説明

液体輸送パイプラインの漏洩検出装置、及びその方法

【課題】処理時間を短縮する漏洩検出装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の漏洩検出装置は、パイプラインに沿って敷設され、パイプラインから漏洩した液体が浸透することにより特性インピーダンスが変化する漏洩検出ケーブル11と、漏洩検出ケーブルに入射される漏洩検出パルス信号を生成する漏洩検出パルス信号生成部33と、反射波の伝播距離と、反射波の減衰との相関を表すデータを記憶する記憶部23と、所定のサンプリング周期で繰り返されるサンプリング信号に同期して、漏洩検出パルス信号に対する反射波を増幅するゲインアンプであって、データに基づいて、反射波の増幅率を変更する増幅率可変ゲインアンプ53と、サンプリング信号に同期して、1つの漏洩検出パルス信号に対する増幅された反射波を複数回サンプリングし、サンプリングした反射波をデジタル信号に変換するA/D変換部61と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油パイプラインなどの液体輸送パイプラインの漏洩検出装置に関する。具体的には、検出ケーブルに入射されるパルス信号の反射波を検出することにより、同軸ケーブルなどの検出ケーブルの線路の特性インピーダンスの変化を検出し、検出ケーブルの欠陥箇所、及び液体輸送パイプラインの漏洩箇所などを、短時間に特定する漏洩検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
同軸ケーブルの特性インピーダンスを計測する方法の1つとして、TDR法(Time Domain Reflectometry、時間領域反射法)が知られる。TDR法を応用した検出器として、同軸ケーブルの異常個所を検出する検出器、及び同軸ケーブルを検出ケーブルとして使用する漏洩検出器などがある。例えば、10m以上、特に100m〜5000m程度の長さを有する液体輸送パイプライン、貯蔵タンク、及びこれらの附属設備(以下、液体輸送パイプライン等という)からの液体の漏洩を検出するために、TDR法を応用した漏洩検出装置が知られる(特許文献1〜3参照のこと)。この漏洩検出装置は、同軸ケーブルなどにより構成される検出ケーブルと、検出ケーブルの一端から入射されるパルス信号を生成するパルス信号生成器と、検出ケーブルからのパルス信号の反射波を検出する検出器とを有する。検出ケーブルは、液体輸送パイプライン等の下方に配置され、検出ケーブル内の導体間に配置される絶縁体には、検出対象の液体が浸潤、又は浸透すると、特性インピーダンスが変化する材料が採用される。また、検出ケーブルの他端は、検出ケーブルの特性インピーダンスと等価のインピーダンスを有する終端器が接続されて、特性インピーダンスと整合がとられる。このため、漏洩がない場合には、検出ケーブルに入射されるパルス信号は、反射波を生じない。しかしながら、液体輸送パイプライン等から液体が漏洩すると、検出ケーブルは、パイプラインから漏洩した液体が浸透して、浸透した部分の特性インピーダンスが変化する。この結果、検出ケーブルにパルス信号が入射されると、液体の浸潤により特性インピーダンスが変化した部分の前後で反射波を生じる。検出器は、この反射波を検出することにより、漏洩を検出する。
【0003】
また、このような漏洩検出装置を使用して、漏洩を検出するとともに、漏洩箇所を特定することができる。例えば、特許文献4に開示されるように、パルス信号を検出ケーブルに入射してから反射波が検出されるまでの時間の計測値と、検出ケーブルのパルス信号伝搬時間とから漏洩箇所を算出することができる。
【0004】
従来のTDR法を応用した漏洩検出装置では、パルス信号を入射するごとに、1つの地点の反射波を計測することによって、それぞれの計測地点の特性インピーダンスを把握する方式が採用される。これは、反射波の減衰が、計測地点と検出地点との間の伝搬距離に依存するため、計測地点ごとに、反射波の増幅率が異なるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭54−68690号公報
【特許文献2】特開昭56−22923号公報
【特許文献3】特開昭57−114832号公報
【特許文献4】特開昭58−33145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の漏洩検出装置では、計測するパイプラインの長さが増加するほど、また計測地点の間の間隔を狭くして計測値の分解能を高くするほど、計測回数が増加するために、計測回数に比例して処理時間が長くなるという不具合があった。
