説明

液化天然ガス貯蔵・運搬船及び液化天然ガス貯蔵・運搬船の余剰ガス発生抑制方法

【課題】液化天然ガス(LNG)を液化天然ガス船内貯蔵タンクに積み込むLNG積込時に発生する天然ガス量を低減し、LNG積込により発生する余剰ガス量を最小限に抑えた液化天然ガス貯蔵・運搬船を提供する。
【解決手段】極低温状態の液化天然ガスを貯蔵する液化天然ガス船内貯蔵タンク2を備えている液化天然ガス貯蔵・運搬船であって、液化天然ガス船内貯蔵タンク2に液化天然ガスを積み込む際、積込液化天然ガスが過冷却状態となるようにタンク内圧を上げて沸点を上昇させるとともに、積込液化天然ガスをタンク頂部近傍からタンク内に投入して積み込むための頂部液化天然ガス投入系統20を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化天然ガスの貯蔵・運搬等に用いられる液化天然ガス貯蔵・運搬船及び液化天然ガス貯蔵・運搬船の余剰ガス発生抑制方法に係り、特に、液化天然ガス貯蔵・運搬船に対する液化天然ガス積込時に発生する余剰ガスを抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液化天然ガス(以下、「LNG」と呼ぶ)の運搬に使用される液化天然ガス運搬船(LNGC,SRV)や、再ガス化装置を備えた浮体式液化天然ガス貯蔵船(FSRU)のように、LNGを取り扱う液化天然ガス貯蔵・運搬船が知られている。
既存の液化天然ガス運搬船では、LNG貯蔵タンクへのLNG積込時にLNGが気化して大量の天然ガスを発生するので、運搬船側で消費できない大半の余剰ガスについては、たとえば図4に示すように、陸上基地へ返送して基地側で処理(通常は焼却処理)することが行われている。
【0003】
図4に示す液化天然ガス運搬船1は、球形のLNG船内貯蔵タンク2を備えている。各LNG船内貯蔵タンク2は、陸上基地側のLNG陸上貯蔵タンク10等からLNGポンプ11により送出されるLNGを積み込む際に使用する実線表示のLNG積込配管系統12と、各LNG貯蔵タンク2から気化した天然ガスを払い出す際に使用する破線表示のガス払出配管系統13とを備えている。
ガス払出配管系統13は、各LNG船内貯蔵タンク2内の天然ガスを機関部3に供給するとともに、陸上基地側のフレアスタック14に導いて燃焼させる。
【0004】
液化天然ガス運搬船1において、LNG船内貯蔵タンク2へのLNG積込時に大量の余剰ガスが発生する主な理由としては、下記の2点があげられる。
1)LNG船内貯蔵タンク2を予冷してからLNG積込を開始するが、LNG船内貯蔵タンク2は積込LNGの飽和温度まで冷却されていない。このため、LNG船内貯蔵タンク2内に極低温のLNGを積み込むことにより、図5に矢印で示すような熱の移動が生じ、積込LNGはLNG船内貯蔵タンク2や天然ガスとの接触面で飽和温度まで昇温する。この結果、LNG船内貯蔵タンク2の内部では、大量の天然ガスが発生する。
2)積込オペレーション前にLNG船内貯蔵タンク2内に残留しているLNGは、長期間放置されて重質化(メタン成分の揮発)が進んでおり、この結果、液温が上昇した状態にある。このため、残留LNGよりも液温の低い新たなLNGが流入することにより、LNG船内貯蔵タンク2の内部では突沸現象が生じるので、特に積込初期において大量の天然ガスが発生する。
【0005】
浮体式液化天然ガス貯蔵船の場合、LNG積込時に発生する余剰ガスの処理は、より一層困難になる。すなわち、図3に示すように、液化天然ガスシャトル運搬船(SHUTTLE LNGC)1Sから浮体式液化天然ガス貯蔵船1FへのLNG積込オペレーション時には、液化天然ガスシャトル運搬船1S側への返送可能ガス量は、基本的に液化天然ガスシャトル運搬船1Sから供給したLNG容積と同一の容量に制約される。
