説明

液体CO2貯蔵装置および貯蔵方法

【課題】従来使用されている液体CO貯蔵装置のタンクに大きな改変を加えることなく、環境温度が変化しても、COを液体のままで長日数貯蔵しておくことのできる新規な液体CO貯蔵装置と貯蔵方法を開示する。
【解決手段】液体CO貯蔵装置Aにおいて、液体CO貯蔵タンク1と、液体CO貯蔵タンク1内に炭化水素を添加することのできる炭化水素添加手段(高圧ポンプ)2とを少なくとも備えるようにする。貯蔵されている液体COにエタノールのような炭化水素を添加することにより、超臨界相に変化するときの臨界圧および臨界温度を上昇させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、COを液化した状態で貯蔵するための液体CO貯蔵装置、およびその貯蔵方法に関する。
【背景技術】
【0002】
耐圧タンクあるいは耐圧容器内に液化したCOを貯蔵することが行われる。具体的な例としては、地上に設置した液体CO貯蔵タンク、CO運搬船に取り付けた液体CO貯蔵タンク、あるいは自動車に取り付けた液体CO貯蔵タンクなどが挙げられる。COは三重点以上の温度と圧力条件下では液体化するので、耐圧タンクを所定温度以下に保持することにより、タンク内でCOを液体状態に維持することができる。
【0003】
しかし、液体COは、温度と圧力が臨界点(31.1℃、7.4MPa)を超えると超臨界状態となり、液体から気体(超臨界)への相転移により密度が下がる。この結果として、COガスの膨張が生じる。
【0004】
液体COを貯蔵するタンクには、通常、防熱施工が施されているが、太陽熱などが浸入するのを完全に遮断するのは困難であり、タンク内で液体COが、上記した臨界点を超えた環境下に置かれることが起こり得る。そのときのガス膨張によりタンクが破損するのを回避するために、タンクに安全弁を取り付けておき、タンク内が規定圧力以上になったときに、安全弁を開放して気化したCOを外部へ逃がすようにしている。
【0005】
COをタンク外に逃がすことは、自動車に液体CO貯蔵タンクを取り付ける場合のように、省エネルギー運転のために、タンク内のCOの圧縮エネルギーを利用しようとするときには、利用し得る圧縮エネルギーの低下(ロス)を招く。また、環境的観点からも、COをタンク外、すなわち外気に逃がすことは、好ましくない。
【0006】
そのような観点から、特許文献1には、COを大気中に放出させずにCOを貯蔵することが可能なCO貯蔵装置として、防熱施工された液化CO貯蔵タンクと、CO貯蔵タンク内で気化したCOを回収し貯蔵することができるCO回収タンクとを備えるとともに、回収タンクは、回収タンク内を冷却する装置を有し、さらに回収タンク内にドライアイスが発生しないように回収タンク内の圧力を調整する手段を備えるようにしたものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−100862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載されるCO貯蔵装置は、COを大気中に放出させずに長日数にわたって液体COを貯蔵することが可能であり、CO運搬船などで用いるのにきわめて有効であると考えられる。しかし、CO回収タンクや冷却装置などの多くの付加的設備が必要であって、装置として大型化かつ重量化するのを避けられない。そのために、例えば自動車に取り付ける液体CO貯蔵装置などに適用するには、なお解決すべき課題がある。
【0009】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、従来使用されている液体CO貯蔵装置を、タンクに大きな改変を加えることなく、したがって、大きさや重量などを大きく変化させることなく、環境温度が変化しても、COを液体のままで長日数貯蔵しておくことのできる、新規な液体CO貯蔵装置と貯蔵方法を開示するたことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題を解決すべく、液体COの沿う変化について、多くの実験と研究を行うことにより、タンク内に液体状態で貯蔵されているCOに対して炭化水素を添加することにより、それが超臨界状態となるときの温度と圧力の値を、より高い値に変化させることができることを知見した。本発明は、その知見に基づくものである。
【0011】
