説明

液体組成物の精製方法、液体組成物の製造方法、インク組成物、画像形成方法および画像形成装置

【課題】インクジェット用インクとして好適な、サイズ均一性の高いナノメートルオーダーの顔料微粒子を含有する液体組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】顔料微粒子と高分子化合物を含有し、前記顔料微粒子は分散状態で存在する液体組成物の製造方法であって、(1)いずれかに高分子化合物が含有されている第1の溶剤と第2の溶剤を準備する工程、(2)前記第1の溶剤に顔料を溶解している溶液を得る工程、(3)前記溶液と第2の溶剤を混合して混合液とし、前記顔料微粒子を分散状態で析出させる工程、(4)前記混合液を前記微粒子は分散状態を保持し、且つ前記高分子化合物は難溶であるpH領域に調製し前記高分子化合物を析出あるいは沈殿させる工程、(5)前記高分子化合物の析出物あるいは沈殿物を前記混合液から除去する工程とを有する液体組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体組成物の精製方法、インクジェット用インクとして有用な顔料粒子の製造方法、および顔料粒子を分散状態で含有する液体組成物、ならびに液体組成物を使用した画像形成方法、および画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタル印刷技術は非常な勢いで進歩している。このデジタル印刷技術は、電子写真技術やインクジェット技術といわれるものがその代表例であるが、近年オフィス、家庭等における画像形成技術としてその存在感をますます高めつつある。
【0003】
インクジェット技術はその中でも直接記録方法として、コンパクト、低消費電力という大きな特徴がある。また、ノズルの微細化等により急速に高画質化が進んでいる。インクジェット技術の一例は、インクタンクから供給されたインクをノズル中のヒーターで加熱することで蒸発発泡し、インクを吐出させて記録媒体に画像を形成させるという方法である。他の例はピエゾ素子を振動させることでノズルからインクを吐出させる方法である。
【0004】
これらの方法には、これまで水溶性の染料インクが適用されてきたが、にじみやフェザリング、耐候性などに関し問題点を有していた。これらを改善する目的として、近年では顔料インクの利用が検討されており(特許文献1参照)、実際にインク組成物中に顔料分散体を含有したインクジェット用インクも普及しはじめている。
【0005】
しかしながら、顔料インクは長期保存安定性やインクジェットヘッドからの吐出安定性において、染料インクと比較して劣る場合が多い。また、顔料粒子による光散乱や光反射が生じるため、一般に顔料インクにより形成された画像は染料インクによる画像と比較して発色性が低いという傾向がある。
【0006】
顔料インクの発色性を改善する方法のひとつとして顔料粒子を微細化する試みがなされている。100ナノメートル以下に微細化された顔料(以下、顔料微粒子という)は、光散乱の影響が小さく、かつ比表面積が増大するため、染料なみの発色性が得られると期待されている。
【0007】
顔料粒子の微細化は、サンドミルやロールミル、ボールミルといった分散機を用いて機械的に行うのが一般的である。これらの方法では顔料を一次粒子付近(100ナノメートル程度)まで微細化するのが限界であり、さらなる微細化が要求される場合には、多大な時間とコストを必要とするばかりか、均一な品質のものを安定供給することが困難となる(特許文献2参照)。
【0008】
一方、特許文献3や特許文献4では、顔料を溶剤に溶解させた後、顔料の溶解液と顔料の貧溶剤とを分散剤介在下で混合して再析出させることを特徴とする顔料微粒子の調整法が提案されている(以下、再析出法と表現する)。再析出法はサンドミル等の機械的微細化の欠点を克服するものであるが、ナノメートルサイズの顔料微粒子を製造するためには大量の分散剤を要するという問題がある。
【0009】
顔料微粒子の分散液中に過剰量の分散剤が含有される場合、分散液の粘度上昇や、印字物のサッカ性低下など、顔料インクとして好ましくない問題が生じる。このため、再析出法によって製造される顔料微粒子、及びその分散液を顔料インクとして適用するためには、分散液から分散剤を除去する必要がある。
【0010】
顔料微粒子の分散液中に過剰量の分散剤が含有される場合、分散剤を除去する方法として、遠心分離法が一般に用いられる。しかし、顔料微粒子の凝集性が大きい場合や、サイズ・比重が小さい場合には遠心分離法を適用することが難しい。別の方法として、半透膜を利用した透析法や中空糸フィルターを利用した限外濾過法などがあるが、本発明のように分散剤が高分子化合物である場合には適用することが極めて困難である。
【0011】
以上のような背景から、分散剤として高分子化合物を含有する顔料微粒子の分散液から、高分化合物のみを選択的に除去する方法が必要とされていた。
【特許文献1】米国特許第5085698号明細書
【特許文献2】特開平10−110111号公報
【特許文献3】特公平6−96679号公報
【特許文献4】特開2004−91560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、再析出法によって製造した顔料微粒子をインクジェット用インクとして適用することであり、そのために吐出特性や、印字物のサッカ性を低下させる原因となる過剰な高分子化合物を、分散液から選択的に除去する方法を提供するものである。
【0013】
すなわち、本発明は、インクジェット用インクとして好適な、サイズ均一性の高いナノメートルオーダーの顔料微粒子を含有する液体組成物の精製方法および製造方法を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、上記液体組成物を含有するインク組成物、該インク組成物を使用した画像形成方法及び画像形成装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、分散状態の顔料微粒子と溶解状態の高分子化合物を含有する液体組成物において、顔料微粒子の分散性と高分子化合物の溶解性に影響する因子に着目した。そして、顔料微粒子の分散性を損なうことなくその分散液から高分子化合物を選択的に除去できることを見出し、本発明に至った。
【0016】
上記の課題を解決する液体組成物の精製方法は、分散状態の微粒子と溶解状態の高分子化合物とを含有する液体組成物から高分子化合物を除去する液体組成物の精製方法であって、(1)前記液体組成物を前記微粒子は分散状態を保持し、且つ前記高分子化合物は難溶であるpH領域に調製し前記高分子化合物を析出あるいは沈殿させる工程、(2)前記高分子化合物の析出物あるいは沈殿物を液体組成物から除去する工程とを有することを特徴とする。
【0017】
上記の課題を解決する液体組成物の製造方法は、顔料微粒子と高分子化合物を含有し、前記顔料微粒子は分散状態で存在する液体組成物の製造方法であって、(1)いずれかに高分子化合物が含有されている第1の溶剤と第2の溶剤を準備する工程、(2)前記第1の溶剤に顔料を溶解している溶液を得る工程、(3)前記溶液と第2の溶剤を混合して混合液とし、前記顔料微粒子を分散状態で析出させる工程、(4)前記混合液を前記微粒子は分散状態を保持し、且つ前記高分子化合物は難溶であるpH領域に調製し前記高分子化合物を析出あるいは沈殿させる工程、(5)前記高分子化合物の析出物あるいは沈殿物を前記混合液から除去する工程とを有することを特徴とする。
【0018】
上記の課題を解決するインクジェット記録用インク組成物は、上記の方法により製造された液体組成物を含有することを特徴とする。
上記の課題を解決する画像形成方法は、上記のインクジェット記録用インク組成物を媒体に付与することにより、画像を記録する工程を有することを特徴とする。
【0019】
上記の課題を解決する画像形成装置は、上記のインクジェット記録用インク組成物を媒体に付与することにより、画像を記録させる手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、インクジェット用インクとして好適な、サイズ均一性の高いナノメートルオーダーの顔料微粒子を含有する液体組成物の精製方法および製造方法を提供することができる。
