説明

液体状態検知センサ

【課題】液体の温度検知と濃度検知とを発熱抵抗体を有する一つの素子で行え、また、液体凍結時におけるその素子の破損防止機能を有した液体状態検知センサを提供する。
【解決手段】発熱抵抗体への通電開始後に取得した発熱抵抗体の抵抗値に対応する電圧値に基づき尿素水溶液の温度情報を求め(S1〜S6)、凍結温度以下なら通電を停止して発熱抵抗体の損傷を防止する(S7:YES,S8)。凍結温度より高ければ(S7:NO)、700msec後に発熱抵抗体の抵抗値に対応した電圧値を取得し(S10,S11)、先に取得した電圧値と差分値ΔVから尿素水溶液の尿素濃度を求める。このとき、先に得た尿素水溶液の温度情報を用いて補正を行うことで、より正確な尿素濃度の検知を行う(S13〜S18)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体収容容器内に収容される液体の温度および当該液体に含まれる特定成分の濃度を検知する液体状態検知センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、例えばディーゼル自動車から排出される窒素酸化物(NOx)を無害なガスに還元する排ガス浄化装置にNOx選択還元触媒(SCR)を用いる場合があるが、その還元剤として尿素水溶液が用いられる。この還元反応を効率よく行うには、尿素濃度が32.5wt%の尿素水溶液を用いるとよいことが知られている。しかし、自動車に搭載される尿素水タンクに収容される尿素水溶液は、過酷な環境条件下で保管され、また経時変化などにより、その尿素濃度に変化を生ずる場合がある。また、尿素水タンクに誤って異種水溶液(例えば軽油)あるいは水が混入される可能性もある。こうしたことから、尿素水溶液の尿素濃度を管理できるように、尿素濃度を検知するための濃度センサが尿素水タンクに取り付けられ、濃度検知が行われている。
【0003】
ところで、尿素水溶液に含まれる尿素の濃度により熱伝導率に差異が生ずることから、通電により発熱させた発熱体の温度を感温体により測定し、その際の発熱体から感温体への熱伝導に液体による影響を与えれば、測定される発熱体の温度に、液体の濃度に応じた差異を生じさせることができる。そこで、発熱体に所定時間の通電を行い、その通電の前後に感温体で温度測定を行って発熱体の温度変化を求めれば、尿素濃度と発熱体の温度変化との相関関係から尿素水溶液に含まれる尿素の濃度の検知を行うことができる(例えば、特許文献1参照)。なお、尿素濃度と発熱体の温度変化との相関関係には液体の温度に対する依存性があることから、特許文献1では、上記感温体とは別体に設けた他の感温体を用いて尿素水溶液の温度測定を行い、その温度ごとの濃度と温度変化との相関関係に基づいて、尿素濃度の検知を行っている。また、特許文献1には、上記した他の感温体からの出力情報に基づき、尿素水溶液が凍結する温度まで低下していると検知された場合に警告を発することが記載されている。
【特許文献1】特開2005−84026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のように、発熱体に付随する感温体とは別体に他の感温体を設けて濃度識別センサー部を構成することで濃度センサが大きくなってしまったり、濃度検知を行うための回路構成が複雑になってしまったりするという問題があった。
【0005】
また、寒冷地などでは尿素水タンクに収容された尿素水溶液が凍結することがあり、このような場合、触媒に対して尿素水溶液を噴射することができないため、尿素水溶液の解凍を待つ必要がある。一方、特許文献1では、上述したように、発熱体に付随する感温体とは別に設けた他の感温体を用いて尿素水溶液の凍結を知らせることが記載されているが、凍結時における発熱体への処理については言及されていない。しかし、尿素水溶液の凍結時に、発熱体に所定時間の通電を行って尿素濃度を検知する処理が繰り返し実行されると、濃度識別センサー部が破損してしまう虞がある。より詳細には、尿素水溶液の凍結時に発熱体に所定時間の通電を行うと、その発熱に伴い濃度識別センサー部周りにある一部の尿素水溶液が解凍されるが、解凍したその一部の尿素水溶液は、大部分の尿素水溶液が依然として凍結した状態であれば再凍結を生ずるため、そのときの凍結膨張圧によって濃度識別センサー部が破損してしまうことがある。
【0006】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、液体の温度検知と濃度検知とを発熱抵抗体を有する一つの素子で行え、また、液体凍結時におけるその素子の破損を防止することができる液体状態検知センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明の液体状態検知センサは、液体収容容器内に収容される液体の状態を検知する液体状態検知センサであって、通電によって発熱する発熱抵抗体を有し、前記液体収容容器内に配置される液体性状検出素子と、前記発熱抵抗体に所定の検出時間通電を行う通電手段と、前記検出時間内に前記発熱抵抗体の第1抵抗値に対応した第1対応値を取得する第1対応値取得手段と、前記第1対応値に基づいて前記液体の温度情報を求める温度情報取得手段と、前記検出時間経過後に前記発熱抵抗体の第2抵抗値に対応した第2対応値を取得する第2対応値取得手段と、前記第2対応値と前記第1対応値との差分値を求める差分値算出手段と、前記差分値と前記温度情報とに基づいて前記液体に含まれる特定成分の濃度を求める濃度取得手段とを備えている。
【0008】
本発明の液体状態検知センサでは、液体性状検出素子が発熱抵抗体を有するが、発熱抵抗体は、自身の温度上昇に伴って抵抗値が変化する性質を有する。ここで、発熱抵抗体への通電前において、発熱抵抗体自身の温度は周囲の液体の温度とほぼ同一である。すなわち、発熱抵抗体への通電開始後間もない発熱抵抗体の抵抗値は、自身の発熱による影響がまだ少なく、周囲の液体の温度と相関関係にある。そこで、本発明では、発熱抵抗体への通電開始後の第1抵抗値に対応した第1対応値に基づいて、周囲の液体の温度を検知している。
【0009】
また、液体に含まれる特定成分の濃度によって、液体の熱伝導率が異なることから、発熱抵抗体を用いてその周囲の液体を一定時間加熱した場合、濃度の異なる液体では温度上昇率が異なることになる。そこで、本発明では、発熱抵抗体に所定の検出時間通電を行い、発熱抵抗体の通電開始後の第1抵抗値に対応した第1対応値と、発熱抵抗体への検出時間経過後の第2抵抗値に対応した第2対応値との差分値に基づき、発熱抵抗体の温度上昇の度合いを捉え、液体に含まれる特定成分の濃度を検知するようにしている。
【0010】
ところで、液体に含まれる特定成分の濃度が同一であっても、液体の温度が異なると、発熱抵抗体の温度上昇率(すなわち、上述した第2対応値と第1対応値との差分値の変化の度合い)が異なることになる。つまり、発熱抵抗体の温度上昇率は、液体の温度に対する依存性がある。そこで、本発明では、上記のように液体に含まれる特定成分の濃度を検知するにあたり、発熱抵抗体への通電開始後に取得した第1対応値をもとに求めた液体の温度情報を用いて、第2対応値と第1対応値との差分値を補正して濃度検知を行っている。このような構成とすることで、液体の温度に依存することなく、正確に液体に含まれる特定成分の濃度を検出することができる。なお、液体の温度情報を用いて差分値を補正するにあたっては、例えば、所定の濃度の参照液体に関する温度に対する差分値の相関関係を予め確認しておき、この相関関係をもとに作成したテーブル(マップ)や算出式を濃度取得手段に記憶させておくことで実行させることができる。
【0011】
さらに、本発明では、液体を発熱させる発熱体と感温体との機能を兼ねた発熱抵抗体を有する一つの液体性状検出素子(所謂、直熱形の液体性状検出素子)を用いて、液体の温度検知と濃度検知とを行うようにしている。これにより、液体状態検知センサの小型化を図ることができ、また構造や検知回路が複雑化するのを抑制することができる。
【0012】
