説明

液晶表示装置

【課題】液晶の配向不良が発生するのを抑制しながら、より透過率を高くすることが可能な液晶表示装置を提供する。
【解決手段】この液晶表示装置100は、共通電極1eおよび画素電極1dを含む一方基板10と、一方基板10と液晶12を挟んで設けられた他方基板20とを備え、液晶12は、誘電率異方性Δεが負であり、一方基板10と他方基板20とのギャップ長dが2.5μm以下で、屈折率異方性Δnとギャップ長dとの積であるΔndが0.34μm未満になるように設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置に関し、特に、一方の基板に共通電極および画素電極を備えた液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一方基板に共通電極および画素電極を備えるとともに、基板表面と略平行な方向の電界を液晶に印加する横電界方式の液晶表示装置が知られている。この従来の液晶表示装置では、横方向の電界によって液晶分子が基板表面と略平行な面に沿って駆動(回転)するようにして配向される一方で、外部からの静電気により発生する電界に反応して、たとえば、基板と直交する方向などの基板表面と平行な方向以外の方向に沿って駆動する場合がある。このため、静電気に起因して駆動した液晶に対応する領域において配向不良が発生し、その分、透過率が低下するという不都合があった。
【0003】
そこで、従来、このような静電気に起因した透過率の低下を抑制するための液晶表示装置が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。上記特許文献1には、共通電極と画素電極とを備えた一方基板、および、他方基板の間に液晶層が配置された液晶表示装置が開示されている。上記特許文献1に記載の液晶表示装置では、一方基板および他方基板には、それぞれ、液晶層に接する側とは反対側の表面に偏光板が配置されているとともに、他方基板と偏光板との間に導電層が配置されている。そして、この導電層が外部からの静電気に対するシールドとして機能することにより、外部からの静電気に起因して液晶分子に配向不良が発生することが抑制されるように構成されている。
【0004】
【特許文献1】特開平11―149085号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の液晶表示装置では、静電気に起因して液晶分子に配向不良が発生することを抑制するために他方基板と偏光板との間に導電層を配置しているため、その分、透過率が低下するという問題点がある。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、液晶の配向不良が発生するのを抑制しながら、より透過率を高くすることが可能な液晶表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0007】
本願発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、誘電率異方性Δεが負である液晶を最適な設定により用いると、「液晶の配向不良が発生するのを抑制しながら、より透過率を高くすることが可能」であることを見出した。すなわち、この発明の一の局面による液晶表示装置は、共通電極および画素電極を含む一方基板と、一方基板と液晶を挟んで設けられた他方基板とを備え、液晶は、誘電率異方性Δεが負であり、一方基板と他方基板との距離dが2.5μm以下で、屈折率異方性Δnと距離dとの積であるΔndが0.34μm未満になるように設定されている。
【0008】
ここで、液晶分子は、長軸方向(誘電率ε1)と短軸方向(誘電率ε2)とにそれぞれ異なる誘電率を有する(誘電率異方性)という特徴がある。そして、誘電率異方性Δεが負であるということは、液晶分子の長軸方向の誘電率ε1の方が短軸方向の誘電率ε2よりも小さいことを示している(ε1−ε2<0)。また、液晶分子は、誘電率の最も大きい軸を電界に対して平行にするように反応するものであることから、誘電率異方性Δεが負である液晶は、液晶分子の短軸が電界の方向に向くように回転する特徴を有する。
【0009】
