説明

液体燃料脱硫装置および燃料電池発電システム

【課題】脱硫済かつ可燃性ガスの混入が抑制された液体燃料を供給する。
【解決手段】温度T4の液体燃料を貯える定量Vnom、容積Vmaxの1次液体燃料タンク6と、脱硫剤の充填率αで充填されて運転時には脱硫器運転温度T1以上となる容積Vdの脱硫器4と、1次液体燃料タンク6中の液体燃料を脱硫器4に送出し降温時にはT1より低いポンプ運転停止温度T3以下になると運転を停止される送液昇圧ポンプ7と、主燃料気液分離器81およびバイパス燃料気液分離器82を備えた気液分離装置11と、バイパス燃料気液分離器82の液相から1次液体燃料タンク6に延びる液体燃料リサイクル配管45とを備えた液体燃料脱硫装置に、温度T1,T3,T4での液体燃料密度をρ1,ρ3,ρ4としたときに、Vmax≧Vnom+Vd×(1−α)×(ρ3−ρ1)÷ρ4を満足させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体燃料脱硫装置およびそれを用いた燃料電池発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池発電システムは、燃料処理装置で生成した水素を、燃料電池本体において直接電気エネルギーに変換するシステムである。このシステムは化学反応による発電であるために発電効率が高く、汚染物質の排出および騒音が少なく、環境性に優れた発電装置として評価されている。
【0003】
このような燃料電池発電システム、特に家庭でのコジェネレーション発電を目指した1kW級燃料電池発電システムでは、運搬や貯蔵に適した液体燃料を用いることが検討されている。このような液体燃料としては、灯油など石油系液体燃料などがある。
【0004】
石油系液体燃料には、多くの場合、有機硫黄化合物が含まれている。これら有機硫黄化合物は、燃料処理装置で使用される触媒の多くを被毒し、水素生成を阻害する特性を有している。したがって、液体燃料を燃料処理装置に供給する前に、液体燃料に含有する有機硫黄化合物を低減させる、すなわち脱硫することが必要である。たとえば特許文献1ないし特許文献3には、液体燃料を脱硫処理するシステムの例が開示されている。
【0005】
脱硫器の性能を確保するためには、高温高圧に保つ必要がある。しかし、脱硫反応の副生成物である可燃性ガスが発生するため、この発生ガスも適切に処理する必要がある。
【0006】
特許文献1には、脱硫器により有機硫黄化合物の含有量が低減された液体燃料(脱硫済み液体燃料)を一時的に蓄えるために、脱硫器の下流に配置された脱硫液体燃料タンクが配置された脱硫システムが開示されている。このシステムは、脱硫液体燃料タンクから可燃性ガスを抽出し改質装置のバーナに排出することができる。なお、このシステムには、脱硫液体燃料タンク内での可燃性ガスと空気の混入状態を防止するため、排出ラインに遮断弁や逆止弁などが必要となる。
【0007】
特許文献2には、燃料電池発電システムの起動時などにおいて、脱硫器が所定の温度以下の場合には、脱硫液体燃料を脱硫器上流に設置された液体燃料タンクに戻す方法が開示されている。この方法では、未脱硫の液体燃料が、改質装置に流入することを抑制できる。特許文献3には、脱硫器で発生する可燃性ガスを、バイパス弁を通じて内部燃料タンクに戻すシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−70502号公報
【特許文献2】特開2004−51864号公報
【特許文献3】特開2008−63448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載されたシステムは、遮断弁が閉じている状態での脱硫液体燃料タンク内に蓄えられた脱硫液体燃料の液面レベルの変化、または、遮断弁が開いている状態での改質装置のバーナ圧力変化などによって、脱硫液体燃料タンクの内圧が変化する場合がある。このため、たとえば脱硫液体燃料タンクから、ポンプなどを駆動力として、脱硫液体燃料タンク下流に設置された改質装置に脱硫液体燃料を供給する場合には、ポンプ入口の圧力が変化する。その結果、ポンプ出力と供給される脱硫液体燃料流量との相関関係が、予め実験などで求めた関係からずれてしまう可能性がある。
【0010】
そこで、ポンプ回転数から想定される液体燃料流量とのずれが生じた場合はポンプ回転数を補正する必要がある。改質装置に供給される脱硫液体燃料流量は、ポンプ下流に流量計などを配置して計測する必要がある。
【0011】
たとえば、1kW級の燃料電池発電システムにおいて、脱硫液体燃料流量は、5.8×10−8/s(3.5cc/min)程度である。この脱硫液体燃料流量は、高精度に流量を計測する必要がある。よって、高価な流量計が必要となり、コストアップに繋がる。
【0012】
特許文献2に記載された方法では、液体燃料、液体燃料に含まれる可燃性ガス、および空気が混合した状態で、液体燃料タンクに戻される。このため、安全上の問題がある。
【0013】
特許文献3に記載されたシステムでは、内圧が大気圧相当の外部燃料タンクから液体燃料が内部燃料タンクに供給される。このため、内部燃料タンクの内圧を大気圧よりも高く加圧できない。したがって、可燃性ガスを改質器のバーナに送って燃焼させる運用は、困難である。また、可燃性ガスを雰囲気中に放出するため、安全上の問題がある。
【0014】
そこで、本発明は、脱硫済かつ可燃性ガスの混入が抑制された液体燃料を供給できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述の目的を達成するため、本発明は、液体燃料脱硫装置において、外部から送液される液体燃料を貯蔵する1次液体燃料タンクと、前記1次液体燃料タンクに貯蔵された液体燃料の貯蔵量が1次液体燃料タンク定量Vnomに達すると外部からの送液を停止する1次燃料タンク液面制御手段と、液体燃料中の硫黄化合物の含有量を低減させる脱硫剤が充填された脱硫器と、前記脱硫器を加熱する加熱器と、前記1次燃料タンクから前記脱硫器に液体燃料を送出する送液昇圧ポンプと、並列に設けられてそれぞれ前記脱硫器で脱硫された液体燃料を供給されてその液体燃料から気体を分離する主気液分離部およびバイパス燃料気液分離部を備えて、前記主気液分離部の液相が所定の体積を超えると前記バイパス燃料気液分離部の液相に流れ込むように形成された気液分離器と、前記主気液分離部でガスが分離された液体燃料を貯蔵し、気相が大気と連通した2次液体燃料タンクと、前記主気液分離部の気相および前記バイパス燃料気液分離部の気相と連通する気抜き配管と、前記バイパス燃料気液分離部の液相から前記1次燃料タンクに延びる液体燃料リサイクル配管と、前記バイパス燃料気液分離部の液面の高さが所定の高さ以上になるように制御するバイパス燃料気液分離部液面制御手段と、前記脱硫器の運転時に前記加熱器に前記脱硫器を脱硫器運転温度T1以上に加熱させ、前記脱硫器の降温時に前記脱硫器の温度が前記脱硫器運転温度T1より低いポンプ運転停止温度T3以下になったときに前記送液昇圧ポンプの運転を停止させる制御器と、を有し、前記1次液体燃料タンクの容積Vmaxが、前記脱硫器の容積をVd、前記脱硫器中の前記脱硫剤の充填率をα、前記脱硫器運転温度T1での液体燃料密度をρ1、前記ポンプ運転停止温度T3での液体燃料密度をρ3、前記1次燃料タンク中の液体燃料の温度T4での液体燃料の密度をρ4としたときに、Vmax≧Vnom+Vd×(1−α)×(ρ3−ρ1)÷ρ4を満足することを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、燃料電池発電システムにおいて、外部から送液される液体燃料を貯蔵する1次液体燃料タンクと、前記1次液体燃料タンクに貯蔵された液体燃料の貯蔵量が1次液体燃料タンク定量Vnomに達すると外部からの送液を停止する1次燃料タンク液面制御手段と、液体燃料中の硫黄化合物の含有量を低減させる脱硫剤が充填された脱硫器と、前記脱硫器を加熱する加熱器と、前記1次燃料タンクから前記脱硫器に液体燃料を送出する送液昇圧ポンプと、並列に設けられてそれぞれ前記脱硫器で脱硫された液体燃料を供給されてその液体燃料から気体を分離する主気液分離部およびバイパス燃料気液分離部を備えて、前記主気液分離部の液相が所定の体積を超えると前記バイパス燃料気液分離部の液相に流れ込むように形成された気液分離器と、前記主気液分離部でガスが分離された液体燃料を貯蔵し、気相が大気と連通した2次液体燃料タンクと、前記主気液分離部の気相および前記バイパス燃料気液分離部の気相と連通する気抜き配管と、前記バイパス燃料気液分離部の液相から前記1次燃料タンクに延びる液体燃料リサイクル配管と、前記バイパス燃料気