説明

液晶表示装置及びその製造方法

【課題】大がかりな装置を用いなくても容易に応答特性を向上させることが可能な液晶表示素子の製造方法を提供する。
【解決手段】液晶表示素子の製造方法は、一対の基板20,30の一方に、側鎖として架橋性官能基を有する高分子化合物から成る第1配向膜22を形成する工程と、一対の基板20,30の他方に、第2配向膜32を形成する工程と、一対の基板20,30を、第1配向膜22と第2配向膜32とが対向するように配置し、第1配向膜22と第2配向膜32との間に、負の誘電率異方性を有する液晶分子41を含む液晶層40を封止する工程と、液晶層40を封止した後、高分子化合物を架橋させて、液晶分子41にプレチルトを付与する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対向面に配向膜を有する一対の基板の間に液晶層が封止された液晶表示素子を備えた液晶表示装置、及び、液晶表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶テレビジョン受像機やノート型パーソナルコンピュータ、カーナビゲーション装置等の表示モニタとして、液晶ディスプレイ(LCD;Liquid Crystal Display)が多く用いられている。この液晶ディスプレイは、基板間に挟持された液晶層中に含まれる液晶分子の分子配列(配向)によって様々な表示モード(方式)に分類される。表示モードとして、例えば、電圧をかけない状態で液晶分子がねじれて配向しているTN(Twisted Nematic;ねじれネマティック)モードがよく知られている。TNモードでは、液晶分子は、正の誘電率異方性、即ち、液晶分子の長軸方向の誘電率が短軸方向に比べて大きい性質を有している。このため、液晶分子は、基板面に対して平行な面内において、液晶分子の配向方位を順次回転させつつ、基板面に垂直な方向に整列させた構造となっている。
【0003】
この一方で、電圧をかけない状態で液晶分子が基板面に対して垂直に配向しているVA(Vertical Alignment)モードに対する注目が高まっている。VAモードでは、液晶分子は、負の誘電率異方性、即ち、液晶分子の長軸方向の誘電率が短軸方向に比べて小さい性質を有しており、TNモードに比べて広視野角を実現できる。
【0004】
このようなVAモードの液晶ディスプレイでは、電圧が印加されると、基板に対して垂直方向に配向していた液晶分子が、負の誘電率異方性により、基板に対して平行方向に倒れるように応答することによって、光を透過させる構成となっている。ところが、基板に対して垂直方向に配向した液晶分子の倒れる方向は任意であるため、電圧印加により液晶分子の配向が乱れ、よって、電圧に対する応答特性を悪化させる要因となっていた。
【0005】
そこで、応答特性を向上させるために、液晶分子が電圧に応答して倒れる方向を規制する技術が検討されている。具体的には、紫外光の直線偏光の光あるいは基板面に対して斜め方向から紫外光を照射することにより形成された配向膜を用いて、液晶分子に対してプレチルトを付与する技術(光配向膜技術)等である。光配向膜技術として、例えば、カルコン構造を含むポリマーから成る膜に対して、紫外光の直線偏光の光あるいは基板面に対して斜め方向から紫外光を照射し、カルコン構造中の二重結合部分が架橋することにより配向膜を形成する技術が知られている(特許文献1〜特許文献3参照)。また、この他に、ビニルシンナメート誘導体高分子とポリイミドとの混合物を用いて配向膜を形成する技術がある(特許文献4参照)。更に、ポリイミドを含む膜に対して波長254nmの直線偏光の光を照射して、ポリイミドの一部を分解することにより配向膜を形成する技術(特許文献5参照)等も知られている。また、光配向膜技術の周辺技術として、直線偏光の光あるいは斜め光を照射した、アゾベンゼン誘導体等の二色性光反応性構成単位を含むポリマーから成る膜上に、液晶性高分子化合物から成る膜を形成することにより液晶性配向膜とする技術もある(特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−087859号公報
【特許文献2】特開平10−252646号公報
【特許文献3】特開2002−082336号公報
【特許文献4】特開平10−232400号公報
【特許文献5】特開平10−073821号公報
【特許文献6】特開平11−326638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した光配向膜技術では、応答特性は向上するものの、配向膜を形成する際に、直線偏光の光を照射する装置や、基板面に対して斜め方向から光照射する装置といった大がかりな光照射装置が必要とされるという問題がある。また、より広い視野角を実現するために、画素内に複数のサブ画素を設けて液晶分子の配向を分割したマルチドメインを有する液晶ディスプレイを製造するためには、より大がかりな装置が必要とされる上、製造工程が複雑になるという問題もある。具体的には、マルチドメインを有する液晶ディスプレイでは、サブ画素毎、プレチルトが異なるように配向膜が形成されている。従って、マルチドメインを有する液晶ディスプレイの製造において上記の光配向膜技術を用いる場合、サブ画素毎に光照射することになるため、サブ画素毎のマスクパターンが必要となり、更に光照射装置が大がかりとなる。
【0008】
本発明は係る問題点に鑑みてなされたもので、本発明の第1の目的は、応答特性を向上させることが可能な液晶表示素子を備えた液晶表示装置を提供することにある。また、本発明の第2の目的は、大がかりな装置を用いなくても、容易に応答特性を向上させることが可能な液晶表示装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の第1の目的を達成するための本発明の第1の態様に係る液晶表示装置は、
一対の基板の対向面側に設けられた一対の配向膜と、一対の配向膜の間に設けられ、負の誘電率異方性を有する液晶分子を含む液晶層とを有する液晶表示素子を備え、
一対の配向膜のうちの少なくとも一方は、側鎖として架橋性官能基を有する高分子化合物が架橋した化合物(便宜上、『配向処理後・化合物』と呼ぶ)を含み、
液晶分子は、架橋した化合物(配向処理後・化合物)によってプレチルトが付与される。また、上記の第1の目的を達成するための第1の態様に係る液晶表示素子は、本発明の第1の態様に係る液晶表示装置における液晶表示素子から成る。ここで、『架橋性官能基』とは、架橋構造(橋かけ構造)を形成することが可能な基を意味する。
【0010】
上記の第1の目的を達成するための本発明の第2の態様に係る液晶表示装置は、
一対の基板の対向面側に設けられた一対の配向膜と、一対の配向膜の間に設けられ、負の誘電率異方性を有する液晶分子を含む液晶層とを有する液晶表示素子を備え、
一対の配向膜のうちの少なくとも一方は、側鎖として感光性官能基を有する高分子化合物が変形した化合物(便宜上、『配向処理後・化合物』と呼ぶ)を含み、
液晶分子は、変形した化合物(配向処理後・化合物)によってプレチルトが付与される。また、上記の第1の目的を達成するための第2の態様に係る液晶表示素子は、本発明の第2の態様に係る液晶表示装置における液晶表示素子から成る。ここで、『感光性官能基』とは、エネルギー線を吸収することが可能な基を意味する。
【0011】
上記の第2の目的を達成するための本発明の第1の態様に係る液晶表示装置の製造方法(あるいは液晶表示素子の製造方法)は、
一対の基板の一方に、側鎖として架橋性官能基を有する高分子化合物(便宜上、『配向処理前・化合物』と呼ぶ)から成る第1配向膜を形成する工程と、
一対の基板の他方に、第2配向膜を形成する工程と、
一対の基板を、第1配向膜と第2配向膜とが対向するように配置し、第1配向膜と第2配向膜との間に、負の誘電率異方性を有する液晶分子を含む液晶層を封止する工程と、
液晶層を封止した後、高分子化合物(配向処理前・化合物)を架橋させて、液晶分子にプレチルトを付与する工程、
とを含む。
【0012】
ここで、本発明の第1の態様に係る液晶表示装置の製造方法(あるいは液晶表示素子の製造方法)においては、液晶層に対して所定の電場を印加することにより液晶分子を配向させつつ、紫外線を照射して高分子化合物(配向処理前・化合物)の側鎖を架橋させる形態とすることができる。
【0013】
そして、この場合、液晶分子を一対の基板の少なくとも一方の基板の表面に対して斜め方向に配列させるように、液晶層に対して電場を印加しながら紫外線を照射することが好ましく、更には、一対の基板は、画素電極を有する基板、及び、対向電極を有する基板から構成されており、画素電極を有する基板側から紫外線を照射することがより好ましい。一般に、対向電極を有する基板側にはカラーフィルターが形成されており、このカラーフィルターによって紫外線が吸収され、配向膜材料の架橋性官能基の反応が生じ難くなる可能性があるが故に、上述したとおり、カラーフィルターが形成されていない画素電極を有する基板側から紫外線を照射することが一層好ましい。画素電極を有する基板側にカラーフィルターが形成されている場合、対向電極を有する基板側から紫外線を照射することが好ましい。尚、基本的に、プレチルトが付与されるときの液晶分子の方位角(偏角)は電場の方向によって規定され、極角(天頂角)は電場の強さによって規定される。後述する本発明の第2の態様〜第3の態様に係る液晶表示装置の製造方法においても、同様である。
【0014】
上記の第2の目的を達成するための本発明の第2の態様に係る液晶表示装置の製造方法(あるいは液晶表示素子の製造方法)は、
一対の基板の一方に、側鎖として感光性官能基を有する高分子化合物(便宜上、『配向処理前・化合物』と呼ぶ)から成る第1配向膜を形成する工程と、
一対の基板の他方に、第2配向膜を形成する工程と、
一対の基板を、第1配向膜と第2配向膜とが対向するように配置し、第1配向膜と第2配向膜との間に、負の誘電率異方性を有する液晶分子を含む液晶層を封止する工程と、
液晶層を封止した後、高分子化合物(配向処理前・化合物)を変形させることで、液晶分子にプレチルトを付与する工程、
とを含む。
【0015】
ここで、本発明の第2の態様に係る液晶表示装置の製造方法(あるいは液晶表示素子の製造方法)においては、液晶層に対して所定の電場を印加することにより液晶分子を配向させつつ、紫外線を照射して高分子化合物(配向処理前・化合物)の側鎖を変形させる形態とすることができる。
【0016】
上記の第2の目的を達成するための本発明の第3の態様に係る液晶表示素子の製造方法(あるいは液晶表示素子の製造方法)は、
一対の基板の一方に、側鎖として架橋性官能基又は感光性官能基を有する高分子化合物(便宜上、『配向処理前・化合物』と呼ぶ)から成る第1配向膜を形成する工程と、
一対の基板の他方に、第2配向膜を形成する工程と、
一対の基板を、第1配向膜と第2配向膜とが対向するように配置し、第1配向膜と第2配向膜との間に、負の誘電率異方性を有する液晶分子を含む液晶層を封止する工程と、
液晶層を封止した後、高分子化合物(配向処理前・化合物)にエネルギー線を照射することで、液晶分子にプレチルトを付与する工程、
とを含む。ここで、エネルギー線として、紫外線、X線、電子線を挙げることができる。
【0017】
ここで、本発明の第3の態様に係る液晶表示装置の製造方法(あるいは液晶表示素子の製造方法)においては、液晶層に対して所定の電場を印加することにより液晶分子を配向させつつ、高分子化合物にエネルギー線として紫外線を照射する形態とすることができる。
【0018】
本発明の第1の態様に係る液晶表示装置、あるいは、上記の好ましい形態を含む本発明の第1の態様に係る液晶表示装置の製造方法を、以下、総称して、単に、『本発明の第1の態様』と呼ぶ場合があるし、本発明の第2の態様に係る液晶表示装置、あるいは、上記の好ましい形態を含む本発明の第2の態様に係る液晶表示装置の製造方法を、以下、総称して、単に、『本発明の第2の態様』と呼ぶ場合があるし、上記の好ましい形態を含む本発明の第3の態様に係る液晶表示装置の製造方法を、以下、総称して、単に、『本発明の第3の態様』と呼ぶ場合がある。
【0019】
本発明の第1の態様、第2の態様あるいは第3の態様において、高分子化合物(配向処理前・化合物)あるいは一対の配向膜のうちの少なくとも一方を構成する化合物(配向処理後・化合物)は、更に、式(1)で表される基を側鎖として有する化合物から成る構成とすることができる。尚、このような構成を、便宜上、『本発明の第1Aの構成、本発明の第2Aの構成、本発明の第3Aの構成』と呼ぶ。
【0020】
−R1−R2−R3 (1)
ここで、R1は、炭素数3以上の直鎖状又は分岐状の2価の有機基であり、高分子化合物あるいは架橋した化合物(配向処理前・化合物あるいは配向処理後・化合物)の主鎖に結合しており、R2は、複数の環構造を含む2価の有機基であり、環構造を構成する原子のうちの1つはR1に結合しており、R3は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、カーボネート基を有する1価の基、又は、それらの誘導体である。
【0021】
あるいは又、本発明の第1の態様、第2の態様あるいは第3の態様において、高分子化合物(配向処理前・化合物)あるいは一対の配向膜のうちの少なくとも一方を構成する化合物(配向処理後・化合物)は、式(2)で表される基を側鎖として有する化合物から成る構成とすることができる。尚、このような構成を、便宜上、『本発明の第1Bの構成、本発明の第2Bの構成、本発明の第3Bの構成』と呼ぶ。
【0022】
−R11−R12−R13−R14 (2)
ここで、R11は、炭素数1以上、20以下、好ましくは、炭素数3以上、12以下の直鎖状又は分岐状の2価の、エーテル基あるいはエステル基を含むことある有機基であり、高分子化合物あるいは架橋した化合物(配向処理前・化合物あるいは配向処理後・化合物)の主鎖に結合しており、あるいは又、R11は、エーテル基あるいはエステル基であり、高分子化合物あるいは架橋した化合物(配向処理前・化合物あるいは配向処理後・化合物)の主鎖に結合しており、R12は、例えば、カルコン、シンナメート、シンナモイル、クマリン、マレイミド、ベンゾフェノン、ノルボルネン、オリザノール、及び、キトサンのうちのいずれか1種の構造を含む2価の基、又は、エチニレン基であり、R13は、複数の環構造を含む2価の有機基であり、R14は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、カーボネート基を有する1価の基、又は、それらの誘導体である。
【0023】
あるいは又、本発明の第1の態様において、高分子化合物(配向処理前・化合物)を架橋させることにより得られた化合物(配向処理後・化合物)は、側鎖、及び、基板に対して側鎖を支持する主鎖から構成されており、側鎖は、主鎖に結合し、側鎖の一部が架橋した架橋部、及び、架橋部に結合した末端構造部から構成されており、液晶分子は、末端構造部に沿い、又は、末端構造部に挟まれることでプレチルトが付与される構成とすることができる。あるいは又、本発明の第2の態様において、高分子化合物(配向処理前・化合物)を変形させることにより得られた化合物(配向処理後・化合物)は、側鎖、及び、基板に対して側鎖を支持する主鎖から構成されており、側鎖は、主鎖に結合し、側鎖の一部が変形した変形部、及び、変形部に結合した末端構造部から構成されており、液晶分子は、末端構造部に沿い、又は、末端構造部に挟まれることでプレチルトが付与される構成とすることができる。あるいは又、本発明の第3の態様において、高分子化合物にエネルギー線を照射することにより得られた化合物は、側鎖、及び、基板に対して側鎖を支持する主鎖から構成されており、側鎖は、主鎖に結合し、側鎖の一部が架橋あるいは変形した架橋・変形部、及び、架橋・変形部に結合した末端構造部から構成されており、液晶分子は、末端構造部に沿い、又は、末端構造部に挟まれることでプレチルトが付与される構成とすることができる。尚、このような構成を、便宜上、『本発明の第1Cの構成、本発明の第2Cの構成、本発明の第3Cの構成』と呼ぶ。本発明の第1Cの構成、本発明の第2Cの構成、本発明の第3Cの構成にあっては、末端構造部はメソゲン基を有する形態とすることができる。
【0024】
あるいは又、本発明の第1の態様において、高分子化合物(配向処理前・化合物)を架橋させることにより得られた化合物(配向処理後・化合物)は、側鎖、及び、基板に対して側鎖を支持する主鎖から構成されており、側鎖は、主鎖に結合し、側鎖の一部が架橋した架橋部、及び、架橋部に結合し、メソゲン基を有する末端構造部から構成されている構成とすることができる。尚、このような構成を、便宜上、『本発明の第1Dの構成』と呼ぶ。更には、本発明の第1Dの構成にあっては、主鎖と架橋部とは共有結合によって結合しており、架橋部と末端構造部とは共有結合によって結合している形態とすることができる。あるいは又、本発明の第2の態様において、高分子化合物(配向処理前・化合物)を変形させることにより得られた化合物(配向処理後・化合物)は、側鎖、及び、基板に対して側鎖を支持する主鎖から構成されており、側鎖は、主鎖に結合し、側鎖の一部が変形した変形部、及び、変形部に結合し、メソゲン基を有する末端構造部から構成されている構成とすることができる。尚、このような構成を、便宜上、『本発明の第2Dの構成』と呼ぶ。あるいは又、本発明の第3の態様において、高分子化合物(配向処理前・化合物)にエネルギー線を照射することにより得られた化合物(配向処理後・化合物)は、側鎖、及び、基板に対して側鎖を支持する主鎖から構成されており、側鎖は、主鎖に結合し、側鎖の一部が架橋あるいは変形した架橋・変形部、及び、架橋・変形部に結合し、メソゲン基を有する末端構造部から構成されている構成とすることができる。尚、このような構成を、便宜上、『本発明の第3Dの構成』と呼ぶ。
【0025】
本発明の第1Aの構成〜本発明の第1Dの構成を含む本発明の第1の態様にあっては、側鎖(より具体的には、架橋部)は光二量化感光基を有する形態とすることができる。
【0026】
更には、以上に説明した好ましい構成、形態を含む本発明の第1の態様〜第3の態様ににおいて、第1配向膜の表面粗さRaは1nm以下であり、あるいは又、一対の配向膜のうちの少なくとも一方の表面粗さRaは1nm以下である構成とすることができる。尚、このような構成を、便宜上、『本発明の第1Eの構成、本発明の第2Eの構成、本発明の第3Eの構成』と呼ぶ。ここで、表面粗さRaは、JIS B 0601:2001に規定されている。
【0027】
更には、以上に説明した好ましい構成、形態を含む本発明の第1の態様〜第3の態様ににおいて、第2配向膜は第1配向膜を構成する高分子化合物(配向処理前・化合物)から成り、あるいは又、一対の配向膜は同じ組成を有する形態とすることができる。但し、本発明の第1の態様〜第3の態様において規定される高分子化合物(配向処理前・化合物)から構成される限り、一対の配向膜は、異なる組成を有する構成としてもよいし、第2配向膜は、第1配向膜を構成する高分子化合物(配向処理前・化合物)とは異なる高分子化合物(配向処理前・化合物)から成る構成としてもよい。
【0028】
更には、以上に説明した好ましい構成、形態を含む本発明の第1の態様〜第3の態様において、電極に形成されたスリットから成る配向規制部、又は、基板に設けられた突起から成る配向規制部が設けられている構成とすることができる。
【0029】
以上に説明した好ましい構成、形態を含む本発明の第1の態様〜本発明の第3の態様において、主鎖は繰り返し単位中にイミド結合を含む構成とすることができる。また、高分子化合物(配向処理後・化合物)は、液晶分子を一対の基板に対して所定の方向に配列させる構造を含む形態とすることができる。更には、一対の基板は、画素電極を有する基板、及び、対向電極を有する基板から構成されている形態とすることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の第1の態様に係る液晶表示装置にあっては、一対の配向膜のうちの少なくとも一方が、側鎖として架橋性官能基を有する高分子化合物が架橋した化合物を含むため、架橋した化合物により液晶分子にプレチルトが付与される。このため、画素電極と対向電極との間に電界が印加されると、液晶分子は、その長軸方向が基板面に対して所定の方向に応答し、良好な表示特性が確保される。その上、架橋した化合物によって液晶分子にプレチルトが付与されているため、液晶分子にプレチルトが付与されていない場合と比較して電極間の電界に応じた応答速度が早くなり、架橋した化合物を用いずにプレチルトを付与した場合と比較して、良好な表示特性が維持され易くなる。
【0031】
本発明の第1の態様に係る液晶表示装置の製造方法にあっては、側鎖として架橋性官能基を有する高分子化合物を含む第1配向膜を形成した後、第1配向膜及び第2配向膜の間に、液晶層を封止する。ここで、液晶層中の液晶分子は、第1配向膜及び第2配向膜により、全体として第1配向膜及び第2配向膜表面に対して所定の方向(例えば、水平方向、垂直方向あるいは斜め方向)に配列した状態となる。次いで、電場を印加しながら、架橋性官能基を反応させることにより高分子化合物を架橋させる。これにより、架橋した化合物近傍の液晶分子に対してプレチルトを付与することが可能となる。即ち、液晶分子が配列した状態で高分子化合物を架橋させることにより、液晶層を封止する前に配向膜に対して直線偏光の光や斜め方向の光を照射しなくても、また、大がかりな装置を用いなくても、液晶分子に対してプレチルトを付与することができる。このため、液晶分子にプレチルトが付与されていない場合と比較して、応答速度が向上する。
【0032】
本発明の第2の態様に係る液晶表示装置にあっては、一対の配向膜のうちの少なくとも一方が、側鎖として感光性官能基を有する高分子化合物が変形した化合物を含むため、変形した化合物により液晶分子にプレチルトが付与される。このため、画素電極と対向電極との間に電界が印加されると、液晶分子は、その長軸方向が基板面に対して所定の方向に応答し、良好な表示特性が確保される。その上、架橋した化合物によって液晶分子にプレチルトが付与されているため、液晶分子にプレチルトが付与されていない場合と比較して電極間の電界に応じた応答速度が早くなり、変形した化合物を用いずにプレチルトを付与した場合と比較して、良好な表示特性が維持され易くなる。
【0033】
本発明の第2の態様に係る液晶表示装置の製造方法にあっては、側鎖として感光性官能基を有する高分子化合物を含む第1配向膜を形成した後、第1配向膜及び第2配向膜の間に、液晶層を封止する。ここで、液晶層中の液晶分子は、第1配向膜及び第2配向膜により、全体として第1配向膜及び第2配向膜表面に対して所定の方向(例えば、水平方向、垂直方向あるいは斜め方向)に配列した状態となる。次いで、電場を印加しながら、高分子化合物を変形させる。これにより、変形した化合物近傍の液晶分子に対してプレチルトを付与することが可能となる。即ち、液晶分子が配列した状態で高分子化合物を変形させることにより、液晶層を封止する前に配向膜に対して直線偏光の光や斜め方向の光を照射しなくても、また、大がかりな装置を用いなくても、液晶分子に対してプレチルトを付与することができる。このため、液晶分子にプレチルトが付与されていない場合と比較して、応答速度が向上する。
【0034】
本発明の第3の態様に係る液晶表示装置の製造方法にあっては、高分子化合物(配向処理前・化合物)にエネルギー線を照射することで、液晶分子にプレチルトを付与する。即ち、液晶分子が配列した状態で高分子化合物の側鎖を架橋あるいは変形させることにより、液晶層を封止する前に配向膜に対して直線偏光の光や斜め方向の光を照射しなくても、また、大がかりな装置を用いなくても、液晶分子に対してプレチルトを付与することができる。このため、液晶分子にプレチルトが付与されていない場合と比較して、応答速度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、本発明の液晶表示装置の模式的な一部断面図である。
【図2】図2は、液晶分子のプレチルトを説明するための模式図である。
【図3】図3は、図1に示した液晶表示装置の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図4】図4は、図1に示した液晶表示装置の製造方法を説明するための配向膜中における高分子化合物(配向処理前・化合物)の状態を表す模式図である。
【図5】図5は、図1に示した液晶表示装置の製造方法を説明するための基板等の模式的な一部断面図である。
【図6】図6は、図5に続く工程を説明するための基板等の模式的な一部断面図である。
【図7】図7の(A)及び図7の(B)は、それぞれ、図6に続く工程を説明するための基板等の模式的な一部断面図、及び、配向膜中における高分子化合物(配向処理後・化合物)の状態を表す模式図である。
【図8】図8は、図1に示した液晶表示装置の回路構成図である。
【図9】図9は、オーダーパラメータを説明するための断面模式図である。
【図10】図10は、本発明の液晶表示装置の変形例の模式的な一部断面図である。
【図11】図11は、図10に示した液晶表示装置の変形例の模式的な一部断面図である。
【図12】図12は、本発明の液晶表示装置の更に別の変形例の模式的な一部断面図である。
【図13】図13は、実施例1における印加電圧と応答時間との関係を表した特性図である。
【図14】図14は、実施例2における時間と透過率との関係を表した特性図である。
【図15】図15は、架橋した高分子化合物と液晶分子との関係を説明する概念図である。
【図16】図16は、変形した高分子化合物と液晶分子との関係を説明する概念図である。
【図17】図17の(A)、(B)及び(C)は、実施例4A、比較例4A、比較例4Eにおける配向膜表面のAFM像である。
【図18】図18は、実施例4A〜実施例4H、比較例4A〜比較例4Lにおける表面粗さRaと応答時間の関係をプロットしたグラフである。
【図19】図19は、実施例4A〜実施例4H、比較例4A〜比較例4Lにおけるコントラストと応答時間の関係をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面を参照して、発明の実施の形態、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明は発明の実施の形態、実施例に限定されるものではなく、発明の実施の形態、実施例における種々の数値や材料は例示である。尚、説明は、以下の順序で行う。
1.[本発明の液晶表示装置における共通の構成、構造に関する説明]
2.[発明の実施の形態に基づく、本発明の液晶表示装置及びその製造方法の説明]
3.[実施例に基づく、本発明の液晶表示装置及びその製造方法の説明、その他]
【0037】
[本発明の液晶表示装置(液晶表示素子)における共通の構成、構造に関する説明]
本発明の第1の態様〜第3の態様に係る液晶表示装置(あるいは液晶表示素子)の模式的な一部断面図を、図1に示す。この液晶表示装置は、複数の画素10(10A,10B,10C・・・)を有している。この液晶表示装置(液晶表示素子)においては、TFT(Thin Film Transistor;薄膜トランジスタ)基板20とCF(Color Filter;カラーフィルタ)基板30との間に、配向膜22,32を介して液晶分子41を含む液晶層40が設けられている。この液晶表示装置(液晶表示素子)は、所謂透過型であり、表示モードは垂直配向(VA)モードである。図1では、駆動電圧が印加されていない非駆動状態を表している。
【0038】
TFT基板20には、ガラス基板20AのCF基板30と対向する側の表面に、例えば、マトリクス状に複数の画素電極20Bが配置されている。更に、複数の画素電極20Bをそれぞれ駆動するゲート・ソース・ドレイン等を備えたTFTスイッチング素子や、これらTFTスイッチング素子に接続されるゲート線及びソース線等(図示せず)が設けられている。画素電極20Bは、ガラス基板20A上に画素分離部50によって電気的に分離された画素毎に設けられ、例えばITO(インジウム錫酸化物)等の透明性を有する材料により構成されている。画素電極20Bには、各画素内において、例えば、ストライプ状やV字状のパターンを有するスリット部21(電極の形成されない部分)が設けられている。これにより、駆動電圧が印加されると、液晶分子41の長軸方向に対して斜めの電場が付与され、画素内に配向方向の異なる領域が形成されるため(配向分割)、視野角特性が向上する。即ち、スリット部21は、良好な表示特性を確保するために、液晶層40中の液晶分子41全体の配向を規制するための配向規制部であり、ここでは、このスリット部21によって駆動電圧印加時の液晶分子41の配向方向を規制している。上述したとおり、基本的に、プレチルトが付与されたときの液晶分子の方位角は電場の方向によって規定され、電場の方向は配向規制部によって決定される。
【0039】
CF基板30には、ガラス基板30AのTFT基板20との対向面に、有効表示領域のほぼ全面に亙って、例えば、赤(R)、緑(G)、青(B)のストライプ状フィルタにより構成されたカラーフィルタ(図示せず)と、対向電極30Bとが配置されている。対向電極30Bは、画素電極20Bと同様に、例えばITO等の透明性を有する材料により構成されている。
【0040】
配向膜22は、TFT基板20の液晶層40側の表面に画素電極20B及びスリット部21を覆うように設けられている。配向膜32は、CF基板30の液晶層40側の表面に対向電極30Bを覆うように設けられている。配向膜22,32は、液晶分子41の配向を規制するものであり、ここでは、液晶分子41を基板面に対して垂直方向に配向させると共に、基板近傍の液晶分子41(41A,41B)に対してプレチルトを付与する機能を有している。尚、図1に示す液晶表示装置(液晶表示素子)にあっては、CF基板30の側には、スリット部は設けられていない。
【0041】
図8は、図1に示した液晶表示装置の回路構成を表している。
【0042】
図8に示すように、液晶表示装置は、表示領域60内に設けられた複数の画素10を有する液晶表示素子を含んで構成されている。この液晶表示装置では、表示領域60の周囲には、ソースドライバ61及びゲートドライバ62と、ソースドライバ61及びゲートドライバ62を制御するタイミングコントローラ63と、ソースドライバ61及びゲートドライバ62に電力を供給する電源回路64とが設けられている。
【0043】
表示領域60は、映像が表示される領域であり、複数の画素10がマトリックス状に配列されることにより映像を表示可能に構成された領域である。尚、図8では、複数の画素10を含む表示領域60を示しているほか、4つの画素10に対応する領域を別途拡大して示している。
【0044】
表示領域60では、行方向に複数のソース線71が配列されていると共に、列方向に複数のゲート線72が配列されており、ソース線71及びゲート線72が互いに交差する位置に画素10がそれぞれ配置されている。各画素10は、画素電極20B及び液晶層40と共に、トランジスタ121及びキャパシタ122を含んで構成されている。各トランジスタ121では、ソース電極がソース線71に接続され、ゲート電極がゲート線72に接続され、ドレイン電極がキャパシタ122及び画素電極20Bに接続されている。各ソース線71は、ソースドライバ61に接続されており、ソースドライバ61から画像信号が供給される。各ゲート線72は、ゲートドライバ62に接続されており、ゲートドライバ62から走査信号が順次供給される。
【0045】
ソースドライバ61及びゲートドライバ62は、複数の画素10の中から特定の画素10を選択する。
【0046】
タイミングコントローラ63は、例えば、画像信号(例えば、赤、緑、青に対応するRGBの各映像信号)と、ソースドライバ61の動作を制御するためのソースドライバ制御信号とを、ソースドライバ61に出力する。また、タイミングコントローラ63は、例えば、ゲートドライバ62の動作を制御するためのゲートドライバ制御信号をゲートドライバ62に出力する。ソースドライバ制御信号として、例えば、水平同期信号、スタートパルス信号あるいはソースドライバ用のクロック信号等が挙げられる。ゲートドライバ制御信号として、例えば、垂直同期信号や、ゲートドライバ用のクロック信号等が挙げられる。
【0047】
この液晶表示装置では、以下の要領で画素電極20Bと対向電極30Bとの間に駆動電圧を印加することにより、映像が表示される。具体的には、ソースドライバ61が、タイミングコントローラ63からのソースドライバ制御信号の入力により、同じくタイミングコントローラ63から入力された画像信号に基づいて所定のソース線71に個別の画像信号を供給する。これと共に、ゲートドライバ62が、タイミングコントローラ63からのゲートドライバ制御信号の入力により所定のタイミングでゲート線72に走査信号を順次供給する。これにより、画像信号が供給されたソース線71と走査信号が供給されたゲート線72との交差点に位置する画素10が選択され、画素10に駆動電圧が印加される。
【0048】
以下、発明の実施の形態(『実施の形態』と略称する)及び実施例に基づき、本発明を説明する。
【0049】
[実施の形態1]
実施の形態1は、本発明の第1の態様に係るVAモードの液晶表示装置(あるいは液晶表示素子)、並びに、本発明の第1の態様、第3の態様に係る液晶表示装置(あるいは液晶表示素子)の製造方法に関する。実施の形態1において、配向膜22,32は、側鎖に架橋構造を有する高分子化合物(配向処理後・化合物)の1種あるいは2種以上を含んで構成されている。そして、液晶分子は、架橋した化合物によってプレチルトが付与される。ここで、配向処理後・化合物は、主鎖及び側鎖を有する高分子化合物(配向処理前・化合物)の1種あるいは2種以上を含む状態で配向膜22,32を形成した後、液晶層40を設け、次いで、高分子化合物を架橋させることで、あるいは又、高分子化合物にエネルギー線を照射することで、より具体的には、電場又は磁場を印加しながら側鎖に含まれる架橋性官能基を反応させることにより生成される。そして、配向処理後・化合物は、液晶分子を一対の基板(具体的には、TFT基板20及びCF基板30)に対して所定の方向(具体的には、斜め方向)に配列させる構造を含んでいる。このように、高分子化合物を架橋させて、あるいは又、高分子化合物にエネルギー線を照射することで、配向処理後・化合物が配向膜22,32中に含まれることにより、配向膜22,32近傍の液晶分子41に対してプレチルトを付与できるため、応答速度が早くなり、表示特性が向上する。
【0050】
配向処理前・化合物は、主鎖として耐熱性が高い構造を含むことが好ましい。これにより、液晶表示装置(液晶表示素子)では、高温環境下に曝されても、配向膜22,32中の配向処理後・化合物が液晶分子41に対する配向規制能を維持するため、応答特性と共にコントラスト等の表示特性が良好に維持され、信頼性が確保される。ここで、主鎖は、繰り返し単位中にイミド結合を含むことが好ましい。主鎖中にイミド結合を含む配向処理前・化合物として、例えば、式(3)で表されるポリイミド構造を含む高分子化合物が挙げられる。式(3)に示すポリイミド構造を含む高分子化合物は、式(3)に示すポリイミド構造のうちの1種から構成されていてもよいし、複数種がランダムに連結して含まれていてもよいし、式(3)に示す構造の他に、他の構造を含んでいてもよい。
【0051】

