート94は図示しないチューブを介して吸引ポンプ14に接続されている。カバー92の円形の周壁には、周方向に間隔をあけて5つのポート95〜99が形成されている。1つ目のポートは、排気キャップ15内に連通する排気ポート95であり、2つ目のポートは、吸引キャップ12のブラックインクが排出される空間内に連通するBkポート96であり、3つ目のポートは、吸引キャップ12のカラーインクが排出される空間内に連通するCoポート97であり、残りの2つのポートは、大気に開放された大気ポート98、99である。
【0060】
そして、カバー92は、回転カム80及び切換部材91に対して相対的に回転可能となっている。回転カム80がゼロ点位置から第1角度回転すると、切換部材91は、図10(a)に示す位置から回転カム80とともに回転して、図10(b)に示す位置まで回転する。そして、吸引ポンプ14がCoポート97を介して吸引キャップ12のカラーインクが排出される空間と連通したときには、第1スライダ85aと第2スライダ85bのカム軸88はカム溝83の非駆動領域84aと係合されており、待機位置に位置している。また、回転カム80がゼロ点位置から第2角度回転すると、図10(c)に示す位置まで切換部材91もともに回転して、吸引ポンプ14がBkポート96を介して吸引キャップ12のブラックインクが排出される空間と連通したときには、第1スライダ85aと第2スライダ85bのカム軸88はカム溝83の非駆動領域84aと係合されており、待機位置に位置している。
【0061】
また、回転カム80がゼロ点位置から第3角度回転すると、図10(d)に示す位置まで切換部材91もともに回転して、吸引ポンプ14が排気ポート95を介して排気キャップ15内の空間と連通したときには、第1スライダ85aのカム軸88はカム溝83の駆動領域84bと係合されており、開放位置に位置しているとともに、第2スライダ85bのカム軸88はカム溝83の非駆動領域84aと係合されており、待機位置に位置している。また、回転カム80がゼロ点位置から第4角度回転すると、図10(e)に示す位置まで切換部材91もともに回転して、吸引ポンプ14が排気ポート95を介して排気キャップ15内の空間と連通したときには、第2スライダ85bのカム軸88はカム溝83の駆動領域84bと係合されており、開放位置に位置しているとともに、第1スライダ85aのカム軸88はカム溝83の非駆動領域84aと係合されており、待機位置に位置している。このように、回転カム80の回転角度によって、切換部材91の回転角度が変わり、吸引ポンプ14の連通先が切り換わるとともに、第1スライダ85aと第2スライダ85bの位置も切り換わっている。
【0062】
<吸引パージ>
次に、吸引パージについて説明する。まず、キャリッジ2をメンテナンス位置に移動させて、インクジェットヘッド3のインク噴射面3aを吸引キャップ12と対向させた状態で、駆動モータ72によりピニオンギヤ74を駆動して、キャップスライドカム71を退避位置からキャッピング位置に移動させる。すると、吸引キャップ12がインクジェットヘッド3のインク噴射面3aに密着してノズル35を覆う。
【0063】
そして、ゼロ点位置になった回転カム80を切換部材91とともに第1角度回転させて、吸引キャップ12とインク噴射面3aのカラーインク用のノズル35が配置された領域によって形成された密閉空間を切換部材91を介して吸引ポンプ14と連通させる。その状態で、吸引ポンプ14の吸引動作が行われたときには、この密閉空間内の空気が吸引されて圧力が低下し、カラーインク用のノズル35からインクが吸引キャップ12へ排出される。これにより、カラーインク用のノズル35内の増粘インクやインクジェットヘッド3内のインク流路に混入している気泡を、インクとともにノズル35から排出することが可能となっている。そして、吸引パージが完了すると、回転カム80はさらに回転してゼロ点位置に復帰する。
【0064】
なお、ブラックインクの吸引パージについては、吸引キャップ12がインクジェットヘッド3のインク噴射面3aに密着してノズル35を覆った状態で、ゼロ点位置になった回転カム80を第2角度回転させて、吸引キャップ12とインク噴射面3aのカラーインク用ノズル35が配置された領域によって形成された密閉空間を切換部材91を介して吸引ポンプ14と連通させる。その状態で、吸引ポンプ14の吸引動作が行われたときには、ブラックインク用のノズル35からインクが吸引キャップ12へ排出される。これにより、ブラックインク用のノズル35内の増粘インクやインクジェットヘッド3内のインク流路に混入している気泡を、インクとともにノズル35から排出することが可能となっている。
【0065】
<排気パージ>
