説明

液晶ポリエステルの製造方法

【課題】再利用可能な化学原料である酢酸の回収を容易にしつつ、電気・電子部品の製造用に好適な液晶ポリエステルを製造する製造方法を提供する。
【解決手段】芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジオールを無水酢酸でアシル化してアシル化物を得るアシル化工程と、
前記アシル化物と芳香族ジカルボン酸とを、酢酸を含む低沸成分を留出しながら溶融重合せしめ、液晶ポリエステルを製造する重合工程と、
を有する液晶ポリエステルの製造方法において、
前記溶融重合が、200℃以下の初期温度から280℃以上の終期温度まで、内温を昇温する昇温工程を有し、該昇温工程の平均昇温速度が0.6℃/分以下であり、該昇温工程の間に留出される低沸成分の温度を145℃以下の範囲で制御する液晶ポリエステルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液晶ポリエステルの工業的製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステルは、低吸水性、耐熱性、電気特性、誘電特性等の特性に優れることから、近年、表面実装電子部品等の電気・電子機器に使用される部品に幅広く利用されている。本発明者等は、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ジカルボン酸から誘導される構造単位を、それぞれ特定量有する液晶ポリエステルが、フィルム加工性に優れ、高度の誘電特性(誘電損失)のフィルムを形成できることを提案している(特許文献1参照)。
【0003】
ところで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸及び芳香族ジオールからなる原料モノマーを用いる液晶ポリエステルの製造方法は、これらの原料モノマーを直接重合する方法よりも、該原料モノマーの一部又は全部をエステル形成性誘導体に転換してから重合する方法が、生産性に優れることから、一般的に行われている。特に、該原料モノマーのうち、ヒドロキシ基を有するモノマーを、無水酢酸によりアシル化して得られるアシル化物は、エステル形成性(重合反応性)の点からも、低コストであることからも好適であり、該エステル形成性誘導体として有用であることが知られている。このような液晶ポリエステルの製造方法においては、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジオールを、それぞれ対応するアシル化物(芳香族ヒドロキシカルボン酸アシル化物及び芳香族ジオールアシル化物)にした後、該アシル化物のアシル基と、芳香族ヒドロキシカルボン酸アシル化物及び芳香族ジカルボン酸のカルボキシル基とを、エステル交換させることで、液晶ポリエステルが製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−272810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したアシル化物をエステル形成性誘導体として使用する液晶ポリエステルの工業的製造方法では、より重合速度を向上させるため、重合過程で副生する酢酸等の低沸成分を、適当な分留器等を用いて系外に留去することが行われる。そして、この低沸成分は、必要に応じて精製し、得られた酢酸は他の用途の化学原料として、再利用されることがある。しかしながら、本発明者等が検討したところ、特許文献1の記載された液晶ポリエステルの中でも、芳香族ジオールとして、比較的低分子量のレゾルシンやハイドロキノンを原料モノマーとして使用し、液晶ポリエステルを製造しようとすると、一部の原料モノマーが前記低沸成分とともに留出し易く、分留器中で析出して当該分留器を閉塞するといった問題や、ひどい場合には、前記低沸成分に、この原料モノマーの一部が混入して、回収された低沸成分から酢酸を回収することが困難となることが判明した。
そこで本発明は、電気・電子機器の部品として好適な液晶ポリエステルにおいて、再利用可能な化学原料である酢酸の回収を容易にしつつ、液晶ポリエステルを製造し得る製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は以下の<1>〜<3>の製造方法を提供する。
<1>以下の式(i)で表される化合物、式(ii)で表される化合物及び式(iii)で表される化合物を原料モノマーとして使用し、
式(i)で表される化合物及び式(ii)で表される化合物を無水酢酸でアシル化してアシル化物を得るアシル化工程と、
前記アシル化物と式(iii)で表される化合物とを、酢酸を含む低沸成分を留出しながら溶融重合せしめ、液晶ポリエステルを製造する重合工程と、
を有する液晶ポリエステルの製造方法において、
前記式(ii)で表される化合物として、レゾルシン又はハイドロキノンを含み、
前記溶融重合が、200℃以下の初期温度から280℃以上の終期温度まで、内温を昇温する昇温工程を有し、該昇温工程の平均昇温速度が0.6℃/分以下であり、該昇温工程の間に留出される低沸成分の温度を145℃以下の範囲で制御する液晶ポリエステルの製造方法;

(式中、Arは、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基及び4,4’−ビフェニレン基からなる群より選ばれる2価の芳香族基を表す。Ar及びArはそれぞれ独立に、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基及び4,4’−ビフェニレン基からなる群より選ばれる2価の芳香族基を表す。また、Ar、Ar、Arで示される芳香族基は、その芳香環に結合している水素原子の一部が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基で置換されていてもよい。)
<2>前記(iii)で表される化合物として、2,6−ナフタレンジカルボン酸を含む、<1>の液晶ポリエステルの製造方法;
<3>前記(i)で表される化合物として、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸を含む、<1>又は<2>の液晶ポリエステルの製造方法;
本発明者らは、特許文献1が、その実施例(実施例2〜7)等で具体的に開示している液晶ポリエステル製造方法において、昇温速度が比較的速い反応条件(平均昇温速度がおよそ0.8℃/分)の昇温工程を有しているために、低沸成分に原料モノマーの一部が混入し易くなっていることをつきとめた。そして、該平均昇温速度を前記の範囲にし、さらに留出する低沸成分の留出温度を前記の範囲にすることにより、この原料モノマーの混入を劇的に低減できることを見出すに至った。