また、請求項2に係る発明の液体状態検知センサは、液体収容容器内に収容される液体の状態を検知する液体状態検知センサであって、通電によって発熱する発熱抵抗体を有し、前記液体収容容器内に配置される液体性状検出素子と、前記発熱抵抗体に所定の検出時間通電を行う通電手段と、前記検出時間内に前記発熱抵抗体の第1抵抗値に対応した第1対応値を取得する第1対応値取得手段と、前記第1対応値に基づいて前記液体の温度情報を求める温度情報取得手段と、前記検出時間経過後に前記発熱抵抗体の第2抵抗値に対応した第2対応値を取得する第2対応値取得手段と、前記第2対応値と前記第1対応値との差分値を求める差分値算出手段と、前記差分値に基づいて前記液体に含まれる特定成分の濃度を求める濃度取得手段と、前記検出時間内に、前記温度情報取得手段によって得られた前記温度情報に基づき、前記液体が凍結しているか否かを判定する凍結判定手段と、前記凍結判定手段にて前記液体が凍結していると判定された場合に、前記通電手段による前記発熱抵抗体への通電を停止する通電停止手段とを備えている。
【0013】
この請求項2に係る発明の液体状態検知センサにおいても、液体を発熱させる発熱体と感温体との機能を兼ねた発熱抵抗体を有する一つの液体性状検出素子(所謂、直熱形の液体性状検出素子)を用いて、液体の温度検知と濃度検知とを行う構成を採用している。ただし、本発明では、このような構成を有する液体性状検出素子で温度検知と濃度検知とを行うが故に、液体が凍結しているか否かを検知するには発熱抵抗体に対して通電を行い、液体の温度情報を取得する必要がある。そして、液体の温度検知に続いて、発熱抵抗体への通電を所定の検出時間行って濃度検知を実行することになるが、液体が凍結していると、発熱抵抗体の発熱により液体のうち液体性状検出素子の周りに存在する一部の液体が部分的な解凍を生じる。しかし、解凍したその一部の液体は、大部分の液体が依然として凍結していれば再凍結を生ずるため、そのときの凍結膨張圧によって液体性状検出素子の破損を招きかねない。
【0014】
そこで、本発明では、まず、所定の検出時間の通電が発熱抵抗体に実行される前に、発熱抵抗体への通電開始後に温度情報取得手段によって取得された温度情報に基づいて液体が凍結しているか否かを判定するようにしている。そして、液体が凍結していると判定された場合に、その後の通電手段による発熱抵抗体への通電を強制的に停止するようにしている。このようにすることで、液体が凍結した場合であっても、液体性状検出素子が再凍結時の凍結膨張圧により破損するといった事態を回避することができ、信頼性の高い液体状態検知センサとすることができる。
【0015】
なお、本発明における第1対応値としては、発熱抵抗体の第1抵抗値に対応した値であればよく、具体的には電圧値や電流値、温度換算値を挙げることができる。また、本発明の第2対応値についても、発熱抵抗体の第2抵抗値に対応した値であればよい。ただし、本発明では、第2対応値と第1対応値との差分値を求める必要があるため、例えば第1対応値を電圧値とする場合には、第2対応値は同様に電圧値とする必要がある。また、後述するように第3対応値を取得する際にも、第1対応値との差分値を求める必要があるため、例えば第1対応値を電圧値とする場合と同様に電圧値とする必要がある。
【0016】
さらに、本発明において、第1対応値取得手段にて第1対応値を取得するタイミングとしては、発熱抵抗体への通電開始後、発熱抵抗体自身の温度が周囲の液体の温度とほぼ同一である期間内に取得すればよく、具体的には、発熱抵抗体への通電開始後100msec以内に第1対応値を取得すればよい。なお、発熱抵抗体への通電の開始時においては、発熱抵抗体に通電される電流が安定し難い傾向があるため、発熱抵抗体への通電開始後、2msecを経過し100msec以内(より望ましくは50msec以内)に、第1対応値を取得することが好ましい。
【0017】
さらに、上記の液体状態検知センサであって、請求項2に記載の発明の構成に加え、前記凍結判定手段は、前記温度情報が前記液体の凍結温度以下であった場合に、前記液体が凍結していると判定するように構成されているとよい。
【0018】
本発明の液体状態検知センサでは、温度情報取得手段により得られた温度情報が液体の凍結温度以下になったか否かを判定して、液体の凍結の有無を判定するようにしている。これにより、液体の凍結の有無を速やかに判定することができ、液体が凍結していると判定された場合に発熱抵抗体への通電を速やかに停止することが可能となる。その結果、液体が凍結した場合であっても、液体性状検出素子が再凍結時の凍結膨張圧により破損するといった事態を効果的に回避することができる。
【0019】
さらに、上記の液体状態検知センサであって、請求項2に記載の発明の構成に加え、前記検出時間内で且つ前記第1対応値取得後に前記発熱抵抗体の第3抵抗値に対応した第3対応値を取得する第3対応値取得手段を備え、前記凍結判定手段は、前記温度情報が予め設定した温度しきい値以下となり、且つ、前記第3対応値と前記第1対応値との差分である中間差分値と凍結判定しきい値とが所定の大小関係を満たした場合に、前記液体が凍結していると判定するように構成されているとよい。
【0020】
ところで、液体は特定成分の濃度が変化すると、それに応じて液体の凍結温度も変化することがある。例えば、液体が尿素水溶液である場合、尿素の濃度が薄くなるに従い、凍結温度は高くなる。そのため、液体が凍結したか否かを判定するにあたり、液体の温度情報と予め設定された凍結温度とを比較するだけでは、液体に含まれる特定成分の濃度が経時的に変化した場合に精度良く液体の凍結を検知できない虞がある。
【0021】
そこで、本発明の液体状態検知センサでは、温度情報取得手段により得られた温度情報と予め設定した温度しきい値とを比較しつつ、第3対応値と第1対応値との差分である中間差分値と凍結判定しきい値とを比較するようにしている。そして、温度情報が温度しきい値以下となり、且つ、中間差分値が凍結判定しきい値と所定の大小関係を満たした場合に、液体が凍結していると判定するようにしている。なお、ここでいう「所定の大小関係」としては、[1]中間差分値<凍結判定しきい値、[2]中間差分値≦凍結判定しきい値を例示できる。このように、温度情報と温度しきい値との比較および中間差分値と凍結判定しきい値との比較といった二段階での凍結の有無を判定するようにすれば、液体に含まれる特定成分の濃度が変化した場合にも、精度良く液体の凍結の有無を判定することができる。
【0022】
また、上記の液体状態検知センサであって、請求項2乃至4のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記通電手段は、前記発熱抵抗体への通電が停止されてから待機時間経過後に、再度、前記発熱抵抗体への通電を開始するように構成されており、前記待機時間として、前記通電手段により前記検出時間の通電が行われた場合には第1待機時間を選択し、前記通電停止手段によって前記発熱抵抗体への通電が停止された場合には前記第1待機時間より短い第2待機時間を選択する待機時間選択手段を備えるとよい。
【0023】
本発明の液体状態検知センサでは、待機時間を設けて発熱抵抗体の温度が周囲の液体の温度とほぼ等しくなるまで待機させることで、正確な液体の温度検知と特定成分の濃度検知を繰り返し行うことができる。ここで、液体が凍結していると判定された場合には、上記のように発熱抵抗体への強制的な通電停止が行われるが、発熱抵抗体への検出時間の通電がほとんど行われないため、発熱抵抗体はあまり加熱されずに周囲の液体とほぼ等しい温度に曝される。そこで、本発明では、液体が凍結していると判定されて発熱抵抗体への通電停止が行われた場合には、次に発熱抵抗体に通電が行われるまでの待機時間を短くしている。これにより、液体温度の再検知を迅速に繰り返すことができ、液体が解凍したことを迅速に判断することができ、液体解凍後、速やかに濃度検知を行うことができる。
【0024】
また、上記の液体状態検知センサであって、請求項1乃至5のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記差分値算出手段にて得られた前記差分値を用い、前記液体収容容器内の異常の有無を判断する異常判断手段を備え、前記濃度取得手段は、前記差分値のうちで前記異常判断手段にて異常なしと判断された場合にのみ、前記濃度取得手段により、前記液体に含まれる特定成分の濃度を求めるように構成するとよい。
【0025】
このように、液体に含まれる特定成分の濃度検知を行う際に取得される差分値が正常な範囲から逸脱していた場合に異常が生じたと判断することで、例えば、液体収容容器内に収容された液体が軽油等の異種液体であるとか、液体収容容器内が空であるなどの異常が発生したことを報知したり、液体を利用する装置の作動に制限を生じさせたりすることができる。また、正常な範囲の差分値に基づいて液体に含まれる特定成分の濃度を求めることから、濃度の検知精度を高めることができる。
【0026】
