説明

液晶表示装置

【課題】プレティルト角を90°に近い条件とした垂直配向型の液晶表示装置をマルチプレックス駆動する場合に、表示均一性を保ちつつフレーム周波数を低下させる。
【解決手段】液晶表示装置は、一面側に第1電極を有する第1基板と、一面側に第2電極を有し、第1基板と対向配置された第2基板と、89.7°以上90°未満に設定されたプレティルト角を有しており、第1基板と第2基板の間に配置された液晶層を含む。第1電極は、平面視において規則的に配置された矩形状の複数の開口部15を有する。複数の開口部は、第1方向17に長手方向を向けた第1開口部と、第1方向とは異なる第2方向18に長手方向を向けた第2開口部を有し、第1開口部及び第2開口部の各長手方向と液晶層の略中央における液晶分子の配向方向とのなす角度が0°以上90°未満とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチプレックス駆動される垂直配向型の液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、例えば民生用や車載用の各種電子機器における情報表示部として広く利用されている。一般的な液晶表示装置は、数μm程度の間隙を設けて対向配置させた2枚の基板間に液晶材料からなる液晶層を配置して構成されている。このような液晶表示装置の1つとして垂直配向型の液晶表示装置が知られている。垂直配向型の液晶表示装置は、2枚の基板間に配置される液晶層の内部における液晶分子を各基板の表面に対してほぼ垂直に配向させたVAモードの液晶セルと、この液晶セルの外側にそれぞれ設けられる偏光板と、を主たる構成として備える。各偏光板はクロスニコル配置とされることが多い。このようにすると、液晶表示装置の電圧無印加時における透過率が非常に低くなるので、高いコントラストを比較的簡単に実現することが可能となる。
【0003】
VAモードの液晶セルを実現するためには、基板表面へ所定の配向処理を施すことにより液晶層の液晶分子の配向を制御することが重要である。配向処理としては、例えば、SiOxなどの金属酸化物を基板法線より傾いた方向から蒸着することにより、鋸形状の表面を有する薄膜を基板表面に形成する処理(いわゆる斜方蒸着法)や、ポリイミド等の有機配向膜材料を基板表面に成膜した後に、これに紫外線を特定方向から照射する処理(いわゆる光配向処理法)、あるいは特定の表面自由エネルギーを有する垂直配向膜を基板表面に形成し、これにラビング処理を施す配向処理等が主に知られている。これらの配向処理によれば、電圧無印加時における液晶層内の液晶分子が1つの方向に揃った配向(いわゆるモノドメイン配向)が得られる。
【0004】
上述したようなモノドメイン配向の垂直配向型液晶表示装置においては、液晶層内におけるプレティルト角の設定が表示特性に大きな影響を与える。具体的には、電気光学特性における急峻性について考えると、電圧無印加時において液晶分子が基板法線方向に配向する場合、すなわちプレティルト角が90°の場合が最も良好となる。特に、液晶表示装置をマルチプレックス駆動法によって駆動する場合において、表示容量を増加させる(すなわちデューティを大きくする)ためには、プレティルト角を大きく設定することは有効な手段である。しかし、プレティルト角を90°に設定すると電圧印加時における液晶分子の配向の均一性が得られないため、実用上は上記した配向処理を施す必要が生じる。
【0005】
特開2005−234254号公報(特許文献1)には、垂直配向型液晶表示装置において、プレティルト角を89.5°より大きくした場合(特に89.7°より大きくした場合)に、プレティルト角の大きさに追随して最大透過率が低下する傾向が見られる旨の指摘がなされている。また、これについて特開2008−281752号公報(特許文献2)には、フレーム周波数が比較的に低い駆動条件において表示部の一部に暗領域が現れ、表示に不均一が発生することが原因の1つであると指摘されている。このような表示不均一性を改善する方法として、上記の特許文献2には、種々のマルチプレックス駆動波形を用いた場合のそれぞれについて、垂直配向型液晶表示装置のプレティルト角の設定とそれに応じたフレーム周波数の設定方法が開示されている。具体的には、特許文献2においては、プレティルト角が90°に近づくほどにフレーム周波数を高くするか、あるいは高周波成分を多く含む1/2ライン反転駆動波形を用いることにより、表示の均一性を実現可能であることが示されている。
【0006】
ところで、走査線の本数が比較的多い(すなわちデューティが大きい)垂直配向型液晶表示装置をマルチプレックス駆動する場合において上記した特許文献2に開示された技術を適用すると、液晶表示装置の内部インピーダンスが低下することから駆動電流の増加を招く。必要となる駆動電流が液晶表示装置を駆動するドライバー(駆動装置)の電流駆動能力を超えた場合には、走査線等となる透明電極の途上で電圧降下が生じることにより各画素への印加電圧が不均一となり、表示ムラが顕著に現れる。例えば、短冊状の透明電極を交差させ、それらの間に液晶層が設けられたドットマトリクス型の液晶表示装置においては、一方の透明電極の延在方向に沿った筋状の表示ムラが生じたり、他方の透明電極の延在方向に沿って明るさやコントラストのばらつきが生じたりする。このような表示ムラを解消するには、ドライバーの電流駆動能力を高めること、フレーム周波数を低下させること、又は高周波成分を多く含まない駆動波形(フレーム反転波形)を用いることが有効である。しかし、ドライバーの電流駆動能力を高めることはコスト上昇を招くために好ましい解決法とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−234254号公報