【0007】
そこで、本発明は、上述した不具合を解決することが可能な漏洩検出装置を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、反射波の伝搬距離と、反射波の減衰との相関を表すデータに基づいて、特定のサンプリング周期で反射波を増幅する増幅部を採用することにより、処理時間を短縮する漏洩検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を実現するため、本発明の漏洩検出装置は、漏洩検出ケーブルに入射される漏洩検出パルス信号の反射波を検出することによって、液体輸送パイプラインからの液体漏洩を検出する装置であって、パイプラインに沿って敷設され、パイプラインから漏洩した液体が浸透することにより特性インピーダンスが変化する漏洩検出ケーブルと、漏洩検出ケーブルに入射される漏洩検出パルス信号を生成する漏洩検出パルス信号生成部と、反射波の伝播距離と、反射波の減衰との相関を表すデータを記憶する記憶部と、所定のサンプリング周期で繰り返されるサンプリング信号に同期して、漏洩検出パルス信号に対する反射波を増幅するゲインアンプであって、データに基づいて、反射波の増幅率を変更する増幅率可変ゲインアンプと、サンプリング信号に同期して、1つの漏洩検出パルス信号に対する増幅された反射波を複数回サンプリングし、サンプリングした反射波をデジタル信号に変換するA/D変換部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、所定のサンプリング周期ごとに、反射波の伝播距離と、反射波の減衰との相関を表すデータに基づいて、反射波を増幅するゲインアンプを有するので、液体輸送パイプラインの液体漏洩の有無を短時間で検出できる漏洩検出装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る漏洩検出装置の一例を示す図である。
【図2】本発明に係る漏洩検出装置で採用される検出ケーブルの一例を示す図である。
【図3】本発明に係る漏洩検出装置で採用されるゲインアンプの回路構成の一例を示す図である。
【図4】本発明に係るタイミングチャートの一例を示す図である。
【図5】本発明に係る漏洩検出方法の一例を示す図である。
【図6】本発明に係る漏洩検出装置の他の例を示す図である。
【図7】本発明に係る漏洩検出装置で採用される遅延量選択部の回路構成の一例を示す図である。
【図8】本発明に係るタイミングチャートの他の例を示す図である。
【図9】本発明に係る漏洩検出方法の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る漏洩検出装置について詳細に説明する。それぞれの図面において、同一、又は類似する機能を有する構成素子には、同一、又は類似する符号が付される。したがって、先に説明した構成要素と同一、又は類似する機能を有する構成素子に関しては、改めて説明をしないことがある。
【0013】
図1において、本発明に係る漏洩検出装置の一例を示す。図1に示すように、漏洩検出装置1は、検出センサ11と、信号処理部2とを有する。検出センサ11は、石油などの液体を輸送する液体輸送パイプライン100の下部に配置されて、液体輸送パイプライン100から液体が漏洩した場合には、漏洩した液体が検出センサ11に浸透する。信号処理部2は、検出センサ11にパルス信号を入射し、漏洩した液体が検出センサ11に浸透した場合に生じる反射波を処理し、液体輸送パイプライン100の漏洩を検出し、かつ漏洩箇所を特定する。
【0014】
図2において、本発明に係る漏洩検出装置1で採用される検出ケーブル11の一例を示す。図2に示すように、検出ケーブル11は、内部導体11aと、外部導体11bとを有する。内部導体11aは、裸軟銅などで形成でき、外部導体11bは、錫めっき軟銅線を編組、あるいは錫めっき軟銅線、及び多孔質PTFE(polytetrafluoroethylene、ポリテトラフルオロエチレン)テープを混合して編組するなどして形成できる。図1に示されるように、内部導体11aの一端は、信号処理部2に接続され、他端は、好適には終端器13に接続される。終端器13のインピーダンスは、検出ケーブル11の特性インピーダンスと等価にすることができる。これにより、検出ケーブルの一端からパルス信号を入射したときに、反射波を生じさせないようにできる。また、外部導体11bは、大地に接地される。
