液晶表示素子及びその駆動方法
【課題】動画像・静止画像を現状のLCD等のディスプレイと同等の画質で表示することができ、且つ現状の電子ペーパーよりも低電圧でメモリー画像を表示することができる液晶表示素子を提供すること。
【解決手段】高分子物質を配向膜として形成した一対の電極付基板間に液晶材料が封入された構造を有し、温度及び電圧によって配向膜の表層部と液晶材料との配向を変化させて画像の表示を行うことを特徴とする液晶表示素子である。配向膜は、ポリマーブラシであるか、塗布膜であるか、または液晶材料中に一旦溶解もしくは分散させた高分子物質を基板表面に吸着させた膜であることが好ましい。
【解決手段】高分子物質を配向膜として形成した一対の電極付基板間に液晶材料が封入された構造を有し、温度及び電圧によって配向膜の表層部と液晶材料との配向を変化させて画像の表示を行うことを特徴とする液晶表示素子である。配向膜は、ポリマーブラシであるか、塗布膜であるか、または液晶材料中に一旦溶解もしくは分散させた高分子物質を基板表面に吸着させた膜であることが好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示素子及びその駆動方法に関し、特に、動画像・静止画像・メモリー画像を表示できる液晶表示素子及びその駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LCD、PDP、CRTなどのディスプレイは、動画像及び静止画像の両方を表示することができるが、原理的な要請として、動画像だけでなく、静止画像を表示する時にも、電圧を印加し続けねばならない。そのため、これらのディスプレイでは、静止画像表示時も駆動するための電力を消費するという問題があった。一方、現在、実用化されている電子ペーパー(電気泳動方式、コレステリック液晶方式、電気粉流体方式など)は、メモリー性を有するため、メモリー画表示時の消費電力はほぼ0である(例えば、特許文献1を参照)。しかし、電子ペーパーの代表的な方式である電気泳動方式は、粒子の移動時間が長く、また、コレステリック液晶方式及び電子粉流体方式は、駆動電圧が高いため、パッシブ駆動せざるを得ず、いずれも動画表示が難しいという問題がある。更に、いずれの方式の電子ペーパーも、コントラストが低い、連続階調が難しい、応答時間(画面書換時間)が長いなどの理由により、静止画質及び動画質が共にLCD、PDP、CRTに比べてかなり劣るという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-83912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、現状のLCDと同等画質の動画像・静止画像を表示することができ、且つ現状の電子ペーパーよりも低電圧でメモリー画像を表示することができる液晶表示素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するための第一の発明は、高分子物質を配向膜として形成した一対の電極付基板間に液晶材料が封入された構造を有し、温度及び電圧によって配向膜の表層部と液晶材料の配向を変化させて画像の表示を行うことを特徴とする液晶表示素子である。
配向膜は、ポリマーブラシであるか、塗布膜であるか、または液晶材料中に一旦溶解もしくは分散させた高分子物質を基板表面に吸着させた膜であることが好ましい。
配向膜の表層部は、液晶材料によって膨潤されており、その配向膜の液晶材料によって膨潤された部分のガラス転移温度(Tg)は、液晶材料のN相からI相へ相転移する温度(TNI)よりも低いことが好ましい。
配向膜の液晶材料によって膨潤された部分の初期配向は、一軸配向であってもよいし、またはランダム配向であってもよい。
電極付基板に配設された電極は、櫛歯電極であることが好ましい。櫛歯電極は、2組あって、液晶材料の初期配向方向に対し略対称となるように配設されていることが好ましい。その2組の櫛歯電極は、一対の電極付基板それぞれに分けて配設されていることが好ましい。また、その2組の櫛歯電極は、一方の電極付基板のみに絶縁膜を介して配設されていることが好ましい。
また、液晶表示素子は、加熱または冷却するための温度制御ユニットを備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、動画像・静止画像を現状のLCD等のディスプレイと同等の画質で表示することができ、且つ現状の電子ペーパーよりも低電圧でメモリー画像を表示することができる液晶表示素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施の形態1の液晶表示素子の模式断面図である。
【図2】実施の形態1の液晶表示素子における液晶材料の初期配向方向と基板上に配設された2組の櫛歯電極との関係を説明するための図である。
【図3】実施の形態1の液晶表示素子における液晶材料の初期配向方向と基板上に配設された2組の櫛歯電極との関係を説明するための図である。
【図4】実施の形態2の液晶表示素子の模式断面図である。
【図5】実施例1の液晶表示素子の回転角度と相対輝度との関係を示すグラフである。
【図6】実施例1の液晶表示素子の回転角度と相対輝度との関係を示すグラフである。
【図7】実施例2の液晶表示素子の回転角度と相対輝度との関係を示すグラフである。
【図8】実施例2の液晶表示素子の回転角度と相対輝度との関係を示すグラフである。
【図9】実施例1、実施例2及び比較例1の液晶表示素子のV−T曲線を示すグラフである。
【図10】実施例1、実施例2及び比較例1の液晶表示素子の応答速度測定結果を示すグラフである。
【図11】実施例1及び比較例1の液晶表示素子の電圧印加時間と透過率との関係(25℃、45℃、65℃及び85℃における)を示すグラフである。
【図12】実施例2の液晶表示素子の電圧印加時間と透過率との関係(25℃、45℃、65℃及び85℃における)を示すグラフである。
【図13】実施例1及び2の液晶表示素子に85℃でV15(最大透過率の15%が得られる電圧)印加した時の透過率の変化を示すグラフである。
【図14】実施例1及び2の液晶表示素子に85℃でV15(最大透過率の15%が得られる電圧)印加した後、25℃まで冷却した時の透過率の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の液晶表示素子及びその駆動方法の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。なお、以下では、横電界(IPS)方式の液晶表示素子を例に本発明を説明するが、本発明はこれに限定されず、縦電界方式の液晶表示素子にも用いることも可能である。
【0009】
<実施の形態1>
実施の形態1では、配向膜を形成する高分子物質としてポリマーブラシを用いた場合について説明する。図1は、本実施の形態の液晶表示素子の模式断面図である。図1において、液晶表示素子は、アレイ基板1と、アレイ基板1に対向して配置された対向基板2と、アレイ基板1と対向基板2との間に封入された液晶材料3とを有している。そして、アレイ基板1には、電極4、固定化膜5及びポリマーブラシ6が順次形成されている。また、対向基板2には、固定化膜5及びポリマーブラシ6が順次形成されている。
このような構成を有する本実施の形態の液晶表示素子は、ポリマーブラシ6を配向膜として形成したこと以外は、原則として公知の液晶表示素子と同じ構成であり、例えば、電極4が配置されたアレイ基板1に対向させて対向基板2を配置し、アレイ基板1と対向基板2との間に液晶材料3を注入するという公知の製造方法に準じて製造することが可能である。
【0010】
本実施の形態において「ポリマーブラシ6」とは、一端が基板表面に共有結合したグラフトポリマー鎖を意味する。グラフトポリマー鎖は、グラフト密度が低いと、糸まり状の縮んだ構造をとるが、グラフト密度が高くなると、隣接したグラフトポリマー鎖の相互作用(立体反発)により、基板表面に対して垂直方向に伸張した構造をとる。特に、後者の構造、すなわち、多数のグラフトポリマー鎖が高密度でアレイ基板1あるいは対向基板2の表面に対して垂直方向に伸張した構造を有するものが好ましい。本実施の形態において「高密度」とは、隣接するグラフトポリマー鎖間で立体反発が生じる程度に密集したグラフトポリマー鎖の密度を意味し、アレイ基板1あるいは対向基板2の表面1nm2当たり、通常、0.1本鎖以上であり、好ましくは0.1〜1.2本鎖の密度である。
【0011】
アレイ基板1あるいは対向基板2の表面上に高密度で形成されたポリマーブラシ6は、アレイ基板1あるいは対向基板2の表面上でポリマーブラシの層(以下、「ポリマーブラシ層」という)を構成する。このポリマーブラシ層と液晶材料3とが接する界面近傍では、ポリマーブラシ6の表層部が液晶材料3により膨潤されてポリマーブラシ6が本来有するガラス転移温度(Tg)よりも低下する。結果として、この膨潤された部分のガラス転移温度(Tg)は、液晶材料3のN相からI相へ相転移する温度(TNI)よりも低い状態になっている。このような状態は、ポリマーブラシ6に用いる材料の種類、グラフトポリマー鎖の密度、液晶材料3に用いる液晶の種類などを適宜変更することにより達成できる。既存のLCDでは、配向膜によって液晶材料が固定(アンカリング)されているため、電極に電圧を印加すると、配向膜と液晶材料との界面近傍の液晶は固定されたまま、バルクの液晶は電界方向(Δnが負の場合は電界の垂直方向)に向き、電界がoffされると、弾性によって、初期の配向状態に戻る。ところが、本実施の形態の液晶表示素子では、配向膜としてのポリマーブラシ6の膨潤された部分が、液晶材料3のN相からI相へ相転移する温度(TNI)よりも低いガラス転移温度(Tg)を有するため、Tg以上の温度に加熱したまま電極に電圧を印加すると、バルクの液晶だけでなく、界面近傍の液晶がポリマーブラシの表層部と一緒に電界方向に向くこととなる。
【0012】
ポリマーブラシ層の厚さは、通常、数十nm程度であり、具体的には10nm以上100nm未満であり、好ましくは10nm〜80nmである。かかる厚さであれば、従来のポリイミド配向膜の厚さ(一般的に100nm)よりも薄くなり、液晶表示素子の低電圧駆動が可能になる。また、このポリマーブラシ層にはサイズ排除効果があり、一定の大きさの物質はポリマーブラシ層を通過することはできないため、ポリマーブラシ層の厚さを薄くしたとしても、下地から液晶材料3への不純物の侵入を防止することができる。加えて、このポリマーブラシ層は、厚さが比較的薄くても、液晶分子の配向制御能力が良好である。
【0013】
ポリマーブラシ6は、ラジカル重合性モノマーをリビングラジカル重合させることにより形成することができる。ここで、「リビングラジカル重合」とは、ラジカル重合反応において、連鎖移動反応及び停止反応が実質的に起こらず、ラジカル重合性モノマーが反応し尽くした後も連鎖成長末端が活性を保持する重合反応をいう。この重合反応では、重合反応終了後でも生成重合体の末端に重合活性を保持しており、ラジカル重合性モノマーを加えると再び重合反応を開始させることができる。また、リビングラジカル重合は、ラジカル重合性モノマーと重合開始剤との濃度比を調節することにより任意の平均分子量をもつ重合体の合成ができ、そして、生成する重合体の分子量分布が極めて狭いなどの特徴がある。
【0014】
本実施の形態に用いられるリビングラジカル重合の代表例は、原子移動ラジカル重合(ATRP)である。例えば、重合開始剤の存在下で、ハロゲン化銅/リガンド錯体を用いてラジカル重合性モノマーの原子移動リビングラジカル重合を行う。高分子末端ハロゲンをハロゲン化銅/リガンド錯体が引き抜くことにより可逆的に成長する成長ラジカルにラジカル重合性モノマーが付加して進行し、十分な頻度での可逆的活性化・不活性化により分子量分布が規制される。
【0015】