液分離部の液面の高さが所定の高さ以上になるように制御するバイパス燃料気液分離部液面制御手段と、前記脱硫器の運転時に前記加熱器に前記脱硫器を脱硫器運転温度T1以上に加熱させ、前記脱硫器の降温時に前記脱硫器の温度が前記脱硫器運転温度T1より低いポンプ運転停止温度T3以下になったときに前記送液昇圧ポンプの運転を停止させる制御器と、前記2次液体燃料タンクに貯蔵された液体燃料を供給されて水素を含む改質ガスを生成させる改質装置と、前記改質装置から改質ガスを供給されて発電する燃料電池本体と、を有し、前記1次液体燃料タンクの容積Vmaxが、前記脱硫器の容積をVd、前記脱硫器中の前記脱硫剤の充填率をα、前記脱硫器運転温度T1での液体燃料密度をρ1、前記ポンプ運転停止温度T3での液体燃料密度をρ3、前記1次燃料タンク中の液体燃料の温度T4での液体燃料の密度をρ4としたときに、Vmax≧Vnom+Vd×(1−α)×(ρ3−ρ1)÷ρ4を満足することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、脱硫済かつ可燃性ガスの混入が抑制された液体燃料を供給できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る液体燃料脱硫装置の第1の実施の形態を用いた燃料電池発電システムの系統図である。
【図2】本発明に係る液体燃料脱硫装置の第1の実施の形態における燃料電池発電システムの起動時の燃料遮断弁および燃料バイパス弁の開閉動作を示すフロー図である。
【図3】本発明に係る液体燃料脱硫装置の第1の実施の形態における燃料電池発電システムの停止時の燃料遮断弁および燃料バイパス弁の開閉動作を示すフロー図である。
【図4】本発明に係る液体燃料脱硫装置の第2の実施の形態を用いた燃料電池発電システムの系統図である。
【図5】本発明に係る液体燃料脱硫装置の第2の実施の形態を用いた燃料電池発電システムから気抜き配管逆止弁を除去したシステムで液体燃料リサイクル遮断弁の開指令と同時に気抜き配管遮断弁の開指令とを同時に発生させた場合のバーナ燃焼部の温度の変化の測定例を示すグラフである。
【図6】本発明に係る液体燃料脱硫装置の第2の実施の形態を用いた燃料電池発電システムで液体燃料リサイクル遮断弁の開指令と同時に気抜き配管遮断弁の開指令とを同時に発生させた場合のバーナ燃焼部の温度の変化の測定例を示すグラフである。
【図7】本発明に係る液体燃料脱硫装置の第2の実施の形態を用いた燃料電池発電システムにおいて、液体燃料リサイクル遮断弁が開いた時の排液量を模式的に示す図であって、(a)は液体燃料リサイクル遮断弁が開く前の状態、(b)は(a)は液体燃料リサイクル遮断弁が開いた後の状態を示す。
【図8】本発明に係る液体燃料脱硫装置の第2の実施の形態を用いた燃料電池発電システムで液体燃料リサイクル遮断弁の開指令と同時に気抜き配管遮断弁の開指令とを同時に発生させた場合の液体燃料気液分離器の気相の圧力変化の測定例を示すグラフである。
【図9】本発明に係る液体燃料脱硫装置の第3の実施の形態を用いた燃料電池発電システムの系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る液体燃料脱硫装置の実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、同一または類似の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0020】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明に係る液体燃料脱硫装置の第1の実施の形態を用いた燃料電池発電システムの系統図である。
【0021】
この燃料電池発電システムは、燃料電池パッケージ1と液体燃料タンク5とを有している。液体燃料タンク5は、燃料電池パッケージ1の外部に配置されていて、液体燃料を燃料電池パッケージ1に供給する。
【0022】
燃料電池パッケージ1は、1次液体燃料タンク6、脱硫器4、気液分離装置11、2次液体燃料タンク9、改質装置3、燃料電池本体2および制御装置99を有している。1次液体燃料タンク6には、外部の液体燃料タンク5の液相から液体燃料を供給する配管が延びている。この配管の途中には、自力式液面調節弁40が設けられている。この自力式液面調節弁40は、1次液体燃料タンク6の内部に貯えられた液体の液面に浮かぶ浮子41を備えていて、この浮子41が所定の高さ以上のときに閉じ、その高さ未満のときには開くようになっている。このように自力式液面調節弁40の開閉で調整される液体燃料量を、1次燃料タンク6の定量Vnomと呼ぶこととする。また、定量Vnomを超えて1次液体燃料タンク6に貯蔵可能な液体燃料の体積を1次液体燃料タンク6の容積Vmaxと呼ぶこととする。
【0023】
1次燃料タンク6の液相と脱硫器4との間には、配管が延びている。1次液体燃料タンク6の液相と脱硫器4との間の配管の途中には送液昇圧ポンプ7が設けられている。送液昇圧ポンプ7は、1次液体燃料タンク6内の液体燃料を所定の圧力に昇圧して、脱硫器4に送出する。
【0024】
脱硫器4の内部には、液体燃料を脱硫する触媒が充填されている。脱硫器4には、脱硫器4を加熱する脱硫器加熱器8が取り付けられている。脱硫器加熱器8は、脱硫器4の内部の温度を脱硫処理に必要な、たとえば約150℃〜300℃の温度まで上昇させることができる。この脱硫器加熱器8には、たとえば電気ヒータなどを用いることができる。脱硫器加熱器8として、改質装置3のバーナ燃焼部34の排気ガスや水蒸気などと熱交換させて加熱する手段を用いることもできる。
【0025】
脱硫器4の側壁には、温度計70が取り付けられている。温度計70は、測定した温度信号を制御装置99に伝達する。所定の温度に昇温された脱硫器4に供給された液体燃料は、脱硫され、液体燃料に含まれる硫黄化合物の含有量は低減する。
【0026】
気液分離装置11には、脱硫器4から配管が延びている。また、気液分離装置11は、主燃料気液分離器81とバイパス燃料気液分離器82とを備えている。送液昇圧ポンプ7の運転時には、脱硫器4の内部の液体燃料は、気液分離装置11に送出される。
【0027】
脱硫器4から気液分離装置11に延びる配管は、途中で分岐して、主燃料気液分離器81およびバイパス燃料気液分離器82のそれぞれに接続されている。脱硫器4から気液分離装置11に延びる配管の分岐する前の部分には、圧力調整弁19が設けられている。脱硫器4から気液分離装置11に延びる配管の分岐部と主燃料気液分離器81との間には、燃料遮断弁51が設けられている。脱硫器4から気液分離装置11に延びる配管の分岐部とバイパス燃料気液分離器82との間には、燃料バイパス弁52が設けられている。
【0028】
脱硫器4から送出された液体燃料は、脱硫反応が生じている場合には脱硫反応の副生成物である可燃性ガスを含んだ状態で、主燃料気液分離器81またはバイパス燃料気液分離器82に供給される。脱硫器4から延びる配管を介して供給された液体燃料は、主燃料気液分離器81またはバイパス燃料気液分離器82で気液分離される。
【0029】
主燃料気液分離器81またはバイパス燃料気液分離器82で分離された気体は、主燃料気液分離器81またはバイパス燃料気液分離器82の上部の気相に移行する。主燃料気液分離器81またはバイパス燃料気液分離器82で分離された液体は、主燃料気液分離器81またはバイパス燃料気液分離器82の下部に液相を形成する。脱硫器4から延びて主燃料気液分離器81およびバイパス燃料気液分離器82に接続された配管は、たとえばそれぞれ下方から液相部を通過して、液面よりも上方で開口している。
【0030】
主燃料気液分離器81とバイパス燃料気液分離器82との間には、オーバーフロー配管24が延びている。オーバーフロー配管24は、所定の量を超えた主燃料気液分離器81内の液体燃料が、主燃料気液分離器81からバイパス燃料気液分離器82に向かって流れ込むように設けられている。
【0031】
主燃料気液分離器81に貯えられた液体燃料が所定の量を超えると、所定の量を超える分の液体燃料は、オーバーフロー配管24を介してバイパス燃料気液分離器82に流れ込む。すなわち、主燃料気液分離器81の液位は、バイパス燃料気液分離器82の液位よりも常に高くなるように調整されている。
【0032】
なお、図1において、オーバーフロー配管24は、水平に延びるように図示されているが、傾きを有してもよい。オーバーフロー配管24は、主燃料気液分離器81からバイパス燃料気液分離器82に向かう方向に液体燃料が流通可能に設けられている。よって、主燃料気液分離器81側が高くなるように配置されていることが望ましい。
【0033】
