説明

液晶表示セル、表示セル及び表示装置用ガラス基板

【課題】機械研磨又は化学研磨により表面粗さが増大したガラス基板の光透過率を回復し、且つ、厚さが薄くなったガラス基板を補強し、軽量化及び薄型化が可能な液晶表示セルを提供する。
【解決手段】下偏光板118と金属酸化物ガラス膜112を有する第1のガラス基板111、液晶層117、金属酸化物ガラス膜115が形成された第2のガラス基板114及び上偏光板119を積層した液晶表示セル110と、導光板121、拡散板122及び光源123からなるバックライトユニット120とから構成された液晶表示装置であって、第1のガラス基板111及び第2のガラス基板114の外側面は機械研磨又は化学研磨により粗化され、金属酸化物ガラス膜112,115は、金属アルコキシド組成物の加水分解反応によるゾルゲル反応により三次元架橋が形成された光透過性の有機/無機ハイブリッド材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示セル等に関し、より詳しくは、軽量化された液晶表示セル等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置を用いた種々の表示装置の小型化及び軽量化が求められており、例えば、液晶ディスプレイに使用されるガラス基板の厚さを薄くし、液晶表示装置を軽量化する技術が報告されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
これらの方法は、ガラス基板の表面を機械的に研磨し、薄型化することにより軽量化を図るものであるが、通常、薄いガラス基板は強度が低下し、搬送ができない等の取扱いが困難になる。このため、この方法においては、透明電極のパターン形成等の処理が施された比較的強度を確保できる程度の厚さを有する2枚のガラス基板を貼り合わせ、使用する研磨剤等により端子が汚染されないようにシールを施した後、研磨法(ラップ)、研削法又はブラスト法等の機械研磨(メカニカルエッチング)方法により、ガラス基板の表面を研磨し、その後、カッティングにより所定の大きさのセルに分離される。このようなシール剤によって貼り合せられた一対のガラス基板を研磨することにより、例えば厚さ0.7mmのガラス基板は0.4mm程度の厚さになるように研磨され、14インチのディスプレイの場合、約100g程度の軽量化が図られ、この薄いガラス基板上にスイッチング素子や画素電極、あるいは対向電極等を有する液晶表示セルが形成される。
【0004】
【特許文献1】特開2001−013489号公報
【特許文献2】特開平05−061011号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1又は特許文献2において報告されているような機械研磨等の方法では、通常、貼り合せられた一対のガラス基板を専用の治具に固定し、液晶表示セルとして使用可能なガラス基板を作製するために、第一段の荒削り研磨の後、第二段の仕上げ研磨を行う二段加工の研磨操作が行われる。即ち、第一段目の荒削り研磨によりガラス基板の表面粗さが増大し(粗面)、当初100%程度であったガラス基板の光透過率が20%以下にまで低下する。このため、低下したガラス基板の光透過率を回復させるために、通常、表面粗さが増大したガラス基板の表面に、研磨法の場合はポリッシュ仕上げ、研削法又はブラスト法の場合は細かい砥石による仕上げ研磨を行い、ガラス基板の表面を平坦化(鏡面)することにより光透過率が回復される。
【0006】
しかし、第一段の荒削り研磨により厚さが低減されたガラス基板は、その強度が低下することにより、その後に行われる仕上げ研磨(ポリッシュ)の際に破壊されるおそれが増大する。このため、ガラス基板の厚さは、強度を保持するために一定の制限を受け、ある程度の厚さ、具体的には約0.3mm以下に薄くすることが困難であるという問題がある。
【0007】
また、研磨操作によりガラス基板の表面にマイクロクラックが生じ、ガラス基板の物理的強度が低下するおそれがある。このようなガラス基板の物理的強度の低下の影響は、ガラス基板の厚さが薄くなるほど顕著になり、また、反りやたわみ、温度変化に対するガラス基板の変形等を考慮する必要があり、液晶表示装置の生産性が悪くなるおそれがある。
【0008】
本発明は、このような液晶表示装置の軽量化を検討する際に浮き彫りになった問題を解決するためになされたものである。
即ち、本発明の主たる目的は、研磨操作により表面粗さが増大したガラス基板の光透過率を回復した液晶表示セルを提供することにある。
また、本発明の他の目的は、研磨操作により厚さが薄くなったガラス基板を補強した液晶表示セルを提供することにある。