リビングラジカル重合に用いられるラジカル重合性モノマーは、有機ラジカルの存在下でラジカル重合を行い得る不飽和結合を有するものであり、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、2−メトキシエチルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレート、メトキシテトラエチレングリコールメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレートなどのメタクリレート系モノマー;メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−オクチルアクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、メトキシテトラエチレングリコールアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、ジエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、2−(ジメチルアミノ)エチルアクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミドなどのアクリレート系モノマー;スチレン、スチレン誘導体(o−、m−、p−メトキシスチレン、o−、m−、p−t−ブトキシスチレン、o−、m−、p−クロロメチルスチレンなど)、ビニルエステル類(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル、酢酸ビニルなど)、ビニルケトン類(ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、メチルイソプロペニルケトンなど)、N−ビニル化合物(N−ビニルピロリドン、N−ビニルピロール、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドールなど)、(メタ)アクリル酸誘導体(アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、アクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、メタクリルアミドなど)、ハロゲン化ビニル類(塩化ビニル、塩化ビニリデン、テトラクロロエチレン、ヘキサクロロプレン、フッ化ビニルなど)などのビニルモノマーが挙げられる。ラジカル重合性モノマーは、単独で使用しても、2種以上併用してもよい。
【0016】
重合開始剤としては、特に限定されることはなく、リビングラジカル重合で一般的に公知のものを使用することができる。重合開始剤の例としては、p−クロロメチルスチレン、α−ジクロロキシレン、α,α−ジクロロキシレン、α,α−ジブロモキシレン、ヘキサキス(α−ブロモメチル)ベンゼン、塩化ベンジル、臭化ベンジル、1−ブロモ−1−フェニルエタン、1−クロロ−1−フェニルエタンなどのベンジルハロゲン化物;プロピル−2−ブロモプロピオネート、メチル−2−クロロプロピオネート、エチル−2−クロロプロピオネート、メチル−2−ブロモプロピオネート、エチル−2−ブロモイソブチレート(EBIB)などのα位がハロゲン化されたカルボン酸;p−トルエンスルホニルクロリド(TsCl)などのトシルハロゲン化物;テトラクロロメタン、トリブロモメタン、1−ビニルエチルクロリド、1−ビニルエチルブロミドなどのアルキルハロゲン化物;ジメチルリン酸クロリドなどのリン酸エステルのハロゲン誘導体が挙げられる。
【0017】
ハロゲン化銅/リガンド錯体を与えるハロゲン化銅としては、特に限定されることはなく、リビングラジカル重合で一般的に公知のものを使用することができる。ハロゲン化銅の例としては、CuBr、CuCl、CuIなどが挙げられる。
ハロゲン化銅/リガンド錯体を与えるリガンド化合物としては、特に限定されることはなく、リビングラジカル重合で一般的に公知のものを使用することができる。リガンド化合物の例としては、トリフェニルホスファン、4,4’−ジノニル−2,2’−ジピリジン(dNbipy)、N,N,N’,N’N”−ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラアミンなどが挙げられる。
【0018】
ラジカル重合性モノマー、重合開始剤、ハロゲン化銅、リガンド化合物の量は、使用する原料の種類に応じて適宜調節すればよいが、一般的に、重合開始剤1molに対して、ラジカル重合性モノマーが5〜10,000mol、好ましくは50〜5,000mol、ハロゲン化銅が0.1〜100mol、好ましくは0.5〜100mol、リガンド化合物が0.2〜200mol、好ましくは1.0〜200molである。
【0019】
なお、リビングラジカル重合は、通常、無溶媒で行うが、リビングラジカル重合で一般的に使用される溶媒を使用してもよい。使用可能な溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、クロロホルム、四塩化炭素、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、トリフルオロメチルベンゼンなどの有機溶媒;水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、1−メトキシ−2−プロパノールなどの水性溶媒が挙げられる。溶媒の量は、使用する原料の種類に応じて適宜調節すればよいが、一般的にラジカル重合性モノマー1gに対して、溶媒が0.01〜100mL、好ましくは0.05〜10mLである。
【0020】
リビングラジカル重合により形成されるポリマーブラシ6の分子量は、反応温度、反応時間や使用する原料の種類や量によって調整可能であるが、一般的に数平均分子量が500〜1,000,000、好ましくは1,000〜500,000のポリマーブラシ6を得ることができる。また、ポリマーブラシ6の分子量分布(Mw/Mn)は、1.05〜1.60の間に制御することができる。
このような特徴を有するポリマーブラシ6は、液晶材料3中の液晶分子7をアレイ基板1及び対向基板2に対して平行に配向させることができる。
【0021】
ポリマーブラシ6は、必要に応じて、電極4が配設されたアレイ基板1や対向基板2上に固定化膜5を介して形成される。
固定化膜5としては、アレイ基板1、対向基板2、電極4及びポリマーブラシ6との接着性に優れたものであれば特に限定されることはなく、リビングラジカル重合で一般的に公知のものを使用することができる。固定化膜5の例としては、下記の一般式(1)で表されるアルコキシシラン化合物から形成される膜が挙げられる。
【0022】
【化1】
【0023】
一般式(1)中、R1はそれぞれ独立してC1〜C3のアルキル基、好ましくはメチル基またはエチル基であり;R2はそれぞれ独立してメチル基またはエチル基であり;Xはハロゲン原子、好ましくはBrであり;nは3〜10の整数、より好ましくは4〜8の整数である。
【0024】
固定化膜5には、ポリマーブラシ6が共有結合しているため、ポリマーブラシ6の液晶材料3中への溶け出しを防止することができ、液晶表示素子の耐久性及び信頼性が向上する。
【0025】
固定化膜5が形成されるアレイ基板1としては、特に限定されることはなく、液晶表示素子で一般的に公知のものを使用することができる。アレイ基板1の例としては、アクティブマトリックスアレイ基板が挙げられる。このアクティブマトリックスアレイ基板は、一般的に、ガラス基板上にゲート配線及びソース配線がマトリックス状に配置されており、その交点部分に、薄層トランジスタ(TFT)などのアクティブ素子が形成され、このアクティブ素子に画素電極が接続されたものである。
【0026】
固定化膜5が形成される対向基板2も、特に限定されることはなく、液晶表示素子で一般的に公知のものを使用することができる。対向基板2の例としては、カラーフィルタ基板が挙げられる。このカラーフィルタ基板は、一般的に、ガラス基板上に、不要な光の漏れを防止するためにブラックマトリックスを形成した後、R(赤)、G(緑)、B(青)の着色層をパターン形成し、必要に応じて保護膜を形成し、そして画素電極に対向する対向電極を形成したものである。
【0027】
固定化膜5が形成される電極4としては、特に限定されることはなく、液晶表示素子に一般的に公知のものを使用することができる。電極4の例としては、酸化インジウムスズ(ITO)からなる櫛歯電極が挙げられる。電極4としてアレイ基板1に櫛歯電極を配設する場合、図2に示すように、液晶材料3の初期配向方向に対し略対称となるように2組の櫛歯電極4a,4bを配設することで、Tg以上の温度で櫛歯電極4aを使って電極に電圧を印加し、界面近傍の液晶とポリマーブラシ表層部を電界方向に回転させ、Tg未満に冷却し、メモリーさせた後、再度、Tg以上に加熱し、櫛歯電極4bに電圧を印加することで界面近傍の液晶とポリマーブラシ表層部を初期配向方向に戻すことができる。即ち、初期配向方向に対し略対称となるように2組の櫛歯電極4a,4bを配設することで、書き込み・消去が可能となる。図2には示してないが、このように一方の基板に2組の櫛歯電極4a,4bを配設する場合、2組の櫛歯電極4a,4bは絶縁膜を介して配設される。また、図3の(A)及び(B)に示すように、2組の櫛歯電極4a,4bをアレイ基板1及び対向基板2それぞれに分けて配設することもできる。この場合も2組の櫛歯電極4a,4bは液晶材料3の初期配向方向に対し略対称となるように配設される。
液晶材料3に用いられる液晶としては、特に限定されることはなく、液晶表示素子で一般的に公知のものを使用することができる。
【0028】
次に、本実施の形態の液晶表示素子の駆動方法について説明する。
上記のように構成された本実施の形態の液晶表示素子は、高分子物質であるポリマーブラシ6の液晶材料によって膨潤された部分のガラス転移温度(Tg)未満の温度では、公知の横電界(IPS)方式の液晶表示素子と同様の方法で駆動させ、動画像・静止画像を現状のLCD等のディスプレイと同等の画質で表示することができる。本実施の形態の液晶表示素子においてメモリー画像を表示する場合、Tg以上の温度で電極4に電圧を印加することによってポリマーブラシの表層部と液晶材料との配向を変化させ、その後、Tg未満の温度に冷却すると、ポリマーブラシの表層部の配向が固定化される(画像がメモリーされる)ので、低電圧で高輝度、高CR、連続階調のメモリー画像を表示できる。本実施の形態の液晶表示素子は、メモリー画像を表示する際に温度を制御する(加熱または冷却する)必要があるので、温度制御ユニットを備えていることが好ましい。温度制御ユニットとしては、特に限定されることはなく、レーザー、加熱電極、蓄熱層、シート状ヒーター、サーマルヘッド、オーブンなどが挙げられる。また、液晶表示素子と温度制御ユニットとを一体化せず、液晶表示素子をリライタブルペーパーとして活用することも可能である。
【0029】
ポリマーブラシ6の液晶材料3によって膨潤された部分の初期配向が、一軸配向であるか、またはランダム配向であるかに関わらず、画像をメモリーする場合や書き換える場合、パネル全面を一括してTg以上の温度に加熱し、対応する部分の画素のみに電圧を印加する方法を採ってもよいし、レーザーや画素サイズのサーマルヘッドで対応する部分の画素のみをTg以上の温度に加熱し、電圧は全画素に一斉に印加する方法を採ってもよい。
ポリマーブラシ6の液晶材料3によって膨潤された部分の初期配向が、一軸配向である本実施の形態の液晶表示素子において、メモリーした画像を元の配向状態に戻す場合、Tg以上の温度で、画像をメモリーする際に電圧を印加した櫛歯電極とは異なる櫛歯電極に電圧を印加すればよい(例えば、櫛歯電極4aに電圧を印加して画像をメモリーしたのであれば、櫛歯電極4bに電圧を印加して元の配向状態に戻す)。
ポリマーブラシ6の液晶材料3によって膨潤された部分の初期配向が、ランダム配向である本実施の形態の液晶表示素子において、メモリーした画像を元の配向状態に戻す場合、パネル全面もしくは対応する部分の画素のみをTg以上の温度に加熱すればよい。
【0030】
次に、本実施の形態の液晶表示素子の製造方法について説明する。なお、以下では、毛細管現象を利用した液晶注入を行う方法を例に本実施の形態を説明するが、本実施の形態はこれに限定されず、液晶滴下注入(ODF)による方法を用いることも可能である。
まず、アレイ基板1上に電極4を形成する。電極4の形成方法としては、特に限定されることはなく、公知の方法に準じて形成することができる。なお、アレイ基板1は、必要に応じて、電極4の形成前に洗浄を行ってもよい。
