説明

液体噴射装置

【課題】記録ヘッドを保湿すると共に、ノズルのクリーニングを良好に行うことができる液体噴射装置を提供する。
【解決手段】ターゲットに付着させて記録を施す記録液を噴射する複数のノズルと保湿液を供給する供給口30とを有する記録ヘッド15と、該記録ヘッド15と当接した状態でノズルと対向して記録液を受容可能な記録液受容部KJと、供給口30と対向して保湿液を受容可能な保湿液受容部HJとを有するキャップ40とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばインクジェット式プリンターなどの液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液体をターゲットに対して噴射させる液体噴射装置として、インクジェット式プリンターが広く知られている。このプリンターは、液体噴射ヘッドとして機能する記録ヘッドに供給されるインク(記録液)を記録ヘッドに形成されたノズルから噴射することにより、ターゲットとしての記録媒体に印刷(画像形成)を施すようになっている。そして、こうしたプリンターにおいて、近時は、例えば特許文献1に記載されるように、クリーニング時には記録ヘッドから排出されたインクを受容するために記録ヘッドに当接すると共に、非印刷時には記録ヘッドを保湿するために記録ヘッドに当接するキャップを備えたものがある。
【0003】
すなわち、この特許文献1のプリンターにおいては、記録ヘッドが複数のヘッドチップ(単位ヘッド)を有している。また、キャップは、各ヘッドチップと対応するように設けられた複数のインク収容部(記録液受容部)と、それらのインク収容部に隣り合うように設けられた保湿液収容部(保湿液受容部)とを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−285982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1のプリンターの場合は、保湿液を噴射する記録ヘッドがインクを噴射する記録ヘッドとは別に設けられている。そして、保湿液を噴射する記録ヘッドにおける複数のヘッドチップが、キャップが保湿液を噴射する記録ヘッドと相対移動した際にキャップにおける保湿液収容部と対向した位置状態となったとき、そのキャップにおける保湿液収容部に向けて保湿液を噴射するようにしている。
【0006】
そのため、キャップが保湿を図るために記録ヘッドに当接し、記録ヘッドを覆った状態のままでは、キャップを相対移動することができないので、保湿液を噴射する記録ヘッドのヘッドチップが保湿液収容部と対向した位置状態に移動することができない。このため、そのキャップ内に保湿液を供給することができなかった。
【0007】
従って、こうした従来のプリンターでは、キャップにおける保湿液収容部とは別に、インク収容部内にインク吸収体を設け、そのインク吸収体にインクを吸収保持させることによりキャップ内の保湿性を向上させるようにしていた。
【0008】
しかし、このようにインクを吸収保持したインク吸収体は、吸収保持したインクが乾燥すると目詰まりを起こし、クリーニングに伴ってインク収容部内に排出されるインクを十分に吸収できなくなってしまうという問題があった。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、記録ヘッドを保湿すると共に、ノズルのクリーニングを良好に行うことができる液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の液体噴射装置は、ターゲットに付着させて記録を施す記録液を噴射する複数のノズルと保湿液を供給する供給口とを有する記録ヘッドと、該記録ヘッドと当接した状態で前記ノズルと対向して前記記録液を受容可能な記録液受容部と前記供給口と対向して前記保湿液を受容可能な保湿液受容部とを有するキャップとを備える。
【0011】
この構成によれば、キャップが記録ヘッドに当接した状態において、供給口と保湿液受容部とが対向しているため、キャップを移動させることなく、キャップと記録ヘッドとの当接状態を維持したまま保湿液受容部に保湿液を供給することができる。この結果、例えば、記録ヘッドにキャップを当接させたままの状態が長期間になる場合において蒸発などによって保湿液が減少しても、供給口から保湿液受容部に保湿液を供給することができる。従って、記録液受容部に吸収体を設けなくても記録ヘッドを長期間保湿することができると共に、記録液受容部において吸収体を設ける必要がないことから、吸収体の目詰まりに起因した吸引不良という事態が生じることもなく、ノズルのクリーニングを良好に行うことができる。
