説明

液体噴射装置

【課題】パージ手段による消費電力を低減し、且つ、複数のノズルからの液体の排出量の差を小さくして、複数のノズルから排出される液体の総和を減らす。
【解決手段】インクジェットヘッド4のヘッド制御回路は、駆動波形選択部を有している。この駆動波形選択部は、パージ時に、インク供給口36からの流路長さが長いノズル群に対応する個別電極ほど、記録動作に使用する、体積のそれぞれ異なるインクに対応する複数種類の駆動パルス信号から、体積の大きなインクに対応する駆動パルス波形を選択して決定する。そして、ドライバICは、上記個別電極に対して、駆動波形選択部によって決定された駆動パルス信号を印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を噴射する液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ノズルから液体を噴射する液体噴射装置において、ノズルに連通する液体流路内に異物や気泡などが混入する、あるいは、ノズル内の液体が乾燥して増粘するなどして、ノズルからの液体噴射性能が低下した場合に、上記異物や気泡、あるいは、増粘した液体をノズルから強制的に排出させるパージを実行し、ノズルからの液体噴射性能を回復させる手段を備えたものがある。
【0003】
上述した液体噴射装置として、例えば、特許文献1には、被記録体に対してノズルからインクを噴射して文字や画像などの記録を行う、インクジェットプリンタが開示されている。このインクジェットプリンタは、インクジェットヘッドと、インクジェットヘッドのノズルが開口するノズル面に密着して複数のノズルを覆うキャップと、キャップに形成された吸引口に接続される吸引装置とを有している。そして、ノズル面にキャップが密着して複数のノズルがキャップで覆われた状態で、吸引装置によりキャップ内を減圧してノズルからインクを吸い出すことで、インクジェットヘッド内の異物や気泡などをインクとともに排出するパージを実行している。
【0004】
ところで、液体噴射装置において、各ノズルには、共通の供給口から液体が供給される。そして、通常、1つの供給口から連通する複数のノズルまでの流路長さはそれぞれ異なっており、供給口からノズルまでの流路長さが長いほど、供給口からノズルまでの流路抵抗は大きくなっている。このように、複数のノズルのそれぞれで供給口からの流路抵抗が異なっていると、供給口からそれぞれのノズルへの液体の供給速度に影響を及ぼすことになる。すると、上記パージ時に、流路抵抗が大きいノズルほど液体が供給されにくくなり、供給不足が生じやすい。そこで、特許文献2に記載のインクジェットヘッドにおいては、パージ時に、供給口からの距離が最も遠く、最も流路抵抗が大きい末端のノズルに対応する液体噴射用のアクチュエータに駆動信号を印加して、このノズルから十分に液体を排出させていた。
【0005】
【特許文献1】特開2008−221836号公報(図1)
【特許文献2】特開2010−89312号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載のインクジェットヘッドでは、末端のノズルからは液体が十分に排出されることになるが、末端近傍のノズルについては、供給不足は解消されておらず、吸引装置による吸引力を上げる必要があり、消費電力が増大していた。また、末端以外の供給口からの流路長さがそれぞれ異なる、残りのノズルについては流路抵抗が異なることから、液体の排出量の差が大きくなっている。すると、流路抵抗が小さいノズルからは、必要以上に多くの液体が無駄に排出され、パージ時に複数のノズルから排出される液体の総和が増えていた。
【0007】
そこで、本発明の目的は、パージ時において、被噴射媒体への液体噴射時に使用する複数種類の駆動信号から最適な駆動信号を選択して各ノズルに印加することで、パージ手段による消費電力を低減し、且つ、複数のノズルからの液体の排出量の差を小さくして、複数のノズルから排出される液体の総和を減らした液体噴射装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の液体噴射装置は、液体を噴射する複数のノズルと、前記複数のノズルにそれぞれ連通する複数の圧力室と、前記複数の圧力室に液体を供給するための液体供給口とを有する流路ユニットと、前記複数の圧力室にそれぞれ設けられた複数の駆動素子を有し、前記駆動素子を用いて、前記ノズルから液体を噴射するための噴射エネルギーを前記圧力室内の液体に付与するエネルギー付与手段と、前記流路ユニットの外部から前記流路ユニット内の液体に圧力を作用させて前記複数のノズルから液体を強制的に排出させるパージを実行するパージ手段と、前記エネルギー付与手段によって前記圧力室内の液体に付与される噴射エネルギーがそれぞれ異なる複数種類の駆動信号を前記駆動素子に印加する駆動装置と、を備え、前記駆動装置は、前記パージ時に、被噴射媒体への液体噴射時に印加される前記駆動信号と同じ前記駆動信号を前記駆動素子に印加しており、前記液体供給口からの流路長さが長い前記ノズルに対応する前記駆動素子ほど大きな噴射エネルギーに対応した前記駆動信号を印加する
【0009】
本発明における液体噴射装置によると、パージ手段によるパージ時に、外部から流路ユニット内の液体に圧力を作用させて複数のノズルから強制的に液体を排出させながら、駆動信号を駆動素子に印加することで、複数の圧力室内の液体に噴射エネルギーを付与して排出力を上げて、ノズルからの液体の排出量を増大させている。そして、パージ時に駆動素子に印加している駆動信号は、被噴射媒体への液体噴射時に駆動素子に印加される、噴射エネルギーがそれぞれ異なる複数種類の駆動信号であり、駆動装置は、パージ時に、流路長さが最も長いノズルに対応する駆動素子ほど大きな噴射エネルギーに対応した駆動信号を印加している。
【0010】
これにより、流路長さが長いノズルほど、駆動信号を印加せずにパージしたときよりも液体の排出量が増えることになり、パージ手段により流路ユニット内の液体に作用させる圧力を上げることなく全てのノズルから十分に液体を排出することができ、パージ手段による消費電力を低減することができる。また、パージ時における流路長さに起因した複数のノズルからの液体の排出量の差が小さくなることで、パージ手段により流路ユニット内の液体に作用させる圧力を小さくして、複数のノズルから液体が無駄に排出されるのを抑制し、複数のノズルから排出される液体の総和を減らすことができる。さらに、被噴射媒体への液体噴射時に使用する駆動信号をパージ時にも使用しており、パージ時専用の駆動信号を別途設定する必要がない。
【0011】
また、前記複数種類の駆動信号は、1つのノズルから液滴体積の異なる複数種類の液体を噴射させるための信号であって、前記複数種類の液体にそれぞれ対応付けられており、前記駆動装置は、前記パージ時に、前記液体供給口からの流路長さが長い前記ノズルに対応する前記駆動素子ほど体積の大きな液滴に対応した前記駆動信号を印加することが好ましい。
【0012】