【0021】
また、本発明は、上記液体組成物を含有するインク組成物、該インク組成物を使用した画像形成方法及び画像形成装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の液体組成物の精製方法は、分散状態の微粒子と溶解状態の高分子化合物とを含有する液体組成物から高分子化合物を除去する液体組成物の精製方法であって、(1)前記液体組成物を前記微粒子は分散状態を保持し、且つ前記高分子化合物は難溶であるpH領域に調製し前記高分子化合物を析出あるいは沈殿させる工程、(2)前記高分子化合物の析出物あるいは沈殿物を液体組成物から除去する工程とを有することを特徴とする。
【0023】
本発明における高分子化合物について説明する。
本発明における高分子化合物は、あるpH領域において正、負のいずれか、あるいはその両方に荷電する荷電性高分子化合物である。pHによって荷電する高分子化合物の例として、カルボキシル基やアミノ基に代表されるpHによってその解離度を変化させる荷電性官能基を含有する化合物およびそれらの官能基を主鎖、あるいは側鎖に有する重合体を利用することができる。カルボキシル基は、高pHにおいてその解離が促進されるため、カルボキシル基を含有する高分子化合物は負に荷電する。逆にアミノ基は、低pHにおいてその解離が促進されるため、アミノ基を含有する高分子化合物は正に荷電する。また、カルボキシル基とアミノ基の両方を含有する高分子化合物は、それぞれの官能基の含有量によって決まる等電点を境に、高pH領域で負に、低pH領域で正に荷電する。ただし、本発明における荷電性高分子化合物に含有される荷電性官能基は、カルボキシル基やアミノ基に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲においていかなる荷電性官能基も適用可能である。
【0024】
さらに本発明の高分子化合物は、pHによって水あるいは水溶液に対する溶解性が、難溶から可溶、あるいは可溶から難溶に変化する高分子化合物である。この高分子化合物の例として、pHによってその解離度を変化させる荷電性官能基を含有する化合物、あるいはそれらを主鎖や側鎖に有する重合体と、疎水性を示す構造を含有する化合物、あるいはそれらを主鎖や側鎖に有する重合体との共重合体が挙げられる。このような高分子化合物は、荷電性官能基が良好に解離するpH領域において、水あるいは水溶液に対して可溶である。逆に荷電性官能基の解離度が低い、あるいは解離しないpH領域において、水あるいは水溶液に対して難溶となる。ただし、本発明における高分子化合物は、上記したような共重合体に限定されるものではなく、pHによって水あるいは水溶液に対する溶解性が、難溶から可溶、あるいは可溶から難溶に変化する高分子化合物であれば適用可能である。
【0025】
本発明における微粒子について説明する。
液体組成物中における微粒子の分散性は、微粒子表面の電荷や電位によって決定される(インクジェット最新技術、p116、2004年、情報機構(株)発行)。このことは、粒子間力と拡散電気二重層の相互作用から疎水性コロイド粒子の安定性を定量的に論じた理論であるDLVO理論により説明される。この理論によれば、2つの微粒子が接近するとき、微粒子間の距離が短くなるにつれファンデルワールス力に基づく引力の影響が大きくなる。しかし、微粒子が荷電している場合には、微粒子の周りが対イオンの雲(拡散電気二重層という)で覆われているため、微粒子が接近すると拡散電気二重層の重なり合いに基づく電気的な反発力が発生する。つまり、微粒子の分散安定性は、ファンデルワールス力に基づく引力と電気的な反発力のバランスにより決定され、微粒子の表面電位(以下ゼータ電位と表現)の絶対値が大きいほど分散安定性に優れる。逆にゼータ電位の絶対値が小さい場合には分散安定性に劣り、ゼータ電位の絶対値が0mVにおいては分散安定性を維持することが極めて難しくなる。
【0026】
本発明における微粒子は、表面に荷電性官能基を有する微粒子である。荷電性官能基として、カルボキシル基やアミノ基などが適用可能である。これらの官能基は、pHによってその解離度を変化させるため、これらの官能基を表面に有する微粒子は、pHによってそのゼータ電位を変化させる。例えば、カルボキシル基を表面に有する微粒子は、高pHにおいてその解離が促進されるためゼータ電位の絶対値が大きく良好な分散安定性を示す。これに対し、低pHにおいては、カルボキシル基の解離が抑制されてゼータ電位の絶対値が小さくなり、分散状態を維持することができない。逆に、アミノ基を表面に有する微粒子は、低pHにおいてその解離が促進されるためゼータ電位の絶対値が大きく良好な分散安定性を示すのに対し、高pHにおいては、アミノ基の解離が抑制されてゼータ電位の絶対値が小さくなり、分散状態を維持できない。ただし本発明における微粒子表面の荷電性官能基は、カルボキシル基やアミノ基に限定されるものではなく、微粒子に荷電を付与する官能基であり且つ本発明の目的を達成できるいかなる官能基も適用可能である。また、官能基は一種類である必要はなく、微粒子表面に複数種の官能基が存在しても本発明の目的を達成できる範囲において適用可能である。
【0027】
本発明は、微粒子が有する荷電性官能基の解離度と、高分子化合物が有する荷電性官能基の解離度を、微粒子は分散状態を保持し、且つ高分子化合物は難溶である解離度になるよう、液体組成物のpHを調製する。このことによって、高分子化合物のみを選択的に凝集・沈殿させることを特徴とする。すなわち本発明における微粒子と高分子化合物の組み合せは、あるpH領域において微粒子は分散状態を保持し、且つ高分子化合物は難溶となる物性を示す組み合わせである。
【0028】
本発明における微粒子が分散状態を保持するpHとは、微粒子のゼータ電位の絶対値が0mVより大きい値を示すpH領域を意味する。さらに好ましくは微粒子のゼータ電位の絶対値が5mV以上、より好ましくはゼータ電位の絶対値が20mV以上である。微粒子のゼータ電位は、公知の手法に従って測定することができる。測定装置としては、例えば、ZEECOM(マイクロテックニチオン)、ELS−3000(大塚電子)、ZetaPALS(Brookhaven社)などの装置がある。
【0029】
本発明における高分子化合物が難溶となるpHとは、以下に説明する高分子化合物の溶解度試験によって決定する。所定pHに調製した液体組成物に対して、高分子化合物をその濃度が3wt%になるように混合し、所定温度にて24時間振とうしてから24時間放置する。そして、その混合状態を均一な状態として存在する場合を可溶、ゲルまたは粒状の外観や明らかな濁りを示す不完全溶解として存在する場合を難溶として定義する。ただし本発明においては、高分子化合物と液体組成物に何ら相互作用が認められない、いわゆる不溶状態も難溶に含めるものとする。目視により溶解性を判断することが困難である場合、高分子化合物を溶解あるいは分散させた液体組成物の透過率を測定することで溶解性の指標とすることもできる。この場合、本発明では透過率99%以上である場合を可溶、透過率99%未満である場合を難溶と定義する。透過率は公知の方法により測定することが可能である。本発明では、U−2001型ダブルビーム分光光度計(日立製作所)を用いて測定した500nmにおける透過率を評価基準としている。
【0030】
本発明は、液体組成物中に含有される分散状態の微粒子と溶解状態の高分子化合物が同符号に荷電している場合に好ましく用いることができる。一方、分散状態の微粒子が負に荷電し、溶解状態の高分子化合物が正に荷電する場合には、電気泳動等の代替方法においても微粒子と高分子化合物を分離することが可能である。あるいは浮選技術のように高分子化合物のみを選択捕集する物質(泡や塩等)を液体組成物中に添加して高分子化合物を選択除去することもできる。しかしながら、分散状態の微粒子と溶解状態の高分子化合物が同符号に荷電している場合、これらの代替法では、微粒子のみあるいは高分子化合物のみを選択的に分離することは困難であり、本発明のみが適用可能である。ただし本発明は、液体組成物中に含有される分散状態の微粒子と溶解状態の高分子化合物が同符号に荷電している場合に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲において、異符号に帯電している場合にも適用可能である。