【0012】
本発明の液体噴射装置において、前記キャップの外壁よりも内側の領域において前記記録液受容部と前記保湿液受容部とを区画する隔壁が設けられ、前記外壁は、開口縁において弾性を有する弾性部を有し、該弾性部は、前記記録液受容部を区画する前記隔壁が、前記ノズルが形成されたノズル形成面と当接した状態と離間した状態との2つの状態間において、前記外壁が前記記録ヘッドと当接した状態を維持するように変形する。
【0013】
この構成によれば、キャップの外壁が記録ヘッドに当接した状態を維持したまま、記録液受容部を区画する隔壁と記録ヘッドとを当接させたり離間させたりすることができる。すなわち、離間状態において記録液受容部と保湿液受容部は、隔壁と記録ヘッドとの隙間を介して連通しているため、保湿液受容部内の保湿液によって記録液受容部と対向する位置に位置するノズルを保湿することができる。そして、この保湿された保湿状態が維持された状態においてキャップをさらに記録ヘッド側に近づけることにより、弾性部が押し潰されて隔壁を記録ヘッドに当接させることができる。したがって、その後、例えば記録液受容部内を負圧にすることによってノズルから記録液を吸引してクリーニングを行うことによって、効率よくノズルに負圧を作用させることができるとともに、保湿された状態のノズルを良好にクリーニングすることができる。
【0014】
本発明の液体噴射装置において、前記保湿液受容部は、前記保湿液を吸収して保持する吸収体を備える。
この構成によれば、保湿液受容部に供給された保湿液は、吸収体に吸収された状態で保持される。したがって、例えばキャップが移動する状態においても、保湿液が移動する(流れ出る)ことなく保湿液を保湿液受容部に安定して保持することができる。
【0015】
本発明の液体噴射装置において、前記保湿液受容部は前記記録液受容部の各々を隣接して囲むように形成されている。
この構成によれば、隣接して囲むように形成された保湿液受容部によって、記録液受容部に対応するノズルを一様な保湿状態とすることができる。従って、ノズルのクリーニングを良好に行うことができる。
【0016】
本発明の液体噴射装置において、前記キャップは、1つの前記保湿液受容部を有し、当該1つの前記保湿液受容部の領域内に複数の前記記録液受容部を有する。
この構成によれば、保湿液受容部は、その領域が連続して設けられるため、1つの供給口から供給された保湿液を保湿液受容部全体に行き渡らせることができる。そして、保湿液受容部は、複数設けられた記録液受容部の夫々に対して隣接して囲むように設けられているため、記録液受容部を複数設ける場合であっても、供給口の数を増やすことなく複数のノズルを一様に保湿することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態のプリンターの概略構成図。
【図2】記録ヘッドの底面を示す模式図。
【図3】キャップの模式平面図。
【図4】キャップの動作を説明するための機能ブロック図。
【図5】非印刷時におけるキャップの動作状態を示す説明図。
【図6】クリーニング時におけるキャップの動作状態を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の液体噴射装置をインクジェット式プリンターに具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明において、「前後方向」、「左右方向」、「上下方向」をいう場合は図1及び図2に矢印で示す前後方向、左右方向、上下方向をそれぞれ示すものとする。また、この場合における「前後方向」はターゲットの搬送方向と交差する幅方向に相当すると共に、「上下方向」は鉛直方向に相当し、「左右方向」はその左側から右側に向かう方向がターゲットの搬送方向に相当する。
【0019】
図1に示すように、液体噴射装置としてのインクジェット式プリンター(以下、「プリンター」ともいう。)11は、ターゲットとしての用紙12を搬送するための搬送ユニット13と、用紙12に印刷を施すための記録ヘッド15とを備えている。なお、用紙12の搬送方向は右方向であり、記録ヘッド15は、用紙12に対して反重力方向となる上側に位置している。
【0020】