【特許文献2】特開2008−281752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明に係る具体的態様は、プレティルト角を90°に近い条件とした垂直配向型の液晶表示装置をマルチプレックス駆動する場合において、表示均一性を保ちつつフレーム周波数を低下させることが可能な技術を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するにあたって本願発明者は、プレティルト角を90°に近い条件とした垂直配向型の液晶表示装置をマルチプレックス駆動する場合において発生する表示不均一性について鋭意検討した。図15に、プレティルト角を89.6°とした垂直配向型の液晶表示装置をデューティ比1/8、バイアス比1/5、フレーム周波数を80Hzの条件でマルチプレックス駆動した場合における外観観察写真を示す。図示のようにセグメント型の表示部を有する液晶表示装置を用い、全セグメントをオン表示(明表示)とした。この液晶表示装置におけるラビング方向は12時方向および6時方向(アンチパラレル)であり、液晶層の中央における液晶分子の配向方向は12時方向(図中に矢印で示す方向)となっている。図示のように、各セグメントにおいて部分的に暗領域が現れ、表示均一性が損なわれている。これを詳細に観察すると、暗領域が現れる部分には特徴がある。すなわち、各セグメントにおいて暗領域の発生が多いのはラビング方向に対して略直交方向に長辺部を有する3つのセグメントのエッジ付近である。これらの暗領域はフレーム周波数をより高くすることで消失することができるが、フレーム周波数を低くしたいという要望とは相反する。以上の観察より、表示均一性を低下させる暗領域の発生には、電極のエッジ付近における斜め電界の発生状態と、ラビング方向、すなわち液晶層の中央における液晶分子の配向方向とが関連していると考察される。そこで、上記のような観察結果に基づいて本願発明者は以下の発明に至った
【0010】
本発明に係る一態様の液晶表示装置は、(a)一面側に第1電極を有する第1基板と、(b)一面側に第2電極を有し、前記第1基板と対向配置された第2基板と、(c)89.7°以上90°未満に設定されたプレティルト角を有しており、前記第1基板の前記第1電極と前記第2基板の前記第2電極との間に配置された液晶層と、を含み、(d)前記第1電極と前記第2電極は、各々対向する領域で画素を形成し、(e)前記第1電極は、前記画素内で平面視において規則的に配置された矩形状の複数の開口部を有し、(f)前記複数の開口部は、第1方向に長手方向を向けた第1開口部と、前記第1方向とは異なる第2方向に長手方向を向けた第2開口部を有し、(g)前記第1開口部及び前記第2開口部の各長手方向と前記液晶層の略中央における液晶分子の配向方向とのなす角度が0°以上90°未満である、ことを特徴とする。
【0011】
上記構成によれば、プレティルト角を90°に近い条件とした垂直配向型の液晶表示装置をマルチプレックス駆動する場合において、表示均一性を保ちつつフレーム周波数を低下させることが可能となる。
【0012】
上記の液晶表示装置において、第1開口部及び第2開口部の各々の長手方向と、液晶層の略中央における液晶分子の配向方向とのなす角度が0°に近いほど好ましく、例えば略45°や略0°とすることが好ましい。
【0013】
それにより、フレーム周波数を低下させる効果をより高めることが可能となる。また、角度を0°又は45°とすることにより、第1基板及び第2基板の各々の外側に偏光板を設けられたときの吸収軸との位置関係の点でも都合がよい。
【0014】
また、上記の液晶表示装置において、前記複数の開口部は、前記第1方向及び前記第2方向のいずれとも異なる第3方向に長手方向を向けた第3開口部を更に有してもよい。この場合には、前記第3開口部の長手方向と前記液晶層の略中央における液晶分子の配向方向とのなす角度が0°以上90°未満とされる。
【0015】
上記構成によっても、プレティルト角を90°に近い条件とした垂直配向型の液晶表示装置をマルチプレックス駆動する場合において、表示均一性を保ちつつフレーム周波数を低下させることが可能となる。
【0016】
上記の液晶表示装置において、液晶層は、当該液晶層へ電圧が印加されたときに液晶分子にねじれ構造を誘起するカイラル材が添加されていてもよい。
【0017】
それにより、液晶層の配向状態がより均一となり、表示均一性を向上させることができる。
【0018】
本発明に係る他の態様の液晶表示装置は、(a)一面側に第1電極を有する第1基板と、(b)一面側に第2電極を有し、前記第1基板と対向配置された第2基板と、(c)89.7°以上90°未満に設定されたプレティルト角を有しており、前記第1基板の前記第1電極と前記第2基板の前記第2電極との間に配置された液晶層と、を含み、(d)前記第1電極と前記第2電極は、各々対向する領域で画素を形成し、(e)前記第1電極は、前記画素内で平面視において規則的に配置された複数の開口部を有し、(f)前記複数の開口部の各々は、第1方向に長手方向を向けた矩形状の第1部位と、当該第1方向とは異なる第2方向に長手方向を向けた矩形状の第2部位を含む十字状の外縁を有し、(g)前記第1部位及び前記第2部位の各長手方向と前記液晶層の略中央における液晶分子の配向方向とのなす角度が0°以上90°未満である、ことを特徴とする。
【0019】
上記構成によっても、プレティルト角を90°に近い条件とした垂直配向型の液晶表示装置をマルチプレックス駆動する場合において、表示均一性を保ちつつフレーム周波数を低下させることが可能となる。
【0020】
上記の液晶表示装置において、複数の開口部の各々は、第1部位と第2部位のなす角度が略90°であり、当該第1部位及び第2部位の各々と、液晶層の略中央における液晶分子の配向方向とのなす角度が略45°であることも好ましい。
【0021】
それにより、フレーム周波数を低下させる効果をより高めることが可能となる。第1基板及び第2基板の各々の外側に偏光板を設けられたときの吸収軸との位置関係の点でも都合がよい。
【0022】
上記の液晶表示装置において、液晶層は、当該液晶層へ電圧が印加されたときに液晶分子にねじれ構造を誘起するカイラル材が添加されていてもよい。
【0023】
それにより、液晶層の配向状態がより均一となり、表示均一性を向上させることができる。
【0024】
