説明

液晶装置および投射型表示装置

【課題】 プレチルトが付与された場合であっても良好な光学補償を行なうことのできる液晶装置の構成を提供する。
【解決手段】 本発明の液晶装置100は、一対の基板10,20間に液晶層50が挟持されてなる液晶装置であって、前記液晶層50は、初期配向状態が垂直配向を呈する誘電異方性が負の液晶からなり、前記液晶には所定の一方向にプレチルトが付与されており、前記一対の基板10,20のうち少なくとも一方の基板10の外側には、負の屈折率異方性を有する光学補償板70が設けられており、前記光学補償板70の光軸方向Dと前記液晶のプレチルト方向Pとが略平行に配置されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶装置および投射型表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、大画面表示を可能とした表示装置として、液晶プロジェクタ(投射型表示装置)が実用化されている。このようなプロジェクタにおいては、誘電異方性が負の液晶を基板に垂直に配向させ、電圧印加によってこれを倒す「VA(Vertical Alignment)モード」によって駆動する液晶装置をライトバルブとして備えた構成が提案されている。しかし、従来の液晶プロジェクタは投影画像のコントラスト比が1:500程度しかなく、DMD(登録商標)等の機械式シャッタを用いたプロジェクタのコントラスト比1:3000と比べて見劣りがしていた。その原因は、液晶装置の視角特性にある。そもそも液晶プロジェクタにおいて、液晶装置に入射される光は完全な平行光ではない。ところが、液晶装置には入射角依存性があるため、これが投影画像のコントラスト比を低下させる原因になっている。この対策として、特許文献1では、液晶装置の入射角依存性を補償するために光学補償板を採用し、係る光学補償板の視角補償効果によって、より高コントラストな表示を実現している。
【特許文献1】特公平7−69536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1の技術は、垂直配向型の液晶セルに光学補償板として負の屈折率異方体を配置することで、斜め光に対しての液晶セルで生じる位相差を補償するものである。しかし、配向制御としてプレチルトをつけた場合、プレチルト角が90°から低くなるに従って、前記光学補償板の効果が薄れる傾向にある。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、プレチルトがつけられた場合であっても良好な光学補償を行なうことのできる構成を提供し、更には、このような液晶装置を備えることによって高コントラストな画像表示を行なうことのできる投射型表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の課題を解決するため、本発明の液晶装置は、一対の基板間に液晶層が挟持されてなる液晶装置であって、前記液晶層は、初期配向状態が垂直配向を呈する誘電異方性が負の液晶からなり、前記液晶には所定の一方向にプレチルトが付与されており、前記一対の基板のうち少なくとも一方の基板の外側には、負の屈折率異方性を有する光学補償板が設けられており、前記光学補償板の光軸方向と前記液晶のプレチルト方向とが略平行に配置されていることを特徴とする。この液晶装置においては、前記光学補償板は前記一方の基板と平行に配置されており、前記光学補償板の光軸方向は、該光学補償板の法線からずれた角度であって、前記液晶のプレチルト方向と略平行な方向に配置されているものとすることができる。或いは、前記光学補償板の光軸方向は、該光学補償板の法線方向と略平行な方向に配置されてなり、前記光学補償板は、該光学補償板の光軸方向と前記液晶のプレチルト方向とが略平行となるように前記一方の基板と平行な位置から傾けて配置されているものとすることができる。
この構成によれば、光学補償板の光軸方向が液晶のプレチルトに合わせて傾けて配置されているので、液晶のプレチルトによる位相差及び斜め方向の光による位相差を完全に補償することができる。
【0005】
本発明の投射型表示装置は、前述した本発明の液晶装置を光変調手段として備えたことを特徴とする。
この構成によれば、黒表示における光漏れを防止することができ、投影画像において高いコントラスト比を得ることができる。
【0006】