このため、大気放出が許可されない状況では、浮体式液化天然ガス貯蔵船1Fの船上適所に再液化装置(不図示)を装備し、余剰ガスを液化して再度LNG船内貯蔵タンク2へ戻すしかない。なお、図中の符号4はLNGポンプ、5は船上再ガス化装置、12はLNG積込配管系統、13はガス払出配管系統、15は船上再ガス化装置5でガス化した高圧の天然ガス(CNG)を陸上施設等へ供給する高圧ガス払出配管系統である。
【0006】
LNG船に関する従来技術としては、運送中にLNG貯蔵タンクから発生する蒸発ガス(BOG)を低減するため、常圧付近の圧力範囲内で調節されるタンク内蒸気圧力の上昇を許容するタンク強度とする技術が知られている。(たとえば、特許文献1参照)
また、低温液化ガス貯蔵タンクにおいては、層状化防止運転中の急激なBOG発生を防止するロールオーバー発生防止方法が提案されている。(たとえば、特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−196685号公報
【特許文献2】特開2000−179798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、LNG積込時に発生する余剰ガスの処理については、陸上基地側での処理ができない浮体式液化天然ガス貯蔵船において特に困難となる。この余剰ガスは、再液化装置による処理も可能ではあるが、余剰ガス量が多いほど再液化装置も大型化するので、船上の設置スペース確保やコストの面で不利になる。
このため、LNG積込時に気化して発生する天然ガス量を減少させることができれば、余剰ガスとなる天然ガス量も減少して少なくなるので、余剰ガスの処理が容易または不要となる。
【0009】
このような背景から、液化天然ガス貯蔵・運搬船の液化天然ガス船内貯蔵タンクに液化天然ガスを積み込むLNG積込時において、タンク内での気化を抑制して発生する天然ガス量の低減が可能な液化天然ガス貯蔵・運搬船及び液化天然ガス貯蔵・運搬船の余剰ガス発生抑制方法が望まれる。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、液化天然ガスを液化天然ガス船内貯蔵タンクに積み込むLNG積込時に発生する天然ガス量を低減し、LNG積込により発生する余剰ガス量を最小限に抑えた液化天然ガス貯蔵・運搬船及び液化天然ガス貯蔵・運搬船の余剰ガス発生抑制方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するため、下記の手段を採用した。
本発明に係る液化天然ガス貯蔵・運搬船は、極低温状態の液化天然ガスを貯蔵する液化天然ガス貯蔵タンクを備えている液化天然ガス貯蔵・運搬船であって、前記液化天然ガス貯蔵タンクに前記液化天然ガスを積み込む際、積込液化天然ガスが過冷却状態となるようにタンク内圧を上げて沸点を上昇させるとともに、前記積込液化天然ガスをタンク頂部近傍からタンク内に投入して積み込むための頂部液化天然ガス投入系統を設けたことを特徴とするものである。
【0011】
このような本発明の液化天然ガス貯蔵・運搬船によれば、液化天然ガス貯蔵タンクに液化天然ガスを積み込む際、積込液化天然ガスが過冷却状態となるようにタンク内圧を上げて沸点を上昇させるとともに、積込液化天然ガスをタンク頂部近傍からタンク内に投入して積み込むための頂部液化天然ガス投入系統を設けたので、タンク内の天然ガスを再凝縮させる冷熱源として過冷却状態にある積込液化天然ガスを有効利用し、かつ、頂部液化天然ガス投入系統からタンク内に投入した積込液化天然ガスがタンク内の上部から液面まで自然落下することで、効率のよい熱交換が可能になる。
【0012】
上記の発明において、前記頂部液化天然ガス投入系統は、前記積込液化天然ガスを頂部液化天然ガス流路からカーテン状に自然落下させるもの、前記積込液化天然ガスを頂部液化天然ガス流路に穿設したひとつまたは複数の噴射穴から自然落下させるもの、前記積込液化天然ガスを頂部液化天然ガス流路に取り付けたひとつまたは複数のスプレーノズルから噴霧状に自然落下させるもののいずれでもよいが、頂部液化天然ガス流路の管端から自然落下させる等、頂部液化天然ガス流路を設け、積込液化天然ガスを自然落下させるものであればこの限りではない。