また、上記の液体状態検知センサであって、請求項1乃至6のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記通電手段は、前記発熱抵抗体に定電流を通電するように構成されており、前記第1対応値取得手段は、電圧値である第1対応値を取得し、前記第2対応値取得手段は、電圧値である第2対応値を取得するとよい。
【0027】
このように、通電手段が発熱抵抗体に定電流を通電するように構成し、第1対応値取得手段が電圧値である第1対応値を取得し、第2対応値取得手段が電圧値である第2対応値を取得するように構成することで、回路構成を単純化しつつ精度のよい差分値を取得することができ、液体状態検知センサを安価に提供することができる。
【0028】
また、上記の液体状態検知センサであって、請求項1乃至7のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記液体性状検出素子は、セラミック基体中に前記発熱抵抗体が埋設されたセラミックヒータであるとよい。液体性状検出素子をセラミックヒータにて構成することにより、耐久性、耐腐食性に優れ、液体の温度と液体に含まれる特定成分の濃度との検知を長期間にわたって安定して行うことができる。
【0029】
また、上記の液体状態検知センサであって、請求項1乃至8のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記液体は尿素水溶液であって、前記特定成分を尿素とすることができる。これにより、尿素水溶液の温度と、尿素水溶液に含まれる尿素の濃度を検知することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明を具体化した液体状態検知センサの一実施の形態について、図面を参照して説明する。まず、図1,図2を参照して、一例としての液体状態検知センサ100の構造について説明する。図1は、液体状態検知センサ100の一部切欠縦断面図である。図2は、セラミックヒータ110のヒータパターン115を示す模式図である。なお、液体状態検知センサ100においてレベル検知部70(外筒電極10および内部電極20から構成されるコンデンサ)の長手方向を軸線O方向とし、液体性状検知部30が設けられる側を先端側、取付部40が設けられる側を後端側とする。
【0031】
本実施の形態の液体状態検知センサ100は、ディーゼル自動車の排気ガス中に含まれる窒素酸化物(NOx)の還元に使用される尿素水溶液の状態、つまりは尿素水溶液のレベル(液位)、温度、およびその溶液に含まれる特定成分としての尿素の濃度を検知するためのセンサである。図1に示すように、液体状態検知センサ100は、円筒形状を有する外筒電極10、およびその外筒電極10の内部にて外筒電極10の軸線O方向に沿って設けられた円筒状の内部電極20から構成されるレベル検知部70と、内部電極20の先端側に設けられた液体性状検知部30と、液体状態検知センサ100を尿素水タンク98(図3参照)に取り付けるための取付部40とを備えて構成される。
【0032】
外筒電極10は金属材料からなり、軸線O方向に延びる長細い円筒形状を有する。外筒電極10の外周上にて周方向に等間隔となる3本の母線上には、各母線に沿ってそれぞれ複数の細幅のスリット15が断続的に開口されている。また、外筒電極10の先端部11において、上記スリット15が形成された各母線上には、後述する内部電極20との間に介在されるゴムブッシュ80の抜け防止のための開口部16がそれぞれ設けられている。さらに、外筒電極10の後端側の基端部12に近い位置で、スリット15が形成された各母線とは異なる母線上には、1つの空気抜孔19が形成されている。また、外筒電極10の先端部11は、後述する液体性状検知部30のセラミックヒータ110の径方向周囲を、そのセラミックヒータ110を覆って保護するプロテクタ130ごと包囲するように、開口部16の位置よりさらに軸線O方向先端側に延長されている。そして最先端部(図中最下部)は開口されており、液体性状検知部30を構成するプロテクタ130が開口側から視認可能な状態となっている。
【0033】
次に、外筒電極10は、基端部12が金属製の取付部40の電極支持部41の外周に係合した状態で溶接されている。取付部40は尿素水タンク98に液体状態検知センサ100を固定するための台座として機能し、取り付けボルトを挿通するための取り付け孔(図示外)が鍔部42に形成されている。また、取付部40の鍔部42を挟んで電極支持部41の反対側には、後述する尿素水溶液のレベル、温度、尿素濃度などを検知するための回路や、図示外の外部回路(例えば自動車のエンジン制御装置(ECU))との電気的な接続を行うための入出力回路等が搭載された回路基板60などを収容する収容部43が形成されている。なお、この取付部40は、回路基板60に対し、そのグランド電位をなす配線部(図示しない)と同電位となるように接続されているため、外筒電極10は取付部40を介して接地されている。
【0034】
回路基板60は、収容部43の内壁面の四隅より突出する基板載置部(図示外)上に載置されている。収容部43はカバー45に覆われ保護されており、そのカバー45は、鍔部42に固定されている。また、カバー45の側面にはコネクタ62が固定されており、コネクタ62の接続端子(図示外)と回路基板60上のパターン(後述する入出力回路部290)とが配線ケーブル61によって接続されている。このコネクタ62を介し、回路基板60とECUとの接続が行われる。
【0035】
取付部40の電極支持部41には収容部43内に貫通する孔46が開口されており、この孔46内に、内部電極20の基端部22が挿通されている。本実施の形態の内部電極20は軸線O方向に延びる長細い円筒形状をした金属材料からなる。この内部電極20の外周面上には、PTFE、PFA、ETFE等のフッ素系樹脂やエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などからなる絶縁性被膜23が形成されている。絶縁性被膜23は、このような樹脂をディッピングもしくは静電粉体塗装により内部電極20の外表面上に塗布し、熱処理することにより、樹脂コーティング層の形態で形成される。この内部電極20と外筒電極10との間で、尿素水溶液のレベルに応じて静電容量が変化するコンデンサを形成してなるレベル検知部70が構成されている。
【0036】
内部電極20の軸線O方向後端側の基端部22には、内部電極20を取付部40に固定するためのパイプガイド55とインナーケース50が係合されている。パイプガイド55は、内部電極20の基端部22の端縁寄りに接合された環状のガイド部材である。インナーケース50は内部電極20と外筒電極10とが確実に絶縁されるように内部電極20を位置決め支持する鍔付き筒状の樹脂製部材であり、先端側が取付部40の電極支持部41の孔46に係合する。インナーケース50には径方向外側に向かって突出する鍔部51が形成されており、インナーケース50が電極支持部41に係合される際には、収容部43側から電極支持部41の孔46に挿通される。そして、鍔部51が収容部43内の底面に当接することで、インナーケース50が孔46内を通り抜けることが防止される。また、内部電極20は、収容部43側からインナーケース50の内側に挿通されるが、パイプガイド55が鍔部51に当接することで、インナーケース50からの脱落が防止される。
【0037】
さらに、インナーケース50の外周と内周とには、それぞれ、Oリング53とOリング54とが設けられている。Oリング53は、インナーケース50の外周と取付部40の孔46との間の隙間を密閉し、Oリング54は、インナーケース50の内周と内部電極20の基端部22の外周との間の隙間を密閉している。これにより、液体状態検知センサ100が尿素水タンク98(図3参照)に取り付けられた際に、尿素水タンク98の内部と外部とが収容部43を介して連通しないように、その水密性および気密性が保たれる。なお、取付部40の鍔部42の先端側の面には図示外の板状のシール部材が装着され、液体状態検知センサ100を尿素水タンク98に取り付けた際に、鍔部42と尿素水タンクとの間の水密性および気密性が保たれるようになっている。
【0038】