次に、排気パージについて説明する。まず、キャリッジ2をメンテナンス位置に移動させて、インクジェットヘッド3のインク噴射面3aを吸引キャップ12と対向させた状態で、駆動モータ72によりピニオンギヤ74を駆動して、キャップスライドカム71を退避位置からキャッピング位置に移動させる。すると、排気キャップ15が排気ユニット64の下面に密着し、4つの排気ユニット64の排気口69を一度に覆うとともに、吸引キャップ12がインクジェットヘッド3のインク噴射面3aに密着してノズル35を覆う。
【0066】
そして、ゼロ点位置になった回転カム80を第3角度回転させて、カラーインク用の第1スライダ85aを待機位置から開放位置に移動させる。すると、カラーインク用の3つのピン43a〜43cが閉位置から開位置に移動することで、3つのピン43a〜43cにより3色のカラーインクに対応した3つの排気流路66が開放される。この回転カム80の回転にともなって、切換部材91も回転しており、排気キャップ15内の密閉空間は切換部材91を介して吸引ポンプ14と連通している。この状態で、吸引ポンプ14の吸引動作が行われたときには、排気キャップ15と排気ユニット64の下面によって形成される密閉空間内の空気が吸引されて圧力が低下する。このとき、3色のカラーインクに対応したサブタンク4のインク貯留室46の上部に滞留した空気が、排気流路66を介して排出される。そして、カラーインクの排気パージが完了すると、回転カム80はさらに回転してゼロ点位置に復帰する。
【0067】
なお、ブラックインクの排気パージについては、ゼロ点位置に位置している回転カム80を第4角度回転させて、ブラックインク用の第2スライダ85bを待機位置から開放位置に移動させる。すると、ブラックインク用のピン43dが閉位置から開位置に移動することで、ピン43dによりブラックインクに対応した排気流路66が開放される。この回転カム80の回転にともない、切換部材91も回転し、排気キャップ15内の密閉空間を切換部材91を介して吸引ポンプ14と連通させる。この状態で、吸引ポンプ14の吸引動作が行われたときには、排気キャップ15と排気ユニット64の下面によって形成される密閉空間内の空気が吸引されて圧力が低下する。このとき、ブラックインクに対応したサブタンク4のインク貯留室46の上部に滞留した空気が、排気流路66を介して排出される。
【0068】
このように、吸引パージや排気パージを行うときには、回転カム80をゼロ点からそれらに対応する角度まで回転させるが、これらの動作が完了した後には、ゼロ点を合わせるために回転カム80を一回転させてゼロ点に戻す必要がある。
【0069】
このように、回転カム80を一回転させる間に、第1スライダ85aと第2スライダ85bのどちらも順に移動するため、カラーインクに対応した3つの開閉弁60とブラックインクに対応した開閉弁60が順に開閉してしまう。そこで、本実施形態においては、吸引キャップ12がキャピング位置到達後において、その吸引キャップ12の位置を変更させることなく、キャップスライドカム71のX方向の移動によって、キャップスライドカム71の下面に配置された第1ストッパ75で、第1スライダ85aと第2スライダ85bの移動を規制可能となっている。また、吸引キャップ12が待機位置に位置したときに、キャップスライドカム71の下面に配置された第2ストッパ76で、第1スライダ85aと第2スライダ85bの移動を規制している。
【0070】
図11(a)に示すように、キャップスライドカム71の水平面71aのX方向に関する長さdは、第1スライダ85aのX方向に関する長さaと第2スライダ85bのX方向に関する長さbと第1ストッパ75のX方向に関する長さc合計の長さよりも長くなっている。
【0071】
このように、キャップスライドカム71の水平面71aをインク噴射面3aと平行な面としていることで、吸引キャップ12がキャッピング位置にある状態で、その吸引キャップ12の位置を変更させることができる。そして、図11(a)に示すように、キャップスライドカム71の第1ストッパ75がX方向に関して第1スライダ85aと第2スライダ85bのいずれとも重ならない許容位置にあるときには、第1スライダ85aと第2スライダ85bのいずれも移動可能であり、カラーインクに対応した3つの開閉弁60とブラックインクに対応した開閉弁60を互いに連動して開閉させることができる。
【0072】
また、図11(b)に示すように、キャップスライドカム71の第1ストッパ75がX方向に関して第1スライダ85aと重なる第1規制位置にあるときには、第1スライダ85aの移動は規制されており、カラーインクに対応した3つの開閉弁60は開くことができなくなり、第2スライダ85bだけ移動可能であり、ブラックインクに対応した開閉弁60だけ開閉させることができる(図8(a)、(b)参照)。さらに、図11(c)に示すように、キャップスライドカム71の第1ストッパ75がX方向に関して第2スライダ85bと重なる第2規制位置にあるときには、第2スライダ85bの移動は規制されており、第1スライダ85aだけ移動可能であり、ブラックインクに対応した開閉弁60は開くことができなくなり、カラーインクに対応した3つの開閉弁60だけ開閉させることができる。