しかし、主燃料気液分離器81の液位が、バイパス燃料気液分離器82およびオーバーフロー配管24の接続部よりも高ければ、オーバーフロー配管24内を流通することは可能である。よって、バイパス燃料気液分離器82側が高くなるように配置することもできる。
【0034】
バイパス燃料気液分離器82の液相から1次液体燃料タンク6には、液体燃料リサイクル配管45が延びている。液体燃料リサイクル配管45の途中には、出口用自力式液面調節弁44が設けられている。出口用自力式液面調節弁44は、バイパス燃料気液分離器82の内部に貯えられた液体の液面に浮かぶ浮子41を備えていて、この浮子41が所定の高さ以上のときに開き、その高さ未満のときには閉まるようになっている。
【0035】
バイパス燃料気液分離器82に貯えられた液体燃料が所定の量を超えると、液面に浮かぶ浮子41が上昇して出口用自力式液面調節弁44が開く。これにより、所定の量を超える分の液体燃料は、バイパス燃料気液分離器82から液体燃料リサイクル配管を通じて1次液体燃料タンク6に流れ込む。
【0036】
このような出口用自力式液面調節弁44を用いた場合、バイパス燃料気液分離器82には、自力式液面調節弁40を備えた1次液体燃料タンク6のように液体燃料を多量に溜める必要はない。ガストラップのように浮子周囲にのみ液体があれば作動する弁を採用してもよい。バイパス燃料気液分離器82を、1次液体燃料タンク6に類似したタンク構造としてもよい。
【0037】
主燃料気液分離器81の液相から2次液体燃料タンク9には改質燃料供給配管14が延びている。改質燃料供給配管14の途中には自力式液面調節弁43が設けられている。この自力式液面調節弁43は、2次液体燃料タンク9の内部に貯えられた液体の液面に浮かぶ浮子41を備えていて、この浮子41が所定の高さ以上のときに閉じ、その高さ未満のときには開くようになっている。
【0038】
2次液体燃料タンク9に貯えられた液体燃料が所定の量を下回ると、液面に浮かぶ浮子41が下降して、主燃料気液分離器81と2次液体燃料タンク9との間に設けられた自力式液面調節弁43が開く。これにより、液体燃料が主燃料気液分離器81から2次液体燃料タンク9に流れ込み、2次液体燃料タンク9に貯えられる液体燃料の量は、一定に維持される。
【0039】
2次液体燃料タンク9の貯蔵量は、2次液体燃料タンク9に液面センサを設けて、電気的な制御手段を介して2次液体燃料タンク9の入口側に配置された弁を開閉するように制御してもよい。この場合、2次液体燃料タンク9内部の液体燃料が所定量以下となったときに主燃料気液分離器81から液体燃料を供給し、所定量以上となったときに供給が停止するように構成されていればよい。
【0040】
2次液体燃料タンク9の気相は、大気に開放されている。このため、2次液体燃料タンク9内は、常に大気圧に保たれている。
【0041】
改質装置3は、改質器本体31、一酸化炭素変成器32、一酸化炭素除去器33およびバーナ燃焼部34を有している。改質器本体31、一酸化炭素変成器32、一酸化炭素除去器33およびバーナ燃焼部34には、それぞれ触媒が充填されている。
【0042】
2次液体燃料タンク9から改質器本体31には配管が延びていて、この配管の途中には改質燃料供給ポンプ10が設けられている。2次液体燃料タンク9に貯えられた液体燃料は、改質燃料供給ポンプ10によって改質装置3の改質器本体31に送出される。
【0043】
2次液体燃料タンク9に流入する液体燃料の量は、改質燃料供給ポンプ10の送液量によって調整されるので、脱硫器4の出口の液体燃料の量とは関係なく決められている。送液昇圧ポンプ7を流通して脱硫器4に送られる液体燃料の送液量は、改質燃料供給ポンプ10による送液量よりも多くなるように設定しておく。これにより、2次液体燃料タンク9の燃料欠乏を回避できる。
【0044】
また、主燃料気液分離器81に供給される液体燃料は、ある程度過剰供給となるように制御しておく。これにより、余剰となった液体燃料は、オーバーフロー配管24を流通して、バイパス燃料気液分離器82へ供給される。
【0045】
バーナ燃焼部34には、気抜き配管12が延びている。気抜き配管12の途中には、気抜き配管逆止弁13が設けられている。気抜き配管12のバーナ燃焼部とは反対側の端部は、改質燃料気抜き配管71およびバイパス燃料気抜き配管72が接続されている。改質燃料気抜き配管71は、主燃料気液分離器81の気相に接続されている。バイパス燃料気抜き配管72は、バイパス燃料気液分離器82の気相に接続されている。
【0046】
主燃料気液分離器81またはバイパス燃料気液分離器82の上部に溜まった可燃性ガスは、気抜き配管12を介してバーナ燃焼部34へ流通する。気抜き配管12には、気抜き配管逆止弁13が配置されているため、バーナ燃焼部34から主燃料気液分離器81およびバイパス燃料気液分離器82に向かって可燃性ガスが流れないように、すなわち逆流しないようになっている。
【0047】
改質器本体31は、原燃料を改質して水素リッチガスを生成する。代表的な改質方式である水蒸気改質では、約500〜700℃にまで加熱された触媒層に、水蒸気を混合させた原燃料を通過させることによって、水素リッチガスを生成する。この水素リッチガスは、水素を主成分として、水蒸気、一酸化炭素、および二酸化炭素などが含まれている。
【0048】
水蒸気改質反応は吸熱反応であるため、温度と反応を維持するために外部から加熱する必要がある。そのため、バーナ燃焼部34で空気および燃料などを混合して燃焼させて、その燃焼熱を改質器本体31に伝えて改質反応を維持する。主燃料気液分離器81またはバイパス燃料気液分離器82で分離された可燃性ガスも、バーナ燃焼部34に供給されて、加熱のための燃焼反応に用いられる。
【0049】
改質器本体31の出口における水素リッチガスには、多量の一酸化炭素が含まれている。一酸化炭素は、下流の燃料電池本体2のアノード極91において、発電電圧を低下させる要因となる。よって、一酸化炭素変成器32におけるシフト反応および一酸化炭素除去器33における一酸化炭素選択酸化反応によって、水素リッチガスの一酸化炭素濃度を10ppm以下にまで低減させる。
【0050】
燃料電池本体2は、たとえば冷却水系93がアノード極91およびカソード極92に挟み込まれるように構成されている。燃料電池本体2のアノード極91には、改質装置3から送出された水素リッチガスが供給される。カソード極92には、空気が供給される。
【0051】
燃料電池本体2では、アノード極91に供給された水素リッチガス中の水素と、カソード極92に供給された空気中の酸素との間で、電気化学反応が発生して直流起電力が発生する。アノード極91では、水素リッチガス中の水素を通常5割から8割程度消費する。したがって、アノード出口ガス中には、水素などの可燃性ガスが含まれている。アノード極91から排出されたアノード出口ガスは、改質装置3のバーナ燃焼部34へ供給されて、空気や燃料と混合されて改質器本体31の加熱に使用される。
【0052】
制御装置99は、脱硫器4の温度などに基づいて、送液昇圧ポンプ7、脱硫器加熱器8、燃料遮断弁51、燃料バイパス弁52などを制御する。
【0053】
次に、この燃料電池発電システムの動作について説明する。
【0054】
液体燃料タンク5に貯蔵されている液体燃料は、先ず1次液体燃料タンク6に導かれる。1次液体燃料タンク6は、液体燃料タンク5から供給された液体燃料を一時貯蔵する。1次液体燃料タンク6の入口側に設けられた自力式液面調節弁40は、1次液体燃料タンク6内の液面に配置された浮子41が上下移動することによって、自力式液面調節弁40を開閉させる。これにより、液体燃料タンク5から供給される液体燃料の量が調整される。
【0055】
自力式液面調節弁40の代わりに、たとえば電気的な制御手段を用いて1次液体燃料タンク6での液体燃料の貯蔵量を調整してもよい。たとえば、液面センサなどを1次液体燃料タンク6に設けて電気的な制御手段を介して1次液体燃料タンク6の入口側に配置された弁を開閉することにより、1次液体燃料タンク6での液体燃料の貯蔵量を調整できる。この場合、1次液体燃料タンク6内部の液体燃料が所定の量以下となったときに液体燃料タンク5から液体燃料を供給し、所定量以上となったときには液体燃料の供給を停止するように制御すればよい。
【0056】
改質装置3で使用される触媒の多くは、硫黄により被毒され活性が低下する。そこで、改質装置3に供給される液体燃料中の硫黄濃度は、脱硫器4による脱硫処理で低下される。硫黄濃度は、数十ppmまで低下させることが望ましい。
【0057】
図2は、本実施の形態における燃料電池発電システムの起動時の燃料遮断弁および燃料バイパス弁の開閉動作を示すフロー図である。