このように、頂部液化天然ガス投入系統から液化天然ガスを重力により自然落下させてタンク内に投入すれば、積込液化天然ガスとタンク内天然ガスとの間は、接触面積が増すとともに接触時間も長くなる。このため、積込液化天然ガスとタンク内天然ガスとの間では熱交換が促進され、効率のよい熱交換を行うことができる。
【0013】
本発明に係る液化天然ガス貯蔵・運搬船の余剰ガス発生抑制方法は、極低温状態の液化天然ガスを貯蔵する液化天然ガス貯蔵タンクを備えている液化天然ガス貯蔵・運搬船に適用され、積込液化天然ガスを前記液化天然ガス貯蔵タンクに積み込む際に気化する天然ガスの発生量を抑制する液化天然ガス貯蔵・運搬船の余剰ガス発生抑制方法であって、前記積込液化天然ガスが過冷却状態となるようにタンク内圧を上げて沸点を上昇させた状態とし、前記積込液化天然ガスをタンク頂部近傍からタンク内へ自然落下させて積み込むことを特徴とするものである。
【0014】
このような液化天然ガス貯蔵・運搬船の余剰ガス発生抑制方法によれば、積込液化天然ガスが過冷却状態となるようにタンク内圧を上げて沸点を上昇させた状態とし、積込液化天然ガスをタンク頂部近傍からタンク内へ自然落下させて積み込むので、タンク内の天然ガスを再凝縮させる冷熱源として過冷却状態の積込液化天然ガスを用い、しかも、積込液化天然ガスがタンク頂部から重力により自然落下して投入されるため、効率のよい熱交換が可能になる。
【発明の効果】
【0015】
上述した本発明によれば、液化天然ガスを液化天然ガス船内貯蔵タンクに積み込むLNG積込時において、液化天然ガスを加圧すれば過冷却状態になるという低温物質の挙動を応用することにより、気化によりタンク内で発生する天然ガス量を低減し、LNG積込により発生する余剰ガス量を最小限に抑えた液化天然ガス貯蔵・運搬船及び液化天然ガス貯蔵・運搬船の余剰ガス発生抑制方法を提供するという顕著な効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る液化天然ガス貯蔵・運搬船及び液化天然ガス貯蔵・運搬船の余剰ガス発生抑制方法に関する一実施形態を示しており、(a)は積込液化天然ガスを液化天然ガス貯蔵タンクのタンク頂部近傍からタンク内に投入して積み込むための頂部液化天然ガス投入系統を示す図、(b)は液化天然ガス貯蔵タンクに積込液化天然ガスを投入して積み込む際、積込液化天然ガスが過冷却状態となるようにタンク内圧を上げて沸点を上昇させることを示す説明図である。
【図2】本発明に係る頂部液化天然ガス投入系統の具体例を示す図であり、(a)はカーテン方式、(b)は噴射方式、(c)はスプレー方式である。
【図3】浮体式液化天然ガス貯蔵船(FSRU)に液化天然ガスシャトル運搬船から液化天然ガスを積み込むLNG積込オペレーションを示す説明図である。
【図4】液化天然ガス運搬船(LNGC,SRV)に陸上基地から液化天然ガスを積み込むLNG積込オペレーションを示す説明図である。
【図5】液化天然ガス貯蔵タンクにおける熱移動を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る液化天然ガス貯蔵・運搬船及び液化天然ガス貯蔵・運搬船の余剰ガス発生抑制方法の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図3は、浮体式液化天然ガス貯蔵船1Fに対し、液化天然ガスシャトル運搬船1Sから液化天然ガス(LNG)を積み込むLNG積込オペレーションを示す説明図である。浮体式液化天然ガス貯蔵船1Fは、LNGを貯蔵可能な球形のLNG船内貯蔵タンク2とともに船上再ガス化装置5を備えたLNG船であり、洋上に固定して液化天然ガスシャトル船1SからLNGを受け入れる。LNG船内貯蔵タンク2内のLNGは、必要に応じて船上再ガス化装置5でガス化されて高圧の天然ガス(CNG)となり、海底等に敷設された高圧ガス払出配管系統15を介して、浮体式液化天然ガス貯蔵船1Fから陸上施設等へ送出される。