本発明に係る他の態様の液晶表示装置は、(a)一面側に第1電極を有する第1基板と、(b)一面側に第2電極を有し、前記第1基板と対向配置された第2基板と、(c)89.7°以上90°未満に設定されたプレティルト角を有しており、前記第1基板の前記第1電極と前記第2基板の前記第2電極との間に配置された液晶層と、を含み、(d)前記第1電極と前記第2電極は、各々対向する領域で画素を形成し、(e)前記第1電極は、前記画素内で平面視において規則的に配置された複数の開口部を有し、(f)前記複数の開口部の各々は、第1方向に長手方向を向けた矩形状の第1部位、前記第1方向とは異なる第2方向に長手方向を向けた矩形状の第2部位、前記第1方向及び前記第2方向のいずれとも異なる第3方向に長手方向を向けた矩形状の第3部位を含むY字状の外縁を有し、(g)前記第1部位、前記第2部位及び前記第3部位の各長手方向と前記液晶層の略中央における液晶分子の配向方向とのなす角度が0°以上90°未満である、ことを特徴とする。
【0025】
上記構成によっても、プレティルト角を90°に近い条件とした垂直配向型の液晶表示装置をマルチプレックス駆動する場合において、表示均一性を保ちつつフレーム周波数を低下させることが可能となる。
【0026】
上記液晶表示装置において、複数の開口部のそれぞれは、第1部位と第2部位、第2部位と第3部位、第1部位と第3部位の各々の長手方向同士のなす角度が略120°であることも好ましい。
【0027】
それにより、フレーム周波数を低下させる効果をより高めることが可能となる。
【0028】
上記の液晶表示装置において、液晶層は、当該液晶層へ電圧が印加されたときに液晶分子にねじれ構造を誘起するカイラル材が添加されていてもよい。
【0029】
それにより、液晶層の配向状態がより均一となり、表示均一性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】一実施形態の液晶表示装置の構造を示す模式的な断面図である。
【図2】各開口部の構造を説明するための模式平面図である。
【図3】実施例1の液晶表示装置の表示部における顕微鏡観察像を示す図である。
【図4】実施例1の液晶表示装置の外観観察よりセグメント表示部の表示均一性が得られるフレーム周波数の下限を測定した結果を示す図である。
【図5】各開口部の他の構造例を説明するための模式平面図である。
【図6】実施例2のドットマトリクス電極構造を有する液晶表示装置の画素部における顕微鏡観察像を示す図である。
【図7】実施例2のドットマトリクス型およびセグメント表示型の液晶表示装置の外観観察より表示部の均一性が得られるフレーム周波数下限を測定した結果を示す図である。
【図8】各開口部の他の構造例を説明するための模式平面図である。
【図9】実施例3におけるドットマトリクス型の電極構造を有する液晶表示装置の画素部における顕微鏡観察像を示す図である。
【図10】各開口部の他の構造例を説明するための模式平面図である。
【図11】実施例4の液晶表示装置の画素部における顕微鏡観察像を示す図である。
【図12】電極と液晶層内の液晶分子とを模式的に示した図である。
【図13】不均一な配向状態の伝播が抑制される様子を模式的に示した図である。
【図14】不均一な配向状態の伝播が抑制される様子を模式的に示した図である。
【図15】プレティルト角を89.6°とした垂直配向型の液晶表示装置をデューティ比1/8、バイアス比1/5、フレーム周波数を80Hzの条件でマルチプレックス駆動した場合における外観観察写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0032】
図1は、一実施形態の液晶表示装置の構造を示す模式的な断面図である。図1に示す本実施形態の液晶表示装置は、対向配置された第1基板1と第2基板2と、両基板の間に配置された液晶層3と、を主に備える。第1基板1の外側には第1偏光板4が配置され、第2基板2の外側には第2偏光板5が配置されている。第1基板1と第1偏光板4の間には第1視角補償板6が配置され、第2基板2と第2偏光板5の間には第2視角補償板7が配置されている。液晶層3の周囲はシール材8によって封止されている。以下、さらに詳細に液晶表示装置の構造を説明する。
【0033】
第1基板1および第2基板2は、それぞれ、例えばガラス基板、プラスチック基板等の透明基板である。第1基板1と第2基板2との相互間には、スペーサー(粒状体)10が分散して配置されている。これらのスペーサー10により、第1基板1と第2基板2との間隙が所定距離(本実施形態では3.6〜4.0μm程度)に保たれる。
【0034】
液晶層3は、第1基板1の第1電極11と第2基板2の第2電極12との相互間に設けられている。本実施形態においては、誘電率異方性Δεが負(Δε<0)の液晶材料(ネマティック液晶材料)を用いて液晶層3が構成されている。液晶層3に図示された太線は、電圧無印加時における液晶分子の配向方向を模式的に示したものである。図示のように、本実施形態の液晶表示装置においては、液晶層3の液晶分子の配向状態がモノドメイン配向に規制されている。本実施形態における液晶層3のプレティルト角は概ね89.7°〜89.9°に設定されている。また、液晶層3のリタデーションは略800〜870nmである。
【0035】
第1電極11は、第1基板1の一面上に設けられている。本実施形態においては、複数の第1電極11がそれぞれ第2電極12と対向して配置されている。各第1電極11の形状は、例えば矩形状(ドットマトリクス型の場合)であり、または任意の表示パターンに対応した形状(セグメント表示型の場合)である。各第1電極11は、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。また、各第1電極11には複数の開口部(スリット)15が設けられている。各開口部15の詳細については後述する。
【0036】
第2電極12は、第2基板2の一面上に設けられている。第2電極12は、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。本実施形態の液晶表示装置は、第1電極11と第2電極12とが平面視において重なる箇所のそれぞれが表示部(すなわち画素)となる。
【0037】
配向膜13は、第1基板1の一面側に、第1電極11を覆うようにして設けられている。同様に、配向膜14は、第2基板2の一面側に、第2電極12を覆うようにして設けられている。本実施形態においては、配向膜13および配向膜14としては、液晶層3の初期状態(電圧無印加時)における配向状態を垂直配向状態に規制するもの(垂直配向膜)が用いられている。より詳細には、各配向膜13、14としては、液晶層3の液晶分子に対して90°に極めて近い角度のプレティルト角を付与し得るものが用いられる。
