説明

液体燃料組成物

本発明は、内燃機関において使用するのに適したベース燃料;および式(III)[Y−CO[O−A−CO]−Z−X〔式中、Yは水素または置換されていてもよいヒドロカルビル基であり;Aは置換されていてもよい二価のヒドロカルビル基であり;nは1〜100であり;mは1または2であり;Zは置換されていてもよい二価の架橋基であり;pは0〜10であり;Xは末端アミン基、または末端アミン基を有する基であり;ここで末端アミン基は−NR(式中、Rは水素およびC−Cヒドロカルビル基から独立して選択される)から選択される〕で示される末端アミン基を有する1種以上のポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体;を含む液体燃料組成物をエンジン潤滑油を含有する内燃機関に供給することを含む、内燃機関の潤滑油の性能を向上させる方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に使用するのに適したベース燃料の大部分を構成する液体燃料組成物に関し、さらに詳細には、内燃機関に使用するのに適したベース燃料の大部分を構成する液体燃料組成物と超分散剤に関する。
【背景技術】
【0002】
欧州特許出願公開第0164817号明細書は、有機液体中の固体分散剤および油/水エマルジョンを安定化させるのに適した、カルボン酸、カルボキシメチル、スルフェート、スルホネート、ホスフェート、およびホスホネートから選択される末端強酸基を有するカルボン酸エステルまたはカルボン酸アミドを含む界面活性剤を開示している。界面活性剤の好ましい化学種は、末端ヒドロキシ基または末端カルボン酸基に直接、もしくは連結基を介して結合した強酸基を有するポリ(ヒドロキシアルカンカルボン酸)である。このような界面活性剤を燃料中に使用することは、該特許出願には開示されていない。
【0003】
欧州特許出願公開第0233684号明細書は、有機液体中の固体のための分散剤として使用するのに適した、(i)少なくとも2つの脂肪族炭素−炭素二重結合を有する末端基、および(ii)酸性もしくは塩基性アミノ基を有するエステルまたはポリエステルを開示している。このような界面活性剤を燃料中に使用することは、該特許出願には開示されていない。
【0004】
英国特許出願公開第2197312号明細書は、油溶性の分散性添加剤を開示しており、ここで該分散性添加剤は、先ずC−Cラクトンと、ポリアミン、ポリオール、もしくはアミノアルコールとを反応させて中間体付加物を形成させ、次いで該中間体付加物と、約1〜約165の全炭素を有する脂肪族ヒドロカルビルモノカルボキシルもしくはジカルボキシルアシル化剤とを反応させることによって製造されたポリ(C−Cラクトン)付加物である。分散性添加剤を潤滑油や燃料中に使用することは、英国特許出願公開第2197312号明細書にも開示されている。
【0005】
欧州特許出願公開第0802255号明細書は、潤滑油や通常の液体燃料のための低塩素含有添加剤として有用なヒドロキシル基含有アシル化窒素化合物、および該化合物の製造方法を開示している。
【0006】
国際公開第00/34418号は、ポリ(ヒドロキシカルボン酸)アミド誘導体もしくはポリ(ヒドロキシカルボン酸)エステル誘導体を燃料組成物中に潤滑添加剤として使用することを開示している。国際公開第00/34418号はさらに、該特許出願に開示のポリ(ヒドロキシカルボン酸)アミド誘導体もしくはポリ(ヒドロキシカルボン酸)エステル誘導体を使用すると、吸気系統の清浄性(吸気弁、燃料噴射装置、キャブレター)、燃焼室の清浄性(いずれの場合も、キープクリーン効果およびクリーンアップ効果のどちらか又は両方)、耐食性(さび止めを含む)、および弁固着の軽減もしくは解消、などの多くの効果の1つ以上が達成されることを開示されている。国際公開第00/34418号には、燃料経済性の向上と潤滑性能の向上に関してのメリットは開示されていない。
【0007】
欧州特許出願公開第1752516号明細書は、ポリイミン誘導体とポリアミン誘導体を、炭化水素燃料中に、あるいは潤滑粘性の油中に分散剤または清浄剤添加剤として使用することを開示している。炭化水素燃料中に使用するのは、燃料経済性の向上、均一な空気/燃料混合物、ノズルの清浄性、および燃料噴射装置の清浄性を果たすためである。潤滑油中に使用するのは、エンジン清浄性の向上、シール適合性の向上、燃料経済性の向上、NO排出物の低減、および微粒子排出物の低減を果たすためである。潤滑油の性能を向上させるために、炭化水素燃料中に使用することについての開示もしくは説明はない。
【0008】
欧州特許出願公開第0304175号明細書は、油性組成物(主として、潤滑油組成物において有用性を有する)中へのラクトン変性マンニッヒ塩基分散剤添加剤の使用に関する。この特許出願においても、潤滑油の性能を向上させるために、炭化水素燃料中に使用することについての開示もしくは説明はない。
【0009】
驚くべきことに、末端アミン基を有するポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体の使用は、エンジンに供給するための液体燃料組成物中にこれを使用した場合に、エンジン潤滑性能の向上に関してメリットがもたらされる、ということが見出された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】欧州特許出願公開0164817号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第0233684号明細書
【特許文献3】英国特許出願公開第2197312号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第0802255号明細書
【特許文献5】国際公開00/34418号
【特許文献6】欧州特許出願公開第1752516号明細書
【特許文献7】欧州特許出願公開第0304175号明細書
【発明の概要】
【0011】
本発明は、内燃機関の潤滑油の性能を向上させる方法を提供し、該方法は、エンジン潤滑油を含有する内燃機関に、内燃機関において使用するのに適したベース燃料と、式(III)
[Y−CO[O−A−CO]−Z−X (III)
〔式中、Yは水素または置換されていてもよいヒドロカルビル基であり;Aは置換されていてもよい二価のヒドロカルビル基であり;nは1〜100であり;mは1または2であり;Zは置換されていてもよい二価の架橋基であり;pは0〜10であり;Xは末端アミン基、または末端アミン基を有する基であり;ここで末端アミン基は−NR(式中、Rは水素およびC−Cヒドロカルビル基から独立して選択される)から選択される〕で示される、末端アミン基を有する1種以上のポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体とを含む液体燃料組成物を供給することを含む。
【0012】
本発明はさらに、基油と、式(III)
[Y−CO[O−A−CO]−Z−X (III)
〔式中、Yは水素または置換されていてもよいヒドロカルビル基であり;Aは置換されていてもよい二価のヒドロカルビル基であり;nは1〜100であり;mは1または2であり;Zは置換されていてもよい二価の架橋基であり;pは0〜10であり;Xは末端アミン基、または末端アミン基を有する基であり;ここで末端アミン基は−NR(式中、Rは水素およびC−Cヒドロカルビル基から独立して選択される)から選択される〕で示される、末端アミン基を有する1種以上のポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体とを含む潤滑組成物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において使用される液体燃料組成物は、内燃機関で使用するのに適した基油、およびアミン酸基(a amine acid group)を有する1種以上のポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体を含む。内燃機関で使用するのに適したベース燃料は、一般にはガソリン燃料またはディーゼル燃料であり、したがって本発明の液体燃料組成物は、一般にはガソリン燃料組成物またはディーゼル燃料組成物である。
【0014】
本発明において使用される、末端アミン基を有するポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体は、超分散剤と呼ばれることもある。
本発明の液体燃料組成物中の、末端アミン基を有する1種以上のポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体は、式(III)
[Y−CO[O−A−CO]−Z−X (III)
〔式中、Yは水素または置換されていてもよいヒドロカルビル基であり;Aは置換されていてもよい二価のヒドロカルビル基であり;nは1〜100であり;mは1または2であり;Zは、置換されていてもよい二価の架橋基であり;pは0〜10であり;Xは末端アミン基、または末端アミン基を有する基であり;ここで末端アミン基は−NR(式中、Rは水素およびC−Cヒドロカルビル基から独立して選択される)から選択される〕で示される、末端アミン基を有するポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体である。