これによると、駆動装置は、ノズルから噴射される液滴体積が異なるように対応付けられた複数種類の駆動信号を駆動素子に印加することができる。そこで、パージ時に、液体供給口からの流路長さが長いノズルに対応する駆動素子ほど体積の大きな液滴に対応した駆動信号を印加することで、流路長さが長いノズルほど、駆動信号を印加せずにパージしたときよりも液体の排出量を増やすことができる。したがって、パージ時における流路長さに起因した複数のノズルからの液体の排出量の差を小さくすることができる。
【0013】
このとき、前記駆動信号は、パルスを有する駆動パルス信号であり、複数種類の前記駆動パルス信号は、前記パルスの幅がそれぞれ異なることで、噴射される液滴体積が異なるように設定されていることが好ましい。
【0014】
これによると、ノズルから噴射される液滴体積を異ならせるには、駆動パルス信号の電圧値を変えるのに比べて、パルスの幅を変える方が、液滴体積を大きく異ならせることができたり、精度良く液滴体積を設定することができたりして、自由度が高い。
【0015】
また、前記複数種類の駆動信号は、前記液体の温度が低いほど前記圧力室内の液体に大きな噴射エネルギーを付与するように、液体温度に対応付けて設定された温度補正用の信号であって、前記駆動装置は、前記パージ時に、前記液体供給口からの流路長さが長い前記ノズルに対応する前記駆動素子ほど低温に対応した前記駆動信号を印加してもよい。
【0016】
これによると、駆動装置は、液体流路内の液体の温度変動にともなう粘度変動によって、噴射される液滴体積が変わるのを抑制するために、流路ユニット内の液体温度に応じた温度補正用に噴射エネルギーの異なる複数種類の駆動信号を駆動素子に印加することができる。そこで、パージ時に、液体供給口からの流路長さが長いノズルに対応する駆動素子ほど低温に対応した駆動信号を印加することで、流路長さが長いノズルほど、駆動信号を印加せずにパージしたときよりも液体の排出量を増やすことができる。したがって、パージ時における流路長さに起因した複数のノズルからの液体の排出量の差を小さくすることができる。
【0017】
また、前記流路ユニット内の液体温度を検出するための温度検出手段をさらに備え、前記複数種類の駆動信号は、1つの液滴体積に対して、前記液体の温度が低いほど前記圧力室内の液体に大きな噴射エネルギーを付与するように、液体温度に対応付けて設定された複数種類の温度補正用の信号を有しており、前記駆動装置は、前記パージ時に、前記液体供給口からの流路長さに応じて液滴の体積を決定し、且つ、前記温度検出手段によって検出された前記流路ユニット内の液体の温度に対応した前記駆動信号を印加してもよい。
【0018】
これによると、駆動装置は、液体流路内の液体の温度変動にともなう粘度変動によって、噴射される液滴体積が変わるのを抑制するために、流路ユニット内の液体温度に応じた温度補正用に噴射エネルギーの異なる複数種類の駆動信号を駆動素子に印加することができる。そこで、パージ時に、液体供給口からの流路長さが長いノズルに対応する駆動素子ほど、温度検出手段によって検出されたノズル内の液体の温度に対応し、且つ、体積の大きな液滴に対応した駆動信号を印加することで、液体供給口からノズルまでの流路長さによらず、簡単に精度よく補正することができ、パージ時における全てのノズルの間における液体の排出量をほぼ均一化することができる。これにより、パージ手段により流路ユニット内の液体に作用させる圧力を小さくして、複数のノズルから液体が無駄に排出されるのをさらに抑制することができ、複数のノズルから排出される液体の総和をさらに減らすことができる。
【0019】
また、前記複数種類の駆動信号は、1つの液滴体積に対して、前記液体の温度が低いほど前記圧力室内の液体に大きな噴射エネルギーを付与するように、液体温度に対応付けて設定された複数種類の温度補正用の信号を有しており、前記駆動装置は、前記パージ時に、前記液体供給口からの流路長さが最も長い前記ノズルに対応する前記駆動素子に、最も体積の大きな液滴に対応し、且つ、最も低温に対応した前記駆動信号を印加してもよい。
【0020】
これによると、複数種類の駆動信号のうち、最も体積の大きな液滴に対応し、且つ、最も低温に対応した駆動信号を印加すると、ノズル内の液体に最も大きな噴射エネルギーが付与され、ノズルから最も液滴体積の大きな液体が噴射される。そこで、液体供給口からの流路長さが最も長く、駆動信号を印加せずにパージしたときに最も液体の排出量が少ないノズルについて、最も体積の大きな液滴に対応し、且つ、最も低温に対応した駆動信号を印加することで、パージ時における流路長さが最も長いノズルからの液体の排出量と、流路長さが短い他のノズルからの液体の排出量との差を小さくすることができる。
【0021】
一方、別の観点では、本発明の液体噴射装置は、液体を噴射する複数のノズルと、前記複数のノズルにそれぞれ連通する複数の圧力室と、前記複数の圧力室に液体を供給するための液体供給口とを有する流路ユニットと、前記複数の圧力室にそれぞれ設けられた複数の駆動素子を有し、前記駆動素子を用いて、前記ノズルから液体を噴射するための噴射エネルギーを前記圧力室内の液体に付与するエネルギー付与手段と、前記流路ユニットの外部から前記流路ユニット内の液体に圧力を作用させて前記複数のノズルから液体を強制的に排出させるパージを実行するパージ手段と、駆動信号を前記駆動素子に印加する駆動装置と、を備え、前記駆動装置は、前記パージ時に、被噴射媒体への液体噴射時に印加される前記駆動信号と同じ前記駆動信号を前記駆動素子に印加しており、前記液体供給口からの流路長さが長い前記ノズルに対応する前記駆動素子ほど前記駆動信号を印加する周期を小さくする。
【0022】
本発明における液体噴射装置によると、パージ手段によるパージ時に、外部から流路ユニット内の液体に圧力を作用させて複数のノズルから強制的に液体を排出させながら、被噴射媒体への液体噴射時に印加される駆動信号を駆動素子に印加することで、複数の圧力室内の液体に噴射エネルギーを付与して排出力を上げて、ノズルからの液体の排出量を増大させている。そして、パージ時に駆動素子に印加している駆動信号は、被噴射媒体への液体噴射時に印加される駆動信号であり、駆動装置は、パージ時に、液体供給口からの流路長さが長いノズルに対応する駆動素子ほど駆動信号を印加する周期を小さくしている。
【0023】
これにより、流路長さが長いノズルほど、駆動信号を印加せずにパージしたときよりも液体の排出量が増えることになり、パージ手段により流路ユニット内の液体に作用させる圧力を上げることなく全てのノズルから十分に液体を排出することができ、パージ手段による消費電力を低減することができる。また、パージ時における流路長さに起因した複数のノズルからの液体の排出量の差を小さくなることで、パージ手段により流路ユニット内の液体に作用させる圧力を小さくして、複数のノズルから液体が無駄に排出されるのを抑制し、複数のノズルから排出される液体の総和を減らすことができる。さらに、被噴射媒体への液体噴射時に使用する駆動パルス信号をパージ時にも使用しており、パージ時専用の駆動パルス信号を別途設定する必要がない。
【0024】