【0018】
一方、液化天然ガスシャトル運搬船1Sには、液化基地で球形のLNG船内貯蔵タンク2に搭載したLNGを受入地点まで輸送し、上述した浮体式液化天然ガス貯蔵船1Fに送出するタイプのLNG船、あるいは、船上で再ガス化した天然ガスをパイプライン等により陸上施設(貯蔵施設や再液化施設等)に送出するタイプのLNG船がある。図示の液化天然ガスシャトル船1Sは、LNG船内貯蔵タンク2に搭載したLNGを、タンク内に配設されたLNGポンプ4を用いて、浮体式液化天然ガス貯蔵船1Fに送出するタイプのLNG船である。
【0019】
図3において、液化天然ガスシャトル運搬船1Sと浮体式液化天然ガス貯蔵船1Fとの間は、実線表示のLNG積込配管系統12と破線表示のガス払出配管系統13とにより連結されている。
一方のLNG積込配管系統12は、液化天然ガスシャトル運搬船1Sから浮体式液化天然ガス貯蔵船1FへLNGを送出するために使用され、他方のガス払出配管系統13は、LNG積込時に浮体式液化天然ガス貯蔵船1F側のLNG船内貯蔵タンク2で発生する余剰ガスの返送に使用される。
なお、LNG積込配管系統12及びガス払出配管系統13は、LNGの荷役(送出)を行う液化天然ガスシャトル運搬船1S毎に分離及び連結が可能となっている。
【0020】
上述したように、液化天然ガス貯蔵船1Fや液化天然ガスシャトル運搬船1Sのような液化天然ガス貯蔵・運搬船(以下、LNG船)は、極低温状態のLNGを貯蔵する球形のLNG船内貯蔵タンク2を備えている。
このため、本実施形態では、LNG船に搭載されたLNG船内貯蔵タンク2にLNGを積み込む際、積込液化天然ガス(積込LNG)が過冷却状態となるようにタンク内圧を上げて沸点を上昇させるとともに、たとえば図1(a)に示すように、積込LNGをLNG船内貯蔵タンク2の頂部近傍からタンク内に投入して積み込むための頂部液化天然ガス投入系統(頂部LNG投入系統)20を設けてある。
【0021】
すなわち、LNG船内貯蔵タンク2にLNGを積み込む際には、LNG船内貯蔵タンク2を従来の運転圧力(最大0.25barG以下)より高い圧力に加圧すると、積込LNGの沸点がタンク内で上昇して過冷却状態となる。このため、LNG船内貯蔵タンク2の内部では、タンク内の天然ガス(残存ガス及び発生ガス)を再凝縮させるための冷熱源として、積込LNGの顕熱を利用することができる。
この場合、LNG船内貯蔵タンク2を球形とすれば、構造上メンブレンタイプのものより高い圧力まで加圧することが可能であるから、積込LNGの沸点をより高い温度に設定して大きな冷熱量を得ることができる。なお、メンブレンタイプの場合には、加圧の上限が0.6BarG程度と推測されるが、球形の場合には、0.6BarG以上に加圧することは容易である。
【0022】
換言すれば、図1(b)に示すように、LNG船内貯蔵タンク2内に投入された積込LNGは、0.25BarG以上に加圧されて温度T1の過冷却状態にあり、従って、天然ガスの温度T2よりも低温の状態(T1<T2)になっているので、相対的に温度が低い過冷却状態の積込LNGは、図中に白抜矢印Hで示すように、タンク内の天然ガスから吸熱して冷却するので、天然ガスを凝縮させて液体のLNGに状態変化させる冷熱源として利用可能になる。
【0023】
このとき、LNG船内貯蔵タンク2の内部加圧は、積込LNGの自己蒸発を利用することで容易に達成できる。
