説明

液体噴射装置

【課題】液体噴射ヘッドへの液体の供給不足を検出するとともに、その供給不足を解消することができる液体噴射装置を提供する。
【解決手段】プリンター11は、インクを貯留するインクタンク12と、インクを噴射するノズル15を有する液体噴射ヘッド13と、インクタンク12と液体噴射ヘッド13との間でインクを循環させる循環流路14と、循環流路14を介して液体噴射ヘッド13に供給されるインクを加熱するヒーター27と、ヒーター27により加熱されたインクが流れる循環流路14において温度を検出する温度センサー29と、温度センサー29の検出結果に基づいて、循環流路14の流量を回復させるためのメンテナンス動作を実行させる制御装置と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、媒体に対して液体(インク)を噴射する液体噴射装置として、インクジェット式プリンターが広く知られている。こうしたプリンターのうちには、インクを貯留するタンクと、インクを噴射する液体噴射ヘッドと、タンクと液体噴射ヘッドとの間でインクを循環させるための循環流路とを備えたものがあった(例えば、特許文献1)。
【0003】
こうしたプリンターにおいて、液体噴射ヘッドにインクを供給するための循環流路(供給流路)に異物が混入すると、インクを噴射するノズルに目詰まりを生じ、印刷品質の低下を招いてしまう。そこで、特許文献1のプリンターは、供給流路に異物を取り除くためのフィルターを備えていた。
【0004】
また、こうしたフィルターを供給流路に設けると、混入した気泡がフィルターに捕捉されて流路抵抗となり、液体噴射ヘッドに対するインクの供給不足を招くことがあった。そこで、特許文献1のプリンターでは、フィルターの上流側にインクを加熱する加熱装置を設け、加熱によってインクの粘度を低下させることで、フィルターに気泡が捕捉されるのを抑制するようにしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開11−198403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1のプリンターは、インクが吐出されないノズルの場所を検出するための読み取りヘッドを備えていた。しかし、インクの供給不足は、供給流路における流路抵抗の増大が要因となっているため、読み取りヘッドによっては検出することができなかった。
【0007】
また、こうしたインクの供給不足は、フィルターに気泡が捕捉された場合に限らず、供給流路が細くなった部分や屈曲した部分などに気泡やそれ以外の異物が引っかかって、供給流路の一部又は全部が詰まってしまった場合などにも生じうる。そのため、インクを加熱するだけでは、インクの供給不足を防止できない場合があった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、液体噴射ヘッドへの液体の供給不足を検出するとともに、その供給不足を解消することができる液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の液体噴射装置は、液体を貯留する液体貯留部と、液体を噴射するノズルを有する液体噴射ヘッドと、前記液体貯留部と前記液体噴射ヘッドとの間で液体を循環させる循環流路と、該循環流路を介して前記液体噴射ヘッドに供給される液体を加熱する加熱手段と、該加熱手段により加熱された液体が流れる前記循環流路において温度を検出する温度検出手段と、該温度検出手段の検出結果に基づいて、前記循環流路の流量を回復させるためのメンテナンス動作を実行させる制御手段と、を備える。
【0010】
この構成によれば、循環流路を介して液体噴射ヘッドに供給される液体は加熱手段によって加熱されるため、その循環流路を流れる液体の流量が低下すると、温度検出手段によって検出される温度が低下する。そのため、温度検出手段の検出温度から、液体噴射ヘッドへの液体の供給不足が生じていることを検出することができる。また、制御手段は、温度検出手段の検出結果に基づいて循環流路を流れる液体の流量を回復させるためのメンテナンス動作を実行させるので、液体噴射ヘッドへの液体の供給不足を検出するとともに、該供給不足を解消することができる。
【0011】
本発明の液体噴射装置において、前記液体噴射ヘッドは、前記ノズルに連通するとともに前記循環流路の一部を構成する液体室を有し、前記温度検出手段は、前記液体室内に配置される。
【0012】