【0015】
再び図2を参照すると、検出ケーブル11の内部導体11aと、外部導体11bとの間には、内部保護層11cと、検出層11dとが配置される。また、外部導体11bの外周には、外部保護層11eと、保護編組11fとが配置される。外部導体11bの外周に配置される外部保護層11eと、検出層11dは、多孔質PTFEのテープで形成される。当業者に知られるように、多孔質PTFEは、良好な撥水性を有する一方、油類を容易に浸透させる特性を有する。このため、多孔質PTFEのテープを材料として含む外部保護層11e、外部導体11b、及び検出層11dは、雨水などの水分を浸透させずに、油類を透過させることが可能である。さらにPTFEは、油類を含有することにより比誘電率が変化する特性を有する。このため、内部導体11aと、外部導体11bとの間に形成される検出層11dは、油類が浸透した場合に検出ケーブル11の特性インピーダンスが変化する。検出層11dなどの材料に採用される多孔質PTFEテープは、多孔質中の空気の含有率が異なる種々の多孔質PTFEテープにできる。多孔質中の空気の含有率を変化させることで、所望の誘電率を有する多孔質PTFEのテープを形成できる。なお、内部保護層11cは、PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)などの樹脂で形成され、内部導体11aに油類が浸透することを防止できる。
【0016】
検出ケーブル11と、信号処理部2とは、直接接続することも可能であるが、好適には、検出ケーブル11と、信号処理部2との間にダミーケーブル15を挿入することができる。ダミーケーブル15を挿入しない場合、入射されるパルス信号と、反射波とが重畳して、反射波を検出できない可能性があるためである。ダミーケーブルの長さは、入力される漏洩検出パルスのパルス幅などによって、決定される。例えば、ダミーケーブルの長さは、100〔m〕にできる。また、液体輸送パイプライン100と、検出ケーブル11との間にセーフティバリア110を配置することができる。セーフティバリア110は、検出ケーブル11の発熱などにより、液体輸送パイプライン100から漏洩した石油などの可燃性の液体が発火することを防止する機能を有する。
【0017】
再び図1を参照して、漏洩検出装置1の信号処理部2について説明する。信号処理部2は、中央演算処理装置(CPU)21と、記憶部23と、パルス生成部31と、パルス幅制御部33と、I/O部41と、デジタル‐アナログ変換部(DAC)51と、ゲインアンプ53と、アナログ‐デジタル変換部(ADC)61と、データI/O部71とを有する。CPU21は、記憶部23、パルス生成部31、及びパルス幅制御部33などと接続され、それぞれの素子を制御する。パルス生成部31は、CPU21の制御に基づき、パルス信号を生成して、検出ケーブル11に入射する信号を生成するパルス幅制御部33に提供するとともに、反射波を増幅するゲインアンプ53を制御するCPU21と、反射波をデジタルデータに変換するADC61とにサンプリング信号として提供する。パルス幅制御部33は、分周回路などによって、パルス生成部31が発生したパルス信号の周期、及びパルス幅を変更して、検出ケーブル11に入力するのに適当な漏洩検出パルス信号を生成する。例えば、検出ケーブルが、1000〔m〕程度の長さを有する場合は、漏洩検出パルス信号は、200〔ns〕〜250〔ns〕程度のパルス幅を有していればよい。パルス幅制御部33で生成された漏洩検出パルス信号は、I/O部41を介して検出ケーブル11に送信される。検出ケーブル11に入射される漏洩検出パルス信号は、液体輸送パイプライン100に漏洩がなく、検出ケーブル11の特性インピーダンスに線路方向での不整合がない場合には、終端器13に吸収されて、反射波は発生しない。
【0018】
一方、液体輸送パイプライン100に液体漏洩が発生し、検出ケーブル11の特性インピーダンスに線路方向での不整合が生じる場合には、反射波は、発生する。検出ケーブル11内で発生した反射波は、バッファ、及びアッテネータを有するI/O部41を介して、ゲインアンプ53に送信される。後に詳細に説明されるように、ゲインアンプ53は、パルス生成部31が生成するサンプリング信号のサンプリング周期ごとに、DAC51を介して読み出される記憶部23に記憶されるゲインテーブルに基づいて、漏洩地点に応じた適当な大きさに反射波を増幅する。ゲインアンプ53で増幅された反射波は、ADC61によって、パルス生成部31が生成するサンプリング信号のサンプリング周期でサンプリングされ、デジタル信号に変換される。ADC61でデジタル化された信号は、記憶部23に記憶されるとともに、データI/O部71を介して、データ処理部2の外部に配置される表示装置113、及び記憶装置に提供される。