【0007】
また、本発明の溶融重合は、酢酸を再利用可能な化学原料を回収できる低沸成分として、以下の<4>を提供する。
<4><1>〜<3>のいずれかの製造方法において留出される低沸成分であって、
酢酸の含有量が80重量%以上であり、前記原料モノマーの含有量が1.0重量%以下である、低沸成分
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、再利用可能な化学原料である酢酸の回収を容易にしつつ、電気・電子部品の製造用に好適な液晶ポリエステルを製造する製造方法を提供することできる。このような本発明の液晶ポリエステルの製造方法は、当該液晶ポリエステルの工業生産に極めて有益であり、工業的な価値は大きい。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の製造方法で得られる液晶ポリエステル、及び該液晶ポリエステルの製造方法に関し、順次説明する。
【0010】
(液晶ポリエステル)
本発明の製造方法は、上述の(i)で表される化合物、(ii)で表される化合物及び(iii)で表される化合物を原料モノマーとする液晶ポリエステルを製造するものである。以下、これら原料モノマーに関し、具体例を挙げて説明する。なお、以下の説明において、これらの(i)で表される化合物、(ii)で表される化合物及び(iii)で表される化合物をまとめて、「(i)〜(iii)で表される化合物」と呼ぶことがある。
【0011】
(ii)で表される化合物と(以下、「(ii)化合物」という)しては、レゾルシン、ハイドロキノン又はこれらの組合せを含むことを必須とし、その他の(ii)化合物として、2,6−ナフトールや4,4’−ジヒドロキシビフェニルを用いることもできる。レゾルシン及びハイドロキノンからなる群より選ばれる(ii)化合物の使用量は、使用する(ii)化合物の全てを100モル%としたとき、5モル%以上であることが好ましく、10モル%以上であることがより好ましく、15モル%以上であることがさらに好ましく、使用する(ii)化合物の全てが実質的に、レゾルシン、ハイドロキノン又はこれらの組合せであることが特に好ましい。
また、これらの(ii)化合物にあるベンゼン環又はナフタレン環に結合している水素原子が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基といった置換基に置換されている化合物も用いることができるが、(ii)化合物として必須のレゾルシンやハイドロキノンは、このような置換基を有するものではない。
従来の液晶ポリエステル製造方法、たとえば、前記特許文献1が開示する液晶ポリエステル製造方法では、所望の共重合比でレゾルシン及び/又はハイドロキノンから誘導される構造単位を液晶ポリエステルに導入するため、留出により反応系中から失われることを想定して、予め必要量よりも過剰になるようにしてレゾルシン及び/又はハイドロキノンは使用していた。本発明の製造方法によれば、このようなレゾルシン及び/又はハイドロキノンの過剰使用を良好に回避することができるため、低コストで液晶ポリエステルを得ることができる。ただし、レゾルシン及び/又はハイドロキノンを、予め必要量よりも過剰になるように使用することにより、わずかに留出するレゾルシン及び/又はハイドロキノンにより、これらから誘導される構造単位の共重合比がわずかにずれることも、一層良好に回避することが可能となり、所望の共重合比の液晶ポリエステルを製造することがより容易になる。また、この場合であっても、レゾルシン及び/又はハイドロキノンの使用量の過剰分を低減することも可能となる。
なお、レゾルシン及び/又はハイドロキノン使用量の過剰分のうち、液晶ポリエステルの形成に供されなかった分は、後述する固相重合の段階で、該液晶ポリエステルから除去することができる。
【0012】
(iii)で表される化合物(以下、「(iii)化合物」という)としては、2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸又はビフェニル−4,4’−ジカルボン酸が挙げられる。さらに、さらに、これらの化合物にあるベンゼン環又はナフタレン環に結合している水素原子が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基といった置換基に置換されている化合物も用いることができる。
これらの中でも、(iii)化合物としては2,6−ナフタレンジカルボン酸を含む場合が好ましく、使用する(iii)化合物の全量を100モル%としたとき、2,6−ナフタレンジカルボン酸が5モル%以上であると好ましく、10モル%以上であるとより好ましく、15モル%以上であるとさらに好ましく、使用する(iii)化合物の全てが実質的に2,6−ナフタレンジカルボン酸であると特に好ましい。本発明者等の検討によると、この2,6−ナフタレンジカルボン酸を、(iii)化合物として使用した場合においても、前記低沸成分に原料モノマーの一部が混入し易くなることが判明している。本発明の製造方法によれば、この2,6−ナフタレンジカルボン酸を使用した場合であっても、前記低沸成分に対する原料モノマーの混入を良好に防止して、該低沸成分から酢酸を精製回収することが容易になる。
【0013】
(i)で表される化合物(以下、「(i)化合物」という)としては、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、p−ヒドロキシ安息香酸又は4−(4−ヒドロキシフェニル)安息香酸が挙げられる。さらに、これらの化合物にあるベンゼン環又はナフタレン環に結合している水素原子が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基といった置換基に置換されている化合物も用いることができる。
