説明

液晶ポリマー組成物

【課題】成形時の流動性が改良された液晶ポリマー組成物を提供すること。
【解決手段】液晶ポリマー100重量部に対して、1種または2種以上の下式〔1〕で表される脂肪族ジカルボン酸を0.01〜2.0重量部含んでなる液晶ポリマー組成物を提供する:
HOOC−R−COOH 〔1〕
〔式中、Rは、炭素原子数8〜30の、分岐を有してもよく、不飽和結合を有してもよい2価の脂肪族炭化水素基を表す〕。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形時の流動性が改良された液晶ポリマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリマーは、耐熱性、剛性等の機械物性、耐薬品性、寸法精度等に優れており、成形品用途のみならず、繊維やフィルムといった各種用途にその使用が拡大しつつある。特にパーソナル・コンピューターや携帯電話等の情報・通信分野においては、部品の高集積度化、小型化、薄肉化、低背化等から、薄い肉厚部が形成されるケースが多い。したがってかかる分野においては、液晶ポリマーの優れた成形性、すなわち流動性が良好であり、かつバリが出ないという他の樹脂にない特徴を生かして、その使用量が大幅に増大している。
【0003】
しかし、情報・通信分野において使用される電子部品の形状は、日々、薄肉化、複雑化しており、これに応じて、液晶ポリエステルにもさらなる成形時の流動性の改良が求められている。
【0004】
液晶ポリマーの成形時の流動性を改良する方法としては、例えば、特定の分子量の液晶ポリマーをブレンドする方法(特許文献1を参照)、液晶ポリマーに特定の流動温度を示す4−ヒドロキシ安息香酸のオリゴマーを配合する方法(特許文献2を参照)、脱酢酸溶融重合により液晶ポリマーを製造する方法において、重合反応液を縦型攪拌式薄膜蒸発機に供給通過させ、得られる液晶ポリマーの酢酸発生量を低減させ、流動性に優れた液晶ポリマーを得る方法(特許文献3を参照)や、液晶ポリマーの製造時にリン酸系化合物を添加する方法(特許文献4を参照)など多数の方法が知られている。
【0005】
しかし、特許文献1および特許文献2に開示される方法では、特定の分子量を有する液晶ポリマーや、特定の流動温度を示す4−ヒドロキシ安息香酸のオリゴマーを製造することが容易ではない問題があり、特許文献3に開示される方法では、縦型攪拌式薄膜蒸発機といった特殊な装置を使用する必要がある点で問題があり、特許文献4に開示される方法では、リン酸系化合物の種類や使用量によっては液晶ポリマーの機械的性質が大きく損なわれる問題がある。
【0006】
これらのことから、安価かつ容易に入手可能な材料を用いて、特殊な装置を用いることなく、液晶ポリマーの機械的物性を損なうことなく流動性を改良する方法が求められている。
【特許文献1】特開平2−173156号公報
【特許文献2】特開平3−095260号公報
【特許文献3】特開2000−309636号公報
【特許文献4】特開平06−032880号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、機械的性質を損なうことなく、流動性が改良された液晶ポリマー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、液晶ポリマー100重量部に対して、1種または2種以上の下式〔1〕で表される脂肪族ジカルボン酸を0.01〜2.0重量部含んでなる液晶ポリマー組成物を提供する:
HOOC−R−COOH 〔1〕
〔式中、Rは、炭素原子数8〜30の、分岐を有してもよく、不飽和結合を有してもよい2価の脂肪族炭化水素基を表す〕。
【0009】
本発明はまた、液晶ポリマー100重量部に対して、1種または2種以上の下式〔1〕で表される脂肪族ジカルボン酸を0.01〜2.0重量部配合することを含む、液晶ポリマー組成物の製造方法を提供する:
HOOC−R−COOH 〔1〕
〔式中、Rは、炭素原子数8〜30の、分岐を有してもよく、不飽和結合を有してもよい2価の脂肪族炭化水素基を表す〕。
【0010】
本発明においては、液晶ポリマー100重量部に対して、上記の式〔1〕で表される脂肪族ジカルボン酸を0.01〜2.0重量部配合することにより、液晶ポリマー組成物の溶融粘度を低下させることによって、液晶ポリマー組成物の成形時の流動性を改良するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において用いる液晶ポリマーは、異方性溶融相を形成するポリエステルまたはポリエステルアミドであり、当業者にサーモトロピック液晶ポリエステルまたはサーモトロピック液晶ポリエステルアミドと呼ばれるものであれば特に制限されない。
【0012】
異方性溶融相の性質は直交偏向子を利用した通常の偏向検査法、すなわちホットステージにのせた試料を窒素雰囲気下で観察することにより確認できる。
【0013】
