説明

液晶性有機分子多層配向薄膜及びその製造方法

【課題】 異種材料による配向誘起層を用いることなく、液晶性有機分子多層配向膜を作製でき、かつ溶液プロセスによって同一または同系の有機分子多層配向膜を作製できる簡易な製造方法を提供する。
【解決手段】 摩擦転写法により配向成膜された高分子配向薄膜層の上に、該高分子配向薄膜と同一配向した液晶性有機分子薄膜層を形成してなる液晶性有機分子多層配向膜である。その高分子には、分子中に共役系を有する有機化合物の単独重合体または共重合体からなるものが好ましい。その液晶性有機分子多層配向薄膜の製造方法は、摩擦転写法を用いて固体状高分子が配向した摩擦転写薄膜を形成し、得られた高分子配向薄膜層の上に、液晶性有機分子の溶剤溶液を塗布した後、該液晶性有機分子の液晶相温度に加熱し、次いで冷却することにより、上層の液晶性有機分子が下層の配向膜と同一配向した薄膜を形成させるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学材料、電子材料などとして利用される液晶性有機分子を用いた多層配向薄膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、液晶性有機分子は液晶配向させることにより偏光発光することが知られている。またこのような配向した液晶性有機分子を、電界発光素子などの発光層に用いることによって偏光発光素子を製造することができることから、液晶ディスプレイのバックライトなどの光学材料として用途を拡大させることができる。
そこで、液晶性有機分子の配向方法として、基板上のラビング処理された膜(配向誘起層)上に溶液から薄膜を形成し、液晶相温度まで加熱することで配向膜を得る方法などが提案され、すでに適用されている。
【0003】
現在、液晶性有機分子の配向膜としては、代表的なフルオレン類を用いたものが数多く報告されている。例えば、配向誘起層であるポリイミドのラビング膜上に液晶性高分子ポリフルオレンを液晶配向することにより、配向膜を作製して青色偏光発光素子を実現している(例えば、非特許文献1参照)。しかし、ポリイミドは電気的に絶縁性であるため電子素子への応用には不利である。また、配向誘起層の電気的絶縁性を回避するために、導電性高分子ポリフェニレンビニレンのラビング膜を用いてポリフルオレン配向膜を作製し、青色偏光発光素子を実現している(例えば、非特許文献2参照)。同じく、配向誘起層に導電高分子ポリエチレンジオキシチオフェンのラビング膜を用いてフルオレン低分子配向膜を作製し、青色偏光発光素子を実現している(例えば、非特許文献3参照)。同じく、青色以外の発光を示すフルオレン低分子を混合した配向膜を作製し、青、緑、赤または白色の偏光発光素子も実現している(例えば、非特許文献4参照)。ところが、このようなラビング膜を使用した場合、配向誘起層の機械的なラビング処理により界面が粗雑なものになり、デバイス安定性に欠けるという問題がある。
【0004】
さらに、光配向性高分子膜を配向誘起層に用いて、安定性の向上を実現させたものが提案されている(例えば、非特許文献5参照)が、その配向性はラビング膜を用いた場合より劣るものである。そのうえ、これらの素子構造では、素子自体に配向誘起層を含むことから、素子性能、安定性などに重大な悪影響を及ぼすという欠点がある。
また、配向誘起層を含まない素子構造も提案されている(例えば、非特許文献6参照)が、この方法は電極上に直接回転塗布したフルオレン高分子膜をその上部に配向誘起層を押し当て、配向膜を作製した後に配向誘起層を除去する手法を採用していることから、配向性は配向誘起層を含む場合よりも劣るという問題がある。
【0005】
【非特許文献1】Synthetic Metals 2000、v111-112、p181-185
【非特許文献2】Applied Physics Letters 2000、v76、p2946-2948
