説明

液体噴射装置

【課題】パージ時に印加する駆動パルス信号の電圧を上げることなく、流路長さが最も長い圧力室に連通するノズルからの液体の排出量と、流路長さが短い他のノズルからの液体の排出量との差を小さくすることで、消費電力を低減する。パージ時における複数のノズルからの液体の排出量の差を小さくし、複数のノズルから排出される液体の総和を減らす。
【解決手段】インクジェットヘッド4は、パージ時に、インク供給口36からの流路長さが最も長い2つの圧力室群に対応する個別電極に印加する駆動パルス信号の位相と、走査方向に関して圧力室群と隣接する圧力室群に対応する個別電極に印加する駆動パルス信号の位相とをパルスPのパルス幅分だけずらす。上記以外の圧力室群に印加する駆動パルス信号については、同位相またはパルスPのパルス幅よりも小さい幅だけ位相をずらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を噴射する液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ノズルから液体を噴射する液体噴射装置において、ノズルに連通する液体流路内に異物や気泡などが混入する、あるいは、ノズル内の液体が乾燥して増粘するなどして、ノズルからの液体噴射性能が低下した場合に、上記異物や気泡、あるいは、増粘した液体をノズルから強制的に排出させるパージを実行し、ノズルからの液体噴射性能を回復させる手段を備えたものがある。
【0003】
上述した液体噴射装置として、例えば、特許文献1には、被記録体に対してノズルからインクを噴射して文字や画像などの記録を行う、インクジェットプリンタが開示されている。このインクジェットプリンタは、インクジェットヘッドと、インクジェットヘッドのノズルが開口するノズル面に密着して複数のノズルを覆うキャップと、キャップに形成された吸引口に接続される吸引装置とを有している。そして、ノズル面にキャップが密着して複数のノズルがキャップで覆われた状態で、吸引装置によりキャップ内を減圧してノズルからインクを吸い出すことで、インクジェットヘッド内の異物や気泡などをインクとともに排出するパージを実行している。
【0004】
ところで、液体噴射装置において、複数の圧力室には、供給口から液体が供給される。そして、供給口から複数の圧力室までの流路長さは同じではなく、供給口から圧力室までの流路長さが長いほど、供給口から圧力室までの流路抵抗は大きくなっている。このように、複数の圧力室のそれぞれで流路抵抗が異なっていると、供給口からそれぞれのノズルへの液体の供給速度に影響を及ぼすことになる。すると、上記パージ時に、流路抵抗が大きい圧力室ほど液体が供給されにくくなり、供給不足が生じやすい。そこで、特許文献2に記載のインクジェットヘッドにおいては、パージ圧力が低い末端のノズルを駆動することで、最も流路抵抗が大きい圧力室に連通するノズルから十分に液体が排出させていた。
【0005】
【特許文献1】特開2008−221836号公報(図1)
【特許文献2】特開2010−89312号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献2に記載のインクジェットヘッドでは、ノズル数が多いと、1つのノズルだけ駆動するのではなく、流路抵抗が同じくらいの近傍のノズルも含めた、いくつかのノズルを駆動することになると考えられる。このとき、隣接する2つのノズルに連通する圧力室に駆動パルス信号を1度に印加すると、駆動パルス信号が印加されて変形する部材の2つの圧力室に対向する部分は、変形するタイミングが同じであるため、相互干渉(クロストーク)の影響により変位量が小さくなる。これでは、ノズルから十分に液体を排出させるには不十分であり、駆動パルス信号の電圧を上げて変位量を大きくする必要があり、消費電力が増大してしまう。
【0007】
また、特許文献1に記載のインクジェットプリンタによる上記パージ時には、供給口からの流路抵抗が最も大きいノズルを基準に吸引装置による吸引力を設定しており、流路抵抗が小さい圧力室に連通するノズルからは、必要以上に多くの液体が無駄に排出されることになり、パージ時に複数のノズルから排出される液体の総和が増えていた。
【0008】
そこで、本発明の目的は、パージ時に印加する駆動パルス信号の電圧を上げることなく、流路長さが最も長い圧力室に連通するノズルからの液体の排出量と、流路長さが短い他のノズルからの液体の排出量との差を小さくすることで、消費電力を低減した液体噴射装置を提供することである。また、パージ時における複数のノズルからの液体の排出量の差を小さくし、複数のノズルから排出される液体の総和を減らした液体噴射装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の液体噴射装置は、複数のノズルと、互いに隣接して配置され、前記複数のノズルにそれぞれ連通する複数の圧力室と、前記複数の圧力室に液体を供給するための液体供給口とを有する流路ユニットと、前記複数の圧力室を共通に覆うように前記流路ユニットに接合された振動板と、前記振動板に設けられて前記振動板の前記複数の圧力室と対向する部分をそれぞれ変形させる複数の駆動素子とを有し、前記複数の圧力室内の液体に噴射圧力をそれぞれ付与するアクチュエータと、前記流路ユニットの外部から前記流路ユニット内の液体に圧力を作用させて前記複数のノズルから液体を強制的に排出させるパージを実行するパージ手段と、駆動パルス信号を前記駆動素子に印加する駆動装置と、を備え、前記アクチュエータは、前記パージ時に前記駆動素子に前記駆動パルス信号を印加しており、前記駆動装置は、前記液体供給口からの流路長さが最も長い前記圧力室とこれに隣接する隣接圧力室との間での前記駆動パルス信号の位相差を、前記流路長さが最も長い前記圧力室よりも流路長さが短い前記圧力室とこれに隣接する隣接圧力室との間での前記駆動パルス信号の位相差に比べて大きくする。