これに対して、液晶の誘電率異方性Δεが正であるということは、液晶分子の長軸方向の誘電率ε1の方が短軸方向の誘電率ε2よりも大きいことを示している(ε1−ε2>0)。すなわち、誘電率異方性Δεが正である液晶は、液晶分子の長軸が電界の方向に向くように回転する特徴を有する。したがって、誘電率異方性Δεが正である液晶では、外部からの静電気による電界が発生した場合、液晶分子の長軸方向が静電気による電界の方向(基板表面と平行方向以外の方向)に向くように回転すると考えられる。上記特許文献1に記載の液晶表示装置は、誘電率異方性が正である液晶を用いた際に、外部からの静電気による電界の方向に液晶分子の長軸が向くように回転するのを抑制するための構成であると考えられる。
【0010】
上記一の局面による液晶表示装置では、上記のように、誘電率異方性Δεが負である液晶を用いることによって、導電層などを別途設けることなく外部からの静電気に起因して配向不良が発生することを抑制しながら、透過率が低下するのを抑制することができる。すなわち、液晶の駆動方式が横電界方式である場合、液晶分子は基板の表面と略平行な方向に長軸が向くように配向されていることから、仮に静電気などにより基板の表面と直交する方向(縦方向)に電界が印加されたとしても、誘電率異方性Δεが負である液晶を用いているので、液晶分子は短軸が縦方向を向くように長軸を回転軸として回転するのみである。したがって、誘電率異方性Δεが負である液晶分子は、常に基板の表面と略平行な方向に長軸が向くように維持されることから、別途導電層などを設けなくても縦方向の電界に起因して配向不良が発生することを抑制できる。したがって、透過率が低下することも抑制することができる。また、誘電率異方性Δεが負である液晶を用いる場合に、一方基板と他方基板との距離dが2.5μm以下で、屈折率異方性Δnと距離dとの積であるΔndが0.34μm未満になるように設定することによって、液晶の配向不良が発生するのを抑制しながら、より透過率を高くすることができる。この透過率を高くすることができる効果については、後述するシミュレーションの結果により検証済みである。
【0011】
上記一の局面による液晶表示装置において、好ましくは、一方基板と他方基板との距離dが2.5μm以下で、Δndが0.30よりも大きく、かつ、0.32以下になるように設定されている。このように一方基板および他方基板の距離dが2.5μm以下の場合には、誘電率異方性が負である液晶を、Δndが0.30よりも大きく、かつ、0.32以下になるように設定すれば、液晶の配向不良が発生するのを抑制しながら確実に透過率を高くすることができる。
【0012】
上記一の局面による液晶表示装置において、好ましくは、一方基板と他方基板との距離dが、2μm以下になるように設定されている。このように一方基板と他方基板との距離dを2μm以下にすれば、距離dを小さくした分、液晶の応答性をより高速にすることができる。
【0013】
上記一の局面による液晶表示装置において、好ましくは、一方基板と他方基板との距離dが1.5μm以上になるように設定されている。このように一方基板および他方基板の距離dが1.5μm以上になるように設定すれば、距離dをさらに小さくした分、液晶の応答性をさらに高速にすることができる。
【0014】
上記一の局面による液晶表示装置において、好ましくは、共通電極および画素電極は絶縁膜を介して積層され、液晶側の電極は、スリットを含み、スリットの長辺に対してラビング軸が85度になるように形成されていてもよい。
【0015】
この場合、好ましくは、スリットは、複数設けられ、スリット間の距離は、2μm以上3μm以下に設定されている。このようにスリット間の距離(スリット間の電極の幅)を2μm以上3μm以下に設定することにより、スリット間の距離を2μm未満または3μmよりも大きくする場合と異なり、画素電極から共通電極にかけて発生する電界の横方向の成分が液晶層を確実に通過させることができる。
【0016】
この発明の第2の局面による電子機器は、上記した構成を有する液晶表示装置を備える。このように構成すれば、液晶の配向不良が発生するのを抑制しながら、より透過率を高くすることが可能な液晶表示装置を含む電子機器を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態による液晶表示装置の全体構成を示すブロック図である。図2〜図5は、本発明の一実施形態による液晶表示装置の詳細な構成を説明するための図である。まず、図1〜図5を参照して、本発明の一実施形態による液晶表示装置100の構成について説明する。なお、本実施形態では、横方向の電界を用いるFFS(Fringe−Field−Switching)モード方式の液晶表示装置100に本発明を適用した場合について説明する。