本発明に用いる液晶ポリマーを構成する繰返し単位としては、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位、芳香族アミノカルボニル繰返し単位、芳香族オキシジカルボニル繰返し単位、および脂肪族ジオキシ繰返し単位などが挙げられる。
【0014】
これらの各繰返し単位から構成される液晶ポリマーは構成成分およびポリマー中の組成比、シークエンス分布によっては、異方性溶融相を形成するものとしないものが存在するが、本発明に使用される液晶ポリマーは異方性溶融相を形成するものに限られる。
【0015】
芳香族オキシカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえば4−ヒドロキシ安息香酸、メタヒドロキシ安息香酸、オルトヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、5−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、3’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、4’−ヒドロキシフェニル−3−安息香酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中ではパラヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸が得られる液晶ポリマーの特性や融点を調整しやすいという点から好ましい。
【0016】
芳香族ジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシビフェニル等の芳香族ジカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中ではテレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が得られる液晶ポリマーの機械物性、耐熱性、融点温度、成形性を適度なレベルに調整しやすいことから好ましい。
【0017】
芳香族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばハイドロキノン、レゾルシン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジヒドロキシビフェニル、3,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニルエ−テル等の芳香族ジオール、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中ではハイドロキノンおよび4,4’−ジヒドロキシビフェニルが重合時の反応性、得られる液晶ポリマーの特性などの点から好ましい。
【0018】
芳香族アミノオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばp−アミノフェノール、m−アミノフェノール、4−アミノ−1−ナフトール、5−アミノ−1−ナフトール、8−アミノ−2−ナフトール、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシアミン、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのエステルまたはアミド形成性誘導体が挙げられる。
【0019】
芳香族ジアミノ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、1,5−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレン等の芳香族ジアミン、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのアミド形成性誘導体が挙げられる。
【0020】
芳香族アミノカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばp−アミノ安息香酸、m−アミノ安息香酸、6−アミノ−2−ナフトエ酸等の芳香族アミノカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステルまたはアミド形成性誘導体が挙げられる。
【0021】
芳香族オキシジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえば3−ヒドロキシ−2,7−ナフタレンジカルボン酸、4−ヒドロキシイソフタル酸、および5−ヒドロキシイソフタル酸等のヒドロキシ芳香族ジカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0022】