【0031】
液体組成物のpHを調製する方法として、酸あるいはアルカリ、pH緩衝剤をはじめとする公知のpH調製剤や塩等を添加する処理の他、透析や限外濾過等による脱塩処理を好ましく用いることができる。特に、透析や限外濾過等による脱塩処理は、pHの急激な変化を抑制でき、溶媒ショック等による微粒子の凝集を引き起こす可能性を減じることができるため好ましい。ただし、本発明における液体組成物のpHを調製する方法は、これらの方法に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲においていかなる方法も適用可能である。
【0032】
本発明における、分散状態の微粒子と溶解状態の高分子化合物から高分子化合物のみを選択分離する精製方法において、高分子化合物の全部、あるいは一部の何れも除去することが可能であり、その精製の度合いは目的に応じて適宜決定することができる。
【0033】
本発明は、顔料と高分子化合物を構成要素とする顔料微粒子を分散状態で含有し、且つ溶解状態の高分子化合物を含有する液体組成物から、高分子化合物を選択的に除去する目的に用いることができる。
【0034】
すなわち本発明は、顔料微粒子と高分子化合物を含有し、前記顔料微粒子は分散状態で存在する液体組成物の製造方法であって、(1)いずれかに高分子化合物が含有されている第1の溶剤と第2の溶剤を準備する工程、(2)前記第1の溶剤に顔料を溶解している溶液を得る工程、(3)前記溶液と第2の溶剤を混合して混合液とし、前記顔料微粒子を分散状態で析出させる工程、(4)前記混合液を前記微粒子は分散状態を保持し、且つ前記高分子化合物は難溶であるpH領域に調製し前記高分子化合物を析出あるいは沈殿させる工程、(5)前記高分子化合物の析出物あるいは沈殿物を前記混合液から除去する工程とを有することを特徴とする液体組成物の製造方法である。
【0035】
本発明の高分子化合物は、水あるいは水溶液中において顔料微粒子に分散安定性を付与することのできる高分子化合物である。
本発明では、水あるいは水溶液中において顔料微粒子に分散安定性を付与することを目的として、親水性を有するモノマーユニットの繰り返し構造(以下、親水性部位と表現する)が含有される高分子化合物を用いる。親水性部位としては、カルボン酸、カルボン酸塩、あるいは親水性オキシエチレンユニットを多く含む構造、さらにヒドロキシル基などを有する構造などの繰り返し単位構造を有する構造が挙げられる。具体的な例でいえば、アクリル酸やメタクリル酸、あるいはその無機塩や有機塩などのカルボン酸塩、またポリエチレングリコールマクロモノマー、またはビニルアルコールや2−ヒドロキシエチルメタクリレートなどの親水性モノマーで表される繰り返し単位構造を有する構造である。ただし、本発明の高分子化合物に含有される親水性部位はこれらに限定されるわけではなく、本発明の目的を達成できる範囲においていかなる物質も用いることができる。また本発明では、高分子化合物に含有される親水性部位として1種類の親水性モノマーで表される繰り返し単位構造であっても、複数の親水性モノマーから構成される繰り返し構造を有する共重合構造であっても適用可能である。さらに、共重合構造はランダム共重合構造であってもブロック共重合構造であっても、本発明の目的を達成できる範囲において好適に用いることができる。
【0036】
本発明では、顔料に親和性を付与することを目的として、疎水性を有するモノマーユニットの繰り返し構造(以下、疎水性部位と表現する)が含有される高分子化合物を分散剤として用いる。疎水性部位の具体的な例としては、例えばイソブチル基、t−ブチル基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基などの疎水性ユニットを持つ繰り返し単位構造を含有する構造が挙げられる。さらに具体的には、スチレンやt−ブチルメタクリレートなどの疎水性モノマーを繰り返し単位として有する構造である。ただし、本発明の高分子鎖に含有される疎水性部位はこれらに限定されるわけではなく、本発明の目的を達成できる範囲においていかなる物質も用いることができる。また本発明では、高分子鎖に含有される疎水性部位として1種類の疎水性モノマーで表される繰り返し単位構造であっても、複数の疎水性モノマーから構成される繰り返し構造を有する共重合構造であっても適用可能である。さらに、共重合構造はランダム共重合構造であってもブロック共重合構造であっても、本発明の目的を達成できる範囲において好適に用いることができる。
【0037】
以上、本発明の高分子化合物は、上記したような親水性部位、疎水性部位を含有する高分子化合物であることを必須要件とする。親水性部位、疎水性部位は、高分子化合物中でランダム共重合体構造に含有される場合も、ブロック共重合体構造で含有される場合も、本発明の目的を達成できる範囲において適用可能である。
【0038】
本発明における高分子化合物の重量平均分子量は、500以上1000000以下であり、好ましく用いられる範囲としては1000以上1000000以下である。1000000を超えると高分子化合物内、高分子化合物間の絡まりあいが多くなりすぎ、逆に500未満である場合、分子量が小さく高分子化合物が分散剤としての機能を発揮しにくくなるため、顔料微粒子に良好な分散安定性を付与することができない。重量平均分子量の測定方法は、光散乱法、X線小核散乱法、沈降平衡法、拡散法、超遠心法や各種クロマトグラフィーにより測定することができるが、本発明の重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0039】
本発明における高分子化合物は、1種類単独でまたは2種類以上を併用して用いることができる。上記高分子化合物の使用割合は特に限定されるものではないが、顔料1質量部に対して0.05質量部以上、非プロトン性溶剤100質量部に対して50質量部以下の範囲で用いるのが好ましい。高分子化合物が非プロトン性溶剤100質量部に対して50質量部より多い場合は高分子化合物を完全に溶解させるのが困難な場合があり、有機顔料1質量部に対して0.05質量部より少ない場合は、十分な分散効果を得ることができない場合がある。
【0040】
本発明における高分子化合物は、第1の溶剤、あるいは第2の溶剤の少なくともいずれかの溶剤に可溶性である必要がある。分散剤が第1の溶剤、あるいは第2の溶剤のどちらの溶剤にも不溶性である場合には、顔料粒子に高分子化合物が効率的に拡散、吸着することができず、粗大な顔料粒子しか得ることができない。より詳しくは、第1の溶剤に高分子化合物を含有させる場合、少なくとも第1の溶剤に高分子化合物が可溶である必要がある。この場合、高分子化合物は第2の溶剤には可溶であっても不溶であってもよいが、不溶である場合には、第1の溶剤と第2の溶剤を混合して形成する顔料粒子への高分子化合物の析出速度が大きくなるため、サイズ均一性の高いナノメートルオーダーの顔料微粒子の形成に有利である。次に、第2の溶剤に高分子化合物を含有させる場合には、少なくとも第2の溶剤に高分子化合物が可溶でなければならない。この場合、高分子化合物は第1の溶剤には可溶であっても不要であっても、本発明の目的を達成できる範囲においていかなる化合物も適用可能である。
【0041】