ここで、R1は4価の有機基であり、R2は2価の有機基であり、n1は1以上の整数である。
【0052】
式(3)におけるR1及びR2は、炭素を含んで構成された4価あるいは2価の基であれば任意であるが、R1及びR2のうちのいずれか一方に、側鎖としての架橋性官能基を含んでいることが好ましい。配向処理後・化合物において、十分な配向規制能が得られ易いからである。
【0053】
また、配向処理前・化合物では、側鎖は主鎖に複数結合しており、複数の側鎖のうちの少なくとも1つが架橋性官能基を含んでいればよい。即ち、配向処理前・化合物は、架橋性を有する側鎖の他に、架橋性を示さない側鎖を含んでいてもよい。架橋性官能基を含む側鎖は、1種であってもよいし、複数種であってもよい。架橋性官能基は、液晶層40を形成した後に架橋反応可能な官能基であれば任意であり、光反応によって架橋構造を形成する基であってもよいし、熱反応によって架橋構造を形成する基であってもよいが、中でも、光反応によって架橋構造を形成する、光反応性の架橋性官能基(感光性を有する感光基)が好ましい。液晶分子41の配向を所定の方向に規制し易く、応答特性が向上すると共に良好な表示特性を有する液晶表示装置(液晶表示素子)の製造を容易にするからである。
【0054】
光反応性の架橋性官能基(感光性を有する感光基であり、例えば、光二量化感光基)として、例えば、カルコン、シンナメート、シンナモイル、クマリン、マレイミド、ベンゾフェノン、ノルボルネン、オリザノール、及び、キトサンのうちのいずれか1種の構造を含む基が挙げられる。これらのうち、カルコン、シンナメートあるいはシンナモイルの構造を含む基として、例えば、式(41)で表される基が挙げられる。式(41)に示す基を含む側鎖を有する配向処理前・化合物が架橋すると、例えば、式(42)に示す構造が形成される。即ち、式(41)に示す基を含む高分子化合物から生成された配向処理後・化合物は、シクロブタン骨格を有する式(42)に示す構造を含む。尚、例えば、マレイミドといった光反応性の架橋性官能基は、場合によっては、光二量化反応だけでなく、重合反応も示す。従って、『架橋性官能基』には、光二量化反応を示す架橋性官能基だけでなく、重合反応を示す架橋性官能基も包含される。云い換えれば、本発明にあっては、『架橋』という概念には、光二量化反応だけでなく重合反応も含まれる。
【0055】