【非特許文献3】Advanced Materials 2003、v15、p1176-1180
【非特許文献4】Advanced Materials 2004、v16、p783-788
【非特許文献5】Applied Physics Letters 2002、v81、p2319-2321
【非特許文献6】Applied Physics Letters 2003、v83、p5347-5349
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、液晶性有機分子配向膜を作製するには、ポリイミドのラビング膜のような異種材料による配向膜(配向誘起層)を用いることが必須とされてきた。また、溶液プロセスを用いて、同系有機分子の多層膜を作製する際、上層の膜形成に用いた溶媒で下層の膜を溶解させてしまうことから、上層と下層の材料に対して同じ溶媒を適用することは困難である。そこで、このような多層膜を作製する場合、異なる溶解度の有機分子を用いるか、または溶液プロセス以外の方法を選択する必要がある。
【0007】
本発明は、従来の技術における上記した問題を解決するためになされたものである。すなわち、本発明の目的は、表面が平滑で、発光波長を任意に選択できる良好な液晶性有機分子多層配向膜を提供することにある。
本発明の他の目的は、異種材料による配向誘起層を用いることなく、液晶性有機分子多層配向膜を作製でき、かつ溶液プロセスによって同一または同系の有機分子多層配向膜を作製できる簡易な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、摩擦転写法により配向成膜された高分子配向薄膜層の上に、該高分子配向薄膜と同一配向した液晶性有機分子薄膜層を形成してなることを特徴とする液晶性有機分子多層配向膜である。その高分子としては、分子中に共役系を有する有機化合物の単独重合体または共重合体からなるものであることが好ましい。
本発明の液晶性有機分子多層配向膜は、高分子配向薄膜層(下層)が、基板上に形成されたものであることが好ましく、また、その液晶性有機分子薄膜層(上層)は、赤色、緑色、青色の3原色または白色の発光波長を持つ液晶性有機分子から選択されてなり、その液晶性有機分子が偏光発光する配向薄膜であることが好ましい。
【0009】
本発明における液晶性有機分子薄膜層(上層)は、ホスト材およびゲスト材からなる液晶性有機分子の混合膜からなり、ホスト材とゲスト材間のエネルギー移動によりゲスト材の波長が偏光発光する配向薄膜であることが好ましい。また、その液晶性有機分子薄膜層は、回転塗布により形成され、表面平滑性を有する配向薄膜であることが好ましい。
【0010】
本発明の液晶性有機分子多層配向薄膜の製造方法は、摩擦転写法を用いて固体状高分子が配向した摩擦転写薄膜を形成し、得られた高分子配向薄膜層の上に、液晶性有機分子の溶剤溶液を塗布した後、該液晶性有機分子の液晶相温度に加熱し、次いで冷却することにより、上層の液晶性有機分子が下層の配向膜と同一配向した薄膜を形成させることを特徴とするものである。その摩擦転写薄膜は、平滑な基板上に、ペレット状に加圧成形した固体状結晶性高分子を加熱した基板上で圧着掃引して形成したものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、摩擦転写法を用いることにより、配向誘起層を要することなく、表面が平滑で発光波長を自由に選択できる良好な液晶性有機分子多層配向薄膜を容易に形成できることから、電気的安定性に優れたフルカラーの偏光発光素子などを簡易に作製することができる。また本発明によれば、単一有機分子配向膜を、膜厚の制御をしつつ作製することが可能であり、偏光カラーフィルターや位相板などの光学素子への応用ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明における液晶性有機分子多層配向膜の製造方法には、最下層に摩擦転写法によって製造された高分子配向膜を用いることにより形成する。これにより、この高分子摩擦転写膜が配向誘起層とみなされ、その上部に液晶性有機分子を積層し、液晶配向させることによって液晶性有機分子多層配向膜を容易に形成できる。