さらに、本発明の他の目的は、研磨操作により軽量化した液晶表示セル及び表示装置用ガラス基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決すべく、本発明においては、ガラス基板と略同等の屈折率を有する光透過性材料により、研磨されたガラス基板の表面をコーティングする構成を採用している。即ち、本発明が適用される液晶表示セルは、所定の間隙をもって配置され、相対向する内側面に電極が形成されると共に、当該間隙に液晶が封入された一対のガラス基板と、このガラス基板の外側面を覆い、ガラス基板の屈折率と同等の屈折率を有する金属酸化物ガラス膜と、を有することを特徴とするものである。
【0010】
本発明が適用される液晶表示セルに使用するガラス基板の外側面は、ガラス基板の表面が物理的又は化学的手法により粗化されていることを特徴としている。具体的な物理的手法としては、研磨加工、サンドブラスト加工、研削加工等が挙げられる。化学的手法には、フッ化水素酸等を用いる化学エッチング加工が挙げられる。
【0011】
本発明が適用される液晶表示セルにおいて、ガラス基板の屈折率と金属酸化物ガラス膜の屈折率との差が±0.02以内であることを特徴とすれば、このガラス基板とその外側面を覆う金属酸化物ガラス膜とを透過する光に対して高い光透過率を得ることができる。
【0012】
本発明が適用される液晶表示セルにおけるガラス基板の外側面を覆う金属酸化物ガラス膜が、ガラス基板の外側面に塗布された金属アルコキシド組成物の加水分解反応により形成されたものであることを特徴とすれば、物理的又は化学的手法により多数の凹凸が形成されたガラス基板の表面に、ガラス様の擬似膜が形成されて平坦化され、ガラス基板と金属酸化物ガラス膜との界面における光の散乱が消失し、ガラス基板の光透過率を略100%程度に回復させることができる。
【0013】
金属酸化物ガラス膜を形成するために使用する金属アルコキシド組成物は、(a)メチル基又はフェニル基を有する有機ポリシロキサンと(b)ヒドロキシル基又は加水分解性官能基を有する有機シロキサンと(c)硬化剤とを含有することが好ましい。このような金属アルコキシド組成物がガラス基板の外側面に塗布され、比較的低温における金属アルコキシドの加水分解反応による脱水縮合反応を行うことにより、三次元架橋が形成された光透過性の被膜が形成される。
【0014】
次に、本発明は、相対向する一対のガラス基板と、この一対のガラス基板間に封入された液晶とを有する液晶表示セルにおいて、このガラス基板は、表面粗さが0.5μm以下の粗面を有する第1層と、この第1層上に密着して設けられ、表面粗さが0.05μm以下の鏡面を有する第2層と、から構成されることを特徴とする液晶表示セルとして把握されるものである。即ち、ガラス基板を構成する二層構造の中、第1層は表面粗さが大きい粗面であることにより光透過率が大幅に低下するものであるが、その粗面を平坦化するように第1層の上面に密着して光透過性材料による第2層が形成される。
【0015】
一方、本発明は、薄型化加工により厚さが低減されたガラス基板と、このガラス基板の薄型化加工面に形成された有機ポリシロキサンを主成分とするゾルゲル層と、を有することを特徴とする表示セルとして把握されるものである。このような表示セルにおけるゾルゲル層は、表示セルの軽量化とガラス基板の物理的強度の補完とを同時に満たすものである。さらに、薄型化加工において、荒削りにより粗化されたガラス基板表面を、例えば、ポリッシュ等の仕上げ加工を行うことなく平坦化することが可能となり、製造工程の簡略化を図ることができる。
【0016】
このガラス基板の薄型化加工面にゾルゲル層を形成するには、有機ポリシロキサンの加水分解反応は、80℃以下において行うことが好ましい。加水分解反応をこのような比較的低温において行うことにより、例えば、ガラス基板間に液晶を封入した場合であっても、封入された液晶を熱的に変化させることなく表示セルの軽量化を図ることができる。また、加水分解反応において使用される硬化剤は、有機錫化合物又はホウ素ハライドから選ばれるものであることが好ましい。
【0017】
次に、本発明は、薄型化加工により形成された粗面を有する無機ガラス層と、この無機ガラス層の粗面に密着して被覆する金属アルコキシドの加水分解反応により得られるコーティング層と、を有する表示装置用ガラス基板として捉えることができる。
【発明の効果】
【0018】
かくして本発明によれば、表面粗さが増大したガラス基板の光透過率を回復した液晶表示セルが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面に基づき本実施の形態について詳述する。
(第1の実施形態)