搬送ユニット13は、左右方向に所定の長さを有する矩形板状の支持台17を備えている。支持台17の右側には前後方向(紙面と直交する方向)に延びる駆動ローラー18が駆動モーター19によって回転駆動可能に配置される一方、支持台17の左側には前後方向に延びる従動ローラー20が回転可能に配置されている。さらに、支持台17の下側には前後方向に延びるテンションローラー21が回転可能に配置されている。
【0021】
駆動ローラー18、従動ローラー20、及びテンションローラー21には、支持台17を囲むように、多数の貫通孔(図示略)を有する無端状の搬送ベルト22が巻き回されている。この場合、テンションローラー21は、図示しないばね部材によって下側に向かって付勢されており、搬送ベルト22にテンションを付与することで該搬送ベルト22の弛みを抑制するようになっている。
【0022】
そして、駆動ローラー18が回転駆動することによって、搬送ベルト22は、駆動ローラー18、テンションローラー21、及び従動ローラー20の外側を、前側(紙面手前側)から見て時計方向に周回移動されるようになっている。また、用紙12は、支持台17の上面と対向する位置にある場合、図示しない吸引手段によって搬送ベルト22越しに支持台17側に吸引され、搬送方向の上流側である左側から下流側である右側に向かって搬送されるようになっている。
【0023】
また、従動ローラー20の左斜め上側には、未印刷の複数の用紙12を1枚ずつ順次搬送ベルト22上に給送するための上下1対の給紙ローラー23が設けられている。一方、駆動ローラー18の右斜め上側には、印刷後の用紙12を1枚ずつ搬送ベルト22上から排出するための上下1対の排紙ローラー24が設けられている。
【0024】
図1及び図2に示すように、記録ヘッド15には、複数個(本実施形態では5個)の単位ヘッド25(25A〜25E)が、用紙12の幅方向(前後方向)に亘って並ぶように、支持板27に支持されている。単位ヘッド25は、図2に示すように、左右方向に2列であって、互いに前後方向に位置がずれた所謂千鳥状の配置態様となっている。そして、各単位ヘッド25の下面となるノズル形成面25aには、複数のノズル28により前後方向に沿う複数列(本実施形態では4列)のノズル列29が左右方向に所定間隔をおいて規則的に形成されている。そして、このように構成された各ノズル列29には、それぞれ異なる種類のインク(記録液)が供給され、ノズル28から噴射されるようになっている。例えば、右側から順にブラック、シアン、マゼンタ、イエローの各色のインクが供給されるようになっている。
【0025】
さらに、本実施形態において、支持板27には、単位ヘッド25が設けられた位置とは異なる位置に、ノズル28が開口する方向と同じ下向きの開口部30aを下面において有する供給口30が設けられている。この供給口30からは、保湿液(例えば、水)が供給されるようになっている。
【0026】
さて、図1においては図示を省略したが、本実施形態のプリンター11は、非印刷時やクリーニング時などにおいて、記録ヘッド15(支持板27)に対して下方から移動して当接するキャップ40(図3、図4参照)を備えている。キャップ40は、支持板27とほぼ同じ外形形状を有するとともに、支持板27に支持された5つの単位ヘッド25A〜25Eと供給口30とを覆うように構成されている。
【0027】
次に、キャップ40について図3を参照して説明する。
図3に示すように、キャップ40は、上方に開口を有する略箱型の形状を有するキャップ枠体41(図4参照)を備え、その開口端の全周に上下方向において所定の高さを有する外壁42が環状の側壁を形成するように設けられている。外壁42は、少なくともその上端側となる開口縁が弾性を有する弾性部42aによって形成され、上下方向において所定量圧縮変形するようになっている。なお、本実施形態では弾性部42aは外壁42と一体で弾性材料(例えばゴムや樹脂などの材料)によって形成されている。
【0028】
また、この環状の外壁42によって囲まれた領域内には、上方から見た状態において、各単位ヘッド25A〜25Eのノズル形成面25aに対応する位置(ここでは5箇所)にそれぞれ隔壁45が設けられている。隔壁45は、本実施形態では弾性材料(例えばゴムや樹脂などの材料)によって形成され、ノズル形成面25aと当接したときに上下方向において密着して圧縮変形できるようになっている。そして、それぞれの隔壁45は、各単位ヘッド25においてノズル28を囲むように形成されている。本実施形態では、隔壁45は、各単位ヘッド25のノズル形成面25aの略外形部分に相当する位置に形成されている。この結果、外壁42によって囲まれた領域のうち、各単位ヘッド25のノズル形成面25aの外形部分に相当する領域46が、隔壁45によって区画されて形成される。従って、領域46は略矩形の形状となっている。また領域46には、その下側において隔壁45の周囲側から中央側に向けて下方に傾斜する底面が設けられるとともに、この底面のほぼ中央において開口孔47が設けられている。