これらの中でも、(i)化合物としては2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸を含むと好ましく、使用する(i)化合物の全てが実質的に2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸であると、さらに好ましい。この2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸は、後述するレゾルシン及び/又はハイドロキノンと、2,6−ナフタレンジカルボン酸とを合わせて原料モノマーとして使用することにより、得られる液晶ポリエステルの誘電特性はより一層良好になり、該液晶ポリエステルは電気・電子機器の部品の製造用として特に有用なものとなる。また、この2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸を(i)化合物として用いると、得られる液晶ポリエステルの溶融張力が高くなる傾向があり、かかる効果も成形加工性(たとえばフィルム加工性)の点で電気・電子機器の部品の製造用として有利である。
【0014】
本発明の製造方法に供される前記原料モノマーは、(ii)化合物としてレゾルシン及び/又はハイドロキノンを必須とし、(iii)化合物として2,6−ナフタレンジカルボン酸を含むことが好ましく、得られる液晶ポリエステルを電気・電子機器の部品等に使用する点では、(i)化合物として2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸を含むことが特に好ましい。なお、その他の原料モノマーとしては、上述したようにベンゼン環又はナフタレン環に置換基を有するものを使用することもできるので、この置換基に関し簡単に例示しておくこととする。ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基などが挙げられ、これらは直鎖でも分岐していもよく、脂環基でもよい。アリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
【0015】
(i)〜(iii)で表される化合物の使用モル比は、得られる液晶ポリエステルの液晶性が十分に発現されるようにして調整できるが、以下、この液晶性の点で好適な使用モル比に関し説明する。
この(i)〜(iii)で表される化合物の合計を100モル%としたとき、(i)化合物が30〜80モル%であると好ましく、45〜65モル%であるとさらに好ましい。また、(ii)化合物及び(iii)化合物は、それぞれ10〜35モル%であると好ましく、17.5〜27.5モル%であるとより好ましい。このようにすると、得られる液晶ポリエステルは、
(i)化合物から誘導される構造単位が全構造単位の合計に対して、30〜80モル%、好ましくは45〜65モル%、
(ii)化合物から誘導される構造単位が全構造単位の合計に対して、10〜35モル%、好ましくは17.5〜27.5モル%、
(iii)化合物から誘導される構造単位が全構造単位の合計に対して、10〜35モル%、好ましくは17.5〜27.5モル%、
である液晶ポリエステルが得られ、このような液晶ポリエステルは高度の液晶性を発現できるのみならず、実用的な温度で溶融し得るものとなるため、該液晶ポリエステルを用いた溶融成形等がより容易になる傾向がある。
【0016】
(液晶ポリエステルの製造方法)
次に、液晶ポリエステルの製造方法について、工程ごとに説明する。
【0017】
アシル化工程
上述したように、本発明の製造方法ではエステル形成性誘導体としてアシル化物を得ることが必要である。
該アシル化物は、ヒドロキシ基を有する化合物[(i)化合物及び(ii)化合物]に対し、無水酢酸を反応させることにより、これらの化合物のヒドロキシ基をアシル基に転換する(アシル化反応)。このようなアシル化反応は、原料モノマーが揮発蒸散しない程度の反応条件であれば種々公知の方法を採用することが可能であり、一例を挙げると、特開2004−256673号公報に開示されているアシル化が、その操作が簡便であることから好適である。
かかる公報には、予め、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ジカルボン酸を混合して混合物を得、該混合物に無水酢酸を混合することでアシル化することが記載されている。そして、該アシル化工程は、窒素雰囲気中、130〜180℃で反応させることにより、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジオールにあるヒドロキシ基がアシル化され、それぞれ相当するアシル化物(芳香族ヒドロキシカルボン酸アシル化物および芳香族ジオールアシル化物)となる。また、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ジカルボン酸の使用比率は、得られる液晶ポリエステルの目標特性に合わせて調整されるものであるが、これら原料モノマーからなる混合物中のヒドロキシ基とカルボキシル基との当量比が、0.9〜1.1であることが好ましい。
なお、無水酢酸の使用量は、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジオールのヒドロキシ基の合計に対して、0.95〜1.2倍当量が好ましく、1.00〜1.18倍当量がより好ましい。無水酢酸の使用量が少ないと、得られる液晶ポリエステルの着色が抑えられる傾向があるが、無水酢酸の使用量が少なすぎると、前記アシル化物の形成が不十分になって、後述の重合工程における重合反応性が低下するおそれがある。一方、無水酢酸の使用量が1.2倍当量を超える場合には、得られる液晶ポリエステルの着色が著しくなり、成形体の色調を悪化させるおそれがある。
【0018】
前記アシル化反応の途中にも、酢酸が副生するが、副生した酢酸(副生酢酸)は留出させることなく、還流させて反応系中に残存させておくことができる。このように、副生酢酸が反応系中に存在していても、無水酢酸の使用量が上述の範囲であれば、アシル化反応は十分に進行する。
このようなアシル化に係る反応時間は、使用する芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジオールの種類や使用量により調整可能であるが、工業生産の効率を勘案すると、15分〜3時間の範囲であることが望ましい。このアシル化工程の反応時間は、たとえば以下のようにして決定することができる。すなわち、アシル化工程における反応系中の反応液をサンプリングして、該反応液を適当な分析手段により、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジオールの反応度合いを求めることにより、アシル化工程の終点を求めることもできる。
また、このアシル化工程においては、芳香族ジカルボン酸が反応系中に存在しているが、該芳香族ジカルボン酸は、無水酢酸により何ら影響を受けないため、製造上の容易さを考慮して、予め芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジオールとともに、反応缶(反応装置)に仕込んでおくとよい。