ここで、R3は芳香族環を含む2価の基であり、R4は1又は2以上の環構造を含む1価の基であり、R5は水素原子、又は、アルキル基あるいはその誘導体である。
【0056】
式(41)におけるR3は、ベンゼン環等の芳香族環を含む2価の基であれば任意であり、芳香族環の他に、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合あるいは炭化水素基を含んでいてもよい。また、式(41)におけるR4は、1又は2以上の環構造を含む1価の基であれば任意であり、環構造の他に、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、炭化水素基あるいはハロゲン原子等を含んでいてもよい。R4が有する環構造として、骨格を構成する元素として炭素を含む環であれば任意であり、その環構造として、例えば、芳香族環、複素環あるいは脂肪族環、又は、それらの連結あるいは縮合した環構造等が挙げられる。式(41)におけるR5は、水素原子、又は、アルキル基あるいはその誘導体であれば任意である。ここで、「誘導体」とは、アルキル基が有する水素原子の一部あるいは全部がハロゲン原子等の置換基により置換された基のことを云う。また、R5として導入されるアルキル基の炭素数は任意である。R5として、水素原子あるいはメチル基が好ましい。良好な架橋反応性が得られるからである。
【0057】
式(42)におけるR3同士は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。このことは、式(41)におけるR4同士及びR5同士についても同様である。式(42)におけるR3、R4及びR5として、例えば、上記した式(41)におけるR3、R4及びR5と同様のものが挙げられる。
【0058】
式(41)に示した基として、例えば、式(41−1)〜式(41−27)で表される基が挙げられる。但し、式(41)に示した構造を有する基であれば、式(41−1)〜式(41−27)に示す基に限定されない。
【0059】

【0060】

【0061】

【0062】
配向処理前・化合物は、液晶分子41を基板面に対して垂直方向に配向させるための構造(以下、『垂直配向誘起構造部』と呼ぶ)を含んでいることが好ましい。配向膜22,32が配向処理後・化合物とは別に垂直配向誘起構造部を有する化合物(所謂、通常の垂直配向剤)を含まなくても、液晶分子41全体の配向規制が可能になるからである。その上、垂直配向誘起構造部を有する化合物を別に含む場合よりも、液晶層40に対する配向規制機能をより均一に発揮可能な配向膜22,32が形成され易いからである。垂直配向誘起構造部は、配向処理前・化合物においては、主鎖に含まれていてもよいし、側鎖に含まれていてもよいし、双方に含まれていてもよい。また、配向処理前・化合物が上記した式(3)に示したポリイミド構造を含む場合、R2として垂直配向誘起構造部を含む構造(繰り返し単位)と、R2として架橋性官能基を含む構造(繰り返し単位)との2種の構造を含んでいることが好ましい。容易に入手可能であるからである。尚、垂直配向誘起構造部は、配向処理前・化合物に含まれていれば、配向処理後・化合物においても含まれる。
【0063】
垂直配向誘起構造部として、例えば、炭素数10以上のアルキル基、炭素数10以上のハロゲン化アルキル基、炭素数10以上のアルコキシ基、炭素数10以上のハロゲン化アルコキシ基あるいは環構造を含む有機基等が挙げられる。具体的には、垂直配向誘起構造部を含む構造として、例えば、式(5−1)〜式(5−6)で表される構造等が挙げられる。
【0064】

ここで、Y1は炭素数10以上のアルキル基、炭素数10以上のアルコキシ基あるいは環構造を含む1価の有機基である。また、Y2〜Y15は水素原子、炭素数10以上のアルキル基、炭素数10以上のアルコキシ基あるいは環構造を含む1価の有機基であり、Y2及びY3のうちの少なくとも一方、Y4〜Y6のうちの少なくとも1つ、Y7及びY8のうちの少なくとも一方、Y9〜Y12のうちの少なくとも1つ、及び、Y13〜Y15のうちの少なくとも1つは、炭素数10以上のアルキル基、炭素数10以上のアルコキシ基あるいは環構造を含む1価の有機基である。但し、Y11及びY12は結合して環構造を形成してもよい。
【0065】
また、垂直配向誘起構造部としての環構造を含む1価の有機基として、例えば、式(6−1)〜式(6−23)で表される基等が挙げられる。垂直配向誘起構造部としての環構造を含む2価の有機基として、例えば、式(7−1)〜式(7−7)で表される基等が挙げられる。
【0066】

ここで、a1〜a3は0以上、21以下の整数である。
【0067】

【0068】

ここで、a1は0以上、21以下の整数である。
【0069】

【0070】
尚、垂直配向誘起構造部は、液晶分子41を基板面に対して垂直方向に配列させるように機能する構造を含んでいれば、上記した基に限定されない。
【0071】
また、本発明の第1Aの構成、第2Aの構成(後述する実施の形態6を参照)あるいは第3Aの構成に則って表現すれば、架橋前の高分子化合物(配向処理前・化合物)は、架橋性官能基の他に、式(1)で表される基を側鎖として有する化合物から成る。式(1)に示した基は液晶分子41に対して沿うように動くことができるため、配向処理前・化合物が架橋する際に、式(1)に示した基が液晶分子41の配向方向に沿った状態で架橋性官能基と一緒に固定される。そして、この固定された式(1)に示した基により、液晶分子41の配向を所定の方向により規制し易くなるため、良好な表示特性を有する液晶表示素子の製造をより容易にすることができる。
【0072】
−R1−R2−R3 (1)
ここで、R1は、炭素数3以上の直鎖状又は分岐状の2価の有機基であり、架橋前の高分子化合物(配向処理前・化合物)の主鎖に結合している。R2は、複数の環構造を含む2価の有機基であり、環構造を構成する原子のうちの1つはR1に結合している。R3は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、カーボネート基を有する1価の基、又は、それらの誘導体である。
【0073】
式(1)中のR1は、R2及びR3を主鎖に固定すると共に、R2及びR3が液晶分子41に沿うように自由に動き易くするためのスペーサ部分として機能するための部位であり、R1として、例えば、アルキレン基等が挙げられる。このアルキレン基は、途中の炭素原子間にエーテル結合を有していてもよく、そのエーテル結合を有する箇所は、1箇所でもよいし、2箇所以上でもよい。また、R1は、カルボニル基又はカーボネート基を有していてもよい。R1の炭素数は、6以上であることがより好ましい。式(1)に示した基が液晶分子41と相互作用するため、液晶分子41に対して沿い易くなるからである。この炭素数は、R1の長さが液晶分子41の末端鎖の長さとほぼ同等となるように決定されることが好ましい。
【0074】
式(1)中のR2は、一般的なネマティック液晶分子に含まれる環構造(コア部位)に沿う部分である。R2として、例えば、1,4−フェニレン基、1,4−シクロヘキシレン基、ピリミジン−2,5−ジイル基、1,6−ナフタレン基、ステロイド骨格を有する2価の基又はそれらの誘導体等のように、液晶分子に含まれる環構造と同様の基あるいは骨格が挙げられる。ここで、「誘導体」とは、上記した一連の基に1又は2以上の置換基が導入された基である。
【0075】
式(1)中のR3は、液晶分子の末端鎖に沿う部分であり、R3として、例えば、アルキレン基又はハロゲン化アルキレン基等が挙げられる。但し、ハロゲン化アルキレン基では、アルキレン基のうちの少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子に置換されていればよく、そのハロゲン原子の種類は任意である。アルキレン基又はハロゲン化アルキレン基は、途中の炭素原子間にエーテル結合を有していてもよく、そのエーテル結合を有する箇所は、1箇所でもよいし、2箇所以上でもよい。また、R3は、カルボニル基又はカーボネート基を有していてもよい。R3の炭素数は、R1と同様の理由により、6以上であることがより好ましい。
【0076】
具体的には、式(1)に示した基として、例えば、式(1−1)〜式(1−8)で表される1価の基等が挙げられる。
【0077】

【0078】
尚、式(1)に示した基は、液晶分子41に対して沿うように動くことができれば、上記した基に限定されない。
【0079】
あるいは又、本発明の第1Bの構成、第2Bの構成(後述する実施の形態6を参照)あるいは第3Bの構成に則って表現すれば、架橋前の高分子化合物(配向処理前・化合物)は、式(2)で表される基を側鎖として有する化合物から成る。架橋する部位の他に、液晶分子41に沿う部位と自由に動くことができる部位とを有するため、液晶分子41に対して沿う側鎖の部位が液晶分子41により沿った状態で固定可能である。そして、これにより、液晶分子41の配向を所定の方向により規制し易くなるため、良好な表示特性を有する液晶表示素子の製造をより容易にすることができる。
【0080】
−R11−R12−R13−R14 (2)
ここで、R11は、炭素数1以上、20以下、好ましくは、炭素数3以上、12以下の直鎖状又は分岐状の2価の、エーテル基あるいはエステル基を含むことある有機基であり、高分子化合物あるいは架橋した化合物(配向処理前・化合物あるいは配向処理後・化合物)の主鎖に結合しており、あるいは又、R11は、エーテル基あるいはエステル基であり、高分子化合物あるいは架橋した化合物(配向処理前・化合物あるいは配向処理後・化合物)の主鎖に結合している。R12は、例えば、カルコン、シンナメート、シンナモイル、クマリン、マレイミド、ベンゾフェノン、ノルボルネン、オリザノール、及び、キトサンのうちのいずれか1種の構造を含む2価の基、又は、エチニレン基である。R13は、複数の環構造を含む2価の有機基である。R14は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、カーボネート基を有する1価の基、又は、それらの誘導体である。
【0081】
式(2)中のR11は、配向処理前・化合物においては自由に動くことができる部位であり、配向処理前・化合物においては可撓性を有することが好ましい。R11として、例えば、式(1)中のR1について説明した基が挙げられる。式(2)に示した基では、R11を軸としてR12〜R14が動き易いため、R13及びR14が液晶分子41に対して沿い易くなっている。R11の炭素数は、6以上、10以下であることがより好ましい。
【0082】
式(2)中のR12は、架橋性官能基を有する部位である。この架橋性官能基は、上記したように、光反応によって架橋構造を形成する基であってもよいし、熱反応によって架橋構造を形成する基であってもよい。具体的には、R12として、カルコン、シンナメート、シンナモイル、クマリン、マレイミド、ベンゾフェノン、ノルボルネン、オリザノール、及び、キトサンのうちのいずれか1種の構造を含む2価の基、又は、エチニレン基を挙げることができる。
【0083】
式(2)中のR13は、液晶分子41のコア部位に対して沿うことができる部位であり、R13として、例えば、式(1)中のR2について説明した基等が挙げられる。
【0084】
式(2)中のR14は、液晶分子41の末端鎖に沿う部位であり、R14として、例えば、式(1)中のR3について説明した基等が挙げられる。
【0085】
具体的には、式(2)に示した基として、例えば、式(2−1)〜式(2−7)で表される1価の基等が挙げられる。
【0086】

ここで、nは3以上、20以下の整数である。
【0087】
尚、式(2)に示した基は、上記した4つの部位(R11〜R14)を有していれば、上記した基に限定されない。
【0088】
あるいは又、本発明の第1Cの構成に則って表現すれば、高分子化合物(配向処理前・化合物)を架橋させることにより得られた化合物(配向処理後・化合物)は、側鎖、及び、基板に対して側鎖を支持する主鎖から構成されており、側鎖は、主鎖に結合し、側鎖の一部が架橋した架橋部、及び、架橋部に結合した末端構造部から構成されており、液晶分子は、末端構造部に沿い、又は、末端構造部に挟まれることでプレチルトが付与される。また、本発明の第2Cの構成(後述する実施の形態6を参照)に則って表現すれば、高分子化合物(配向処理前・化合物)を変形させることにより得られた化合物(配向処理後・化合物)は、側鎖、及び、基板に対して側鎖を支持する主鎖から構成されており、側鎖は、主鎖に結合し、側鎖の一部が変形した変形部、及び、変形部に結合した末端構造部から構成されており、液晶分子は、末端構造部に沿い、又は、末端構造部に挟まれることでプレチルトが付与される。また、本発明の第3Cの構成に則って表現すれば、高分子化合物にエネルギー線を照射することにより得られた化合物は、側鎖、及び、基板に対して側鎖を支持する主鎖から構成されており、側鎖は、主鎖に結合し、側鎖の一部が架橋あるいは変形した架橋・変形部、及び、架橋・変形部に結合した末端構造部から構成されており、液晶分子は、末端構造部に沿い、又は、末端構造部に挟まれることでプレチルトが付与される。
【0089】
ここで、本発明の第1Cの構成において、側鎖の一部が架橋した架橋部は、式(2)におけるR12(但し、架橋後)が相当する。また、末端構造部は、式(2)におけるR13及びR14が相当する。ここで、配向処理後・化合物にあっては、例えば、主鎖から延びた2つの側鎖における架橋部が相互に架橋し、一方の架橋部から延びた末端構造部と、他方の架橋部から延びた末端構造部との間に、恰も、液晶分子の一部が挟まれた状態となり、しかも、末端構造部は、基板に対して所定の角度を成した状態で固定されるが故に、液晶分子はプレチルトが付与される。尚、このような状態を、図15の概念図に示す。
【0090】
あるいは又、本発明の第1Dの構成に則って表現すれば、高分子化合物(配向処理前・化合物)を架橋させることにより得られた化合物(配向処理後・化合物)は、側鎖、及び、基板に対して側鎖を支持する主鎖から構成されており、側鎖は、主鎖に結合し、側鎖の一部が架橋した架橋部、及び、架橋部に結合し、メソゲン基を有する末端構造部から構成されている。ここで、側鎖は光二量化感光基を有する形態とすることができる。また、主鎖と架橋部とは共有結合によって結合しており、架橋部と末端構造部とは共有結合によって結合している形態とすることができる。また、本発明の第2Dの構成(後述する実施の形態6を参照)に則って表現すれば、高分子化合物(配向処理前・化合物)を変形させることにより得られた化合物(配向処理後・化合物)は、側鎖、及び、基板に対して側鎖を支持する主鎖から構成されており、側鎖は、主鎖に結合し、側鎖の一部が変形した変形部、及び、変形部に結合し、メソゲン基を有する末端構造部から構成されている。また、本発明の第3Dの構成に則って表現すれば、高分子化合物(配向処理前・化合物)にエネルギー線を照射することにより得られた化合物(配向処理後・化合物)は、側鎖、及び、基板に対して側鎖を支持する主鎖から構成されており、側鎖は、主鎖に結合し、側鎖の一部が架橋あるいは変形した架橋・変形部、及び、架橋・変形部に結合し、メソゲン基を有する末端構造部から構成されている。
【0091】
ここで、本発明の第1Dの構成にあっては、架橋性官能基(感光性官能基)である光二量化感光基として、前述したとおり、例えば、カルコン、シンナメート、シンナモイル、クマリン、マレイミド、ベンゾフェノン、ノルボルネン、オリザノール、及び、キトサンのうちのいずれか1種の構造を含む基を挙げることができる。また、末端構造部を構成する剛直なメソゲン基は、側鎖として液晶性を発現するものでも、液晶性を発現しないものでもよく、具体的な構造として、ステロイド誘導体、コレステロール誘導体、ビフェニル、トリフェニル、ナフタレン等を挙げることができる。更には、末端構造部として、式(2)におけるR13及びR14を挙げることができる。
【0092】
あるいは又、本発明の第1Eの構成、第2Eの構成(後述する実施の形態6を参照)あるいは第3Eの構成に則って表現すれば、第1配向膜(あるいは、配向処理後・化合物から成る配向膜)の表面粗さRaは1nm以下である。
【0093】
配向処理後・化合物は、未反応の架橋性官能基を含んでいてもよいが、駆動中に反応した場合に液晶分子41の配向を乱す虞があるため、未反応の架橋性官能基は少ない方が好ましい。配向処理後・化合物が未反応の架橋性官能基を含んでいるか否かは、例えば、液晶表示装置を解体して、配向膜22,32を透過型又は反射型のFT−IR(フーリエ変換赤外分光光度計)で分析することにより確認することができる。具体的には、先ず、液晶表示装置を解体し、配向膜22,32の表面を有機溶媒等により洗浄する。この後、配向膜22,32をFT−IRで分析することによって、例えば、式(41)に示した架橋構造を形成する二重結合が配向膜22,32中に残留していれば、二重結合に由来する吸収スペクトルが得られ、確認することができる。
【0094】
また、配向膜22,32は、上記した配向処理後・化合物の他に、他の垂直配向剤を含んでいてもよい。他の垂直配向剤として、垂直配向誘起構造部を有するポリイミドや、垂直配向誘起構造部を有するポリシロキサン等が挙げられる。
【0095】
液晶層40は、負の誘電率異方性を有する液晶分子41を含んでいる。液晶分子41は、例えば、互いに直交する長軸及び短軸をそれぞれ中心軸として回転対称な形状をなし、負の誘電率異方性を有している。
【0096】
液晶分子41は、配向膜22との界面近傍において、配向膜22に保持された液晶分子41Aと、配向膜32との界面近傍において配向膜32に保持された液晶分子41Bと、それら以外の液晶分子41Cとに分類することができる。液晶分子41Cは、液晶層40の厚み方向における中間領域に位置し、駆動電圧がオフの状態において液晶分子41Cの長軸方向(ダイレクタ)がガラス基板20A,30Aに対してほぼ垂直になるように配列されている。ここで、駆動電圧がオンになると、液晶分子41Cのダイレクタがガラス基板20A,30Aに対して平行になるように傾いて配向する。このような挙動は、液晶分子41Cにおいて、長軸方向の誘電率が短軸方向よりも小さいという性質を有することに起因している。液晶分子41A,41Bも同様の性質を有することから、駆動電圧のオン・オフの状態変化に応じて、基本的には、液晶分子41Cと同様の挙動を示す。但し、駆動電圧がオフの状態において、液晶分子41Aは配向膜22によってプレチルトθ1が付与され、そのダイレクタがガラス基板20A,30Aの法線方向から傾斜した姿勢となる。同様に、液晶分子41Bは配向膜32によってプレチルトθ2が付与され、そのダイレクタがガラス基板20A,30Aの法線方向から傾斜した姿勢となる。尚、ここで、「保持される」とは、配向膜22,32と液晶分子41A,41Cとが固着せずに、液晶分子41の配向を規制していることを表している。また、「プレチルトθ(θ1,θ2)」とは、図2に示すように、ガラス基板20A,30Aの表面に垂直な方向(法線方向)をZとした場合に、駆動電圧がオフの状態で、Z方向に対する液晶分子41(41A,41B)のダイレクタDの傾斜角度を指す。
【0097】
液晶層40では、プレチルトθ1,θ2の双方が0°よりも大きな値を有している。この液晶層40では、プレチルトθ1,θ2は、同じ角度(θ1=θ2)であってもよいし、異なる角度(θ1≠θ2)であってもよいが、中でも、プレチルトθ1,θ2は、異なる角度であることが好ましい。これにより、プレチルトθ1,θ2の双方が0°である場合よりも駆動電圧の印加に対する応答速度が向上すると共に、プレチルトθ1,θ2の双方が0°である場合とほぼ同等のコントラストを得ることができる。よって、応答特性を向上させつつ、黒表示の際の光の透過量を低減することができ、コントラストを向上させることができる。プレチルトθ1,θ2を異なる角度とする場合、プレチルトθ1,θ2のうちの大きい方のプレチルトθは、1°以上、4°以下であることがより望ましい。大きい方のプレチルトθを上記した範囲内にすることにより、特に、高い効果が得られる。
【0098】
次に、上記の液晶表示装置(液晶表示素子)の製造方法について、図3に表したフローチャートと共に、図4に表した配向膜22,32中の状態を説明するための模式図、並びに、図5、図6及び図7の(A)に表した液晶表示装置等の模式的な一部断面図を参照して説明する。尚、図5、図6及び図7の(A)では、簡略化のため、一画素分についてのみ示す。
【0099】
最初に、TFT基板20の表面に配向膜22を形成すると共に、CF基板30の表面に配向膜32を形成する(ステップS101)。
【0100】
具体的には、先ず、ガラス基板20Aの表面に、所定のスリット部21を有する画素電極20Bを例えばマトリクス状に設けることによりTFT基板20を作製する。また、カラーフィルタが形成されたガラス基板30Aのカラーフィルタ上に、対向電極30Bを設けることによりCF基板30を作製する。
【0101】
一方、例えば、配向処理前・化合物あるいは配向処理前・化合物としての高分子化合物前駆体と、溶剤と、必要に応じて垂直配向剤とを混合することにより液状の配向膜材料を調製する。
【0102】
配向処理前・化合物としての高分子化合物前駆体として、例えば、側鎖として架橋性官能基を有する高分子化合物が式(3)に示したポリイミド構造を含む場合、架橋性官能基を有するポリアミック酸が挙げられる。高分子化合物前駆体としてのポリアミック酸は、例えば、ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物とを反応させて合成される。ここで用いるジアミン化合物及びテトラカルボン酸二無水物の少なくとも一方が、架橋性官能基を有している。ジアミン化合物として、例えば、式(A−1)〜式(A−15)で表される架橋性官能基を有する化合物が挙げられ、テトラカルボン酸二無水物として、式(a−1)〜式(a−10)で表される架橋性官能基を有する化合物が挙げられる。尚、式(A−9)〜式(A−15)で表される化合物は、本発明の第1Cの構成における架橋した高分子化合物の架橋部及び末端構造部を構成する化合物である。あるいは又、本発明の第1Cの構成における架橋した高分子化合物の架橋部及び末端構造部を構成する化合物として、式(F−1)〜式(F−18)で表される化合物を挙げることもできる。尚、式(F−1)〜式(F−18)で表される化合物にあっては、式(F−1)〜式(F−3)、式(F−7)〜式(F−9)及び式(F−13)〜式(F−15)で表される化合物の末端構造部に沿って液晶分子にはプレチルトが付与されると考えられ、一方、式(F−4)〜式(F−6)、式(F−10)〜式(F−12)及び式(F−16)〜式(F−18)で表される化合物の末端構造部に挟まれて液晶分子にはプレチルトが付与されると考えられる。
【0103】