【0073】
このように、吸引キャップ12がキャッピング位置に到達した状態で、さらに、その吸引キャップ12の位置を変更させることなく、第1ストッパ75の位置を、キャッピング位置到達後におけるキャップスライドカム71のX方向の移動によって、第1規制位置と第2規制位置に選択的に切り換えることで、第1ストッパ75は第1スライダ85aと第2スライダ85bのいずれか一方のスライダ85のY方向への移動を規制し、他方のスライダ85は移動可能であるため、ブラックインクに対応した開閉弁60とカラーインクに対応した3つの開閉弁60を選択的に開閉させることができる。
【0074】
したがって、第1スライダ85aと第2スライダ85bを回転カム80を用いて、1つの駆動モータ81で移動させる構成において、第1スライダ85aと第2スライダ85bのいずれかの移動を規制することで、吸引キャップ12がキャッピング位置に位置したままブラックインクに対応した開閉弁60とカラーインクに対応した3つの開閉弁60を選択的に開閉させることができる。また、第1スライダ85aと第2スライダ85bをそれぞれ異なる2つの回転カム80で移動させて、ブラックインクに対応した開閉弁60とカラーインクに対応した3つの開閉弁60を選択的に開閉させる場合に比べて、コストを低減しつつ、プリンタ1を小型化することができる。
【0075】
このとき、キャップスライドカム71の移動するX方向と、第1スライダ85a及び第2スライダ85bの移動するY方向は直交しているため、第1スライダ85aと第2スライダ85bが第1ストッパ75の面に垂直に接触することになり、プリンタ1を小型化しながら、第1ストッパ75で第1スライダ85aと第2スライダ85bの移動を確実に規制することができる。
【0076】
また、仮に、吸引キャップ12が退避位置にあり、インク噴射面3aが覆われていない状態で、排気ユニット64の開閉弁60が開かれると、ノズル35表面のメニスカスが破壊され、ノズル35から空気が混入してしまう。そこで、本実施形態においては、図8(c)及び図11(d)に示すように、吸引キャップ12が退避位置に位置したときに、キャップスライドカム71の下面に配置された第2ストッパ76は、X方向に関して第1スライダ85aと第2スライダ85bの両方と重なる位置にあり、第1スライダ85aと第2スライダ85bの両方の移動を規制している。これにより、吸引キャップ12が退避位置に位置するときに、第2ストッパ76で第1スライダ85aと第2スライダ85bの移動を規制することができ、ノズル35が吸引キャップ12により密閉されていない状態で、カラーインクに対応した3つの開閉弁60とブラックインクに対応した開閉弁60が開くのを確実に防止することができる。
【0077】
また、このとき、第2ストッパ76が設けられたキャップスライドカム71は、第2ストッパ76の高さ位置とほぼ同一高さにおいて図示しないメンテベースによって支持されている。したがって、第2ストッパ76に第1スライダ85aと第2スライダ85bが接触したときに、キャップスライドカム71を支持する支点と、キャップスライドカム71の押される面方向が同一面であるため、キャップスライドカム71上に配置された吸引キャップ12や排気キャップ15が傾くことがなく、吸引キャップ12や排気キャップ15内のインクがこぼれたりするのを防止することができる。
【0078】
次に、本実施の形態に種々の変更を加えた変形例について説明する。ただし、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0079】
本実施形態においては、キャップスライドカム71の移動するX方向と、第1スライダ85a及び第2スライダ85bの移動するY方向は直交していたが、キャップスライドカム71の第1ストッパ75及び第2ストッパ76が第1スライダ85a及び第2スライダ85bを規制可能な位置に移動可能であれば、キャップスライドカム71の移動する方向と、第1スライダ85a及び第2スライダ85bの移動する方向は直交せずに交差しているだけでもよい。
【0080】
以上説明した実施形態及びその変更形態は、本発明を、記録用紙にインクを噴射して画像などを記録する、インクジェットプリンタに適用したものであるが、本発明の適用対象は、このような用途に使用されるものに限られない。すなわち、気体の混入及び乾燥による増粘が生じ得る、インク以外の様々な種類の液体を、その用途に応じて噴射する、種々の液体噴射装置に本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0081】