【0029】
さて、キャップ40において、上方から見て外壁42によって囲まれた領域から隔壁45によって囲まれた領域を除く領域、すなわち、外壁42の内側であって隔壁45の外側となる領域43は、供給口30から供給される保湿液を受容する保湿液受容部HJとして機能する。また、保湿液受容部HJとして機能する領域43は、領域46の各々を隣接して囲むように形成されている。このように、本実施形態では、キャップ40は、領域43(保湿液受容部HJ)を1つの連続する領域として有するとともに、この領域43内に複数の領域46(記録液受容部KJ)を有している。そして、その領域43の一部(ここでは右後方部分)において供給口30と対向して保湿液を受容することが可能になっている。また、本実施形態では、領域43には、供給口30から供給される保湿液を吸収して保持する吸収体44(図中網掛け部分)が領域43のほぼ全域に渡って設けられている。
【0030】
一方、領域43によって囲まれた領域46は、各単位ヘッド25から噴射されるインクを受容する記録液受容部KJとして機能する。すなわち、キャップ40の外壁42が記録ヘッド15の支持板27と当接した状態で、領域46はノズル28と対向してインクを受容することが可能になっている。
【0031】
次に、このように構成されたキャップ40が有する保湿に関する動作について、図4〜図6を参照して説明する。まず、キャップ40に関する機能動作について、図4に示したブロック図に基づいて説明し、その後、図5,図6に基づいて保湿作用を説明する。なお、図4〜図6においてキャップ40は断面で示している。
【0032】
図4に示すように、支持板27に設けられた各単位ヘッド25には、加圧ポンプP1によって発生し且つバルブV1によって制御された圧力がインクカートリッジ35内に導入されることによって、そのインクカートリッジ35内から貯留されていたインクが供給されるようになっている。供給されたインクは、例えばノズル形成面25aのノズル28から記録液受容部KJとなる領域46に対して、特定量のインクが噴射されたり、あるいは吸引されたりして排出され、ノズル28の噴射性能を回復させることが行われる。排出されたインクは、領域46の底面部(下側)に設けられた開口孔47に接続された配管(図4では実線)を介して吸引ポンプP2によって生じた負圧によって吸引され、廃液タンクTに貯留されるようになっている。
【0033】
同様に、支持板27に設けられた供給口30には、同じく加圧ポンプP1によって発生し且つバルブV2によって制御された圧力が保湿カートリッジ31内に導入されることによって、その保湿カートリッジ31内から貯留されていた保湿液が供給されるようになっている。供給された保湿液は、必要に応じて、開口部30aから保湿液受容部HJとなる領域43に対して特定量が滴下(供給)されて、記録ヘッド15(ノズル28)を保湿するように作用する。この保湿作用について、図5を参照して説明する。
【0034】
図5は非印刷時におけるキャップ40の動作状態を示した説明図である。前述するように、非印刷時では、ノズル28からインクが噴射されない状態が継続することから、ノズル28内のインクが乾燥しないように、キャップ40が記録ヘッド15の全てのノズル形成面25aを覆うようになっている。すなわち、記録ヘッド15が上下方向においてキャップ40と略重なる位置に移動したのち、キャップ40が不図示の移動手段によって下側から上昇して、図5に示すようにキャップ40の外壁42が記録ヘッド15の支持板27に当接する。もとより、外壁42は、その全周が支持板27と密着するように、弾性部42aが上下方向に所定量(この場合、軽く)圧縮された状態となるまで上昇する。
【0035】
一方、この非印刷時において、隔壁45はノズル形成面25aから離間した状態になっている。本実施形態では、キャップ40の外壁42の高さ(上側端部の位置)は、外壁42の内側に設けられた隔壁45の高さ(上側端部の位置)よりも高い状態、すなわち上方に位置する状態で形成されている。このように形成することによって、外壁42の弾性部42aが軽く圧縮された状態において、隔壁45は、ノズル形成面25aから離間してノズル形成面25aとの間に隙間が容易に形成されるようになっている。