【0015】
式(III)において、Aは、式(I)と(II)に関して後述するように、二価の直鎖ヒドロカルビル基もしくは分岐ヒドロカルビル基であるのが好ましい。
すなわち、式(III)において、Aは、置換されていてもよい二価の、芳香族、脂肪族、または脂環式の直鎖ヒドロカルビル基もしくは分岐ヒドロカルビル基であるのが好ましい。さらに好ましくは、Aは、アリーレン基、アルキレン基、またはアルケニレン基であり、特に4〜25個の範囲の炭素原子を有する、さらに好ましくは6〜25個の範囲の炭素原子を有する、さらに好ましくは8〜24個の範囲の炭素原子を有する、さらに好ましくは10〜22個の範囲の炭素原子を有する、そして最も好ましくは12〜20個の炭素原子を有するアリーレン基、アルキレン基、またはアルケニレン基である。
【0016】
式(III)の前記化合物においては、ヒドロキシル基から由来する酸素原子とカルボニル基との間で直接連結された炭素原子が少なくとも4個存在するのが好ましく、少なくとも6個存在するのがさらに好ましく、8〜14個存在するのがさらに好ましい。
【0017】
式(III)の化合物において、基A中の任意の置換基は、ヒドロキシ基、ハロ基、またはアルコキシ基(特にC1−4アルコキシ基)から選択するのが好ましく、C1−4アルコキシ基から選択するのがさらに好ましい。
【0018】
式(III)(および式(I))において、nは1〜100の範囲である。nに対する範囲の下限は、好ましくは1であり、さらに好ましくは2であり、さらに好ましくは3である。nに対する範囲の上限は、好ましくは100であり、さらに好ましくは60であり、さらに好ましくは40であり、さらに好ましくは20であり、さらに好ましくは10である。すなわち、nは、下記の範囲:1〜100;2〜100;3〜100;1〜60;2〜60;3〜60;1〜40;2〜40;3〜40;1〜20;2〜20;3〜20;1〜10;2〜10;および、3〜10;のいずれからも選択することができる。
【0019】
式(III)において、Yは、式(I)に関して前述したように、置換されていてもよいヒドロカルビル基であるのが好ましい。
すなわち、式(III)中の置換されていてもよいヒドロカルビル基Yは、最大で50個の炭素原子を含むアリール、アルキル、またはアルケニルであるのが好ましく、7〜25個の範囲の炭素原子を含むアリール、アルキル、またはアルケニルであるのがさらに好ましい。例えば、置換されていてもよいヒドロカルビル基Yは、ヘプチル、オクチル、ウンデシル、ラウリル、ヘプタデシル、ヘプタデニル、ヘプタデカジエニル、ステアリル、オレイル、およびリノレイルから適切に選択することができる。
【0020】
この点で、式(III)における前記置換されていてもよいヒドロカルビル基Yの他の例としては、シクロヘキシル等のC4−8シクロアルキル;天然に存在する酸(例えばアビエチン酸など)から誘導される多環式テルペニル基等のポリシクロアルキル;フェニル等のアリール;ベンジル等のアラルキル;ならびに、ナフチル、ビフェニル、スチベニル、およびフェニルメチルフェニル等のポリアリール;などがある。
【0021】
本発明では、式(III)における置換されていてもよいヒドロカルビル基Yは、カルボニル、カルボキシル、ニトロ、ヒドロキシ、ハロ、アルコキシ、アミノ(好ましくはN−H結合をもたない第三アミノ)、オキシ、シアノ、スルホニル、およびスルホキシル等の1種以上の官能基を含んでよい。置換ヒドロカルビル基中の、水素以外の原子の大部分は一般には炭素であり、ヘテロ原子(例えば、酸素、窒素、および硫黄)割合は一般に、存在する全非水素原子のほんのわずか(約33%以下)である。
【0022】
当業者には言うまでもないことであるが、置換ヒドロカルビル基Y中のヒドロキシ、ハロ、アルコキシ、ニトロ、およびシアノ等の官能基は、ヒドロカルビルの水素原子の1つに置き換わるが、一方、置換ヒドロカルビル基Y中のカルボニル、カルボキシル、第三アミノ(−N−)、オキシ、スルホニル、およびスルホキシル等の官能基は、ヒドロカルビルの−CH−部分もしくは−CH−部分に置き換わる。
【0023】
式(III)中のヒドロカルビル基Yは、未置換であるか、あるいはヒドロキシ基、ハロ基、またはアルコキシ基(さらに好ましくはC1−4アルコキシ)から選択される基で置換されるのがさらに好ましい。
【0024】
式(III)中の置換されていてもよいヒドロカルビル基Yは、ステアリル基、12−ヒドロキシステアリル基、オレイル基、12−ヒドロキシオレイル基、または天然に存在する油(例えばタル油脂肪酸など)から誘導される基であるのが最も好ましい。
【0025】
式(III)において、Zは、好ましくは式−X−B−Y−で示される、置換されていてもよい二価の架橋基であり、ここでXは、酸素、硫黄、または式−NR−の基から選択され、このときRは後述のとおりであり、Bは後述のとおりであり、Yは、酸素または式−NR−の基から選択され、このときRは後述のとおりであり、qは0または1である。qが1であって、XとYの両方が式−NR−の基である場合は、2つのR基が、2つの窒素原子を結びつける単一のヒドロカルビル基を形成してよい。
【0026】
Zは、窒素原子を介してカルボニル基に結合している、置換されていてもよい二価の架橋基であるのが適切であり、式(IV)
【0027】
【化1】

【0028】
(式中、Rは水素もしくはヒドロカルビル基であり、Bは置換されていてもよいアルキレン基である)で示される架橋基であるのが好ましい
を表わすヒドロカルビル基の例としては、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、およびオクタデシルなどがある。
【0029】
Bを表わす置換されていてもよいアルキレン基の例としては、エチレン、トリメチレン、テトラメチレン、およびヘキサメチレンなどがある。
式(III)中の好ましいZ部分の例としては、−NHCHCH−、−NHCHC(CHCH−、および−NH(CH−などがある。
【0030】
式(III)において、pは0〜10から選択され、0〜8から選択するのが好ましく、0〜6から選択するのがさらに好ましい。本発明の1つの実施態様では、pは、少なくとも1(すなわち、pは1〜10、1〜8、または1〜6から選択される)または少なくとも2(すなわち、pは、2〜10、2〜8、または2〜6から選択される)である。
【0031】
式(III)において、Xは、末端アミン基もしくは末端アミン基を有する基であり、ここで末端アミン基は−NR(式中、Rは、水素およびC−Cヒドロカルビル基から選択される)から選択される。Xが末端アミン基を有する基である場合、Xは、式−Z−Xの基であるのが好ましく、ここでZは、二官能性の連結化合物(例えば、ポリアミン、ポリオール、ヒドロキシルアミン、または上記のZ基から選択される化合物)であって、Xは、−NRから選択される末端アミン基であり、ここでRは、水素およびC−Cヒドロカルビル基から選択される。Xが末端酸基を有する基である場合、式(III)中のpは0であり、Xは、式−Z−Xの基である。
【0032】
末端アミン基中のR基は、水素およびC−Cヒドロカルビル基から独立して選択されるのが好ましく、水素およびC−Cアルキル基から独立して選択されるのがさらに好ましい。適切なC−Cアルキル基の例は、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、およびt−ブチル基である。
【0033】
適切な末端アミン基の例としては、−NH、−NHCH、−NHCHCH、−NHCHCHCH、−NHCH(CH、−NHCHCHCHCH、−NHC(CH、−N(CH、−N(CH)CHCH、−N(CH)CHCHCH、−N(CHCH、−N(CHCH)CH(CH、−N(CHCH)CHCHCHCH、−N(CHCH)C(CH、−N(CHCH)CHCH、−N(CHCH)CHCHCH、−N(CHCH)CH(CH、−N(CHCH)CHCHCHCH、−N(CHCH)C(CH、−N(CH(CH)CHCHCH、−N(CH(CH))、−N(CH(CH)CHCHCHCH、−N(CH(CH)C(CH、−N(CHCHCH)CHCH、−N(CHCHCH、−N(CHCHCH)CHCHCHCH、−N(CHCHCH)C(CH、−N(CHCHCHCH、−N(CHCHCHCH)C(CH、および−N(C(CHなどがある。
【0034】
本発明の1つの実施態様では、末端アミン基は−NHである。
末端アミン基を有する1種以上のポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体は、式(I)
Y−CO[O−A−CO]−OH (I)
(式中、Yは水素または置換されていてもよいヒドロカルビル基であり;Aは置換されていてもよい二価のヒドロカルビル基であり;nは1〜100である)のポリ(ヒドロキシカルボン酸)と、式(I)のポリ(ヒドロキシカルボン酸)の末端カルボン酸基に対して反応性の基と上記にて特定した末端アミン基とを有する化合物;末端アミン基の前駆体;または、二官能性の連結化合物(後で末端アミン基の前駆体と反応させる);との反応によって得ることができる。