次に、電極4を形成したアレイ基板1、及び対向基板2上に固定化膜5を形成する。ただし、電極4を形成したアレイ基板1、及び対向基板2とポリマーブラシ6との接着性が良好であれば、固定化膜5を形成する必要はない。固定化膜5の形成方法は、特に限定されることはなく、使用する材料にあわせて適宜設定すればよい。例えば、固定化膜形成用溶液に、電極4が設けられたアレイ基板1及び対向基板2を浸漬させた後、乾燥させることによって固定化膜5を形成することができる。ここで、所定の部分に固定化膜5を形成させるために、固定化膜5を形成させない部分にマスキングを施してもよい。また、対向基板2は、必要に応じて、固定化膜5の形成前に洗浄を行ってもよい。
【0031】
次に、固定化膜5が形成されたアレイ基板1及び対向基板2上にポリマーブラシ6を形成する。ポリマーブラシ6の形成は、リビングラジカル重合(例えば、ATRP)により行われる。例えば、固定化膜5が形成されたアレイ基板1及び対向基板2を、ラジカル重合性モノマー、重合開始剤、及びハロゲン化銅/リガンド錯体を含むポリマーブラシ形成用溶液中に浸漬させ、加熱することによってポリマーブラシ6を形成することができる。加熱条件は、特に限定されることはなく、使用する原料などに応じて適宜調節すればよいが、一般的に、加熱温度は60〜150℃、加熱時間は0.5〜10時間である。この時、圧力は、一般的に常圧で行われるが、加圧または減圧しても構わない。なお、固定化膜5が形成されたアレイ基板1及び対向基板2は、必要に応じて、ポリマーブラシ6の形成前に洗浄を行ってもよい。
【0032】
次に、ポリマーブラシ6が形成されたアレイ基板1及び対向基板2を貼り合わせる。例えば、シール剤を塗布し、スペーサーを散布した後、アレイ基板1と対向基板2とを重ねあわせ、シール剤を硬化させることによってアレイ基板1と対向基板2とを貼り合わせることができる。
次に、毛細管現象を利用して液晶をアレイ基板1と対向基板2との間に注入し、注入が終了したら、注入口を閉じて封止する。
【0033】
次に、磁場配向法などの非接触配向法によって液晶分子を一軸配向させる。磁場配向法を用いる場合、例えば、ポリマーブラシ6のガラス転移温度Tg以上の温度で加熱しつつ、液晶分子7を配向させたい方向に、永久磁石や超伝導磁石を用いて磁場を印加しながら常温まで除冷する。このような加熱・磁場配向処理を行うことで、非接触の一軸配向が可能となる。また、ポリマーブラシ6のガラス転移温度Tg以上の温度で加熱のみ行い、液晶分子を非常に細かなランダム配向としてもよい。加熱条件は、形成したポリマーブラシ6のガラス転移温度に応じて適宜調節すればよく、特に限定されないが、一般的に加熱温度は60〜150℃、加熱時間は10分〜1時間である。同様に、磁場の印加条件も、使用した液晶の種類に応じて適宜調節すればよく、特に限定されないが、一般的に磁束密度が0.5T〜5Tである。また、常温までの降温速度は1℃/分〜20℃/分であることが好ましい。降温速度が1℃/分未満であると、工程時間が長くなり、実用的でない場合がある。一方、降温速度が20℃/分を超えると、液晶分子7の配向制御が十分でない場合がある。
【0034】
なお、上記では磁場による一軸配向処理を説明したが、ポリマーブラシ6を配向膜として用いた場合には、ラビング処理による配向処理を行うことも可能である。
【0035】
<実施の形態2>
実施の形態2では、配向膜を形成する高分子物質として塗布膜を用いた場合について説明する。図4は、本実施の形態の液晶表示素子の模式断面図である。図4において、液晶表示素子は、アレイ基板1と、アレイ基板1に対向して配置された対向基板2と、アレイ基板1と対向基板2との間に封入された液晶材料3とを有している。そして、アレイ基板1には、電極4及び塗布膜8が順次形成されている。また、対向基板2には、塗布膜8が形成されている。
このような構成を有する本実施の形態の液晶表示素子は、塗布膜8を配向膜として形成したこと以外は、原則として公知の液晶表示素子と同じ構成であり、例えば、電極4が配置されたアレイ基板1に対向させて対向基板2を配置し、アレイ基板1と対向基板2との間に液晶材料3を注入するという公知の製造方法に準じて製造することが可能である。
【0036】
塗布膜8と液晶材料3とが接する界面近傍では、塗布膜8の表層部が液晶材料3により膨潤されて塗布膜8が本来有するガラス転移温度(Tg)よりも低下する。結果として、この膨潤された部分のガラス転移温度(Tg)は、液晶材料3のN相からI相へ相転移する温度(TNI)よりも低い状態になっている。このような状態は、塗布膜8に用いる材料の種類、液晶材料3に用いる液晶の種類などを適宜変更することにより達成できる。既存のLCDでは、配向膜によって液晶材料が固定(アンカリング)されているため、電極に電圧を印加すると、配向膜と液晶材料との界面近傍の液晶は固定されたまま、バルクの液晶は電界方向(Δnが負の場合は電界の垂直方向)に向き、電界がoffされると、弾性によって、初期の配向状態に戻る。ところが、本実施の形態の液晶表示素子では、配向膜としての塗布膜8の膨潤された部分が、液晶材料3のN相からI相へ相転移する温度(TNI)よりも低いガラス転移温度(Tg)を有するため、Tg以上の温度に加熱したまま電極に電圧を印加すると、バルクの液晶だけでなく、界面近傍の液晶が塗布膜8の表層部と一緒に電界方向に向くこととなる。
【0037】
塗布膜8の厚さは、通常、数十nm程度であり、具体的には10nm以上100nm未満であり、好ましくは10nm〜80nmである。かかる厚さであれば、従来のポリイミド配向膜の厚さ(一般的に100nm)よりも薄くなり、液晶表示素子の低電圧駆動が可能になる。
【0038】
塗布膜8は、電極4を形成したアレイ基板1及び対向基板2上に、高分子物質をトルエン等の溶媒に溶解させた高分子物質溶液を塗布することにより形成することができる。塗布膜8の形成に用いられる高分子物質は、液晶材料3を取り込んで膨潤することができ且つ液晶材料3に溶解しないものであればよく、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)が挙げられる。これらの高分子物質は、単独で使用しても、2種以上併用してもよい。塗布膜の形成に用いる高分子物質の分子量は、特に限定されることはないが、基板との密着性が良好で、かつ、液晶に溶解しない程度の分子量であることが好ましい。
【0039】
本実施の形態で使用することのできるアレイ基板1、対向基板2、液晶材料3及び電極4は、実施の形態1と同じであるのでその説明は省略する。また、電極4は、実施の形態1と同様に配設することができるのでその説明は省略する。
【0040】
また、本実施の形態の液晶表示素子は、実施の形態1に示した方法と同様にして駆動させることができるのでその説明は省略する。
【0041】
次に、本実施の形態の液晶表示素子の製造方法について説明する。なお、以下では、毛細管現象を利用した液晶注入を行う方法を例に本実施の形態を説明するが、本実施の形態はこれに限定されず、液晶滴下注入(ODF)による方法を用いることも可能である。
まず、アレイ基板1上に電極4を形成する。電極4の形成方法としては、特に限定されることはなく、公知の方法に準じて形成することができる。なお、アレイ基板1は、必要に応じて、電極4の形成前に洗浄を行ってもよい。
次に、電極4を形成したアレイ基板1及び対向基板2上に配向膜として高分子物質溶液を塗布する。塗布法は特に限定されることはなく、フレキソ印刷法、インクジェット法など、用途にあわせて適宜設定すればよい。
【0042】
次に、塗布膜8が形成されたアレイ基板1及び対向基板2を貼り合わせる。例えば、シール剤を塗布し、スペーサーを散布した後、アレイ基板1と対向基板2とを重ねあわせ、シール剤を硬化させることによってアレイ基板1と対向基板2とを貼り合わせることができる。
次に、毛細管現象を利用して液晶をアレイ基板1と対向基板2との間に注入し、注入が終了したら、注入口を閉じて封止する。
【0043】
次に、磁場配向法などの非接触配向法によって液晶分子を一軸配向させる。磁場配向法を用いる場合、例えば、塗布膜8のガラス転移温度Tg以上の温度で加熱しつつ、液晶分子7を配向させたい方向に、永久磁石や超伝導磁石を用いて磁場を印加しながら常温まで除冷する。このような加熱・磁場配向処理を行うことで、非接触の一軸配向が可能となる。また、塗布膜8のガラス転移温度Tg以上の温度で加熱のみ行い、液晶分子を非常に細かなランダム配向としてもよい。加熱条件は、形成した塗布膜8のガラス転移温度に応じて適宜調節すればよく、特に限定されないが、一般的に加熱温度は60〜150℃、加熱時間は10分〜1時間である。同様に、磁場の印加条件も、使用した液晶の種類に応じて適宜調節すればよく、特に限定されないが、一般的に磁束密度が0.5T〜5Tである。また、常温までの降温速度は1℃/分〜20℃/分であることが好ましい。降温速度が1℃/分未満であると、工程時間が長くなり、実用的でない場合がある。一方、降温速度が20℃/分を超えると、液晶分子7の配向制御が十分でない場合がある。
【0044】
なお、上記では磁場による一軸配向処理を説明したが、塗布膜8を配向膜として用いた場合には、ラビング処理による配向処理を行うことも可能である。
【0045】
上記実施の形態1及び2で説明したポリマーブラシ6及び塗布膜8の他に、液晶材料3中に一旦溶解もしくは分散させた高分子物質を基板表面に吸着させた膜を配向膜として用いることもできる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
ITOからなる櫛歯電極を形成したガラス基板及び約3μmの高さのフォトスペーサーを形成した対向基板を用意し、ポリマーブラシを形成させる必要がない部分をマスキングした。次に、エタノール38g、アンモニア水(28%)2g、2−ブロモ−2−メチルプロピオニロキシヘキシルトリエトキシシラン(BHE)0.4gを含む固定化膜形成用溶液に、マスキングを施した2つのガラス基板を常温(25℃)で一晩浸漬させた後、乾燥させることによって固定化膜を形成した。次に、固定化膜を形成した2つのガラス基板を洗浄し、乾燥させた後、メチルメタクリレート(ラジカル重合性モノマー)、エチル−2−ブロモイソブチレート(重合開始剤)、CuBr(ハロゲン化銅)及び4,4’−ジオニル−2,2’−ビピリジン(リガンド化合物)を1000:1:12:24のモル比で含むポリマーブラシ形成用溶液に浸漬させ、90℃で3時間加熱してリビングラジカル重合させることにより、ポリマーブラシ(以下、PMMAブラシという)を形成した。次に、PMMAブラシを形成した2つのガラス基板を洗浄し、乾燥させた後、ガラス基板からマスクを除去した。
【0047】
形成されたPMMAブラシの分子量を、GPC測定装置(日本分光株式会社製)を用いて測定した。標準試料にはポリメチルメタクリレートを用い、検出器にはRI(屈折率)検出器を用いた。その結果、PMMAブラシの数平均分子量(Mn)は1.12×105であり、分子量分布(Mw/Mn)は1.17であった。
また、PMMAブラシの層(PMMAブラシ層)の厚さを、X線反射率測定装置(パナリティカル(PANalytical社製X’Pert−Pro−MAD)を用いて測定した。その結果、PMMAブラシ層の厚さは45.4nmであった。
さらに、PMMAブラシのグラフト密度について評価した結果、ガラス基板表面1nm2当たり、0.29本鎖であった。
【0048】
次に、PMMAブラシが形成されたガラス基板の一方にシール剤を塗布した後、2つのガラス基板を貼り合わせ、窒素雰囲気下、120℃で2時間加熱することによってシール剤を硬化させた。そして、2つのガラス基板の間にP型液晶(チッソ株式会社製JC−5051、TNI:112℃)を毛細管現象により注入し、注入が終了したら注入口を閉じて封止した。次に、所定の方向に1Tの磁場を印加しながら120℃の温度で20分間加熱した後、磁場を印加しつつ常温まで3℃/分の降温速度で除冷することによって液晶表示素子を作製した。
【0049】
<実施例2>
ITOからなる櫛歯電極を形成したガラス基板及び約3μmの高さのフォトスペーサーを形成した対向基板を用意し、それら2つのガラス基板上に、ポリメチルメタクリレート(アルドリッチ社製、重量平均分子量120,000)をトルエンで溶解させた高分子物質溶液をスピンコーターで塗布し、55℃で120秒加熱し、溶媒を乾燥させた後、基板との密着性を高めるために100℃で15分加熱して、塗布膜(以下、PMMA塗布膜という)を形成した。
【0050】