【0010】
本発明における液体噴射装置によると、パージ手段によるパージ時に、外部から流路ユニット内の液体に圧力を作用させて複数のノズルから強制的に液体を排出させながら、複数の駆動素子を駆動して、振動板の複数の圧力室と対向する部分を積極的に変形させて、ノズルからの液体の排出量を増大させている。ここで、仮に、隣接する2つの圧力室に対応した2つの駆動素子に同位相の駆動パルス信号を印加すると、振動板の2つの圧力室に対向する部分が変形するタイミングが同じため、相互干渉(クロストーク)の影響が最も大きく、振動板の圧力室に対向する部分の変位量は小さくなる。一方、2つの駆動素子に印加する駆動パルス信号の位相差を大きくするにつれて、振動板の2つの圧力室に対向する部分が変形するタイミングがずれるため、クロストークの影響は小さくなり、振動板の圧力室に対向する部分の変位量は大きくなる。
【0011】
そこで、本発明では、パージ時に、流路長さが最も長い圧力室とこれに隣接する隣接圧力室との間での駆動パルス信号の位相差を、流路長さが最も長い上記圧力室よりも流路長さが短い圧力室とこれに隣接する隣接圧力室との間での駆動パルス信号の位相差に比べて大きくしている。これにより、駆動パルス信号の電圧を上げることなく、振動板の、流路長さが最も長い圧力室に対向する部分の変位量が、他の部分の変位量に比べて大きくなり、パージ時における流路長さが最も長い圧力室に連通するノズルからの液体の排出量と、流路長さが短い他のノズルからの液体の排出量との差を小さくすることができ、消費電力を低減することができる。そして、流路長さの違いに起因した複数の圧力室に連通するノズルからの液体の排出量の差を小さくすることができる。したがって、パージ手段により流路ユニット内の液体に作用させる圧力を小さくして、複数のノズルから液体が無駄に排出されるのを抑制し、複数のノズルから排出される液体の総和を減らすことができる。
【0012】
また、前記駆動装置は、前記流路長さが長い前記圧力室ほど、隣接圧力室との間での前記駆動パルス信号の位相差を大きくすることが好ましい。
【0013】
これによると、流路長さが長い圧力室ほど、隣接圧力室との間での駆動パルス信号の位相差を大きくすることで、流路長さが長い圧力室に連通するノズルほど、駆動なしでのパージのときよりも液体の排出量を増やすことができる。したがって、液体供給口から圧力室までの流路長さによらず、パージ時における全ての圧力室に連通するノズルの間における液体の排出量をほぼ均一化することができ、パージ手段により流路ユニット内の液体に作用させる圧力を小さくして、複数のノズルから液体が無駄に排出されるのをさらに抑制することができ、複数のノズルから排出される液体の総和をさらに減らすことができる。
【0014】
そして、前記流路ユニットは、前記複数の圧力室に共通に連通し、前記液体供給口から液体が供給されるとともに、所定の第1方向に延在する共通液室を有しており、前記複数の圧力室が前記第1方向に配列されて圧力室列を形成し、前記圧力室列が前記第1方向と交差する第2方向に複数並んでおり、前記駆動装置は、前記第2方向に隣接する2つの前記圧力室間において前記駆動パルス信号をずらしてもよい。
【0015】
これによると、互いに異なる圧力室列に属し、流路長さが最も長い2つの圧力室間において駆動パルス信号の位相をずらすことで、これら2つの圧力室に対向する振動板の部分において互いにクロストークの影響を小さくして変位量を大きくすることができる。
【0016】
また、前記流路ユニットは、前記複数の圧力室に共通に連通し、前記液体供給口から液体が供給されるとともに、所定の第1方向に延在する共通液室を有しており、前記複数の圧力室が前記第1方向に配列されて圧力室列を形成しており、前記駆動装置は、前記第1方向に隣接する2つの前記圧力室間において前記駆動パルス信号をずらしてもよい。
【0017】
これによると、同じノズル列に属し、流路長さが最も長い圧力室とこの圧力室に隣接する圧力室間において駆動パルスの位相をずらすことで、これら2つの圧力室に対向する振動板の部分において互いにクロストークの影響を小さくして変位量を大きくすることができる。また、仮に、圧力室列が複数列ではなく1列しかない場合でも、流路長さが最も長い圧力室と対向する振動板の部分の変位量を大きくすることができる。
【0018】
また、前記駆動装置は、前記流路長さが最も長い前記圧力室については、隣接圧力室との間での前記駆動パルス信号の位相差をパルス幅分にすることが好ましい。
【0019】
隣接する2つの圧力室の間での駆動パルス信号の位相差をパルス幅分にすると、一方の駆動素子においてパルスが印加されて電圧が立ち上がり、この駆動素子に対応する圧力室と対向する振動板の部分が変形する。その後、一方の駆動素子において電圧が立ち下がり、この駆動素子に対応する圧力室と対向する振動板の部分の変形が戻るとともに、他方の駆動素子においてパルスが印加されて電圧が立ち上がり、この駆動素子に対応する圧力室と対向する振動板の部分が変形する。このとき、一方の駆動素子に対応する圧力室と対向する振動板の部分の変形が戻る力を利用して、この圧力室と隣接する、他方の駆動素子に対応する圧力室と対向する振動板の部分が大きく変形することになる。したがって、効率的に振動板を大きく変形させることができる。
【発明の効果】
【0020】