【0104】

ここで、X1〜X4は単結合あるいは2価の有機基である。
【0105】

ここで、X5〜X7は単結合あるいは2価の有機基である。
【0106】

【0107】

【0108】

【0109】

【0110】

【0111】
また、配向処理前・化合物が垂直配向誘起構造部を含むように高分子化合物前駆体としてのポリアミック酸を合成する場合、上記の架橋性官能基を有する化合物の他に、ジアミン化合物として式(B−1)〜式(B−36)で表される垂直配向誘起構造部を有する化合物や、テトラカルボン酸二無水物として式(b−1)〜式(b−3)で表される垂直配向誘起構造部を有する化合物を用いてもよい。
【0112】

【0113】

【0114】

ここで、a4〜a6は0以上、21以下の整数である。
【0115】

ここで、a4は0以上、21以下の整数である。
【0116】

ここで、a4は0以上、21以下の整数である。
【0117】

【0118】

【0119】
また、配向処理前・化合物が架橋性官能基と一緒に式(1)に示した基を有するように高分子化合物前駆体としてのポリアミック酸を合成する場合、上記の架橋性官能基を有する化合物の他に、ジアミン化合物として、式(C−1)〜式(C−20)で表される液晶分子41に対して沿うことができる基を有する化合物を用いてもよい。
【0120】

【0121】

【0122】

【0123】
また、配向処理前・化合物が式(2)に示した基を有するように高分子化合物前駆体としてのポリアミック酸を合成する場合、上記の架橋性官能基を有する化合物の他に、ジアミン化合物として、式(D−1)〜式(D−7)で表される液晶分子41に対して沿うことができる基を有する化合物を用いてもよい。
【0124】

ここで、nは3以上、20以下の整数である。
【0125】
更に、配向処理前・化合物が式(3)におけるR2として垂直配向誘起構造部を含む構造と、架橋性官能基を含む構造との2種の構造を含むように高分子化合物前駆体としてのポリアミック酸を合成する場合、例えば、次のように、ジアミン化合物及びテトラカルボン酸二無水物を選択する。即ち、式(A−1)〜式(A−15)に示した架橋性官能基を有する化合物のうちの少なくとも1種と、式(B−1)〜式(B−36)、式(b−1)〜式(b−3)に示した垂直配向誘起構造部を有する化合物のうちの少なくとも1種と、式(E−1)〜式(E−28)で表されるテトラカルボン酸二無水物のうちの少なくとも1種とを用いる。尚、式(E−23)におけるR1及びR2は、同一又は異なるアルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子であり、ハロゲン原子の種類は任意である。
【0126】

【0127】

【0128】

ここで、R1,R2はアルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子である。
【0129】
また、配向処理前・化合物が式(3)におけるR2として式(1)に示した基を含む構造と架橋性官能基を含む構造との2種の構造を含むように高分子化合物前駆体としてのポリアミック酸を合成する場合、例えば、次のように、ジアミン化合物及びテトラカルボン酸二無水物を選択する。即ち、式(A−1)〜式(A−15)に示した架橋性官能基を有する化合物のうちの少なくとも1種と、式(C−1)〜式(C−20)に示した化合物のうちの少なくとも1種と、式(E−1)〜式(E−28)に示したテトラカルボン酸二無水物のうちの少なくとも1種とを用いる。
【0130】
また、配向処理前・化合物が式(3)におけるR2として式(2)に示した基を含む構造と架橋性官能基を含む構造との2種の構造を含むように高分子化合物前駆体としてのポリアミック酸を合成する場合、例えば、次のように、ジアミン化合物及びテトラカルボン酸二無水物を選択する。即ち、式(A−1)〜式(A−15)に示した架橋性官能基を有する化合物のうちの少なくとも1種と、式(D−1)〜式(D−7)に示した化合物のうちの少なくとも1種と、式(E−1)〜式(E−28)で表されるテトラカルボン酸二無水物のうちの少なくとも1種とを用いる。
【0131】
配向膜材料中における配向処理前・化合物あるいは配向処理前・化合物としての高分子化合物前駆体の含有量を、1重量%以上、30重量%以下とすることが好ましく、3重量%以上、10重量%以下とすることがより好ましい。また、配向膜材料には、必要に応じて、光重合開始剤等を混合してもよい。
【0132】
そして、調製した配向膜材料を、TFT基板20及びCF基板30のそれぞれに、画素電極20B及びスリット部21、並びに、対向電極30Bを覆うように塗布あるいは印刷した後、加熱処理をする。加熱処理の温度は80゜C以上が好ましく、150゜C以上、200゜C以下とすることがより好ましい。また、加熱処理は、加熱温度を段階的に変化させてもよい。これにより、塗布あるいは印刷された配向膜材料に含まれる溶剤が蒸発し、側鎖として架橋性官能基を有する高分子化合物(配向処理前・化合物)を含む配向膜22,32が形成される。この後、必要に応じて、ラビング等の処理を施してもよい。
【0133】
ここで、配向膜22,32中における配向処理前・化合物は、図4に示す状態となっていると考えられる。即ち、配向処理前・化合物は、主鎖Mc(Mc1〜Mc3)と、主鎖Mcに側鎖として導入された架橋性官能基Aとを含んで構成され、主鎖Mc1〜Mc3が連結していない状態で存在している。この状態における架橋性官能基Aは、熱運動によりランダムな方向を向いている。
【0134】
次に、TFT基板20とCF基板30とを配向膜22と配向膜32とが対向するように配置し、配向膜22と配向膜32との間に、液晶分子41を含む液晶層40を封止する(ステップS102)。具体的には、TFT基板20あるいはCF基板30のどちらか一方の、配向膜22,32の形成されている面に対して、セルギャップを確保するためのスペーサ突起物、例えば、プラスチックビーズ等を散布すると共に、例えば、スクリーン印刷法によりエポキシ接着剤等を用いてシール部を印刷する。この後、図5に示すように、TFT基板20とCF基板30とを、配向膜22,32が対向するように、スペーサ突起物及びシール部を介して貼り合わせ、液晶分子41を含む液晶材料を注入する。その後、加熱するなどしてシール部の硬化を行うことにより、液晶材料をTFT基板20とCF基板30との間に封止する。図5は、配向膜22及び配向膜32の間に封止された液晶層40の断面構成を表している。
【0135】
次に、図6に示すように、画素電極20Bと対向電極30Bとの間に、電圧印加手段1を用いて、電圧V1を印加する(ステップS103)。電圧V1は、例えば、5ボルト〜30ボルトである。これにより、ガラス基板20A,30Aの表面に対して所定の角度をなす方向の電場(電界)が生じ、液晶分子41が、ガラス基板20A,30Aの垂直方向から所定方向に傾いて配向する。即ち、このときの液晶分子41の方位角(偏角)は電場の方向によって規定され、極角(天頂角)は電場の強さによって規定される。そして、液晶分子41の傾斜角と、後述する工程で、配向膜22との界面近傍において配向膜22に保持された液晶分子41A及び配向膜32との界面近傍において配向膜32に保持された液晶分子41Bに付与されるプレチルトθ1,θ2は、概ね等しくなる。従って、電圧V1の値を適宜調節することにより、液晶分子41A,41Bのプレチルトθ1,θ2の値を制御することが可能である。
【0136】
更に、図7の(A)に示すように、電圧V1を印加した状態のまま、エネルギー線(具体的には紫外線UV)を、例えば、TFT基板20の外側から配向膜22,32に対して照射する。即ち、液晶分子41を一対の基板20,30の表面に対して斜め方向に配列させるように、液晶層に対して電場又は磁場を印加しながら紫外線を照射する。これによって、配向膜22,32中の配向処理前・化合物が有する架橋性官能基を反応させ、配向処理前・化合物を架橋させる(ステップS104)。こうして、配向処理後・化合物により液晶分子41の応答すべき方向が記憶され、配向膜22,32近傍の液晶分子41にプレチルトが付与される。そして、この結果、配向膜22,32中において配向処理後・化合物が形成され、非駆動状態において、液晶層40における配向膜22,32との界面近傍に位置する液晶分子41A,41Bにプレチルトθ1,θ2が付与される。紫外線UVとして、波長365nm程度の光成分を多く含む紫外線が好ましい。短波長域の光成分を多く含む紫外線を用いると、液晶分子41が光分解し、劣化する虞があるからである。尚、ここでは、紫外線UVをTFT基板20の外側から照射したが、CF基板30の外側から照射してもよく、TFT基板20及びCF基板30の双方の基板の外側から照射してもよい。この場合、透過率が高い方の基板側から紫外線UVを照射することが好ましい。また、CF基板30の外側から紫外線UVを照射した場合、紫外線UVの波長域に依っては、カラーフィルタに吸収されて架橋反応し難くなる虞がある。このため、TFT基板20の外側(画素電極を有する基板側)から照射することが好ましい。
【0137】
ここで、配向膜22,32中の配向処理後・化合物は、図7の(B)に示す状態となっている。即ち、配向処理前・化合物の主鎖Mcに導入された架橋性官能基Aの向きが、液晶分子41の配向方向に従って変化し、物理的な距離が近い架橋性官能基A同士が反応して、連結部Crが形成される。このように生成された配向処理後・化合物によって配向膜22,32が液晶分子41A,41Bに対してプレチルトθ1,θ2を付与するものと考えられる。尚、連結部Crは、配向処理前・化合物間で形成されてもよいし、配向処理前・化合物内で形成されてもよい。即ち、図7の(B)に示すように、連結部Crは、例えば、主鎖Mc1を有する配向処理前・化合物の架橋性官能基Aと、主鎖Mc2を有する配向処理前・化合物の架橋性官能基Aとの間で反応して形成されてもよい。また、連結部Crは、例えば、主鎖Mc3を有する高分子化合物のように、同じ主鎖Mc3に導入された架橋性官能基A同士が反応して形成されてもよい。
【0138】
以上の工程により、図1に示した液晶表示装置(液晶表示素子)を完成させることができた。
【0139】
液晶表示装置(液晶表示素子)の動作にあっては、選択された画素10では、駆動電圧が印加されると、液晶層40に含まれる液晶分子41の配向状態が、画素電極20Bと対向電極30Bとの間の電位差に応じて変化する。具体的には、液晶層40では、図1に示した駆動電圧の印加前の状態から、駆動電圧が印加されることにより、配向膜22,32の近傍に位置する液晶分子41A,41Bが自らの傾き方向に倒れ、且つ、その動作がその他の液晶分子41Cに伝播する。その結果、液晶分子41は、TFT基板20及びCF基板30に対してほぼ水平(平行)となる姿勢をとるように応答する。これにより、液晶層40の光学的特性が変化し、液晶表示素子への入射光が変調された出射光となり、この出射光に基づいて階調表現されることで、映像が表示される。
【0140】
ここで、プレチルト処理が全く施されていない液晶表示素子及びそれを備えた液晶表示装置では、液晶分子の配向を規制するためのスリット部等の配向規制部が基板に設けられていても、駆動電圧が印加されると、基板に対して垂直方向に配向していた液晶分子は、そのダイレクタが基板の面内方向において任意の方位を向くように倒れる。このように駆動電圧に応答した液晶分子では、各液晶分子のダイレクタの方位がぶれた状態となり、全体としての配向に乱れが生じる。これにより、応答速度が遅くなり、応答特性が劣化し、その結果、表示特性を悪化させるという問題がある。また、初期の駆動電圧を表示状態の駆動電圧よりも高く設定して駆動(オーバードライブ駆動)させると、初期駆動電圧印加時において、応答した液晶分子と、殆ど応答していない液晶分子とが存在し、それらの間でダイレクタの傾きに大きな差が生じる。その後に表示状態の駆動電圧が印加されると、初期駆動電圧印加時に応答した液晶分子は、その動作が他の液晶分子に対して殆ど伝播しないうちに、表示状態の駆動電圧に応じたダイレクタの傾きとなり、この傾きが他の液晶分子に伝播する。その結果、画素全体として、初期駆動電圧印加時に表示状態の輝度に達するが、その後、輝度が低下し、再度、表示状態の輝度に達する。即ち、オーバードライブ駆動すれば、オーバードライブ駆動しない場合よりも見かけの応答速度は早くなるが、十分な表示品位が得られ難いという問題がある。尚、これらの問題は、IPSモードやFFSモードの液晶表示素子では生じ難く、VAモードの液晶表示素子において特有の問題と考えられる。
【0141】
これに対して、実施の形態1の液晶表示装置(液晶表示素子)及びその製造方法では、上記した配向膜22,32が液晶分子41A,41Bに対して所定のプレチルトθ1,θ2を付与する。これにより、プレチルト処理が全く施されていない場合の問題が生じ難くなり、駆動電圧に対する応答速度が大幅に向上し、オーバードライブ駆動時における表示品位も向上する。その上、TFT基板20及びCF基板30のうちの少なくとも一方には、液晶分子41の配向を規制するための配向規制部としてスリット部21等が設けられているので、視野角特性等の表示特性が確保されるため、良好な表示特性を維持した状態で応答特性が向上する。
【0142】
また、従来の液晶表示装置の製造方法(光配向膜技術)では、配向膜は、基板面上に設けられた所定の高分子材料を含む前駆体膜に対して直線偏光の光や基板面に対する斜め方向の光(以下、『斜め光』と呼ぶ)を照射して形成され、これによりプレチルト処理が施される。このため、配向膜を形成する際に、直線偏光の光を照射する装置や、斜め光を照射する装置といった大がかりな光照射装置が必要とされるという問題がある。また、より広い視野角を実現するためのマルチドメインを有する画素の形成には、より大がかりな装置が必要とされる上、製造工程が複雑になるという問題もある。特に、斜め光を用いて配向膜を形成する場合、基板上にスペーサ等の構造物あるいは凹凸があると、構造物等の陰になり、斜め光が届かない領域が生じ、この領域において液晶分子に対する所望の配向規制が難しくなる。この場合、例えば、画素内にマルチドメインを設けるためにフォトマスクを用いて斜め光を照射するには、光の回り込みを考慮した画素設計が必要となる。即ち、斜め光を用いて配向膜を形成する場合、高精細な画素形成が難しいという問題もある。
【0143】
更に、従来の光配向膜技術の中でも、高分子材料として架橋性高分子化合物を用いる場合、前駆体膜中において架橋性高分子化合物に含まれる架橋性官能基は、熱運動によりランダムな方位(方向)を向いているため、架橋性官能基同士の物理的距離が近づく確率が低くなる。その上、ランダム光(非偏光)を照射した場合、架橋性官能基同士の物理的距離が近づくことにより反応するが、直線偏光の光を照射して反応する架橋性官能基は、偏光方向と反応部位の方向とが所定の方向に揃う必要がある。また、斜め光は、垂直光と比較して、照射面積が広がる分だけ、単位面積当たりの照射量が低下する。即ち、直線偏光の光あるいは斜め光に反応する架橋性官能基の割合は、ランダム光(非偏光)を基板面に対して垂直方向から照射した場合と比較して低くなる。よって、形成された配向膜中における架橋密度(架橋度合い)が低くなり易い。
【0144】
これに対して、実施の形態1では、配向処理前・化合物を含む配向膜22,32を形成した後、配向膜22と配向膜32の間に液晶層40を封止する。次いで、液晶層40に電圧を印加することにより、液晶分子41が所定の配向をとると共に、液晶分子41によって架橋性官能基の向きが整えられながら(即ち、液晶分子41によって、基板あるいは電極に対する側鎖の末端構造部の方向が規定されながら)、配向膜22,32中の配向処理前・化合物を架橋させる。これにより、液晶分子41A,41Bにプレチルトθを付与する配向膜22,32を形成することができる。即ち、実施の形態1の液晶表示装置(液晶表示素子)及びその製造方法によれば、大がかりな装置を用いなくても、容易に応答特性を向上させることができる。その上、配向処理前・化合物を架橋させる際に、紫外線の照射方向に依存することなく液晶分子41に対してプレチルトθを付与することができるため、高精細な画素を形成することができる。更に、配向処理前・化合物において架橋性官能基の向きが整った状態で配向処理後・化合物が生成されるため、配向処理後・化合物の架橋度合いは、上記の従来の製造方法による配向膜よりも高くなっていると考えられる。よって、長時間駆動しても、駆動中に架橋構造が新たに形成され難いため、液晶分子41A,41Bのプレチルトθ1,θ2が製造時の状態に維持され、信頼性を向上させることもできる。
【0145】
この場合において、実施の形態1では、配向膜22,32の間に液晶層40を封止した後、配向膜22,32中の配向処理前・化合物を架橋させているため、液晶表示素子の駆動時の透過率を連続的に増加するように変化させることができる。
【0146】
詳細には、従来の光配向膜技術を用いた場合、図9の(A)に示すように、プレチルト処理を施すために照射した斜め光Lの一部がガラス基板30の裏面で反射するため、液晶分子41の一部(41P)ではプレチルトの方向が乱れてしまう。この場合、一部の液晶分子41のプレチルトの方向が他の液晶分子41のプレチルトの方向からずれてしまうため、液晶分子41の配向状態(配向状態がどれぐらい均一であるか)を表す指標であるオーダーパラメータが小さくなる。これにより、液晶表示素子の駆動時の初期において、プレチルトの方向がずれている一部の液晶分子41Pが他の液晶分子41とは異なる挙動を示し、他の液晶分子41とは異なる方向に配向することにより、透過率が高くなる。しかし、その後、他の液晶分子41の配向と揃うように液晶分子41Pが配向しようとするため、一時的に傾いた液晶分子41Pのダイレクタ方向が基板面に対して垂直になった後に、他の液晶分子41のダイレクタ方向と揃うことになる。このため、液晶表示素子の透過率が連続的に増加せず、局所的に減少する可能性がある。
【0147】
これに対して、液晶層40を封止した後に配向処理前・化合物の架橋反応によりプレチルト処理が施される実施の形態1では、スリット部21等の液晶分子41の配向を規制するための配向規制部によって、駆動時の液晶分子41の配向方向に応じて、プレチルトが付与される。よって、図9の(B)に示すように、液晶分子41のプレチルトの方向が揃い易いため、オーダーパラメータが大きくなる(1に近づく)。これにより、液晶表示素子の駆動時において、液晶分子41が均一な挙動を示すため、透過率が連続的に増加する。
【0148】
この場合、特に、配向処理前・化合物が架橋性官能基と一緒に式(1)に示した基を有しており、又は、配向処理前・化合物が架橋性官能基として式(2)に示した基を有していれば、配向膜22,32がプレチルトθをより付与し易くなる。このため、応答速度をより向上させることができる。
【0149】
更に、他の従来の液晶表示素子の製造方法では、光重合性を有するモノマー等を含む液晶材料を用いて液晶層を形成した後、モノマーを含んだ状態で、液晶層中の液晶分子を所定の配向させながら光照射してモノマーを重合させる。このようにして形成されたポリマーが、液晶分子に対してプレチルトを付与している。ところが、製造された液晶表示素子では、未反応の光重合性のモノマーが液晶層中に残留し、信頼性を低下させるという問題がある。また、未反応のモノマーを少なくするためには光照射時間を長くする必要があり、製造に要する時間(タクト)が長くなるという問題もある。
【0150】
これに対して、実施の形態1では、上記したようにモノマーを添加した液晶材料を用いて液晶層を形成しなくても、配向膜22,32が液晶層40中の液晶分子41A,41Bに対してプレチルトθ1,θ2を付与するため、信頼性を向上させることができる。更に、タクトが長くなることも抑制することができる。更に、ラビング処理といった従来の液晶分子に対するプレチルトを付与する技術を用いなくても、良好に液晶分子41A,41Bに対してプレチルトθを付与できる。このため、ラビング処理の問題点である、配向膜に傷が付くラビング傷によるコントラストの低下や、ラビング時の静電気による配線の断線や、異物による信頼性等の低下が生じることもない。
【0151】
実施の形態1では、主にポリイミド構造を含む主鎖を有する配向処理前・化合物を含有する配向膜22,32を用いた場合について説明したが、配向処理前・化合物が有する主鎖は、ポリイミド構造を含むものに限定されない。例えば、主鎖が、ポリシロキサン構造、ポリアクリレート構造、ポリメタクリレート構造、マレインイミド重合体構造、スチレン重合体構造、スチレン/マレインイミド重合体構造、ポリサッカライド構造又はポリビニルアルコール構造等を含んでいてもよく、中でも、ポリシロキサン構造を含む主鎖を有する配向処理前・化合物が好ましい。また、主鎖を構成する化合物のガラス転移温度Tgは200゜C以上であることが望ましい。上記したポリイミド構造を含む高分子化合物と同様の効果が得られるからである。ポリシロキサン構造を含む主鎖を有する配向処理前・化合物として、例えば、式(9)で表されるポリシラン構造を含む高分子化合物が挙げられる。式(9)におけるR10及びR11は、炭素を含んで構成された1価の基であれば任意であるが、R10及びR11のうちのいずれか一方に、側鎖としての架橋性官能基を含んでいることが好ましい。配向処理後・化合物において、十分な配向規制能が得られ易いからである。この場合における架橋性官能基として、上記した式(41)に示した基等が挙げられる。
【0152】