【0038】
図2は、第1電極に設けられた各開口部の構造を説明するための模式平面図である。図2(a)、図2(b)に示す開口部15は、それぞれの長辺(長手方向)が2つの方向のいずれかに延びた矩形状の外縁を有し、平面視において規則的に配置されている。また、図2(c)、図2(d)に示す各開口部15は、矩形状の2つの開口部を交差させた十字状の外縁を有し、平面視において規則的に配置されている。図2(a)〜図2(d)の各図において、Pは開口部重心の上下左右方向において隣接する開口部の相互間距離(配置ピッチ)を示している。PvおよびPhは、各開口部15の重心の上下方向および左右方向に隣接する開口部の相互間距離(配置ピッチ)を示している。また、Lは開口部15の長辺長さ、Sは開口部15の短辺長さ、Lsは隣接する各開口部15の長辺方向における相互間距離を示している。
【0039】
図2(a)に示す複数の開口部15は、長手方向を第1方向17に向けて配置された開口部(第1開口部)と長手方向を第2方向18に向けて配置された開口部(第2開口部)を含む。図中の左右方向において隣り合う開口部15は、それぞれの長手方向をそろえて配置されている。また、図中の上下方向において隣り合う開口部15は、それぞれの長手方向が互い違いとなっている。図示の例における各開口部15は、それぞれの長手方向と液晶層3の略中央における液晶分子の配向方向16とのなす角度が略+45°または略−45°となるように配置されている。
【0040】
図2(b)に示す各開口部15は、長手方向を第1方向17に向けて配置された開口部(第1開口部)と長手方向を第2方向18に向けて配置された開口部(第2開口部)を含む。各開口部15は、図中の上下方向または左右方向において隣り合うもの同士の長手方向が互い違いとなって配置されている。また、図示の例における各開口部15は、それぞれの長手方向と液晶層3の略中央における液晶分子の配向方向16とのなす角度が略+45°または略−45°となるように配置されている。
【0041】
図2(c)に示す各開口部15は、第1方向17に長手方向を向けた矩形状の第1部位と第2方向18に長手方向を向けた矩形状の第2部位を交差させてなる十字状の外縁を有する。そして各開口部15は、第1部位の長手方向と第2部位の長手方向とのなす角度が略90°に設定されている。また、各開口部15は、第1部位と第2部位の各々の長手方向がいずれも液晶層3の略中央における液晶分子の配向方向16に対して略45°の角度をもって交差するように配置されている。さらに、各開口部15は、それぞれの重心位置を上下左右の各方向に対して市松状にして配置されている。
【0042】
図2(d)に示す各開口部15は、第1方向17に長手方向を向けた矩形状の第1部位と、第2方向18に長手方向を向けた第2部位を交差させてなる十字状の外縁を有する。そして各開口部15は、第1部位の長手方向と第2部位の長手方向とのなす角度が略90°に設定されている。また、各開口部15は、第1部位と第2部位の各々の長手方向がいずれも液晶層3の略中央における液晶分子の配向方向16に対して略45°の角度をもって交差するように配置されている。さらに、各開口部15は、それぞれの重心位置を上下左右の各方向に対して平行に配置されている。
【0043】
なお、上記した図2(a)〜図2(d)に示した各開口部15は、実際に電極のパターニングをする際の条件(エッチング条件等)により矩形の角が丸くなる現象が見られる場合がある。しかし、本願発明者によれば、各開口部15の角が丸くなる場合と、各開口部15の角が図示のようにシャープな形状となっている場合との両者間で諸特性に違いは見られないことが確認されている。
【0044】
次に、液晶表示装置の製造方法の一例について詳細に説明する。
【0045】
まず、一面上に透明電極を有する基板を用意する。基板としては、例えば片面が研磨され、その表面にSiOがコートされ、その上にITO(インジウム錫酸化物)からなる透明導電膜が形成されたガラス基板を用いることができる。この基板に対して既知のフォトリソグラフィ工程およびエッチング工程を実行することにより、第1電極11を有する第1基板1、第2電極12を有する第2基板2がそれぞれ形成される。なお、必要に応じて第1電極11または第2電極12の一部表面上にさらにSiOなどによる絶縁層を形成してもよい。
【0046】
次いで、第1基板1の一面上に配向膜13が形成され、第2基板2の一面上に配向膜14が形成される。具体的には、各基板をアルカリ溶液等で洗浄した後、垂直配向膜の材料液をフレキソ印刷等の方法によって第1基板1の一面上および第2基板2の一面上にそれぞれ塗布し、これらをクリーンオーブン内にて焼成する(例えば、180℃、30分間)。その後、各配向膜13、14に対してラビング処理を行う。
【0047】
本工程におけるラビング処理の条件を適宜に設定することにより、液晶層3のプレティルト角を制御することができる。ここでいうプレティルト角とは、基板表面と液晶分子の平均的配向方向(ダイレクター)とのなす角度をいう。また、第1基板1に対してラビング処理を行う際のラビング方向(ラビング布を回転させながら進行させた方向)を適宜設定することにより、液晶層3の略中央における液晶分子の配向方向16と各開口部15の長手方向との位置関係(上記した図2参照)を規定することができる。なお、配向処理の方法はラビング処理にのみ限定されず、他の方法(例えば光配向法等)であってもよい。
【0048】
次いで、一方の基板上(例えば、第1基板1の一面上)にシール材8を形成する。シール材8は、例えば4μm程度の粒径のロッド状ガラススペーサーが混入されたものをスクリーン印刷等の方法によって塗布することによって形成される。また、他方の基板上(例えば、第2基板2の一面上)には、例えば4μm程度の粒径のスペーサー10が散布される。スペーサー10の散布は、例えば乾式散布法によって行われる。
【0049】
次いで、第1基板1と第2基板2を、これらの一面同士が対向し、各配向膜13、14に対するラビング方向がアンチパラレルとなるようにして貼り合わせ、一定の加圧状態にて焼成する。それによりシール材8が硬化し、第1基板1と第2基板2が固定される(空セルが完成する)。
【0050】