また、前記複数の圧力室は、平面的に互いに隣接して配置されており、前記エネルギー付与手段は、前記複数の圧力室を共通に覆うように前記流路ユニットに接合され、前記複数の圧力室と対向する部分に前記複数の駆動素子がそれぞれ設けられた振動板を有し、前記駆動信号は、パルスを有する駆動パルス信号であり、前記駆動装置は、前記パージ時に、同じ種類の前記駆動パルス信号が印加される前記複数の圧力室の中で、前記流路長さが長い前記圧力室ほど、これに隣接する隣接圧力室との間での前記駆動パルス信号の位相差を大きくすることが好ましい。
【0025】
仮に、隣接する2つの圧力室に対応した2つの駆動パルス素子に同じ種類の同位相の駆動パルス信号を印加すると、振動板の2つの圧力室に対向する部分が変形するタイミングが同じため、相互干渉(クロストーク)の影響が最も大きく、振動板の圧力室に対向する部分の変位量は小さくなる。一方、2つの駆動素子に印加する駆動パルス信号の位相差を大きくするにつれて、振動板の2つの圧力室に対向する部分が変形するタイミングがずれるため、クロストークの影響は小さくなり、振動板の圧力室に対向する部分の変位量は大きくなる。
【0026】
そこで、パージ時に、同じ種類の駆動パルス信号が印加される複数の圧力室の中で、流路長さが長い前記圧力室ほど、これに隣接する隣接圧力室との間での駆動パルス信号の位相差を大きくすることで、同位相の駆動パルス信号の場合に比べて、振動板の圧力室に対向する部分の変位量が大きくなる。したがって、液体供給口からノズルまでの流路長さによらず、パージ時における同じ種類の駆動パルス信号が印加される複数の圧力室に対応した全てのノズルの中での液体の排出量をさらに均一化することができる。
【発明の効果】
【0027】
駆動装置は、流路長さが最も長いノズルに対応する駆動素子ほど大きな噴射エネルギーに対応した駆動信号を印加している。これにより、流路長さが長いノズルほど、駆動信号を印加せずにパージしたときよりも液体の排出量が増えることになり、パージ手段により流路ユニット内の液体に作用させる圧力を上げることなく全てのノズルから十分に液体を排出することができ、パージ手段による消費電力を低減することができる。また、パージ時における流路長さに起因した複数のノズルからの液体の排出量の差が小さくなることで、パージ手段により流路ユニット内の液体に作用させる圧力を小さくして、複数のノズルから液体が無駄に排出されるのを抑制し、複数のノズルから排出される液体の総和を減らすことができる。さらに、被噴射媒体への液体噴射時に使用する駆動信号をパージ時にも使用しており、パージ時専用の駆動信号を別途設定する必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本実施形態に係るインクジェットプリンタの概略構成を示す平面図である。
【図2】インクジェットヘッドの平面図である。
【図3】(a)は図2のA部拡大図、(b)は(a)のB−B線断面図である。
【図4】インクジェットプリンタの制御系を概略的に示すブロック図である。
【図5】体積の異なる液滴に対応した3種類の駆動波形である。
【図6】インクの温度に応じた異なる補正量に対応した3種類の駆動パルス信号の波形である。
【図7】パージ時におけるインクジェットヘッドの縦断面図である。
【図8】変形例における群ごとの個別電極に印加する3種類の駆動パルス信号の波形である。
【図9】変形例における位相をずらした駆動パルス信号の波形である。
【図10】(a)はクロストークの影響により変位量が最小となったときの振動板近傍の模式図であり、(b)は変位量が最大となったときの振動板近傍の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、本発明の実施形態について説明する。本実施形態においては、記録用紙にインクを噴射して文字や画像などを記録するインクジェットプリンタを例に挙げて説明する。図1は、本実施形態に係るインクジェットプリンタの概略構成を示す平面図である。
【0030】
図1に示すように、インクジェットプリンタ1(液体噴射装置)は、記録用紙20が載置されるプラテン2と、このプラテン2と平行な走査方向に往復移動可能なキャリッジ3と、このキャリッジ3に搭載されたインクジェットヘッド4と、記録用紙20を走査方向と直交する搬送方向に搬送する搬送機構5と、インクジェットヘッド4の液体噴射性能の回復・維持に関する各種メンテナンス作業を行うメンテナンスユニット6と、インクジェットプリンタ1の全体制御を司る制御装置7(図4参照)などを有している。
【0031】
プラテン2の上面には、図示しない給紙機構から供給された記録用紙20が載置される。また、プラテン2の上方には、図1の左右方向(走査方向)に平行に延びる2本のガイドレール10、11が設けられ、キャリッジ3は、プラテン2と対向する領域において2本のガイドレール10、11に沿って走査方向に往復移動可能に構成されている。
【0032】
また、2本のガイドレール10、11は、プラテン2よりもさらに走査方向に沿って図1の右方に離れた位置まで延在しており、キャリッジ3は、プラテン2上の記録用紙20と対向する領域(記録領域)から、非記録領域である、プラテン2から右方向に離れた位置まで移動可能に構成されている。また、キャリッジ3には、2つのプーリ12、13間に巻き掛けられた無端ベルト14が連結されており、キャリッジ駆動モータ15によって無端ベルト14が走行駆動されると、キャリッジ3は、無端ベルト14の走行にともなって走査方向に移動するようになっている。また、キャリッジ3には、インクジェットプリンタ1内(より具体的には、インクジェットヘッド4)の温度を検出する温度センサ28が設けられている。
【0033】
インクジェットヘッド4は、キャリッジ3の下部に搭載されており、プラテン2の上面と平行な、インクジェットヘッド4の下面が、複数のノズル16が開口するインク噴射面4a(図3(b)参照)となっている。そして、このインク噴射面4aの複数のノズル16から、プラテン2に載置された記録用紙20に対してインクを噴射する。
【0034】
また、インクジェットヘッド4の上面には、各色のインクに対応した4つのインク供給口36(図2参照)が設けられており、この4つのインク供給口36に4本のチューブ17の一端が接続されている。そして、4本のチューブ17の他端は、各色のインクが貯留された4つのインクカートリッジ8を着脱自在なカートリッジ装着部9に接続されており、これにより、カートリッジ装着部9に装着された4つのインクカートリッジ8から4本のチューブ17を介して供給された各色のインクが、インクジェットヘッド4へ供給される。
【0035】
次に、インクジェットヘッド4について説明する。図2は、インクジェットヘッドの平面図である。図3(a)は図2のA部拡大図、(b)は(a)のB−B線断面図である。図2、図3に示すように、インクジェットヘッド4は、複数のノズル16及び複数のノズル16にそれぞれ連通する複数の圧力室34が形成された流路ユニット30と、流路ユニット30の上面に配置され、圧力室34内のインクに圧力を付与する圧電アクチュエータ31と、を有している。
【0036】