ここで、R10及びR11は1価の有機基であり、m1は1以上の整数である。
【0153】
更に、実施の形態1では、画素電極20Bにスリット部21を設けることにより、配向分割させて視野角特性を向上させるようにしたが、それに限定されるものではない。例えば、スリット部21の代わりに、画素電極20Bと配向膜22との間に、配向規制部としての突起を設けてもよい。このように突起を設けることによっても、スリット部21を設けた場合と同様の効果を得ることができる。更に、CF基板30の対向電極30Bと配向膜32との間にも、配向規制部としての突起を設けてもよい。この場合、TFT基板20上の突起とCF基板30上の突起とは、基板間で対向しないように配置されている。この場合においても、上記と同様の効果を得ることができる。
【0154】
次に、他の実施の形態について説明するが、実施の形態1と共通の構成要素については、同一の符号を付して説明は省略する。また、実施の形態1と同様の作用及び効果についても、適宜省略する。更には、実施の形態1において説明した以上の各種の技術的事項は、適宜、他の実施の形態にも適用される。
【0155】
[実施の形態2]
実施の形態2は、実施の形態1の変形である。実施の形態1では、配向膜22,32をその近傍に位置する液晶分子41A,41Bのプレチルトθ1,θ2がほぼ同一となるように形成した液晶表示装置(液晶表示素子)について説明したが、実施の形態2にあっては、プレチルトθ1とプレチルトθ2とを異ならせる。
【0156】
具体的には、実施の形態2にあっては、先ず、上記したステップS101と同様にして、配向膜22を有するTFT基板20及び配向膜32を有するCF基板30を作製する。次に、液晶層40中に、例えば、紫外線吸収剤を含ませて封止する。続いて、画素電極20Bと対向電極30Bとの間に所定の電圧を印加してTFT基板20側から紫外線を照射して、配向膜22中の配向処理前・化合物を架橋させる。この際、液晶層40中に紫外線吸収剤が含まれているので、TFT基板20側から入射した紫外線は、液晶層40中の紫外線吸収剤に吸収され、CF基板30側には殆ど到達しない。このため、配向膜22中において、配向処理後・化合物が生成される。続いて、上記の所定の電圧とは異なる電圧を画素電極20Bと対向電極30Bとの間に印加し、CF基板30側から紫外線を照射して配向膜32中の配向処理前・化合物を反応させ、配向処理後・化合物を形成する。これにより、TFT基板20側から紫外線を照射する場合に印加する電圧と、CF基板30側から紫外線を照射する場合に印加する電圧とに応じて、配向膜22,32の近傍に位置する液晶分子41A,41Bのプレチルトθ1,θ2が設定可能となる。よって、プレチルトθ1とプレチルトθ2とを異ならせることができる。但し、TFT基板20にはTFTスイッチング素子や各種バスラインが設けられており、駆動時には種々の横電場が生じている。このことから、TFT基板20の側の配向膜22を、その近傍に位置する液晶分子41Aのプレチルトθ1が配向膜32近傍に位置する液晶分子41Bのプレチルトθ2よりも大きくなるように形成することが望ましい。これにより、横電場による液晶分子41Aの配向乱れを効果的に低減することができる。
【0157】
[実施の形態3]
実施の形態3は、実施の形態1〜実施の形態2の変形である。実施の形態3に係る液晶表示装置(液晶表示素子)の模式的な一部断面図を図10に示す。実施の形態3では、実施の形態1と異なり、配向膜22が、配向処理後・化合物を含まずに構成されている。即ち、実施の形態3にあっては、配向膜32近傍に位置する液晶分子41Bのプレチルトθ2が0°よりも大きい値を有している一方、配向膜22近傍に位置する液晶分子41Aのプレチルトθ1が0°となるように構成されている。
【0158】
ここで、配向膜22は、例えば、上記した他の垂直配向剤により構成されている。
【0159】
実施の形態3の液晶表示装置(液晶表示素子)は、TFT基板20の上に配向膜22を形成する際(図3のステップS101)において、配向処理前・化合物あるいは配向処理前・化合物としての高分子化合物前駆体に代えて、上記の他の垂直配向剤を用いることにより製造することができる。
【0160】
実施の形態3の液晶表示装置(液晶表示素子)では、液晶層40において、液晶分子41Aのプレチルトθ1が0°となり、且つ、液晶分子41Bのプレチルトθ2が0°よりも大きくなる。これにより、プレチルト処理が施されていない液晶表示素子にと比較して、駆動電圧に対する応答速度を大幅に向上させることができる。更に、液晶分子41Aがガラス基板20A,30Aの法線方向に近い状態で配向しているので、黒表示の際の光の透過量を低減することができ、実施の形態1〜実施の形態2における液晶表示装置(液晶表示素子)と比較してコントラストを向上させることができる。即ち、この液晶表示装置(液晶表示素子)では、例えば、TFT基板20側に位置する液晶分子41Aのプレチルトθ1を0°とすることによりコントラストを向上させつつ、CF基板30側に位置する液晶分子41Bのプレチルトθ2を0°よりも大きくすることにより応答速度の向上を図ることができる。よって、駆動電圧に対する応答速度とコントラストとを、バランス良く向上させることができる。
【0161】
また、実施の形態3の液晶表示装置(液晶表示素子)及びその製造方法によれば、TFT基板20の上に配向処理前・化合物を含まない配向膜22を形成すると共に、CF基板30の上に配向処理前・化合物を含む配向膜32を形成する。次いで、TFT基板20及びCF基板30の間に液晶層40を封止した後、配向膜32中の配向処理前・化合物を反応させて、配向処理後・化合物を生成する。よって、大がかりな光照射装置を用いなくても、液晶分子41Bに対してプレチルトθを付与する配向膜32を形成することができるため、容易に応答特性を向上させることができる。また、例えば、光重合性モノマーを含む液晶材料を用いて液晶層を封止した後に光重合性モノマーを重合させた場合と比較して、高い信頼性を確保することができる。
【0162】
実施の形態3に関する他の効果は、実施の形態1と同様である。
【0163】
尚、実施の形態3では、図10に示すように、CF基板30を覆う配向膜32が、配向処理後・化合物を含み、液晶層40のうちのCF基板30の側に位置する液晶分子41Bにプレチルトθ2を付与する構成としたが、これに限定されない。即ち、図11に示すように、配向膜32が配向処理後・化合物を含まずに、TFT基板20を覆う配向膜22が配向処理後・化合物を含み、液晶層40のうちのTFT基板20の側に位置する液晶分子41Aにプレチルトθ1を付与する構成としてもよい。この場合においても、実施の形態3と同様に作用し、同様の効果を得ることができる。但し、上記したようにTFT基板20では、駆動時には種々の横電場が生じていることから、TFT基板20の側の配向膜22を、その近傍に位置する液晶分子41Aに対してプレチルトθ1を付与するように形成することが望ましい。これにより、横電場による液晶分子41の配向乱れを、効果的に低減することができる。
【0164】
[実施の形態4]
実施の形態4も、実施の形態1〜実施の形態2の変形である。実施の形態4に係る液晶表示装置(液晶表示素子)の模式的な一部断面図を図12に示す。実施の形態4では、CF基板30が有する対向電極30Bの構成が異なることを除き、実施の形態1〜実施の形態2の液晶表示装置(液晶表示素子)と同様の構成を有している。
【0165】
具体的には、対向電極30Bには、各画素内において、画素電極20Bと同様のパターンで、スリット部31が設けられている。スリット部31は、スリット部21と基板間で対向しないように配置されている。これにより、駆動電圧が印加されると、液晶分子41のダイレクタに対して斜めの電場が付与されることで、電圧に対する応答速度が向上すると共に、画素内に配向方向の異なる領域が形成されるため(配向分割)、視野角特性が向上する。
【0166】
実施の形態4の液晶表示装置(液晶表示素子)は、図3のステップS101において、CF基板30として、ガラス基板30Aのカラーフィルタ上に、所定のスリット部31を有する対向電極30Bが設けられた基板を用いることにより製造することができる。
【0167】
実施の形態4の液晶表示装置(液晶表示素子)及びその製造方法によれば、架橋前の高分子化合物を含む配向膜22,32を形成した後、配向膜22と配向膜32との間に液晶層40を封止する。次いで、配向膜22,32中の架橋前の高分子化合物を反応させて、架橋した高分子化合物を生成する。これにより、液晶分子41A,41Bに対して所定のプレチルトθ1,θ2を付与する。よって、プレチルト処理が施されていない液晶表示素子にと比較して、駆動電圧に対する応答速度を大幅に向上させることができる。このため、大がかりな光照射装置を用いなくても、液晶分子41に対してプレチルトθを付与する配向膜22,32を形成することができる。従って、容易に応答特性を向上させることができる。更に、例えば、光重合性モノマーを含む液晶材料を用いて液晶層を封止した後に光重合性モノマーを重合させて、プレチルト処理を施す場合と比較して、高い信頼性を確保することができる。
【0168】
実施の形態4の液晶表示装置(液晶表示素子)及びその製造方法の作用、効果は、上記した実施の形態1〜実施の形態2の作用、効果と同様である。
【0169】
尚、実施の形態4では、配向膜22,32をその近傍に位置する液晶分子41A,41Bに対してプレチルトθ1,θ2を付与するように形成したが、実施の形態3において説明した製造方法と同様の方法を用いて配向膜22,32のうちのいずれか一方の近傍に位置する液晶分子41に対してプレチルトθを付与してもよい。この場合においても、実施の形態3と同様の作用、効果が得られる。
【0170】
[実施の形態5]
実施の形態1〜実施の形態4では、液晶層40を設けた状態で配向膜22,32のうちの少なくとも一方において配向処理前・化合物を反応させ、配向処理後・化合物を生成することにより、その近傍の液晶分子41に対してプレチルトを付与した。これに対して、実施の形態5では、液晶層40を設けた状態で、配向膜22,32のうちの少なくとも一方において高分子化合物の構造を分解することにより、その近傍の液晶分子41に対してプレチルトを付与する。即ち、実施の形態5の液晶表示装置(液晶表示素子)は、配向膜22,32の形成方法が異なることを除き、上記した実施の形態1〜実施の形態4と同様の構成を有している。
【0171】
実施の形態5の液晶表示装置(液晶表示素子)は、液晶分子41A、41Bが所定のプレチルトθ1,θ2を有する場合、例えば、以下のように製造される。先ず、TFT基板20及びCF基板30の上に、例えば、上記した他の垂直配向剤等の高分子化合物を含む配向膜22,32を形成する。次に、TFT基板20とCF基板30とを、配向膜22及び配向膜32が対向するように配置し、配向膜22,32の間に液晶層40を封止する。次に、画素電極20Bと対向電極30Bとの間に電圧を印加し、この電圧を印加した状態のまま、上記した紫外線UVよりも、波長250nm程度の短波長域の光成分を多く含む紫外線UVを配向膜22,32に照射する。この際、短波長域の紫外線UVによって、配向膜22,32中の高分子化合物が、例えば分解されることにより構造が変化する。これにより、配向膜22近傍に位置する液晶分子41Aと、配向膜32近傍に位置する液晶分子41Bとに、所定のプレチルトθ1,θ2を付与することができる。
【0172】
液晶層40を封止する前に配向膜22,32が含む高分子化合物として、例えば、式(10)で表されるポリイミド構造を有する高分子化合物が挙げられる。式(10)に示すポリイミド構造は、式(I)の化学反応式に示すように、紫外線UVの照射により式(10)におけるシクロブタン構造が解裂し、式(11)で表される構造となる。
【0173】