本発明の投射型表示装置においては、前記光学補償板の光軸方向と前記液晶のプレチルト方向とを一致させるように前記光学補償板の設置角度を調節する調節手段を備えた構成を採用することができる。この構成において、前記調節手段は、前記光学補償板を2軸で回転させる回転機構からなるものとすることができる。
この構成によれば、光学補償板の光軸方向を調節機構によって自由に調節できるので、例えば液晶のプレチルト角が変更される等の設計変更に対して、光学補償板自体の設計変更を伴わずに容易に対応できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態につき、図面を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。なお本明細書では、液晶装置の各構成部材における液晶層側を内側と呼び、その反対側を外側と呼ぶことにする。
【0008】
[第1の実施の形態]
最初に、本発明の第1の実施形態に係る液晶装置につき、図1ないし図6を用いて説明する。本実施形態の液晶装置は、一対の基板により液晶層が挟持された液晶パネルと、その液晶パネルの一方の基板の外側に配置された光学補償板と、この光学補償板の外側及び液晶パネルの他方の基板の外側にそれぞれ配置された偏光板とを有するものである。なお本実施形態では、スイッチング素子として薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor、以下TFTという)素子を用いたアクティブマトリクス方式の透過型液晶パネルを例にして説明する。
【0009】
(等価回路)
図1は、液晶パネルの等価回路図である。透過型液晶パネルの画像表示領域を構成すべくマトリクス状に配置された複数のドットには、画素電極9が形成されている。また、その画素電極9の側方には、当該画素電極9への通電制御を行うためのスイッチング素子であるTFT素子30が形成されている。このTFT素子30のソースには、データ線6aが電気的に接続されている。各データ線6aには画像信号S1、S2、…、Snが供給される。なお画像信号S1、S2、…、Snは、各データ線6aに対してこの順に線順次で供給してもよく、相隣接する複数のデータ線6aに対してグループ毎に供給してもよい。
【0010】
また、TFT素子30のゲートには、走査線3aが電気的に接続されている。走査線3aには、所定のタイミングでパルス的に走査信号G1、G2、…、Gmが供給される。なお走査信号G1、G2、…、Gmは、各走査線3aに対してこの順に線順次で印加する。また、TFT素子30のドレインには、画素電極9が電気的に接続されている。そして、走査線3aから供給された走査信号G1、G2、…、Gmにより、スイッチング素子であるTFT素子30を一定期間だけオン状態にすると、データ線6aから供給された画像信号S1、S2、…、Snが、各画素の液晶に所定のタイミングで書き込まれる。
【0011】
液晶に書き込まれた所定レベルの画像信号S1、S2、…、Snは、画素電極9と後述する共通電極との間に形成される液晶容量で一定期間保持される。なお、保持された画像信号S1、S2、…、Snがリークするのを防止するため、画素電極9と容量線3bとの間に蓄積容量17が形成され、液晶容量と並列に配置されている。このように、液晶に電圧信号が印加されると、印加された電圧レベルにより液晶分子の配向状態が変化する。これにより、液晶に入射した光が変調されて階調表示が可能となる。
【0012】
(平面構造)
図2は、液晶パネルの平面構造の説明図である。本実施形態の液晶パネルでは、TFTアレイ基板上に、インジウム錫酸化物(Indium Tin Oxide、以下ITOという)等の透明導電性材料からなる矩形状の画素電極9(破線9aによりその輪郭を示す)が、マトリクス状に配列形成されている。また、画素電極9の縦横の境界に沿って、データ線6a、走査線3aおよび容量線3bが設けられている。本実施形態では、各画素電極9の形成された領域がドットであり、マトリクス状に配置されたドットごとに表示を行うことが可能な構造になっている。
【0013】
TFT素子30は、ポリシリコン膜等からなる半導体層1aを中心として形成されている。半導体層1aのソース領域(後述)には、コンタクトホール5を介して、データ線6aが電気的に接続されている。また、半導体層1aのドレイン領域(後述)には、コンタクトホール8を介して、画素電極9が電気的に接続されている。一方、半導体層1aにおける走査線3aとの対向部分には、チャネル領域1a’が形成されている。なお走査線3aは、チャネル領域1a’との対向部分においてゲート電極として機能する。