次いで、真空注入法等の方法によって、第1基板1と第2基板2の間隙に液晶材料(誘電率異方性Δε<0のもの)を注入し、当該注入に用いた注入口を封止した後に、焼成する(例えば120℃、60分間)。これにより液晶層3が形成される。
【0051】
その後、第1基板1の外側に第1偏光板4および第1視角補償板6を貼り合わせ、かつ第2基板2の外側に第2偏光板5および第2視角補償板7を貼り合わせる。第1偏光板4と第2偏光板5のそれぞれは、例えば、液晶層3の略中央における液晶分子の配向方向16に対して略45°の角度を有し、かつお互いがクロスニコルとなるように配置される。また、第1視角補償板6、第2視角補償板7は必要に応じて設けられるものであり、省略されてもよい。最後に、リードフレーム等を適宜に取り付けることにより、図1に示した液晶表示装置が完成する。
【0052】
次に、各開口部15を設けることによって得られる作用について、いくつかの実施例に基づいて説明する。
【0053】
(実施例1)
図1に示した液晶表示装置における第1電極11および第2電極12を、文字、7セグメントおよび意匠形状等の複数の任意の形状を有するセグメント表示を行うための構造としたセグメント表示型の液晶表示装置を作製した。なお、第1電極11がコモン電極に相当し、第2電極11がセグメント電極に相当する。
【0054】
実施例1においては、上記の図2(a)または図2(b)に示した各開口部15が画素内で第1電極11(コモン電極)に設けられた。なお、各開口部15は第2電極12(セグメント電極)に設けられてもよい。また、複数のセグメント表示部が存在する場合に、必ずしも各セグメント表示部のすべてにおいて各開口部15を一方の電極に設ける必要はない。すなわち、各開口部15を第1電極11または第2電極12のいずれに設けるかは各セグメント表示部で異なっていてもよい。ただし、1つのセグメント表示部内では一方の電極のみに各開口部15を設けることがより好ましい。
【0055】
実施例1の液晶表示装置の開口部の寸法は以下の通りである。図2(a)に示した各開口部15を設けた場合については、Phを0.126mm、Lを0.15mm、Sを0.007mmにそれぞれ固定し、Pvを0.036mm、0.053mm、0.071mmのいずれかに設定した。また、図2(b)に示した各開口部15を設けた場合については、Sを0.007mmに固定し、PとLの組み合わせについて、0.053mmと0.065mm、0.071mmと0.09mm、0.106mmと0.14mmの3パターンに設定した。
【0056】
各配向膜13、14に対してラビング処理を行い、そのラビング方向がアンチパラレルになるように第1基板1と第2基板2を重ね合わせた。液晶層3の略中央における液晶分子の配向方向は図2に示される通り12時方向とした。液晶層3を構成する液晶材料にはΔnが略0.21、Δεが負の液晶材料を用いた。液晶層3のプレティルト角は略89.9°としている。また、比較のために、第1電極および第2電極のいずれにも開口部を設けていないほかは実施例1と同構造の液晶表示装置(従来構造の液晶表示装置)も作製した。実施例1の液晶表示装置、従来構造の液晶表示装置のいずれに対しても1/64デューティ、1/9バイアス、フレーム反転波形のマルチプレックス駆動により第1電極11と第2電極12の間に電圧を印加した。なお、駆動時の印加電圧は明表示電圧であり、駆動電圧は一定とした。
【0057】
図3は、実施例1の液晶表示装置の表示部における顕微鏡観察像を示す図である。詳細には、図3(a)は上記した図2(a)に示した形態の開口部15が設けられた液晶表示装置の観察像である(Pvの設定値は0.053mm)。図3(b)は上記した図2(b)に示した形態の開口部が設けられた液晶表示装置の観察像である(Pの設定値は0.071mm、Lの設定値は0.09mm)。なお、いずれにおいてもフレーム周波数は100Hzである。図3(a)の観察像においては、各開口部15とその周辺に暗領域が観察されるがそのパターンが規則的になっていることが分かる。また、図3(b)の観察像においては、ごく一部の開口部15の周辺において発生パターンの不規則な暗領域が見られるが、全体的には暗領域の発生パターンが規則的であることが分かる。
【0058】
図4は、実施例1の液晶表示装置の外観観察よりセグメント表示部の表示均一性が得られるフレーム周波数の下限を測定した結果を示す図である。詳細には、図2(a)に示した形態の開口部15を有する液晶表示装置の測定結果のPv値依存性を図4(a)、図2(b)に示した形態の開口部15を有する液晶表示装置の測定結果のP、L値依存性を図4(b)に示す。いずれの形態の開口部15を有する液晶表示装置においても、開口部の形状パラメータに対する依存性は小さいが、開口部を有しない従来構造の液晶表示装置に比べると配向均一性が得られるフレーム周波数下限は著しく低くなっている。なお、開口部を有しない従来構造の液晶表示装置において表示均一性を実現するにはフレーム周波数下限は250Hz以上が必要であった。したがって、各形態の開口部15を複数設けることにより液晶表示装置のフレーム周波数の下限を抑制する顕著な効果が得られると考えられる。
【0059】
なお、上記の液晶表示装置において開口部の長手方向は第1方向17、第2方向18の2方向に向けられており、かつ第1方向17および第2方向18の各々と液晶層3の略中央における液晶分子の配向方向16とのなす角度は略45°に設定されていたがこの限りではない。第1方向17、第2方向18の各々と液晶層3の略中央における液晶分子の配向方向16とのなす角度は0°以上90°未満であればよく、さらに第1方向17と第2方向18は左右対象または上下対称となっていなくてもよい。さらに、図5に示すように、液晶層3の略中央における液晶分子の配向方向16に対して長手方向(長辺)が略±45°を向く第1方向17および第2方向18に加え、これらと異なる第3方向19に長手方向を向けた開口部(第3開口部)をさらに設けることも効果的である。
【0060】
(実施例2)
上記した図1に示した液晶表示装置において、第1電極11、第2電極12を短冊状とし、両者を交差させたドットマトリクス電極構造において、1画素の大きさを0.42mm平方とし、各短冊状電極の間隔を0.03mmとした液晶表示装置を作製した。これと併せて、実施例1で示したセグメント表示型の電極構造を有する液晶表示装置も作製した。
【0061】