すなわち、本発明による液体CO貯蔵装置は、液体CO貯蔵タンクと、前記液体CO貯蔵タンク内に炭化水素を添加することのできる炭化水素添加手段とを少なくとも備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明による液体COの貯蔵方法は、液体CO貯蔵タンク内に液体COを所要量の炭化水素を添加した状態で貯蔵することを特徴とする。
【0013】
前記したように、液体COは臨界点(31.1℃、7.4MPa)を超えると超臨界状態となることが、一般的に知られているが、本発明者が得た知見では、後の実施例に示すように、液体COに適量の炭化水素を添加することにより、臨界温度は50℃前後まで上昇し、臨界圧力は9MPa以上にまで上昇した。
【0014】
したがって、本発明によれば、液体CO貯蔵タンクが50℃前後の温度以下に維持される環境下におかれる場合には、10MPaの圧力に耐えるように貯蔵タンクを製造し、かつ適量の炭化水素を添加した状態でその貯蔵タンク内に液体COを貯蔵しておくことにより、超臨界への相変化によって大量のガス化したCOが大気に排出されるのを効果的に回避することができ、長日数にわたり、液体状態でのCOを貯蔵タンク内に貯蔵しておくことができる。
【0015】
液体CO貯蔵タンクが置かれる環境温度が50℃以上になることは、あるとしても、希であり、また、環境温度が50℃以上になることが予測される場合でも、液体CO貯蔵タンクの温度が50℃を超えないようにタンクを維持することは容易であり(例えば、冷却水による放熱、直射日光の遮蔽、など)、場合によっては、安全弁をタンクに取り付けて、一時的にCOガスを大気に放出してもよい。いずれの場合にも、本発明の実施はきわめて容易である。そして、装置的には、タンク内の液体COに添加水素を添加するための装置が付加されるのみであり、液体CO貯蔵装置の大きさや重量に、従来のものと比較して大きな変化は生じない。なお、一時的にガスを放出する場合でも、放出の際の断熱膨張により、ガス温度の急激な低下があり、その冷熱をタンク内のガス温度と熱交換することで液体COは低下するので、短時間で、液体COを所定温度以下に戻すことができる。
【0016】
上記のように、本発明による液体CO貯蔵装置は、装置として特に大型化することも、また重量化することもないので、例えば自動車に取り付ける液体CO貯蔵装置など用いるのにきわめて好適である。特に、本発明による液体CO貯蔵装置を自動車のエンジンのような内燃機関に適用することは好適である。
【0017】
本発明による液体CO貯蔵装置および方法において、適量の炭化水素は当初からタンク内に貯蔵される液体COに添加されていてもよく、タンク内にセンサを配置して、タンク内の温度と圧力が液体COは臨界点(31.1℃、7.4MPa)を超えそうになったときに、所要の高圧ポンプを利用して、適量の炭化水素をタンク内に添加するようにしてもよい。
【0018】
本発明者による実験では、本発明において添加する炭化水素は、好ましくは、直鎖状飽和炭化水素であり、より好ましくは、エタン(エタノール)、オクタン、デカンである。また、添加量は特に制限はないが、本発明者による実験によれば、2%前後の添加で、臨界温度および臨界圧力が効果的に上昇するのを確認できた。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、従来使用されている液体CO貯蔵装置を、タンクに大きな改変を加えることなく、環境温度が変化しても、COを液体のままで長日数貯蔵しておくことのできる新規な液体CO貯蔵装置と貯蔵方法が得られる。また、内燃機関と組み合わせて用いることで、内燃機関の効率アップ(省エネルギー運転)を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明による液体CO貯蔵装置を自動車のエンジン系へのCO供給装置として用いる場合の一例を示す図。
【図2】COへの炭化水素添加による臨界条件の変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施の形態を、図1を参照して説明する。図1に示す例は、エンジン10の省エネルギー運転を行うために、液体COの圧縮エネルギーを利用する場合の例であり、自動車に取り付けた液体CO貯蔵タンク1からの気化したCOが、エンジン10の燃料供給系に送られるようになっている。
【0022】