駆動パルス信号の電圧を上げることなく、振動板の、流路長さが最も長い圧力室に対向する部分の変位量が、他の部分の変位量に比べて大きくなり、パージ時における流路長さが最も長い圧力室に連通するノズルからの液体の排出量と、流路長さが短い他のノズルからの液体の排出量との差を小さくすることができ、消費電力を低減することができる。また、パージ手段により流路ユニット内の液体に作用させる圧力を小さくして、複数のノズルから液体が無駄に排出されるのを抑制し、複数のノズルから排出される液体の総和を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態に係るインクジェットプリンタの概略構成を示す平面図である。
【図2】インクジェットヘッドの平面図である。
【図3】(a)は図2のA部拡大図、(b)は(a)のB−B線断面図である。
【図4】インクジェットプリンタの制御系を概略的に示すブロック図である。
【図5】個別電極に印加する駆動パルス信号の波形である。
【図6】(a)はクロストークの影響により変位量が最小となったときの振動板近傍の模式図であり、(b)は変位量が最大となったときの振動板近傍の模式図である。
【図7】パージ時におけるインクジェットヘッドの縦断面図である。
【図8】変形例における圧力室群ごとの分割配置について説明するためのインクジェットヘッドの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施形態について説明する。本実施形態においては、記録用紙20にインクを噴射して文字や画像などを記録するインクジェットプリンタを例に挙げて説明する。図1は、本実施形態に係るインクジェットプリンタの概略構成を示す平面図である。
【0023】
図1に示すように、インクジェットプリンタ1(液体噴射装置)は、記録用紙20が載置されるプラテン2と、このプラテン2と平行な走査方向に往復移動可能なキャリッジ3と、このキャリッジ3に搭載されたインクジェットヘッド4と、記録用紙20を走査方向と直交する搬送方向に搬送する搬送機構5と、インクジェットヘッド4の液体噴射性能の回復・維持に関する各種メンテナンス作業を行うメンテナンスユニット6と、インクジェットプリンタ1の全体制御を司る制御装置7(図4参照)などを有している。
【0024】
プラテン2の上面には、図示しない給紙機構から供給された記録用紙20が載置される。また、プラテン2の上方には、図1の左右方向(走査方向)に平行に延びる2本のガイドレール10、11が設けられ、キャリッジ3は、プラテン2と対向する領域において2本のガイドレール10、11に沿って走査方向に往復移動可能に構成されている。
【0025】
また、2本のガイドレール10、11は、プラテン2よりもさらに走査方向に沿って図1の右方に離れた位置まで延在しており、キャリッジ3は、プラテン2上の記録用紙20と対向する領域(記録領域)から、非記録領域である、プラテン2から右方向に離れた位置まで移動可能に構成されている。また、キャリッジ3には、2つのプーリ12、13間に巻き掛けられた無端ベルト14が連結されており、キャリッジ駆動モータ15によって無端ベルト14が走行駆動されると、キャリッジ3は、無端ベルト14の走行にともなって走査方向に移動するようになっている。
【0026】
インクジェットヘッド4は、キャリッジ3の下部に搭載されており、プラテン2の上面と平行な、インクジェットヘッド4の下面が、複数のノズル16が開口するインク噴射面4a(図3(b)参照)となっている。そして、このインク噴射面4aの複数のノズル16から、プラテン2に載置された記録用紙20に対してインクを噴射する。
【0027】
また、インクジェットヘッド4の上面には、各色のインクに対応した4つのインク供給口36(図2参照)が設けられており、この4つのインク供給口36に4本のチューブ17の一端が接続されている。そして、4本のチューブ17の他端は、各色のインクが貯留された4つのインクカートリッジ8を着脱自在なカートリッジ装着部9に接続されており、これにより、カートリッジ装着部9に装着された4つのインクカートリッジ8から4本のチューブ17を介して供給された各色のインクが、インクジェットヘッド4へ供給される。
【0028】
次に、インクジェットヘッド4について説明する。図2は、インクジェットヘッドの平面図である。図3(a)は図2のA部拡大図、(b)は(a)のB−B線断面図である。図2、図3に示すように、インクジェットヘッド4は、複数のノズル16及び複数のノズル16にそれぞれ連通する複数の圧力室34が形成された流路ユニット30と、流路ユニット30の上面に配置され、圧力室34内のインクに圧力を付与する圧電アクチュエータ31と、を有している。
【0029】
まず、流路ユニット30について説明する。図3(b)に示すように、流路ユニット30は、4枚のプレートが積層された構造を有し、この流路ユニット30の下面(インク噴射面4a)には複数のノズル16が形成されている。図2に示すように、これら複数のノズル16は搬送方向に配列され、走査方向に並ぶ4列のノズル列33を構成している。4列のノズル列33にそれぞれ属するノズル16からは、ブラックインクと3色のカラーインク(イエロー、シアン、マゼンタ)との、合計4色のインクがそれぞれ噴射される。
【0030】