次に、PMMA塗布膜が形成されたガラス基板の一方にシール剤を塗布した後、2つのガラス基板を貼り合わせ、窒素雰囲気下、120℃で2時間加熱することによってシール剤を硬化させた。そして、2つのガラス基板の間にP型液晶(チッソ株式会社製JC−5051、TNI:112℃)を毛細管現象により注入し、注入が終了したら注入口を閉じて封止した。次に、所定の方向に1Tの磁場を印加しながら120℃の温度で20分間加熱した後、磁場を印加しつつ常温まで3℃/分の降温速度で除冷することによって液晶表示素子を作製した。
【0051】
<比較例1>
比較例1では、ラビング配向膜を有する従来の液晶表示素子を作製した。
ここで、ITOからなる櫛歯電極を形成したガラス基板及び約3μmの高さのフォトスペーサーを形成した対向基板に、ポリイミド膜を形成した後、ラビング処理を施してラビング配向膜を形成したこと以外は、実施例1と同様にして液晶表示素子を得た。なお、ラビング配向膜の厚さは約100nmであった。
【0052】
(配向制御性の評価)
実施例1で得られた液晶表示素子の両側に、偏光板をクロスニコルにして設け、その偏光板の間で液晶表示素子を回転させた場合において、その液晶表示素子の回転角度と透過率との関係をLCDアナライザ(名菱テクニカ株式会社製LCA-LU4A)を用いて調べた。結果を図5に示す。なお、入射光側偏光板の透過軸が液晶の配向方向(磁場の印加方向)に一致するようにパネルを測定器にセットして測定を開始した。図5から分かるように、この液晶表示素子では、90°ごとに周期的な消光が見られ、液晶がガラス基板に対して水平方向に一軸配向(ホモジニアス配向)しており、PMMAブラシ層が液晶用配向膜として機能していることが確認された。
また、実施例1で得られた液晶表示素子を85℃の温度に加熱しながらV15(最大透過率の15%が得られる電圧、実施例1の場合:4V)の電圧を7200秒印加した後、25℃まで冷却し、上記と同様に液晶表示素子の回転角度と透過率との関係をLCDアナライザ(名菱テクニカ株式会社製LCA-LU4A)を用いて調べた。結果を図6に示す。図6から分かるように、この液晶表示素子では、初期配向方向から約35°ずれた位置でホモジニアス配向していることが確認された。この結果から、液晶全体(バルクの液晶だけでなく、界面近傍の液晶も)が約35°回転したことが確認できた。
また、実施例2で得られた液晶表示素子の回転角度と透過率との関係も調べた。結果を図7に示す。図7から分かるように、この液晶表示素子でも、90°ごとに周期的な消光が見られ、液晶がガラス基板に対して水平方向に一軸配向(ホモジニアス配向)しており、PMMA塗布膜が液晶用配向膜として機能していることが確認された。
さらに、実施例2で得られた液晶表示素子を85℃の温度に加熱しながらV15(最大透過率の15%が得られる電圧、実施例2の場合:3.6V)の電圧を7200秒印加した後、25℃まで冷却し、上記と同様に液晶表示素子の回転角度と透過率との関係を調べた。結果を図8に示す。図8から分かるように、この液晶表示素子では、初期配向方向から約42°ずれた位置でホモジニアス配向していることが確認された。この結果から、液晶全体(バルクの液晶だけでなく、界面近傍の液晶も)が約42°回転したことが確認できた。
【0053】
(V−T曲線の評価)
実施例1、実施例2及び比較例1で得られた液晶表示素子の両側に、偏光板をクロスニコルにして設け、電圧を変化させて液晶表示素子に印加し、透過率を測定した。なお、入射光側偏光板の透過軸が液晶の配向方向(実施例1では磁場の印加方向、比較例1ではラビング方向)に一致するように配置した。結果を図9に示す。
図9から分かるように、実施例1の液晶表示素子は、Vmaxが8.5Vであり、実施例2の液晶表示素子は、Vmaxが7.8Vであるのに対し、比較例1の液晶表示素子は、Vmaxが9.1Vであった。つまり、実施例1及び2の液晶表示素子は、比較例1の液晶表示素子に比べて、V−T曲線が低電圧側にシフトしており、駆動電圧を低下させることが可能であることが確認された。
【0054】
(応答速度の評価)
実施例1、実施例2及び比較例1で得られた液晶表示素子の両側に、偏光板をクロスニコルにして設け、液晶表示素子にVmaxの電圧(60Hz交流駆動)を100ミリ秒印加し、大塚電子製LCD−5200により応答速度(τon/τoff)を25℃で測定した。結果を図10に示す。
図10から分かるように、実施例1及び2の液晶表示素子は、比較例1の液晶表示素子と同等のアンカリング能力があることが確認された。また、実施例1の液晶表示素子では、τon(10%⇒90%)が17.3ミリ秒、τoff(90%⇒10%)が27.6ミリ秒であり、実施例2の液晶表示素子では、τon(10%⇒90%)が22.2ミリ秒、τoff(90%⇒10%)が37.2ミリ秒であったのに対し、比較例1の液晶表示素子では、τon(10%⇒90%)が16.8ミリ秒、τoff(90%⇒10%)が22.4ミリ秒であった。このように、実施例1及び2の液晶表示素子は、動画表示可能な応答速度を有することが確認された。
【0055】
(駆動時の透過率)
実施例1、実施例2及び比較例1で得られた液晶表示素子の両側に、偏光板をクロスニコルにして設け、温度を25℃、45℃、65℃、85℃と変化させながら、液晶表示素子にVmaxの電圧(60Hz交流駆動)を10000秒印加した後、電圧をOFFにし、20000秒放置した。その間の透過率の変化を大塚電子製LCD−5200により測定した。実施例1と比較例1との結果を図11に、実施例2の結果を図12に示す。
図11から分かるように、実施例1の液晶表示素子は、25℃、45℃では、電圧印加時には透過率は一定で、電圧をOFFした直後に電圧印加前の透過率に戻るという比較例1の液晶表示素子と同じ挙動を示しており、少なくとも45℃以下では、実施例の1の液晶表示素子の持つアンカリング能力は、長時間に渡り安定で、比較例1の液晶表示素子のそれと同等であることが確認された。65℃以上で透過率の変化が確認された。この結果から、PMMAブラシの表層部(液晶によって膨潤された部分)は、45℃〜65℃の範囲にガラス転移温度を有するものと推察される。また、85℃においては、0秒〜10000秒までは界面近傍の液晶とバルクの液晶とが捩れた状態のままPMMAブラシの表層部が回転し、電圧をOFFにした直後にバルクの液晶は界面の位置に移動(捩れを解く)してホモジニアス配向となり、その後はホモジニアス配向のまま初期配向方向に戻る挙動が見られた。また、図12から分かるように、実施例2の液晶表示素子も、少なくとも45℃以下では、アンカリング能力が長時間に渡り安定であることが確認され、65℃以上で透過率の変化が確認された。この結果から、PMMA塗布膜の表層部(液晶によって膨潤された部分)は、45℃〜65℃の範囲にガラス転移温度を有するものと推察される。また、85℃においては、0秒〜10000秒までは界面近傍の液晶とバルクの液晶とが捩れた状態のままPMMA塗布膜の表層部が回転し、電圧をOFFにした直後にバルクの液晶は界面の位置に移動(捩れを解く)してホモジニアス配向となり、その後はホモジニアス配向のまま初期配向方向に戻る挙動が見られた。
【0056】
次に、実施例1及び実施例2で得られた液晶表示素子の両側に、偏光板をクロスニコルにして設け、85℃の温度に加熱しながらV15(最大透過率の15%が得られる電圧:実施例1では4V、実施例2では3.6V)の電圧を7200秒印加した後、25℃まで冷却し、25℃で電圧を印加しない状態で9000秒放置した。その間の透過率の変化を大塚電子製LCD−5200により測定した。85℃でV15印加時の結果を図13に示し、25℃まで冷却した後、電圧を印加しない状態の結果を図14に示した。
図13から分かるように、実施例1の液晶表示素子は、電圧印加直後に透過率が10%程度まで上昇し、その後も時間経過に伴って透過率が次第に上昇し、33%を超える透過率が達成された。また、実施例2の液晶表示素子は、電圧印加直後に透過率が8.5%程度まで上昇し、その後も時間経過に伴って透過率が次第に上昇して30%を超え、その後は低下して29%程度の透過率となった。実施例1及び2の液晶表示素子に45℃未満でV15を印加した場合、透過率は3%程度(透過率最大値の15%程度)であり、また、比較例1の液晶表示素子に透過率の最大値を与える電圧を印加した際の透過率が20%程度であることを考えると、実施例1及び2の液晶表示素子に85℃でV15を印加した際に達成される透過率が如何に高いかが理解できる。更に、図14から分かるように、85℃でV15印加後、25℃まで冷却した後の実施例1及び実施例2の液晶表示素子は、冷却前の透過率が維持されたままであった。なお、1ヶ月経過後もメモリー画像を完全に維持した状態であった。実施例1及び2の液晶表示素子は、通常の液晶表示素子に比べ、低い電圧で高い透過率が達成できると共にメモリー性も有しており、大幅な低消費電力化を実現することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 アレイ基板、2 対向基板、3 液晶材料、4 電極、4a,4b 櫛歯電極、5 固定化膜、6 ポリマーブラシ、7 液晶分子、8 塗布膜。
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示素子及びその駆動方法に関し、特に、動画像・静止画像・メモリー画像を表示できる液晶表示素子及びその駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LCD、PDP、CRTなどのディスプレイは、動画像及び静止画像の両方を表示することができるが、原理的な要請として、動画像だけでなく、静止画像を表示する時にも、電圧を印加し続けねばならない。そのため、これらのディスプレイでは、静止画像表示時も駆動するための電力を消費するという問題があった。一方、現在、実用化されている電子ペーパー(電気泳動方式、コレステリック液晶方式、電気粉流体方式など)は、メモリー性を有するため、メモリー画表示時の消費電力はほぼ0である(例えば、特許文献1を参照)。しかし、電子ペーパーの代表的な方式である電気泳動方式は、粒子の移動時間が長く、また、コレステリック液晶方式及び電子粉流体方式は、駆動電圧が高いため、パッシブ駆動せざるを得ず、いずれも動画表示が難しいという問題がある。更に、いずれの方式の電子ペーパーも、コントラストが低い、連続階調が難しい、応答時間(画面書換時間)が長いなどの理由により、静止画質及び動画質が共にLCD、PDP、CRTに比べてかなり劣るという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-83912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、現状のLCDと同等画質の動画像・静止画像を表示することができ、且つ現状の電子ペーパーよりも低電圧でメモリー画像を表示することができる液晶表示素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するための第一の発明は、高分子物質を配向膜として形成した一対の電極付基板間に液晶材料が封入された構造を有し、温度及び電圧によって配向膜の表層部と液晶材料の配向を変化させて画像の表示を行うことを特徴とする液晶表示素子である。
配向膜は、ポリマーブラシであるか、塗布膜であるか、または液晶材料中に一旦溶解もしくは分散させた高分子物質を基板表面に吸着させた膜であることが好ましい。
配向膜の表層部は、液晶材料によって膨潤されており、その配向膜の液晶材料によって膨潤された部分のガラス転移温度(Tg)は、液晶材料のN相からI相へ相転移する温度(TNI)よりも低いことが好ましい。
配向膜の液晶材料によって膨潤された部分の初期配向は、一軸配向であってもよいし、またはランダム配向であってもよい。
電極付基板に配設された電極は、櫛歯電極であることが好ましい。櫛歯電極は、2組あって、液晶材料の初期配向方向に対し略対称となるように配設されていることが好ましい。その2組の櫛歯電極は、一対の電極付基板それぞれに分けて配設されていることが好ましい。また、その2組の櫛歯電極は、一方の電極付基板のみに絶縁膜を介して配設されていることが好ましい。