そして、内部電極20の取付部40への組み付けの際には、2枚の押さえ板56,57によって、パイプガイド55がインナーケース50の鍔部51に対して押圧される。絶縁性の押さえ板56は、パイプガイド55との間に押さえ板57を挟み、パイプガイド55を押圧した状態で、ネジ58によって収容部43内に固定される。これにより、パイプガイド55に接合された内部電極20が電極支持部41に固定されることとなる。押さえ板56,57には中央に孔59が開口されており、内部電極20の電極引出線52と、後述するセラミックヒータ110との電気的な接続を行う2本のリード線90(図1では一方のリード線90のみを表示している。)を内包する2芯のケーブル91とが挿通され、それぞれ回路基板60上のパターンに電気的に接続されている。回路基板60のグランド側の電極(図示外)は取付部40に接続されており、これにより、取付部40に溶接された外筒電極10がグランド側に電気的に接続される。
【0039】
次に、内部電極20の先端部21に設けられた液体性状検知部30は、本実施の形態では尿素水溶液の温度および含有される尿素の濃度の検出を行う液体性状検出素子としてのセラミックヒータ110と、セラミックヒータ110を支持すると共に、内部電極20の先端部21に装着される絶縁性樹脂製のホルダ120と、ホルダ120から露出されたセラミックヒータ110の周囲を覆って保護するプロテクタ130とを備えて構成される。
【0040】
図2に示すように、セラミックヒータ110は、絶縁性セラミックからなる板状のセラミック基体111上にPtを主体とするヒータパターン115を形成し、対となるセラミック基体(図示せず)で挟みヒータパターン115を埋設した状態に形成したものである。発熱抵抗体114を構成するパターンの断面積を、電圧印加のための両極となるリード部112,113のパターンよりも小さくするようにして、通電時、主に発熱抵抗体114において発熱が行われるようにしている。また、リード部112,113の両端には、それぞれセラミック基体111の表面に設けられた電極パッドに導通するビア導体(図示外)がつながっており、2本のリード線90との接続を中継する2つのコネクタ119(図1では共に一方のみを表示している。)のそれぞれと電気的に接続されている。なお、セラミックヒータ110が、本発明における「液体性状検出素子」に相当する。
【0041】
次に、図1に示すように、セラミックヒータ110を支持するホルダ120は、外径が段違い状2段に構成された円筒形状を有し、小径となる先端側にて、発熱抵抗体114の埋設された側(図2参照)を露出した状態のセラミックヒータ110を、接着剤からなる固定部材125,126で固定している。そして大径側となる後端側が内部電極20の先端部21に装着されており、その内部電極20の外周面とホルダ120の内周面との間にシールリング140が介在され、内部電極20の内部の水密性および気密性が確保されている。
【0042】
ところで、ホルダ120の装着前に、セラミックヒータ110のコネクタ119にはケーブル91の2本のリード線90の芯線がそれぞれ加締めまたは半田付けにより接合される。さらに絶縁性の保護部材95により、コネクタ119とリード線90とが接合部位ごと覆われ保護される。そして、2つのリード線90は筒形状の内部電極20内を挿通され、上記回路基板60に接続されている。
【0043】
次に、プロテクタ130は、有底円筒形状に形成された金属製の保護部材である。開口側がホルダ120の小径部分の外周に嵌合されている。また、プロテクタ130の外周上には液体流通孔(図示外)が開口されており、プロテクタ130の内外での尿素水溶液の交換が行われる。
【0044】
そして、このような構成の液体性状検知部30は、内部電極20の先端部21にホルダ120を介し装着され、さらにゴムブッシュ80によって、外筒電極10内で弾性的に支持される。ゴムブッシュ80は円筒形状を有し、その外周面上に形成された突起部87が、外筒電極10の開口部16に係合されて固定される。また、ゴムブッシュ80の外周面と内周面とのそれぞれには、軸線O方向に沿った複数の溝(図示外)が溝設されている。液体状態検知センサ100が尿素水タンク98に取り付けられた際に、この溝を介し、ゴムブッシュ80の先端側に流入する尿素水溶液と、後端側に流入する尿素水溶液との液交換や気泡抜きが行われる。
【0045】
次に、図3を参照して、液体状態検知センサ100の電気的な構成について説明する。図3は、液体状態検知センサ100の電気的な構成を示すブロック図である。
【0046】
図3に示すように、液体状態検知センサ100は液体収容容器としての尿素水タンク98に取り付けられ、一対の電極(外筒電極10および内部電極20)を備えたレベル検知部70と、発熱抵抗体114が埋設されたセラミックヒータ110を備えた液体性状検知部30とが、尿素水タンク98に収容された状態検知対象の液体としての尿素水溶液に浸漬される。液体状態検知センサ100は、回路基板60上にマイクロコンピュータ220を搭載し、レベル検知部70の制御を行うレベル検知回路部250と、液体性状検知部30の制御を行う液体性状検知回路部280と、ECUとの通信を行う入出力回路部290とが接続されている。
【0047】
マイクロコンピュータ220は公知の構成からなるCPU221,ROM222,RAM223を備える。CPU221は、液体状態検知センサ100の制御を司り、ROM222には図示外の各種記憶エリアが設けられ、後述する性状検知プログラムや後述する(1)〜(5)の式、各種変数の初期値、閾値等が所定の記憶エリアに記憶されている。同様に、RAM223にも各種記憶エリアが設けられており、性状検知プログラムの実行時には、プログラムの一部や、各種変数、タイマーカウント値などが一時的に所定の記憶エリアに記憶される。
【0048】
入出力回路部290は、液体状態検知センサ100とECUとの間での信号の入出力を行うため、通信プロトコルの制御を行う。また、レベル検知回路部250は、マイクロコンピュータ220の指示に基づき、レベル検知部70の外筒電極10と内部電極20との間に交流電圧を印加し、レベル検知部70をなすコンデンサを流れた電流を電圧変換して、その電圧信号をマイクロコンピュータ220に出力する回路部である。
【0049】
次に、液体性状検知回路部280は、マイクロコンピュータ220の指示に基づき、液体性状検知部30のセラミックヒータ110に定電流を流し、発熱抵抗体114の両端に発生する検出電圧をマイクロコンピュータ220に出力する回路部である。液体性状検知回路部280は、差動増幅回路部230、定電流出力部240、スイッチ260から構成される。
【0050】
定電流出力部240は、発熱抵抗体114に流す定電流を出力する。スイッチ260は、発熱抵抗体114への通電経路上に設けられ、マイクロコンピュータ220の制御に従ってスイッチの開閉を行う。差動増幅回路部230は、発熱抵抗体114の一端に現れる電位Pinと他端に現れる電位Poutとの差分を検出電圧としてマイクロコンピュータ220に出力する。
【0051】
次に、本実施の形態の液体状態検知センサ100により、尿素水溶液のレベル、温度および尿素濃度を検知する原理について説明する。まず、図4を参照し、レベル検知部70において尿素水溶液のレベルを検知する原理について説明する。図4は、外筒電極10と内部電極20とのギャップ間に満たされた尿素水溶液の水面近傍の拡大断面図である。
【0052】
液体状態検知センサ100(図1参照)は、尿素水溶液を収容した尿素水タンク98(図3参照)に、その底壁側に外筒電極10および内部電極20の先端側を向けた状態で組み付けられる。つまり液体状態検知センサ100のレベル検知部70は、尿素水タンク98内で容量の変化する尿素水溶液の変位方向(尿素水溶液のレベルの高低方向)を軸線O方向とし、外筒電極10および内部電極20の先端側が尿素水溶液の容量の少ない側(低レベル側)となるように、尿素水タンク98に組み付けられる。そして、外筒電極10と内部電極20とのギャップ間の静電容量を測定し、両者間に存在する尿素水溶液が軸線O方向においてどれだけのレベルまで存在しているか検知している。これは周知のように、径方向の電位の異なる2点間において、その径の差が小さくなるほど静電容量の大きさが大きくなることに基づく。
【0053】
すなわち、図4に示すように、尿素水溶液で満たされていない部分においては、ギャップ間で電位差の生じる部位の距離は、外筒電極10の内周面と絶縁性被膜23との間に介在する空気層の厚みに相当する距離(距離Yで示す)と、絶縁性被膜23の厚みに相当する距離(距離Zで示す)との合計の距離(距離Xで示す)となる。一方、尿素水溶液が満たされた部分において、ギャップ間で電位差の生じる部位の距離は、尿素水溶液が導電性を示すため外筒電極10と尿素水溶液との電位がほぼ等しくなることから、絶縁性被膜23の厚みに相当する距離Zとなる。