【0035】
本明細書で使用している”ヒドロカルビル”とは、炭化水素のある炭素原子からの1つ以上の水素原子の除去によって形成される基を表わす(より多くの水素原子が除去される場合は、必ずしも同じ炭素原子からとは限らない)。
【0036】
ヒドロカルビル基は、芳香族基、脂肪族基、非環式基、または環式基であってよい。ヒドロカルビル基は、アリール、シクロアルキル、アルキル、またはアルケニルであるのが好ましく、いずれの場合も、直鎖基または分岐鎖基であってよい。
【0037】
代表的なヒドロカルビル基としては、フェニル、ナフチル、メチル、エチル、ブチル、ペンチル、メチルペンチル、ヘキセニル、ジメチルヘキセシル、オクテニル、シクロオクテニル、メチルシクロオクテニル、ジメチルシクロオクチル、エチルヘキシル、オクチル、イソオクチル、ドデシル、ヘキサデセニル、エイコシル、ヘキサコシル、トリアコンチル、およびフェニルエチルなどがある。
【0038】
本発明では、”置換されていてもよいヒドロカルビル”という用語は、”不活性の”ヘテロ原子含有官能基を1つ以上含んでもよいヒドロカルビル基を表わすのに使用される。”不活性の”とは、該官能基が化合物の機能を全く妨げないということを意味している。
【0039】
式(I)中の置換されていてもよいヒドロカルビル基Yは、最大で50個の炭素原子を含有するアリール、アルキル、またはアルケニルであるのが好ましく、7〜25個の炭素原子を含有するアリール、アルキル、またはアルケニルであるのがさらに好ましい。置換されていてもよいヒドロカルビル基Yは、例えば、ヘプチル、オクチル、ウンデシル、ラウリル、ヘプタデシル、ヘプタデニル、ヘプタデカジエニル、ステアリル、オレイル、およびリノレイルから適切に選択することができる。
【0040】
式(I)中の置換されていてもよいヒドロカルビル基Yの他の例としては、シクロヘキシル等のC4−8シクロアルキル;天然に存在する酸(例えばアビエチン酸など)から誘導される多環式テルペニル基等のポリシクロアルキル;フェニル等のアリール;ベンジル等のアラルキル;ならびに、ナフチル、ビフェニル、スチベニル、およびフェニルメチルフェニル等のポリアリール;などがある。
【0041】
本発明では、置換されていてもよいヒドロカルビル基Yは、1つ以上の官能基〔例えば、カルボニル、カルボキシル、ニトロ、ヒドロキシ、ハロ、アルコキシ、第三アミノ(N−H結合なし)、オキシ、シアノ、スルホニル、およびスルホキシルなど〕を含有してよい。置換ヒドロカルビル基中の、水素以外の原子の大部分は一般には炭素であり、ヘテロ原子(例えば、酸素、窒素、および硫黄)割合は一般に、存在する全非水素原子のほんのわずか(約33%以下)である。
【0042】
当業者には言うまでもないことであるが、置換ヒドロカルビル基Y中のヒドロキシ、ハロ、アルコキシ、ニトロ、およびシアノ等の官能基は、ヒドロカルビルの水素原子の1つに置き換わるが、一方、置換ヒドロカルビル基Y中のカルボニル、カルボキシル、第三アミノ(−N−)、オキシ、スルホニル、およびスルホキシル等の官能基は、ヒドロカルビルの−CH−部分もしくは−CH−部分に置き換わる。
【0043】
式(I)中のヒドロカルビル基Yは、未置換であるか、あるいはヒドロキシ基、ハロ基、もしくはアルコキシ基から選択される基で置換されているのがさらに好ましく、C1−4アルコキシで置換されているのがさらに好ましい。
【0044】
式(I)中の置換されていてもよいヒドロカルビル基Yは、ステアリル基、12−ヒドロキシステアリル基、オレイル基、12−ヒドロキシオレイル基、または天然に存在する油(例えばタル油脂肪酸)から誘導される基であるのが最も好ましい。
【0045】
ポリ(ヒドロキシカルボン酸)とその誘導体の製造方法は知られており、例えば欧州特許出願公開第0164817号明細書に記載されている。
式(I)のポリ(ヒドロキシカルボン酸)は、必要に応じて触媒を存在させて、式(II)
HO−A−COOH (II)
(式中、Aは、置換されていてもよい二価のヒドロカルビル基である)の1種以上のヒドロキシカルボン酸のエステル交換により、よく知られている方法に従って製造することができる。このような方法は、例えば、米国特許第3996059号明細書、英国特許出願公開第1373660号明細書、および英国特許出願公開第1342746号明細書に記載されている。
【0046】
前記エステル交換における連鎖停止剤は非ヒドロキシカルボン酸であってよい。
ヒドロキシカルボン酸中のヒドロキシル基、およびヒドロキシカルボン酸もしくは非ヒドロキシカルボン酸中のカルボン酸基は、それらの特性が一級、二級、または三級のいずれであってもよい。
【0047】
ヒドロキシカルボン酸と非ヒドロキシカルボン酸連鎖停止剤とのエステル交換は、出発物資を、必要に応じて適切な炭化水素溶媒(例えば、トルエンやキシレン)中で加熱し、形成された水を共沸除去することによって果たすことができる。この反応は、最高250℃までの温度で行うことができ、溶媒の還流温度にて行うのが適切である。
【0048】
ヒドロキシカルボン酸中のヒドロキシル基が二級または三級である場合、適用される温度は、酸分子の脱水を引き起こすほどに高い温度であってはならない。
所定の温度での反応速度を増大させる目的で、あるいは所定の反応速度を得るのに必要とされる温度を下げる目的で、エステル交換用の触媒(例えば、p−トルエンスルホン酸、酢酸亜鉛、ナフテン酸ジルコニウム、またはテトラブチルチタネートなど)を組み込むことができる。
【0049】
式(I)と(II)の化合物において、Aは、置換されていてもよい芳香族、脂肪族、または脂環式の、直鎖もしくは分岐鎖の二価のヒドロカルビル基であるのが好ましい。Aは、アリーレン基、アルキレン基、またはアルケニレン基であるのが好ましく、4〜25個の範囲の炭素原子を有するアリーレン基、アルキレン基、またはアルケニレン基であるのが特に好ましく、6〜25個の範囲の炭素原子を有するアリーレン基、アルキレン基、またはアルケニレン基であるのがさらに好ましく、8〜24個の範囲の炭素原子を有するアリーレン基、アルキレン基、またはアルケニレン基であるのがさらに好ましく、10〜22個の範囲の炭素原子を有するアリーレン基、アルキレン基、またはアルケニレン基であるのがさらに好ましく、12〜20個の炭素原子を有するアリーレン基、アルキレン基、またはアルケニレン基であるのが最も好ましい。
【0050】
式(I)と(II)の前記化合物においては、ヒドロキシル基から由来する酸素原子とカルボニル基との間を直接連結している炭素原子が少なくとも4個存在するのが好ましく、少なくとも6個存在するのがさらに好ましく、8〜14個存在するのがさらに好ましい。
【0051】
式(I)と(II)の化合物において、基A中の任意の置換基は、ヒドロキシ基、ハロ基、またはアルコキシ基から選択するのが好ましく、C1−4アルコキシ基から選択するのがさらに好ましい。
【0052】
式(II)のヒドロキシカルボン酸中のヒドロキシル基は、二級ヒドロキシル基であるのが好ましい。
適切なヒドロキシカルボン酸の例は、9−ヒドロキシステアリン酸、10−ヒドロキシステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、12−ヒドロキシ−9−オレイン酸(リシノール酸)、および6−ヒドロキシカプロン酸であり、好ましいのは12−ヒドロキシステアリン酸である。市販の12−ヒドロキシステアリン酸(水素化ヒマシ油脂肪酸)は通常、最大で15重量%のステアリン酸と他の非ヒドロキシカルボン酸を不純物として含有し、さらなる混合物なしで適切に使用して分子量約1000〜2000のポリマーを得ることができる。
【0053】
非ヒドロキシカルボン酸が反応混合物に別個に導入される場合、所定の分子量のポリマーもしくはオリゴマーを得るために必要とされる割合は、簡単な実験によって、あるいは当業者による計算によって決定することができる。
【0054】
式(I)と(II)の化合物中の基(−O−A−CO−)は、12−オキシステアリル基、12−オキシオレイル基、または6−オキシカプロイル基であるのが好ましい。
アミンと反応させるための式(I)の好ましいポリ(ヒドロキシカルボン酸)としては、ポリ(ヒドロキシステアリン酸)とポリ(ヒドロキシオレイン酸)がある。
【0055】
式(I)のポリ(ヒドロキシカルボン酸)の末端カルボン酸基に対して反応性の基と末端アミン基とを有する適切な化合物としては、置換または未置換のアミン、ジアミン、およびポリアミンがあり、置換アミンの例は、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、アルキレンアミン、α−アミノアルカンアミン、およびα−ヒドロキシアルカンアミンであり、最も適切なのはエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、およびペンタエチレンヘキサミンであって、最も好ましいのはテトラエチレンペンタミンである;そしてポリエステルと末端アミン基との間に連結基を形成できる適切な二官能性連結化合物は、ポリアミン、ポリオール、ヒドロキシルアミン、および上記のZ基である。