【0036】
このように、非印刷時では、単位ヘッド25のノズル形成面25aは、支持板27にキャップ40の外壁42が当接することによって形成された密閉空間内に全て位置することになる。そのため、単位ヘッド25のノズル形成面25aは全て大気と遮断された状態になるとともに、隔壁45との間において隙間が形成される状態となる。従って、図5に示すように、吸収体44に吸収されて保持された保湿液は、外壁42で囲まれた空間領域内において気化(蒸発)することによって、この隙間を介して領域が繋がるノズル形成面25aの下側の空間領域を保湿することになる。この結果、ノズル形成面25aにおけるノズル28は、非印刷時においてインクの乾燥が抑制される状態になる。
【0037】
さらに、このキャップ40が記録ヘッド15に当接した非印刷時の状態において、吸収体44は保湿液を供給する供給口30と対向するようになっている。従って、外壁42が支持板27に当接した状態のままで、吸収体44に対して保湿液を供給口30の開口部30aから供給することができるようになっている。
【0038】
さて、本実施形態のプリンター11では、キャップ40は、このような保湿作用によってノズル28のインクが保湿された非印刷時の状態から、ノズル28のクリーニングを行うクリーニング時の状態に移行することができるようになっている。これについて、図6を参照して説明する。
【0039】
図6はクリーニング時におけるキャップ40の動作状態を示した説明図である。前述するように、クリーニング時では、領域46に向けてノズル28からインクが排出される。そこで、図6に示すように、ノズル28から噴射されるインクを確実に領域46において受けることができるように、あるいは領域46を負圧に保持してノズルからインクを確実に領域46に吸引できるように、隔壁45がノズル形成面25aに密着状態で当接するようになっている。
【0040】
すなわち、キャップ40は、図5に示す非印刷時の状態よりも支持板27に対して近づくように、外壁42の全周において弾性部42aが上下方向に所定量(この場合、強く)圧縮された状態となるまで上昇する。そして、キャップ40は、このように弾性部42aが非印刷時の状態から更に圧縮変形することによって、クリーニング時の状態において隔壁45をノズル形成面25aに当接させるようになっている。換言すれば、弾性部42aは、隔壁45がノズル形成面25aと当接した状態と離間した状態との2つの状態間において、外壁42が支持板27と当接した状態を維持するように変形する。こうして、キャップ40は非印刷時の状態からクリーニング時の状態に移行するのである。もとより、隔壁45は、ノズル形成面25aへの当接状態において圧縮変形が生じていてもよい。
【0041】
このように、クリーニング時では、キャップ40が非印刷時における位置からさらに上方に移動することによって、隔壁45がノズル形成面25aに当接(密着)して単位ヘッド25のノズル形成面25aと隔壁45との間に密閉空間を形成する。この結果、図6に示すように、クリーニング時において、キャップ40内では吸収体44から気化した保湿液によって保湿された空間領域が領域46と遮断された状態になる。従って、領域46から遮断された空間領域において気化した保湿液は、クリーニング時において負圧が印加される領域46(つまり、ノズル形成面25aと隔壁45との間の密閉空間)に引き込まれないようになっている。
【0042】
もとより、隔壁45がノズル形成面25aに当接したクリーニング時において、吸収体44は保湿液を供給する供給口30と対向するようになっている。そのため、外壁42が支持板27に当接するとともに、隔壁45がノズル形成面25aに当接した状態のままで、吸収体44に対して、保湿液を供給口30の開口部30aから供給することができるようになっている。
【0043】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)キャップ40が記録ヘッド15に当接した状態において、供給口30と保湿液受容部HJとなる領域43とが対向しているため、キャップ40と記録ヘッド15の当接状態を維持したまま保湿液受容部HJ(領域43)に保湿液を供給することができる。すなわち、例えばプリンター11を使用しない非印刷時の状態が長時間になる場合において保湿液の蒸発が生じる場合であっても、記録ヘッド15(保持板27)にキャップ40(外壁42)を当接させたままの状態で供給口30から保湿液受容部HJに保湿液を供給することができる。この結果、記録液受容部KJ(領域46)に吸収体を設けなくても記録ヘッド15(ノズル28)を長期間保湿することができる。また、記録液受容部KJ(領域46)に吸収体を設ける必要がないことから、吸収体の目詰まりに起因した吸引不良という事態が生じることもない。したがって、記録ヘッド15を保湿すると共に、ノズル28のクリーニングを良好に行うことができる。