また、液晶表示素子は、加熱または冷却するための温度制御ユニットを備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、動画像・静止画像を現状のLCD等のディスプレイと同等の画質で表示することができ、且つ現状の電子ペーパーよりも低電圧でメモリー画像を表示することができる液晶表示素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施の形態1の液晶表示素子の模式断面図である。
【図2】実施の形態1の液晶表示素子における液晶材料の初期配向方向と基板上に配設された2組の櫛歯電極との関係を説明するための図である。
【図3】実施の形態1の液晶表示素子における液晶材料の初期配向方向と基板上に配設された2組の櫛歯電極との関係を説明するための図である。
【図4】実施の形態2の液晶表示素子の模式断面図である。
【図5】実施例1の液晶表示素子の回転角度と相対輝度との関係を示すグラフである。
【図6】実施例1の液晶表示素子の回転角度と相対輝度との関係を示すグラフである。
【図7】実施例2の液晶表示素子の回転角度と相対輝度との関係を示すグラフである。
【図8】実施例2の液晶表示素子の回転角度と相対輝度との関係を示すグラフである。
【図9】実施例1、実施例2及び比較例1の液晶表示素子のV−T曲線を示すグラフである。
【図10】実施例1、実施例2及び比較例1の液晶表示素子の応答速度測定結果を示すグラフである。
【図11】実施例1及び比較例1の液晶表示素子の電圧印加時間と透過率との関係(25℃、45℃、65℃及び85℃における)を示すグラフである。
【図12】実施例2の液晶表示素子の電圧印加時間と透過率との関係(25℃、45℃、65℃及び85℃における)を示すグラフである。
【図13】実施例1及び2の液晶表示素子に85℃でV15(最大透過率の15%が得られる電圧)印加した時の透過率の変化を示すグラフである。
【図14】実施例1及び2の液晶表示素子に85℃でV15(最大透過率の15%が得られる電圧)印加した後、25℃まで冷却した時の透過率の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の液晶表示素子及びその駆動方法の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。なお、以下では、横電界(IPS)方式の液晶表示素子を例に本発明を説明するが、本発明はこれに限定されず、縦電界方式の液晶表示素子にも用いることも可能である。
【0009】
<実施の形態1>
実施の形態1では、配向膜を形成する高分子物質としてポリマーブラシを用いた場合について説明する。図1は、本実施の形態の液晶表示素子の模式断面図である。図1において、液晶表示素子は、アレイ基板1と、アレイ基板1に対向して配置された対向基板2と、アレイ基板1と対向基板2との間に封入された液晶材料3とを有している。そして、アレイ基板1には、電極4、固定化膜5及びポリマーブラシ6が順次形成されている。また、対向基板2には、固定化膜5及びポリマーブラシ6が順次形成されている。
このような構成を有する本実施の形態の液晶表示素子は、ポリマーブラシ6を配向膜として形成したこと以外は、原則として公知の液晶表示素子と同じ構成であり、例えば、電極4が配置されたアレイ基板1に対向させて対向基板2を配置し、アレイ基板1と対向基板2との間に液晶材料3を注入するという公知の製造方法に準じて製造することが可能である。
【0010】
本実施の形態において「ポリマーブラシ6」とは、一端が基板表面に共有結合したグラフトポリマー鎖を意味する。グラフトポリマー鎖は、グラフト密度が低いと、糸まり状の縮んだ構造をとるが、グラフト密度が高くなると、隣接したグラフトポリマー鎖の相互作用(立体反発)により、基板表面に対して垂直方向に伸張した構造をとる。特に、後者の構造、すなわち、多数のグラフトポリマー鎖が高密度でアレイ基板1あるいは対向基板2の表面に対して垂直方向に伸張した構造を有するものが好ましい。本実施の形態において「高密度」とは、隣接するグラフトポリマー鎖間で立体反発が生じる程度に密集したグラフトポリマー鎖の密度を意味し、アレイ基板1あるいは対向基板2の表面1nm2当たり、通常、0.1本鎖以上であり、好ましくは0.1〜1.2本鎖の密度である。
【0011】
アレイ基板1あるいは対向基板2の表面上に高密度で形成されたポリマーブラシ6は、アレイ基板1あるいは対向基板2の表面上でポリマーブラシの層(以下、「ポリマーブラシ層」という)を構成する。このポリマーブラシ層と液晶材料3とが接する界面近傍では、ポリマーブラシ6の表層部が液晶材料3により膨潤されてポリマーブラシ6が本来有するガラス転移温度(Tg)よりも低下する。結果として、この膨潤された部分のガラス転移温度(Tg)は、液晶材料3のN相からI相へ相転移する温度(TNI)よりも低い状態になっている。このような状態は、ポリマーブラシ6に用いる材料の種類、グラフトポリマー鎖の密度、液晶材料3に用いる液晶の種類などを適宜変更することにより達成できる。既存のLCDでは、配向膜によって液晶材料が固定(アンカリング)されているため、電極に電圧を印加すると、配向膜と液晶材料との界面近傍の液晶は固定されたまま、バルクの液晶は電界方向(Δnが負の場合は電界の垂直方向)に向き、電界がoffされると、弾性によって、初期の配向状態に戻る。ところが、本実施の形態の液晶表示素子では、配向膜としてのポリマーブラシ6の膨潤された部分が、液晶材料3のN相からI相へ相転移する温度(TNI)よりも低いガラス転移温度(Tg)を有するため、Tg以上の温度に加熱したまま電極に電圧を印加すると、バルクの液晶だけでなく、界面近傍の液晶がポリマーブラシの表層部と一緒に電界方向に向くこととなる。
【0012】
ポリマーブラシ層の厚さは、通常、数十nm程度であり、具体的には10nm以上100nm未満であり、好ましくは10nm〜80nmである。かかる厚さであれば、従来のポリイミド配向膜の厚さ(一般的に100nm)よりも薄くなり、液晶表示素子の低電圧駆動が可能になる。また、このポリマーブラシ層にはサイズ排除効果があり、一定の大きさの物質はポリマーブラシ層を通過することはできないため、ポリマーブラシ層の厚さを薄くしたとしても、下地から液晶材料3への不純物の侵入を防止することができる。加えて、このポリマーブラシ層は、厚さが比較的薄くても、液晶分子の配向制御能力が良好である。
【0013】
ポリマーブラシ6は、ラジカル重合性モノマーをリビングラジカル重合させることにより形成することができる。ここで、「リビングラジカル重合」とは、ラジカル重合反応において、連鎖移動反応及び停止反応が実質的に起こらず、ラジカル重合性モノマーが反応し尽くした後も連鎖成長末端が活性を保持する重合反応をいう。この重合反応では、重合反応終了後でも生成重合体の末端に重合活性を保持しており、ラジカル重合性モノマーを加えると再び重合反応を開始させることができる。また、リビングラジカル重合は、ラジカル重合性モノマーと重合開始剤との濃度比を調節することにより任意の平均分子量をもつ重合体の合成ができ、そして、生成する重合体の分子量分布が極めて狭いなどの特徴がある。
【0014】
本実施の形態に用いられるリビングラジカル重合の代表例は、原子移動ラジカル重合(ATRP)である。例えば、重合開始剤の存在下で、ハロゲン化銅/リガンド錯体を用いてラジカル重合性モノマーの原子移動リビングラジカル重合を行う。高分子末端ハロゲンをハロゲン化銅/リガンド錯体が引き抜くことにより可逆的に成長する成長ラジカルにラジカル重合性モノマーが付加して進行し、十分な頻度での可逆的活性化・不活性化により分子量分布が規制される。
【0015】
リビングラジカル重合に用いられるラジカル重合性モノマーは、有機ラジカルの存在下でラジカル重合を行い得る不飽和結合を有するものであり、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、2−メトキシエチルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレート、メトキシテトラエチレングリコールメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレートなどのメタクリレート系モノマー;メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−オクチルアクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、メトキシテトラエチレングリコールアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、ジエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、2−(ジメチルアミノ)エチルアクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミドなどのアクリレート系モノマー;スチレン、スチレン誘導体(o−、m−、p−メトキシスチレン、o−、m−、p−t−ブトキシスチレン、o−、m−、p−クロロメチルスチレンなど)、ビニルエステル類(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル、酢酸ビニルなど)、ビニルケトン類(ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、メチルイソプロペニルケトンなど)、N−ビニル化合物(N−ビニルピロリドン、N−ビニルピロール、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドールなど)、(メタ)アクリル酸誘導体(アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、アクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、メタクリルアミドなど)、ハロゲン化ビニル類(塩化ビニル、塩化ビニリデン、テトラクロロエチレン、ヘキサクロロプレン、フッ化ビニルなど)などのビニルモノマーが挙げられる。ラジカル重合性モノマーは、単独で使用しても、2種以上併用してもよい。
【0016】
重合開始剤としては、特に限定されることはなく、リビングラジカル重合で一般的に公知のものを使用することができる。重合開始剤の例としては、p−クロロメチルスチレン、α−ジクロロキシレン、α,α−ジクロロキシレン、α,α−ジブロモキシレン、ヘキサキス(α−ブロモメチル)ベンゼン、塩化ベンジル、臭化ベンジル、1−ブロモ−1−フェニルエタン、1−クロロ−1−フェニルエタンなどのベンジルハロゲン化物;プロピル−2−ブロモプロピオネート、メチル−2−クロロプロピオネート、エチル−2−クロロプロピオネート、メチル−2−ブロモプロピオネート、エチル−2−ブロモイソブチレート(EBIB)などのα位がハロゲン化されたカルボン酸;p−トルエンスルホニルクロリド(TsCl)などのトシルハロゲン化物;テトラクロロメタン、トリブロモメタン、1−ビニルエチルクロリド、1−ビニルエチルブロミドなどのアルキルハロゲン化物;ジメチルリン酸クロリドなどのリン酸エステルのハロゲン誘導体が挙げられる。
【0017】
ハロゲン化銅/リガンド錯体を与えるハロゲン化銅としては、特に限定されることはなく、リビングラジカル重合で一般的に公知のものを使用することができる。ハロゲン化銅の例としては、CuBr、CuCl、CuIなどが挙げられる。
ハロゲン化銅/リガンド錯体を与えるリガンド化合物としては、特に限定されることはなく、リビングラジカル重合で一般的に公知のものを使用することができる。リガンド化合物の例としては、トリフェニルホスファン、4,4’−ジノニル−2,2’−ジピリジン(dNbipy)、N,N,N’,N’N”−ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラアミンなどが挙げられる。
【0018】
ラジカル重合性モノマー、重合開始剤、ハロゲン化銅、リガンド化合物の量は、使用する原料の種類に応じて適宜調節すればよいが、一般的に、重合開始剤1molに対して、ラジカル重合性モノマーが5〜10,000mol、好ましくは50〜5,000mol、ハロゲン化銅が0.1〜100mol、好ましくは0.5〜100mol、リガンド化合物が0.2〜200mol、好ましくは1.0〜200molである。