脂肪族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、たとえばエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどの脂肪族ジオール、ならびにそれらのアシル化物が挙げられる。また、ポリエチレンテレフタレートや、ポリブチレンテレフタレートなどの脂肪族ジオキシ繰返し単位を含有するポリエステルを、前記の芳香族オキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、芳香族アミノカルボン酸、およびそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などと反応させることによっても、脂肪族ジオキシ繰返し単位を含む液晶ポリマーを得ることができる。なお、脂肪族ジオキシ繰返し単位を含有するポリエステルを重合に用いる場合、かかるポリエステルは、上記式〔1〕で表される脂肪族ジカルボン酸由来の脂肪族ジカルボニル単位を含まないものとする。
【0023】
本発明に用いる液晶ポリマーは本発明の目的を損なわない範囲で、チオエステル結合を含むものであってもよい。このような結合を与える単量体としては、メルカプト芳香族カルボン酸、および芳香族ジチオールおよびヒドロキシ芳香族チオールなどが挙げられる。これらの単量体の使用量は、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位、芳香族アミノカルボニル繰返し単位、芳香族オキシジカルボニル繰返し単位、および脂肪族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の合計量に対して10モル%以下であるのが好ましい。
【0024】
以上、本発明において用いる液晶ポリマーに含まれる繰返し単位とそれを与える単量体について説明したが、本発明において用いる液晶ポリマーは、芳香族オキシカルボニル繰返し単位である、4−オキシベンゾイル繰返し単位および/または6−オキシ−2−ナフトイル繰り返し単位を含むものを用いるのがより好ましい。
【0025】
4−オキシベンゾイル繰返し単位および/または6−オキシ−2−ナフトイル繰り返し単位を含む液晶ポリマーのなかでも、好ましいものとしては、例えば下記のモノマー構成単位からなる共重合体が挙げられる。
1)4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸共重合体
2)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体
3)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/イソフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体
4)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/イソフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/ハイドロキノン共重合体
5)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体
6)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体
7)4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ―2−ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体
8)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体
9)4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体
10)4−ヒドロキシ安息香酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体
11)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体
12)4−ヒドロキシ安息香酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体
13)4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体
14)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン/4,4’−ジヒドロキシビフェニル共重合体
15)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4−アミノフェノール共重合体
16)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/4−アミノフェノール共重合体