【0044】
(2)キャップ40の外壁42が記録ヘッド15に当接した状態を維持したまま、記録液受容部KJを区画する隔壁45と記録ヘッド15とを当接させたり離間させたりすることができる。すなわち、離間状態において記録液受容部KJと保湿液受容部HJは、隔壁45と記録ヘッド15との隙間を介して連通しているため、保湿液受容部HJ内の保湿液によって記録液受容部KJと対向する位置に位置するノズルを保湿することができる。そして、この保湿された保湿状態が維持された状態においてキャップ40をさらに記録ヘッド15側に近づけることにより、外壁42の弾性部42aが押し潰されて隔壁45を記録ヘッド15(ノズル形成面25a)に当接させることができる。したがって、その後、例えば記録液受容部KJ内を負圧にすることによってノズル28からインクを吸引してクリーニングを行うことによって、効率よくノズル28に負圧を作用させることができるとともに、良好にノズル28のクリーニングを行うことができる。また、クリーニング時において外壁42と隔壁45とによって区画され記録ヘッド15とキャップ40との間に形成される空間領域、すなわち保湿液受容部HJに対応する空間領域の保湿状態を維持継続することができるので、クリーニングが終了してキャップ40が非印刷時の状態になったとき、ノズル形成面25aを直ちに保湿状態にすることができる。
【0045】
(3)保湿液受容部HJに供給された保湿液は、吸収体44に吸収された状態で保持される。したがって、キャップ40が移動した場合でも、保湿液を保湿液受容部HJに安定して保持することができる。
【0046】
(4)隣接して囲むように形成された保湿液受容部HJによって、記録液受容部KJに対応するノズルを確実に保湿状態とすることができる。従って、ノズルのクリーニングを良好に行うことができる。
【0047】
(5)保湿液受容部HJは、1つの連続する領域として設けられるので、1つの供給口30から供給された保湿液を保湿液受容部HJの全体領域に行き渡らせることができる。従って、記録液受容部KJを複数設ける場合であっても、供給口30の数を増やすことなくノズル28を保湿することができる。
【0048】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態において、保湿液受容部HJは記録液受容部KJ毎に隣接するように分割されていてもよい。こうすれば、記録液受容部KJに対応するノズル28毎に保湿状態を調節することができる。従って、例えばノズル28毎のインクに応じた保湿状態とすることによって、ノズル28のクリーニングを良好に行うことができる。なお、この場合、分割された保湿液受容部HJ毎に供給口30を設けるようにすればよい。
【0049】
・上記実施形態において、記録ヘッド15に保湿液を噴射する保湿液吐出ヘッドを搭載することによって、この保湿液吐出ヘッドを供給口30として搭載してもよい。こうすれば、保湿液受容部HJに供給する保湿液の供給量を適切に制御することができる。
【0050】
・上記実施形態において、保湿液受容部HJには吸収体44がなくてもいい。例えば、保湿液が保湿液受容部HJから流れ出る虞が少ない場合はこのようにしてもよい。こうすれば、吸収体よりも保湿液をすばやく保湿液受容部HJ全体に広げることができる。
【0051】
・上記実施形態において、外壁42が有する弾性部42aは中空形状でもよい。こうすれば、より潰れやすく変形量が多くなるので、非印刷時とクリーニング時との間のキャップ40の移動量が多くても、外壁42と記録ヘッド15との間の当接状態を安定して維持することができる。
【0052】
・上記実施形態において、記録ヘッド15をキャップ40側に移動させてもよい。キャップ40を移動させることができない場合は、このように記録ヘッド15をキャップ40に対して移動させるようにしても、上記実施形態と同様な効果が得られる。
【0053】