【0019】
本実施形態による液晶表示装置100は、図1に示すように、表示画面部1と、駆動IC2と、Vドライバ3と、Hドライバ4と、バックライト5と、COM6とを備えている。表示画面部1には、複数の副画素(サブピクセル)1aがマトリックス状に配置されている。また、副画素1aは、それぞれ、赤(R)、緑(G)および青(B)の色に対応しているとともに、RGBの各色に対応する3つの副画素1aにより1画素1b(1ピクセル)が構成されている。なお、図1は、図面の簡略化のために1画素分の画素1bを図示している。
【0020】
駆動IC2は、液晶表示装置100全体を駆動するための機能を有する。Vドライバ3およびHドライバ4には、それぞれ、複数のゲート線3aおよびデータ線4aが接続されている。また、ゲート線3aおよびデータ線4aは、互いに直交するように配置されている。Vドライバ3は、ゲート線3aの駆動回路としての機能を有する。また、Hドライバ4は、データ線4aを介して、後述する画素電極1dに映像信号を順次供給する機能を有する。また、バックライト5は、副画素1aの透過領域の光源として構成されている。COM6は、後述する共通電極1eの電位を制御する機能を有する。
【0021】
また、図1および図2に示すように、各副画素1aは、画素トランジスタ1c(TFT)と、画素電極1dと、共通電極1eと、保持容量1fとにより構成されている。画素トランジスタ1cのドレイン領域Dは、データ線4aに接続されているとともに、画素トランジスタ1cのソース領域Sは、画素電極1dと保持容量1fの一方の電極とに接続されている。また、画素トランジスタ1cのゲートGは、ゲート線3aに接続されている。また、共通電極1eと保持容量1fの他方の電極とは、それぞれ、COM6に接続されている。また、図2に示すように、画素電極1dには、複数のスリット1gが形成されている。また、スリット1g間の距離L(スリット1g間の電極幅)は、約2μm以上約3μm以下に設定されている。また、画素電極1dの厚みtは、約0.05nm以上約0.1nm以下に設定されている。なお、保持容量1fは、後述の絶縁膜11を共通電極1eと画素電極1dとの間に設けることによって形成される容量値で十分の場合は、上記の一方の電極と他方の電極は設けなくてもよい。
【0022】
また、図3に示すように、画素電極1dおよび共通電極1eは、ともに一方基板10に形成されている。具体的には、一方基板10上に共通電極1eが形成されているとともに、共通電極1eの上方に絶縁膜11を介して画素電極1dが形成されている。また、一方基板10に対向するように他方基板20が形成されているとともに、一方基板10と他方基板20とに挟まれる領域には液晶12が充填されている。また、画素電極1dおよび絶縁膜11の表面と、他方基板20の液晶12に接触する側の表面とをそれぞれ覆うように配向膜(図示せず)が設けられている。また、一方基板10の配向膜(図示せず)には、図2に示す矢印A方向にラビング処理が施され、他方基板20の配向膜(図示せず)は矢印A方向と逆方向にラビング処理が施されている。具体的には、ラビング軸とスリット1gの長辺との成す角度θが85度になるように構成され、液晶分子はこの方向に初期配向される。以上の構成により、画素電極1dおよび共通電極1e間に電圧を印加した場合に、図4に示すように、画素電極1dおよび共通電極1e間において電界が発生し、画素電極1dからスリット1gを介して共通電極1eに向かう電界が液晶12に印加され、一方基板10および他方基板20の表面に対して平行な方向の電界成分により、液晶12が短軸方向(図5参照)を回転軸として回転する(図2の矢印R方向)ように構成されている。
【0023】
ここで、本実施形態では、液晶12は、誘電率異方性Δεが負である。これは、図5に示すように、液晶分子の長軸方向に沿った誘電率ε1よりも短軸方向に沿った誘電率ε2の方が大きいもの(ε1−ε2<0)である。これにより、画素電極1dおよび共通電極1e間に電圧を印加した場合には、液晶12は、図4に示すように、長軸方向が画素電極1dおよび共通電極1e間の電界の向きに垂直になるように、一方基板10および他方基板20に略平行な面で回転する。また、このとき、液晶12に対して外部からの静電気などに起因した縦方向の電界が印加された場合には、液晶12の短軸方向が静電気による縦方向の電界に沿った方向に向くのみである。つまり、液晶分子が長軸を回転軸として回転するのみで、長軸が縦方向に向くようには回転しない。したがって、この場合、液晶分子は一方基板10に平行な方向に沿って配向されるのみとなる。なお、本実施形態では、誘電率異方性Δεが約−3である液晶12を用いる。