本発明で使用する顔料は、第1の溶剤に溶解するもので、本発明の目的を達成できるものであればいかなる物でも使用可能である。さらに好ましくは溶解条件下で反応性を示さない安定な有機顔料がよい。具体的には、印刷インキおよび塗料等に用いられている有機顔料を用いることができ、例えば、アゾ系、ジスアゾ系、縮合アゾ系、アンスラキノン系、ジアンスラキノニル系、アンスラピリジン系、アンサンスロン系、チオインジゴ系、ナフトール系、ベンゾイミダゾロン系、ピランスロン系、フタロシアニン系、フラバンスロン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、ジケトピロロピロール系、インダンスロン系、イソインドリノン系、イソインドリン系、キノフタロン系、ペリノン系およびペリレン系の顔料、建染染料系顔料、金属錯体顔料、塩基性染料系顔料、蛍光顔料、昼光蛍光顔料がある。例としてはC.I.Pigment Yellow 1、同3、同12、同13、同14、同17、同42、同55、同62、同73、同74、同81、同83、同93、同95、同97、同108、同109、同110、同128、同130、同151、同155、同158、同139、同147、同154、同168、同173、同180、同184、同191、同199、C.I.Pigment Red 2、同4、同5、同22、同23、同31、同48、同53、同57、同88、同112、同122、同144、同146、同150、同166、同171、同175、同176、同177、同181、同183、同184、同185、同202、同206、同207、同208、同209、同213、同214、同220、同254、同255、同264、同272、C.I.Pigment Blue 16、同25、同26、同56、同57、同60、同61、同66、C.I.Pigment Violet 19、同23、同29、同37、同38、同42、同43、同44、C.I.Pigment Orange 16、同34、同35、同36、同61、同64、同66、同71、同73、C.I.Pigment Brown 23、同38がある。これらの有機顔料は、1種類単独でまたは2種類以上を併用して用いることができる。また、有機顔料の基本骨格に置換基を導入した有機顔料誘導体についても、本発明の目的を達成できる範囲において使用可能である。
【0042】
本発明で使用する第1の溶剤としては非プロトン性溶剤が好ましい。中でも第2の溶剤に対する溶解度が5%以上であるものが好ましく利用され、さらには第2の溶剤に対して自由に混合するものが好ましい。第2の溶剤に対する溶解度が5%より小さい溶剤を用いて顔料を可溶化した場合は、水と混合する際に顔料含有粒子が析出しにくく、粗大な粒子になり易い点で不利である。また、得られる顔料微粒子の分散安定性に対して悪影響を及ぼす傾向があるという点でも不利である。第1の溶剤は、具体的にはジメチルスルホキシド、ジメチルイミダゾリジノン、スルホラン、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトン、ジオキサン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルアミド、ヘキサメチルホスホロトリアミド、ピリジン、プロピオニトリル、ブタノン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、エチレングリコールジアセテート、γ−ブチロラクトン等が好ましい溶剤として挙げられ、中でもジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、スルホラン、アセトン又はアセトニトリル、テトラヒドロフランが好ましい。また、これらは1種類単独でまたは2種類以上を併用して用いることができる。上記非プロトン性溶剤の使用割合は特に限定されるものではないが、有機顔料のより良好な溶解状態と、所望とする微粒子径の形成の容易性、更には、水性分散体の色濃度をより良好なものとするという観点から、有機顔料1質量部に対して2質量部以上500質量部以下、さらには5質量部以上100質量部以下の範囲で用いるのが好ましい。非プロトン溶剤のみで有機顔料を溶解させることが困難な場合は、以下に説明するアルカリを添加して有機顔料の溶解性を高めることができる。前記第1の溶剤が非プロトン性溶剤とアルカリの混合溶剤であることが好ましい。
【0043】
本発明に用いられるアルカリとしては、非プロトン性溶剤中で有機顔料を溶解させるもので、本発明の目的を達成できるものであればいかなるものでも使用可能であるが、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属のアルコキシド、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属のアルコキシド及び有機強塩基が、有機顔料の可溶化能力の高さから好ましい。具体的には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、カリウム−tert−ブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、水酸化テトラメチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド等の第4級アンモニウム化合物、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン、1,8−ジアザビシクロ[4,3,0]−7−ノネン、グアニジンなどを使用することが出来る。また、これらのアルカリは、1種類単独でまたは2種類以上を併用して用いることができる。上記アルカリの使用割合は特に限定されるものではないが、有機顔料1質量部に対して0.01質量部以上1000質量部以下の範囲で用いるのが好ましい。アルカリが有機顔料1質量部に対して0.01質量部より少ない場合は、非プロトン性溶剤で高分子化合物と共に有機顔料を完全に溶解させることが難しくなる傾向があるという点で不利な場合がある。1000質量部より多い場合は、アルカリが非プロトン性溶剤に溶解しにくくなり、有機顔料の溶解性の増大も期待できなくなる点で不利な場合がある。
【0044】
アルカリを非プロトン性溶剤に完全に溶解させるために、若干の水や低級アルコールなどのアルカリに対して高い溶解度をもつ溶剤を、非プロトン性溶剤に添加することが出来る。これらがアルカリ可溶補助剤として働き、非プロトン性溶剤に対するアルカリの溶解性が増し、有機顔料の溶解が容易になる。しかし添加率が全溶媒量に対して50質量%以上になると有機顔料の溶解性が低下する点で不利となるため、通常0.5から30質量%程度の添加率が最も効果的である。これは非プロトン性溶剤のみではアルカリの溶解性が相対的に低いためであり、具体的には水、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブチルアルコールなどを用いることができる。有機顔料を溶解させる際は、使用するアルカリの量を最低限に抑えて、速やかに有機顔料を溶解させるために、アルカリは水や低級アルコールなどの溶液として、有機顔料が懸濁している非プロトン性溶剤に顔料が溶解するまで添加していくのがよい。また、この際、顔料は溶液になっているため異物の除去等を容易に行うこが出来る。これらのアルカリ可溶補助剤の選択においては、高分子化合物との相溶性確保が重要である。
【0045】
有機顔料を非プロトン性溶剤に溶解させる際、有機顔料と高分子化合物に加えて、非プロトン性溶剤には結晶成長防止剤や紫外線吸収剤、酸化防止剤、樹脂添加物などの少なくも1種を必要に応じて添加することができる。
【0046】
結晶成長防止剤としては、当該技術分野においてよく知られているフタロシアニン誘導体やキナクリドン誘導体が挙げられ、例えばフタロシアニンのフタルイミドメチル誘導体、フタロシアニンのスルホン酸誘導体、フタロシアニンのN−(ジアルキルアミノ)メチル誘導体、フタロシアニンのN−(ジアルキルアミノアルキル)スルホン酸アミド誘導体、キナクリドンのフタルイミドメチル誘導体、キナクリドンのスルホン酸誘導体、キナクリドンのN−(ジアルキルアミノ)メチル誘導体、キナクリドンのN−(ジアルキルアミノアルキル)スルホン酸アミド誘導体等が挙げられる。
【0047】
紫外線吸収剤としては、金属酸化物、アミノベンゾエート系紫外線吸収剤、サリチレート系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、シンナメート系紫外線吸収剤、ニッケルキレート系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ウロカニン酸系紫外線吸収剤およびビタミン系紫外線吸収剤等の紫外線吸収剤が挙げられる。
【0048】