ここで、R20は2価の有機基であり、p1は1以上の整数である。
【0174】
実施の形態5では、配向膜22近傍に位置する液晶分子41Aと配向膜32近傍に位置する液晶分子41Bとが所定のプレチルトθ1,θ2を有することにより、プレチルト処理を施されていない液晶表示素子と比較して、応答速度を大幅に向上させることができる。また、大がかりな装置を用いなくても、液晶分子41に対してプレチルトθを付与することが可能な配向膜22,32のうちの少なくとも一方を形成することができる。このため、容易に応答特性を向上させることができる。但し、配向膜22,32に対して照射する紫外線により液晶分子41の分解等が生じる虞があるため、上記した実施の形態1〜実施の形態4の方が、より高い信頼性を確保し易い。
【0175】
[実施の形態6]
実施の形態6は、本発明の第2の態様に係る液晶表示装置、並びに、本発明の第2の態様及び第3の態様に係る液晶表示装置の製造方法に関する。
【0176】
実施の形態1〜実施の形態4にあっては、配向処理後・化合物は、側鎖として架橋性官能基を有する配向処理前・化合物における架橋性官能基が架橋することで得られる。一方、実施の形態6にあっては、配向処理後・化合物は、エネルギー線の照射による変形を伴う感光性官能基を側鎖として有する配向処理前・化合物に基づき得られる。
【0177】
ここで、実施の形態6においても、配向膜22,32は、側鎖に架橋構造を有する高分子化合物(配向処理後・化合物)の1種あるいは2種以上を含んで構成されている。そして、液晶分子は、変形した化合物によってプレチルトが付与される。ここで、配向処理後・化合物は、主鎖及び側鎖を有する高分子化合物(配向処理前・化合物)の1種あるいは2種以上を含む状態で配向膜22,32を形成した後、液晶層40を設け、次いで、高分子化合物を変形させることで、あるいは又、高分子化合物にエネルギー線を照射することで、より具体的には、電場又は磁場を印加しながら側鎖に含まれる感光性官能基を変形させることにより生成される。尚、このような状態を、図16の概念図に示す。尚、図16において、「UV」が付された矢印の方向、「電圧」が付された矢印の方向は、紫外線が照射される方向、加えられる電界の方向を示すものではない。そして、配向処理後・化合物は、液晶分子を一対の基板(具体的には、TFT基板20及びCF基板30)に対して所定の方向(具体的には、斜め方向)に配列させる構造を含んでいる。このように、高分子化合物を変形させて、あるいは又、高分子化合物にエネルギー線を照射することで、配向処理後・化合物が配向膜22,32中に含まれることにより、配向膜22,32近傍の液晶分子41に対してプレチルトを付与できるため、応答速度が早くなり、表示特性が向上する。
【0178】
感光性官能基として、アゾ基を有するアゾベンゼン系化合物、イミンとアルジミンとを骨格に有する化合物(便宜上、『アルジミンベンゼン』と呼ぶ)、スチレン骨格を有する化合物(便宜上、『スチルベン』と呼ぶ)を例示することができる。これらの化合物は、エネルギー線(例えば、紫外線)に応答して変形する結果、即ち、トランス状態からシス状態へ遷移する結果、液晶分子にプレチルトを付与することができる。
【0179】


【0180】
式(AZ−0)で表されるアゾベンゼン系化合物における「X」として、具体的には、例えば、以下の式(AZ−1)〜式(AZ−9)を例示することができる。
【0181】

【0182】


ここで、R,R”のいずれか一方は、ジアミンを含むベンゼン環と結合し、他方は末端基となり、R,R’,R”は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、カーボネート基を有する1価の基、又は、それらの誘導体であり、R”はジアミンを含むベンゼン環と直接結合する。
【0183】
実施の形態6の液晶表示装置及びその製造方法は、エネルギー線(具体的には、紫外線)の照射による変形を伴う感光性官能基を有する配向処理前・化合物を用いることを除き、基本的、実質的には、実施の形態1〜実施の形態4において説明した液晶表示装置及びその製造方法と同様とすることができるので、詳細な説明は省略する。
【実施例1】
【0184】
[実施例1A]
実施例1は、本発明の第1の態様に係る液晶表示装置(液晶表示素子)及びその製造方法、並びに、本発明の第3の態様に係る液晶表示装置(液晶表示素子)の製造方法に関する。実施例1Aにあっては、以下の手順により、図11に示す液晶表示装置(液晶表示素子)を作製した。
【0185】
先ず、TFT基板20及びCF基板30を準備した。TFT基板20として、厚さ0.7mmのガラス基板20Aの一面側に、スリットパターン(線幅60μm、線間10μm:スリット部21)を有するITOから成る画素電極20Bが形成された基板を用いた。また、CF基板30として、カラーフィルタが形成された厚さ0.7mmのガラス基板30Aのカラーフィルタ上に、スリットパターン(線幅60μm、線間10μm:スリット部31)を有するITOから成る対向電極30Bが形成された基板を用いた。この画素電極20B及び対向電極30Bに形成されたスリットパターンによって、TFT基板20とCF基板30との間に斜め電界が加わる。続いて、TFT基板20の上に3.5μmのスペーサ突起物を形成した。
【0186】
一方、配向膜材料を調製した。この場合、先ず、ジアミン化合物である、式(A−7)に示した架橋性官能基を有する化合物1モルと、式(B−6)に示した垂直配向誘起構造部を有する化合物1モルと、式(E−2)に示したテトラカルボン酸二無水物2モルとを、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解させた。続いて、この溶液を60゜Cで6時間反応させた後、反応後の溶液に対して、大過剰の純水を注いで反応生成物を沈殿させた。続いて、沈殿した固形物を分離した後、純水で洗浄し、減圧下、40゜Cで15時間乾燥させ、これにより、配向処理前・化合物としての高分子化合物前駆体であるポリアミック酸が合成された。最後に、得られたポリアミック酸3.0グラムをNMPに溶解させることにより、固形分濃度3重量%の溶液とした後、0.2μmのフィルタで濾過した。
【0187】
続いて、TFT基板20及びCF基板30のそれぞれに、調製した配向膜材料をスピンコーターを用いて塗布した後、塗布膜を80゜Cのホットプレートで80秒間乾燥させた。続いて、TFT基板20及びCF基板30を、窒素ガス雰囲気下、200゜Cのオーブンで1時間加熱した。これにより、画素電極20B及び対向電極30B上における厚さが80nm(800Å)の配向膜22,32を形成した。
【0188】
続いて、CF基板30上の画素部周縁に、粒径3.5μmのシリカ粒子を含む紫外線硬化樹脂を塗布することによりシール部を形成し、これに囲まれた部分に、ネガ型液晶であるMLC−7029(メルク社製)から成る液晶材料を滴下注入した。この後、画素電極20Bのライン部分の中央と、対向電極30Bのスリット部31とが対向するようにTFT基板20とCF基板30とを貼り合わせ、シール部を硬化させた。続いて、120゜Cのオーブンで1時間加熱し、シール部を完全に硬化させた。これにより、液晶層40が封止され、液晶セルを完成させることができた。
【0189】
続いて、このように作製された液晶セルに対して、実効値電圧10ボルトの矩形波の交流電界(60Hz)を印加した状態で、500mJ(波長365nmでの測定)の均一な紫外線を照射し、配向膜22,32中の配向処理前・化合物を反応させた。これにより、TFT基板20及びCF基板30の双方に、配向処理後・化合物を含む配向膜22,32を形成した。以上により、TFT基板20及びCF基板30側の液晶分子41A,41Bがプレチルトをなす図12に示す液晶表示装置(液晶表示素子)を完成させることができた。最後に、液晶表示装置の外側に、吸収軸が直交するように一対の偏光板を貼り付けた。
【0190】
[実施例1B]
実施例1Bにおいては、配向膜材料として、ポリアミック酸に代えて、このポリアミック酸を脱水閉環させて得たイミド化重合体を用いたことを除き、実施例1Aと同様の手順を経た。この際、実施例1Aにおいて合成したポリアミック酸をN−メチル−2−ピロリドンに溶解させた後、ピリジン及び無水酢酸を添加し、この混合溶液を110゜Cで3時間反応させることにより脱水閉環させた。続いて、反応後の混合溶液に対して、大過剰の純水を注いで反応生成物を沈殿させ、沈殿した固形物を分離した後、純水で洗浄した。この後、減圧下、40゜Cで15時間乾燥させることにより、配向処理前・化合物であるイミド化重合体を得た。
【0191】
[実施例1C]
実施例1Cにおいては、ポリアミック酸を合成する際に、式(B−6)に示した垂直配向誘起構造部を有する化合物に代えて、以下の式(B−37)で表される垂直配向誘起構造部を有する化合物を用いたことを除き、実施例1Aと同様の手順を経た。
【0192】

【0193】
[実施例1D]
実施例1Dにおいては、ポリアミック酸を合成する際に、式(E−2)に示したテトラカルボン酸二無水物に代えて、式(E−3)に示したテトラカルボン酸二無水物を用いたことを除き、実施例1Aと同様の手順を経た。
【0194】
[実施例1E]
実施例1Eにおいては、ポリアミック酸を合成する際に、式(E−2)に示したテトラカルボン酸二無水物に代えて、式(E−1)に示したテトラカルボン酸二無水物を用いたことを除き、実施例1Aと同様の手順を経た。
【0195】
[実施例1F]
実施例1Fにおいては、ポリアミック酸を合成する際に、ジアミン化合物として式(A−7)に示した架橋性官能基を有する化合物を用いなかったことと共に、液晶セルに対して照射した紫外線を変更したことを除き、実施例1Aと同様の手順を経た。詳細には、ポリアミック酸を合成する際に、ジアミン化合物として式(B−6)に示した垂直配向誘起構造部を有する化合物2モルを用いた。また、液晶セルに対して、実効値電圧10ボルトの矩形波の交流電界を印加した状態で、100mJ(波長250nmでの測定)の均一な紫外線を照射した。
【0196】
[比較例1A]
比較例1Aにおいては、液晶セルに対して紫外線を照射しなかったことを除き、実施例1Aと同様の手順を経た。
【0197】
[比較例1B]
比較例1Bにおいては、液晶セルに対して照射した紫外線を500mJ(波長365nmでの測定)の均一な紫外線に変更したことを除き、実施例1Fと同様の手順を経た。
【0198】
これらの実施例1A〜実施例1F、比較例1A〜比較例1Bの液晶表示装置(液晶表示素子)について、応答時間を測定したところ、図13に示す結果が得られた。応答時間を測定する際には、測定装置としてLCD5200(大塚電子株式会社製)を用いて、画素電極20Bと対向電極30Bとの間に、駆動電圧(2.5ボルト〜7.5ボルト)を印加し、輝度10%からその駆動電圧に応じた階調の90%の輝度となるまでの時間を測定した。
【0199】
図13に示すように、配向膜22,32が架橋構造と共にポリイミド構造を有する高分子化合物(配向処理後・化合物)を含む実施例1A〜実施例1Eでは、側鎖が架橋したポリイミドを含まない比較例1A、比較例1Bと比較して、応答時間が短縮された。また、配向膜22,32がポリイミドの分解により液晶分子41A,41Bにプレチルトθ1,θ2を付与する実施例1Fでは、応答時間は、実施例1A〜実施例1Eよりも長くなったが、ポリイミドが分解されていない配向膜22,32を有する比較例1A、比較例1Bよりも短縮された。
【0200】
即ち、実施例1A〜実施例1Fでは、配向膜22,32が液晶分子41A,41Bに対してプレチルトθ1,θ2を付与するように形成され、液晶配向性が良好であった。一方、比較例1A、比較例1Bでは、実施例1A〜実施例1Fと同様の配向膜22,32が形成されなかった。
【0201】
これらのことから、VAモードの液晶表示装置(液晶表示素子)では、液晶層40を設けた状態で、配向膜22,32がその近傍の液晶分子41に対してプレチルトθを付与するように、配向膜22,32中の配向処理前・化合物を架橋させ、あるいは高分子化合物の構造を分解する。これにより、応答速度を大幅に向上させることができる。この場合、大がかりな装置を用いなくても、液晶分子41A,41Bに対してプレチルトを付与することが可能な配向膜22,32を形成することができることが確認された。よって、容易に応答特性を向上させることができることが確認された。
【0202】
[参考例1A]
次に、以下の手順により配向膜を形成して、架橋密度を調べた。即ち、実施例1Aの配向膜材料を用いて配向膜を形成した。この場合、先ず、実施例1Aにおいて用いた配向膜材料(固形分濃度3重量%のポリアミック酸溶液)を、ガラス基板の一面側の表面にスピンコーターを用いて塗布した後、塗布膜を80゜Cのホットプレートで80秒間乾燥させた。その後、このガラス基板を、窒素ガス雰囲気下、200゜Cのオーブンで1時間加熱することより、配向処理前・化合物を含む80nm(800Å)厚の配向膜(前駆体膜)を形成した。続いて、ガラス基板の配向膜側から、均一な紫外線(ランダム光)を500mJ(波長365nmでの測定)照射し、前駆体膜中の配向処理前・化合物を反応させて、配向処理後・化合物を含む配向膜を形成した。
【0203】
[参考例1B]
紫外線を照射する際に、ランダム光の代わりに、偏光光を500mJ(波長365nmでの測定)照射したことを除き、参考例1Aと同様の手順を経た。
【0204】
これらの参考例1A、参考例1Bの配向膜について、架橋密度を調べたところ、表1に示す結果が得られた。
【0205】
架橋密度を調べる際には、反射型のFT−IR(Nicolet nexus 470FT−IR;Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、配向膜の赤外スペクトルを測定した。この際、先ず、紫外線照射前の配向膜(前駆体膜)について赤外スペクトル(反射)を測定し、このスペクトルから波数1642cm-1における吸収ピークの面積(前駆体膜における吸収ピーク面積)を算出した。この波数1642cm-1における吸収ピークは、ポリイミドに導入された架橋性官能基(カルコン基)の架橋反応する炭素二重結合(C=C)の伸縮振動に由来するものである。続いて、紫外線照射後の配向膜について上記と同様に赤外スペクトルを測定し、このスペクトルから波数1642cm-1における吸収ピークの面積(紫外線照射後の配向膜における吸収ピーク面積)を算出した。これらの紫外線照射前及び照射後についての吸収ピーク面積から、架橋密度(%)=[1−(紫外線照射後の配向膜における吸収ピーク面積/前駆体膜における吸収ピーク面積)]×100を算出した。
【0206】
[表1]

【0207】
表1に示すように、ランダム光を照射した参考例1Aでは、架橋密度が71.2%となり、架橋密度が47.7%の偏光光を照射した参考例1Bよりも著しく高くなった。この結果は、以下のことを表している。前駆体膜中において架橋性官能基は、熱運動によりランダムな方位(方向)を向いている。ここで、ランダム光(非偏光)を照射すると、架橋性官能基同士の物理的距離が熱運動により近づいたとき、反応して側鎖が架橋する。ところが、偏光光を照射すると、熱運動により、偏光方向と架橋性官能基の反応部位(カルコン基中の架橋反応するC=C結合)の方向とが所定の方向に揃い、且つ、物理的距離が近づいたとき、反応して側鎖が架橋する。このため、架橋させるための紫外線として、ランダム光を用いた場合においては、偏光光を用いた場合よりも、配向膜中の架橋密度が高くなる。
【0208】
このことから、紫外線照射により架橋構造を有する高分子化合物を含む配向膜を形成する際には、紫外線としてランダム光を用いることにより、架橋密度を高くすることができることが確認された。よって、このように形成された架橋密度の高い配向膜を備えた液晶表示装置(液晶表示素子)では、信頼性が向上することが示唆された。
【実施例2】
【0209】
[実施例2A]
実施例2も、本発明の第1の態様に係る液晶表示装置(液晶表示素子)及びその製造方法、並びに、本発明の第3の態様に係る液晶表示装置(液晶表示素子)の製造方法に関する。実施例2Aにおいては、実施例1Aと異なり、図1に示した液晶表示装置(液晶表示素子)を作製して応答特性を調べた。
【0210】
具体的には、先ず、TFT基板20及びCF基板30を準備した。TFT基板20として、厚さ0.7mmのガラス基板20Aの一面側に、スリットパターン(線幅4μm、線間4μm:スリット部21)を有するITOから成る画素電極20Bが形成された基板を用いた。また、CF基板30として、カラーフィルタが形成された厚さ0.7mmのガラス基板30Aのカラーフィルタ上に、ITOから成る対向電極30Bが全面に亙って形成された基板を用いた。この画素電極20Bに形成されたスリットパターンによって、TFT基板20とCF基板30との間に斜め電界が加わる。続いて、TFT基板20の上に感光性アクリル樹脂PC−335(JSR株式会社製)を用いて3.5μmのスペーサ突起物を形成した。
【0211】
一方、配向膜材料を調製した。この場合、先ず、ジアミン化合物である式(A−8)に示した架橋性官能基を有する化合物と、式(B−6)に示した垂直配向誘起構造部を有する化合物と、式(C−1)に示した化合物と、式(E−2)に示したテトラカルボン酸二無水物とを、表2に示す割合でNMPに溶解させた。続いて、この溶液を60゜Cで4時間反応させた後、反応後の溶液に対して、大過剰のメタノールを注いで反応生成物を沈殿させた。続いて、沈殿した固形物を分離した後、メタノールで洗浄し、減圧下、40゜Cで15時間乾燥させ、これにより、配向処理前・化合物としての高分子化合物前駆体であるポリアミック酸が合成された。最後に、得られたポリアミック酸3.0グラムをNMPに溶解させることにより、固形分濃度3重量%の溶液とした後、0.2μmのフィルタで濾過した。
【0212】
続いて、TFT基板20及びCF基板30のそれぞれに、調製した配向膜材料をスピンコーターを用いて塗布した後、塗布膜を80゜Cのホットプレートで80秒間乾燥させた。続いて、TFT基板20及びCF基板30を、窒素ガス雰囲気下、200゜Cのオーブンで1時間加熱した。これにより、画素電極20B及び対向電極30B上における厚さが90nmの配向膜22,32を形成した。
【0213】
続いて、実施例1Aと同様に、CF基板30上の画素部周縁に、紫外線硬化樹脂を塗布することによりシール部を形成し、これに囲まれた部分に、ネガ型液晶から成る液晶材料を滴下注入した。この後、TFT基板20とCF基板30とを貼り合わせ、シール部を硬化させた。続いて、120゜Cのオーブンで1時間加熱し、シール部を完全に硬化させた。これにより、液晶層40が封止され、液晶セルを完成させることができた。
【0214】
続いて、このように作製された液晶セルに対して、実効値電圧10ボルトの矩形波の交流電界(60Hz)を印加した状態で、500mJ(波長365nmでの測定)の均一な紫外線を照射し、配向膜22,32中の配向処理前・化合物を反応させた。これにより、TFT基板20及びCF基板30の双方に、配向処理後・化合物を含む配向膜22,32を形成した。以上により、TFT基板20及びCF基板30側の液晶分子41A,41Bがプレチルトをなす図1に示した液晶表示装置(液晶表示素子)を完成させることができた。最後に、液晶表示装置の外側に、吸収軸が直交するように一対の偏光板を貼り付けた。
【0215】
[実施例2B]
実施例2Bにおいては、ポリアミック酸を合成する際に、式(B−6)に示した垂直配向誘起構造部を有する化合物を用いなかったことを除き、実施例2Aと同様の手順を経た。
【0216】
[実施例2C]
実施例2Cにおいては、ポリアミック酸を合成する際に、式(C−1)に示した化合物に代えて、式(C−2)に示した化合物を用いたことを除き、実施例2Aと同様の手順を経た。
【0217】
[実施例2D、実施例2E]
実施例2D、実施例2Eにおいては、ポリアミック酸を合成する際に、式(A−8)に示した架橋性官能基を有する化合物、式(B−6)に示した垂直配向誘起構造部を有する化合物、及び式(C−1)に示した化合物に代えて、式(D−7)に示した基を有する化合物及び式(G−1)で表される化合物を、表2に示す割合で用いたことを除き、実施例2Aと同様の手順を経た。
【0218】