【0056】
式(I)のポリ(ヒドロキシカルボン酸)の末端カルボン酸基に対して反応性の基と末端アミン基とを有する化合物;末端アミン基の前駆体;または二官能性の連結化合物(後で末端アミン基の前駆体と反応させる);と、式(I)のポリ(ヒドロキシカルボン酸)との反応は、知られており、例えば欧州特許出願公開第0164817号明細書に記載されている。
【0057】
本発明において好ましい、末端アミン基を有するポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体は、ASTM D 4739に従った測定にて100mg.KOH/g以上の、さらに好ましくは150mg.KOH/g以上の、さらに好ましくは少なくとも175mg.KOH/g以上の、そして最も好ましくは200mg.KOH/g以上のTBN(total base number;全塩基価)値を有する誘導体である。TBNは、300mg.KOH/g以下であり、250mg.KOH/g以下であるのが好ましい。
【0058】
本発明において好ましい、末端アミン基を有するポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体は、20mg.KOH/g未満の、さらに好ましくは15mg.KOH/g未満の、さらに好ましくは10mg.KOH/g未満の、そして最も好ましくは7mg.KOH/g未満の酸価を有する誘導体である。TANは、0mg.KOH/g以上であってよい。
【0059】
本発明の液体燃料組成物において、使用されるベース燃料がガソリンである場合、該ガソリンは、当業界に周知の火花点火(ガソリン)タイプの内燃機関に使用するのに適した任意のガソリンであってよい。本発明の液体燃料組成物中にベース燃料として使用されるガソリンは、便宜上、”ベースガソリン”と呼ばれることもある。
【0060】
ガソリンは一般に、25℃〜230℃の範囲の沸点を有する炭化水素の混合物を含み(EN−ISO 3405)、最適な範囲と蒸留曲線は通常、その年の気候と季節の状況によって変わる。ガソリン中の炭化水素は、当業界に周知の任意の方法によって誘導することができ、直流ガソリン、合成によって得られる芳香族炭化水素混合物、熱分解もしくは接触分解炭化水素、水素化分解石油フラクション、接触改質炭化水素、またはこれらの混合物から周知の任意の方法にて誘導するのが適切である。
【0061】
ガソリンの個別の蒸留曲線、炭化水素組成、リサーチ法オクタン価(RON)、およびモーター法オクタン価(MON)は重要なことではない。
ガソリンのリサーチ法オクタン価(RON)は、EN25164によれば80以上であるのが適切であり(例えば80〜110の範囲)、90以上であるのが好ましく(例えば90〜110の範囲)、91以上であるのがさらに好ましく(例えば91〜105の範囲)、92以上であるのがさらに好ましく(例えば92〜103の範囲)、93以上であるのがさらに好ましく(例えば93〜102の範囲)、そして94以上であるのが最も好ましい(例えば94〜100の範囲)。ガソリンのモーター法オクタン価(MON)は、EN25163によれば70以上であるのが適切であり(例えば70〜110の範囲)、75以上であるのが好ましく(例えば75〜105の範囲)、80以上であるのがさらに好ましく(例えば80〜100の範囲)、そして82以上であるのが最も好ましい(例えば82〜95の範囲)。
【0062】
ガソリンは一般に、飽和炭化水素、オレフィン系炭化水素、芳香族炭化水素、および含酸素炭化水素の1種以上から選択される成分を含む。ガソリンは、飽和炭化水素、オレフィン系炭化水素、芳香族炭化水素、および必要に応じて含酸素炭化水素、の混合物を含むのが適切である。
【0063】
一般には、ガソリン中のオレフィン系炭化水素の含量は、ASTM D1319に従って、ガソリンの容量を基準として0〜40容量%の範囲であり、ガソリンの容量を基準として0〜30容量%の範囲であるのが好ましく、ガソリンの容量を基準として0〜20容量%の範囲であるのがさらに好ましい。
【0064】
一般には、ガソリン中の芳香族炭化水素の含量は、ASTM D1319に従って、ガソリンの容量を基準として0〜70容量%の範囲(例えば、ガソリンの容量を基準として10〜60容量%の範囲)であり、ガソリンの容量を基準として0〜50容量%の範囲(例えば、ガソリンの容量を基準として10〜50容量%の範囲)であるのが好ましい。
【0065】
ガソリン中のベンゼン含量は、ガソリンの容量を基準として10容量%以下であり、ガソリンの容量を基準として5容量%以下であるのがさらに好ましく、ガソリンの容量を基準として1容量%以下であるのが特に好ましい。
【0066】
ガソリンは、硫黄の含量が低いか又は極度に低いのが好ましく〔例えば、1000ppmw以下(重量パーツパーミリオン)〕、好ましくは500ppmw以下であり、さらに好ましくは100ppmw以下であり、さらに好ましくは50ppmw以下であり、最も好ましくは10ppmw以下である。
【0067】
ガソリンはさらに、全鉛含量が低いことが好ましく(例えば、0.005g/l以下)、鉛非含有〔鉛化合物を加えない(すなわち無鉛)〕であるのが最も好ましい。
ガソリンが含酸素炭化水素を含むときは、酸素非含有炭化水素の少なくとも一部が含酸素炭化水素と置き換えられる。ガソリン中の酸素含量は、ガソリンの重量を基準として最大で35重量%であってよい(EN 1601)(例えば、それ自体がエタノール)。例えば、ガソリン中の酸素含量は、最大で25重量%であってよく、最大で10重量%であるのが好ましい。オキシジェネートの濃度は、0、0.2、0.4、0.6、0.8、1.0、および1.2重量%のいずれか1つから選択される最小濃度、ならびに5、4.5、4.0、3.5、3.0、および2.7重量%のいずれか1つから選択される最大濃度を有するのが適切である。
【0068】
ガソリン中に組み込むことができる含酸素炭化水素の例としては、アルコール、エーテル、エステル、ケトン、アルデヒド、カルボン酸、これらの誘導体、および酸素含有複素環式化合物などがある。ガソリン中に組み込むことができる含酸素炭化水素は、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、tert−ブタノール、2−ブタノール、およびイソブタノールなど)、エーテル(1分子当たり5個以上の炭素原子を含有するエーテルが好ましい、例えばメチルtert−ブチルエーテル)、およびエステル(1分子当たり5個以上の炭素原子を含有するエステルが好ましい)から選択するのが好ましく、特に好ましい含酸素炭化水素はエタノールである。
【0069】
ガソリン中に含酸素炭化水素が存在するとき、ガソリン中の含酸素炭化水素の量は、広い範囲にわたって変わってよい。例えば、現在、含酸素炭化水素(例えばエタノールそれ自体)を大部分含むガソリンがブラジルや米国等の国で市販されているだけでなく、含酸素炭化水素(例えば、E10やE5)を少量含むガソリンも市販されている。したがってガソリンは、最大で100容量%の含酸素炭化水素を含有してよい。ガソリン中に存在する含酸素炭化水素の量は、当該ガソリンの所望の配合処方に応じて、最大で85容量%;最大で65容量%;最大で30容量%;最大で20容量%;最大で15容量%;および最大で10容量%のうちの1つから選択するのが好ましい。ガソリンは、少なくとも0.5容量%、1.0容量%、または2.0容量%の含酸素炭化水素を含有するのが適切である。
【0070】
適切なガソリンの例としては、0〜20容量%のオレフィン系炭化水素含量(ASTM D1319)、0〜5重量%の酸素含量(EN 1601)、0〜50容量%の芳香族炭化水素含量(ASTM D1319)、および1容量%以下のベンゼン含量を有するガソリンがある。
【0071】
本発明にとって重要なことではないが、本発明のベースガソリンまたはガソリン組成物は、1種以上の燃料添加剤をさらに含むのが適切である場合がある。本発明のベースガソリンまたはガソリン組成物中に組み込むことができる燃料添加剤の濃度と特性は、重要なことではない。本発明のベースガソリンまたはガソリン組成物中に組み込むことができる適切なタイプの燃料添加剤の例としては、酸化防止剤、腐食抑制剤、清浄剤、デヘイザー(dehazers)アンチノック剤、金属不活性化剤、弁座後退防止剤化合物(valve−seat recession protectant compounds)、色素、フリクションモディファイヤー、分散媒、希釈剤、およびマーカーなどがあるが、これらに限定されない。このような適切な添加剤の例が、米国特許第5855629号明細書に広く記載されている。
【0072】
燃料添加剤を、1種以上の希釈剤もしくは分散媒とブレンドして添加剤濃縮物を形成させることができ、次いでこの添加剤濃縮物を、本発明のベースガソリンもしくはガソリン組成物と混合できるのが適切である。
【0073】