この形態では、液体COに添加される炭化水素(例えば、エタン(エタノール)、オクタン、デカンなど)が燃焼することで、エンジンの燃料としても機能する。そのために、本発明による液体CO貯蔵装置Aおよび方法をエンジンと共に用いる使用態様は、特に効果的である。もちろん、本発明による液体CO貯蔵装置および方法は、他の一般的な液体CO貯蔵タンク、例えば、地上に設置した液体CO貯蔵タンク、あるいはCO運搬船に取り付けた液体CO貯蔵タンクなどにも適用することができる。
【0023】
図1に示す例において、装置Aは、高圧ポンプ2と、炭化水素の例であるエタノールを収容するタンク3と、制御弁4とを備え、タンク3内のエタノールが液体CO貯蔵タンク1内に添加(注入)できるようになっている。また、液体CO貯蔵タンク1は、調圧弁5を備え、そこで気化したCOが、エンジン10の燃料供給系に送られる。また、液体CO貯蔵タンク1は、圧力温度センサ6を備えており、タンク内の圧力と温度をセンシングし、図示しない制御装置に送る。制御装置は、その信号に基づき、高圧ポンプ2と制御弁4の開度を制御する。
【0024】
液体CO貯蔵タンク1は、10MPa程度の圧力に耐える耐圧性を備えた耐圧容器であり、安全弁7を備える。図示しない液体CO供給源から液体COが供給され、タンク1内に充填される。エンジン10には、燃料供給系からの燃料と液体CO貯蔵タンク1からの高圧のCOが送られ、エンジン10の駆動時に、COの圧縮エネルギーが利用されることで、エンジンの省エネルギー化が図られる。
【0025】
自動車の走行中あるいは駐車中に、圧力温度センサ6は、液体CO貯蔵タンク1の圧力と温度を経時的に測定する。そして、主に吸熱により、液体CO貯蔵タンク1内の圧力および/または温度が、液体COが超臨界状態(31.1℃、7.4MPa)に近づいてきたときに、制御装置は高圧ポンプ2の作動命令を出し、高圧ポンプ2は適量の炭化水素(例えばエタノール)を液体CO貯蔵タンク1内に注入する。それにより、貯留されている液体COの臨界圧力および臨界温度は上昇するので、タンク内で相変化が生じるのを回避することができ、COが大量にガス化するのを阻止できる。
【0026】
自動車が置かれる温度環境によっては、炭化水素の添加によってもタンク内で液体COが相変化するのを回避できないことが起こりうる。その場合には、安全弁7を操作して、所定量のCOガスを放出する。ガスの放出の際の断熱膨張によりガス温度は急激に低下するので、その冷熱をタンク内の液体COと熱交換することで、タンク内温度を臨界点以下の温度に下げることができる。駐車中のような場合には、水道水などと連携して、タンクの水冷を行うこともできる。
【0027】
他の例として、自動車に取り付けた液体CO貯蔵タンク1からの圧縮COをエンジン10のエンジンオイルに適応する例が挙げられる。この場合、超臨界状態で液体CO貯蔵タンク1内に溶解したCOは、通常のエンジンオイルシステムの場合と同様に、エンジンオイルとともにシリンダー内に投入される。このオイルは潤滑油として機能し、ピストンの壁面との摩擦を抑制する。また、通常のエンジンの場合と同様、ピストンリング間の回収溝から、再度、液体CO貯蔵タンク1中に回収される。
【0028】
この場合、シリンダー内では、圧縮COが膨張による仕事を行った後は、大気圧まで圧が下がっているため、一旦、オイルは回収タンクに溜められる。
【0029】
次回のCO充填の際には、COと本オイルとの混合比を管理するために、COが一旦完全に放出された後(この残損COの中にも、オイルは混合)、大気圧となったタンク内に、回収タンクに溜まったオイルが充填(移填)され、その後、COが充填される。当然に、充填所には、すでに十分に高圧となったCO(この中には、オイルは含まれない)が十分な量貯蔵されている。このようなシステムを構築することで、本発明の実用的な利用が確実となる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明を説明する。
[実施例1]
(1)耐圧容器内に液体COを定量充填した。圧力計、温度計を天井部に装着し、安全弁およびリリーフラインを設置した。容器は、バルブを介して独立にラインから分離できるようにすることで、充填前後の容器およびCOの全体重量を測定できるようにした。100%液体COが超臨界へシフトするときの圧力と温度を測定した。臨界圧は7.38MPa前後、臨界温度は31℃前後であった。それを図2に示した。