17)4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/4−アミノフェノール共重合体
18)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル /4−アミノフェノール共重合体
19)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/エチレングリコール共重合体
20)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/エチレングリコール共重合体
21)4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/エチレングリコール共重合体
22)4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’−ジヒドロキシビフェニル/エチレングリコール共重合体。
【0026】
これらの中では、成型加工性や、機械的性質から、1)、9)、13)の共重合体を液晶ポリマーとして用いるのが特に好ましい。
【0027】
本発明における液晶ポリマーは、成形時の流動性を改良するなどの目的で、2種以上の液晶ポリマーをブレンドしたものを用いてもよい。
【0028】
以下、本発明において用いる液晶ポリマーの製造方法について説明する。
本発明において用いる液晶ポリマーの製造方法に特に制限はなく、前記の単量体の組み合わせからなるエステル結合またはアミド結合を形成させる公知の重縮合方法、例えば溶融アシドリシス法、スラリー重合法などを用いることができる。
【0029】
溶融アシドリシス法とは、本発明で用いる液晶ポリマーの製造方法に用いるのに好ましい方法であり、この方法は、最初に単量体を加熱して反応物質の溶融液を形成し、続いて反応を続けて溶融ポリマーを得るものである。なお、縮合の最終段階で副生する揮発物(例えば、酢酸、水等)の除去を容易にするために真空を適用してもよい。
【0030】
スラリー重合法とは、熱交換流体の存在下で反応させる方法であって、固体生成物は熱交換媒質中に懸濁した状態で得られる。
【0031】
溶融アシドリシス法およびスラリー重合法の何れの場合においても、液晶ポリマーを製造する際に使用する重合性単量体成分は、ヒドロキシル基および/またはアミノ基をアシル化した変性形態、すなわち低級アシル化物として反応に供することもできる。低級アシル基は炭素原子数2〜5のものが好ましく、炭素原子数2または3のものがより好ましい。特に好ましくは前記単量体のアセチル化物を反応に用いる方法が挙げられる。
【0032】
単量体のアシル化物は、別途アシル化して予め合成したものを用いてもよいし、液晶ポリマーの製造時に単量体に無水酢酸等のアシル化剤を加えて反応系内で生成せしめることもできる。
【0033】
溶融アシドリシス法またはスラリー重合法の何れの場合においても反応時、必要に応じて触媒を用いてもよい。
触媒の具体例としては、ジアルキルスズオキシド(たとえばジブチルスズオキシド)、ジアリールスズオキシドなどの有機スズ化合物;、三酸化アンチモン;二酸化チタン;アルコキシチタンシリケート、チタンアルコキシドなどの有機チタン化合物;カルボン酸のアルカリまたはアルカリ土類金属塩(たとえば酢酸カリウム);無機酸塩類(たとえば硫酸カリウム);ルイス酸(例えば三フッ化硼素);ハロゲン化水素(例えば塩化水素)などの気体状酸触媒などが挙げられる。
【0034】
触媒の使用割合は、通常モノマー重量に対して10〜1000ppm、好ましくは20〜200ppmである。
【0035】
このようにして重縮合反応され得られた液晶ポリマーは、それぞれ溶融状態で重合反応槽より抜き出された後に、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工される。
【0036】
得られた、ペレット状、フレーク状、または粉末状の液晶ポリマーは、分子量を高め耐熱性を向上させる目的などで、減圧下または窒素、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下において、実質的に固相状態において熱処理を行ってもよい。
【0037】
固相状態で熱処理を行う場合の処理温度は、液晶ポリマーが溶融しない限り特に限定されないが、260〜350℃、好ましくは280〜320℃で行うのがよい。
【0038】
なお、本発明に用いる液晶ポリマーとしては、示差走査熱量計により測定される結晶融解温度(Tm)が270〜380℃のものが好ましく、280〜340℃のものがさらに好ましい。
【0039】
なお、結晶融解温度(Tm)は、以下に記載する方法により測定されるものである。
〈結晶融解温度測定方法〉