【0058】
発電運転の起動指令が制御装置99に与えられたら、脱硫器加熱器8によって脱硫器4の加熱が開始される(S41)。脱硫器4の温度Tは温度計70によって測定され、この温度Tがポンプ運転開始温度T2に達しているかどうかを判定する(S42)。ポンプ運転開始温度T2は、常圧における液体燃料の沸点以下の所定の温度である。制御装置99は、温度計70によって測定された脱硫器4の温度Tがポンプ運転開始温度T2以下の場合には、脱硫器加熱器8による脱硫器4の加熱を継続させたまま、温度Tがポンプ運転開始温度T2に達しているかどうかの判定を繰り返す。
【0059】
脱硫器4の温度Tがポンプ運転開始温度T2を超えていれば、制御装置99は、送液昇圧ポンプ7に運転を開始させる(S43)。この際、制御装置99は、燃料遮断弁51を閉じた状態にし、燃料バイパス弁52を開いた状態にする。
【0060】
1次液体燃料タンク6の下流に設けられた送液昇圧ポンプ7は、1次液体燃料タンク6内の液体燃料を吸引し、昇圧した後に、脱硫器4へ送出する。脱硫器4へ供給された液体燃料に作用する圧力は、脱硫器4の下流に設置される圧力調整弁19などによって調整されている。
【0061】
脱硫器4中の脱硫剤が揮発し難い液体燃料に濡れた状態でガスに曝されたまま加熱され続けると、炭素析出などが発生し脱硫剤としての性能が低下するおそれがある。そこで、本実施の形態では、液体燃料の沸点以下のポンプ運転開始温度T2に達した時点で送液昇圧ポンプ7の運転を開始することで、脱硫器4に入っているガスを追い出すと共に圧力を上昇させて液体燃料の揮発を抑制し、脱硫剤の性能低下を抑止する。
【0062】
脱硫器4の温度Tがポンプ運転開始温度T2に到達したら、1次液体燃料タンク6から供給される液体燃料は、燃料バイパス弁52を流通してバイパス燃料気液分離器82へ供給される。バイパス燃料気液分離器82に供給された液体燃料は、その内部で下部に液体燃料、上部に可燃性ガスが溜まるように気液分離される。
【0063】
バイパス燃料気液分離器82下部の液体燃料は、自重およびバイパス燃料気液分離器82の内圧によって、液体燃料リサイクル配管45を流通して次液体燃料タンク6へ戻される。バイパス燃料気液分離器82上部の可燃性ガスは、気抜き配管12を流通してバーナ燃焼部34へ供給される。
【0064】
バイパス燃料気液分離器82の気相に移行した可燃性ガスは、気抜き配管12を介してバーナ燃焼部34と連通しているので、内圧はバーナ燃焼部34と同等である。一方、1次液体燃料タンク6の内圧は、大気圧相当である。
【0065】
バーナ燃焼部34の運転時の内圧は、バーナ燃焼部34の下流の圧力損失分だけ大気圧よりも高圧である。このため、バイパス燃料気液分離器82の圧力は常に1次液体燃料タンク6の圧力より高い。しかし、出口用自力式液面調節弁44を適切に選定すれば、液体燃料排出とともに弁が閉まるため、液封が破れてバイパス燃料気液分離器82内の可燃性ガスが1次液体燃料タンク6に流出することはない。また、弁が開いたときの流出量が極力少なくなるよう出口用自力式液面調節弁44を選定すれば、流出に伴う圧力低下も低く抑えられる。
【0066】
バイパス燃料気液分離器82に流入する液体燃料の量が一定であれば、流出量を減らすことは弁の開閉回数が増加することを意味するが、電気的回路を持たない自力式液面調整弁は耐久性が高いので、問題なく長期間使用することができる。
【0067】
バイパス燃料気液分離器82は出口用自力式液面調節弁44が開くと若干減圧されるため、減圧分だけバーナ燃焼部34から1次液体燃料タンク6に向かって燃焼ガスが吹きこむおそれがある。しかし、このような燃焼ガスの吹き抜けは、気抜き配管12に配置された気抜き配管逆止弁13によって抑制されている。
【0068】
1次液体燃料タンク6へ戻された液体燃料は、バイパス燃料気液分離器82で気液分離されているため、可燃性ガスの混入は抑制されている。このため、1次液体燃料タンク6を大気に連通させても、可燃性ガスが大気に漏出するおそれは小さい。
【0069】
次に、温度計70によって測定された脱硫器4の温度Tが、脱硫器運転温度T1に到達しているかどうかを判定する(S44)。脱硫器運転温度T1は、脱硫器4を通過した液体燃料が脱硫されていると判定される所定の温度である。つまり、脱硫器4の温度Tが脱硫器運転温度T1に達したときに、脱硫器4から流出する液体燃料は、硫黄分が十分に低減されている。脱硫器運転温度T1は、170℃〜230℃の範囲の値である。
【0070】
脱硫器4の温度Tが脱硫器運転温度T1以下である場合、送液昇圧ポンプ7の運転を継続したまま、脱硫器4の温度Tが脱硫器運転温度T1に到達しているかどうかの判定(S44)を繰り返す。脱硫器4の温度Tが脱硫器運転温度T1に到達しているとき、制御装置99は、脱硫器4を通過した液体燃料は脱硫されていると判定し、燃料遮断弁51を開き、燃料バイパス弁52を閉じる(S45)。この結果、脱硫器4で脱硫された液体燃料は、主燃料気液分離器81に供給されて、発電運転の準備が完了する。
【0071】
このようにして発電運転の準備が完了した後、燃料電池発電システムは、通常の運転状態に移る。燃料電池発電システムの通常の運転状態では、燃料遮断弁51は開き、燃料バイパス弁52は閉じられている。この状態で、1次液体燃料タンク6内の液体燃料は、送液昇圧ポンプ7で所定の圧力に昇圧されて、脱硫器加熱器8で所定の温度に昇温された脱硫器4に供給されて脱硫される。
【0072】
脱硫された液体燃料は、燃料遮断弁51を通過して主燃料気液分離器81へ供給される。主燃料気液分離器81に供給された液体燃料は、気液分離される。主燃料気液分離器81で気液分離された液体燃料は、自重および主燃料気液分離器81の内圧によって、改質燃料供給配管14を通過し、自力式液面調節弁40を経て2次液体燃料タンク9へ送出される。主燃料気液分離器81の内部の可燃性ガスは、気抜き配管12を介してバーナ燃焼部34へ供給される。
【0073】
2次液体燃料タンク9へ供給された液体燃料は、主燃料気液分離器81で気液分離されているため、可燃性ガスの混入が抑制されている。このため、2次液体燃料タンク9を大気と連通させていても可燃性ガスが大気中に漏出しない。よって、2次液体燃料タンク9を安全に運用することができる。
【0074】
また、改質燃料供給ポンプ10が起動され、2次液体燃料タンク9に貯えられた液体燃料が改質装置3に送出される。改質装置3で生成された水素リッチガスは燃料電池本体2のアノード極91に供給され、カソード極92に供給された空気とともに、発電反応に用いられる。このようにして燃料電池本体2は、直流起電力を発生する。
【0075】
図3は、本実施の形態における燃料電池発電システムの停止時の燃料遮断弁および燃料バイパス弁の開閉動作を示すフロー図である。
【0076】
発電運転の停止指令が制御装置99に与えられた後、制御装置99は、燃料遮断弁51を閉じ、燃料バイパス弁52を開く(S51)。この状態で、停止操作の準備は完了する。
【0077】
その後も、送液昇圧ポンプ7の運転は継続される。脱硫器運転温度で発生する可燃性ガスに加え、送液昇圧ポンプ7停止により起こる圧力低下に伴って揮発した液体燃料により、脱硫剤上で炭素析出などが発生することを防ぐためである。
【0078】
この状態で、制御装置99は、温度計70によって測定された脱硫器4の温度Tが、ポンプ運転停止温度T3未満か否かを判定する(S52)。ポンプ運転停止温度T3は、ポンプ運転開始温度T2以下の所定の温度である。脱硫器4の温度Tがポンプ運転停止温度T3以上であれば、制御装置99は、送液昇圧ポンプ7の運転を継続させる。
【0079】
脱硫器4の温度Tがポンプ運転停止温度T3未満であれば、制御装置99は、炭素析出などの可能性が解消したと判断し、送液昇圧ポンプ7の運転を停止させる(S53)。このようにして、脱硫器4の温度Tがポンプ運転停止温度T3に至った時点で、送液昇圧ポンプ7は運転を停止する。この時点で脱硫器4には、ポンプ運転停止温度T3の液体燃料が充填されている。この時点で脱硫器4の内部に存在する液体燃料の質量M3は、
M3=Vd×(1−α)×ρ3
と表される。ここで、Vdは脱硫器4の内容積、αは脱硫器内の脱硫剤の充填率、ρ3はポンプ運転停止温度T3における液体燃料の密度である。
【0080】
その後、脱硫器4が放熱によって冷却されると、脱硫器4の内部の液体燃料の温度は低下し、体積が減少する。その結果、下流側に設けられた気液分離装置11から脱硫器4に気体が引き込まれる。しかし、脱硫器4の内部に存在する液体燃料の質量は、送液昇圧ポンプ7の運転を停止したときのM3のままである。
【0081】