・上記実施形態において、インクが付着されて印刷が施されるターゲットとしては、用紙、プラスチックフィルム、シール、金属箔、ガラス板、板材、布など、液体を受容可能な任意の素材及び形状のものを採用することができる。
【0054】
・上記実施形態では、液体噴射装置をインクジェット式プリンター11に具体化したが、インク以外の他の液体を噴射したり吐出したりする液体噴射装置を採用してもよい。微小量の液滴を吐出させる液体噴射ヘッド等を備える各種の液体噴射装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記液体噴射装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、液体噴射装置が噴射させることができるような材料であればよい。例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状体、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散又は混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インク及び油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。液体噴射装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散又は溶解のかたちで含む液体を噴射する液体噴射装置が採用できる。また、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサ等であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置を採用してもよい。そして、これらのうちいずれか一種の液体噴射装置に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0055】
11…プリンター(液体噴射装置)、15…記録ヘッド、25a…ノズル形成面、27…支持板、28…ノズル、30…供給口、40…キャップ、42…外壁、42a…弾性部、43,46…領域、44…吸収体、45…隔壁、HJ…保湿液受容部、KJ…記録液受容部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットに付着させて記録を施す記録液を噴射する複数のノズルと保湿液を供給する供給口とを有する記録ヘッドと、
外壁を有し、該外壁が前記記録ヘッドと当接した状態で前記ノズルと対向して前記記録液を受容可能な記録液受容部と前記供給口と対向して前記保湿液を受容可能な保湿液受容部とを有するキャップと
を備えることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
前記キャップの外壁よりも内側の領域において前記記録液受容部と前記保湿液受容部とを区画する隔壁が設けられ、
前記外壁は、開口縁において弾性を有する弾性部を有し、
該弾性部は、前記記録液受容部を区画する前記隔壁が、前記ノズルが形成されたノズル形成面と当接した状態と離間した状態との2つの状態間において、前記外壁が前記記録ヘッドと当接した状態を維持するように変形することを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記保湿液受容部は、前記保湿液を吸収して保持する吸収体を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記保湿液受容部は前記記録液受容部の各々を隣接して囲むように形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のうち何れか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
前記キャップは、1つの前記保湿液受容部を有し、当該1つの前記保湿液受容部の領域内に複数の前記記録液受容部を有することを特徴とする請求項4に記載の液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−61785(P2012−61785A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209079(P2010−209079)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】