液晶ポリマーの試料を、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の測定後、Tm1より20〜50℃高い温度で10分間保持する。ついで、20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却し、さらに、再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を液晶ポリマーの結晶融解温度(Tm)とする。
【0040】
このようにして得られた液晶ポリマーは、1種または2種以上の下式〔1〕で表される脂肪族ジカルボン酸を配合され、本発明の液晶ポリマー組成物とされる。
HOOC−R−COOH 〔1〕
〔式中Rは、炭素原子数8〜30の、分岐を有してもよく、不飽和結合を有してもよい2価の脂肪族炭化水素基を表す〕。
【0041】
本発明において用いる、1種または2種以上の脂肪族ジカルボン酸としては、液晶ポリマーに配合する際の揮発性などを考慮し、式〔1〕において基Rが炭素原子数16〜30であり、分岐を有してもよく、不飽和結合を有してもよい2価の脂肪族炭化水素基である脂肪族ジカルボン酸を75重量%以上含むものがより好ましく、80重量%以上含むものがさらに好ましく、85重量%以上含むものが最も好ましい。
【0042】
本発明において用いる脂肪族ジカルボン酸としては、デカン二酸(セバシン酸)、3‐メチルノナン二酸、2‐エチルオクタン二酸、2‐メチルノナン二酸、2,6‐ジメチルオクタン二酸、5−デセン二酸、4−デセン二酸、3−デセン二酸、2−デセン二酸、2,6‐ジメチル‐2‐オクテン二酸、3,7‐ジメチル‐2‐オクテン二酸、2,8−デカジエン二酸、2,7‐ジメチル‐2,4‐オクタジエン二酸 、2,6‐ジメチル‐2,6‐オクタジエン二酸、2,7‐ジメチル‐2,6‐オクタジエン二酸 、3,6‐ジメチル‐2,6‐オクタジエン二酸、2,4,6,8‐デカテトラエン二酸、ウンデカン二酸、2‐ウンデセン二酸、2,9‐ウンデカジエン二酸、ドデカン二酸、3‐プロピルノナン二酸、3‐イソプロピルノナン二酸 、2‐ブチルオクタン二酸、3,3,6,6‐テトラメチルオクタン二酸 、2‐エチル‐2,6,6‐トリメチルヘプタン二酸 、2‐ドデセン二酸、3−ドデセン二酸、6−ドデセン二酸、4,8‐ジメチル‐3‐デセン二酸、4,8‐ドデカジエン二酸、3,7‐ジメチル‐2,7‐デカジエン二酸、2,7,3,6‐テトラメチル‐2,6‐オクタジエン二酸、2,4,8,10‐ドデカテトラエン二酸、トリデカン二酸、3,3,7,7‐テトラメチルノナン二酸、2,4‐トリデカジエン二酸 、7‐メチル‐2,6,10‐ドデカトリエン二酸、テトラデカン二酸、2,2,7,7‐テトラメチルデカン二酸、4,9‐ジメチルドデカ‐2,4,6,8,10‐ペンタエン‐1,12‐二酸、ペンタデカン二酸、3,7,11‐トリメチル‐2,6,10‐ドデカトリエン二酸、ヘキサデカン二酸、2,13‐ジメチルテトラデカン二酸、8‐ヘキサデセン二酸、ヘプタデカン二酸、3‐メチルヘキサデカン二酸、2‐メチルヘキサデカン二酸、3‐ヘプチルデカン二酸、オクタデカン二酸、9‐オクタデセン二酸、ノナデカン二酸、5,8,11,14‐ノナデカテトラエン二酸、4,9,13‐トリメチルヘキサデカ‐2,4,6,8,12‐ペンタエン二酸、イコサン二酸、2−エチルオクタデカン二酸、8‐エチルオクタデカン二酸、8,9‐ジエチルヘキサデカン二酸、8,12‐イコサジエン二酸、ヘンエイコサン二酸、ドコサン二酸、3,3,16,16‐テトラメチルオクタデカン二酸、11‐ドコセン二酸、8,12‐ジメチル‐8,12‐イコサジエン二酸、テトラコサン二酸、ペンタコサン二酸、ヘキサコサン二酸、13‐ヘキサコセン二酸、ヘプタコサン二酸、オクタコサン二酸、10,12,14,16,18‐オクタコサペンタエン二酸、ノナコサン二酸、トリアコンタン二酸、10,12,14,16,18,20‐トリアコンタヘキサエン二酸、11,13,15,17,19,21‐ドトリアコンタヘキサエン二酸およびそれらの混合物が挙げられる。
【0043】
本発明において用いる脂肪族ジカルボン酸として、工業的に入手可能なものの具体例としては、岡村製油株式会社製のSL−12、SL−20、UL−20、MMA−10R、SB−12、IPU−22、IPS−22、SB−20、UB−20、ULB−20、SLB−20などが挙げられる。
【0044】
本発明において用いる脂肪族ジカルボン酸の使用量は、液晶ポリマー100重量部に対して0.01〜2.0重量部であり、0.01〜1.0重量部がより好ましく、0.01〜0.8重量部が特に好ましい。
【0045】
脂肪族ジカルボン酸の使用量が0.01重量部よりも少ない場合には、液晶ポリマーを成形する際の流動性改良の効果が十分に発現されない問題がある。
また、脂肪族ジカルボン酸の使用量が2.0重量部よりも多い場合には、高温で液晶ポリマー組成物を加工する際に脂肪族ジカルボン酸の揮発の影響などによって白煙を生じるなどの作業上の問題が生じるとともに、機械的性質が低下してしまう問題がある。
【0046】