【0013】
摩擦転写法とは、通常、加工性の困難な不溶不融高分子の薄膜化に利用できる新たな手法であって、例えば、一定の温度に加熱保持したガラス、金属などからなる表面が平滑な基板上で、高分子粉末をプレス成形して得られた高分子成形体を一方向に押圧しながら摩擦延伸させると、高分子成形体の表面が摩耗し、その摩耗したものが基板表面上に極めて薄い膜(約数ナノメートル乃至数十ナノメートル)として転写されて摩擦転写膜が得られる。これを、ある種の高分子に適用すると、この薄膜中の高分子主鎖は、擦り付けた方向(掃引方向)に一軸に配向する。
【0014】
本発明において、摩擦転写膜として形成される下層の高分子配向薄膜層の高分子としては、分子中に共役系を有する有機化合物の単独重合体または共重合体からなるものを用いることが好ましく、例えば、チオフェン類、フェニレン類、フェニレンビニレン類、フルオレン類、及びそれらの誘導体、の単独重合体または共重合体、またはそれらに発光波長調整部位を持つ共重合体のいずれかにより形成されたものなどが挙げられる。なかでも、分子中にフルオレン骨格を持つ化合物の単独重合体または共重合体がより好ましく、具体的には、ポリジオクチルフルオレン、ポリジエチルヘキシルフルオレンなどの直鎖或いは分岐したアルキル基を側鎖に持つフルオレン類の単独重合体、ポリジオクチルフルオレンベンゾチアジアゾールなどの発光波長調整部位を持つフルオレン類の共重合体などが挙げられる。これらを用いて形成された摩擦転写膜は、面内一軸配向性を有するものである。
【0015】
また、上層の液晶性有機分子として用いるものとしては、チオフェン類、フェニレン類、フェニレンビニレン類、フルオレン類およびその誘導体、それらの単独重合体または共重合体、それらに発光波長調整部位を持つ共重合体あるいはそれらの混合物、またサーモトロピック液晶性を持ちネマチック相をもつ有機分子などの所望の色相、すなわち赤色、青色、緑色、白色などを発光する有機分子などが挙げられる。これらは単独でも、或いは混合しても使用できる。この上層の液晶性有機分子には、上記した下層の高分子を用いても良い。
【0016】
以下に、本発明に用いられる液晶性有機分子の代表的なものについて化学構造式で示す。
【化1】

式中、R及びR‘は、それぞれアルキル基、アルコキシ基またはアリール基であり、それらは同一でも異なってもよい。Arは発光波長調整部位であり炭素、水素、酸素、窒素、硫黄およびセレン等を含んだ芳香族であり、nは重合度をあらわす。また、Arは

【化2】

上記R及びR‘は、前記したと同じ意味を有する。
【0017】
本発明による液晶性有機分子多層配向膜は、上層の液晶性有機分子の液晶相温度において熱処理する液晶配向処理により前記摩擦転写膜が配向誘起層とみなされ、上層の液晶性有機分子が配向した液晶性有機分子多層配向膜が作製される。この熱処理によって上層の液晶性有機分子膜は、下層の摩擦転写膜と同一配向性を持つものとなる。
【0018】
また、液晶性有機分子多層配向膜は、上層をスピンコートなどの回転塗布法を用いて形成することにより、表面が平滑な液晶性有機分子多層配向膜が得られる。この場合において、回転塗布などの溶液プロセスによる同系有機分子積層方法については、上層の液晶性有機分子を塗布する直前に、下層の液晶性有機分子膜をその貧溶媒で保護することにより、下層を溶解させることなく液晶性有機分子多層配向膜を形成することができる。また、同様にして、上層の液晶性有機分子の上に、必要に応じて薄膜層を形成した3層以上の多層膜を作製することができる。
【0019】