【0054】
換言すれば、尿素水溶液で満たされていない部分におけるギャップ間の静電容量は、電極間の距離がYで空気を誘電体(不導体)とするコンデンサの静電容量と、電極間の距離がZで絶縁性被膜23を誘電体とするコンデンサとを直列に接続したコンデンサの合成の静電容量といえる。また、尿素水溶液で満たされた部分におけるギャップ間の静電容量は、電極間の距離がZで絶縁性被膜23を誘電体とするコンデンサの静電容量といえる。そして両者を並列に接続したコンデンサの静電容量が、レベル検知部70全体の静電容量として測定されることとなる。
【0055】
ここで距離Zと比べ距離Yは大きく構成されているため、空気を誘電体とする電極間の単位当たりの静電容量は、絶縁性被膜23を誘電体とする電極間の単位当たりの静電容量よりも小さい。このため、尿素水溶液で満たされていない部分の静電容量の変化よりも尿素水溶液で満たされた部分の静電容量の変化の方が大きく、外筒電極10および内部電極20からなるコンデンサ全体としての静電容量は、尿素水溶液のレベルに比例する。
【0056】
このような尿素水溶液のレベルの測定は、レベル検知回路部250を介してマイクロコンピュータ220にて行われ、得られたレベル情報信号は、入出力回路部290から図示外のECUに対して出力される。
【0057】
次に、図5〜図7を参照し、液体性状検知部30を構成するセラミックヒータ110において、尿素水溶液の温度と、尿素水溶液に含まれる特定成分としての尿素の濃度を検知する原理について説明する。図5は、尿素濃度が32.5wt%、温度が25℃の尿素水溶液を例に、発熱抵抗体への定電流の通電を開始してから時間の経過と共に発熱抵抗体自身の温度上昇に伴い、その抵抗値に対応した電圧値が上昇する様子を示すグラフである。図6は、発熱抵抗体の電圧値変化(差分値ΔV)と尿素水溶液の尿素濃度とが比例関係にあり、且つ、温度依存性があることを示すグラフである。図7は、発熱抵抗体の電圧値変化(差分値ΔV)と尿素水溶液の尿素濃度との関係を、尿素水溶液の温度により補正したところ、補正された濃度(換算濃度)と尿素濃度とがほぼ一致することを示すグラフである。
【0058】
通電開始後間もない時間内では、発熱抵抗体の発熱がまだ大きくなされていないため、発熱抵抗体自身の温度は、自身の周囲に存在する液体の温度とほぼ同一である。このことは、図5のグラフに示される。発熱抵抗体へ定電流を流し始めた後(ただし、通電開始後、電流値が安定となるまで約10msecを要する。)より、時間の経過と共に発熱抵抗体自身の温度が連続的に上昇していくことが示される。
【0059】
このことから、発熱抵抗体への通電開始から10msec経過時の抵抗値に対応した電圧値と、周囲に存在する尿素水溶液の温度との相関関係を予め確認しておけば、尿素水溶液の温度を測定することが可能である。以下に、発熱抵抗体への通電後の抵抗値と、その周囲に存在する尿素水溶液の温度との関係を表す式を示す。
=R(1+αT)・・・(1)
なお、Rは、T℃における発熱抵抗体の抵抗値を示すが、発熱抵抗体への通電を開始した際において、発熱抵抗体の周囲の液体の温度もT℃である。また、Rは、0℃における発熱抵抗体の抵抗値(Ω)を示す。αは、0℃基準の温度係数を示すが、発熱抵抗体を構成する材料によって決まるものである。従って、(1)の式から、発熱抵抗体の抵抗値が周囲の温度に比例することがわかる。
【0060】
また、オームの法則より、
=V/I・・・(2)
で示されるが、発熱抵抗体には定電流が流されるため、電流値I(A)は一定である。すなわち、発熱抵抗体の電圧値V(本実施の形態では、差動増幅回路部230より出力される電圧値(V))は、(2)の式から抵抗値R(Ω)に比例し、(1)の式から周囲の温度に比例することがわかる。
【0061】
次に、発熱抵抗体への通電が継続された場合、発熱抵抗体自身の温度は周囲に存在する液体に奪われるが、それら液体の熱伝導率によって発熱抵抗体の奪われる熱量は異なる。つまり、周囲に存在する液体の熱伝導率に応じて発熱抵抗体の温度上昇率は異なってくる。また、液体に含まれる特定成分の濃度によって、液体の熱伝導率が異なることが知られている。このことから、発熱抵抗体を液体に浸漬させ、その液体を一定時間加熱した場合、発熱抵抗体の抵抗値変化の度合いが求まれば周囲の液体の熱伝導率の違いを見いだすことができ、液体の濃度を得ることができる。
【0062】
このことは、図6のグラフに示される。例えば、温度25℃の尿素水溶液に浸漬した発熱抵抗体に700msec通電した場合、尿素水溶液の尿素濃度が0wt%のときには発熱抵抗体の抵抗値変化に対応した電圧値変化は1220mVとなり、16.25wt%,32.5wt%のときにはそれぞれ1262mV,1298mVとなる。すなわち、尿素水溶液の尿素濃度が高くなるに従って熱伝導率が低くなり、発熱抵抗体は熱が奪われにくくなるので温度上昇率が大きくなり、その結果、発熱抵抗体の抵抗値変化が大きくなって、その抵抗値変化に対応した電圧値変化(図中ΔVで示す。)が大きくなることが示される。
【0063】
このように、尿素水溶液の尿素濃度と発熱抵抗体の抵抗値変化(電圧値変化)との間には、図6に示されるような比例関係があることがわかる。以下に、発熱抵抗体の周囲の尿素水溶液の尿素濃度と、発熱抵抗体の抵抗値変化に対応した電圧値変化(差分値ΔV)との関係を表す式を示す。
ΔV=aC+b・・・(3)
なお、ΔVは発熱抵抗体の通電開始後の抵抗値に対応した電圧値と、通電後一定の検出時間(例えば700msec)経過した後の抵抗値に対応した電圧値との差分値(mV)を示す。また、Cは尿素水溶液中の尿素濃度(wt%)を示す。aは、尿素水溶液の温度T℃におけるΔV−C直線の傾きを示し、bは、尿素水溶液の温度T℃におけるΔV−C直線の切片を示す。
【0064】
一方、尿素水溶液に含まれる尿素の濃度が同一であっても、尿素水溶液の温度が異なると、発熱抵抗体の温度上昇率(すなわち、電圧値変化)が異なる。つまり、発熱抵抗体の温度上昇率は、尿素水溶液の温度に対する依存性がある。
【0065】
このことは、上記同様、図6のグラフに示される。例えば、発熱抵抗体に700msec通電し、尿素濃度が32.5wt%、温度が25℃の尿素水溶液を加熱した場合、発熱抵抗体の抵抗値変化に対応した電圧値変化(差分値ΔV)は1298mVとなるのに対し、同濃度で温度が80℃の尿素水溶液に対して発熱抵抗体に700msec通電した場合、電圧値変化は1440mVとなる。すなわち、尿素水溶液の尿素濃度が一定である場合、尿素水溶液の温度が低いほど発熱抵抗体の抵抗値変化が小さくなって、抵抗値変化に対応した電圧値変化が小さくなることが示される。
【0066】
このように、尿素水溶液の尿素濃度と発熱抵抗体の抵抗値変化(電圧値変化)との関係には、尿素水溶液の温度に対する依存性があることがわかる。従って、(3)の式に、(1),(2)の式から求まる尿素水溶液の温度によって補正(キャリブレーション)を行うことで、正確な尿素濃度の算出を行うことができる。以下に、尿素水溶液の温度により補正を行うための式を示す。
=a25+x(T−25)・・・(4)
=b25+y(T−25)・・・(5)
なお、a25は、尿素水溶液の温度が25℃の場合におけるΔV−C直線の傾きを示し、xはその直線の傾きの温度補正係数である。同様に、b25は、尿素水溶液の温度が25℃の場合におけるΔV−C直線の切片を示し、yはその直線の切片の温度補正係数である。
【0067】
なお、上記(3),(4),(5)に示される式に相応した補正値を実験等によって求めたところ、a25=2.3,b25=1.223,x=0.015,y=2.45が得られた。これらの値を用いれば、補正により得られる尿素水溶液の濃度(換算濃度)と、実際の尿素濃度とが、ほぼ一致することが図7に示された。
【0068】
本実施の形態の液体状態検知センサ100では、このような原理に基づいて、尿素水溶液のレベル、温度および尿素濃度の検知が行われる。特に、尿素水溶液の温度および尿素濃度の検知は、マイクロコンピュータ220のROM222に記憶された性状検知プログラムを実行することによって行われる。以下、図3,図8,図9を参照して、性状検知プログラムについて説明する。図8は、性状検知プログラムのフローチャートである。図9は、空焚きおよび異種液体を判別するための閾値Q,Rを説明するためのグラフである。なお、図8におけるフローチャートの各ステップを「S」と略記する。
【0069】