また、流路ユニット30には、複数のノズル16にそれぞれ連通する複数の圧力室34が形成され、4列のノズル列33に対応して、複数の圧力室34も4列に配列されている。さらに、流路ユニット30には、それぞれ搬送方向に延在し、4列の圧力室列にブラック、イエロー、シアン、マゼンタの4色のインクをそれぞれ供給する4本のマニホールド35が形成されている。4本のマニホールド35は、延在方向の一端(図2の上端)が流路ユニット30の上面に形成された4つのインク供給口36に接続されている。すなわち、マニホールド35の一端にインク供給口36が接続され、マニホールド35の延在方向に沿って圧力室列が配列されており、圧力室列に属する複数の圧力室34は、インク供給口36からのマニホールド35を介した距離(流路の長さ)がそれぞれ異なっている。
【0031】
次に、圧電アクチュエータ31について説明する。図3(b)に示すように、圧電アクチュエータ31は、複数の圧力室34を覆うように流路ユニット30の上面に配置された振動板40と、この振動板40の上面に、複数の圧力室34と対向するように配置された圧電層41と、圧電層41の上面に複数の圧力室34に対応して配置された複数の個別電極42と、を有している。
【0032】
圧電層41の上面に位置する複数の個別電極42は、圧電アクチュエータ31を駆動するドライバIC47とそれぞれ接続されており、ドライバIC47(駆動装置)から複数の個別電極42に対して所定の駆動電圧とグランド電位からなる駆動パルス信号が独立して印加されるようになっている。また、圧電層41の下面に位置する振動板40は金属材料で形成されており、圧電層41を挟んで複数の個別電極42と対向する共通電極の役割を果たす。この振動板40はドライバIC47のグランド配線に接続されて常にグランド電位に保持されている。
【0033】
この圧電アクチュエータ31は、ドライバIC47から、ある個別電極42と共通電極としての振動板40の間に上記駆動電圧が印加されたときに、両者の間に挟まれた圧電層41の部分(活性部R1:駆動素子)の圧電変形(圧電歪)によって圧力室34に体積変化を生じさせ、圧力室34内のインクに圧力を付与する。このとき、圧力が付与された圧力室34に連通するノズル16からインクが噴射されることになる。
【0034】
図1に戻って、搬送機構5は、搬送方向にプラテン2を挟むように配置された2つの搬送ローラ18、19を有し、これら2つの搬送ローラ18、19によって、プラテン2に載置された記録用紙20を搬送方向(図1の下方)に搬送する。
【0035】
そして、インクジェットプリンタ1は、プラテン2上に載置された記録用紙20に対して、キャリッジ3とともに走査方向(図1の左右方向)に往復移動するインクジェットヘッド4からインクを噴射させるとともに、2つの搬送ローラ18、19によって記録用紙20を搬送方向(図1の前方)に搬送することにより、記録用紙20に所望の文字や画像などを記録する。
【0036】
次に、メンテナンスユニット6について説明する。図1に示すように、メンテナンスユニット6は、プラテン2に対して走査方向一方側(図1の右側)に離れた位置に、インクジェットヘッド4のインク噴射面4aに接触して複数のノズル16の開口を覆う吸引キャップ21と、吸引キャップ21に接続された吸引ポンプ23とを有している。なお、本実施形態における吸引キャップ21と吸引ポンプ23が、本発明におけるパージ手段に相当する。
【0037】
吸引キャップ21は、キャップ昇降モータ25(図4参照)により昇降駆動され、インク噴射面4aに対して離接する。そして、吸引キャップ21はインク噴射面4aに接触(キャッピング)すると、複数のノズル16を覆って密閉空間を画定する。このように、吸引キャップ21がキャッピング状態にあるときに、吸引ポンプ23を駆動して、吸引キャップ21内を吸引して減圧させることで、吸引キャップ21によって覆われた全てのノズル16からインクを強制的に排出させる(以下、パージと称す)。このパージは、ノズル16からのインク噴射性能が低下したときに行われ、このパージ時に、本実施形態においては、個別電極42に駆動パルス信号を印加して、活性部R1を圧電変形させることで、振動板40を変形させて圧力室34に体積変化を生じさせているが、これについて詳しくは後述する。
【0038】
次に、インクジェットプリンタ1の電気的な構成について、図4のブロック図を参照して説明する。図4に示すように、制御装置7は、中央処理装置であるCPU(Central Processing Unit)50、ROM(Read Only Memory)51、RAM(Random Access Memory)52、及び、これらを接続するバス53からなるマイクロコンピュータを有する。また、バス53には、インクジェットヘッド4のドライバIC47、キャリッジ3を駆動するキャリッジ駆動モータ15、搬送機構5、メンテナンスユニット6の吸引ポンプ23とキャップ昇降モータ25などを制御する、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)54が接続されている。また、このASIC54は、入出力インターフェイス(I/F)58を介して外部装置であるPC(パーソナルコンピュータ)70とデータ通信可能に接続されている。
【0039】
また、ASIC54には、記録動作時にPC70から入力された印刷データに基づいて、インクジェットヘッド4のドライバIC47とキャリッジ駆動モータ15をそれぞれ制御し、また、パージ時に同じくインクジェットヘッド4のドライバIC47とキャリッジ駆動モータ15をそれぞれ制御するヘッド制御回路61と、同じく上記印刷データに基づいて搬送機構5を制御する搬送制御回路62と、パージ時にメンテナンスユニット6の吸引ポンプ23とキャップ昇降モータ25とをそれぞれ制御するパージ制御回路63などが組み込まれている。
【0040】