すなわち、LNGの積込作業を開始することにより、LNG船内貯蔵タンク2の内部に投入された積込LNGが気化して天然ガスとなり、この天然ガスがタンク内圧を上昇させることにより、タンク内に投入された積込LNGの沸点が上昇して過冷却状態となる。従って、過冷却状態の積込LNGは、タンク内に存在して余剰ガスの原因となる天然ガスを冷却する冷熱源となり、天然ガスから吸熱することにより凝縮させてLNGとすることができる。なお、上述した内部加圧を行う場合、ガス払出配管系統13に設けた図示省略の開閉弁は閉じられる。
【0024】
頂部LNG投入系統20は、たとえば図1(a)に示すように、LNG積込配管系統12から分岐して設けられた配管系統であり、LNG船内貯蔵タンク2の頂部付近には、頂部液化天然ガス流路(頂部LNG流路)21を備えている。
すなわち、既存のLNG積込配管系統12は、LNG船内貯蔵タンク2のタンク底部付近まで導かれており、従って、顕熱差による熱交換は、図1(b)に示した白抜矢印Hのように、タンク内のLNG液面において液相とガス相との間で局所的に行われるのみであり、凝縮量は充分でない。
【0025】
しかし、上述した頂部LNG投入系統20を設けることにより、頂部LNG投入系統20から投入される積込LNGとタンク内に存在している天然ガスとは、積込LNGがタンク内の上部からLNG液面まで自然落下することにより、図1(a)に白抜矢印Haで示すような熱交換が行われるので、接触面積が増大することに加えて長い接触時間を確保できるようになる。この結果、積込LNGとタンク内に存在している天然ガスとの間では、互いの熱交換が促進されて熱交換効率が向上する。なお、図中の白抜矢印Hbは、LNG船内貯蔵タンク2と外気との熱交換を示している。
【0026】
頂部LNG投入系統20の具体的な構成例としては、たとえば図2(a)に示す頂部LNG投入系統20Aのように、タンク内において積込LNGをカーテン状に自由落下させるように構成されたものがある。この場合の頂部LNG流路21Aは、上部を開放した樋状のLNG流路22とされ、内周側壁面22aより低く設定した外周側壁面22bから積込LNGを略全周にわたって溢流させることにより、重力により積込LNGをカーテン状に自然落下させるものである。
【0027】
このように、積込LNGがLNG船内貯蔵タンク2の内部で頂部LNG流路21Aからカーテン状に自然落下すると、カーテン状の積込LNGとタンク内の天然ガスとの接触面積は、図1(b)に示したタンク内底部付近から投入される場合のように、LNG液面のみと接触する場合の接触面積と比較して、カーテン状の面積分だけ増大する。また、頂部LNG流路21Aから投入される積込LNGは自然落下であるため、比較的長い接触時間を確保することもできる。
すなわち、頂部LNG投入系統20Aから投入される積込LNGとタンク内に存在している天然ガスとは、接触面積の増大に加えて長い接触時間を確保できるようになるので、互いの熱交換が促進されて熱交換効率が向上する。
【0028】
ところで、上述した頂部LNG投入系統20は、積込LNGを頂部LNG流路21Aからカーテン状に自然落下させる頂部LNG投入系統20Aに限定されることはなく、たとえば下記の変形例が可能である。
図2(b)に示す第1変形例の頂部LNG投入系統20Bは、配管材料を頂部LNG流路21Bに、積込LNGを噴射する1または複数の噴射穴23を穿設したものである。この噴射穴23は、噴射した積込LNGを各噴射穴23から略円錐状に拡散させるとともに、噴射した積込LNGをタンク内のLNG液面まで重力により自然落下させる噴射方式となる。この場合の噴射穴23は、熱交換効率を向上させるため、頂部LNG流路21Bの全面にわたって等ピッチに配置することが望ましい。
【0029】
図2(c)に示す第2変形例の頂部LNG投入系統20Cは、配管材料を頂部LNG流路21Cに、積込LNGを噴霧状に噴射する1または複数のスプレーノズル24を取り付けたものであり、各スプレーノズル24から積込LNGを噴霧状に噴射して自然落下させるスプレー方式となる。この場合のスプレーノズル24についても、熱交換効率を向上させるため、頂部LNG流路21Cの全面にわたって等ピッチに配置することが望ましい。