このような燃料電池発電システムでは、発電運転時には、出口用自力式液面調整弁44によって液体燃料リサイクル配管45を介して1次液体燃料タンク6に流入する液体燃料の量には大きな変動がなく、ほぼ一定と見なすことができる。このため、発電運転時における1次液体燃料タンク6の液体燃料量は、ほぼ一定に安定し、余裕は少なくてよい。
【0082】
発電運転時には、1次液体燃料タンク6からは、常時、液体燃料リサイクル配管45を介したリサイクル量より多い液体燃料が送液昇圧ポンプ7を通じて引き出されている。このため、若干、液体燃料リサイクル配管45からのリサイクル量が増えても、開閉を繰り返している自力式液面調節弁40が閉まる時間が長くなって液体燃料タンク5からの供給が抑制される。その結果、リサイクル量が減っても自力式液面調節弁40が開く時間が長くなって液体燃料タンク5からの供給が増えるだけである。
【0083】
しかし、起動時においては、1次液体燃料タンク6に余裕がないと、液体燃料リサイクル配管45を介した液体燃料のリサイクルによって、1次液体燃料タンク6から液体燃料が溢れる可能性がある。起動時の液体燃料は、脱硫器温度Tがポンプ運転開始温度T2に達した時点から運転を始める送液昇圧ポンプ7により、循環している。この際の液体燃料の循環経路は、順に、1次液体燃料タンク6、送液昇圧ポンプ7、脱硫器4、燃料バイパス弁52、バイパス燃料気液分離器82、液体燃料リサイクル配管45、1次液体燃料タンク6となる。つまり、起動時において基本的には、液体燃料タンク5からの液体燃料の流入はなく、液体燃料は閉じた経路で循環しているだけである。
【0084】
起動時に脱硫器4の加熱は、脱硫器温度Tが脱硫器運転温度T1に達するまで継続される。これにより脱硫器4中に充填されている液体燃料は、T1相当の体積にまで膨張する。この結果、脱硫器4内の液体燃料質量M1は、
M1=Vd×(1−α)×ρ1
となる。ここで、ρ1はポンプ脱硫器運転温度T1における液体燃料の密度である。
【0085】
起動前の脱硫器4内液体燃料重量は、運転停止の際に送液昇圧ポンプ7は運転を停止した時点の液体燃料の質量M3、すなわち
M3=Vd×(1−α)×ρ3
であるから、M1とM3の差分の質量に相当する分だけ、閉じた循環経路における液体燃料の体積が増える。循環経路の中でこの膨張分を吸収できる要素は、気相を持つバイパス燃料気液分離器82と1次液体燃料タンク6しかない。バイパス燃料気液分離器82からは出口用自力式液面調節弁44により液面が一定になるよう液体燃料が排出されるため、膨張分は全て1次液体燃料タンク6に戻ることになる。その結果、1次液体燃料タンク6の浮子41が通常位置よりあがって自力式液面調節弁40が閉まっていても液面が上がり続けるため、1次液体燃料タンク6の容積Vmaxが小さいと、1次液体燃料タンク6から液体燃料が溢れることになる。
【0086】
脱硫器4内で膨張する液体燃料の質量ΔMは、
ΔM=M3−M1
=Vd×(1−α)×ρ3−Vd×(1−α)×ρ1
=Vd×(1−α)×(ρ3−ρ1)
となる。この膨張質量ΔMに相当する体積は、1次液体燃料タンク6での体積に換算して、1次液体燃料タンク6での増加分ΔVとして表すと、
ΔV=ΔM÷ρ4
=Vd×(1−α)×(ρ3−ρ1)÷ρ4 (式1)
となる。ここで、ρ4は1次液体燃料タンク温度T4における液体燃料の密度である。
【0087】
つまり、この増加分ΔVが1次液体燃料タンク6の持つべき最小の余裕容積である。すなわち、1次液体燃料タンク6の容積Vmaxは、1次液体燃料タンク6の定量Vnomに対して、この最小の余裕容積ΔV以上の容積であれば、起動時の脱硫器4の温度上昇に伴う液体燃料の体積増加によって1次液体燃料タンク6から液体燃料が溢れることはない。1次液体燃料タンク6の定量Vnomとは、液体燃料の貯蔵量がそれ以下となると自力式液面調節弁40が開き液体燃料タンク5から液体燃料を引き込む基準の容量である。
【0088】
この余裕容積ΔVを、
脱硫器容積Vd: 750cc
脱硫器脱硫剤充填率α: 33%
脱硫器運転温度T1: 200℃
ポンプ運転停止温度T3: 150℃
1次液体燃料タンク温度T4: 20℃
T1での灯油密度ρ1: 605kg/m
T3での灯油密度ρ3: 648kg/m
T4での灯油密度ρ4: 790kg/m
である灯油を燃料とした燃料電池発電システムについて算出すると、
ΔV=750cc×(1−0.33)
×(648kg/m−605kg/m)÷790kg/m
=27cc
となる。なお、通常容易に入手できる灯油燃焼機器向けの定油面器は、液面調節機能のみを保ってサイズを極小にするよう設計されているので、このような余裕は全くない。本実施の形態の燃料電池発電システムを図2、図3に示す方法で運用するためには、このような基準に従って十分な余裕を持つ1次液体燃料タンク6を選定もしくは製作することが必須である。
【0089】
ポンプ運転停止温度T3およびポンプ運転開始温度T2は、いずれも脱硫剤で炭素析出などが発生しないよう、液体燃料の沸点以下とする。しかし、起動時に脱硫器温度TがT3に達する前に送液昇圧ポンプ7を運転し始めると、脱硫器4が液体燃料の膨張で充填される前なので、閉じた循環経路で液体燃料が過渡的に不足し、液体燃料タンク5から液体燃料を無駄に引き込むことになる。このような理由から、ポンプ運転開始温度T2は、ポンプ運転停止温度T3と同じかそれ以上の温度で送液昇圧ポンプ7の運転を開始することが望ましい。
【0090】
このように本実施の形態の燃料電池発電システムでは、可燃性ガスの混入が抑制された液体燃料を改質装置3へ安定して供給できる。また、脱硫器4の温度が低く、脱硫処理が適切に行われていない場合には、液体燃料を改質装置3に送ることなくリサイクルさせ、かつ、そのリサイクルされた液体燃料が1次液体燃料タンク6から溢れる可能性を低減することができる。
【0091】
[第2の実施の形態]
図4は、本発明に係る液体燃料脱硫装置の第2の実施の形態を用いた燃料電池発電システムの系統図である。
【0092】
本実施の形態の燃料電池発電システムは、第1の実施の形態における出口用自力式液面調節弁44(図1参照)の代わりに、気液分離器レベル計20、液面制御手段42および液体燃料リサイクル遮断弁15を有している。また、この燃料電池発電システムは、気抜き配管遮断弁27を有している。
【0093】
気液分離器レベル計20は、バイパス燃料気液分離器82の液面上昇を検知する。液面制御手段42は、気液分離器レベル計20の検知結果に基づいてバイパス燃料気液分離器82の液位を制御する。この液面制御手段42には、たとえば、検知した液位に基づいて液体燃料リサイクル遮断弁15の開閉状態を制御する電気的な回路が設けられている。また、液面制御手段42により、気抜き配管遮断弁27も制御される。液体燃料リサイクル配管45に設けられた液体燃料リサイクル遮断弁15は、通常は閉じられている。
【0094】
気抜き配管遮断弁27は、気抜き配管12の途中のたとえば気抜き配管逆止弁13とバーナ燃焼部34との間に設けられる。また、気抜き配管遮断弁27は、通常は開かれている。
【0095】
液体燃料は、燃料バイパス弁52もしくはオーバーフロー配管24を通じてバイパス燃料気液分離器82に流入し、下部に貯留される。その液体燃料は、液体燃料リサイクル配管45を流通し、液体燃料リサイクル遮断弁15を介して1次液体燃料タンク6に流入してリサイクルされる。
【0096】
気液分離器レベル計20が検知する液面が上昇して所定の液位に達したとき、または、気液分離器レベル計20が液面を検知して所定の時間が経過したとき、液面制御手段42によって液体燃料リサイクル遮断弁15が開かれて、バイパス燃料気液分離器82の内部に貯留された液体燃料は1次液体燃料タンク6に戻される。このようにして、バイパス燃料気液分離器82の液面の高さを調整している。
【0097】
液体燃料リサイクル遮断弁15を開いている際に気抜き配管12が遮断されていれば、バイパス燃料気液分離器82内の液体燃料が流出して負圧となった気相の内圧が、液体燃料リサイクル配管45内の液体燃料のヘッド圧力と、バランスした時点で液体燃料の流出は自動的に停止する。また液体燃料リサイクル遮断弁15の開閉によりバーナ燃焼部34の燃焼状態が影響を受けることはない。
【0098】
しかし、液体燃料リサイクル遮断弁15を開いている際に気抜き配管12が遮断されず、バイパス燃料気抜き配管72の気相とバーナ燃焼部34が連通していると、燃焼ガスが気抜き配管12を通じてバイパス燃料気液分離器82に流入し、内部の可燃性ガスと混合して安全上の問題を生じる。さらに、貯留している液体燃料を流出させて大気である1次液体燃料タンク6の気相と連通し、更にはバーナ燃焼部34の燃焼状態を変動させて改質装置3の運転特性を低下させる。