【0219】
[比較例2]
比較例2においては、ポリアミック酸を合成する際に、式(D−7)に示した基を有する化合物に代えて、式(B−6)に示した垂直配向誘起構造部を有する化合物を用いたことを除き、実施例2Aと同様の手順を経た。
【0220】
これらの実施例2A〜実施例2E、比較例2の液晶表示装置(液晶表示素子)について、プレチルトθ及び応答時間を測定したところ、表2に示す結果が得られた。
【0221】
液晶分子41のプレチルトθを調べる際には、公知の方法(T.J.Scheffer等,J.Appl.Phys.,vol.19,2013頁,1980年に記載されている方法)に準拠し、He−Neレーザ光を用いた結晶回転法により測定した。以下の各種実施例、比較例においても、プレチルトθの測定方法は同様である。尚、プレチルトθは、上述し、図2に示したように、ガラス基板20A,30Aの表面に垂直な方向(法線方向)をZとした場合に、駆動電圧がオフの状態で、Z方向に対する液晶分子41(41A,41B)のダイレクタDの傾斜角度である。
【0222】
応答時間を測定する際には、測定装置としてLCD5200(大塚電子株式会社製)を用いて、画素電極20Bと対向電極30Bとの間に、駆動電圧(7.5ボルト)を印加し、輝度10%からその駆動電圧に応じた階調の90%の輝度となるまでの時間を測定した。以下の各種実施例、比較例においても、応答時間の測定方法は同様である。
【0223】
[表2]

【0224】
表2に示すように、配向膜22,32中の配向処理後・化合物が式(1)又は式(2)に示した基を有する化合物を含む実施例2A〜実施例2Eでは、これらの化合物を含まない比較例2と比較して、プレチルトθが付与されると共に、応答時間が短縮された。
【0225】
即ち、実施例2A〜実施例2Eでは、配向膜22,32が液晶分子41A,41Bに対してプレチルトθ1,θ2を付与するように形成され、液晶配向性が良好であった。一方、比較例2では、実施例2A〜実施例2Eと同様の配向膜22,32が形成されなかった。
【0226】
これらのことから、VAモードの液晶表示装置(液晶表示素子)では、配向膜22,32中における配向処理後・化合物が式(1)又は式(2)に示した基を有する化合物を含むことにより、プレチルトθを付与できると共に、応答速度を大幅に向上させることができることが確認された。
【0227】
次に、以下の手順により、図1に示した液晶表示装置(液晶表示素子)を作製して駆動時の透過率を調べた。
【0228】
[参考例2A]
参考例2Aにあっては、以下のようにプレチルトを付与したことを除き、実施例2Aと同様の手順を経た。即ち、TFT基板20及びCF基板30の対向面側にスピンコーターを用いて光配向膜(日産化学株式会社製RN1338)を形成した後、光配向膜を80゜Cのホットプレートで80秒間乾燥させた。続いて、TFT基板20及びCF基板30を窒素ガス雰囲気下、200゜Cのオーブンで1時間加熱した後、光配向膜に偏光紫外線光を斜め照射することにより、プレチルトを付与した。
【0229】
[参考例2B]
参考例2Bにあっては、以下のようにプレチルトを付与したことを除き、実施例2Aと同様の手順を経た。即ち、TFT基板20及びCF基板30の対向面側にスピンコーターを用いて垂直配向膜(JSR株式会社製JALS2131−R6)を形成した後、垂直配向膜を80゜Cのホットプレートで80秒間乾燥させた。続いて、TFT基板20及びCF基板30を、窒素ガス雰囲気下、200゜Cのオーブンで1時間加熱した。続いて、CF基板30上の画素部周縁に、粒径3.5μmのシリカ粒子を含む紫外線硬化樹脂を塗布することによりシール部を形成し、これに囲まれた部分に、ネガ型液晶であるMLC−7029(メルク社製)にアクリルモノマー(新中村化学工業株式会社製A−BP−2E)を0.3重量%混合させて成る液晶材料を滴下注入した。続いて、実効値電圧10Vの矩形波の交流電界(60Hz)を印加させた状態で、500mJ(波長365nmでの測定)の均一な紫外線を照射することにより、プレチルトを付与した。
【0230】
これらの実施例2E、参考例2A、参考例2Bの液晶表示装置(液晶表示素子)について駆動時の透過率を測定したところ、図14に示す結果が得られた。透過率を測定する際には、画素電極20Bと対向電極30Bとの間に駆動電圧(7.5ボルト)を印加すると共に、TFT基板20側からCF基板30側に透過した光の透過率を調べた。
【0231】
図14に示すように、架橋構造を有する高分子化合物(配向処理後・化合物)を含む配向膜22,32を用いた実施例2Eでは、透過率が連続的に増加した。一方、上記した配向膜22,32を用いなかった参考例2A、参考例2Bでは、透過率が連続的に増加せず、増加した後に、一度減少してから、再び増加した。
【0232】
即ち、実施例2Eでは、液晶分子41のプレチルトの方向が揃っており、オーダーパラメータが大きくなったため、時間の経過に従って透過率が連続的に増加したと考えられる。一方、参考例2A、参考例2Bでは、液晶分子41のプレチルトの方向が乱れており、オーダーパラメータが小さくなったため、時間の経過に従って透過率が途中で減少したと考えられる。
【0233】
これらのことから、VAモードの液晶表示装置(液晶表示素子)では、液晶層40を設けた状態で液晶分子41に対してプレチルトθを付与するように配向膜22,32中の配向処理前・化合物を架橋させ、あるいは、高分子化合物の構造を分解する。これにより、透過率を連続的に増加させることができる。よって、容易、且つ、安定に応答特性を向上させることができることが確認された。
【実施例3】
【0234】
[実施例3A〜実施例3R]
実施例3も、本発明の第1の態様に係る液晶表示装置(液晶表示素子)及びその製造方法、並びに、本発明の第3の態様に係る液晶表示装置(液晶表示素子)の製造方法に関する。実施例3A〜実施例3Rにあっては、液晶分子が末端構造部に沿うこと構造を有していない高分子化合物を比較例3とし、この比較例3に対して応答速度の向上を図ることができるかを調べた。
【0235】
具体的には、ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物とを反応させて、ポリアミック酸を得た。次いで、イミド化反応させ、脱水閉環させたものを、NMPに溶解させた。こうして得られた式(F−1)〜式(F−6)に示した6種類のポリイミドを、実施例3A〜実施例3Fと呼ぶ。また、式(F−7)〜式(F−12)に示したアクリレートモノマーを、MEK中で重合開始剤と共に反応させた。次いで、乾燥させたものを、NMPに溶解させた。こうして得られた6種類のポリアクリレートを、実施例3G〜実施例3Lと呼ぶ。更には、式(F−13)〜式(F−18)に示したシラン類を加水分解し、生成したシラノールを脱水縮合し、NMPに溶解させた。こうして得られた6種類のポリシロキサンを、実施例3M〜実施例3Rと呼ぶ。
【0236】
そして、これらの実施例3A〜実施例3Rを用いて、実施例2Aと同様にして配向膜22,32を得た後、更に、基本的に実施例2Aにおいて説明したと同様の方法に基づき、液晶セルを完成させた。但し、スペーサ突起物の高さを3.5μmとし、粒径3.5μmのシリカ粒子を使用し、シール部を形成した。また、画素電極20B及び対向電極30B上における配向膜22,32の厚さを90nmとした。
【0237】
次いで、このように作製された液晶セルに対して、実効値電圧20ボルトの矩形波の交流電界(60Hz)を印加した状態で、500mJ(波長365nmでの測定)の均一な紫外線を照射し、配向膜22,32中の配向処理前・化合物を反応させた。これにより、TFT基板20及びCF基板30の双方に、配向処理後・化合物を含む配向膜22,32を形成した。以上により、TFT基板20及びCF基板30側の液晶分子41A,41Bがプレチルトをなす、図1に示した液晶表示装置(液晶表示素子)を完成することができた。最後に、液晶表示装置の外側に、吸収軸が直交するように一対の偏光板を貼り付けた。
【0238】
このようにして作製された液晶表示装置(液晶表示素子)[実施例3A〜実施例3R]について、液晶分子のプレチルト及び応答速度を測定した。その結果を、以下の表3に示す。尚、応答速度は、実施例2A〜実施例2Eと同様にして測定した。
【0239】
[比較例3]
比較例3にあっては、式(G−2)に示す材料を使用し、更に、式(G−2)に示す化合物と等量の式(B−1)に示す化合物と共に式(E−2)に示すテトラカルボン酸二無水物を材料として使用した以外は、実施例3Aと同様にして、液晶表示装置(液晶表示素子)を作製した。そして、液晶分子のプレチルト及び応答速度を測定した。その結果を、以下の表3に示す。ここで、式(G−2)に示した材料は、液晶分子41に対して沿うことができる基を有していないし、メソゲン基を有していない。
【0240】

【0241】
[表3]

【0242】
表3から、実施例3A〜実施例3Rにあっては、応答速度が、比較例3よりも格段に早いことが判る。
【実施例4】
【0243】
[実施例4A〜実施例4H]
実施例4も、本発明の第1の態様に係る液晶表示装置(液晶表示素子)及びその製造方法、並びに、本発明の第3の態様に係る液晶表示装置(液晶表示素子)の製造方法に関する。実施例4A〜実施例4Hにあっては、配向膜の表面粗さRaと、応答速度及びコントラストとの関係を調べた。
【0244】
具体的には、式(G−3)に示すジアミン化合物、及び、式(G−1)に示すジアミン化合物を、表4に示す比率として、ジアミン化合物の合計モル数と等量の式(E−2)に示すテトラカルボン酸二無水物を、NMPに溶解させ、60゜Cで4時間反応させることで、ポリイミドを得た。尚、テトラカルボン酸二無水物として、その他、式(E−1)、式(E−3)〜式(E−28)で表されるテトラカルボン酸二無水物を用いることもできる。次いで、反応混合物に大過剰のメタノールを注ぎ、反応生成物を沈澱させた。その後、反応生成物をメタノールで洗浄し、減圧下、40゜Cで15時間乾燥させて、ポリアミック酸を合成した。このようにして合成したポリアミック酸を、表4に示す配向膜材料a、配向膜材料bと呼ぶ。
【0245】

【0246】
[表4]

【0247】
そして、実施例4A〜実施例4Hにあっては、実施例2Aと同様にして配向膜22,32を得た後、更に、基本的に実施例2Aにおいて説明したと同様の方法に基づき、液晶セルを完成させた。ここで、スペーサ突起物の高さを3.5μmとし、粒径3.5μmのシリカ粒子を使用し、シール部を形成した。また、画素電極20B及び対向電極30B上における配向膜22,32の厚さを90nmとした。また、スペーサ突起物を形成した画素電極側に斜めに電界が加わるように、画素電極がパターニングしている。ここで、パターニングされた画素電極の幅を4μm、パターニングされた画素電極と画素電極との間の間隔を4μmとした。即ち、画素電極は、ライン・アンド・スペース状にパターニングされている。即ち、スリットパターンの線幅を4μm、線間を4μmとした。
【0248】
続いて、このように作製された液晶セルに対して、実効値電圧2.5ボルト〜50ボルトの矩形波の交流電界(60Hz)を印加した状態で、500mJ(波長365nmでの測定)の均一な紫外線を照射し、配向膜中の配向処理前・化合物を反応させ、液晶分子41A,41Bに対してプレチルトを付与した。これにより、TFT基板及びCF基板の双方に、配向処理後・化合物を含む配向膜を形成した。以上により、TFT基板及びCF基板側の液晶分子がプレチルトをなす図1に示した液晶表示装置(液晶表示素子)を完成させることができた。最後に、液晶表示装置の外側に、吸収軸が直交するように一対の偏光板を貼り付けた。
【0249】
一方、比較例4A〜比較例4Lにあっては、実施例4A〜実施例4Hと同様にして、画素電極を有するTFT基板の上にスペーサ突起物を形成し、一方、CF基板にはパターニングされていない対向電極を形成した。そして、TFT基板及びCF基板のそれぞれの対向面に、垂直配向膜(JSR株式会社製AL1H659)をスピンコートし、80゜Cのホットプレートで80秒間乾燥させた。続いて、TFT基板及びCF基板を、窒素ガス雰囲気下、200゜Cのオーブンで1時間加熱した。続いて、CF基板上の画素部周縁に、粒径3.5μmのシリカ粒子を含む紫外線硬化樹脂を塗布することによりシール部を形成し、これに囲まれた部分に、ネガ型液晶であるMLC−7029(メルク社製)にアクリルモノマー(新中村化学工業株式会社製A−BP−2E)を混合して成る液晶材料を滴下注入した。この後、TFT基板とCF基板とを貼り合わせ、シール部を硬化させた。続いて、120゜Cのオーブンで1時間加熱し、シール部を完全に硬化させた。これにより、液晶層が封止され、液晶セルを完成させることができた。次いで、液晶層に電圧を印加しながら紫外線を照射することで、アクリルモノマーを重合させた。これにより、配向膜の最表面にポリマー突起物が形成され、このポリマー突起物が液晶分子に対してプレチルトを付与する。
【0250】
これらの実施例4A〜実施例4H、比較例4A〜比較例4Lの液晶表示装置(液晶表示素子)について、表面粗さRa、プレチルトθ、応答時間及びコントラストを測定したところ、表5に示す結果が得られた。尚、実施例4A〜実施例4Dにあっては、配向膜材料aを用い、紫外線を照射して配向膜中の配向処理前・化合物を反応させるときに印加する実効値電圧の値を変化させた。また、実施例4E〜実施例4Hにあっては、配向膜材料bを用い、紫外線を照射して配向膜中の配向処理前・化合物を反応させるときに印加する実効値電圧の値を変化させた。印加する実効値電圧の関係は、以下のとおりである。一方、比較例4A〜比較例4Dにあっては、アクリルモノマーの添加量を0.3重量%とし、比較例4E〜比較例4Hにあっては、アクリルモノマーの添加量を0.1重量%とし、比較例4I〜比較例4Lにあっては、アクリルモノマーの添加量を0.03重量%とした。また、紫外線を照射して配向膜中の配向処理前・化合物を反応させるときに印加した実効値電圧の値の関係は、以下のとおりである。
【0251】
[実効値電圧]
実施例4A>実施例4B>実施例4C>実施例4D
実施例4E>実施例4F>実施例4G>実施例4H
比較例4A>比較例4B>比較例4C>比較例4D
比較例4H>比較例4G>比較例4F>比較例4E
比較例4I>実施例4J>比較例4K>比較例4L
【0252】
表面粗さRaの測定にあっては、液晶セルを分解し、キーエンス社製AFM VN−8000を用いて測定した。その際、配向膜を損傷しないように液晶セルを開封(分解)し、配向膜表面からIPAを用いて液晶を丁寧に洗い流した後、窒素ガス雰囲気のオーブン内にて85゜C、10分間、乾燥させて、表面粗さRaの測定を行った。また、コントラストの測定は、コニカミノルタ株式会社製CS−2000を用いて、暗室内で測定した。
【0253】
尚、実施例4A、比較例4A、比較例4Eにおける配向膜表面のAFM像を、図17の(A)、(B)及び(C)に示す。また、表面粗さRaと応答時間の関係をプロットしたグラフを図18に示し、コントラストと応答時間の関係をプロットしたグラフを図19に示す。
【0254】
[表5]