【0030】
このように、カーテン方式、噴射方式及びスプレー方式のいずれかを採用し、頂部LNG投入系統20から積込LNGを自然落下させてタンク内に投入することにより、積込LNGとタンク内天然ガスとの間に大きな接触面積や接触時間を確保できるので、効率のよい熱交換が可能になる。また、たとえばスプレー方式のように、タンク内を自然落下する積込LNGを径の小さい粒子にすることは、タンク内天然ガスとの接触面積がより一層大きくなるので、熱交換の効率向上に有効である。
なお、カーテン方式、噴射方式及びスプレー方式については、単独採用に限定されることはなく、複数の方式を適宜組み合わせたものでもよい。
【0031】
このように、上述した本実施形態のLNG船では、LNG船内貯蔵タンク2に積込LNGを投入して積み込む際、積込LNGが過冷却状態となるようにタンク内圧を上げて沸点を上昇させるとともに、積込LNGをタンク頂部近傍からタンク内に投入して積み込むための頂部LNG投入系統20を設けたので、タンク内の天然ガスを再凝縮させる冷熱源として過冷却状態にある積込LNGが保有する冷熱を有効利用することができる。さらに、頂部LNG投入系統20からタンク内に投入した積込LNGは、カーテン状、噴射による略円錐形状、及び/または噴霧状に自然落下させるようにしたので、タンク内天然ガスとの接触時間や接触面積が増すことにより、熱交換の効率を向上させることができる。
【0032】
そして、上述した構成のLNG船では、すなわち、極低温状態のLNGを貯蔵するLNG船内貯蔵タンク2を備えているLNG船では、積込LNGをLNG船内貯蔵タンク2へ積み込む際に気化する天然ガスの発生量について、以下に説明する方法で積込LNGを投入することにより、抑制が可能となる。
すなわち、LNG船の余剰ガス発生抑制方法は、積込LNGが過冷却状態となるようにLNG船内貯蔵タンク2のタンク内圧を上げて沸点を上昇させた状態とし、積込LNGをタンク頂部近傍からタンク内のLNG液面まで重力により自然落下させて積み込むものであり、この結果、タンク内の天然ガスを再凝縮させる冷熱源として、過冷却状態にある積込LNGが保有する冷熱を有効入り用することができる。しかも、タンク内の上部から投入される積込LNGは、タンク頂部から重力により自然落下するので、タンク内天然ガスとの接触時間や接触面積を増して効率のよい熱交換が可能になる。
【0033】
そして、上述した液化天然ガス貯蔵・運搬船及び液化天然ガス貯蔵・運搬船の余剰ガス発生抑制方法は、より冗長性のある貨物オペレーション、すなわち、LNG船内貯蔵タンク2のタンク内圧を減圧することによる天然ガス生成を可能にする。
具体的に説明すると、十分に加圧されたLNG船内貯蔵タンク2内のLNGは、沸点が高く過冷却状態になっている。このため、LNG船内貯蔵タンク2内のLNGが入熱を受けても、その沸点に到達するまでは液温が上がるだけでガスは発生しない。このことは、熱をLNG内に溜めた状態と言い換えることができる。
【0034】
逆に、ガス払出配管系統13に設けた図示省略の開閉弁を開くなどしてLNG船内貯蔵タンク2のタンク内圧を下げると、LNGの飽和温度が下がるため、一部のLNGがガス化することになる。この原理を利用すれば、LNG積込後のオペレーションにおいて、たとえばLNG船機関部3等のようなガス消費先の必要に応じて、LNG船内貯蔵タンク2のタンク内圧をコントロールすれば、天然ガスを自由に生成できるようになる。
【0035】
上述した本実施形態によれば、LNGをLNG船内貯蔵タンク2に積み込むLNG積込時において、LNGを加圧すれば過冷却状態になるという低温物質の挙動を応用することにより、気化によりタンク内で発生する天然ガス量を低減し、LNG積込により発生する余剰ガス量を最小限に抑えることができる。