【0019】
なお、リビングラジカル重合は、通常、無溶媒で行うが、リビングラジカル重合で一般的に使用される溶媒を使用してもよい。使用可能な溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、クロロホルム、四塩化炭素、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、トリフルオロメチルベンゼンなどの有機溶媒;水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、1−メトキシ−2−プロパノールなどの水性溶媒が挙げられる。溶媒の量は、使用する原料の種類に応じて適宜調節すればよいが、一般的にラジカル重合性モノマー1gに対して、溶媒が0.01〜100mL、好ましくは0.05〜10mLである。
【0020】
リビングラジカル重合により形成されるポリマーブラシ6の分子量は、反応温度、反応時間や使用する原料の種類や量によって調整可能であるが、一般的に数平均分子量が500〜1,000,000、好ましくは1,000〜500,000のポリマーブラシ6を得ることができる。また、ポリマーブラシ6の分子量分布(Mw/Mn)は、1.05〜1.60の間に制御することができる。
このような特徴を有するポリマーブラシ6は、液晶材料3中の液晶分子7をアレイ基板1及び対向基板2に対して平行に配向させることができる。
【0021】
ポリマーブラシ6は、必要に応じて、電極4が配設されたアレイ基板1や対向基板2上に固定化膜5を介して形成される。
固定化膜5としては、アレイ基板1、対向基板2、電極4及びポリマーブラシ6との接着性に優れたものであれば特に限定されることはなく、リビングラジカル重合で一般的に公知のものを使用することができる。固定化膜5の例としては、下記の一般式(1)で表されるアルコキシシラン化合物から形成される膜が挙げられる。
【0022】
【化1】
【0023】
一般式(1)中、R1はそれぞれ独立してC1〜C3のアルキル基、好ましくはメチル基またはエチル基であり;R2はそれぞれ独立してメチル基またはエチル基であり;Xはハロゲン原子、好ましくはBrであり;nは3〜10の整数、より好ましくは4〜8の整数である。
【0024】
固定化膜5には、ポリマーブラシ6が共有結合しているため、ポリマーブラシ6の液晶材料3中への溶け出しを防止することができ、液晶表示素子の耐久性及び信頼性が向上する。
【0025】
固定化膜5が形成されるアレイ基板1としては、特に限定されることはなく、液晶表示素子で一般的に公知のものを使用することができる。アレイ基板1の例としては、アクティブマトリックスアレイ基板が挙げられる。このアクティブマトリックスアレイ基板は、一般的に、ガラス基板上にゲート配線及びソース配線がマトリックス状に配置されており、その交点部分に、薄層トランジスタ(TFT)などのアクティブ素子が形成され、このアクティブ素子に画素電極が接続されたものである。
【0026】
固定化膜5が形成される対向基板2も、特に限定されることはなく、液晶表示素子で一般的に公知のものを使用することができる。対向基板2の例としては、カラーフィルタ基板が挙げられる。このカラーフィルタ基板は、一般的に、ガラス基板上に、不要な光の漏れを防止するためにブラックマトリックスを形成した後、R(赤)、G(緑)、B(青)の着色層をパターン形成し、必要に応じて保護膜を形成し、そして画素電極に対向する対向電極を形成したものである。
【0027】
固定化膜5が形成される電極4としては、特に限定されることはなく、液晶表示素子に一般的に公知のものを使用することができる。電極4の例としては、酸化インジウムスズ(ITO)からなる櫛歯電極が挙げられる。電極4としてアレイ基板1に櫛歯電極を配設する場合、図2に示すように、液晶材料3の初期配向方向に対し略対称となるように2組の櫛歯電極4a,4bを配設することで、Tg以上の温度で櫛歯電極4aを使って電極に電圧を印加し、界面近傍の液晶とポリマーブラシ表層部を電界方向に回転させ、Tg未満に冷却し、メモリーさせた後、再度、Tg以上に加熱し、櫛歯電極4bに電圧を印加することで界面近傍の液晶とポリマーブラシ表層部を初期配向方向に戻すことができる。即ち、初期配向方向に対し略対称となるように2組の櫛歯電極4a,4bを配設することで、書き込み・消去が可能となる。図2には示してないが、このように一方の基板に2組の櫛歯電極4a,4bを配設する場合、2組の櫛歯電極4a,4bは絶縁膜を介して配設される。また、図3の(A)及び(B)に示すように、2組の櫛歯電極4a,4bをアレイ基板1及び対向基板2それぞれに分けて配設することもできる。この場合も2組の櫛歯電極4a,4bは液晶材料3の初期配向方向に対し略対称となるように配設される。
液晶材料3に用いられる液晶としては、特に限定されることはなく、液晶表示素子で一般的に公知のものを使用することができる。
【0028】
次に、本実施の形態の液晶表示素子の駆動方法について説明する。
上記のように構成された本実施の形態の液晶表示素子は、高分子物質であるポリマーブラシ6の液晶材料によって膨潤された部分のガラス転移温度(Tg)未満の温度では、公知の横電界(IPS)方式の液晶表示素子と同様の方法で駆動させ、動画像・静止画像を現状のLCD等のディスプレイと同等の画質で表示することができる。本実施の形態の液晶表示素子においてメモリー画像を表示する場合、Tg以上の温度で電極4に電圧を印加することによってポリマーブラシの表層部と液晶材料との配向を変化させ、その後、Tg未満の温度に冷却すると、ポリマーブラシの表層部の配向が固定化される(画像がメモリーされる)ので、低電圧で高輝度、高CR、連続階調のメモリー画像を表示できる。本実施の形態の液晶表示素子は、メモリー画像を表示する際に温度を制御する(加熱または冷却する)必要があるので、温度制御ユニットを備えていることが好ましい。温度制御ユニットとしては、特に限定されることはなく、レーザー、加熱電極、蓄熱層、シート状ヒーター、サーマルヘッド、オーブンなどが挙げられる。また、液晶表示素子と温度制御ユニットとを一体化せず、液晶表示素子をリライタブルペーパーとして活用することも可能である。
【0029】
ポリマーブラシ6の液晶材料3によって膨潤された部分の初期配向が、一軸配向であるか、またはランダム配向であるかに関わらず、画像をメモリーする場合や書き換える場合、パネル全面を一括してTg以上の温度に加熱し、対応する部分の画素のみに電圧を印加する方法を採ってもよいし、レーザーや画素サイズのサーマルヘッドで対応する部分の画素のみをTg以上の温度に加熱し、電圧は全画素に一斉に印加する方法を採ってもよい。
ポリマーブラシ6の液晶材料3によって膨潤された部分の初期配向が、一軸配向である本実施の形態の液晶表示素子において、メモリーした画像を元の配向状態に戻す場合、Tg以上の温度で、画像をメモリーする際に電圧を印加した櫛歯電極とは異なる櫛歯電極に電圧を印加すればよい(例えば、櫛歯電極4aに電圧を印加して画像をメモリーしたのであれば、櫛歯電極4bに電圧を印加して元の配向状態に戻す)。
ポリマーブラシ6の液晶材料3によって膨潤された部分の初期配向が、ランダム配向である本実施の形態の液晶表示素子において、メモリーした画像を元の配向状態に戻す場合、パネル全面もしくは対応する部分の画素のみをTg以上の温度に加熱すればよい。
【0030】
次に、本実施の形態の液晶表示素子の製造方法について説明する。なお、以下では、毛細管現象を利用した液晶注入を行う方法を例に本実施の形態を説明するが、本実施の形態はこれに限定されず、液晶滴下注入(ODF)による方法を用いることも可能である。
まず、アレイ基板1上に電極4を形成する。電極4の形成方法としては、特に限定されることはなく、公知の方法に準じて形成することができる。なお、アレイ基板1は、必要に応じて、電極4の形成前に洗浄を行ってもよい。
次に、電極4を形成したアレイ基板1、及び対向基板2上に固定化膜5を形成する。ただし、電極4を形成したアレイ基板1、及び対向基板2とポリマーブラシ6との接着性が良好であれば、固定化膜5を形成する必要はない。固定化膜5の形成方法は、特に限定されることはなく、使用する材料にあわせて適宜設定すればよい。例えば、固定化膜形成用溶液に、電極4が設けられたアレイ基板1及び対向基板2を浸漬させた後、乾燥させることによって固定化膜5を形成することができる。ここで、所定の部分に固定化膜5を形成させるために、固定化膜5を形成させない部分にマスキングを施してもよい。また、対向基板2は、必要に応じて、固定化膜5の形成前に洗浄を行ってもよい。
【0031】
次に、固定化膜5が形成されたアレイ基板1及び対向基板2上にポリマーブラシ6を形成する。ポリマーブラシ6の形成は、リビングラジカル重合(例えば、ATRP)により行われる。例えば、固定化膜5が形成されたアレイ基板1及び対向基板2を、ラジカル重合性モノマー、重合開始剤、及びハロゲン化銅/リガンド錯体を含むポリマーブラシ形成用溶液中に浸漬させ、加熱することによってポリマーブラシ6を形成することができる。加熱条件は、特に限定されることはなく、使用する原料などに応じて適宜調節すればよいが、一般的に、加熱温度は60〜150℃、加熱時間は0.5〜10時間である。この時、圧力は、一般的に常圧で行われるが、加圧または減圧しても構わない。なお、固定化膜5が形成されたアレイ基板1及び対向基板2は、必要に応じて、ポリマーブラシ6の形成前に洗浄を行ってもよい。
【0032】
次に、ポリマーブラシ6が形成されたアレイ基板1及び対向基板2を貼り合わせる。例えば、シール剤を塗布し、スペーサーを散布した後、アレイ基板1と対向基板2とを重ねあわせ、シール剤を硬化させることによってアレイ基板1と対向基板2とを貼り合わせることができる。
次に、毛細管現象を利用して液晶をアレイ基板1と対向基板2との間に注入し、注入が終了したら、注入口を閉じて封止する。
【0033】
次に、磁場配向法などの非接触配向法によって液晶分子を一軸配向させる。磁場配向法を用いる場合、例えば、ポリマーブラシ6のガラス転移温度Tg以上の温度で加熱しつつ、液晶分子7を配向させたい方向に、永久磁石や超伝導磁石を用いて磁場を印加しながら常温まで除冷する。このような加熱・磁場配向処理を行うことで、非接触の一軸配向が可能となる。また、ポリマーブラシ6のガラス転移温度Tg以上の温度で加熱のみ行い、液晶分子を非常に細かなランダム配向としてもよい。加熱条件は、形成したポリマーブラシ6のガラス転移温度に応じて適宜調節すればよく、特に限定されないが、一般的に加熱温度は60〜150℃、加熱時間は10分〜1時間である。同様に、磁場の印加条件も、使用した液晶の種類に応じて適宜調節すればよく、特に限定されないが、一般的に磁束密度が0.5T〜5Tである。また、常温までの降温速度は1℃/分〜20℃/分であることが好ましい。降温速度が1℃/分未満であると、工程時間が長くなり、実用的でない場合がある。一方、降温速度が20℃/分を超えると、液晶分子7の配向制御が十分でない場合がある。
【0034】
なお、上記では磁場による一軸配向処理を説明したが、ポリマーブラシ6を配向膜として用いた場合には、ラビング処理による配向処理を行うことも可能である。
【0035】
<実施の形態2>
実施の形態2では、配向膜を形成する高分子物質として塗布膜を用いた場合について説明する。図4は、本実施の形態の液晶表示素子の模式断面図である。図4において、液晶表示素子は、アレイ基板1と、アレイ基板1に対向して配置された対向基板2と、アレイ基板1と対向基板2との間に封入された液晶材料3とを有している。そして、アレイ基板1には、電極4及び塗布膜8が順次形成されている。また、対向基板2には、塗布膜8が形成されている。
このような構成を有する本実施の形態の液晶表示素子は、塗布膜8を配向膜として形成したこと以外は、原則として公知の液晶表示素子と同じ構成であり、例えば、電極4が配置されたアレイ基板1に対向させて対向基板2を配置し、アレイ基板1と対向基板2との間に液晶材料3を注入するという公知の製造方法に準じて製造することが可能である。
【0036】