次に、ヘッド制御回路61について詳細に説明する。ヘッド制御回路61は、駆動波形選択部64を有している。駆動波形選択部64は、記録動作時やパージ時に後述する4種類の駆動波形から1種類を選択して決定する。4種類の駆動波形とは、記録動作時に用いられるものであり、それぞれパルス幅やパルス数が異なり、液滴径の異なる3種類のインク玉(小玉、中玉、大玉)を噴射する3種類の記録用駆動波形と、パージ時に用いられるものであり、上述した3種類の記録用駆動波形とはパルス幅やパルス数が異なる1種類のパージ用駆動波形とからなる。
【0041】
具体的に、駆動波形選択部64は、記録動作時にPC70から入力された印刷データに基づいて、3種類の記録用駆動波形から1種類を選択して決定する。そして、ヘッド制御回路61は、記録動作時に、駆動波形選択部64により選択された駆動波形をそのままドライバIC47に送信し、ドライバIC47に、駆動波形に基づいた所定電圧の駆動パルス信号を生成させる。そして、この駆動パルス信号が圧電アクチュエータ31の複数の個別電極42に供給されることで、記録動作時において、インクジェットヘッド4の複数の個別電極42にそれぞれ対応する複数のノズル16からインクが噴射される。
【0042】
ここで、仮に、上述したように、パージ時に、個別電極42に駆動パルス信号を印加しない場合には、インク供給口36から複数の圧力室34までのマニホールド35の流路長さがそれぞれ異なると、流路抵抗がそれぞれ異なることになり、インク供給口36からそれぞれの圧力室34へのインクの供給速度に影響を及ぼすことになり、パージ時における複数のノズル16からのインクの排出量に差が生じていた。
【0043】
そこで、本実施形態では、パージ時に、個別電極42に駆動パルス信号を印加して、この個別電極42に対応する活性部R1を積極的に変形させて、ノズル16からのインクの排出量を増大させている。具体的には、ヘッド制御回路61は、駆動波形選択部64に加えて、さらに位相変更部65を有している。そして、上述したように、駆動波形選択部64が、パージ時に4種類の駆動波形からパージ用駆動波形を選択して決定する。
【0044】
位相変更部65は、パージ時において、駆動波形選択部64が選択したパージ用駆動波形に基づいた駆動パルス信号の位相(すなわち駆動パルス信号を個別電極42に印加するタイミング)を1周期(360度)以内で後述する圧力室群ごとに変更する。より具体的には、位相変更部65は、走査方向に関して隣接する2つの圧力室群に対応する個別電極42に印加する駆動パルス信号の位相を、インク供給口36からマニホールド35を介して圧力室34に至るまでの流路長さが長いほど大きくずらす。なお、同じ圧力室群に属する複数の圧力室34に対応する個別電極42に印加する駆動パルス信号は全て同位相になっている。そして、本実施形態では、パージ用駆動波形に基づいた駆動パルス信号は、図5(a)に示すような1周期の中に1つのパルスPを有する駆動パルス信号となっている。
【0045】
図2に示すように、複数の圧力室34は、1つの圧力室列内でインク供給口36からの距離に応じて3つの圧力室群に区分されている。そして、本実施形態では、複数の圧力室34は、圧力室列が4列あることにともなって計12コの圧力室群に区分されている。なお、本実施形態では、インク供給口36からの流路長さが最も長い4つの圧力室群39のうち、図2の左から1番目と3番目を圧力室群39Aとし、図2の左から2番目と4番目を圧力室群39Bとする。すなわち、圧力室群39Aと圧力室群39Bは、走査方向に交互に並んで隣接して配置されている。また、インク供給口36からの流路長さが最も短い4つの圧力室群37のうち、図2の左から1番目と3番目を圧力室群37Aとし、図2の左から2番目と4番目を圧力室群37Bとする。また、残り4つの圧力室群38のうち、図2の左から1番目と3番目を圧力室群38Aとし、図2の左から2番目と4番目を圧力室群38Bとする。
【0046】
そして、位相変更部65は、より具体的には、インク供給口36からの流路長さが最も長い2つの圧力室群39Aに対応する個別電極42に印加する駆動パルス信号の位相と、走査方向に関して圧力室群39Aと隣接する圧力室群39Bに対応する個別電極42に印加する駆動パルス信号の位相とをパルスPのパルス幅分だけずらす(駆動パルス信号の印加タイミングをパルスPの印加時間だけずらす)。すなわち、図5(a)に示す駆動パルス信号を、圧力室群39Aに対応する個別電極42に印加する駆動パルス信号とすると、この駆動パルス信号におけるパルスPの立ち上がり時間rt11からパルス幅分だけ遅れた立ち上がり時間rt12においてパルスPが発生する、図5(b)に示す駆動パルス信号が圧力室群39Bに対応する個別電極42に印加する駆動パルス信号となる。
【0047】
また、位相変更部65は、インク供給口36からの流路長さが最も短い2つの圧力室群37Aに対応する個別電極42に印加する駆動パルス信号の位相と、走査方向に関して圧力室群37Aと隣接する圧力室群37Bに対応する個別電極42に印加する駆動パルス信号の位相とを同位相にする。すなわち、図5(e)に示す駆動パルス信号が、圧力室群37に対応する個別電極42に印加する駆動パルス信号であり、図5(f)に示す駆動パルス信号が、圧力室群37Bに対応する個別電極42に印加する駆動パルス信号となる。
【0048】
さらに、位相変更部65は、2つの圧力室群38Aに対応する個別電極42に印加する駆動パルス信号の位相と、走査方向に関して圧力室群38Aと隣接する圧力室群38Bに対応する個別電極42に印加する駆動パルス信号の位相とをパルスPのパルス幅よりも小さい幅だけずらす。すなわち、図5(c)に示す駆動パルス信号が、圧力室群38Aに対応する個別電極42に印加する駆動パルス信号であり、図5(d)に示す駆動パルス信号が、圧力室群38Bに対応する個別電極42に印加する駆動パルス信号となる。