【0099】
このような燃焼ガスの吹き抜けは、気抜き配管12に設けられた気抜き配管遮断弁27を液面制御手段42により閉止することで抑止することができる。そこで、本実施の形態の気抜き配管遮断弁27は、液体燃料リサイクル遮断弁15が開くと同時もしくは先んじて閉じ、液体燃料リサイクル遮断弁が閉じると同時もしくは後に開くものとする。さらに、このように制御することにより、気抜き配管逆止弁13を設けない場合でも、燃焼ガスの吹き抜けは抑止できる。
【0100】
図5は、本実施の形態の燃料電池発電システムから気抜き配管逆止弁13を除去したシステムで液体燃料リサイクル遮断弁15の開指令と同時に気抜き配管遮断弁27の開指令とを同時に発生させた場合のバーナ燃焼部34の温度の変化の測定例を示すグラフである。
【0101】
この測定では、気抜き配管遮断弁27は、通電時に開である電磁弁を用い、バイパス燃料気液分離器82からバーナ燃焼部34へ向かう流れを順方向として設置した。また液体燃料リサイクル遮断弁15は、通電時に閉である電磁弁を用い、バイパス燃料気液分離器82から1次液体燃料タンク6へ向かう流れを順方向として設置した。気抜き配管遮断弁27と液体燃料リサイクル遮断弁15の駆動電源は同一の電源に並列に接続し、同時に電源が入り同時に電源が切れるものとした。一方が通電時開、他方が通電時閉なので、制御指令の上では全く同時に開閉されることになっていた。
【0102】
しかし、実際には、図5に示すように、液体燃料リサイクル遮断弁15開閉に伴い、バーナ燃焼部34の温度は、急減、急回復する傾向が見られる。これは、流通する流体や流れに対する弁の設置方向などの影響により、電磁弁の電源ON/OFFを全く同一のタイミングとしても、実際の開閉に若干のタイムラグが生じ、バーナ燃焼部34から燃焼ガスがバイパス燃料気液分離器82に流れていることを示している。この測定例から分かるように、液体燃料リサイクル遮断弁15の開指令と同時に気抜き配管遮断弁27の開指令とが、単に同時であるだけでは不十分であることが分かる。
【0103】
図6は、本実施の形態の燃料電池発電システムで液体燃料リサイクル遮断弁15の開指令と同時に気抜き配管遮断弁27の開指令とを同時に発生させた場合のバーナ燃焼部34の温度の変化の測定例を示すグラフである。気抜き配管遮断弁27と液体燃料リサイクル遮断弁15の動作方法は図5に示す測定例と同一である。
【0104】
図6に示すとおり、気抜き配管逆止弁13を追加することで、バーナ燃焼部34の温度が急減、急回復する傾向が見られなくなった。昇温中最初の温度低下は正常であり、二度目の温度低下はバーナ燃焼部34の燃料を改質ガスに切り替えたことによる正常な応答である。
【0105】
気抜き配管逆止弁13は液体燃料リサイクル遮断弁15が開いて多少の流れが発生すると直ぐに閉まるので、液体燃料リサイクル遮断弁15が開くと同時に気抜き配管12を閉止することができる。液体燃料リサイクル遮断弁15が閉まった後も閉まった状態を維持し、バイパス燃料気液分離器82の内圧が気抜き配管逆止弁13のクラッキング差圧分だけバーナ燃焼部34圧力を上回った時点で開く。したがって、気抜き配管逆止弁13だけでも要求される機能を満たすことができる。
【0106】
このように、気抜き配管遮断弁27は、液体燃料リサイクル遮断弁15が開くと同時もしくは先んじて閉じ、液体燃料リサイクル遮断弁15が閉じると同時もしくは後に開くものとする必要がある。ここで、弁の開閉が同時とは、単に液面制御手段42からの開閉指令が同時に出ることだけでは不十分である。そこで、弁を同時に開閉させる場合は、弁体の開閉動作完了が同時である必要がある。
【0107】
本実施の形態では、液体燃料リサイクル遮断弁15に電磁弁などの電気部品を持つ弁を用いる必要がある。電磁弁コイルや接点スイッチなどの電気部品は、電気部品を持たない弁に比べて、繰り返し作動回数を少なくする必要がある。
【0108】
つまり、液体燃料リサイクル遮断弁15の交換頻度を抑えて、燃料電池パッケージ1の寿命を延ばすためには、開閉頻度を抑える必要がある。したがって、一回の液体燃料リサイクル遮断弁15の開動作でリサイクルされる液体燃料の量を極大とすることが求められる。
【0109】
しかし、一回の液体燃料リサイクル遮断弁15の開動作で多量の液体燃料をリサイクルした場合、リサイクルされた液体燃料が一時に1次液体燃料タンク6に戻るため、1次液体燃料タンク6が溢れるおそれがある。また、リサイクルされた燃料が一時にバイパス燃料気液分離器82から排出されるため、バイパス燃料気液分離器82の液封がなくなるおそれがある。バイパス燃料気液分離器82の液封がなくなると、可燃性ガス雰囲気であるバイパス燃料気液分離器82の気相と、空気雰囲気である1次液体燃料タンク6の気相が連通するおそれがある。これらのため、1次液体燃料タンク6容積と気液分離器レベル計20の位置は、最大リサイクル量によって制限される。
【0110】
さらに、一回の液体燃料リサイクル遮断弁15の開動作で多量の液体燃料をリサイクルした場合、リサイクルされた燃料が一時にバイパス燃料気液分離器82から排出されるため、バイパス燃料気液分離器82およびそれと連通している主燃料気液分離器81の気相圧力が低下するおそれがある。このため、バイパス燃料気液分離器82の高さも制限される。
【0111】
液体燃料リサイクル配管45の途中に、1つもしくは複数の流路圧損要素を設けてもよい。この場合、液体燃料リサイクル遮断弁15が開いた状態での液体燃料の単位時間当たりの流量が抑制される。その結果、液体燃料リサイクル遮断弁15および気抜き配管遮断弁27の開閉のタイミングに多少のずれが生じても問題が発生しないようにできる。
【0112】
図7は、本実施の形態において、液体燃料リサイクル遮断弁15が開いた時の排液量を模式的に示す図であって、(a)は液体燃料リサイクル遮断弁15が開く前の状態、(b)は(a)は液体燃料リサイクル遮断弁15が開いた後の状態を示す。なお、図7中および、以下の説明において、各記号の意味は、
V:液体燃料リサイクル遮断弁を開く前の主燃料気液分離器気相容積およびバイパス燃料気液分離器気相容積合計
V1:液体燃料リサイクル遮断弁を開く前のバイパス燃料気液分離器液相体積
ΔV:液体燃料リサイクル遮断弁を開いた際排出される液量
P1:液体燃料リサイクル遮断弁を開く前の気液分離器気相圧力
P2:液体燃料リサイクル遮断弁を開いた後の気液分離器気相圧力
P3:液体燃料リサイクル遮断弁を開いた後のバイパス燃料気液分離器液相底部圧力
Patm:1次液体燃料タンク気相圧力、即ち大気圧
S:液体燃料リサイクル遮断弁が開く前の液面の断面積
h:1次液体燃料タンク液面からバイパス燃料気液分離器底部までの鉛直高さ
h’:1次液体燃料タンク液面から液体燃料リサイクル遮断弁を開く前のバイパス燃料気液分離器液面、すなわちバイパス燃料気液分離器液面上限までの鉛直高さ
Δh:液体燃料リサイクル遮断弁を開いた際の液面高さ変化
ρ:液体燃料密度
g:重力加速度
とする。
【0113】
液体燃料リサイクル遮断弁15が開いて液体燃料が流下した後、バイパス燃料気液分離器82の気相負圧と、液相の重量が釣り合う。このため、
P2+(h’−h−Δh)×ρ×g=P3
となる。P3=Patm−h×ρ×gであるから、これを代入して
P2+(h’−h−Δh)×ρ×g=Patm−h×ρ×g
となる。
【0114】
液体燃料リサイクル遮断弁15の開閉に伴う気相の出入りはないから、
P2=V×P1÷(V+ΔV)
である。これを上式に代入すると、
V×P1÷(V+ΔV)=Patm−(h’−Δh)×ρ×g
となる。ここで、Δh=ΔV÷Sと近似すると、
V×P1÷(V+ΔV)=Patm−h’×ρ×g+ΔV÷S×ρ×g
となる。この近似は、液面が移動する間で気液分離器の断面積が変化したとしても、移動距離は全体に比べて短いため適当である。
【0115】
さらに、(V+ΔV)を上式の両辺にかけ、ΔVの二乗項を無視して一次式とすると、
V×(P1−Patm+h’×ρ×g)
=ΔV×{Patm−h’×ρ×g+V÷S×ρ×g}
となる。P1をゲージ圧で表記したものをP1’とする、すなわち、P1’=P1−Patmとおくと、上式は
ΔV=V×(P1’+h’×ρ×g)÷{Patm−ρ×g×(h’−V÷S)}
となる。
【0116】
気液分離器レベル計20で検知され制御されるバイパス燃料気液分離器82の液量は、バイパス燃料気液分離器82の気相と1次液体燃料タンク6の気相とが連通しないよう、上述のΔVの最大値より大きくなればならない。ΔVは、VおよびP1’が最大の場合に、最大となる。Vは新品を初めて起動する時など主燃料気液分離器81に液体燃料がない場合に最大となり、P1’はバーナ燃焼部34のゲージ圧が最大となる場合に最大となる。