【0024】
次に、上記実施形態の構成によるFFSモード(横電界方式)の液晶表示装置100において、誘電率異方性Δεが正の液晶(以下、ポジ液晶)と、誘電率異方性Δεが負の液晶(以下、ネガ液晶)との2種類の液晶に対して行ったシミュレーションについて説明する。このシミュレーションでは、比較例としてのポジ液晶を用いた場合と、本実施形態に対応するネガ液晶を用いた場合について、それぞれ、電界の方向に対する液晶分子の配向状態および透過率の変化について検証する。
【0025】
まず、ポジ液晶を用いた際には、図6に示すように、画素電極1dの近傍の液晶分子は、長軸方向を縦方向に向けるように駆動した。具体的には、液晶分子は、一方基板10に対して略平行な状態から電界の縦方向成分に向かって傾くように、斜めに起き上がった状態になった。また、このとき、透過率分布に示すように、斜めに起き上がった状態の液晶分子がある領域の透過率は、一方基板10に略平行に配向されている液晶分子がある領域の透過率に比べて大きく低下した。これは、液晶分子が外部からの静電気に反応するとともに、さらに、液晶分子を駆動するために画素電極1dからの電界の縦方向の成分(一方基板10に直交する方向の成分)にも影響を受けていることを示している。このため、透過率のばらつきにより表示画面に表示される明暗の差が大きくなることを示している。
【0026】
これに対して、ネガ液晶を用いた際には、図7に示すように、基板間に発生している電界の方向に係わらず、液晶分子は、長軸の方向が略一様に一方基板10と平行な方向を向いた状態に維持されている。これは、液晶分子の誘電率異方性が負であることから液晶分子の短軸方向が電界の方向と平行になるように駆動することを示している。つまり、縦方向成分の電界に対して液晶分子の長軸方向が向くように回転することなく、短軸方向が向くように回転していることを示している。また、このとき、透過率分布に示すように、ポジ液晶を用いた場合に比べて透過率のばらつきが小さいことが判明した。すなわち、ポジ液晶を用いるよりも、明暗の差が生じにくく透過率が高いことが判明した。
【0027】
以上により、ネガ液晶を用いた場合には、外部からの静電気、および、画素電極1dからの電界の縦方向成分の影響による配向不良の発生を抑制しながら駆動することが判明した。また、このとき、ネガ液晶を用いた場合では、ポジ液晶を用いた場合よりも透過率のばらつきが小さく、かつ、透過率が同程度以上になること(図6および図7の透過率分布参照)が判明した。
【0028】
次に、上記実施形態におけるFFSモード(横電界方式)の液晶表示装置100において、ポジ液晶と、ネガ液晶とにおけるリタデーション(位相遅延、位相差)の大きさに対する透過率の変化を確認するために行ったシミュレーションについて説明する。なお、リタデーションとは、屈折率異方性Δnと、一方基板10と他方基板20との間の距離d(以下、ギャップ長d)の積Δndにより表されるものである。ここで、液晶分子は、長軸と短軸とで電子密度が異なることによって2つの屈折率を持つという特徴を有するものであり、この屈折率の差が屈折率異方性Δnとして表される。このシミュレーションでは、比較例としてのポジ液晶と本実施形態に対応するネガ液晶とについて、それぞれ、ギャップ長dを2.5μmに固定して屈折率異方性Δnを変化させることによって位相遅延Δndを280nmから350nmまでの値に変化させた場合の透過率の変化を算出した。
【0029】
まず、図8に示すように、比較例によるポジ液晶を用いた場合、印加電圧が4.2Vの際に透過率が最も高くなった。さらに、図9に示すように、比較例によるポジ液晶を用いた場合、印加電圧が4.2Vの際に位相遅延Δndが340nm以上の範囲において、比較的高い透過率(0.363347〜0.369093)が得られる結果となった。これに対して、図10および図11に示すように、本実施形態によるネガ液晶を用いた場合、印加電圧が4.2Vの際には、位相遅延Δndが300nmよりも大きい場合(305nm以上の範囲)に、ポジ液晶を用いた場合と同様の透過率(0.362785〜0.383578(透過率約95%))が得られる結果となった。