【0019】
ここで、パルス生成部31が生成するパルス信号の周波数と、検出ケーブル11の入射端、及び計測地点の間の距離との相関について説明する。まず、検出ケーブル11中を漏洩検出パルス信号、及び反射波が1m移動する時間tc〔s/m〕を算出する。マックスウェルの方程式から導き出されるように物質中の電磁的な信号の伝搬速度Vcは、
【数1】

で示される。ここで、cは、真空中の光速2.99×108〔m/s〕であり、μは、比透磁率であり、εは、比誘電率である。また、検出ケーブル11を漏洩検出パルス信号、及び反射波が1m移動する時間tcは、信号の伝搬速度Vcの逆数で表すことができるので、tcは、
【数2】

で示される。ここで、比透磁率μを、1と仮定し、検出ケーブル11の検出層に使用される多孔質PTFEの比誘電率εを、1.5と仮定すると、検出ケーブル11中を漏洩検出パルス信号、及び反射波が1m移動する時間tcは、
【数3】

となる。さらに、検出ケーブル11の入射端から漏洩検出パルス信号が入射し、L〔m〕離れた地点で反射した反射波が戻ってくるまでの時間Δt〔ns〕は、
Δt = 2×L×tc ≒ 8L〔ns〕
となる。一方、パルス生成部31が生成するパルス信号の周波数が例えば、31.25〔MHz〕であると仮定すると、パルス信号の周期Tは、
T = 1/31.25×106 = 32×10-9〔s〕
= 32〔ns〕
となる。これから、比誘電率εが1.5である多孔質PTFEを有する検出ケーブルを使用した場合に、このパルス信号を使用して、31.25〔MHz〕のサンプリング周波数で反射波をサンプリングすることは、
L = 32/8 = 4〔m〕
ごとの検出ケーブル11の反射波を検出することに相当する。このように、パルス生成部31が生成する特定のサンプリング周波数で反射波をサンプリングすることは、検出ケーブル11を特定の距離間隔でサンプリングすることに相当する。
【0020】
以下の説明では、パルス生成部31が生成するパルス周波数を31.25〔MHz〕とし、検出ケーブル11の比誘電率εが1.5である多孔質PTFEを有すると仮定される。すなわち、パルス生成部31が生成するサンプリング周波数は、検出ケーブル11を4〔m〕ごとにサンプリングすることに相当すると仮定される。しかしながら、本発明に係る漏洩検出装置、及びその方法を使用する場合は、他のパルス周波数、及び比誘電率εを有する検出ケーブル11を使用しても、本発明の範囲に包含されることは、当業者には当然に理解されるであろう。
【0021】
次に、図1を再び参照して、ゲインアンプ53において、反射波を増幅する方法について説明する。ゲインアンプ53は、記憶部23に記憶されるゲインテーブルに基づいて、入射端からの距離に応じた適当な増幅率で、反射波を増幅する。記憶部23に記憶されるゲインテーブルには、漏洩検出パルス信号を入射する端部と計測地点との間の距離、すなわち反射波の伝搬距離と、反射波の減衰との相関を表すデータが記憶される。CPU21は、ゲインテーブルに記憶されるデータを、パルス生成部31が生成するサンプリング信号の周期で読み出して、DAC51にゲインアンプ53の制御信号として提供する。この制御信号は、ゲインアンプ53の増幅率を制御する制御信号に相当するものであり、ゲインアンプ53が、反射波の伝搬距離に応じて、適当な増幅率で反射波を増幅するための信号である。ゲインテーブルには、ゲインアンプ53の増幅率を制御する制御信号に相当するデータを記憶することができ、また反射波の伝搬距離ごとの反射波の減衰率などの実測値を記憶することもできる。後者の場合は、記憶部23は、記憶された実測値と、ゲインアンプ53の増幅率との相関を示すデータを記憶し、CPU21は、これらのデータに基づいて、適当な増幅率を算出する。好適には、ゲインテーブルに記憶される反射波の減衰率の計測地点の間隔は、サンプリング周期と同期させた距離間隔にすることができる。例えば、パルス生成部31のパルス信号のサンプリング周期が4〔m〕ごとに相当する場合は、ゲインテーブルの間隔も4〔m〕ごとにできる。なお、物理的な反射波の伝搬距離と、ゲインテーブルに記憶される増幅値に対応する距離との対応は、漏洩検出装置を設置するときに、ダミーケーブルの長さ、漏洩検出装置の設置場所と、検出対象のパイプラインとの間の距離などの設置条件に基づいて決定される。