この構成によれば、温度検出手段を設置するためのスペースを液体噴射ヘッドにおいて循環流路の一部を構成する液体室内に確保することができる。また、液体室内は加熱された液体の流入によって暖められるとともに、そのような液体の循環によって所定の温度に保たれる。そして、温度検出手段は液体室内に配置されるので、その液体室を含む循環流路を流れる液体の流量が減少した場合には、液体室内における温度の低下を速やかに検出することができる。
【0013】
本発明の液体噴射装置は、前記循環流路において液体を循環させるポンプをさらに備え、前記制御手段は、前記温度検出手段の検出温度が予め規定された閾値未満になった場合に、吐出圧力を増すように前記ポンプを制御する。
【0014】
この構成によれば、不足なく液体が供給されているときの温度に基づいて予め閾値を規定しておくことで、温度検出手段の検出温度が閾値未満になった場合には、液体の供給不足が生じていることを検出することができる。また、制御手段が吐出圧力を増すようにポンプを制御することで、循環流路内に留まっている気泡等を押し流し、循環流路の詰まりを解消することができる。これにより、メンテナンス動作における液体の消費量を抑制しつつ、液体噴射ヘッドへの液体の供給不足を解消することができる。
【0015】
本発明の液体噴射装置において、前記制御手段は、前記メンテナンス動作として、前記循環流路において前記液体噴射ヘッド側から前記液体貯留部側へ向けて液体を逆流させる。
【0016】
この構成によれば、循環流路において液体噴射ヘッド側から液体貯留部側へ向けて液体を逆流させることで、例えば循環流路の形状等に起因して流路抵抗が大きくなった部分に気泡等が詰まっている場合などに、気泡等を流路抵抗が小さい方に引き戻すことが可能になる。
【0017】
本発明の液体噴射装置において、前記循環流路は、液体の噴射時に前記液体貯留部から前記液体噴射ヘッドに液体を供給する供給流路と前記液体噴射ヘッドから前記液体貯留部に液体を返送する返送流路とを有し、前記加熱手段は前記供給流路に設けられる一方、前記返送流路には該返送流路を開閉する開閉弁が設けられ、前記制御手段は、前記メンテナンス動作として、前記開閉弁を閉弁状態にするとともに前記供給流路において前記液体噴射ヘッド側から前記液体貯留部側へ向けて液体を逆流させ、さらにその後、前記開閉弁を開弁状態にする。
【0018】
この構成によれば、加熱手段は供給流路に設けられるので、環境温度の影響を抑制し、目的の温度に加熱した液体を液体噴射ヘッドに供給することができる。そのため、不足なく液体が供給されているときの温度変化を小さくすることができる。これにより、温度検出手段は流量変化に伴う温度変化を適切に検出することができる。また、開閉弁を閉弁状態にして液体を逆流させることで、供給流路の詰まりが生じた部分を減圧することができる。そして、その後に開閉弁を開弁状態にすることで、液体噴射ヘッド側から液体貯留部側へ勢いよく液体を逆流させ、供給流路に詰まっていた気泡等を液体貯留部側へ送り戻すことできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態のプリンターの構成を模式的に示す断面図。
【図2】分岐流路を説明するための模式図。
【図3】実施形態のプリンターの電気的構成を示すブロック図。
【図4】メンテナンス動作を実行させる際の処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を液体噴射装置の一種であるインクジェット式プリンター(以下、単に「プリンター」と表記する)に具体化した実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。なお、本実施形態のプリンターは、液体として紫外線硬化型インク(以下、単に「インク」と表記する)を用いる。なお、本実施形態では、一色(例えば白色)のインクに対応する構成について図示及び説明しているため、複数色のインクを用いる場合には、同様の構成を色毎に備えればよい。
【0021】
図1に示すように、プリンター11は、インクを貯留する液体貯留部としてのインクタンク12と、液体噴射ヘッド13(13A,13B,13C,13D)と、インクタンク12と各液体噴射ヘッド13との間でインクを循環させる循環流路14と、紫外線照射装置(図示略)とを備える。各液体噴射ヘッド13は、インクを噴射する複数のノズル15と、ノズル15に供給するインクを一時貯留する液体室としてのインク室16と、インク室16にインクを流入させる流入孔17と、インク室16からインクを流出させる流出孔18とを有している。
【0022】