【0014】
容量線3bは、走査線3aに沿って略直線状に伸びる本線部(すなわち平面的に見て、走査線3aに沿って形成された第1領域)と、データ線6aとの交点からデータ線6aに沿って前段側(図中上向き)に突出した突出部(すなわち平面的に見て、データ線6aに沿って延設された第2領域)とによって構成されている。また、図2中に右上がりの斜線で示した領域には、第1遮光膜11aが形成されている。そして、容量線3bの突出部と第1遮光膜11aとがコンタクトホール13を介して電気的に接続され、後述する蓄積容量が形成されている。
【0015】
(断面構造)
図3は、液晶パネルの断面構造の説明図であり、図2のA−A’線における側面断面図である。図3に示すように、本実施形態の液晶パネル60は、TFTアレイ基板10と、これに対向配置された対向基板20と、これらの間に挟持された液晶層50とを主体として構成されている。TFTアレイ基板10は、ガラスや石英等の透光性材料からなる基板本体10A、およびその内側に形成されたTFT素子30や画素電極9、配向膜16などを主体として構成されている。一方の対向基板20は、ガラスや石英等の透光性材料からなる基板本体20A、およびその内側に形成された共通電極21や配向膜22などを主体として構成されている。
【0016】
TFTアレイ基板10の表面には、後述する第1遮光膜11aおよび第1層間絶縁膜12が形成されている。そして、第1層間絶縁膜12の表面に半導体層1aが形成され、この半導体層1aを中心としてTFT素子30が形成されている。半導体層1aにおける走査線3aとの対向部分にはチャネル領域1a’が形成され、その両側にソース領域およびドレイン領域が形成されている。なお、このTFT素子30はLDD(Lightly Doped Drain)構造を採用しているため、ソース領域およびドレイン領域に、それぞれ不純物濃度が相対的に高い高濃度領域と、相対的に低い低濃度領域(LDD領域)とが形成されている。すなわち、ソース領域には低濃度ソース領域1bと高濃度ソース領域1dとが形成され、ドレイン領域には低濃度ドレイン領域1cと高濃度ドレイン領域1eとが形成されている。
【0017】
半導体層1aの表面には、ゲート絶縁膜2が形成されている。そして、ゲート絶縁膜2の表面に走査線3aが形成されて、その一部がゲート電極を構成している。また、ゲート絶縁膜2および走査線3aの表面には、第2層間絶縁膜4が形成されている。そして、第2層間絶縁膜4の表面にデータ線6aが形成され、第2層間絶縁膜4に形成されたコンタクトホール5を介して、データ線6aが高濃度ソース領域1dと電気的に接続されている。さらに、第2層間絶縁膜4およびデータ線6aの表面には、第3層間絶縁膜7が形成されている。そして、第3層間絶縁膜7の表面に画素電極9が形成され、第2層間絶縁膜4および第3層間絶縁膜7に形成されたコンタクトホール8を介して、画素電極9が高濃度ドレイン領域1eと電気的に接続されている。さらに、画素電極9を覆うように、斜方蒸着膜からなる無機垂直配向膜16が形成されている。
【0018】
なお、本実施形態では、半導体層1aを延設して第1蓄積容量電極1fが形成されている。また、ゲート絶縁膜2を延設して誘電体膜が形成され、その表面に容量線3bが配置されて第2蓄積容量電極が形成されている。これらにより、上述した蓄積容量17が構成されている。
【0019】
また、TFT素子30の形成領域に対応するTFTアレイ基板10の表面に、第1遮光膜11aが形成されている。第1遮光膜11aは、液晶パネルに入射した光が、半導体層1aのチャネル領域1a'、低濃度ソース領域1bおよび低濃度ドレイン領域1cに侵入することを防止するものである。なお、第1遮光膜11aは、第1層間絶縁膜12に形成されたコンタクトホール13を介して、前段あるいは後段の容量線3bと電気的に接続されている。これにより、第1遮光膜11aは第3蓄積容量電極として機能し、第1層間絶縁膜12を誘電体膜として、第1蓄積容量電極1fとの間に新たな蓄積容量が形成されている。
【0020】