本発明による液晶性有機分子多層配向膜は、下層と上層を同一有機分子によって形成することもできる。この場合には、基板上に同一有機分子のみによって配向膜を形成できるので、従来技術の問題点である、配向誘起層との界面粗さや表面粗さは、本発明により得られる液晶性有機分子多層配向膜には存在しないという利点がある。
【0020】
また、本発明による液晶性有機分子多層配向膜は、上層に、下層の液晶性有機分子の液晶層転移温度よりも高温に液晶相温度持つ液晶性有機分子と低温に液晶相温度を持つ液晶性有機分子との混合物を用いて形成することができる。これにより、液晶相転移温度の高低にかかわらず、上層を下層と同一配向させることができる。また、その上層の上には、使用目的に応じた薄膜を設けても良い。
以下、本発明について実施例などを用いて具体的に説明する。
【実施例1】
【0021】
下層の配向膜にポリジオクチルフルオレン(PFO)摩擦転写膜を用い、上層の液晶性有機分子に下層と同一分子であるPFOを用いた場合について、図面1(a)などを参照して説明する。
基板には溶融石英基板1を用い、ペレット状に加圧成型したPFOを90〜110℃に加熱した溶融石英基板1上で圧着掃引して、下層のフルオレン類配向膜となるPFO摩擦転写膜2を形成させた。図2には、得られたPFO摩擦転写膜の偏光蛍光スペクトルを示す。図2によれば、下層であるPFO摩擦転写膜は掃引方向に一軸配向していることがわかった。
次に、得られたPFO摩擦転写膜の表面に、PFOの貧溶媒であるメタノールを塗布し、続けて良溶媒であるトルエンに溶かしたPFO溶液をその上部に回転塗布し、PFO回転塗布膜3をPFO摩擦転写膜の上部に形成させた。図3には、PFO摩擦転写膜の上にPFO回転塗布膜を形成させたPFO多層膜の偏光蛍光スペクトル図を示す。図3によれば、下層のPFO摩擦転写膜の配向を乱すことなく、上層のPFO回転塗布膜を成膜することができ、PFO多層膜を形成していることがわかった。また回転塗布するのみである程度配向していることが確認できる。
【0022】
次いで、形成されたPFO多層膜をPFOの液晶相温度である180℃で10分間加熱した後、冷却する熱処理を施すことにより、下層のPFO摩擦転写膜を配向誘起層に見立てて、上層のPFO回転塗布膜がPFO摩擦転写膜と同一方向に配向した多層配向膜を作製した。図面1(a)は、このプロセスにより得られた多層配向膜の断面図を示す。
得られた多層配向膜は、配向誘起層との界面粗さや表面粗さのない平滑な表面を有するものであった。図4には、その熱処理後のPFO多層膜の偏光蛍光スペクトルを示す。図4によれば、上下層ともに同一方向に配向していることがわかる。
【実施例2】
【0023】
下層の配向膜にPFO摩擦転写膜を用い、上層の液晶性有機分子にPFOと同系分子であるポリジエチルヘキシルフルオレン(PF2-6)を用いた場合について、図1(b)などを参照して説明する。
基板1上へのPFO摩擦転写膜2の作製は、実施例1と同様に行った。そのPFO摩擦転写膜の表面にPFOの貧溶媒であるメタノールを回転塗布し、続けて良溶媒であるトルエンに溶かしたPF2−6溶液をその上部に回転塗布し、PF2−6の回転塗布膜4をPFO摩擦転写膜上部に形成させた。図5には、得られたPF2−6の回転塗布膜とPFO摩擦転写膜からなる多層膜の偏光蛍光スペクトルを示す。図5によれば、下層のPFO摩擦転写膜の配向を乱すことなく、上層のPF2−6の回転塗布膜が成膜されたPF2−6/PFO多層膜を形成していることがわかった。また、実施例1と同様にPF2−6の回転塗布膜もある程度配向していることが確認できる。
【0024】
次に、形成されたPF2−6/PFO多層膜をPFOの液晶相温度180℃で10分間加熱した後、冷却する熱処理を施すことにより、下層のPFO摩擦転写膜を配向誘起層に見立てて、上層のPF2−6の回転塗布膜がPFO摩擦転写膜と同一方向に配向した多層配向膜を作製した。図面1(b)は、このプロセスにより得られた多層配向膜の断面図を示す。