そして、プリンター11は、図示しない媒体に対して、液体噴射ヘッド13に設けられたノズル15からインクを噴射することで、印刷(記録)を行う。また、紫外線照射装置がインクを受容した媒体に対して紫外線を照射することでインクを硬化させ、媒体上に定着させる。なお、媒体としては、用紙、プラスチックフィルム、シール、金属箔、ガラス板、布など、液体を受容可能な任意の素材及び形状のものを採用することができる。
【0023】
液体噴射ヘッド13のインク室16内には、その内部を2分するようにフィルター19が張設されている。インク室16は、フィルター19によって区分された一方側(下流側)がノズル15に連通するとともに、他方側(上流側)が流入孔17及び流出孔18に連通している。そして、インク室16は、循環流路14の一部を構成している。
【0024】
ノズル15からインクが噴射される際には、インクは循環流路14内において図1に矢印で示す正循環方向に循環されるとともに、フィルター19で濾過されたインクがノズル15に供給される。そのため、フィルター19によってインク中に混入した気泡や異物等が除かれ、ノズル15の目詰まりが抑制されるようになっている。
【0025】
循環流路14は、インク噴射時にインクタンク12から液体噴射ヘッド13のインク室16へインクを供給する供給流路20と、各インク室16からインクタンク12へインクを返送する返送流路21とを有している。また、供給流路20は、正循環方向における上流端がインクタンク12内に連通する本流路22と、下流端が液体噴射ヘッド13に接続される複数の分岐流路23とを有している。すなわち、各分岐流路23の上流端は、本流路22の下流端から分岐する態様となっている。
【0026】
本流路22には、循環流路14においてインクを循環させるためのポンプ24が設けられている。また、本流路22には、ポンプ24の正循環方向における下流側となる位置に、本流路22を開閉するための開閉弁25が設けられている。なお、ポンプ24は、ダイヤフラムポンプ、ピストンポンプ、プランジャーポンプなどの往復動ポンプや、チューブポンプ、ギヤポンプ、ベーンポンプ、ねじポンプなどの回転ポンプを用いることができる。
【0027】
返送流路21は、各分岐流路23及び液体噴射ヘッド13と対応するように複数設けられている。なお、インクをインクタンク12にスムーズに還流させるために、返送流路21は分岐流路23よりも流路断面積が大きくなっている。そして、各返送流路21には、この返送流路21を開閉するための開閉弁26がそれぞれ設けられている。開閉弁25,26は任意に開閉操作を行うことができる弁であり、電磁弁や機械的に動作する弁を採用することができる。
【0028】
分岐流路23には、正循環方向における上流側付近に、液体噴射ヘッド13に供給されるインクを加熱する加熱手段としてのヒーター27が設けられている。図2に示すように、ヒーター27は、通電により発熱する熱伝導体28を備えている。熱伝導体28は、例えば熱伝導率の高いアルミ系金属(アルミニウムやアルミ合金など)によって構成される。また、分岐流路23は、インク耐食性の高い鉄系金属(例えばステンレス)によって形成される。
【0029】
分岐流路23は、熱伝導体28に対する接触面積を広くするため、本流路22よりも流路断面積が小さくなっているとともに上流側付近が蛇行経路を描くように配管される。また、分岐流路23の蛇行経路部分は熱伝導体28の表面に接合されている。そして、熱伝導体28によって加熱された分岐流路23を介して、分岐流路23内を流れるインクが加熱されるようになっている。
【0030】
なお、紫外線硬化型のインクは温度による粘度変化が大きい上、常温での粘度が高い。そのため、プリンター11では、ヒーター27でインクを加熱することで、インクの粘度を低下させて噴射しやすくするようにしている。また、図1に示すように、インク室16内には、インク室16の温度を検出する温度検出手段としての温度センサー29が設けられている。温度センサー29は、ヒーター27により加熱されたインクが流入する流入孔17の近くに配置される。
【0031】
次に、プリンター11の電気的構成について説明する。
図3に示すように、プリンター11は、制御手段としての制御装置50を備えている。制御装置50は、CPU51、RAM52、ROM53及びヘッド駆動回路54を有している。
【0032】
ROM53には、CPU51により実行される制御プログラムや、この制御プログラムの実行に際して参照される閾値のデータ等が記憶されている。また、RAM52には、CPU51の演算結果や制御プログラムを実行して処理する各種データなどが一時的に記憶される。
【0033】