図1は、本実施の形態が適用される液晶表示セルを説明するための図である。図1に示された液晶表示装置100は、図中下から、下偏光板118、下偏光板118側に形成された金属酸化物ガラス膜112を有する第1のガラス基板111、液晶層117、液晶層117とは反対側に金属酸化物ガラス膜115が形成された第2のガラス基板114及び上偏光板119を積層した液晶表示セル110と、導光板121、拡散板122及び光源123からなるバックライトユニット120とから構成される。液晶層117は、第1のガラス基板111及び第2のガラス基板114の周辺部がシール剤(図示せず)によりシールされ、所定の間隙をもって形成された空間に封入された液晶により構成されている。尚、図示しないが、必要に応じて、下偏光板118の外側に、散乱又は輝度上昇を目的とした複数の光学補償フィルムを設けることができる。
【0020】
液晶表示セル110の表示エリアには、一対の第1のガラス基板111及び第2のガラス基板114の相対向する内側面にそれぞれ、透明電極113,116が形成されている。第1のガラス基板111は、その上面にスイッチング素子として機能する薄膜トランジスタ(TFT)(図示せず)が設けられたアレイ基板である。
【0021】
第1のガラス基板111又は第2のガラス基板114に使用するガラスは無機ガラス層を形成するものであれば特に限定されないが、例えば、ソーダライムガラス、単板ガラス、曲げガラス、強化ガラス、合わせガラス、複層ガラス、ミラー用ガラス等が挙げられ、通常、屈折率が、1.48以上1.52以下のものが使用される。第1のガラス基板111又は第2のガラス基板114の厚さは、特に限定されないが、通常、0.5mm以上1.1mm以下である。第1のガラス基板111又は第2のガラス基板114の厚さは、それぞれ異なる場合であっても、両者同一であってもよい。
【0022】
第1のガラス基板111及び第2のガラス基板114は、例えば、酸化アルミニュウム等の砥粒を用いる研磨加工、酸化アルミニュウム等の微粒子を空気又は水とともに吹き付けるサンドブラスト加工、ダイヤモンド刃を用いる研削加工等の機械的研磨加工により薄型化され、また、機械的研磨加工により粗化された外側面は、表面粗さ(Ra)は任意に加工可能であるが、研磨レートとの兼合いで設定され、通常、1μm以下の粗面が形成されている。但し、表面粗さ(Ra)は、通常0.5μm以下、好ましくは0.2μm以下である。但し、表面粗さ(Ra)は、通常、0.05μm以上、好ましくは0.1μm以上である。具体的には、#1000砥粒を用いた研磨加工では、表面粗さ(Ra)は0.3μm程度、#320砥粒を用いたサンドブラスト加工では、表面粗さ(Ra)は3μm程度、#600砥石を用いた研削加工では、表面粗さ(Ra)は0.2μm程度に粗化される。尚、第1のガラス基板111及び第2のガラス基板114は、このような薄型化加工により、当初のガラス基板の厚さが少なくとも20%低減される。
【0023】
第1のガラス基板111及び第2のガラス基板114の外側面に形成された金属酸化物ガラス膜112,115は、金属アルコキシド組成物の加水分解反応によるゾルゲル反応により三次元架橋が形成された、有機/無機ハイブリッド材料による光透過性の皮膜である。金属アルコキシド組成物としては、例えば、有機ポリシロキサンを主成分とする硬化組成物が挙げられ、組成物の成分として具体的には、(a)メチル基又はフェニル基を有する有機ポリシロキサンと(b)ヒドロキシル基又は加水分解性官能基を有する有機シロキサンと(c)硬化剤とが挙げられる。
【0024】
(a)メチル基又はフェニル基を有する有機ポリシロキサンとしては、例えば、メチル基又はフェニル基及び炭素数1〜4のアルコキシ基を有する液状有機ポリシロキサンが挙げられる。炭素数1〜4のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
【0025】
(b)ヒドロキシル基又は加水分解性官能基を有する有機シロキサンにおける加水分解性基としては、例えば、アルコキシ基、アシロキシ基、ケトオキシム基、アミド基、アルケニルオキシ基、およびハロゲン原子などが例示される。また、(b)成分の有機シロキサンは、1価の有機基もしくは水素原子を有することがあり、1価の有機基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル等のアルキル基;ビニル、アリル等のアルケニル基;フェニル、トリル、キシリル等のアリール基;フェネチル、β−フェニルプロピル等のアラルキル基;N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピル等のアミノアルキル基;γ−グリシドキシプロピル、3,4−エポキシシクロヘキシル等のエポキシ基含有基;γ−メタクリロキシプロピル等の(メタ)アクリル基含有基;γ−メルカプトプロピル等のメルカプトアルキル基;シアノエチル等のシアノアルキル基;β−クロロエチル、γークロロエチル等のクロロアルキル基;3,3,3−トリフルオロプロピル等のフルオロアルキル基等が例示される。尚、(b)成分には、必要に応じてアルコキシの部分加水分解物(液状シリコーンレジン)が含まれる場合がある。