本発明のベースガソリンもしくはガソリン組成物中に存在する任意の添加剤の(活性物質)濃度は、最大で1重量%であるのが好ましく、5〜1000ppmwの範囲であるのがさらに好ましく、75〜300ppmwの範囲(例えば95〜150ppmw)であるのが好ましい。
【0074】
本発明の液体燃料組成物において、使用されるベース燃料がディーゼル燃料である場合、本発明におけるベース燃料として使用されるディーゼル燃料は、自動車用圧縮点火エンジンのほかに、他のタイプのエンジン(例えば、船舶用エンジン、鉄道用エンジン、および定置エンジンなど)において使用するためのディーゼル燃料も含む。本発明の液体燃料組成物中のベース燃料として使用されるディーゼル燃料は、便宜上、”ディーゼルベース燃料”と呼ぶこともできる。
【0075】
ディーゼルベース燃料それ自体が、2種以上の異なるディーゼル燃料成分の混合物を含んでもよいし、及び/又は、ディーゼルベース燃料に、後述のように燃料成分を加えることもできる。
【0076】
こうしたディーゼル燃料は、一般には、液体炭化水素の中間留分である軽油(例えば石油由来軽油)を含んでよい1種以上のベース燃料を含有する。このような燃料は一般に、150℃〜400℃(等級と用途応じて異なる)という通常のディーゼル範囲内の沸点を有する。このような燃料は一般に、15℃にて750〜1000kg/mの、好ましくは780〜860kg/mの密度(例えば、ASTM D4502またはIP 365)、および35〜120の、さらに好ましくは40〜85のセタン価(ASTM D613)を有する。このような燃料は一般に、150℃〜230℃の範囲の初期沸点、及び290℃〜400℃の範囲の最終沸点を有する。このような燃料の40℃での動粘度(ASTM D445)は、1.2mm/s〜4.5mm/sであるのが適切である。
【0077】
石油由来軽油の例はスウェーデンクラス1軽油であり、この軽油は、スウェーデン国内仕様EC1によって規定されているように、15℃にて800〜820kg/mの密度(SS−EN ISO 3675、SS−EN ISO 12185)、320℃以下のT95(SS−EN ISO 3405)、および40℃にて1.4〜4.0mm/秒の動粘度(SS−EN ISO 3104)を有する。
【0078】
さらに、必要に応じて、バイオ燃料やフィッシャートロプシュ誘導燃料等の非鉱油ベース燃料が、ディーゼル燃料を形成してもよいし、あるいはディーゼル燃料中に存在してもよい。このようなフィッシャートロプシュ燃料は、例えば、天然ガス、天然ガス液、石油もしくはシェールオイル、石油もしくはシェールオイルの処理残留物、石炭、またはバイオマスから誘導することができる。
【0079】
ディーゼル燃料中に使用されるフィッシャートロプシュ誘導燃料の量は、ディーゼル燃料全体の0〜100容量%であってよく、好ましくは5〜100容量%であり、さらに好ましくは5〜75容量%である。このようなディーゼル燃料に対しては、10容量%以上のフィッシャートロプシュ誘導燃料を含有するのが望ましく、20容量%以上のフィッシャートロプシュ誘導燃料を含有するのがさらに好ましく、30容量%以上のフィッシャートロプシュ誘導燃料を含有するのがさらに好ましい。このようなディーゼル燃料に対しては、30〜75容量%のフィッシャートロプシュ誘導燃料を含有するのが特に好ましく、30または70容量%のフィッシャートロプシュ誘導燃料を含有するのが特に好ましい。ディーゼル燃料の残部は、1種以上の他のディーゼル燃料成分で構成される。
【0080】
このようなフィッシャートロプシュ誘導燃料成分は、中間留分燃料範囲の任意のフラクションであり、こうしたフラクションは、フィッシャートロプシュ合成生成物から単離する(必要に応じて水素化分解する)ことができる。代表的なフラクションは、ナフサ範囲、ケロシン範囲、または軽油範囲にて沸騰する。ケロシン範囲または軽油範囲で沸騰するフィッシャートロプシュ生成物を使用するのが好ましい。なぜならこれらの生成物は、例えば国内環境にて取り扱う上でより容易だからである。このような生成物は、160〜400℃(好ましくは約370℃)で沸騰するフラクションを90重量%より多く含むのが適切である。フィッシャートロプシュ誘導ケロシンとフィッシャートロプシュ誘導軽油の例が、欧州特許出願公開第0583836号明細書、国際公開第97/14768号、国際公開第97/14769号、国際公開第00/11116号、国際公開第11117号、国際公開第01/83406号、国際公開第01/83648号、国際公開第01/83647号、国際公開第01/83641号、国際公開第00/20535号、国際公開第00/20534号、欧州特許出願公開第1101813号明細書、米国特許第5766274号明細書、米国特許第5378348号明細書、米国特許第5888376号明細書、および米国特許第6204426号明細書に記載されている。
【0081】
フィッシャートロプシュ生成物は、80重量%より多い(さらに適切には95重量%より多い)イソパラフィンとノルマルパラフィンおよび1重量%未満の芳香族化合物を含有し、残部がナフテン系化合物であるのが適切である。このような化合物の場合、硫黄と窒素の含量は極めて低く、通常は検出限界未満である。したがって、フィッシャートロプシュ生成物を含有するディーゼル燃料組成物の硫黄含量は極めて低いことがある。
【0082】
ディーゼル燃料組成物は、5000ppmw以下の硫黄含有するのが好ましく、500ppmw以下、350ppmw以下、150ppmw以下、100ppmw以下、70ppmw以下、50ppmw以下、30ppmw以下、もしくは20ppmw以下の硫黄を含有するのがさらに好ましく、または15ppmw以下の硫黄を含有するのが最も好ましい。
【0083】
ディーゼルベース燃料は、それ自体に添加剤を加えてもよいし(添加剤含有)、あるいは添加剤を加えなくてもよい(添加剤非含有)。添加剤が加えられる場合(例えば製油所にて)、ディーゼルベース燃料は、例えば、帯電防止剤、パイプラインドラッグレデューサー、流動性向上剤(例えば、エチレン/酢酸ビニルコポリマーやアクリレート/無水マレイン酸コポリマー)、潤滑添加剤、酸化防止剤、およびワックス沈降防止剤から選択される1種以上の添加剤を少量にて含有する。
【0084】
清浄剤を含有するディーゼル燃料添加剤が知られており、市販されている。このような添加剤は、エンジン堆積物の付着を少なくするよう、エンジン堆積物の付着を除去するよう、あるいはエンジン堆積物の付着を遅くするよう意図されたレベルにてディーゼル燃料に加えることができる。
【0085】
本発明の目的に適うディーゼル燃料添加剤に使用するのに適した清浄剤の例としては、ポリアミンのポリオレフィン置換スクシンイミドもしくはスクシンアミド(例えば、ポリイソブチレンスクシンイミド、ポリイソブチレンアミンスクシンアミド)、脂肪族アミン、マンニッヒ塩基もしくはマンニッヒアミン、およびポリオレフィン(例えばポリイソブチレン)無水マレイン酸などがある。スクシンイミド分散剤添加剤は、例えば、英国特許出願公開第960493号明細書、欧州特許出願公開第0147240号明細書、欧州特許出願公開第0482253号明細書、欧州特許出願公開第0613938号明細書、欧州特許出願公開第0557516号明細書、および国際公開第98/42808号に記載されている。特に好ましいのは、ポリイソブチレンスクシンイミド等のポリオレフィン置換スクシンイミドである。
【0086】
ディーゼル燃料添加剤混合物は、清浄剤のほかに他の成分を含有してよい。例としては、潤滑性向上剤;デヘイザー(例えばアルコキシル化フェノールホルムアルデヒドポリマー);消泡剤(例えばポリエーテル変性ポリシロキサン);点火向上剤(セタン価向上剤)〔例えば、硝酸2−エチルヘキシル(EHN)、硝酸シクロヘキシル、ジ−tert−ブチルペルオキシド、および米国特許第4208190号明細書の第2欄27行から第3欄21行に開示の化合物〕;防錆剤〔例えば、テトラプロペニルコハク酸のプロパン−1,2−ジオール半エステル、またはコハク酸誘導体の多価アルコールエステル、ここで該コハク酸誘導体は、そのα−炭素原子の少なくとも1つ上に、20〜500個の炭素原子を含有する置換もしくは未置換の脂肪族炭化水素基を有する(例えば、ポリイソブチレン置換コハク酸のペンタエリスリトールジエステル)〕;腐食抑制剤;付香剤;耐摩耗添加剤;酸化防止剤(例えば、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール等のフェノール系誘導体、またはN,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン);金属不活性化剤;燃料油助燃剤;スタティックディシペーター添加剤(static dissipator additives);コールドフロー改良剤;およびワックス沈降防止剤;などが挙げられる。
【0087】