制御装置50は、ヘッド駆動回路54を介して液体噴射ヘッド13によるインクの噴射動作を制御する。また、制御装置50は、ポンプ24、開閉弁25,26及びヒーター27の制御を行う。なお、CPU51等は、インクの噴射、加熱、循環など、その制御内容に応じて複数個設けてもよい。
【0034】
ポンプ24は、制御装置50の制御によって吐出圧力(送り出し流量)を変化させることができるとともに、循環流路14におけるインクの循環方向を逆転させることができるようになっている。なお、以下の説明においては、図1に矢印で示すインクの正循環方向に対して、循環方向を逆転させた場合のインクの流れ方向を逆循環方向と表記する。また、温度センサー29は、検出温度に応じた電気信号を制御装置50に対して出力するようになっている。
【0035】
次に、プリンター11の作用について説明する。
プリンター11においては、供給流路20内に気泡や異物などが混入すると、特に分岐流路23の一部又は全部が詰まってしまうことがある。分岐流路23は本流路22や返送流路21よりも流路断面積が小さく、さらに蛇行経路を描くために流路抵抗が大きくなるためである。例えば、図1では、液体噴射ヘッド13Aに接続された分岐流路23に気泡Buが引っかかることで詰まりが生じ、インクの流量が低下した状態を図示している。
【0036】
また、このように分岐流路23が詰まると、液体噴射ヘッド13に対する加熱されたインクの供給量が減少するために、インク室16内の温度が低下する。そこで、プリンター11では、制御装置50が温度センサー29の検出結果に基づいて、分岐流路23の流量を回復させるためのメンテナンス動作を実行させるようになっている。
【0037】
次に、プリンター11において、制御装置50がメンテナンス動作を実行させる際の処理について説明する。
図4に示すように、制御装置50は、図示しないホストコンピューター等からの印刷指令を受信すると、ステップS11としてポンプ24を駆動させて正循環方向にインクの循環を開始させる。また、続くステップS12として、制御装置50はヒーター27に通電することでインクの加熱を開始させる。
【0038】
次に、ステップS13として、制御装置50は各温度センサー29が検出する温度Tの監視を開始する。そして、ステップS14として、制御装置50は、各温度センサー29が検出する温度Tが閾値Ta以上になったか否かを判定する。そして、閾値Ta未満の温度Tを検出する温度センサー29が1つでもあった場合には、再度ステップS14の判定を繰り返す。
【0039】
一方、各温度センサー29が検出する温度Tが全て閾値Ta以上になると、制御装置50は液体噴射ヘッド13を制御して媒体に対するインクの噴射を開始させる。なお、閾値Taは、噴射に適切な粘度にインクを調整するための温度として予め実験等に基づいて規定し、ROM53に記憶させておくことができる。
【0040】
次に、ステップS15として、制御装置50は、インクを噴射しているときに何れかの温度センサー29が検出する温度Tが閾値Tb未満になったか否かを判定する。そして、閾値Tb未満の温度Tを検出する温度センサー29がなかった場合には、再度ステップS15の判定を繰り返し、インクの噴射を継続する。
【0041】
一方、何れかの温度センサー29の検出する温度Tが閾値Tb未満になった場合には、制御装置50はその温度センサー29の上流側に位置する分岐流路23に詰まりが生じたと判断して、ステップS16に進む。なお、閾値Tb(Tb<Ta)は、加熱されたインクの供給量が減少したことを検出するための温度として予め実験等に基づいて規定し、ROM53に記憶させておくことができる。
【0042】
ステップS16において、制御装置50は各種のメンテナンス動作を実行させる。メンテナンス動作は、詰まりが生じて減少した分岐流路23の流量を回復させるために、インクの噴射動作を停止させた状態で行われる。なお、メンテナンス動作の実行後、制御装置50は処理を終了し、再度ステップS11〜S14を繰り返す。
【0043】
そして、ステップS14において、各温度センサー29が検出する温度Tが全て閾値Ta以上になると、制御装置50は詰まりが解消されたと判断して、インクの噴射動作を再開する。また、印刷指令に基づくインクの噴射が終了した場合にも、制御装置50は図4の処理を終了する。
【0044】
次に、プリンター11におけるメンテナンス動作(第1〜第3メンテナンス動作)について具体的に説明する。
制御装置50は、第1メンテナンス動作として、ポンプ24の吐出圧力を増加させる。これにより、分岐流路23内に引っかかっている気泡等はより流路断面積の広い返送流路21の方へ押し出され、詰まりが解消される。なお、第1メンテナンス動作は、詰まりが生じていない分岐流路23の正循環方向における下流側に設けられた開閉弁26を閉弁状態にして行うのが好ましい。これにより、詰まりが生じた分岐流路23に圧力が集中するので、より効果的に詰まりを解消することができる。