本発明において脂肪族ジカルボン酸を液晶ポリマーに配合する方法は特に制限されないが、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出機などを用いて、液晶ポリマーの結晶融解温度近傍ないし結晶融解温度+30℃で溶融混練して液晶ポリマー組成物する方法や、タンブラーなどを用いて、ペレット状、フレーク状、または粉末状の液晶ポリマーの表面に、所定量の脂肪族ジカルボン酸を付して液晶ポリマー組成物とする方法などが挙げられる。
【0047】
本発明における液晶ポリマー組成物は、機械物性の向上などの目的で、脂肪族ジカルボン酸の他に充填材を配合してもよい。充填材の形状は、本発明の目的を損なわない限り特に制限されないが、繊維状、板状、または粉状の充填材から選択される一種以上のものを使用するのが好ましい。
【0048】
充填材の具体例として、繊維状の充填材としては、例えばガラス繊維、ミルドガラス、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、アラミド繊維、チタン酸カリウムウィスカ、ホウ酸アルミニウムウィスカ、ウォラストナイトなどが挙げられる。これらの中では、ガラス繊維が物性とコストのバランスが優れている点で好ましい。また、板状あるいは粉状の充填材としては、例えばタルク、マイカ、グラファイト、炭酸カルシウム、ドロマイト、クレイ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、硫酸バリウム、酸化チタンなどが挙げられる。
【0049】
充填材を本発明の液晶ポリマー組成物に用いる場合の使用量は、液晶ポリマー100重量に対して、0.1〜200重量部であるのが好ましく、0.1〜150重量部であるのがより好ましく、0.1〜100重量部であるのが特に好ましい。
【0050】
本発明の液晶ポリマー組成物は、脂肪族ジカルボン酸および充填材以外に、本発明の効果を損なわない範囲でさらに、離型改良剤;染料、顔料などの着色剤;酸化防止剤;熱安定剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;界面活性剤などの1種または2種以上を組み合わせて添加してもよい。
【0051】
離型改良材ついては、成形に際して予め、ペレット状、フレーク状または粉末状の液晶ポリマーの表面に付着せしめてもよい。
【0052】
また、本発明において用いる液晶ポリマーには、本発明の目的を損なわない範囲で、その他の樹脂成分、たとえばポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、およびその変性物、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミドなどの熱可塑性樹脂や、例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂を1種または2種以上を組み合わせて添加してもよい。
【0053】
その他の樹脂成分の配合量は特に限定されず、樹脂の用途や目的に応じて適宜定めればよい。典型的には本発明の液晶ポリマー100重量部に対する他の樹脂成分の配合量が1〜200重量部、特に10〜100重量部となる範囲において配合される。
【0054】
これらの充填剤、添加剤および他の樹脂などは、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出機などを用いて、液晶ポリマーの結晶融解温度近傍ないし結晶融解温度+30℃で溶融混練して液晶ポリマーに配合すればよい。
【0055】
以上のように、本発明により、成形時の流動性が大きく改良された液晶ポリマー組成物を製造することが可能となるものである。
【0056】
本発明により得られる液晶ポリマー組成物は、成形時の流動性に優れるため、複雑な形状や、薄肉部を有する電気部品、電子部品、機械部品などの成形材料として特に好適に用いられるものである。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0058】
〔実施例1〜6、比較例1および比較例2〕
実施例および比較例において、液晶ポリマーとして、UENO LCP 2500(上野製薬株式会社製、4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体、結晶融解温度330℃)を使用した。
【0059】
脂肪族ジカルボン酸としては、岡村製油株式会社製の、SL−20、SL−12、およびUL−20を用いた。これらの脂肪族ジカルボン酸の構造を以下に示す。
【0060】
〔脂肪族ジカルボン酸〕
○SL−20
【化1】

【0061】
○SL−12
【化2】

【0062】
○UL−20
【化3】

【0063】
〔液晶ポリマー組成物作成例〕
液晶ポリマー100重量部に対し、表1に記載の種類および量の脂肪族ジカルボン酸を、2軸押出し機PCM−30(株式会社池貝製)を用い、シリンダー温度、330−320−320−310℃、スクリュ回転数150rpmの条件で溶融混練し、液晶ポリマー組成物のペレットを作成した。