【0030】
これにより、本実施形態によるネガ液晶を用いる際には、位相遅延Δndが300nmよりも大きい値になるように設定することによって高い透過率(約95%)が得られることが判明した。また、ネガ液晶を用いる場合には、比較例によるポジ液晶よりも位相遅延Δndが小さい値でポジ液晶と同等または同等以上の透過率が得られることが判明した。
【0031】
ここで、ネガ液晶において、位相遅延Δndの範囲について検証する。図12〜図15は、上記シミュレーションの実験値のうち、位相遅延Δndが300nm、320nmおよび340nmのネガ液晶において、印加電圧が4.2V(透過率約95%)の際の分光特性および色度を示す図である。ここで、図12および図13に示すように、位相遅延Δndが340nmのネガ液晶では、透過率が最大(0.384435)に達する際の波長の大きさは、530nmとなった。これに対して、位相遅延Δndが300nmおよび320nmのネガ液晶では、それぞれ、透過率が最大に達する際の波長の大きさは480nmおよび500nmとなった。これは、位相遅延Δndが300nmおよび320nmのネガ液晶は透過率が最大になる際の波長の大きさが同程度であるのに対して、位相遅延Δndが340nmのネガ液晶は、透過率が最大になる際の波長が位相遅延Δndが300nmおよび320nmのネガ液晶よりも大きい値になることを示している。また、図14および図15に示すように、位相遅延Δndが300nmおよび320nmのネガ液晶に比べて、位相遅延Δndが340nmのネガ液晶は、色度が黄色の領域に向かう方向にずれている。これらは、位相遅延Δndが340nmであるネガ液晶に電圧を印加した際に、白(透明)にならず黄色が表示されることを示している。すなわち、位相遅延Δndが約340nm以上であるネガ液晶を用いた場合には、高い透過率が得られる一方で、白(透明)表示が困難であることが判明した。これは、位相遅延Δndが340nm以上のネガ液晶では、波長分散が大きくなるためであると考えられる。これにより、Δndは330nm未満であることが好ましいと言える。
【0032】
以上により、本実施形態において、ネガ液晶を用いた際には、白色(透明)で、かつ、高い透過率を得るための値としては、位相遅延Δndが、300nmよりも大きく、かつ、330nm未満のネガ液晶を用いることが最適であると判明した。
【0033】
また、具体的に位相遅延Δndを上記の最適値の範囲内(300nm<Δnd<330nm)にするにあたっては、ギャップ長dを小さくするように調整する方法が挙げられる。ここで、上記のようにギャップ長dを2.5μm(2500nm)に固定した場合には、屈折率異方性Δnが0.12程度のネガ液晶を用いることにより位相遅延Δndが300nm程度となる。また、たとえば、ギャップ長dを約2.0μm(2000nm)に調整した場合には、屈折率異方性Δnが0.16程度のネガ液晶を用いることにより位相遅延Δndが320nm程度となる。また、たとえば、ギャップ長dを約1.8μm(1800nm)に調整した場合には、屈折率異方性Δnが0.18程度のネガ液晶を用いることにより位相遅延Δndが324nm程度となる。
【0034】
その一方、ギャップ長dを小さくしすぎる(1.5μm未満にする)と、液晶層において画素電極1dからの電界の横方向成分が少なくなる。これは、画素電極1dからの電界の横方向成分が多い領域が液晶層を越えた位置であると考えられるためである。また、ギャップ長dを小さくしすぎると、ギャップ長dに対する画素電極1dの厚みt(図3参照)の相対的な割合が大きくなるため、画素電極1dの厚みtに起因して生じる透過率の低下分の影響が大きくなると考えられる。さらに、ギャップ長dをより小さくする場合には、その分、屈折率異方性Δnを大きくする必要がある。Δnを大きくした場合には、その分だけ液晶の波長分散が大きくなるという不都合があり、波長分散が大きくなると液晶のゆらぎが発生して、画像を表示した際のコントラストを上げることが困難になるという不都合がある。したがって、ギャップ長dの大きさは、0.15μm以上に設定するのが好ましい。よって、ギャップ長dの大きさを、0.15μm以上で、かつ、2.5μm以下に設定しながら、位相遅延Δndを上記最適値(300nm<Δnd<330)にすることが好ましいと考えられる。また、このときの屈折率異方性Δnは、上記したように、0.12程度以上0.18程度以下のネガ液晶を用いることが好ましい。