図6には、熱処理後のPF2−6/PFO多層膜の偏光蛍光スペクトルを示す。図6によれば、上下層ともに同一方向に配向していることがわかり、加えて実施例1で得たPFO多層配向膜と比較して、PF2−6/PFO多層配向膜の配向度は高いものであった。このことは、上層のPF2−6の液晶相転移温度が、下層であるPFOの液晶相転移温度よりも低温であることによって、PFOの液晶相温度による熱処理においてPF2−6が容易に液晶配向できることに起因している。そのため、上層の液晶性有機分子の液晶相転移温度は、下層の液晶相転移温度よりも低温であることが好適であるといえる。
上層の液晶性有機分子の液晶相転移温度が、下層の液晶相転移温度よりも高温の場合、上層の液晶配向温度で熱処理を行うと下層の配向が乱れることから、下層よりも高温に液晶相転移温度を持つ液晶性有機分子は上層に不適である。この不適応性は発光波長の選択性を著しく狭めるものであるが、このような問題点も本発明方法を採用することにより解消させることができる。
【実施例3】
【0025】
下層の配向膜にPFO摩擦転写膜を用い、上層の液晶性有機分子にPFOよりも液晶層転移温度が高温であり、発光波長調整部位を持つポリジオクチルフルオレンベンゾチアジアゾール(F8BT)とPF2−6の混合物を用いた場合について、図面1(c)などを参照して説明する。
通常、F8BTの液晶相転移温度は下層のPFOよりも高温であるから、F8BT単体を上層に用いた場合は、PFOの液晶相温度による熱処理においては液晶配向せず、またF8BTの液晶相温度での熱処理においては下層のPFO摩擦転写膜の配向が乱れ、配向膜とならない。これを解消するために、下層のPFOよりも低温に液晶相転移温度を持つPF2−6とF8BTを混合する。PF2−6と混合することにより低温でF8BTの液晶配向を促進できる。また、F8BTはPF2−6よりも低エネルギー側に発光帯を有しており、エネルギー移動によってPF2−6とF8BTの混合膜においては、F8BTが発光するので、本発明の発光波長の選択性は損なわれることがない。
【0026】
基板1上への下層のPFO摩擦転写膜2の作製は、実施例1と同様に行った。そのPFO摩擦転写膜の表面にPFOの貧溶媒であるメタノールを回転塗布し、続けて良溶媒であるトルエンに溶かしたPF2−6とF8BT(10:1)の混合溶液をその上部に回転塗布し、PF2−6及びF8BTの混合物からなる回転塗布膜5をPFO摩擦転写膜上部に形成させた。図7には、PF2−6及びF8BTの混合物からなる回転塗布膜とPFO摩擦転写膜からなる多層膜の偏光蛍光スペクトルを示す。図7によれば、下層のPFO摩擦転写膜の配向を乱すことなく、上層のPF2−6及びF8BTからなる混合物の回転塗布膜を成膜することができ、PF2−6及びF8BT混合物/PFO多層膜を形成していることがわかる。また実施例1,2と同様に、PF2−6とF8BTの回転塗布膜もある程度配向していることが確認できる。
【0027】
次に、形成されたPF2−6及びF8BT混合物/PFO多層膜をPFOの液晶相温度である180℃において10分間加熱した後、冷却する熱処理を施すことにより、下層のPFO摩擦転写膜を配向誘起層に見立てて、上層のPF2−6及びF8BTの混合物からなる回転塗布膜がPFO摩擦転写膜と同一方向に配向した多層配向膜を作製した。図8には、熱処理後のPF2−6及びF8BTの混合物/PFO多層膜の偏光蛍光スペクトルを示す。図8によれば、上下層ともに同一配向していることがわかり、PF2−6と混合することにより低温でのF8BTの液晶配向を促進できることが確認された。また発光波長はF8BTのものであり、エネルギー移動によって本発明の発光波長の選択性も維持されている。