ディーゼル燃料添加剤混合物は、特に、ディーゼル燃料組成物の硫黄含量が低い(例えば500ppmw以下)場合には、潤滑性向上剤を含有してよい。添加剤含有ディーゼル燃料組成物において、潤滑性向上剤は、1000ppmw未満の濃度にて存在するのが適切であり、50〜1000ppmwの濃度にて存在するのが好ましく、70〜1000ppmwの濃度にて存在するのがさらに好ましい。市販の適切な潤滑性向上剤としては、エステルベースの添加剤と酸ベースの添加剤がある。他の潤滑性向上剤が、例えば下記のような特許文献において、特に低硫黄含量ディーゼル燃料中での使用に関連して説明されている:Dnping WeiとH.A.Spikesによる論文、「”The Lubricity of Diesel Fuels”,Wear,III(1986)217−235」;国際公開第95/33805号−低硫黄燃料の潤滑性を高めるための低温流動性向上剤;国際公開第94/17160号−2〜50個の炭素原子を有する酸と、1個以上の炭素原子を有するアルコールとの特定のエステル(具体的には、グリセロールモノオレエートやジ−イソデシルアジペート)であって、ディーゼルエンジン噴射システムにおいて摩耗減少用の燃料添加剤として使用される;米国特許第5490864号明細書−低硫黄ディーゼル燃料用の耐摩耗潤滑添加剤としての、特定のジチオリン酸ジエステル−ジアルコール;および、国際公開第98/01516号−特に低硫黄ディーゼル燃料において耐摩耗潤滑効果をもたらすための、芳香核に結合したカルボキシル基を少なくとも1つ有する特定のアルキル芳香族化合物。
【0088】
ディーゼル燃料組成物が消泡剤を含有するのも好ましく、防錆剤、及び/又は腐食抑制剤、及び/又は潤滑性向上添加剤と組み合わせるのがさらに好ましい。
特に明記しない限り、添加剤入りディーゼル燃料組成物中のこうした各添加剤成分の(活性物質)濃度は、最大で10000ppmwであるのが好ましく、0.1〜1000ppmwの範囲であるのがさらに好ましく、0.1〜300ppmw(例えば0.1〜150ppmw)の範囲であるのが有利である。
【0089】
ディーゼル燃料組成物中の任意のデヘイザーの(活性物質)濃度は、0.1〜20ppmwの範囲であるのが好ましく、1〜15ppmwの範囲であるのがさらに好ましく、1〜10ppmwの範囲であるのがさらに好ましく、1〜5ppmwの範囲であるのが有利である。任意の点火向上剤の(活性物質)濃度は、2600ppmw以下であるのが好ましく、2000ppmw以下であるのがさらに好ましく、300〜1500ppmwの範囲であるのが適切である。ディーゼル燃料組成物中の任意の清浄剤の(活性物質)濃度は、5〜1500ppmwの範囲であるのが好ましく、10〜750ppmwの範囲であるのがさらに好ましく、20〜500ppmwの範囲であるのが最も好ましい。
【0090】
ディーゼル燃料組成物の場合、例えば、燃料添加剤混合物は通常、清浄剤(必要に応じて、上記した他の成分と共に)、およびディーゼル燃料相溶性希釈剤〔鉱油;例えばシェル社から”SHELLSOL”の商標で市販されている溶剤;またはエステルや、特にアルコール(例えば、ヘキサノール、2−エチルヘキサノール、デカノール、イソトリデカノール、およびアルコール混合物(例えばシェル社から”LINEVOL”の商標で市販されているアルコール混合物(特に、C7−9一級アルコールの混合物であるLINEVOL79)、または市販されているC12−14アルコール混合物)等の極性溶剤〕を含有する。
【0091】
ディーゼル燃料組成物中の添加剤の全含量は、0〜10000ppmwであるのが適切であり、5000ppmw未満であるのが好ましい。
上記において、成分の量(濃度、容量%、ppmw、重量%)は、活性物質の量である(すなわち、揮発性溶剤物質/希釈剤物質を除く)。
【0092】
本発明の液体燃料組成物は、末端アミン基を有する1種以上のポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体と、内燃機関において使用するのに適したベース燃料とを混合することによって得られる。末端アミン基を有する1種以上のポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体と混合するベース燃料がガソリンであれば、得られる液体燃料組成物はガソリン組成物である。同様に、末端アミン基を有する1種以上のポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体と混合するベース燃料がディーゼル燃料であれば、得られる液体燃料組成物はディーゼル燃料組成物である。
【0093】
本発明の液体燃料組成物中に存在する、末端アミン基を有する1種以上のポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体の量は、液体燃料組成物の全重量を基準として少なくとも1ppmw(重量パーツパーミリオン)であるのが好ましい。本発明の液体燃料組成物中に存在する、末端アミン基を有する1種以上のポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体の量はさらに、下記のパラメーター(i)〜(xx)の1つ以上と一致するのがさらに好ましい:(i)10ppmw以上;(ii)20ppmw以上;(iii)30ppmw以上;(iv)40ppmw以上;(v)50ppmw以上;(vi)60ppmw以上;(vii)70ppmw以上;(viii)80ppmw以上;(ix)90ppmw以上;(x)100ppmw以上;(xi)20重量%以下;(xii)18重量%以下;(xiii)16重量%以下;(xiv)14重量%以下;(xv)12重量%以下;(xvi)10重量%以下;(xvii)8重量%以下;(xviii)6重量%以下;(xix)4重量%以下;(xx)2重量%以下。
【0094】
本発明の液体燃料組成物中の、末端アミン基を有する1種以上のポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体の量はさらに、20ppmw以上、50ppmw以上、70ppmw以上、100ppmw以上、150ppmw以上、または200ppmw以上であるのが適切である。該誘導体の量は、100ppmw以下、150ppmw以下、200ppmw以下、300ppmw以下、400ppmw以下、500ppmw以下、あるいはさらに、1000ppmw以下であるのが適切である。該誘導体は、50ppmw〜150ppmw(例えば70ppmw〜120ppmw)の範囲にて存在するのが極めて適切である。
【0095】
末端アミン基を有する1種以上のポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体を液体燃料組成物中に使用すると、液体ベース燃料が供給される内燃機関と比較して、本発明の液体燃料組成物が供給される内燃機関は燃費経済性が向上するというメリットがもたらされる(特に、本発明の液体燃料組成物がガソリン組成物である場合)ことがある、ということが見出された。
【0096】
したがって本発明は、末端アミン基を有する1種以上のポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体と、内燃機関において使用するのに適した液体ベース燃料の過半量とを混合することを含む、内燃機関において使用するのに適した液体ベース燃料の燃費性能を向上させる方法を提供する。
【0097】
さらに、末端アミン基を有する1種以上のポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体を液体燃料組成物中に使用すると、驚くべきことに、液体ベース燃料が供給される内燃機関と比較して、本発明の液体燃料組成物が供給される内燃機関の潤滑性能が向上するというメリットがもたらされることがある。
【0098】
特に、本発明の液体燃料組成物が供給される内燃機関の潤滑性能の向上は、特定のエンジン部品上へのスラッジやワニス(例えば、ロッカーアームカバー、カムバッフル、タイミングチェーンカバー、オイルパン、オイルパンバッフル、およびバルブデッキ上のスラッジ、ならびにピストンスカートやカムバッフル上のワニス)の堆積量が減少することで観察することができる。
【0099】
特に、末端アミン基を有する1種以上のポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体をガソリン組成物中に使用すると、ガソリンベース燃料が供給される内燃機関と比較して、本発明のガソリン組成物が供給される内燃機関の、特定のスラッジ堆積物やワニス堆積物の形成が抑制される(ASTM D6593−07に従って測定)というメリットがもたらされることがある。
【0100】
したがって本発明はさらに、エンジン潤滑油を含有する内燃機関に本発明の液体燃料組成物を供給することを含む、内燃機関の潤滑油の性能を向上させる方法を提供する。
さらに、末端アミン基を有する1種以上のポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体を液体燃料組成物中に使用すると、液体燃料組成物の潤滑性向上に関して相当のメリットが得られることがある(特に、液体燃料組成物が、液体ベース燃料ではなくガソリンである場合)、ということが観察されている。
【0101】
本明細書で使用される”改良された潤滑性(improved lubricity)”、”潤滑性を向上させること(improving lubricity)”とは、高周波往復リグ(HFRR)を使用して得られる摩耗傷あと(wear scar)が減少する、ということを意味している。