【0049】
そして、ヘッド制御回路61は、パージ時において、駆動波形選択部64により選択された駆動波形を、位相変更部65で変更された位相にずらすように、駆動パルス信号を個別電極42に印加するタイミングをずらすように、ドライバIC47に送信し、ドライバIC47に、駆動波形に基づいた所定電圧の駆動パルス信号を生成させる。そして、この駆動パルス信号が圧電アクチュエータ31の複数の個別電極42に供給されることで、パージ時において、インクジェットヘッド4の複数の個別電極42にそれぞれ対応する複数のノズル16からインクが噴射される。ここで、本実施形態においては、パージの行われる時間は2secであり、このパージの間上述した1周期に1つのパルスPを有する駆動パルス信号を20kHzで印加している。すなわち、駆動パルス信号は、1周期50μsecとなっており、パージの間に4万回、振動板40の圧力室34と対向する部分が変形することになる。なお、パージ時間や駆動パルス信号の周波数、駆動パルス信号の印加時間は適宜変更可能である。
【0050】
このように、本実施形態では、パージ時において複数のノズル16から吸引により強制的にインクを排出させるのに加えて、複数の個別電極42に駆動パルス信号を印加して、複数の活性部R1を積極的に変形させて、複数のノズル16からのインクの排出量を増大させている。そして、走査方向に関して隣接する2つの圧力室群に対応する個別電極42に印加する駆動パルス信号の位相を、流路長さが長いほど大きくずらすことで、ノズル16からのインクの噴射量を変えている。
【0051】
ここで、隣接する圧力室34に対応する個別電極42に印加する駆動パルス信号の位相をずらすことによるノズル16からのインクの噴射量について図6を参照して説明する。図6(a)はクロストークの影響により変位量が最小となったときの振動板近傍の模式図であり、(b)は変位量が最大となったときの振動板近傍の模式図である。なお、図6(a)、(b)においては、振動板40の変位量についてわかりやすく説明するため、振動板40に接合された流路ユニット30のプレートと圧力室34の境界部分、すなわち振動板40の拘束された端の部分を三角で模式的に示し、個別電極42などの図示を省略している。
【0052】
例えば、互いに隣接する圧力室34に対応する個別電極42に対して、位相をずらさずに同位相の駆動パルス信号(一例として、図5(e)、(f)に示す2つの駆動パルス信号)を印加すると、図6(a)に示すように、振動板40の2つの圧力室34に対向する部分が変形するタイミングが同じため、相互干渉(クロストーク)の影響が最も大きく、振動板40の圧力室34に対向する部分の変位量は小さくなる。一方、互いに隣接する圧力室34に対応する個別電極42に対して印加する駆動パルス信号の位相を少しずつずらしていくにつれて、振動板40の2つの圧力室34に対向する部分が変形するタイミングがずれるため、クロストークの影響は小さくなり、振動板40の変形を阻害しないため、振動板40の圧力室34に対向する部分の変位量は大きくなる。また、別の観点では、振動板40の両側の圧力室34と対向する部分が中央の圧力室34と対向する部分に引っ張られて、上に凸状に変形する。その後、振動板40の両側の圧力室34と対向する部分が下に凸に変形すると、振動が励起されて変形し易くなり、振動板40の圧力室34に対向する部分の変位量は大きくなる。
【0053】
そして、互いに隣接する圧力室34に対応する個別電極42に対して、パルスPのパルス幅分だけ位相をずらした駆動パルス信号(一例として、図5(a)、(b)に示す2つの駆動パルス信号)を印加すると、一方の個別電極42に印加される駆動パルス信号の電圧が立ち上がり(すなわちパルスPが印加されて)、この個別電極42に対応する圧力室34と対向する振動板40の部分が変形する。その後、一方の個別電極42に印加される駆動パルス信号の電圧が立ち下がり、この個別電極42に対応する圧力室34と対向する振動板40の部分の変形が戻るとともに、他方の個別電極42に印加される駆動パルス信号の電圧が立ち上がり、この個別電極42に対応する圧力室34と対向する振動板40の部分が変形する。このとき、図6(b)に示すように、一方の個別電極42に対応する圧力室34と対向する振動板40の部分の変形が戻る力を利用して、他方の個別電極42に対応する圧力室34と対向する振動板40の部分が大きく変形することになる。したがって、効率的に振動板40を大きく変形させることができ、最も変位量が大きくなる。
【0054】
そして、本実施形態では、走査方向に関して隣接する2つの圧力室群に対応する個別電極42に印加する駆動パルス信号の位相を、流路長さが長いほど大きくずらすことで、駆動パルス信号の電圧を上げることなく、流路長さが長い圧力室34に連通するノズル16ほど、従来の駆動なしでのパージのときよりもインクの排出量を増やすことができ、消費電力を低減することができる。これにより、図7に示すように、パージ時における流路長さの違いに起因した複数の圧力室34に連通するノズル16からのインクの排出量をほぼ均一化することができ、吸引ポンプ23による吸引力を小さくして、複数のノズル16からインクが無駄に排出されるのを抑制し、複数のノズル16から排出されるインクの総和を減らすことができる。
【0055】