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系化合物、チオアルカン酸エステル化合物、有機リン化合物、芳香族アミン等が挙げられる。
樹脂添加物としては、アニオン変性ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、ポリウレタン、カルボキシメチルセルロース、ポリエステル、ポリアリルアミン、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアミンスルホン、ポリビニルアミン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メラミン樹脂あるいはこれらの変性物等の合成樹脂などが挙げられる。これらの結晶成長防止剤や紫外線吸収剤、樹脂添加物はいずれも1種類単独でまたは2種類以上を併用して使用することができる。
【0049】
本発明に用いられる第2の溶剤としては、使用する第1の溶剤と相溶性のあるもので、本発明の目的を達成できるものであればいかなるものでも使用可能であるが、特に水あるいは水溶液であることが好ましい。
【0050】
使用する水あるいは水溶液には添加物を含有させることができる。添加物は水あるいは水溶液と相溶性であるもので本発明の目的を達成できるものであればいかなるものでも使用可能である。例えば、前記したアルカリやpH緩衝剤をはじめとする公知のpH調整剤や塩等がある。また、第1の溶剤とと水あるいは水溶液の相溶性を高めることを目的として、例えばアルコール等の有機溶媒を含有させることが可能である。この場合、含有させる有機溶媒はアルコールに限定されるものではなく、本発明の目的を達成できるものであればいかなるものでも使用可能である。
【0051】
サイズ均一性の高いナノメートルオーダーの顔料微粒子を得るためには、第1の溶剤と第2の溶剤の混合を可能な限り速やかに行うことが好ましく、超音波振動子やフルゾーン攪拌羽、内部循環型攪拌装置、外部循環型攪拌装置、流量およびイオン濃度制御装置等の従来公知の攪拌、混合、分散、昌析に使用される装置をいずれをも混合様式として適用することができる。また、連続して流れる水の中に混合してもよい。顔料溶液の水中への投入法としては、従来公知の液体注入法をいずれも利用できるが、シリンジやニードル、チューブなどのノズルから噴射流として水中、もしくは水上から投入するのが好ましい。なお、短時間で投入するために複数のノズルから投入することも出来る。第1の溶剤と第2の溶剤の混合効率を高めるために、混合容器の形状や大きさを工夫することもできる。例えば、マイクロリアクターのような微小空間で第1の溶剤と第2の溶剤を混合することは、2液の混合効率が大きく微小粒子が形成しやすいため好ましい。
【0052】
また、第1の溶剤と第2の溶剤を混合する際にこれらの温度は特に指定はないが、混合する際の溶液の温度は析出する有機顔料のサイズに大きく影響するため、ナノメートルオーダーの顔料微粒子を得るためには溶液の温度を−50℃から500℃の範囲、さらには−30℃から100℃の範囲、さらに好ましくは−20℃から50℃の範囲に調節するのが良い。また、この際に溶液の流動性を確保するために混合する水に、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の公知の凝固点降下剤を加えておくことができる。
【0053】
本発明で得られる顔料微粒子を含有する液体組成物は、そのままで使用することが可能であるが、必要に応じて濃縮・精製することによって種々の用途に用いることができる。濃縮・精製の方法としては、遠心分離装置、エバポレーター、限外濾過装置等の従来公知の濃縮・精製に使用される装置をいずれも使用することが可能である。
【0054】
本発明では、顔料微粒子が有する高分子化合物由来の荷電性官能基と、溶解状態の高分子化合物が有する荷電性官能基が、顔料微粒子が分散状態を保持し、且つ高分子化合物は難溶となる解離度になるよう、液体組成物のpHを調製することによって、溶解状態の高分子化合物を選択的に凝集・沈殿させることによって、液体組成物から溶解状態の高分子化合物を除去することができる。
【0055】
本発明における顔料微粒子が分散状態を保持するpHとは、顔料微粒子のゼータ電位の絶対値が0mVより大きい値を示すpH領域を意味する。さらに好ましくは顔料微粒子のゼータ電位の絶対値が5mV以上、より好ましくは20mV以上である。顔料微粒子のゼータ電位は、公知の手法に従って測定することができる。測定装置としては、例えば、ZEECOM(マイクロテックニチオン)、ELS−3000(大塚電子)、ZetaPALS(Brookhaven社)などの装置がある。
【0056】
本発明における高分子化合物が難溶となるpHとは、以下に説明する高分子化合物の溶解度試験によって決定する。所定pHに調製した液体組成物に対して、高分子化合物をその濃度が3wt%になるように混合し、所定温度にて24時間振とうしてから24時間放置する。そして、その混合状態を均一な状態として存在する場合を可溶、ゲルまたは粒状の外観や明らかな濁りを示す不完全溶解として存在する場合を難溶として定義する。ただし本発明においては、高分子化合物と液体組成物に何ら相互作用が認められない、いわゆる不溶状態も難溶に含めるものとする。目視により溶解性を判断することが困難である場合、高分子化合物を溶解あるいは分散させた液体組成物の透過率を測定することで溶解性の指標とすることもできる。この場合、本発明では透過率99%以上である場合を可溶、透過率99%未満である場合を難溶と定義する。透過率は公知の方法により測定することが可能である。本発明では、U−2001型ダブルビーム分光光度計(日立製作所)を用いて測定した500nmにおける透過率を評価基準としている。
【0057】
液体組成物のpHを調製する方法として、酸あるいはアルカリ、pH緩衝剤をはじめとする公知のpH調製剤や塩等を添加する処理の他、透析や限外濾過等による脱塩処理を好ましく用いることができる。特に、透析や限外濾過等による脱塩処理は、pHの急激な変化を抑制でき、溶媒ショック等による顔料微粒子の凝集を引き起こす可能性を減じることができるため好ましい。ただし、本発明における液体組成物のpHを調製する方法は、これらの方法に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲においていかなる方法も適用可能である。
【0058】
本発明の液体組成物をインクジェット記録用インク組成物として使用する場合、必要に応じて、種々の添加剤、助剤等を添加することができる。添加剤の一つとして、顔料を溶媒中で安定に分散させる分散安定剤がある。本発明の液体組成物中に含有される顔料微粒子は、顔料微粒子を構成する高分子化合物により分散安定化されているが、分散が不十分である場合には、他の分散安定剤を添加してもよい。
【0059】
他の分散安定剤として、親水性疎水性両部を持つ樹脂あるいは界面活性剤を使用することが可能である。親水性疎水性両部を持つ樹脂としては、例えば、親水性モノマーと疎水性モノマーの共重合体が挙げられる。
【0060】
親水性モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、または前記カルボン酸モノエステル類、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルアルコール、アクリルアミド、メタクリロキシエチルホスフェート等、疎水性モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン誘導体、ビニルシクロヘキサン、ビニルナフタレン誘導体、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類等が挙げられる。共重合体は、ランダム、ブロック、およびグラフト共重合体等の様々な構成のものが使用できる。もちろん、親水性、疎水性モノマーとも、前記に示したものに限定されない。
【0061】