【0022】
ゲインアンプ53は、検出ケーブル11の断線、又は短絡を検出する断線/短絡検出断線/短絡検出試験モードと、液体輸送パイプラインの液体漏洩を検出する漏洩検出モードの2つのモードを有することができる。断線、又は短絡時に発生する反射波は、漏洩時に発生する反射波よりも振幅が数倍程度大きくなるため、ゲインアンプ53内部の増幅素子、及びADC61などの電子回路素子を損傷するおそれがあるためである。断線/短絡検出試験モードは、漏洩検出モードを実行する前に実行することができる。図3に、短絡検出試験モード、及び漏洩検出モードの2つのモードを有するゲインアンプ53の一例を示す。図3に示すように、I/O部から入力される反射波は、バッファ54を介して、マルチプレクサ56に直接提供される信号と、増幅素子55をさらに介してマルチプレクサ56に提供される信号とに分配される。マルチプレクサ56は、断線/短絡検出試験モードでは、前者を増幅素子57に提供し、漏洩検出モードでは、後者を増幅素子57に提供する。増幅素子57は、DAC51を介して記憶部23に記憶されたゲインテーブルから生成される制御信号に基づき、反射波を増幅する。増幅素子57で増幅された反射波は、バッファ58を介してADC61に提供される。
【0023】
次いで、反射波は、ADC61において、パルス生成部31が生成したサンプリング信号の周期でサンプリングされて、デジタル変換される。ADC61におけるデジタル変換と、ゲインアンプ53における増幅とは、いずれもパルス生成部31が生成したサンプリング信号のサンプリング周期で実行されるため、双方の処理は同期して実行されることになる。また、ADC61は、ADC入力遮断信号が入力される場合に、振幅が大きな信号などADC61に不要な信号の入力を阻止できる機能を有することができる。このような機能を有することで、ADC61は、断線、又は短絡時に発生する反射波など振幅の大きな信号が入力されることを回避することができる。
【0024】
図4を参照して、サンプリング信号、漏洩検出パルス信号、及びADC入力遮断信号のタイミングについて説明する。図4は、本実施形態におけるタイミングチャートの一例を示す図である。サンプリング信号は、図1に示すパルス生成部31で生成されるパルス信号である。サンプリング信号の周期は、検出ケーブル11の検出層の誘電率ε、及び計測地点間の距離などに依存する。例えば、検出ケーブル11の検出層の比誘電率εが1.5であり、計測地点間の距離が4〔m〕である場合は、サンプリング信号の周期は、32〔ns〕にできる。サンプリング信号に付記される0〔m〕〜32〔m〕の距離は、反射波の伝搬距離である。0〔m〕地点は、挿入されるダミーケーブルの長さ、漏洩検出装置の設置場所と、検出対象のパイプラインとの間の距離などの設置条件に基づいて決定される。漏洩検出パルス信号は、図1に示すパルス幅制御部33で、パルス生成部31で生成されたサンプリング信号を分周するなどして形成される。図4に示す例では、漏洩検出パルス信号のパルス幅は、サンプリング信号の8周期分の長さを有する。ADC入力遮断信号は、ADC61に振幅が大きい波形など、予期しない波形が入力しないように、ADC61の入力を遮断する信号である。ここでは、ADC61に漏洩検出パルス信号が入力しないように、漏洩検出パルス信号がパルス幅制御部33から出力される間、及び漏洩検出パルス信号が出力された後の適当な時間の間、出力される。反射波は、ADC61の入力端で観察されるアナログ信号を概略的に示す図である。矢印Aで示される波形は、保護ダイオードを介して入力させる漏洩検出パルス信号の一部であり、振幅は0.5〔V〕程度である。矢印Bで示される波形は、漏洩検出パルス信号の反射波である。上述のように、検出ケーブル11の他端は、検出ケーブル11の特性インピーダンスと等価のインピーダンスを有する終端器13で終端されるため、反射波は通常、生じない。しかしながら、液体輸送パイプラインなどからの液体漏洩により、検出ケーブル11の特性インピーダンスが変化した場合には、反射波が生じる。ここでは、16〔m〕〜24〔m〕の間で液体漏洩が発生した例を示す。
【0025】