【0255】
アクリルモノマーの重合後、配向膜の最表面にはポリマー突起物が形成されるが、比較例4A〜比較例4Lから、アクリルモノマーの添加量が少なくなるほど、配向膜の表面粗さの値が小さくなっており、配向膜の最表面に形成されるポリマー突起物は少なくなることが判る。そして、配向膜の表面粗さの値が小さくなるほど、コントラストの値が高くなる。比較例4I〜比較例4Lにあっては、表面粗さRaが1nm以下であり、6000台のコントラスト値を得ることができる。しかしながら、アクリルモノマーの添加量が少なくなるほど、プレチルトの値が小さくなっており、応答速度が遅くなってしまい、高速応答を実現することができない。表面粗さが1nm以下においては、ポリマー突起物の形成が不十分であり、垂直配向成分が存在し、液晶の倒れる方向が制御された方向でないドメインが存在するためと考えられる。一方、配向膜の表面粗さが粗い場合、液晶のオーダーパラメータを乱すとも考えられ、コントラストも低下する。比較例4A〜比較例4Lにあっては、表面粗さRaと応答時間、コントラストと応答時間には、良い相関がある。
【0256】
これに対して、実施例4A〜実施例4Hにあっては、表面粗さRaと応答時間、コントラストと応答時間に、相関が認められない。実施例4A〜実施例4Hにあっては、既存のプロセスでは実現できない表面粗さRa1nm以下、応答速度100ミリ秒以下を実現し、しかも、安定に、且つ、容易に応答特性を向上させることができることが確認された。実施例4A〜実施例4Hにあっては、高分子化合物の架橋反応により液晶分子を狭持し、駆動時の液晶分子の配向方向に応じてプレチルトを付与する。そのため、配向膜表面にポリマー突起物を形成しなくとも、プレチルトを液晶に付与することができる。従って、配向膜の表面粗さ1nm以下の液晶素子において、高コントラスト、且つ、高速応答速度を実現することができ、駆動電圧に対する応答速度が大幅に向上し、良好な表示特性を維持した状態で応答特性の向上を達成することができる。
【0257】
このように、本発明の第1Eの構成に則って表現すれば、本発明において、第1配向膜(あるいは、配向処理後・化合物から成る配向膜)の表面粗さRaを1nm以下とする。そして、このような配向膜を有する液晶表示装置(液晶表示素子)は、優れた応答速度、高いコントラストを達成することができる。
【実施例5】
【0258】
実施例5は、本発明の第2の態様に係る液晶表示装置(液晶表示素子)及びその製造方法、並びに、本発明の第3の態様に係る液晶表示装置(液晶表示素子)の製造方法に関する。実施例5にあっては、感光性官能基を有する配向処理前・化合物/配向処理後・化合物を用いた。具体的には、以下の式(AZ−11)〜式(AZ−17)に示すアゾベンゼン系化合物を、感光性官能基を有する配向処理前・化合物として用いて、実施例1Aにおいて説明した、図12に示したと同様の構成、構造を有する液晶表示装置を作製し、応答特性を調べた。
【0259】

【0260】

【0261】
実施例5にあっては、TFT基板20及びCF基板30のそれぞれに、9:1の重量比率の式(AZ−11)に示す化合物と化合物(C−1)をジアミン原料とし、式(E−2)に示したテトラカルボン酸二無水物を酸二無水物としたポリイミド材料をスピンコーターを用いて塗布した後、塗布膜を80゜Cのホットプレートで80秒間乾燥させた。続いて、TFT基板20及びCF基板30を、窒素ガス雰囲気下、200゜Cのオーブンで1時間加熱した。これにより、画素電極20B及び対向電極30B上における厚さが90nmの配向膜22,32を形成した。
【0262】
続いて、実施例1Aと同様に、CF基板30上の画素部周縁に、粒径3.5μmのシリカ粒子を含む紫外線硬化樹脂を塗布することによりシール部を形成し、これに囲まれた部分に、ネガ型液晶であるMLC−7029(メルク社製)から成る液晶材料を滴下注入した。この後、画素電極20Bのライン部分の中央と、対向電極30Bのスリット部31とが対向するようにTFT基板20とCF基板30とを貼り合わせ、シール部を硬化させた。続いて、120゜Cのオーブンで1時間加熱し、シール部を完全に硬化させた。これにより、液晶層40が封止され、液晶セルを完成させることができた。
【0263】
続いて、このように作製された液晶セルに対して、実効値電圧20ボルトの矩形波の交流電界(60Hz)を印加した状態で、500mJ(波長365nmでの測定)の均一な紫外線を照射し、配向膜22,32中の配向処理前・化合物を変形させた。これにより、TFT基板20及びCF基板30の双方に、配向処理後・化合物(変形した高分子化合物)を含む配向膜22,32を形成した。以上により、TFT基板20及びCF基板30側の液晶分子41A,41Bがプレチルトをなす液晶表示装置(液晶表示素子)を完成させることができた。最後に、液晶表示装置の外側に、吸収軸が直交するように一対の偏光板を貼り付けた。
【0264】
式(AZ−11)に示す化合物の代わりに、式(AZ−12)〜式(AZ−17)に示す化合物を用いて、上述したと同様にして液晶表示装置(液晶表示素子)を完成させた。
【0265】
比較のために、式(AZ−11)に示す化合物の代わりに、以下の式で表される化合物を用いて、上述したと同様にして液晶表示装置(液晶表示素子)を完成させた。尚、この液晶表示装置(液晶表示素子)を、比較例5と呼ぶ。

【0266】
そして、このようにして作製された液晶表示装置(液晶表示素子)について、プレチルトθ及び応答時間を測定したところ、表6に示す結果が得られた。
【0267】
[表6]

【0268】
表6から、実施例5にあっては、応答速度が、比較例5よりも格段に早いことが判る。また、比較例5では、プレチルトθが殆ど付与されていない。
【0269】
以上、好ましい実施の形態及び実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれらの実施の形態等に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、実施の形態及び実施例ではVAモードの液晶表示装置(液晶表示素子)について説明したが、本発明は必ずしもこれに限定されず、TNモード、IPS(In Plane Switching )モード、FFS(Fringe Field Switching)モードあるいはOCB(Optically Compensated Bend)モード等の、他の表示モードにも適用可能である。この場合においても同様の効果が得られる。但し、本発明では、プレチルト処理が施されていないものと比較すると、VAモードにおいて、IPSモードやFFSモードよりも、特に高い応答特性の改善効果を発揮することができる。
【0270】
また、実施の形態及び実施例では、専ら透過型の液晶表示装置(液晶表示素子)について説明したが、本発明では必ずしも透過型に限られず、例えば、反射型としてもよい。反射型とした場合には、画素電極がアルミニウム等の光反射性を有する電極材料により構成される。
【符号の説明】
【0271】
1・・・電圧印加手段、10(10A,10B,10C)・・・画素、20・・・TFT基板、30・・・CF基板、20A,30A・・・ガラス基板、20B・・・画素電極、30B・・・対向電極、21,31・・・スリット部、22,32・・・配向膜、40・・・液晶層、41(41A,41B,41C)・・・液晶分子、60・・・表示領域、61・・・ソースドライバ、62・・・ゲートドライバ、63・・・タイミングコントローラ、64・・・電源回路、71・・・ソース線、72・・・ゲート線、A・・・架橋性官能基、Cr・・・連結部、Mc(Mc1,Mc2,Mc3)・・・主鎖

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の基板の一方に、側鎖として架橋性官能基を有する高分子化合物から成る第1配向膜を形成する工程と、
一対の基板の他方に、第2配向膜を形成する工程と、
一対の基板を、第1配向膜と第2配向膜とが対向するように配置し、第1配向膜と第2配向膜との間に、負の誘電率異方性を有する液晶分子を含む液晶層を封止する工程と、
液晶層を封止した後、高分子化合物を架橋させて、液晶分子にプレチルトを付与する工程、
とを含む液晶表示装置の製造方法。
【請求項2】
液晶層に対して所定の電場を印加することにより液晶分子を配向させつつ、紫外線を照射して高分子化合物の側鎖を架橋させる請求項1に記載の液晶表示装置の製造方法。
【請求項3】
一対の基板の一方に、側鎖として感光性官能基を有する高分子化合物から成る第1配向膜を形成する工程と、
一対の基板の他方に、第2配向膜を形成する工程と、
一対の基板を、第1配向膜と第2配向膜とが対向するように配置し、第1配向膜と第2配向膜との間に、負の誘電率異方性を有する液晶分子を含む液晶層を封止する工程と、
液晶層を封止した後、高分子化合物を変形させることで、液晶分子にプレチルトを付与する工程、
とを含む液晶表示装置の製造方法。
【請求項4】
液晶層に対して所定の電場を印加することにより液晶分子を配向させつつ、紫外線を照射して高分子化合物の側鎖を変形させる請求項3に記載の液晶表示装置の製造方法。
【請求項5】
一対の基板の一方に、側鎖として架橋性官能基又は感光性官能基を有する高分子化合物から成る第1配向膜を形成する工程と、
一対の基板の他方に、第2配向膜を形成する工程と、
一対の基板を、第1配向膜と第2配向膜とが対向するように配置し、第1配向膜と第2配向膜との間に、負の誘電率異方性を有する液晶分子を含む液晶層を封止する工程と、
液晶層を封止した後、高分子化合物にエネルギー線を照射することで、液晶分子にプレチルトを付与する工程、
とを含む液晶表示装置の製造方法。
【請求項6】
液晶層に対して所定の電場を印加することにより液晶分子を配向させつつ、高分子化合物にエネルギー線として紫外線を照射する請求項5に記載の液晶表示装置の製造方法。
【請求項7】
高分子化合物は、更に、式(1)で表される基を側鎖として有する化合物から成る請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の液晶表示装置の製造方法。
−R1−R2−R3 (1)
ここで、R1は、炭素数3以上の直鎖状又は分岐状の2価の有機基であり、高分子化合物の主鎖に結合しており、R2は、複数の環構造を含む2価の有機基であり、環構造を構成する原子のうちの1つはR1に結合しており、R3は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、カーボネート基を有する1価の基、又は、それらの誘導体である。
【請求項8】
高分子化合物は、式(2)で表される基を側鎖として有する化合物から成る請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の液晶表示装置の製造方法。
−R11−R12−R13−R14 (2)
ここで、R11は、炭素数1以上、20以下、好ましくは、炭素数3以上、12以下の直鎖状又は分岐状の2価の、エーテル基あるいはエステル基を含むことある有機基であり、高分子化合物の主鎖に結合しており、あるいは又、R11は、エーテル基あるいはエステル基であり、高分子化合物の主鎖に結合しており、R12は、カルコン、シンナメート、シンナモイル、クマリン、マレイミド、ベンゾフェノン、ノルボルネン、オリザノール、及び、キトサンのうちのいずれか1種の構造を含む2価の基、又は、エチニレン基であり、R13は、複数の環構造を含む2価の有機基であり、R14は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、カーボネート基を有する1価の基、又は、それらの誘導体である。
【請求項9】
高分子化合物を架橋させることにより得られた化合物は、側鎖、及び、基板に対して側鎖を支持する主鎖から構成されており、
側鎖は、
主鎖に結合し、側鎖の一部が架橋した架橋部、及び、
架橋部に結合した末端構造部、
から構成されており、
液晶分子は、末端構造部に沿い、又は、末端構造部に挟まれることでプレチルトが付与される請求項1又は請求項2に記載の液晶表示装置の製造方法。
【請求項10】
高分子化合物を変形させることにより得られた化合物は、側鎖、及び、基板に対して側鎖を支持する主鎖から構成されており、
側鎖は、
主鎖に結合し、側鎖の一部が変形した変形部、及び、
変形部に結合した末端構造部、
から構成されており、
液晶分子は、末端構造部に沿い、又は、末端構造部に挟まれることでプレチルトが付与される請求項3又は請求項4に記載の液晶表示装置の製造方法。
【請求項11】
高分子化合物にエネルギー線を照射することにより得られた化合物は、側鎖、及び、基板に対して側鎖を支持する主鎖から構成されており、
側鎖は、
主鎖に結合し、側鎖の一部が架橋あるいは変形した架橋・変形部、及び、
架橋・変形部に結合した末端構造部、
から構成されており、
液晶分子は、末端構造部に沿い、又は、末端構造部に挟まれることでプレチルトが付与される請求項5又は請求項6に記載の液晶表示装置の製造方法。
【請求項12】
高分子化合物を架橋させることにより得られた化合物は、側鎖、及び、基板に対して側鎖を支持する主鎖から構成されており、
側鎖は、
主鎖に結合し、側鎖の一部が架橋した架橋部、及び、
架橋部に結合し、メソゲン基を有する末端構造部、
から構成されている請求項1又は請求項2に記載の液晶表示装置の製造方法。
【請求項13】
高分子化合物を変形させることにより得られた化合物は、側鎖、及び、基板に対して側鎖を支持する主鎖から構成されており、
側鎖は、
主鎖に結合し、側鎖の一部が変形した変形部、及び、
変形部に結合し、メソゲン基を有する末端構造部、
から構成されている請求項3又は請求項4に記載の液晶表示装置の製造方法。
【請求項14】
高分子化合物にエネルギー線を照射することにより得られた化合物は、側鎖、及び、基板に対して側鎖を支持する主鎖から構成されており、
側鎖は、
主鎖に結合し、側鎖の一部が架橋あるいは変形した架橋・変形部、及び、
架橋・変形部に結合し、メソゲン基を有する末端構造部、
から構成されている請求項5又は請求項6に記載の液晶表示装置の製造方法。
【請求項15】
第1配向膜の表面粗さRaは1nm以下である請求項1乃至請求項14のいずれか1項に記載の液晶表示装置の製造方法。
【請求項16】
第2配向膜は第1配向膜を構成する高分子化合物から成る請求項1乃至請求項15のいずれか1項に記載の液晶表示装置の製造方法。
【請求項17】
電極に形成されたスリット又は基板に設けられた突起から成る配向規制部が設けられている請求項1乃至請求項15のいずれか1項に記載の液晶表示装置の製造方法。
【請求項18】
一対の基板の対向面側に設けられた一対の配向膜と、一対の配向膜の間に設けられ、負の誘電率異方性を有する液晶分子を含む液晶層とを有する液晶表示素子を備え、
一対の配向膜のうちの少なくとも一方は、側鎖として架橋性官能基を有する高分子化合物が架橋した化合物を含み、
液晶分子は、架橋した化合物によってプレチルトが付与される液晶表示装置。
【請求項19】
一対の基板の対向面側に設けられた一対の配向膜と、一対の配向膜の間に設けられ、負の誘電率異方性を有する液晶分子を含む液晶層とを有する液晶表示素子を備え、
一対の配向膜のうちの少なくとも一方は、側鎖として感光性官能基を有する高分子化合物が変形した化合物を含み、
液晶分子は、変形した化合物によってプレチルトが付与される液晶表示装置。
【請求項20】
一対の配向膜のうちの少なくとも一方を構成する化合物は、更に、式(1)で表される基を側鎖として有する化合物から成る請求項18又は請求項19に記載の液晶表示装置。
−R1−R2−R3 (1)
ここで、R1は、炭素数3以上の直鎖状又は分岐状の2価の有機基であり、高分子化合物の主鎖に結合しており、R2は、複数の環構造を含む2価の有機基であり、環構造を構成する原子のうちの1つはR1に結合しており、R3は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、カーボネート基を有する1価の基、又は、それらの誘導体である。
【請求項21】
一対の配向膜のうちの少なくとも一方を構成する化合物は、式(2)で表される基を側鎖として有する化合物から成る請求項18又は請求項19に記載の液晶表示装置。
−R11−R12−R13−R14 (2)
ここで、R11は、炭素数1以上、20以下、好ましくは、炭素数3以上、12以下の直鎖状又は分岐状の2価の、エーテル基あるいはエステル基を含むことある有機基であり、高分子化合物の主鎖に結合しており、あるいは又、R11は、エーテル基あるいはエステル基であり、高分子化合物の主鎖に結合しており、R12は、カルコン、シンナメート、シンナモイル、クマリン、マレイミド、ベンゾフェノン、ノルボルネン、オリザノール、及び、キトサンのうちのいずれか1種の構造を含む2価の基、又は、エチニレン基であり、R13は、複数の環構造を含む2価の有機基であり、R14は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、カーボネート基を有する1価の基、又は、それらの誘導体である。
【請求項22】
高分子化合物を架橋させることにより得られた化合物は、側鎖、及び、基板に対して側鎖を支持する主鎖から構成されており、
側鎖は、
主鎖に結合し、側鎖の一部が架橋した架橋部、及び、
架橋部に結合した末端構造部、
から構成されており、
液晶分子は、末端構造部に沿い、又は、末端構造部に挟まれることでプレチルトが付与される請求項18に記載の液晶表示装置。
【請求項23】
高分子化合物を変形させることにより得られた化合物は、側鎖、及び、基板に対して側鎖を支持する主鎖から構成されており、
側鎖は、
主鎖に結合し、側鎖の一部が変形した変形部、及び、
変形部に結合した末端構造部、
から構成されており、
液晶分子は、末端構造部に沿い、又は、末端構造部に挟まれることでプレチルトが付与される請求項19に記載の液晶表示装置。
【請求項24】
高分子化合物を架橋させることにより得られた化合物は、側鎖、及び、基板に対して側鎖を支持する主鎖から構成されており、
側鎖は、
主鎖に結合し、側鎖の一部が架橋した架橋部、及び、
架橋部に結合し、メソゲン基を有する末端構造部、
から構成されている請求項18に記載の液晶表示装置。
【請求項25】
高分子化合物を変形させることにより得られた化合物は、側鎖、及び、基板に対して側鎖を支持する主鎖から構成されており、
側鎖は、
主鎖に結合し、側鎖の一部が変形した変形部、及び、
変形部に結合し、メソゲン基を有する末端構造部、
から構成されている請求項19に記載の液晶表示装置。
【請求項26】
一対の配向膜のうちの少なくとも一方の表面粗さRaは1nm以下である請求項18乃至請求項25のいずれか1項に記載の液晶表示装置。
【請求項27】
一対の配向膜は同じ組成を有する請求項18乃至請求項26のいずれか1項に記載の液晶表示装置。
【請求項28】
電極に形成されたスリット又は基板に設けられた突起から成る配向規制部が設けられている請求項18乃至請求項26のいずれか1項に記載の液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−95696(P2011−95696A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290979(P2009−290979)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】