界面活性剤としては、アニオン性、非イオン性、カチオン性、両イオン性活性剤を用いることができる。アニオン性活性剤としては、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルジアリールエーテルジスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸塩、ナフタレンスルホン酸フォルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩、グリセロールボレイト脂肪酸エステル等が挙げられる。非イオン性活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、フッ素系、シリコン系等が挙げられる。カチオン性活性剤としては、アルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルイミダゾリウム塩等が挙げられる。両イオン性活性剤としては、アルキルベタイン、アルキルアミンオキサイド、ホスファジルコリン等が挙げられる。なお、界面活性剤についても同様、前記に限定されるものではない。
【0062】
さらに、本発明のインクジェット記録用インク組成物には、必要に応じて水性溶剤を添加することができる。特にインクジェット用インクに用いる場合、水性溶剤は、インクのノズル部分での乾燥、インクの固化を防止するために用いられ、単独または混合して用いることができる。水性溶剤は、上述のものがそのまま当てはまる。その含有量としては、インクの場合、インクの全重量の0.1質量%以上60質量%以下、好ましくは1質量%以上40質量%以下の範囲である。
【0063】
その他の添加剤としては、例えばインクとしての用途の場合、インクの安定化と記録装置中のインクの配管との安定性を得るためのpH調整剤、記録媒体へのインクの浸透を早め、見掛けの乾燥を早くする浸透剤、インク内での黴の発生を防止する防黴剤、インク中の金属イオンを封鎖し、ノズル部での金属の析出やインク中で不溶解性物の析出等を防止するキレート化剤、記録液の循環、移動、あるいは記録液製造時の泡の発生を防止する消泡剤、酸化防止剤、防カビ剤、粘度調整剤、導電剤、紫外線吸収剤等も添加することができる。
【0064】
本発明のインク組成物を調製するには、本発明の液体組成物と上記構成成分を混合し、均一に溶解又は分散することにより調製することができる。また、調整したインク組成物中に過剰量のポリマー化合物や添加剤が含有される場合には、遠心分離や透析など公知の方法によって、それらを適宜除去し、インク組成物を再調整することができる。
【0065】
本発明の組成物は、各種印刷法、インクジェット法、電子写真法等の様々な画像形成方法および装置に使用でき、この装置を用いた画像形成方法により描画することができる。また、液体組成物を用いる場合、インクジェット法等では微細パターンを形成したり、薬物の投与を行ったりするための液体付与方法に使用することができる。
【0066】
本発明の画像形成方法は、本発明の組成物により優れた画像形成を行う方法である。本発明の画像形成方法は、好ましくは、インク吐出部から本発明のインク組成物を吐出して被記録媒体上に付与することで記録を行う画像形成方法である。画像形成はインクに熱エネルギーを作用させてインクを吐出するインクジェット法を用いる方法が好ましく用いられる。
【0067】
さらに、本発明は、多価カチオンによる刺激と併用することで、被記録媒体上でのにじみやフェザリングを抑制させることも可能である。本発明のブロックポリマー化合物は、前途のように多環芳香族からなる有機酸を有する繰り返し単位を含有することを特徴とする。多環芳香族からなる有機酸は、その強い疎水性のために、多価カチオンと相互作用を起こし易く、多価カチオンを介して凝集を引き起こし易い。このため、被記録媒体上に多価カチオンが存在した場合、前記インク組成物は素早く凝集を引き起こし、被記録媒体上でのにじみやフェザリングが改善されたインク組成物、および液体付与方法、液体付与装置をも提供することも可能である。多価カチオンとしては、好ましくは、金属カチオンとして、Ca、Cu、Mg、Ni、Zn、Fe、Co等の2価カチオン、Al、Nd、Y、Fe、La等の3価カチオンが挙げられ、非金属カチオンとしてジアンモニウムカチオン、トリアンモニウムカチオン等が挙げられるが、これらに限定されない。また、前記多価カチオンの被記録媒体への付与方法としては、予め多価カチオンを塗布した被記録媒体を用いても良く、またはインクジェットヘッドにより画像を形成する領域全面に渡って多価カチオンを打ち込む方法を用いても良い。
【0068】
また、該刺激を付与する方法については、様々な方法が適用できる。好ましい一形態として、該刺激を多価カチオンとした場合の刺激の付与方法について説明する。例えば、特開昭64−63185号公報に記載されているように、インクジェットヘッドにより画像を形成する領域全面に渡って、多価カチオンを打ち込むこともできる。また、予め被記録媒体に多価カチオンを施しておくことも好ましい。
【0069】
本発明のインクジェット用インク組成物を用いるインクジェットプリンタとしては、圧電素子を用いたピエゾインクジェット方式や、熱エネルギーを作用させて発泡し記録を行うバブルジェット(登録商標)方式等、様々なインクジェット記録装置に適用できる。
【0070】
以下このインクジェット記録装置について図1を参照して概略を説明する。但し、図1はあくまでも構成の一例であり、本願発明を限定するものではない。
図1は、インクジェット記録装置の構成を示すブロック図である。
【0071】
図1は、ヘッドを移動させて被記録媒体に記録をする場合を示した。図1において、製造装置の全体動作を制御するCPU50には、ヘッド70をXY方向に駆動するためのX方向駆動モータ56およびY方向駆動モータ58がXモータ駆動回路52およびYモータ駆動回路54を介して接続されている。CPUの指示に従い、Xモータ駆動回路52およびYモータ駆動回路54を経て、このX方向駆動モータ56およびY方向駆動モータ58が駆動され、ヘッド70の被記録媒体に対する位置が決定される。
【0072】
図1に示されるように、ヘッド70には、X方向駆動モータ56およびY方向駆動モータ58に加え、ヘッド駆動回路60が接続されており、CPU50がヘッド駆動回路60を制御し、ヘッド70の駆動、即ちインクジェット用インクの吐出等を行う。さらに、CPU50には、ヘッドの位置を検出するためのXエンコーダ62およびYエンコーダ64が接続されており、ヘッド70の位置情報が入力される。また、プログラムメモリ66内に制御プログラムも入力される。CPU50は、この制御プログラムとXエンコーダ62およびYエンコーダ64の位置情報に基づいて、ヘッド70を移動させ、被記録媒体上の所望の位置にヘッドを配置してインクジェット用インクを吐出する。このようにして被記録媒体上に所望の描画を行うことができる。また、複数のインクジェット用インクを装填可能な画像記録装置の場合、各インクジェット用インクに対して上記のような操作を所定回数行うことにより、被記録媒体上に所望の描画を行うことができる。
【0073】
また、インクジェット用インクを吐出した後、必要に応じて、ヘッド70を、ヘッドに付着した余剰のインクを除去するための除去手段(図示せず)の配置された位置に移動し、ヘッド70をワイピング等して清浄化することも可能である。清浄化の具体的方法は、従来の方法をそのまま使用することができる。
【0074】
描画が終了したら、図示しない被記録媒体の搬送機構により、描画済みの被記録媒体を新たな被記録媒体に置き換える。
なお、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で、上記実施形態を修正または変形することが可能である。例えば、上記説明ではヘッド70をXY軸方向に移動させる例を示したが、ヘッド70は、X軸方向(またはY軸方向)のみに移動するようにし、被記録媒体をY軸方向(またはX軸方向)に移動させ、これらを連動させながら描画を行うものであってもよい。
【0075】
本発明は、インクジェット用インクの吐出を行わせるために利用されるエネルギーとして熱エネルギーを発生する手段(例えば電気熱変換体やレーザ光等)を備え、上記熱エネルギーによりインクジェット用インクを吐出させるヘッドが優れた効果をもたらす。かかる方式によれば描画の高精細化が達成できる。本発明のインクジェット用インク組成物を使用することにより、更に優れた描画を行うことができる。