まず、流路ユニット30について説明する。図3(b)に示すように、流路ユニット30は、4枚のプレートが積層された構造を有し、この流路ユニット30の下面(インク噴射面4a)には複数のノズル16が形成されている。図2に示すように、これら複数のノズル16は搬送方向に配列され、走査方向に並ぶ4列のノズル列33を構成している。4列のノズル列33にそれぞれ属するノズル16からは、ブラックインクと3色のカラーインク(イエロー、シアン、マゼンタ)との、合計4色のインクがそれぞれ噴射される。
【0037】
また、流路ユニット30には、複数のノズル16にそれぞれ連通する複数の圧力室34が形成され、4列のノズル列33に対応して、複数の圧力室34も4列に配列されている。さらに、流路ユニット30には、それぞれ搬送方向に延在し、4列の圧力室列にブラック、イエロー、シアン、マゼンタの4色のインクをそれぞれ供給する4本のマニホールド35が形成されている。
【0038】
4本のマニホールド35は、延在方向の一端(図2の上端)が流路ユニット30の上面に形成された4つのインク供給口36に接続されている。すなわち、マニホールド35の一端にインク供給口36が接続され、マニホールド35の延在方向に沿って複数の圧力室34が配置されており、複数の圧力室34とそれぞれ連通する複数のノズル16はインク供給口36からのマニホールド35を介した距離(流路長さ)がそれぞれ異なっている。
【0039】
次に、圧電アクチュエータ31について説明する。図3(b)に示すように、圧電アクチュエータ31は、複数の圧力室34を覆うように流路ユニット30の上面に配置された振動板40と、この振動板40の上面に、複数の圧力室34と対向するように配置された圧電層41と、圧電層41の上面に複数の圧力室34に対応して配置された複数の個別電極42と、を有している。
【0040】
圧電層41の上面に位置する複数の個別電極42は、圧電アクチュエータ31を駆動するドライバIC47(駆動装置)とそれぞれ接続されており、ドライバIC47から複数の個別電極42に対して所定の駆動電圧とグランド電圧とからなる駆動パルス信号が独立してそれぞれ印加されるようになっている。また、圧電層41の下面に位置する振動板40は金属材料で形成されており、圧電層41を挟んで複数の個別電極42と対向する共通電極の役割を果たす。この振動板40はドライバIC47のグランド配線に接続されて常にグランド電圧に保持されている。
【0041】
この圧電アクチュエータ31は、ドライバIC47から、ある個別電極42と共通電極としての振動板40の間に上記駆動電圧が印加されたときに、両者の間に挟まれた圧電層41の部分(活性部R1:駆動素子)の圧電変形(圧電歪)によって圧力室34に体積変化を生じさせ、圧力室34内のインクに圧力を付与する。このとき、圧力が付与された圧力室34に連通するノズル16からインクが噴射されることになる。
【0042】
図1に戻って、搬送機構5は、搬送方向にプラテン2を挟むように配置された2つの搬送ローラ18、19を有し、これら2つの搬送ローラ18、19によって、プラテン2に載置された記録用紙20を搬送方向(図1の下方)に搬送する。
【0043】
そして、インクジェットプリンタ1は、プラテン2上に載置された記録用紙20に対して、キャリッジ3とともに走査方向(図1の左右方向)に往復移動するインクジェットヘッド4からインクを噴射させるとともに、2つの搬送ローラ18、19によって記録用紙20を搬送方向(図1の前方)に搬送することにより、記録用紙20に所望の文字や画像などを記録する。
【0044】
次に、メンテナンスユニット6について説明する。図1に示すように、メンテナンスユニット6は、プラテン2に対して走査方向一方側(図1の右側)に離れた位置に、インクジェットヘッド4のインク噴射面4aに接触して複数のノズル16の開口を覆う吸引キャップ21と、吸引キャップ21に接続された吸引ポンプ23とを有している。なお、本実施形態における吸引キャップ21と吸引ポンプ23が、本発明におけるパージ手段に相当する。
【0045】
吸引キャップ21は、キャップ昇降モータ25(図4参照)により昇降駆動され、インク噴射面4aに対して離接する。そして、吸引キャップ21はインク噴射面4aに接触(キャッピング)すると、複数のノズル16を覆って密閉空間を画定する。このように、吸引キャップ21がキャッピング状態にあるときに、吸引ポンプ23を駆動して、吸引キャップ21内を吸引して減圧させることで、吸引キャップ21によって覆われた全てのノズル16からインクを強制的に排出させる(以下、パージと称す)。
【0046】
このパージは、ノズル16からのインク噴射性能が低下したときに行われ、本実施形態においては、このパージ時に個別電極42に駆動パルス信号を印加して、この個別電極42と対向する活性部R1を圧電変形させることで、振動板40を変形させて圧力室34に体積変化を生じさせている(ノズル16を駆動している)が、これについて詳しくは後述する。
【0047】
次に、インクジェットプリンタ1の電気的な構成について図4のブロック図を参照して説明する。図4に示すように、制御装置7は、中央処理装置であるCPU(Central Processing Unit)50、ROM(Read Only Memory)51、RAM(Random Access Memory)52、及び、これらを接続するバス53からなるマイクロコンピュータを有する。
【0048】
また、バス53には、インクジェットヘッド4のドライバIC47、キャリッジ3を駆動するキャリッジ駆動モータ15、搬送機構5、メンテナンスユニット6の吸引ポンプ23とキャップ昇降モータ25などを制御する、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)54が接続されている。また、このASIC54は、入出力インターフェイス(I/F)58を介して外部装置であるPC(パーソナルコンピュータ)70とデータ通信可能に接続されている。さらに、ASIC54は、温度センサ28の取得したインクジェットプリンタ1内の温度を受信可能に温度センサ28に接続されている。
【0049】
また、ASIC54には、記録動作時にPC70から入力された印刷データに基づいて、インクジェットヘッド4のドライバIC47とキャリッジ駆動モータ15をそれぞれ制御し、また、パージ時にも同じくインクジェットヘッド4のドライバIC47とキャリッジ駆動モータ15をそれぞれ制御するヘッド制御回路61と、同じく上記印刷データに基づいて搬送機構5を制御する搬送制御回路62と、パージ時にメンテナンスユニット6の吸引ポンプ23とキャップ昇降モータ25とをそれぞれ制御するパージ制御回路63などが組み込まれている。
【0050】
次に、ヘッド制御回路61について詳細に説明する。ヘッド制御回路61は、駆動波形選択部64と、信号電圧温度補正部65とを有している。
【0051】
駆動波形選択部64は、記録動作時に使用する、後述する3種類の駆動波形から1種類を選択して決定する。図5は、体積の異なる液滴に対応した3種類の駆動波形である。なお、図5(a)が大玉を噴射するための駆動波形であり、図5(b)が中玉を噴射するための駆動波形であり、図5(c)が小玉を噴射するための駆動波形である。また、詳しくは後述するが、駆動波形と駆動パルス信号の波形は同じである。
【0052】