【0102】
さらに、末端アミン基を有する1種以上のポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体を液体燃料組成物中に使用すると、液体ベース燃料が供給される内燃機関と比較して、本発明の液体燃料組成物が供給される内燃機関のエンジン清浄度に関して、特に、吸気弁堆積物キープクリーン性能及び/又はインジェクタノズルキープクリーン性能に関してメリットが得られるということが観察されている。
【0103】
”改良された吸気弁堆積物キープクリーン性能”、”吸気弁堆積物キープクリーン性能を向上させること”とは、エンジンの吸気弁上に形成される堆積物の重量が、末端アミン基を有する1種以上のポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体を含有しないベース燃料と比較して減少する、ということを意味している。
【0104】
”改良されたインジェクタノズルキープクリーン性能”、”インジェクタノズルキープクリーン性能を向上させること”とは、エンジンのインジェクタノズル上に形成される堆積物の量が減少する(エンジントルクの低下によってわかるように)、ということを意味している。
【0105】
上記の末端アミン基を有するポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体はさらに、潤滑組成物において、特に自動車エンジン潤滑油組成物において適切に使用することもできる。国際公開第2007/128740号(該公報を参照により本明細書に含める)は、上記した末端アミン基を有するポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体を加えることができる、適切な潤滑基油と潤滑添加剤を開示している。
【0106】
したがって本発明はさらに、基油と、上記の末端アミン基を有するポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体とを含む潤滑組成物を提供する。
一般には、末端アミン基を有するポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体は、本発明の潤滑組成物中に、潤滑組成物の総重量を基準として0.1〜10.0重量%の範囲の量にて、さらに好ましくは0.1〜5.0重量%の範囲の量にて存在する。特に好ましい実施態様によれば、本発明の組成物は、末端アミン基を有するポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体を、潤滑組成物の総重量を基準として5.0重量%未満、好ましくは2.0重量%未満含む。
【0107】
一般に潤滑組成物は、リン含量(ASTM D5185による)が比較的低い(例えば0.12重量%未満)。本発明の組成物は、0.08重量%未満のリン含量を有するのが好ましい。本発明の組成物は、0.06重量%より高いリン含量を有するのが好ましい。
【0108】
本発明の組成物はさらに、硫黄含量(ASTM D5185による)が0.6重量%未満であるのが好ましい。
本発明の組成物はさらに、塩素含量(ASTM D808による)が200ppm未満であるのが好ましい。
【0109】
特に好ましい実施態様によれば、本発明の組成物は、灰分含量(ASTM D874による)が2.0重量%未満である。
本発明の特に好ましい実施態様によれば、本発明の組成物はジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDDP)化合物を含む。ZDDP化合物は、一般には0.01〜1.5重量%の量にて存在し、好ましくは0.4〜1.0重量%の量にて存在する。ZDDP化合物は、一級アルコール、二級アルコール、三級アルコール、またはこれらの混合物から製造することができ、12個未満の炭素原子を含有するのが好ましい。ZDDP化合物は、3〜8個の炭素原子を含有する二級アルコールから製造されるのが好ましい。
【0110】
潤滑組成物中に使用される基油に関して特定の制限はなく、従来の種々の鉱油、合成油、および天然由来のエステル(例えば植物油)を適切に使用することができる。
使用される基油は、1種以上の鉱油及び/又は1種以上の合成油、の混合物を適切に含んでよく、したがって”基油”という用語は、1種以上の基油を含有する混合物を表わすことがある。鉱油は、パラフィン系、ナフテン系、またはパラフィン/ナフテン混合系の流動石油および溶媒処理もしくは酸処理した鉱油系潤滑油を含み、これらの流動石油と鉱油系潤滑油は、水素化仕上げプロセス及び/又は脱蝋によってさらに精製することができる。
【0111】
潤滑油組成物において使用するための適切な基油は、グループI〜IIIの鉱油系基油、グループIVのポリ−αオレフィン(PAO)、グループII〜IIIのフィッシャートロプシュ誘導基油、およびこれらの混合物である。
【0112】
”グループI”、”グループII”、”グループIII”、および”グループIV”の基油とは、米国石油協会(API)の定義に従ったカテゴリーI〜IVに対する潤滑油基油を意味している。これらのAPIカテゴリーは、”APIパブリケーション1509、第16版、アペンディックスE、2007年4月”に定義されている。
【0113】
フィッシャートロプシュ誘導基油は当業界に公知である。”フィッシャートロプシュ誘導”とは、基油が、フィッシャートロプシュ法の合成生成物であるか、あるいはフィッシャートロプシュ法の合成生成物から誘導される、ということを意味している。フィッシャートロプシュ誘導基油は、GTL(Gas−To−Liquids)基油と呼ばれることもある。潤滑組成物中に基油として都合よく使用できる適切なフィッシャートロプシュ誘導基油は、例えば、欧州特許出願公開第0776959号明細書、欧州特許出願公開第0668342号明細書、国際公開第97/21788号、国際公開第00/15736号、国際公開第00/14188号、国際公開第00/14187号、国際公開第00/14183号、国際公開第00/14179号、国際公開第00/08115号、国際公開第99/41332号、欧州特許出願公開第1029029号明細書、国際公開第01/18156号、および国際公開第01/57166号に開示のフィッシャートロプシュ誘導基油である。
【0114】
合成油は、オレフィンオリゴマー〔ポリ−αオレフィン基油(PAO)を含む〕、二塩基酸エステル、ポリオールエステル、ポリアルキレングリコール(PAG)、アルキルナフタレン、および脱蝋された蝋様アイソメレート(dewaxed waxy isomerates)等の炭化水素油を含む。シェルグループから”シェルXHVI”(商標)の品名で市販されている合成炭化水素基油を適切に使用することができる。
【0115】
ポリ−αオレフィン基油(PAO)とそれらの製造法は当業界によく知られている。潤滑組成物中に使用することができる好ましいポリ−αオレフィン基油は、C〜C32(好ましくはC〜C16)の直鎖状αオレフィンから誘導することができる。該ポリ−αオレフィンを得るための特に好ましい供給原料は、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、および1−テトラデセンである。
【0116】
潤滑組成物中に組み込まれる基油の総量は、潤滑組成物の総量を基準として60〜99重量%の範囲の量にて存在するのが好ましく、65〜98重量%の範囲の量にて存在するのがさらに好ましく、70〜95重量%の範囲の量にて存在するのが最も好ましい。
【0117】
最終仕上げの潤滑組成物は、100℃にて2〜80mm/秒の範囲の動粘度を有するのが好ましく、3〜70mm/秒の範囲の動粘度を有するのがさらに好ましく、4〜50mm/秒の範囲の動粘度を有するのが最も好ましい。
【0118】
潤滑組成物はさらに、耐摩耗添加剤、酸化防止剤、分散剤、清浄剤、フリクションモディファイヤー、粘度指数向上剤、流動点降下剤、腐食抑制剤、消泡剤、およびシールフィックス剤(seal fix agent)もしくはシールコンパティビリティ剤(seal compatibility agent)等の追加の添加剤を含んでよい。
【0119】
当業者は、上記の添加剤および他の添加剤については熟知しているので、ここではこれらにさらに詳細には説明しない。このような添加剤の特具体例が、例えば、”Kirk−Othmer Encyclopedia of Chemical Technology,第3版,第14巻,477〜526ページ”に記載されている。
【0120】
清浄剤が存在する場合、フェノラートタイプ清浄剤およびスルホナートタイプ清浄剤から選択するのが好ましい。
潤滑組成物は、上記の末端アミン基を有するポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体、および必要に応じて、潤滑組成物中に通常存在する任意のさらなる添加剤(例えば、本明細書にて前記したような添加剤)と、鉱油系基油及び/又は合成基油とを混合することによって適切に製造することができる。
【0121】