【0026】
(c)硬化剤は、通常、縮合硬化型シリコーン組成物に使用される硬化触媒が使用される。硬化剤の具体例としては、トリエタノールアミン等の有機アミン;オクチル酸スズ、オクチル酸亜鉛等のカルボン酸金属塩;ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクトエート等の有機錫化合物;テトラブチルチタネート、テトラプロピルチタネート等のチタン酸エステル;第四級アンモニウムカルボキシレート等の第四級アンモニウム化合物;γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミン系シランカップリング剤が挙げられる。また、有機アルミニウム化合物、又はホウ素ハライドを使用することができる。これらの中でも、有機錫化合物又はホウ素ハライドが好ましい。これらの硬化剤は、2種以上を併用することができる。
【0027】
金属酸化物ガラス膜112,115を形成するために使用する金属アルコキシド組成物は、通常、適当な溶剤に希釈した溶液に調製して使用される。溶液に調製する際に使用する溶媒としては、(a)成分、(b)成分及び(c)成分を溶解、分散するものであれば特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテルアルコールおよびエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル類;n−ヘキサン、ガソリン、ゴム揮発油、ミネラルスピリット、灯油等の脂肪族炭化水素等が挙げられる。
【0028】
金属酸化物ガラス膜112,115を形成するためには、上述した金属アルコキシド組成物の溶液を、刷毛塗り、スプレー塗り、ローラー塗り、スピン塗り等の塗布方法により、第1のガラス基板111及び第2のガラス基板114の薄型化加工が施された粗面に適当な厚さ(通常、10μm以下)に塗布し、塗布後、80℃以下において数分間から数時間加水分解反応させることによって硬化させたゾルゲル層を形成する。このように形成された有機ポリシロキサンを主成分とするゾルゲル層からなる金属酸化物ガラス膜112,115は、例えば、硬度9H程度の硬さを有し、第1のガラス基板111及び第2のガラス基板114を構成する無機ガラス層の粗面に密着して被覆する光透過性の透明コーティング層である。
【0029】
図2は、無機ガラス層の粗面に密着したゾルゲル層を説明するための拡大断面図である。図2において図1と同一の部分には同一の符号を付してある。図2に示されたように、図中下から、機械的研磨加工が施され薄型化加工された第2のガラス基板114と、薄型化加工により適当な表面粗さ(Ra)に粗化された粗面124と、第2のガラス基板114の粗面124を密着して被覆するゾルゲル層からなる金属酸化物ガラス膜115と、金属酸化物ガラス膜115の鏡面126上に設けられた上偏光板119とが積層されている。尚、図示しないが、第1のガラス基板111とその粗面に密着して形成された金属酸化物ガラス膜112の状態も同様な構成を有している。
【0030】
前述したように、第2のガラス基板114の外側面は、機械的研磨加工が施されたことにより表面粗さ(Ra)が0.5μm以下である粗面124が形成され、表面の凸部には細かい亀裂(マイクロクラック125)が存在する。金属酸化物ガラス膜115を形成するために粗面124上に塗布された金属アルコキシド組成物の溶液は、適当な粘度(例えば、9〜12s/IHS)を有し、且つ、80℃以下の比較的低温で加水分解反応が行われ、硬化するまで適当な時間を必要とされる。このため、粗面124に塗布された金属アルコキシド組成物の溶液が、粗面124の凹部に浸潤し硬化するまで十分な時間を確保することが可能となり、その結果、例えば、図2に示されたマイクロクラック125のような細かい亀裂に対する穴埋め効果も得られる。このように、凹凸が形成された粗面124は、ガラス様の擬似膜である金属酸化物ガラス膜115により平坦化され、その結果、第2のガラス基板114と金属酸化物ガラス膜115との界面における光の散乱が消失する。さらに、金属酸化物ガラス膜115の表面を、表面粗さ(Ra)が0.05μm以下の鏡面126に形成することにより、光透過率を略100%程度に回復させることができる。さらに、このようなガラス様の擬似膜は、第2のガラス基板114の物理的強度を補い、高い硬度、靭性及び表面接着性を示し、補強及び光学補償を併せ持つ光透過性の被膜としての性質を有する。