【0076】
上記の熱エネルギーを発生する手段を備えた装置の代表的な構成や原理については、例えば、米国特許第4723129号明細書,同第4740796号明細書に開示されている基本的な原理を用いて行うものが好ましい。この方式は所謂オンデマンド型,コンティニュアス型のいずれにも適用可能であるが、特に、オンデマンド型の場合には、液体が保持され、流路に対応して配置されている電気熱変換体に、吐出情報に対応していて核沸騰を越える急速な温度上昇を与える少なくとも1つの駆動信号を印加する。このことによって、電気熱変換体に熱エネルギーを発生せしめ、ヘッドの熱作用面に膜沸騰を生じさせて、結果的にこの駆動信号に一対一で対応した液体内の気泡を形成できるので有効である。この気泡の成長および収縮により吐出用開口を介して液体を吐出させて、少なくとも1つの滴を形成する。この駆動信号をパルス形状とすると、即時適切に気泡の成長収縮が行われるので、特に応答性に優れた液体の吐出が達成でき、より好ましい。このパルス形状の駆動信号としては、米国特許第4463359号明細書,同第4345262号明細書に記載されているようなものが適している。なお、上記熱作用面の温度上昇率に関する発明の米国特許第4313124号明細書に記載されている条件を採用すると、さらに優れた吐出を行うことができる。
【0077】
ヘッドの構成としては、上述の各明細書に開示されているような吐出口、液路、電気熱変換体の組み合せ構成(直線状液流路または直角液流路)の他に熱作用部が屈曲する領域に配置されている構成も本発明に含まれ。例えば、米国特許第4558333号明細書,米国特許第4459600号明細書を用いた構成も本発明に含まれるものである。加えて、複数の電気熱変換体に対して、共通するスリットを電気熱変換体の吐出部とする構成を開示する特開昭59−123670号公報に基づいた構成としても本発明の効果は有効である。また、熱エネルギーの圧力波を吸収する開孔を吐出部に対応させる構成を開示する特開昭59−138461号公報に基づいた構成としても本発明の効果は有効である。すなわち、ヘッドの形態がどのようなものであっても、本発明によればインクジェット用インクの吐出を確実に効率よく行うことができる。
【0078】
さらに、本発明の画像形成装置で被記録媒体の最大幅に対応した長さを有するフルラインタイプのヘッドに対しても本発明は有効に適用できる。そのようなヘッドとしては、複数のヘッドの組み合せによってその長さを満たす構成や、一体的に形成された1個のヘッドとしての構成のいずれでもよい。
【0079】
加えて、シリアルタイプのものでも、装置本体に固定されたヘッド、または、装置本体に装着されることで装置本体との電気的な接続や装置本体からのインクの供給が可能になる交換自在のチップタイプのヘッドを用いた場合にも本発明は有効である。
【0080】
さらに、本発明の装置は、液滴除去手段を更に有していてもよい。このような手段を付与した場合、更に優れた吐出効果を実現できる。
また、本発明の装置の構成として、予備的な補助手段等を付加することは本発明の効果を一層安定化できるので好ましい。これらを具体的に挙げれば、ヘッドに対してのキャッピング手段、加圧または吸引手段、電気熱変換体またはこれとは別の加熱素子を挙げることができる。または、これらの組み合わせを用いて加熱を行う予備加熱手段、インクの吐出とは別の、吐出を行うための予備吐出手段などを挙げることができる。
【0081】
本発明に対して最も有効なものは、上述した膜沸騰方式を実行するものである。
本発明の装置では、インクジェット用インクの吐出ヘッドの各吐出口から吐出されるインクの量が、0.1ピコリットルから100ピコリットルの範囲であることが好ましい。
【0082】
また、本発明のインク組成物は、中間転写体にインクを印字した後、紙等の記録媒体に転写する記録方式等を用いた間接記録装置にも用いることができる。また、直接記録方式による中間転写体を利用した装置にも適用することができる。
【実施例】
【0083】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
<実施例1>
四つ口フラスコにスチレン、メタクリル酸をはかりとり、トルエンを加えて溶解させた。攪拌シール、攪拌棒、冷却管、窒素導入管をセットし、60℃の恒温槽にて200rpmで攪拌しながら、一時間窒素置換を行った。その後、別の容器にAIBNのトルエン溶液を調製し、シリンジを用いて四つ口フラスコ内に注入して重合を開始した。重合開始1時間後に4つ口フラスコに酸素を導入して重合反応を停止し、反応溶液を大量のメタノールに注いで生成物を精製した。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって評価したところ、重量平均分子量11700、分子量分布2.79のスチレン/メタクリル酸共重合体(polySt−r−MAc)が得られたことを確認できた。合成したpoly(St−r−MAc)の水中への溶解性を観察したところ、pH9より小さいpH領域では水あるいは水溶液(水とpH調製用のKOHあるいはHClの混合物)に難溶であった。
【0084】
合成したpoly(St−r−MAc)の20質量部をテトラヒドロフラン100質量部に溶解させ、これにC.I.Pigment Red 122のマゼンタ顔料5質量部を容器内で2時間攪拌し懸濁させた。次に水酸化カリウム水溶液を少量ずつ滴下して、マゼンタ顔料を溶解させた。この顔料溶解液を超音波処理しながらスターラーを用いて攪拌している蒸留水中にシリンジを用いて速やかに投入してマゼンタ顔料を析出させ、分散状態の顔料微粒子と溶解状態のpolySt−r−MAcを含有する液体組成物とした。DLS−7000(大塚電子社製)を用いて顔料微粒子の平均粒子径を25℃にて蒸留水中で測定したところ32.2nmであることが確認された。また、顔料微粒子のゼータ電位を測定したところ、pH2(塩濃度0.01N)において0mV、pH3において3mV、pH4において18mV、pH8において22mVであった。
【0085】
上記のように製造した液体組成物はpH11.5の分散液であり、顔料微粒子と溶解状態のpolySt−r−MAcが含有されている。この液体組成物を、限外濾過システム(マイクローザR−UFペンシル型モジュール、旭化成製)を用いて脱塩し、pH8に調製した。pH8の液体組成物を所定時間静置すると沈殿物を生じることが観察された。沈殿物をデカンテーションにより液体組成物から除去し、除去した沈殿物をIRとGPCにより評価したところ、polySt−r−MAcであることが確認できた。以上のような結果から、顔料微粒子と溶解状態の高分子化合物を含有する液体組成物において、そのpHを調製することによって、液体組成物から選択的に溶解状態の高分子化合物を除去できることが確認された。
【0086】
比較実験として、液体組成物をpH2に調製した場合には顔料微粒子とpolySt−r−MAcがともに沈殿してしまいpolySt−r−MAcのみを液体組成物から取り除くことができなかった。
【0087】
比較実験として、液体組成物をpH3に調製した場合にはpolySt−r−MAcのみ析出・沈殿することが観察されたが、顔料微粒子も若干凝集した。
比較実験として、液体組成物をpH4に調製した場合にはpolySt−r−MAcのみ析出・沈殿することが観察され、顔料微粒子の分散安定性は良好に保持された。
【0088】
<実施例2>
四つ口フラスコにスチレン、p−ニトロフェニルアクリレートをはかりとり、トルエンを加えて溶解させた。攪拌シール、攪拌棒、冷却管、窒素導入管をセットし、60℃の恒温槽にて200rpmで攪拌しながら、一時間窒素置換を行った。その後、別の容器にAIBNのトルエン溶液を調製し、シリンジを用いて四つ口フラスコ内に注入して重合を開始した。重合開始3時間後に4つ口フラスコに酸素を導入して重合反応を停止し、反応溶液を大量のメタノールに注いで生成物を精製した。次に生成物とヘキサメチレンジアミンをトルエンに溶解させ、p−ニトロフェニルアクリレート由来の活性エステル基とヘキサメチレンジアミンを所定時間反応させ、反応溶液を大量のメタノールに注いで生成物を精製した。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって評価したところ、重量平均分子量11100、分子量分布3.27のアミノ基含有高分子化合物が得られたことを確認できた。合成したアミノ基含有高分子化合物の水中への溶解性を観察したところ、pH4より大きいpH領域では水あるいは水溶液(水とpH調製用のKOHあるいはHClの混合物)に難溶であった。