(2)耐圧容器内に、高圧ポンプを用いて、バイオマス燃料起源のエタノールを2質量%注入した。この後、(1)と同様にして、エタノール添加液体COが超臨界へシフトするときの臨界圧力と臨界温度を測定した。臨界圧は7.75MPa前後、臨界温度は35℃前後であった。それを図2に示した。
(3)耐圧容器内に、高圧ポンプを用いて、オクタンを2質量%注入した。この後、(1)と同様にして、オクタン添加液体COが超臨界へシフトするときの臨界圧力と臨界温度を測定した。臨界圧は8.13MPa前後、臨界温度は42℃前後であった。それを図2に示した。
(4)耐圧容器内に、高圧ポンプを用いて、デカンを2質量%注入した。この後、(1)と同様にして、デカン添加液体COが超臨界へシフトするときの臨界圧力と臨界温度を測定した。臨界圧は9.20MPa前後、臨界温度は48℃前後であった。それを図2に示した。
【0031】
[評価]
図2に示すように、液体COにエタノール、オクタン、デカンを2質量%添加することで、液体COの臨界圧および臨界温度が、100%液体COの場合よりも、高くなっている。このことから、100%液体COの臨界圧よりも高い圧力、例えば10MPa程度の耐圧容器を用意して、そこに液体COを充填しておき、かつ、該耐圧容器内にエタノール、オクタン、デカンなどの炭化水素を注入する手段を備えておくことにより、環境温度が100%液体COの臨界温度よりも高くなる環境下に耐圧容器を置いても、所定の温度範囲内(例えば50℃以下)であれば、COのガス化を起こすことなく、液体COのままでタンク内に貯蔵可能であることがわかる。
【0032】
[実施例2]
(1)エタノールの添加%を5%に変えて、実施例1と同様にして、エタノール添加液体COが超臨界へシフトするときの臨界圧力と臨界温度を測定した。臨界圧は8.31MPa前後、臨界温度は44℃前後であった。
(2)オクタンの添加%を5%に変えて、実施例1と同様にして、オクタン添加液体COが超臨界へシフトするときの臨界圧力と臨界温度を測定した。臨界圧は9.3MPa前後、臨界温度は52℃前後であった。
【0033】
[評価]
実施例2の結果が示すように、添加する炭化水素(エタノール、オクタン)の添加量を変えても、液体COの臨界圧および臨界温度は、100%液体COの場合よりも、高くなっている。このことから、本発明の液体CO貯蔵装置および方法は、少なくとも、添加量2〜5質量%の範囲では、超臨界条件である温度、圧力を高めることが可能であることがわかる。
【0034】
[実施例3]
他の直鎖状飽和炭化水素である、エタノールとオクタンを2質量%ずつ添加して、実施例1と同様にして、炭化水素添加液体COが超臨界へシフトするときの臨界圧力と臨界温度を測定した。臨界圧は9.5MPa前後、臨界温度は50℃前後であった。
その結果を表4に示した。
【0035】
[評価]
実施例3の結果から、添加する炭化水素の種類を変えても、添加後の液体COの臨界圧および臨界温度は、100%液体COの場合よりも、高くなっている。このことから、本発明の液体CO貯蔵装置および方法は、基本的に、添加する炭化水素の種類には依存しないことが推測できる。
【符号の説明】
【0036】
A…本発明による液体CO貯蔵装置、
1…液体CO貯蔵タンク、
2…高圧ポンプ、
3…炭化水素の例であるエタノールを収容するタンク、
4…制御弁、
5…調圧弁、
6…圧力温度センサ、
7…安全弁、
10…エンジン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体CO貯蔵装置であって、液体CO貯蔵タンクと、前記液体CO貯蔵タンク内に炭化水素を添加することのできる炭化水素添加手段とを少なくとも備えることを特徴とする液体CO貯蔵装置。
【請求項2】
液体COの貯蔵方法であって、液体CO貯蔵タンク内に液体COを所要量の炭化水素を添加した状態で貯蔵することを特徴とする液体COの貯蔵方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−231793(P2011−231793A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99931(P2010−99931)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】