【0031】
金属酸化物ガラス膜112(115)の厚さ(D)は、第1のガラス基板111又は第2のガラス基板114の外側面の表面粗さ(Ra)の大きさに応じて適宜選択され特に限定されないが、通常、10μm以下である。但し、厚さ(D)は、通常、0.1μm以上、好ましくは1μm以上である。尚、金属酸化物ガラス膜112,115の厚さは、それぞれ異なる場合であっても、両者同一であってもよい。
【0032】
また、金属酸化物ガラス膜112,115は、第1のガラス基板111又は第2のガラス基板114と同等な屈折率を有することが必要である。具体的には、第1のガラス基板111又は第2のガラス基板114の屈折率と金属酸化物ガラス膜112,115の屈折率との差が±0.02以内であり、通常、屈折率が、1.48以上1.52以下のものが使用される。金属酸化物ガラス膜112,115と第1のガラス基板111又は第2のガラス基板114とが同等な屈折率を有することにより、第1のガラス基板111及び金属酸化物ガラス膜112(又は、第2のガラス基板114及び金属酸化物ガラス膜115)を透過する光は、同じ屈折率を有する2枚のガラスを重ね合わせた二層構造を透過する場合と同様な挙動を示し、波長380nm乃至780nmの光に対する透過率が95%以上の高い透明性を得ることができる。
【0033】
(第2の実施形態)
本実施の形態が適用される液晶表示装置100の液晶表示セル110において、金属酸化物ガラス膜112及び金属酸化物ガラス膜115に代えて、第1のガラス基板111及び第2のガラス基板114の外側面に、第1のガラス基板111又は第2のガラス基板114の屈折率と同等の屈折率を有する光透過性ポリマーからなるコーティング層を設けることにより、薄型化加工により低下した第1のガラス基板111又は第2のガラス基板114の光透過率を回復することが可能である。ここで、光透過性ポリマーとは、光透過率が、通常、70%以上、好ましくは、90%以上のポリマーを言う。
【0034】
第1のガラス基板111又は第2のガラス基板114の外側面をコーティングする光透過性ポリマーのコーティング層の厚さは、第1のガラス基板111又は第2のガラス基板114の外側面の表面粗さ(Ra)の大きさに応じて適宜選択され特に限定されないが、通常、10μm以下である。但し、厚さは、通常、0.1μm以上、好ましくは1μm以上である。尚、光透過性ポリマーのコーティング層の厚さは、それぞれ異なる場合であっても、両者同一であってもよい。
【0035】
光透過性ポリマーとしては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂等を挙げることができる。具体的には、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの光透過性ポリマーは、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の場合は、適当な溶剤に溶解して塗布液を調製し、これを薄型化加工が施された第1のガラス基板111又は第2のガラス基板114の表面に塗布し、乾燥(加熱)することによって形成することができる。紫外線硬化性樹脂の場合は、そのままもしくは適当な溶剤に溶解して塗布液を調製し、この塗布液を薄型化加工が施された第1のガラス基板111又は第2のガラス基板114の表面に塗布し、紫外光を照射して硬化させることによって形成することができる。これらの材料は単独又は混合して用いても良い。さらに、多層膜にして用いても良い。塗布方法としては、スピンコート法、キャスト法等の塗布法等の方法が用いられる。
【0036】
光透過性ポリマーの中でも、紫外線硬化性樹脂は、光透過率が高い点で好ましい。紫外線硬化性樹脂としては、ラジカル系紫外線硬化性樹脂とカチオン系紫外線硬化性樹脂が挙げられ、いずれも使用することができる。ラジカル系紫外線硬化性樹脂は、紫外線硬化性化合物と光重合開始剤を必須成分として含む組成物が用いられる。紫外線硬化性化合物としては、単官能(メタ)アクリレート及び多官能(メタ)アクリレートを重合性モノマー成分として用いることができる。これらは、各々、単独又は2種類以上併用して用いることができる。ここで、アクリレートとメタアクリレートとを併せて(メタ)アクリレートと称する。
【0037】