3種類の駆動波形とは、記録動作時に用いられるものであり、図5(a)〜(c)に示すように、それぞれパルス数が異なり、体積の異なる3種類のインク玉(小玉、中玉、大玉)を噴射するための3種類の駆動波形からなり、これらの駆動波形はROM51に記憶されている。3種類の駆動波形は、より大きなインク玉を噴射するための駆動波形ほど、圧力室34の体積変化が大きくなるように、圧力室34内のインクに付与する噴射エネルギーが大きくなるように設定されている。なお、3種類の駆動波形に限らず、2種類または4種類以上の体積の異なるインク玉を噴射するための駆動波形をROM51に記憶しておき、駆動波形選択部64は、2種類または4種類以上の駆動波形から最適な駆動波形を選択して決定してもよい。
【0053】
信号電圧温度補正部65は、温度センサ28によって検出されたインクジェットプリンタ1内の温度から、流路ユニット30内のインクの温度(粘度)を推測して、このインクの粘度に応じて駆動パルス信号の電圧値の補正量を決定する。具体的には、インクジェットプリンタ1内が低温であるほど、流路ユニット30内のインクも低温であり、インクの粘度が上がって、大きな噴射エネルギーでも体積の小さなインクが噴射されやすい。そこで、信号電圧温度補正部65は、温度センサ28によって検出されたインクジェットプリンタ1内の温度が低いほど、噴射エネルギーが大きくなるように、駆動パルス信号の電圧値を大きな電圧値に補正するように補正量を決定する。
【0054】
信号電圧温度補正部65により補正した駆動パルス信号について説明する。図6は、インクの温度に応じた異なる補正量に対応した3種類の駆動パルス信号の波形である。なお、図6(a)が所定温度における駆動パルス信号であり、図6(b)が所定温度よりも低温時における駆動パルス信号であり、図6(c)が所定温度よりも高温時における駆動パルス信号である。そして、図6においては、3種類の補正量に対応した駆動パルス信号の波形を示しているが、3種類に限らず、2種類または4種類以上であってもよい。
【0055】
図6(a)に示すように、温度センサ28によって検出されたインクジェットプリンタ1内の温度が所定温度(例えば、20度)の場合には、電圧値v1の駆動パルス信号に補正する。また、温度センサ28によって検出されたインクジェットプリンタ1内の温度が所定温度よりも低い場合には、その温度の低さに応じた補正量だけ電圧値を大きくする。例えば、図6(b)に示すように、温度センサ28によって検出されたインクジェットプリンタ1内の温度が所定温度よりも低い温度(例えば、15度)の場合には、電圧値v1よりも大きな電圧値v2の駆動パルス信号に補正する。また、温度センサ28によって検出されたインクジェットプリンタ1内の温度が所定温度よりも高い場合には、その温度の高さに応じた補正量だけ電圧値を小さくする。例えば、図6(c)に示すように、温度センサ28によって検出されたインクジェットプリンタ1内の温度が所定温度よりも高い温度(例えば、25度)の場合には、電圧値v1よりも小さな電圧値v3の駆動パルス信号に補正する。
【0056】
そして、駆動波形選択部64は、記録動作時にPC70から入力された印刷データの解像度に基づいて、3種類の駆動波形から1種類を選択して決定しており、高解像度ほど体積の小さなインクを噴射する駆動波形を選択して決定している。また、信号電圧温度補正部65は、温度センサ28によって検出されたインクジェットプリンタ1内の温度に応じて駆動パルス信号を補正された電圧値に決定する。このとき、この補正可能な電圧値には所定範囲があり、上限と下限が設定されており、上限に対応する高い温度よりも高温の場合には、上限値に電圧値は補正され、下限に対応する低い温度よりも低温の場合には、下限値に電圧値は補正される。なお、信号電圧温度補正部65は、温度センサ28によって検出されたインクジェットプリンタ1内の温度変化に合わせて、連続的に駆動パルス信号の電圧値を補正してもよい。
【0057】
そして、ヘッド制御回路61は、記録動作時に、駆動波形選択部64により選択された駆動波形をそのままドライバIC47に送信するとともに、信号電圧温度補正部65によって補正された電圧値をドライバIC47に送信し、ドライバIC47に、駆動波形に基づき、補正された電圧値の駆動パルス信号を生成させる。そして、この駆動パルス信号が圧電アクチュエータ31の複数の個別電極42に供給されることで、記録動作時において、インクジェットヘッド4の複数の個別電極42にそれぞれ対応する複数のノズル16からインクが噴射される。
【0058】
ここで、仮に、パージ時において、個別電極42に駆動パルス信号を印加しない場合には、インク供給口36から複数のノズル16までのマニホールド35の流路長さがそれぞれ異なると、流路抵抗がそれぞれ異なることになり、インク供給口36からそれぞれのノズル16へのインクの供給速度に影響を及ぼしていた。そして、パージ時において、供給口から遠いノズルほど液体が供給されにくく、供給不足が生じるとともに、複数のノズル16からのインクの排出量に差が生じていた。
【0059】
そこで、本実施形態では、パージ時に、個別電極42に駆動パルス信号を印加して、この個別電極42に対応する活性部R1を積極的に変形させて、ノズル16を駆動することで、ノズル16からのインクの排出量を増大させている。
【0060】
このとき、駆動波形選択部64は、パージ時において、後述するノズル群ごとに異なった駆動波形を選択して決定しており、インク供給口36からマニホールド35、圧力室34を介してノズル16に至るまでの流路長さが長いノズル群ほど体積の大きなインクに対応する駆動波形を選択して決定している。
【0061】
図2に示すように、複数のノズル16は、インク供給口36からの距離に応じて3つのノズル群に区分されている。なお、本実施形態では、インク供給口36からの流路長さが最も長いノズル群をノズル群37とし、流路長さが短くなる順にノズル群38、39とする。そして、駆動波形選択部64は、ノズル群37に属するノズル16に対して、図5(a)に示す大玉のインクを噴射するための駆動波形を選択して決定する。また、ノズル群38に属するノズル16に対して、図5(b)に示す中玉のインクを噴射するための駆動波形を選択して決定する。さらに、ノズル群39に属するノズル16に対して、図5(c)に示す小玉のインクを噴射するための駆動波形を選択して決定する。
【0062】
また、信号電圧温度補正部65は、パージ時において、ノズル群内の複数のノズル16について、流路長さが長いノズル16ほど低温用の電圧値となった、すなわち大きな電圧値の駆動パルス信号となるように補正する。
【0063】
そして、ヘッド制御回路61は、パージ時において、駆動波形選択部64により選択された駆動波形をドライバIC47に送信するとともに、信号電圧温度補正部65によって補正された電圧値をドライバIC47に送信し、ドライバIC47に、駆動波形に基づいた補正された電圧値の駆動パルス信号を生成させる。そして、この駆動パルス信号が圧電アクチュエータ31の複数の個別電極42に印加されることで、パージ時において、インクジェットヘッド4の複数の個別電極42にそれぞれ対応する複数のノズル16からインクが噴射される。
【0064】