一方、データ線6a、走査線3aおよびTFT素子30の形成領域に対応する対向基板20の表面には、第2遮光膜23が形成されている。第2遮光膜23は、液晶パネルに入射した光が、半導体層1aのチャネル領域1a’や低濃度ソース領域1b、低濃度ドレイン領域1cに侵入するのを防止するものである。また、対向基板20および第2遮光膜23の表面には、ほぼ全面にわたってITO等の導電体からなる共通電極21が形成されている。さらに、共通電極21の表面には、斜方蒸着膜からなる無機垂直配向膜22が形成されている。そして、この配向膜22と配向膜16とによって、液晶分子は電圧を印加しない状態において基板の水平面から該水平面内の所定の一方向に傾いて配向される。本実施形態では、配向膜16と配向膜22の蒸着角度は例えば基板法線から50°、膜厚はそれぞれ40nmに設定されている。このため、液晶分子は基板の水平面から所定方向に86°(基板法線からは4°)傾いた状態で配向される。以下、この液晶分子の傾き方向(即ち、電圧無印加時における液晶分子のダイレクタの方向)を液晶のプレチルト方向という。
【0021】
そして、TFTアレイ基板10と対向基板20との間には、液晶層50が挟持されている。この液晶層50は、負の誘電率異方性を示すネマチック液晶等によって構成されている。すなわち、液晶層50を構成する液晶分子は、電界無印加時(初期配向状態)に垂直配向し、電界印加時に水平配向するようになっている。
【0022】
(偏光板)
図4は、本実施形態の液晶装置の分解斜視図である。
本実施形態の液晶装置100は、上述した液晶パネル60と、液晶パネル60のTFTアレイ基板10の外側に配置された光学補償板70と、この光学補償板70の外側及び対向基板20の外側に配置された偏光板62,64とによって構成されている。液晶パネル60の光入射側には偏光板62が配置され、光出射側には偏光板64が配置されている。光入射側の偏光板62は、その透過軸が図示Y方向に平行に配置されている。光出射側の偏光板64は、その透過軸が図示X方向に平行に配置されている。これらの偏光板62,64の透過軸の方向は、前述の液晶のプレチルト方向Pを基板面に投影した投影ベクトルの方向P′に対して斜めに配置されている。
【0023】
そして、液晶装置100に対して偏光板62の下方から光が入射すると、偏光板62の透過軸と一致する直線偏光のみが偏光板62を透過する。電界無印加時の液晶パネル60では、液晶分子が基板面に対して一方向にプレチルトを有した状態で概ね垂直に配向している。そのため、液晶パネル60に入射した直線偏光は、プレチルトに応じた位相差により偏光状態を変更され楕円偏光として液晶パネル60から出射する。そして、この楕円偏光は、偏光板64の透過軸とほぼ直交するため、その偏光板64をほとんど透過しない。したがって、電界印加時の液晶パネル60では黒表示が行われる(ノーマリーブラックモード)。一方、電界印加時の液晶パネル60では、液晶分子が垂直配向している。そのため、液晶パネル60に入射した直線偏光は、複屈折によって偏光方向を入射光に対して直交する方向に変換される。この直線偏光は、偏光板64の透過軸と一致するため、偏光板64を透過する。したがって、電界無印加時の液晶パネル60では白表示が行われる。
【0024】
(光学補償板)
そして本実施形態では、液晶パネル60における光出射側の基板20と偏光板62との間に光学補償板70が配置されている。
図5は、光学補償板70の屈折率楕円体を示す模式図である。この図において、nx,nyはそれぞれ光学補償板の面方向の主屈折率を示しており、nzは厚み方向の主屈折率を示している。本実施形態の光学補償板70は、ディスコティック化合物等の負の屈折率異方性を有する光学異方体からなり、その主屈折率nx,ny,nzは、nx=ny>nzを満たす構成とされている。すなわち、光軸D方向の屈折率nzが他の方向の屈折率より小さく、屈折率楕円体では円盤型となる。この屈折率楕円体は、光学補償板70の水平面70aに対して平行に配向されており、光学補償板70の光軸方向D(屈折率楕円体の短軸方向)は光学補償板70の法線方向と平行に配置されている。なお、本実施形態では、光学補償板70の面内位相差((nx−nz)・d;dは光学補償板の厚み)は0.2μm、液晶パネル60のリタデーションは0.32であり、光学補償板70の面内位相差の方が液晶パネル60のリタデーションよりも若干小さめに設定されている。
【0025】