第1電極11には上記の図2(c)に示した十字状の開口部15が画素内で複数設けられた。各開口部15は、それぞれの重心を液晶表示装置の上下左右方向に対して市松状に配置されている。実施例2においては、ドットマトリクス画素の配置状態に関係なく、第1基板1の第1電極11に各開口部15を設けたので、各画素における開口部15の配置関係は等しくない。当然、各画素内で開口部15の配置が等しくなるように配置してもよい。セグメント表示型の液晶表示装置の場合は、1つの表示部内では各開口部を一方の電極に配置するのがより好ましいが、複数の表示部が存在する場合はすべての表示部で同じ電極に開口部を配置する必要はない。
【0062】
実際に作製した液晶表示装置の各開口部15の寸法は、S=0.007mm、Ls=0.0114mmで固定し、L=0.0628mmとP=0.1mm、およびL=0.137mmとP=0.2mmの2パターンに設定した。
【0063】
各配向膜13、14に対してラビング処理を行い、そのラビング方向がアンチパラレルになるように第1基板1と第2基板2を重ね合わせた。液晶層3の略中央における液晶分子の配向方向は図2(c)に示される通り12時方向とした。液晶層3を構成する液晶材料にはΔnが略0.21、Δεが負の液晶材料を用いた。液晶層3のプレティルト角は略89.9°および89.7°の2種類とした。また、比較のために第1電極および第2電極のいずれにも開口部を設けていないほかは実施例2と同構造の液晶表示装置(従来構造の液晶表示装置)も作製した。実施例2の液晶表示装置、従来構造の液晶表示装置のいずれに対しても1/64デューティ、1/9バイアスまたは1/7バイアス、フレーム反転波形のマルチプレックス駆動により第1電極11と第2電極12の間に電圧を印加した。なお、駆動時の印加電圧は明表示電圧であり、駆動電圧は一定とした。
【0064】
図6は、実施例2のドットマトリクス電極構造を有する液晶表示装置の画素部における顕微鏡観察像を示す図である。なお、観察像には開口部が設けられていない隣接画素の一部も示されている。各開口部15の寸法はL=0.0628mm、Ls=0.0114mm、S=0.007mm、P=0.1mmとした。液晶層3のプレティルト角は89.7°、駆動条件はフレーム周波数130Hz、1/9バイアスである。図示のように、各開口部15が存在する画素内では、開口部15とその近辺および画素エッジ付近に暗領域が観察されるがそのパターンは規則的であるのに対し、開口部が設けられていない画素(図中上側の画素)においては暗領域が不規則かつ大きな面積で発生しており、外観上も明らかに表示不均一性が観察された。
【0065】
図7は、実施例2のドットマトリクス型およびセグメント表示型の液晶表示装置の外観観察より表示部の均一性が得られるフレーム周波数下限を測定した結果を示す図である。パラメータとして、バイアス値、プレティルト角および開口部の配置ピッチPが示されている。全体的な傾向としては、プレティルト角が低く、バイアス比が小さいほうがフレーム周波数の下限が低くなる傾向が見られる。また、ドットマトリクス型では開口部の配置ピッチPが大きい方がフレーム周波数の下限を低くすることが可能になるが、セグメント表示型ではその逆の傾向が見られる。いずれにしても開口部を有しない従来構造の液晶表示装置に比べればフレーム周波数の下限を低く抑制できることが分かった。
【0066】
なお、上記の液晶表示装置においては、第1方向17に長手方向を向けた矩形状の第1部位と第2方向18に長手方向を向けた矩形状の第2部位を含む十字状の外縁を有する開口部15を想定し、第1部位と第2部位が略90°で交差する場合を想定していたがこの限りではない。第1部位と第2部位の交差角度は0°以上90°未満であってもよい。さらに、図8に示すように、第1部位と第2部位に対してさらに第3方向19に長手方向を向けた矩形状の第3部位を結合してY字状の外縁を有するようにした開口部15を、画素内で平面視において規則的に(例えば市松状に)配置することによっても、フレーム周波数の下限を低下させることが可能である。この場合に、第1方向〜第3方向の3方向については、各2方向の相互間の角度を120°とすることが理想的と考えられるがその限りではない。また、3つの角度が均等である必要性はないが近接する2方向の相互間の角度は0°より大きく360°未満であることが好ましい。
【0067】
(実施例3)
上記した図1に示した液晶表示装置において、実施例1と同様なセグメント表示型の電極構造を有する液晶表示装置を作製した。第1基板1(コモン基板)の第1電極11には、上記の図2(d)に示した十字状の各開口部15が画素内で設けられた。各開口部15は、それぞれの重心を平面視において上下左右の各方向に規則的に配置された。なお、実施例1の場合と同様に各開口部は表示部内で一方の電極に配置されているがすべての表示部で一方の電極に配置される必要はなく、表示部ごとに一方または他方の電極に開口部を配置してもよい
【0068】
実施例3の液晶表示装置の開口部の寸法については、Sを0.007mm、LをP−0.025mmで固定し、Pを0.1mmまたは0.15mmの2種類に設定した。
【0069】
各配向膜13、14に対してラビング処理を行い、そのラビング方向がアンチパラレルになるように第1基板1と第2基板2を重ね合わせた。液晶層3の略中央における液晶分子の配向方向は図2に示される通り12時方向とした。液晶層3を構成する液晶材料にはΔnが略0.21、Δεが負の液晶材料を用いた。液晶層3のプレティルト角は略89.9°としている。このように作製した液晶表示装置に対して1/64デューティ、1/9バイアス、フレーム反転波形のマルチプレックス駆動により第1電極11と第2電極12の間に電圧を印加した。なお、駆動時の印加電圧は明表示電圧であり、駆動電圧は一定とした。
【0070】
図9は、実施例3におけるセグメント表示型の電極構造を有する液晶表示装置の画素部の顕微鏡観察像を示す図である。この観察像はPを0.15mmに設定し、フレーム周波数を250Hzに設定した場合のものである。図示のように、各開口部15およびその近辺が暗領域となっているが配向組織は均一であることが分かる。Pを0.1mm、Pを0.15mmに設定した液晶表示装置の外観観察時における表示均一性が保たれるフレーム周波数の下限はそれぞれ190Hz、180Hzとほぼ同等であり、開口部を設けない従来構造の液晶表示装置に比べてフレーム周波数を低く抑制可能であることが分かった。