【0019】
重合工程
前記アシル化工程に続く重合工程は、前記アシル化物のアシル基と、芳香族ヒドロキシカルボン酸アシル化物及び芳香族ジカルボン酸のカルボキシル基とを、エステル交換を生じさせて、重合することにより、液晶ポリエステルを製造する工程である。
該重合工程は、分縮器を設けた反応缶中で実施される。この重合工程は、前記アシル化工程を担う反応缶における還流器を分縮器に置き換えることができれば、同一の反応缶内でアシル化反応と重合反応とを行うことができるが、還流器を備えた反応缶中でアシル化工程を実施した後、その反応液を、分縮器を備えた反応缶に移液して、重合工程を実施することが好ましい。また、重合工程を担う反応缶には、適当な攪拌手段が備えられている。該攪拌手段としては、重合の進行にともない、反応液の粘度は著しく高くなるので、高粘度の反応液を攪拌できる程度のものが必要である。反応缶として縦型の撹拌槽を使用する場合には、多段のパドル翼、タービン翼、ダブルヘリカム翼、錨形翼、櫛形翼等の攪拌翼を備えた攪拌手段が好適である。
【0020】
前記重合工程は通常、内温を昇温させながら重合反応を進行させる。そして、この重合反応の反応効率を上げるために、該重合反応の単位反応であるアシル基とカルボキシル基との反応で生成する酢酸を系外に除去する。本発明の製造方法においては、前記昇温工程として、200℃以下の初期温度から280℃以上の終期温度までの昇温させる過程を必須とし、さらに副生する酢酸を含有する低沸成分の留出温度を145℃以下に制御することにより、液晶ポリエステルを効率的に生成させつつ、原料モノマーの低沸成分への混入を低減することができる。
前記昇温工程における前記初期温度は190℃以下であることが好ましく、一方、前記終期温度は290℃以上であることが好ましい。ただし、該初期温度は130℃以上とすることが好ましく、この温度以下では低沸成分が揮発しないため、重合反応が効率よく進行しないことがある。また、該終期温度は400℃以下になるようにする。該終期温度が400℃を超えると、生成した液晶ポリエステルの分解が生じやすくなるので好ましくない。
前記昇温工程は、その平均昇温速度を0.6℃/分以下の割合とすることが必要であり、該平均昇温速度は0.5℃/分以下の割合とすることがさらに好ましく、0.4℃/分以下の割合とすることが特に好ましい。このように、該平均昇温速度は遅いほど、前記低沸成分への原料モノマーの混入を低減することができるが、遅すぎると、重合工程に係る反応時間が長くなり過ぎ、工業的には不利になるので、該平均昇温速度は0.1℃/分以上であることが実用上好ましく、0.2℃/分以上の割合であるとさらに好ましい。前記昇温工程における平均昇温速度が0.6℃/分を越えると、低沸成分の留出温度を145℃以下に制御しても、低沸成分中の原料モノマーの混入が抑制できなくなる傾向がある。工業的スケールでの重合工程では、反応缶のスケールが大きくにしたがって、熱媒等による伝熱効率が悪くなる傾向があるので、実験室でのスケールより昇温速度はより遅くなる傾向がある。本発明では、このように平均昇温速度を遅くしても、前記低沸成分の留出温度を特定の範囲に制御することにより、分縮器の閉塞や低沸成分中への原料モノマーの混入を抑制することを可能とする。なお、前記昇温工程の昇温速度を前記の範囲にするには、通常、反応缶に備えられた加熱手段(通常、該反応缶には、該反応缶を外側から加熱する熱媒通過用のジャケットが備えられている)の温度を調整すればよい。
ただし、前記重合工程においては、たとえば、予め室温程度から200℃以下の初期温度までは、平均昇温速度を比較的速くし、該初期温度に到達してから、終期温度までの平均昇温速度を0.6℃/分以下の割合とすることもできる。換言すれば、昇温工程では少なくとも200℃から280℃までの間は、その平均昇温速度を0.6℃/分以下の割合とするということもできる。
なお、前記重合工程における昇温工程は、通常大気圧下で実施される。
【0021】
また、従来の液晶ポリエステル製造方法では、原料モノマーの一部が低沸成分とともに留出してしまうため、反応系中から失われることになる。これにより、得られる液晶ポリエステルにおいて、構造単位の共重合比が所望の範囲からずれてしまう。そのため、従来の液晶ポリエステル製造方法の場合、留出し易い原料モノマーを使用するときには、この原料モノマーを必要量よりも過剰に使用する必要があった。本発明の製造方法によれば、このような原料モノマーの過剰使用を良好に回避して、所望の共重合比の液晶ポリエステルを製造することが可能となる。
【0022】
既述のように、本発明の製造方法では前記昇温工程の過程で、分縮器により留出する低沸成分の温度を145℃以下に制御する。該分縮器は、反応缶と低沸成分を冷却する凝縮器との間に設けられる。該低沸成分の大半は揮発して、該分縮器を経由して凝縮器に到達し、該凝縮器で冷却・凝縮されて反応缶外に回収されるが、該低沸成分に含有されている原料モノマーは、ほとんど分縮器で酢酸と分離され反応缶に戻ることになる。分縮器から留出する低沸成分の温度が145℃を超えると、低沸成分とともに揮発した原料モノマーが反応缶に戻ることなく、留出する低沸成分に混入することになるので、結果として、該低沸成分から酢酸を回収することが困難となる。この点から、留出する低沸成分の温度(留出温度)は低いほど、原料モノマーの低沸成分への混入を回避する傾向があり、この留出温度は140℃以下が好ましい。一方、留出温度の下限は、重合反応が進行するようにして決定されるが、本発明者等の検討によれば、該留出温度が115℃を下回ると、低沸成分のほとんどが反応缶に戻ることになり、重合反応の進行が阻害され、液晶ポリエステルを効率的に得ることが困難になることが見出された。したがって、該留出温度は115℃以上にすることが好ましいことが判明している。なお、留出温度を、このような温度範囲に制御するためには、通常、分縮器の冷媒を約110〜145℃程度、好ましくは115〜140℃の温度範囲に制御すればよいが、この冷媒の温度は用いる分縮器や凝縮器の寸法等によって調整することができる。
【0023】
本発明における液晶ポリエステル製造方法は、内温が前記終期温度に到達した後、所定時間、該終期温度を保持することが好ましい。該終期温度に到達した後、同温度を保持する時間は30分以上反応させることが好ましく、該終期温度にて30分〜30時間反応させることが好ましく、30分〜20時間反応させることがさらに好ましい。かかる加熱条件は、当該液晶ポリエステルの製造に用いたモノマーの種類により、適宜調整することができる。なお、この一定時間、終期温度を保持する期間において留出する低沸成分はほとんどないため、この期間で留出する低沸成分に同伴する原料モノマーの混入は微量なものとなる。