上述した光学補償板70は、支持基板に装着されている。支持基板は、無アルカリガラスや熱伝導率の大きいサファイヤや水晶等の透光性材料で構成されている。そして支持基板に装着された光学補償板70は、図4に示す液晶パネル60の表面から所定距離をおいて、液晶装置100に配設されている。これにより、液晶パネル60からの熱影響による光学補償板70の劣化を抑制しうるようになっている。また、光学補償板70は、その光軸方向Dが液晶パネル60のプレチルト方向Pと略平行になるよう、液晶パネル60の基板面に対して角度θ2だけ傾いて配置されている。本実施形態では、液晶のプレチルト角θ1が基板10の水平面に対して86°(基板法線からは4°)に設定されているので、光学補償板70の板面70aは、基板10に水平な位置から4°回転した状態に配置されることになる。光学補償板70は、該光学補償板70若しくはこれを支持する支持基板を回転する所定の回転機構(調節手段)によって傾き角θ2を調節されるものとすることができる。このように光学補償板70の設置角度を調節する調節手段を備えることによって、液晶パネル60の設計変更に容易に対応できるようになる。この回転機構としては、光学補償板70を2軸で回転できるようなものが望ましい。
【0026】
図6は、液晶のプレチルト角θ1と光学補償板70の傾き角θ2を変化させたときの黒表示時の透過率を示す図である。図6では、ランプ光源がおよそ10°コーンの強度分布をもつ時の黒表示時の透過率を示している。図6中、符号Aで示す領域が最も透過率が小さい領域であり、符号B,C,D,…で示す領域は、この順で透過率が高くなっている。図6に示すように、黒の透過率は、光学補償板70の光軸方向Dを液晶のプレチルト方向Pと略平行に配置したときに最も小さくなり、その条件から外れるに従って透過率は高くなる。このため、光軸方向Dとプレチルト方向Pとを揃えることにより、黒浮きを抑えた高コントラストな表示が可能になることがわかる。
【0027】
以上説明したように、本実施形態では、液晶のプレチルト方向Pと光学補償板70の光軸方向とが一致するように、光学補償板70を液晶パネル60に対して傾けて(即ち非平行に)配置している。このため、液晶のプレチルトによる位相差及び斜め方向の光による位相差を完全に補償することができ、従来よりも高コントラストな表示が可能となる。
なお、本実施形態では光学補償板70の枚数を1枚としたが、光学補償板の枚数は2枚以上でもよい。例えば、光学補償板70を複数の光学補償板によって構成することもできるし、液晶パネル60の対向基板20と偏光板62との間に新たに光学補償板を設けることもできる。また、光学補償板70は二つの正の屈折率異方性体の遅相軸を互いに直交させて、擬似的に負の屈折率異方性体としても設けることができる。
【0028】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施形態に係る液晶装置につき、図7ないし図9を用いて説明する。本実施形態の液晶装置の基本構成は第1の実施形態と同様であり、異なる点は、光学補償板自体の配置は液晶パネルと平行とし、その光軸のみを水平面から傾けて配置した点のみである。したがって、図7ないし図9において図1ないし図6と共通の構成要素には同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0029】
図7は、本実施形態の液晶装置の分解斜視図である。
本実施形態の液晶装置200は、液晶パネル60と、液晶パネル60のTFTアレイ基板10の外側に配置された光学補償板80と、この光学補償板80の外側及び対向基板20の外側に配置された偏光板62,64とによって構成されている。本実施形態において、光学補償板80は液晶パネル60の基板10に対して平行に配置されている。
【0030】
図8は、光学補償板80の屈折率楕円体を示す模式図である。この図において、nx,nyはそれぞれ光学補償板の面方向の主屈折率を示しており、nzは厚み方向の主屈折率を示している。本実施形態の光学補償板80は、ディスコティック化合物等の負の屈折率異方性を有する光学異方体からなり、その主屈折率nx,ny,nzは、nx=ny>nzを満たす構成とされている。すなわち、光軸D方向の屈折率nzが他の方向の屈折率nx,nyよりも小さく、屈折率楕円体では円盤型となる。この屈折率楕円体は、光学補償板80の水平面80aに対して斜めに配向されており、光学補償板80の光軸方向D(屈折率楕円体の短軸方向)は光学補償板80の法線方向に対して角度θ1だけ斜めに傾いた状態となっている。この光軸の傾き角θ1は液晶パネル60のプレチルト角と略一致しており、これにより、光学補償板80の光軸方向Dと液晶のプレチルト方向Pとは略平行に配置されている。本実施形態では、液晶のプレチルト角θ1は基板10の水平面に対して88°(基板法線からは2°)に設定されており、光学補償板80の光軸方向Dは光学補償板80の水平面80aの法線方向から2°傾いた方向に設定されている。