【0071】
なお、上記の実施例3の液晶表示装置においては、第1方向17に長手方向を向けた矩形状の第1部位と第2方向18に長手方向を向けた矩形状の第2部位を含む十字状の外縁を有する開口部15を想定し、第1部位と第2部位が略90°で交差する場合を想定していたがこの限りではない。交差角度は0°以上90°未満であってもよい。さらに、図10に示すように、第1部位と第2部位に対してさらに第3方向19に長手方向を向けた矩形状の第3部位を結合してY字状(並びに逆Y字状)の外縁を有するようにした開口部15を、平面視において規則的に配置することによっても、フレーム周波数の下限を低下させることが可能である。この場合に、第1方向〜第3方向の3方向については、各2方向の相互間の角度を120°とすることが理想的と考えられるがその限りではない。また、3つの角度が均等である必要性はないが近接する2方向の相互間の角度は0°より大きく360°未満であることが好ましい。
【0072】
(実施例4)
上記の実施例3と同構造の液晶表示装置において、さらに液晶層3にカイラル材を混入することによって電圧印加時の液晶層3にねじれ構造を導入した場合について以下に説明する。
【0073】
図11は、実施例4の液晶表示装置の画素部における顕微鏡観察像を示す図である。この観察像は、液晶層3の層厚をd、液晶材料に混入したカイラル材によるカイラルピッチをpとしたときにd/pを0.7に設定し、Pを0.15mmに設定した液晶表示装置をマルチプレックス駆動にしたときの配向組織観察像である。駆動条件としては1/128デューティ、1/10バイアス、フレーム周波数250Hzのフレーム反転波形を用い、ほぼ最大コントラストが得られる駆動電圧の明表示とした。なお、液晶層のプレティルト角は略89.9°とした。
【0074】
図11に示すように、実施例4の液晶表示装置の配向組織は、実施例3の液晶表示装置の配向組織(図9参照)と比べ、各開口部15の周辺に発生する暗領域が大幅に減少しており、より均一な配向状態が得られていることが分かる。外観上もカイラル材が添加されていない実施例3の液晶表示装置と同等以上の表示均一性が得られることが確認されている。また、表示均一性が得られるフレーム周波数の下限は実施例3とほぼ同等であり、開口部を設けない従来構造の液晶表示装置に比べフレーム周波数を低く抑制する効果が確認された。なお、液晶層3にカイラル材を添加することによって電圧印加時においてねじれ構造を導入することにより、上記の実施例1、実施例2の各液晶表示装置においても開口部近辺に発生する暗領域を抑制し、表示均一性をより改善することが可能であると考えられる。
【0075】
なお、上記した各実施例では電圧無印加時における液晶層3の略中央における液晶分子の配向方向16を12時方向としたが、配向方向はこの限りではない。ただし、開口部15の各長手方向(長辺エッジ)と液晶層3の略中央における液晶分子の配向方向16が略直交しないように配向方向を制御する必要がある。
【0076】
また、液晶表示装置の表示領域を複数に分割し、各分割領域において、あるいはセグメント型表示においてそれぞれの表示部で各開口部の形状パラメータを異ならせたり、その形状を異なる種類にしたりしてもよい。同様に、液晶表示装置の各画素について、1画素内を複数の領域に分割し、各分割領域において、各開口部の形状パラメータを異ならせたり、その形状を異なる種類にしたりしてもよい。
【0077】
(開口部の形状の相違による効果について)
次に、開口部15の形状の相違による効果の違いについて理論的な観点から説明する。
【0078】
上述した図15に示したように、電極中に、液晶層の中央における液晶分子の配向方向(ラビング方向に対応)と直交する方向のエッジ(辺)が長い場合に、そのエッジの近くで暗領域が現れ、表示均一性(表示品位)が低下している。このエッジ付近では、基板表面におけるラビング方向と、液晶層に電圧を印加したときに発生する斜め電界によって液晶分子が配向制御される方向とが180°異なっていることから、エッジ周辺で液晶分子のダイレクターが180°回転する。このときの回転の方向が規則的になっていない等の要因により液晶分子の配向が不均一となり、それにより暗領域が生じ、表示均一性を低下させるものと考えられる。また、電極の形状によってはより広い面積で暗領域が発生すると考えられる。
【0079】
したがって、このようなエッジができるだけ短くなるように電極の構造を工夫することが有効であると考えられる。この考え方に従うと、上記した各種の開口部を一方の電極に設けることは有効であると考えられる。すなわち、液晶層3の略中央における液層分子の配向方向に対して直交よりも小さい角度で配置されたエッジが多く存在するようにすればよい。
【0080】
一方、開口部15を電極上に配置することによるもう1つの効果は、第1電極11と第2電極12の間に電圧が印加されたときに開口部15で囲まれた局所的な電圧無印加領域が形成され、この電圧無印加領域が配向乱れを広い範囲に拡大させない障壁として機能することであると考えられる。実際に、配向不均一性には印加電圧に対する依存性が観察され、液晶分子の傾斜角度が90°に近いほど配向乱れが生じない傾向が観察されている。以上の現象について図12に基づいて詳しく説明する。
【0081】
図12(a)は、開口部15を設けていない場合の電極と液晶層内の液晶分子とを模式的に示している。ここでは、上下の各電極111、112にそれぞれは垂直配向膜が形成され、これらをラビング処理することで、紙面左右方向においてアンチパラレルに配向処理がなされているとする。電極111、112の間に電圧を印加したときには、図示のように液晶層3の中央付近を中心に液晶分子が均一に水平に再配向すると考えられる。しかし、電極のエッジ付近などで基板面に対して面内方向に不均一な配向が生じたとすると、水平配向に再配向されている領域にはその不均一な配向が伝播し、広い範囲で表示不良が発生する。
【0082】