具体的には、ヘッド制御回路61は、ノズル群37に属するインク供給口36からの流路長さが最も長いノズル16に対応する個別電極42には、大玉の最も低温用の駆動パルス信号を印加する。そして、ヘッド制御回路61は、ノズル群37に属するノズル16の流路長さが短くなるにつれてノズル16に対応する個別電極42には、大玉であり、より高温用の駆動パルス信号を印加する。ノズル群38、39に属するノズル16についても同様である。
【0065】
ここで、本実施形態においては、パージの行われる時間は2secであり、このパージの間上述した図5に示すような駆動パルス信号を20kHzで印加している。すなわち、駆動パルス信号は、1周期50μsecとなっており、パージの間に4万回、振動板40の圧力室34と対向する部分が変形することになる。なお、パージ時間や駆動パルス信号の周波数、駆動パルス信号の印加時間は適宜変更可能である。
【0066】
このように、本実施形態では、パージ時において複数のノズル16から吸引により強制的にインクを排出させるのに加えて、複数の個別電極42に駆動パルス信号を印加して、複数の活性部R1を積極的に変形させて、複数のノズル16からのインクの排出量を増大させている。そして、流路長さが長いノズル群に属するノズル16に対応する個別電極42ほどより大きなインク玉を噴射するための駆動パルス信号を印加している。
【0067】
これにより、図7に示すように、流路長さが長いノズルほど、駆動パルス信号を印加せずにパージしたときよりもインクの排出量が増えることになり、吸引ポンプ23による吸引力を上げることなく全てのノズル16から十分にインクを排出することができ、パージ時における吸引ポンプ23による消費電力を低減することができる。
【0068】
また、パージ時における流路長さに起因した複数のノズル16からのインクの排出量の差が小さくなることで、吸引ポンプ23による吸引力を小さくして、複数のノズル16からインクが無駄に排出されるのを抑制し、複数のノズル16から排出されるインクの総和を減らすことができる。また、記録動作時に使用する駆動パルス信号をパージ時にも使用しており、パージ時専用の駆動パルス信号を別途設定する必要がなく、ROM51のメモリー容量を増やす必要がない。また、個別電極ごとの駆動波形選択用の信号に必要なbit数を減らすことができる。これにより、ROM51などに必要なコストを低減することができる。
【0069】
また、パージ時において、ノズル群に属する複数のノズル16だけに着眼したときに、流路長さが長いノズル16に対応する個別電極42ほど、低温用の駆動パルス信号を印加することで、流路長さによらず、パージ時におけるノズル群に属する全てのノズル16の間におけるインクの排出量をほぼ均一化することができ、吸引ポンプ23による吸引力を小さくして、複数のノズル16からインクが無駄に排出されるのをさらに抑制することができ、複数のノズル16から排出されるインクの総和をさらに減らすことができる。
【0070】
次に、本実施の形態に種々の変更を加えた変形例について説明する。ただし、上述した実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0071】
本実施形態においては、パージ時において、ノズル群ごとに、体積の異なるインクに対応した駆動パルス信号を印加することで、ノズル16からのインクの排出量の差を小さくしていたが、記録動作時に使用される1種類の駆動パルス信号をノズル群ごとに印加する周期を異ならせて印加して、ノズル16からのインクの排出量と小さくしてもよい。図8は、変形例におけるノズル群ごとの個別電極に印加する複数種類の駆動パルス信号の波形である。例えば、ヘッド制御回路61は、ノズル群37に属するノズル16に対して、図8(a)に示すように、待機間隔なしで連続して1周期が時間Tの駆動パルス信号を印加する。また、ノズル群38に属するノズル16に対して、図8(b)に示すように、1周期ごとの間隔で間引いて駆動パルス信号を印加する。さらに、ノズル群39に属するノズル16に対して、図8(c)に示すように、2周期ごとの間隔で間引いて駆動パルス信号を印加する。
【0072】
これによっても、流路長さが長いノズル16ほど印加される駆動パルスの数が多く、駆動パルス信号を印加せずにパージしたときよりもインクの排出量を増やすことができ、吸引ポンプ23による吸引力を上げることなく全てのノズル16から十分にインクを排出することができ、パージ時における吸引ポンプ23による消費電力を低減することができる。
【0073】
また、パージ時における流路長さに起因した複数のノズル16からのインクの排出量の差が小さくなることで、吸引ポンプ23による吸引力を小さくして、複数のノズル16からインクが無駄に排出されるのを抑制し、複数のノズル16から排出されるインクの総和を減らすことができる。また、記録動作時に使用する駆動パルス信号をパージ時にも使用しており、パージ時専用の駆動パルス信号を別途設定する必要がなく、ROM51のメモリー容量を増やす必要がない。なお、本変形例においても、上述した実施形態にように、ノズル群内において、インク供給口36からの流路長さに応じてノズル16に印加する駆動パルス信号の電圧値に対して温度補正を行ってもよい。
【0074】
また、本実施形態においては、ノズル群内において、流路長さが長いノズル16ほど低温用に電圧値が補正された駆動パルス信号を印加していたが、全て同じ電圧値の駆動パルス信号を印加してもよい。この場合、全てのノズル16に対して、温度センサ28で検出した温度に対応した電圧値に補正された駆動パルス信号を印加するのが好ましい。
【0075】
さらに、本実施形態においては、ノズル群内において、全てのノズル16からのインクの排出量の差を小さくするために、流路長さが長いノズル16ほど低温用に電圧値が補正された駆動パルス信号を印加していたが、温度補正を用いずに、駆動パルス信号の位相のずらし量を異ならせてもよい。すなわち、ヘッド制御回路61が図示しない位相変更部を備え、この位相変更部が、パージ時に、同じ種類の駆動パルス信号が印加されるノズル群に属する複数のノズル16の中で、流路長さが長いノズル16ほど、これに隣接するノズルとの間での駆動パルス信号の位相差を大きくなるように変更する。
【0076】
以下に具体的に説明する。図9は、変形例における位相をずらした駆動パルス信号の波形である。なお、本変形例では、駆動パルス信号は、図9(a)に示すような1周期の中に1つのパルスPを有する駆動パルス信号としている。そして、図9(a)に示す駆動パルス信号を、ノズル群内の最も流路抵抗が長いノズル16(ここでは第1ノズルとする)に対応する個別電極42に印加する駆動パルス信号とすると、この駆動パルス信号におけるパルスPの立ち上がり時間rt11からパルス幅分だけ遅れた立ち上がり時間rt12においてパルスPが発生する、図9(b)に示す駆動パルス信号が上記第1ノズルに隣接するノズル16に対応する個別電極42に印加する駆動パルス信号となる。なお、この隣接するノズル16は走査方向であってもよいし、搬送方向であってもよい。そして、走査方向に関して隣接するノズル16に対して位相をずらしている場合には、搬送方向に関して隣接するノズル16に対して位相のずれは問わない。また、搬送方向に関して隣接するノズル16に対して位相をずらしている場合には、走査方向に関して隣接するノズル16に対して位相のずれは問わない。そして、位相変更部は、流路長さが短いノズル16ほど、これに隣接するノズルとの間での駆動パルス信号の位相差を小さくなるように変更する。