ECUからの指示に基づき尿素水溶液の状態検知が行われる際には、ROM222に記憶された性状検知プログラムがRAM223の所定の記憶エリアに読みこまれ、実行される。図8に示すように、マイクロコンピュータ220(図3参照)からスイッチ260に制御信号が送信されると、スイッチが閉じられ、定電流出力部240から発熱抵抗体114への通電が開始される(S1)。そして、別途実行されているタイマープログラム(図示外)のカウント値が参照され、通電開始から10msecが経過するまで待機が行われる(S2:NO)。前述したように、発熱抵抗体への通電開始後、電流値が安定となる時間である初期通電時間として10msecが設定されており、この処理により、その10msec間にS3における電圧値の測定が行われることはない。
【0070】
そして10msecが経過すれば(S2:YES)、S3に進み、差動増幅回路部230により発熱抵抗体114の検出電圧が測定され、その検出電圧がマイクロコンピュータ220に入力される(S3)。なお、S3で差動増幅回路部230により測定された通電開始後の発熱抵抗体114の検出電圧値が、本発明の「第1対応値」に相当し、その電圧値を取得するCPU221が、本発明における「第1対応値取得手段」に相当する。
【0071】
マイクロコンピュータ220では、入力された発熱抵抗体114の電圧値をVとし、(1),(2)の式に基づく計算が行われ、発熱抵抗体114の周囲の尿素水溶液の温度Tが求められる。算出された温度Tは温度情報信号として、入出力回路部290からECUに対して送信される(S6)。なお、S6で尿素水溶液の温度Tの算出を行うCPU221が、本発明における「温度情報取得手段」に相当する。
【0072】
一方、算出された尿素水溶液の温度Tが、予めROM222に記憶された尿素水溶液の凍結温度(−11℃)と比較され(S7)、凍結温度以下であった場合(S7:YES)、液体が凍結していると判断してスイッチ260に制御信号が送信されて、スイッチが開けられ、発熱抵抗体114への通電が停止される(S8)。そして別途実行されているタイマープログラム(図示外)のカウント値が参照され、通電停止後1secが経過するまで待機が行われる(S9:NO)。この待機時間は、約10msec通電された発熱抵抗体114自身の温度が周囲の尿素水溶液の温度と同一となるのに十分な時間として設定されている。1secが経過すればS1に戻り、周囲の尿素水溶液の温度と等しくなった発熱抵抗体114の温度検知が再び開始される。(S9:YES)。なお、S7で尿素水溶液の温度Tが凍結温度以下か否かを判断するCPU221が、本発明における「凍結判定手段」に相当し、S8で発熱抵抗体114への通電を停止するようにスイッチ260への制御信号を出力するCPU221が、本発明における「通電停止手段」に相当する。さらに、S7で尿素水溶液の温度Tが凍結温度以下か否かを判断することで、S9,S22における待機時間のいずれか一方の処理が行われるようにするCPU221が、本発明における「待機時間選択手段」に相当する。
【0073】
発熱抵抗体114の周囲の尿素水溶液の温度Tが凍結温度以下であるうちは、発熱抵抗体114の熱により一度解凍された尿素水溶液が再び凍結する虞があり、そのときの凍結膨張圧によりセラミックヒータ110が破損する虞があるため、S1〜S9の処理が繰り返され、尿素水溶液の温度Tの監視が行われる。そして、尿素水溶液の温度Tが凍結温度より大きくなれば(S7:NO)、タイマープログラムのカウント値の参照により、発熱抵抗体114への通電が継続されたまま、700msecが経過するまで待機が行われる(S10:NO)。
【0074】
発熱抵抗体114への通電開始後700msecが経過すると(S10:YES)、S3と同様に、差動増幅回路部230により測定された発熱抵抗体114の検出電圧がマイクロコンピュータ220に入力される(S11)。この電圧測定が終了すれば、マイクロコンピュータ220からスイッチ260の制御信号が出力され、発熱抵抗体114への通電が停止される(S12)。なお、S11で、差動増幅回路部230により測定された発熱抵抗体114への通電後700msecが経過した時点での発熱抵抗体114の検出電圧値が、本発明の「第2対応値」に相当し、その電圧値を取得するCPU221が、本発明における「第2対応値取得手段」に相当する。また、S1で定電流出力部240から発熱抵抗体114への通電を開始し、S10で700msecの待機を行った後、S12で通電を停止するように、スイッチ260の制御信号を出力するCPU221が、本発明における「通電手段」に相当する。
【0075】
そして、S3で得られた発熱抵抗体114の電圧値を、S11で得られた700msecが経過した時点での発熱抵抗体114の電圧値から減算した差分値ΔVの計算が行われる(S13)。算出された差分値ΔVが、予め実験等により決定されROM222に記憶された、尿素水溶液の尿素濃度の取りうる値に基づく電圧値変化の最大値(閾値Q:図9参照)よりも小さければ(S14:YES)、差分値ΔVの値が正常な値の範囲内にある正常差分値であるとして、S18に進んで(3)〜(5)の式に基づく計算が行われ、尿素水溶液に含まれる尿素の濃度Cが求められる。なお、この場合の差分値(正常差分値)ΔVは、図9において、閾値Qより小さい、例えば大きさEの値をとる。そして算出された尿素濃度は濃度情報信号として、入出力回路部290からECUに対して送信される(S18)。なお、S13で差分値ΔVの算出を行うCPU221が、本発明の「差分値算出手段」に相当し、S18で尿素水溶液の尿素濃度Cの算出を行うCPU221が、本発明における「濃度取得手段」に相当する。
【0076】
その後、タイマープログラムのカウント値の参照により、60secが経過するまで待機が行われる(S22:NO)。この待機時間は、700msec通電された発熱抵抗体114自身の温度が周囲の尿素水溶液の温度と同一となるのに十分な時間として設定されている。60secの経過後にはS1に戻り(S22:YES)、あらためて、尿素水溶液の温度および尿素濃度の検知が行われることとなる。
【0077】
一方、S14において、算出された差分値ΔVが上記閾値Q以上であった場合(S14:NO)、予め実験等により決定されROM222に記憶された、発熱抵抗体114の周囲が空気である場合に取りうる電圧値変化の最小値(閾値R:図9参照)よりも大きければ(S19:YES)、空焚き状態であると判断され、空焚きを報知する報知信号が入出力回路部290を介してECUに送信される(S20)。なお、この場合、差分値ΔVは、図9において、閾値Rより大きい、例えば大きさGの値をとる。なお、S14,S19の判断処理により、異常が生じたと判断してS20もしくはS21の処理が行われるようにするCPU221が、本発明における「異常判断手段」に相当する。
【0078】
また、差分値ΔVが閾値R以下であっても(S19:NO)、閾値Q以上であることから発熱抵抗体114の周囲の液体が尿素水溶液ではない(例えば、軽油である。)と判断され、異種液体を報知する報知信号が入出力回路部290を介してECUに送信される(S21)。なお、この場合、差分値ΔVは、図9において、閾値Q以上、且つ、閾値R以下の、例えば大きさFの値をとる。そしていずれの報知が行われた場合でもS22に進み、60secの待機後にS1に戻り(S22:YES)、あらためて、尿素水溶液の温度および尿素濃度の検知が行われる。
【0079】
なお、本発明は各種の変形が可能なことはいうまでもない。例えば、上記実施の形態の性状検知プログラムでは、尿素水溶液の温度(S6)を(1),(2)の式に基づいて算出し、尿素濃度(S18)を(3)〜(5)の式に基づいて算出したが、予め実験等によりテーブルを作成し、ROM222の所定の記憶エリアに記憶させ、S6,S18の処理で参照することによってそれぞれ求めてもよい。
【0080】
また、S2,S9,S10,S22におけるそれぞれの待機時間は一例に過ぎず、実験等により最適な待機時間を求め設定してもよい。さらには、S6において検出された尿素水溶液の温度にあわせ、S9,S22の待機時間がそれぞれ設定されるようにしてもよい。また、上記実施の形態では、S8の処理が行われるとS9の処理に移行したが、S9の処理を割愛し、S8の処理終了後S22の処理に移行するようにしてもよい。さらに、S7では、尿素水溶液の温度を算出後に尿素水溶液の凍結温度との比較を行ったが、通電開始から10msec経過時の発熱抵抗体114の電圧値を、予め実験等により求めた凍結温度(−11℃)に対応する発熱抵抗体114の電圧値と比較するようにしてもよい。