【0031】
この光学補償板80は、例えばディスコティック液晶をチルト配向させて重合させたものを使用することができる。図9はこの光学補償板の一例を示す断面模式図である。図9の光学補償板80は、三酢酸セルロース(TAC)等の支持体上に配向膜を設け、その配向膜上にトリフェニレン誘導体等のディスコティック層を塗設したものである。ディスコティック化合物は、液晶相を呈したときに、光学的に負の一軸性を示す。そこで、1組の支持体81,82の表面にポリイミド等の配向膜81a,82aを形成し、一方の支持体上にディスコティック化合物84を塗設した後、もう一方の支持体によってディスコティック層83を挟み込む。そして、加熱処理によってディスコティックネマチック(N)相を形成させた後に、紫外線等によって重合して配向状態を固定化する。このN相の形成時に、ディスコティック層83は配向膜81a,82aによってプレチルトを付与され、光軸が斜めに傾いた状態に形成される。光軸84aの傾き角θは、配向膜81a,82aの配向処理(ラビング等)によって制御され、これによって光軸方向Dと液晶のプレチルト方向Pとが平行に配置される。
【0032】
前述の光学補償板80は、ポリカーボネートやノルボルネン樹脂等をずり応力をかけて延伸することによっても形成することができる。図10はその形成方法の一例を示す図である。この方法では、まず図10(a)に示すように、材料樹脂85をガラス転移点付近まで加熱し、2方向から延伸する。そして、加熱した一対の基板91,92の間に材料樹脂85を挟み込み、一方の基板の外側から材料樹脂85に対して圧力を加えながら、基板91,92を互いに反対方向にずらす。これにより、材料樹脂85の上下の面には互いに反対方向にずり応力がかかり、この材料樹脂85を構成する光学体の光軸方向が斜めに傾く。光軸の傾き角は、ずり応力の大きさによって制御され、これによって光軸方向Dとプレチルト方向Pとが平行に配置される。
【0033】
図11は、視角特性の測定結果を示す図である。図11(a)は光学補償板の光軸を傾けない場合(即ち、光学補償板の光軸方向と液晶のプレチルト方向とが一致しない場合)の等コントラスト曲線を示し、図11(b)は光学補償板の光軸を本実施形態のように液晶のプレチルト角に合わせて2°傾けた場合の等コントラスト曲線を示している。図11中、符号Aで示す領域が最もコントラストが大きい領域であり、符号B,C,D,…で示す領域は、この順でコントラストが小さくなっている。図11に示すように、光学補償板の光軸方向を傾けたもの(図11(a))は、傾けないもの(図11(b))に比べて表示の対称性が高く、高コントラストな表示が行なわれる範囲も広い。このため、光軸方向Dとプレチルト方向Pとを揃えることにより、広視野角且つ高コントラストな表示が得られることがわかる。
【0034】
以上説明したように、本実施形態でも光学補償板80の光軸方向Dと液晶のプレチルト方向Pとが略平行に配置されているため、液晶のプレチルトによる位相差及び斜め方向の光による位相差を完全に補償することができ、従来よりも高コントラストな表示が可能となる。
【0035】
[電子機器]
次に、本発明の電子機器の一例である投射型表示装置について説明する。図12は、本例の投射型表示装置の一例である3板式の反射型カラー液晶プロジェクタの概略構成を示す図である。
【0036】
本例の液晶プロジェクタ1000は、システム光軸Lに沿って配置した光源部710、インテグレータレンズ720、偏光変換素子730から概略構成される偏光照明装置700、この偏光照明装置700から出射されたS偏光光束をS偏光光束反射面741により反射させる偏光ビームスプリッタ740、偏光ビームスプリッタ740のS偏光光束反射面741から反射された光のうち、青色光(B)の成分を分離するダイクロックミラー742、分離された青色光(B)を変調する反射型液晶ライトバルブ745B、青色光が分離された後の光束のうち、赤色光(R)の成分を反射させて分離するダイクロックミラー743、分離された赤色光(R)を変調する反射型液晶ライトバルブ745R、ダイクロックミラー743を通過する残りの光の緑色光(G)を変調する反射型液晶ライトバルブ745G、3つの反射型液晶ライトバルブ745R、745G、745Bにて変調された光をダイクロックミラー743、742、偏光ビームスプリッタ740にて合成し、この合成光をスクリーン760に投写する投写レンズからなる投写光学系750から構成されている。