ここで、再び図1を参照すると、ADC61でデジタル変換された反射波は、記憶部23などに処理データとして記憶される。記憶部23に記憶された処理データに基づいて、液体輸送パイプラインの液体漏洩の有無を判定できる。例えば、処理データは、データI/O部71を介して、漏洩検出装置1に接続されるLCDディスプレイ装置などの表示装置113に、波形グラフなどとして表示することができる。点検者は、この表示を点検することにより、液体輸送パイプラインの液体漏洩の有無を判定できる。また、記憶部23、又は記憶装置115などに記憶された基準データと、処理データとを比較することによって、液体輸送パイプラインの液体漏洩の有無を判定できる。基準データは、漏洩検出装置1を設置する際に計測された計測値に基づいて作成してもよく、又は最新の複数の処理データの平均値などに基づいて作成してもよい。液体漏洩の有無を判定する際に、さらに所定のしきい値を使用してもよい。例えば、処理データと、基準データとの最大の差異値と、所定のしきい値とを比較して、液体漏洩の有無を判定できる。さらにまた、液体漏洩の有無を判定する際に、複数の処理データの平均値を使用してもよい。複数の処理データの平均値を使用することにより、熱雑音など不規則に発生するノイズの影響を除去するためである。好適には、液体漏洩の有無を判定する際には、50〜100程度の処理データの平均値を使用することが望ましい。例えば、64個のデータの平均値を使用することができる。
【0026】
このように、漏洩検出装置1では、記憶部23に記憶されたゲインテーブルを所定のサンプリング周期で読み出して、反射波の伝搬距離に応じた適当な増幅率を反射波に与えることにより、1つの漏洩検出パルス信号に対して、複数の反射波を検出することが可能になる。例えば、4〔m〕ごとに反射波をサンプリングする場合は、1つの漏洩検出パルス信号に対して、1000〔m〕当たり250個の反射波を検出することが可能である。このため、本発明に係る漏洩検出装置1では、1つの漏洩検出パルス信号に対して、1つの反射波を検出する従来の漏洩検出装置と比較して検出時間を大幅に短縮することができる。また、本発明に係る漏洩検出装置1では、単一のパルス生成部31が生成した信号を使用して、検出ケーブル11に入射される漏洩検出パルス信号を生成するとともに、ゲインアンプ53、及びADC61を制御するため、パルス信号、及び反射信号の制御が容易になるとともに、構成素子を削減できるという利点も有する。
【0027】
次に図5を参照して、漏洩検出装置1を使用して、液体輸送パイプラインからの液体漏洩を検出する方法の一例について説明する。図5に示すように、ステップ101において、CPU21は、所定の周期を有するパルス信号を生成する。このパルス信号に基づいて検出ケーブル11に入射される漏洩検出パルス信号が生成されるとともに、検出ケーブル11からの反射波の増幅、及びA/D変換が行われる。次いでステップ102において、CPU21は、パルス信号に基づいて生成された漏洩検出パルス信号を検出ケーブルに入射する。そして、適当な時間が経過した後にステップ103において、CPU21は、所定のサンプリング信号の周期で、反射波を増幅し、ステップ104において、増幅した反射波をアナログ信号からデジタル信号に変換する。そしてステップ105において、CPU21は、デジタル信号に変換されたデータを記憶する。
【0028】
ステップ106において、CPU21は、ステップ102〜105が、所定の回数に亘り実行されているか否かを判定する。これらのステップが所定の回数実行されていない場合は、CPU21は、再度ステップ102において、漏洩検出パルス信号を検出ケーブルに入射する。これらのステップが所定の回数実行されている場合は、ステップ107において、CPU21は、平均化などさらなる処理が施された処理データと、所与の基準データとを比較して、液体輸送パイプラインに液体漏洩が発生しているか否かを判定する。
【0029】
図6において、本発明に係る漏洩検出装置の他の例を示す。図6に示すように、漏洩検出装置3は、検出センサ11と、信号処理部4とを有する。漏洩検出装置3が備える信号処理部4は、漏洩検出装置1が備える信号処理部2と比較すると、遅延量選択部81を有している点が相違する。したがって、ここでは、相違点である遅延量選択部81に関する事項を主に説明し、先に説明した事項と重複する事項に関する説明は、省略する。
【0030】
図6に示すように、遅延量選択部81は、パルス生成部31が生成したパルス信号を受信するとともに、CPU21から選択信号を受信して、選択信号で選択された遅延量だけ遅延したパルス信号をサンプリング信号として、CPU21、及びADC61に提供する。すなわち、遅延量選択部81は、パルス生成部31が生成したパルス信号に対して、選択された遅延量で遅延させたタイミングで、ゲインアンプ53、及びADC61での処理を実行することが可能である。これによって、遅延量選択部81を有しない漏洩検出装置1よりも、高い分解能で漏洩検出が可能になる。すなわち、漏洩検出パルス信号の周期の間の時間を、遅延量選択部81で遅延させたサンプリング信号によりサンプリングすることによって、検出ケーブル11の計測距離間隔を短くし、分解能を向上させることが可能である。