【0117】
したがって、液体燃料リサイクル遮断弁15の開動作で液体燃料をリサイクルした場合にリサイクルされた液体燃料が1次液体燃料タンク6から溢れないようにするためには、1次液体燃料タンク6が持つべき余裕は、
V×(Pb+h’×ρ×g)÷{Patm−ρ×g×(h’−V÷S)} (式2)
となる。ここで、Pbはバーナ燃焼部34の最大ゲージ圧である。
【0118】
このような弁の開閉動作は、燃料電池発電システム起動中の、脱硫器4の昇温による膨張分が1次液体燃料タンク6に集中している状態でも発生する。したがって、本実施の形態において、1次液体燃料タンク6が持つべき余裕容積は、式1と式2の値の和であり、その値は、
Vd×(1−α)×(ρ3−ρ1)÷ρ4
+V×(Pb+h’×ρ×g)÷{Patm−ρ×g×(h’−V÷S)}
となる。
【0119】
一方、バイパス燃料気液分離器82の負圧、すなわち、Patm−P2が大きいことは望ましくないので、バイパス燃料気液分離器82の負圧の最大値をPcとすると、
Pc>Patm−P2
とすべきである。
【0120】
P2=V×P1÷(V+ΔV)
を代入し、両辺に(V+ΔV)をかけて整理すると
V×P1>(Patm−Pc)×(V+ΔV)
となる。更に
ΔV=V×(P1’+h’×ρ×g)÷{Patm−ρ×g×(h’−V÷S)}
を用いて整理すると、
P1>(Patm−Pc)×{1+(P1’+h’×ρ×g)
÷{Patm−ρ×g×(h’−V÷S)}
=(Patm−Pc)×(Patm+P1’+ρ×g×V÷S)
÷{Patm−ρ×g×(h’−V÷S)}
=(Patm−Pc)×(P1+ρ×g×V÷S)
÷{Patm−ρ×g×(h’−V÷S)}
となり、この両辺に{Patm−ρ×g×(h’−V÷S)}をかけると
P1×{Patm−ρ×g×(h’−V÷S)}
>(Patm−Pc)×(P1+ρ×g×V÷S)
となる。この不等式の両辺をρ×gで割り、h’について整理して、
h’<{Pc÷(ρ×g)×(P1+ρ×g×V÷S)+
(P1−Patm)×V÷S}÷P1
となる。P1=Patm+P1’であるから、上式は
h’<{Pc÷(ρ×g)×(Patm+P1’+ρ×g×V÷S)
+P1’×V÷S}÷(P1’+Patm)
となる。P1’はバーナ燃焼部34のゲージ圧が最大となる場合に最大となるから、h’について、バーナ燃焼部34の最大ゲージ圧Pbを用いて、
h’<{Pc÷(ρ×g)×(Patm+Pb+ρ×g×V÷S)
+Pb×V÷S}÷(Pb+Patm) (式3)
が得られる。
【0121】
つまり、バイパス燃料気液分離器82は、1次液体燃料タンク6の定量の液面からバイパス燃料気液分離器82の液面までの鉛直高さが、式3を満足するように設置することが好ましい。
【0122】
ここで、
脱硫器容積Vd: 750cc
脱硫器脱硫剤充填率α: 33%
脱硫器運転温度T1: 200℃
ポンプ運転停止温度T3: 150℃
1次液体燃料タンク温度T4: 20℃
T1での灯油密度ρ1: 605kg/m
T3での灯油密度ρ3: 648kg/m
T4での灯油密度ρ4: 790kg/m
主燃料気液分離器の全容積: 339cc
バイパス燃料気液分離器気相体積V1:198cc
気液分離器気相容積の最大値V=主燃料気液分離器容積+バイパス燃料気液分離器気相容積:537cc
バイパス燃料気液分離器液相体積:141cc
バーナ燃焼部最大ゲージ圧:10kPa
1次液体燃料タンクの液面からバイパス燃料気液分離器の液面までの鉛直高さ:420mm
液体燃料密度ρ:790kg/m
バイパス燃料気液分離器液相断面積S:28.3cm
バイパス燃料気液分離器の負圧の最大値Pc:9.8kPa
とすると、式1ないし式3から、
式1の値: 27cc
式2の値: 71cc
式3の右辺:1300mm
となる。
【0123】
したがって、このような形状の燃料電池発電システムでは、1次液体燃料タンク6が持つべき余裕は、98cc(=27cc+71cc)以上となる。これは第1の実施の形態の説明で示した、脱硫器4中灯油の膨張によってもつべき余裕27ccの約3.6倍である。上述の燃料電池発電システムで1次液体燃料タンク6に余裕を110ccとった場合に、問題なく運用できることを確認した。
【0124】
バイパス燃料気液分離器82が持つべき液量も71cc以上である。上述の燃料電池発電システムでバイパス燃料気液分離器82が貯える液量を、この最低液量よりも大きい141ccとした場合に、問題なく運用できることを確認した。
【0125】
1次液体燃料タンク6の定量の液面からバイパス燃料気液分離器82の液面までの鉛直高さの上限は、1300mmとなる。上述の燃料電池発電システムで1次液体燃料タンク6の定量の液面からバイパス燃料気液分離器82の液面までの鉛直高さをこの最大高さよりも低い420mmとした場合に、問題なく運用できることを確認した。この場合の負圧度は、最大3.1kPaで、許容値の範囲内である。
【0126】
図8は、本実施の形態の燃料電池発電システムで液体燃料リサイクル遮断弁15の開指令と同時に気抜き配管遮断弁27の開指令とを同時に発生させた場合の液体燃料気液分離器82の気相の圧力変化の測定例を示すグラフである。図8には、バーナ燃焼部34の温度を併せて示した。この測定例は、気抜き配管逆止弁13のクラッキング差圧が1kPaである場合の結果である。
【0127】
3.5kPa前後だったバイパス燃料気液分離器82の圧力は、気抜き配管遮断弁27を閉じ、液体燃料リサイクル遮断弁15を開くと急減し、負圧度は−2.0kPaに達する。その後、気抜き配管遮断弁27を閉じて液体燃料リサイクル遮断弁15を開いた状態を10秒間保持してから液体燃料リサイクル遮断弁15を閉じ、気抜き配管遮断弁27を開いた。その結果、バイパス燃料気液分離器82に流入する脱硫済の液体燃料と可燃性ガスによりバイパス燃料気液分離器82の圧力は、徐々に上昇して4.3kPa程度にまで達した後低下した。これは気抜き配管逆止弁13が、前後の差圧がクラッキング差圧に達した段階で開いたことを示すものである。以降変動はあるものの圧力は3.5kPa前後で推移し、約5.7分後に弁動作している。その間、バーナ燃焼部34の温度は安定していた。
【0128】
このように、本実施の形態によれば、可燃性ガスの混入が抑制された液体燃料を改質装置3へ安定して供給するシステムにおいて、液体燃料を漏出させることなく、可燃ガスと空気との容器内での混合を抑制できる。また、バイパス燃料気液分離器82の負圧度が過大になることもない。その結果、燃料電池発電システムを安定かつ安全に運転することができる。
【0129】
[第3の実施の形態]
図9は、本発明に係る液体燃料脱硫装置の第3の実施の形態を用いた燃料電池発電システムの系統図である。
【0130】
本実施の形態では、一体化された気液分離装置11を用いている。この気液分離装置11は、1つの容器と、その容器の内部の液相を2つの区画に仕切る堰26が設けられている。堰26によって仕切られたそれぞれの部分が、主燃料気液分離部83およびバイパス燃料気液分離部84となっている。主燃料気液分離部83は、第1の実施の形態における主燃料気液分離器81(図1参照)に対応する。バイパス燃料気液分離部84は、第1の実施の形態におけるバイパス燃料気液分離器82(図1参照)に対応する。
【0131】
主燃料気液分離部83に貯えられた液体燃料は、液面が堰26の上端以上となると、バイパス燃料気液分離部84に流れ込むようになっている。このため、第1の実施の形態におけるオーバーフロー配管24(図1参照)は不要である。
【0132】
また、出口用自力式液面調節弁44の代わりに、第2の実施の形態と同様に、気液分離器レベル計20、液面制御手段42および液体燃料リサイクル遮断弁15を用いてもよい。有している。また、第2の実施の形態と同様に、気抜き配管12の途中のたとえば気抜き配管逆止弁13とバーナ燃焼部34との間に気抜き配管遮断弁27を設けてもよい。
【0133】
このような燃料電池発電システムであっても、第1の実施の形態と同様に、可燃性ガスの混入が抑制された液体燃料を改質装置3へ安定して供給できる。また、脱硫器4の温度が低く、脱硫処理が適切に行われていない場合には、液体燃料を改質装置3に送ることなくリサイクルさせ、かつ、そのリサイクルされた液体燃料が1次液体燃料タンク6から溢れる可能性を低減することができる。
【0134】
[他の実施の形態]
上述の各実施の形態は単なる例示であり、本発明はこれらに限定されない。また、各実施の形態の特徴を組み合わせて実施することもできる。
【符号の説明】
【0135】