単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、置換基としてメチル、エチル、プロピル、ブチル、アミル、2−エチルヘキシル、オクチル、ノニル、ドデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、シクロヘキシル、ベンジル、メトキシエチル、ブトキシエチル、フェノキシエチル、ノニルフェノキシエチル、テトラヒドロフルフリル、グリシジル、2−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシプロピル、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル、ジメチルアミノエチル、ジエチルアミノエチル、ノニルフェノキシエチルテトラヒドロフルフリル、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル、イソボルニル、ジシクロペンタニル、ジシクロペンテニル、ジシクロペンテニロキシエチル等の基を有する(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0038】
多官能(メタ)アクリレートとしては例えば、1、3−ブチレングリコール、1、4−ブタンジオール、1、5−ペンタンジオール、3−メチル−1、5−ペンタンジオール、1、6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1、8−オクタンジオール、1、9−ノナンジオール、トリシクロデカンジメタノール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のジ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0039】
尚、ラジカル系紫外線硬化性樹脂には、通常、光重合開始剤を配合する。光重合開始剤としては、分子開裂型又は水素引き抜き型のものが好ましい。このような光重合開始剤として、分子開裂型としては、例えば、ベンゾインイソブチルエーテル、2、4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、ベンジル、2、4、6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン、ビス(2、6−ジメトキシベンゾイル)−2、4、4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド等が挙げられる。
【0040】
さらに、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オンおよび2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン等を併用しても良い。水素引き抜き型光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、4−フェニルベンゾフェノン、イソフタルフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチル−ジフェニルスルフィド等が挙げられる。
【0041】
また、これらの光重合開始剤とともに、増感剤を併用することができる。増感剤としては、例えば、トリメチルアミン、メチルジメタノールアミン、トリエタノールアミン、p−ジエチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、N、N−ジメチルベンジルアミンおよび4、4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等が挙げられる。
【0042】
カチオン系紫外線硬化性樹脂としては、例えば、カチオン重合型の光開始剤を含むエポキシ樹脂が挙げられる。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA−エピクロールヒドリン型、脂環式エポキシ、長鎖脂肪族型、臭素化エポキシ樹脂、グリシジルエステル型、グリシジルエーテル型、複素環式系等が挙げられる。エポキシ樹脂としては、遊離した塩素および塩素イオン含有率が少ないものを用いるのが好ましい。塩素の量が1重量%以下が好ましく、より好ましくは0.5重量%以下である。
【0043】
カチオン重合型の光開始剤としては、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、ジアゾニウム塩等が挙げられる。ヨードニウム塩としては、例えば、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェード、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート、ジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウムテトラフルオロボレート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が挙げられる。