【0089】
合成したアミノ基含有高分子化合物の20質量部をテトラヒドロフラン100質量部に溶解させ、これにC.I.Pigment Yellow 128のイエロー顔料5質量部を容器内で2時間攪拌し懸濁させた。次に水酸化カリウム水溶液を少量ずつ滴下して、イエロー顔料を溶解させた。この顔料溶解液を超音波処理しながらスターラーを用いて攪拌しているpH1水溶液中(蒸留水と塩酸を用いて調製)にシリンジを用いて速やかに投入してイエロー顔料を析出させ、分散状態の顔料微粒子と溶解状態のアミノ基含有高分子化合物を含有する液体組成物とした。DLS−7000(大塚電子社製)を用いて顔料微粒子の平均粒子径を25℃にて蒸留水中で測定したところ42.2nmであることが確認された。また、顔料微粒子のゼータ電位を測定したところ、pH3(塩濃度0.01N)において10mV、pH5において5mV、pH8において2mV、pH11において0mVであった。
【0090】
上記のように製造した液体組成物はpH3の分散液であり、顔料微粒子と溶解状態のアミノ基含有高分子化合物が含有されている。この液体組成物を、限外濾過システム(マイクローザR−UFペンシル型モジュール、旭化成製)を用いて脱塩し、pH5に調製した。pH8の液体組成物を所定時間静置すると沈殿物を生じることが観察された。沈殿物をデカンテーションにより液体組成物から除去し、除去した沈殿物をIRとGPCにより評価したところ、アミノ基含有高分子化合物であることが確認できた。以上のような結果から、顔料微粒子と溶解状態の高分子化合物を含有する液体組成物において、そのpHを調製することによって、液体組成物から選択的に溶解状態の高分子化合物を除去できることが確認された。
【0091】
比較実験として、液体組成物をpH11に調製した場合には顔料微粒子とアミノ基含有化合物がともに沈殿してしまいアミノ基含有化合物のみを液体組成物から取り除くことができなかった。
【0092】
比較実験として、液体組成物をpH8に調製した場合にはアミノ基含有化合物のみ析出・沈殿することが観察されたが、顔料微粒子も若干凝集した。
<インク組成物の調整>
実施例1で、pH8において溶解状態のpolySt−r−MAcを選択除去した液体組成物をエバポレータを用いて濃縮し、顔料分10%の濃縮液を得た。この濃縮液50質量部、ジエチレングリコール7.5質量部、グリセリン:5質量部、トリメチロールプロパン5質量部、アセチレノールEH0.2質量部、イオン交換水:32.3質量部を混合してインク組成物を調製した。
【0093】
<印字評価>
調製したインク組成物をインクジェットプリンタBJF800(商品名、キヤノン株式会社製)に搭載し、普通紙に対してベタ画像のインクジェット記録を行った。記録物を目視により評価したところ、鮮明な色相を有するものであることを確認した。
【0094】
また、調製したインク組成物をインクジェットプリンタBJF800(商品名、キヤノン株式会社製)に搭載し、普通紙に文字画像のインクジェット記録を行い、その吐出安定性を評価した。吐出安定性は、英数文字を連続で100万字印刷し、得られた印字物について目視にて観察したところ、最後までカスレや不吐出などの問題を生じることなく、きれいに印字することが可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、インクジェット用インクとして好適な、サイズ均一性の高いナノメートルオーダーの顔料微粒子を含有する液体組成物を提供できるので、インクジェット用インク組成物、該インク組成物を使用した画像形成方法及び画像形成装置に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】インクジェット記録装置の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0097】
20 インクジェット装置
50 CPU
52 Xモータ駆動回路
54 Yモータ駆動回路
56 X方向駆動モータ
58 Y方向駆動モータ
60 ヘッド駆動回路
62 Xエンコーダ
64 Yエンコーダ
66 プログラムメモリ
70 ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散状態の微粒子と溶解状態の高分子化合物とを含有する液体組成物から高分子化合物を除去する液体組成物の精製方法であって、(1)前記液体組成物を前記微粒子は分散状態を保持し、且つ前記高分子化合物は難溶であるpH領域に調製し前記高分子化合物を析出あるいは沈殿させる工程、(2)前記高分子化合物の析出物あるいは沈殿物を液体組成物から除去する工程とを有することを特徴とする液体組成物の精製方法。
【請求項2】
前記pH領域において、前記微粒子のゼータ電位の絶対値が0mVより大きいことを特徴とする請求項1記載の液体組成物の精製方法。
【請求項3】
前記pH領域において、前記微粒子のゼータ電位の絶対値が5mV以上であることを特徴とする請求項1または2記載の液体組成物の精製方法。
【請求項4】
前記高分子化合物が荷電性高分子化合物であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの項に記載の液体組成物の精製方法。
【請求項5】
前記液体組成物中において、前記微粒子と前記高分子化合物が同符号に荷電していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかの項に記載の液体組成物の精製方法。
【請求項6】
顔料微粒子と高分子化合物を含有し、前記顔料微粒子は分散状態で存在する液体組成物の製造方法であって、(1)いずれかに高分子化合物が含有されている第1の溶剤と第2の溶剤を準備する工程、(2)前記第1の溶剤に顔料を溶解している溶液を得る工程、(3)前記溶液と第2の溶剤を混合して混合液とし、前記顔料微粒子を分散状態で析出させる工程、(4)前記混合液を前記微粒子は分散状態を保持し、且つ前記高分子化合物は難溶であるpH領域に調製し前記高分子化合物を析出あるいは沈殿させる工程、(5)前記高分子化合物の析出物あるいは沈殿物を前記混合液から除去する工程とを有することを特徴とする液体組成物の製造方法。
【請求項7】
前記第1の溶剤が非プロトン性溶剤であることを特徴とする請求項6記載の液体組成物の製造方法。
【請求項8】
前記第1の溶剤が非プロトン性溶剤とアルカリの混合溶剤であることを特徴とする請求項6または7記載の液体組成物の製造方法。
【請求項9】
前記第2の溶剤が水あるいは水溶液であることを特徴とする請求項6乃至8のいずれかの項に記載の液体組成物の製造方法。
【請求項10】
前記高分子化合物が荷電性高分子化合物であることを特徴とする請求項6乃至9のいずれかの項に記載の液体組成物の製造方法。
【請求項11】
請求項6乃至10のいずれかの方法により製造された液体組成物を含有することを特徴とするインクジェット記録用インク組成物。
【請求項12】
請求項11記載のインク組成物を媒体に付与することにより、画像を記録する工程を有することを特徴とする画像形成方法。
【請求項13】
請求項11記載のインク組成物を媒体に付与することにより、画像を記録させるための手段を有することを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−239805(P2008−239805A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−82477(P2007−82477)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】