1…燃料電池パッケージ、2…燃料電池本体、3…改質装置、4…脱硫器、5…液体燃料タンク、6…1次液体燃料タンク、7…送液昇圧ポンプ、8…脱硫器加熱器、9…2次液体燃料タンク、10…改質燃料供給ポンプ、11…気液分離装置、12…気抜き配管、13…気抜き配管逆止弁、14…改質燃料供給配管、15…液体燃料リサイクル遮断弁、19…圧力調整弁、20…気液分離器レベル計、24…オーバーフロー配管、26…堰、27…気抜き配管遮断弁、31…改質器本体、32…一酸化炭素変成器、33…一酸化炭素除去器、34…バーナ燃焼部、40…自力式液面調節弁、41…浮子、42…液面制御手段、43…自力式液面調節弁、44…出口用自力式液面調節弁、45…液体燃料リサイクル配管、51…燃料遮断弁、52…燃料バイパス弁、70…温度計、71…改質燃料気抜き配管、72…バイパス燃料気抜き配管、81…主燃料気液分離器、82…バイパス燃料気液分離器、83…主燃料気液分離部、84…バイパス燃料気液分離部、91…アノード極、92…カソード極、93…冷却水系、99…制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から送液される液体燃料を貯蔵する1次液体燃料タンクと、
前記1次液体燃料タンクに貯蔵された液体燃料の貯蔵量が1次液体燃料タンク定量Vnomに達すると外部からの送液を停止する1次燃料タンク液面制御手段と、
液体燃料中の硫黄化合物の含有量を低減させる脱硫剤が充填された脱硫器と、
前記脱硫器を加熱する加熱器と、
前記1次燃料タンクから前記脱硫器に液体燃料を送出する送液昇圧ポンプと、
並列に設けられてそれぞれ前記脱硫器で脱硫された液体燃料を供給されてその液体燃料から気体を分離する主気液分離部およびバイパス燃料気液分離部を備えて、前記主気液分離部の液相が所定の体積を超えると前記バイパス燃料気液分離部の液相に流れ込むように形成された気液分離器と、
前記主気液分離部でガスが分離された液体燃料を貯蔵し、気相が大気と連通した2次液体燃料タンクと、
前記主気液分離部の気相および前記バイパス燃料気液分離部の気相と連通する気抜き配管と、
前記バイパス燃料気液分離部の液相から前記1次燃料タンクに延びる液体燃料リサイクル配管と、
前記バイパス燃料気液分離部の液面の高さが所定の高さ以上になるように制御するバイパス燃料気液分離部液面制御手段と、
前記脱硫器の運転時に前記加熱器に前記脱硫器を脱硫器運転温度T1以上に加熱させ、前記脱硫器の降温時に前記脱硫器の温度が前記脱硫器運転温度T1より低いポンプ運転停止温度T3以下になったときに前記送液昇圧ポンプの運転を停止させる制御器と、
を有し、前記1次液体燃料タンクの容積Vmaxが、前記脱硫器の容積をVd、前記脱硫器中の前記脱硫剤の充填率をα、前記脱硫器運転温度T1での液体燃料密度をρ1、前記ポンプ運転停止温度T3での液体燃料密度をρ3、前記1次燃料タンク中の液体燃料の温度T4での液体燃料の密度をρ4としたときに、
Vmax≧Vnom+Vd×(1−α)×(ρ3−ρ1)÷ρ4
を満足することを特徴とする液体燃料脱硫装置。
【請求項2】
前記バイパス燃料気液分離部液面制御手段は、前記バイパス燃料気液分離部の液相に浮かぶ浮子と、前記バイパス燃料気液分離部から前記1次液体燃料タンクへの出口に設けられて前記浮子によって開閉する自力式液面調節弁とを備えることを特徴とする請求項1に記載の液体燃料脱硫装置。
【請求項3】
重力加速度をg、前記気液分離器の気相の最大圧力をPb、1次液体燃料タンク定量の液面から前記バイパス燃料気液分離部の液面上限までの鉛直高さをh’、液体燃料密度をρ、前記バイパス燃料気液分離部の液面が上限にあるときの前記気液分離器の気相体積の合計をV、液面が上限にあるときの前記バイパス燃料気液分離部の液相断面積をSとすると、
Vmax≧Vnom+Vd×(1−α)×(ρ3−ρ1)÷ρ4
+V×(Pb+h’×ρ×g)÷{Patm−ρ×g×(h’−V÷S)}
を満足することを特徴とする請求項1に記載の液体燃料脱硫装置。
【請求項4】
前記バイパス燃料気液分離部液面制御手段により、バイパス燃料気液分離部に貯留される液体燃料量Vbが、
Vb>V×(Pb+h’×ρ×g)÷{Patm−ρ×g×(h’−V÷S)}
を満足するように制御されていることを特徴とする請求項3に記載の液体燃料脱硫装置。
【請求項5】
前記1次液体燃料タンク定量の液面からバイパス燃料気液分離器の液面上限までの鉛直高さh’が、前記バイパス燃料気液分離器の許容される負圧の最大値をPcとすると、
h’<{Pc÷(ρ×g)×(Patm+Pb+ρ×g×V÷S)+Pb×V÷S}
÷(Pb+Patm)
を満足することを特徴とする請求項4に記載の液体燃料脱硫装置。
【請求項6】
前記気液分離器は、容器と、前記容器を前記主気液分離部および前記バイパス燃料気液分離部に仕切って前記主気液分離部に貯えられた液体燃料の液面がその上端以上となるとバイパス燃料気液分離部に流れ込むように設けられた堰とを備えることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の液体燃料脱硫装置。
【請求項7】
前記バイパス燃料気液分離部液面制御手段は、前記バイパス燃料気液分離部の液相に浮かぶ浮子を備えて前記浮子によって駆動され前記浮子が前記所定の高さに上昇すると開く液体燃料リサイクル配管の途中に設けられた出口用自力式液面調節弁であることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の液体燃料脱硫装置。
【請求項8】
前記気抜き配管の途中に設けられた第1弁を有し、
前記バイパス燃料気液分離部液面制御手段はバイパス配管の途中に設けられて前記バイパス燃料気液分離部の液面の高さが前記所定の高さ以上になると開く第2弁を備え、
を有し、前記第2弁が閉じる場合に前記第1弁は前記第2弁の閉動作以前に閉じることを特徴とする請求項6に記載の液体燃料脱硫装置。
【請求項9】
外部から送液される液体燃料を貯蔵する1次液体燃料タンクと、
前記1次液体燃料タンクに貯蔵された液体燃料の貯蔵量が1次液体燃料タンク定量Vnomに達すると外部からの送液を停止する1次燃料タンク液面制御手段と、
液体燃料中の硫黄化合物の含有量を低減させる脱硫剤が充填された脱硫器と、
前記脱硫器を加熱する加熱器と、
前記1次燃料タンクから前記脱硫器に液体燃料を送出する送液昇圧ポンプと、
並列に設けられてそれぞれ前記脱硫器で脱硫された液体燃料を供給されてその液体燃料から気体を分離する主気液分離部およびバイパス燃料気液分離部を備えて、前記主気液分離部の液相が所定の体積を超えると前記バイパス燃料気液分離部の液相に流れ込むように形成された気液分離器と、
前記主気液分離部でガスが分離された液体燃料を貯蔵し、気相が大気と連通した2次液体燃料タンクと、
前記主気液分離部の気相および前記バイパス燃料気液分離部の気相と連通する気抜き配管と、
前記バイパス燃料気液分離部の液相から前記1次燃料タンクに延びる液体燃料リサイクル配管と、
前記バイパス燃料気液分離部の液面の高さが所定の高さ以上になるように制御するバイパス燃料気液分離部液面制御手段と、
前記脱硫器の運転時に前記加熱器に前記脱硫器を脱硫器運転温度T1以上に加熱させ、前記脱硫器の降温時に前記脱硫器の温度が前記脱硫器運転温度T1より低いポンプ運転停止温度T3以下になったときに前記送液昇圧ポンプの運転を停止させる制御器と、
前記2次液体燃料タンクに貯蔵された液体燃料を供給されて水素を含む改質ガスを生成させる改質装置と、
前記改質装置から改質ガスを供給されて発電する燃料電池本体と、
を有し、前記1次液体燃料タンクの容積Vmaxが、前記脱硫器の容積をVd、前記脱硫器中の前記脱硫剤の充填率をα、前記脱硫器運転温度T1での液体燃料密度をρ1、前記ポンプ運転停止温度T3での液体燃料密度をρ3、前記1次燃料タンク中の液体燃料の温度T4での液体燃料の密度をρ4としたときに、
Vmax≧Vnom+Vd×(1−α)×(ρ3−ρ1)÷ρ4
を満足することを特徴とする燃料電池発電システム。
【請求項10】
前記改質装置は、改質器本体と、前記改質器本体を加熱するバーナ燃焼部とを備え、
前記気抜き配管は前記バーナ燃焼部に接続されていることを特徴とする請求項9に記載の燃料電池発電システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−280756(P2010−280756A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133077(P2009−133077)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(301060299)東芝燃料電池システム株式会社 (358)
【Fターム(参考)】