【0024】
また、本発明の重合工程は、窒素原子を2原子以上含む複素環状有機塩基化合物の存在下に製造することが好ましい。このような複素環状有機塩基化合物を用いると、重合反応はより円滑に進行し易くなり、得られる液晶ポリエステルの着色を十分抑制できる利点もある。
この窒素原子を2原子以上含む複素環状有機塩基化合物としては、例えば、イミダゾール化合物、トリアゾール化合物、ジピリジリル化合物、フェナントロリン化合物、ジアザフェナントレン化合物等が挙げられる。これらの中で、反応性の観点からはイミダゾール化合物が好ましく使用され、入手が容易であることから1−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾールがより好ましく使用される。なお、該複素環状有機塩基化合物は、前記したアシル化工程の前に、原料モノマーとともに仕込むこともできるし、アシル化工程終了後、重合工程前に仕込むこともできるし、アシル化工程の前に、原料モノマーとともに仕込み、さらにアシル化工程終了後、重合工程前に追加することもできる。
【0025】
本発明の製造方法により得られた液晶ポリエステルは、反応缶から抜き出せる程度の溶融状態を保持し得る程度に保温しつつ、反応缶から取り出す。この反応缶からの取出しにおいては、液晶ポリエステルの溶融状態を保持し易くするために、吐出口に適切な加熱手段を設けることもできるし、取出速度を向上するために、窒素ガス等により反応缶内を加圧してもよい。
なお、このように適度な温度で溶融状態を保持するためには、重合工程後の液晶ポリエステルの流動開始温度を350℃以下の範囲にすると好ましく、該流動開始温度は280℃以下の範囲にすると特に好ましい。一方、該流動開始温度は、200℃以上であることが好ましく、255℃以上がより好ましい。200℃を下回ると、重合工程後の液晶ポリエステルはもちろん、たとえ後述するような固相重合を用いて液晶ポリエステルの高分子量化を行ったとしても、十分な耐熱性を有する液晶ポリエステルが得られない傾向がある。そして、耐熱性に乏しい液晶ポリエステルは、電気・電子部品の製造に使用することが困難となる。また、該流動開始温度が255℃以上であれば、後述する固相重合の効率を上げることができる。
なお、ここでいう流動開始温度とは、内径1mm、長さ10mmのダイスを取付けた毛細管型レオメーターを用い、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下において昇温速度4℃/分で液晶ポリエステルをノズルから押出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポイズ)を示す温度を意味し、該流動開始温度は当技術分野で周知の液晶ポリエステルの分子量を表す指標である(小出直之編、「液晶性ポリマー合成・成形・応用−」、95〜105頁、シーエムシー、1987年6月5日発行を参照、本発明においては、流動開始温度を測定する装置として、株式会社島津製作所製の流動特性評価装置「フローテスターCFT−500D」を用いる。)。
【0026】
本発明の液晶ポリエステル製造方法において留出・回収される低沸成分は、原料モノマーの混入が極めて抑制され、酢酸の回収が容易となる。具体的には、該低沸成分中における原料モノマーの含有量は1.0重量%以下まで低減することが可能であり、酢酸の回収をより容易にするためには、該含有量は0.5重量%以下が好ましい。また、該低沸成分は、主として前記アシル基と前記カルボキシル基との反応で副生した酢酸であるが、わずかながら未反応の無水酢酸が混入することある。酢酸の回収を容易にするには、低沸成分中の酢酸の含有量(酢酸含有量)を80重量%以上にすることが好ましい。該酢酸含有量をこのような範囲にするには、前記アシル化工程に使用する無水酢酸の使用量を適宜最適化すればよい。ただし、未反応の無水酢酸を含む低沸成分には、適当量の水を加えて加水分解させることにより、該無水酢酸を酢酸に転換することも可能である。
【0027】
(固相重合)
本発明の製造方法により得られる液晶ポリエステルは、そのまま種々の部品の製造用に使用することができるが、電気・電子機器の部品の製造用に適用するうえでは、さらに該液晶ポリエステルの重合度を上げることで、耐熱性を向上させることが好ましい。液晶ポリエステルの重合度をさらに上げる方法としては、いわゆる固相重合が簡便な反応装置で実施できるので好ましい。この固相重合の反応条件としては、重合工程後の液晶ポリエステルを、冷却固化した後、粉砕して粉末状にし、粉砕により得られた液晶ポリエステル粉末を、250〜350℃で2〜20時間加熱する方法などが挙げられる。該液晶ポリエステル粉末は、その平均粒子径は、0.05mm以上3mm程度以下の範囲が好ましく、0.05mm以上1.5mm程度以下の範囲がより好ましい。該粒子径がこのような範囲であれば、液晶ポリエステルの高重合度化が、より促進されることからより好ましく、0.1mm以上1.0mm程度以下の範囲であれば、粒子間のシンタリングを生じることなく液晶ポリエステルの高重合度化が促進されるため、さらに好ましい。なお、ここでいう液晶ポリエステル粉末の平均粒子径は、適当な外観観察(たとえば、光顕観察等)によればよい。
このような固相重合によれば、液晶ポリエステルをより高分子量化して、好適な流動温度(270〜400℃)の液晶ポリエステルを、比較的短時間で得ることができる。
【0028】
本発明の製造方法によれば、酢酸の回収が容易な低沸成分を得つつ、誘電特性等に優れた液晶ポリエステルを得ることができる。そして、該液晶ポリエステルは固相重合による高分子量化により、電気・電子機器の部品の製造に有用な液晶ポリエステルを得ることができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例によって、より詳細に説明する。
【0030】
[溶融開始温度の測定]
以下の各実施例及び比較例では、液晶ポリエステルの溶融開始温度を次の測定方法により測定した。すなわち、まず、フローテスター(島津製作所社製、CFT−500型)を用い、内径1mm、長さ10mmのダイスを取り付けた毛細管型レオメーターに、液晶ポリエステルの試料約2gを充填した。次いで、9.8MPa(100kg/cm)の荷重下、昇温速度4℃/分の条件で液晶ポリエステルをノズルから押出し、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポイズ)を示したときの温度を流動開始温度(℃)とした。