このとき、走査方向に隣接する2つの圧力室34の距離はヘッドの小型化を考慮して狭くなっており、活性部R1が搬送方向よりも走査方向に長く延在しているため、搬送方向よりも走査方向に隣接する2つの圧力室34の間でのクロストークによる影響が大きい。その上で、走査方向に隣接し、互いに異なる圧力室列に属する2つの圧力室34の間で、2つの駆動パルス信号の位相をずらしているため、クロストークの影響を最大限に活用して、振動板40の最も小さく変形したときの変位量と、最も大きく変形したときの変位量の差を大きくすることができる。したがって、圧力室列の長さが長く、インク供給口36からの距離が最も短い圧力室34と最も長い圧力室34との流路抵抗の差が大きな場合にも対応することができる。本実施形態における走査方向に関して隣接する2つの圧力室34の一方が、本発明における圧力室であり、他方が、本発明における隣接圧力室である。
【0056】
次に、本実施の形態に種々の変更を加えた変形例について説明する。ただし、上述した実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0057】
本実施形態においては、パージ時において、走査方向に隣接し、互いに異なる圧力室列に属する2つの圧力室34の間で、2つの駆動パルス信号の位相をずらしていたが、搬送方向に隣接する2つの圧力室34の間で、2つの駆動パルス信号の位相をずらしてもよい。例えば、図8に示すように、複数の圧力室34は、インク供給口36からの距離に応じて3つの圧力室群に区分されている。なお、本変形例では、インク供給口36からの流路長さが最も長い圧力室群137を圧力室群137Cとし、流路長さが短くなる順に、圧力室群137B、137Aとする。
【0058】
そして、位相変更部65は、インク供給口36からの流路長さが最も長い圧力室群137Cに属する複数の圧力室34の隣接間で、個別電極42に印加する駆動パルス信号の位相とをパルスPのパルス幅分だけずらす(駆動パルス信号の印加タイミングをパルスPの印加時間だけずらす)。すなわち、図5(a)に示す駆動パルス信号を、圧力室群137Cに属するある圧力室34に対応する個別電極42に印加する駆動パルス信号とすると、この駆動パルス信号におけるパルスPの立ち上がり時間rt21からパルス幅分だけ遅れた立ち上がり時間rt22においてパルスPが発生する、図5(b)に示す駆動パルス信号が圧力室群137Cに属し、前記圧力室34と隣接する圧力室34に対応する個別電極42に印加する駆動パルス信号となる。
【0059】
また、位相変更部65は、圧力室群137Bに属する複数の圧力室34の隣接間で、個別電極42に印加する駆動パルス信号の位相とをパルスPのパルス幅分よりも小さい幅だけずらす。すなわち、図5(c)に示す駆動パルス信号が圧力室群137Bに属するある圧力室34に対応する個別電極42に印加する駆動パルス信号であり、図5(d)に示す駆動パルス信号が圧力室群137Bに属し、前記圧力室34と隣接する圧力室34に対応する個別電極42に印加する駆動パルス信号である。
【0060】
さらに、位相変更部65は、圧力室群137Aに属する複数の圧力室34に対応する個別電極42に印加する駆動パルス信号の位相を全て同じ位相にする。すなわち、図5(e)に示す駆動パルス信号が圧力室群137Aに属する全ての圧力室34に対応する個別電極42に印加する駆動パルス信号である。なお、異なる圧力室群137に属し、互いに隣接する2つの圧力室34に対応する個別電極42に印加する駆動パルス信号の位相は、どちらかの圧力室群137内における位相のずらし方に合わせておく。
【0061】
これによっても、圧力室群137A、137B、137Cのそれぞれでクロストークの影響が異なることになり、流路長さが最も長い圧力室群137Cで最も振動板40の変位量が大きくなり、流路長さが短くなるにつれて振動板40の変位量が小さくなる。したがって、パージ時における流路長さの違いに起因した複数の圧力室34に連通するノズル16からのインクの排出量をほぼ均一化することができ、複数のノズル16からインクが無駄に排出されるのを抑制し、複数のノズル16から排出されるインクの総和を減らすことができる。また、走査方向に隣接する2つの圧力室34の間で、2つの駆動パルス信号の位相をずらす本実施形態の場合に比べて、走査方向に関する圧力室列の区分数は同じにした上で、個別電極42に印加する駆動パルス信号の種類を少なくすることができる(本実施形態では6種類、本変形例では3種類)。さらに、圧力室列が複数列ではなく1列の場合でも、本変形例であれば、複数の圧力室に連通するノズルからのインクの排出量の差を小さくすることができる。なお、本変形例における搬送方向に関して隣接する2つの圧力室34の一方が、本発明における圧力室であり、他方が、本発明における隣接圧力室である。
【0062】
また、本実施形態においては、流路長さに応じて、走査方向に関して3つの圧力室群に区分していたが、2または4以上の圧力室群に区分してもよい。最も多い区分数としては、圧力室列に属する圧力室の数だけ区分することが可能である。区分数を増やすほど、複数の圧力室に連通するノズルからのインクの排出量の差をより小さくすることができる。
【0063】
さらに、本実施形態においては、駆動波形として、パージ専用のパージ用駆動波形を有していたが、パージ用駆動波形を有さずに、記録動作に用いる記録用駆動波形を用いて、パージ時の駆動パルス波形を生成してもよい。パージ専用のパージ用駆動波形を用いることで、自由に波形を設定することができ、例えば、最も流路長さが長い圧力室に連通するノズルから十分最小限にインクが排出されるように設定すれば、複数のノズルから排出される液体の排出量の差をさらに小さくすることができる。
【0064】