【0045】
また、第1メンテナンス動作によっても詰まりが解消されない場合、制御装置50は第2メンテナンス動作として、ポンプ24を制御してインクの循環方向を逆転させる。すなわち、分岐流路23において液体噴射ヘッド13側からインクタンク12側へ向けてインクを逆流させる。これにより、分岐流路23に引っかかっている気泡等が、流路抵抗が大きい部分から流路抵抗が小さい方へ引き戻され、詰まりが解消される。なお、第2メンテナンス動作は、ポンプ24の吐出圧力を増加させた状態で行うと、より効果的に詰まりを解消することができる。
【0046】
また、第1,第2メンテナンス動作によっても詰まりが解消されない場合、制御装置50は第3メンテナンス動作として、開閉弁26を閉弁状態にした上でインクを逆流させる。これにより、開閉弁26からポンプ24までの分岐流路23を含む循環流路14内が減圧される。
【0047】
そして、制御装置50は、逆循環方向にインクが循環するように所定時間ポンプ24を駆動させた後、開閉弁26を開弁状態にする。これにより、減圧されていた循環流路14内に勢いよくインクが逆流する。すると、減圧により膨張していた気泡は、インクとともに液体噴射ヘッド13側からインクタンク12側へ向けて引き戻され、詰まりが解消される。
【0048】
なお、第3メンテナンス動作は、ポンプ24の吐出圧力を増加させた状態で行うと、より効果的に詰まりを解消することができる。また、全ての開閉弁26を閉弁状態にして全ての分岐流路23内を減圧した後、詰まりが生じた分岐流路23の下流側に位置する開閉弁26のみを開弁してもよい。これにより、詰まりが生じた分岐流路23に集中的にインクを逆流させ、より効果的に詰まりを解消することができる。
【0049】
さらに、第1〜第3メンテナンス動作は、ヒーター27によってインクを加熱しつつ行うと、より効果的に詰まりを解消することができる。これは、加熱によりインクの粘度が低下して、気泡や異物が移動しやすくなるためである。また、詰まっているのが気泡であれば、加熱によって気泡が膨張して流動圧を受けやすくなるためである。
【0050】
以上説明した実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)循環流路14を介して液体噴射ヘッド13に供給されるインクはヒーター27によって加熱されるため、その循環流路14を流れるインクの流量が低下すると、温度センサー29によって検出される温度が低下する。そのため、温度センサー29の検出温度から、液体噴射ヘッド13へのインクの供給不足が生じていることを検出することができる。また、制御装置50は、温度センサー29の検出結果に基づいて循環流路14を流れるインクの流量を回復させるためのメンテナンス動作を実行させるので、液体噴射ヘッド13へのインクの供給不足を検出するとともに、その供給不足を解消することができる。
【0051】
(2)温度センサー29を設置するためのスペースを液体噴射ヘッド13において循環流路14の一部を構成するインク室16内に確保することができる。また、インク室16内は加熱されたインクの流入によって暖められるとともに、そのようなインクの循環によって所定の温度(例えば温度Ta)に保たれる。そして、温度センサー29はインク室16内に配置されるので、そのインク室16を含む循環流路14を流れるインクの流量が減少した場合には、インク室16内における温度の低下を速やかに検出することができる。
【0052】
(3)不足なくインクが供給されているときの温度に基づいて予め閾値Tbを規定しておくことで、温度センサー29の検出温度が閾値Tb未満になった場合には、インクの供給不足が生じていることを検出することができる。また、制御装置50が吐出圧力を増すようにポンプ24を制御することで、循環流路14(供給流路20)内に留まっている気泡等を押し流し、循環流路14の詰まりを解消することができる。これにより、メンテナンス動作におけるインクの消費量を抑制しつつ、液体噴射ヘッド13へのインクの供給不足を解消することができる。
【0053】
(4)循環流路14において液体噴射ヘッド13側からインクタンク12側へ向けてインクを逆流させることで、例えば分岐流路23の形状等に起因して流路抵抗が大きくなった部分に気泡等が詰まっている場合などに、気泡等を流路抵抗が小さい方に引き戻すことが可能になる。
【0054】