上記の末端アミン基を有するポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体を潤滑組成物中に使用すると、潤滑組成物の潤滑性が向上するというメリットがもたらされることがある。
さらに、上記の末端アミン基を有するポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体を潤滑組成物中に使用すると、特定のスラッジ堆積物やワニス堆積物の形成が抑制される(ASTM D 6593−07に従って測定)というメリットがもたらされることがある。
【0122】
さらに、上記の末端アミン基を有するポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体を潤滑組成物中に使用すると、該潤滑組成物によって潤滑される内燃機関の燃料経済性が向上するというメリットがもたらされることがある。
【0123】
本発明は、下記の実施例を考察することでより理解が深まるであろう。特に明記しない限り、実施例中に開示の量と濃度はすべて、完全な形で配合された燃料組成物の重量を基準としている。
【実施例】
【0124】
下記の実施例においては、市販の超分散剤であるCH−6〔Shanghai Sanzheng Polymer Material社(中国)から市販〕を使用した。CH−6超分散剤は、0.001重量%未満の実測硫黄含量、6.76重量%の実測窒素含量、および図1に示すタイプの一般的な化学構造を有する。
【0125】
【化2】

【0126】
CH−6の実測TAN値は、ASTM D974に従った測定によると5.5mgKOH/gであった。実測TBN値は、ASTM D4739に従った測定によると202.9mgKOH/gであった。
【0127】
エンジン潤滑油の性能
本発明の、そしてCH−6ポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体を含有する液体燃料組成物を使用して燃料供給されるエンジンのクランク室潤滑油の性能を、シーケンスVG試験(ASTM D 6593−07)を使用して、CH−6超分散剤を含有しないベース燃料を使用する場合との比較にて評価した。
【0128】
使用したベース燃料はASTM VGのベース燃料であり、使用した潤滑油はSL/CFグレードの潤滑油であった。
シーケンスVG試験の結果を下記の表1に示す。試験結果中に使用されている”メリット”等級は0〜10のスケールであり、ここで10は、成分がフレッシュであるときの成分状態の等級を表わしており、”メリット”等級におけるシングルナンバーの増大(a single number increase)は、スラッジやワニスが半分程度減少するということを表わしている。したがって等級が10に近づくほど、性能がより良好となる。
【0129】
【表1】

【0130】
表1に示す結果から明らかなように、ポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体をガソリン組成物中に使用すると、スラッジ堆積物やワニス堆積物の形成が抑制されることから潤滑油の性能が大幅に向上する。
【0131】
ガソリン組成物における燃料経済性のメリット
4種の異なる車両〔2009年型シボレーマリブ(2.4リットル)、2010年型マツダ3(2.0リットル)、2008年型クライスラータウンアンドカントリー(3.3リットル)、および2009年型ダッジチャレンジャー(3.5リットル)〕を使用して、ベース燃料とテスト燃料との間の燃料経済性の差異を評価した。
【0132】
ベース燃料は、エタノール非含有の無鉛プレミアムガソリンであり、91の走行オクタン価、15.56℃にて0.7186の比重、および85.26%m/mの炭素と14.74%m/mの水素を有する。使用したテスト燃料は、最終組成物の総重量を基準として400ppmwのCH−6とベースガソリンとをブレンドすることによって調製した。
【0133】
これらの車両を、シャーシダイナモメータにより標準的な手順を使用して試験した。各試験の開始時に潤滑油を変えた。ベース燃料とテスト燃料の両方に対し、少なくとも3回の標準的な米国EPA HWFET(ハイウェイ燃費テスト)サイクル〔持続時間:765秒、総距離:10.26マイル(16.5km)、平均速度:48.3mph(77.7km/時)〕を実施した。
【0134】
試験した4種の車両について、テスト燃料の総合的な平均燃費のメリットもしくは向上は、ベース燃料を基準として0.76%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の潤滑油の性能を向上させる方法であって、
内燃機関において使用するのに適したベース燃料;および式(III)
[Y−CO[O−A−CO]−Z−X (III)
〔式中、Yは水素または置換されていてもよいヒドロカルビル基であり;Aは置換されていてもよい二価のヒドロカルビル基であり;nは1〜100であり;mは1または2であり;Zは置換されていてもよい二価の架橋基であり;pは0〜10であり;Xは末端アミン基、または末端アミン基を有する基であり;ここで末端アミン基は−NR(式中、Rは水素およびC−Cヒドロカルビル基から独立して選択される)から選択される〕で示される末端アミン基を有する1種以上のポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体;を含む液体燃料組成物をエンジン潤滑油を含有する内燃機関に供給することを含む、前記方法。
【請求項2】
液体燃料組成物中に存在する、末端アミン基を有する1種以上のポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体の量が、液体燃料組成物の総重量を基準として1ppmw以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
液体燃料組成物中に存在する、末端アミン基を有する1種以上のポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体の量が、液体燃料組成物の総重量を基準として10ppmw〜20重量%の範囲である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
Xが式−Z−Xの基であり、Zが二官能性の連結化合物であり、Xが−NRから選択される末端アミン基であり、Rが水素およびC−Cヒドロカルビル基から選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
がポリアミン、ポリオール、ヒドロキシルアミン、またはZ基から選択される二官能性の連結化合物である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
が水素およびC−Cアルキル基から独立して選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
Xが式−NHの基である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ベース燃料がガソリンである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ベース燃料がディーゼル燃料である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
内燃機関の潤滑油の性能を向上させるための、請求項1に記載の液体燃料組成物の使用。
【請求項11】
潤滑組成物であって、
基油;および式(III)
[Y−CO[O−A−CO]−Z−X (III)
〔式中、Yは水素または置換されていてもよいヒドロカルビル基であり;Aは置換されていてもよい二価のヒドロカルビル基であり;nは1〜100であり;mは1または2であり;Zは置換されていてもよい二価の架橋基であり;pは0〜10であり;Xは末端アミン基、または末端アミン基を有する基であり;ここで末端アミン基は−NR(式中、Rは水素およびC−Cヒドロカルビル基から独立して選択される)から選択される〕で示される末端アミン基を有する1種以上のポリ(ヒドロキシカルボン酸)誘導体;を含む、前記組成物。

【公表番号】特表2013−515828(P2013−515828A)
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−546428(P2012−546428)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【国際出願番号】PCT/EP2010/070762
【国際公開番号】WO2011/080250
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(390023685)シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ (411)
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
【Fターム(参考)】