塗布膜8と液晶材料3とが接する界面近傍では、塗布膜8の表層部が液晶材料3により膨潤されて塗布膜8が本来有するガラス転移温度(Tg)よりも低下する。結果として、この膨潤された部分のガラス転移温度(Tg)は、液晶材料3のN相からI相へ相転移する温度(TNI)よりも低い状態になっている。このような状態は、塗布膜8に用いる材料の種類、液晶材料3に用いる液晶の種類などを適宜変更することにより達成できる。既存のLCDでは、配向膜によって液晶材料が固定(アンカリング)されているため、電極に電圧を印加すると、配向膜と液晶材料との界面近傍の液晶は固定されたまま、バルクの液晶は電界方向(Δnが負の場合は電界の垂直方向)に向き、電界がoffされると、弾性によって、初期の配向状態に戻る。ところが、本実施の形態の液晶表示素子では、配向膜としての塗布膜8の膨潤された部分が、液晶材料3のN相からI相へ相転移する温度(TNI)よりも低いガラス転移温度(Tg)を有するため、Tg以上の温度に加熱したまま電極に電圧を印加すると、バルクの液晶だけでなく、界面近傍の液晶が塗布膜8の表層部と一緒に電界方向に向くこととなる。
【0037】
塗布膜8の厚さは、通常、数十nm程度であり、具体的には10nm以上100nm未満であり、好ましくは10nm〜80nmである。かかる厚さであれば、従来のポリイミド配向膜の厚さ(一般的に100nm)よりも薄くなり、液晶表示素子の低電圧駆動が可能になる。
【0038】
塗布膜8は、電極4を形成したアレイ基板1及び対向基板2上に、高分子物質をトルエン等の溶媒に溶解させた高分子物質溶液を塗布することにより形成することができる。塗布膜8の形成に用いられる高分子物質は、液晶材料3を取り込んで膨潤することができ且つ液晶材料3に溶解しないものであればよく、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)が挙げられる。これらの高分子物質は、単独で使用しても、2種以上併用してもよい。塗布膜の形成に用いる高分子物質の分子量は、特に限定されることはないが、基板との密着性が良好で、かつ、液晶に溶解しない程度の分子量であることが好ましい。
【0039】
本実施の形態で使用することのできるアレイ基板1、対向基板2、液晶材料3及び電極4は、実施の形態1と同じであるのでその説明は省略する。また、電極4は、実施の形態1と同様に配設することができるのでその説明は省略する。
【0040】
また、本実施の形態の液晶表示素子は、実施の形態1に示した方法と同様にして駆動させることができるのでその説明は省略する。
【0041】
次に、本実施の形態の液晶表示素子の製造方法について説明する。なお、以下では、毛細管現象を利用した液晶注入を行う方法を例に本実施の形態を説明するが、本実施の形態はこれに限定されず、液晶滴下注入(ODF)による方法を用いることも可能である。
まず、アレイ基板1上に電極4を形成する。電極4の形成方法としては、特に限定されることはなく、公知の方法に準じて形成することができる。なお、アレイ基板1は、必要に応じて、電極4の形成前に洗浄を行ってもよい。
次に、電極4を形成したアレイ基板1及び対向基板2上に配向膜として高分子物質溶液を塗布する。塗布法は特に限定されることはなく、フレキソ印刷法、インクジェット法など、用途にあわせて適宜設定すればよい。
【0042】
次に、塗布膜8が形成されたアレイ基板1及び対向基板2を貼り合わせる。例えば、シール剤を塗布し、スペーサーを散布した後、アレイ基板1と対向基板2とを重ねあわせ、シール剤を硬化させることによってアレイ基板1と対向基板2とを貼り合わせることができる。
次に、毛細管現象を利用して液晶をアレイ基板1と対向基板2との間に注入し、注入が終了したら、注入口を閉じて封止する。
【0043】
次に、磁場配向法などの非接触配向法によって液晶分子を一軸配向させる。磁場配向法を用いる場合、例えば、塗布膜8のガラス転移温度Tg以上の温度で加熱しつつ、液晶分子7を配向させたい方向に、永久磁石や超伝導磁石を用いて磁場を印加しながら常温まで除冷する。このような加熱・磁場配向処理を行うことで、非接触の一軸配向が可能となる。また、塗布膜8のガラス転移温度Tg以上の温度で加熱のみ行い、液晶分子を非常に細かなランダム配向としてもよい。加熱条件は、形成した塗布膜8のガラス転移温度に応じて適宜調節すればよく、特に限定されないが、一般的に加熱温度は60〜150℃、加熱時間は10分〜1時間である。同様に、磁場の印加条件も、使用した液晶の種類に応じて適宜調節すればよく、特に限定されないが、一般的に磁束密度が0.5T〜5Tである。また、常温までの降温速度は1℃/分〜20℃/分であることが好ましい。降温速度が1℃/分未満であると、工程時間が長くなり、実用的でない場合がある。一方、降温速度が20℃/分を超えると、液晶分子7の配向制御が十分でない場合がある。
【0044】
なお、上記では磁場による一軸配向処理を説明したが、塗布膜8を配向膜として用いた場合には、ラビング処理による配向処理を行うことも可能である。
【0045】
上記実施の形態1及び2で説明したポリマーブラシ6及び塗布膜8の他に、液晶材料3中に一旦溶解もしくは分散させた高分子物質を基板表面に吸着させた膜を配向膜として用いることもできる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
ITOからなる櫛歯電極を形成したガラス基板及び約3μmの高さのフォトスペーサーを形成した対向基板を用意し、ポリマーブラシを形成させる必要がない部分をマスキングした。次に、エタノール38g、アンモニア水(28%)2g、2−ブロモ−2−メチルプロピオニロキシヘキシルトリエトキシシラン(BHE)0.4gを含む固定化膜形成用溶液に、マスキングを施した2つのガラス基板を常温(25℃)で一晩浸漬させた後、乾燥させることによって固定化膜を形成した。次に、固定化膜を形成した2つのガラス基板を洗浄し、乾燥させた後、メチルメタクリレート(ラジカル重合性モノマー)、エチル−2−ブロモイソブチレート(重合開始剤)、CuBr(ハロゲン化銅)及び4,4’−ジオニル−2,2’−ビピリジン(リガンド化合物)を1000:1:12:24のモル比で含むポリマーブラシ形成用溶液に浸漬させ、90℃で3時間加熱してリビングラジカル重合させることにより、ポリマーブラシ(以下、PMMAブラシという)を形成した。次に、PMMAブラシを形成した2つのガラス基板を洗浄し、乾燥させた後、ガラス基板からマスクを除去した。
【0047】
形成されたPMMAブラシの分子量を、GPC測定装置(日本分光株式会社製)を用いて測定した。標準試料にはポリメチルメタクリレートを用い、検出器にはRI(屈折率)検出器を用いた。その結果、PMMAブラシの数平均分子量(Mn)は1.12×105であり、分子量分布(Mw/Mn)は1.17であった。
また、PMMAブラシの層(PMMAブラシ層)の厚さを、X線反射率測定装置(パナリティカル(PANalytical社製X’Pert−Pro−MAD)を用いて測定した。その結果、PMMAブラシ層の厚さは45.4nmであった。
さらに、PMMAブラシのグラフト密度について評価した結果、ガラス基板表面1nm2当たり、0.29本鎖であった。
【0048】
次に、PMMAブラシが形成されたガラス基板の一方にシール剤を塗布した後、2つのガラス基板を貼り合わせ、窒素雰囲気下、120℃で2時間加熱することによってシール剤を硬化させた。そして、2つのガラス基板の間にP型液晶(チッソ株式会社製JC−5051、TNI:112℃)を毛細管現象により注入し、注入が終了したら注入口を閉じて封止した。次に、所定の方向に1Tの磁場を印加しながら120℃の温度で20分間加熱した後、磁場を印加しつつ常温まで3℃/分の降温速度で除冷することによって液晶表示素子を作製した。
【0049】
<実施例2>
ITOからなる櫛歯電極を形成したガラス基板及び約3μmの高さのフォトスペーサーを形成した対向基板を用意し、それら2つのガラス基板上に、ポリメチルメタクリレート(アルドリッチ社製、重量平均分子量120,000)をトルエンで溶解させた高分子物質溶液をスピンコーターで塗布し、55℃で120秒加熱し、溶媒を乾燥させた後、基板との密着性を高めるために100℃で15分加熱して、塗布膜(以下、PMMA塗布膜という)を形成した。
【0050】
次に、PMMA塗布膜が形成されたガラス基板の一方にシール剤を塗布した後、2つのガラス基板を貼り合わせ、窒素雰囲気下、120℃で2時間加熱することによってシール剤を硬化させた。そして、2つのガラス基板の間にP型液晶(チッソ株式会社製JC−5051、TNI:112℃)を毛細管現象により注入し、注入が終了したら注入口を閉じて封止した。次に、所定の方向に1Tの磁場を印加しながら120℃の温度で20分間加熱した後、磁場を印加しつつ常温まで3℃/分の降温速度で除冷することによって液晶表示素子を作製した。
【0051】
<比較例1>
比較例1では、ラビング配向膜を有する従来の液晶表示素子を作製した。
ここで、ITOからなる櫛歯電極を形成したガラス基板及び約3μmの高さのフォトスペーサーを形成した対向基板に、ポリイミド膜を形成した後、ラビング処理を施してラビング配向膜を形成したこと以外は、実施例1と同様にして液晶表示素子を得た。なお、ラビング配向膜の厚さは約100nmであった。
【0052】
(配向制御性の評価)
実施例1で得られた液晶表示素子の両側に、偏光板をクロスニコルにして設け、その偏光板の間で液晶表示素子を回転させた場合において、その液晶表示素子の回転角度と透過率との関係をLCDアナライザ(名菱テクニカ株式会社製LCA-LU4A)を用いて調べた。結果を図5に示す。なお、入射光側偏光板の透過軸が液晶の配向方向(磁場の印加方向)に一致するようにパネルを測定器にセットして測定を開始した。図5から分かるように、この液晶表示素子では、90°ごとに周期的な消光が見られ、液晶がガラス基板に対して水平方向に一軸配向(ホモジニアス配向)しており、PMMAブラシ層が液晶用配向膜として機能していることが確認された。
また、実施例1で得られた液晶表示素子を85℃の温度に加熱しながらV15(最大透過率の15%が得られる電圧、実施例1の場合:4V)の電圧を7200秒印加した後、25℃まで冷却し、上記と同様に液晶表示素子の回転角度と透過率との関係をLCDアナライザ(名菱テクニカ株式会社製LCA-LU4A)を用いて調べた。結果を図6に示す。図6から分かるように、この液晶表示素子では、初期配向方向から約35°ずれた位置でホモジニアス配向していることが確認された。この結果から、液晶全体(バルクの液晶だけでなく、界面近傍の液晶も)が約35°回転したことが確認できた。
また、実施例2で得られた液晶表示素子の回転角度と透過率との関係も調べた。結果を図7に示す。図7から分かるように、この液晶表示素子でも、90°ごとに周期的な消光が見られ、液晶がガラス基板に対して水平方向に一軸配向(ホモジニアス配向)しており、PMMA塗布膜が液晶用配向膜として機能していることが確認された。
さらに、実施例2で得られた液晶表示素子を85℃の温度に加熱しながらV15(最大透過率の15%が得られる電圧、実施例2の場合:3.6V)の電圧を7200秒印加した後、25℃まで冷却し、上記と同様に液晶表示素子の回転角度と透過率との関係を調べた。結果を図8に示す。図8から分かるように、この液晶表示素子では、初期配向方向から約42°ずれた位置でホモジニアス配向していることが確認された。この結果から、液晶全体(バルクの液晶だけでなく、界面近傍の液晶も)が約42°回転したことが確認できた。
【0053】
(V−T曲線の評価)
実施例1、実施例2及び比較例1で得られた液晶表示素子の両側に、偏光板をクロスニコルにして設け、電圧を変化させて液晶表示素子に印加し、透過率を測定した。なお、入射光側偏光板の透過軸が液晶の配向方向(実施例1では磁場の印加方向、比較例1ではラビング方向)に一致するように配置した。結果を図9に示す。
図9から分かるように、実施例1の液晶表示素子は、Vmaxが8.5Vであり、実施例2の液晶表示素子は、Vmaxが7.8Vであるのに対し、比較例1の液晶表示素子は、Vmaxが9.1Vであった。つまり、実施例1及び2の液晶表示素子は、比較例1の液晶表示素子に比べて、V−T曲線が低電圧側にシフトしており、駆動電圧を低下させることが可能であることが確認された。
【0054】
(応答速度の評価)
実施例1、実施例2及び比較例1で得られた液晶表示素子の両側に、偏光板をクロスニコルにして設け、液晶表示素子にVmaxの電圧(60Hz交流駆動)を100ミリ秒印加し、大塚電子製LCD−5200により応答速度(τon/τoff)を25℃で測定した。結果を図10に示す。