【0031】
遅延量選択部81を有する漏洩検出装置3の動作を、上述した比誘電率εが1.5である多孔質PTFEを有する検出ケーブル11を使用し、パルス信号発生部31が発生するパルス信号の周波数が31.25〔MHz〕の場合を例に説明する。この例では、パルス信号の周期は、32〔ns〕であり、検出ケーブル11のサンプリング距離間隔に換算すると、4〔m〕に相当する。このパルス信号を、図7で示すような回路などで構成される遅延量選択部81に印加する場合を考える。図7に示すように、遅延量選択部81は、パルス生成部31が発生したパルス信号を、遅延素子83a、83b、及び83gなどを介することによって遅延したパルス信号を、選択信号により制御されるセレクタ85により選択して、ADC61、及びCPU21などに提供する。まず、図8のタイミングチャートに示すように、図7に示すセレクタ85がDin0に入力されたパルス信号をDoutに出力する場合、パルス信号がサンプリングする地点が、順に0〔m〕、4〔m〕、8〔m〕、...、992〔m〕、996〔m〕、1000〔m〕、...に対応すると仮定する。すると、Din0に入力されるパルス信号よりも4〔ns〕遅延したDin1に入力されたパルス信号をDoutに出力する場合、サンプリングする地点は、0.5〔m〕、4.5〔m〕、8.5〔m〕、...、992.5〔m〕、996.5〔m〕、1000.5〔m〕、...に対応する。これは、双方のパルス信号の遅延差である4〔ns〕が、検出ケーブル11の距離間隔では、0.5〔m〕に対応するためである。同様に、Din0に入力されるパルス信号よりも8〔ns〕遅延したDin2に入力されたパルス信号をDoutに出力する場合、サンプリングする地点は、1〔m〕、5〔m〕、9〔m〕、...、993〔m〕、997〔m〕、1001〔m〕、...に対応する。以下、同様に、Din0に入力されるパルス信号よりも28〔ns〕遅延したDin7に入力されるパルス信号まで、4〔ns〕、すなわち0.5〔m〕の分解能で、検出ケーブル11の反射波を検出することができる。
【0032】
このように、パルス信号を適当な遅延量で遅延させて、反射波をサンプリングすることによって、パルス生成部31が発生するパルス信号の周波数を高くすることなく、検出ケーブル11の分解能を上げることができる。一般に、CPU、DAC、ADCなどの電子機器の動作速度、及び分解能などの性能が許す限り、サンプリング周波数を高速化することは、可能である。しかしながら、サンプリング周波数を高速化した場合は、データレートが高い信号処理回路、及びCPUを使用する必要がある。一般に、ADC51、及びDAC61などの電子部品は、定格のサンプリング周波数が高くなると、その価格は、指数関数的に上昇する。また、高周波動作に対応するために、電子回路基板もまた、耐雑音性能が高い高価な基板を使用する必要がある。このため、パルス生成部31が生成するパルス信号の周波数を高くすると、信号処理部4を構成するそれぞれの素子の価格が上昇するため、製造コストの上昇を招くおそれがある。さらに、サンプリング周波数の高速化に伴い、信号間のジッタが発生する可能性が高まり、信頼性が低下するおそれもある。遅延量選択部81を有する漏洩検出装置3では、異なる遅延量でパルス信号を遅延させた複数の信号をサンプリング信号として使用することにより、パルス生成部31が発生するパルス信号の周波数を上げることなく、分解能を上げることができる。例えば、31.25〔MHz〕など周波数を発生する汎用パルス生成部を使用した場合でも、十分に分解能が高く、かつ信頼性のあるデータを短時間に取得できる。
【0033】
次に図9を参照して、遅延量選択部81を有する漏洩検出装置3を使用して、液体輸送パイプラインからの液体漏洩を検出する方法の一例について説明する。図9に示すように、ステップ201において、CPU21は、遅延量選択部81に選択信号を提供する。ステップ202〜207は、図5のステップ101〜106と同様である。ステップ208において、所定の回数に亘り漏洩検出パルスを検出ケーブル11に入射して、反射信号を記憶した後に、CPU21は、遅延量選択部81において選択されていない遅延量があるか否かを判定する。選択されていない遅延量がある場合は、処理は、ステップ201に戻る。また全ての遅延量を選択している場合は、ステップ209において、CPU21は、異なる遅延量で遅延させた処理データを1つのデータに結合する。処理データを結合することにより、分解能が向上した処理データを得ることができる。そして、ステップ210において、処理データは、基準データと比較される。