【0031】
[回収した低沸成分中の固形分測定]
試料(留出した副生酢酸)を丸底蒸発皿にとり、水浴上で蒸発乾固したのち、105〜110℃で乾燥し、その増量を定量して固形分(%)を求めた。
【0032】
実施例1
アシル化工程
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計、還流冷却器を備えた反応缶に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)、ハイドロキノン272.52g(2.475モル、0.225モル過剰仕込み)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、無水酢酸1226.87g(12.0モル)及び1−メチルイミダゾール0.17gを添加し、室温で15分間攪拌した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度を保持したまま1時間攪拌し、アシル化を行った。
重合工程
アシル化が終了した後、還流冷却器を120℃に温度調整された冷媒が流れている分縮器に付け替え、更に該分縮器に水冷された凝縮器(リービッヒ冷却管)を接続した。次に、以下の条件の昇温工程を含む重合を行った。
初期温度 :145℃
終期温度 :310℃
平均昇温速度 :0.40℃/分
この昇温工程の間、留出する低沸成分を回収した。この昇温工程の間において低沸成分の留出温度は、最大で135℃であった。
終期温度に到達した後、同温度を保持したまま、3時間保温して重合を終了した。次いで、重合の液晶ポリエステルの溶融状態が維持されるようにして抜き出し、液晶ポリエステルを得た。
留出した低沸成分について固形分(原料モノマー含有量)を測定したところ0.26重量%であり、酢酸含有量は80重量%以上であった。また目視により分縮器への原料モノマー等の析出と考えられる付着を確認したところ、ほとんど付着は認められず、分縮器の閉塞はないことを確認した。同様に、凝縮器についても原料モノマー等の付着はほとんど認められなかった。
以上のようにして得られた液晶ポリエステルを室温まで冷却し、粉砕機で粉砕して、粒子径が約0.1〜1mmの液晶ポリエステルの粉末を得た。この液晶ポリエステルについてフローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、268℃であった。
【0033】
実施例2
アシル化工程
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計、還流冷却器を備えた反応缶に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)、ハイドロキノン272.52g(2.475モル、0.225モル過剰仕込み)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、無水酢酸1226.87g(12.0モル)及び1−メチルイミダゾール0.17gを添加し、室温で15分間攪拌した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度を保持したまま1時間攪拌し、アシル化を行った。
重合工程
アシル化が終了した後、還流冷却器を120℃に温度調整された冷媒が流れている分縮器に付け替え、更に該分縮器に水冷された凝縮器(リービッヒ冷却管)を接続した。次に、以下の条件の昇温工程を含む重合を行った。
初期温度 :145℃
終期温度 :310℃
平均昇温速度 :0.55℃/分
この昇温工程の間、留出する低沸成分を回収した。この昇温工程の間において低沸成分の留出温度は、最大で138℃であった。
終期温度に到達した後、同温度を保持したまま、3時間保温して重合を終了した。次いで、重合の液晶ポリエステルの溶融状態が維持されるようにして抜き出し、液晶ポリエステルを得た。
留出した低沸成分について固形分(原料モノマー含有量)の測定したところ0.48重量%であり、酢酸含有量は80重量%以上であった。また目視により分縮器への原料モノマー等の析出と考えられる付着を確認したところ、ほとんど付着は認められず、分縮器の閉塞はないことを確認した。同様に、凝縮器についても原料モノマー等の付着はほとんど認められなかった。
以上のようにして得られた液晶ポリエステルを室温に冷却し、粉砕機で粉砕して、粒子径が約0.1〜1mmの液晶ポリエステルの粉末を得た。この液晶ポリエステルの粉末についてフローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、267℃であった。
【0034】
実施例3
アシル化工程
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計、還流冷却器を備えた反応缶に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)、ハイドロキノン272.52g(2.475モル、0.225モル過剰仕込み)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、無水酢酸1226.87g(12.0モル)及び1−メチルイミダゾール0.17gを添加し、室温で15分間攪拌した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度を保持したまま1時間攪拌し、アシル化を行った。
重合工程
アシル化が終了した後、還流冷却器を120℃に温度調整された冷媒が流れている分縮器に付け替え、更に該分縮器に水冷された凝縮器(リービッヒ冷却管)を接続した。次に145℃〜190℃まで1.0℃/分で昇温させた後、以下の条件での昇温工程を含む重合を行った。
初期温度 :190℃
終期温度 :310℃
平均昇温速度 :0.40℃/分
この昇温工程の間、留出する低沸成分を回収した。この昇温工程の間において低沸成分の留出温度は、最大で135℃であった。
終期温度に到達した後、同温度を保持したまま、3時間保温して重合を終了した。次いで、重合の液晶ポリエステルの溶融状態が維持されるようにして抜き出し、液晶ポリエステルを得た。