【0081】
また、回路基板60は、レベル検知部70および液体性状検知部30からの出力を中継する回路基板として設け、マイクロコンピュータ220等を搭載した外部回路と接続し、その外部回路の制御によって、レベル検知および温度・濃度検知が行われるようにしてもよい。
【0082】
さらに、上記実施の形態の液体状態検知センサ100では、外筒電極10および内部電極20を設け、尿素水溶液の液面レベルも検知するようにしたが、外筒電極10および内部電極20を設けなくともよい。また、上記実施の形態の液体状態検知センサ100では、液体性状検知回路部280に定電流出力部240を設け、発熱抵抗体114に定電流を流し、発熱抵抗体114の抵抗値に対応した電圧値を取得するようにした。しかし、例えば、液体性状検知回路部280に定電圧出力部を設け、発熱抵抗体114に定電圧をかけて、発熱抵抗体114に流れる電流に対応した電流値を出力して、尿素水溶液の温度・濃度検知を行うようにしてもよい。
【0083】
ところで、尿素水溶液が車両の振動等の影響によって激しく揺動したりすることがあると、測定される発熱抵抗体114の検出電圧値が一時的に高い値になったり、低い値になったりすることがある。このような場合、得られる温度情報や濃度情報が一時的に異常値を示すことがあるが、例えば、複数回分の電圧の測定値を記憶し、それらの平均値に基づき温度情報や濃度情報を取得すれば、より精度の高い温度情報や濃度情報を得ることが可能である。以下、図10を参照し、温度情報や濃度情報の精度をさらに高めることのできる性状検知プログラムの変形例について説明する。また、図10に示す変形形態としての性状検知プログラムは、上述した実施の形態の第1の性状検知プログラム(図8に示した性状検知プログラム)のように、液体が凍結しているか否かの判断処理が異なるものであり、後述するように二段階の判定を経て液体の凍結の有無を判定するものである。
【0084】
図10に示す第2の性状検知プログラムでは、本実施の形態の性状検知プログラムのS3とS6の間にS4,S5を、S14とS18の間にS15〜S17を追加した形態のものである。また、この第2の性状検知プログラムでは、上述したS7の処理に置き換わり、S31〜S35の処理が実行されるように構成されている。その他のステップについては本実施の形態と同様であり、同一のステップ番号で示し、説明については省略もしくは簡略化する。
【0085】
なお、第2の性状検知プログラムでは、S3において測定される通電開始後の発熱抵抗体114の検出電圧の値と、S13において算出される差分値ΔVの値とが、公知のメモリ管理法により、それぞれ新しいものから5つ、RAM223の所定の記憶エリアに記憶される。また、RAM223の所定の記憶エリアには、S3およびS15の処理の実行回数をカウントするカウンタがそれぞれ記憶されている。これら第2の性状検知プログラムの実行に使用するためRAM223に記憶される各種変数やカウンタ等の値は、第2の性状検知プログラムの実行時に初期値(例えば0)に設定される。
【0086】
図10に示すように、第2の性状検知プログラムでは、発熱抵抗体114への通電が開始され10msecが経過すると、発熱抵抗体114の検出電圧が測定されマイクロコンピュータ220に入力される(S1〜S3)。このとき、その検出電圧の値がRAM223の所定の記憶エリアに記憶されると共に、S3の処理の実行回数(すなわち、電圧値のサンプリング回数)をカウントするカウンタの値が1増加される。
【0087】
次のS4の処理では、S3の処理の実行回数カウンタの値が参照され、第2の性状検知プログラムの実行開始後、S3における検出電圧の測定が5回以上行われたか否か確認される(S4)。電圧値のサンプリングが5回未満であれば(S4:NO)、S6に進み、測定された電圧値をそのまま用いて本実施の形態と同様の温度換算が行われる。
【0088】
一方、5周目以降のS3の処理では、S3の処理の実行回数をカウントするカウンタの値も5以上となっている。このため、5周目以降のS4の処理では、サンプリングが5回以上行われたと判断されて(S4:YES)、S5に進む。なお、上記したように測定された検出電圧の値は最新の5つの電圧値までRAM223に記憶されるため、第2の性状検知プログラムの6周目以降のS3の処理では、最も古い電圧値が上書きされることとなる。
【0089】
S5では、繰り返し実行されたS3の処理によりRAM223の所定の記憶エリアに記憶された最新5つの電圧値から、最大値と最小値を除く3つの電圧値の平均値を算出する処理が行われる(S5)。そして算出された電圧値の平均値を用い、次のS6において、尿素水溶液の温度Tの算出が行われる。
【0090】
S6の処理を終えるとS31に進み、S6にて算出された尿素水溶液の温度Tが、予めROM222に記憶された温度しきい値(ここでは0℃に設定)と比較され、温度しきい値以下であった場合(S31:YES)、尿素水溶液が寒冷の雰囲気に晒されていると判断してS32に進む。また、S31にて、尿素水溶液の温度Tが温度しきい値以上であった場合には(S31:NO)、尿素水溶液は凍結していないと判断してS10に進む。
【0091】
次いで、S31にて肯定判定されてS32に進むと、タイマープログラムのカウント値の参照により、発熱抵抗体114の通電が継続されたまま、300msecが経過するまで待機が行われる(S32:NO)。そして、発熱抵抗体114への通電開始後300msecが経過すると(S32:YES)、上述したS3と同様に差動増幅回路部230(図3参照)により測定された発熱抵抗体114の検出電圧がマイクロコンピュータ220に入力される(S33)。なお、S33で、差動増幅回路部230により測定された発熱抵抗体114への通電後300msecが経過した時点での発熱抵抗体114の検出電圧値が、本発明の「第3対応値」に相当し、その電圧を取得するCPU221が、本発明における「第3対応値取得手段」に相当する。
【0092】
次いでS34に進み、S3で得られた発熱抵抗体114の電圧値を、S33で得られた、通電開始から300msec経過した時点での発熱抵抗体114の電圧値から減算した中間差分値ΔV1の計算が行われる。そして、S35に進み、S34にて算出された中間差分値ΔV1が、予め実験等により決定されROM222に記憶された凍結判定しきい値THよりも大きいか否かが判定される。中間差分値ΔV1が凍結判定しきい値THよりも大きいと判断された場合には(S35:YES)、S10に進む。また、中間差分値ΔV1が凍結判定しきい値TH以下と判定された場合には(S35:NO)、尿素水溶液が凍結していると判断してスイッチ260に制御信号が送信されて、スイッチが開けられ、発熱抵抗体114への通電が停止される(S8)。S8の処理を終えるとS9に進み、1secが経過すればS1に戻り(S9:YES)、発熱抵抗体114の温度検知が再び開始される。
【0093】
一方、S31で否定判定されるか(S31:NO)、S35で肯定判定されると(S35:YES)、上述した実施の形態と同様のS10〜S12の処理が実行され、S13に進む。そしてS13の処理では、S3で得られた電圧値(RAM223に記憶されている最新の電圧値)をS11で得られた電圧値から減算した差分値ΔVの計算が行われるが、次のS14の処理で、差分値ΔVの値が閾値Qより小さかった場合において(S14:YES)、差分値ΔVの値がRAM223の所定の記憶エリアに記憶され、S15の処理の実行回数(すなわちサンプリングに基づき算出された差分値ΔVが正常差分値であった回数)をカウントするカウンタの値が1増加される(S15)。
【0094】
次に、S16の処理では、S15の処理の実行回数をカウントするカウンタの値が参照される。そして差分値ΔVが正常と判断され正常差分値としてRAM223に記憶された回数が5回未満、すなわち、S15の処理が5回以上実行されていない場合には(S16:NO)、S18に進み、算出された差分値ΔVの値をそのまま用いて本実施の形態と同様の濃度換算が行われる。
【0095】
一方、S15の処理の実行回数が5回目以降では、S15の処理の実行回数をカウントするカウンタの値が5以上となっている。このため、S16の処理において、差分値ΔVのサンプリング(ただし正常な値をとる場合のみ)が5回以上行われたと判断されて(S16:YES)、S17に進む。なお、この第2の性状検知プログラムの実行が継続され、6回目以降のS15の処理が行われた場合には、上記同様、最も古い差分値ΔVが上書きされ、RAM223の記憶エリアには常に最新の5つの差分値ΔVが記憶されることとなる。