1 プリンタ
3 インクジェットヘッド
3a インク噴射面
12 吸引キャップ
35 ノズル
44a 第1弁開閉部材
44b 第2弁開閉部材
60 開閉弁
71 キャップスライドカム
75 第1ストッパ
76 第2ストッパ
80 回転カム
81 駆動モータ
85a 第1スライダ
85b 第2スライダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる種類の液体をそれぞれ噴射する第1ノズルと第2ノズルが開口する液体噴射面を有する液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドの前記液体噴射面に密着したキャッピング位置と、前記液体噴射面から離間した退避位置とにわたって、前記液体噴射面に対して離接可能なキャップと、
所定の第1方向に移動可能であり、前記第1方向の移動によって前記キャップを離接駆動するキャップ駆動部材と、
前記液体噴射ヘッドに接続された前記第1ノズルへ液体を供給する第1液体供給部材、及び、前記第2ノズルへ液体を供給する第2液体供給部材のそれぞれから気泡を排出するための第1排気弁、及び、第2排気弁と、
前記第1排気弁及び前記第2排気弁を開く開位置と、閉じる閉位置とにわたってそれぞれ開閉移動させることが可能な第1弁開閉部材、及び、第2弁開閉部材と、
前記第1方向に並べて配置され、それらの配置面に平行で且つ前記第1方向と交差する第2方向に移動可能であり、前記第2方向の移動によって前記第1弁開閉部材及び前記第2弁開閉部材を駆動する第1排気駆動部材、及び、第2排気駆動部材と、
前記第1排気駆動部材と前記第2排気駆動部材の両方を、前記第2方向に移動させる駆動源と、を備えており、
前記キャップ駆動部材には、前記第1排気駆動部材と前記第2排気駆動部材の配置面上に位置して、前記第1排気駆動部材と前記第2排気駆動部材の前記第2方向への移動を規制する第1ストッパが設けられており、
前記キャップ駆動部材は、前記キャップが前記キャッピング位置に到達した状態で、さらに、そのキャップの位置を変更させることなく前記第1方向に移動可能に構成されており、
前記キャッピング位置到達後における前記キャップ駆動部材の前記第1方向の移動によって、前記第1ストッパの位置が、前記第1排気駆動部材の移動を規制する第1規制位置、前記第2排気駆動部材の移動を規制する第2規制位置、及び、前記第1排気駆動部材と前記第2排気駆動部材の両方の移動を規制しない許容位置とにわたって切り換えられることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
前記キャップ駆動部材の移動する前記第1方向と、前記第1排気駆動部材及び前記第2排気駆動部材の移動する前記第2方向は、直交していることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記駆動源により回転駆動される回転カムをさらに備えており、
前記回転カムの回転にともなって、前記第1排気駆動部材と前記第2排気駆動部材は、順に前記第2方向に往復動することを特徴とする請求項1または2に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記キャップ駆動部材には、前記キャップが前記退避位置に位置したときに、前記第1排気駆動部材と前記第2排気駆動部材の配置面上に位置して、前記第1排気駆動部材と前記第2排気駆動部材の移動を規制する第2ストッパが設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
前記第1方向は、前記液体噴射面と平行な方向であり、
前記キャップ駆動部材は、前記キャッピング位置にある前記キャップの位置を変更させることなく前記第1方向に移動可能な前記液体噴射面と平行な面と、前記平行な面と連続しており、前記キャッピング位置にある前記キャップを前記退避位置に移動させる前記液体噴射面に対して傾斜した斜面とを有しており、
前記平行な面の前記第1方向に関する長さは、前記第1排気駆動部材と前記第2排気駆動部材と前記第1ストッパの前記第1方向に関する長さの合計の長さよりも長いことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の液体噴射装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−207058(P2011−207058A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77362(P2010−77362)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】