留出した低沸成分について固形分(原料モノマー含有量)の測定したところ0.31重量%であり、酢酸含有量は80重量%以上であった。また目視により分縮器への原料モノマー等の析出と考えられる付着を確認したところ、ほとんど付着は認められず、分縮器の閉塞はないことを確認した。同様に、凝縮器についても原料モノマー等の付着はほとんど認められなかった。
以上のようにして得られた液晶ポリエステルを室温に冷却し、粉砕機で粉砕して、粒子径が約0.1〜1mmの液晶ポリエステルの粉末を得た。この液晶ポリエステルの粉末についてフローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、268℃であった。
【0035】
実施例4
アシル化工程
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計、還流冷却器を備えた反応缶に、パラヒドロキシ安息香酸828.72g(6.00モル)、ハイドロキノン330.33g(3.00モル)、2,6−ナフタレンジカルボン酸648.57g(3.00モル)、無水酢酸1408.84g(13.8モル)及び1−メチルイミダゾール0.18gを添加し、室温で15分間攪拌した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度を保持したまま1時間攪拌し、アシル化を行った。
重合工程
アシル化が終了した後、還流冷却器を120℃に温度調整された冷媒が流れている分縮器に付け替え、更に該分縮器に水冷された凝縮器(リービッヒ冷却管)を接続した。次に以下の条件での昇温工程を含む重合を行った。
初期温度 :140℃
終期温度 :310℃
平均昇温速度 :0.40℃/分
この昇温工程の間、留出する低沸成分を回収した。この昇温工程の間において低沸成分の留出温度は、最大で138℃であった。
終期温度に到達した後、同温度を保持したまま、2時間保温して重合を終了した。次いで、重合の液晶ポリエステルの溶融状態が維持されるようにして抜き出し、液晶ポリエステルを得た。
留出した低沸成分について固形分(原料モノマー含有量)の測定したところ0.34重量%であり、酢酸含有量は80重量%以上であった。また目視により分縮器への原料モノマー等の析出と考えられる付着を確認したところ、ほとんど付着は認められず、分縮器の閉塞はないことを確認した。同様に、凝縮器についても原料モノマー等の付着はほとんど認められなかった。
以上のようにして得られた液晶ポリエステルを室温に冷却し、粉砕機で粉砕して、粒子径が約0.1〜1mmの液晶ポリエステルの粉末を得た。この液晶ポリエステルについてフローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、268℃であった。
【0036】
実施例5
アシル化工程
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計、還流冷却器を備えた反応缶に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)、ハイドロキノン255.18g(2.318モル、0.113モル過剰仕込み)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、無水酢酸1226.87g(12.0モル)及び1−メチルイミダゾール0.17gを添加し、室温で15分間攪拌した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度を保持したまま1時間攪拌し、アシル化を行った。
重合工程
アシル化が終了した後、還流冷却器を120℃に温度調整された冷媒が流れている分縮器に付け替え、更に該分縮器に水冷された凝縮器(リービッヒ冷却管)を接続した。次に以下の条件での昇温工程を含む重合を行った。
初期温度 :145℃
終期温度 :310℃
平均昇温速度 :0.40℃/分
この昇温工程の間、留出する低沸成分を回収した。この昇温工程の間において低沸成分の留出温度は、最大で135℃であった。
留出した低沸成分について固形分(原料モノマー含有量)の測定したところ0.25重量%であり、酢酸含有量は80重量%以上であった。また目視により分縮器への原料モノマー等の析出と考えられる付着を確認したところ、ほとんど付着は認められず、分縮器の閉塞はないことを確認した。同様に、凝縮器についても原料モノマー等の付着はほとんど認められなかった。
以上のようにして得られた液晶ポリエステルを室温に冷却し、粉砕機で粉砕して、粒子径が約0.1〜1mmの液晶ポリエステルの粉末を得た。この液晶ポリエステルの粉末についてフローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、266℃であった。
【0037】
比較例1
アシル化工程
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計、還流冷却器を備えた反応缶に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)、ハイドロキノン272.52g(2.475モル、0.225モル過剰仕込み)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、無水酢酸1226.87g(12.0モル)及び1−メチルイミダゾール0.17gを添加し、室温で15分間攪拌した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度を保持したまま1時間攪拌し、アシル化を行った。
重合工程
アシル化が終了した後、還流冷却器を120℃に温度調整された冷媒が流れている分縮器に付け替え、更に該分縮器に水冷された凝縮器(リービッヒ冷却管)を接続した。次に以下の条件での昇温工程を含む重合を行った。
初期温度 :145℃
終期温度 :310℃
平均昇温速度 :1.00℃/分
この昇温工程の間、留出する低沸成分を回収した。この昇温工程の間において低沸成分の留出温度は、最大で152℃であった。
終期温度に到達した後、同温度を保持したまま、3時間保温して重合を終了した。次いで、重合の液晶ポリエステルの溶融状態が維持されるようにして抜き出し、液晶ポリエステルを得た。
留出した低沸成分について固形分(原料モノマー含有量)の測定したところ3.26重量%であり、酢酸含有量は80重量%以上であった。ただし、目視により分縮器への原料モノマー等の析出と考えられる付着を確認したところ、ほとんど付着は認められず、分縮器の閉塞はないことを確認した。同様に、凝縮器についても原料モノマー等の付着はほとんど認められなかった。