図10から分かるように、実施例1及び2の液晶表示素子は、比較例1の液晶表示素子と同等のアンカリング能力があることが確認された。また、実施例1の液晶表示素子では、τon(10%⇒90%)が17.3ミリ秒、τoff(90%⇒10%)が27.6ミリ秒であり、実施例2の液晶表示素子では、τon(10%⇒90%)が22.2ミリ秒、τoff(90%⇒10%)が37.2ミリ秒であったのに対し、比較例1の液晶表示素子では、τon(10%⇒90%)が16.8ミリ秒、τoff(90%⇒10%)が22.4ミリ秒であった。このように、実施例1及び2の液晶表示素子は、動画表示可能な応答速度を有することが確認された。
【0055】
(駆動時の透過率)
実施例1、実施例2及び比較例1で得られた液晶表示素子の両側に、偏光板をクロスニコルにして設け、温度を25℃、45℃、65℃、85℃と変化させながら、液晶表示素子にVmaxの電圧(60Hz交流駆動)を10000秒印加した後、電圧をOFFにし、20000秒放置した。その間の透過率の変化を大塚電子製LCD−5200により測定した。実施例1と比較例1との結果を図11に、実施例2の結果を図12に示す。
図11から分かるように、実施例1の液晶表示素子は、25℃、45℃では、電圧印加時には透過率は一定で、電圧をOFFした直後に電圧印加前の透過率に戻るという比較例1の液晶表示素子と同じ挙動を示しており、少なくとも45℃以下では、実施例の1の液晶表示素子の持つアンカリング能力は、長時間に渡り安定で、比較例1の液晶表示素子のそれと同等であることが確認された。65℃以上で透過率の変化が確認された。この結果から、PMMAブラシの表層部(液晶によって膨潤された部分)は、45℃〜65℃の範囲にガラス転移温度を有するものと推察される。また、85℃においては、0秒〜10000秒までは界面近傍の液晶とバルクの液晶とが捩れた状態のままPMMAブラシの表層部が回転し、電圧をOFFにした直後にバルクの液晶は界面の位置に移動(捩れを解く)してホモジニアス配向となり、その後はホモジニアス配向のまま初期配向方向に戻る挙動が見られた。また、図12から分かるように、実施例2の液晶表示素子も、少なくとも45℃以下では、アンカリング能力が長時間に渡り安定であることが確認され、65℃以上で透過率の変化が確認された。この結果から、PMMA塗布膜の表層部(液晶によって膨潤された部分)は、45℃〜65℃の範囲にガラス転移温度を有するものと推察される。また、85℃においては、0秒〜10000秒までは界面近傍の液晶とバルクの液晶とが捩れた状態のままPMMA塗布膜の表層部が回転し、電圧をOFFにした直後にバルクの液晶は界面の位置に移動(捩れを解く)してホモジニアス配向となり、その後はホモジニアス配向のまま初期配向方向に戻る挙動が見られた。
【0056】
次に、実施例1及び実施例2で得られた液晶表示素子の両側に、偏光板をクロスニコルにして設け、85℃の温度に加熱しながらV15(最大透過率の15%が得られる電圧:実施例1では4V、実施例2では3.6V)の電圧を7200秒印加した後、25℃まで冷却し、25℃で電圧を印加しない状態で9000秒放置した。その間の透過率の変化を大塚電子製LCD−5200により測定した。85℃でV15印加時の結果を図13に示し、25℃まで冷却した後、電圧を印加しない状態の結果を図14に示した。
図13から分かるように、実施例1の液晶表示素子は、電圧印加直後に透過率が10%程度まで上昇し、その後も時間経過に伴って透過率が次第に上昇し、33%を超える透過率が達成された。また、実施例2の液晶表示素子は、電圧印加直後に透過率が8.5%程度まで上昇し、その後も時間経過に伴って透過率が次第に上昇して30%を超え、その後は低下して29%程度の透過率となった。実施例1及び2の液晶表示素子に45℃未満でV15を印加した場合、透過率は3%程度(透過率最大値の15%程度)であり、また、比較例1の液晶表示素子に透過率の最大値を与える電圧を印加した際の透過率が20%程度であることを考えると、実施例1及び2の液晶表示素子に85℃でV15を印加した際に達成される透過率が如何に高いかが理解できる。更に、図14から分かるように、85℃でV15印加後、25℃まで冷却した後の実施例1及び実施例2の液晶表示素子は、冷却前の透過率が維持されたままであった。なお、1ヶ月経過後もメモリー画像を完全に維持した状態であった。実施例1及び2の液晶表示素子は、通常の液晶表示素子に比べ、低い電圧で高い透過率が達成できると共にメモリー性も有しており、大幅な低消費電力化を実現することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 アレイ基板、2 対向基板、3 液晶材料、4 電極、4a,4b 櫛歯電極、5 固定化膜、6 ポリマーブラシ、7 液晶分子、8 塗布膜。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子物質を配向膜として形成した一対の電極付基板間に液晶材料が封入された構造を有し、温度及び電圧によって配向膜の表層部と液晶材料との配向を変化させて画像の表示を行うことを特徴とする液晶表示素子。
【請求項2】
前記配向膜が、ポリマーブラシであるか、塗布膜であるか、または液晶材料中に一旦溶解もしくは分散させた高分子物質を基板表面に吸着させた膜であることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示素子。
【請求項3】
前記配向膜の表層部が前記液晶材料によって膨潤されており、配向膜の液晶材料によって膨潤された部分のガラス転移温度(Tg)が、液晶材料のN相からI相へ相転移する温度(TNI)よりも低いことを特徴とする請求項1に記載の液晶表示素子。
【請求項4】
前記配向膜の液晶材料によって膨潤された部分の初期配向が、一軸配向であることを特徴とする請求項3に記載の液晶表示素子。
【請求項5】
前記配向膜の液晶材料によって膨潤された部分の初期配向が、ランダム配向であることを特徴とする請求項3に記載の液晶表示素子。
【請求項6】
前記電極付基板に配設された電極が、櫛歯電極であることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示素子。
【請求項7】
前記櫛歯電極が2組あり、前記液晶材料の初期配向方向に対し略対称となるように配設されていることを特徴とする請求項6に記載の液晶表示素子。
【請求項8】
前記2組の櫛歯電極が、一対の前記電極付基板それぞれに分けて配設されていることを特徴とする請求項7に記載の液晶表示素子。
【請求項9】
前記2組の櫛歯電極が、一方の前記電極付基板のみに絶縁膜を介して配設されていることを特徴とする請求項7に記載の液晶表示素子。
【請求項10】
温度制御ユニットを備える請求項1に記載の液晶表示素子。
【請求項11】
高分子物質を配向膜として形成した一対の電極付基板間に液晶材料が封入された構造を有し、配向膜の表層部が液晶材料によって膨潤されており、配向膜の液晶材料によって膨潤された部分のガラス転移温度(Tg)が、液晶材料のN相からI相へ相転移する温度(TNI)よりも低い液晶表示素子の駆動方法であって、
Tg以上の温度で電極に電圧を印加することによって配向膜の表層部と液晶材料との配向を変化させ、その後、Tg未満の温度に冷却することによって配向膜の表層部の配向を固定化するステップを含むことを特徴とする液晶表示素子の駆動方法。
【請求項12】
請求項11に記載の液晶表示素子の駆動方法であって、
前記配向膜の液晶材料によって膨潤された部分の初期配向が、一軸配向である時に、前記ステップで変化させた配向膜の表層部の配向を、Tg以上の温度で電極に電圧を印加することによって一軸配向に戻すステップを更に含むことを特徴とする液晶表示素子の駆動方法。
【請求項13】
請求項11に記載の液晶表示素子の駆動方法であって、
前記配向膜の液晶材料によって膨潤された部分の初期配向が、ランダム配向である時に、前記ステップで変化させた配向膜の表層部の配向を、Tg以上の温度に加熱することによってランダム配向に戻すステップを更に含むことを特徴とする液晶表示素子の駆動方法。
【請求項1】
高分子物質を配向膜として形成した一対の電極付基板間に液晶材料が封入された構造を有し、温度及び電圧によって配向膜の表層部と液晶材料との配向を変化させて画像の表示を行うことを特徴とする液晶表示素子。
【請求項2】
前記配向膜が、ポリマーブラシであるか、塗布膜であるか、または液晶材料中に一旦溶解もしくは分散させた高分子物質を基板表面に吸着させた膜であることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示素子。
【請求項3】
前記配向膜の表層部が前記液晶材料によって膨潤されており、配向膜の液晶材料によって膨潤された部分のガラス転移温度(Tg)が、液晶材料のN相からI相へ相転移する温度(TNI)よりも低いことを特徴とする請求項1に記載の液晶表示素子。
【請求項4】
前記配向膜の液晶材料によって膨潤された部分の初期配向が、一軸配向であることを特徴とする請求項3に記載の液晶表示素子。
【請求項5】
前記配向膜の液晶材料によって膨潤された部分の初期配向が、ランダム配向であることを特徴とする請求項3に記載の液晶表示素子。
【請求項6】
前記電極付基板に配設された電極が、櫛歯電極であることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示素子。
【請求項7】
前記櫛歯電極が2組あり、前記液晶材料の初期配向方向に対し略対称となるように配設されていることを特徴とする請求項6に記載の液晶表示素子。
【請求項8】
前記2組の櫛歯電極が、一対の前記電極付基板それぞれに分けて配設されていることを特徴とする請求項7に記載の液晶表示素子。
【請求項9】
前記2組の櫛歯電極が、一方の前記電極付基板のみに絶縁膜を介して配設されていることを特徴とする請求項7に記載の液晶表示素子。
【請求項10】
温度制御ユニットを備える請求項1に記載の液晶表示素子。
【請求項11】
高分子物質を配向膜として形成した一対の電極付基板間に液晶材料が封入された構造を有し、配向膜の表層部が液晶材料によって膨潤されており、配向膜の液晶材料によって膨潤された部分のガラス転移温度(Tg)が、液晶材料のN相からI相へ相転移する温度(TNI)よりも低い液晶表示素子の駆動方法であって、
Tg以上の温度で電極に電圧を印加することによって配向膜の表層部と液晶材料との配向を変化させ、その後、Tg未満の温度に冷却することによって配向膜の表層部の配向を固定化するステップを含むことを特徴とする液晶表示素子の駆動方法。
【請求項12】
請求項11に記載の液晶表示素子の駆動方法であって、
前記配向膜の液晶材料によって膨潤された部分の初期配向が、一軸配向である時に、前記ステップで変化させた配向膜の表層部の配向を、Tg以上の温度で電極に電圧を印加することによって一軸配向に戻すステップを更に含むことを特徴とする液晶表示素子の駆動方法。
【請求項13】
請求項11に記載の液晶表示素子の駆動方法であって、
前記配向膜の液晶材料によって膨潤された部分の初期配向が、ランダム配向である時に、前記ステップで変化させた配向膜の表層部の配向を、Tg以上の温度に加熱することによってランダム配向に戻すステップを更に含むことを特徴とする液晶表示素子の駆動方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−248089(P2011−248089A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121210(P2010−121210)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(501426046)エルジー ディスプレイ カンパニー リミテッド (732)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(501426046)エルジー ディスプレイ カンパニー リミテッド (732)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】
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