【0077】
ここで、隣接するノズル16に対応する個別電極42に印加する駆動パルス信号の位相をずらすことによるノズル16からのインクの噴射量について図10を参照して説明する。図10(a)はクロストークの影響により変位量が最小となったときの振動板近傍の模式図であり、(b)はクロストークの影響により変位量が最大となったときの振動板近傍の模式図である。なお、図10(a)、(b)においては、振動板40の変位量についてわかりやすく説明するため、振動板40に接合された流路ユニット30のプレートと圧力室34の境界部分、すなわち振動板40の拘束された端の部分を三角で模式的に示し、個別電極42などの図示を省略している。
【0078】
例えば、互いに隣接するノズル16に対応する個別電極42に対して、位相をずらさずに同位相の駆動パルス信号を印加すると、図10(a)に示すように、振動板40の2つの圧力室34に対向する部分が変形するタイミングが同じため、相互干渉(クロストーク)の影響が最も大きく、振動板40の圧力室34に対向する部分の変位量は小さくなる。一方、互いに隣接するノズル16に対応する個別電極42に対して印加する駆動パルス信号の位相を少しずつずらしていくにつれて、振動板40の2つの圧力室34に対向する部分が変形するタイミングがずれるため、クロストークの影響は小さくなり、振動板40の圧力室34に対向する部分の変位量は大きくなる。振動板40の変形を阻害しないため、振動板40の圧力室34に対向する部分の変位量は大きくなる。また、別の観点では、振動板40の両側の圧力室34と対向する部分が中央の圧力室34と対向する部分に引っ張られて、上に凸状に変形する。その後、振動板40の両側の圧力室34と対向する部分が下に凸に変形すると、振動が励起されて変形し易くなり、振動板40の圧力室34に対向する部分の変位量は大きくなる。
【0079】
そして、互いに隣接するノズル16に対応する個別電極42に対して、パルスPのパルス幅分だけ位相をずらした駆動パルス信号(一例として、図9(a)、(b)に示す2つの駆動パルス信号)を印加すると、一方の個別電極42に印加される駆動パルス信号の電圧が立ち上がり(すなわちパルスPが印加されて)、この個別電極42に対応する圧力室34と対向する振動板40の部分が変形する。その後、一方の個別電極42に印加される駆動パルス信号の電圧が立ち下がり、この個別電極42に対応する圧力室34と対向する振動板40の部分の変形が戻るとともに、他方の個別電極42に印加される駆動パルス信号の電圧が立ち上がり、この個別電極42に対応する圧力室34と対向する振動板40の部分が変形する。このとき、図10(b)に示すように、一方の個別電極42に対応する圧力室34と対向する振動板40の部分の変形が戻る力を利用して、他方の個別電極42に対応する圧力室34と対向する振動板40の部分が大きく変形することになる。したがって、効率的に振動板40を大きく変形させることができ、最も変位量が大きくなる。
【0080】
そして、本実施形態では、ノズル群内において、隣接する2つのノズルに対応する個別電極42に印加する駆動パルス信号の位相を、流路長さが長いほど大きくずらすことで、駆動パルス信号の電圧を上げることなく、流路長さが長いノズル16ほど、従来の駆動信号を印加せずにパージしたときよりもインクの排出量を増やすことができ、消費電力を低減することができる。これにより、パージ時における、ノズル群ごとの、流路長さの違いに起因した複数のノズル16からのインクの排出量をほぼ均一化することができ、吸引ポンプ23による吸引力を小さくして、複数のノズル16からインクが無駄に排出されるのを抑制し、複数のノズル16から排出されるインクの総和を減らすことができる。なお、本変形例は、上述したノズル群ごとに駆動パルスの印加周期を異ならせる変形例に対しても適用することができる。
【0081】
また、本実施形態においては、パージ時において、流路長さの長いノズル群ほど大きな体積のインクを噴射するための駆動パルス信号を印加することで、ノズル16からのインクの排出量の差を小さくしていたが、流路長さの長いノズル群ほど低温用に補正された電圧値の駆動パルス信号を印加してもよい。
【0082】
さらに、本実施形態においては、複数種類の駆動波形は、ROM51に記憶され、ROM51から参照していたが、ROM51に記憶されずに、PC70などから随時生成されて送信されてもよい。
【0083】
また、本実施形態においては、体積の異なる液滴に対応した複数種類の駆動パルス信号は、パルス数やパルス幅が異なっていたが、パルス数やパルス幅は同じで、電圧値のみが異なっていてもよいし、パルス数やパルス幅が異なり、さらに電圧値が異なっていてもよい。また、温度補正用の複数種類の駆動パルス信号は、電圧値のみが異なっていたが、パルス数やパルス幅が異なっていてもよいし、電圧値が異なり、さらにパルス数やパルス幅が異なっていてもよい。
【0084】
また、本実施形態においては、流路長さに応じて、走査方向に3つのノズル群に区分していたが、2または4以上のノズル群に区分してもよい。最も多い区分数としては、ノズル列に属するノズルの数だけ区分することが可能である。区分数を増やすほど、複数のノズルからのインクの排出量の差をより小さくすることができる。
【0085】
加えて、本実施形態においては、吸引キャップ21によりキャッピングして、吸引ポンプ23を駆動して、吸引キャップ21内を吸引して減圧させることで、吸引キャップ21によって覆われた全てのノズル16からインクを強制的に排出させていたが、例えば、インク供給口36にマニホールド35に向かって加圧を加えて、全てのノズル16からインクを強制的に排出させるなど、あらゆる方法で、流路ユニット30の外部からマニホールド35内のインクに圧力を作用させて複数のノズル16からインクを強制的に排出させるパージであってもよい。
【0086】
また、パージ時における、流路長さが最も長いノズル16からのインクの排出量を最も大きくするために、個別電極42に印加する駆動パルス信号を大玉の最も低温用にすればよい。そして、この流路長さが最も長いノズル16からのインクの排出量を基準に、残りのノズル16からのインクの排出量も同程度となるように、個別電極42に印加する駆動パルス信号を体積や温度補正を適宜設定すればよい。
【0087】
さらに、本実施形態では、インクジェットヘッド4の圧電アクチュエータ31の駆動方式として、待機状態では圧電層41が変形しておらず、駆動パルス信号(パルスP)が印加されたときに圧電層41に電界が作用して圧電層41に変形が生じることによって、圧力室34内のインクに圧力が付与される方式、いわゆる、押し打ち方式を例に挙げて説明していた。しかしながら、圧電アクチュエータ31の駆動方式としては、この押し打ち方式に限らず引き打ち方式であってもよい。
【0088】
また、本実施形態においては、全ての個別電極42に駆動パルス信号を印加していたが、流路長さが最も短いノズル群(本実施形態ではノズル群39)については、駆動パルス信号を印加しなくてもよい。