以上のようにして得られた液晶ポリエステルを室温に冷却し、粉砕機で粉砕して、粒子径が約0.1〜1mmの液晶ポリエステルの粉末(プレポリマー)を得た。
このプレポリマーについてフローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、269℃であった。
【0038】
比較例2
アシル化工程
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計、還流冷却器を備えた反応缶に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)、ハイドロキノン272.52g(2.475モル、0.225モル過剰仕込み)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、無水酢酸1226.87g(12.0モル)及び1−メチルイミダゾール0.17gを添加し、室温で15分間攪拌した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度を保持したまま1時間攪拌し、アシル化を行った。
重合工程
アシル化が終了した後、還流冷却器を120℃に温度調整された冷媒が流れている分縮器に付け替え、更に該分縮器に水冷された凝縮器(リービッヒ冷却管)を接続した。次に以下の条件での昇温工程を含む重合を行った。
初期温度 :145℃
終期温度 :310℃
平均昇温速度 :0.80℃/分
この昇温工程の間、留出する低沸成分を回収した。この昇温工程の間において低沸成分の留出温度は、最大で135℃であった。
終期温度に到達した後、同温度を保持したまま、3時間保温して重合を終了した。次いで、重合の液晶ポリエステルの溶融状態が維持されるようにして抜き出し、液晶ポリエステルを得た。
留出した低沸成分について固形分(原料モノマー含有量)の測定したところ2.95重量%であり、酢酸含有量は80重量%以上であった。ただし、目視により分縮器への原料モノマー等の析出と考えられる付着を確認したところ、ほとんど付着は認められず、分縮器の閉塞はないことを確認した。同様に、凝縮器についても原料モノマー等の付着はほとんど認められなかった。
以上のようにして得られた液晶ポリエステルを室温に冷却し、粉砕機で粉砕して、粒子径が約0.1〜1mmの液晶ポリエステルの粉末を得た。この液晶ポリエステルの粉末についてフローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、268℃であった。
【0039】
比較例3
アシル化工程
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計、還流冷却器を備えた反応缶に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)、ハイドロキノン272.52g(2.475モル、0.225モル過剰仕込み)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、無水酢酸1226.87g(12.0モル)及び1−メチルイミダゾール0.17gを添加し、室温で15分間攪拌した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度を保持したまま1時間攪拌し、アシル化を行った。
重合工程
アシル化が終了した後、還流冷却器を150℃に温度調整された冷媒が流れている分縮器に付け替え、更に該分縮器に水冷された凝縮器(リービッヒ冷却管)を接続した。次に以下の条件での昇温工程を含む重合を試みたが、昇温途中段階(分縮器からの留出温度が150℃以上となった段階)で、凝縮器に原料モノマー等が付着し閉塞したため、実験を中止した。
初期温度 :145℃
終期温度 :310℃
平均昇温速度 :0.40℃/分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(i)で表される化合物、(ii)で表される化合物及び(iii)で表される化合物を原料モノマーとして使用し、
(i)で表される化合物及び(ii)で表される化合物を無水酢酸でアシル化してアシル化物を得るアシル化工程と、
前記アシル化物と(iii)で表される化合物とを、酢酸を含む低沸成分を留出しながら溶融重合せしめ、液晶ポリエステルを製造する重合工程と、
を有する液晶ポリエステルの製造方法において、
前記(ii)で表される化合物として、レゾルシン又はハイドロキノンを含み、
前記溶融重合が、200℃以下の初期温度から280℃以上の終期温度まで、内温を昇温する昇温工程を有し、該昇温工程の平均昇温速度が0.6℃/分以下であり、該昇温工程の間に留出される低沸成分の留出温度を145℃以下の範囲で制御することを特徴とする液晶ポリエステルの製造方法。

(式中、Arは、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基及び4,4’−ビフェニレン基からなる群より選ばれる2価の芳香族基を表す。Ar及びArはそれぞれ独立に、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基及び4,4’−ビフェニレン基からなる群より選ばれる2価の芳香族基を表す。また、Ar、Ar、Arで示される芳香族基は、その芳香環に結合している水素原子の一部が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基で置換されていてもよい。)
【請求項2】
前記(iii)で表される化合物として、2,6−ナフタレンジカルボン酸を含むことを特徴とする請求項1記載の液晶ポリエステルの製造方法。
【請求項3】
前記(i)で表される化合物として、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の液晶ポリエステルの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の液晶ポリエステルの製造方法において留出される低沸成分であって、
酢酸の含有量が80重量%以上であり、前記原料モノマーの含有量が1.0重量%以下であることを特徴とする低沸成分。

【公開番号】特開2010−174207(P2010−174207A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−21272(P2009−21272)
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】