加えて、本実施形態においては、吸引キャップ21によりキャッピングして、吸引ポンプ23を駆動して、吸引キャップ21内を吸引して減圧させることで、吸引キャップ21によって覆われた全てのノズル16からインクを強制的に排出させていたが、例えば、インク供給口36にマニホールド35に向かって加圧を加えて、全てのノズル16からインクを強制的に排出させるなど、あらゆる方法で、流路ユニット30の外部からマニホールド35内のインクに圧力を作用させて複数のノズル16からインクを強制的に排出させるパージであってもよい。
【0065】
また、流路長さが最も長い圧力室34と対向する振動板40の部分の変位量を大きくするために、流路長さが最も長い圧力室34とこの圧力室34に隣接する圧力室34間で、個別電極42に印加する駆動パルス信号の位相をずらしさせすればよい。
【0066】
さらに、本実施形態では、インクジェットヘッド4の圧電アクチュエータ31の駆動方式として、待機状態では圧電層41が変形しておらず、駆動パルス信号(パルスP)が印加されたときに圧電層41に電界が作用して圧電層41に変形が生じることによって、圧力室34内のインクに圧力が付与される方式、いわゆる、押し打ち方式を例に挙げて説明していた。しかしながら、圧電アクチュエータ31の駆動方式としては、この押し打ち方式に限らず引き打ち方式であってもよい。
【0067】
また、本実施形態においては、全ての個別電極42に駆動パルス信号を印加していたが、流路長さが最も短い圧力室群(本実施形態では圧力室群37A、37B)については、駆動パルス信号を印加しなくてもよい。
【0068】
また、本実施形態は、本発明を、記録用紙にインクを噴射して文字や画像などを記録するインクジェットプリンタに適用したものであるが、本発明の適用対象は、このような用途に使用されるものに限られない。すなわち、インク以外のさまざまな種類の液体をその用途に応じて対象に噴射する、種々の液体噴射装置に本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 インクジェットプリンタ
4 インクジェットヘッド
6 メンテナンスユニット
16 ノズル
21 吸引キャップ
23 吸引ポンプ
30 流路ユニット
31 圧電アクチュエータ
34 圧力室
40 振動板
47 ドライバIC
R1 活性部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルと、互いに隣接して配置され、前記複数のノズルにそれぞれ連通する複数の圧力室と、前記複数の圧力室に液体を供給するための液体供給口とを有する流路ユニットと、
前記複数の圧力室を共通に覆うように前記流路ユニットに接合された振動板と、前記振動板に設けられて前記振動板の前記複数の圧力室と対向する部分をそれぞれ変形させる複数の駆動素子とを有し、前記複数の圧力室内の液体に噴射圧力をそれぞれ付与するアクチュエータと、
前記流路ユニットの外部から前記流路ユニット内の液体に圧力を作用させて前記複数のノズルから液体を強制的に排出させるパージを実行するパージ手段と、
駆動パルス信号を前記駆動素子に印加する駆動装置と、を備え、
前記アクチュエータは、前記パージ時に前記駆動素子に前記駆動パルス信号を印加しており、
前記駆動装置は、前記液体供給口からの流路長さが最も長い前記圧力室とこれに隣接する隣接圧力室との間での前記駆動パルス信号の位相差を、前記流路長さが最も長い前記圧力室よりも流路長さが短い前記圧力室とこれに隣接する隣接圧力室との間での前記駆動パルス信号の位相差に比べて大きくすることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
前記駆動装置は、前記流路長さが長い前記圧力室ほど、隣接圧力室との間での前記駆動パルス信号の位相差を大きくすることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記流路ユニットは、前記複数の圧力室に共通に連通し、前記液体供給口から液体が供給されるとともに、所定の第1方向に延在する共通液室を有しており、
前記複数の圧力室が前記第1方向に配列されて圧力室列を形成し、前記圧力室列が前記第1方向と交差する第2方向に複数並んでおり、
前記駆動装置は、前記第2方向に隣接する2つの前記圧力室間において前記駆動パルス信号をずらすことを特徴とする請求項1または2に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記流路ユニットは、前記複数の圧力室に共通に連通し、前記液体供給口から液体が供給されるとともに、所定の第1方向に延在する共通液室を有しており、
前記複数の圧力室が前記第1方向に配列されて圧力室列を形成しており、
前記駆動装置は、前記第1方向に隣接する2つの前記圧力室間において前記駆動パルス信号をずらすことを特徴とする請求項1または2に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
前記駆動装置は、前記流路長さが最も長い前記圧力室については、隣接圧力室との間での前記駆動パルス信号の位相差をパルス幅分にすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の液体噴射装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−245758(P2012−245758A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121456(P2011−121456)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】