【0044】
(液晶表示セルの製造方法)
次に、本実施の形態が適用される液晶表示セルの製造方法について説明する。図3は、本実施の形態が適用される液晶表示セルの製造方法を説明するための図である。図3(a)に示すように、まず、複数個分の液晶表示セルを同時に形成するために、大型の2枚のガラス基板(第1のガラス基板311,第2のガラス基板312)に複数の液晶セル領域を形成する。第1のガラス基板311は、個々の液晶表示セル領域にそれぞれ、例えば、複数のマトリクス状に配置された画素電極等を有する表示エリアと、表示エリアの周辺に引き出された配線及び配線パッドを有する周辺パッドエリアとが形成される。表示エリアには、スイッチング素子として機能する薄膜トランジスタ(TFT)が形成され、画素電極、ゲート電極、ソース電極等の表示電極が設けられたドライバー端子(ITO等)が形成される。また、第2のガラス基板312の表示エリアの対向する部分には対向電極が設けられる。
【0045】
(貼着工程)
第1のガラス基板311には、第1のガラス基板311と第2のガラス基板312とを所定の間隙を有するように貼り合せるためのシール剤を塗布する(ST2)。ディスペンサ又は印刷等により、エポキシ樹脂系の接着剤からなるシール剤を用いて、液晶封入領域を形成するための本シール321を塗布し、液晶表示セル領域への異物混入を防止するための補助シール322を塗布し、さらに、複数の液晶表示セル領域全体を囲むように二重シール323を塗布する。
【0046】
続いて、図3(b)に示すように、第1のガラス基板311及び第2のガラス基板312を貼り合せる。この場合、第1のガラス基板311の個々の表示エリアと、第2のガラス基板312の個々の対向電極とが互いに対向するように両基板を対向配置し、全体的に均一に加圧することによって貼り合せられる。そして、加熱及び紫外線照射により本シール321、補助シール322及び二重シール323を硬化させる。
【0047】
(封入工程)
次に、貼り合わされた第1のガラス基板311及び第2のガラス基板312の所定の間隙に液晶組成物を注入し、シール剤が塗布されていない液晶注入孔を紫外線硬化樹脂等により封止することにより、第1のガラス基板311及び第2のガラス基板312間に形成された液晶封入領域に液晶組成物を封入する。
【0048】
(薄型化加工工程)
続いて、図3(c)に示すように、貼り合せた一対の第1のガラス基板311及び第2のガラス基板312の、それぞれ外側面の全体を機械的又は化学的研磨加工により薄型化加工を行い、所定の厚さとなるように研磨される。例えば、第1のガラス基板311又は第2のガラス基板312の厚さが約0.7mmの場合、0.3〜0.4mmの厚さとなるように研磨され、粗面341,342がそれぞれ形成される。
【0049】
(ゾルゲル層形成工程)
次に、図3(d)に示すように、粗面341,342上に、有機ポリシロキサンを主成分とする金属アルコキシド組成物の溶液を、刷毛塗り、スプレー塗り、ローラー塗り、スピン塗り等の塗布方法により適当な厚さ(通常、10μm以下)に塗布し、塗布後、80℃以下において数分間から数時間加水分解反応させることによって硬化させたゾルゲル層351,352を形成する。このように形成された有機ポリシロキンサンを主成分とするゾルゲル層351,352の表面には、表面粗さ(Ra)が0.05μm以下の鏡面361,362が形成される。
【0050】
最後に、有機ポリシロキンサンを主成分とするゾルゲル層351,352が形成された一対の第1のガラス基板311及び第2のガラス基板312を、所定の液晶表示セル領域毎にカッティングし、液晶表示セルを形成する。以上のような製造方法により、ガラス基板の厚さが低減され軽量化された液晶表示セルが製造される。
【0051】
上述した製造方法によれば、従来、液晶表示セルを軽量化するために、ガラス基板表面の荒削り加工後に行われた仕上げ加工が不要となり、さらに、ゾルゲル層を比較的低温の反応により形成することができる。このため、第1のガラス基板と第2のガラス基板とを貼着した後、この2個の基板間に液晶を封入したまま、ガラス基板表面に薄型化加工を行うことができ、製造工程の大幅な簡略化を図ることができる。尚、ガラス基板表面の薄型化加工は、2個の基板間に液晶注入し、液晶表示セル領域毎にカッティングした後、それぞれ基板表面を研磨し、ゾルゲル層をコーティングすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本実施の形態が適用される液晶表示セルを説明するための図である。
【図2】無機ガラス層の粗面に密着したゾルゲル層を説明するための拡大断面図である。