各実施例および比較例により得られた液晶ポリマー組成物のペレットについて、溶融粘度、引張強度、曲げ強度、および荷重たわみ温度(DTUL)を測定した。
測定結果を表1に記す。
【0064】
〈溶融粘度測定方法〉
溶融粘度測定装置(東洋精機(株)製キャピログラフ1A)により、0.7mmφ×10mmのキャピラリーを用いて、液晶ポリマー組成物の試料の結晶融解温度+30℃ 、剪断速度10−1 での粘度を測定し、溶融粘度とする。
【0065】
〈引張強度測定方法〉
射出成形機(日精樹脂工業(株)製UH1000−110)を用いてASTM4号ダンベル試験片を成形し、これを用いてASTM D638に準拠して測定した。
【0066】
〈曲げ強度測定方法〉
射出成形機(日精樹脂工業(株)製UH1000−110)を用いて長さ127mm 、幅3.2mm、厚さ12.7mmの短冊状試験片を成形し、これを用いてASTM D790に準拠して測定した。
【0067】
〈荷重たわみ温度(DTUL)測定法方法〉
射出成形機(日精樹脂工業(株)製UH1000−110) を用いて長さ127mm 、幅3.2mm、厚さ12.7mmの短冊状試験片を成形し、これを用いてASTM D648に準拠し、荷重1.82MPa、昇温速度2℃ /分で測定した。
【0068】
【表1】

*溶融粘度が低すぎたために測定できなかった。
【0069】
表1より、液晶ポリマー100重量部に対して0.01〜2.0重量部までの脂肪族ジカルボン酸を配合した実施例1〜6においては、何れも、引張強度、曲げ強度、荷重たわみ温度(DTUL)などの機械的性質を大きく損なうことなく、脂肪族ジカルボン酸を配合していない比較例1と比べて、溶融粘度が有意に低下しており、成形時の流動性が改良されることがわかった。
【0070】
液晶ポリマー100重量部に対して2.0重量部を超える量の脂肪族ジカルボン酸を配合した比較例2においては、機械的性質が低下する傾向がみられ、中でも引張強度の値が大きく低下した。
【0071】
また、比較例2の液晶ポリマー組成物を調製するために、液晶ポリマーと脂肪族ジカルボン酸を溶融混練する際には、白煙が生じるなどの作業上の問題も生じた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリマー100重量部に対して、1種または2種以上の下式〔1〕で表される脂肪族ジカルボン酸を0.01〜2.0重量部含んでなる液晶ポリマー組成物:
HOOC−R−COOH 〔1〕
〔式中、Rは、炭素原子数8〜30の、分岐を有してもよく、不飽和結合を有してもよい2価の脂肪族炭化水素基を表す〕。
【請求項2】
式〔1〕で表される脂肪族ジカルボン酸が、基Rが炭素原子数16〜30の、分岐を有してもよく、不飽和結合を有してもよい2価の脂肪族炭化水素基である脂肪族ジカルボン酸を75重量%以上含んでなるものである、請求項1に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項3】
さらに、液晶ポリマー100重量部に対して、繊維状、板状、または粉状の充填材から選択される一種以上を0.1〜200重量部含む、請求項1または2に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項4】
充填材が、ガラス繊維、ミルドガラス、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、アラミド繊維、チタン酸カリウムウイスカ、ホウ酸アルミニウムウイスカ、およびウォラストナイトからなる群より選択される1種以上の繊維状の充填材、ならびにタルク、マイカ、グラファイト、炭酸カルシウム、ドロマイト、クレイ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、硫酸バリウム、および酸化チタンからなる群より選択される1種以上の板状あるいは粉状の充填材である、請求項3に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項5】
液晶ポリマー100重量部に対して、1種または2種以上の下式〔1〕で表される脂肪族ジカルボン酸を0.01〜2.0重量部配合することを含む、液晶ポリマー組成物の製造方法:
HOOC−R−COOH 〔1〕
〔式中、Rは、炭素原子数8〜30の、分岐を有してもよく、不飽和結合を有してもよい2価の脂肪族炭化水素基を表す〕。

【公開番号】特開2009−298834(P2009−298834A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−151692(P2008−151692)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(000189659)上野製薬株式会社 (76)
【Fターム(参考)】