【0035】
また、このとき、ギャップ長dを小さくした分、液晶分子の高速応答性をより向上させることが可能である。すなわち、ギャップ長dを小さくして位相遅延Δndを小さくすることにより、ネガ液晶の高速応答性を実現させながら、ポジ液晶を用いる場合よりも高い透過率を得ることが可能となる。
【0036】
以上により、ネガ液晶を用いた場合、位相遅延Δndを、300nmよりも大きく、かつ、330nm未満の大きさにするとともに、このときのギャップ長dを1.5μm以上、かつ、2.5μm以下の大きさにすることによって、高速応答性および高い透過率を備えた液晶表示装置を得ることが可能であることが判明した。
【0037】
図16および図17は、それぞれ、本発明の一実施形態による液晶表示装置を用いた電子機器の一例および他の例を説明するための図である。次に、図16および図17を参照して、本発明の一実施形態による液晶表示装置100を用いた電子機器について説明する。
【0038】
本発明の一実施形態による液晶表示装置100は、図16および図17に示すように、携帯電話50およびPC(パーソナルコンピュータ)60などに用いることが可能である。図16の携帯電話50においては、表示画面50aに本実施形態における液晶表示装置100が用いられる。また、図17のPC60においては、タッチパネル形式のキーボード60aなどの入力部および表示画面60bなどに用いることが可能である。また、周辺回路を液晶パネル内の基板に内蔵することにより部品点数を大幅に減らすとともに、装置本体の軽量化および小型化を行うことが可能になる。
【0039】
本実施形態では、上記のように、ネガ液晶を用いるとともに、一方基板10と他方基板20との距離dが2.5μm以下で、位相遅延Δndが0.34μm未満になるように設定することによって、上記のシミュレーションの結果に基づいて、液晶12の配向不良が発生するのを抑制しながら、より透過率を高くすることができる。
【0040】
また、上記実施形態では、ネガ液晶を用いるとともに、ギャップ長dが2.5μm以下で、ネガ液晶を、位相遅延Δndが0.30よりも大きく、かつ、0.32以下になるように設定することによって、上記のシミュレーションの結果に基づいて、液晶の配向不良が発生するのを抑制しながら確実に透過率を高くすることができる。
【0041】
上記実施形態では、ギャップ長dを2μm以下に設定するとともに位相遅延Δndを上記シミュレーションにより求めた適正値にすることによって、ギャップ長dを小さくした分液晶の応答性をより高くしながら、透過率を高くすることができる。
【0042】
上記実施形態では、ギャップ長dが1.5μm以上になるように設定することによって、距離dをさらに小さくした分、液晶の応答性をさらに高速にすることができるとともに、ギャップ長を小さくしすぎることに起因して、液晶の透過率が低下することを抑制することができる。
【0043】
上記実施形態では、スリット1g間の長さL(電極幅)を2μm以上3μm以下に設定することによって、スリット1g間の距離を2μm未満または3μmよりも大きくする場合と異なり、画素電極1dから共通電極1eにかけて発生する電界の横方向の成分を、確実に液晶層を通過させることができる。
【0044】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0045】
たとえば、上記実施形態では、FFSモードによる横方向電界モードに本発明を適用する例を示したが、本発明はこれに限らず、IPS(In−Plane−Swiching)モードなど、FFSモード以外の横方向電界モードにも適用可能である。
【0046】
また、上記実施形態では、FFSモードによる横方向電界モードの構成において、絶縁膜を介して上側に画素電極が設けられるとともに下側に共通電極が設けられる構成に本発明を適用する例を示したが、本発明はこれに限らず、絶縁膜を介して上側に共通電極が設けられるとともに下側に画素電極が設けられる構成にも適用可能である。
【0047】
また、上記実施形態では、誘電率異方性Δεが約−3である液晶を用いる例を示したが、本発明はこれに限らず、誘電率異方性Δεが、たとえば約−4など、約−3以外のネガ液晶を用いてもよい。
【0048】