このように、上記の実施例では、ポリフルオレン系材料を用いたが、例えば、液晶性有機分子として知られているチオフェン、フェニレン、フェニレンビニレン、フルオレンおよびその誘導体あるいはそれらの共重合体などを用いた多層配向膜も同様にして得ることができる。また、実施例では2層膜に限られているが、上記した操作を繰り返し行うことにより3層以上の多層膜も同様にして得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施例1〜3で得られた多層配向膜の断面図である。
【図2】本発明により得られたポリジオクチルフルオレン(PFO)摩擦転写膜の偏光蛍光スペクトル図である。
【図3】本発明により得られた熱処理前のPFO多層膜の偏光蛍光スペクトル図である。
【図4】本発明により得られた熱処理後のPFO多層膜の偏光蛍光スペクトル図である。
【図5】本発明により得られた熱処理前のポリジエチルヘキシルフルオレン(PF2−6)/PFOの多層膜の偏光蛍光スペクトル図である。
【図6】本発明により得られた熱処理後のPF2−6/PFOの多層膜の偏光蛍光スペクトル図である。
【図7】本発明により得られた熱処理前のポリジオクチルフルオレンベンゾチアジアゾール(F8BT)及びPF2−6の混合物/PFOの多層膜の偏光蛍光スペクトル図である。
【図8】本発明により得られた熱処理後のF8BT及びPF2−6の混合物/PFOの多層膜の偏光蛍光スペクトル図である。
【符号の説明】
【0029】
1・・・石英基板
2・・・ポリジオクチルフルオレン(PFO)摩擦転写膜
3・・・PFO回転塗布膜
4・・・ポリジエチルヘキシルフルオレン(PF2−6)回転塗布膜
5・・・PF2−6とポリジオクチルフルオレンベンゾチアジアゾール(F8BT)の混合物からなる膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦転写法により配向成膜された高分子配向薄膜層の上に、該高分子配向薄膜と同一配向した液晶性有機分子薄膜層を形成してなることを特徴とする液晶性有機分子多層配向膜。
【請求項2】
前記高分子が、分子中に共役系を有する有機化合物の単独重合体または共重合体からなるものである請求項1に記載の液晶性有機分子多層配向膜。
【請求項3】
前記高分子配向薄膜層が、基板上に形成されたものである請求項1または2に記載の液晶性有機分子多層配向膜。
【請求項4】
前記液晶性有機分子薄膜層が、3原色または白色の発光波長を持つ液晶性有機分子から選択されてなり、該液晶性有機分子が偏光発光する配向薄膜である請求項1〜3のいずれか1項に記載の液晶性有機分子多層配向膜。
【請求項5】
前記液晶性有機分子薄膜層が、ホスト材およびゲスト材からなる液晶性有機分子の混合膜からなり、ホスト材とゲスト材間のエネルギー移動によりゲスト材の波長が偏光発光する配向薄膜である請求項1〜4のいずれか1項に記載の液晶性有機分子多層配向膜。
【請求項6】
前記液晶性有機分子薄膜層が、回転塗布により形成され、表面平滑性を有する配向薄膜である請求項1〜5のいずれか1項に記載の液晶性有機分子多層配向膜。
【請求項7】
摩擦転写法を用いて固体状高分子が配向した摩擦転写薄膜を形成し、得られた高分子配向薄膜層の上に、液晶性有機分子の溶剤溶液を塗布した後、該液晶性有機分子の液晶相温度に加熱し、次いで冷却することにより、上層の液晶性有機分子が下層の配向膜と同一配向した薄膜を形成させることを特徴とする液晶性有機分子多層配向薄膜の製造方法。
【請求項8】
前記摩擦転写薄膜が、平滑な基板上に、ペレット状に加圧成形した固体状高分子を加熱した基板上で圧着掃引して形成したものである請求項6に記載の液晶性有機分子多層配向膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−256283(P2006−256283A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−80693(P2005−80693)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】