【0037】
光源部710から出射されたランダムな偏光光束は、インテグレータレンズ720により複数の中間光束に分割された後、第2のインテグレータレンズを光入射側に有する偏光変換素子720により偏光光束がほぼ揃った一種類の偏光光束(S偏光光束)に変換されてから偏光ビームスプリッタ740に至るようになっている。偏光変換素子730から出射されたS偏光光束は、偏光ビームスプリッタ740のS偏光光束反射面741によって反射され、反射された光束のうち、青色光(B)の光束がダイクロックミラー742の青色光反射層にて反射され、反射型液晶ライトバルブ745Bによって変調される。また、ダイクロックミラー742の青色光反射層を透過した光束のうち、赤色光(R)の光束はダイクロックミラー743の赤色光反射層にて反射され、反射型液晶ライトバルブ745Rによって変調される。一方、ダイクロックミラー743の赤色光反射層を透過した緑色光(G)の光束は反射型液晶ライトバルブ745Gにより変調される。以上のようにして反射型液晶ライトバルブ745R、745G、745Bによって色光の変調がなされる。
これらの液晶パネルの画素から反射された色光のうち、S偏光成分はS偏光を反射する偏光ビームスプリッタ740を通過せず、P偏光成分は通過する。この偏光ビームスプリッタ740を透過した光により画像が形成される。
【0038】
ここで、反射型液晶ライトバルブ745R,745G,745Bの構成を図13を用いて説明する。これら3つの反射型液晶ライトバルブは全く同じ構成を有するため、その1つを反射型液晶ライトバルブ745として説明する。本実施形態の反射型液晶ライトバルブ(光変調手段)745は、一対の基板により液晶層が挟持された液晶パネル60と、その液晶パネル60の一方の基板10Aの外側に配置された光学補償板80とを有するものであり、特に、スイッチング素子として薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor、以下TFTという)素子を用いたアクティブマトリクス方式の反射型液晶装置である。液晶パネル60の基本構成は図1ないし図3に示したものと同様であり、異なるのは、画素電極9がアルミニウム(Al)や銀(Ag)等の高反射率の導電材料によって形成されている点と、液晶層50のリタデーションが第1の実施形態のものに比べて半分程度になっている点(即ち、反射型に適した構成となっている点)のみである。よって、液晶パネル60の構成に関しては説明を省略する。
【0039】
光学補償板80の構成は、前述した第2の実施形態のものと略同様である。すなわち、光学補償板80は、ディスコティック化合物等の負の屈折率異方性を有する光学異方体からなり、光軸D方向の屈折率nzが他の方向の屈折率nx,nyよりも小さく、屈折率楕円体では円盤型となる。この屈折率楕円体は、光学補償板80の水平面80aに対して斜めに配向されており、光学補償板80の光軸方向D(屈折率楕円体の短軸方向)は光学補償板80の法線方向に対して角度θ1だけ斜めに傾いた状態となっている。この光軸の傾き角θ1は液晶51のプレチルト角と略一致しており、これにより、光学補償板80の光軸方向Dと液晶51のプレチルト方向Pとは略平行に配置されている。本実施形態では、液晶51のプレチルト角θ1は基板10の水平面に対して86°(基板法線からは4°)に設定されているので、光学補償板80の光軸方向Dは光学補償板80の水平面80aの法線方向から4°傾いた方向に設定されている。
【0040】
以上説明したように、本実施形態のライトバルブ745は、光学補償板80の光軸方向Dと液晶のプレチルト方向Pとが略平行に配置されているため、液晶のプレチルトによる位相差及び斜め方向の光による位相差を完全に補償することができる。よって、本実施形態の液晶プロジェクタ1000によれば、従来のものよりも広視野角且つ高コントラストな画像表示が可能となる。
【0041】