図12(b)は、開口部を設けた場合の電極と液晶層内の液晶分子とを模式的に示している。ここでは、第1電極11、第2電極12にそれぞれは垂直配向膜が形成され、これらをラビング処理することで、紙面左右方向においてアンチパラレルに配向処理がなされているとする。また、第1電極11にのみ複数の開口部15が規則的に設けられているとする。図示の構成を用いた場合には、開口部15の配置に対応して液晶層3の液晶分子の配向が部分的に垂直配向状態を保持することが可能である。このような垂直配向状態を保持した領域によって液晶層3を局所的に囲むことで、例え不均一な配向が生じたとしても、その領域を周囲から遮断して外部には伝播させないようにすることができる。この様子を模式的に示したのが図13である。図13(a)の模式斜視図および図13(b)の模式平面図に示すように、各開口部15の部分では、液晶分子が垂直配向状態のままで保たれる。このような原理から、電極に開口部を設けることにより液晶層3の配向均一性を高め、表示均一性を確保することができると考えられる。なお、この場合の最適な視角方向はラビング方向に依存しており、複数の配向ドメインが生じることはない。
【0083】
2つの矩形状の開口部を交差させた十字状の開口部15を用いた場合も同様である。この様子を模式的に示したのが図14である。十字状の開口部15を設けた場合には、図示のように、垂直配向状態を保持した領域によって液晶層3を局所的に囲む作用がより強く得られる。それにより、例え不均一な配向が生じたとしてもその領域を周囲から遮断して外部には伝播させないようにすることができる。十字状の開口部15は、その長手方向をラビング方向に対して直交させないほうが配向均一性をより高められる。したがって、例えば図14に示したように、開口部15の長手方向がラビング方向に対して略45°の角度をもつように配置することが有効であると考えられる。この場合においても最適な視角方向はラビング方向に依存しており、複数の配向ドメインが生じることはない。なお、Y字状の開口部15についても同様の効果が得られると考えられる。
【0084】
なお、本発明は上述した実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。
【符号の説明】
【0085】
1…第1基板、2…第2基板、3…液晶層、4…第1偏光板、5…第2偏光板、6…第1視角補償板、7…第2視角補償板、8…シール材、10…スペーサー、11…第1電極、12…第2電極、13、14…配向膜、15…開口部、16…液晶層の略中央における液晶分子の配向方向、17…第1方向、18…第2方向、19…第3方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一面側に第1電極を有する第1基板と、
一面側に第2電極を有し、前記第1基板と対向配置された第2基板と、
89.7°以上90°未満に設定されたプレティルト角を有しており、前記第1基板の前記第1電極と前記第2基板の前記第2電極との間に配置された液晶層と、
を含み、
前記第1電極と前記第2電極は、各々対向する領域で画素を形成し、
前記第1電極は、前記画素内で平面視において規則的に配置された矩形状の複数の開口部を有し、
前記複数の開口部は、第1方向に長手方向を向けた第1開口部と、前記第1方向とは異なる第2方向に長手方向を向けた第2開口部を有し、
前記第1開口部及び前記第2開口部の各長手方向と前記液晶層の略中央における液晶分子の配向方向とのなす角度が0°以上90°未満である、
液晶表示装置。
【請求項2】
前記複数の開口部は、前記第1方向及び前記第2方向のいずれとも異なる第3方向に長手方向を向けた第3開口部を更に有し、
前記第3開口部の長手方向と前記液晶層の略中央における液晶分子の配向方向とのなす角度が0°以上90°未満である、請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項3】
一面側に第1電極を有する第1基板と、
一面側に第2電極を有し、前記第1基板と対向配置された第2基板と、
89.7°以上90°未満に設定されたプレティルト角を有しており、前記第1基板の前記第1電極と前記第2基板の前記第2電極との間に配置された液晶層と、
を含み、
前記第1電極と前記第2電極は、各々対向する領域で画素を形成し、
前記第1電極は、前記画素内で平面視において規則的に配置された複数の開口部を有し、
前記複数の開口部の各々は、第1方向に長手方向を向けた矩形状の第1部位と、当該第1方向とは異なる第2方向に長手方向を向けた矩形状の第2部位を含む十字状の外縁を有し、
前記第1部位及び前記第2部位の各長手方向と前記液晶層の略中央における液晶分子の配向方向とのなす角度が0°以上90°未満である、
液晶表示装置。
【請求項4】
一面側に第1電極を有する第1基板と、
一面側に第2電極を有し、前記第1基板と対向配置された第2基板と、
89.7°以上90°未満に設定されたプレティルト角を有しており、前記第1基板の前記第1電極と前記第2基板の前記第2電極との間に配置された液晶層と、
を含み、
前記第1電極と前記第2電極は、各々対向する領域で画素を形成し、
前記第1電極は、前記画素内で平面視において規則的に配置された複数の開口部を有し、
前記複数の開口部の各々は、第1方向に長手方向を向けた矩形状の第1部位、前記第1方向とは異なる第2方向に長手方向を向けた矩形状の第2部位、前記第1方向及び前記第2方向のいずれとも異なる第3方向に長手方向を向けた矩形状の第3部位を含むY字状の外縁を有し、
前記第1部位、前記第2部位及び前記第3部位の各長手方向と前記液晶層の略中央における液晶分子の配向方向とのなす角度が0°以上90°未満である、
液晶表示装置。
【請求項5】
前記液晶層にカイラル材が添加されている、請求項1〜4の何れか1項に記載の液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図12】
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【図9】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−68591(P2012−68591A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215561(P2010−215561)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】