また、上記実施形態では、液晶表示装置を備えた電子機器の一例である携帯電話およびPCに本発明における液晶表示装置を備える例を示したが、本発明はこれに限らず、液晶表示装置を含む他の電子機器にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施形態による液晶表示装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態による液晶表示装置の画素部分について説明するための平面図である。
【図3】本発明の一実施形態による液晶表示装置の断面図である。
【図4】本発明の一実施形態による液晶表示装置の断面図である。
【図5】本発明の一実施形態による液晶表示装置に用いたネガ液晶について説明するための図である。
【図6】比較例による液晶表示装置におけるシミュレーション結果を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態による液晶表示装置におけるシミュレーション結果を示す図である。
【図8】比較例による液晶表示装置におけるシミュレーション結果を示す図である。
【図9】比較例による液晶表示装置におけるシミュレーション結果を示す図である。
【図10】本発明の一実施形態による液晶表示装置におけるシミュレーション結果を示す図である。
【図11】本発明の一実施形態による液晶表示装置におけるシミュレーション結果を示す図である。
【図12】本発明の一実施形態による液晶表示装置におけるシミュレーション結果を示す図である。
【図13】本発明の一実施形態による液晶表示装置におけるシミュレーション結果を示す図である。
【図14】本発明の一実施形態による液晶表示装置におけるシミュレーション結果を示す図である。
【図15】本発明の一実施形態による液晶表示装置におけるシミュレーション結果を示す図である。
【図16】本発明の一実施形態による液晶表示装置を備えた電子機器の一例について説明する図である。
【図17】本発明の一実施形態による液晶表示装置を備えた電子機器の他の例について説明する図である。
【符号の説明】
【0050】
1d 画素電極
1e 共通電極
1g スリット
10 一方基板
12 液晶
20 他方基板
50 携帯電話(電子機器)
60 PC(電子機器)
100 液晶表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通電極および画素電極を含む一方基板と、
前記一方基板と液晶を挟んで設けられた他方基板とを備え、
前記液晶は、誘電率異方性Δεが負であり、前記一方基板と前記他方基板との距離dが2.5μm以下で、屈折率異方性Δnと前記距離dとの積であるΔndが0.34μm未満になるように設定されている、液晶表示装置。
【請求項2】
前記一方基板と前記他方基板との距離dが2.5μm以下で、Δndが0.30よりも大きく、かつ、0.32以下になるように設定されている、請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項3】
前記一方基板と前記他方基板との距離dが2μm以下になるように設定されている、請求項1および2に記載の液晶表示装置。
【請求項4】
前記一方基板と前記他方基板との距離dが1.5μm以上になるように設定されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の液晶表示装置。
【請求項5】
前記共通電極および前記画素電極は絶縁膜を介して積層され、前記液晶側の電極は、スリットを含み、
前記スリットの長辺に対してラビング軸が85度になるように形成されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の液晶表示装置。
【請求項6】
前記スリットは、複数設けられ、
前記スリット間の距離は、2μm以上3μm以下に設定されている、請求項5に記載の液晶表示装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の液晶表示装置を備えた電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−8597(P2010−8597A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−166401(P2008−166401)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(304053854)エプソンイメージングデバイス株式会社 (2,386)
【Fターム(参考)】