【0034】
以上、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を説明したが、各種の変形例があり得るのはいうまでもない。
【0035】
例えば、本発明を使用して、輸送パイプラインの漏洩箇所を特定するだけでなく、漏洩検出ケーブルの欠陥箇所を特定することもできる。また、本明細書においては、比誘電率εが1.5の多孔質PTFEを有する同軸ケーブルを、検出ケーブルとして使用する漏洩検出装置について説明してきた。しかしながら、誘電率が異なる多孔質PTFEを有する検出ケーブル、又は他の樹脂を絶縁体材料とする検出ケーブルを検出ケーブルとして使用することもできる。さらにまた、本明細書において、漏洩検出パルス信号は、サンプリング信号を生成するパルス生成部31の信号により生成されるが、他のパルス発生器により生成することもできる。
【符号の説明】
【0036】
1、3 漏洩検出装置
2、4 信号処理部
11 検出センサ
13 終端器
15 ダミーケーブル
21 CPU
31 パルス生成部
33 パルス幅制御部
41 I/O部
51 DAC
53 ゲインアンプ
61 ADC
71 データI/O
81 遅延量選択部
100 液体輸送パイプライン
111 入力装置
113 表示装置
115 記憶装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
漏洩検出ケーブルに入射される漏洩検出パルス信号の反射波を検出することによって、液体輸送パイプラインからの液体漏洩を検出する装置であって、
前記パイプラインに沿って敷設され、前記パイプラインから漏洩した液体が浸透することにより特性インピーダンスが変化する漏洩検出ケーブルと、
前記漏洩検出ケーブルに入射される漏洩検出パルス信号を生成する漏洩検出パルス信号生成部と、
前記反射波の伝播距離と、該反射波の減衰との相関を表すデータを記憶する記憶部と、
所定のサンプリング周期で繰り返されるサンプリング信号に同期して、前記漏洩検出パルス信号に対する前記反射波を増幅するゲインアンプであって、前記データに基づいて、前記反射波の増幅率を変更する増幅率可変ゲインアンプと、
前記サンプリング信号に同期して、1つの前記漏洩検出パルス信号に対する前記増幅された反射波を複数回サンプリングし、該サンプリングした反射波をデジタル信号に変換するA/D変換部と、
を有することを特徴とする装置。
【請求項2】
前記サンプリング信号を、前記サンプリング周期の1/Nずつ遅延量が異なるN個の遅延量で遅延可能な遅延量選択部であって、前記Nは整数である遅延量選択部をさらに有する請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記デジタル信号と、所与の基準値とを比較して、前記パイプライン等から漏洩の有無が判定される請求項1、又は請求項2に記載の装置。
【請求項4】
液体輸送パイプライン等からの液体漏洩を検出する方法であって、
漏洩検出パルス信号を漏洩検知ケーブルに入力するステップと、
所定のサンプリング周期を有するサンプリング信号に同期して、前記漏洩検出パルス信号の反射波を増幅するステップと、
前記サンプリング信号に同期して、前記増幅された反射波をサンプリングし、かつ該サンプリングした反射波をデジタル信号に変換するステップと、
を有することを特徴とする方法。
【請求項5】
反射波を増幅する前記ステップ、及び前記増幅された反射波をデジタル信号に変換する前記ステップの前記サンプリング周期を、前記サンプリング周期の1/Nずつ遅延量が異なるN個のタイミングずつシフトさせて、それぞれ実行する方法であって、前記Nは整数である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記デジタル信号と、所与の基準値とを比較して、前記パイプライン等から漏洩の有無を判定するステップをさらに有する請求項4、又は請求項5に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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