【0096】
S17ではS6と同様に、繰り返し実行されたS13の処理によりRAM223の所定の記憶エリアに記憶された最新5つの差分値ΔVから、最大値と最小値を除く3つの差分値ΔVの平均値を算出する処理が行われる(S17)。そして算出された差分値ΔVの平均値を用い、次のS18において、濃度換算が行われる。
【0097】
第2の性状検知プログラムのその他の処理については、上記した実施の形態の性状検知プログラムと同様である。このようにして、尿素水溶液の温度と濃度の検出を、最新の5つの検出結果のうち3つの検出結果の平均に基づいて行うことで、精度の高い温度情報や濃度情報を得ることができる。もっとも、上記サンプリングを行う回数は5回に限定するものではない。また、検出結果(検出電圧の値や差分値ΔV)の最大値、最小値を除く処理を省いてもよい。
【0098】
このように、第2の性状検知プログラムでは、尿素水溶液の温度Tと温度しきい値との比較処理(S31)、および、発熱抵抗体114への通電過程で取得する中間差分値ΔV1と凍結判定しきい値THとの比較処理(S35)といった二段階のステップを踏んで、尿素水溶液の凍結の有無を判定している。そのため、尿素水溶液の尿素濃度が変化した(薄まった)場合にも、この性状検知プログラムの適用により精度良く液体の凍結の有無を判定することができる。なお、この変形形態の液体状態検知センサにおいて、S7で尿素水溶液の温度Tが温度しきい値以下か否かを判定し、且つ、S31で温度Tが温度しきい値以下である場合に、S35で中間差分値ΔV1が凍結判定しきい値と所定の大小関係を満たすか否か(ここでは、中間差分値ΔV1が凍結判定しきい値THよりも大きいか否か)を判定するCPU221が、本発明の請求項4における「凍結判定手段」に相当する。
【産業上の利用可能性】
【0099】
液体の温度検知と濃度検知とを一つのセンサで行うことができる液体状態検知センサに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】液体状態検知センサ100の一部切欠縦断面図である。
【図2】セラミックヒータ110のヒータパターン115を示す模式図である。
【図3】液体状態検知センサ100の電気的な構成を示すブロック図である。
【図4】外筒電極10と内部電極20とのギャップ間に満たされた尿素水溶液の水面近傍の拡大断面図である。
【図5】尿素濃度が32.5wt%、温度が25℃の尿素水溶液を例に、発熱抵抗体への定電流の通電を開始してから時間の経過と共に発熱抵抗体自身の温度上昇に伴い、その抵抗値に対応した電圧値が上昇する様子を示すグラフである。
【図6】発熱抵抗体の電圧値変化(差分値ΔV)と尿素水溶液の尿素濃度とが比例関係にあり、且つ、温度依存性があることを示すグラフである。
【図7】発熱抵抗体の電圧値変化(差分値ΔV)と尿素水溶液の尿素濃度との関係を、尿素水溶液の温度により補正したところ、補正された濃度(換算濃度)と尿素濃度とがほぼ一致することを示すグラフである。
【図8】実施形態としての性状検知プログラムのフローチャートである。
【図9】空焚きおよび異種液体を判別するための閾値Q,Rを説明するためのグラフである。
【図10】変形形態としての第2の性状検知プログラムのフローチャートである。
【符号の説明】
【0101】
98 尿素水タンク
100 液体状態検知センサ
110 セラミックヒータ
114 発熱抵抗体
220 マイクロコンピュータ
221 CPU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体収容容器内に収容される液体の状態を検知する液体状態検知センサであって、
通電によって発熱する発熱抵抗体を有し、前記液体収容容器内に配置される液体性状検出素子と、
前記発熱抵抗体に所定の検出時間通電を行う通電手段と、
前記検出時間内に前記発熱抵抗体の第1抵抗値に対応した第1対応値を取得する第1対応値取得手段と、
前記第1対応値に基づいて前記液体の温度情報を求める温度情報取得手段と、
前記検出時間経過後に前記発熱抵抗体の第2抵抗値に対応した第2対応値を取得する第2対応値取得手段と、
前記第2対応値と前記第1対応値との差分値を求める差分値算出手段と、
前記差分値と前記温度情報とに基づいて前記液体に含まれる特定成分の濃度を求める濃度取得手段と
を備えたことを特徴とする液体状態検知センサ。
【請求項2】
液体収容容器内に収容される液体の状態を検知する液体状態検知センサであって、
通電によって発熱する発熱抵抗体を有し、前記液体収容容器内に配置される液体性状検出素子と、
前記発熱抵抗体に所定の検出時間通電を行う通電手段と、
前記検出時間内に前記発熱抵抗体の第1抵抗値に対応した第1対応値を取得する第1対応値取得手段と、
前記第1対応値に基づいて前記液体の温度情報を求める温度情報取得手段と、
前記検出時間経過後に前記発熱抵抗体の第2抵抗値に対応した第2対応値を取得する第2対応値取得手段と、
前記第2対応値と前記第1対応値との差分値を求める差分値算出手段と、
前記差分値に基づいて前記液体に含まれる特定成分の濃度を求める濃度取得手段と、
前記検出時間内に、前記温度情報取得手段によって得られた前記温度情報に基づき、前記液体が凍結しているか否かを判定する凍結判定手段と、
前記凍結判定手段にて前記液体が凍結していると判定された場合に、前記通電手段による前記発熱抵抗体への通電を停止する通電停止手段と
を備えたことを特徴とする液体状態検知センサ。
【請求項3】
前記凍結判定手段は、前記温度情報が前記液体の凍結温度以下であった場合に、前記液体が凍結していると判定することを特徴とする請求項2に記載の液体状態検知センサ。
【請求項4】
前記検出時間内で且つ前記第1対応値取得後に前記発熱抵抗体の第3抵抗値に対応した第3対応値を取得する第3対応値取得手段を備え、
前記凍結判定手段は、前記温度情報が予め設定した温度しきい値以下となり、且つ、前記第3対応値と前記第1対応値との差分である中間差分値と凍結判定しきい値とが所定の大小関係を満たした場合に、前記液体が凍結していると判定することを特徴とする請求項2に記載の液体状態検知センサ。
【請求項5】
前記通電手段は、前記発熱抵抗体への通電が停止されてから待機時間経過後に、再度、前記発熱抵抗体への通電を開始するように構成されており、
前記待機時間として、前記通電手段により前記検出時間の通電が行われた場合には第1待機時間を選択し、前記通電停止手段によって前記発熱抵抗体への通電が停止された場合には前記第1待機時間より短い第2待機時間を選択する待機時間選択手段を備えたことを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載の液体状態検知センサ。
【請求項6】
前記差分値算出手段にて得られた前記差分値を用い、前記液体収容容器内の異常の有無を判断する異常判断手段を備え、
前記濃度取得手段は、前記差分値のうちで前記異常判断手段にて異常なしと判断された場合にのみ、前記濃度取得手段により、前記液体に含まれる特定成分の濃度を求めることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の液体状態検知センサ。
【請求項7】
前記通電手段は、前記発熱抵抗体に定電流を通電するように構成されており、
前記第1対応値取得手段は、電圧値である第1対応値を取得し、前記第2対応値取得手段は、電圧値である第2対応値を取得することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の液体状態検知センサ。
【請求項8】
前記液体性状検出素子は、セラミック基体中に前記発熱抵抗体が埋設されたセラミックヒータであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の液体状態検知センサ。
【請求項9】
前記液体は尿素水溶液であって、前記特定成分が尿素であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の液体状態検知センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−114181(P2007−114181A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−162059(P2006−162059)
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】