【図3】本実施の形態が適用される液晶表示セルの製造方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0053】
100…液晶表示装置、110…液晶表示セル、111,311…第1のガラス基板、112,115…金属酸化物ガラス膜、113,116…透明電極、114,312…第2のガラス基板、117…液晶層、118…下偏光板、119…上偏光板、120…バックライトユニット、121…導光板、122…拡散板、123…光源、124…粗面、125…マイクロクラック、126…鏡面、321…本シール、322…補助シール、323…二重シール、330…ドラーバー端子、341,342…粗面、351,352…ゾルゲル層、361,362…鏡面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対向する一対のガラス基板と、前記一対のガラス基板間に封入された液晶とを有する液晶表示セルにおいて、
前記ガラス基板は、表面粗さが0.5μm以下の粗面を有する第1層と、
前記第1層上に密着して設けられ、表面粗さが0.05μm以下の鏡面を有する第2層と、から構成されることを特徴とする液晶表示セル。
【請求項2】
前記第2層は、前記第1層上に塗布された金属アルコキシド組成物の加水分解反応により形成され、前記第1層の屈折率と同等の屈折率を有する金属酸化物ガラス膜であることを特徴とする請求項1記載の液晶表示セル。
【請求項3】
前記第2層は、前記第1層の屈折率と同等の屈折率を有する光透過性ポリマーにより形成されたものであることを特徴とする請求項1記載の液晶表示セル。
【請求項4】
前記第2層の厚さが10μm以下であることを特徴とする請求項1記載の液晶表示セル。
【請求項5】
前記第1層の前記粗面は、前記ガラス基板の表面を物理的又は化学的手法により粗化されたものであることを特徴とする請求項1記載の液晶表示セル。
【請求項6】
薄型化加工により厚さが低減されたガラス基板と、
前記ガラス基板の薄型化加工面に形成された有機ポリシロキサンを主成分とするゾルゲル層と、を有することを特徴とする表示セル。
【請求項7】
前記ゾルゲル層は、メチル基又はフェニル基を有する有機ポリシロキサンとヒドロキシル基又は加水分解性官能基を有する有機ポリシロキサン及び硬化剤を含有する溶液を前記ガラス基板の前記薄型化加工面に塗布し、前記有機ポリシロキサンの加水分解反応を行うことにより形成されたものであることを特徴とする請求項6記載の表示セル。
【請求項8】
前記加水分解反応は、80℃以下において行うことを特徴とする請求項6記載の表示セル。
【請求項9】
前記硬化剤は、有機錫化合物又はホウ素ハライドから選ばれるものであることを特徴とする請求項7記載の表示セル。
【請求項10】
前記ガラス基板の屈折率が1.48以上1.52以下であることを特徴とする請求項6記載の表示セル。
【請求項11】
前記薄型化加工が機械的研磨加工又は化学的研磨加工であることを特徴とする請求項6記載の表示セル。
【請求項12】
前記ガラス基板が、前記薄型化加工により当該ガラス基板の厚さが少なくとも20%低減されたものであることを特徴とする請求項6記載の表示セル。
【請求項13】
前記ゾルゲル層の屈折率が1.46以上1.54以下であることを特徴とする請求項6記載の表示セル。
【請求項14】
薄型化加工により形成された粗面を有する無機ガラス層と、
前記無機ガラス層の前記粗面に密着して被覆する金属アルコキシドの加水分解反応により得られるコーティング層と、
を有する表示装置用ガラス基板。
【請求項15】
前記無機ガラス層の前記粗面の表面粗さが0.5μm以下であることを特徴とする請求項14記載の表示装置用ガラス基板。
【請求項16】
前記コーティング層の厚さが10μm以下であることを特徴とする請求項14記載の表示装置用ガラス基板。
【請求項17】
前記コーティング層を有する前記無機ガラス層の、波長380nm乃至780nmの光に対する透過率が95%以上であることを特徴とする請求項14記載の表示装置用ガラス基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−176348(P2008−176348A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−104757(P2008−104757)
【出願日】平成20年4月14日(2008.4.14)
【分割の表示】特願2003−166007(P2003−166007)の分割
【原出願日】平成15年6月11日(2003.6.11)
【出願人】(592073101)日本アイ・ビー・エム株式会社 (42)
【出願人】(301075190)日本CMO株式会社 (12)
【Fターム(参考)】