なお、本実施形態では、投射型表示装置として反射型の液晶プロジェクタを示したが、本発明はこれに限らず、透過型の液晶プロジェクタに本発明を適用することもできる。この場合には、光変調手段として第1の実施形態や第2の実施形態に示したような透過型の液晶装置を用いる必要がある。また、本実施形態では、電子機器の一例として本発明の液晶装置を備えた投射型表示装置について説明したが、本発明の液晶装置は投射型表示装置に限らず、種々の電子機器に搭載することができる。この電子機器としては例えば、電子ブック、パーソナルコンピュータ、ディジタルスチルカメラ、液晶テレビ、ビューファインダ型あるいはモニタ直視型のビデオテープレコーダ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳、電卓、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、タッチパネルを備えた機器等があり、前記液晶装置はこれらの光変調手段として好適に用いることができる。
【0042】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】液晶パネルの等価回路図。
【図2】液晶パネルの平面構造の説明図。
【図3】図2のA−A’線における断面図。
【図4】第1実施形態に係る液晶装置の分解斜視図。
【図5】同、光学補償板の屈折率楕円体を示す図。
【図6】光学補償板の傾き角と液晶のプレチルト角とを変化させた場合の黒の透過率を示すグラフ。
【図7】第2実施形態に係る液晶装置の分解斜視図。
【図8】同、光学補償板の屈折率楕円体を示す図。
【図9】同、光学補償板の一構成例を示す断面図。
【図10】同、光学補償板の作製方法の一例を示す図。
【図11】光学補償板の光軸を傾けた場合と傾けない場合の等コントラスト曲線を示す図。
【図12】投射型表示装置の一例を示す図。
【図13】同、投射型表示装置に適用される液晶装置の一例を示す断面図。
【符号の説明】
【0044】
10…TFTアレイ基板、20…対向基板、50…液晶層、51…液晶、70…光学補償板、100,745,745R,745G,745B…液晶装置、1000…投射型表示装置、D…光学補償板の光軸方向、P…液晶のプレチルト方向


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の基板間に液晶層が挟持されてなる液晶装置であって、
前記液晶層は、初期配向状態が垂直配向を呈する誘電異方性が負の液晶からなり、前記液晶には所定の一方向にプレチルトが付与されており、前記一対の基板のうち少なくとも一方の基板の外側には、負の屈折率異方性を有する光学補償板が設けられており、前記光学補償板の光軸方向と前記液晶のプレチルト方向とが略平行に配置されていることを特徴とする、液晶装置。
【請求項2】
前記光学補償板は前記一方の基板と平行に配置されており、前記光学補償板の光軸方向は、該光学補償板の法線からずれた角度であって、前記液晶のプレチルト方向と略平行な方向に配置されていることを特徴とする、請求項1記載の液晶装置。
【請求項3】
前記光学補償板の光軸方向は、該光学補償板の法線方向と略平行な方向に配置されてなり、前記光学補償板は、該光学補償板の光軸方向と前記液晶のプレチルト方向とが略平行となるように前記一方の基板と平行な位置から傾けて配置されていることを特徴とする、請求項1記載の液晶装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの項に記載の液晶装置を光変調手段として備えたことを特徴とする、投射型表示装置。
【請求項5】
前記光学補償板の光軸方向と前記液晶のプレチルト方向とを一致させるように前記光学補償板の設置角度を調節する調節手段を備えたことを特徴とする、請求項4記載の投射型表示装置。
【請求項6】
前記調節手段は、前記光学補償板を2軸で回転させる回転機構からなることを特徴とする、請求項5記載の投射型表示装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−78637(P2006−78637A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−260753(P2004−260753)
【出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】