従って、LNG船内貯蔵タンク2にLNGを積み込む際には余剰の天然ガスが発生しないため、従来のように船上の圧縮機にて天然ガスを陸上基地へ返送し、焼却処理をする必要がない。すなわち、天然ガスを返送する圧縮機の運転に必要な動力や、天然ガスを無駄に消費するガス焼却処理が不要となる。また、浮体式液化天然ガス貯蔵船1FのようなLNG船では、再液化処理装置のような余剰ガスの処理装置について、不要または小型化することが可能になる。
【0036】
また、LNG船内貯蔵タンク2の内圧を減圧すれば、減圧に応じたガス化量の調整が可能になり、従って、天然ガスを意図的に生成することができる。このようなガス化量調整は、たとえば再ガス化装置5のように、従来のLNG船で一般的に設置されている強制ガス化装置(ベーパライザー)でガス化量を調整する手法と比較して、蒸気等の熱源が不要であるなど効率的かつ簡易な手法となる。
このように、上述した本実施形態は、LNG船内貯蔵タンク2を備えたLNG船等の船舶において、LNG船内貯蔵タンク2にLNGを積み込む場合に適用されるものであり、船舶の種類等について上述した実施形態に限定されることはなく、その要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 液化天然ガス運搬船
1S 液化天然ガスシャトル運搬船
1F 浮体式液化天然ガス貯蔵船
2 液化天然ガス(LNG)船内貯蔵タンク
12 液化天然ガス(LNG)積込配管系統
13 ガス払出配管系統
20,20A〜20C 頂部液化天然ガス投入系統(頂部LNG投入系統)
21,21A〜21C 頂部液化天然ガス流路(頂部LNG流路)
22 液化天然ガス(LNG)流路
23 噴射穴
24 スプレーノズル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
極低温状態の液化天然ガスを貯蔵する液化天然ガス貯蔵タンクを備えている液化天然ガス貯蔵・運搬船であって、
前記液化天然ガス貯蔵タンクに前記液化天然ガスを積み込む際、積込液化天然ガスが過冷却状態となるようにタンク内圧を上げて沸点を上昇させるとともに、
前記積込液化天然ガスをタンク頂部近傍からタンク内に投入して積み込むための頂部液化天然ガス投入系統を設けたことを特徴とする液化天然ガス貯蔵・運搬船。
【請求項2】
前記頂部液化天然ガス投入系統は、前記積込液化天然ガスを頂部液化天然ガス流路からカーテン状に自然落下させることを特徴とする請求項1に記載の液化天然ガス貯蔵・運搬船。
【請求項3】
前記頂部液化天然ガス投入系統は、前記積込液化天然ガスを頂部液化天然ガス流路に穿設したひとつまたは複数の噴射穴から自然落下させることを特徴とする請求項1に記載の液化天然ガス貯蔵・運搬船。
【請求項4】
前記頂部液化天然ガス投入系統は、前記積込液化天然ガスを頂部液化天然ガス流路に取り付けたひとつまたは複数のスプレーノズルから噴霧状に自然落下させることを特徴とする請求項1に記載の液化天然ガス貯蔵・運搬船。
【請求項5】
極低温状態の液化天然ガスを貯蔵する液化天然ガス貯蔵タンクを備えている液化天然ガス貯蔵・運搬船に適用され、積込液化天然ガスの前記液化天然ガス貯蔵タンクへの積込時に気化する天然ガスの発生量を抑制する液化天然ガス貯蔵・運搬船の余剰ガス発生抑制方法であって、
前記積込液化天然ガスが過冷却状態となるようにタンク内圧を上げて沸点を上昇させた状態とし、前記積込液化天然ガスをタンク頂部近傍からタンク内へ自然落下させて積み込むことを特徴とする液化天然ガス貯蔵・運搬船の余剰ガス発生抑制方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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