【0089】
以上説明した実施形態及びその変更形態は、インクジェットヘッドを備えたインクジェットプリンタに本発明を適用した一例であるが、サーマルプリンタなどの他の記録方式の記録装置にも本発明を適用可能である。なお、本実施形態では、個別電極42に1周期の間に1以上のパルスを有する駆動信号を印加していたが、サーマルプリンタの場合には、サーマルプリンタの、ノズルに連通する部屋内を加熱するためのヒータに対して、1周期の間、常にONとなっているようなパルスを有しない信号を印加してもよい。
【0090】
また、以上説明した実施形態及びその変更形態は、記録用紙にインクを噴射して文字や画像などを記録するインクジェットプリンタに本発明を適用した一例であるが、本発明の適用対象は、このような用途に使用されるものに限られない。すなわち、インク以外のさまざまな種類の液体をその用途に応じて対象に噴射する、種々の液体噴射装置に本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0091】
1 インクジェットプリンタ
4 インクジェットヘッド
6 メンテナンスユニット
16 ノズル
21 吸引キャップ
23 吸引ポンプ
30 流路ユニット
31 圧電アクチュエータ
47 ドライバIC
R1 活性部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射する複数のノズルと、前記複数のノズルにそれぞれ連通する複数の圧力室と、前記複数の圧力室に液体を供給するための液体供給口とを有する流路ユニットと、
前記複数の圧力室にそれぞれ設けられた複数の駆動素子を有し、前記駆動素子を用いて、前記ノズルから液体を噴射するための噴射エネルギーを前記圧力室内の液体に付与するエネルギー付与手段と、
前記流路ユニットの外部から前記流路ユニット内の液体に圧力を作用させて前記複数のノズルから液体を強制的に排出させるパージを実行するパージ手段と、
前記エネルギー付与手段によって前記圧力室内の液体に付与される噴射エネルギーがそれぞれ異なる複数種類の駆動信号を前記駆動素子に印加する駆動装置と、を備え、
前記駆動装置は、前記パージ時に、被噴射媒体への液体噴射時に印加される前記駆動信号と同じ前記駆動信号を前記駆動素子に印加しており、前記液体供給口からの流路長さが長い前記ノズルに対応する前記駆動素子ほど大きな噴射エネルギーに対応した前記駆動信号を印加することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
前記複数種類の駆動信号は、1つのノズルから液滴体積の異なる複数種類の液体を噴射させるための信号であって、前記複数種類の液体にそれぞれ対応付けられており、
前記駆動装置は、前記パージ時に、前記液体供給口からの流路長さが長い前記ノズルに対応する前記駆動素子ほど体積の大きな液滴に対応した前記駆動信号を印加することを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記駆動信号は、パルスを有する駆動パルス信号であり、
複数種類の前記駆動パルス信号は、前記パルスの幅がそれぞれ異なることで、噴射される液滴体積が異なるように設定されていることを特徴とする請求項2に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記複数種類の駆動信号は、前記液体の温度が低いほど前記圧力室内の液体に大きな噴射エネルギーを付与するように、液体温度に対応付けて設定された温度補正用の信号であって、
前記駆動装置は、前記パージ時に、前記液体供給口からの流路長さが長い前記ノズルに対応する前記駆動素子ほど低温に対応した前記駆動信号を印加することを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
前記流路ユニット内の液体温度を検出するための温度検出手段をさらに備え、
前記複数種類の駆動信号は、1つの液滴体積に対して、前記液体の温度が低いほど前記圧力室内の液体に大きな噴射エネルギーを付与するように、液体温度に対応付けて設定された複数種類の温度補正用の信号を有しており、
前記駆動装置は、前記パージ時に、前記液体供給口からの流路長さに応じて液滴の体積を決定し、且つ、前記温度検出手段によって検出された前記流路ユニット内の液体の温度に対応した前記駆動信号を印加することを特徴とする請求項2または3に記載の液体噴射装置。
【請求項6】
前記複数種類の駆動信号は、1つの液滴体積に対して、前記液体の温度が低いほど前記圧力室内の液体に大きな噴射エネルギーを付与するように、液体温度に対応付けて設定された複数種類の温度補正用の信号を有しており、
前記駆動装置は、前記パージ時に、前記液体供給口からの流路長さが最も長い前記ノズルに対応する前記駆動素子に、最も体積の大きな液滴に対応し、且つ、最も低温に対応した前記駆動信号を印加することを特徴とする請求項2または3に記載の液体噴射装置。
【請求項7】
液体を噴射する複数のノズルと、前記複数のノズルにそれぞれ連通する複数の圧力室と、前記複数の圧力室に液体を供給するための液体供給口とを有する流路ユニットと、
前記複数の圧力室にそれぞれ設けられた複数の駆動素子を有し、前記駆動素子を用いて、前記ノズルから液体を噴射するための噴射エネルギーを前記圧力室内の液体に付与するエネルギー付与手段と、
前記流路ユニットの外部から前記流路ユニット内の液体に圧力を作用させて前記複数のノズルから液体を強制的に排出させるパージを実行するパージ手段と、
駆動パルス信号を前記駆動素子に印加する駆動装置と、を備え、
前記駆動装置は、前記パージ時に、被噴射媒体への液体噴射時に印加される前記駆動信号と同じ前記駆動信号を前記駆動素子に印加しており、前記液体供給口からの流路長さが長い前記ノズルに対応する前記駆動素子ほど前記駆動信号を印加する周期を小さくすることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項8】
前記複数の圧力室は、平面的に互いに隣接して配置されており、
前記エネルギー付与手段は、前記複数の圧力室を共通に覆うように前記流路ユニットに接合され、前記複数の圧力室と対向する部分に前記複数の駆動素子がそれぞれ設けられた振動板を有し、
前記駆動信号は、パルスを有する駆動パルス信号であり、
前記駆動装置は、前記パージ時に、同じ種類の前記駆動パルス信号が印加される前記複数の圧力室の中で、前記流路長さが長い前記圧力室ほど、これに隣接する隣接圧力室との間での前記駆動パルス信号の位相差を大きくすることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の液体噴射装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2013−28054(P2013−28054A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165169(P2011−165169)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】