(5)ヒーター27は分岐流路23に設けられるので、環境温度の影響を抑制し、目的の温度に加熱した液体を液体噴射ヘッド13に供給することができる。そのため、不足なくインクが供給されているときの温度変化を小さくすることができる。これにより、温度センサー29は流量変化に伴う温度変化を適切に検出することができる。
【0055】
(6)開閉弁26を閉弁状態にしてインクを逆流させることで、分岐流路23の詰まりが生じた部分を減圧することができる。そして、その後に開閉弁26を開弁状態にすることで、液体噴射ヘッド13側からインクタンク12側へ勢いよくインクを逆流させ、分岐流路23に詰まっていた気泡等をインクタンク12側へ送り戻すことできる。
【0056】
(7)温度センサー29は、インク室16内においてヒーター27により加熱されたインクが流入する流入孔17の近くに配置されるので、分岐流路23を流れるインクの流量変化を速やかに検出することができる。したがって、分岐流路23の詰まりが軽度のうちにメンテナンス動作を実行することができる。
【0057】
なお、上記実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・ステップS11〜S13は同時に実行してもよいし、実行順序を入れ替えてもよい。
・ステップS14,S15において、必ずしも単一の閾値Ta,Tbに基づいて判定を行わなくてもよい。例えば、ステップS14で温度センサー29が検出する温度が環境温度の変化等による温度変化を見込んだ所定の温度範囲内であるか否かを判定するようにしてもよいし、ステップS15で急激な温度の低下が生じた場合にメンテナンス動作を実行するようにしてもよい。
【0058】
・ステップS16において、制御装置50は第1〜第3メンテナンス動作の実行順序を変更してもよいし、何れか1つ又は2つのみを実行するようにしてもよい。また、温度変化の状況やプリンター11の使用状況に応じて、実行するメンテナンス動作を選択するようにしてもよい。例えば、メンテナンス動作の実行を判定するための閾値を複数設け、温度低下がわずかな場合(軽度の詰まりの場合)には第1メンテナンス動作を実行する一方、大きく温度が低下した場合(重度の詰まりの場合)には第3メンテナンス動作を実行するようにしてもよい。
【0059】
・液体噴射ヘッド13のインク室16内にフィルター19を設けなくてもよいし、供給流路20や返送流路21の途中にフィルターを設けてもよい。
・返送流路21やインクタンク12にもインクを循環させるためのポンプを設けてもよい。また、インクタンク12や液体噴射ヘッド13にもインクを加熱(又は保温)するための加熱手段を設けてもよい。
【0060】
・プリンター11は、液体噴射ヘッド13にノズル15を囲むように当接するキャップと、キャップ内を吸引する吸引機構とを備えてもよい。この場合には、メンテナンス動作として、液体噴射ヘッド13にキャップを当接させてキャップ内を吸引する吸引クリーニングを行うことができる。なお、キャップを液体噴射ヘッド13毎に設けることで、詰まりが生じた分岐流路23が接続される液体噴射ヘッド13のみを対象として吸引クリーニングを行うことができる。
【0061】
・プリンター11に、ノズル15のノズル開口部に当接することでノズル15を閉塞するキャップ(密着キャップ)を備えてもよい。この場合には、第1〜第3メンテナンス動作を実行する場合に密着キャップでノズル15を閉塞しておくことで、インクの無駄な消費やメニスカスの破壊を抑制することができる。
【0062】
・温度センサー29は、インク室16内における配置を変更してもよいし、分岐流路23や本流路22、返送流路21に設けてもよい。また、ヒーター27の設置箇所を変化させてもよい。すなわち、循環流路14において流路抵抗が増加する部分があれば、その上流側にヒーター27を設けるとともにその下流側に温度センサー29を設ければよい。これにより、流路抵抗の増加に起因して生じる循環流路14の詰まりを検出することができる。ただし、返送流路21ではインクの噴射によってインクの流量が変動するため、温度センサー29を返送流路21に設ける場合には、噴射により消費される分のインク量(温度低下)を見込んで閾値Tbを設定する必要がある。
【0063】
・上記実施形態では、紫外線硬化型インクを用いるプリンター11に具体化したが、この限りではなく、他のインクを用いるプリンターに具体化してもよい。すなわち、インク粘度の調整や気泡の引っかかり防止のために加熱手段を備える場合に限らず、単に液体の供給不足を検出するために加熱手段を備えるようにしてもよい。
【0064】
・上記各実施形態では、液体噴射装置をインクジェット式プリンターに具体化したが、インク以外の他の液体を噴射したり吐出したりする液体噴射装置を採用してもよく、微小量の液滴を吐出させる液体噴射ヘッド等を備える各種の液体噴射装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記液体噴射装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、液体噴射装置が噴射させることができるような材料であればよい。例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状態、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散又は混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インク及び油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。液体噴射装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散又は溶解のかたちで含む液体を噴射する液体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサ等であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置を採用してもよい。
【符号の説明】
【0065】
11…液体噴射装置としてのプリンター、12…液体貯留部としてのインクタンク、13,13A,13B,13C,13D…液体噴射ヘッド、14…循環流路、15…ノズル、16…液体室としてのインク室、20…供給流路、21…返送流路、24…ポンプ、26…開閉弁、27…加熱手段としてのヒーター、29…温度検出手段としての温度センサー、50…制御手段としての制御装置、T…温度、Tb…閾値。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を貯留する液体貯留部と、
液体を噴射するノズルを有する液体噴射ヘッドと、
前記液体貯留部と前記液体噴射ヘッドとの間で液体を循環させる循環流路と、
該循環流路を介して前記液体噴射ヘッドに供給される液体を加熱する加熱手段と、
該加熱手段により加熱された液体が流れる前記循環流路において温度を検出する温度検出手段と、
該温度検出手段の検出結果に基づいて、前記循環流路の流量を回復させるためのメンテナンス動作を実行させる制御手段と、を備えることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
前記液体噴射ヘッドは、前記ノズルに連通するとともに前記循環流路の一部を構成する液体室を有し、前記温度検出手段は、前記液体室内に配置されることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記循環流路において液体を循環させるポンプをさらに備え、
前記制御手段は、前記温度検出手段の検出温度が予め規定された閾値未満になった場合に、吐出圧力を増すように前記ポンプを制御することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記メンテナンス動作として、前記循環流路において前記液体噴射ヘッド側から前記液体貯留部側へ向けて液体を逆流させることを特徴とする請求項1〜請求項3のうち何れか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
前記循環流路は、液体の噴射時に前記液体貯留部から前記液体噴射ヘッドに液体を供給する供給流路と前記液体噴射ヘッドから前記液体貯留部に液体を返送する返送流路とを有し、
前記加熱手段は前記供給流路に設けられる一方、前記返送流路には該返送流路を開閉する開閉弁が設けられ、
前記制御手段は、前記メンテナンス動作として、前記開閉弁を閉弁状態にするとともに前記供給流路において前記液体噴射ヘッド側から前記液体貯留部側へ向けて液体を逆流させ、さらにその後、前記開閉弁を開弁状態にすることを特徴とする請求項1〜請求項4のうち何れか一項に記載の液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−883(P2012−883A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138293(P2010−138293)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】